(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】蛍光像の高効率計測を実現するディジタルホログラフィック顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/36 20060101AFI20241220BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20241220BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241220BHJP
G02B 21/06 20060101ALN20241220BHJP
【FI】
G02B21/36
G03H1/02
G01N21/64 E
G01N21/64 A
G02B21/06
(21)【出願番号】P 2021025769
(22)【出願日】2021-02-21
【審査請求日】2023-12-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業業「ホログラフィック光刺激及び蛍光3次元観察一体化システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】マノジ クマー
(72)【発明者】
【氏名】的場 修
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0018966(US,A1)
【文献】国際公開第2018/070451(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163560(WO,A1)
【文献】特開2008-292939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/36
G03H 1/02
G01N 21/64
G02B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象試料の蛍光信号光による蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、
前記蛍光ホログラフィック光学系は、偏光方向が互いに直交する2つの偏光に前記蛍光信号光を分離する分離手段と、前記蛍光信号光を2つに分離させた光を再び合波させる際にオフアクシスホログラムを生じさせて前記蛍光像を取得する光学系を備えることを特徴とするディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項2】
前記蛍光像を取得する光学系は、結像系を構成することを特徴とする請求項1に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項3】
前記分離手段は、複屈折を利用した偏光プリズムを用いて、前記蛍光信号光を相互に直交する直線偏光に分離することを特徴とする請求項1又は2に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項4】
前記偏光プリズムと、前記蛍光像を取得するイメージセンサとが、結像関係にあることを特徴とする請求項3に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項5】
前記偏光プリズムは、ウォーラストンプリズム、ロションプリズム、ニコルプリズム、又は、グラントムソンプリズムの何れかであることを特徴とする請求項3又は4に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項6】
前記観察対象試料を通過する物体光と通過しない参照光とを重ね合せた干渉光による位相像を取得する位相像検出ホログラフィック光学系を更に備えることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項7】
前記分離手段は、前記蛍光ホログラフィック光学系にのみに作用することを特徴とする請求項6に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項8】
前記蛍光ホログラフィック光学系の撮像手段と、前記位相像検出ホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、
前記撮像手段は、蛍光像と位相像をホログラムとして同時に取得し、オフアクシスホログラムの蛍光像と、オフアクシスホログラムの位相像とを、空間周波数面において分離し、それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成することを特徴とする請求項6に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項9】
