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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】光出射デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/295 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G02F1/295
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021536837
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024747
(87)【国際公開番号】W WO2021019971
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019142103
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】稲田 安寿
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061514(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/118829(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0121171(US,A1)
【文献】特開2008-209909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
G02B 6/12- 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する第1ミラー、前記第1ミラーに対向する第2ミラー、および前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に位置する光導波層を備え、前記光導波層は、前記光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させる導波部分を含み、前記導波部分を伝搬した光の一部を前記第1ミラーを介して外部に出射する、導波路素子と、
前記光導波層に入力される光の経路上、または前記経路から分岐した他の経路上に位置し、受光量に応じた第1信号を出力する第1光検出器と、
前記光導波層の前記導波部分内を前記第1の方向に沿って伝搬し前記導波部分を通過した光の経路上に位置し、受光量に応じた第2信号を出力する第2光検出器と、
前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の方向を制御する制御回路と、
を備える光出射デバイス。
【請求項2】
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の強度をさらに制御する、請求項1に記載の光出射デバイス。
【請求項3】
前記光導波層は、印加される電圧に応じて屈折率が変化する材料を含み、
前記導波路素子は、前記光導波層の両側に一対の電極をさらに備え、
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記一対の電極に印加する電圧を制御することにより、前記出射光の方向を制御する、
請求項1または2に記載の光出射デバイス。
【請求項4】
前記第1信号と前記第2信号との比と、前記出射光の出射角度との対応関係を規定するデータを格納する記憶装置をさらに備え、
前記制御回路は、前記データを参照して、前記電圧を決定する、
請求項に記載の光出射デバイス。
【請求項5】
前記光導波層は、液晶材料によって構成され、
前記データは、前記液晶材料の光透過率が異なる複数の条件のそれぞれについて、前記比と前記出射角度との対応関係を規定し、
前記光出射デバイスは、前記液晶材料の光透過率を測定する測定装置をさらに備え、
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号と、測定された前記液晶材料の光透過率と、前記データとに基づいて、前記電圧を決定する、
請求項に記載の光出射デバイス。
【請求項6】
前記光導波層に入力される前記光を出射する光源をさらに備え、
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記光源から出射される前記光の強度を制御することにより、前記出射光の強度を制御する、請求項1から5のいずれかに記載の光出射デバイス。
【請求項7】
前記光導波層に入力される前記光を出射する光源と前記光導波層とを接続する第1光導波路をさらに備え、
前記第1光検出器は、前記第1光導波路から分岐して伝搬する光を検出する、
請求項1からのいずれかに記載の光出射デバイス。
【請求項8】
前記光導波層内を伝搬する光の進行方向の側で前記光導波層に接続された第2光導波路をさらに備え、
前記第2光検出器は、前記第2光導波路を伝搬した光を検出する、
請求項1からのいずれかに記載の光出射デバイス。
【請求項9】
各々が、光透過性を有する第1ミラー、前記第1ミラーに対向する第2ミラー、および前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に位置する光導波層を備え、前記光導波層は、前記光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させる導波部分であって、前記導波部分を伝搬した光の一部を前記第1ミラーを介して外部に出射する、複数の導波路素子であって、前記第1の方向に交差する第2の方向に配列された複数の導波路素子と、
前記複数の導波路素子における前記光導波層にそれぞれ接続された複数の第1光導波路と、
前記複数の第1光導波路に入力される光を出射する光源と、
前記光源から前記複数の導波路素子に至る経路のいずれかの点における光を受け、受光量に応じた第1信号を出力する第1光検出器と、
前記複数の導波路素子における前記光導波層の前記導波部分内を前記第1の方向に沿って伝搬し前記導波部分を通過した光の経路上に位置し、受光量に応じた第2信号を出力する第2光検出器と、
前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の方向を制御する制御回路と、
を備える光出射デバイス。
【請求項10】
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の強度をさらに制御する、請求項に記載の光出射デバイス。
【請求項11】
各導波路素子における前記光導波層は、印加される電圧に応じて屈折率が変化する材料を含み、
各導波路素子は、前記光導波層の両側に一対の電極をさらに備え、
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、各導波路素子における前記一対の電極に印加する電圧を制御することにより、前記出射光の方向を制御する、
請求項9または10に記載の光出射デバイス。
【請求項12】
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記光源から出射される前記光の強度を制御することにより、前記出射光の強度を制御する、請求項9から11のいずれかに記載の光出射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光出射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の出射方向を変化させることが可能な種々のデバイスが提案されている。
【0003】
特許文献1は、光導波層、および光導波層の上面および下面に形成された第1分布ブラッグ反射鏡を備える導波路と、導波路内に光を入射させるための光入射口と、導波路の表面に形成された光出射口とを備える光偏向素子を開示している。入射光の波長を変化させることにより、広い偏向角範囲にわたって光を変更させることができることが特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献2は、2つの多層反射膜と、2つの多層反射膜の間の光導波層とを備える導波路素子を開示している。光導波層の屈折率または厚さを変化させることにより、多層反射膜から出射する光の角度を変化させることができる。このような導波路は、「スローライト導波路」と呼ばれる。
【0005】
特許文献3は、全反射導波路と、全反射導波路に接続されたスローライト導波路とを備える光スキャンデバイスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-16591号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/224709号
【文献】国際公開第2018/061514号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、光の出射方向を変化させることが可能な光出射デバイスの出射特性を改善するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光出射デバイスは、光透過性を有する第1ミラー、前記第1ミラーに対向する第2ミラー、および前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に位置する光導波層を備え、前記光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させ、前記第1ミラーを介して出射する、導波路素子と、前記光導波層に入力される光の経路上、または前記経路から分岐した他の経路上に位置し、受光量に応じた第1信号を出力する第1光検出器と、前記光導波層内を前記第1の方向に沿って伝搬し前記光導波層を通過した光の経路上に位置し、受光量に応じた第2信号を出力する第2光検出器とを備える。
【0009】
本開示の包括的または具体的な態様は、デバイス、システム、方法、またはこれらの任意の組み合わせによって実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、光の出射方向を変化させることが可能な光出射デバイスの出射特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光出射デバイスの構成例を模式的に示す斜視図である。
図2】単一の導波路素子によって1次元スキャンを実現する光出射デバイスの例を模式的に示す図である。
図3】1つの導波路素子の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。
図4A】導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
図4B】導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
図5】導波路アレイの例を模式的に示す斜視図である。
図6】導波路アレイと位相シフタアレイとの接続の例を示す模式図である。
図7】例示的な実施形態による光出射デバイスの概略的な構成を示す模式図である。
図8】導波路素子の構造の一例を示すXZ面断面図である。
図9】導波路素子の構造の他の例を示すXZ面断面図である。
