(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】エネルギーシステム及びエネルギー授受調整方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20241220BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241220BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20241220BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241220BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20241220BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/38 130
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J7/00 P
H02J7/35 K
H02J7/34 B
(21)【出願番号】P 2021562618
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044184
(87)【国際公開番号】W WO2021111997
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019217883
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】中川 二彦
(72)【発明者】
【氏名】千阪 秀幸
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-142779(JP,A)
【文献】特開2018-157615(JP,A)
【文献】特開2012-191736(JP,A)
【文献】特開2014-204527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/38
H02J 3/32
H02J 7/00
H02J 7/35
H02J 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を消費する電力負荷を有する一単位の施設におけるエネルギー授受網である単位グリッドを複数備えるコミュニティにおけるエネルギーシステムであり、
前記単位グリッドは、それぞれ再生可能エネルギーを使用して発電を行う再エネ発電装置を備え、自身の前記再エネ発電装置によって発電された電力を、自身の前記電力負荷に供給すると共に、
それぞれの前記単位グリッドは、電動式移動体に搭載された蓄電池であるモバイル蓄電池に蓄えられる電力を、前記電動式移動体の移動に伴い、他の前記単位グリッドとの間で授受する連携グリッドを形成するものであり、
前記連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせが、前記電動式移動体の移動先に応じて変化することにより、互いの地理的な位置関係が固定されていない複数の前記単位グリッドによって電力の授受のための仮想グリッドが形成される
ものであり、
前記単位グリッドは、熱負荷と、電力を熱に変換して蓄える蓄熱装置と、前記施設内の定置型蓄電池である無停電電源装置と、エネルギー授受調整を行う制御装置と、を更に具備し、
該制御装置は、前記再エネ発電装置による発電量、前記電力負荷の電力需要、前記熱負荷の熱需要、前記蓄熱装置における蓄熱量、前記モバイル蓄電池の蓄電電力量、及び前記無停電電源装置の蓄電電力量を含む数値データの検出に基づいて、(A)前記再エネ発電装置から前記電力負荷への電力供給、(B)前記再エネ発電装置から前記蓄熱装置への電力供給、(C)前記再エネ発電装置から前記モバイル蓄電池への電力供給、及び(D)前記再エネ発電装置から前記無停電電源装置への電力供給、の少なくとも何れかを行うための電流流路を介した電力の移動を制御するものであり、(A)~(D)のうち(A)の優先順位が最も高く、(D)の優先順位が最も低くなるように制御すると共に、前記無停電電源装置から前記モバイル蓄電池へ電力供給する制御は行わない
ことを特徴とするエネルギーシステム。
【請求項2】
前記無停電電源装置は、蓄電電力量の上限値が5kWhの小容量蓄電池である
ことを特徴とする請求項1に記載のエネルギーシステム。
【請求項3】
複数の前記単位グリッドの前記制御装置は、それぞれ通信ネットワークによって管理サーバと接続されており、
前記制御装置から前記管理サーバに、前記通信ネットワークを介して前記数値データが送信され、
前記管理サーバは、
受信した前記数値データを前記単位グリッドの識別情報と関連付けて記憶するデータベースを備えていると共に、
前記単位グリッドそれぞれにおける電力の過不足に基づいて、電力の授受のための連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせを抽出する手段を備えている
ことを特徴とする請求項
1に記載のエネルギーシステム。
【請求項4】
該蓄熱装置は、熱を蓄える媒体を収容している容器を断熱する断熱層を備え、
該断熱層は、前記容器の壁が二重構造であり、二重の壁間の空間が真空とされた真空断熱層、または、多孔質の芯材がフィルムで被覆され、フィルム内空間が減圧されている真空断熱材の複数が積層された断熱層である
ことを特徴とする請求項1に記載のエネルギーシステム。
【請求項5】
電力を消費する電力負荷を有する一単位の施設におけるエネルギー授受網である単位グリッドを複数備えるコミュニティにおける
請求項1に記載のエネルギーシステムで使用されるエネルギー授受調整方法であり、
前記エネルギーシステムにおいて、
前記単位グリッドは、それぞれ再生可能エネルギーを使用して発電を行う再エネ発電装置を備え、自身の前記再エネ発電装置によって発電された電力を、自身の前記電力負荷に供給すると共に、
それぞれの前記単位グリッドは、電動式移動体に搭載された蓄電池であるモバイル蓄電池に蓄えられた電力を、前記電動式移動体の移動に伴い、他の前記単位グリッドとの間で授受する連携グリッドを形成し、
前記連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせが、前記電動式移動体の移動先に応じて変化することにより、互いの地理的な位置関係が固定されていない複数の前記単位グリッドによって電力の授受のための仮想グリッドが形成されるものであり、
前記単位グリッドは、熱負荷と、電力を熱に変換して蓄える蓄熱装置と、前記施設内の定置型蓄電池である無停電電源装置と、エネルギー授受調整を行う制御装置と、を更に具備し、
該制御装置は、前記再エネ発電装置による発電量、前記電力負荷の電力需要、前記熱負荷の熱需要、前記蓄熱装置における蓄熱量、前記モバイル蓄電池の蓄電電力量、及び前記無停電電源装置の蓄電電力量を含む数値データの検出に基づいて、(A)前記再エネ発電装置から前記電力負荷への電力供給、(B)前記再エネ発電装置から前記蓄熱装置への電力供給、(C)前記再エネ発電装置から前記モバイル蓄電池への電力供給、及び(D)前記再エネ発電装置から前記無停電電源装置への電力供給、の少なくとも何れかを行うための電流流路を介した電力の移動を制御するものであり、(A)~(D)のうち(A)の優先順位が最も高く、(D)の優先順位が最も低くなるように制御すると共に、前記無停電電源装置から前記モバイル蓄電池へ電力供給する制御は行わない
ことを特徴とするエネルギー授受調整方法。
【請求項6】
前記連携グリッドとして、一般の住宅を前記施設とする第一単位グリッドと、前記住宅の居住者の勤務先を前記施設とする第二単位グリッドとの組み合わせを有しており、
前記電動式移動体として、少なくとも前記第一単位グリッドに所属して通勤に用いられる通勤用移動体を具備し、
該通勤用移動体は、前記勤務先に駐車している時間に前記第二単位グリッドの前記再エネ発電装置から前記モバイル蓄電池に電力の供給を受け、前記住宅に駐車している時間に前記住宅において前記電力負荷の電力需要に対して電力が不足する場合は、前記モバイル蓄電池から放電して前記電力負荷に供給する
ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項7】
前記再エネ発電装置は太陽光発電装置であり、
前記再エネ発電装置または前記モバイル蓄電池から供給された電力によって前記蓄熱装置に熱を蓄えておき、その熱を前記熱負荷に供給する
ものであり、
前記太陽光発電装置による発電量が電力需要より大となる季節に生じる余剰電力を熱に変換して前記蓄熱装置に貯蓄し、貯蓄された熱を、前記太陽光発電装置による発電量が低下する季節に前記熱負荷に供給することにより、季節をまたいだスパンでエネルギーの授受を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項8】
前記コミュニティを構成する前記単位グリッドに所属する前記電動式移動体同士が、充放電装置を介して電力の授受を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項9】
前記単位グリッドは、前記電流流路として、系統電力線から電力の供給を受け、或いは、前記系統電力線に逆潮流を行うための系統電力流路を備え、
前記制御装置は、前記系統電力流路を介した電力の移動が最小となるように制御を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項10】
前記制御装置は、前記数値データとして過去のある期間における時系列的な実績値を記憶しており、該実績値と現在の前記数値データに基づいて制御を行う
ことを特徴とする請求項
5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項11】
前記制御装置は、通信ネットワークを介して気象予報情報を取得し、取得された前記気象予報情報を参照して制御を行う
ことを特徴とする請求項
5に記載のエネルギー授受調整方法。
【請求項12】
複数の前記単位グリッドの前記制御装置は、それぞれ通信ネットワークによって管理サーバと接続されており、
前記制御装置から前記管理サーバに、前記通信ネットワークを介して前記数値データが送信され、
前記管理サーバは、
受信した前記数値データを前記単位グリッドの識別情報と関連付けてデータベースに記憶すると共に、
前記単位グリッドそれぞれにおける電力の過不足に基づいて、電力の授受のための連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせを抽出する
ことを特徴とする請求項
5に記載のエネルギー授受調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーシステム、及び、該エネルギーシステムにおけるエネルギー授受調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電力エネルギーシステムは、化石燃料を使用して発電する大型発電所から電力線を介して移送(送電)された電力(系統電力)が、消費量に応じて電力消費者に供給される一方向のシステムであった。このような従来のシステムでは、移送距離が長いほどその間の電力損失が大きく、最終的に電力消費者が必要とする電力量に対して供給すべき電力量が大きいため、CO2ガスの排出量も大きい。地球温暖化の主要因であるCO2ガスの排出量を削減することは、人類にとって喫緊の課題であるが、従来のシステムにおいてCO2ガスの排出量を削減するためには、供給側と消費者側が個別に対策を実施する必要があり、十分に対策が進んでいないのが実情である。
【0003】
一方、近年では、電力消費者の近くの限られた地域内に比較的小規模な電力供給源を設置し、そこから電力消費者に電力を供給することにより、系統電力の消費を削減する地産地消型、自立分散型の小規模電力ネットワークが提案されている。このような小規模電力ネットワークでは、電力供給源から電力消費者までの距離が小さいため、その間の電力損失が小さい利点がある。また、小規模電力ネットワークにおける電力供給源としては、再生可能エネルギーによる発電装置の使用が提案されており、この場合、CO2ガスの排出量を削減できると期待される。また、化石燃料のほとんどを輸入に頼っているわが国にとって、資源が永久的に枯渇することなく、且つ、国内で賄うことができる再生可能エネルギーの活用は、エネルギーの安定的な供給を確保するためにも重要である。