前記蛍光ホログラフィック光学系と前記位相像検出ホログラフィック光学系とが共に反射型であることを特徴とする請求項6に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ホログラフィーで3次元蛍光分布を高効率で取得するディジタルホログラフィック顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた細胞の動的3次元イメージングは、バイオ応用分野において重要な計測技術である。例えば、蛍光顕微鏡を使って細胞核中の特定DNAに蛍光分子を導入し、有糸分裂する細胞の変化を計測する蛍光標識技術が知られている。蛍光分子で染色された細胞内の核やタンパク質の相互作用を可視化することで様々な観測が可能になる。蛍光像を高分解能かつ高コントラストで計測できるものとして、共焦点レーザ走査型顕微鏡が知られている。しかし、共焦点レーザ走査型顕微鏡では計測物体の一点ごとに集光点の走査が必要なため、蛍光像を得るためには時間がかかり、動的物体の変化が速い現象の計測や奥行き位置が異なる複数の細胞の同時計測は不向きであるという本質的な限界がある。
また、蛍光像でだけでなく細胞核や細胞壁などの構造を同時に観察する技術も求められている。構造観察の手段として、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡などがある。位相差像は透明物体の形状測定に有効である。蛍光像および位相像を同時観察することができれば、異なる情報を同時に取得することができるため、バイオ反応においてより詳細な情報を提供することが可能になる。
【0003】
瞬時的な3次元計測を可能とするツールとして、ディジタルホログラフィック顕微鏡が知られている。ディジタルホログラフィック顕微鏡では、3次元情報をホログラム情報として取得し、計算機内で光波の逆伝搬計算を行うことで奥行き位置に対する物体の光波情報を再構成する。ディジタルホログラフィック顕微鏡の特徴としては、特殊な蛍光染色が必要なく生体細胞の3次元観察が可能であること、計算機再構成により焦点位置を任意に変更できるオートフォーカシング機能を有すること、定量的位相計測が可能であることが挙げられる。このため、3次元的に細胞が動くような状況においても、再構成計算により自動的にピントの合った再構成画像を得ることができる。
【0004】
ディジタルホログラフィック顕微鏡を細胞観察に応用する場合、蛍光情報のホログラム取得が必要となるが、蛍光を用いてホログラフィー技術を実現するためには、蛍光が非常に干渉しにくいインコヒーレント光であり、近年、インコヒーレント光からホログラムを作る方法が次々に提案されており、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡に向けた研究が活発である。
また、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡は、ターゲッティング計測には適しているが、蛍光を発生しない物質に対しては無力であるという問題がある。また、蛍光観察を行う場合に、有害な蛍光分子を使うために計測対象が制限される問題も生じる。そのため、ディジタルホログラフィック顕微鏡の応用拡大といった視点で見ると、位相像や蛍光像さらには偏光などの多様な情報が観測可能なマルチモーダルディジタルホログラフィック顕微鏡が必要である。
【0005】
既に、本発明者の一人は、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡を結合し、蛍光像と位相像を同時に計測できるディジタルホログラフィック顕微鏡を提案している(特許文献1,2を参照)。
しかしながら、ディジタルホログラフィック顕微鏡では、2つの光波の干渉を利用するため、光波を空間的に広げた後、2つの光波に分割し、再び重ね合わせる必要があるため、イメージセンサで観測するには蛍光エネルギーを大きくする必要がある。その結果、観測対象に照射する光エネルギーが大きくなり、観測対象が生きた細胞である場合には、細胞にダメージを与える光毒性が大きな問題となる。バイオイメージング分野に、ディジタルホログラフィック顕微鏡を適用する場合には、この光毒性を避けるため、光エネルギー利用効率の更なる向上(高効率化)が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再表2018/070451
【文献】再表2016/163560
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記状況に鑑みて、本発明は、蛍光ホログラフィーで3次元蛍光分布を高効率かつ簡便な系で取得できるディジタルホログラフィック顕微鏡を提供することを目的とする。また、本発明は、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡が結合され、蛍光像と位相像を同時に計測でき、かつ高効率で蛍光像を計測できるディジタルホログラフィック顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成すべく、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、観察対象試料の蛍光信号光による蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、蛍光ホログラフィック光学系は、偏光方向が互いに直交する2つの偏光に蛍光信号光を分離する分離手段と、蛍光信号光を2つに分離させた光を再び合波させる際にオフアクシスホログラムを生じさせて蛍光像を取得する光学系を備える。
上記構成によれば、蛍光ホログラフィーで3次元蛍光分布を高効率かつ簡便な系で取得できる。