図10】駆動装置の概略的な構成を示すブロック図である。
図11】導波路素子から出射される光の角度と、光導波層内の光の伝搬長Lとの関係の例を示す図である。
図12図11に示すそれぞれの出射角度について、光導波層の内部の光の強度分布の近似計算値を表す図である。
図13】比I2/I1を出射角度ごとにプロットした図である。
図14】始端部での光強度I1と終端部での光強度I2との差(I1-I2)を出射角度ごとにプロットした図である。
図15】調整された光強度I1の例を示す図である。
図16】校正表のデータを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
図17】光出射デバイスがビームスキャン動作を行っているときの制御回路の動作の一例を示すフローチャートである。
図18】液晶層の消衰係数の変化に伴うI2/I1と出射角度との関係の変化の例を示す図である。
図19】他の実施形態による光出射デバイスの構成を示すブロック図である。
図20】他の実施形態による光出射デバイスの構成を示す断面図である。
図21】他の実施形態における校正データの生成処理の例を示すフローチャートである。
図22】他の実施形態における校正データの更新処理の例を示すフローチャートである。
図23】光出射デバイスの他の構成例を示す図である。
図24】光出射デバイスから遠方に光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。
図25】光検出システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の例示的な実施形態による光出射デバイスは、特許文献2および3に開示されたデバイスと同様、スローライト導波路の構造を有する1つ以上の導波路素子を備える。導波路素子は、光透過性を有する第1ミラー、第1ミラーに対向する第2ミラー、および第1ミラーと第2ミラーとの間に位置する光導波層を備える。導波路素子は、光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させ、第1ミラーを介して出射する。出射する光の方向は、後述するように、光導波層の屈折率もしくは厚さ、または光導波層に入力される光の波長を調整することにより、変化させることができる。より具体的には、屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させることにより、出射光の波数ベクトル(wave vector)の、光導波層の長手方向に沿った方向の成分を変化させることができる。これにより、光による1次元的なスキャンを実現できる。光出射デバイスは、光導波層の屈折率もしくは厚さ、または伝搬する光の波長を変化させる駆動装置を備え得る。
【0013】
さらに、複数の導波路素子のアレイを用いた場合には、2次元的なスキャンを実現することができる。より具体的には、複数の導波路素子に供給する光に適切な位相差を与え、その位相差を調整することにより、複数の導波路素子から出射する光が強め合う方向を変化させることができる。位相差の変化により、出射光の波数ベクトルの、光導波層の長手方向に沿った方向に交差する方向の成分が変化する。これにより、2次元的なスキャンを実現することができる。
【0014】
光の出射方向を変化させるために、屈折率、厚さ、および波長のいずれか1つを単独で制御してもよいし、これらの3つのうちの任意の2つまたは全てを制御して光の出射方向を変化させてもよい。
【0015】
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nm~約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nm~約400nm)および赤外線(波長が約700nm~約1mm)を含む電磁波を意味する。本明細書において、紫外線を「紫外光」と称し、赤外線を「赤外光」と称することがある。
【0016】
本開示において、光による「スキャン」とは、光の方向を変化させることを意味する。「1次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する方向に沿って直線的に変化させることを意味する。「2次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する平面に沿って2次元的に変化させることを意味する。
【0017】
本開示の実施形態による光出射デバイスは、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムに利用され得る。LiDARシステムは、ミリ波などの電波を用いたレーダシステムと比較して、短波長の電磁波(例えば、可視光、赤外線、または紫外線)を用いる。このため、高い分解能で物体の距離分布を検出することができる。LiDARシステムは、例えば自動車、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)、AGV(Automated Guided Vehicle)などの移動体に搭載され、衝突回避技術の1つとして使用され得る。
【0018】
<光出射デバイスの構成例>
以下、一例として、2次元スキャンを行うことが可能な光出射デバイスの構成例およびその原理を説明する。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。以下の説明では、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標を用いる。本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0019】
図1は、光出射デバイスの構成例を模式的に示す斜視図である。図1に示す光出射デバイス100は、複数の導波路素子10を含む導波路アレイを備える。複数の導波路素子10の各々は、第1の方向(図1におけるX方向)に延びた形状を有する。複数の導波路素子10は、第1の方向に交差する第2の方向(図1におけるY方向)に規則的に配列されている。複数の導波路素子10は、第1の方向に光を伝搬させながら、第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する方向D3に光を出射させる。この例では、第1の方向(X方向)と第2の方向(Y方向)とが直交しているが、両者が直交していなくてもよい。図1の例では、複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいるが、必ずしも等間隔に並んでいる必要はない。
【0020】
複数の導波路素子10のそれぞれは、互いに対向する第1ミラー30および第2ミラー40と、ミラー30とミラー40の間に位置する光導波層20とを備える。ミラー30およびミラー40の各々は、光導波層20との界面に反射面を有する。ミラー30および40、ならびに光導波層20は、第1の方向(X方向)に延びた形状を有する。
【0021】
図1の例では、複数の導波路素子10が互いに分離されているが、これらの少なくとも一部が繋がっていてもよい。例えば、第1ミラー30、第2ミラー40、および光導波層20の少なくとも1つが、導波路素子10間で相互に繋がっていてもよい。
【0022】
第1ミラー30の反射面と第2ミラー40の反射面とは、ほぼ平行に対向している。これらのミラーのうち、少なくとも第1ミラー30は、光導波層20を伝搬する光の一部を透過させる特性を有する。言い換えれば、第1ミラー30は、当該光について、第2ミラー40よりも高い光透過率を有する。このため、光導波層20を伝搬する光の一部は、第1ミラー30から外部に出射される。このようなミラー30および40は、例えば誘電体多層膜によって形成され得る。
【0023】
図1に矢印で示されるように、各導波路素子10に光を入力すると、各導波路素子10の出射面から光が出射される。出射面は、第1ミラー30の反射面の反対側に位置する。その出射光の方向D3は、光導波層の屈折率、厚さ、および光の波長に依存する。この例では、各導波路素子10から出射される光が概ね同じ方向になるように、各光導波層の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つが同期して制御される。これにより、複数の導波路素子10から出射される光の波数ベクトルのX方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、出射光の方向D3を、図1に示される方向101に沿って変化させることができる。
【0024】
さらに、複数の導波路素子10から出射される光は同じ方向を向いているので、出射光は互いに干渉する。それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御することにより、干渉によって光が強め合う方向を変化させることができる。例えば、同じサイズの複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいる場合、複数の導波路素子10には、一定量ずつ位相の異なる光が入力される。その位相差を変化させることにより、出射光の波数ベクトルの、Y方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、複数の導波路素子10に導入される光の位相差をそれぞれ変化させることにより、干渉によって出射光が強め合う方向D3を、図1に示される方向102に沿って変化させることができる。これにより、光による2次元スキャンを実現することができる。
【0025】
なお、2次元スキャンが不要な用途では、複数の導波路素子を設ける必要はない。光出射デバイスが1つの導波路素子を備えていれば、図1に示すX方向に沿った1次元的なスキャンが可能である。用途によっては、そのような1次元スキャンに特化した光出射デバイスも使用され得る。
【0026】
図2は、単一の導波路素子10によって1次元スキャンを実現する光出射デバイス100の例を模式的に示す図である。この例では、Y方向に広がりのある光が出射される。光導波層20の屈折率もしくは厚さ、または光導波層20に入力される光の波長を変化させることにより、光の出射方向をX方向に沿って移動させることができる。これにより、1次元スキャンが実現される。出射光がY方向に広がりをもつため、一軸方向のスキャンであっても、2次元的に拡がる比較的広いエリアをスキャンすることができる。2次元スキャンが不要な用途では、図2に示すような構成も採用され得る。
【0027】
図3は、1つの導波路素子10の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。図3では、図1に示すX方向およびY方向に垂直な方向をZ方向とし、導波路素子10のXZ面に平行な断面が模式的に示されている。光導波層20のX方向における一端から導入された光22は、第1ミラー30および第2ミラー40によって反射を繰り返しながら光導波層20内を伝搬する。第1ミラー30の光透過率は第2ミラー40の光透過率よりも高い。このため、主に第1ミラー30から光の一部を出力することができる。
【0028】
