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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】炭素材及び炭素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20241220BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241220BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20241220BHJP
   C01B 32/18 20170101ALN20241220BHJP
【FI】
C01B32/194
B82Y40/00
B82Y30/00
C01B32/18 ZNM
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022504358
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007760
(87)【国際公開番号】W WO2021177244
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020038103
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】高城 壽雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 恭
(72)【発明者】
【氏名】ドラガナ ステヴィック
(72)【発明者】
【氏名】村田 克之
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163858(JP,A)
【文献】特表2017-500195(JP,A)
【文献】特開2014-076909(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198980(WO,A1)
【文献】特表2015-516286(JP,A)
【文献】特表2019-507715(JP,A)
【文献】特表2021-514478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 40/00
B82Y 30/00
B01D 71/02
B32B 1/00-43/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する炭素含有層と、前記炭素含有層の前記開口部を覆うように設けられた固形物と、を備え、
前記固形物が前記開口部に通ずる孔部を有し、
前記固形物が、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を含む、炭素材。
【請求項2】
前記炭素含有層が単分子層である、請求項1に記載の炭素材。
【請求項3】
前記炭素含有層がグラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の炭素材。
【請求項4】
前記固形物が前記炭素含有層上に複数配列している、請求項1~のいずれか一項に記載の炭素材。
【請求項5】
前記固形物が前記炭素含有層上に複数規則的に配列している、請求項1~のいずれか一項に記載の炭素材。
【請求項6】
炭素含有層と、金属錯体と、溶媒とを含む分散液から前記溶媒の含有量を低減して、前記炭素含有層の表面に前記金属錯体が付着した複合体を形成する第一工程と、
前記複合体を加熱処理し、前記金属錯体を構成する金属原子付近の前記炭素含有層に開口部を設ける第二工程と、
前記金属錯体を構成する金属原子の少なくとも一部を除去して、前記開口部に通ずる孔部を有する固形物を形成する第三工程と、を有する、炭素材の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程における加熱温度が200~450℃である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程は、前記複合体を硝酸アンモニウムと共存させ、真空下で200~280℃で加熱処理することによって、前記金属錯体を構成する金属原子付近の前記炭素含有層に開口部を設ける工程である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第三工程は酸処理によって金属原子の少なくとも一部を除去する工程である、請求項のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属原子が、遷移金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属が、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種の金属原子を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記炭素含有層が単分子層である、請求項11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記炭素含有層がグラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記金属錯体が、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体より選択される少なくとも一種と、金属原子との錯体を含む、請求項13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記固形物が前記炭素含有層上に複数配列している、請求項14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記固形物が前記炭素含有層上に複数規則的に配列している、請求項15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素材及び炭素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンなどは、その機械的特性及び電気的特性から、種々の用途への応用が期待されている。例えば、グラフェンに微細な通水孔を形成し、これを溶液の脱塩処理又は脱イオン処理のためのフィルターに利用しようとする研究、並びに、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーンに微細な孔を形成し分子篩としてガス分離に利用しようとする研究がなされている。
【0003】
特許文献1には、ガスの流れを大気圧プラズマに曝し、前記大気圧プラズマの下流に当該大気圧プラズマから分離された活性化ガス流を生成する工程と、前記大気圧プラズマから分離された前記活性化ガス流をグラフェンシートに向けて方向付ける工程と、前記活性化ガス流で前記グラフェンシートを穿孔する工程と、を備え、前記ガスの流れは、ある濃度の活性化ガスを有し、前記活性化ガスは、酸素、窒素、またはそれらの組合せ、の1つから選択されることを特徴とするグラフェンを穿孔するための方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、グラフェン系材料のシートを穿孔する方法であって、前記方法が、少なくとも2つの表面を有する単層グラフェンを含んでなる前記グラフェン系材料のシート、及び前記単層グラフェン上に形成された非グラフェン性炭素系材料を位置決めすること、前記単層グラフェンの前記表面の10%を超え、80%未満が前記非グラフェン性炭素系材料により被覆されること、及び前記グラフェン系材料のシートを、10eV~100keVを有するイオンエネルギー及び1×1013イオン/cm~1×1021イオン/cmを有するフルエンスにより特徴づけられるイオンに露出することを含んでなる、方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-536077号公報