ここで、分離手段は、偏光方向が互いに直交する2つの偏光に分離できる複屈折偏光素子が用いられる。具体的には、複屈折を利用した偏光プリズムを用いて、蛍光信号光を相互に直交する直線偏光に分離する。偏光プリズムは、ウォーラストンプリズム、ロションプリズム、ニコルプリズム、グラントムソンプリズム等があるが、特に、ウォーラストンプリズムが好適に用いられる。
【0009】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、観察対象試料を通過する物体光と通過しない参照光とを重ね合せた干渉光による位相像を取得する位相像検出ホログラフィック光学系を更に備えることでもよい。これにより、蛍光像と位相像を同時に計測でき、かつ高効率で蛍光像を計測できる。
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、分離手段は、蛍光ホログラフィック光学系にのみに作用するように設計される。
位相像を取得する位相像検出ホログラフィック光学系の物体光の偏光には感度がなく、レンズ作用を起こすことがないように分離手段を設計し、一方、蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系の蛍光の偏光には強い感度を持たせるように設計する。これにより、蛍光ホログラフィック光学系の蛍光の偏光だけが、分離手段によって分離され、光を再び合波させる際にオフアクシスホログラムが生じることになる。
【0010】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡では、蛍光ホログラフィック光学系と位相像検出ホログラフィック光学系とが共に反射型であることが好ましい。
観察対象試料の蛍光励起光による蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系において、蛍光信号は微弱であるので、透過型にした場合に、強い蛍光励起光だけをカットするのは非常に困難になるため、反射型が好ましい。蛍光ホログラフィック光学系と位相像検出ホログラフィック光学系と共に反射型にし、光学系を共通化することにより、装置のコンパクト化が図れる。なお、蛍光ホログラフィック光学系を反射型でなく透過型にする場合は、蛍光信号を励起する蛍光励起光を十分にカットし、蛍光信号のみを通過させるダイクロイックミラーや蛍光波長の特定の波長および位相計測のためのレーザ波長を通過させるバンドパスフィルタを用いる必要がある。
【0011】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、蛍光ホログラフィック光学系の撮像手段と、位相像検出ホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、撮像手段は、蛍光像と位相像をホログラムとして同時に取得する。そして、蛍光像と位相像とを、空間周波数面において分離し、それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成する。
蛍光像は、蛍光ホログラフィック光学系の蛍光信号光の2つの偏光が合波する際にオフアクシスホログラムとして取得される。位相像も同様に、オフアクシスホログラムとして取得できる。共に、オフアクシスホログラムの等傾角干渉パターンとなるが、空間周波数面で分離することが可能であり、撮像手段により撮像した像から、蛍光像のホログラムパターンと位相像のホログラムパターンを空間周波数面で分離することができる。2つのホログラムパターンをフーリエ変換することで、空間周波数面で、等傾角干渉パターンの成分をバンドパスフィルタによって抽出することができる。
【0012】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、バイオイメージング分野における強力な計測ルールとして、蛍光像と位相像を同時かつ高速撮影することを可能にする。すなわち、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、蛍光像により細胞核の時空間情報と、位相像により細胞核や細胞壁の時空間構造とを同時に取得する細胞観察方法を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、蛍光ホログラフィーで3次元蛍光分布を高効率かつ簡便な系で取得でき、バイオイメージング分野における光毒性問題を解消できるといった効果がある。また、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡が結合され、蛍光像と位相像の同時計測、かつ蛍光像の高効率計測が可能であるといった効果がある。
本発明者が既に提案したディジタルホログラフィック顕微鏡のように、回折格子を用いた方法では、回折を利用するので、対象が複雑な蛍光分布をもつ画像に対して十分大きい回折効率を実現することは困難であるが、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、回折光学素子を利用しないため光エネルギー利用効率が高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図3】ウォーラストンプリズムによって生じるオフアクシスホログラムの説明図
【
