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特許7607344廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20241220BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20241220BHJP
   C25B 1/46 20060101ALI20241220BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241220BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/06
C22B3/44 101A
C22B3/26
C22B3/44 101Z
C22B3/08
C22B3/10
C22B23/00 102
C22B21/00
C22B47/00
C25B1/46
C25B9/00 E
H01M10/54
C22B7/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022086581
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2022005152の分割
【原出願日】2022-01-17
(65)【公開番号】P2023104845
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2024-07-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-157913(JP,A)
【文献】特開2000-129364(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111778401(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0227154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C25B 1/46
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法であって、
廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸により溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で得られる溶液に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加する水酸化アルカリ添加工程と、
前記水酸化アルカリ添加工程で得られる溶液から溶媒抽出により、前記活物質粉に含まれる鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、及びニッケルの少なくとも1つを有機溶媒で抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で得られるアルカリ混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程
前記分離工程で得られるリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る第1の電解工程、及び、
前記分離工程から得られるナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化アルカリ水溶液を得る第2の電解工程を含み、
前記第2の電解工程で得られる水酸化アルカリ水溶液を、前記水酸化アルカリ添加工程、前記抽出工程、及び前記分離工程の少なくとも1つの工程で再利用する、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記分離工程が、リン酸リチウム法、蒸発濃縮法、及び溶媒抽出法の少なくとも1つにより行われることを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を濃縮し、濃縮されたナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を前記第2の電解工程で電解することを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記溶解工程で使用される前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つを含むことを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記第1の電解工程及び第2の電解工程の少なくとも1つで使用される電力として再生可能エネルギーを使用することを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
請求項のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記第1の電解工程及び第2の電解工程で使用される電力として太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つを使用することを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を回収し、前記リチウムイオン電池の材料として再利用する方法が検討されている。
【0003】
従来、前記廃リチウムイオン電池から前記有価金属を回収する際には、該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)、粉砕、分級等して得られた前記有価金属を含む粉末からコバルト、ニッケル、マンガン、及びリチウムを湿式プロセスにて分離精製している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
なお、本発明において、廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、及び製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料、負極材料等を意味する。また、前記廃リチウムイオン電池から得られた正極及び負極を含む粉末を、活物質粉とする。さらに、不純物とは、活物質粉に含まれる金属のうち、回収を必要としない金属を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6835820号公報