【文献】特表2018-529612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、グラフェン等は、複数の炭素原子によって構成される六角形格子構造を基本的な構成として有し、その表面の化学環境が均一である。そのために、孔開けの制御が困難となる場合がある。また、従来のグラフェン等に対する穿孔技術においては、穿孔の際又はその後、グラフェンにクラック等が発生することがあり、そのクラックの広がりを抑制することが困難となる場合がある。
【0007】
本開示は、細孔を有し、且つクラックの広がり等が抑制された機械的強度に優れる炭素材を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のような炭素材を製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、開口部を有する炭素含有層と、上記炭素含有層の上記開口部を覆うように設けられた固形物と、を備え、上記固形物が上記開口部に通ずる孔部を有する、炭素材を提供する。
【0009】
上記炭素材は、炭素含有層が有する開口部を有し、その開口部上に固形物が設けられていることによって、クラックの広がりなどが抑制されており、機械的強度に優れる。
【0010】
上記炭素含有層が単分子層であってよい。
【0011】
上記炭素含有層がグラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0012】
上記固形物が、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0013】
上記固形物が上記炭素含有層上に複数配列していてもよい。
【0014】
上記固形物が前記炭素含有層上に複数規則的に配列していてもよい。
【0015】
本開示の一側面は、炭素含有層と、金属錯体と、溶媒とを含む分散液から上記溶媒の含有量を低減して、上記炭素含有層の表面に上記金属錯体が付着した複合体を形成する第一工程と、上記複合体を加熱処理し、上記金属錯体を構成する金属原子付近の上記炭素含有層に開口部を設ける第二工程と、上記金属錯体を構成する金属原子の少なくとも一部を除去して、上記開口部に通ずる孔部を有する固形物を形成する第三工程と、を有する、炭素材の製造方法を提供する。
【0016】
上記炭素材の製造方法は、炭素含有層に金属錯体を付着させ、当該金属錯体の金属元素を利用して、開口部を形成する工程を有することから、開口部形成を比較的温和な条件で行うことができ、クラックの広がりなどが抑制された、機械的強度に優れる炭素材を提供することができる。
【0017】
上記第二工程における加熱温度が200~450℃であってよい。第二工程における加熱温度を上記範囲内とすることで開口部の開口径等の制御がより容易なものとなり、クラックの発生をより十分に抑制できる。
【0018】
上記第二工程は、上記複合体を硝酸アンモニウムと共存させ、真空下で200~280℃で加熱処理することによって、上記金属錯体を構成する金属原子付近の上記炭素含有層に開口部を設ける工程であってよい。
【0019】
上記第三工程は酸処理によって金属原子の少なくとも一部を除去する工程であってよい。第三工程を酸処理によって行うことで、金属原子の除去及び孔部の形成がより容易となる。
【0020】
上記金属原子が、遷移金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。上記金属原子が上述の金属原子から選択される少なくとも一種を含むことで、炭素含有層に開口部を設けることがより容易なものとなる。
【0021】
上記遷移金属が、鉄、銅、コバルト、バナジウム、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種の金属原子を含んでもよい。上記金属原子が上述の金属原子から選択される少なくとも一種を含むことで、炭素含有層に開口部を設けることがより容易なものとなる。
【0022】
上記炭素含有層が単分子層であってもよい。
【0023】
上記炭素含有層がグラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0024】
上記金属錯体が、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体より選択される少なくとも一種と、金属原子との錯体を含んでもよい。金属錯体が上記フタロシアニン等と金属原子との錯体を含むことによって、炭素含有層上に金属錯体を一定の規則性を持って配列させることが容易となる。
【0025】
上記固形物が上記炭素含有層上に複数配列していてもよい。
【0026】
上記固形物が前記炭素含有層上に複数規則的に配列していてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、細孔を有し、且つクラックの広がり等が抑制された機械的強度に優れる炭素材を提供することができる。本開示によればまた、上述のような炭素材を製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、炭素材の一例を示す模式断面図である。
図2図2は、実施例1で調製された炭素材の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図3図3は、実施例2で調製された炭素材の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図4図4は、炭素材の酸素雰囲気下における熱重量測定の結果を示すグラフである。
図5図5は、炭素材の窒素雰囲気下における熱重量測定の結果を示すグラフである。
図6図6は、炭素材の窒素吸着量と窒素の相対圧力との関係を示すグラフである。
図7図7は、炭素材の窒素吸着で求めた細孔容積あたりのアルゴン吸着量とアルゴンの圧力との関係を示すグラフである。
図8図8は、炭素材の窒素吸着で求めた細孔容積あたりの六フッ化硫黄吸着量と六フッ化硫黄ガスの圧力との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例4における炭素材の製造過程におけるシート表面の電子顕微鏡画像である。
図10図10は、比較例3における炭素材の製造過程におけるシート表面の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0030】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0031】
炭素材の一実施形態は、開口部を有する炭素含有層と、上記炭素含有層の上記開口部を覆うように設けられた固形物と、を備える。また、上記固形物が上記開口部に通ずる孔部を有する。炭素材の形態は、例えば、膜及び筒体であってよい。筒体の端部は開口状態にあってもよく、閉口状態にあってもよい。筒体の端部が平衡状態にある場合、端部は炭素含有層と同じ元素によって構成されていてよい。炭素材の集合体は、例えば、粉体状であってもよい。
【0032】
