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特許7607314直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構
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  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図1
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図2
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図3
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図4
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図5
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図6
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図7
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図8
  • 特許-直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/76 20060101AFI20241220BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20241220BHJP
   F16J 15/3288 20160101ALI20241220BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241220BHJP
   C10M 169/06 20060101ALI20241220BHJP
   C10M 115/08 20060101ALI20241220BHJP
   C10M 117/00 20060101ALI20241220BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241220BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20241220BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20241220BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241220BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241220BHJP
【FI】
F16C33/76 Z
F16C29/06
F16J15/3288
F16J15/18 A
C10M169/06
C10M115/08
C10M117/00
C10N10:02
C10N10:12
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020551091
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039217
(87)【国際公開番号】W WO2020071514
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018187827
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596116363
【氏名又は名称】三和テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】福井 和郎
(72)【発明者】
【氏名】幸原 正志
(72)【発明者】
【氏名】瀧埜 敏男
(72)【発明者】
【氏名】大前 海渡
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/109924(WO,A1)
【文献】特開2014-088886(JP,A)
【文献】特開2013-002602(JP,A)
【文献】特開2005-200811(JP,A)
【文献】登録実用新案第3065136(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72、33/76
F16C 29/06
F16J 15/3288
F16J 15/18
C10M 169/06
C10M 115/08
C10M 117/00
C10N 10/02、10/12
C10N 50/10
C10N 40/02
C10N 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に取り付ける端部シール材であって、
該端部シール材は、
該レールの外周に配された支持枠体と、
該支持枠体の内周面に裏面が固定された基布部と、
該基布部の表面から突出するカットパイルを有し、
該カットパイルの毛先部は該レールと該支持枠体の内周との隙間を塞ぐように屈曲してレールに当接し、折れ曲がった当該毛先部が該レールと該支持枠体の内周との隙間に噛み込む状態となるものであって、
該カットパイルのパイル繊維間に潤滑剤があらかじめ保持されていること
を特徴とする、湿式のカットパイルからなる端部シール材。
【請求項2】
カットパイルのパイル繊維間に保持されている潤滑剤は、JIS K2220における稠度番号が1号~4号のグリスであること、を特徴とする、請求項1に記載の端部シール材。
【請求項3】
グリスがリチウムグリス、モリブデン化合物配合グリス、ウレア系グリスのいずれかであることを特徴とする、請求項2に記載の端部シール材。
【請求項4】
カットパイルのパイル長が2mm以上であること、を特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の端部シール材。
【請求項5】
カットパイルのパイル繊維は捲縮されたマルチフィラメント繊維から構成されていること、を特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の端部シール材。
【請求項6】
カットパイルが織物からなること、を特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の端部シール材。
【請求項7】
