IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 紀伊産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-加飾成形体 図1
  • 特許-加飾成形体 図2
  • 特許-加飾成形体 図3
  • 特許-加飾成形体 図4
  • 特許-加飾成形体 図5
  • 特許-加飾成形体 図6
  • 特許-加飾成形体 図7
  • 特許-加飾成形体 図8
  • 特許-加飾成形体 図9
  • 特許-加飾成形体 図10
  • 特許-加飾成形体 図11
  • 特許-加飾成形体 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】加飾成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241220BHJP
   A45D 33/18 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
B32B27/00 E
A45D33/18 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020162213
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054932
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000158781
【氏名又は名称】紀伊産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 親典
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-198958(JP,A)
【文献】特開2011-177919(JP,A)
【文献】特開2011-218587(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0226164(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A45D 33/00-40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体模様が形成された表面と平面部分が形成された裏面とを有する透明成形体と、加飾樹脂シートと、を備える加飾成形体であって、
上記透明成形体は、その裏面の縁部の少なくとも一部に立ち上がり壁が延設されており、
上記加飾樹脂シートが上記透明成形体の立体模様の少なくとも一部に対応する図柄を有しており、
上記加飾樹脂シートが、上記立ち上がり壁の根元の際に接するか、立ち上がり壁の根元の際から3mm以内の隙間を空けて上記透明成形体の裏面の平面部分に貼着されており、
上記透明成形体の立体模様の少なくとも一部を透かして上記加飾樹脂シートの図柄を視認できるようになっていることを特徴とする加飾成形体。
【請求項2】
上記透明成形体の裏面において、上記立ち上がり壁の根元の際から反対側の端縁までの長さLに対する上記立ち上がり壁の高さHの比(H/L)が、下記の式(1)を満たしている請求項1記載の加飾成形体。
0.05≦(H/L)≦1・・・(1)
【請求項3】
上記立ち上がり壁が透明成形体の内側に向かって突出する突出部を有しており、上記立ち上がり壁の高さHに対する上記突出部の突出長さTの比(T/H)が下記の式(2)を満たしている請求項1または2記載の加飾成形体。
0.01≦(T/H)≦1・・・(2)
【請求項4】
上記透明成形体の表面の一部の領域を除いて不透明層が設けられ、上記加飾樹脂シートが上記不透明層の設けられていない領域から視認できるようになっている請求項1~3のいずれか一項に記載の加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品点数が少なく、軽量化を図ることができる、興趣に富む加飾成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このような要求に応えるために、例えば、透明なコンパクト容器の蓋部の表面に凹凸を形成して立体模様を付与し、裏面からこの立体模様に対応する部分に色模様を印刷し、一つのデザインとしたものが出回っている。
