IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アサカ理研の特許一覧

特許7607345廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法
<>
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図1
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図2
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図3
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図4
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図5
  • 特許-廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20241220BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/28 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/30 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241220BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241220BHJP
   C25B 1/46 20060101ALI20241220BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241220BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/10
C22B3/28
C22B3/30
C22B3/38
C22B3/44 101A
C22B3/22
C25B1/46
C25B9/00 E
H01M10/54
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022086684
(22)【出願日】2022-05-27
(65)【公開番号】P2023103933
(43)【公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-07-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/256732(WO,A1)
【文献】特表2018-520971(JP,A)
【文献】特開2009-269810(JP,A)
【文献】特開2004-142986(JP,A)
【文献】特開2011-031232(JP,A)
【文献】特開2011-032151(JP,A)
【文献】特開平10-287864(JP,A)
【文献】特開2010-229534(JP,A)
【文献】特開2004-307983(JP,A)
【文献】特開2001-096236(JP,A)
【文献】特開2020-132950(JP,A)
【文献】特開2003-157913(JP,A)
【文献】特開2000-129364(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111778401(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0227154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C25B 1/46,9/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法であって、
廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸により溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で得られる溶液に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加する水酸化アルカリ添加工程と、
前記水酸化アルカリ添加工程で得られる不溶解物と溶液Aに固液分離する固液分離工程と、
前記溶液Aに有機アミン化合物抽出溶媒を添加してコバルトを抽出分離すると共に溶液Bを得るコバルト抽出工程と、
前記溶液Bにヒドロオキシム抽出溶媒を添加してニッケルを抽出分離すると共に溶液Cを得るニッケル抽出工程と、
前記溶液Cに有機リン化合物抽出溶媒を添加してマンガンを抽出分離すると共に第1のリチウム塩水溶液を得るマンガン抽出工程と、
前記マンガン抽出工程で得られるアルカリ混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程と、
前記分離工程で得られる第1のリチウム塩水溶液からリチウムを回収するリチウム回収工程を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記分離工程から得られるナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解しアルカリ金属水酸化物水溶液を得る第2の電解工程を更に含むことを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
請求項2に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記第2の電解工程で得られるアルカリ金属水酸化物水溶液を、前記水酸化アルカリ添加工程、前記コバルト抽出工程、前記ニッケル抽出工程、前記マンガン抽出工程、及び前記分離工程の少なくとも1つの工程で再利用することを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