【0004】
しかしながら、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電など再生可能エネルギーを使用した発電による発電量は、気象条件など自然界における諸条件によって大きく変動することが不可避である。そのため、再生可能エネルギーを使用した発電装置を組み込んだ従来のエネルギーシステムでは、発電量と需要とをバランスさせるために、大容量の定置型蓄電池(二次電池)を使用している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、大容量の定置型蓄電池は、高コストであると共に、設置のために必要なスペースが大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、再生可能エネルギーを有効に活用することにより、系統電力への依存度を低減することができると共に、大容量の定置型蓄電池の必要性を低減することができるエネルギーシステム、及び、該エネルギーシステムにおけるエネルギー授受調整方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるエネルギーシステムは、
「電力を消費する電力負荷を有する一単位の施設におけるエネルギー授受網である単位グリッドを複数備えるコミュニティにおけるエネルギーシステムであり、
前記単位グリッドは、それぞれ再生可能エネルギーを使用して発電を行う再エネ発電装置を備え、自身の前記再エネ発電装置によって発電された電力を、自身の前記電力負荷に供給すると共に、
それぞれの前記単位グリッドは、電動式移動体に搭載された蓄電池であるモバイル蓄電池に蓄えられる電力を、前記電動式移動体の移動に伴い、他の前記単位グリッドとの間で授受する連携グリッドを形成するものであり、
前記連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせが、前記電動式移動体の移動先に応じて変化することにより、互いの地理的な位置関係が固定されていない複数の前記単位グリッドによって電力の授受のための仮想グリッドが形成される」ものである。
【0008】
従来のエネルギーシステムでは、系統電力の供給を受ける電力消費者が系統電力線によって結ばれて、系統電力供給源から電力消費者に電力が一方向に移送されるネットワークが形成されていた。このような従来のネットワークは、エネルギーの授受関係が固定された、エリア的なものであった。これに対し、本発明のエネルギーシステムは、詳細は後述するように、エネルギーの授受を行う関係が固定されておらず、エネルギーの授受を行う相手が電動式移動体の移動に伴い種々に変化する。
【0009】
本発明のエネルギーシステムでエネルギーの授受を行うコミュニティは、電力負荷を有する一単位の施設におけるエネルギー授受網である「単位グリッド」の複数によって形成されるものである。それぞれの単位グリッドは、再生可能エネルギーを使用して発電を行う再エネ発電装置を備えており、このような単位グリッド同士が、電動式移動体を介してエネルギーの授受を行う連携グリッドを形成する。すなわち、再エネ発電装置を備える施設と、備えていない施設が混在し、電動式移動体と非電動式の移動体が混在して走行する社会において、再エネ発電装置を備える施設のみが電動式移動体を介してエネルギーの授受関係を形成する。
【0010】
単位グリッドと単位グリッドとの間で移動する電動式移動体は、コミュニティ全体にとっての蓄電池と考えることができる。そして、電動式移動体は、エネルギーの授受を目的として移動する訳ではなく、人の移動や物の移動(物流)など、本来の移動目的の“ついで”にエネルギーを移送する。つまり、人や物の移動とエネルギーの移動とを統合化するシステムである。そして、電動式移動体の移動先(移動目的)によって、連携グリッドを形成する単位グリッドの組み合わせは、種々にフレキシブルに変化する。電力線のように目に見える連結関係がなく、連結関係が時々刻々と変化することにより、互いの地理的な位置関係が固定されていない複数の単位グリッドによって形成される電力授受のためのグリッドは、全く新しい概念のグリッドであり、これを本発明では「仮想グリッド」(バーチャルグリッド)と称している。なお、ある単位グリッドと連携グリッドを形成する「他の単位グリッド」は、複数であってもよい。
【0011】
このようなエネルギーシステムは、従来のエネルギーシステムと異なり、究極的には電力線を不要とするため、地理的な制約がなく、システム構築のために一度に設備投資をする必要がない。つまり、再エネ発電装置を備える施設と、備えていない施設が混在し、電動式移動体と非電動式の移動体が混在して走行している現行の社会において、再エネ発電装置を備える施設が徐々に増え、非電動式の移動体が徐々に電動式移動体に代替されていくのに伴い、本エネルギーシステムの及ぶ範囲も徐々に拡大していく。
【0012】
再エネ発電装置で発電された電力を電動式移動体に移送させ、単位グリッド間で融通し合うことにより、再生可能エネルギーを有効に活用することができ、系統電力への依存度を低減することができる。また、本エネルギーシステムでは、本来は電動式移動体の走行のための電力を蓄えるために搭載されているモバイル蓄電池を、単位グリッド間でエネルギーを移送するための蓄電池として“兼用”する。これにより、気象条件など自然界における諸条件によって発電量が大きく変動することが不可避である再エネ発電装置を使用する場合に、従来は必須であると考えられていた大容量の定置型蓄電池の必要性を低減することができる。
【0013】
ここで、再エネ発電装置が発電に使用する「再生可能エネルギー」としては、太陽光、太陽熱、風力、地熱、海洋エネルギーを、例示することができる。
【0014】
単位グリッドを自身のエネルギー授受網とする「施設」は、再エネ発電装置を備えている施設であれば特に限定されず、一般の住宅、会社、事務所、学校、公共施設、百貨店やスーパー等の商業施設、工場や流通倉庫等の産業施設を、例示することができる。なお、工場、倉庫、学校など大型の施設には、社会的には一つの施設であっても、再エネ発電装置を備える施設を複数有するものがある。そのような場合、それぞれの施設を単位グリッドと考えることができる。
【0015】
「電動式移動体」は、搭載されたモバイル蓄電池に蓄えられた電力で電動機を駆動することにより移動する移動体であれば限定されず、モバイル蓄電池を搭載している自家用車、トラック、バス、電車、船舶、土木・建築用車両、場内クレーン、農作業用車両、フォークリフト・自走式の台車やパレットのような搬送機器を、例示することができる。なお、電動式移動体は、その移動に伴い連携グリッドを形成するものであるが、再エネ発電装置を備える施設において、自身の再エネ発電装置によって発電された電力を自身の電力負荷に供給する際の手段としても使用することができる。
【0016】
なお、再エネ発電装置からモバイル蓄電池に充電する充電装置、及び、モバイル蓄電池を放電させる放電装置は、それぞれ「施設」が備えるものであっても、「電動式移動体」が備えるものであってもよい。
【0017】
また、一つの装置でモバイル蓄電池の充放電を行う充放電装置を具備してもよく、充放電装置は、施設が備える構成、または、電動式移動体が備える構成とすることができる。ある単位グリッドにおいて電力の授受を行う電動式移動体が複数台あるとき、モバイル蓄電池の充放電を行う充放電装置が施設の構成である場合は、複数のモバイル蓄電池への充放電を同時に行えるようにするためには、施設に複数の充放電装置が必要となる一方で、電動式移動体は軽量で簡易な構成となる。これに対し、充放電装置が電動式移動体の構成である場合は、電動式移動体の重量がその分だけ増加し構成が複雑になる一方で、施設に設けられた接続部(コネクタ)を使用して、複数のモバイル蓄電池の充放電を同時に行うことができる利点がある。
【0018】
本発明にかかるエネルギーシステムは、上記構成に加え、
「前記単位グリッドは、エネルギー授受調整を行う制御装置を具備し、
該制御装置は、前記再エネ発電装置による発電量、前記電力負荷の電力需要、前記モバイル蓄電池の蓄電電力量を含む数値データの検出に基づいて、前記電力負荷への電力供給、前記モバイル蓄電池への電力供給、前記モバイル蓄電池からの放電、の少なくとも何れかを行うための電流流路を介した電力の移動を制御する」ものとすることができる。
【0019】
本構成では、単位グリッドごとに制御装置でエネルギー授受調整を行う。ある単位グリッドの施設が電動式移動体を有している場合、制御装置は施設が備えるものであっても電動式移動体が備えるものであってもよい。制御装置を施設が備えている構成は、充放電装置が施設の構成である場合に適している。一方、制御装置を電動式移動体が備えている構成は、充放電装置が電動式移動体の構成である場合に適している。
【0020】
本構成において、電流流路を介した電力の移動の少なくとも一部は、電力を電磁波に変換して送る無線送電によって行われるものとすることができる。電力の授受の少なくとも一部を無線送電によって行うことにより、電線が張り巡らされる程度を低減することができ、電力の授受のための構成をすっきりとした簡易なものとすることができる。特に、施設に設けられた接続部と電動式移動体のモバイル蓄電池との間で、非接触の無線送電を行うこととすれば、充放電のための作業が容易となり便利である。ここで、電力を電磁波に変換して送るマイクロ波方式の無線送電は、いくつかある無線送電の方式の中でも、本エネルギーシステムが目的とする距離範囲の送電が可能である利点がある。
【0021】
また、本構成において、数値データの検出を行う検出装置から制御装置への数値データの送信は、無線通信によって行われるものとすることができる。再エネ発電装置による発電量、電力負荷の電力需要、モバイル蓄電池の蓄電電力量を含む数値データの検出を行う検出装置と、制御装置との間で無線通信が行われることにより、簡易な構成のエネルギーシステムとなる。ここで、「無線通信」は、WiFi等の無線LANによる無線通信、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信とすることができる。
【0022】
本発明にかかるエネルギーシステムは、上記構成に加え、
「複数の前記単位グリッドの前記制御装置は、それぞれ通信ネットワークによって管理サーバと接続されており、
前記制御装置から前記管理サーバに、前記通信ネットワークを介して前記数値データが送信され、
前記管理サーバは、
受信した前記数値データを前記単位グリッドの識別情報と関連付けて記憶するデータベースを備えていると共に、
前記単位グリッドそれぞれにおける電力の過不足に基づいて、電力の授受のための連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせを抽出する手段を備えている」ものとすることができる。
【0023】
本構成では、電力の授受のための連携グリッドが、電動式移動体の移動に伴い単位グリッド間で形成されることに加え、通信ネットワークを介して単位グリッド間で形成される。そして、単位グリッドそれぞれの制御装置によって、単位グリッド内で行われるエネルギー授受調整に加え、単位グリッド間で電力を融通すべく、管理サーバがその組み合わせを抽出する。これにより、通信ネットワークを介して管理サーバと接続されている複数の単位グリッドで構成されるコミュニティ内において、エネルギーを無駄なく活用することができる。
【0024】
本発明にかかるエネルギーシステムは、上記構成に加え、
「前記コミュニティを構成する前記単位グリッドの少なくとも一部は、熱を消費する熱負荷と、前記再エネ発電装置から供給された電力または前記モバイル蓄電池の放電による電力を熱に変換して蓄える蓄熱装置とを具備し、
該蓄熱装置は、熱を蓄える媒体を収容している容器を断熱する断熱層を備え、
該断熱層は、前記容器の壁が二重構造であり、二重の壁間の空間が真空とされた真空断熱層、または、多孔質の芯材がフィルムで被覆され、フィルム内空間が減圧されている真空断熱材の複数が積層された断熱層である」ものとすることができる。
【0025】
ここで、「蓄熱装置」としては、電力により媒体を加熱するヒートポンプや電気ヒータ等の熱変換装置と、加熱された媒体を貯蓄する容器を備える蓄熱槽を、組み合わせたものとすることができる。
【0026】