一般的な光ファイバーなどの導波路では、全反射を繰り返しながら光が導波路に沿って伝搬する。これに対して、導波路素子10では、光は光導波層20の上下に配置されたミラー30および40によって反射を繰り返しながら伝搬する。このため、光の伝搬角度に制約がない。ここで光の伝搬角度とは、ミラー30またはミラー40と光導波層20との界面への入射角度を意味する。当該構成によれば、全反射の臨界角よりも小さい角度、すなわち、より垂直に近い角度で界面に入射する光も伝搬できる。光の伝搬方向における光の群速度は自由空間における光速に比べて低い。これにより、導波路素子10は、光の波長、光導波層20の厚さ、および光導波層20の屈折率の変化に対して光の伝搬条件が大きく変化するという性質を持つ。このような導波路素子10は、「スローライト導波路」とも称される。
【0029】
伝搬する光の空気中での波長をλ、光導波層20の屈折率をn、光導波層20の厚さをdとすると、導波路素子10から空気中に出射される光の出射角度θは、以下の式(1)によって表される。
【数1】
【0030】
式(1)からわかるように、波長λ、屈折率n、および厚さdのいずれかを変化させることにより、光の出射方向を変化させることができる。
【0031】
例えば、n=2、d=387nm、λ=1550nm、m=1の場合、出射角度は0°である。この状態から、屈折率をn=2.2に変化させると、出射角度は約66°に変化する。一方、屈折率を変えずに厚さをd=420nmに変化させると、出射角度は約51°に変化する。屈折率も厚さも変化させずに波長をλ=1500nmに変化させると、出射角度は約30°に変化する。このように、光の波長λ、光導波層20の屈折率n、および光導波層20の厚さdのいずれかを変化させることにより、光の出射方向を大きく変化させることができる。
【0032】
そこで、本開示の実施形態では、光導波層20に入力される光の波長λ、光導波層20の屈折率n、および光導波層20の厚さdの少なくとも1つを制御することにより、光の出射方向が制御される。光の波長λは、動作中に変化させず、一定に維持されてもよい。その場合、よりシンプルな構成で光のスキャンを実現できる。波長λは、特に限定されない。波長λは、例えば400nmから1100nm(可視光から近赤外光)の波長域に含まれ得る。この波長域は、シリコン(Si)によって光を吸収することで光を検出する一般的なフォトディテクタまたはイメージセンサで高い検出感度が得られる波長域である。他の例では、波長λは、光ファイバーまたはSi導波路において伝送損失の比較的小さい1260nmから1625nmの近赤外光の波長域に含まれ得る。なお、これらの波長範囲は一例である。使用される光の波長域は、可視光または赤外光の波長域に限定されず、例えば紫外光の波長域であってもよい。
【0033】
出射光の方向を変化させるために、光出射デバイス100は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させる駆動装置(「第1調整素子」とも称する。)を備え得る。
【0034】
光導波層20は、液晶材料または電気光学材料のように、電圧の印加によって屈折率が変化する材料を含み得る。光導波層20は、一対の電極の間に配置され得る。一対の電極に電圧を印加することにより、光導波層20の少なくとも一部の屈折率を変化させることができる。
【0035】
第1ミラー30および第2ミラー40の少なくとも一方にアクチュエータなどの、厚さを変化させる駆動装置が接続されてもよい。そのような装置によって第1ミラー30と第2ミラー40との距離を変化させることにより、光導波層20の厚さを変化させることができる。光導波層20が気体または液体から形成されていれば、光導波層20の厚さを容易に変化させることができる。
【0036】
次に、複数の導波路素子が一方向に配列された導波路アレイによる2次元スキャンの動作原理を説明する。
【0037】
導波路アレイにおいては、それぞれの導波路素子10から出射される光の干渉により、光の出射方向が変化する。各導波路素子10に供給される光の位相を調整することにより、光の出射方向を変化させることができる。
【0038】
図4Aは、導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図4Aには、各導波路素子10を伝搬する光の位相シフト量も記載されている。ここで、位相シフト量は、左端の導波路素子10を伝搬する光の位相を基準にした値である。図4Aに示す導波路アレイは、等間隔に配列された複数の導波路素子10を含んでいる。図4Aにおいて、破線の円弧は、各導波路素子10から出射される光の波面を示している。直線は、光の干渉によって形成される波面を示している。矢印は、導波路アレイから出射される光の方向(すなわち、波数ベクトルの方向)を示している。図4Aに示す例では、各導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相はいずれも同じである。この場合、光は導波路素子10の配列方向(Y方向)および光導波層20が延びる方向(X方向)の両方に垂直な方向(Z方向)に出射される。
【0039】
図4Bは、導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図4Bに示す例では、複数の導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相が、配列方向に一定量(Δφ)ずつ異なっている。この場合、光は、Z方向とは異なる方向に出射される。このΔφを変化させることにより、光の波数ベクトルのY方向の成分を変化させることができる。隣接する2つの導波路素子10の間の中心間距離をpとすると、光の出射角度αは、以下の式(2)によって表される。
【数2】
【0040】
図3に示す例では、光の出射方向は、XZ平面に平行である。すなわち、α=0°である。図4Aおよび図4Bに示す例では、光出射デバイス100から出射される光の方向は、YZ平面に平行である。すなわち、θ=0°である。しかし、一般には、光出射デバイス100から出射される光の方向は、XZ平面にも、YZ平面にも平行ではない。すなわち、θ≠0°およびα≠0°である。
【0041】
図5は、3次元空間における導波路アレイの例を模式的に示す斜視図である。図5に示す太い矢印は、光出射デバイス100から出射される光の方向を表す。θは、光の出射方向とYZ平面とがなす角度である。θは式(1)を満たす。αは、光の出射方向とXZ平面とがなす角度である。αは式(2)を満たす。
【0042】
それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御するために、例えば、導波路素子10の前段に、光の位相を変化させる位相シフタが設けられ得る。光出射デバイス100は、複数の導波路素子10のそれぞれに接続された複数の位相シフタと、各位相シフタを伝搬する光の位相を調整する駆動装置(以下、「第2調整素子」とも称する。)とを備え得る。各位相シフタは、複数の導波路素子10のうちの対応する1つにおける光導波層20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含み得る。第2調整素子は、複数の位相シフタから複数の導波路素子10に伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、複数の導波路素子10から出射される光の方向(図1に示される方向D3)を変化させる。以下の説明では、配列された複数の位相シフタを「位相シフタアレイ」と称することがある。
【0043】
図6は、導波路アレイ10Aと位相シフタアレイ80Aとの接続の例を示す模式図である。図6に示される例では、全ての位相シフタ80が同じ伝搬特性を有する光導波路であり、全ての導波路素子10が同じ伝搬特性を有する。それぞれの位相シフタ80およびそれぞれの導波路素子10は、同じ長さを有していてもよいし、異なる長さを有していてもよい。それぞれの位相シフタ80の長さが等しい場合は、例えば、駆動電圧によってそれぞれの位相シフト量を調整することができる。また、それぞれの位相シフタ80の長さを等ステップで変化させた構造にすることにより、同じ駆動電圧で等ステップの位相シフトを与えることもできる。さらに、この光出射デバイス100は、複数の位相シフタ80に光を分岐して供給する光分岐器90と、各導波路素子10を駆動する第1駆動回路110と、各位相シフタ80を駆動する第2駆動回路180とをさらに備える。図6に示す直線の矢印は光の入力を表している。別々に設けられた第1駆動回路110と第2駆動回路180とをそれぞれ独立に制御することにより、2次元スキャンを実現できる。この例では、第1駆動回路110は、第1調整素子すなわち駆動装置の1つの要素として機能し、第2駆動回路180は、第2調整素子すなわち駆動装置の1つの要素として機能する。
【0044】
第1駆動回路110は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、光導波層20から出射する光の角度を変化させる。第2駆動回路180は、各位相シフタ80における導波路の屈折率を変化させることにより、当該導波路の内部を伝搬する光の位相を変化させる。光分岐器90は、全反射によって光が伝搬する導波路で構成してもよいし、導波路素子10と同様のスローライト導波路で構成してもよい。
【0045】
なお、光分岐器90で分岐したそれぞれの光の位相を制御した後に、それぞれの光を位相シフタ80に導入してもよい。この位相制御には、例えば、位相シフタ80に至るまでの導波路の長さを調整することによるパッシブな位相制御構造を用いることができる。あるいは、位相シフタ80と同様の機能を有する電気信号で制御可能な位相シフタを用いてもよい。このような方法により、例えば、全ての位相シフタ80に等位相の光が供給されるように、位相シフタ80に導入される前に位相を調整してもよい。そのような調整により、第2駆動回路180による各位相シフタ80の制御をシンプルにすることができる。
【0046】
上記の光出射デバイス100と同様の構成を有する光デバイスは、光受信デバイスとしても利用できる。光デバイスの構造、動作原理、および動作方法などの詳細は、例えば特許文献2および3に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本明細書に援用する。
【0047】
<出射光の方向および強度の制御>
上記のように、スローライト導波路の構造を備える光出射デバイスは、光導波層の屈折率もしくは厚さ、または光導波層に入力される光の波長を変化させることにより、出射光ビームの方向を変化させることができる。また、光導波層に入力される光の強度を制御することにより、出射光ビームの強度を制御することもできる。
【0048】
しかし、光出射デバイスの光出射特性は、温度もしくは湿度などの環境の変化、またはデバイスの経年劣化などの様々な要因により、変化し得る。例えば、光導波層が液晶材料などの、印加電圧に応じて屈折率が変化する材料で構成されている場合、当該材料の温度依存性または経年劣化に起因して、印加電圧に対する屈折率の応答特性が変化し得る。その結果、光導波層に同一の電圧を印加した場合であっても、環境または経年に依存して光の出射方向が変動し得る。同様の課題は、光導波層の厚さまたは導波光の波長を変化させることによって出射光の方向を変化させる構成においても生じ得る。また、出射光の強度が出射角度に依存することから、出射角度の変化に応じて出射光の強度を適切に調整することが望ましい。
【0049】