請求項1に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記リチウム回収工程が、前記分離工程で得られるリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウムを得る炭酸化工程を含むことを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項1に記載された廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法において、前記リチウム回収工程が、前記分離工程で得られる第1のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液と、酸と、前記第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る第1の電解工程を含むことを特徴とする廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
請求項5に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、前記第1のリチウム塩水溶液に添加することを特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種であること特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記鉱酸は塩酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、イオン交換膜を用いて前記第1のリチウム塩水溶液を電解して得られた塩素と水素とを反応させて生成した塩酸を前記鉱酸として用いることを特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項10】
請求項2に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、第2の電解工程に用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項11】
請求項5に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、第1の電解工程に用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載された廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、太陽光発電によって得られた電力又は風力発電によって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を回収し、前記リチウムイオン電池の材料として再利用する方法が検討されている。
【0003】
従来、前記廃リチウムイオン電池から前記有価金属を回収する際には、該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)、粉砕、分級等して得られた前記有価金属を含む粉末からコバルト、ニッケル、マンガン、及びリチウムを湿式プロセスにて分離精製している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
なお、本発明において、廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、及び製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料、負極材料等を意味する。また、前記廃リチウムイオン電池から得られた正極及び負極を含む粉末を、活物質粉とする。さらに、不純物とは、活物質粉に含まれる金属のうち、回収を必要としない金属を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6835820号公報
【文献】特許第6869444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既存の湿式プロセスでは、アルカリ源として、回収目的物であるリチウム化合物以外の化合物を使用しているから、リチウム以外の陽イオン濃度が高くなり、同時にリチウムイオン濃度が低下する。この結果、従来の湿式プロセスでは、目的物であるリチウムの回収率が著しく低下してしまう。さらに従来の湿式プロセスでは、活物質粉の溶解で使用した鉱酸、及びアルカリ源として使用した化合物は、塩として排出されてしまい、当該鉱酸、及びアルカリ源として使用した化合物を循環してリサイクルする技術が無いという不都合がある。
近年、かかる不都合を解消して、高い回収率でリチウムを回収でき、好ましくは回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法が希求されていたが、そのような方法は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、高い回収率でリチウムを回収でき、好ましくは回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、活物質粉を鉱酸で溶解して得られる溶液に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加し、更にリチウム塩水溶液と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を分離し、好ましくは分離されたナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を電解して得られる鉱酸と、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを再利用できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法であって、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法であって、廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸により溶解する溶解工程と、前記溶解工程で得られる溶液に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加する水酸化アルカリ添加工程と、前記水酸化アルカリ添加工程で得られる不溶解物と溶液Aに固液分離する固液分離工程と、前記溶液Aに有機アミン化合物抽出溶媒を添加してコバルトを抽出分離すると共に溶液Bを得るコバルト抽出工程と、前記溶液Bにヒドロオキシム抽出溶媒を添加してニッケルを抽出分離すると共に溶液Cを得るニッケル抽出工程と、前記溶液Cに有機リン化合物抽出溶媒を添加してマンガンを抽出分離すると共に第1のリチウム塩水溶液を得るマンガン抽出工程と、前記マンガン抽出工程で得られるアルカリ混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程と、前記分離工程で得られる第1のリチウム塩水溶液からリチウムを回収するリチウム回収工程を含む、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法である。
