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特許7607317磁気エンコーダの製造方法、及び磁気エンコーダ用磁石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】磁気エンコーダの製造方法、及び磁気エンコーダ用磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021014107
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117557
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勢野 洋嗣
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130233(WO,A1)
【文献】特開2008-39742(JP,A)
【文献】特開2003-257738(JP,A)
【文献】特開平7-49245(JP,A)
【文献】特開2006-58173(JP,A)
【文献】特表2003-524778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0408856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
G01B 7/00-7/34
H01F 7/00-7/02、13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石と前記磁石の磁束密度を検出する磁気センサとを備える磁気エンコーダの製造方法であって、
磁性材料が混合された弾性体により構成された紐状の磁石本体を加硫成形するステップと、
一方向の磁界による着磁により、前記磁石本体の周面に、当該磁石本体を構成する紐状体の軸方向に沿う磁極を形成するステップと、
前記磁気センサと対向する位置に、前記軸方向に沿って前記磁極が軸周りに回転する状態で前記磁石本体を配置するステップと、
を有し、
前記磁極を形成するステップにおいて、コイル状に配置された前記磁石本体が、コイルの軸に沿う磁界により着磁されることを特徴とする、磁気エンコーダの製造方法。
【請求項2】
磁気エンコーダの磁気トラックを構成する磁気エンコーダ用磁石の製造方法であって、
磁性材料が混合された弾性体により構成された紐状又は無端紐状の本体を加硫成形するステップと、
一方向の磁界による着磁により、前記本体の周面に、当該本体を構成する紐状体の軸方向に沿う磁極を形成するステップと、
を有し、
前記磁極を形成するステップにおいて、前記本体が、当該本体を構成する紐状体の軸周りにねじられた部分を有する状態で、一方の半分にN極が設けられ、他方の半分にS極が設けられた状態に着磁され、着磁後に紐状体のねじりを解放し、前記本体の軸方向に沿って磁極が軸回りに回転する状態で配置されることを特徴とする、磁気エンコーダ用磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気エンコーダの製造方法、及び磁気エンコーダ用磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、その他の産業機械分野において、リニアエンコーダやロータリーエンコーダが多用されており、このようなエンコーダとして、電源が不要である磁気エンコーダが広く使用されている。このような磁気エンコーダは、磁束密度が変化する磁気トラックと、当該磁気トラックの磁束密度を検出する磁気検出素子とを備え、磁気トラックと磁気検出素子との相対的な移動に起因する磁束密度の変化から変位量等を検知する。
【0003】
磁気トラックと磁気検出素子により検出した磁束密度から磁気トラックの位置を特定可能とするために、磁束密度が連続的に変化する磁気トラックの構造が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。例えば、特許文献1は、ロータリー磁気エンコーダにおいて、磁気検出素子と対向する磁気トラックの表面に露出するN極とS極との幅の比を磁気エンコーダの一周にわたり連続的に変化させる構成を開示している。また、特許文献2は、ロータリー磁気エンコーダにおいて、磁気検出素子と対向する磁気トラックの表面に露出する単一の磁極を磁性体で被覆するとともに当該磁性体の一部に開口部を設け、当該開口部の開口幅を磁気エンコーダの一周にわたり連続的に変化させる構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-322474号公報
