特許 7607281 吊り天井構造

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-12-19

(45)【発行日】2024-12-27

(54)【発明の名称】吊り天井構造

(51)【国際特許分類】

   E04B 9/18 20060101AFI20241220BHJP

   E04G 23/02 20060101ALI20241220BHJP

【ＦＩ】

E04B9/18 H

E04G23/02 D

【請求項の数】 5

(21)【出願番号】P 2021061597

(22)【出願日】2021-03-31

(65)【公開番号】P2022157403

(43)【公開日】2022-10-14

【審査請求日】2024-03-28

(73)【特許権者】

【識別番号】000177139

【氏名又は名称】三洋工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110002871

【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所

(72)【発明者】

【氏名】金井 貴浩

【審査官】須永 聡

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１５－０６３８５３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１６－１３８４３３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１７－１６６１４３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１９－２０６８２９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１４－１１４５４８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１３－１５５５７９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開昭６０－２６１８５３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０２１－１０５２８５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１６－１６９４７２（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開平０６－０４９９４７（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開平０６－０４９９４４（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｅ０４Ｂ ９／００

Ｅ０４Ｂ ９／１０

Ｅ０４Ｂ ９／１８

Ｅ０４Ｂ ９／３０

Ｅ０４Ｇ ２３／００－２３／０８

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

吊り天井構造であって、
野縁受けと、
前記野縁受けに交差するように取り付けられた野縁と、
建物の壁面に設けられた載置部材と、
前記載置部材と前記野縁の間に、又は前記野縁同士の間に載置された天井板と、
前記載置部材と前記載置部材からみて天井中央方向に隣り合う第１野縁のそれぞれの室内側に配置された脱落防止部材と、
前記第１野縁と前記第１野縁からみて天井中央方向に隣り合う第２野縁の間にわたって天井裏側に配置された天井裏補強部材と、を備える
ことを特徴とする吊り天井構造。

【請求項2】

前記脱落防止部材は、前記載置部材及び前記第１野縁のそれぞれにおいて前記天井板が載置されるフランジ部の幅拡張を伴う
ことを特徴とする請求項１に記載の吊り天井構造。

【請求項3】

前記脱落防止部材は、前記載置部材及び前記第１野縁のそれぞれに沿って延在するように配置され、前記天井板、前記載置部材又は前記第１野縁、及び前記脱落防止部材は、天井裏側からみてその順に室内側から固定される
ことを特徴とする請求項１又は２に記載の吊り天井構造。

【請求項4】

前記天井裏補強部材は、前記第１野縁と前記第２野縁を構造的に連結する
ことを特徴とする請求項１から３のいずれか１項に記載の吊り天井構造。

【請求項5】

前記天井裏補強部材は、前記第１野縁と前記第２野縁の間にわたって延在するように配置され、前記天井裏補強部材、前記天井板、及び前記第１野縁又は前記第２野縁は、天井裏側からみてその順に室内側から固定される
ことを特徴とする請求項１から４のいずれか１項に記載の吊り天井構造。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、吊り天井構造に関する。

【背景技術】

【0002】

従来、上階床スラブ等の構造躯体から垂下する吊りボルトと、吊りボルトによって吊り支持された野縁受けと、野縁受けに交差するように取り付けられた野縁と、野縁に固定又は載置された天井板によって構成された吊り天井構造が知られている。かかる吊り天井構造においては、地震時に天井板が野縁から脱落して落下することを防止する工夫が様々に提案されているが、例えば、天井板が割れて落下することを防止する技術として、索体を有する面材を天井板の天井裏側に面接合し、索体を建物躯体に締結する技術が開示されている（特許文献１参照）。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０１９－２０６８２９号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかしながら、この従来技術では、天井板に加えて面材の荷重が負荷されるため軽量化に逆行する可能性があり、また、かかる落下防止技術を施してもなおかつ天井板が脱落して落下するときには面材とともに落下することとなり、かえって面的な落下物が多くなるなどという課題があった。また、既設の吊り天井に対する耐震用の改修工事として当該技術を適用する場合には、天井板に新たに面材を面接合することから改修工事の負担が大きいという課題があった。