本発明は、好ましくは、前記分離工程から得られるナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解しアルカリ金属水酸化物水溶液を得る第2の電解工程を更に含む。
前記第2の電解工程で得られるアルカリ金属水酸化物水溶液は、好ましくは、前記水酸化アルカリ添加工程、前記コバルト抽出工程、前記ニッケル抽出工程、前記マンガン抽出工程、及び前記分離工程の少なくとも1つの工程で再利用される。
前記リチウム回収工程は、好ましくは前記分離工程で得られる第1のリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウムを得る炭酸化工程を含む。
前記リチウム回収工程は、好ましくは、前記分離工程で得られる第1のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液と、酸と、前記第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る第1の電解工程を更に含む。
前記第2のリチウム塩水溶液は、好ましくは濃縮され、前記第1のリチウム塩水溶液に添加される。
前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは塩酸である。
本発明では、好ましくは、イオン交換膜を用いて前記第1のリチウム塩水溶液を電解して得られた塩素と水素とを反応させて生成した塩酸を前記鉱酸として用いる。
前記第1の電解工程及び第2の電解工程からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いる電力は、好ましくは再生可能エネルギーによって得られた電力であり、より好ましくは太陽光発電によって得られた電力又は風力発電によって得られた電力である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法は、高い回収率でリチウムを回収でき、好ましくは回収プロセスで生成される塩を、当該プロセスで鉱酸及びアルカリとして再利用できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法の1つの実施態様の構成を示す説明図。
図2】本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法の別の1つの実施態様の構成を示す説明図。
図3】リン酸リチウム法の1つの実施態様の構成を示す説明図。
図4】リン酸リチウム法の別の1つの実施態様の構成を示す説明図。
図5】本発明の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収方法の第1の電解工程に用いるイオン交換膜電解槽の構造を示す説明的断面図。
図6】本発明の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収方法の第2の電解工程に用いるイオン交換膜電解槽の構造を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明について更に詳細に説明する。
図1及び2に示すように、本発明の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法(以下、「回収方法」と称する)は、活物質粉1を出発物質とする。
【0012】
本発明の回収方法は、前処理して得られた前記活物質粉1を鉱酸により溶解する溶解工程(STEP 1)を含む。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つ含み、より好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、更に好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、特に好ましくは塩酸である。前記活物質粉1は、リチウム、鉄、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでいるから、前記鉱酸による前記活物質粉1の溶解により、前記活物質粉1に含まれる前記有価金属の溶解液を得ることができる。
【0013】
本発明の回収方法は、前記溶解工程で得られる前記有価金属の溶解液に水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを添加するアルカリ金属水酸化物添加工程(STEP 2)を含む。図1及び2において、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムのみを添加した場合を示す。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの添加は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの固体の添加、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つの添加、これらの混合形態の少なくとも1つであってよい。前記有価金属の溶解液は当該水酸化アルカリ添加工程において中和される。
さらに水酸化鉄及び水酸化アルミニウムが、前記有価金属の溶解液への水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの添加により順次沈殿し、前記有価金属の溶解液から鉄及びアルミニウムが分離される場合がある。
【0014】
本発明の回収方法は、前記水酸化アルカリ添加工程で得られる溶液から溶媒抽出により、前記活物質粉1に含まれる有価金属を有機溶媒で抽出する抽出工程(STEP 3)を含む。
【0015】
中和された前記有価金属の溶解液から生成する不溶解物と溶液Aが固液分離される。前記溶液Aに有機アミン化合物抽出溶媒を添加してコバルトを抽出分離すると共に溶液Bを得る(コバルト抽出工程)。前記溶液Bにヒドロオキシム抽出溶媒を添加してニッケルを抽出分離すると共に溶液Cを得る(ニッケル抽出工程)。前記溶液Cに有機リン化合物抽出溶媒を添加してマンガンを抽出分離すると共に第1のリチウム塩水溶液を得る(マンガン抽出工程)。