【文献】特開2007-101454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1が開示する構造は、N極とS極との幅の比が連続的に変動するように着磁する必要があり、当該着磁を実現可能な装置を用意する必要がある。また、径が異なる複数品種の磁気トラックを製造するためには、径に応じた着磁を行う必要もある。また、上述の特許文献2が開示する構造は、磁石自体はS極とN極とが重なった単純な構造であるため着磁は容易であるが、磁性体被覆及び開口部形成の工程が必要である。したがって、いずれの構造であっても容易に製造することはできず、製造コストが高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、磁束密度が連続的に変化する磁気トラックを低コストで容易に製造することができる、磁気エンコーダの製造方法、及び磁気エンコーダ用磁石の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。本発明は、磁石と当該磁石の磁束密度を検出する磁気センサとを備える磁気エンコーダの製造方法である。
本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、磁性材料が混合された弾性体により構成された紐状の磁石本体を加硫成形するステップと、一方向の磁界による着磁により、磁石本体の周面に、当該磁石本体を構成する紐状体の軸方向に沿う磁極を形成するステップと、磁気センサと対向する位置に、軸方向に沿って磁極が軸周りに回転する状態で磁石本体を配置するステップと、を有する。磁極を形成するステップにおいて、コイル状に配置された磁石本体が、コイルの軸に沿う磁界により着磁されることを特徴とする。
この構成では、磁気エンコーダを低コストで容易に製造することができる。
【0008】
一方、他の本発明は、磁気エンコーダの磁気トラックを構成する磁気エンコーダ用磁石の製造方法である。
本発明の磁気エンコーダ用磁石の製造方法は、磁性材料が混合された弾性体により構成された紐状又は無端紐状の本体を加硫成形するステップと、一方向の磁界による着磁により、前記本体の周面に、当該本体を構成する紐状体の軸方向に沿う磁極を形成するステップと、を有し、前記磁極を形成するステップにおいて、前記本体が、当該本体を構成する紐状体の軸周りにねじられた部分を有する状態で、一方の半分にN極が設けられ、他方の半分にS極が設けられた状態に着磁され、着磁後に紐状体のねじりを解放し、前記本体の軸方向に沿って磁極が軸回りに回転する状態で配置されることを特徴とする。
この構成では、磁気エンコーダ用磁石を低コストで容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、磁束密度が連続的に変化する磁気トラックを低コストで容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石を構成する紐状磁石の一例を模式的に示す側面図、(b)は、当該紐状磁石の磁極配置を模式的に示す断面図、(c)は、当該紐状磁石の磁極配置を模式的に示す側面図である。
図2】(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダ用磁石の一例を模式的に示す側面図、(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の一例を模式的に示す平面図、(c)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石の磁束密度の分布を模式的に示す図である。
図3】(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダ用磁石の他の例を模式的に示す側面図、(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の他の例を模式的に示す平面図、(c)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石の磁束密度の分布を模式的に示す図である。
図4】(a)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の他の例を模式的に示す平面図、(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の他の例を模式的に示す平面図である。
図5】(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダの一例を模式的に示す斜視図、(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダの一例を模式的に示す斜視図、(c)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダの他の例を模式的に示す斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石の製造手順の一例を示すフロー図である。