熱を蓄える媒体としては、水や、ハイドロフルオロカーボン等の冷媒、セラミックス製ボールなど固体の蓄熱体を使用することができる。また、熱を蓄える媒体の少なくとも一部として、相変化に伴い熱を消費する潜熱蓄熱材(PCM材料)を使用することができる。熱を蓄える媒体として、潜熱蓄熱材を使用することにより、蓄熱装置における蓄熱密度が高いものとなる。特に、アンモニウムミョウバン等を組み合わせた潜熱蓄熱材を用いると、蓄熱量は媒体として高温水(湯)を使用した場合の10倍となり、蓄熱槽の容量は、媒体として湯を使用した場合の1/5程度に小さくすることができる。
【0027】
本構成では、再エネ発電装置により発電された電力に余剰が生じた場合、その余剰分を蓄えておく構成として、モバイル蓄電池に加えて蓄熱装置を備えており、蓄熱装置に蓄えられた熱を熱負荷の熱需要に充当することができる。これにより、再エネ発電装置により発電された電力を無駄にすることがなく、より有効に利用することができる。
【0028】
また、本構成の蓄熱装置は、真空断熱層、または真空断熱材の複数を積層した断熱層という、断熱効果が非常に高い断熱層を備えている。そのため、放熱による熱の損失を抑制して長時間にわたり熱を貯蓄することができ、気象条件などよって不可避に発電量が大きく変動する再エネ発電装置による電力供給と需要とを、バランスさせることができる。なお、詳細は後述するように、断熱層を備える蓄熱槽の熱伝達係数は0.06W/(m2・K)~0.36W/(m2・K)とすることが望ましい。
【0029】
次に、本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記に記載のエネルギーシステムで使用されるエネルギー授受調整方法であり、
「前記コミュニティを構成する前記単位グリッドの少なくとも一部の前記再エネ発電装置を太陽光発電装置とし、
該太陽光発電装置を備える前記単位グリッドにおいて、前記太陽光発電装置による発電量の昼夜間の差に起因して、前記電力負荷の電力需要と前記太陽光発電装置から前記電力負荷に供給される電力量との間に生じる不均衡は、前記太陽光発電装置から前記モバイル蓄電池への充電と、前記モバイル蓄電池から前記電力負荷への放電によって調整する」ものである。
【0030】
本発明の上記エネルギーシステムでは、電動式移動体は移動先の単位グリッドでモバイル蓄電池に電力の供給を受ける。そのため、再エネ発電装置が太陽光発電装置であって、発電量の多い昼間に電動式移動体が他所に移動していても、昼間の発電量をシステム全体として無駄にすることなくモバイル蓄電池に蓄えることができる。従って、電動式移動体のモバイル蓄電池への充電と、放電による電力負荷への供給によって、太陽光発電による発電量の昼夜間の差に起因して生じる需要と供給の不均衡を、効果的に平滑化することができる。
【0031】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記連携グリッドとして、一般の住宅を前記施設とする第一単位グリッドと、前記住宅の居住者の勤務先を前記施設とする第二単位グリッドとの組み合わせを有しており、
前記電動式移動体として、少なくとも前記第一単位グリッドに所属して通勤に用いられる通勤用移動体を具備し、
該通勤用移動体は、前記勤務先に駐車している時間に前記第二単位グリッドの前記再エネ発電装置から前記モバイル蓄電池に電力の供給を受け、前記住宅に駐車している時間に前記住宅において前記電力負荷の電力需要に対して電力が不足する場合は、前記モバイル蓄電池から放電して前記電力負荷に供給する」ものとすることができる。
【0032】
本構成は、一般の住宅と、その住宅の居住者が高頻度で往復する勤務先とを、連携グリッドを形成する単位グリッドの組み合わせとしたものである。通常、通勤用に電動車両を使用する場合、自宅に再エネ発電装置を備えていても、一日の約半分は自宅に所在していないため、再エネ発電装置により発電された電力を、通勤用の電動車両に有効に利用することが難しい。或いは、通勤用の電動車両が自宅に所在していない時間に再エネ発電装置により発電された電力を、一時的に蓄えておいて後で電動車両に供給するために、定置型蓄電池を自宅に備える必要がある。これに対して、本エネルギー授受調整方法では、通勤に用いられる電動式移動体のモバイル蓄電池には、通勤先の再エネ発電装置から充電するため、勤務先に駐車している長い時間を無駄にすることなくエネルギーを貯蓄できると共に、定置型蓄電池の必要性を低減することができる。なお、「通勤用移動体」は、少なくとも通勤のために用いられるが、通勤以外の用途に用いることもできる。
【0033】
上記構成において、第一単位グリッドは、電動式移動体として、住宅に駐車している時間が通勤用移動体より長い日常用移動体を更に備えることが望ましい。日常用移動体は、住宅に駐車している時間に第一グリッドの再エネ発電装置からモバイル蓄電池に電力の供給を受け、住宅において電力負荷の電力需要に対して電力が不足する場合は、モバイル蓄電池から放電して前記電力負荷に供給する。このように、電動式移動体として、通勤用移動体より住宅に駐車している時間が長い日常用移動体を備えていることにより、住宅が備える再エネ発電装置により発電された電力を、より有効に利用することができる。そして、電動式移動体として通勤用と日常用の2台を備える住宅と勤務先とを単位グリッドの組み合わせとする連携グリッドでは、詳細は後述するように、CO2排出量を大きく削減することができる。
【0034】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記コミュニティを構成する前記単位グリッドの少なくとも一部は、熱を消費する熱負荷と、電力を熱に変換して蓄える蓄熱装置とを具備し、
前記再エネ発電装置または前記モバイル蓄電池から供給された電力によって前記蓄熱装置に熱を蓄えておき、その熱を前記熱負荷に供給する」ものとすることができる。
【0035】
蓄熱装置を備える単位グリッドは、余剰の電力を蓄えさせる構成として、モバイル蓄電池に加えて蓄熱装置を選択することができ、蓄熱装置に蓄えられた熱は熱負荷の熱需要に充当される。そのため、再エネ発電装置により発電された電力を無駄にすることがなく、より有効に利用することができる。
【0036】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記コミュニティを構成する前記単位グリッドに所属する前記電動式移動体同士が、充放電装置を介して電力の授受を行う」ものとすることができる。
【0037】
電動式移動体と施設との間で電力の授受をすることに加え、電動式移動体同士が充放電装置を介して電力の授受をすることにより、コミュニティにおいて電力を融通する手段が多様化する。これにより、コミュニティ内で発電された電力をより有効に利用することができ、系統電力への依存度をより低減することができる。
【0038】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記単位グリッドは、エネルギー授受調整を行う制御装置を具備し、
該制御装置は、前記再エネ発電装置による発電量、前記電力負荷の電力需要、前記モバイル蓄電池の蓄電電力量を含む数値データの検出に基づいて、前記電力負荷への電力供給、前記モバイル蓄電池への電力供給、前記モバイル蓄電池からの放電、の少なくとも何れかを行うための電流流路を介した電力の移動を制御するものであり、
前記単位グリッドは、前記電流流路として、系統電力線から電力の供給を受け、或いは、前記系統電力線に逆潮流を行うための系統電力流路を備え、
前記制御装置は、前記系統電力流路を介した電力の移動が最小となるように制御を行う」ものとすることができる。
【0039】
後述するように、シンプルな基本的ルールに沿って制御を行うことにより、系統電力線から供給を受ける電力量、及び、系統電力線に逆潮流する電力量を最小限にとどめることができる。
【0040】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記制御装置は、前記数値データとして過去のある期間における時系列的な実績値を記憶しており、該実績値と現在の前記数値データに基づいて制御を行う」ものとすることができる。
【0041】
過去の時系列的な実績値を利用することにより、現時点からある時間だけ将来に向かう期間における電力需要等を予測することができ、予測に基づいて、より適切にエネルギー授受調整を行うことができる。
【0042】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「前記制御装置は、通信ネットワークを介して気象予報情報を取得し、取得された前記気象予報情報を参照して制御を行う」ものとすることができる。
【0043】
気象予報情報を参照することにより、電力需要等の予測を、より正確に行うことができる。また、気象予報情報によって、太陽光発電装置により発電される電力量が過剰となると予想される場合に、太陽光発電装置の出力を抑えることとすれば、太陽光発電による電力の無駄が低減されるように、発電量を精度高く制御することができる。
【0044】
本発明にかかるエネルギー授受調整方法は、上記構成に加え、
「複数の前記単位グリッドの前記制御装置は、それぞれ通信ネットワークによって管理サーバと接続されており、
前記制御装置から前記管理サーバに、前記通信ネットワークを介して前記数値データが送信され、
前記管理サーバは、
受信した前記数値データを前記単位グリッドの識別情報と関連付けてデータベースに記憶すると共に、
前記単位グリッドそれぞれにおける電力の過不足に基づいて、電力の授受のための連携グリッドを形成する前記単位グリッドの組み合わせを抽出する」ものとすることができる。
【0045】
これは、記述の構成のエネルギーシステムにおけるエネルギー授受調整方法である。
【発明の効果】
【0046】
以上のように、本発明によれば、再生可能エネルギーを有効に活用することにより、系統電力への依存度を低減することができると共に、大容量の定置型蓄電池の必要性を低減することができるエネルギーシステム、及び、該エネルギーシステムにおけるエネルギー授受調整方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明のエネルギーシステムの概略構成を模式的に示した図である。
【
図2】
図2(a),
図2(b)本発明のエネルギーシステムの構成単位である単位グリッドの概略構成図である。
【
図3】第一単位グリッドと第二単位グリッドによる連携グリッドの概略構成図である。
【
図4】従来のエネルギーシステムの概略構成図である。
【
図5】第一単位グリッドにおけるエネルギー授受の制御を示すフローチャートである。
【
図6】
図5に続き、第一単位グリッドにおけるエネルギー授受の制御を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)電力需要に関するシミュレーション結果を示すグラフであり、
図7(b)太陽光発電量に関するシミュレーション結果を示すグラフであり、
図7(c)系統電力線からの供給量に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)モバイル蓄電池への充電量に関するシミュレーション結果を示すグラフであり、
図8(b)モバイル蓄電池からの供給量に関するシミュレーション結果を示すグラフであり、
図8(c)モバイル蓄電池残量に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)蓄熱装置における沸上量に関するシミュレーション結果を示すグラフであり、
図9(b)蓄熱装置における貯湯量に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】シミュレーション結果から算出したCO
2排出量を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)定置型蓄電池を機能Bに使用した場合のバッテリレベルのグラフであり、
図11(b)モバイル蓄電池を機能A,Bに使用した場合のバッテリレベルのグラフであり、
図11(c)モバイル蓄電池を機能A,B,Cに使用した場合のバッテリレベルのグラフである。
【
図12】貯熱・供給システムの第一実施例の構成図である。
【
図13】貯熱・供給システムの第二実施例の構成図である。
【
図14】貯熱・供給システムの第三実施例の構成図である。
【
図15】