前記コバルト抽出工程において、適切な濃度のコバルト塩化物錯体が形成される場合、純度が高いコバルト塩溶液を分離できる。この場合、前記溶液Bにコバルトは含まれていない、ないしほとんど含まれていないから、前記ニッケル抽出工程及びマンガン抽出工程のそれぞれにおいて得られる金属塩溶液の純度も高くなる。
【0016】
コバルト抽出工程で使用される溶媒は有機アミン化合物である。有機アミン化合物として、例えば第1級アミンであるダウ・ケミカル社製Primene(登録商標)JM-T、第2級アミンであるSigma-Aldrich社製Amberlite(登録商標)LA-2、第3級アミンであるSigma-Aldrich社製Alamine 336(トリオクチルアミン)、第4級アンモニウム塩であるSigma-Aldrich社製Aliquat(登録商標)336等が挙げられる。ニッケル抽出工程において使用される溶媒はヒドロオキシムである。ヒドロオキシムとして7-ヒドロキシ-5,8-ジエチル-6-ドデカノンオキシム(LIX-63)、5-ドデシル-2-ヒドロキシベンズアルデヒドオキシム(LIX 860)、2-ヒドロキシ-5-ノニルベンゾフェノンオキシム(LIX 65N)、2-ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシム(SME 529)、2-ヒドロキシ-5-ノニルフェニルベンジルケトンオキシム(Acorga P-17)等が挙げられる。マンガン抽出工程において使用される溶媒はリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸、酸化ホスフィン等の有機リン化合物である。これらの有機リン化合物は市販されており、例えば酸性リン酸エステルとしてD2EHPA(リン酸ジ(2-エチルヘキシル))が、ホスホン酸エステルとして第八化学工業株式会社製PC-88Aが、ホスフィン酸としてSolvay社製CYANEX272が、中性リン酸エステルとしてTBP(リン酸トリブチル)が、酸化ホスフィンとしてトリーn-オクチルホスフィン(TOPO)が挙げられる。
【0017】
例えばコバルト抽出工程においてトリオクチルアミン、ニッケル抽出工程においてLIX 860が、マンガン抽出工程においてD2EHPAが抽出溶媒として使用される。
【0018】
本発明の回収方法は、前記抽出工程で得られるリチウムと、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むアルカリ金属混合塩水溶液からリチウム塩と、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩のそれぞれを分離する分離工程(STEP 4)を含む。
前記分離工程は、特定の方法に限定されないが、好ましくはリン酸リチウム法、蒸発濃縮法、及び溶媒抽出法の少なくとも1つにより行われる。
【0019】
<リン酸リチウム法>
図3及び4を用いて、リン酸リチウム法について説明する。リン酸リチウム法は、リン酸アルミニウムと、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物(MOH)水溶液を、前記アルカリ金属混合塩水溶液に添加し、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを含む固形物を生成させるリン酸化工程(STEP A)を含む。アルカリ金属塩化物(MCl)が、前記固形物が生成した前記水性液に溶解している。前記アルカリ金属水酸化物は、好ましくは水酸化ナトリウムである。図3及び4では、前記アルカリ金属として水酸化ナトリウムのみを使用する場合が示されている。
【0020】
リン酸リチウム法は、前記リン酸化工程で生成した前記固形物を固液分離する第1の固液分離(STEP B)を含む。当該第1の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。
【0021】
リン酸リチウム法は、前記第1の固液分離工程で分離された前記固形物は洗浄されてもよい。前記固形物を水に懸濁させて得られた懸濁液に鉱酸を添加して、当該懸濁液のpHを2~3に調整するpH調整工程(STEP C)を含む。前記鉱酸は特定の鉱酸に限定されない。前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、更に好ましくは塩酸である。鉱酸が塩酸である場合、前記リチウム塩は塩化リチウムであり、図3及び4には、この場合が記載されている。
【0022】
リン酸リチウム法は、前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムと第1のリチウム塩水溶液を固液分離する第2の固液分離工程(STEP D)を含む。当該第2の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。当該第2の固液分離工程で得られるリン酸アルミニウムは短時間で固液分離可能であり、固液分離されたリン酸アルミニウムは前記リン酸化工程で再利用されてよい。
【0023】
前記第2の固液分離工程で得られた前記第1のリチウム塩水溶液のpHは、好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)で調整される。前記pH調整工程(STEP C)で前記懸濁液のpHは2~3に調整されているから、前記第1のリチウム塩水溶液のpHは2~3であるが、当該pHは当該pH調整工程(STEP 5)において、好ましくは6~8に調整される。この場合、未反応のアルミニウム及びリンが沈殿し、前記第1のリチウム塩水溶液の純度がより高くなる。
【0024】
好ましくは前記pH調整工程(STEP 5)においてpHが調整された前記第1のリチウム塩水溶液が、炭酸化され、炭酸リチウムを得る、後述する炭酸化工程(STEP 6a)を実施する(図3)。当該炭酸化工程で生成するナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液には、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ、微量の塩化リチウム、並びに炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解し、好ましくは当該ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液のpHは12程度になる。当該ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液に塩酸を添加して、そのpHを5以下に調整すると、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが分解されて二酸化炭素と水が生成され、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解している水溶液となる。当該水溶液は、後述する濃縮工程で(STEP 9)で濃縮されてよい。図3には、当該濃縮工程が実施される場合が記載されている。