図7】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用紐状磁石の製造手順における着磁時の状態を模式的に示す図である。
図8】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用環状磁石の製造手順における着磁時の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。まず、本発明に係る磁気エンコーダ用磁石について説明する。図1(a)から図1(c)は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石を構成する紐状磁石の一例を模式的に示す図である。図1(a)は側面図であり、図1(b)は断面図である。また、図1(c)は、紐状磁石の磁極配置を模式的に示す側面図である。
【0020】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石10は断面円形状の紐状体により構成される。紐状体である本体11は、磁性材料が混合された弾性体により構成されている。弾性体の材質は特に限定されないが、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、フッ素ゴム等のゴムや、熱可塑性エラストマーを使用することができる。また、特に限定されないが、磁性材料には、例えば、フェライト、希土類等を使用することができる。
【0021】
磁気エンコーダ用磁石10は、本体11の周面に、紐状体の軸方向(図1(a)に矢印で示す)に沿って設けられた複数の磁極12を備える。本実施形態では、図1(b)、図1(c)に示すように、N極12aとS極12bにより構成される1対の磁極(2つの磁極)が紐状体の軸方向に沿って配置されている。特に限定されないが、ここでは、本体11の周面の一方の半分にN極が設けられ、他方の半分にS極が設けられている。すなわち、本体11の断面において、図中上側半分の円弧部分がN極12aとなり、図中下側半分の円弧部分がS極12bになっている。
【0022】
以上の磁気エンコーダ用磁石10を磁気エンコーダの磁気トラックとして使用する場合、磁気エンコーダ用磁石10は、磁気エンコーダにおいて磁気エンコーダ用磁石10の磁束密度を検出する磁気センサと対向する位置に、上述の紐状体の軸方向に沿って磁極12が軸周りに回転する状態で配置される。
【0023】
図2(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダ用磁石の一例を模式的に示す側面図である。図2(a)に示すように、リニア磁気エンコーダ用磁石21は、所望長さの磁気エンコーダ用磁石10を、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに180度回転した状態で直線状に配置した構成を有している。これにより、それぞれの磁極12(N極12a、S極12b)は、直線状の本体11の周面において、紐状体の軸方向に沿って当該軸周りに回転する状態で配置される。
【0024】
また、図2(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の一例を模式的に示す平面図である。図2(b)に示すように、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31は、所望長さの磁気エンコーダ用磁石10の両端を、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに180度回転した状態で接合することで環状(無端紐状)に配置した構成(図2(a)のリニア磁気エンコーダ用磁石21の両端が互いに接合された構成)を有している。これにより、それぞれの磁極12(N極12a、S極12b)は、環状の本体11の周面において、紐状体の軸方向に沿って当該軸周りに回転する状態で配置される。
【0025】
図2(c)は、図2(a)に示すリニア磁気エンコーダ用磁石21及び図2(b)に示すロータリー磁気エンコーダ用磁石31により構成された磁気トラックにより形成される磁場の磁束密度の分布を模式的に示す図である。図2(c)に示す図は、図2(a)のリニア磁気エンコーダ用磁石21では、磁気センサを、リニア磁気エンコーダ用磁石21を構成する紐状体に対して図中の上方で対向する状態で配置した場合に磁気センサにより検出される磁束密度に対応する(図5(a)参照)。また、図2(b)のロータリー磁気エンコーダ用磁石31では、磁気センサを、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31を構成する紐状体に対して図中の手前側で対向する状態で配置した場合に磁気センサにより検出される磁束密度に対応する(図5(c)参照)。