図5】実施例2のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図6】実施例3のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図7】蛍光ホログラムと位相ホログラムの分離再生原理の説明
図1
【
図8】蛍光ホログラムと位相ホログラムの分離再生原理の説明
図2
【
図9】3つの再構成像の再構成伝搬距離における強度分布グラフ
【
図10】ヒメツリガネゴケの蛍光測定および位相測定の結果を示す図
【
図11】ウォーラストンプリズムを用いた微分干渉顕微鏡の光学系の説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡の一実施形態の光学系の構成を示す。
図1に示すディジタルホログラフィック顕微鏡101は、観察対象試料の蛍光信号光による蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、蛍光ホログラフィック光学系が、偏光方向が互いに直交する2つの偏光に蛍光信号光を分離する分離手段と、蛍光信号光を2つに分離させた光を再び合波させる際にオフアクシスホログラムを生じさせて蛍光像を取得する光学系を備えるものである。
【0017】
ディジタルホログラフィック顕微鏡101の光学系について、
図1~3を参照して説明する。ディジタルホログラフィック顕微鏡101では、レーザ光源12を用いて試料ステージ11上の観察対象試料1の計測物体に蛍光励起光を照射することにより、観察対象試料1の蛍光分子を励起する。ディジタルホログラフィック顕微鏡101は、対物レンズ14と同じ側から照明光があり、観察対象試料1から反射された光によって試料の像を観察する反射型顕微鏡である。
励起された蛍光分子は、蛍光励起光の照射によって長波長の蛍光信号光を発し、対物レンズ14に入射する。ダイクロイックミラー13は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過する光学素子であり、蛍光励起光を反射し、蛍光信号光を透過する。
【0018】
ダイクロイックミラー13を通過した蛍光信号光は、レンズ17aを通り、その後、偏光子15を通過する。
図3に示すように、ランダム偏光31の蛍光信号光は偏光子15によって、振動方向(振動面)が特定の一つの方向のみに振動する直線偏光32となる。蛍光信号光は、偏光子15を通過した後、ウォーラストンプリズム16を通り、振動方向が互いに直交する2つの直線偏光(33,34)に分離され、異なる角度で進行する。
ここで、ウォーラストンプリズムは、
図2に示すように、2つの方解石の結晶(3a,3b)が相互に光学軸が直交するように接合された偏光プリズムである。ウォーラストンプリズム3に対して垂直に入射した光は、2つの接合されたプリズムによって相互に直交する2つの直線偏光の射出光となり、それぞれがほぼ等しい光量である。
【0019】
ウォーラストンプリズム16を通過した蛍光信号光は、レンズ17bを通り集光し、その後、偏光子18を通過することで偏光を揃えて、分離した2つの直交する直線偏光が合波する。
図3に示すとおり、分離した2つの直交する直線偏光は、合波する際に、わずかに角度がついているため、オフアクシス型干渉となり、等傾角パターンのオフアクシス(off-axis)ホログラム40を生じる。また、結像系により2つの光波を空間的、時間的に重ねる。
干渉により奥行き情報である2次の位相項が残留するため、奥行き方向を記録できる。また、ウォーラストンプリズムなどの複屈折を利用した偏光プリズムにおいて、常光線と異常光線の間に位相差が生じることも物体の奥行き情報である2次の位相項が残留することに寄与する。複屈折を利用した偏光プリズムとイメージセンサを結像関係とすることで、分離された2つの直交する蛍光直線偏光は完全に重なり、かつ等傾角パターンのオフアクシス(off-axis)ホログラムを形成するため、高効率で時空間的に安定したホログラムとなる。
【0020】
偏光子18によって合波した蛍光信号光は、その後、バンドパスフィルタ19を通り、EM(Electron Multiplying)-CCD(Charge Coupled Device)カメラ20によって撮像される。バンドパスフィルタ19は、蛍光信号光の蛍光波長の帯域の波長を通過させる。
バンドパスフィルタは、時間コヒーレンスを向上させ、干渉縞のコントラストを向上させる。この結果、再構成像においてノイズが低減され、高コントラスト、高解像度な再構成像が得られる。
【0021】
撮像手段であるEM-CCDカメラ20で、蛍光像を等傾角パターンのオフアクシスホログラムとして取得し、コンピュータ(図示せず)によって、等傾角干渉パターンのホログラムから、フーリエ変換法を用いて蛍光信号光の振幅分布と位相分布を抽出し、オフアクシス法によって観察対象試料の蛍光分子の位置まで逆伝搬させることにより、観察対象試料の蛍光信号光の波面が再生されることになり、蛍光信号光を再構成する。EM-CCDカメラ20によれば、電子増倍機能を備えるCCDイメージセンサが搭載されており、ノイズを増やすことなく光信号を増倍し、微弱光でも高速撮影が可能である。
【0022】
図4は、本実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて蛍光測定した蛍光ホログラムとその再構成像を示している。
図4(1)に示す蛍光ホログラムでは、綺麗な直線状の干渉稿が得られており、分離性が良くなっていた。