【0003】
このような立体模様と色模様とを合わせたデザインを付与する方法としては、従来、蓋部を成形するための金型内周面に、立体模様を付与するための凹凸を形成し、この立体模様に対応する色模様の転写箔を金型内に配置し、インモールド成形によって、蓋部に立体模様と色模様とを同時に付与し、一体化することが一般的に行われている(例えば、特許文献1)。しかし、このように色模様の付与に転写箔を用いたものは、細かいデザインを付与することが困難で、実現できるデザインに限界がある。また、立体模様と転写箔との位置合わせが困難で、所望どおりのデザインを得るのが難しいという問題もある。
【0004】
このような問題を解決するため、本出願人は、表面に立体模様が形成された板状の透明成形体と、加飾樹脂シートとを互いの裏面を対面させ、透明成形体の立体模様と加飾樹脂シートの図柄とを位置合わせした状態で一体化する板状の加飾成形体をすでに提案している(特許文献2参照)。このものは、低コストで簡単に、立体模様と図柄とを合わせた所望どおりのデザインを成形体に付与することができ、しかもその仕様を柔軟に変更することができるという優れた利点を有している。
【0005】
しかし、透明成形体と加飾樹脂シートとを位置合わせして一体化するには、加飾樹脂シートを透明成形体に貼着する貼着装置の構造上、上記透明成形体が板状である必要があった。すなわち、上記透明成形体の裏面の縁部に立ち上がり壁が延設されていると、貼着装置の押圧ヘッドの動きが、上記立ち上がり壁に邪魔されるため、立ち上がり壁の根元の際まで加飾樹脂シートを貼着することができない。よって、立ち上がり壁が延設された透明成形体については、その裏面全面に加飾樹脂シートを貼着させたものを得ることはできなかった。
【0006】
上記現状を鑑み、縁部に立ち上がり壁を有する透明成形体に加飾樹脂シートを貼着するには、以下のような工夫が必要であった。すなわち、図11に示すように、まず、その表面に立体模様Qが形成された板状の加飾成形体30を作製し、その裏面に、上記加飾成形体30の立体模様Qに位置合わせをして形成された図柄Pを有する加飾樹脂シート35を貼着装置により貼着する。そして、これとは別に、加飾成形体30の周囲を囲う枠状で、ヒンジ部32を有する蓋枠体33を用意し、この蓋枠体33に上記加飾成形体30を嵌め込むようにして、コンパクト容器37の蓋体31(図12参照)としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-344377号公報
【文献】特開2011-177919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このようにすると、蓋体31を得るために、ヒンジ部32を有する蓋枠体33と、板状の加飾成形体30の二部材が必要となり、製造に手間とコストがかかる。このため、ヒンジ部32等の立ち上がり壁があっても、その部分を別部材とすることなく、特許文献2同様の優れた効果を有する、単一品からなる加飾成形体の開発が求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、より加飾成形体の軽量化と製造の低コスト化が図られ、所望どおりのデザインの付与を行うことができる、縁部に立ち上がり壁が延設された加飾成形体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。すなわち、特許文献2のものを蓋体として用いる場合に加飾成形体と蓋枠体の二部材の構成としたのは、加飾成形体を構成する透明表面板として縁部に立ち上がりがあるものを採用すると、加飾樹脂シートの貼り合わせの際に透明表面板の立ち上がり部分が邪魔になり、透明表面板の縁部(立ち上がり壁の根元の際)まで加飾樹脂シートを貼り合わせることができず、透明表面板の立体模様形成部と加飾樹脂シートの彩色層形成部とを正確に位置合わせした状態で一体化できないという理由によるものである。したがって、本発明者らはさらに研究を重ねた結果、透明表面板として縁部に立ち上がり壁が延設されたものを採用しても、その立ち上がり壁の根元の際まで加飾樹脂シートを貼り合わせられることを見い出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]を提供する。