【文献】特許第6869444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既存の湿式プロセスでは、アルカリ源として、回収目的物であるリチウム化合物以外の化合物を使用しているから、リチウム以外の陽イオン濃度が高くなり、同時にリチウムイオン濃度が低下する。この結果、従来の湿式プロセスでは、目的物であるリチウムの回収率が著しく低下してしまう。さらに従来の湿式プロセスでは、活物質粉の溶解で使用した鉱酸、及びアルカリ源として使用した化合物は、塩として排出されてしまい、当該鉱酸、及びアルカリ源として使用した化合物を循環してリサイクルする技術が無いという不都合がある。
近年、かかる不都合を解消して、高い回収率でリチウムを回収でき、回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法が希求されていたが、そのような方法は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、高い回収率でリチウムを回収でき、回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、活物質粉を鉱酸で溶解して得られる溶液に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加し、更にリチウム塩水溶液と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を分離し、分離されたナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を電解して得られる鉱酸と、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを再利用できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法であって、廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸により溶解する溶解工程と、前記溶解工程で得られる溶液に水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加する水酸化アルカリ金属添加工程と、前記水酸化アルカリ金属添加工程で得られる溶液から溶媒抽出により、前記活物質粉に含まれる鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、及びニッケルの少なくとも1つを有機溶媒で抽出する抽出工程と、前記抽出工程で得られるアルカリ金属混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム塩及びカリウムの少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程と、前記分離工程で得られるリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る第1の電解工程と、前記分離工程から得られるナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化アルカリ水溶液を得る第2の電解工程を含み、前記第2の電解工程で得られる水酸化アルカリ水溶液を、前記水酸化アルカリ添加工程、前記抽出工程、及び前記分離工程の少なくとも1つの工程で再利用する、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法である
記分離工程は、好ましくはリン酸リチウム法、蒸発濃縮法、及び溶媒抽出法の少なくとも1つにより行われる。
本発明では、好ましくはナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を濃縮し、濃縮されたナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を前記第2の電解工程で電解する。
前記溶解工程で使用される前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つを含む。
前記第1の電解工程及び第2の電解工程の少なくとも1つで使用される電力として、好ましくは再生可能エネルギーを使用する。
前記第1の電解工程及び第2の電解工程の少なくとも1つで使用される電力として、好ましくは太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つを使用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法は、高い回収率でリチウムを回収でき、回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法の1つの実施態様の構成を示す説明図。
図2】リン酸リチウム法を示す説明図。
図3】本発明の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収方法の第1の電解工程に用いるイオン交換膜電解槽の構造を示す説明的断面図。
図4】本発明の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収方法の第2の電解工程に用いるイオン交換膜電解槽の構造を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明について更に詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法(以下、「回収方法」と称する)は、活物質粉1を出発物質とする。
【0012】
<溶解工程>
本発明の回収方法は、前処理して得られた前記活物質粉1を鉱酸により溶解する溶解工程(STEP 1)を含む。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つ含み、より好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つであり、更に好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、特に好ましくは塩酸である。前記活物質粉1は、リチウム、鉄、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでいるから、前記鉱酸による前記活物質粉1の溶解により、前記活物質粉1に含まれる前記有価金属の溶解液を得ることができる。