【実施例2】
【0023】
図5は、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡の他の実施形態の光学系の構成を示す。
図5に示すディジタルホログラフィック顕微鏡102は、実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡101と同様、観察対象試料の蛍光信号光による蛍光像を取得する蛍光ホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、蛍光ホログラフィック光学系が、偏光方向が互いに直交する2つの偏光に蛍光信号光を分離する分離手段と、蛍光信号光を2つに分離させた光を再び合波させる際にオフアクシスホログラムを生じさせて蛍光像を取得する光学系を備えるものである。実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡101が反射型(落射型)であるのに対して、本実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡102は透過型である。
透過型にする場合は、蛍光信号光を励起する蛍光励起光を十分にカットする必要があり、蛍光信号光のみを通過させるダイクロイックミラーや蛍光波長光の特定の波長を通過させるバンドパスフィルタが重要になる。
【実施例3】
【0024】
図6は、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡の他の実施形態の光学系の構成を示す。
図6に示すディジタルホログラフィック顕微鏡103は、実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡101に、反射型の位相像検出ディジタルホログラフィック光学系を更に設け、蛍光ホログラフィック光学系と位相像検出ホログラフィック光学系の2つの光学系において、共通光路として、物体光と蛍光信号光を試料ステージから対物レンズを透過し、更にイメージセンサの撮像手段まで、同軸に重畳させて、共通の撮像手段で位相像と蛍光像の2つのホログラムを同時に取得できるものである。
以下、蛍光ホログラフィック光学系と位相像検出ホログラフィック光学系のそれぞれについて説明する。
【0025】
まず、蛍光ホログラフィック光学系は、実施例1と同様な構成であり、レーザ光源12を用いて試料ステージ11上の観察対象試料1の計測物体に蛍光励起光を照射することにより、観察対象試料1の蛍光分子を励起する。
励起された蛍光分子は、蛍光励起光の照射によって長波長の蛍光信号光を発し、対物レンズ14に入射する。ダイクロイックミラー13は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過する光学素子であり、蛍光励起光を反射し、蛍光信号光を透過する。レーザ光源12から出射した蛍光励起光は、ダイクロイックミラー13によって反射し、試料ステージ11上の観察対象試料1に照射される。観察対象試料1の中の蛍光分子は、蛍光励起光の照射によって長波長の蛍光信号光を発する。蛍光信号光は、試料ステージ11のガラス基板底面のミラー10で反射された蛍光励起光とともにダイクロイックミラー13に進む。ダイクロイックミラー13では、蛍光励起光を反射し、蛍光信号光を透過することから、蛍光励起光を十分に減衰させ、蛍光信号光を強調できる。
【0026】
ダイクロイックミラー13を通過した蛍光信号光は、レンズ17aを通り、その後、偏光子15によって、振動方向が特定の一つの方向のみに振動する直線偏光となる。蛍光信号光は、偏光子15を通過した後、ウォーラストンプリズム16を通り、振動方向が互いに直交する2つの直線偏光に分離される。
ウォーラストンプリズム16を通過した蛍光信号光は、レンズ17bを通り集光し、その後、偏光子18によって、分離した2つの直交する直線偏光が合波する。合波する際に、オフアクシス型干渉による等傾角パターンのオフアクシス(off-axis)ホログラムを生じる。
偏光子18によって合波した蛍光信号光は、その後、バンドパスフィルタ19を通り、EM-CCDカメラ20によって撮像される。撮像手段であるEM-CCDカメラ20で、蛍光像を等傾角パターンのオフアクシスホログラムとして取得し、コンピュータによって、等傾角干渉パターンのホログラムから、フーリエ変換法を用いて蛍光信号光の振幅分布と位相分布を抽出し、蛍光信号光を再構成する。
【0027】
一方、位相像検出ホログラフィック光学系では、蛍光ホログラフィック光学系と同じく、レーザ光源12を用いて試料ステージ11上の観察対象試料1の計測物体を照明する。但し、レーザ光は、ビームスプリッター21により、計測物体を透過する物体光の経路と、何もない参照光の経路に分けられる。計測物体を透過した物体光は、観測対象試料1の下のミラー10で反射し、対物レンズ14に入射した後、ダイクロイックミラー13に進む。計測物体を透過するレーザ光の波長が、蛍光励起光やそれより長波長の蛍光信号光の波長より長いことを利用し、ダイクロイックミラー13を用いて、計測物体を透過する物体光のみを反射させ、その他の光を透過させる。計測物体を透過する物体光は、ビームスプリッター24により参照光と干渉する。この際、物体光と参照光の間にわずかに角度をつけることによって、オフアクシス(off-axis)ホログラム、すなわち等傾角干渉パターンのホログラムが生じる。これをEM-CCDカメラ20で取得する。EM-CCDカメラ20で取得した等傾角干渉パターンのホログラムから、フーリエ変換法を用いて物体光の振幅分布と位相分布を抽出する。オフアクシス法では元の物体位置まで逆伝搬させることにより、観察対象試料の物体光の波面が再生されることになり、物体光を再構成できる。
