(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20241220BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241220BHJP
C08F 222/40 20060101ALI20241220BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20241220BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241220BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C08F290/06
B32B15/08 101Z
C08F222/40
C08F230/02
C08J5/24 CER
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
(21)【出願番号】P 2021528237
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023471
(87)【国際公開番号】W WO2020262089
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019120081
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐司
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-308948(JP,A)
【文献】特開2007-191675(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124205(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159080(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072404(WO,A1)
【文献】特開2018-135447(JP,A)
【文献】特開2017-125196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B32B
C08J
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で表されるマレイミド化合物と、
不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、
下記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物と、
硬化剤とを含有し、
前記マレイミド化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、10~75質量部であり、
前記リン含有化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、2~
15質量部である樹脂組成物。
【化1】
[式(1)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す。]
【化2】
[式(3)中、sは、1~5を示し、R
A、R
B、R
C、及びR
Dは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はフェニル基を示す。]
【請求項2】
前記リン原子を含む基が、下記式(2)で表される基を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】
【請求項3】
前記硬化剤が、アリル化合物を含む請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記アリル化合物が、トリアリルイソシアヌレート化合物及びジアリルビスフェノール化合物の少なくともいずれか一方を含む請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤が、多官能アクリレート化合物及び多官能メタクリレート化合物の少なくともいずれか一方をさらに含む請求項3又は請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記多官能メタクリレート化合物が、ジメタクリレート化合物を含む請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルム。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項7に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項7に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が進展している。また、各種電子機器に用いられる配線板としては、例えば、車載用途におけるミリ波レーダ基板等の、高周波対応の配線板であることが求められる。各種電子機器において用いられる配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、信号の伝送速度を高め、信号伝送時の損失を低減させるために、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
ポリフェニレンエーテルは、誘電率や誘電正接が低い等の低誘電特性に優れており、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても低誘電率や低誘電正接等の低誘電特性が優れていることが知られている。このため、ポリフェニレンエーテルは、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。より具体的には、高周波数帯を利用する電子機器に備えられる配線板の絶縁層を構成するための基板材料等に好ましく用いられる。
【0004】
配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、低誘電特性に優れるだけではなく、硬化性を高め、耐熱性等に優れた硬化物が得られることも求められる。このことから、基板材料に、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を用いることによって、耐熱性を高めることが考えられる。このような不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を含有する樹脂組成物としては、例えば、特許文献1に記載の樹脂組成物等が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、分子内にポリフェニレンエーテル骨格を有するビニル化合物と、所定の構造を有するマレイミド化合物とを含有する硬化性樹脂組成物が記載されている。特許文献1には、低誘電率、低誘電正接で、耐熱性、機械特性、耐薬品性、難燃性に優れた硬化物を与え、酸素存在下でも硬化性に優れ、また低温で硬化できる硬化性樹脂組成物を得ることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の一局面は、マレイミド化合物と、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、下記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物と、硬化剤とを含有する樹脂組成物である。
【0009】
【化1】
式(1)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る配線板の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る樹脂付き金属箔の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る樹脂付きフィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
各種電子機器において用いられる配線板には、外部環境の変化等の影響を受けにくいことも求められる。例えば、湿度が高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、吸水性の低い硬化物が得られることが求められる。このような吸水性の低い硬化物が得られる基板材料から得られた配線板の絶縁層は、吸湿を抑制することができると考えられる。また、配線板の絶縁層には、吸水されたとしても、低誘電特性が好適に維持されることも求められる。これらのことから、配線板の絶縁層を構成するために基板材料には、吸水性が低く、また、吸水後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られることが求められる。すなわち、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が得られることが求められる。また、温度が比較的高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、ガラス転移温度が高い等の、耐熱性により優れた硬化物が得られることが求められる。また、温度が比較的高い環境下でも、配線板に備えられる絶縁層が変形しないことも求められる。前記絶縁層のガラス転移温度が高いと、この変形が抑制されることからも、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、ガラス転移温度が高いことが求められる。また、配線板の絶縁層には、火災防止等の観点から、難燃性に優れていることも求められる。このため、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、難燃性にも優れた硬化物が得られることが求められる。