【0013】
<水酸化アルカリ添加工程>
本発明の回収方法は、前記溶解工程で得られる前記有価金属の溶解液に水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加する水酸化アルカリ金属添加工程(STEP 2)を含む。図1において、水酸化アルカリ金属として水酸化ナトリウムのみを添加した場合を示す。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つの添加は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つの固体の添加、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液の少なくとも1つの添加、これらの混合形態の少なくとも1つであってよい。前記有価金属の溶解液は当該水酸化アルカリ金属添加工程において中和される。
さらに水酸化鉄及び水酸化アルミニウムが、前記有価金属の溶解液への水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つの添加により順次沈殿し、前記有価金属の溶解液から鉄及びアルミニウムが分離される場合がある。
【0014】
<抽出工程>
本発明の回収方法は、前記水酸化アルカリ金属添加工程で得られる溶液から溶媒抽出により、前記活物質粉1に含まれる鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、及びニッケルの少なくとも1つを有機溶媒で抽出する抽出工程(STEP 3)を含む。
【0015】
リチウム、ナトリウム、マンガン、コバルト、及びニッケルが、前記水酸化アルカリ金属添加工程において中和された前記有価金属の溶解液に含まれている。鉄及びアルミニウムが、前記水酸化アルカリ金属添加工程において除去されていない場合、鉄及びアルミニウムも前記有価金属の溶解液に含まれている。
【0016】
前記抽出工程は、前記有価金属の溶解液から第1の有機溶媒により鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、又はニッケルを抽出する第1の抽出工程を含む。前記有価金属の溶解液及び第1の有機溶媒の均質な混合液のpHが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つ等のアルカリの添加により調整され、第1の金属含有有機相と第1の抽出残液が当該第1の抽出工程で得られる。
【0017】
前記抽出工程は、前記第1の抽出残液から、第2の有機溶媒により前記第1の抽出工程で抽出されていない有価金属を抽出する第2の抽出工程を含んでいてよい。前記第1の抽出残液及び第2の有機溶媒の均質な混合液のpHが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つ等のアルカリの添加により調整され、第2の金属含有有機相と第2の抽出残液が当該第2の抽出工程で得られる。
【0018】
前記抽出工程は、前記第2の抽出残液から、前記第1及び第2の抽出工程で抽出されていない前記有価金属を順次抽出する第3~第5の抽出工程を含んでいてよい。
【0019】
前記抽出工程で使用される有機溶媒として、例えばリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)、2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート、及びビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸が挙げられる。当該有機溶媒は炭化水素、例えばケロシンで希釈されていてよい。
【0020】
前記鉄含有有機相、アルミニウム含有有機相、マンガン含有有機相、コバルト含有有機相、及びニッケル含有有機相のそれぞれに対し硫酸による逆抽出が実施され、金属硫酸塩(硫酸鉄、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸コバルト、及び硫酸ニッケル)水溶液2が回収される。
【0021】
<分離工程>
本発明の回収方法は、前記抽出工程で得られるリチウムと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つを含むアルカリ金属混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程(STEP 4)を含む。
前記分離工程は、特定の方法に限定されないが、好ましくはリン酸リチウム法、蒸発濃縮法、及び溶媒抽出法の少なくとも1つにより行われる。
【0022】
(リン酸リチウム法)
図2を用いて、リン酸リチウム法について説明する。リン酸リチウム法は、リン酸アルミニウムと、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つの水酸化アルカリ金属(MOH)水溶液を、前記アルカリ金属混合塩水溶液に添加し、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを含む固形物を生成させるリン酸化工程(STEP A)を含む。塩化アルカリ金属(MCl)が、前記固形物が生成した前記水性液に溶解している。前記水酸化アルカリ金属は、好ましくは水酸化ナトリウムである。図2では、前記アルカリ金属として水酸化ナトリウムのみを使用する場合が示されている。
【0023】
リン酸リチウム法は、前記リン酸化工程で生成した前記固形物を固液分離する第1の固液分離(STEP B)を含む。当該第1の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。
【0024】
リン酸リチウム法は、前記第1の固液分離工程で分離された前記固形物は洗浄されてもよい。前記固形物を水に懸濁させて得られた懸濁液に鉱酸を添加して、当該懸濁液のpHを2~3に調整するpH調整工程(STEP C)を含む。前記鉱酸は特定の鉱酸に限定されない。前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つを含む。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸の少なくとも1つであり、より好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、更に好ましくは塩酸である。鉱酸が塩酸である場合、前記リチウム塩は塩化リチウムであり、図2には、この場合が記載されている。