【0028】
ここで、蛍光ホログラムと位相ホログラムの分離再生原理について、
図7,8を参照して説明する。本実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡では、蛍光ホログラムと位相ホログラムを共用のEM-CCDカメラ20で取得する。蛍光ホログラムと位相ホログラムは、共に、等傾角干渉パターンのホログラムである。しかしながら、位相ホログラムと蛍光ホログラムの2つのパターンをフーリエ変換することにより、空間周波数面で原点からずれた位置に存在する信号の等傾角干渉パターンの成分を、窓関数フィルタによって抽出できる。具体的には、ウィンドウ関数を用いて、空間周波数面で、異なる場所に現れる蛍光ホログラムと、原点からずれた位置に存在する位相ホログラムの2つのホログラムを分離する。
【0029】
本実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、直径10μmの蛍光ビーズをスライドガラス上に配置させた試料を用いて、これを高さ方向に移動させることで、奥行き方向の記録と再生が可能なことを実証した。
図9は、焦点が合っている位置(z=0)から-30 μmから+10μmまで、試料の高さ位置を変化させたときの、焦点が合う再構成像が得られるときの再構成伝搬距離を示したものである。
図9から、本実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡では、-30μmから+10μmまで、奥行き方向の記録と再生が可能であることがわかり、奥行き位置と再生距離は比例関係ではないものの、再構成距離から奥行き位置を求めることができ、3次元計測が可能であることが理解できる。
【0030】
次に、蛍光タンパク質を導入したヒメツリガネゴケを用いて、生きた植物細胞の蛍光3次元イメージングが可能であることを実証した。
図10は、本実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、蛍光タンパク質を導入したヒメツリガネゴケの蛍光測定および位相測定を行った結果を示したものである。
図10(1)は、蛍光ホログラムで、z=-10μmからz=20μmまでの再構成像を示している。矢印のところで焦点があった細胞核のイメージングが再現されている。
図10(2)は、蛍光ホログラムの測定と同時に測定した位相分布である。z=-5μmとz=20μmを比較すると、z=-5μmではエッジが鮮明にでており、周辺部分に焦点があっている。z=20μmでは中央付近の葉緑体の構造が綺麗に観察できていた。蛍光と位相で、それぞれ、細胞核、細胞壁や葉緑体など異なるものを構造観察できることから、蛍光像と位相像の同時測定は、観察対象試料の情報をより多く取れていることを示している。
【0031】
図11は、微分干渉観察の原理を説明する光路の模式図である。微分干渉観察は、光が観察試料を透過する際、試料を透過した部位の屈折率および厚さの違いによって、透過した光の進む距離に違い(光路差)が生じることから、この光路差を利用して透明な試料を観察するものである。微分干渉顕微鏡では、細胞内の微小な屈折率差を捉えて明暗のコントラストを作ることができる。
図11に示す模式図では、2つのウォーラストンプリズム(52,57)を用いて微分干渉観察の光学系50を構成している。まず、ランダム偏光の光は偏光子51を通過し、直線偏光となる。ウォーラストンプリズム52で、互いに直交する2つの直線偏光に分離され、異なる角度で進行する。レンズ53で光軸に平行になり、ガラス基板54と観察対象試料55を通過する。このとき、ウォーラストンプリズム52の作用により2つの直線偏光は空間的に離れた位置を通過する。レンズ56とウォーラストンプリズム57により2つの偏光の光は光軸に平行な光となり、偏光子58を通過することで、空間的に離れた位置での位相差をもつ干渉強度に変換される。
【0032】
一方、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡では、ウォーラストンプリズムにより、異なる角度をもつ相互に直交する2つの偏光に分離し、結像レンズにより2つの光波を空間的、時間的に重ねる。また、偏光子を通過させることで偏光を揃えて、等傾角干渉縞を形成するものであり、微分干渉顕微鏡と比べて、目的(位相差と偏光記録)や手段が異なるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、バイオイメージング分野の顕微鏡に有用である。
【符号の説明】
【0034】
101,102,103 ディジタルホログラフィック顕微鏡
1,55 観察対象試料
11 試料ステージ
12 レーザ光源
13 ダイクロイックミラー
14 対物レンズ
15,18 偏光子
3,16 ウォーラストンプリズム
19 バンドパスフィルタ
20 EM-CCDカメラ
17a~17c レンズ
10,20,23 ミラー
21,24 ビームスプリッター
40 オフアクシスホログラム