【0012】
配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術のさらなる進展に対応するため、上述したように、各種特性の要求がさらに高まっている。基板材料には、このような要求を満たしたまま、配線板の絶縁層を好適に形成するために、成形性に優れていることも求められている。
【0013】
本発明者等は、種々検討した結果、以下の本発明により、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物の提供等の上記目的は達成されることを見出した。
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0015】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、マレイミド化合物と、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、下記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物と、硬化剤とを含有する。
【0016】
【化2】
式(1)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0017】
まず、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含むので、硬化させることで、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記マレイミド化合物と前記硬化剤とを含有することによって、前記樹脂組成物を好適に硬化させることができ、ガラス転移温度が高く、かつ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が得られると考えられる。すなわち、前記樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を、吸水後であっても好適に維持できる硬化物が得られると考えられる。また、前記リン含有化合物は、リン原子を含む基だけではなく、前記式(1)で表される基も分子中に有するので、前記樹脂組成物を硬化させる際に、前記ポリフェニレンエーテル化合物等と結合することができると考えられる。このことにより、硬化物の難燃性を効果的に高めることできると考えられる。このため、前記リン含有化合物であれば、比較的少量で難燃性を高めることができることから、樹脂組成物の成形性の低下を抑制しつつ、硬化物の難燃性を充分に高めることができると考えられる。
【0018】
以上のことから、上記構成の樹脂組成物は、成形性に優れ、かつ、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られる樹脂組成物である。
【0019】
このような樹脂組成物を用いて配線板を製造すると、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、難燃性に優れた硬化物で好適に形成された絶縁層を備える配線板が得られる。このことから、前記配線板は、例えば、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層を備えるので、湿度が高い環境下でも用いることができる。また、ガラス転移温度が高い絶縁層を備える配線板が得られる。このことから、絶縁層の耐熱性が高いだけではなく、絶縁層の変形も充分に抑制できるので、温度が高い環境下でも用いることができる。さらに、このような配線板が、例えば、多層の配線板である場合、この多層の配線板への部品実装するリフローサイクル工程中での、配線板の変形を充分に抑制できる。この変形を充分に抑制するためには、ガラス転移温度が260℃以上であることが好ましい。そして、ここでの変形を抑制することによって、例えば、リフロー工程での温度変化における配線板の反りを抑制することができる。さらに、多層の配線板への部品実装不良、多層の配線板における導電ビアでのクラック発生、及び多層の配線板内の層間ビアでの接続不良等の発生を抑制することができる。また、難燃性に優れた絶縁層を備える配線板が得られる。前記樹脂組成物は、成形性に優れているので、上記のような配線板を好適に製造することができる。
【0020】
(マレイミド化合物)
前記マレイミド化合物は、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物であれば、特に限定されない。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、及び分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物が挙げられる。前記単官能マレイミド化合物としては、例えば、o-クロロフェニルマレイミド等のクロロフェニルマレイミド、o-メチルフェニルマレイミド等のメチルフェニルマレイミド、p-ヒドロキシフェニルマレイミド等のヒドロキシフェニルマレイミド、p-カルボキシフェニルマレイミド等のカルボキシフェニルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、及びフェニルメタンマレイミド等が挙げられる。前記多官能マレイミド化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド等のフェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、及び下記式(3)で表されるマレイミド化合物等が挙げられる。前記マレイミド化合物は、これらの中でも、下記式(3)で表されるマレイミド化合物、及びポリフェニルメタンマレイミドが好ましい。また、前記マレイミド化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
【化3】
式(3)中、sは、1~5を示し、R
A、R
B、R
C、及びR
Dは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はフェニル基を示す。
【0022】
前記式(3)で表されるマレイミド化合物は、繰り返し数であるsが、1~5であり、1超5以下であることが好ましい。このsは、繰り返し数(重合度)の平均値である。RA、RB、RC、及びRDは、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。RA、RB、RC、及びRDは、上述したように、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はフェニル基を示し、この中でも、水素原子が好ましい。また、前記炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びネオペンチル基等が挙げられる。
【0023】
前記式(3)で表されるマレイミド化合物の分子量は、具体的には、数平均分子量が、150~2000であることが好ましく、400~1300であることがより好ましい。また、重量平均分子量が、150~2500であることが好ましく、400~1500であることがより好ましい。また、前記式(3)で表されるマレイミド化合物は、前記式(3)においてsが1で表される2官能体の含有量が、30~70質量%であることが好ましく、50~70質量%であることが好ましい。また、前記式(3)においてsが2以上で表される3官能以上の多官能体の含有量が、30~70質量%であることが好ましく、30~50質量%であることが好ましい。また、前記式(3)で表されるマレイミド化合物は、繰り返し数(重合度)の平均値であるsが1~5になるのであれば、前記式(3)においてsが0で表される1官能体を含んでいてもよく、前記式(3)においてsが6以上で表される7官能体や8官能体等の多官能体を含んでいてもよい。
【0024】
(ポリフェニレンエーテル化合物)
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されない。前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物等の、不飽和二重結合を有する置換基を分子末端に有するポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0025】
前記不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されない。前記置換基としては、例えば、下記式(4)で表される置換基、及び下記式(5)で表される置換基等が挙げられる。
【0026】
【化4】
式(4)中、pは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R
2~R
4は、それぞれ独立している。すなわち、R
2~R
4は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
2~R
4は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0027】
なお、式(4)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0028】
このアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0029】
【化5】
式(5)中、R
5は、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0030】