【0025】
リン酸リチウム法は、前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムとリチウム塩水溶液を固液分離する第2の固液分離工程(STEP D)を含む。当該第2の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。当該第2の固液分離工程で得られるリン酸アルミニウムは短時間で固液分離可能であり、固液分離されたリン酸アルミニウムは前記リン酸化工程で再利用される。
【0026】
前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液のpHは、好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)で調整される。前記pH調整工程(STEP C)で前記懸濁液のpHは2~3に調整されているから、前記リチウム塩水溶液のpHは2~3であるが、当該pHは当該pH調整工程(STEP 5)において、好ましくは6~14、より好ましくは6~8に調整される。この場合、未反応のアルミニウム及びリンが沈殿し、前記リチウム塩水溶液の純度がより高くなる。
【0027】
好ましくは前記pH調整工程(STEP 5)においてpHが調整された前記リチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る、後述する第1の電解工程(STEP 6)を実施する。前記リチウム塩水溶液は、前記第1の電解工程に付される前に第1の濃縮工程(STEP E)で濃縮されてよい。当該第1の濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【0028】
リン酸リチウム法では、前記第1の固液分離工程で分離された、前記塩化アルカリ金属が溶解しているろ液は、後述する第2の濃縮工程(STEP 9)で濃縮されてよい。
【0029】
(蒸発濃縮法)
リチウムと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つを含む前記アルカリ金属混合塩水溶液が蒸発濃縮され、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの少なくとも1つ等のナトリウム塩及びカリウム塩の少なくとも1つが順次晶析され、当該アルカリ金属混合塩水溶液から分離される。分離された塩化ナトリウム及び塩化カリウムの少なくとも1つ等のナトリウム塩及びカリウム塩の少なくとも1つが水に溶解され、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解する、後述する第2の電解工程(STEP 7)が実施される。ナトリウム塩及びカリウム塩の少なくとも1つが分離されたリチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られたリチウム塩水溶液と同様に好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)及び第1の濃縮工程(STEP E)に付され、後述する第1の電解工程(STEP 6)に付される。
【0030】
(溶媒抽出法)
リチウムと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つを含む前記アルカリ金属混合塩水溶液、及びリチウム抽出用有機溶媒の均質な混合液のpHが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つ等のアルカリの添加により、好ましくは5~9の範囲に調整され、リチウム含有有機相と、抽出残液としてナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が得られる。リチウム抽出用有機溶媒として、例えばリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)が挙げられる。当該リチウム含有有機相に対し鉱酸によるスクラビングが実施され、リチウム塩水溶液が回収される。当該リチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られたリチウム塩水溶液と同様に好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)及び第1の濃縮工程(STEP E)に付され、後述する第1の電解工程(STEP 6)に付される。
【0031】
リチウムが抽出により分離された塩化ナトリウム及び塩化カリウムの少なくとも1つ等の、ナトリウム塩及びカリウム塩の少なくとも1つが溶解している前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解する、後述する第2の電解工程(STEP 7)が実施される。当該ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液は、好ましくは逆浸透膜(RO膜)等を用いて後述する第2の濃縮工程で(STEP 9)で濃縮される。
【0032】
<リチウム塩水溶液のpH調整工程>
本発明の回収方法は、前記分離工程で得られるリチウム塩水溶液に水酸化リチウム及び水酸化リチウム水溶液の少なくとも1つを添加し、当該リチウム塩水溶液のpHを調整するpH調整工程(STEP 5)を含んでいてよい。前記リチウム塩水溶液のpHは、好ましくは6~14、より好ましくは6~8に調整される。
【0033】
<リチウム塩水溶液の濃縮工程>
本発明の回収方法は、前記分離工程で得られ、必要に応じて前記pH調整工程(STEP 5)に付された前記リチウム塩水溶液を濃縮する第1の濃縮工程(STEP E)を含んでいてよい。当該第1の濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【0034】
<第1の電解工程>
本発明の回収方法は、前記分離工程で得られ、必要に応じて前記pH調整工程(STEP 5)及び前記第1の濃縮工程(STEP E)の少なくとも1つに付された前記リチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る第1の電解工程(STEP 6)を含む。
【0035】