カットパイルが編物からなること、を特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の端部シール材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の端部シール材を、スライダの両端に脱着交換可能に固定したレールとスライダからなる直動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動機構用の湿式端部シール材および該シール材を用いた直動機構に関するものである。
直動機構とは、摩擦を低減しつつ直線運動の位置決め精度が要求される機構や、その他直線運動を行いたい機構に欠かせない要素部品である。その代表的機構のひとつが、直動案内装置であり、直動ガイド、リニアガイド、LMガイド(登録商標)などと称されている。
【0002】
この直動機構は、大別して、シャフトとスライダの2要素から構成されており、スライダは、シャフト上をスムーズに往復直線運動して進むためのものであり、スライダの内部のシャフトとの接触部位に“転動体”や“ころ”が配されている。そして、スライダとシャフトを備えた本発明にいう直動機構には、直動案内装置(直動ガイド、リニアガイド、LMガイド)のような断面矩形のシャフト上に転動溝を備えた直動案内レールを用いた機構のほか、円柱状のシャフトをスライダが軸方向に前後にスライドするリニアブッシュ、円柱状の軸表面上に設けられた溝をボールが転がることでより許容加重をより大きくしうるスプライン軸を用いてなるボールスプラインがある。
【0003】
なお、本発明では、直動機構の具体例としては、以下、リニアガイドを代表例として説明するが、いずれの直動機構にも適用可能な湿式のサイドシール材およびこのシール材を用いた直動機構に関する。すなわち、スライダ部分の両端部に転動面へパイル部が食い込む形で取り付けられ、直動や回転に対して異物が駆動部に侵入するのを防ぎ、転動面へのグリス塗布を同時に行うことで防塵して長寿命化に寄与する湿式のシール材及びこれを用いた直動機構に関する。
【背景技術】
【0004】
さて、機械運動においては、直線運動と回転運動とがあり、それぞれに位置決め機構が知られているところ、ベアリングを用いた軸受け等で広く実用的に使用されている回転運動の場合と比べると、直線運動の転動体を実用化することは技術的に非常に難しく高度であった。もちろん、直線運動に対しても転動体を用いることができれば、ころがり摩擦係数が小さく、起動抵抗も低いものとなるなど、その有用性は見込まれる。もっとも、現実に実用化するとなれば、直線運動の機構においては、高剛性であること、省力かつ高速で軽快に動作すること、位置決め精度が高くかつ長寿命な機構であること、といった要請をいずれも満足した機構として提供することが必要となるので、実用上の要求精度を満足させることはなかなかに容易ではなかった。そこで、今なお、こうした要請に応えるべくさらなる工夫が望まれている。
【0005】
そして、直動機構は、シャフト上をスライダが長期的にスムーズに安定して精度良く運動することが求められる機械要素であるから、十分な耐久性が必要となっており、そのためには潤滑性と防塵性が重要視されている。たとえばスライダの内部へ粉体や異物が侵入すると、転動体の滑り性が悪化してスライダの寿命が大きく低下してしまうこととなる。また摩擦が高まることで動作不良にも至ることとなる。直動機構は、粉体や切削異物等の塵が大量に存在する環境下で用いられることも多いので、トラブルが生じやすい場面も多いので、直動機構を用いた機械や機器全体の動作不良をも招来しかねないものとなる。
【0006】
そこで、粉体や異物が大量に存在する環境下で使用しても動作し続けるよう、転動体を有する装置全体をジャバラで覆い、異物の装置への侵入を防ぐ機構が提案されている。しかし、ジャバラで覆うとなれば機構の周囲が大きく覆われることとなり、さらにジャバラを取り外す必要があるなどメンテナンス性も良いとは言い難くなる。また、ジャバラで覆うといっても粉体や異物の侵入を完全に阻止することは容易ではないので、ジャバラの内部に一旦侵入した粉体や異物によって、てきめんに動作不良を招来することとなるので、メンテナンス頻度を低減することは難しいものであった。
【0007】
そこで、直動ガイドのスライダ部の内部へ粉体や異物が侵入して動作不良となることを避けるべく、ニトリルゴムなどの合成ゴム、樹脂、金属スクレーパー、ブラシのいずれか又はこの複数で構成されたシール部材を、スライダの端部や、スライダと転動体との隙間に配設したり、チェーンの内プレートと外プレートの間にプレートに当接するように設置された弾性体で構成された合成樹脂で出来たシール材を配設するものが利用されている(たとえば特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、シール部材とスライダの転動面との間には僅かな隙間が生じやすく、隙間を低減しようとするとあらかじめシール部材を所定の形状となるように厳密に製造しなければならず、シール部材の製造コストが高くつくものとなってしまう。また、シール材自体がソリッドなゴム等の材質であるため、異物により欠けや変形が発生し易く、一旦欠けが生じると、欠けた箇所から大量に異物が流入してしまうことが懸念される。また、厳密にシール性を確保する調整は容易ではなく、シール材としての役割を果たすようシールユニット取り付けの際に治具等を用いてレールに当接するようにして隙間を失くそうとすると、今度は付加トルクが上昇するので往復運動の摩擦が大きくなるなどの問題が生じてしまうこととなる。
【0009】
また、現状の直動機構のシールユニットではシールと潤滑とは別々な部品である。端部シールとは別に、不織布やファイバーネットなどのグリス保持機構からグリスを供給し続ける仕組みを備えていることから、取り付け寸法が大きくなり駆動範囲にロスが発生し、装置の大型化の一因にもなっている。また、グリスが粉体や異物に取り込まれて塊となると、シール材の欠けや変形を大きく生じさせてしまうので、十分なシール性がない状況下では、直動機構の動作不良を引き起こす要因ともなっている。
【0010】
さらに、繰り返し運動によってシール部材の変形や摩耗が生じることによりシール部材の削れが発生してシール機能が損なわれると、潤滑剤の流出やスライダ内部への粉体や異物の侵入による動作不良につながる。そこで、安定的な運用には、頻繁な清掃とシール部材および潤滑に用いるグリスの交換が事実上必須となっており、維持管理費用が増大する傾向にあった。
【0011】
そして、頻繁な清掃とシール部材および潤滑に用いるグリスの交換を行っていても、直動ガイドが粉体や異物により損耗してくると、交換後のシール部材が当接せず隙間が生じるため、その隙間に粉体や異物が多量に混入して直動ガイドやボールねじを有するガイド機構やチェーン自体が使用不能となり、装置そのものの交換が余儀なくされている。
【0012】