[1]表面に立体模様が形成された透明成形体と、加飾樹脂シートと、を備える加飾成形体であって、上記透明成形体は、その裏面の縁部の少なくとも一部に立ち上がり壁が延設されており、上記加飾樹脂シートが、上記立ち上がり壁の根元の際に接するか、立ち上がり壁の根元の際から3mm以内の隙間を空けて上記透明成形体の裏面に貼着されており、上記透明成形体の立体模様の少なくとも一部を透かして上記加飾樹脂シートを視認できるようになっている加飾成形体。
[2]上記透明成形体の裏面において、上記立ち上がり壁の根元の際から反対側の端縁までの長さLに対する上記立ち上がり壁の高さHの比(H/L)が、下記の式(1)を満たしている、[1]記載の加飾成形体。
0.05≦(H/L)≦1・・・(1)
[3]上記立ち上がり壁が透明成形体の内側に向かって突出する突出部を有しており、上記立ち上がり壁の高さHに対する上記突出部の突出長さTの比(T/H)が下記の式(2)を満たしている、[1]または[2]に記載の加飾成形体。
0.01≦(T/H)≦1・・・(2)
[4]上記透明成形体の表面の一部の領域を除いて不透明層が設けられ、上記加飾樹脂シートが上記不透明層の設けられていない領域から視認できるようになっている、[1]~[3]のいずれかに記載の加飾成形体。
[5]上記加飾樹脂シートが上記透明成形体の立体模様の少なくとも一部に対応する図柄を有しており、上記透明成形体の立体模様の少なくとも一部を透かして、上記図柄を視認できるようになっている、[1]~[4]のいずれかに記載の加飾成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加飾成形体は、立ち上がり壁を有する一体成形品でありながら、立ち上がり壁の根元の際まで加飾樹脂シートが貼着されており、興趣に富むものである。しかも、立ち上がり壁を有する部材として使用する場合であっても部品点数を少なくすることができ、全体の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態である加飾成形体を蓋体として用いた容器の斜視図である。
図2】上記蓋体の裏面を下から見た状態を示す説明図である。
図3】上記蓋体を側面から見た状態を示す説明図である。
図4図2のX-X断面図である。
図5】上記蓋体の変形例を説明する部分拡大図である。
図6】(a)は上記蓋体に用いられる透明成形体の平面図、(b)はその正面図、(c)はその構成を説明する図である。
図7】(a)は上記蓋体に用いられる加飾樹脂シートの平面図であり、(b)はそのY-Y断面図である。
図8】上記蓋体の構成を説明する図である。
図9】上記蓋体の構成を説明する図である。
図10】(a),(b)はいずれも上記加飾成形体を得る方法を説明する図である。
図11】従来の加飾成形体の構成を説明する図である。
図12】上記加飾成形体を蓋体に用いたコンパクト容器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態である加飾成形体を蓋体1としてコンパクト容器に用いた斜視図である。また、図2は、上記蓋体1の裏面を下から見た状態を示す説明図である。そして、図3図2の蓋体1を側面(白抜き矢印の方向)から見た状態を示す図であり、図4図2の蓋体1のX-X断面図である。なお、これらの図においては、後述する接着層9(図7以下を参照)の図示を省略している。
【0016】
まず、図1において、2はコンパクト容器の容器本体である。上記蓋体1の裏面の縁部には、図2に示すように、容器本体2に取り付けるためのヒンジ部3(立ち上がり壁)と、容器本体2と係合するための爪7(立ち上がり壁)とが延設されており、このヒンジ部3が容器本体2の後端部(図示せず)と連結されて、蓋体1が容器本体2に対し、開閉自在に取り付けられるようになっている。
【0017】
上記蓋体1は透明成形体5と加飾樹脂シート6を備えており、図4に示すように、上記透明成形体5の裏面に、上記加飾樹脂シート6が、その加飾面(表面)を向けた状態で、ヒンジ部3から0.3mmの隙間W1および爪7から0.3mmの隙間W2を空けて接着層9(図7参照)を介して貼着されている。
上記蓋体1を構成する透明成形体5と加飾樹脂シート6とを以下に説明する。
【0018】
[透明成形体]
上記透明成形体5は、表面に立体模様Aが形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)からなる透明の樹脂成形品であり、その形状を図6(a),(b)に示す。図6(a)は透明成形体5の平面図であり、図6(b)はその正面図である。このような樹脂成形品は、例えば、射出成形機等を用いて製造することができる。