図1は、炭素材の一例を示す模式断面図である。炭素材10は、炭素含有層2と、固形物4とを有する。炭素含有層2は複数の開口部2aを有し、開口部2aを覆うように固形物4が設けられている。また、固形物4は炭素含有層2が有する開口部2a上に設けられているが、固形物4も孔部4aを有することから、炭素材10は、炭素含有層2が有する開口部2a及び固形物3が有する孔部4aからなる貫通孔を有する。開口部2aの開口径は、通常、孔部4aの開口径よりも大きい。開口部2a及び孔部4aは、それぞれ炭素含有層2を構成する元素、及び固形物4を構成する元素が無い領域をいう。図1では、一部断面のみ記載しているが、開口部2aは、炭素含有層2の面内方向に広がって複数存在していてもよく、複数存在する開口部2aは所定の間隔をもって規則的に存在していてもよい。同様に、固形物4は炭素含有層2上に面内方向に広がって複数配列してもよく、所定の間隔をもって複数規則的に配列するように存在してもよい。
【0033】
上記炭素含有層2は、例えば、単分子層で構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。上記炭素含有層2は、開口部2aの制御を容易にする観点から、好ましくは、単分子層で構成される。炭素含有層2は、例えば、グラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよく、グラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種からなってもよく、グラフェン又はグラフェンオキサイドからなってもよい。
【0034】
グラフェンは複数の炭素原子によって構成される六角形格子構造が連なったシート状の化合物である。グラフェンとしては、特に制限されるものではないが、例えば、複数のグラフェンシートが積み重なったグラファイト、一枚又は複数のグラフェンシートで構成される円筒形状のカーボンナノチューブ(例えば、単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube:SWNH)等)、又はカーボンナノチューブの先端が閉じ円錐形状のカーボンナノホーン(例えば、単層カーボンナノホーン(Single-Walled Carbon Nanohorn:SWNH)等)が挙げられる。グラフェン等は、開口部2aの制御を容易にする観点から、好ましくは、単層グラファイト、単層カーボンナノチューブ及び単層カーボンナノホーンからなる群より選択される少なくとも一種である。グラフェンオキサイドは、グラフェンにエポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、及び水酸基等の種々の酸素含有官能基を導入した化合物であり、上記酸素含有官能基を有するグラフェンということもできる。
【0035】
グラフェンの単分子層の厚さは、一般的には0.2~0.3nmである。カーボンナノチューブの直径は、例えば、0.5~40nm、0.4~1.0nm、又は0.6~5.0nmであってよい。カーボンナノチューブの長さは、例えば、10~5000000nm、20~20000nm、又は100~1000000nmであってよい。カーボンナノホーンの直径は、例えば、2~5nm、1~3nm、又は2~4nmであってよい。カーボンナノホーンの長さは、例えば、40~50nm、20~40nm、又は30~60nmであってよい。グラフェンの単分子層の厚さ、カーボンナノチューブの直径及び長さ、並びに、カーボンナノホーンの直径及び長さは、電子顕微鏡によって測定される値を意味する。
【0036】
炭素含有層2が有する開口部2aの開口径は、炭素材の用途等に応じて、適宜調整することができる。炭素含有層2が有する開口部2aの開口径の上限値は、例えば、5nm未満、3nm未満、2nm未満、又は1nm未満であってよい。炭素含有層2が有する開口部2aの開口径の下限値は、例えば、0.3nm超、0.5nm超、又は0.7nm超であってよい。炭素含有層2が有する開口部2aの開口径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.7nm超2nm未満であってよい。炭素含有層2が有する開口部2aの開口径は、例えば、炭素含有層に対する酸化処理の条件(例えば、加熱温度、加熱時間等)等を調整することで制御できる。炭素含有層2が有する開口部2aの開口径はまた、例えば、硝酸アンモニウムを用いて280℃以下の比較的低温、且つ真空環境下で炭素含有層に対して酸化処理を行うことによってより容易に調整することができる。開口部2aは、炭素含有層2を構成する元素が存在しない領域(欠陥部ともいえる)であり、例えば、炭素含有層2がグラフェンの単分子層である場合、単分子膜を構成する炭素原子の一部が除去された欠陥部であってよい。上記欠陥部においては、通常、除去された炭素原子に代わり、プロトン(-H)、酸素原子(=O)、及び水酸基(-OH)などが導入されている。
【0037】
上記固形物4は、例えば、平面構造を有する化合物であってよく、平面構造を有するπ共役系の大環状化合物であってよく、平面構造を有するπ共役系の大環状複素環式化合物であってよい。例えば、本開示の炭素材10は、開口部2aを有する炭素含有層2(例えば、単層グラファイト、単層カーボンナノチューブ及び単層カーボンナノホーン等)と、炭素含有層2の開口部2aを覆うようにして設けられたπ共役系の大環状化合物とを備え、上記開口部2a上に、上記π共役系の大環状化合物が分子内に有する空隙が配置するように上記π共役系の大環状化合物が配置されたのもであってよい。炭素材10は、固形物4を備えることによって炭素含有層2の有する開口部2aの広がりが抑制されており、固形物4を備えない、開口部を有する炭素含有層(例えば、従来の穿孔を有するグラフェンシート等)よりも機械的強度にも優れる。
【0038】
上記固形物4は、具体的には例えば、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよく、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。上記固形物4が上記化合物を含むことは、紫外可視吸収スペクトルによって確認することができ、より具体的には、ソーレー帯(Soret band:400nm付近の波長に対応する領域)におけるピークを測定することによって確認することができる。なお、上記フタロシアニン等は遊離の状態では、紫外可視吸収スペクトルにおいてQ帯(Q band:600~900nmの波長に対応する領域)に強い吸収を示すが、炭素含有層2(例えば、グラフェン等)に接合することによって、Q帯の吸収は減少するためQ帯による検査では検出が困難である。
【0039】
フタロシアニンの誘導体としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、ナフタロシアニン、アントラコシアニン、及びアズレノシアニン等が挙げられる。フタロシアニン誘導体としては、炭素含有層2との接合(例えば、π-スタックによる接合等)の強度をより向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0040】
【化1】
【0041】