前記式(4)で表される置換基の好ましい具体例としては、例えば、ビニルベンジル基を含む置換基等が挙げられる。前記ビニルベンジル基を含む置換基としては、例えば、下記式(6)で表される置換基等が挙げられる。また、前記式(5)で表される置換基としては、例えば、アクリロイル基及びメタクリロイル基等が挙げられる。
【0031】
【0032】
前記置換基としては、より具体的には、o-エテニルベンジル基、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基等が挙げられる。前記ポリフェニレンエーテル化合物は、前記置換基として、1種を有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。前記ポリフェニレンエーテル化合物は、例えば、o-エテニルベンジル基、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基のいずれかを有するものであってもよいし、これらを2種又は3種有するものであってもよい。
【0033】
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(7)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0034】
【化7】
式(7)において、tは、1~50を示す。また、R
6~R
9は、それぞれ独立している。すなわち、R
6~R
9は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
6~R
9は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0035】
R6~R9において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0036】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0037】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0038】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0039】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0040】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0041】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0042】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(7)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0043】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このようなポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0044】
前記ポリフェニレンエーテル化合物における、ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このようなポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0045】
なお、ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全てのポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られたポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、前記置換基を有する前の(変性前の)ポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0046】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであることが好ましく、0.04~0.11dl/gであることがより好ましく、0.06~0.095dl/gであることがさらに好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0047】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0048】
前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(8)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(9)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、これらのポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、この2種のポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
【0050】
【0051】
式(8)及び式(9)中、R10~R17並びにR18~R25は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。X1及びX2は、それぞれ独立して、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基を示す。A及びBは、それぞれ、下記式(10)及び下記式(11)で表される繰り返し単位を示す。また、式(9)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
式(10)及び式(11)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。R26~R29並びにR30~R33は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0055】
前記式(8)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び前記式(9)で表されるポリフェニレンエーテル化合物は、上記構成を満たす化合物であれば特に限定されない。具体的には、前記式(8)及び前記式(9)において、R10~R17並びにR18~R25は、上述したように、それぞれ独立している。すなわち、R10~R17並びにR18~R25は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R10~R17並びにR18~R25は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0056】
式(10)及び式(11)中、m及びnは、それぞれ、上述したように、0~20を示すことが好ましい。また、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。また、R26~R29並びにR30~R33は、それぞれ独立している。すなわち、R26~R29並びにR30~R33は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R26~R29並びにR30~R33は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0057】
R10~R33は、上記式(7)におけるR6~R9と同じである。
【0058】
前記式(9)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(12)で表される基等が挙げられる。
【0059】
【化12】
前記式(12)中、R
34及びR
35は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(12)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0060】
前記式(8)及び前記式(9)中において、X1及びX2は、それぞれ独立して、不飽和二重結合を有する置換基である。この置換基X1及びX2としては、不飽和二重結合を有する置換基であれば、特に限定されない。前記置換基X1及びX2としては、例えば、上記式(4)で表される置換基及び上記式(5)で表される置換基等が挙げられる。なお、前記式(8)で表されるポリフェニレンエーテル化合物及び前記式(9)で表されるポリフェニレンエーテル化合物において、X1及びX2は、同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0061】
前記式(8)で表されるポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(13)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0062】
【0063】
前記式(9)で表されるポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(14)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(15)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0064】
【0065】
【0066】