【0019】
上記透明成形体5の表面には植物をモチーフにした立体模様Aが形成され、図6(c)の断面模式図に示すように、一部の領域Cを除いて白色パール色の不透明層4がシルク印刷により設けられ、白色パール色の立体模様A1が形成されている。上記領域Cは、立体模様Aの一部およびそれ以外(ベースの部分)に設けられており、上記透明成形体5は、この領域Cからのみ反対側が透けて見えるようになっている。よって、上記領域Cが設けられた立体模様Aからは、その裏面に貼着された加飾樹脂シート6を視認できるため、ホログラム調の色彩を呈する立体模様A2を形成することができる。
【0020】
本発明において、「透明」とは、光の透過率が高く、反対側が透けて見えることをいい、反対側が透けて見える限りいわゆる「半透明」も含むものとする。また、「不透明」とは、光の透過率が低く、反対側の様子を視認することが困難であることをいい、必ずしも透過率0%であることを必要としない。
【0021】
上記透明成形体5は、その裏面の長さLが55mmに設計されており、上記透明成形体5のヒンジ部3の高さHは、その底面(透明成形体5の裏面)から10mmに設計されている。なお、上記透明成形体5の裏面の長さLは、図4に示すように、上記透明成形体5の裏面の、上記ヒンジ部3の根元の際から反対側の端縁までの長さであり、本実施形態のように、ヒンジ部3と爪7が上記透明成形体5の裏面に加飾樹脂シート6を貼着する予定部分全体を挟んで対峙している場合は、ヒンジ部3の根元の際から爪7の根元の際までの距離が上記裏面長さLに相当する。上記ヒンジ部3は、上記ヒンジ部3の先端部から上記透明成形体5の内側に向かって突出する突出部3’を有しており、上記突出部3’の突出長さTは2.5mmに設計されている。
【0022】
そして、上記加飾樹脂シート6とヒンジ部3との隙間W1および加飾樹脂シート6と爪7との隙間W2が0~3mmの範囲内にあることが、本発明における最大の特徴である。
【0023】
上記透明成形体5のヒンジ部3(立ち上がり壁)の高さH(図4参照)は、特に限定するものではないが、通常、5~30mmであり、好ましくは6~10mmである。一方、上記爪7(立ち上がり壁)の高さKも、特に限定するものではないが、通常、3~10mmであり、好ましくは5~7mmである。立ち上がり壁の高さが上記の範囲にあると、コンパクト容器として使い勝手と携帯性に優れるものとなる。
【0024】
上記透明成形体5の裏面(加飾樹脂シート6を貼着する予定部分全体)の長さLは、特に限定するものではないが、30~100mmであることが好ましい。上記長さLが上記の範囲にあると、コンパクト容器として使い勝手と携帯性に優れるものとなる。
【0025】
上記透明成形体5の裏面の長さ(立ち上がり壁の根元の際から反対側の端縁までの長さ)Lに対する上記ヒンジ部3の高さ(立ち上がり壁の高さ)Hの比(H/L)は、特に限定するものではないが、下記の式(1)を満たすように設計されるものであることが好ましく、より好ましくは0.05~1、さらに好ましくは0.07~0.2である。上記比(H/L)が上記範囲内にあると、加飾樹脂シート6の貼着がより美麗に行われ、得られた加飾成形体がより興趣に富むものとなる。なお、上記Hは、透明成形体5が複数の立ち上がり壁を有する場合には、その最も高いもの(この実施例の形態では、ヒンジ部3)の高さをいう。
0.05≦(H/L)≦1・・・(1)
【0026】
上記ヒンジ部3の先端部から上記透明成形体5の内側に向かって突出する突出部3’の突出長さTは、特に限定するものではないが、0.5~5mmであることが好ましい。上記突出長さTが上記範囲内にあると、加飾樹脂シート6の貼着がより美麗に行われ、得られた加飾成形体がより興趣に富むものとなる。
【0027】
上記ヒンジ部3の高さ(立ち上がり壁の高さ)Hに対するその突出部3’の突出長さTの比(T/H)は、特に限定するものではないが、下記の式(2)を満たすものであることが好ましい。上記比(T/H)が上記範囲内にあると、加飾樹脂シート6の貼着がより美麗に行われ、得られた加飾成形体がより興趣に富むものとなる。
0.01≦(T/H)≦1・・・(2)
【0028】
[加飾樹脂シート]