一般式(1)において複数存在するRは同一であってよく、互いに異なってもよい。一般式(1)において、Rは、例えば、アルキル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基等であってよい。Rは、直鎖状、分岐状、又は環状であってよいが、好ましくは直鎖状である。Rを構成する炭素数は、炭素含有層2が有する開口部2a間の距離に応じて調整してよい。Rを構成する炭素数は、例えば、5~12、6~10、又は7~9であってよい。Rが直鎖状であり炭素数が5~12のアルキル基、直鎖状であり炭素数が5~12のアルコキシ基、及び直鎖状であり炭素数が5~12のポリオキシアルキレン基を含む場合、一般式(1)はディスコチック液晶を形成し得ることから、炭素含有層2上に一定の規則性を持って配列させることがより容易にできる。
【0042】
フタロシアニンとしては、具体的には、2,3,9,10,16,17,23,24-Octakis(octyloxy)-29H,31H-phthalocyanine等が挙げられる。
【0043】
ポルフィリンの誘導体としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【0044】
【化2】
【0045】
一般式(2)において複数存在するRは同一であってよく、互いに異なってもよい。一般式(2)において、Rは、例えば、アルキル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基等であってよい。Rは、直鎖状、分岐状、又は環状であってよいが、好ましくは直鎖状である。Rを構成する炭素数は、炭素含有層2が有する開口部2a間の距離に応じて調整してよい。Rを構成する炭素数は、例えば、5~12、6~10、又は7~9であってよい。Rが直鎖状であり炭素数が5~12のアルキル基、直鎖状であり炭素数が5~12のアルコキシ基、及び直鎖状であり炭素数が5~12のポリオキシアルキレン基を含む場合、一般式(2)はディスコチック液晶を形成し得ることから、炭素含有層2上に一定の規則性を持って配列させることがより容易にできる。
【0046】
コロール誘導体としては、例えば、下記一般式(3)で表される化合物等が挙げられる。
【0047】
【化3】
【0048】
一般式(3)において複数存在するRは同一であってよく、互いに異なってもよい。一般式(3)において、Rは、例えば、アルキル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基等であってよい。Rは、直鎖状、分岐状、又は環状であってよいが、好ましくは直鎖状である。Rを構成する炭素数は、炭素含有層2が有する開口部2a間の距離に応じて調整してよい。Rを構成する炭素数は、例えば、5~12、6~10、又は7~9であってよい。Rが直鎖状であり炭素数が5~12のアルキル基、直鎖状であり炭素数が5~12のアルコキシ基、及び直鎖状であり炭素数が5~12のポリオキシアルキレン基を含む場合、一般式(3)はディスコチック液晶を形成し得ることから、炭素含有層2上に一定の規則性を持って配列させることがより容易にできる。
【0049】
クロリン誘導体とは、例えば、下記一般式(4)で表される化合物等が挙げられる。
【0050】
【化4】
【0051】
一般式(4)において複数存在するRは同一であってよく、互いに異なってもよい。一般式(4)において、Rは、例えば、アルキル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基等であってよい。Rは、直鎖状、分岐状、又は環状であってよいが、好ましくは直鎖状である。Rを構成する炭素数は、炭素含有層2が有する開口部2a間の距離に応じて調整してよい。Rを構成する炭素数は、例えば、5~12、6~10、又は7~9であってよい。Rが直鎖状であり炭素数が5~12のアルキル基、直鎖状であり炭素数が5~12のアルコキシ基、及び直鎖状であり炭素数が5~12のポリオキシアルキレン基を含む場合、一般式(4)はディスコチック液晶を形成し得ることから、炭素含有層2上に一定の規則性を持って配列させることがより容易にできる。
【0052】
固形物4が有する孔部4aは、固形物4を構成する元素が存在しない領域をいう。固形物4が有する孔部4aは、通常、上述の炭素含有層2の開口部2a上に位置する。固形物4が、例えば、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種である場合、上記孔部4aは、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体において、4つのピロール環及びメチレン基に囲まれる領域(金属錯体を構成する場合に金属原子が位置する領域)であってよい。炭素材10が備える複数の固形物4は、その一部において孔部4aに金属原子を有していてもよい。金属原子としては、例えば、遷移金属、アルカリ土類金属及びアルミニウム等が挙げられる。
【0053】
炭素含有層2がグラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む場合、固形物4はπ共役系を有する化合物を含むことで、炭素含有層2と固形物4との接合(例えば、π-スタックによる接合等)がより容易である。
【0054】
炭素材10は、炭素含有層2が開口部2aを有することから、比表面積に優れる。炭素材10が膜状(例えば、炭素含有層2が、グラフェン等)である場合、比表面積は以下のような範囲であってよい。すなわち、炭素材10の比表面積は、例えば、2000m/g以上、又は2500m/g以上とすることができる。炭素材10の比表面積は、例えば、2800m/g以下、又は2600m/g以下であってよい。炭素材10が筒体状(例えば、炭素含有層2が、カーボンナノチューブ又はカーボンナノホーン等)である場合、炭素材10の比表面積は以下のような範囲であってよい。炭素材10の比表面積の下限値は、例えば、300m/g以上、500m/g以上、700m/g以上、800m/g以上、1000m/g以上、1200m/g以上、又は1400m/g以上とすることができる。炭素材10の比表面積の上限値は、例えば、1600m/g以下、又は1500m/g以下であってよい。炭素材10の比表面積の下限値が上記範囲内であることで、機械的強度の低下をより十分に抑制することができる。炭素材10の比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、300~1600m/g、又は600~1500m/gであってよい。
【0055】
本明細書における比表面積は、比較プロット法(特に、α-プロット)によって決定される値を意味する。より具体的には、温度:77Kで測定した窒素吸着等温線を比表面積が既知の標準試料に対して得られる吸着等温線と比較することで表面積を決定する。炭素材料の場合、標準試料はノンポーラスカーボンが用いられる。本明細書における比表面積の測定は三菱ケミカル製ノンポーラスカーボンを用いる。窒素吸着等温線は、吸着測定装置(カンタクローム社製、製品名:Autosorb-iQ)を用いる。測定に先立って、上記吸着測定装置が有する前処理機構を用いて、測定サンプルを圧力:1mPa以下、温度:150℃で2時間の処理を行うものとする。α-プロットは、相対圧が0.4での標準試料に対する窒素吸着量をα=1に規格化し、規格化されたαに対して吸着量をプロットすることで得られる。比表面積は、測定する試料のαs-プロットの傾きをS(試料)、標準試料のα-プロットの傾きをS(標準試料)、標準試料の表面積をA(標準試料)として、下記式で算出される値である。
比表面積=S(試料)÷S(標準試料)×A(標準試料)
なお、比表面積は、BET法で測定される値を採用することが一般的である。しかし、カーボンナノチューブのようなナノメートルレベルの細孔径を持つ多孔体の場合、BET法では表面積を実際より大きく見積もる傾向がある。そのため、本明細書ではより正確に比表面積を決定できる方法として、上述の比較プロット法を採用している。