当該第1の電解工程を、例えば図3に示す電解槽11を用いて行うことができる。
電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0036】
電解槽11では、陽極室17に塩化リチウムが溶解している前記リチウム塩水溶液を供給して電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で塩素ガス(Cl2)を生成する。一方、リチウムイオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。
【0037】
陰極室18では水(H2O)が水酸化物イオン(OH-)と水素イオン(H+)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H2)を生成する一方、水酸化物イオンと、リチウムイオンから、水酸化リチウム水溶液を生成する。
【0038】
前記電解に要する電力として、例えば再生可能エネルギー、好ましくは太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つが使用される。
【0039】
前記第1の電解工程で生成した水素ガス(H2)と塩素ガス(Cl2)を反応させ、塩酸を得ることができる。図3には示されていないが、前記塩化リチウム水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記塩化リチウム水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記第1の電解工程で鉱酸5を得ることができ、当該鉱酸5はSTEP 1の活物質粉1の溶解、及びSTEP CのpH調整の少なくとも1つに用いてよい。
【0040】
(水酸化リチウム一水和物の分離)
本発明の回収方法は、前記第1の電解工程で得られた前記水酸化リチウム水溶液を蒸発濃縮して水酸化リチウム一水和物3を晶析する晶析工程(STEP F)を含んでいてよい。
【0041】
(炭酸リチウムの分離)
本発明の回収方法は、二酸化炭素を前記第1の電解工程で得られた前記水酸化リチウム水溶液に吹き込み、炭酸リチウム6を生成させる炭酸化工程(STEP G)を含んでいてもよい。当該炭酸化工程で得られるスラリーをろ過等により固液分離して得られる塩化リチウム等のリチウム塩が溶解している水溶液は、前記第1の濃縮工程(STEP E)で濃縮されてよい。なお、図1及び2には、前記リチウム塩が塩化リチウムである場合が示されている。
【0042】
<第2の電解工程>
本発明の回収方法は、好ましくは、前記分離工程から得られる、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの少なくとも1つ等が溶解しているナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し、水酸化アルカリ金属水溶液を得る第2の電解工程(STEP 7)を含む。当該第2の電解工程を、例えば図4に示す電解槽21を用いて行うことができる。
【0043】
電解槽21は、一方の内側面に陽極板22を備え、陽極板22と対向する内側面に陰極板23を備え、陽極板22は電源の陽極24に接続され、陰極板23は電源の陰極25に接続されている。また、電解槽21は、イオン交換膜26により、陽極板22を備える陽極室27と、陰極板23を備える陰極室28とに区画されている。
【0044】
電解槽21では、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの少なくとも1つの前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を陽極室27に供給して電解を行うと、塩化物イオンが陽極板22上で塩素ガス(Cl2)を生成する。一方、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの少なくとも1つのアルカリ金属イオンはイオン交換膜26を介して陰極室28に移動する。図4では、陽極室27にナトリウム塩水溶液が供給される場合が示されている。
【0045】
陰極室28では水(H2O)が水酸化物イオン(OH-)と水素イオン(H+)とに電離し、水素イオンが陰極板23上で水素ガス(H2)を生成する一方、水酸化物イオンと、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの少なくとも1つから、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つが溶解しているアルカリ金属水溶液を生成する。図1、2及び4では、水酸化ナトリウム水溶液4が生成される場合が示されている。
【0046】
前記第2の電解に要する電力として、例えば再生可能エネルギー、好ましくは太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つが使用される。
【0047】
前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が塩化物イオンを含む場合、前記第2の電解工程で生成した水素ガス(H2)と塩素ガス(Cl2)を反応させ、塩酸を得ることができる。図4には示されていないが、前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室27で硫酸を得ることができる。前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室27で硝酸を得ることができる。すなわち、前記第2の電解工程で鉱酸5を得ることができ、当該鉱酸5はSTEP 1の活物質粉1の溶解、及びSTEP CのpH調整の少なくとも1つに用いる。
【0048】
前記第2の電解工程で生成する前記水酸化アルカリ金属水溶液は、好ましくは、前記水酸化アルカリ金属添加工程、前記抽出工程、前記リン酸リチウム法による分離工程、及び前記溶媒抽出法による分離工程の少なくとも1つ工程で再利用される。
【0049】