このような課題を解決するため、本開示の実施形態による光出射デバイスは、導波路素子の前段および後段のそれぞれに、光検出器を備える。駆動装置は、それらの光検出器によって検出された光の強度に基づいて、光源から出射される光の強度、および/または導波路素子から出射される光の方向を制御する。以下、このような実施形態の構成および動作をより詳細に説明する。
【0050】
図7は、例示的な実施形態による光出射デバイス100Aの概略的な構成を示す模式図である。この光出射デバイス100Aは、光源130と、光導波路11と、導波路素子10と、第1光検出器171と、第2光検出器172と、駆動装置160とを備える。光導波路11は、光源130と導波路素子10とを接続する。光導波路11は、分岐部11bを有する。分岐部11bから、他の光導波路13が延びている。光導波路13の先端に第1光検出器171が配置されている。第1光検出器171は、光導波路13を伝搬した光を検出する。第2光検出器172は、導波路素子10の光導波層を伝搬した光を検出する位置に配置されている。図7の例では、第2光検出器172は導波路素子10に接している。このような構成に限らず、第2光検出器172は、導波路素子10に接続された不図示の他の光導波路を伝搬する光を検出するように構成されていてもよい。
【0051】
光源130は、導波路素子10における光導波層に入力される光を出射するように構成される。光源130は、例えば半導体レーザー素子などの発光素子を含み得る。
【0052】
この例では、導波路素子10は、一対のミラーと、一対のミラーの間に位置する光導波層と、光導波層に電圧を印加するための一対の電極を含む。光導波層は、電圧の印加によって屈折率が変化する材料、例えば液晶材料または電気光学材料を含み得る。
【0053】
駆動装置160は、導波路素子10における一対の電極、光源130、第1光検出器171、および第2光検出器172に接続されている。駆動装置160は、動作中、第1光検出器171および第2光検出器172から、それぞれの検出光量を示す信号を取得し、それらの信号に基づいて、一対の電極に印加する電圧を制御する。これにより、駆動装置160は、導波路素子10から出射される光の方向を制御する。駆動装置160はまた、第1光検出器171および第2光検出器172からそれぞれ出力される2つの信号に基づいて、光源130から出射される光の強度を制御する。駆動装置160による光源130および導波路素子10の制御の具体例については後述する。
【0054】
図8は、導波路素子10の構造の一例を示すXZ面断面図である。この導波路素子10は、第1基板70A、第1電極60A、第1ミラー30、光導波層20、第2ミラー40、第2電極60B、および第2基板70Bを、この順に備える。第1ミラー30は、第1の方向(この例ではX方向)および第2の方向(この例ではY方向)に沿って拡がっており、第1の方向に延びた構造を有する。第1ミラー30は、光透過性を有し、光導波層20をX方向に沿って伝搬する光の一部を外部に出射する。第2ミラー40は、第1ミラー30と同様、第1の方向および第2の方向に沿って拡がっており、第1の方向に延びた構造を有する。この例における第2ミラー40は、光透過性を有しない。
【0055】
光導波層20は、第1ミラー30と第2ミラー40との間に位置し、第1の方向に沿って延びている。光導波層20は、例えば液晶材料または電気光学材料によって構成され得る。基板70Aおよび70Bは、例えばSiなどの半導体、あるいはSiOなどの誘電体材料によって構成され得る。
【0056】
第1電極60Aは、第1ミラー30と第1基板70Aとの間にあり、両者に接している。第2電極60Bは、第2ミラー40と第2基板70Bとの間にあり、両者に接している。第1電極60Aは、例えばITO(酸化インジウムスズ)などの透光性を有する導電材料によって構成され得る。第2電極60Bは、ITOなどの透光性を有する導電材料の他、任意の導電性材料によって構成され得る。図7に示すように、電極60Aおよび60Bは、駆動装置160に接続されている。駆動装置160は、電極60Aおよび60Bに電圧を印加する駆動回路を含む。駆動装置160は、第1電極60Aと第2電極60Bとの間に印加する電圧を変化させることにより、光導波層20の屈折率を変化させる。これにより、第1ミラー30、第1電極60A、および第1基板70Aを介して出射される光ビームの出射角度を変化させることができる。
【0057】
図8には、光導波層20の両端部にそれぞれ接続された第1光導波路11および第2光導波路12も示されている。第1光導波路11および第2光導波路12の各々は、第2ミラー40上の誘電体部材50に支持されている。
【0058】
本実施形態における光導波路11および12のそれぞれの一端は、光導波層20の内部にあり、グレーティング15を含む。各グレーティング15は、X方向に沿って並ぶ複数の凹部を含む。図8の例では、各グレーティング15が4つの凹部を含むが、さらに多数の凹部が設けられていてもよい。複数の凹部に代えて、複数の凸部が設けられていてもよい。各グレーティング15におけるX方向に並ぶ凹部または凸部の個数は、例えば4以上64以下であり得る。各グレーティング15における凹部または凸部の個数は、各凹部または凸部の回折効率に応じて調整され得る。各凹部または凸部の回折効率は、その深さまたは高さ、および幅などの寸法条件に依存する。したがって、グレーティング15全体として良好な特性が得られるように、各凹部または凸部の寸法に応じて、それらの個数は調整される。
【0059】
図8に示す例において、グレーティング15が設けられた領域のX方向における寸法Lgは、例えば、4μmから50μm程度の範囲内の値であり得る。そのような大きさの領域内に、例えば8周期から32周期程度のグレーティング15が形成され得る。本実施形態では、第1光導波路11のうち、光導波層20の内部に位置する部分のX方向における寸法L0は、グレーティング15が設けられた領域のX方向における寸法Lgよりも大きいが、L0とLgとが一致していてもよい。図8の例では、第1光導波路11と第2光導波路12とが対称的な構造を有するが、両者が非対称な構造を有していてもよい。光導波層20のうち、第1光導波路11と第2光導波路12との間に位置する部分のX方向における寸法L1は、Lgよりも大きく、例えば100μmから5mm程度の範囲内の値であり得る。ただし、このような寸法に限定されず、必要な特性に応じて各部材の寸法は決定される。
【0060】
第1光導波路11および第2光導波路12の各々は、誘電体部材50および光導波層20よりも高い屈折率の誘電体材料によって構成され得る。これらの光導波路11および12の各々は、全反射導波路であり、光をX方向に沿って伝搬させる。第1光導波路11を伝搬する光は、グレーティング15によって高い効率で光導波層20を伝搬する光に変換される。同様に、光導波層20を伝搬する光は、第2光導波路12におけるグレーティング15によって高い効率で第2光導波路12を伝搬する光に変換される。
【0061】
なお、第1光導波路11および第2光導波路12の各々と光導波層20との接続は、本実施形態の構造とは異なる構造によって実現されていてもよい。例えば、光導波路11および12の各々の先端部が光導波層20の外部において光導波層20に接していてもよい。第1光導波路11と光導波層20との間の光の結合、および光導波層20と第2光導波路12との間の光の結合が可能である限り、各導波路の構造は任意である。
【0062】
図8には示されていないが、図7に示すように、第1光導波路11から分岐した他の光導波路13を伝搬する光を検出する第1光検出器171が配置される。第1光検出器171は、例えばフォトダイオードなどの光電変換素子を含み、受光量に応じた第1信号を出力する。光導波路13を伝搬する光の強度は、第1光導波路11を伝搬して光導波層20に入力される光の強度にほぼ比例する。したがって、第1光検出器171から出力される第1信号は、光導波層20に入力される光の強度を反映する。
【0063】
図8に示す例では、第2光検出器172は、第2光導波路12を伝搬した光を検出する。第2光導波路12は、光導波層20を第1の方向に沿って伝搬して光導波層20を通過した光を、第2光検出器172に導く。第2光検出器172は、例えばフォトダイオードなどの光電変換素子を含み、受光量に応じた第2信号を出力する。第2信号は、光導波層20に入力された光のうち、第1ミラー30を介して外部に出射されなかった光の強度を反映する。
【0064】
第2光検出器172の配置は、図8に示すような配置に限定されず、例えば図9に示す配置であってもよい。図9に示す例では、第2光導波路12は、光導波層20の内部に位置する端部だけでなく、その反対側の端部にもグレーティング15Aを有する。第2光検出器172は、当該グレーティング15Aを介して出射された光を検出するように配置されている。このような配置であっても、光導波層20を通過した光の量に応じた信号を取得することができる。
【0065】
なお、図7に示す光導波路13内の伝搬光を第1光検出器171に入射させる方法については、図8または図9に示される第2光検出器172に光を入射させる方法と同様の方法を用いることができる。本実施形態では、第1光検出器171は、第1光導波路11から分岐した他の導波路13内を伝搬する光を検出するが、第1光導波路11の伝搬光を直接検出するように構成されていてもよい。
【0066】
第1光検出器171および第2光検出器172の各々は、単一の光電変換素子を備える光検出器に限らず、複数の光電変換素子を備える光検出器、例えばイメージセンサでもよい。特に、複数の導波路素子10がY方向に沿って配列された構成においては、Y方向に複数の光電変換素子が配列されたイメージセンサを光検出器171および172として用いてもよい。
【0067】
本実施形態では、光源130から離れた位置に第1光検出器171が配置されているが、第1光検出器171は光源130に内蔵されていてもよい。例えば、光源130として、光出力のフィードバック機能を備えたレーザダイオードが使用される場合、フィードバック機構から得られる出力信号を第1光検出器171の検出信号として用いてもよい。
【0068】
図10は、本実施形態における駆動装置160の概略的な構成を示すブロック図である。駆動装置160は、インターフェース(IF)168と、制御回路162と、記憶装置166とを備える。インターフェース168は、光源130、第1光検出器171、および第2光検出器172に接続され、これらの機器との間で信号の伝送を行う。制御回路162は、光導波層20の屈折率、および光源130の発光強度を制御する回路である。制御回路162は、1つ以上のプロセッサを含み得る。記憶装置166は、例えばRAMおよびROMなどのメモリを含み、制御回路162によって実行されるコンピュータプログラム、および各種のデータを格納する。制御回路162は、第1光検出器171から出力された第1信号と、第2光検出器172から出力された第2信号とに基づいて、光源130の発光強度および光導波層20に印加する電圧を制御する。これにより、導波路素子10の第1ミラー30を介して出射される光の強度および方向を制御する。
【0069】
本実施形態において、第1ミラー30を介して出射される光の出射角度は、光導波層20の内部を伝搬する光の伝搬角度に依存する。この伝搬角度は、光導波層20の屈折率に依存する。したがって、印加される電圧に応じて屈折率を変調させることが可能な液晶などの材料で光導波層20を構成することにより、印加電圧によって出射角度を制御することができる。
【0070】