【0005】

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、既設の吊り天井の改修工事として適用容易であって、地震時の揺れに対して天井板が脱落して落下することを防止する吊り天井構造を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
（１）本発明の第１の観点は、吊り天井構造であって、野縁受けと、前記野縁受けに交差するように取り付けられた野縁と、建物の壁面に設けられた載置部材と、前記載置部材と前記野縁の間に、又は前記野縁同士の間に載置された天井板と、前記載置部材と前記載置部材からみて天井中央方向に隣り合う第１野縁のそれぞれの室内側に配置された脱落防止部材と、前記第１野縁と前記第１野縁からみて天井中央方向に隣り合う第２野縁の間にわたって天井裏側に配置された天井裏補強部材と、を備えることを特徴とする。
（２）上記（１）の構成において、前記脱落防止部材は、前記載置部材及び前記第１野縁のそれぞれにおいて前記天井板が載置されるフランジ部の幅拡張を伴う。
（３）上記（１）又は（２）の構成において、前記脱落防止部材は、前記載置部材及び前記第１野縁のそれぞれに沿って延在するように配置され、前記天井板、前記載置部材又は前記第１野縁、及び前記脱落防止部材は、天井裏側からみてその順に室内側から固定される。
（４）上記（１）から（３）のいずれかの構成において、前記天井裏補強部材は、前記第１野縁と前記第２野縁を構造的に連結する。
（５）上記（１）から（４）のいずれかの構成において、前記天井裏補強部材は、前記第１野縁と前記第２野縁の間にわたって延在するように配置され、前記天井裏補強部材、前記天井板、及び前記第１野縁又は前記第２野縁は、天井裏側からみてその順に室内側から固定される。

【発明の効果】

【0007】

本発明によれば、既設の吊り天井の改修工事として適用容易であって、地震時の揺れに対して天井板が脱落して落下することを防止する吊り天井構造を提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0008】

【図1】地震時の揺れによって天井板が脱落する態様を示す図であって、野縁受けが水平移動することによって起こる場合を示す。

【図2】同じく地震時の揺れによって天井板が脱落する態様を示す図であって、野縁が湾曲することによって起こる場合を示す。

【図3】図１について野縁の延在方向からみて模式的に説明する図であって、（ａ）は加振前の状態を、（ｂ）は加振中の状態をそれぞれ示す。

【図4】本発明の実施形態について、野縁の延在方向からみて説明する図である。

【図5】本発明の実施形態について、吊り天井構造の全体のレイアウトを平面視で説明する図である。

【図6】既設の吊り天井の改修工事の態様を示す図であって、天井板のカッティングを示す。

【図7】同じく、既設の吊り天井の改修工事の態様を示す図であって、（ａ）は天井裏補強部材を天井裏に設ける態様を、（ｂ）は室内側からビス固定している態様をそれぞれ示す。

【図8】同じく、既設の吊り天井の改修工事の態様を示す図であって、脱落防止部材を取り付けた態様を示す。

【発明を実施するための形態】

【0009】

（実施形態）
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態（以下、実施形態）について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ符号が付される。

【0010】

まず、地震時に天井板Ｐが野縁４０から脱落して落下する態様について、図１から図３を参照して説明する。図１は地震時の揺れによって天井板Ｐが脱落する態様を示す図であって、野縁受け３０が水平移動することによって起こる場合を、図２は同じく地震時の揺れによって天井板Ｐが脱落する態様を示す図であって、野縁４０が湾曲することによって起こる場合を、図３は野縁４０の延在方向（紙面に対して奥行方向）からみて、図１のある場合を模式的に説明する図である。なお、本実施形態では、野縁４０は断面Ｔ字状のＴバーと呼称される部材であって、逆Ｔ字状に配置されており、フランジ部に天井板Ｐが載置されている。

【0011】

図１に示すように、地震の揺れによって隣り合う野縁４０の距離が離間すると、天井板Ｐは野縁４０のフランジ部から脱落して落下する。また、図２に示すように、地震の揺れによって野縁４０が延在方向に湾曲する（撓む）と、天井板Ｐは、やはり、野縁４０のフランジ部から浮き上がり、脱落して落下する。図３は、図１のある場合を水平方向（野縁４０の延在方向（紙面に対して奥行方向））にみて模式的に現した態様を示しており、ある場合とは、吊り天井構造１が設けられている建物において、その壁面Ｂに設けられた載置部材６０と載置部材６０からみて天井中央方向に隣り合う第１野縁４０の距離が離間し、載置部材６０から天井板Ｐが脱落して落下する態様を示している（図３（ａ）の加振前の状態、図３（ｂ）の加振中の状態を参照）。載置部材６０は、断面Ｌ字状のＬアングルと呼称される部材である。