【0026】
また、図2(c)における横軸は、磁気トラック上の位置(磁石上の位置)に対応する。すなわち、リニア磁気エンコーダ用磁石21の場合、横軸の左端から右端にわたる磁束密度の分布は、図2(a)において、リニア磁気エンコーダ用磁石21の左端から右端にわたる磁束密度の分布に対応する。また、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31の場合、横軸の左端から右端にわたる磁束密度の分布は、図2(b)において、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31の両端接合部分の左側に配置された磁気エンコーダ用磁石10の端部から反時計回りに他方側の端部にわたる磁束密度の分布に対応する。なお、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31の場合、両端接合部分においてN極とS極とが隣接しているため、厳密には相互の干渉により磁束密度の大きさが小さくなるが、図2(c)では、原理上の説明であるため、当該干渉の影響を省略している。なお、図2(c)における縦軸はN極をプラス方向とした磁束密度に対応する。
【0027】
リニア磁気エンコーダ用磁石21と磁気センサとを上述した位置関係で配置した場合、図2(c)に示すように、リニア磁気エンコーダ用磁石21と磁気センサとの相対的な位置関係が変化した場合、当該相対的な位置関係に応じてそれぞれ異なる磁束密度の大きさが磁気センサにより検出される。したがって、磁気センサに検知された磁束密度に基づいてリニア磁気エンコーダ用磁石21と磁気センサとの相対的な位置関係を特定することができる。
【0028】
同様に、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31と磁気センサとを上述した位置関係で配置した場合も、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31と磁気センサとの相対的な位置関係に応じてそれぞれ異なる磁束密度の大きさが磁気センサにより検出される。したがって、磁気センサに検知された磁束密度に基づいてロータリー磁気エンコーダ用磁石31と磁気センサとの相対的な位置関係を特定することができる。
【0029】
なお、図2(c)では、磁極12の軸周りの回転量が、紐状体の軸方向の全体にわたって均一である例を示しているが、仮に、磁極12の軸周りの回転量が、紐状体の軸方向の全体にわたって不均一である場合でも、磁気エンコーダ用磁石と磁気センサとの相対的な位置関係に応じてそれぞれ異なる磁束密度の大きさが磁気センサにより検出されるため、磁気エンコーダ用磁石と磁気センサとの相対的な位置関係を特定可能である。
【0030】
以上のように、本実施形態の磁気エンコーダ用磁石によれば、紐状体の軸方向に沿って設けられた複数の磁極を、当該軸方向に沿って磁極が軸周りに回転する状態で配置する構成であるため、磁束密度が連続的に変化する磁気トラックを容易に構成することができる。したがって、磁気エンコーダを低コストで容易に実現することができる。また、図2(b)に示すように、紐状体の両端を連結して無端紐状の本体11を形成する構成では、所望の径の環状の本体11を実現するための金型が不要であり、低コストかつ短納期での磁気エンコーダや磁気エンコーダ用磁石の製造も可能となる。このような金型が不要となる製造方法は、例えば、産業用機械、風車、クレーンやショベルカーのような重機の回転台等の大型の検知対象物の位置や回転状況等の検知するための磁気エンコーダでは特に好適である。
【0031】
以下、磁気エンコーダ用磁石10を磁気エンコーダの磁気トラックとして使用する他の例について説明する。図3(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダ用磁石の他の例を模式的に示す側面図である。図3(a)に示すように、リニア磁気エンコーダ用磁石22は、所望長さの磁気エンコーダ用磁石10を、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに360度回転した状態で直線状に配置した構成を有している。これにより、それぞれの磁極12(N極12a、S極12b)は、直線状の本体11の周面において、紐状体の軸方向に沿って当該軸周りに回転する状態で配置される。
【0032】