【0025】
好ましくは前記pH調整工程(STEP 5)においてpHが調整された前記第1のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る、後述する第1の電解工程(STEP 6b)を実施してもよい(図4)。前記第1のリチウム塩水溶液は、前記第1の電解工程に付される前に第1の濃縮工程(STEP E)で濃縮されてよい。当該第1の濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【0026】
リン酸リチウム法では、前記第1の固液分離工程で分離された、前記アルカリ金属塩化物が溶解している濾液は、後述する濃縮工程(STEP 9)で濃縮されてよい。
【0027】
<蒸発濃縮法>
前記リチウムと、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属混合塩水溶液が蒸発濃縮され、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等の、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つが順次晶析され、当該アルカリ金属混合塩水溶液から分離される。分離された塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等の、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つが水に溶解され、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解する、後述する第2の電解工程(STEP 7)が実施される。ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つが分離された前記第1のリチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られた前記第1のリチウム塩水溶液と同様に、好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)に付され、更に炭酸化工程(STEP 6a)に付される。当該炭酸化工程で生成するナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が、前記されるように塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解している水溶液となる場合、当該水溶液は、後述する濃縮工程で(STEP 9)で濃縮されてよい。
【0028】
また前記第1のリチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られた前記第1のリチウム塩水溶液と同様に、好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)及び第1の濃縮工程(STEP E)に付され、後述する第1の電解工程(STEP 6b)に付される。
【0029】
<溶媒抽出法>
前記リチウムと、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの混合塩水溶液、及びリチウム抽出用有機溶媒の均質な混合液のpHが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等のアルカリの添加により、好ましくは5~9の範囲に調整され、リチウム含有有機相と、抽出残液としてナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が得られる。リチウム抽出用有機溶媒として、例えばリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)が挙げられる。当該リチウム含有有機相に対し鉱酸によるスクラビングが実施され、第1のリチウム塩水溶液が回収される。当該第1のリチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られた第1のリチウム塩水溶液と同様に好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)に付され、更に炭酸化工程(STEP 6a)に付される。当該炭酸化工程で生成するナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が、前記されるように塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解している水溶液となる場合、当該水溶液は、後述する濃縮工程で(STEP 9)で濃縮されてよい。また、前記第1のリチウム塩水溶液は、前記リン酸リチウム法で得られたリチウム塩水溶液と同様に好ましくは後述するpH調整工程(STEP 5)及び第1の濃縮工程(STEP E)に付され、後述する第1の電解工程(STEP 6b)に付されてもよい。
【0030】
リチウムが抽出により分離された塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等の、ナトリウム塩及びカリウム塩の少なくとも1つが溶解している前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解する、後述する第2の電解工程(STEP 7)が実施される。当該ナトリウム及びカリウムの少なくとも1つの塩水溶液は、好ましくは逆浸透膜(RO膜)等を用いて後述する濃縮工程で(STEP 9)で濃縮される。
【0031】
