(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】入力補助装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/03 20060101AFI20241220BHJP
A61F 4/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
G06F3/03 400F
A61F4/00
(21)【出願番号】P 2021066464
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】508100262
【氏名又は名称】学校法人古沢学園
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】大塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】村上 真一
(72)【発明者】
【氏名】石倉 英樹
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-263259(JP,A)
【文献】特開2005-215818(JP,A)
【文献】特開2020-123070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0076627(US,A1)
【文献】特開平9-244792(JP,A)
【文献】登録実用新案第3072306(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 4/00
G06F 3/01
G06F 3/03 - 3/033
G06F 3/041 - 3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の枠体の一辺に取り付けられ、操作者が口腔内で噛むことによって支持する支持板と、
前記枠体の一辺と対向する辺とに挿通された心棒と、
前記心棒の前記支持板側端部に取り付けられ、操作者が舌で押圧する押圧部と、
前記心棒の前記押圧部と反対側の端部に取り付けられた操作部と、
前記枠体の内側に配置され、前記心棒を前記支持板側へ付勢する付勢部と、を備える、
ことを特徴とする入力補助装置。
【請求項2】
前記操作部は、導電性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の入力補助装置。
【請求項3】
前記支持板は、U字状のアクリル樹脂製である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の入力補助装置。
【請求項4】
前記押圧部は、舌で押圧される押圧面が凹陥している、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の入力補助装置。
【請求項5】
前記付勢部は、コイルばねである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の入力補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は入力補助装置に関し、より詳細には重度の筋神経疾患者を対象とした情報端末の入力補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四肢体幹機能障害者が、PC(personal computer)、タブレット端末等の情報端末を使用するための入力操作の方法として、棒状の入力補助装置(マウススティック)を口に咥えて入力操作をする方法(例えば、特許文献1)、筋活動電位を用いて入力操作をする方法(例えば、特許文献2)、視線検出による信号を用いて入力操作をする方法(例えば、特許文献3)等が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-5728号公報
【文献】特開平9-34630号公報
【文献】特開平11-73273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る入力補助装置であるマウススティックは、四肢体幹機能障害者が口に咥えて、頭部を前後に動かすことにより、マウススティックの先端でタブレット画面、キーボード等を押圧し、PC、タブレット等の情報端末を操作するものである。
【0005】
しかしながら、高位頚随損傷者、進行性筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis)等の重度の筋神経疾患者は、頸部の運動が困難である。よって、頭部を前後に動かして操作する従来の入力補助装置を用いた方法では、重度の筋神経疾患者がPC、タブレット等の情報端末の操作を行うことは難しい。
【0006】
特許文献2に係る筋活動電位を用いて入力操作をする方法、及び特許文献3に係る視線検出による信号を用いて入力操作をする方法では、頸部の運動を必要とすることなく入力操作が可能である。しかしながら、使用する装置が高価であること、操作が難しいため使用には訓練が必要となること等の課題がある。また、意思とは無関係である不随意運動による誤検出を生じやすいという課題がある。
【0007】
よって、重度の筋神経疾患者が、頸部の運動を必要とせず、容易な操作で使用できる入力補助装置が求められる。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、頸部の運動が困難である重度の筋神経疾患者の、PC、タブレット等の情報端末の操作を容易にする入力補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の入力補助装置は、
矩形状の枠体の一辺に取り付けられ、操作者が口腔内で噛むことによって支持する支持板と、
前記枠体の一辺と対向する辺とに挿通された心棒と、
前記心棒の前記支持板側端部に取り付けられ、操作者が舌で押圧する押圧部と、
