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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】植物病害防除剤及び植物病害防除法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/30 20200101AFI20241220BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241220BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20241220BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
A01N63/30
A01P3/00
A01N25/30
A01N25/00 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021527774
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025223
(87)【国際公開番号】W WO2020262612
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019120198
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020003941
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10642
(73)【特許権者】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚越 裕樹
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102286383(CN,A)
【文献】特開2019-038788(JP,A)
【文献】国際公開第2002/035934(WO,A1)
【文献】特開2015-093850(JP,A)
【文献】特開2015-061826(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1924005(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109593658(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104286032(CN,A)
【文献】Crop Protection,2013年,Vol. 53,pp. 80-84
【文献】Crop Protection,1999年,Vol. 18,pp. 119-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/30
A01P 3/00
A01N 25/30
A01N 25/00
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラロマイセス属に属する糸状菌を有効成分として含有する、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、及びムギ類から選択される植物に対する病害防除剤であって、
前記タラロマイセス属に属する糸状菌が、タラロマイセス フラバス(Talaromyces flavus)であり、
前記病害防除剤が、アブラナ科植物に対する病害防除剤である場合、前記病害がリゾクトニア属菌によって引き起こされる病害であり、
前記病害防除剤が、豆類に対する病害防除剤である場合前記病害がフザリウム属菌によって引き起こされる病害であり、
前記病害防除剤が、トウモロコシ及びムギ類から選択される植物に対する病害防除剤である場合前記病害がピシウム属菌によって引き起こされる病害である、前記防除剤。
【請求項2】
前記タラロマイセス フラバスが、タラロマイセス フラバスY-9401株(FERM BP-10642)
である、請求項に記載の防除剤。
【請求項3】
前記タラロマイセス属に属する糸状菌を、1×106~1×1012コロニー形成単位/gの量で含
有する、請求項1又は2に記載の防除剤。
【請求項4】
前記アブラナ科植物が、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、カブ、ハクサイ、ダイコン、ワサビ及びクレソンから選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の防除剤。
【請求項5】
さらに、界面活性剤及び/又は増量剤を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の防除剤。
【請求項6】
前記界面活性剤が、脂肪酸石ケン、アルキルエーテルカルボン酸、N-アシルアミノ酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪族アミン塩、脂肪族四級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベン
ゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド、カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩及びイミダゾリニウムベタインの群から選択される1種又は2種以上の界面活性剤である、請求項に記載の防除剤。
【請求項7】
前記増量剤が、カオリンクレー、パイロフェライトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、珪藻土、合成含水酸化ケイ素、酸性白土、タルク類、粘土、セラミック、石英、セリサイト、バーミキュライト、パーライト、大谷石、アンスラ石、石灰石、石炭石、ゼオライトから選択される鉱物質微粉末;食塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、尿素から選択される無機化合物;籾殻、フスマ、カニ殻、エビ殻、オキアミ微粉末、米粕、小麦粉、トウモロコシ穂軸、落花生殻、骨粉、魚粉、粕粉、木粉、炭、くん炭、バーク炭、籾殻くん炭、草木炭、ピートモス、アタパルジャイト、乾燥畜糞、活性炭、油粕、デンプン及びその加水分解物から選択される有機物;D-ソルビトール、ラクトース、マルチトース、グルコサミン、オリゴ糖類から選択される糖類;植物油、動物油、鉱物油から選択される油;合成水溶性高分子;の群から選択される1種又は2種以上の増量剤である、請求項又はに記載の防除剤。