上記式(13)~式(15)において、m及びnは、上記式(10)及び上記式(11)におけるm及びnと同じである。また、上記式(13)及び上記式(14)において、R2~R4、p及びZは、上記式(4)におけるR2~R4、p及びZと同じである。また、上記式(14)及び上記式(15)において、Yは、上記式(9)におけるYと同じである。また、上記式(15)において、R5は、上記式(5)におけるR4と同じである。
【0067】
本実施形態において用いられるポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。ここでは、不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成する方法について説明する。この方法としては、具体的には、ポリフェニレンエーテルに、不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0068】
不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、前記式(4)~(6)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、及びm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、及びm-クロロメチルスチレンを単独で用いてもよいし、2種又は3種を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0070】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0071】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0072】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0073】
反応時間や反応温度等の反応条件は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0074】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0075】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0076】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0077】
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、前記ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0078】
(リン含有化合物)
前記リン含有化合物は、前記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物であれば、特に限定されない。
【0079】
前記式(1)で表される基におけるR1は、上述したように、水素原子又はアルキル基である。前記アルキル基としては、炭素数1~5のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びネオペンチル基等が挙げられる。この中でも、水素原子、及びメチル基が好ましく、メチル基であることがより好ましい。すなわち、前記式(1)で表される基は、アクリロイル基及びメタクリロイル基が好ましく、メタクリロイル基であることがより好ましい。
【0080】
前記リン原子を含む基は、リン原子を含んでいれば特に限定されない。前記リン原子を含む基としては、リン酸基、ホスホリル基、下記式(2)で表される基、下記式(16)で表される基、及び下記式(17)で表される基等が挙げられ、この中でも、下記式(2)で表される基を含むことが好ましい。
【0081】
【0082】
【化17】
式(16)中、R
36及びR
37は、それぞれ独立して、アルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びネオペンチル基等が挙げられ、この中でも、エチル基が好ましい。
【0083】
【0084】
前記リン原子を含む基は、前記式(1)で表される基に直接結合してもよいし、間接的に(間に他の原子等を介して)結合してもよい。前記式(1)で表される基に間接的に結合する場合、前記リン原子を含む基及び前記式(1)で表される基は、例えば、炭素原子に結合してもよいし、酸素原子に結合してもよい。
【0085】
前記式(2)で表される基を含むリン含有化合物としては、例えば、下記式(18)で表される化合物等が挙げられる。
【0086】
【化19】
式(18)中、R
1は、式(1)同様、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基としては、炭素数1~5のアルキル基等が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びネオペンチル基等が挙げられる。R
1は、この中でも、水素原子、及びメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。すなわち、前記リン含有化合物としては、(メタクリロイルメチル)ジフェニルホスフィンオキサイドであることが好ましい。
【0087】
(硬化剤)
前記硬化剤は、前記マレイミド化合物及び前記ポリフェニレンエーテル化合物と反応して、前記マレイミド化合物及び前記ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤である。また、前記硬化剤は、前記マレイミド化合物及び前記ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤であれば、特に限定されない。前記硬化剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0088】
前記スチレン誘導体としては、例えば、ブロモスチレン及びジブロモスチレン等が挙げられる。
【0089】
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物が、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等のジアクリレート化合物等が挙げられる。
【0090】
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物が、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物等が挙げられる。
【0091】
前記分子中にビニル基を有する化合物が、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。
【0092】
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート化合物、ジアリルビスフェノール化合物、及びジアリルフタレート(DAP)、等が挙げられる。
【0093】
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物が、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0094】
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0095】
前記硬化剤は、上記の中でも、例えば、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物が好ましい。また、前記硬化剤としては、前記アリル化合物を含むことが好ましく、前記アリル化合物を含み、前記アリル化合物以外の硬化剤をさらに含むことがより好ましい。前記アリル化合物以外の硬化剤としては、多官能アクリレート化合物及び多官能メタアクリレート化合物の少なくともいずれか一方が好ましい。すなわち、前記硬化剤としては、前記アリル化合物を含み、多官能アクリレート化合物及び多官能メタアクリレート化合物の少なくともいずれか一方をさらに含むことがより好ましい。また、前記アリル化合物としては、トリアリルイソシアヌレート化合物、及びジアリルビスフェノール化合物が好ましい。前記多官能メタアクリレート化合物としては、ジメタクリレート化合物が好ましい。また、前記硬化剤は、前記アリル化合物を含み、前記アリル化合物以外の硬化剤をさらに含む場合、前記アリル化合物の含有量は、前記硬化剤(前記アリル化合物と前記アリル化合物以外の硬化剤との合計)100質量部に対して、50~99質量部であることが好ましく、60~85質量部であることがより好ましい。
【0096】
前記硬化剤は、上記硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0097】
前記硬化剤の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば、100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。前記硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、前記硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、前記硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、前記ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含有する樹脂組成物を好適に硬化させることができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0098】