前記心棒の前記押圧部と反対側の端部に取り付けられた操作部と、
前記枠体の内側に配置され、前記心棒を前記支持板側へ付勢する付勢部と、を備える。
【0010】
また、前記操作部は、導電性を有する、
こととしてもよい。
【0011】
また前記支持板は、U字状のアクリル樹脂製である、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記押圧部は、舌で押圧される押圧面が凹陥している、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記付勢部は、コイルばねである、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の入力補助装置によれば、舌で押圧して心棒を突出し操作を行うので、頸部の運動が困難である重度の筋神経疾患者であっても、PC、タブレット等の情報端末の入力操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る入力補助装置の平面図である。
【
図3】入力補助装置の初期状態を示す概要図である。
【
図4】入力補助装置の入力状態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る入力補助装置1について説明する。本発明の入力補助装置1は、
図1に示すように、フレーム10、支持板18、心棒21、操作部22、押圧部23、付勢部31を備える。
【0017】
フレーム10は、心棒21、付勢部31等の入力補助装置1に係る構成要素を収容、支持する概略矩形状の枠体である。本実施の形態に係るフレーム10は、長辺側の側壁を構成する2つのサイドガイド11(11R、11L)と、短辺側の側壁を構成するスライドガイド12、13を備える。スライドガイド12は、操作者が口に咥える支持板18側に位置し、スライドガイド13は情報端末のタッチパネル、キーボード等を操作する操作部22側に位置する。
【0018】
スライドガイド12、13は、心棒21が挿通される貫通孔12a、13aを有する部材である。スライドガイド12は、直方体状であり、スライドガイド12の中心を通るように長手方向に貫通孔12aが形成されている。スライドガイド13は、矩形板状のベース部13bと、心棒21の可動方向に伸びる凸部13cとを備え、ベース部13bと凸部13cとに渡って貫通孔13aが形成されている。
【0019】
スライドガイド12、13は、貫通孔12a、13aが同軸となるように離間して配置される。貫通孔12a、13aは、断面円形の心棒21がスムーズに突出、後退できるように、例えば心棒21の断面径より1mm程度大きく設定される。
【0020】
サイドガイド11(11R、11L)は、矩形板状の部材であり、長手方向の一方の端部で、スライドガイド12の貫通孔12aと平行な側面に接続される。また、サイドガイド11は、長手方向の他方の端部で、スライドガイド13のベース部13bの貫通孔13aと平行な側面に接続される。サイドガイド11R、11Lとスライドガイド12、13との接続方法は、特に限定されないが、例えば、ねじ止めである。また、2つのサイドガイド11は、スライドガイド12、13を挟んで対向するように配置され、スライドガイド12、13とともにフレーム10を構成する。
【0021】
支持板18は、操作者が咥えることにより、入力補助装置1を保持するための部材である。支持板18は、操作者が上顎の歯と下顎の歯とで噛んで保持できるように、略U字状のプレートとなっており、フレーム10の外側に突出するように、スライドガイド12に取り付けられている。本実施の形態に係る支持板18は、左右2つの支持板18R、18Lに分割されており、左側の歯で噛む支持板18Lと右側の歯で噛む支持板18Rからなり、支持板18Lと支持板18Rとで略U字形状となるように構成されている。これにより、スライドガイド12の中心部に形成された貫通孔12aと干渉しない位置に支持板18を取り付けることができるので、心棒21をフレーム10に対してスムーズにスライドさせることができる。
【0022】
支持板18の素材は特に限定されないが、例えばポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate、PMMA)等のアクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル(Ethylene-vinyl acetate、EVA)等である。
【0023】
また、支持板18はスライドガイド12にねじ止め固定されており、ねじを外すことにより、支持板18を交換することが可能である。これにより、操作者の顎の大きさ、歯並び等に基づいて、支持しやすい支持板18を選択して取り付けることができるので、入力補助装置1の操作性を向上させることができる。
【0024】
また、ねじを外すことにより、容易に支持板18を取り外すことができるので、支持板18を容易に消毒洗浄することが可能となり、入力補助装置1を清潔に保つことができる。
【0025】
心棒21は、操作者の入力操作を情報端末に伝える円柱状の部材であり、サイドガイド11と平行にフレーム10に挿通される。心棒21の素材は特に限定されないが、操作者が容易に操作できるように、軽量な素材を用いることが好ましい。本実施の形態に係る心棒21は、アルミニウム製である。また、本実施の形態に係る心棒21は、断面円形の円柱状としたが、これに限られず、楕円柱状、角柱状等であってもよい。
【0026】
押圧部23は、心棒21の一方の端部に取り付けられ、操作者が口腔内において舌で押圧して操作する部材である。押圧部23は略円板状であり、一方の主面の中心部が心棒21に取り付けられている。また、本実施の形態に係る押圧部23は、
図2に示すように、操作者の舌で押圧される押圧面23aが凹陥している。これにより、操作者の舌による押圧力を効率よく心棒21に伝えることができるので、操作者はより小さな力で心棒21を操作することができる。押圧部23の材料は特に限定されないが、本実施の形態に係る押圧部23はアルミニウム製である。