【請求項8】
タラロマイセス属に属する糸状菌1~90質量%と、界面活性剤1~15質量%と、増量剤0~98質量%とを含む、請求項のいずれか一項に記載の防除剤。
【請求項9】
タラロマイセス属に属する菌2~46質量%と、界面活性剤2~15質量%と、増量剤39~96質量%とを含む、請求項のいずれか一項に記載の防除剤。
【請求項10】
剤型が粉剤、粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤、塗布剤のいずれかである、請求項1~のいずれか一項に記載の防除剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の防除剤によって、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、及びムギ類から選択される植物の種子、苗、植物体、育苗土壌、育苗培地、育成土壌及び/又は育成培地を処理する工程を含む、前記植物に対する、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、及びピシウム属菌から選択される菌によって引き起こされる病害の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトや動物が食する穀物、野菜などの植物が感染する病害を防除するための防除剤及びそれを用いた病害防除法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口の急激な増加に伴い、食料の需要は増えており、限られた栽培面積の中でより効率的で生産性の高い作物栽培が求められつつある。一方、地球温暖化などによる気候変動が要因となり、作物収量が減少している。
【0003】
現在、作物の病害は主に化学農薬の使用により防除されているが、これらの過度な使用により、薬剤耐性を持った病原菌が出現し、また、農薬そのものによる環境汚染も問題となっている。一方、化学農薬に依存せず環境負荷の少ない方法により作物を病害から防除する方法は、農業の持続的な発展をする上で重要な手段となる。
【0004】
近年、植物の病害に対して防除効果を有する微生物を用いた微生物農薬が開発されている。そのような微生物の一例として、タラロマイセス属に属する糸状菌が知られている。例えば、特許文献1(特許第3601928号)には、イチゴ炭そ病菌に対して防除効果を有するタラロマイセス フラバス(Talaromyces flavus) Y-9401株が開示されている。
【0005】
また、タラロマイセス フラバスについては、トマト灰色かび病やうどんこ病に対する防除効果を有することが特許文献2~4に示されており、イネの病害に対する防除効果を有することが特許文献5~7に示されている。
【0006】
さらに、非特許文献1においては、菌核病菌(Sclerotinia sclerotirum)の菌核を散布して作製した汚染土壌にタラロマイセス フラバス菌の固体培養物を散布処理したところ、ダイズ、ナタネ、コムギ、オオムギにおける菌核病の発生が防除できたことが示されている。
【0007】
非特許文献2においては、タラロマイセス フラバスの胞子懸濁液に浸漬して種子消毒したバレイショは半身萎凋病(原因菌Verticillium albo-atrum)の発生が抑制されたことが示されている。また、同文献ではタラロマイセス フラバスの胞子で処理した土壌に直接未消毒バレイショを播種した場合でも、半身萎凋病を防除できたことが示されている。
【0008】
非特許文献3においては、バレイショの苗にタラロマイセス フラバス菌懸濁液を噴霧することで、茎腐病(原因菌Sclerotinia sclerotirum)が防除できたことが示されている。
【0009】
非特許文献4においては、ナス、バレイショの種子又は塊茎にタラロマイセス フラバス菌の胞子を含む簡易製剤を処理することにより、半身萎凋病(原因菌Verticillium dahliae)を防除できたことが示されている。
【0010】
非特許文献5においては、テンサイの種子にタラロマイセス フラバス菌を処理することでRhizoctonia solaniによる苗立枯病が防除できたことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3601928号
【文献】特許第4226323号
【文献】特開2006-124337号
【文献】特開2009-221132号
【文献】特許第4810151号
【文献】特開2014-237609号
【文献】特開2015-093850号
【非特許文献】
【0012】
【文献】MCLAREN D L, HUANG H C , RIMMERS R、(1996), Control of Apothecial Production of Sclerotiniasclerotiorum by Coniothyriumminitans and Talaromycesflavus. Plant Dis Vol.80 No.12 Page.1373-1378
【文献】Naraghi, L., Heydari, A., Rezaee, S., Razavi, M., & Jahanifar, H. (2010). Study on antagonistic effects of Talaromyces flavus on Verticillium albo-atrum, the causal agent of potato wilt disease. Crop Protection, 29(7), 658-662.
【文献】OJAGHIAN Mohammad Reza (2011)Potential of Trichoderma spp. and Talaromycesflavus for biological control of potatostem rot caused by Sclerotinia sclerotiorum. Phytoparasitica Vol.39 No.2 Page.185-193
【文献】Nagtzaam, M. P. M., & Bollen, G. J. (1997). Colonization of roots of eggplant and potato by Talaromyces flavus from coated seed. Soil Biology and Biochemistry, 29(9-10), 1499-1507.