【0056】
比較プロット法を用いることによって、細孔容量を算出ができる。α-プロットの直線領域の傾きがαの値の小さい領域とαの値の大きい領域とで異なる場合、その試料には細孔が存在することを意味する。αの値の小さい領域での傾きからは、上記の式にから試料の比表面積の値が得られ、αの値の大きい領域の傾きからは、試料の外表面積の値が得られる。αの値の大きい領域における直線とα-プロットのY軸(吸着量を示す)の交点、すなわちY切片の値が、細孔内部に吸着した分子の吸着量と解釈される。Y切片の値をW(細孔吸着)とすると、77Kでの窒素吸着測定の場合、細孔容積は以下の式で算出される値である。
細孔容量=W(吸着量)÷(液体窒素の密度)
ここで、液体窒素の密度は、0.808g/mLの値を用いて計算を行うものとする。
【0057】
上述の炭素材10は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。炭素材の製造方法の一実施形態は、炭素含有層と、金属錯体と、溶媒とを含む分散液から上記溶媒の含有量を低減して、上記炭素含有層の表面に上記金属錯体が付着した複合体を形成する第一工程と、上記複合体を加熱処理し、上記金属錯体を構成する金属原子付近の上記炭素含有層に開口部を設ける第二工程と、上記金属錯体を構成する金属原子の少なくとも一部を除去して、上記開口部に通ずる孔部を有する固形物を形成する第三工程と、を有する。
【0058】
第一工程は、炭素含有層及び金属錯体を溶媒中に分散させ、溶媒の含有量を低減する過程で、炭素含有層と金属錯体との分子間力を利用して、炭素含有層の表面に金属錯体を付着させる工程である。本工程において、炭素含有層の金属錯体が付着した部分、より具体的には、金属錯体を構成する金属原子の近傍に位置する領域において、後の工程で酸化反応が進行する。すなわち、本工程は、炭素含有層に開口部を設ける位置を制御することができる。
【0059】
炭素含有層は、例えば、単分子層で構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。上記炭素含有層は、好ましくは単分子層であってよい。炭素含有層は、例えば、グラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよく、グラフェン及びグラフェンオキサイドからなる群より選択される少なくとも一種からなってもよい。炭素含有層は、グラフェン又はグラフェンオキサイドからなってもよい。
【0060】
金属錯体は、上述の固形物4を構成する化合物に金属原子が配位した化合物を含んでもよい。金属錯体は、例えば、フタロシアニン、ポルフィン、ポルフィリン、コロール、クロリン、及びこれらの誘導体より選択される少なくとも一種と、金属原子との錯体を含んでもよい。すなわち、金属錯体は、例えば、金属フタロシアニン化合物、金属ポルフィン化合物、金属ポルフィリン化合物、金属コロール化合物、金属クロリン化合物、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよく、金属フタロシアニン化合物、金属ポルフィン化合物、金属ポルフィリン化合物、金属コロール化合物、金属クロリン化合物、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0061】
金属錯体の選択によって、炭素含有層に設ける開口部間の距離を調製することができる。例えば、フタロシアニンの誘導体と金属原子とで構成される金属錯体を用いる場合、フタロシアニン、ナフタロシアニン、アントラコシアニンの順に、形成される開口部間の距離は広がる傾向にある。また、例えば、フタロシアニンの誘導体として、上述の一般式(1)で表される化合物を採用し、当該化合物と金属原子とで構成される金属錯体を用いる場合、一般式(1)におけるRを構成する炭素数が大きいほど、形成される開口部間の距離は広がる傾向にある。さらに、一般式(1)におけるRの選択によって、金属錯体間の配列の秩序を制御がより容易なものとなり、炭素含有層に規則的に開口部を設けることもできる。このような効果が得られる理由は必ずしも定かではないが、一般式(1)で表される化合物がディスコチック液晶相を形成し得る化合物であり、相互の位置を制御することに寄与しているためと、本発明者らは推測している。
【0062】
金属錯体を構成する金属原子は、例えば、後の工程で炭素含有層の酸化反応を促進する元素である。金属錯体を構成する金属原子としては、例えば、遷移金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含んでよく、遷移金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種であってよく、遷移金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種であってよく、遷移金属からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。上記金属錯体が上述の金属原子から選択される少なくとも一種を含むことで、炭素含有層に開口部を設けることがより容易なものとなる。遷移金属は、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛等であってよく、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛等であってよい。アルカリ土類金属は、例えば、マグネシウム、ストロンチウム、及びバリウム等であってよい。ランタノイドは、例えば、ランタン、及びセリウム等であってよい。
【0063】
金属錯体としては、具体的には、Copper(II) 2,3,9,10,16,17,23,24-Octakis(octyloxy)-29H,31H-phthalocyanine等が挙げられる。
【0064】
溶媒としては、炭素含有層と、金属錯体とを分散可能な化合物を用いることができる。溶媒は、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、及びノルマルヘキサン等の有機溶媒が挙げられる。
【0065】
分散液の調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、超音波処理する方法等によって調整してもよい。分散液を調製する際は、例えば、溶媒に、炭素含有層及び金属錯体を配合して分散処理を行ってもよく、炭素含有層及び金属錯体をそれぞれ別々に分散させた分散液を調製してから混合してもよい。分散液を調製するための分散時間(例えば、超音波処理する時間)の下限値は、10時間以上、15時間以上、又は24時間以上であってよい。分散液を調製するための分散時間の上限値は、例えば、50時間以下、又は30時間以下であってよい。分散液を調製する温度は、制御しながら行ってもよい。分散液を調製する温度の上限値は、例えば、40℃以下、30℃以下、又は25℃以下であってよい。分散液を調製する温度の下限値は、例えば、15℃以上、又は20℃以上であってよい。
【0066】
分散液において、金属錯体の含有量の下限値は、炭素含有層100質量部に対して、例えば、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、又は20質量部以上であってよい。金属錯体の含有量の上限値は、炭素含有層100質量部に対して、例えば、40質量部以下、50質量部以下、60質量部以下、又は65質量部以下であってよい。金属錯体の含有量は上述の範囲内で調整してよく、炭素含有層100質量部に対して、例えば、5~40質量部、10~50質量部、又は20~60質量部であってよい。