ここで、光導波層20の内部の光の強度は、X方向に沿って伝搬する過程で徐々に減衰する。これは、伝搬の過程で伝搬光の一部が第1ミラー30を介して外部に放出されるからである。この減衰率は、第1ミラー30および第2ミラー40の反射率の角度依存性によって決定される。そのため、減衰率は、光導波層20を伝搬する光の伝搬角度に依存する。本実施形態のように、光導波層20を含む光の経路上の任意の2点において光強度を検出することにより、それらの検出結果から、減衰率および/または減衰量を算出することができる。これにより、光導波層20の内部の伝搬角度または外部に出射される光の角度、および/または出射光の強度を推定することができる。
【0071】
図11は、ある実施例における導波路素子10から出射される光の角度と、光導波層20内の光の伝搬長Lとの関係を示す図である。ここで伝搬長Lとは、光導波層20内のある点を起点として、X方向に沿って光が伝搬した場合に、その光強度が起点における光強度の1/e倍に減衰するまでの距離を指す。ここでeは自然対数の底であり、e≒2.718である。図11に示す結果は、以下の構成を有する導波路素子10について、数値計算を行うことによって得られた。第1ミラー30として、高屈折率層と低屈折率層とが交互に17層積層されたDBRを用いた。各高屈折率層の屈折率を2.28、各高屈折率層の厚さを111nm、各低屈折率層の屈折率を1.47、各低屈折率層の厚さを173nmとした。第2ミラー40として、高屈折率層と低屈折率層とが交互に21層積層されたDBRを用いた。各高屈折率層の屈折率を2.36、各高屈折率層の厚さを107nm、各低屈折率層の屈折率を1.47、各低屈折率層の厚さを172nmとした。第1ミラー30および第2ミラー40の各々について、最初と最後の層は、ともに高屈折率層である。光導波層20の厚さは2.02μmとした。出射角度を変化させるために、光導波層20の屈折率を1.68~1.55の範囲で変化させた。なお、出射角度は、屈折率がほぼ1である大気への出射角度を指し、導波路伝搬中の光の吸収損失はないものとした。数値計算には、Synopsys社のFemSimを用いた。
【0072】
図12は、図11に示すそれぞれの出射角度について、光導波層20の内部の光の強度分布の近似計算値を任意単位で表す図である。ここでは、光導波層20の内部の光が、exp(-αx)に従って減衰すると仮定した。ここで、αは、伝搬長Lの逆数であり、出射角度θに依存する。xは、光導波層20の始端部からの距離を表す。光導波層20の始端部とは、図8に示す長さL1の領域のうち、第1光導波路11の先端に接する部分を指す。逆に、図8に示す長さL1の領域のうち、第2光導波路12の先端に接する部分を光導波層20の終端部と称する。本実施例では、光導波層20の始端部から終端部までの長さL1を1mmとした。図12に示すように、出射角度θが小さいほど、光の伝搬に伴って光強度が減衰し易い。
【0073】
図13は、本実施例における光導波層20の始端部の光強度I1に対する終端部の光強度I2の割合(I2/I1)を出射角度ごとにプロットした図である。図13に示す関係は、光導波層20の内部を伝搬する光の伝搬角度と、ミラー30および40の反射率の角度依存性によって決まる導波路固有の関係である。I2とI1の強度比を測定することにより、その時点での伝搬角度を求めることができる。
【0074】
図14は、始端部での光強度I1と終端部での光強度I2との差(I1-I2)を出射角度ごとにプロットした図である。I1とI2との強度差は、光導波層20を伝搬する過程で一部の光が外部に放出されることで生じる。例えば図14の例においては、出射角度36°において光導波層20の終端部での光強度I2は、始端部での光強度I1の約26%である。簡単のために、光導波層20における光の損失分がすべて外部に出射されていると仮定する。その場合、例えば1Wの光が光導波層20に入力されたとすると、約0.74Wの光が外部に放出されることになる。これに対して、出射角度25°では、終端部での光強度I2は始端部での光強度I1の約3%であり、約97%の光が外部に放出される。この場合、入力される光を約0.76Wにすることで、約0.74Wの光出力を得ることができる。
【0075】
図15は、この例における調整された光強度I1の例を示す図である。出射角度が大きいほど、入力される光の強度I1が大きくなるように制御される。図15に示すようにI1の強度を調整することで、どの出射角度においても同程度の光強度を得ることができる。なお、実際のデバイスでは、出射角度に応じて出射光の吸収損失および散乱損失が変化する。このため、図15に示すような角度に応じた入力光の強度の校正を行う場合、吸収損失および散乱損失の出射角度依存性を考慮することが望ましい。
【0076】
本実施形態では、図10に示す駆動装置160における記憶装置166に、予め校正用のデータが格納されている。制御回路162は、当該データを参照することで、強度I1、I2のデータから、光導波層20に印加する電圧Vppと、光源130から出射される光の強度の補正値を決定する。
【0077】
校正用のデータは、例えば以下の表1に示すようなテーブル形式のデータであり得る。このようなテーブルのデータを、以下、「校正表」または「校正データ」と称する。
【0078】
【表1】
【0079】
表1は、5°から35°の範囲で5°ずつ出射角度を変化させる場合に使用される校正表の例を示している。角度ごとに、比(I2/I1)、印加電圧Vpp、強度差(I1-I2)、および光源130の入力補正値I1/(I1-I2)のデータが記録されている。表1に示す角度と比(I2/I1)との関係は、図13に示す関係に対応している。
【0080】
図16は、表1に示すような校正表のデータを生成する動作の一例を示すフローチャートである。図16に示す動作は、例えば光出射デバイス100Aの製造時に行われ、校正表が予め記憶装置166に格納される。図16の動作は、例えば駆動装置160の制御回路162によって実行され得る。
【0081】
制御回路162は、まず、ステップS101において、ビームスキャンに必要な角度範囲において、用途に応じた適切な出射角の一覧を示すデータを取得する。表1の例では、簡単のため、7つの出射角が設定されているが、さらに多くの出射角が設定されていてもよい。例えば、所定の角度範囲内において、1°または0.1°などの、比較的小さい角度間隔で多数の出射角が設定されていてもよい。
【0082】
制御回路162は、ステップS106において全ての出射角についてデータの記録が完了したと判断するまで、ステップS102、S103、S104、およびS105の動作を繰り返す。
【0083】
ステップS102において、制御回路162は、出射角の一覧の中から、データがまだ取得されていない1つの角度を目標の出射角として選択する。
【0084】
ステップS103において、制御回路162は、光導波層20に印加する電圧を徐々に変化させ、目標の出射角が得られる電圧の波高値を決定する。制御回路162は、その値を出射角と関連付けて校正表に記録する。なお、光の出射角は、図示されていない出射角度測定器によって測定される。ステップS104において、制御回路162は、目標の出射角が得られているときの第1光検出器171の検出強度S1と第2光検出器172の検出強度S2とを取得する。そして、I1=k1×S1およびI2=k2×S2の演算により、光導波層20の始端部での推定される光強度I1、および終端部での推定される光強度I2を算出する。ここで、k1およびk2は、予め設定された比例係数である。制御回路162は、比(I2/I1)、差(I1-I2)、および入力補正値I1/(I1-I2)を、出射角と関連付けて校正表に記録する。なお、表1に示す校正表では、比(I2/I1)の値が角度ごとに記録されるが、代わりにS1とS2との比が角度ごとに記録されてもよい。I1はS1に比例し、I2はS2に比例する。よって、いずれの場合も、第1光検出器171から出力される第1信号と第2光検出器172から出力される第2信号との比と、出射角度との対応関係を規定するデータが格納されるといえる。
【0085】
ステップS105において、制御回路162は、出射角の一覧に含まれる全ての角度についてデータを記録したか否かを判断する。全ての角度についてデータの記録が完了していない場合はステップS102に戻り、異なる角度について、ステップS103およびS104の動作が実行される。全ての角度についてデータの記録が完了した場合は、ステップS106に進む。
【0086】
ステップS106において、制御回路162は、生成した校正表のデータを出力し、記憶装置166に記録する。
【0087】
光出射デバイス100Aは、例えばLiDARシステムにおいて用いられ得る。制御回路162は、所定の走査範囲を光でスキャンするように、一対の電極60Aおよび60Bへの印加電圧を調整する。このとき、光出射デバイス100Aが配置された環境の温度、または光出射デバイス100Aの経年劣化などの種々の要因により、印加電圧と出射角との対応関係が変化することがある。また、出射光の強度が所望の強度とは異なっている場合があり得る。
【0088】
この課題を解決するため、本実施形態では、例えば光出射デバイス100Aの起動時、またはスキャン動作中に、以下の動作が行われる。まず、制御回路162は、出射角を変化させる度に、第1光検出器171の出力信号に基づいて算出される光強度I1と、第2光検出器172の出力信号に基づいて算出される光強度I2との比(I2/I1)および差(I1-I2)を算出する。次に、制御回路162は、記憶装置166に予め記録された校正データを参照して、算出した比(I2/I1)に対応する出射角を特定する。このとき、本来の出射角と、校正データから特定された出射角との間に誤差がある場合、制御回路162は、印加電圧を変化させることにより、その誤差を補償する。また、制御回路162は、算出した差(I1-I2)から推定される出射光強度と、そのときに出射すべき光の強度との間に誤差が生じている場合、光源130の出射光強度を変化させることにより、その誤差を補償する。比(I2/I1)または差(I1-I2)に誤差が生じていた場合、制御回路162は、校正データを更新する。
【0089】
図17は、光出射デバイス100Aによる校正データを更新する動作の一例を示すフローチャートである。
【0090】
この例では、ステップS201において、制御回路162は、予め記録された校正表のデータを取得する。
【0091】
続くステップS202において、制御回路162は、出射角を初期値に設定して光ビームを導波路素子から出射させる。このとき、制御回路162は、校正表における当該出射角に対応する入力補正値に基づいて光源130の出力を決定する。
【0092】
その後、制御回路162は、ステップS211において全ての出射角についてデータの取得が完了したと判断するまで、ステップS203からS212の動作を繰り返す。
【0093】
ステップS203において、制御回路162は、第1光検出器171の出力信号に基づく光強度I1と、第2光検出器172の出力信号に基づく光強度I2とに基づいて、比I2/I1を算出する。続くステップS204において、制御回路162は、算出した比I2/I1と、校正表における目標の比との間に差違があるかを判断する。差異があるか否かの判断は、算出した比と目標の比との差が所定の閾値を上回るか否かによって判断され得る。この判断がYesの場合、ステップS205に進み、Noの場合、ステップS207に進む。
【0094】