【文献】Kakvan, N., Heydari, A., Zamanizadeh, H. R., Rezaee, S., & Naraghi, L. (2013). Development of new bioformulations using Trichoderma and Talaromycesfungal antagonists for biological control of sugar beet damping-off disease. Crop Protection, 53, 80-84.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の通り、タラロマイセス属に属する糸状菌が植物の病害防除剤として使用できることが知られていたが、植物及び病害の種類についてはさらなる適用範囲の拡大が求められていた。
本発明は、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物に対する、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌から選択される菌によって引き起こされる病害を防除するための微生物製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物の種、苗、土壌等に対し、タラロマイセス属糸状菌を処理することで、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、フザリウム(Fusarium)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、ミクロドキウム(Microdochium)属菌、ティレティア(Tilletia)属菌、ウスティラゴ(Ustilago)属菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属菌、エルビニア(Erwinia)属菌及びアファノミセス(Aphanomyces)属菌によって引き起こされる病害を安定的かつ効率的に防除できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]タラロマイセス属に属する糸状菌を有効成分として含有する、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物に対する病害防除剤であって、前記病害がリゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌から選択される菌によって引き起こされる病害である、前記防除剤。
[2]前記タラロマイセス属に属する糸状菌が、タラロマイセス フラバス(Talaromyces flavus)である、[1]に記載の防除剤。
[3]前記タラロマイセス フラバスが、タラロマイセス フラバスY-9401株(FERM BP-10642)である、[2]に記載の防除剤。
[4]前記タラロマイセス属に属する糸状菌を、1×106~1×1012コロニー形成単位(cfu)/gの量で含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の防除剤。
[5]前記アブラナ科植物が、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、カブ、ハクサイ、ダイコン、ワサビ及びクレソンから選択される、[1]~[4]のいずれかに記載の防除剤。
[6]さらに、界面活性剤及び/又は増量剤を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の防除剤。
[7]前記界面活性剤が、脂肪酸石ケン、アルキルエーテルカルボン酸、N-アシルアミノ酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪族アミン塩、脂肪族四級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド、カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩及びイミダゾリニウムベタインの群から選択される1種又は2種以上の界面活性剤である、[6]に記載の防除剤。
[8]前記増量剤が、カオリンクレー、パイロフェライトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、珪藻土、合成含水酸化ケイ素、酸性白土、タルク類、粘土、セラミック、石英、セリサイト、バーミキュライト、パーライト、大谷石、アンスラ石、石灰石、石炭石、ゼオライトから選択される鉱物質微粉末;食塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、尿素から選択される無機化合物;籾殻、フスマ、カニ殻、エビ殻、オキアミ微粉末、米粕、小麦粉、トウモロコシ穂軸、落花生殻、骨粉、魚粉、粕粉、木粉、炭、くん炭、バーク炭、籾殻くん炭、草木炭、ピートモス、アタパルジャイト、乾燥畜糞、活性炭、油粕、デンプン及びその加水分解物から選択される有機物;D-ソルビトール、ラクトース、マルチトース、グルコサミン、オリゴ糖類から選択される糖類;植物油、動物油、鉱物油から選択される油;合成水溶性高分子;の群から選択される1種又は2種以上の増量剤である、[6]又は[7]に記載の防除剤。
[9]タラロマイセス属に属する糸状菌1~90質量%と、界面活性剤1~15質量%と、増量剤0~98質量%とを含む、[6]~[8]のいずれかに記載の防除剤。
[10]タラロマイセス属に属する菌2~46質量%と、界面活性剤2~15質量%と、増量剤39~96質量%とを含む、[6]~[8]のいずれかに記載の防除剤。