図15(a)断熱層を備える蓄熱槽の構成図であり、
図15(b)他の断熱層を備える蓄熱槽の構成図であり、
図15(c)他の形態の蓄熱槽の構成図である。
【
図16】16(a)熱需要が給湯の場合について蓄熱槽の容量と系統電力供給量との関係をシミュレーションした結果であり、17(b)熱需要が暖房の場合について蓄熱槽の容量と系統電力供給量との関係をシミュレーションした結果である。
【
図17】太陽光発電量と系統電力供給量を通年で対比したグラフである。
【
図18】通信ネットワークを介して連携グリッドが形成されるエネルギーシステムの概略構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の具体的な実施形態であるエネルギーシステム、及び、該エネルギーシステムにおけるエネルギー授受調整方法について、図面を用いて説明する。
【0049】
本実施形態のエネルギーシステム1は、電力を消費する電力負荷35を有する一単位の施設10におけるエネルギー授受網である単位グリッドを、複数備えるコミュニティにおけるエネルギーシステムである。このコミュニティを構成する単位グリッドは、いずれも再生可能エネルギーを使用して発電を行う再エネ発電装置として、太陽光発電装置30を備えている。それぞれの単位グリッドは、自身の太陽光発電装置30によって発電された電力を、自身の電力負荷35に供給すると共に、他の単位グリッドの太陽光発電装置30によって発電された電力を、電動式移動体20に搭載された蓄電池であるモバイル蓄電池25を介して、自身の電力負荷35に供給することにより、他の単位グリッドとエネルギーを授受する連携グリッドを形成する。
【0050】
具体的には、
図1に模式的に示すように、ある地域(地理的なエリア)内に、太陽光発電装置30を備えている施設10a~10fと備えていない施設100が混在しており、移動体として電動式移動体20と化石燃料で駆動される非電動式移動体120がある場合、太陽光発電装置30を備えている施設10a~10fの単位グリッドが、同じく太陽光発電装置30を備えている施設10a~10fの単位グリッドと、電動式移動体20を介して連携グリッドを形成する。
【0051】
そして、連携グリッドを形成する単位グリッドの組み合わせは、電動式移動体20の移動先(移動目的)に応じて、種々となる。例えば、
図1において網掛け範囲で模式的に示すように、一般の住宅10aの単位グリッドと、その住宅10aの居住者が通う勤務先10bの単位グリッドとの組み合わせ、住宅10aの単位グリッドと商業施設10cの単位グリッドとの組み合わせ、住宅10aの単位グリッドと学校10eや公共施設の単位グリッドとの組み合わせは、主に人の移動を目的とする電動式移動体20の移動に伴い形成される連携グリッドである。なお、電動式移動体20として、電動バスなど大型の移動体を使用すれば、自分では運転をしない人の移動をエネルギーの授受に利用することができる。
【0052】
また、同じく
図1において網掛け範囲で模式的に示すように、複数の商業施設10c間や、商業施設10cと倉庫10dとの間で、物流のために電動式移動体20が使用される場合は、主に物の移動を目的とする電動式移動体20の移動に伴い連携グリッドが形成される。また、工場10fや建築・土木工事施設などの産業施設間で産業機器である電動式移動体20が移動する場合、産業機器による作業を目的とする移動に伴い連携グリッドが形成される。
【0053】
つまり、本エネルギーシステム1では、電動式移動体20はエネルギー授受のために走行させるのではなく、何らかの他の目的で移動する“ついで”にエネルギー授受の仲介をする(人や物の移動とエネルギーの移動との統合化)。そして、電動式移動体20に搭載されたモバイル蓄電池25は、本来は走行のためのエネルギー源を蓄えるものであるところ、単位グリッド間でエネルギーを移送する用途に“兼用”される。
【0054】
このように、電動式移動体20の移動に伴い形成されるエネルギーの授受関係は、従来の系統電力線51を介した固定的で一方向のエネルギー供給とは異なり、定まることなく時々刻々と変化するものであり、エネルギーの流れも多方向となる。
【0055】
太陽光発電では、夜間には発電ができないことに加え、発電量が気象条件によって左右されるため、需要と供給のバランスを取る必要があるところ、本実施形態のエネルギーシステム1では、エネルギーを授受する連携グリッドが電動式移動体20の移動に伴いフレキシブルに変化する。このような連携グリッドでは、従来のシステムとは異なり連結が固定的ではないため、それぞれの単位グリッドにおいて需要と供給の関係を一元的に管理して最適化を図り易い。そして、各単位グリッドにおいて需要と供給をバランスさせることができれば、自ずとコミュニティの全体においても需要と供給のバランスを取ることができるため、系統電力への依存度を大幅に低減することができる。
【0056】
次に、単位グリッドにおいて需要と供給をバランスさせる制御について、説明する。
図2(a),(b)に示すように、単位グリッドをエネルギー授受網とする施設10は、電力負荷35、太陽光発電装置30、電動式移動体20を備えている。電動式移動体20はn台(nは1以上の自然数)あり、それぞれにモバイル蓄電池25が搭載されている。ここでは、電動式移動体20が1台である場合を図示しているが、複数台ある場合は、一点鎖線で囲まれた構成を複数とすればよい。また、施設10は、交流電流を直流電流に変換してモバイル蓄電池25に供給し、或いは、直流電流を直流電流のままモバイル蓄電池25に供給して充電すると共に、モバイル蓄電池25から放電される直流電流を交流電流に変換する充放電装置38(V2H装置)と、太陽光発電装置30から供給された直流電流を交流電流に変換して充放電装置38または電力負荷35に送る機能、太陽光発電装置30から供給された直流電流を必要に応じて電圧を調整して直流電流のまま充放電装置38に送る機能、及び、系統電力線51から供給を受けた交流電流を必要に応じて電圧を調整して充放電装置38に送る機能、を併せ持った電流変換・調整装置36を備えている。
【0057】
また、施設10は、無停電電源装置39を備えている。無停電電源装置39は蓄電電力量が小さく、上限値が5kWhに設定されている。この蓄電電力量は電気炊飯器、電気ポット、電子オーブン・レンジ、洗濯乾燥機を同時に使用した場合の消費電力に相当する。
【0058】
更に、施設10は、熱負荷45と、蓄熱装置40を備えている。本実施形態での蓄熱装置40は、電力でヒートポンプ等の熱変換装置41を作動させて水を加熱し、加熱された湯水を蓄熱槽42に貯蓄する装置である。
【0059】
そして、単位グリッドは、太陽光発電装置30で発電された電力量、電力負荷35における電力消費量(電力需要)、モバイル蓄電池25の蓄電電力量、系統電力線51から供給される電力量(電流、電圧)及び周波数、無停電電源装置39の蓄電電力量、蓄熱装置40における蓄熱量、熱負荷45における熱消費量(熱需要)、を検出、計測するセンサ等の検出装置からの出力に基づき、各構成への電力の供給を制御する制御装置(図示を省略)を備えている。制御装置は、主記憶装置と補助記憶装置からなる記憶装置、及び中央処理装置(CPU)を備えるコンピュータである。記憶装置には、エネルギー授受調整手段としてコンピュータを機能させるプログラムが記憶されている。また、記憶装置には、各検出装置から受信した数値データが時系列的に記憶される。
【0060】
ここで、充放電装置38は、電動式移動体20が備える構成である場合と、施設10の内部の設備である場合に大別される。充放電装置38が電動式移動体20の構成である場合、
図2(a)に示すように、充放電装置38は電動式移動体20が所属する単位グリッドの電流変換・調整装置36に接続部J1を介して接続すると共に、他の単位グリッドの電流変換・調整装置36にも接続部J1を介して接続する。制御装置は、電動式移動体20の構成とすることができ、接続部J1における接続の有無を検知する接続検知装置による検知に基づいて、接続状態にあるときに各検出装置からの出力を有線にて受信する。或いは、制御装置は、各検出装置からの出力を無線通信によって受信することもできる。なお、接続部J1を介して電流変換・調整装置36から充放電装置38に送られる電流は、直流電流であっても交流電流であってもよい。
【0061】
充放電装置38が施設10の内部の設備である場合、
図2(b)に示すように、電動式移動体20のモバイル蓄電池25は接続部J2を介して自身が所属する単位グリッドの充放電装置38に接続すると共に、他の単位グリッドの充放電装置38にも接続部J2を介して接続する。制御装置は、施設10の内部の構成とすることができ、施設内の検出装置からの出力を有線または無線通信にて受信すると共に、接続部J2における接続の有無を検知する接続検知装置による検知に基づき、接続状態にあるときに、電動式移動体20の検出装置からの出力を有線または無線通信によって受信する。なお、電流変換・調整装置36から充放電装置38に送られる電流は直流電流であっても交流電流であってもよいが、接続部J2を介して充放電装置38に送られる電流は直流電流である。
【0062】
太陽光発電装置30と電流変換・調整装置36との間、電流変換・調整装置36と電力負荷35との間、充放電装置38と電流変換・調整装置36との間、及び、充放電装置38とモバイル蓄電池25との間、の少なくとも一部における電力の授受は、電力を電磁波(マイクロ波)に変換して送受信するマイクロ波方式の無線送電とすることができる。
【0063】
次に、制御装置によるネルギー授受調整方法を説明する。説明で使用する記号は、以下のようである。
E1:電力負荷の電力需要
E2j:j番目の電動式移動体のモバイル蓄電池へ供給する電力量(j≦n)
E3:蓄熱装置へ供給する電力量
E4:太陽光発電装置により発電された電力量
E5:系統電力線から供給を受ける電力量または系統電力線へ逆潮流する電力量
B6j:j番目の電動式移動体のモバイル蓄電池の蓄電電力量
B9:無停電電源装置の蓄電電力量
H7:熱負荷の熱需要
Q8:蓄熱装置における蓄熱量
【0064】
制御装置は、各検出装置からの出力(太陽光発電装置30で発電された電力量、電力負荷35における電力消費量、モバイル蓄電池25の蓄電電力量、系統電力線51から供給される電力量(電流、電圧)及び周波数、蓄熱装置40における蓄熱量、熱負荷45における熱消費量、無停電電源装置39の蓄電電力量)に基づき、或いは、これら各検出装置からの出力値が記憶装置に記憶された時系列的な実績値に基づき、系統電力線51を介して供給を受ける電力量E5、及び、系統電力線51へ逆潮流する電力量E5を最小とするように、次の基本的なルールに沿って、エネルギー授受調整を行う。なお、電力量E5のための電流流路が、本発明の「系統電力流路」に相当する。
【0065】
<基本的なルール>
(1)太陽光発電装置30で発電された電力は、優先順位を電力負荷35、モバイル蓄電池25、蓄熱装置40、無停電電源装置39の順として供給する。
(2)熱需要が蓄熱量を超える場合は、優先順位を電力負荷35、蓄熱装置40、モバイル蓄電池25、無停電電源装置39の順とする。ただし、蓄熱槽42に十分な蓄熱量を確保することができれば、この事態は生じない。
(3)太陽光発電装置30で発電された電力量が電力負荷35による電力需要に対して不足するとき、優先順位をモバイル蓄電池25からの放電、無停電電源装置39からの放電、系統電力線51からの供給の順とする。
(4)モバイル蓄電池25が複数ある場合、充電させる順番、放電させる順番を設定しておく。
【0066】
ここで、制御装置は、有線または無線の通信ネットワークを介して気象予報情報を取得し、取得した情報をエネルギー授受調整の制御に使用することができる。例えば、制御装置は、取得した気象予報情報を時系列的に記憶装置に記憶し、現時点からある時間だけ遡った期間の気象条件と、過去のある期間の気象条件とを対比する。気象条件に類似性の高い過去のある期間について、電力消費量の実績値を記憶装置から読み出せば、読み出された実績値に基づいて、現時点からある時間だけ将来に向かう期間における電力消費量を予測することができる。これにより、予測された電力消費量を「電力負荷35における電力需要」として、エネルギー授受の調整を行うことができる。
【0067】
エネルギー授受調整においては、