そこで、出願人は、表地経糸と表緯糸の表層部と、裏地経糸と裏緯糸の裏層部の二層からなる経緯二重織の構造のカットパイルの地糸部を基台の内面側に固定し、カットパイルの地糸部からさらに内面側に向けて浮かせたパイル繊維の輪奈の先端をカットして起毛させたカットパイルの毛先をシャフトの断面形状に沿って当接せしめるように配した、カットパイルからなるシール材をスライダの前端部および後端部に配した直動機構用サイドシールユニットを提案している(たとえば特許文献2参照。)。
【0013】
もっとも、カットパイルのみで粉末や異物を長期間シール性を保持するには未だ十分ではない場合があり、たとえば粉末が紙粉のように潤滑剤を吸いとってしまうような微粉末の含まれる環境下では、乾いたカットパイルが摺動することとなるので、防塵性を十分に保持できなかったので、さらなる高いシール保持性が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-231843号公報
【文献】WO2015/086138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本願発明が解決しようとする課題は、位置決め精度が高くかつ長寿命な直動機構であるために、高い防塵性と潤滑性を備えた直動機構の端部シール材を提供することである。とりわけ、数μmの微細粉体のみならず、数μmの紙粉のような潤滑剤を吸いとって潤滑性を奪うような微細な粉塵がある劣悪な環境下においても、防塵性と潤滑性を長期に保持しうるような端部シール部材を提供することである。そして、潤滑剤をより保持しやすくさらに長期に供給維持しうる端部シール部材であることである。また、端部シール部材の取り付けや交換が容易でメンテンナンス性が高い簡易な扱いやすい構造である端部シール部材を備えた直動機構を提供することである。すなわち、組み付け時に厳密に当接状態を調整する手間を必要とせず、簡易に取り付けができる、追従性の高いシール材を提供することであり、シャフト等の摺動部位の摩耗や複雑な形状に対する追従性が高く調整幅が大きく調整が容易なシール材を提供すること、そうしたシール材を用いた直動機構である。
また、従前、シール材の脱着や交換といったメンテナンスをするには、スライダのスムーズな運動性の確保のために、クリアランスの適切な調整が必要であり、熟練者による交換が必要となったりしていたので、より簡易に脱着交換が可能となるような、ラフな取り付けでもシールド性が確保しやすい、調整代の大きなシール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題を解決するための第1の手段は、
レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に取り付ける端部シール材であって、
該端部シール材は、
該レールの外周に配された支持枠体と、
該支持枠体の内周面に裏面が固定された基布部と、
該基布部の表面から突出するカットパイルを有し、
該カットパイルの毛先部は該レールと該支持枠体との隙間を塞ぐように屈曲してレールに当接するものであって、
該カットパイルのパイル繊維間に潤滑剤があらかじめ保持されていること
を特徴とする、湿式のカットパイルからなる端部シール材である。
【0017】
本発明の第2の手段は、カットパイルのパイル繊維間に保持されている潤滑剤は、JIS K2220における稠度番号が1号~4号のグリスであること、を特徴とする、第1の手段に記載の端部シール材である。すなわち、グリス(grease)の混和稠度範囲は175~340である。さらにグリスはカットパイルの基布にも保持されていてもよい。
【0018】
本発明の第3の手段は、グリスがリチウムグリス、モリブデン化合物配合グリス、ウレア系グリスのいずれかであることを特徴とする、第2の手段に記載の端部シール材である。リチウムグリスとは、リチウム石けん系グリスであり、さらに二硫化モリブデンが添加されていてもよい。ウレア系グリスとは、たとえば、ジウレアグリス、トリウレアグリス、テトラウレアグリスである。
【0019】
本発明の第4の手段は、カットパイルのパイル長が2mm以上であること、を特徴とする、第1から第3のいずれか1の手段に記載の端部シール材である。パイルの毛先が、支持枠体の内周とレールとの隙間で曲がって噛み込むことができる長さであることから、隙間で屈曲しうる長さとして、2mm以上のパイル長であることが好ましい。さらに好ましくは3mm以上である。
【0020】
本発明の第5の手段は、カットパイルのパイル繊維は捲縮されたマルチフィラメント繊維から構成されていること、を特徴とする、第1から第4のいずれか1の手段に記載の端部シール材である。また、捲縮されたパイル繊維の各フィラメントの断面は、丸断面以外に、さらに星型や*型あるいは中空断面などの異形断面であって、表面積がより大きくなる断面形状であることが好ましい。
【0021】
本発明の第6の手段は、カットパイルが織物からなること、を特徴とする、第1から第5のいずれか1の手段に記載の端部シール材である。
【0022】
本発明の第7の手段は、カットパイルが編物からなること、を特徴とする、第1から第5のいずれか1の手段に記載の端部シール材である。
【0023】
本発明の第8の手段は、第1から第7の手段のいずれかに記載の端部シール材を、スライダの両端に脱着交換可能に固定したレールとスライダからなる直動機構である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の課題を解決する上記の手段によると、端部シール材は、潤滑剤をあらかじめ保持した状態であって、カットパイルのパイルの毛先がレールと当接して屈曲するようになっている。すなわち、レールと支持枠体の内周との隙間でパイルの毛先部が折れ曲がって噛み込むようになっているので、密着性が高く、直動動作の間、隙間をしっかりと塞ぐこととなるので、スライダに微細な粉体や粉塵といった異物が侵入することを排除することができる。さらに、予めグリス等の潤滑剤がパイル繊維間に保持された状態となっており、直動動作後も長期にわたってパイルがこれらの潤滑剤を保持することができるので、隙間に噛みこんだ毛先も潤滑剤によって滑らかに滑ることから、摩擦で動きが悪くなりにくく、スライダのスムーズな運動を妨げることがない状態で潤滑剤がパイル間に保持されることで粘度を伴ってシールド効果を高めるので、高い防塵効果を長期的に得ることができる。すなわち、スムーズな駆動のための潤滑剤の給油よりも、シールド性保持のための保湿剤的なものとしてパイル間や基布に保持されることで、毛先が湿ったように適切な粘度をもちあわせることとなるので、高いシールド性が長期に得られるのである。
【0025】
そして、シールド保持のための潤滑剤が、適度な稠度のグリスであれば、パイル繊維間に十分な量をあらかじめ保持させることができ、かつ直動等の摺動後も、長期間にわたって繊維間にグリスが保持された状態を維持できることから、粘性ある湿式のシールドを備えたパイルとして、シールド性を長期に安定して保持させることができる。