本発明の回収方法は、前記分離工程で得られる前記第1のリチウム塩水溶液に水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1つを添加し、前記第1のリチウム塩水溶液のpHを調整するpH調整工程(STEP 5)を含んでいてよい。前記第1のリチウム塩水溶液のpHは、好ましくは8~14、より好ましくは10~11に調整される。
【0032】
[リチウムの回収]
<第1のリチウム塩水溶液の炭酸化>
本発明の回収方法は、リチウム回収工程として、例えば、前記分離工程で得られる前記第1のリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウムを得る炭酸化工程(STEP 6a)を含む。当該炭酸化工程では、後述する第2の電解工程で得られた水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解している水溶液4に二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素吸収工程(STEP 8)で得られる、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等の炭酸アルカリ金属塩(炭酸リチウムを除く)が、前記第1のリチウム塩水溶液へ添加されてよい。
【0033】
前記炭酸アルカリ金属塩のアルカリ金属はナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである。当該アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはナトリウムである。
【0034】
<第1の電解工程>
本発明の回収方法は、別のリチウム回収工程として、例えば、前記分離工程で得られ、必要に応じて前記pH調整工程(STEP 5)及び前記第1の濃縮工程(STEP E)の少なくとも1つに付された前記第1のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し水酸化リチウム水溶液を得る第1の電解工程(STEP 6b)を含む。
【0035】
当該第1の電解工程を、例えば図5に示す電解槽11を用いて行うことができる。
電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0036】
電解槽11では、陽極室17に塩化リチウムが溶解している前記リチウム塩水溶液を供給して電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で塩素ガス(Cl)を生成する。一方、リチウムイオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。
【0037】
陰極室18では水(HO)が水酸化物イオン(OH)と水素イオン(H)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H)を生成する一方、水酸化物イオンと、リチウムイオンから、水酸化リチウム水溶液を生成する。
【0038】
前記電解に要する電力として、例えば再生可能エネルギー、好ましくは太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つが使用される。
【0039】
前記第1の電解工程で生成した水素ガス(H)と塩素ガス(Cl)を反応させ、塩酸を得ることができる。図5には示されていないが、前記塩化リチウム水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記塩化リチウム水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記第1の電解工程で鉱酸5を得ることができ、当該鉱酸5はSTEP 1の活物質粉1の溶解、及びSTEP CのpH調整の少なくとも1つに用いてよい。
【0040】
(水酸化リチウム一水和物の分離)
本発明の回収方法は、前記第1の電解工程で得られた前記水酸化リチウム水溶液を蒸発濃縮して水酸化リチウム一水和物3を晶析する晶析工程(STEP F)を含んでいてよい。
【0041】
(炭酸リチウムの分離)
本発明の回収方法は、二酸化炭素を前記第1の電解工程で得られた前記水酸化リチウム水溶液に吹き込み、炭酸リチウム6を生成させる炭酸化工程(STEP G)を含んでいてもよい。当該炭酸化工程で得られるスラリーをろ過等により固液分離して得られる塩化リチウム等の、前記第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩が溶解している水溶液は、前記第1の濃縮工程(STEP E)で濃縮されてよい。なお、図2及び4には、前記第2のリチウム塩水溶液に溶解しているリチウム塩が塩化リチウムである場合が示されている。
【0042】
<第2の電解工程>
本発明の回収方法は、前記分離工程から得られる、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ等が溶解している、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液を、イオン交換膜を用いて電解し、アルカリ金属水酸化物水溶液4を得る第2の電解工程(STEP 7)を含む。当該第2の電解工程を、例えば図6に示す電解槽21を用いて行うことができる。
【0043】
電解槽21は、一方の内側面に陽極板22を備え、陽極板22と対向する内側面に陰極板23を備え、陽極板22は電源の陽極24に接続され、陰極板23は電源の陰極25に接続されている。また、電解槽21は、イオン交換膜26により、陽極板22を備える陽極室27と、陰極板23を備える陰極室28とに区画されている。
【0044】
電解槽21では、陽極室27に前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液を供給して電解を行うと、塩化物イオンが陽極板22上で塩素ガス(Cl)を生成する。一方、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属イオンは、イオン交換膜26を介して陰極室28に移動する。
【0045】
陰極室28では水(HO)が水酸化物イオン(OH)と水素イオン(H)とに電離し、水素イオンが陰極板23上で水素ガス(H)を生成する一方、水酸化物イオンと、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1つから、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解しているアルカリ金属水酸化物水溶液4を生成する。