図5に示すように、まず、太陽光発電装置により発電された電力量E4で、電力負荷による電力需要E1が賄えるかどうかが判断される(ステップS1)。賄うことができる場合(ステップS1においてYes)、太陽光発電装置により発電された電力(以下、「PV電力」と称する)が電力負荷に供給され(ステップS2)、PV電力に余剰があるかが判断される(ステップS3)。余剰がある場合(ステップS3においてYes)、熱負荷における熱需要H7が蓄熱装置における蓄熱量Q8を超えているかが判断される(ステップS4)。熱需要H7が蓄熱量Q8より大であるときは(ステップS4においてYes)、PV電力が蓄熱装置へ供給され(ステップS5)、更にPV電力に余剰があるかが判断される(ステップS6)。ただし、上記のルール(2)で述べたように、十分な蓄熱量を確保していれば、通常は熱需要H7が蓄熱量Q8を超えることはないため(ステップS4においてNo)、モバイル蓄電池への充電の可否を確認するために、ステップS7へ進む。
【0068】
ステップS7ではjとして「1」が付与され、1番目の電動式移動体(EV)のモバイル蓄電池に充電可能であるかが判断される(ステップS8)。モバイル蓄電池に充電可能である場合とは、電動式移動体が施設に所在しており、且つ、その蓄電電力量(B6j)がモバイル蓄電池の容量(Bmax)より小さい場合である。充電可能である場合は(ステップS8においてYes)、モバイル蓄電池へ供給するための電力E2jとしてPV電力E4が使用され(ステップS9)、jがnに至っているか否か、すなわちモバイル蓄電池への充電の可否を全数の電動式移動体について確認したが判断される(ステップS10)。残る電動式移動体がある場合は(ステップS10においてNo)、jに「1」が加算され(ステップS11)、PV電力E4に余剰がある限りはステップS8に戻り(ステップS12においてYes)、モバイル蓄電池に充電可能であればステップS8からステップS12が繰り返される。
【0069】
電動式移動体が複数台あり、優先順位の高い(jの小さい)電動式移動体が充電可能ではない場合(施設に所在しない場合、モバイル蓄電池が満充電の場合)は(ステップS8においてNo)、優先順位が次の電動式移動体について、上記と同様のステップが行われる(ステップS10~ステップS12、ステップS8に戻る)。
【0070】
全数の電動式移動体についてモバイル蓄電池への充電の可否が判断され、可能な場合に充電をした後、更にPV電力E4に余剰があるときは(ステップS13においてYes)、蓄熱装置に蓄熱が可能であるか否か、すなわち、蓄熱装置における蓄熱量Q8が蓄熱容量(Qmax)未満であるかが判断され(ステップS14)、蓄熱可能である場合は(ステップS14においてYes)、蓄熱装置に供給される電力E3としてPV電力E4が使用される(ステップS15)。
【0071】
蓄熱装置に蓄熱が可能ではない場合(ステップS14においてNo)、或いは、ステップS15を経て更にPV電力E4に余剰がある場合は(ステップS16においてYes)、無停電電源装置(UPS)に供給可能であるか否か、すなわち、蓄電電力量B9が無停電電源装置に設定された上限電力量である5kWh未満であるかが判断される(ステップS17)。供給可能な場合は、無停電電源装置にPV電力E4が供給される(ステップS18)。
【0072】
無停電電源装置最は最も優先順位の低い構成であるが、これに電力を供給した後に、まだPV電力E4に余剰がある場合(ステップS19においてYes)、或いは、PV電力E4に余剰があるものの(ステップS16においてYes)、無停電電源装置に電力を供給できなかった場合は(ステップS17においてNo)、系統電力線に逆潮流する(ステップS20)。或いは、太陽光発電装置において太陽電池パネルの総面積を複数に分割してそれぞれ別個に出力できる方式としておき、PV電力E4に余剰が生じる場合は分割された一部の太陽電池パネルからのみ出力させることにより、太陽光発電装置からの出力を抑えることとしてもよい。
【0073】
なお、ステップ1からステップS20に至る途中でPV電力E4に余剰がなくなった場合は(ステップS3、S6、S12、S13、S16、S19においてNo)、ステップS1に戻る。
【0074】
上記のように、本実施形態におけるエネルギー授受調整の制御では、太陽光発電装置で発電された電力が電力負荷による需要より大きいときは電力負荷への供給を優先し、且つ、系統電力線から供給を受ける電力がゼロとなるように、モバイル蓄電池、蓄熱装置、及び、無停電電源装置へ振り分ける。
【0075】
一方、太陽光発電装置により発電された電力量E4で、電力負荷における電力需要E1が賄えないときは(ステップS1においてNo)、
図6に示すように、ステップP1に進み、電動式移動体のモバイル蓄電池からの放電で充当できるか否かが確認される。ステップP1ではjとして「1」が付与され、1番目の電動式移動体のモバイル蓄電池から放電可能であるかが判断される(ステップP2)。放電可能である場合とは、電動式移動体が施設に所在しており、且つ、その蓄電電力量(B6
j)が予め定めた電力量a
jより大きい場合である。電力量a
jは、ユーザ(施設の居住者)が電動式移動体ごとに定める値であり、例えば、次にその電動式移動体を使用する用途(移動先)を考慮し、モバイル蓄電池に残して置くべき電力量として設定する。なお、蓄電池は容量の100%を放電することができない。そのため、電力量a
jは、モバイル蓄電池が放電できる限度(例えば、0.2B
max)を考慮して設定される。
【0076】
放電可能である場合は(ステップP2においてYes)、モバイル蓄電池の電力量がajとなるまで放電されて電力負荷に供給され(ステップP3)、jがnに至っているか、すなわちモバイル蓄電池からの放電の可否を全数の電動式移動体について確認したが判断される(ステップP4)。残る電動式移動体がある場合は(ステップP4においてNo)、jに「1」が加算され(ステップP5)、電力負荷への電力供給に対して不足がある限りは、ステップP2に戻り(ステップP6においてYes)、モバイル蓄電池が放電可能であればステップP2からステップP6が繰り返される。
【0077】
電動式移動体が複数台あり、優先順位の高い(jの小さい)電動式移動体が放電可能ではない場合(施設に所在しない場合、B6jがaj以下の場合)は(ステップP2においてNo)、優先順位が次の電動式移動体について、上記と同様のステップが行われる(ステップP4~P6、ステップP2に戻る)。
【0078】
全数の電動式移動体についてモバイル蓄電池からの放電の可否が判断され、可能な場合に放電をした後、更に電力負荷への電力供給に対して不足があるとき(ステップP7においてYes)、無停電電源装置からの電力供給が可能であるかが判断される(ステップS8)。無停電電源装置からの電力供給が可能である場合とは、その蓄電電力量(B9)が予め定めた電力量bより大きい場合である。電力量bは、ユーザ(施設の居住者)が無停電電源装置に残しておく電力量として設定する。可能であれば(ステップS8においてYse)、無停電電源装置の電力量がbとなるまで電力負荷へ電力が供給される(ステップS9)。
【0079】
無停電電源装置から電力負荷へ電力を供給しても、まだ電力負荷への電力供給に対して不足があるとき(ステップP10においてYse)、或いは、無停電電源装置からの電力供給が不可であった場合は(ステップP8においてNo)、系統電力線から電力の供給を受け(ステップS11)、ステップS1に戻る。また、モバイル蓄電池からの放電、或いは、無停電電源装置からの電力供給で電力負荷の需要を充当できた場合も(ステップP6、P7、P10においてNo)、ステップS1に戻る。
【0080】
このように、太陽光発電装置により発電された電力量E4で、電力負荷における電力需要E1が賄えない場合は、主に夜間(日没後)である。夜間は、日中に施設から外部に出かけていた電動式移動体も施設に戻って来ており、他の単位グリッドにおいてモバイル蓄電池に充電してきているため、通常は、モバイル蓄電池からの放電のみで電力負荷を賄うことができる。そのため、本実施形態では、無停電電源装置は、系統電力線からの電力供給が遮断された停電時など、非常時用の電力を備えておくものとして使用することができる。
【0081】
なお、万一、太陽光発電装置により発電された電力量E4で、電力負荷による電力需要E1を賄うことができず、且つ、熱需要に対して蓄熱量が不足する場合は、ステップP1~P11のフローにおける「E1」を、「E1とE3の和」に置換すればよい。しかしながら、上述したように、蓄熱槽に十分な蓄熱量を確保することができれば、そのような事態は生じない。
【0082】
以上のように、ごくシンプルなルール(1)~(4)に従った制御により、各単位グリッドにおいて、太陽光発電装置により発電された電力量E4を有効に活用し、系統電力線51との間で授受する電力量E5を最小とするように、エネルギー授受調整をすることができる。実際に、本実施形態のエネルギーシステムの実施例について、実績値に基づきエネルギー収支のシミュレーションを行った結果を、次に示す。
【0083】
実施例の連携グリッドを形成する単位グリッドの組み合わせは、
図3に示すように、施設が一般の住宅10aである第一単位グリッドと、その住宅10aの居住者の勤務先10bを施設とする第二単位グリッドの組み合わせとした。第一単位グリッド及び第二単位グリッドには、電動式移動体20の駐車スペースの上方の空間(駐車場の屋根)に、太陽光発電装置30を設置した。
【0084】
第一単位グリッドは、
図2に示した単位グリッドと同様に、太陽光発電装置30に加えて、電力負荷35、電動式移動体20、熱負荷45、熱変換装置41と蓄熱槽42からなる蓄熱装置40を備えるものとした。第一単位グリッドの厨房では、ガスを使用せず電磁調理器を使用し、空調には電力負荷35としてのエアコンと熱負荷45としての床暖房を使用するものとした。電動式移動体20としては2台を備えるものとした。1台は第二単位グリッドへの通勤に用いる通勤用移動体21であり、もう1台は住宅10aに駐車している時間が通勤用移動体21より長い日常用移動体22である。
【0085】
第二単位グリッドは、シミュレーションをシンプルにするために、太陽光発電装置30及び電力負荷35は備えるが、電動式移動体20、熱負荷45、及び蓄熱装置40は備えない構成とした。なお、第一単位グリッド、第二単位グリッドともに、化石燃料を使用して発電を行う大型発電所50から系統電力線51で送られる電力を、変圧器52を介して引き込むことが可能である。
【0086】
通勤用移動体21は、住宅10aまたは勤務先10bに駐車している間は、それぞれの太陽光発電装置30からモバイル蓄電池25に充電をする。日常用移動体22については、住宅10aに駐車している間は太陽光発電装置30からモバイル蓄電池25に充電されるが、シミュレーションをシンプルにするために、移動先ではモバイル蓄電池25に充電しない条件とした。
【0087】
比較例として、
図4に示すように、化石燃料を使用して発電を行う大型発電所50から系統電力線51で送られる電力を、太陽光発電装置及び蓄熱装置を備えない住宅100aと太陽光発電装置を備えない勤務先100bに供給し、移動体としてガソリンを燃料とする非電動式移動体を2台(非電動式の通勤用移動体121、非電動式の日常用移動体122)使用する従来のエネルギーシステムについても、同様にエネルギー収支のシミュレーションを行った。この比較例は、厨房と給湯に液化石油ガス(LPG)を使用し、暖房に灯油を使用するものである。
【0088】
シミュレーションでは、太陽光発電による電力収支に数式(1)を、施設(住宅及び勤務先)における電力収支に数式(2)を、モバイル蓄電池の電力収支に数式(3)を、蓄熱槽の熱収支に数式(4)を使用した。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
各機器の制約条件は数式(5)~数式(7)とし、系統電力線を介した電力供給条件は数式(8)~数式(10)とした。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
ただし、数式(1)~数式(10)において、
t:時間[h]
i:施設No.(i=1:住宅、i=2:勤務先)
j:電動式移動体No.(j=1:通勤用、j=2:日常用)
EPV:PV発電量[kWh]
EPVAC:施設へのPV電力供給量[kWh]
EPVHP:蓄熱装置へのPV電力供給量[kWh]
EPVEV:EVへのPV電力供給量[kWh]
ESUR:余剰電力量[kWh]
EPS:施設への系統電力供給量[kWh]
EEVDC:施設へのEV電力供給量[kWh]
EC:施設の電力需要[kWh]
EPSEV:EVへの系統電力供給量[kWh]