【0026】
また、パイル間に保持させる潤滑剤が、適度な稠度のグリスであれば、数μmの微細な粉末や粉塵を長期に防塵することができる。さらに数μmの微細な紙粉のような、紙繊維がオイルを吸い込んでしまうような粉塵であっても、グリスは紙繊維に吸い取られすぎることがなく、一定程度の保湿状態を保つことができ、パイルにグリスが保持された状態を維持できるので、シール性、潤滑性が阻害されず、長期間スムーズにスライダが稼働しつづけることとなる。
【0027】
シールドとなる毛先が屈曲して隙間に噛み込むように入り込むことから、粉塵等の侵入を阻止しやすいのみならず、湿式で滑ることから摩擦抵抗が少なく、スライダの運動を妨げないので、屈曲させるように密着させることに支障が生じない。そこで、シール材の脱着交換や取り付け時に、熟練者による厳密なクリアランス調整を要せずとも、シール材の屈曲によってクリアランス調整が可能となることから、適切なシールド性が確保しやすくなる。そこで、定期的に必要となるシール材の脱着交換に際して、熟練者を派遣せずとも、客先にシール材の交換部品を供給するだけで、熟練を要さずに簡易に交換することが可能となり、安定的なシールド性を調整不要で確保することができうるものとなる。このように脱着が容易なので、メンテナンスの交換が現場の判断で適宜実施でき、比較的ルーズな素人による交換でもシール性能が発揮可能となる。
【0028】
すなわち、当接するシール材のパイルは、パイル繊維の屈曲時の反発力によって均一にレールに当接しやすいものとなっている。またパイルの毛先が食い込むように折れ曲がって隙間に噛み込むものとなるので、パイル装着時にパイルの反発力で均一になりやすいことに加えて、多少の偏りが生じたところで、噛みこんだパイルが隙間を塞ぐので、シール性が損なわれにくく、さらに粘度ある湿式の潤滑剤がパイルの周囲に保持されているので、よりシール性が保持されやすいものとなっている。このように意図的に噛みこませたことで、ゴムやフエルトのような接する調整を厳密にしなければ摩擦抵抗が高まる材質のものに比べて調整しやすく、スムーズで防塵性も高いものとなる。
【0029】
なお、シール性能を発揮させるためにパイル繊維間に潤滑剤を保持させることによって、高いシールド性が得られるので、付随的に潤滑用のグリス等の使用量を低減させることができるので、スライダ側の潤滑用グリスの給油機構を簡略化することも可能となりうる。そこで、薄幅のシール材によって、給油機構を省スペース化できるなど、スライダ機構部を小型化させることもできる。
【0030】
また、パイル繊維の各フィラメントを捲縮された状態のマルチフィラメントとすることで、パイル繊維毎の表面積を増大させ、かつグリスをパイル繊維間に絡みやすく大量に保持しうるものとすることができるので、潤滑剤を長期に供給する供給源としてシールド性を長く維持させることができる。
【0031】
さらに、カットパイルが織物の場合、カットパイルの基布に十分な厚みを確保しやすいので、基布にグリスを十分に保持させることができるので、より長期にシール用の潤滑剤をパイル繊維に供給しうることが可能となり、シール材の交換頻度を減らしてもシール性が劣りにくく、シール材ならびに直動機構の長寿命化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】Bタイプ、Cタイプのパイル及びフェルトを用いた場合のGap(mm)と反発荷重(gf)との関係を示す反発荷重曲線。
図2】埋めるべき隙間に曲面がある場合に用いられる端部シール材の一形態を説明する図。ボールねじの雄ねじ軸の外周に配される分割された一方の支持枠体のボールねじの螺旋状に溝部に対向配置される位置に、ボールねじの螺旋状に溝部に1周あるいは2周できる長さにわたってグリスを含んだ湿式のパイルを有するシール部材を回転させながら差し込んで対向配置し、分割されたもう一方の支持枠体をはめ合わせた後、該湿式のシール部材の支持枠体からの抜け止めとして、支持枠体にプレートを差し込み固定する手順を示す。
図3】埋めるべき隙間に曲面がある場合に用いられる端部シール材の一形態を説明する図。ボールねじの雄ねじ軸の外周に配される支持枠体のボールねじの螺旋状に溝部に対向配置される位置に、ボールねじの螺旋状に溝部に少なくとも1周から3周できる長さにわたってグリスを含んだ湿式のパイルを有するシール部材を挿入して対向配置した後、該湿式のシール部材の支持枠体からの抜け止めとして、支持枠体にプレートを差し込み固定する手順を示す。
図4】埋めるべき隙間に曲面がある場合に用いられる端部シール材の一形態を説明する図。ボールねじの雄ねじ軸の外周に配される支持枠体を分割し、ボールねじの螺旋状に溝部の山部と谷部のそれぞれに対向配置される位置に、ストライプ状にグリスを含んだ湿式のパイルを有するシール部材を対向配置した後、該支持枠体をボールねじの任意の位置に被せて一体化させる手順を示す。
図5】埋めるべき隙間に曲面がある場合に用いられる端部シール材の一形態を説明する図。ボールねじの螺旋状に溝部に少なくとも1周以上できる長さにわたって対向配置されるようパイルをボールねじの螺旋状に溝部に沿うようにストライプ状にカットしたグリスを含んだ湿式のシール部材を、ボールねじの雄ねじ軸の外周に配される支持枠体に、ボールねじの螺旋状に溝部に少なくとも対向配置されるよう挿入して一体化させる手順を示す。
図6】レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に、本発明の手段の端部シール材が取り付けられた状態を説明する図。
図7】レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に、本発明の手段の端部シール材を取り付ける方法を模式的に説明する図。
図8】レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に、本発明の手段の端部シール材が取り付けられた状態を模式的に説明する断面図。スライダはレール上を左右方向に移動する。
図9】レールとスライダからなる直動機構のスライダの両端に、本発明の手段の端部シール材が取り付けられた状態を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の形態を、実施例の記載と図面を適宜参照しつつ以下に具体的に説明する。本発明の直動機構における実施の形態の1つとして、図7図8図9に、レール7とスライダ8からなるリニアガイドからなる直動機構6を示す。このリニアガイドでは、スライダ8の両端部に、本発明の手段の端部シール材9をレール7の外周にカットパイル10の先端が接するように配し、端部シール材9を外装体14で覆い、外装体14をねじ13でスライダ8と固定している。
【0034】