【0027】
押圧部23と心棒21との接続方法は、特に限定されない。本実施の形態では、心棒21の端部に形成された雄ねじ部に、押圧部23の心棒21に対する取り付け面に形成された雌ねじ部がねじ込まれて接続される。これにより、操作者の舌の形状、長さ等に基づいて、適当な大きさ、押圧面23aの曲率等を有する押圧部23を選択して心棒21に取り付けることができるので、入力補助装置1の操作性を向上させることが可能となる。
【0028】
操作部22は、心棒21の他方の端部、すなわち押圧部23と反対側の端部に取り付けられている。操作部22は、情報端末のタッチパネル、キーボード等に入力操作を行うための部材である。操作部22は、静電容量方式のタッチパネルを操作可能とするため、導電性を有する素材で形成されている。本実施の形態に係る操作部22は、アルミニウム製である。
【0029】
心棒21と操作部22との接続方法は、特に限定されない。本実施の形態では、心棒21の先端部に心棒21と一体的に形成された雄ねじ部に、操作部22に形成された雌ねじ部が締め込まれることにより、固定される。これにより、操作部22の硬度、重さ等を選択して付け替えることができるので、操作者にとって操作しやすい操作部22を選択して用いることができる。
【0030】
付勢部31は、フレーム10に対して、心棒21を押圧部23方向に付勢する部材である。本実施の形態に係る付勢部31は、
図1に示すように、フレーム10内の先端側、すなわちスライドガイド13側に配置される圧縮コイルばねである。より詳細には、付勢部31は、スライドガイド13と心棒21にねじ25で固定されているリング状のストッパ26との間に配置される。これにより、ストッパ26は、付勢部31である圧縮コイルばねの伸長する力によってスライドガイド12側に、押し付けられている。
【0031】
付勢部31の付勢力は、操作者が軽い力で操作できるように設定されることが好ましい。例えば、ストッパ26とスライドガイド12とが当接し、心棒21が押圧部23側に後退している状態(以下、初期状態という。)において、操作者が舌で押圧部23を押すことにより心棒21が動き出す力F0は、30g以下に設定されることが好ましい。また、操作部22でタッチパネル、キーボード等を操作するため、心棒21がフレーム10に対して突出している状態(以下、入力状態という。)において、付勢部31が心棒21を押す力FNは、小さいことが好ましい。例えば、心棒21が10mm程度突出した入力状態で、力FNは50g以下に設定されることが好ましい。
【0032】
図3は、入力補助装置1を操作者が口に咥えた状態、すなわち初期状態を示す概要図である。初期状態では、操作者が押圧部23を押圧していないので、心棒21は支持板18側に後退している。
図4は、操作者が舌で押圧部23を押圧することにより、心棒21を突出させた状態、すなわち入力状態を示す概要図である。入力状態では、心棒21をフレーム10から突出させることにより、操作部22を情報端末のタッチパネルに接触、押圧させて入力操作が行われる。
【0033】
このように、操作者は、入力操作したい位置で押圧部23を押圧して、タッチパネル、キーボード等に対して入力を行う。そして、操作者が、押圧部23から舌を離すと、心棒21は付勢部31の付勢力によって初期位置に戻る。したがって、操作者は、舌を押し出す動作と顎の小さな動作とによって容易に入力操作を行うことができる。
【0034】
本実施の形態に係る押圧部23、心棒21及び操作部22はアルミニウム等の導電部材によって構成されている。したがって、押圧部23を舌で押圧して操作部22を、静電容量方式のタッチパネルに接触させることにより、心棒21と操作部22を通して、タッチパネルの静電容量が変化し、PC、タブレット等の情報端末のタッチパネルへの入力操作が可能となる。また、操作部22と舌とは電気的に接続され、導電性を保つので、舌で押圧部23を押し続けながら入力補助装置1を上下に動かすことで、タッチパネルに表示される画面のスクロールが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る入力補助装置1は、操作者が舌で押圧部23を押圧することにより、心棒21を突出させて情報端末のタッチパネルを操作するので、頸部の運動が困難である重度の筋神経疾患者であっても、PC、タブレット等の情報端末の入力操作をすることが可能である。
【0036】
本実施の形態に係る心棒21は、1種類であることとしたが、これに限られない。例えば、予め用意された長さの異なる心棒21から、適当な長さの心棒21を選択して用いることとしてもよい。これにより、情報端末のタッチパネルと使用者の顔との距離を調節することができるので、使用者の目の焦点を合わせることが容易となり、操作性を向上させることができる。
【0037】
本実施の形態に係る入力補助装置1は、使用する際に口腔側となる部分に、支持板18、フレーム10等の大きく重い部品を配置することにより、重心を口腔側に位置させている。これにより、使用者の負担を軽減し、操作を容易にすることができる。
【0038】
また、本実施の形態に係るストッパ26は、心棒21にねじ25で固定されている。したがって、心棒21に対するストッパ26の位置を容易に変更することができる。これにより、付勢部31の付勢力を操作者にあわせて容易に調整することが可能であり、入力補助装置1の操作性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、頸部の運動が困難である重度の筋神経疾患者の、PC、タブレット等の端末の入力操作の補助に適している。
【符号の説明】
【0040】
1 入力補助装置、10 フレーム、11(11R、11L) サイドガイド、12 ス
ライドガイド、12a 貫通穴、13 スライドガイド、13a 貫通穴、13b ベー
ス部、13c 凸部、18(18R、18L) 支持板、21 心棒、22 操作部、23 押圧部、23a 押圧面、25 ねじ、26 ストッパ、31 付勢部