前記硬化剤は、前記マレイミド化合物及び前記ポリフェニレンエーテル化合物との反応に寄与する官能基の、前記硬化剤1分子当たりの平均個数(官能基数)は、前記硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0099】
(含有量)
前記リン含有化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、2~20質量部であることが好ましく、2~15質量部であることがより好ましく、3~12質量部であることがさらに好ましい。前記マレイミド化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、10~75質量部であることが好ましく、20~65質量部であることがより好ましく、30~50質量部であることがさらに好ましい。前記ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、10~75質量部であることが好ましく、20~60質量部であることがより好ましく、30~50質量部であることがさらに好ましい。前記硬化剤の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、10~45質量部であることが好ましく、15~40質量部であることがより好ましく、20~35質量部であることがさらに好ましい。前記リン含有化合物、前記マレイミド化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤の各含有量が、上記範囲内であれば、ガラス転移温度が高く、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、難燃性により優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0100】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記リン含有化合物、前記マレイミド化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、開始剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、及び充填材等の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記樹脂組成物には、前記ポリフェニレンエーテル化合物以外にも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及び熱硬化性ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0101】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤は、樹脂組成物に含有してもよいし、樹脂組成物に含有されている無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。この中でも、前記シランカップリング剤としては、無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有することが好ましく、このように無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有し、さらに、樹脂組成物にもシランカップリング剤を含有させることがより好ましい。また、プリプレグの場合、そのプリプレグには、繊維質基材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。
【0102】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、フェニルアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。すなわち、このシランカップリング剤は、反応性官能基として、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、及びフェニルアミノ基のうち、少なくとも1つを有し、さらに、メトキシ基やエトキシ基等の加水分解性基を有する化合物等が挙げられる。
【0103】
前記シランカップリング剤としては、ビニル基を有するものとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、スチリル基を有するものとして、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、及びp-スチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、メタクリロイル基を有するものとして、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、アクリロイル基を有するものとして、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、フェニルアミノ基を有するものとして、例えば、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0104】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、前記リン含有化合物以外の難燃剤を含有してもよい。すなわち、前記リン含有化合物以外の難燃剤を、前記リン含有化合物と併用することによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステル及び芳香族縮合リン酸エステル化合物等のリン酸エステル化合物が挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩及びトリスジエチルホスフィン酸アルミニウム等のホスフィン酸塩化合物が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、開始剤(反応開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、反応開始剤を含有しないものであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。前記反応開始剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン,過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、無機充填材等の充填材を含有してもよい。充填材としては、樹脂組成物の硬化物の、耐熱性及び難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。また、充填材を含有させることによって、耐熱性及び難燃性等をさらに高めることができる。充填材としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。また、充填材としては、この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、充填材としては、そのまま用いてもよいし、前記シランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。また、充填材を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物に対して、30~270質量%であることが好ましく、50~250質量%であることがより好ましい。
【0107】
(製造方法)
前記樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、前記リン含有化合物、前記マレイミド化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤を、所定の含有量となるように混合する方法等が挙げられる。具体的には、有機溶媒を含むワニス状の組成物を得る場合は、後述する方法等が挙げられる。
【0108】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、配線板、樹脂付き金属箔、及び樹脂付きフィルムを得ることができる。
【0109】
[プリプレグ]
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0110】
本実施形態に係るプリプレグ1は、
図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0111】
なお、本実施形態において、半硬化物とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0112】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。
【0113】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このようなワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
【0114】
まず、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、前記マレイミド化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0115】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態で用いる樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0116】