端部シール材9は、スライダ8のレール7との摺動部の前端と後端に配されている。端部シール材9は、外枠となる支持枠体11の内周面に、基布部12の裏面が接し、基布部12の表面には毛先が突出するカットパイル10が無数に配されている。端部シール材9は、前後に移動するスライダ8の端部にそれぞれ固定されており、図8であれば、スライダ8は水平方向すなわち図面上を左右に移動するので、図8ではスライダ8の左端と右端に端部シール材9が配される。端部シール材9は、レール7とスライダ8との摺動部位の前後を覆うように、カットパイル10の先端をレール7の表面に軽く接触させるように当接させた状態で配される。すなわち、カットパイル10によって、レール7とスライダ8との隙間を塞ぐようにシールされている。
【0035】
図8に示す端部シール9では、短冊状の金属板(たとえばアルミ板)の一方の面上に、基布の表面からカットパイルが突出している基布部の裏面を貼り付けたものであって、レール7の横断面形状にカットパイルの先端を沿わすことができるように、カットパイルを内側に、金属板を外側にするように折り曲げて形成させることができ、これにより、コの字状の支持枠体11の内周にカットパイル10が配されている本発明の端部シール9を簡単に得ることができる。
【0036】
カットパイル10の繊維間には、グリスなどの潤滑剤をあらかじめ保持させておく。そこで、端部シール材9は湿式であることからシール性が高まった状態で使用されるものとなっている。また、カットパイルの基布側近傍の潤滑剤成分は、カットパイル10の先端に染みだすことができるので、適宜当接面へと補充されるようになる。そこで、潤滑剤成分がレール7との摺動時に自然と補充されるので、潤滑不足となりにくい構造となっている。
【0037】
なお、端部シール材9は、ねじ13で外装体14を介して固定しているだけなので、スライダ8と固定しているねじ13を弛めて外装体14を外せば、端部シール材9は容易に取り外し、交換、清掃、注油等のメンテナンスをすることができる。
【0038】
また、以下の説明に用いる直動機構としては、リニアガイドを用いた試験を実施した関係でリニアガイドを代表にして説明しているが、他の直動機構にも当てはまる内容であるから、当該記載によって直動機構の態様が限定して解釈されるものではない。
【0039】
<試験例1:直動機構用の湿式端部シール材におけるパイル織物及びパイル編物のグリス保持性およびグリス供給力の確認>
【0040】
<材料と方法>
【0041】
・評価パイルについて
直動機構用の湿式端部シール材におけるパイル織物及びパイル編物のグリス保持性及びシール性の評価を行うに当たり、該湿式端部シール材に用いるパイル織物及びパイル編物として、計5種類を選定した。選定したパイル織物及びパイル編物の構成の詳細を、下記の表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1におけるPタイプのパイル織物におけるパイルは、起毛のパイル繊維が1種類の直毛繊維を用いたものである。選定したパイル織物及びパイル編物の中では、繊維径が大きい。密度は1インチ四方あたり37万8千本である。そして、パイルを固定する基布の地糸部が緯糸(ナイロン/熱融着糸)、経糸(ナイロン)による織物で、表層部と裏層部の二層からなる経緯二重織になっている。カットパイルの抜けを低減させるために、基布の地糸部には裏面側からアクリル系エマルジョンを浸透させている。
【0044】
Cタイプのパイル織物におけるパイルは、中空繊維及び多孔繊維を用いた捲縮性を有するものであり、起毛のパイル繊維が1種類の、3.0デニールのビオセーフと1.5デニールのアクアロンと1.5デニールのレーヨンの混紡であり、密度は1インチ四方あたり31万6千50である。そして、パイルを固定する基布の地糸部が緯糸(ポリエステル)、経糸(ポリエステル/レーヨン)による織物で、表層部と裏層部の二層からなる経緯二重織になっている。カットパイルの抜けを低減させるために、基布の地糸部には裏面側からアクリル系エマルジョンを浸透させている。中空及び多孔の繊維を用いたものとすることにより、同じ繊維径の直毛繊維を用いたものに比して、パイルにおける表面積が増える。
【0045】
Gタイプのパイル織物におけるパイルは、Cタイプと同様に捲縮性を有するパイルのものであるが、パイル列の半分をCタイプの中空繊維及び多孔繊維を用いた捲縮性を有するパイルとし、残り半分のパイル列を中空・多孔ではない通常の繊維を用いた捲縮性を有するパイルとしたものである。起毛のパイル繊維が2種類あるものであって、基布となる地糸部の緯糸に、パイル繊維が1種類ずつ交互に固定されている。1列目のパイルが3.0デニールのビオセーフと1.5デニールのアクアロンと1.5デニールのレーヨンの混紡であり、2列目のパイルは3.0デニールのバルキーと3.0デニールのレギュラーと1.5デニールのレーヨンの混紡からなる。繊維の密度は27万6千675である。そして、パイルを固定する基布の地糸部が緯糸(ポリエステル)、経糸(ポリエステル/レーヨン)による織物で、表層部と裏層部の二層からなる経緯二重織になっている。カットパイルの抜けを低減させるために、基布の地糸部には裏面側からアクリル系エマルジョンを浸透させている。Gタイプのパイル織物をCタイプのパイル織物と比べることで、パイルに用いる繊維を中空及び多孔とすることが、グリス保持性およびグリス供給力にどの程度寄与するかについて確認する。
【0046】
Tタイプのパイル織物におけるパイル繊維は、*型のように外周が割られた形状の異形断面のフィラメントを用いたマルチフィラメントからなる、捲縮されたパイルである。選定したパイル織物及びパイル編物の中では最も高密度である。繊維を分割しているために複雑で高価であるが、中空及び多孔の繊維を用いたものよりも表面積が増えていることから、グリスの保持性と供給力が高い。
【0047】
なお、試験に用いる上記各タイプのパイルにおけるパイル長は3.3mmである。
【0048】
Bタイプのパイル編物におけるパイルは、通常の繊維を用いた捲縮性を有するパイルを用いたものである。編みの性質上パイル長を長くする事が出来ず、他Pタイプ、Cタイプ、Gタイプ及びTタイプのパイル織物のものと比較してパイルの厚みが薄くなっており、試験に用いるパイルのパイル長は2.3mmである。
【0049】
・フェルトについて
直動機構用の湿式端部シール材におけるパイル織物及びパイル編物のグリス保持性及びシール性の評価あたり、評価パイルとの比較を行うため、評価パイルに近い厚みのフェルト(ポリエステルフェルト、3mm厚、密度0.2g/cm2、耐熱温度0~120℃)を用いる。
【0050】
・グリスについて
各ライプのパイル及びフェルトの評価において、リチウムグリス(稠度No.1~No.3)のグリスをそれぞれ用いた。また、Cタイプのパイルを評価するために、さらに、稠度No.2のモリブデン化合物配合グリス(Mo系)、稠度No.2のウレア系グリス(ウレア系)、及び、比較用としてフッ素オイルを使用する。