[11]剤型が粉剤、粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤、塗布剤のいずれかである、[1]~[10]のいずれかに記載の防除剤。
[12][1]~[11]のいずれかに記載の防除剤によって、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物の種子、苗、植物体、育苗土壌、育苗培地、育成土壌及び/又は育成培地を処理する工程を含む、前記植物に対する、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌から選択される菌によって引き起こされる病害の防除方法。
[13]タラロマイセス属に属する糸状菌の、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物に対する病害防除剤の製造における使用であって、前記病害がリゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌から選択される菌によって引き起こされる病害である、前記使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タラロマイセス属糸状菌によって、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイから選択される植物の種、苗、土壌等を処理することで、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌等によって引き起こされる苗立枯病などの病害に対して高い防除効果を発揮することができる。
【0017】
タラロマイセス フラバスY-9401株のような天然より単離されたタラロマイセス属糸状菌の菌株を用いた場合は、環境や人体への悪影響を起こすことなく、病害防除を行うことができる。特に、Y-9401株などのタラロマイセス フラバスは胞子の保存安定性が高く、水和剤、粒剤、フロアブルなど複数の剤型を選択できるため有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<タラロマイセス属に属する糸状菌>
本発明の病害防除剤に用いるタラロマイセス属に属する糸状菌としては、特に制限されず、タラロマイセス フラバス(Talaromyces flavus)、タラロマイセス バシリスポラス(Talaromyces bacillisporus)、タラロマイセス ヘリカム(Talaromyces helicum)、タラロマイセス ルテウス(Talaromyces luteus)、タラロマイセス ロタンダス(Talaromyces rutundus)などが挙げられるが、好ましくはタラロマイセス フラバスである。
【0019】
タラロマイセス フラバスとしては、タラロマイセス フラバスY-9401株が好ましく挙げられる。タラロマイセス フラバスY-9401株は、平成8年9月2日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センター(現独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(IPOD))に、FERM P-15816として寄託され、平成18年7月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-10642が付与されている。
【0020】
<病害防除剤>
本発明の病害防除剤は、上記のタラロマイセス属糸状菌を有効成分として含む。
タラロマイセス属糸状菌の形態は病害防除効果を発揮できる限り特に制限されず、分生子、菌糸、子嚢、胞子等のいずれの形態であってもよいが、病害防除剤の保存性の観点から、胞子であることが好ましい。
【0021】
タラロマイセス属糸状菌は、通常の糸状菌と同様の方法で培養することができる。
例えば、往復動式液体培養やジャーファメンター培養等の液体培養法や半固体培地で培養する半固体培養法、固体培地で培養する固体培養法により、タラロマイセス属に属する糸状菌を増殖させることができる。
タラロマイセス属に属する糸状菌を液体培養する場合には、ポテトデキストロース培地やサブロー培地等を用いることができる。半固体培養を行う場合には、ポテトデキストロース培地やサブロー培地等をゲル化させた培地、米、麦、トウモロコシ、ダイズ等の穀物類、フスマ、大豆カス等の穀物由来の固体成分を水に懸濁させた培地を用いることができる。固体培養を行う場合には、米、麦、トウモロコシ、ダイズ等の穀物類、フスマ、大豆カス等の穀物由来の固体成分や、栄養源を含む粘土鉱物等の固体担体等に必要に応じて糖類や窒素源等を含ませた培地を用いることができる。
【0022】
タラロマイセス属に属する糸状菌の培養条件については、通気、攪拌、振とう等の方法により好気的条件下で行うことが好ましく、培養温度は20~40℃が好ましい。培養期間は3~60日間とするのが好ましく、3~20日間とするのがより好ましい。
【0023】
タラロマイセス属に属する糸状菌を含む培養物はそのまま病害防除剤に用いてもよいが、必要に応じて培養物を破砕あるいは細断して用いてもよく、さらに、この培養物から篩等により胞子を主体に回収したものを用いてもよい。また、水や油等の液体により培養物から菌体を分離し、そのままあるいは濃縮したものを用いてもよい。
【0024】
本発明の病害防除剤に含まれる、タラロマイセス属糸状菌の量は特に制限されず、剤型によっても調整できるが、例えば、液剤の場合、好ましくは1×106~1×1012cfu(コロニー形成単位)/g、より好ましくは1×107~1×1011cfu/gであり、固形剤の場合、好ましくは1×106~1×1012cfu(コロニー形成単位)/g、より好ましくは1×107~1×1011cfu/gである。
【0025】