【0067】
分散液における溶媒の含有量を低減する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱処理等が挙げられる。加熱処理の温度は、80℃以下であることが望ましく、例えば、30~80℃、40~80℃、又は50~80℃であってよい。加熱処理の温度を80℃以下とすることによって、炭素含有層上に付着した複数の金属錯体の配列が崩れることをより一層抑制することができる。加熱処理の温度を30℃以上とすることによって、溶媒の含有量の低減をより容易なものとすることで、金属錯体の炭素含有層上への付着をより容易なものとすることができる。より具体的には、炭素含有層としてカーボンナノチューブ及びカーボンナノホーンを用いる場合、まず、分散液をメンブレンフィルターによってろ過し、濾集物を30~80℃の温度に設定されたオーブン内に静置し加熱処理する方法であってよい。また、炭素含有層としてグラフェンを用いる場合、まず、分散液中の固形物を取り出し、ホットプレート上での40~80℃の温度で加熱処理する方法であってよい。上記溶媒の含有量の低減は、所定の時間をかけて行ってもよく、例えば、10分間以上、120分間以上、360分間以上、又は720分間以上であってよい。上記溶媒の含有量の低減は、例えば、800分間以下で行ってよい。上記溶媒の含有量の低減は上述の処理時間内で調製いてよく、例えば、30分間程度で行ってよい。
【0068】
炭素含有層は、金属箔(例えば、銅箔等)の基材上に設けてもよい。すなわち、上述の分散液を基材上に塗布等によって接触させ分散液の液膜を形成し、その後、液膜中の溶媒の含有量を低減することによって炭素含有層を設けてもよい。基材を使用することによって、製造工程における炭素含有層の取扱い性を向上させることができる。なお、基材上で炭素含有層が並ぶことによって炭素材料で構成されるシートが形成されるが、金属錯体を用いない場合、このシートは通常欠陥を有する。例えば、シートが切れ目、亀裂等を有する場合がある。しかし、金属錯体を用いることによって、炭素含有層同士で構成される隙間に金属錯体が配位し、上述のような欠陥の発生を低減することができる。
【0069】
第二工程は、金属錯体が表面に付着した炭素含有層である複合体を加熱処理して、金属原子の付近において酸化反応によって炭素含有層に開口部を設ける工程である。
【0070】
第二工程における加熱温度の下限値は、例えば、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、炭素含有層への開口部の形成がより容易なものとなる。第二工程における加熱温度の上限値は、例えば、450℃以下、430℃以下、又は400℃以下であってよい。第二工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、開口部が広がりすぎることをより抑制することができ、また、金属原子の存在しない位置での燃焼による開口部形成の発生をより抑制することができる。第二工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、200~450℃、250~430℃、又は250~400℃であってよい。
【0071】
第二工程における加熱処理の時間は、加熱温度等に応じて調整することができ、例えば、比較的高温で加熱処理する場合には加熱時間を短縮することができ、比較的低温で加熱処理する場合でも加熱時間を十分にとることによって開口部を形成することができる。第二工程における加熱処理時間の下限値は、例えば、5分間以上、10分間以上、30分間以上であってよい。第二工程における加熱処理時間の下限値は、例えば、24時間以下、20時間以下、15時間以下、又は10時間以下であってよい。本明細書における加熱時間は、加熱処理対象物の周囲の環境温度が所定の温度に到達してから、当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0072】
第二工程は、空気下で複合体の加熱処理する工程であってよいが、好ましくは、酸素を含む雰囲気下で複合体の加熱処理を行う工程である。酸素を含む雰囲気(混合ガス雰囲気)は、酸素の他、例えば、窒素等を含んでもよい。混合ガスは、好ましくは酸素及び窒素を含む。混合ガス雰囲気における酸素の含有量の下限値は、混合ガス全量を基準として、15体積%以上、20体積%以上、又は25体積%以上であってよい。混合ガス雰囲気における酸素の含有量の上限値は、混合ガス全量を基準として、50体積%以下、40体積%以下、又は30体積%以下であってよい。
【0073】
第二工程は、真空下で行う工程であってもよい。この場合、酸素源として、硝酸アンモニウムを使用することができる。硝酸アンモニウムを使用することによって、加熱処理温度を低下させることが可能であることから、反応系の制御がより容易となる。具体的には、上記複合体を硝酸アンモニウムと共存させ、真空下で200~280℃で加熱処理することによって、硝酸アンモニウムを分解し、酸素を発生させることができる。当該酸素と、複合体における金属元素とが介在することで、上記金属錯体を構成する金属原子付近の上記炭素含有層に開口部を設けることができる。
【0074】
第三工程は、炭素含有層に開口部を設けた後、金属錯体から金属原子の少なくとも一部を除去して開口部に通じる孔部を有する固形物を設ける工程である。
【0075】
第三工程における金属原子を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酸処理によって行われてもよい。すなわち、第三工程は酸処理によって金属原子の少なくとも一部を除去する工程であってよい。第三工程を酸処理によって行うことで、金属原子の除去及び孔部の形成がより容易となる。
【0076】
上述の炭素材の製造方法は、第一工程、第二工程及び第三工程に加えて、その他の工程を有してもよい。その他の工程としては、例えば、炭素含有層上に支持膜を設ける工程、基材を除去する工程、支持膜に透水孔を設ける工程等を有していてよい。支持膜は、例えば、フォトレジストで構成されてよく、ネガ型フォトレジストであってよい。支持膜がフォトレジストで構成されることによって、後の工程で透水孔をより容易に形成することができる。
【0077】
炭素材の製造方法の別の実施形態は、上述の第一工程に代えて、グラフェンを含有する炭素含有層に対して金属錯体を蒸着させることによって上記金属錯体が付着した複合体を形成する工程を有する。その他の工程は上述の製造方法と同様であってよい。本実施形態における蒸着は、例えば、クラスターイオンビーム蒸着法等で行ってもよい。この際の条件としては、イオン化電子電圧、イオンビーム電流、及び真空度等を調節してよい。イオン化電子電圧は、例えば、300V以上であってよい。イオンビームの電流は、例えば、300mA以上であってよい。真空度は、例えば、1×10-2mPa以下であってよい。本実施形態に係る方法は、溶媒を用いることなく炭素材を製造することができるため、先に示した製造方法よりも簡便に炭素材の製造を行うことができる。
【0078】