また、図3(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダ用磁石の一例を模式的に示す平面図である。図3(b)に示すように、ロータリー磁気エンコーダ用磁石32は、所望長さの磁気エンコーダ用磁石10の両端を、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに360度回転した状態で接合することで環状に配置した構成(図3(a)のリニア磁気エンコーダ用磁石22の両端が互いに接合された構成)を有している。これにより、それぞれの磁極12(N極12a、S極12b)は、環状の本体11の周面において、紐状体の軸方向に沿って当該軸周りに回転する状態で配置される。
【0033】
図3(c)は、図3(a)に示すリニア磁気エンコーダ用磁石22及び図3(b)に示すロータリー磁気エンコーダ用磁石32により構成された磁気トラックにより形成される磁場の磁束密度の分布を模式的に示す図である。図3(c)に示す図は、図2(c)と同様に、リニア磁気エンコーダ用磁石22では、磁気センサを、リニア磁気エンコーダ用磁石22を構成する紐状体に対して図中の上方で対向する状態で配置した場合に磁気センサにより検出される磁束密度に対応する。また、図3(b)のロータリー磁気エンコーダ用磁石32では、磁気センサを、ロータリー磁気エンコーダ用磁石32を構成する紐状体に対して図中の手前側で対向する状態で配置した場合に磁気センサにより検出される磁束密度に対応する。
【0034】
また、図3(c)における横軸は、図2(c)と同様に、磁気トラック上の位置に対応する。すなわち、リニア磁気エンコーダ用磁石22の場合、横軸の左端から右端にわたる磁束密度の分布は、図3(a)において、リニア磁気エンコーダ用磁石22の左端から右端にわたる磁束密度の分布に対応する。また、ロータリー磁気エンコーダ用磁石32の場合、横軸の左端から右端にわたる磁束密度の分布は、図3(b)において、ロータリー磁気エンコーダ用磁石32の両端接合部分の左側に配置された磁気エンコーダ用磁石10の端部から反時計回りに他方側の端部にわたる磁束密度の分布に対応する。なお、図3(c)における縦軸はN極をプラス方向とした磁束密度に対応する。
【0035】
リニア磁気エンコーダ用磁石22と磁気センサとを上述した位置関係で配置した場合、図3(c)に示すように、リニア磁気エンコーダ用磁石22と磁気センサとの相対的な位置関係に応じて磁気センサにより検出される磁束密度が変化する。図2(c)の例とは異なり、図3(c)の例では、磁束密度が同一となる相対的な位置関係が2箇所存在しているが、変位量(微分係数)が異なるため、例えば、磁気センサに検知された磁束密度と、その直前に磁気センサに検知された磁束密度とに基づいてリニア磁気エンコーダ用磁石22と磁気センサとの相対的な位置関係を特定することができる。同様に、ロータリー磁気エンコーダ用磁石32と磁気センサとを上述した位置関係で配置した場合も、例えば、磁気センサに検知された磁束密度と、その直前に磁気センサに検知された磁束密度とに基づいてロータリー磁気エンコーダ用磁石32と磁気センサとの相対的な位置関係を特定することができる。
【0036】
ところで、図2(b)や図3(b)に示すような、紐状体により構成される本体11の両端を接合して環状のロータリー磁気エンコーダ用磁石を構成する場合、接合部となる端面が紐状体の軸方向と直交する面で構成されていると、紐状体の軸周りに180度や360度等の所望角度で本体11を回転させた状態で両端を接合することは容易ではない。このような所望角度に回転させた状態での両端の接合を容易とし、ねじり状態にばらつきの少ない環状の磁石の製造を容易とするため、本体11はその両端に回転角度に応じた角度合わせ構造を備えることが好ましい。
【0037】
図4(a)及び図4(b)は、当該角度合わせ構造を備えるロータリー磁気エンコーダ用磁石の例を模式的に示す平面図である。図4(a)では、角度合わせ構造として、本体11の両端に、本体11の軸に対して傾斜する傾斜面41を備えるロータリー磁気エンコーダ用磁石33を例示している。傾斜面41は、例えば、本体11の軸に対して45度の角度で交差する平面により構成される。図4(a)の例では、傾斜面41の先端41aが、断面視において、紐状体の軸周りの同一の位置となる状態で配置された傾斜面41が本体11の両端に設けられている。そのため、本体11の両端に設けられた傾斜面41が互いに重なる状態で本体11の両端を接合することで、図2(b)に示すロータリー磁気エンコーダ用磁石31と同様の、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに180度回転した状態での接合を容易かつ確実に実現することができる。
【0038】
また、図4(b)では、角度合わせ構造として、本体11の両端に、段差部42を備えるロータリー磁気エンコーダ用磁石34を例示している。段差部42は、例えば、紐状体の軸方向に沿う平面42aを有する半円柱42bにより構成することができる。図4(b)の例では、半円柱42bが、断面視において、紐状体の軸周りの同一の位置となる状態で配置された段差部42が本体11の両端に設けられている。そのため、本体11の両端に設けられた半円柱42bの平面42aが互いに重なる状態で本体11の両端を接合することで、図2(b)に示すロータリー磁気エンコーダ用磁石31と同様の、一方の端部に対して他方の端部が紐状体の軸周りに180度回転した状態での接合を容易かつ確実に実現することができる。