本発明の病害防除剤には、タラロマイセス属糸状菌の生育や保存性や病害防除効果を妨げないものである限り、増量剤や界面活性剤などの任意成分を、製剤化、品質の安定化等を目的として必要に応じて含有させることができる。本発明の病害防除剤に用いられる任意成分としては、例えば、以下のような成分の1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
増量剤としては、固体担体では、カオリンクレー、パイロフェライトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、珪藻土、合成含水酸化ケイ素、酸性白土、タルク類、粘土、セラミック、石英、セリサイト、バーミキュライト、パーライト、大谷石、アンスラ石、石灰石、石炭石、ゼオライト等の鉱物質微粉末;食塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、尿素等の無機化合物;籾殻、フスマ、カニ殻、エビ殻、オキアミ微粉末、米粕、小麦粉、トウモロコシ穂軸、落花生殻、骨粉、魚粉、粕粉、木粉、炭、くん炭、バーク炭、籾殻くん炭、草木炭、ピートモス、アタパルジャイト、乾燥畜糞、活性炭、油粕、デンプン及びその加水分解物等の有機物微粉末;D-ソルビトール、ラクトース、マルチトース、グルコサミン、オリゴ糖類等の可溶性増量剤等が挙げられ、液体担体では、水、植物油、動物油、鉱物油、合成水溶性高分子等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
界面活性剤としては、脂肪酸石ケン、アルキルエーテルカルボン酸、N-アシルアミノ酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪族アミン塩、脂肪族四級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド、カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩及びイミダゾリニウムベタインなどが挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を使用することができる。
【0028】
界面活性剤と増量剤を使用する場合、タラロマイセス属に属する糸状菌を1~90質量%、界面活性剤を1~15質量%及び増量剤を0~98質量%の割合で含有させることが好ましく、タラロマイセス属に属する糸状菌を2~46質量%、界面活性剤を2~15質量%及び増量剤を39~96質量%の割合で含有させることがより好ましい。
タラロマイセス菌胞子は疎水性であるため、水に希釈して処理するときには界面活性剤を添加して分散性を向上させることが有効である。界面活性剤が少量すぎると、分散効果が得られず、多すぎても効果は頭打ちになり添加の意味をなさないので上記の範囲が好ましい。また、増量剤は使用量の幅を持たせることによって、有効成分の濃度を調節することができる。
【0029】
さらに、必要に応じて補助剤としてカゼイン、ゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸、セルロース類、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、キチン類、キトサン類等の天然多糖類等;ポリビニルアルコール類;ポリアクリル酸類;ベントナイト等を増粘、固着、分散等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
また、エチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール等を、凍結防止等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
また、アニオン型、カチオン型、両性型等の界面活性剤を分散安定、凝集防止、乳化等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
【0030】
本発明のタラロマイセス属糸状菌を含有する病害防除剤は、通常の製剤の製造方法に従って、必要に応じて各種任意成分とともに、粉剤、粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤、塗布剤等に製剤化することができる。
水和剤や粉剤は、上記したような固体担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤や品質を安定させる成分を混合又は粉砕混合することにより製造することができる。
粒剤は、上記したような固体担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤や品質を安定させる成分を混合又は粉砕混合し、更に造粒することにより製造することができる。
乳剤は、植物油、動物油、鉱物油等の液状担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤や品質を安定させる成分を混合又は粉砕混合することにより製造することができる。
フロアブル剤は、水に、上記したような補助剤や二価アルコール等や界面活性剤や品質を安定させる成分を混合又は粉砕混合することにより製造することができる。
塗布剤は、水や油等の液体担体に補助剤を加え、混合し、ゾル状又はゲル状とすることにより製造することができる。
【0031】
<対象植物及び対象病害>
本発明の病害防除剤の適用対象となる植物は、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類及びテンサイである。ここで、アブラナ科植物にはブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、カブ、ハクサイ、ダイコン、ワサビ、及びクレソン等が含まれ、豆類にはダイズ、エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、ヒヨコマメ等が含まれ、ムギ類にはコムギ、オオムギ、ライムギ等が含まれ、イモ類にはバレイショ、サツマイモ、サトイモ、ヤマノイモ、コンニャクイモ等が含まれる。