EPSHP:蓄熱装置への系統電力供給量[kWh]
BE:モバイル蓄電池残量[kWh]
ECEV:EVの電力需要[kWh]
BH:蓄熱槽熱量[MJ]
COP:熱変換装置の成績係数
HW:給湯需要[MJ]
Hh:暖房需要[MJ]
r:蓄熱槽放熱率
BECAP:モバイル蓄電池容量[kWh]
BHCAP:蓄熱槽容量[MJ]
HHPCAP:定格加熱能力[MJ]
BEN:一日のEV走行に最低限必要な電力量[kWh]
BHN:一日の給湯・暖房に最低限必要な熱量[MJ]
η1~η9:エネルギー変換効率
【0101】
シミュレーションでは、施設(住宅と勤務先、勤務先は岡山県のある大学)の1年間にわたる1時間ごとの時系列的な電力消費の実績値を満足するように、太陽光発電による電力収支、モバイル蓄電池の電力収支、蓄熱槽の熱収支をそれぞれ1分ごとに計算し、電力需要のエネルギー収支は1時間ごとに計算した。エネルギー変換効率には、表1に示す実験値を使用した。
【0102】
【0103】
太陽光発電装置としては、単位面積当たりの出力が190W/m2の太陽電池パネルを電動式移動体1台当たり4m2~25m2の面積で備えることが望ましい。この太陽光発電装置の発電出力は0.76kW~4.75kWであり、後述するように、単位グリッドにおける電力需要とバランスさせる供給量として適している。4m2~25m2の面積は、電動式移動体が普通自動車である場合の駐車スペースの50%~200%に相当するため、駐車場の屋根など駐車スペースの上方の空間を有効に利用して、太陽光発電装置を設置することができる。
【0104】
ここでは、最大出力が240W、単位面積当たりの出力が190W/m2の太陽電池パネルを使用し、住宅における2台分の設置面積を27m2、勤務先では1台分の駐車スペースに相当する面積として12.5m2とした。住宅における太陽光発電装置の設置面積は、住宅と勤務先との連携グリッドのエネルギーシステム全体において、太陽光発電による発電量の余剰が3%となるように設定したものである。
【0105】
モバイル蓄電池としては、蓄電池容量が13kWh(通勤用移動体)及び40kWh(日常用移動体)、電費が9.1km/kWh、放電可能範囲が20%以上、100%未満のものを使用した。モバイル蓄電池容量は、1年間の実績走行距離から、最も長い連続走行距離を満足するように決定した。
【0106】
蓄熱装置としては、沸上温度を80℃以上、100℃未満とすることが望ましいが、ここでは沸上温度を90℃、再加熱温度を65℃、給湯温度を42℃~43℃とした。蓄熱槽に蓄える湯の沸上げ時には、熱変換装置として加熱能力6.0kWのヒートポンプのヒートポンプサイクル(成績係数COPが3~5)を使用し、保温及び昇温の際には熱変換装置として電気ヒータを使用した。
【0107】
なお、太陽光発電量、施設における電力需要、空調及び蓄熱装置における電力消費推定に用いた気温及び水温、の時系列データは、2016年度の1時間ごとの時系列実績値を用いた。
【0108】
シミュレーションの結果を、表2に示す。従来のエネルギーシステムである比較例では、系統電力の負荷(施設への供給量と電力損失の和)は、14,940kWh/年であったところ、実施例のエネルギーシステムにおける系統電力の負荷は11,350kWh/年であり、約24%削減されていた。系統電力への依存度が大きく低減されていることが分かる。
【0109】
【0110】
また、シミュレーション結果のうち、7月後半における結果について、電力需要(住宅)を
図7(a)に、太陽光発電量(出力:5.1kW)を
図7(b)に、系統電力線からの供給量(購入電力)を
図7(c)に、モバイル蓄電池への充電量を
図8(a)に、モバイル蓄電池から住宅の電力負荷への供給量を
図8(b)に、モバイル蓄電池における電池残量(通勤用移動体と日常用移動体との和)の変動を
図8(c)に、蓄熱装置における沸上量を
図9(a)に、蓄熱装置における貯湯量を
図9(b)に示す。
【0111】
図7(a),
図7(b)から分かるように、住宅における電力需要は夕方18時頃から深夜にかけて大きいのに対し、太陽光発電による発電量は朝8時頃から夕方16時頃までの日中に大きく、需要と供給に時間差がある。
図8(a)に示すように、日中に発生する太陽光発電による発電量の余剰分をモバイル蓄電池に蓄えておき、
図8(b)に示すように、夜間にモバイル蓄電池から住宅の電力負荷へ供給することにより、需要と供給のバランスをとることができるため、
図7(c)に示すように、系統電力線から供給を受ける必要はほとんどない。
【0112】
また、本エネルギーシステムでは、住宅を本拠地とする電動式移動体が2台あり、1台は通勤用移動体であってモバイル蓄電池には日中に通勤先の太陽光発電装置から充電され、もう1台の日常用移動体のモバイル蓄電池には在宅中に住宅の太陽光発電装置から充電されるため、夜間に電力負荷のために放電しても、
図8(c)に示すように、モバイル蓄電池の残量が下限値に至ることはない。従って、モバイル蓄電池は、電動式移動体を有する単位グリッドにおいて電力を蓄えておく蓄電池としても十分に機能する。そのため、本エネルギーシステムでは、従来は太陽光発電装置を導入した住宅で必須と考えられていた大型の定置型蓄電池の必要性は低い。
【0113】
そして、本エネルギーシステムでは、太陽光発電装置により発電された電力を電力負荷に供給し、余剰分をモバイル蓄電池に充電した後で更に余剰があれば、蓄熱装置の熱変換装置を作動させて熱として蓄える。
図9(a),
図9(b)に示すように、本エネルギーシステムでは、沸上げの頻度がさほど高くなくても、貯湯量を確保することができる。住宅の熱需要は、夜間の給湯(風呂での使用)のために大きくなるが、貯湯量がゼロに近づくような事態は生じておらず、熱負荷による需要を十分に賄えていると共に、余剰のエネルギーを長い期間にわたり貯蓄するしくみとして適していることが分かる。
【0114】
次に、上記のシミュレーションの結果を使用して、CO2の排出量を計算した結果を示す。CO2排出係数としては、以下の数値を使用した。
系統電力:0.556kg-CO2/kWh
ガソリン:2.62kg-CO2/L
LPG:3.48kg-CO2/kg
灯油:2.65kg-CO2/L
【0115】
図10(a)に示すように、本実施例のエネルギーシステム(連携グリッド)では、従来のエネルギーシステム(比較例)と比較して、住宅単位ではCO
2の排出量が約80%削減される。システム全体(住宅と通勤先)では、
図10(b)に示すように、本実施例のエネルギーシステムでは、従来のエネルギーシステムと比較して、CO
2の排出量が約53%削減される。このうち、38%が発電に使用するエネルギーを再生可能エネルギーに代替したことによる削減効果であり、15%がエネルギー授受調整による省エネルギーの効果である。このように、本エネルギーシステムは、温暖化ガスであるCO
2ガスの排出量を削減する効果が非常に高い。加えて、再生可能エネルギーへの代替の効果と省エネルギーの効果とを同時に得られるシステムであるため、経済性にも優れている。
【0116】
上記のシミュレーションでは、住宅が2台の電動式移動体を備えており、そのモバイル蓄電池(通勤用40kWh、日常用13kWh)に、走行のための電力を蓄える蓄電池としての機能(機能A)と、太陽光発電における余剰の電力を蓄える蓄電池としての機能(機能B)と、電力負荷に対して太陽光発電による電力が不足したときに放電して電力負荷に充当する機能(機能C)を兼ねさせている。このようにモバイル蓄電池に三つの機能A,B,Cを兼ねさせる場合の蓄電効果を、同一の蓄電容量(40kWh、及び13kWh)である2台分のモバイル蓄電池を機能Aと機能Bのために使用した場合と、同一の蓄電容量(53kWh)である定置型蓄電池を機能Bのために使用した場合とで比較した。
【0117】
図17に示すように、太陽光発電による発電量と住宅における電力需要とを対比すると、秋季から冬季にかけて(9月~12月、1月~3月)は、太陽光発電による発電量は住宅における電力需要を大きく下回っており、春季から夏季にかけて(4月~8月)は、太陽光発電による発電量は住宅における電力需要のほとんどを賄える量である。定置型蓄電池を太陽光発電における余剰の電力を蓄える機能Bに使用した場合は、
図11(a)に示すように、春季から夏季は充電残量が蓄電容量の上限に達する頻度が高く、余剰電力の全てを充電できずに無駄にしている。一方、秋季から冬季では、充電残量が蓄電容量の40%に満たない低いレベルで推移しており、蓄電池の容量に空きが大きく、蓄電池の蓄電能力が無駄になっている。
【0118】
モバイル蓄電池を、電動式移動体の走行のための機能Aと、太陽光発電における余剰の電力を蓄える機能Bに使用した場合は、
図11(b)に示すように、年間を通してほぼ満充電の状態であり、ごくたまに長距離を走行したときに電力が消費されている程度である。従って、この場合も、蓄電池の蓄電能力が無駄になっている。
【0119】
これに対し、モバイル蓄電池を、電動式移動体の走行のための機能Aと、太陽光発電における余剰の電力を蓄える機能Bに加えて、電力負荷に対して太陽光発電による電力が不足したときに放電させる機能Cに使用した場合は、
図11(c)に示すように、充電残量が蓄電容量の上限に達する頻度が少なく、充電残量の大きな変動が年間を通して続いている。このことは、蓄電池の容量の範囲内で充放電が効率よく行われ、蓄電池の蓄電能力が有効に利用されていることを示している。これは、走行と電力負荷への放電による消費によって、次に充電するための空き容量が、適度に生じるためと考えられる。
【0120】
以上のように、モバイル蓄電池に三つの機能A,B,Cを兼ねさせる本エネルギーシステムは、余剰電力を無駄にしないと共に、蓄電池の蓄電能力を十分に利用できる利点があり、太陽光発電を導入した従来のエネルギーシステムにおいて必須とされていた定置型蓄電池の必要性を低減することができる。
【0121】
上記の実施例では、通勤用移動体21のモバイル蓄電池25が移動先の施設10bで充電されると共に、通勤用移動体21及び日常用移動体22それぞれのモバイル蓄電池25が本拠地とする施設10aにおいて充電され、施設10aに対して放電を行う場合を例示した。これに加えて、本実施形態のエネルギーシステム1では、電動式移動体20同士が充放電装置36を介して電力の授受を行うエネルギー授受方法を使用することができる。例えば、電力の授受を行う2台の電動式移動体20のうち少なくとも一方が、内部に充放電装置36を備えていれば、互いが所属する施設10を離れた移動先であっても、場所を問わず、一方のモバイル蓄電池25から放電して他方のモバイル蓄電池25に充電することができる。この場合、これらの電動式移動体20が所属する単位グリッドは、異なっていても同じであっても良い。
【0122】
また、例えば、電動式移動体20がフェリー船舶であって、電動式移動体20である自動車を移送する場合に、フェリー船舶のモバイル蓄電池25と自動車のモバイル蓄電池25との間で電力の授受を行うことができる。或いは、電動式移動体20が電車であって、電動式移動体20である二輪車(自転車、オートバイ)を移送する場合に、電車のモバイル蓄電池と二輪車のモバイル蓄電池との間で電力の授受を行うことができる。このように、ある電動式移動体20が他の電動式移動体20を移動させる場合に、その移動時間を利用して電力の授受を行うことができる。なお、電動式移動体20が船舶など大型の移動体である場合、電動式移動体20自身が太陽光発電装置30や電流変換・調整装置36を備える構成とすることができる。つまり、この場合は、電動式移動体20が施設10を兼ねている。
【0123】
このように、電動式移動体20同士が充放電装置36を介して電力の授受をすることにより、このエネルギーシステム1を採用しているコミュニティにおいて、電力を融通する手段が多様化する。これにより、コミュニティ内で発電された電力をより有効に利用することができ、系統電力への依存度をより低減することができる。
【0124】
次に、蓄熱装置を備える単位グリッドにおいて、電力を熱に変換して蓄えると共に熱負荷に熱を供給する蓄熱・供給システムの具体な実施例(第一実施例~第三実施例)について、説明する。第一実施例~第三実施例の蓄熱・供給システム61,62,63は、何れも、上記の蓄熱装置40を構成する熱変換装置41及び蓄熱槽42と、熱負荷45である床暖房43及び給湯器44を備えている。給湯器44は、風呂、洗面所、厨房の流し台などで使用される。
【0125】