【0039】
ここで、以上で説明した磁気エンコーダ用磁石を使用した磁気エンコーダについて説明する。図5(a)は、本発明の一実施形態に係るリニア磁気エンコーダの一例を模式的に示す斜視図である。図5(a)に示すリニア磁気エンコーダ51は、基材51a上に磁気トラックとして直線状に配置された上述のリニア磁気エンコーダ用磁石21と、リニア磁気エンコーダ用磁石21の本体11を構成する紐状体に対向して配置された磁気センサ51bとを備える。例えば、リニア磁気エンコーダ用磁石21を直動体に配置し、磁気センサ51bを固定体に配置することで、直動体と固定体との相対的な位置関係を検知することができる。
【0040】
また、図5(b)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダの一例を模式的に示す斜視図である。図5(b)に示すロータリー磁気エンコーダ52は、軸心周りに回転する円柱52aの周面に磁気トラックとして周方向に配置された上述のロータリー磁気エンコーダ用磁石31と、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31の本体11を構成する紐状体に対向して配置された磁気センサ52bとを備える。この構成では、軸心周りに回転運動する円柱52aの回転角度等を検知することができる。
【0041】
また、図5(c)は、本発明の一実施形態に係るロータリー磁気エンコーダの他の例を模式的に示す斜視図である。図5(c)に示すロータリー磁気エンコーダ53は、軸心周りに回転する円盤53a上に磁気トラックとして周方向に配置された上述のロータリー磁気エンコーダ用磁石31と、ロータリー磁気エンコーダ用磁石31の本体11を構成する紐状体に対向して配置された磁気センサ53bとを備える。この構成では、軸心周りに回転運動する円盤53aの回転角度等を検知することができる。
【0042】
以上のような本実施形態の磁気エンコーダは、上述のとおり磁気トラックを容易に構成することができるため、磁気エンコーダを低コストで容易に実現することができる。また、紐状体の両端を連結して無端紐状の本体11を形成する磁気エンコーダ用磁石を採用する磁気エンコーダでは、所望の径の環状の本体11を実現するための金型が不要であるため、低コストかつ短納期での製造も可能となる。
【0043】
続いて、磁気エンコーダ用磁石の製造手順について説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る磁気エンコーダ用磁石の製造手順の一例を示すフロー図である。図6に示すように、本実施形態の紐状の磁気エンコーダ用磁石の製造手順では、まず、弾性体原料に磁性材料が混合された原材料が、上述の断面形状に対応するノズルを通じて押出成形されることで紐状に成形される(図6 ステップS1)。このような成形方法は公知であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0044】
次いで、成形された紐状体71が、図7(a)に示すようにコイル状に配置される(図6 ステップS2)。特に限定されないが、本実施形態では、円柱状の鉄芯72に押出成形された紐状体71を周回配置することで紐状体71をコイル状に配置している。続いて、コイル状に配置された紐状体71が高温高圧下で加硫成形される(図6 ステップS3)。これにより、紐状体71の紐状の形状が固定化される。そして、着磁処理がなされることで紐状磁石が完成する(図6 ステップS4)。
【0045】
上述の着磁処理における着磁は、例えば、紐状体71が図7(a)に示すようなコイル状に配置された状態で、コイルの軸(鉄芯72の軸)に沿う一方向の磁界により実施することができる。この方法により、図1(b)、図1(c)に示すような、本体11の周面の一方の半分にN極が設けられ、他方の半分にS極が設けられた磁気エンコーダ用磁石10を実現することができる。このような磁気エンコーダ用磁石10を使用した磁気エンコーダを製造する場合、任意の長さに切断された磁気エンコーダ用磁石10が、磁気センサと対向する位置に、本体11の軸方向に沿って磁極12が軸周りに回転する状態で配置される。この場合、磁気エンコーダ用磁石10は、磁気センサと対向する位置に配置される際に磁極12が紐状体の軸周りに回転する状態に変形される(すなわち、ねじられる)ことになる。
【0046】