【0012】

このように、天井板Ｐが野縁４０のフランジ部に載置されているだけの場合、天井板Ｐが石膏ボードやその他の合成材などの可撓性が低い部材から形成される場合は特に、地震の揺れによる天井板Ｐの脱落落下を防止するには困難が伴う。そこで、本実施形態では、以下に説明するように、天井板Ｐが野縁４０の揺れに追従して、野縁４０から脱落落下しないように構成するものである。

【0013】

本実施形態に係る吊り天井構造１について、図４を参照して説明する。図４は、図３に対応して、野縁４０の延在方向（紙面に対して奥行方向）からみて説明する図である。

【0014】

本実施形態では、図４に示すように、天井板Ｐの脱落落下を防止するため、２つの手段すなわち脱落防止部材７０と天井裏補強部材８０を提供する。すなわち、吊り天井構造１は、野縁受け３０（図１及び図２参照）と、野縁受け３０に交差するように取り付けられた野縁４０と、建物の壁面Ｂに設けられた載置部材６０と、載置部材６０と野縁４０の間に又は野縁４０同士の間に載置された天井板Ｐと、載置部材６０と載置部材６０からみて天井中央方向に隣り合う第１野縁４０のそれぞれの室内側に配置された脱落防止部材７０と、第１野縁４０と第１野縁４０からみて天井中央方向に隣り合う第２野縁４０の間にわたって天井裏側に配置された天井裏補強部材８０と、を備える。

【0015】

まず、脱落防止部材７０について、説明する。脱落防止部材７０は、まず、載置部材６０及び第１野縁４０のそれぞれにおける天井板Ｐが載置されるフランジ部の幅拡張を伴うこととなる。そして、脱落防止部材７０は、室内側に配置されることから、施工後の意匠を考慮に入れて、例えば、断面一文字状の平プレートを好適に採用することができる。ただし、平プレートに限定される必要はなく、求められる強度や意匠上の課題が満足される場合には、断面が二次元的な形状のものであってもよい。

【0016】

脱落防止部材７０は、載置部材６０及び第１野縁４０のそれぞれに沿って延在するように配置される。そして、天井板Ｐ、載置部材６０又は第１野縁４０のフランジ部（第１野縁４０についてはフランジ部４１のうち図中左側のフランジ部４１ａ）、及び脱落防止部材７０は、天井裏側からみてその順に、室内側からビス固定される。これによって、吊り天井構造１の野縁受け３０の延在方向（紙面に対して横方向）の外周部分にある天井板Ｐは、載置部材６０と第１野縁４０に固定され、脱落落下を防止される。

【0017】

次に、天井裏補強部材８０について、説明する。天井裏補強部材８０は、第１野縁４０と第２野縁４０を構造的に連結することとなる。天井裏補強部材８０は、天井裏側に配置されることから、施工後の意匠を考慮に入れる必要はなく、例えば、断面凹字状のＵＬスタッドを好適に採用することができる。ただし、ＵＬスタッドに限定される必要はなく、求められる強度が満足される場合には、断面が一次元的な形状のものであってもよい。

【0018】

天井裏補強部材８０は、第１野縁４０と第２野縁４０の間にわたって延在するように配置される。そして、天井裏補強部材８０、天井板Ｐ、及び第１野縁４０又は第２野縁４０のフランジ部（第１野縁４０についてはフランジ部４１のうち図中右側のフランジ部４１ｂ、第２野縁４０についてはフランジ部４１のうち図中左側のフランジ部４１ａ）は、天井裏側からみてその順に、室内側からビス固定される。これによって、吊り天井構造１において、野縁受け３０の延在方向（紙面に対して横方向）で隣り合う野縁４０同士の離間が防止でき、天井板Ｐは、脱落落下を防止される。さらに、後述するように、天井裏補強部材８０を複数列に設けることにより、野縁４０の延在方向における湾曲（撓み）を抑制でき、天井板Ｐは、その点からも脱落落下を防止される。

【0019】

上記で説明した脱落防止部材７０及び天井裏補強部材８０の吊り天井構造１における全体の配置について、図５を参照して説明する。図５は、吊り天井構造１の全体のレイアウトを平面視で説明する図である。なお、立体視した場合の吊り天井構造１の構成について前もって触れておくと、吊り天井構造１は、上階床スラブ等の構造躯体から垂下する吊りボルト１０（図１及び図２参照）と、吊りボルト１０によってハンガー２０（図１及び図２参照）を介して吊り支持された野縁受け３０と、野縁受け３０に交差するようにクリップ５０（図３及び図４参照）を介して取り付けられた野縁４０と、野縁４０に固定又は載置された天井板Ｐによって構成されている。