前記繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、一般的に使用される繊維質基材の厚さは、例えば、0.01mm以上、0.3mm以下である。
【0117】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0118】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0119】
樹脂組成物(樹脂ワニス)2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上180℃以下で1分間以上10分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0120】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を備えるプリプレグは、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れたプリプレグである。そして、このプリプレグは、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層を備える配線板を好適に製造することができる。
【0121】
[金属張積層板]
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0122】
金属張積層板11は、
図2に示すように、
図1に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた金属箔13とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。また、前記金属箔13の厚みは、最終的に得られる配線板に求められる性能等に応じて異なり、特に限定されない。金属箔13の厚みは、所望の目的に応じて、適宜設定することができ、例えば、0.2~70μmであることが好ましい。また、前記金属箔13としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられ、前記金属箔が薄い場合は、ハンドリング性を向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。
【0123】
前記金属張積層板11を製造する方法としては、前記金属張積層板11を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法が挙げられる。この方法としては、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法等が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170~210℃、圧力を3.5~4MPa、時間を60~150分間とすることができる。また、前記金属張積層板は、プリプレグを用いずに製造してもよい。例えば、ワニス状の樹脂組成物を金属箔上に塗布し、金属箔上に樹脂組成物を含む層を形成した後に、加熱加圧する方法等が挙げられる。
【0124】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層を備える金属張積層板は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える金属張積層板である。そして、この金属張積層板は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層を備える配線板を好適に製造することができる。
【0125】
[配線板]
図3は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0126】
本実施形態に係る配線板21は、
図3に示すように、
図1に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた配線14とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。
【0127】
前記配線板21を製造する方法は、前記配線板21を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、前記プリプレグ1を用いて配線板21を作製する方法等が挙げられる。この方法としては、例えば、上記のように作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21を作製する方法等が挙げられる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。また、回路形成する方法としては、上記の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。配線板21は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層12を有する。
【0128】
このような配線板は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える配線板である。
【0129】
[樹脂付き金属箔]
図4は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0130】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、
図4に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と、前記樹脂層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0131】
また、前記樹脂層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0132】
また、金属箔としては、金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0133】
前記樹脂付き金属箔31及び前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、及びこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム等が挙げられる。
【0134】
前記樹脂付き金属箔31を製造する方法は、前記樹脂付き金属箔31を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付き金属箔31の製造方法としては、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層32として、金属箔13上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0135】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付き金属箔は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られる樹脂層を備える樹脂付き金属箔である。そして、この樹脂付き金属箔は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層を備える配線板を好適に製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付き金属箔を用いて得られた配線板としては、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える配線板が得られる。
【0136】
[樹脂付きフィルム]
図5は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0137】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、
図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と、前記樹脂層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0138】
また、前記樹脂層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0139】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。前記支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
【0140】
前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0141】
前記支持フィルム及びカバーフィルムとしては、必要に応じて、マット処理、コロナ処理、離型処理、及び粗化処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0142】