【0032】
対象病害は、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌、ミクロドキウム属菌、ティレティア属菌、ウスティラゴ属菌、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌及びアファノミセス属菌から選択される菌によって引き起こされる1種又は2種以上の病害である。
リゾクトニア属菌としては、Rhizoctonia solaniが挙げられ、リゾクトニア属菌による病害としては苗立枯病などが挙げられる。
フザリウム属菌としては、Fusarium solani、Fusarium oxysporum が挙げられ、フザリウム属菌による病害としては苗立枯病などが挙げられる。
ピシウム属菌としては、Pythium ultimum、Pythium aphanidermatum、Pythium spinosum、Pythium debaryanum、Pythium cucurbitacearum、Pythium myriotylumが挙げられ、ピシウム属菌による病害としては苗立枯病などが挙げられる。
ミクロドキウム属菌としては、Microdochium nivalが挙げられ、ミクロドキウム属菌による病害としては紅色雪腐病などが挙げられる。
ティレティア属菌としては、Tilletia caries、Tilletia tritici、Tilletia leavis、Tilletia foetidaが挙げられ、ティレティア属菌による病害としてはなまぐさ黒穂病などが挙げられる。
ウスティラゴ属菌としては、Ustilago nudaが挙げられ、ウスティラゴ属菌による病害としては裸黒穂病などが挙げられる。
ストレプトマイセス属菌としては、Streptomyces scabieiが挙げられ、ストレプトマイセス属菌による病害としてはそうか病などが挙げられる。
エルビニア属菌としては、Erwinia carotovora、Erwinia chrysanthemiが挙げられ、エルビニア属菌による病害としては黒あし病などが挙げられる。
アファノミセス属菌としては、Aphanomyces cochlioidesが挙げられ、アファノミセス属菌による病害としては苗立枯病、根腐病、黒根病などが挙げられる。
【0033】
本発明の病害防除剤は、アブラナ科植物に施用する場合、特に、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌による病害の防除効果に優れる。
本発明の病害防除剤は、ダイズなどの豆類に施用する場合、特に、ゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌による病害の防除効果に優れる。
本発明の病害防除剤は、トウモロコシに施用する場合、特に、ゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌による病害の防除効果に優れる。
本発明の病害防除剤は、ムギ類に施用する場合、特に、ウスティラゴ属菌、ティレティア属菌、ミクロドキウム属菌、ゾクトニア属菌、フザリウム属菌、ピシウム属菌による病害の防除効果に優れる。
本発明の病害防除剤は、バレイショなどのイモ類に施用する場合、特に、ストレプトマイセス属菌、エルビニア属菌、リゾクトニア属菌による病害の防除効果に優れる。
本発明の病害防除剤は、テンサイに施用する場合、特に、アファノマイセス属菌による病害の防除効果に優れる。
【0034】
<施用方法>
本発明のタラロマイセス属糸状菌を含有する病害防除剤は、上記のような各種病害を防除する目的で、アブラナ科植物、豆類、トウモロコシ、ムギ類、イモ類又はテンサイの種子、苗、植物体(葉、茎、根等)、育苗土壌、育苗培地、育成土壌、育成培地等を処理するために施用されるが、その施用方法は、剤型等の使用形態や病害によって適宜選択される。
このような方法として、例えば、種子浸漬処理、種子粉衣処理、種子塗布処理、種子散布処理、土壌散布処理、土壌混和施用、土壌潅注施用、育苗箱潅注施用、株元施用、地上部液散布、地上部固形散布等の方法を挙げることができ、これらを繰り返したり、組み合わせたりすることもできる。
【0035】
本発明のタラロマイセス属糸状菌を含有する病害防除剤の施用量は、病害の種類等によって一概には規定できないが、例えば、種子浸漬処理する場合には、種子浸漬液として製剤を10~1000倍(質量)に希釈して適用することが好ましく、その菌体濃度は浸漬液1mlあたり通常1×103~1×1010cfu、好ましくは1×104~1×109cfuである。
【0036】
種子粉衣処理する場合には、種子質量に対して製剤を1~20質量%適用することが好ましく、その菌体濃度は種子質量1gあたり通常1×103~1×1010cfu、好ましくは1×104~1×109cfuである。
【0037】
土壌散布施用する場合には、育苗箱(例えば、面積1800cm2程度)あたり散布が液体であれば、50~1000ml適用することが好ましく、その菌体濃度は散布液体1mlあたり通常1×103~1×1010cfu、好ましくは1×104~1×1010cfuである。育苗箱以外を使用して育苗又は育成する場合も、同様の単位面積当たりの施用量を適用できる。
【0038】
土壌混和施用する場合には、育苗箱(例えば、面積1800cm2程度)に対して0.1~100g適用することが好ましく、その菌体濃度は土壌1mlあたり1×102~1×109cfu、好ましくは1×103~1×108cfuである。育苗箱以外を使用して育苗又は育成する場合も、同様の単位面積当たりの施用量を適用できる。
【0039】