また、上述の着磁処理における着磁は、例えば、図7(b)に示すように、加硫成形された紐状体71が、紐状体71の軸周りにねじられた部分を有する状態、すなわち、紐状体71の軸周りに回転された状態で、一方向の磁界により実施することもできる。なお、図7(b)では、ねじられた状態を示すため、ねじられていない状態であれば本体11の周面において紐状体の軸方向に沿う直線となる線を図中に破線で示している。
【0047】
この着磁方法では、着磁処理後に紐状体71のねじりを解放すると、図2(a)に示すような、本体11の軸方向に沿って磁極12が軸周りに回転する状態で配置された磁気エンコーダ用磁石が構成される。この場合、当該磁気エンコーダ用磁石をねじることなく、磁気センサと対向する位置に配置することで、本体11の軸方向に沿って磁極12が軸周りに回転する状態に配置されることになる。
【0048】
以上説明した構成によれば、例えば、磁気センサと対向する位置に、図2(a)、図2(b)、図3(a)、図3(b)に例示するように、本体11を構成する紐状体の軸方向に沿って紐状体の一方面に形成された磁極12を本体11の軸周りにねじった状態で磁石を固定する、あるいは、図7(b)、図8(b)に例示するように、本体11を構成する紐状体の軸周りにねじった状態で一方向の磁界により着磁して、着磁後にねじりを解放した状態で磁石を固定することで磁気エンコーダや磁気エンコーダ用磁石を実現可能である。したがって、磁気エンコーダや磁気エンコーダ用磁石を低コストで容易に製造することができる。また、紐状体の両端を連結して無端紐状の磁石本体を形成する構成では、所望の径の環状の磁石本体を実現するための金型が不要であり、低コストかつ短納期での磁気エンコーダや磁気エンコーダ用磁石の製造も可能となる。
【0049】
なお、以上説明した実施形態では、特に好ましい形態として、紐状の磁石の両端部を接合することで環状の磁石を実現する構成としたが、環状の磁石を実現する場合に、金型を使用して継ぎ目のない無端紐状に本体を成形して加硫する構成であってもよい。この場合、上述の着磁処理は、図8(a)に示すように、環状体81を構成する紐状体が紐状体の軸周りにねじりを加えていない状態で、環状体81の中心軸に沿う一方向の磁界(図面において紙面に垂直な方向の磁界)により実施することができる。このようにして形成された磁気エンコーダ用磁石80を用いる場合、磁気エンコーダ用磁石80は、磁気センサと対向する位置に配置される際に磁極が紐状体の軸周りに回転する状態に変形される(すなわち、ねじられる)ことになる。
【0050】
また、無端紐状の本体の着磁は、図7(b)と同様に、環状体81を構成する紐状体が、図8(b)に示すように紐状体の軸周りにねじられた状態、すなわち、紐状体の軸周りに回転された状態で、一方向の磁界により実施することもできる。なお、図8(b)では、図7(b)と同様に、ねじられた状態を示すため、ねじられていない状態であれば環状体81の周面において環状体81を構成する紐状体の軸方向に沿う線(図8(b)において環状体81と同心円状になる線)を図中に破線で示している。
【0051】
この着磁方法では、着磁処理後に環状体81のねじりを解放すると、図3(b)に示す例と同様の、環状体81を構成する紐状体の軸方向に沿って磁極が軸周りに回転する状態で配置された磁気エンコーダ用磁石が構成される。この場合、当該磁気エンコーダ用磁石をねじることなく、磁気センサと対向する位置に配置することで、環状体81を構成する紐状体の軸方向に沿って磁極が軸周りに回転する状態に配置されることになる。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、磁束密度が連続的に変化する磁気トラックを低コストで容易に製造することができる、磁気エンコーダ、磁気エンコーダ用磁石、及びこれらの製造方法を提供可能である。
【0053】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の実施形態では、特に好ましい形態として、磁気エンコーダ用磁石の本体の軸方向に垂直な断面が、本体にねじりを付与する場合に外形が変化しない円形である事例について説明したが、当該断面形状が円形であることは必須ではなく、楕円形や多角形等の他の任意の形状を採用することも可能性ある。また、上述の角度合わせ構造も、傾斜面や段差部以外の他の任意の構造を採用することも可能である。さらに、上述の着磁処理における着磁方法は例示であり、複数種の磁界を使用する着磁等の他の着磁方法の使用を排除するものではない。
【符号の説明】
【0054】
10、80 磁気エンコーダ用磁石
11 本体(磁石本体)
12 磁極
21、22 リニア磁気エンコーダ用磁石
31、32、33、34 ロータリー磁気エンコーダ用磁石
41 傾斜面
42 段差部
51、52、53 磁気エンコーダ
51b、52b、53b 磁気センサ
71 紐状体
81 環状体(磁石本体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8