前記樹脂付きフィルム41を製造する方法は、前記樹脂付きフィルム41を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付きフィルム41の製造方法は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層42として、支持フィルム43上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0143】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付きフィルムは、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られる樹脂層を備える樹脂付きフィルムである。そして、この樹脂付きフィルムは、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層を備える配線板を好適に製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離すること、又は、支持フィルムを剥離した後に、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付きフィルムを用いて得られた配線板としては、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える配線板が得られる。
【0144】
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0145】
本発明の一局面は、マレイミド化合物と、不飽和二重結合を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、下記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物と、硬化剤とを含有する樹脂組成物である。
【0146】
【化20】
式(1)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0147】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0148】
このことは、以下のことによると考えられる。
【0149】
まず、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンエーテル化合物を、前記マレイミド化合物と前記硬化剤とともに硬化させることで、ガラス転移温度が高く、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記マレイミド化合物と前記硬化剤とを含有することによって、好適に硬化させることができ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が得られると考えられる。すなわち、前記樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を、吸水後であっても好適に維持できる硬化物が得られると考えられる。
【0150】
前記樹脂組成物は、前記リン含有化合物を含有することによって、難燃性を高めることができると考えられる。前記リン含有化合物以外であっても、分子内にリンを含む化合物であれば、難燃性を高めることができる傾向がある。これに対して、前記リン含有化合物は、リン原子を含む基だけではなく、前記式(1)で表される基も分子中に有するので、前記樹脂組成物を硬化させる際に、前記ポリフェニレンエーテル化合物等と結合することができると考えられる。このことにより、硬化物の難燃性を効果的に高めることできると考えられる。また、前記リン含有化合物以外の、分子内にリンを含む化合物で、充分な難燃性を発揮させるためには、その含有量を多くする必要があり、そうすると、樹脂組成物の成形性が低下する傾向がある。この点、前記リン含有化合物であれば、比較的少量で難燃性を高めることができることから、樹脂組成物の成形性の低下を抑制しつつ、硬化物の難燃性を充分に高めることができると考えられる。
【0151】
以上のことから、上記構成の樹脂組成物は、成形性に優れ、かつ、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られると考えられる。
【0152】
また、前記樹脂組成物において、前記リン原子を含む基が、下記式(2)で表される基を含むことが好ましい。
【0153】
【0154】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、難燃性により優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0155】
また、前記樹脂組成物において、前記硬化剤が、アリル化合物を含むことが好ましい。また、前記アリル化合物が、トリアリルイソシアヌレート化合物及びジアリルビスフェノール化合物の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0156】
このような構成によれば、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、ガラス転移温度が高い等の耐熱性により優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0157】
また、前記樹脂組成物において、前記硬化剤が、多官能アクリレート化合物及び多官能メタクリレート化合物の少なくともいずれか一方をさらに含むことが好ましい。すなわち、前記硬化剤が、多官能アクリレート化合物及び多官能メタクリレート化合物の少なくともいずれか一方と、アリル化合物とを含むことが好ましい。また、前記多官能メタクリレート化合物が、ジメタクリレート化合物を含むことが好ましい。
【0158】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、さらに、金属箔等に対する密着性に優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0159】
また、前記樹脂組成物において、前記リン含有化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、2~20質量部であることが好ましい。
【0160】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、難燃性により優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0161】
また、前記樹脂組成物において、前記マレイミド化合物の含有量は、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、10~75質量部であることが好ましい。
【0162】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制し、難燃性により優れた硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0163】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグである。
【0164】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れたプリプレグを提供することができる。
【0165】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムである。
【0166】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られる樹脂層を備える樹脂付きフィルムを提供することができる。
【0167】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔である。
【0168】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られる樹脂層を備える樹脂付き金属箔を提供することができる。
【0169】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板である。
【0170】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える金属張積層板を提供することができる。
【0171】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板である。
【0172】
このような構成によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物で好適に形成された絶縁層を備える配線板を提供することができる。
【0173】
本発明によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
【0174】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0175】
[実施例1~8、及び比較例1~5]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0176】
(マレイミド化合物)
MIR-3000-70MT:前記式(3)で表され、前記式(3)中の、RA、RB、RC、及びRDが、水素原子であるマレイミド化合物(日本化薬株式会社製のMIR-3000-70MT)
BMI2300:ポリフェニルメタンマレイミド(大和化成工業株式会社製のBMI2300)
(ポリフェニレンエーテル化合物:PPE)
PPE-1:末端にビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を有するポリフェニレンエーテル化合物(三菱ガス化学株式会社製のOPE-2st 1200、Mn1200、上記式(13)で表され、Zが、フェニレン基であり、R2~R4が水素原子であり、pが1であるポリフェニレンエーテル化合物)
PPE-2:末端にメタクリロイル基を有するポリフェニレンエーテル化合物(ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリロイル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル、上記式(15)で表され、式(15)中のYがジメチルメチレン基(式(12)で表され、式(12)中のR34及びR35がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