土壌に潅注施用する場合には、育苗箱(例えば、面積1800cm2程度)に対して散布が液体であれば50~1000ml適用することが好ましく、その菌体濃度は散布液体1mlあたり通常1×103~1×109cfu、好ましくは1×104~1×108cfuである。育苗箱以外を使用して育苗又は育成する場合も、同様の単位面積当たりの施用量を適用できる。
【0040】
本発明の防除剤は、タラロマイセス属糸状菌の生育や拮抗作用に悪影響を及ぼさない限り、他の病害防除剤と混用、併用が可能である。例えば、殺菌剤、殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料、各種微生物剤との併用が可能である。
【実施例
【0041】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明はこれらの実施例の態様には限定されない。
【0042】
キャベツのリゾクトニアによる苗立枯病の防除効果試験
<製造例1>
(胞子の製造)
培地にふすまを用い、これにタラロマイセス フラバスY-9401株の種菌を植菌し、30℃において10日間固体培養した。培養終了後、培養物を乾燥し、タラロマイセス フラバスY-9401の胞子含有粉末を(4×109 cfu/g)を得た。
【0043】
(製剤の製造)
上記製造例1で得られたタラロマイセス フラバスY-9401の胞子含有粉末を使用し、この胞子含有粉末を10質量%、界面活性剤としてSORPOL4315L(東邦化学工業製)を10質量%、増量剤として大豆油(日清オイリオ製)を80質量%の割合になるように混合攪拌し、180μmの篩でろ過した。ここで得られたろ液を遠心分離機により濃縮し、フロアブル製剤(1×109cfu/g)を得た。
【0044】
<実施例1>
(キャベツのリゾクトニアによる苗立枯病の防除効果試験)
(1)病原菌の接種
肥料成分を含む園芸用培土(元気くん1号)に、ポテトデキストロースブロス(PDB)培地で静置培養したリゾクトニア ソラニー菌を1/50重量になるように混和し、リゾクトニア菌汚染培土とした。
【0045】
(2)薬剤処理
上記リゾクトニア菌の汚染土壌を充填した直径6.5cmのプラスチック製カップにキャベツ(品種:おきな)20粒播種した。これに、上記製剤の製造で作製したフロアブル製剤を1×107cfu/ml、4×106 cfu/ml、2×106cfu/mlとなるように水で希釈し、前記土壌表面に均一に噴霧処理(9.3ml)し、薬剤処理区とした。また、トルクロホスメチルを有効成分とする水和剤(リゾレックス水和剤)を水で500倍に希釈し、前記土壌表面に均一に噴霧処理(9.3ml)し、薬剤処理対照区とした。また、前記薬剤溶液を水としたポットを作製し、対照(無処理区)とした。薬剤処理区および無処理区ともに独立した3回の試験を行った。
【0046】
(3)試験植物の育成
上記処理を実施したプラスチック製カップにリゾクトニア菌汚染培土で覆土した後、ガラス温室内において定法に従い栽培管理した。
【0047】
(4)防除効果調査
播種1週間後、出芽しなかったもの、苗の腐敗、萎凋等のリゾクトニア菌による苗立枯病の病徴が発現している苗を発病苗とし、各処理区における健全苗率を算出した。
【0048】
結果
表1に示すように、タラロマイセス剤を土壌潅注処理することによりリゾクトニア ソラニーによる苗立枯病が防除可能であることがわかった。
【0049】
【表1】
【0050】
<製造例2>
(胞子の製造)
培地にふすまを用い、これにタラロマイセス フラバスY-9401株の種菌を植菌し、30℃において10日間固体培養した。培養終了後、培養物を乾燥し、増量剤の粘土鉱物(カオリンKH:カナヤ興産社製)と乾燥培養物を重量比1:9の比率で混合した後に篩をかけてフスマ残渣を除去し、タラロマイセス フラバスY-9401の胞子含有粉末を(1×1010cfu/g)を得た。
【0051】
<製剤例2>
(製剤の製造)
上記製造例2で得られたタラロマイセス フラバスY-9401胞子含有粉末を使用し、この胞子含有粉末20質量%、界面活性剤としてSORPOL5082(東邦化学工業社製)を10質量%、増量剤として粘土鉱物(カオリンKH)を38質量%、グルコサミン(プロテインケミカル社製)を30質量%、増粘剤としてスメクトンSA(クニミネ工業社社製)を2質量%の割合になるように混合し、ミル粉砕機を用いて混合及び粉砕し、製剤例2の水和剤(2×109cfu/g)を得た。
【0052】
<製造例3>
(胞子の製造)
培地にふすまを用い、これにタラロマイセス フラバスY-9401株の種菌を植菌し、30℃において10日間固体培養した。培養終了後、培養物を乾燥し、その乾燥培養物を篩にかけ、ふすま残渣を除去し、タラロマイセス フラバスY-9401胞子含有粉末(4×109cfu/g)を得た。
【0053】
<製剤例3>
(製剤の製造)
上記製造例3で得られたタラロマイセス フラバスY-9401胞子含有粉末を使用し、この胞子含有粉末10質量%、界面活性剤としてSORPOL5082(東邦化学工業社製)を5質量%、増量剤として粘土鉱物(HA-Aカオリンクレー:丸尾カルシウム社製)を45質量%、グルコサミン(プロテインケミカル社製)を40質量%の割合になるように混合し、ミル粉砕機を用いて混合及び粉砕し、製剤例3の水和剤(4×108cfu/g)を得た。
【0054】
<実施例2>
(コムギのピシウムによる苗立枯病の防除効果試験)
(1)病原菌の接種
コーンミール液体培地で振とう培養したピシウム ウルティマム菌を、土壌とフスマが体積比で2:1となるように混合し、水分含量が50%となるように調製してオートクレーブ滅菌した培地に接種し、7日間固体培養した。この培養物をオートクレーブ滅菌した土壌に対し、体積比で1:4となるように混合し汚染土とした。
【0055】
(2)薬剤処理