【0051】
・グリス保持性評価方法について
次に示す評価方法により、上記の各パイル織物及びパイル編物のグリス保持性を評価する。評価サンプルを以下の手順に従って作成する。
【0052】
選定した評価パイルを1cm四方に2片切り出す。200mm×30mm四方の測定端子となる金属板に、切り出した2片の評価パイルを、各パイルの中心間の距離が150mmとなるように間を保持して両面テープを用いてそれぞれ貼り付け、塗布グリスを塗布する前の乾燥時の重量(乾燥重量)を測定する。貼付した評価パイルに、上記塗布グリスをグリスガンを用いて含浸限界量まで塗布し、重量(塗布後重量)を測定する。なお含浸限界量は目視で判断する。塗布後重量-乾燥重量を、塗布グリスの塗布量として記録する。
【0053】
回転速度を任意に設定できる回転台の上に、直径200mm程度のアルミニウム製の円板を中心を回転台の中心に合わせて設置した評価機を準備する。上記の塗布グリスを塗布した2片の評価パイルを貼付した測定端子となる金属板を、当該2片の評価パイルの中間点を直径200mm程度のアルミニウム製の円板の回転中心に合わせて下向きにして評価パイルのパイルが直径200mm程度のアルミニウム製の円板に接するようにして接触させる。測定端子となる金属板の上から、評価パイルを貼付した2つの測定端子に対しての合計値として30Nの荷重をかけながら、評価機の回転台を500mm/秒の摺動速度で5分間回転させる。
【0054】
回転を停止させた後、塗布グリスを塗布した2片の評価パイルを貼付した測定端子となる金属板を取り外して、その重量(摺動後重量)を測定する。塗布後重量-摺動後重量を塗布グリスの流出量として記録する。
【0055】
さらに、評価パイルの換えてフェルトを用い、ステアリン酸リチウムグリス(稠度No.2)のグリスを用いる以外の点は上記と同様にして、評価を行う。
【0056】
<結果>
評価結果を、以下の表2-1及び表2-2に示す。
【0057】
【表2-1】
【0058】
【表2-2】
【0059】
これらの表に示す結果から、グリス保持性とグリス供給性に関して、以下のことが判明した。
【0060】
グリスの含浸限界量は、使用するパイルに備わる特性により異なっていた。そして、捲縮性を有するパイルの方が、表面積が広くて密度が少ないにも関わらず、塗布したグリスの含浸限界量が多くなり、より多くの量のグリスがパイル内に保持できていた。捲縮タイプのパイルの方が、直毛タイプのパイルよりもグリス保持性が高いことが理解される。
【0061】
また、捲縮性を有する繊維同士のグリスの含浸限界量は、パイル密度の差により異なっていた。そして、捲縮性を有する繊維同士では、パイルの密度が高くなると表面積が増えてグリス含浸限界量が増加し、より多くの量のグリスをパイル内に保持できていた。捲縮性を有する繊維を用いる場合には、パイルの密度が高い方が、パイルの密度が低い場合よりもグリス保持性が高いことが理解される。
【0062】
グリスの流出量についても、使用するパイルに備わる特性により異なっていた。そして、捲縮性を有する繊維を用いたパイルの方が、直毛繊維を用いるパイルに比して、グリス流出量が多くなることが明らかとなった。直毛タイプのパイルの方が捲縮タイプのパイルに比してより短時間でより多くのグリスが流出してしまい、グリス供給量が過剰になるとともにグリス供給可能時間が短くなることが理解される。
【0063】
そして、直毛であるPタイプのパイルは、表面積が小さくてグリスが保持できず、最もグリス流出量が多かった。一方、捲縮タイプであるCタイプ及びGタイプのパイルは、繊維の一部又は全てに中空多孔繊維を用いており、さらに捲縮がかっているため表面積が増大し、グリス保持量が増加したことが考えられた。そして捲縮タイプであるCタイプにて確認した結果から、リチウム系グリスのみならず、ウレア系のグリス及びモリブデン系のグリスを用いた場合においても、グリス保持性とグリス供給性に関し同等の特性を示すものであることが判明した。他方、Bタイプでは、パイルの厚みが薄くなり、含浸限界量は少なく、密度が低いにもかかわらず他の捲縮タイプと比較して劇的に流出量が増加する傾向には無かった。
【0064】
以上より、直動機構用の湿式端部シール材に用いるパイルに中空多孔繊維を用い表面積を増やすことで、パイルへのグリス保持量を高めるとともに、保持されたグリスを流出しにくくして過剰なグリス供給を抑止しつつより長いグリス供給可能時間を確保したものとすることができることが明らかとなった。
【0065】
実使用においては、使用中における直動機構用の湿式端部シール材のパイルへのグリスの補充が困難で、より長時間継続して使用されることから、一定時間におけるグリス流出量が少なく、グリスの供給がより長期間継続して行えるCタイプ又はTタイプを使用することが好ましい。
【0066】
他方、フッ素オイルを用いた場合にはその粘度が、上記のリチウムグリス、モリブデン化合物配合グリス、ウレア系グリスに比べて大幅に低いため、オイルの含浸限界量は340mgと4倍以上の含浸が可能となっているが、その分フッ素オイルの流出量は多く、含浸させた量の60%以上が流出し、パイル内に残るオイルの量は40%未満となってしまう結果となった。この為、上記のリチウムグリス、モリブデン化合物配合グリスおよびウレア系グリスと比較して、パイル内に残るオイルの量が少なく、耐久性に問題がある。また、粘度の低いフッ素オイルが直動機構の装置内に漏れ出し、他の潤滑剤と混ざって所期の性能を低下させたり、動作不良を引き起こすことが懸念される結果となった。
【0067】
<試験例2:直動機構用の湿式端部シール材ユニットにおけるシール性能の確認>
【0068】
<材料と方法>
【0069】
・評価方法について
直動ガイド両端部にシール材を取り付け、指定速度及び指定時間で摺動させた後のシール性能を測定する。
【0070】
パイルは、試験例1で用いたものと同様のパイルを用いる。さらに、比較検討用として、該パイルに換えて、エラストマー素材でニップを設けたエンドシールを用いた現行品及び試験例1で用いたものと同様のフェルトを用い、試験を行う。
【0071】
リニアガイド外周形状に成型した幅5mmのパイルを直動ガイド端部に取り付けるプレートに貼り付け、塗布グリスとしてステアリン酸リチウムグリス(稠度No.2)を、パイルへのグリスの塗布量が4mg/cmとなるようにして塗布し、評価サンプルとなるシール材を作成する。Cタイプのパイルでは、ステアリン酸リチウムグリス(稠度No.2)に換えて試験例1で使用したフッ素オイルを塗布したものも作成する。
【0072】
そして、直動ガイド両端部に作成したシール材を、レールとパイルの支持枠体との隙間の厚みが2.0mmとなるようにして、レールとパイルの支持枠体とのを塞ぐようにパイルを屈曲させながら当接させる。さらに、該直動ガイドの両端部に備えたシール材とレールとの間に紙粉をボックスに封じ込め、セットする。Cタイプのパイルでは、紙粉に換えてトナーをボックスに封じ込めたものも同様にして作成し、セットする。