(硬化剤:アリル化合物)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製のTAIC)
DABPA:2,2’-ジアリルビスフェノールA(2,2’-ジアリル-4,4’-イソプロピリデンジフェノール、大和化成工業株式会社製のDABPA)
(硬化剤:ジメタクリレート化合物)
DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学株式会社製のNKエステル DCP)
(リン含有化合物及び難燃剤)
MC-4:(メタクリロイルメチル)ジフェニルホスフィンオキサイド(片山化学工業株式会社製のMC-4:リン含有化合物:前記式(18)で表され、前記式(18)中のR1がメチル基である化合物)
OP-935:トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアントジャパン株式会社製のエクソリットOP-935:前記リン含有化合物以外の難燃剤(ホスフィン酸塩化合物):リン濃度23質量%)
PX-200:芳香族縮合リン酸エステル化合物(大八化学工業株式会社製のPX-200:前記リン含有化合物以外の難燃剤(リン酸エステル化合物):リン濃度9質量%)
(充填材)
SC2500-SXJ:分子中にフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子(株式会社アドマテックス製のSC2500-SXJ)
【0177】
(調製方法)
まず、充填材以外の各成分を表1に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が70質量%となるように、メチルエチルケトン(MEK)に添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。その後、得られた液体に充填材を添加し、ビーズミルで充填材を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0178】
次に、以下のようにして、評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0179】
得られたワニスを繊維質基材(ガラスクロス:旭化成株式会社製の#1080タイプ、Eガラス)に含浸させた後、130℃で約3~8分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、硬化反応により樹脂を構成する成分の、プリプレグに対する含有量(レジンコンテント)が約70質量%となるように調整した。そして、得られた各プリプレグを8枚重ねて、昇温速度4℃/分で温度220℃まで加熱し、220℃、90分間、圧力4MPaの条件で加熱加圧することにより評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0180】
次に、以下のようにして、評価基板(金属張積層板)を得た。
【0181】
得られた各プリプレグを2枚重ね合わせ、その両側に、銅箔(古河電気工業株式会社製のFV-WS、厚み18μm)を配置した。これを被圧体とし、温度200℃、圧力3MPaの条件で2時間加熱加圧することにより、両面に銅箔が接着された評価基板(金属張積層板)を得た。
【0182】
上記のように調製された、プリプレグ、評価基板(プリプレグの硬化物)及び評価基板(金属張積層板)を、以下に示す方法により評価を行った。
【0183】
[ガラス転移温度(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、プリプレグのTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。なお、Tgが320℃より高い場合、表1において、「>320」と示す。
【0184】
[ピール強度]
評価基板(金属張積層板)から銅箔を引き剥がし、そのときのピール強度を、JIS C 6481に準拠して測定した。具体的には、評価基板の、最上面にある絶縁層(プリプレグ)を引っ張り試験機により50mm/分の速度で引き剥がし、そのときのピール強度(N/mm)を測定した。
【0185】
[吸水率]
評価基板(プリプレグの硬化物)の吸水率(%)を、IPC-TM-650 2.6.2.1に準拠の方法により測定した。
【0186】
[誘電特性(比誘電率及び誘電正接)]
1GHzにおける評価基板(プリプレグの硬化物)の比誘電率及び誘電正接を、IPC-TM650-2.5.5.9に準拠の方法で測定した。具体的には、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製のRFインピーダンスアナライザ HP4291B)を用い、1GHzにおける評価基板の比誘電率及び誘電正接を測定した。この比誘電率及び誘電正接は、評価基板を吸水させる前と吸水させた後との両方を測定した。
【0187】
また、吸水後の比誘電率と吸水前の比誘電率との差及び吸水後の誘電正接と吸水前の誘電正接との差を算出した。
【0188】
[成形性]
中央部に矩形状(30mm×30mm)の穴が形成された、100mm×100mmのプリプレグを用意した。このプリプレグを、離型フィルムとして、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムを用いて、プレートで挟み込んだ。すなわち、前記プリプレグを、TACフィルムで挟み込み、さらに、TACフィルムで挟み込んだプリプレグをプレートで挟み込んだ。このプレートで挟み込んだプリプレグを、171±2.6℃に設定した積層成型用プレス機で、圧力1380±70kPaの条件で、15分間、加熱加圧した。その後、室温まで冷却させ、加熱加圧したプリプレグを目視で観察した。
【0189】
その結果、上記加熱加圧前のプリプレグに形成されていた穴に起因した、前記加熱加熱したプリプレグに存在する穴、すなわち、前記穴が形成されたプリプレグを加熱加圧した後に残存した穴の面積が、20mm2未満であれば、「○」と評価し、前記加熱加熱したプリプレグに存在する穴の面積が、20mm2以上であれば、「×」と評価した。
【0190】
[難燃性]
評価基板(プリプレグの硬化物)から、長さ125mm、幅12.5mmのテストピースを切り出した。そして、このテストピースについて、Underwriters Laboratoriesの“Test for Flammability of Plastic Materials-UL 94”に準じて、燃焼試験を行い、燃焼性を評価した。なお、その結果、燃焼性が「V-0」レベルであれば、表1には、「V-0」と示し、「V-1」のレベルであれば、「V-1」と示す。
【0191】
上記各評価における結果は、表1に示す。なお、「樹脂組成物(充填材を除く)に対するP含有率(質量%)」は、充填材以外の樹脂組成物の質量に対する、樹脂組成物に含まれるリン原子(P)の質量の比率(質量%)を示す。
【0192】
【0193】
表1からわかるように、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤とを含有する樹脂組成物において、前記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物をさらに含有する樹脂組成物の場合(実施例1~8)は、前記リン含有化合物以外の難燃剤を含有している場合(比較例1~3)と比較して、難燃性に優れ、さらに、成形性にも優れていた。
【0194】
実施例1~8に係る樹脂組成物を用いた場合は、Tgが250℃以上と高く、前記マレイミド化合物を含有していない樹脂組成物を用いた場合(比較例4)と比較しても、Tgが高かった。
【0195】
実施例1~8に係る樹脂組成物を用いた場合は、吸水率が0.6%以下と低く、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含有していない樹脂組成物を用いた場合(比較例5)と比較しても、吸水率が低かった。さらに、実施例1~8に係る樹脂組成物を用いた場合は、吸水させた後であっても、比誘電率も誘電正接も低く、吸水による、比誘電率及び誘電正接の上昇も少なかった。例えば、実施例1~8に係る樹脂組成物を用いた場合は、吸水による、誘電正接の変化量が0.0040以下と低く、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含有していない樹脂組成物を用いた場合(比較例5)と比較しても低かった。
【0196】
以上のことから、前記マレイミド化合物と前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤とを含有する樹脂組成物において、前記式(1)で表される基及びリン原子を含む基を分子中に有するリン含有化合物をさらに含有することによって、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が得られることがわかった。
【0197】
この出願は、2019年6月27日に出願された日本国特許出願特願2019-120081を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0198】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明によれば、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した硬化物が好適に得られ、成形性に優れた樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。