図12に示すように、第一実施例の蓄熱・供給システム61は、更に、湯水を収容させる配給タンク47を備えている。熱変換装置41には、給水元弁70及び給水弁71を介して給水元から水が供給される。フローチャートを用いて上述した制御により、太陽光発電装置(PV)により発電された電力、または、電動式移動体(EV)のモバイル蓄電池から放電された電力が熱変換装置41に供給されると、熱変換装置41の動作により水が加熱される(沸上げ)。沸上げ後の湯水は、蓄熱槽42に蓄えられる。沸上げの温度は80℃以上、100℃未満とすることが望ましく、ここでは、90℃に設定している。蓄熱槽42は、後述するように断熱性を高めた状態で設置されている。
【0126】
床暖房43の需要が生じた場合は、送水ポンプ81の動作により、床材に沿って配されたパイプに蓄熱槽42から床暖房弁72を介して85℃~90℃の高温の湯水が供給される。パイプ内を床材に沿って流通する湯水は、床材や床の周囲の空気と熱交換して床を暖めた後、45℃~60℃の中温の湯水となって配給タンク47に供給される。配給タンク47の容量は、床暖房43や給湯器44の規模によって設定することができるが、蓄熱槽42より小容量である。配給タンク47も、蓄熱槽42と同様に断熱性を高めた状態で設置される。
【0127】
給湯器44で需要が生じた場合は、配給タンク47から給湯弁73を介して給湯器44に湯水が供給される。給湯器44で使用される湯水は、蓄熱槽42に蓄えられているような高温である必要はないため、床暖房43を経て中温となった湯水で十分である。しかしながら、給湯器44における熱需要が床暖房43における熱需要を上回ったときは、配給タンク47から供給する湯水だけでは給湯器44における熱需要を充足できないため、送水ポンプ81によって蓄熱槽42から送り出された高温の湯水が高温弁74を介して給湯器44に供給される。また、給湯弁73の上流には温度センサ(図示を省略)が設けられており、湯水の温度が高い場合は、給水元弁70を介して給水元から供給される水が降温弁75を介して混合され、給湯に適した温度42℃~43℃に調整される。
【0128】
配給タンク47に蓄えられた中温の湯水に余剰がある場合は、再昇温弁76を介して熱変換装置41に供給され、蓄熱槽42に供給する湯水の沸上げに利用される。このようにすることにより、床暖房43に使用した後の熱を有効に利用することができ、給水元から供給される水のみを熱変換装置41で加熱する場合よりも、熱変換装置41に供給すべき電力を削減することができる。
【0129】
次に、第二実施例の蓄熱・供給システム62について、
図13を用いて説明する。蓄熱・供給システム62では、給水元弁70及び給水弁71を介して給水元から熱変換装置41に水が供給され、90℃に沸上げられた湯水が蓄熱槽42に蓄えられる点は、蓄熱・供給システム61と同様である。蓄熱・供給システム61と相違する点は、まず、蓄熱槽42から送られて床暖房43に使用された湯水が、蓄熱槽42に戻される点である。送水ポンプ81によって蓄熱槽42から送り出され、床材に沿って配されたパイプに床暖房弁72を介して供給された湯水は、熱交換により中温になった後、蓄熱槽42に戻される。
【0130】
蓄熱・供給システム62では、蓄熱槽42に蓄えられていた湯水が給湯器44に直接供給される訳ではなく、給湯器44に供給される水に熱を与える熱交換のために使用される点でも、蓄熱・供給システム61と相違している。給水元弁70及び給水制御弁79を介して給水元から熱交換部48に供給された水は、送水ポンプ82によって蓄熱槽42から送り出され昇温制御弁77を介して熱交換部48に送られた湯水と熱交換して中温となり、給湯弁73を介して給湯器44に供給される。すなわち、給湯器44に供給される湯水は、蓄熱槽42に蓄えられていた湯水そのものではなく、給水元から供給されて間もないクリーンな水が加熱されたものである。熱交換部48で熱交換に使用された湯水は、蓄熱槽42に戻される。
【0131】
床暖房43及び熱交換部48での熱交換に使用されて温度が低下した湯水が蓄熱槽42に戻されることにより、蓄熱槽42に蓄えられる湯水は、第一実施例の蓄熱槽42に蓄えられる湯水より低い温度となる。蓄熱槽42に蓄えられている湯水の温度が、所定の温度(例えば、65℃)より低下した場合は、送水ポンプ83の作動により蓄熱槽42から再昇温制御弁78を介して熱変換装置41に湯水が送られ、熱変換装置41によって加熱されて約90℃の高温となった後、蓄熱槽42に戻される。従って、第二実施例の蓄熱・供給システムでは、給水元から供給された水を熱変換装置41で加熱した湯水の供給により、いったん蓄熱槽42が満杯になった後は、新たな水・湯水が蓄熱槽42に供給されることなく、床暖房43、熱交換部48、及び、熱変換装置41を介して湯水が循環する。
【0132】
この蓄熱・供給システム62では、給湯器44に供給される湯水がクリーンである点で第一実施例より有利であるが、蓄熱槽42に蓄えられた湯水の温度が低い分、熱負荷を賄うためには、第一実施例より蓄熱槽42の容量を大きくする必要がある。
【0133】
次に、第三実施例の蓄熱・供給システム63について、
図14を用いて説明する。蓄熱・供給システム63は、給水元弁70及び給水弁71を介して給水元から熱変換装置41に水が供給され、90℃に沸上げられた湯水が蓄熱槽42に蓄えられる点、蓄熱槽42から送られて床暖房43に使用された湯水が蓄熱槽42に戻される点で、第二実施例の蓄熱・供給システム62と同様である。相違する点は、給水元から給水元弁70を介して送られた水が、第二給水弁71bを介して蓄熱槽42の底部に供給される点である。蓄熱槽42には、邪魔板を用いた機構など、90℃に沸上げられた後で蓄熱槽42に供給された高温の湯水と、給水元から供給された水との混合を妨げる混合抑止機構が設けられている。
【0134】
給湯器44で需要が生じた場合は、蓄熱槽42に蓄えられた湯水のうち高温層42hにある湯水が、送水ポンプ84によって送り出され、昇温制御弁77b及び給湯弁73を介して給湯器44に供給される。蓄熱槽42から昇温制御弁77bに至る流路には温度センサ(図示を省略)が設けられており、湯水の温度が所定の温度(例えば、65℃)より高い場合は、給水元弁70及び給水制御弁79bを介して給水元から供給された水と混合されることにより、給湯器44に供給される湯水の温度が42℃~43℃に調整される。
【0135】
上述したように、蓄熱槽42には混合抑止機構が設けられているが、熱変換装置41から供給された高温の湯水と給水元から供給された水との混合により、湯水の温度が中温である中温層42mが不可避に生じる。中温層42mの湯水は、送水ポンプ85によって蓄熱槽42から送り出され、再昇温制御弁78bを介して熱変換装置41に供給され、再び90℃に沸上げられた後で蓄熱槽42に戻される。
【0136】
この蓄熱・供給システム63では、蓄熱槽42から給湯器44に湯水が供給された分を補充するように、新たに蓄熱槽42に導入されるのは給水元から供給された水である。そのため、蓄熱槽42から熱変換装置41に湯水を送って再昇温するタイミングの自由度が高く、住宅において電力に余剰があるときに、その余剰電力を利用して熱変換装置41を動作させられる利点がある。また、給湯器44に供給される湯水が熱交換水ではなく蓄熱槽42から供給された湯水である点では第一実施例と同様であるが、蓄熱槽42に給水元から水が供給されていることにより、高温層42hの湯水の温度が第一実施例の蓄熱槽42の湯水の温度より低い。そのため、給湯器44への供給に際して、給水元からの水と混合して温度を低下させる必要性及び程度が第一実施例より小さい。つまり、蓄熱槽42に蓄えられた湯水の熱を、第一実施例より効率良く利用して、給湯器44に供給することができる。そのため、第三実施例の蓄熱槽42は、第一実施例の蓄熱槽42より、容量を小さくすることができる利点がある。
【0137】
従来、低コストの夜間電力を利用して夜中に湯を沸上げてタンクに溜めておき、日中の需要に充当する給湯システムが存在する。この従来のシステムでは、タンクは風呂などの給湯設備での必要量を確保し、ある程度の量の湯を一度に供給するために湯を溜めておくものであり、一日以内の短時間の貯湯しか想定していないため、断熱についてはさほど考慮されていない。これに対し、本実施形態の蓄熱槽42は、気象条件によって発電量が不可避に変動する太陽光発電装置による電力供給とエネルギー需要とをバランスさせるために、電力を熱に変換して蓄えておくためのものである。そのため、蓄熱槽42は、“長期間にわたり”蓄熱できることが必要であり、断熱性が非常に高められた断熱層を備えている。
【0138】
断熱層としては、
図15(a)に示すように、熱媒体42mである湯水を収容する容器42tの壁を更に壁42sで囲んで、ステンレス鋼やガラスによる二重壁構造とし、二重の壁間の空間を真空の層とした真空断熱層42iとすることができる。真空度は、10
2Pa~10
-3Paとすることができる。真空の層によって伝導による熱の移動が防止されるが、輻射による熱の移動を抑制するために、内側の壁の外表面に、銀や銅のメッキを施し、或いは、銅やアルミニウムの金属箔を貼付してもよい。
【0139】
また、
図15(b)に示すように、真空断熱材42aの複数を積層した断熱層42nによって、容器42tの全体が被覆された蓄熱槽42とすることができる。真空断熱材42aとしては、多孔質の芯材をフィルムで被覆し、フィルムの内部空間が減圧された状態でフィルムがヒートシールされている材料を使用することができる。多孔質の芯材としては、ガラス繊維やセラミックス繊維など無機繊維がシート状に成形されたものを使用することができる。なお、図示のように、真空断熱材42aが積層された断熱層42nと容器42tとの間に生じる空間に、ポリウレタンやガラス繊維など弾性変形する断熱材42bを充填すると望ましい。
【0140】
上記では、熱を蓄える媒体42mが湯水であるが、媒体をセラミックス製の蓄熱体とすることができる。
図15(c)では、アルミナなどセラミックス製のボールである蓄熱体42cが媒体として容器42tに充填された蓄熱槽42を例示している。媒体が湯水の場合は最高温度が100℃であるが、耐熱性の高いセラミックス製の蓄熱体42cを媒体とすることにより、数百度の高温で蓄熱することができる。そのため、同量の熱を蓄えるためには媒体が湯水の場合より蓄熱槽を小型化することが可能であり、同体積の蓄熱槽であれば媒体が湯水の場合より蓄熱量を大きくすることができる。
図15(c)では、断熱層が
図15(a)と同様に真空断熱層42iである場合を例示しているが、
図15(b)を用いて説明した断熱層42nを備える構成とすることもできる。
【0141】
断熱層42i,42nを備える蓄熱槽42を地中に埋設することにより、更に断熱性を高めることができる。また、
図15(a)~
図15(c)では、蓄熱槽42が縦置き型の場合を図示しているが、横置き型であってもよい。なお、
図15(a)及び
図15(b)では、媒体42mである水を容器42tに供給、排出する構成については図示を省略しており、
図15(c)では、蓄熱体42cと熱交換する流体を容器42tに供給、排出する構成については図示を省略している。
【0142】
上記の蓄熱・供給システム61,62,63では、床暖房43と給湯器44の双方に同一の蓄熱槽42から湯水を供給する場合を例示したが、暖房と給湯など用途の異なる熱需要に対して、別個の蓄熱槽から媒体を供給する態様とすることができる。用途が異なれば要請される温度や量が異なるため、別個の蓄熱槽を備えることにより、蓄熱槽に備えさせる断熱層の構成や蓄熱槽の容量を、過不足のないものとすることができる。例えば、熱を蓄える媒体である湯水自体が給湯器に供給される場合は、媒体が湯水である蓄熱槽を使用し、熱を蓄える媒体との熱交換を経て給湯や暖房の熱需要に熱が供給される場合は、より高温の熱を蓄えられるセラミックス製の蓄熱体を媒体とする蓄熱槽を使用することができる。
【0143】
なお、用途の異なる熱需要に対応して複数の蓄熱槽を備える場合も、熱変換装置は共用することにより、単位グリッドの構成を簡易なものとすることができる。
【0144】
上記のように、蓄熱槽の断熱性を高めることにより、太陽光発電装置で発電された電力を電力負荷に供給し、余剰分をモバイル蓄電池及び蓄熱装置で蓄える本実施形態のエネルギーシステム1において、系統電力線から供給される電力量をより低減することができる。このことを、上述したエネルギー収支のシミュレーションの条件下で、一般の住宅である第一単位グリッドに関して、蓄熱槽の熱伝達係数と容量を変化させて検討した結果により示す。熱変換装置であるヒートポンプの成績係数(COP)が3であり、給湯のために60℃~65℃の湯水を蓄熱槽に蓄える場合を考える。この熱需要を系統電力のみで賄おうとすると、蓄熱槽の熱伝達係数が0.36W/(m