前記第2の電解工程では、前記ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が電解される結果、該ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液より希薄なナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液が生成する。そこで、本発明の回収方法は、前記希薄なナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を濃縮し、前記分離工程で得られるナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液に添加する第2の濃縮工程(STEP 9)を含んでいてよい。当該第2の濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<リチウム及びナトリウム混合塩水溶液中の金属の含有量、水酸化リチウム一水和物中の不純物の含有量>
PerkinElmer社製Optima8300を使用し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によりリチウム及びナトリウム混合塩水溶液中の金属の含有量を測定した。
【0052】
電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池を放電処理し、残留している電荷を全て放電させた。次いで当該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)した後、ハンマーミルで粉砕し、当該廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けし、活物質粉を得た。当該活物質粉500gを6mol/Lの塩酸3Lに溶解し、得られた溶液に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2.8Lを添加して、当該溶液を中和した。中和した溶液5.8Lと抽出剤としてビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Cyanex272、希釈剤はケロシン)5.8Lを混合し、コバルトを溶媒抽出した。5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液に添加し、pHを4に調整して、コバルト含有有機相と第1の抽出残液を得た。コバルト含有有機相は、薄硫酸でスクラビングした後、1.5mol/Lの硫酸で逆抽出し、硫酸コバルト溶液を得た。当該コバルト抽出工程で使用された有機溶媒と同一の有機溶媒を使用して、第1の抽出残液からニッケルを抽出し、抽出残液としてリチウム及びナトリウム混合塩水溶液を得た。3.5g/Lのリチウム及び38.2g/Lのナトリウムが当該水溶液に含まれていた。
【0053】
187gのリン酸アルミニウムを8.3Lの前記水溶液に添加し、次いで水酸化ナトリウムを添加して前記水溶液のpHを10.5に調整し、2時間反応を行って白色スラリーAを得た。次に当該白色スラリーAを濾過し、洗浄して含水率55%の白色ケーキA614gを得た。当該白色ケーキAを300mLの純水に懸濁させ、35質量%の塩酸を添加して、懸濁液のpHを2.5に調整し、当該懸濁液を60℃に加熱して6時間反応を行い、白色スラリーBを得た。当該白色スラリーBを濾過し、洗浄して含水率60%の白色ケーキB467gと、合計で1060mLのろ液及び洗浄水を得た。前記1060mLのろ液及び洗浄水に水酸化リチウムを添加しpHを7に調整してろ過したろ液(ろ液1)1060mL(塩化リチウム濃度92g/L)を、前記RO膜を用いて濃縮し、得られた塩化リチウム水溶液(塩化リチウム濃度は200g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm2、電極面積0.7dm2の条件下で電解し(第1の電解工程)、6.2質量%の水酸化リチウム水溶液1100gを得た。さらに、生成した塩素ガスと水素ガスの反応物を水に吸収させ、30質量%の塩酸350gも得た。当該第1の電解工程におけるリチウムの回収率は70.3%であった。
【0054】
前記6.2質量%の水酸化リチウム水溶液380gを分取し、水溶液の80質量%を晶析して水酸化リチウム一水和物の結晶19.3g(乾燥後質量)を得た。当該水酸化リチウム一水和物中のナトリウム含有量は50ppm未満、アルミニウムの含有量は10ppm未満、リンの含有量は10ppm未満であった。
【0055】
前記白色スラリーAの濾過及び洗浄で得られたろ液及び洗浄水10.5L(塩化ナトリウム濃度は98g/L)を、前記RO膜を用いて濃縮し、得られた塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度は300g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm2、電極面積1.75dm2、通電時間4時間の条件下で電解し、21.2質量%の水酸化ナトリウム1.6kgを得た。さらに、生成した塩素ガスと水素ガスの反応物を水に吸収させ、30質量%の塩酸1.04kgも得た。
当該電解工程で生成した水酸化ナトリウムは、水酸化ナトリウム添加工程(STEP 2)、抽出工程(STEP 3)、及び分離工程(STEP 4)で再利用可能であった。さらに当該電解工程で合成された塩酸は溶解工程(STEP 1)で再利用可能であった。当該電解工程における電流効率は81.5%であった。
【0056】
本実施例では、使用される鉱酸及びアルカリが再生され、再利用できることが分かった。さらに廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する最終段階で得られる水酸化リチウム一水和物の純度、及びリチウムの回収率は非常に高いことも分かった。
【0057】
本発明の回収方法では、前記アルカリ混合塩水溶液のイオン交換膜を用いる前記第2の電解工程において直接水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを得ることができる。該第2の電解工程で生成する鉱酸及びアルカリを本発明の回収方法に循環利用できるから、クローズドループリサイクルプロセスを実現できる。さらに、本発明の回収方法は、鉱酸及びアルカリを循環利用するから、従来通り鉱酸及びアルカリを外部から購入した場合に比較して、鉱酸及びアルカリの物流工程で発生する二酸化炭素の排出量を低減できる。
【符号の説明】
【0058】
1…活物質粉、 2…金属硫酸塩水溶液、 3…水酸化リチウム一水和物、
4…水酸化ナトリウム水溶液、 5…鉱酸、 6…炭酸リチウム、
11、21…電解槽、12、22…陽極板、 13、23…陰極板、
14、24…陽極、 15、25…陰極、 16、26…イオン交換膜、
17、27…陽極室、 18、28…陰極室。
図1
図2
図3
図4