上記ピシウム ウルティマム菌の汚染土壌を充填した直径5.5cmのプラスチック製カップにコムギ(品種:農林61号)10粒を播種した。播種した種子が完全に隠れるように覆土し、上記製剤例2で作製した水和剤を2×108cfu/ml、7×107cfu/ml、2×107cfu/mlとなるように水で希釈し、前記土壌表面に均一に噴霧処理(15ml)し、薬剤処理区とした。また、比較のためキャプタンを有効成分とする水和剤(オーソサイド水和剤80)をコムギの種子の0.4%重量に対して粉衣処理したものを播種し、薬剤処理対照区とした。また、前記薬剤溶液を全く処理しない接種無処理区、さらに、滅菌した健全土にコムギ10粒を播種した処理無接種区を設けた。全ての試験区について独立した3回の試験を行った。
【0056】
(3)試験植物の育成
上記処理を実施したプラスチック製カップを温室内において定法に従い栽培管理した。
【0057】
(4)防除効果の調査
播種から2週間後、出芽しなかったもの、苗の腐敗および萎凋等のピシウム菌による苗立枯病の病徴が発現しているものを発病苗とし、各処理区における健全苗率を算出した。
【0058】
結果
表2に示すように、タラロマイセス剤を処理することによりピシウム ウルティマム菌による苗立枯病が防除可能であることがわかった。
【0059】
【表2】
【0060】
<実施例3>
(デントコーンのピシウムによる苗立枯病の防除効果試験)
(1)病原菌の接種
上記実施例2で作製した培養物をオートクレーブ滅菌した土壌に対し、体積比で1:9となるように混合し汚染土とした。
【0061】
(2)薬剤処理
上記ピシウム ウルティマム菌の汚染土壌を充填した直径5.5cmのプラスチック製カップにデントコーン(品種:34N84)5粒を播種した。播種した種子が完全に隠れるように覆土し、上記製剤例2で作製した水和剤を2×108cfu/ml、7×107cfu/ml、2×107cfu/mlとなるように水で希釈し、前記土壌表面に均一に噴霧処理(15ml)し、薬剤処理区とした。また、比較のためキャプタンを有効成分とする水和剤(オーソサイド水和剤80)をデントコーンの種子の0.4%重量に対して粉衣処理したものを播種し、薬剤処理対照区とした。また、前記薬剤溶液を全く処理しない接種無処理区、さらに、滅菌した健全土にデントコーン5粒を播種した処理無接種区を設けた。全ての試験区について独立した3回の試験を行った。
【0062】
(3)試験植物の育成
上記処理を実施したプラスチック製カップを温室内において定法に従い栽培管理した。
【0063】
(4)防除効果の調査
播種から2週間後、出芽しなかったもの、苗の腐敗および萎凋等のピシウム菌による苗立枯病の病徴が発現しているものを発病苗とし、各処理区における健全苗率を算出した。
【0064】
結果
表3に示すように、タラロマイセス剤を処理することによりピシウム ウルティマム菌による苗立枯病が防除可能であることがわかった。
【0065】
【表3】
【0066】
<実施例4>
(ダイズのフザリウムによる苗立枯病の防除効果試験)
(1)病原菌の接種
ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)で静置培養して培養したフザリウム オキシスポラム菌を、土壌とコーンミールを体積比で5:1となるように混合し、水分含量が50%となるように調製してオートクレーブ滅菌した培地に接種し、21日間固体培養した。この培養物をオートクレーブ滅菌した土壌に対し、体積比で1:4となるように混合し汚染土とした。
【0067】
(2)薬剤処理
上記フザリウム オキシスポラム菌の汚染土壌を充填した直径5.5cmのプラスチック製カップにダイズ(品種:エンレイ)5粒を播種した。播種した種子が完全に隠れるように覆土し、上記製剤例2で作製した水和剤を2×108cfu/ml、2×107cfu/mlとなるように水で希釈し、前記土壌表面に均一に噴霧処理(15ml)し、薬剤処理区とした。また、比較のためチウラム、チオファネートメチルを有効成分とする水和剤(ホーマイ水和剤)をダイズ種子の0.5%重量に対して粉衣処理したものを播種し、薬剤処理対照区とした。また、前記薬剤溶液を全く処理しない接種無処理区、さらに、滅菌した健全土にダイズ5粒を播種した処理無接種区を設けた。全ての試験区について独立した3回の試験を行った。
【0068】
(3)試験植物の育成
上記処理を実施したプラスチック製カップを温室内において定法に従い栽培管理した。
【0069】
(4)防除効果の調査
播種から2週間後、出芽しなかったもの、苗の腐敗および萎凋等のフザリウム菌による苗立枯病の病徴が発現しているものを発病苗とし、各処理区における健全苗率を算出した。
【0070】
結果
表4に示すように、タラロマイセス剤を土壌潅注処理することによりフザリウム オキシスポラム菌による苗立枯病が防除可能であることがわかった。
【0071】
【表4】
【0072】
<実施例5>
(バレイショのそうか病の防除効果試験)
(1)薬剤処理
ストレプトマイセス スカビエイ菌により罹病し、病斑が種いも1つあたり4~10個程度発生した汚染いも(品種:にしゆたか)を、上記製剤例3で作製した水和剤を1×106cfu/mlに希釈した薬液に1分間および10秒間浸漬した。薬液を乾燥後、圃場に種いもを播種した。また、比較のためストレプトマイシン、オキシテトラサイクリンを有効成分とする水和剤(アグリマイシン水和剤100)を100倍に希釈した薬液に10秒間浸漬、乾燥させたものを薬剤処理対照区とした。また、水のみに浸漬及び乾燥したものを接種無処理区とした。全ての試験区について独立した3回の試験を行った。
【0073】
(2)防除効果の調査
播種から81日後に収穫し、塊茎表面にそうか病の病斑が認められたものを罹病塊茎とし、全塊茎数から発病塊茎率を算出した。
【0074】
結果
表5に示すように、タラロマイセス剤を処理することによりストレプトマイセス スカビエイ菌によるそうか病が防除可能であることがわかった。
【0075】
【表5】