上記透明成形体5に貼着される加飾樹脂シート6は、図7(a)にその平面図を示すとおり、シルバーを基調とするホログラムシート8の表面に、上記透明成形体5の立体模様Aの一部および領域Cに対応する図柄B(ピンクの花びら模様の部分B1と、パープルの果実模様の部分B2)がオフセット印刷により形成されている。そして、図7(a)のY-Y断面図である図7(b)に示すとおり、上記ホログラムシート8の表面(図柄Bを有する面)に接着層9が設けられ、その接着層9の接着力により、上記加飾樹脂シート6が、上記透明成形体5の裏面に貼着されるようになっている。
【0029】
上記接着層9としては、透明性を有する各種の接着剤を用いることができる。なかでも、エポキシ系、ポリウレタン系、変性アクリル樹脂系、ホットメルト系の接着剤を用いると、加飾樹脂シート6と透明成形体5との接着性や薄膜性の点で好ましい。また、作業の効率に優れる点から、接着剤ではなく透明性を有する両面テープ等を用いてもよい。
【0030】
上記透明成形体5の裏面に上記加飾樹脂シート6を貼着し、蓋体1を得るためには、例えば、接着層9を有する加飾樹脂シート6を準備し、図8に模式的に示すように、透明成形体5の立体模様Aと加飾樹脂シート6の図柄Bとを位置合わせして、図9に示すように、ヒンジ部3から3mmの隙間W1を空けて、加飾樹脂シート6を透明成形体5の裏面に接着層9の接着力を利用し、貼着装置を用いて貼着する。これにより、本発明の加飾成形体の一例である蓋体1を得ることができる。
【0031】
上記蓋体1において、透明成形体5のヒンジ部3と加飾樹脂シート6との上記隙間W1図4参照)は、0~3mmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは0~1mmの範囲内である。隙間W1が上記範囲内にあると、透明成形体5の表面全体に立体模様Aを形成することができる等、デザインの幅が広くなる。また、透明成形体5の立体模様Aと、加飾樹脂シート6の図柄Bとを予め設定されたとおりに、より正確に位置合わせすることができるため、蓋体1において、より精密で美麗なデザインを実現することができる。
【0032】
上記隙間W1は、例えば、図5に示すように、ヒンジ部3が段差3aを有する場合には、段差3aを立ち上がり壁とみなし、その根元の際から加飾樹脂シート6の端部までの長さとする。すなわち、上記隙間W1は、加飾樹脂シート6を接着させる面から立ち上がる箇所(この実施の形態では段差3a)を基準としてその長さが測定されるものである。なお、ヒンジ部3等の立ち上がり壁の根元の際から加飾樹脂シート6の端部までの長さが不均一である場合には、最短の長さ(隙間幅が最も狭くなっている箇所の長さ)を隙間W1とする。
【0033】
この構成によれば、加飾樹脂シート6が、透明成形体5の裏面の縁部に延設されたヒンジ部3から隙間W1が3mm以内という、ごく狭い隙間を空けただけで、上記透明成形体5の裏面のほぼ全面に貼着されているため、上記透明成形体5の表面のほぼ全域の任意の箇所に立体模様Aを形成すること可能であり、デザインの自由度が高められている。また、加飾樹脂シート6が透明成形体5に対して適正な位置に正確に貼着されているため、上記加飾樹脂シート6の図柄Bが上記透明成形体5の領域Cに正確に対応しており、上記領域Cから透明成形体5を透かして図柄Bや加飾樹脂シート6の地の色(シルバーを基調とするホログラムシート8)が視認できるようになり、美麗なデザインが実現されている。すなわち、この蓋体1の表面には、不透明な白色パール色をベースとし、白色パール色の立体模様A1と、色彩の異なる複数の宝石様の立体模様A2と、シルバーを基調するホログラム模様D(立体模様Aが形成されていない領域Cから透明成形体5を透かして視認される模様)が混在して現れており、興趣に富むデザインが実現されている(図1参照)。
【0034】
すなわち、従来、貼着装置の構造上、ヒンジ部3および爪7のような立ち上がり壁がある透明成形体5の裏面に、これらの立ち上がり壁の根元の際まで近接させて加飾樹脂シート6を貼着させる場合、貼着装置の押圧ヘッドをこれらの立ち上がり壁の間に入り込ませて正常に動作させることが困難であった。このため、これらの立ち上がり壁から離れた箇所から加飾樹脂シート6を貼着しており、これらの立ち上がり壁の根元の際まで加飾樹脂シート6を貼着することができなかった。しかし、本発明者らは、貼着装置の押圧ヘッドの動作とその形状自体を改良することにより、これらの立ち上がり壁の間に入り込ませて正常に動作させることが可能になることを見い出し、本発明に想到したのである。