また、炭素材の製造方法のさらに別の実施形態では、上述の第一工程に代えて、金属錯体と、溶媒とを含む分散液を水(例えば、超純水等)上に展開し上記分散液からなる液膜を形成し、上記液膜中の上記溶媒の含有量を低減し上記金属錯体を含む分子層を形成して、上記分子層を、グラフェンを含有する炭素含有層上に掬い取ることによって、上記金属錯体が付着した複合体を形成する工程を有する。その他の工程は上述の製造方法と同様であってよい。本実施形態における上記工程は、グラフェンを含有する炭素含有層上に、ラングミュア-ブロジェット法(Langmuir-Blodgett法)によって金属錯体で構成される炭素材を形成する工程であるともいえる。本実施形態に係る方法によれば、他の製造方法に比べて、炭素含有層上により一層均一に金属錯体を配列させた炭素材を製造することができる。
【0079】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
容器に、単層カーボンナノホーン1mg及びトルエン5mLを測り取り、超音波洗浄機を用いて25℃の条件下で15分間、分散処理することによって、単層カーボンナノホーンの分散液Aを調製した。次に、容器に、銅フタロシアニン(Copper(II) 2,3,9,10,16,17,23,24-Octakis(octyloxy)-29H,31H-phthalocyanine)0.5mg及びトルエン10mLを測り取り、超音波洗浄機を用いて25℃の条件下で15分間、分散処理することによって、銅フタロシアニンの分散液Bを調製した。
【0082】
上述のように調整した分散液Aと分散液Bとを全量混合し、超音波洗浄機を用いて、25℃の条件下で24時間、分散処理を行って、分散液Cを調製した。分散処理後、分散液Cをメンブレンフィルターによってろ過し、濾集物として、銅フタロシアニンが担持された単層カーボンナノホーン(金属錯体が付着した炭素含有層に相当)を得た。得られた銅フタロシアニンが担持された単層カーボンナノホーンを80℃の条件下で、2時間乾燥した。メンブレンフィルターによってろ過された濾液中の銅フタロシアニンの量を紫外可視分光計によって定量し、初期仕込み量との差分を算出して、この差分が単層カーボンナノホーンに担持されたものと仮定して、単層カーボンナノホーンに対する銅フタロシアニンの担持量を決定した。単層カーボンナノホーンに対する銅フタロシアニンの担持量は1質量%であった。
【0083】
乾燥後、銅フタロシアニンが担持された単層カーボンナノホーンを加熱炉の中に静置し、酸素及び窒素の混合気体(酸素と窒素とを体積比で20体積%:80体積%で混合した混合気体)を100mL/分の気流下、300℃(573K)の条件下で1時間、加熱処理することで、穿孔カーボンナノホーンを調製した。これを実施例1の炭素材とした。昇温速度は1℃/分とし、冷却は自然冷却とした。
【0084】
(実施例2)
単層カーボンナノホーンに対する銅フタロシアニンの担持量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、穿孔カーボンナノホーンを調製した。
【0085】
(比較例1)
実施例1において調製した分散液Aをメンブレンフィルターによってろ過し、濾集物として得られた単層カーボンナノホーンを80℃の条件下で、2時間乾燥することによって、得られた単層カーボンナノホーンを比較例1の炭素材とした。
【0086】
(比較例2)
比較例1で得られた単層カーボンナノホーンを加熱炉の中に静置し、酸素及び窒素の混合気体(酸素と窒素とを体積比で20体積%:80体積%で混合した混合気体)を100mL/分の気流下、300℃(573K)の条件下で1時間、加熱処理することで、穿孔カーボンナノホーンを調製した。これを比較例2の炭素材とした。昇温速度は1℃/分とし、冷却は自然冷却とした。
【0087】
<炭素材の評価:紫外可視吸収スペクトルの測定>
実施例1及び実施例2で調製された炭素材それぞれについて、紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。結果を図2及び図3に示す。
【0088】
図2は、実施例1で調製された炭素材の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。図3は、実施例2で調製された炭素材の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。図2及び図3には、比較のため、炭素材の調製に用いた銅フタロシアニンの紫外可視吸収スペクトルを併記した。図2及び図3に示される紫外可視吸収スペクトルにおいて、単層カーボンナノホーンには存在しない、フタロシアニン骨格に由来するピークがソーレー帯に確認された。また、同紫外可視吸収スペクトルは、フタロシアニン骨格に由来するQ帯のピークが存在しないことが確認された。この結果から、銅フタロシアニンと単層カーボンナノホーンとが単に混在しているわけでなく、銅フタロシアニンが単層カーボンナノホーンに担持されていることが確認された。
【0089】
<炭素材の評価:熱重量測定>
実施例1及び実施例2で調製された炭素材それぞれについて、熱重量測定を行った。結果を図4及び図5に示す。
【0090】
具体的には、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、製品名:STA7200)を用いて、熱重量測定を行った。昇温速度は、1K/分間とした。また、酸素雰囲気下での測定においては、空気を用いて流量が100mL/分間となるように調整した。また、窒素雰囲気下での測定においては、純窒素を用いて流量が100mL/分間となるように調整した。
【0091】
図4は、炭素材の酸素雰囲気下における熱重量測定の結果を示すグラフである。図5は、炭素材の窒素雰囲気下における熱重量測定の結果を示すグラフである。図4には、比較のため、炭素材の調製に用いた銅フタロシアニン、及び比較例1で調製した単層カーボンナノホーンについて上述の熱重量測定を行った結果を併記した。図2に示すグラフから、銅フタロシアニンが担持されていない単層カーボンナノホーンの重量減少温度を基準として、銅フタロシアニンンの担持量が増えるにしたがって、重量減少の開始温度が低下していることが確認できる。この結果から、銅フタロシアニンが担持されることによって、単層カーボンナノホーンへの穿孔開始温度を低減できることが確認された。すなわち、銅フタロシアニンを担持させることで、穿孔をより温和な条件で行うことができ、開口部形成をより制御しやすくできることが確認された。また、図5に示すグラフから、窒素下では、単層カーボンナノホーンが安定に存在しており、重量減少が僅かであることが確認された。この結果から、上記図4に示された重量減少が酸素を介在した単層カーボンナノホーンの酸化反応に起因するものであることが確認された。
【0092】
<炭素材の評価:窒素吸着量の測定>
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で調製された炭素材のそれぞれについて、全自動ガス吸着量測定装置(アントンパール・ジャパン社製、製品名:Autosorb-iQ)を用いて窒素吸着量を測定した。結果を図6に示す。
【0093】
具体的には、吸着測定装置(カンタクローム社製、製品名:Autosorb-iQ)を用い、まずサンプルとなる炭素材の前処理を行った。前処理は、吸着測定装置が有する前処理装置を用い、1mPa以下の真空度の下で、温度:150℃、2時間の脱気処理を行った。その後、サンプルを測定部に移し、冷媒として液体窒素を用いて温度77Kの条件下で、窒素の吸着量を測定した。
【0094】