ステップS205において、制御回路162は、比I2/I1が目標値になるように、光導波層20に印加される電圧の値を調整する。続くステップS206において、制御回路162は、調整後の電圧値を校正表に記録する。
【0095】
ステップS207において、制御回路162は、強度差(I1-I2)を算出する。続くステップS208において、制御回路162は、算出した強度差と校正表における目標の強度差との間に差違があるかを判断する。差異があるか否かの判断は、算出した強度差と目標の強度差との差が所定の閾値を上回るか否かによって判断され得る。この判断がYesの場合、ステップS209に進み、Noの場合、ステップS211に進む。
【0096】
ステップS209において、制御回路162は、強度差(I1-I2)が目標値になるように、光源130から出射される光の強度を調整する。このとき、例えば(I2-I1)/I2が全角度域で均一になるように光源130からの光の強度が調整される。続くステップS210において、制御回路162は、調整後の入力補正値を校正表に記録する。
【0097】
次に、ステップS211において、制御回路は、全ての出射角についてデータの取得が完了したか否かを判断する。この判断がNoの場合はステップS212に進み、Yesの場合はステップS220に進む。
【0098】
ステップS211において、制御回路162は、出射角を変更して導波路素子から光ビームを出射させる。このとき、制御回路162は、校正表における当該出射角に対応する入力補正値に基づいて光源130の出力を決定する。以後、全出射角についてデータが取得されるまで、ステップS203からS212の動作が繰り返される。
【0099】
全出射角についてデータが取得されると、ステップS220において、制御回路162は、校正表を更新して記憶装置166に記録する。このとき、表1に示す項目のうち、印加電圧および入力補正値の項目が更新され、角度、比、および強度差の項目は変更されない。
【0100】
以上の動作により、光導波層20に印加される電圧と出射角との関係、および光源130に入力される制御指令値と出射光の強度との関係が、環境その他の要因によって変化した場合であっても、出射光の方向および強度を適切に制御することができる。本実施形態によれば、出射光の一部をミラーまたはビームスプリッタなどの光学素子を用いて直接検出することなく、出射光の方向と強度とを推定することができる。このため、より簡単な構成で、光の出射を適正化することができる。
【0101】
本実施形態の光出射デバイス100Aは、単一の導波路素子10を備えるが、複数の導波路素子10のアレイを備えていてもよい。図1から図6を参照して説明したように、複数の導波路素子10の光導波層20に入力される光に適切な位相差を付与することにより、対象シーンを2次元的にスキャンすることが可能である。
【0102】
本実施形態では、図13に例示される比I2/I1と出射角度との関係が変化しないことを前提としている。しかし、環境の変化または経年劣化などの種々の要因により、この関係が変化することがある。例えば、光導波層20が液晶材料によって構成されている場合、経年劣化に伴って液晶の光吸収率が増加、すなわち消衰係数が増加することにより、比I2/I1が減少することがある。
【0103】
図18は、液晶の消衰係数kが変化した場合のI2/I1の変化の例を示す図である。図18に示すように、液晶の消衰係数kが変化すると、出射角度とI2/I1との関係が変化する。消衰係数kが増加するほど、吸収損失が増加し、I2/I1は減少する。光導波層20の吸収損失が増加すると、所望のビーム性能(例えば広がり角0.17°等)が得られなくなる可能性もある。
【0104】
この課題を解決するために、液晶の劣化の程度に応じた複数の校正表を予め用意し、動作時にそれらの校正表から最適な校正表を選択して使用してもよい。そのような実施形態では、光出射デバイスは、動作時に光導波層20の光透過率を測定する測定装置を備える。以下、そのような実施形態の一例を説明する。
【0105】
図19は、光導波層20の光透過率を測定する測定装置190を備える光出射デバイスの構成例を示すブロック図である。図19に示す光出射デバイスにおける測定装置190を除く構成要素は、図10に示す構成要素と同じである。なお、光源130は、ここでは「第1光源130」と呼ぶ。測定装置190は、第2光源132と、第3光検出器173とを備える。
【0106】
図20は、本実施形態における光出射デバイスのYZ面に平行な断面を示す図である。この光出射デバイスでは、互いに対向する第1基板70Aと第2基板70Bとの間に、第1電極60A、第1ミラー30、複数のスペーサ150、第2ミラー40、第2電極60Bがこの順に配置されている。第1電極60Aは第1基板70Aの一部に接し、第1ミラー30は第1電極60Aに接している。第2電極60Bは第2基板70Bの一部に接し、第2ミラー40は第2電極60Bに接している。複数のスペーサ150は、第2ミラー40に接し、Y方向に間隔を空けて並び、各々がX方向に延びている。第1ミラー30とスペーサ150との間には間隙がある。第1ミラー30と第2ミラー40との間を含む、第1基板70Aと第2基板70Bとの間の空間が、液晶材料で満たされている。この液晶材料で満たされた層を液晶層140と称する。本実施形態における光導波層20は、液晶層140の一部である。第1ミラー30、第2ミラー40、およびY方向に隣り合う2つのスペーサ150で区画される領域に、光導波層20が形成される。図20に示す構造は、Y方向に複数(図20の例では2つ)の導波路素子10が並んだ構造であるといえる。各導波路素子10は、第1電極30と、第1ミラー30と、光導波層20と、第2ミラー40と、第2電極60Bとがこの順に積層された構造を備える。第1電極30、第1ミラー30、第2ミラー40、および第2電極40の各々は、これらの導波路素子10に共有されている。スペーサ150は、Y方向に隣り合う2つの光導波層20を隔てる隔壁として機能する誘電体部材である。スペーサ150は、第1ミラー30に接していてもよい。
【0107】
本実施形態における光出射デバイスは、さらに、第2光源132と、第3光検出器173とを備える。第2光源132および第3光検出器173は、第1基板70A、液晶層140、第2基板70Bを間に挟んで互いに対向する位置にある。第2光源132は、液晶層140の方向に向けて光を発する発光素子を含む。第3光検出器173は、第2光源132から出射された光を検出する受光素子を含む。
【0108】
本実施形態では、液晶層140の劣化に起因する光吸収率の増加による影響を補償するために、複数の消衰係数にそれぞれ対応する複数種類の校正データが記憶装置166に予め記録される。校正データは、例えば出荷時の校正データを基に、計算機上で消衰係数を変化させて計算することによって取得することができる。光導波層20に連続する液晶層140の部分の光透過率が、第2光源132と第3光検出器173とを用いて測定される。なお、光導波層20と同等の劣化条件が満足されていれば、光透過率が測定される液晶層140の部分と光導波層20とが分離されていてもよい。
【0109】
図21は、本実施形態における校正データの生成処理の一例を示すフローチャートである。図21に示すフローチャートは、ステップS101とステップS102の後にステップS111が追加されている点を除き、図16に示すフローチャートと基本的に同じである。ステップS111において、制御回路162は、第2光源132と第3光検出器173を利用して、液晶層140の透過率を測定し、測定した透過率を記憶装置166に記録する。より具体的には、制御回路162は、第2光源132に強度P1の光を出射させ、第3光検出器173にその光を検出させる。第3光検出器によって検出された光の強度P2と、第2光源132に指示した強度P1との比に基づいて、液晶層140の透過率を求めることができる。なお、ステップS111は、ステップS101の前に行われてもよい。
【0110】
ステップS102からS105の動作は、図16に示す対応する動作と同じである。本実施形態では、ステップS106において、ステップS111で記録された透過率と、表1に示すような校正データとが関連付けられて記録される。また、この校正データを基に、計算機上で消衰係数を複数通りに変化させて計算することにより、複数の透過率または消衰係数と、表1に示すような校正データとが関連付けられて記録される。このようにして、制御回路162は、複数の透過率または消衰係数のそれぞれに対応する校正データを生成し、記憶装置166に記録する。
【0111】
図22は、本実施形態における校正データの更新動作の一例を示すフローチャートである。図22に示すフローチャートは、ステップS200およびS230が追加されている点を除き、図17に示すフローチャートと基本的に同じである。この例では、まずステップS200において、制御回路162は、液晶層140の光透過率を測定し、その値が予め設定された範囲内にあるか否かを判定する。この判定がNoの場合、ステップS230に進み、エラーを出力して終了する。ステップS200の判定がYesの場合、図17の例と同様、ステップS201からS220に示す動作が実行される。なお、ステップS201においては、予め記録された複数の校正表のデータから、測定された透過率に最も近い透過率に対応する校正表のデータが取得される。
【0112】
図22の例では、光ビームの広がり角への影響を考慮して、ステップS230のエラー出力処理が追加されている。一例として、図13に示す関係を求める計算に用いた構造では、液晶層140の透過率が0.14%低下した場合(2μmの液晶層で消衰係数k=0.00005に相当)、ビームの広がり角0.17°を維持できる走査範囲は約10度まで低下する。そのような顕著な透過率の低下を検出した場合には、動作を停止し、液晶層140の異常をシステムまたはユーザに伝えることが望ましい。そこで、図22の例では、最初に液晶層140の透過率が測定され、予め設定された範囲よりも液晶の透過率が低下していた場合には校正動作が中止され、エラーが出力される。これにより、より信頼性の高い光出射デバイスが実現される。
【0113】
以上の各実施形態では、第1光検出器171から出力される第1信号と、第2光検出器172から出力される第2信号に基づいて、出射光の方向と強度の両方が調整される。しかし、本開示はこのような実施形態に限定されるものではない。出射光の方向および強度の一方のみが第1信号および第2信号に基づいて調整されてもよい。また、出射光の方向の制御は、光導波層20の屈折率を制御する方法とは異なる方法によって実現されてもよい。例えば、光導波層20の厚さを変化させることによって出射光の方向を制御してもよい。あるいは、光源130から出射される光の波長を変化させることによって出射光の方向を制御してもよい。
【0114】
以上の各実施形態では、表1に示す校正データが用いられるが、校正データは、必ずしも表1と同じ形式のデータである必要はない。例えば、第1信号と第2信号との比と、出射角度との対応関係のみを規定する校正データが使用されてもよい。その場合、光源130から出力される光の強度の調整は行われず、光導波層20に印加される電圧の調整のみが行われる。
【0115】
<材料の例>
次に、本開示の実施形態における各構成要素に用いられ得る材料の例を説明する。
【0116】