【0020】

さて、図５では、吊り天井を設置する平面視矩形の建物を例示しており、図中（以下、符号の向きに応じて縦横の向きを定義する）、横方向（建物の長手方向、以下同様）に野縁受け３０が配置され、縦方向（建物の短手方向、以下同様）に野縁４０が配置されている。また配置建物の周囲には壁面Ｂが位置し、左右外周部の壁面Ｂには縦方向に載置部材６０が配置されている。天井板Ｐの間には、縦方向に所定の間隔をもって、照明設備等配置箇所Ｌが設けられている。

【0021】

このような全体のレイアウトにおいて、脱落防止部材７０は、左右外周部の載置部材６０及びそれぞれの載置部材６０からみて天井中央方向に位置する左右の第１野縁４０のそれぞれ、つまり４本のライン（太実線表記）に沿って縦方向に延在するように配置される。

【0022】

一方、天井裏補強部材８０は、左右の第１野縁４０の間にわたって横方向に延在するよう配置される。ここでは、横方向に２本のライン（破線表記）を設けた場合を示している。この２本のラインの間隔は吊り天井構造１が設置される建物の状況に応じて設定され得るものであり、また、３本以上のラインとすることももちろん可能であるが、特段の設計条件がなければ、例えば３ｍ間隔などとしてライン数を設定することができる。

【0023】

なお、図５では天井裏補強部材８０のラインを模式的に連続した破線で表記しているが、実際の配置にあたっては、図４に示したように、隣り合う野縁４０同士間の区間が単位となっている。

【0024】

図６から図８を参照して、既設の吊り天井構造１に脱落防止部材７０及び天井裏補強部材８０を取り付ける改修工事の手順について、説明する。各部材及び各部位の位置関係は、図４を参照されたい。

【0025】

まず、既設の吊り天井構造１の配置図を参照して、図６に示すように、野縁受け３０が延在している近傍で野縁受け３０の延在方向に天井板Ｐをカッティングする（カット領域Ｃ）。

【0026】

次に、図７（ａ）に示すように、カットした天井裏側の近傍において、隣り合う野縁４０同士のフランジ部４１に両端部が重なるように、天井板Ｐの上に天井裏補強部材８０を配置する。そして、図７（ｂ）に示すように、天井裏側からみて、天井裏補強部材８０、天井板Ｐ、及び第１野縁４０のフランジ部４１ｂ又は第２野縁４０のフランジ部４１ａが重なっている箇所を、室内側からビス９０を用いてビス固定する。

【0027】

そして、図８に示すように、載置部材６０のフランジ部及び第１野縁４０のフランジ部４１ａにそれぞれ脱落防止部材７０を配置する。そして、天井裏側からみて、天井板Ｐ、載置部材６０のフランジ部又は第１野縁４０のフランジ部４１ａ、及び脱落防止部材７０が重なっている箇所を、室内側からビス９０を用いてビス固定する。

【0028】

（実施形態の効果）
本実施形態に係る吊り天井構造１は、野縁受け３０と、野縁受け３０に交差するように取り付けられた野縁４０と、建物の壁面Ｂに設けられた載置部材６０と、載置部材６０と野縁４０の間に、又は野縁４０同士の間に載置された天井板Ｐと、載置部材６０と載置部材６０からみて天井中央方向に隣り合う第１野縁４０のそれぞれの室内側に配置された脱落防止部材７０と、第１野縁４０と第１野縁４０からみて天井中央方向に隣り合う第２野縁４０の間にわたって天井裏側に配置された天井裏補強部材８０と、を備えることから、既設の吊り天井の改修工事として適用容易であって、地震時の揺れに対して天井板Ｐが脱落して落下することを防止する吊り天井構造１とすることができる。

【0029】

以上、実施形態について説明したが、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を行ったものも含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。

【符号の説明】

【0030】

１…吊り天井構造
１０…吊りボルト
２０…ハンガー
３０…野縁受け
４０…野縁（第１野縁、第２野縁）
４１（４１ａ、４１ｂ））…フランジ部
５０…クリップ
６０…載置部材
７０…脱落防止部材
８０…天井裏補強部材
Ｂ…建物の壁面
Ｐ…天井板
Ｃ…カット領域

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】