【0046】
前記電解に要する電力として、例えば再生可能エネルギー、好ましくは太陽光発電及び風力発電の少なくとも1つが使用される。
【0047】
前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が塩化物イオンを含む場合、前記第2の電解工程で生成した水素ガス(H)と塩素ガス(Cl)を反応させ、塩酸を得ることができる。前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室27で硫酸を得ることができる。前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室27で硝酸を得ることができる。すなわち、前記第2の電解工程で鉱酸5を得ることができ、当該鉱酸5はSTEP 1の活物質粉1の溶解、及びSTEP CのpH調整からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いる。
【0048】
本発明の回収方法は、前記第2の電解工程により得られた、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが溶解しているアルカリ金属水酸化物水溶液4に二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素吸収工程(STEP 8)を含んでいてよい。当該二酸化炭素吸収工程で生成する炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの炭酸アルカリ金属6は前記炭酸化工程(STEP 6a)で使用されてよい。
【0049】
前記第2の電解工程で生成する前記アルカリ金属水酸化物水溶液4は、前記アルカリ金属水酸化物添加工程、前記抽出工程、前記リン酸リチウム法による分離工程、及び前記溶媒抽出法による分離工程からなる群から選ばれる少なくとも1つの工程で再利用されてよい。
【0050】
前記第2の電解工程では、前記ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が電解される結果、該ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液より希薄な、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液が生成する。そこで、本発明の回収方法は、前記希薄なナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液を濃縮し、前記分離工程で得られるナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの塩水溶液に添加する濃縮工程(STEP 9)を含んでいてよい。当該濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
実施例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<リチウム及びナトリウム混合塩水溶液中の金属の含有量、炭酸リチウム中の不純物の含有量>
PerkinElmer社製Optima8300を使用し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によりリチウム及びナトリウム混合塩水溶液中の金属の含有量、炭酸リチウム中の不純物の含有量を測定した。
【0053】
実施例1
電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池を放電処理し、残留している電荷を全て放電させた。次いで当該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)した後、ハンマーミルで粉砕し、当該廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けし、活物質粉を得た。当該活物質粉500gを6mol/Lの塩酸3Lに溶解し、得られた溶液に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2.8Lを添加して、当該溶液を中和した。中和した溶液5.8Lと抽出剤としてビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Cyanex272、希釈剤はケロシン)5.8Lを混合し、コバルトを溶媒抽出した。5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液に添加し、pHを4に調整して、コバルト含有有機相と第1の抽出残液を得た。コバルト含有有機相は、薄硫酸でスクラビングした後、1.5mol/Lの硫酸で逆抽出し、硫酸コバルト溶液を得た。当該コバルト抽出工程で使用された有機溶媒と同一の有機溶媒を使用して、第1の抽出残液からニッケルを抽出し、抽出残液としてリチウム及びナトリウム混合塩水溶液を得た。3.5g/Lのリチウム及び38.2g/Lのナトリウムが当該水溶液に含まれていた。
【0054】
187gのリン酸アルミニウムを8.3Lの前記水溶液に添加し、次いで水酸化ナトリウムを添加して前記水溶液のpHを10.5に調整し、2時間反応を行って白色スラリーAを得た。次に当該白色スラリーAを濾過し、洗浄して含水率55%の白色ケーキA614gを得た。当該白色ケーキAを300mLの純水に懸濁させ、35質量%の塩酸を添加して、懸濁液のpHを2.5に調整し、当該懸濁液を60℃に加熱して6時間反応を行い、白色スラリーBを得た。当該白色スラリーBを濾過し、洗浄して含水率60%の白色ケーキB467gと、合計で1060mLのろ液及び洗浄水を得た。前記1060mLのろ液及び洗浄水に水酸化ナトリウムを添加しpHを7に調整してろ過したろ液に、35質量%の炭酸ナトリウム水溶液680gを添加し60℃に加熱し1時間反応を行った。得られた固形分を濾過し、洗浄して含水炭酸リチウムを得た。当該含水炭酸リチウムを500℃で4時間乾燥し、129gの炭酸リチウムを得た。リチウムの回収率は83.5%であった。当該炭酸リチウム中のナトリウムの含有量は200ppm未満、アルミニウムの含有量は10ppm未満、リンの含有量は10ppm未満、水の含有量は0.1質量%未満であった。
【0055】