各ミラー30および40の材料には、例えば誘電体による多層膜を用いることができる。多層膜を用いたミラーは、例えば、各々が1/4波長の光学厚さを有する、屈折率の異なる複数の膜を周期的に形成することによって作製できる。このような多層膜ミラーによれば、高い反射率を得ることができる。膜の材料として、例えばSiO、TiO、Ta、Si、SiNなどを用いることができる。各ミラーは、多層膜ミラーに限らず、Ag、Alなどの金属で形成されていてもよい。
【0117】
電極および配線には、導電性を有する様々な材料を利用することができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Pt、Ta、W、Ti、Rh、Ru、Ni、Mo、Cr、Pdなどの金属材料、またはITO、酸化錫、酸化亜鉛、インジウム亜鉛酸化物(IZO:登録商標)、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)などの無機化合物、またはPEDOT(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリンなどの導電性高分子などの導電性材料を用いることができる。透光性が必要な電極には、透明導電材料が使用され得る。
【0118】
光導波層の材料には、誘電体、半導体、電気光学材料、液晶分子などの様々な透光性の材料を利用することができる。誘電体としては、例えばSiO、TiO、Ta、SiN、AlNが挙げられる。半導体材料としては、例えば、Si系、GaAs系、GaN系の材料が挙げられる。電気光学材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、チタン酸バリウム(BaTi)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)などが挙げられる。
【0119】
光導波層の屈折率を変調する方法には、例えば、キャリア注入効果、電気光学効果、複屈折効果、または熱光学効果を利用した種々の方法がある。
【0120】
キャリア注入効果を利用した方法は、半導体のpin接合を利用した構成によって実現され得る。この方法では、ドープ濃度の低い半導体をp型半導体およびn型半導体で挟み込んだ構造が用いられ、半導体にキャリアを注入することによって屈折率が変調される。この構成では、各導波路素子10における光導波層は、半導体材料を含む。一対の電極の一方はp型半導体を含み、他方はn型半導体を含み得る。駆動装置は、一対の電極に電圧を印加することにより、半導体材料にキャリアを注入し、光導波層の屈折率を変化させる。光導波層をノンドープまたは低ドープ濃度の半導体で作製し、これに接するようにp型半導体およびn型半導体を設けてもよい。低ドープ濃度の半導体にp型半導体およびn型半導体が接するように配置し、さらにp型半導体およびn型半導体に導電性材料が接するような複合的な構成にしてもよい。例えば、Siに1020cm-3程度のキャリアを注入すると、Siの屈折率が0.1程度変化する(例えば、“Free charge carrier induced refractive index modulation of crystalline Silicon” 7th IEEE International Conference on Group IV Photonics, P102 ‐ 104, 1-3 Sept. 2010を参照)。この方法を採用する場合、一対の電極の材料として、p型半導体およびn型半導体が用いられ得る。あるいは、電極は金属で構成し、電極と光導波層との間の層、または、光導波層自体にp型またはn型半導体を含ませてもよい。
【0121】
電気光学効果を利用した方法は、電気光学材料を含む光導波層に電界をかけることで実現され得る。特に、電気光学材料としてKTNを用いれば、大きな電気光学効果を得ることができる。KTNは正方晶から立方晶への相転移温度よりも少し高い温度で比誘電率が著しく上昇するため、この効果を利用することができる。例えば、“Low-Driving-Voltage Electro-Optic Modulator With Novel KTa1-xNbxO3 Crystal Waveguides” Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, No. 8B (2004)によれば、波長1.55μmの光に対して電気光学定数g=4.8×10-15/Vが得られる。よって、例えば2kV/mmの電界をかけると、屈折率が0.1(=gn/2)程度変化する。このように、電気光学効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層は、KTNなどの電気光学材料を含む。駆動装置は、一対の電極に電圧を印加することにより、電気光学材料の屈折率を変化させることができる。
【0122】
液晶による複屈折効果を利用した方法では、液晶材料を含む光導波層を一対の電極で駆動することで、液晶の屈折率異方性を変化させることができる。これにより、光導波層を伝搬する光に対する屈折率を変調することができる。液晶は一般に0.1~0.2程度の複屈折率差を有するので、液晶の配向方向を電界で変えることで複屈折率差と同等の屈折率変化が得られる。このように、液晶の複屈折効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層は、液晶材料を含む。駆動装置は、一対の電極に電圧を印加することにより、液晶材料の屈折率異方性を変化させ、光導波層の屈折率を変化させることができる。
【0123】
熱光学効果は、材料の温度変化に伴って屈折率が変化する効果である。熱光学効果による駆動を行うために、熱光学材料を含む光導波層を加熱することで屈折率を変調してもよい。
【0124】
光導波層の屈折率を変化させる代わりに、光導波層の厚さを変化させてもよい。例えば、一対のミラーの少なくとも一方にアクチュエータが接続されていてもよい。アクチュエータとして、例えば、静電気力、電磁誘導、圧電材料、形状記憶合金、または熱を利用した種々のアクチュエータを用いることができる。静電気力を利用した構成では、アクチュエータは、静電気力によって発生する電極間の引力または斥力を用いてミラーを移動させる。コイル内の磁性体に引力または斥力を生じさせる電磁誘導を利用してミラーを駆動してもよい。圧電材料、形状記憶合金、または熱による変形を利用したアクチュエータでは、外部から加えられたエネルギーによって材料が変形する現象が利用される。例えば、代表的な圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、電界を分極方向に印加することによって伸縮する。圧電材料によって一対のミラーの間の距離を直接変化させることができる。十分なミラーの移動距離を得るために、ユニモルフまたはバイモルフと呼ばれる構成を用いて、変化量を増加させてもよい。
【0125】
<応用例>
次に、前述の光出射デバイスの応用例を説明する。
【0126】
図23は、回路基板(例えばチップ)上に光分岐器90、導波路アレイ10A、位相シフタアレイ80A、および光源130などの素子が集積された光出射デバイス100Bの構成例を示す図である。光源130は、例えば、半導体レーザー素子などの発光素子であり得る。この例における光源130は、自由空間における波長がλである単一波長の光を出射する。光分岐器90は、光源130からの光を分岐して複数の位相シフタにおける導波路に導入する。図23に示す例において、チップ上には1つの電極62Aと、複数の電極62Bとが設けられている。導波路アレイ10Aには、電極62Aから制御信号が供給される。位相シフタアレイ80Aにおける複数の位相シフタ80には、複数の電極62Bから制御信号がそれぞれ送られる。電極62Aおよび電極62Bは、上記の制御信号を生成する不図示の制御回路に接続され得る。制御回路は、図23に示すチップ上に設けられていてもよいし、光出射デバイス100Bにおける他のチップに設けられていてもよい。制御回路はまた、光源130に接続され、光源130から出射される光の波長または強度を制御してもよい。
【0127】
導波路アレイ10Aは、各導波路素子10が延びる方向に交差する方向に並ぶ複数の導波路素子10の集合体である。各導波路素子10は、前述の実施形態における導波路素子10と同様の構造を備える。すなわち、各導波路素子10は、光透過性を有する第1ミラー、第1ミラーに対向する第2ミラー、および第1ミラーと第2ミラーとの間に位置する光導波層を備える。各導波路素子10は、光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させ、第1ミラーを介して出射する。この光出射デバイス100Bは、複数の導波路素子10における光導波層にそれぞれ接続された複数の第1光導波路11を備える。複数の第1光導波路11は、位相シフタアレイ80Aに接続されている。光源130は、複数の第1光導波路11に入力される光を出射する。
【0128】
図23に示す光出射デバイス100Bは、さらに、第1光検出器171および第2光検出器172を備えている。第1光検出器171は、光源130の近傍に配置され、光源130から出射された光の強度を示す第1信号を出力する。第2光検出器172は、導波路アレイ10Aにおける各光導波層の終端部に近接して配置されている。この例では、複数の導波路素子10に対して、第1光検出器171および第2光検出器172がそれぞれ1つずつ配置されている。第2光検出器172は、複数の導波路素子10を通過した光を一括して検出できるように、イメージセンサの構成を有していてもよい。このような構成によれば、多数の光検出器を設けることなく、各導波路素子10に上記の制御を行うことができる。なお、第1光検出器171および第2光検出器172の配置は、この例のような配置に限定されない。第1光検出器171は、光源130から複数の導波路素子10に至る経路のいずれかの点における光を検出するように配置されている限り、その位置は任意である。同様に、第2光検出器172は、複数の導波路素子10における光導波層を通過した光を検出するように配置されている限り、その位置は任意である。また、複数の導波路素子10の前段に複数の第1光検出器を、後段に複数の第2光検出器をそれぞれ設けてもよい。
【0129】
図23に示すように、全てのコンポーネントをチップ上に集積することで、小型のデバイスで広範囲の光スキャンが実現できる。例えば2mm×1mm程度のチップに、図23に示される全てのコンポーネントを集積することができる。
【0130】
図24は、光出射デバイス100から遠方にレーザーなどの光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。2次元スキャンは、ビームスポット310を水平および垂直方向に移動させることによって実行される。例えば、公知のTOF(Time Of Flight)法と組み合わせることで、2次元の測距画像を取得することができる。TOF法は、光ビームを照射して物体からの反射光を観測することで、光の飛行時間を算出し、距離を求める方法である。
【0131】