【0073】
その後、直動ガイドを摺動させてシール材における紙粉またはトナーに対するシール性を調査すべく、直動ガイドの最高速度を400mm/秒、評価時間を最大24時間として連続的に従動させる条件にて摺動させ、紙粉またはトナーの漏れと紙粉またはトナーの上記シール材におけるパイル中への侵入の程度を確認する。
【0074】
紙粉またはトナーが幅5mmのパイルを透過してきて漏れ出た時点で停止させる。紙粉またはトナーが漏れ出なかった場合には、シール材を構成する湿式パイルの繊維中への紙粉またはトナー侵入量を測定し、シール性として評価する。侵入量が5mm以上となって紙粉またはトナーがが漏れ出てしまった場合には、紙粉またはトナー漏れが実用不可な程度にまで生じたとして記録する(表には×として記載する)。
【0075】
<結果>
評価結果を、以下の表3-1及び表3-2に示す。
【0076】
【表3-1】
【0077】
【表3-2】
【0078】
パイルにグリスを塗布しない場合には、いずれの条件においても、紙粉またはトナーが幅5mmのパイルを透過して漏れ出てしまった。一方、パイルにグリスを塗布した場合には、24時間として連続的に摺動させ続けても紙粉漏れが発生しないものが確認された事から、パイルにグリスを塗布したことにより付与された紙粉のシール性能は、非常に高いものであることが理解される。
【0079】
そして、使用するパイルの特性によりシール性能が異なっており、直毛タイプのパイルは、捲縮タイプのパイルに比して、シール性が低く、パイルへの侵入の程度も大きいことが判明した。直毛タイプのパイルは、捲縮性を有していないために繊維間に隙間が発生して、紙粉漏れが発生しやすくなると考えられる。直毛タイプにてシール性を確保するためには、直動ガイドのガイドレールとシール材とのGapの幅をより狭めるように設定する事で対応することは可能である。しかし、摺動抵抗が増大するデメリットがある。
【0080】
捲縮タイプのパイルを使用するシール材は、使用するパイルの種類により紙粉のシール性が異なることが判明した。Gタイプでは、Gapの幅が2.3mmにまで広がると、パイルへの紙粉侵入量が増大し、紙粉漏れが発生した。Gタイプは、Cタイプ及びTタイプと比較してグリス保持性が少ないことから、シール性が不完全となる部分が生じ、その結果、紙粉漏れが発生したと考えられる。グリスを保持させたCタイプでGap幅を1.5mmとすると、紙粉及びトナーのいずれにおいても同様の良好なシール性を発揮した。他方、Tタイプは密度が高いため、紙粉侵入量が何れの条件においても低い。
【0081】
パイルの噛み込みに関しては、カットパイルの毛先部をレールと支持枠体との隙間を塞ぐように屈曲してレールに当接させ、レールに噛み込ませるようにしたもののほうが、全体的にシール性が高い傾向にあり、特にCタイプ及びGタイプでは、パイルを噛み込ませることによるシール効果が大きくなった。ただし、Gap幅を2.3mmとしてパイル毛先しか噛み込まないようにすると、シール性は高まらず、効果が薄くなった。また、Gap幅を1.5mm~2.0mmとしっかりと噛み込ませると、低密度のパイルであってもシール性を向上させることが可能なことが判明した。Bタイプではその構成からパイルの厚みが薄いためにGap幅を1.5mmと狭めた今回の試験では十分にシールが出来ていないが、Gap幅をさらに狭めれば、シール性を発揮させることが期待できることが理解される。
【0082】
他方、現行のエンドシールでは、表面より紙粉が漏れ出てしまい、シールする事が出来なかった。
【0083】
また、フェルトを用いた場合には、パイルと比較すると反発荷重の上昇推移が早く、Gap幅として使用可能な領域が狭いため、取り付けの調整が困難であり、取り付けたとしてもトルクの上昇を招くことが明らかとなった(図3)。また、シール性についても、フェルトの角部より漏れが発生し、シール材の素材として適していないことが明らかとなった。
【0084】
以上より、シール性の観点から捲縮タイプの繊維の方がシール性が高く、噛み込みによりシール性を補う事ができ、より安価なシール材を作成することが出来ることが明らかとなった。
【0085】
<試験例3:直動機構用の湿式端部シール材ユニットにおける摺動抵抗の確認>
【0086】
<材料と方法>
【0087】
・評価方法について
直動ガイド両端部にシール材を取り付け、指定速度及び指定時間で摺動させた後の抵抗値を測定する。
【0088】
試験例1で用いたものと同様のパイルを用いた。リニアガイド外周形状に成型した幅5mmのパイルを直動ガイド端部に取り付けるプレートに貼り付け、塗布グリスとしてステアリン酸リチウムグリス(稠度No.2)を、パイルへのグリスの塗布量が4mg/cmとなるようにして塗布し、評価サンプルとなるシール材を作成する。そして、直動ガイド両端部に作成したシール材を、レールとパイルの支持枠体との隙間の厚みが2.0mmとなるようにして、レールとパイルの支持枠体とのを塞ぐようにパイルを屈曲させながら当接させる。
【0089】
その後、直動ガイドの最高速度を400mm/秒、評価時間を30分に設定して連続的に従動させた後に停止させ、直動ガイドをフォースゲージ端子で押し、摺動抵抗の値を測定する。
【0090】
<結果>
評価結果を、以下の表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
これらの表に示す結果から、直動機構用の端部シール材における摺動抵抗に関して、以下のことが判明した。
【0093】
全体的な傾向として、パイルにグリスを含浸させて湿式端部シール材とした場合には、パイルにグリスを含浸させてていないものに比して、摺動抵抗が下がることが明らかとなった。またパイルをリニアガイドレールに押しつけて噛み込ませた状態とすることでシール性は向上するが、他方、摺動抵抗は上がってしまうことが明らかとなった。
【0094】
直毛タイプであるPタイプのパイルを用いた直動機構用の端部シール材は、直毛繊維を用いたものであることから、リニアガイドレールとの抵抗が少なく、摺動抵抗は低くなっていた。
【0095】
捲縮タイプであるCタイプ及びGタイプのパイルを用いた直動機構用の端部シールは、繊維の形態が似通っている為か同じような摺動抵抗が得られているが、密度の差より僅かにGタイプのほうが摺動抵抗は低くなっていた。
【0096】
捲縮タイプであるTタイプは、分割形状の*型の異形断面繊維を用いた捲縮性を有する繊維を用いており、異形断面で表面積が大きく密度が高いためにシール性は良いが、密度が高いゆえに他のフィラメント形状よりも摺動抵抗が高めになっていた。
【0097】
Bタイプは、編物であり基布が薄いことから、パイル厚みが2.3mmであるのに対してGapが2.0mmである為、パイル糸がリニアガイドレールに僅かにしか食い込んた状態になっていない。そこで、総じて摺動抵抗は低かった。