前記白色スラリーAの濾過及び洗浄で得られたろ液及び洗浄水10.5L(塩化ナトリウム濃度は98g/L)を、前記RO膜を用いて濃縮し、得られた塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度は300g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm、電極面積1.75dm、通電時間4時間の条件下で電解し、21.2質量%の水酸化ナトリウム1.6kgを得た。さらに、生成した塩素ガスと水素ガスの反応物を水に吸収させ、30質量%の塩酸1.04kgも得た。
当該電解工程で生成した水酸化ナトリウムは、水酸化ナトリウム添加工程(STEP 2)、抽出工程(STEP 3)、及び分離工程(STEP 4)で再利用可能であった。さらに当該電解工程で合成された塩酸は溶解工程(STEP 1)で再利用可能であった。当該電解工程における電流効率は81.5%であった。
【0056】
実施例2
電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池を放電処理し、残留している電荷を全て放電させた。次いで当該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)した後、ハンマーミルで粉砕し、当該廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けし、活物質粉を得た。当該活物質粉500gを6mol/Lの塩酸3Lに溶解し、得られた溶液に2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2.8Lを添加して、当該溶液を中和した。中和した溶液5.8Lと抽出剤としてビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Cyanex272、希釈剤はケロシン)5.8Lを混合し、コバルトを溶媒抽出した。5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液に添加し、pHを4に調整して、コバルト含有有機相と第1の抽出残液を得た。コバルト含有有機相は、薄硫酸でスクラビングした後、1.5mol/Lの硫酸で逆抽出し、硫酸コバルト溶液を得た。当該コバルト抽出工程で使用された有機溶媒と同一の有機溶媒を使用して、第1の抽出残液からニッケルを抽出し、抽出残液としてリチウム及びナトリウム混合塩水溶液を得た。3.5g/Lのリチウム及び38.2g/Lのナトリウムが当該水溶液に含まれていた。
【0057】
187gのリン酸アルミニウムを8.3Lの前記水溶液に添加し、次いで水酸化ナトリウムを添加して前記水溶液のpHを10.5に調整し、2時間反応を行って白色スラリーAを得た。次に当該白色スラリーAを濾過し、洗浄して含水率55%の白色ケーキA614gを得た。当該白色ケーキAを300mLの純水に懸濁させ、35質量%の塩酸を添加して、懸濁液のpHを2.5に調整し、当該懸濁液を60℃に加熱して6時間反応を行い、白色スラリーBを得た。当該白色スラリーBを濾過し、洗浄して含水率60%の白色ケーキB467gと、合計で1060mLのろ液及び洗浄水を得た。前記1060mLのろ液及び洗浄水に水酸化リチウムを添加しpHを7に調整してろ過したろ液(ろ液1)1060mL(塩化リチウム濃度92g/L)を、前記RO膜を用いて濃縮し、得られた塩化リチウム水溶液(塩化リチウム濃度は200g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm、電極面積0.7dmの条件下で電解し(第1の電解工程)、6.2質量%の水酸化リチウム水溶液1100gを得た。さらに、生成した塩素ガスと水素ガスの反応物を水に吸収させ、30質量%の塩酸350gも得た。当該第1の電解工程におけるリチウムの回収率は70.3%であった。
【0058】
前記6.2質量%の水酸化リチウム水溶液380gを分取し、水溶液の80質量%を晶析して水酸化リチウム一水和物の結晶19.3g(乾燥後質量)を得た。当該水酸化リチウム一水和物中のナトリウム含有量は50ppm未満、アルミニウムの含有量は10ppm未満、リンの含有量は10ppm未満であった。
【0059】
前記白色スラリーAの濾過及び洗浄で得られたろ液及び洗浄水10.5L(塩化ナトリウム濃度は98g/L)を、前記RO膜を用いて濃縮し、得られた塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度は300g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm、電極面積1.75dm、通電時間4時間の条件下で電解し、21.2質量%の水酸化ナトリウム1.6kgを得た。さらに、生成した塩素ガスと水素ガスの反応物を水に吸収させ、30質量%の塩酸1.04kgも得た。
当該電解工程で生成した水酸化ナトリウムは、水酸化ナトリウム添加工程(STEP 2)、抽出工程(STEP 3)、及び分離工程(STEP 4)で再利用可能であった。さらに当該電解工程で合成された塩酸は溶解工程(STEP 1)で再利用可能であった。当該電解工程における電流効率は81.5%であった。
【0060】
本実施例では、使用される鉱酸及びアルカリが再生され、再利用できることが分かった。さらに廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する最終段階で得られる炭酸リチウムの純度、及びリチウムの回収率は非常に高いことも分かった。
【0061】
本発明の回収方法では、前記ナトリウム/カリウム塩水溶液のイオン交換膜を用いる第2の電解工程において直接水酸化ナトリウム/カリウムを得ることができる。該第2の電解工程で生成する鉱酸及びアルカリを本発明の回収方法に循環利用できるから、クローズドループリサイクルプロセスを実現できる。さらに、本発明の回収方法は、好ましくは鉱酸及びアルカリを循環利用するから、従来通り鉱酸及びアルカリを外部から購入した場合に比較して、鉱酸及びアルカリの物流工程で発生する二酸化炭素の排出量を低減できる。
【符号の説明】
【0062】
1…活物質粉、 2…金属硫酸塩水溶液、 3…炭酸リチウム、
4…水酸化ナトリウム水溶液、 5…鉱酸、 6…炭酸ナトリウム、
11、21…電解槽、12、22…陽極板、 13、23…陰極板、
14、24…陽極、 15、25…陰極、 16、26…イオン交換膜、
17、27…陽極室、 18、28…陰極室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6