図25は、光検出システム300の構成例を示すブロック図である。光検出システム300は、例えば距離画像を生成するLiDARシステムとして利用され得る。この光検出システム300は、光出射デバイス100と、光検出デバイス200と、制御回路500と、信号処理回路600とを備える。光検出デバイス200は、光出射デバイス100から出射され、対象シーン内の物体によって反射された光を検出する。光検出デバイス200は、例えば光出射デバイス100から出射される光の波長λに感度を有するイメージセンサによって実現され得る。光検出デバイス200は、受光面に沿って配列された複数の受光素子を備える。各受光素子は、受けた光の量に応じた電気信号を出力する。信号処理回路600は、光検出デバイス200の各受光素子から出力された電気信号に基づいて、対象物までの距離を計算し、距離分布データを生成する。距離分布データは、例えば距離の2次元分布を示すデータである。制御回路500は、光出射デバイス100、光検出デバイス200、および信号処理回路600を制御するプロセッサである。制御回路500は、光出射デバイス100からの光ビームの照射のタイミングおよび光検出デバイス200の露光および信号読出しのタイミングを制御し、信号処理回路600に、測距画像の生成を指示する。
【0132】
2次元スキャンにおいて、測距画像を取得するフレームレートとして、例えば一般的に動画でよく使われる60fps、50fps、30fps、25fps、24fpsなどから選択することができる。また、車載システムへの応用を考慮すると、フレームレートが大きいほど測距画像を取得する頻度が上がり、精度よく障害物を検知できる。例えば、60km/hでの走行時において、60fpsのフレームレートでは車が約28cm移動するごとに画像を取得することができる。120fpsのフレームレートでは、車が約14cm移動するごとに画像を取得することができる。180fpsのフレームレートでは、車が約9.3cm移動するごとに、画像を取得することができる。
【0133】
1つの測距画像を取得するために必要な時間は、ビームスキャンの速度に依存する。例えば、解像点数が100×100のイメージを60fpsで取得するためには1点につき1.67μs以下でビームスキャンをする必要がある。この場合、制御回路500は、600kHzの動作速度で、光出射デバイス100による光ビームの出射、および光検出デバイス200による信号蓄積・読出しを制御する。
【0134】
以上のように、本開示の実施形態による光出射デバイスは、導波路素子と、第1光検出器と、第2光検出器とを備える。前記導波路素子は、光透過性を有する第1ミラー、前記第1ミラーに対向する第2ミラー、および前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に位置する光導波層を備え、前記光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させ、前記第1ミラーを介して出射する。前記第1光検出器は、前記光導波層に入力される光の経路上、または前記経路から分岐した他の経路上に位置し、受光量に応じた第1信号を出力する。第2光検出器は、前記光導波層内を前記第1の方向に沿って伝搬し前記光導波層を通過した光の経路上に位置し、受光量に応じた第2信号を出力する。
【0135】
上記構成によれば、第1信号と第2信号とに基づいて、前記導波路素子から出射される光の方向および/または強度を推定することができる。このため、第1信号と第2信号とに基づいて、出射光の方向および/または強度が適正であるか否かを判定し、必要に応じて補正処理またはエラー出力などの動作を行うことができる。これにより、より信頼性の高い光出射デバイスを実現することができる。
【0136】
前記光出射デバイスは、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の強度および方向の少なくとも一方を制御する制御回路をさらに備えていてもよい。
【0137】
上記構成によれば、出射光の強度および方向の少なくとも一方が所望の強度または方向とは異なっている場合に、出射光の強度および方向の少なくとも一方を補正することができる。なお、制御回路は、光出射デバイスとは独立した外部の要素であってもよい。その場合、制御回路は、光出射デバイスに接続されて使用される。
【0138】
前記光導波層は、印加される電圧に応じて屈折率が変化する材料を含み得る。前記導波路素子は、前記光導波層の両側に一対の電極をさらに備え得る。前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記一対の電極に印加する電圧を制御することにより、前記出射光の方向を制御してもよい。
【0139】
上記構成によれば、第1信号と第2信号とに基づいて推定される出射光の方向が所望の方向とは異なる場合に、一対の電極に印加する電圧を制御することにより、出射光の方向を適正化することができる。
【0140】
前記光出射デバイスは、前記第1信号と前記第2信号との比と、前記出射光の出射角度との対応関係を規定するデータを格納する記憶装置をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記データを参照して、前記電圧を決定してもよい。
【0141】
上記構成によれば、制御回路は、予め記録されたデータを参照することにより、取得された第1信号と第2信号との比から、光の出射角度を推定することができる。これにより、推定された出射角度が所望の出射角度からずれている場合に、電圧を調整することで、出射角度のずれを補償することができる。
【0142】
前記光導波層は、液晶材料によって構成され得る。前記データは、前記液晶材料の光透過率が異なる複数の条件のそれぞれについて、前記比と前記出射角度との対応関係を規定していてもよい。前記光出射デバイスは、前記液晶材料の光透過率を測定する測定装置をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号と、測定された前記液晶材料の光透過率と、前記データとに基づいて、前記電圧を決定してもよい。
【0143】
上記構成によれば、液晶材料によって構成される光導波層の光透過率が、例えば経年劣化のために初期の値から変化した場合でも、光の出射方向を適切に調整することができる。
【0144】
前記光出射デバイスは、前記光導波層に入力される前記光を出射する光源をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記光源から出射される前記光の強度を制御することにより、前記出射光の強度を制御してもよい。
【0145】
上記構成によれば、出射光の強度が所望の強度とは異なる場合に、光源から出射される光の強度を調整することにより、出射光の強度を適正化できる。
【0146】
前記光出射デバイスは、前記光導波層に入力される前記光を出射する光源と前記光導波層とを接続する第1光導波路をさらに備えていてもよい。前記第1光検出器は、前記第1光導波路から分岐して伝搬する光を検出してもよい。
【0147】
上記構成によれば、光導波層に入力される光の強度を、簡単な構成で検出または推定することができる。なお、上記構成では、第1光検出器によって検出される光の強度は、光導波層に入力される光の強度とは異なるが、両者は概ね比例関係にある。したがって、第1光検出器によって検出される光の強度から、光導波層に入力される光の強度を推定することができる。
【0148】
前記光出射デバイスは、前記光導波層内を伝搬する光の進行方向の側で前記光導波層に接続された第2光導波路をさらに備えていてもよい。前記第2光検出器は、前記第2光導波路を伝搬した光を検出してもよい。
【0149】
上記構成によれば、光導波層を通過した光の強度を、簡単な構成で検出または推定することができる。
【0150】
本開示の他の実施形態による光出射デバイスは、複数の導波路素子と、複数の第1光導波路と、光源と、第1光検出器と、第2光検出器とを備える。各導波路素子は、光透過性を有する第1ミラー、前記第1ミラーに対向する第2ミラー、および前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に位置する光導波層を備え、前記光導波層に入力された光を第1の方向に沿って伝搬させ、前記第1ミラーを介して出射する。前記複数の導波路素子は、前記第1の方向に交差する第2の方向に配列される。前記複数の第1光導波路は、前記複数の導波路素子における前記光導波層にそれぞれ接続される。前記光源は、前記複数の第1光導波路に入力される光を出射する。前記第1光検出器は、前記光源から前記複数の導波路素子に至る経路のいずれかの点における光を受け、受光量に応じた第1信号を出力する。前記第2光検出器は、前記複数の導波路素子における前記光導波層内を前記第1の方向に沿って伝搬し前記光導波層を通過した光を受け、受光量に応じた第2信号を出力する。
【0151】
上記構成によれば、前述の効果に加え、複数の導波路素子を備えることにより、2次元的な光スキャンが可能である。
【0152】
前記光出射デバイスは、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記第1ミラーから出射される出射光の強度および方向の少なくとも一方を制御する制御回路をさらに備えていてもよい。
【0153】
上記構成によれば、出射光の強度および方向の少なくとも一方が所望の強度または方向とは異なっている場合に、出射光の強度および方向の少なくとも一方を補正することができる。
【0154】
各導波路素子における前記光導波層は、印加される電圧に応じて屈折率が変化する材料を含んでいてもよい。各導波路素子は、前記光導波層の両側に一対の電極をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、各導波路素子における前記一対の電極に印加する電圧を制御することにより、前記出射光の方向を制御してもよい。
【0155】
上記構成によれば、第1信号と第2信号とに基づいて推定される出射光の方向が所望の方向とは異なる場合に、一対の電極に印加する電圧を制御することにより、出射光の方向を適正化することができる。
【0156】
前記制御回路は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記光源から出射される前記光の強度を制御することにより、前記出射光の強度を制御してもよい。
【0157】
上記構成によれば、出射光の強度が所望の強度とは異なる場合に、光源から出射される光の強度を調整することにより、出射光の強度を適正化できる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示における光出射デバイスは、光ビームを出射する用途に広く利用することができる。例えば、自動車、UAV、AGVなどの車両に搭載されるライダーシステムなどの用途に利用できる。
【符号の説明】
【0159】
10 導波路素子
10A 導波路アレイ
11 第1光導波路
12 第2光導波路
15 グレーティング
20 光導波層
22 光
30 第1ミラー
40 第2ミラー
50 誘電体部材
60A、60B 電極
62A、62B 電極
70A、70B 基板
80 位相シフタ
80A 位相シフタアレイ
90 光分岐器
100、100A 光出射デバイス
110 光導波路アレイの駆動回路
130、132 光源
140 液晶層
150 スペーサ
160 駆動装置
171 第1光検出器
172 第2光検出器
173 第3光検出器
180 位相シフタアレイの駆動回路
190 液晶透過率測定装置
200 光検出デバイス
300 LiDARシステム
310 ビームスポット
500 制御回路
600 信号処理回路
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図25