【0098】
比較として現行品のエンドシールにても、実使用を想定して、同様の試験をグリス有りの条件のみにて行い評価したが、現行品のエンドシールはエラストマー素材を用いているためにリップによる抵抗が大きく、パイルを用いる場合に比して摺動抵抗は大きかった。
【0099】
以上より摺動抵抗が高いとシール性に効果があるが、Cタイプ及びGタイプのパイルを用いた試験例の結果からみて、リニアガイドレールにパイルを噛み込ませた状態にするによって、摺動抵抗が低くても十分なシール性を確保する事が出来るようになることが理解される結果となった。
【0100】
<試験例4:曲面に対するシール性の確認>
上記各試験例1の結果から、カットパイルのパイル繊維間にグリスがあらかじめ保持された湿式のカットパイルからなる端部シール材は、パイル繊維間にあらかじめグリスが保持されているカットパイルの毛先部は、該レールと該支持枠体との隙間を塞ぐように屈曲してレールに当接することで、摺動抵抗が低くても、極めて効果的に、十分なシール性を確保する事が出来ることが判明した。
【0101】
ところで、直動機構は、埋めるべき隙間が平滑面から構成されているものが多いが、埋めるべき隙間に曲面があっても、同様に摺動抵抗が低くても、極めて効果的に、十分なシール性を確保する事が出来るものとなるかについても確認を行うべく、埋めるべき隙間に曲面があるものの一例として、隙間形状がより複雑な曲面で構成されているボールねじを用い、埋めるべき隙間が平滑面から構成されている直動機構に用いる場合と同様に、本発明のものが、パイル繊維間にあらかじめグリスが保持されているカットパイルの毛先部が隙間を塞ぐようにボールねじに沿って屈曲し、十分なシール性を確保する事が出来るものとなっているかについて確認する試験を行った。
【0102】
<材料と方法>
【0103】
・評価方法について
ボールねじ端部にシール材を取り付け、指定速度及び指定時間で摺動させた後のシール性の性能を、ボールねじのレール溝部表面に残存したトナーの量及びその分布によって評価する。
【0104】
円弧状の連続的な溝部を備えた雄ねじ軸とナット部とが雄ねじと雌ねじの間に挿入された多数の鋼球を介して螺合され、ナットが雄ねじ軸上を前後に送られるボールねじと、該ボールねじのナット部の前方あるいは後方に取り付けられる雄ねじ軸の外周を1回転分以上の長さにわたって溝部に対向するようにして支持枠体内周に螺旋状に配されたCタイプのパイルを支持枠体内周に螺旋状に配列した端部シール材、及び、ボールねじの溝部と等ピッチに、ねじ軸の外周を1回転分以上の長さにわたって溝部に対向するようにして該支持枠体内周に螺旋状に配列させるためのCタイプのパイルを準備する。
【0105】
該支持枠体の内周にCタイプのパイルを、ねじ軸の外周を1回転分以上の長さにわたって溝部に対向するようにして配設する。そして、Cタイプのパイルに、塗布グリスとしてステアリン酸リチウムグリス(稠度No.2)を、パイルへのグリスの塗布量が4mg/cmとなるようにして塗布し、さらにパイル抜け止めとして挿入端面にプレートをスナップフィットさせて固定して評価サンプルとなる端部シール材とした後、ボールねじナット部の前方あるいは後方に取り付ける。
【0106】
その後、ボールねじの溝部に、トナー(粒径:5μm)を振り掛けた後、ボールねじを手摺動により10回往復動作させた後に停止させ、ボールねじのレール溝部表面に残存したトナーの量及びその分布を確認する。
【0107】
さらに、比較対象として上記評価サンプルとなる端部シール材に換えて現行品のボールねじ用の輪状に成型されたブラシシールを用いる点以外は同様の手順にて試験を行い、ボールねじのレール溝部表面に残存したトナーの量及びその分布を確認する。
【0108】
<結果>
評価した結果、本発明の湿式パイルを用いた端部シール材を用いると、シールすべき対象面がボールねじの溝部のように略曲面から構成されているものであっても、驚くことに、各所にトナーの微細粉が残ることがなく、ボールねじの谷部となる溝部のシール性は十分に確保されており、転動体であるベアリングへのトナーの侵入は発生していないと考えられる結果が得られたことが確認された。
【0109】
そして、本発明のものは、パイルの毛先部がボールねじとの、特にボールねじの谷部との隙間を塞ぐように屈曲して接触するとともに転動体であるベアリングに当接するよう螺旋状に配列することが可能になっており、その結果、パイルとその毛先部によってトナーの微細粉掃き出しつつ、パイル繊維間にあらかじめ保持された潤滑剤によって、トナーの微細粉の侵入を防止して、従来の技術では達成できなかった程度に効果的にシールしていることが確認された。様々な形状のボールねじにおいて、本発明において使用するパイル素材がボールねじに追従して均一に当接しかつ当接漏れも無く、さらにパイル繊維間にあらかじめ保持された潤滑剤が用いられることにより、トナー等の微細粉に対する掃き出し効果やシール効果が得られることが理解される。
【0110】
これに対し、従来品である現行のブラシシールでは、ボールねじの各所にトナーの微細粉が帯状に残っており、特に転動体であるベアリングが当接する谷部にトナーの微細粉が帯状に残り、さらには所々トナーの塊が残存している状態となっていることが確認された。従来品である現行のブラシシールでは、ボールねじ谷部のシール性が確保できておらず、転動体であるベアリングへのトナーが生じてしまっていることが判明した。
【0111】
現行ブラシシールは輪状に成型されたブラシであり、ボールねじに均一にブラシが当接しない為、ブラシが触れない箇所が生じてくると考えられる。そこで、現行ブラシシールとボールねじとの当接状況を詳細に観察したところ、ボールねじ谷部と山部の高低差によりブラシが屈曲し谷部に一切接触しない部分があることが確認された。現行のブラシシールでは、シールすべき対象面がボールねじの溝部のように略曲面から構成されている場合には、異物からを当該対象面をシールする事が困難であることが判る。
【符号の説明】
【0112】
1 分割されたボールねじの雄ねじ軸の外周に配された支持枠体
2 ボールねじの螺旋状に溝部に対向配置されたグリスを含んだ湿式のシール部材
3 ボールねじの螺旋状に溝部に対向配置されたグリスを含んだ湿式のシール部材の抜け止めとしてボールねじの雄ねじ軸の外周に配された支持枠体に固定するプレート
4 ボールねじの雄ねじ軸の外周に配された支持枠体
5 ボールねじの螺旋状に溝部に対向配置されるようパイルをボールねじの螺旋状に溝部に沿うようにストライプ状にカットしたグリスを含んだ湿式のシール部材
6 直動ガイド
7 レール
8 スライダ
9 端部シール
10 カットパイル
11 支持枠体
12 基布部
13 ねじ
14 外装体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9