【0035】
上記実施の形態では、透明成形体5として、PETからなる樹脂成形品を用いているが、その他の合成樹脂等を用いることもできる。なかでも、PET、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリプロピレン(PP)を用いると、成形性、耐久性、軽量性の点で好ましい。また、透明成形体5は、透明であれば無色でなくてもよく、有色であってもよい。
【0036】
上記実施の形態では、不透明層4を不透明の白色パール色にしているが、白色パール色以外としてもよい。また、不透明層4は一色だけで構成する必要はなく、二色以上の色彩としてもよい。また、シルク印刷ではなく、他の方法により設けるようにしてもよい。これにより、さらに興趣に富むデザインの実現が可能になる。
【0037】
上記実施の形態では、加飾樹脂シート6のベースとして、シルバーを基調とするホログラムシート8を用いているが、その色彩はシルバー以外のものであってもよいし、ホログラムシート以外のシートを用いてもよい。例えば、PET、PMMA、AS、ABS、PP等を用いると、成形性、耐久性、軽量性の点で好ましい。また、その厚みは、通常、100~250μmである。
【0038】
上記加飾樹脂シート6の図柄Bは、透明成形体5のうち不透明層4が形成されていない、透明な領域Cに対応するものであれば、どのようなものであってもよく、オフセット印刷ではなく、他の方法により設けられたものであってもよい。さらに、加飾樹脂シート6のベース(ホログラムシート8)をそのまま見せることを意図して、あえて着色しない部分を設けてもよい。これにより、さらに興趣に富むデザインが可能になる。
【0039】
上記実施の形態では、透明成形体5の表面の一部の領域Cを除いて不透明層4が設けられ、上記領域Cが立体模様Aの一部とそれ以外の部分の一部に設定されているが、これに限られるものではない。上記領域Cは立体模様Aの全部に設定してもよいし、立体模様A以外の部分に設定しなくてもよい。また、加飾樹脂シート6の表面全体を視認できるように、上記不透明層4をあえて設けなくてもよい。
【0040】
上記実施の形態では、蓋体1の形状を平面視略長方形としているが、その形状は限定されるものではなく、例えば、正方形状、円形、楕円形、五角形、六角形、八角形等の形状としてもよい。これらの形状においても、ヒンジ部3等の立ち上がり壁から加飾樹脂シート6の端部までの最短の長さを上記隙間W1とする。
【0041】
上記実施の形態において、ヒンジ部3の根元の際からの隙間W1を全く作らないか、3mm以内とするためには、前述のとおり、透明成形体5の裏面の、上記ヒンジ部3の根元の際から反対側の端縁までの長さLに対する上記ヒンジ部3の高さHの比(H/L)を所定の範囲に設定するとともに、例えば、貼着装置の押圧ヘッドの形状を図10(a)に示すような、側面視が略おうぎ形の押圧ヘッド10とすることがあげられる。このように、押圧ヘッド10の形状が工夫されていると、押圧ヘッド10がヒンジ部3に邪魔されることなく作動できるため、設定されたとおりのごく狭い隙間W1を空けて加飾樹脂シート6を貼着することができる。
【0042】
また、例えば、貼着装置の押圧ヘッド10の形状を図10(b)に示すように、側面視が先広がりの形状としてもよい。この形状においても、押圧ヘッド10がヒンジ部3に邪魔されることなく作動できるため、設定されたとおりのごく狭い隙間W1を空けて加飾樹脂シート6を貼着することができる。
【0043】
本実施の形態においては、加飾成形体を、コンパクト容器(化粧料を収容する容器)の蓋体に用いているが、これに限るものではない。例えば、携帯電話のカバー、小物入れ等、立ち上がり壁を有し、加飾することが好ましいものに用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、興趣に富むデザインを有し、使い勝手のよい加飾成形体として、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1 蓋体
3 ヒンジ部
5 透明成形体
6 加飾樹脂シート
A 立体模様
L 透明成形体の裏面の長さ
H ヒンジ部の高さ
1 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12