図6は、炭素材の窒素吸着量と窒素の相対圧力との関係を示すグラフである。図6中、実施例1で調製された炭素材の吸着の結果は「1%Pc/ox-SWCNH_573K」で示し、実施例2で調製された炭素材の吸着の結果は「10%Pc/ox-SWCNH_573K」で示し、比較例1で調製された単層カーボンナノホーンの吸着の結果は「Prisine SWCNH」で示し、比較例2で調製された炭素材の吸着の結果は「ox-SWCNH_537K」で示した。また、それぞれの炭素材についての窒素の脱離結果を白抜きの符号で示した。
【0095】
図6に示されるように、加熱処理を行った実施例1、実施例2及び比較例2では、相対圧力(P/P)が低い段階から、比較例1の結果と比較して窒素吸着量が大きなものとなっている。この結果から、実施例1、実施例2及び比較例2において得られた単層カーボンナノホーンには開口部が設けられており、カーボンナノホーンの内部へ窒素が浸入しカーボンナノホーンの内部の面も吸着に寄与したことが確認された。
【0096】
<炭素材の評価:ガス吸着量の測定>
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で調製された炭素材のそれぞれについて、炭素材に形成された開口径のサイズ等を評価した。当該評価には、窒素分子(N、分子サイズ:0.363nm)よりも小さい分子であるアルゴン(Ar、分子サイズ:0.335nm)と、窒素分子よりも大きい分子である六フッ化硫黄ガス(SF、分子サイズ:0.525nm)と、を用いてガス吸着量の測定を行い、上述の窒素吸着量の測定結果を用いて求めた細孔容積の値を使用して、当該細孔容積あたりのガス吸着量に換算することで、行った。
【0097】
アルゴン吸着量及び六フッ化水素吸着量の測定には、上述の窒素吸着実験と同じ吸着測定装置(カンタクローム社製、製品名:Autosorb-iQ)を用いた。前処理条件は窒素吸着実験と同じ条件とした。測定の条件は、セルを氷-水恒温槽に浸漬し温度:273Kの条件下で行った。
【0098】
結果を図7及び図8に示す。図7は、炭素材の窒素吸着で求めた細孔容積あたりのアルゴン吸着量とアルゴンの圧力との関係を示すグラフである。図8は、炭素材の窒素吸着で求めた細孔容積あたりの六フッ化硫黄吸着量と六フッ化硫黄ガスの圧力との関係を示すグラフである。図7及び図8中、実施例1で調製された炭素材の吸着の結果は「1%Pc/ox-SWCNH_573K」で示し、実施例2で調製された炭素材の吸着の結果は「10%Pc/ox-SWCNH_573K」で示し、比較例1で調製された炭素材の吸着の結果は「Prisine SWCNH」で示し、比較例2で調製された炭素材の吸着の結果は「ox-SWCNH_537K」で示した。
【0099】
図7に示されるように、実施例1及び実施例2の炭素材は、比較例2の炭素材よりも吸着量がわずかであるが大きくなっている。このことは、実施例1及び2の炭素材の方が、比較例2で調製された炭素材よりも、多くの孔が形成されていることを意味すると考える。このことは、実施例1及び2の比較においても金属錯体の使用量の多い実施例2の炭素材の方が実施例1の炭素材よりも多くのアルゴンを吸着していることからも確認できる。また、図8に示されるように、比較例2の単層カーボンナノホーンでは、六フッ化硫黄の吸着量が、実施例1及び2の炭素材における六フッ化硫黄の吸着量よりも著しく大きくなるっている。このことは、比較例2の開口が設けられた単層カーボンナノホーンは、開口部のサイズが大きく、もしくは開口形成時にクッラクが生じ、カーボンナノホーンが裂けていることを意味すると考えられる。上述の結果から、本開示の技術によれば、炭素材の表面に開口径を制御しつつ、開口の数等を調整することもできることが確認された。
【0100】
(実施例3)
10mm角の銅箔上にグラフェン(単層)を成長させた試料(以下、グラフェン/銅箔とも記す。グラフェンプラットフォーム株式会社社製)を、10mLのアセトン中、10mLのメタノール中、及び10mLの超純水中の順にそれぞれ5分間浸漬することによって、浸透洗浄した後、試料を乾燥させた。次に、容器に、銅フタロシアニン(Copper(II) 2,3,9,10,16,17,23,24-Octakis(octyloxy)-29H,31H-phthalocyanine)0.5mg及びトルエン10mLを測り取り、超音波洗浄機を用いて25℃の条件下で15分間、分散処理することによって、銅フタロシアニンの分散液B2を調製した。
【0101】
洗浄、及び乾燥させたグラフェン/銅箔を分散液B2浸漬させ、65℃で1時間処理することによって、グラフェン/銅箔のグラフェン側に、銅フタロシアニンの単分子層を形成した。当該シートを自然冷却によって40℃以下の温度に低下させ、分散液B2から上記シートを取り出し、ノルマルヘキサンで洗浄したうえで乾燥させることによって、グラフェン/銅箔のグラフェン側に、銅フタロシアニンの単分子層が設けられたシートを得た。
【0102】
次に、上記シートを加熱炉の中に静置し、酸素及び窒素の混合気体(酸素と窒素とを体積比で20体積%:80体積%で混合した混合気体)を100mL/分の気流下、300℃(573K)の条件下で1時間、加熱処理することで、グラファイトに穿孔し、開口部を形成した。これを実施例3の炭素材とした。昇温速度は1℃/分とし、冷却は自然冷却とした。
【0103】
(実施例4)
実施例3と同様にして、グラフェン/銅箔のグラフェン側に、銅フタロシアニンの単分子層が設けられたシートを得た。
【0104】
上記シートの銅フタロシアニンの単分子層が設けられた側の表面に対して、硝酸アンモニウムの濃度が0.5μmol/Lとなるエタノール溶液を100μL滴下し、キャストして、30℃で1時間かけて、乾燥させた。このようにして、上記シートの銅フタロシアニンの単分子層が設けられた側に硝酸アンモニウムを付着させた試料を作製した。
【0105】
次に、上述の硝酸アンモニウムを付着させた試料を加熱炉の中に静置し、真空下で、250形成した。これを実施例4の炭素材とした。昇温速度は1℃/分とし、冷却は自然冷却とした。
【0106】
参考のため、実施例4における炭素材の製造過程における各段階のシート表面の電子顕微鏡画像を図9に示す。図9の(a)は、銅箔上にキャストし、乾燥することで得られるグラファイトで構成されるシートの表面を示し、(b)は250℃での加熱処理を経たのとシートの表面を示す。
【0107】
(比較例3)
銅フタロシアニンを用いなかったこと以外は、実施例4と同様にして、炭素材を調製した。比較例3における炭素材の製造過程におけるシート表面の電子顕微鏡画像を図10に示す。図10は、銅箔上にキャストし、乾燥することで得られるグラファイトで構成されるシートの表面を示す。銅フタロシアニンを用いなかったことで、シート状にマクロな亀裂が発生していることが確認される。
【0108】
図10に示される結果から、シートの調製過程において亀裂等の欠陥が生じ得ることが分かる。そして、図9の(a)に示されるとおり、銅フタロシアニンを用いた場合には、当該欠陥部に銅フタロシアニン等が配置し、欠陥を補うことが確認された。また、図9の(b)に示されるとおり、加熱処理され、グラファイト表面に穿孔を設けた後であっても、銅フタロシアニン等による欠陥の補充は維持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示によれば、細孔を有し、且つクラックの広がり等が抑制された機械的強度に優れる炭素材を提供することができる。本開示によればまた、上述のような炭素材を製造する製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
2…炭素含有層、2a…開口部、4…固形物、4a…孔部、10…炭素材。
図1
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図10