2・K)である場合、
図16(a)に直線Laで示すように、蓄熱槽の容量の増加に伴って系統電力線から供給を受ける電力量は線形に増加する。蓄熱槽の容量の増加に伴って、放熱量が増加するためである。
【0145】
一方、太陽光発電装置により発電された電力の余剰分を蓄熱装置における蓄熱に充当する本実施形態のエネルギーシステム1では、蓄熱槽の熱伝達係数が同じく0.36W/(m2・K)であっても、曲線Lbで示すように、蓄熱槽の容量が約0.5m3以上では系統電力線から供給を受ける電力量は大幅に削減される。蓄熱槽の容量が約0.9m3を超えると、系統電力線から供給を受ける電力量は徐々に増加するが、それでも系統電力のみで賄う場合に比べて大幅に削減されている。そして、蓄熱槽の断熱性を更に高めて熱伝達係数を0.06W/(m2・K)とすると、曲線Lcで示すように、系統電力線から供給を受ける電力量は更に削減されると共に、蓄熱槽の容量が1.2m3を超えると系統電力線から供給を受ける電力量は一定となり、増加しない。
【0146】
また、同じ性能の熱変換装置を使用し、暖房のために45℃の湯水を蓄熱槽に蓄える場合を考える。蓄熱槽の熱伝達係数が0.36W/(m
2・K)である場合、系統電力のみで熱需要を賄おうとすると、
図16(b)に直線Ldで示すように、
図16(a)の直線Laとは傾きが異なるものの同様に、蓄熱槽の容量の増加に伴って系統電力線から供給を受ける電力量は線形に増加する。一方、本実施形態のエネルギーシステム1では、蓄熱槽の熱伝達係数が同じく0.36W/(m
2・K)であっても、曲線Leで示すように、蓄熱槽の容量が約0.5m
3以上では系統電力線から供給を受ける電力量は大きく削減される。蓄熱槽の容量が約0.4m
3を超えると、系統電力線から供給を受ける電力量は徐々に増加するが、それでも系統電力のみで賄う場合に比べて大きくに削減されている。更に蓄熱槽の断熱性を高めて熱伝達係数を0.06W/(m
2・K)とすると、曲線Lfで示すように、系統電力線から供給を受ける電力量は更に削減されると共に、蓄熱槽の容量が約1.0m
3を超えると系統電力線から供給を受ける電力量は一定となり、増加しない。
【0147】
これらのシミュレーションの結果から、少なくとも蓄熱槽の熱伝達係数が0.06W/(m
2・K)~0.36W/(m
2・K)の範囲で、蓄熱槽の容量が0.5m
3~2.0m
3の範囲では、余剰の電力を蓄熱装置に供給する本実施形態のエネルギーシステム1において、系統電力線から供給を受ける電力量を削減する効果を確実に発揮させることができると考えられた。この数値範囲の熱伝達係数は、
図15(a)~
図15(c)を用いて説明した断熱層42i,42nを蓄熱槽に備えさせることにより、実現することができる。
【0148】
また、一般の住宅である第一単位グリッドについて、太陽光発電装置による発電量と系統電力線から供給を受けた電力量を通年で示した
図17から明らかなように、夏季と冬季に、電力消費量の総量が増加している。これは、夏季は冷房のため、冬季は暖房のための電力消費が増加しているためと考えられる。そして、夏季は電力消費量の大部分を太陽光発電によって賄えているのに対し、冬季では系統電力への依存度が高くなっている。太陽光発電装置による発電量が、季節によって変動することは不可避である。そこで、上述のように断熱性を高めた蓄熱槽を使用することにより、春季から夏季にかけて生じる太陽光発電による余剰電力を、熱に変換して蓄熱装置に蓄え、太陽光発電による発電量が低下する秋季から冬季にかけての熱需要に充当することが考えられる。
【0149】
つまり、太陽光発電装置を備える単位グリッドにおいて、太陽光発電装置による発電量が電力需要より大となる季節(日本では春季から夏季にかけて)に生じる余剰電力を熱に変換して蓄熱装置に貯蓄し、貯蓄された熱を、太陽光発電装置による発電量が低下する季節(日本では秋季から冬季にかけて)に熱負荷に供給する。これは、太陽光発電装置により発電された電力を熱に変換して蓄えておき、“季節をまたいだ長いスパン”で熱需要に充当するという独創的なエネルギー授受調整方法である。このような調整は、例えば、単位グリッドにおける電力負荷の電力需要、熱負荷による熱需要、モバイル蓄電池における電力収支の季節変動を考慮して、太陽光発電装置からの出力、蓄熱槽の断熱性(熱伝達係数)、蓄熱槽の容量を設定することにより、最適化することができる。
【0150】
上記では、単位グリッドと他の単位グリッドとが、電動式移動体の移動に伴い連携グリッドを形成するエネルギーシステム1を示した。このようなエネルギーシステム1を更に発展させ、単位グリッド同士がエネルギー授受調整をするための連携グリッドを、通信ネットワークを介することによっても形成するエネルギーシステム1nとすることができる。このエネルギーシステム1nは、
図18に示すように、管理サーバ91とユーザ端末92とが通信ネットワーク90によって接続されているものである。
【0151】
ユーザ端末92は、単位グリッドにおいて施設10または電動式移動体20が備える既述の制御装置に、通信ネットワーク90を介してデータの送受信を行う通信装置を更に備えさせたものである。管理サーバ91は、このエネルギーシステム1nを管理する事業者が使用するサーバであり、主記憶装置と補助記憶装置からなる記憶装置、中央処理装置、及び通信ネットワーク90を介してデータの送受信を行う通信装置を備えるコンピュータである。記憶装置には、管理側エネルギー授受調整手段としてコンピュータを機能させるプログラムが記憶されている。
【0152】
ユーザ端末92からは、その単位グリッドにおける太陽光発電装置30による発電量、電力負荷の電力需要、モバイル蓄電池の蓄電電力量を含む数値データが、通信ネットワーク90を介して管理サーバ91に送信される。これらの数値データは、各単位グリッドが、電動式移動体20の移動に伴い他の単位グリッドと連携グリッドを形成しており、且つ、それぞれの単位グリッドにおいて上述したエネルギー授受調整が行われている状態での数値データである。管理サーバ91は、受信した数値データを単位グリッドの識別情報と関連付けて、記憶装置にデータベース91dとして記憶する。
【0153】
地理的に近い地域内では気象条件がほぼ同じであるため、その地域に所在する施設10の単位グリッドでは、太陽光発電装置30による発電量の変動はほぼ同じである。一方、電力や熱の消費に関しては、その施設10の居住者や使用者の生活様式などによって需要の生じる時間や消費量も相違する。また、モバイル蓄電池に関しても、電動式移動体20の用途により移動距離も使用する時間帯も相違する。そのため、地理的に近い地域内であっても、単位グリッドごとエネルギー収支が相違し、過不足が生じるタイミングにもずれが生じる。
【0154】
そこで、管理サーバ91の管理側エネルギー授受調整手段は、単位グリッドから送信されてくる数値データの変動を監視すると共にエネルギー収支を演算し、電力に余剰が生じている単位グリッドと不足が生じている単位グリッドを把握する。そして、電力が不足している単位グリッドが系統電力線51から受ける電力量を最小限に抑えることができるように、管理側エネルギー授受調整手段は、電力に余剰が生じている単位グリッドから電力が不足している単位グリッドに送電する手配を行う。この送電は、エネルギーシステム1nの管理事業者と、系統電力線51を所有・管理する事業者との契約に基づき、系統電力線51の設備を使用して行うことができる。
【0155】
このような単位グリッド間の電力の授受が地理的に近い地域内で行われるように、連携グリッドを形成する単位グリッドの組み合わせを抽出することにより、電力損失を抑えて送電を行うことができる。このように、単位グリッド同士が通信ネットワーク90を介して連携グリッドを形成し電力を融通し合うことにより、管理サーバ91に接続している単位グリッドによって構成されるコミュニティ内で、エネルギーを無駄なく使用することができ、単位グリッドそれぞれが系統電力線51から供給を受ける電力量を低減することができる。
【0156】
以上のように、本実施形態のエネルギーシステム、及び、エネルギー授受調整方法によれば、人の移動及び物の移動をエネルギーの移動に統合させたシステムであるため、エネルギーの移動にかかるコストを大幅に低減することができる。また、本来は走行用である移動体蓄電池をエネルギー授受の調整のために兼用するため、この点でもエネルギーの移動にかかるコストが低減されている。
【0157】
更に、再生可能エネルギーを有効に利用することにより系統電力への依存度を低減することができ、且つ、適正なエネルギー授受調整によって、システム全体として必要とするエネルギーが低減されるため、化石燃料の供給スタンドなどの設備(インフラストラクチャー)の必要性が大幅に低減される。従って、インフラストラクチャーに依存しない自立型のエネルギー供給が可能であり、災害などでライフラインが遮断された事態であっても、安定してコミュニティ内でエネルギーを賄うことができる。
【0158】
加えて、CO2ガスの排出量を削減する効果が非常に高いため、環境への負荷を大きく低減できると共に、温暖化ガスの排出を抑制することへの社会的な要請にかなっている。
【0159】
更に、単位グリッド同士が通信ネットワークを介しても連携グリッドを形成するエネルギーシステムとすることにより、単位グリッドごとでは調整しきれない電力の過不足を、融通し合う相手の単位グリッドをよりフレキシブルに選択できるため、コミュニティ全体でエネルギーをより無駄なく使用することができる。
【0160】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0161】
例えば、上記の実施形態では、再エネ発電装置が太陽光発電装置である場合を示したが、太陽熱、風力、地熱、海洋エネルギーによる発電装置であっても、エネルギー授受調整は同様である。太陽光発電における発電量の昼夜の差や季節間の差に関する処理は、他の再エネ発電装置において自然条件に左右されて生じる発電量の差に関して、同様に適用される。
【0162】
また、第一単位グリッドと第二単位グリッドによる連携グリッドの実施例では、勤務先を施設とする第二単位グリッドについては、そこを本拠地とする電動式移動体や蓄熱装置を考慮していない。これに限定されず、第二単位グリッドについても第一単位グリッドと同様の構成とすれば、エネルギーの授受調整による省エネルギーの効果を、更に高めることできる。つまり、コミュニティを構成する全ての単位グリッドが、太陽光発電装置のみならず、その施設を本拠地とする電動式移動体や蓄熱装置を備え、他の単位グリッドから到来した電動式移動体のモバイル蓄電池に電力を供給すると共に、自身の単位グリッドにおいても電動式移動体や蓄熱装置を使用したエネルギー授受調整を行うことにより、コミュニティ全体における省エネルギーの効果を、より高めることできる。
【0163】
更に、ある単位グリッドが連携グリッドを形成する相手の単位グリッドは一つに限定されず、更に他の単位グリッドと連携グリッドを形成することとすれば、コミュニティ全体として系統電力への依存度をより低減することができ、CO2ガスの排出量も更に大きく削減することが可能である。
【0164】
また、コミュニティを構成する単位グリッドの少なくとも一部が、電力によって水を分解し水素を発生させる水素発生装置を具備しているエネルギーシステムとすることができる。これにより、再エネ発電装置により発電された電力に余剰が生じた場合、水素に変換して蓄えておき、燃料として使用することができる。化学的な工業施設など、水素を蓄えておくのに適した環境を有している施設の単位グリッドに適している。
【0165】
上記では、暖房としてパイプ内に湯水を流通させる床暖房43を例示したが、湯水の流路を有するパネルヒータを使用することもできる。更に、暖房器具にまで熱を運ぶ媒体は、蓄熱槽内で熱を蓄えている媒体自体であってもよいし、その媒体と熱交換した流体であってもよい。
【0166】
加えて、上記の実施形態では、電力を熱に変換して蓄えておき、これを充当する熱需要として暖房と給湯を例示した。このように媒体を高温として熱を蓄える他、電力により媒体を冷やして蓄えておき、冷房に使用することもできる。媒体を冷やして蓄える場合にも、断熱層を備える上記構成の蓄熱槽を、有効に使用することができる。