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特許7607381気液熱交換器用部材、気液熱交換器、及び気液熱交換器用部材の製造方法
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  • 特許-気液熱交換器用部材、気液熱交換器、及び気液熱交換器用部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】気液熱交換器用部材、気液熱交換器、及び気液熱交換器用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 7/16 20060101AFI20241220BHJP
   F25B 9/00 20060101ALN20241220BHJP
【FI】
F28D7/16 A
F25B9/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024062759
(22)【出願日】2024-04-09
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518102425
【氏名又は名称】昭電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 和行
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-271031(JP,A)
【文献】特開昭55-046338(JP,A)
【文献】特開平05-340683(JP,A)
【文献】特開2017-076024(JP,A)
【文献】特開平11-058140(JP,A)
【文献】特開昭62-019689(JP,A)
【文献】特開2012-237295(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第116105532(CN,A)
【文献】特公昭63-060319(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D7/16
F25B9/00
F03G7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に導入された気体と内部に導入された液体との間で熱交換が行われる本体部を有し、
前記本体部の形状は、互いに略平行な一の底面及び他の底面を有する略柱体の形状であり、かつ、前記一の底面から前記他の底面までを直線的に連通する複数の孔が設けられた形状であり、
前記複数の孔は、前記気体が導入され、前記本体部の高さ方向に略平行に設けられ、かつ、前記高さ方向と略直交する所定の向きに沿った複数の列をなすよう設けられ、
前記孔の内面の形状は、前記孔の内部に気体が導入された場合に、当該気体の振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状であり、
前記本体部は、前記液体が導入される複数のスリットが設けられた形状であり、
前記スリットは、前記本体部における前記列の一端の側から、前記本体部における前記列の他端の側に向けて、前記孔と交わらないよう、前記複数の列の間に直線的に設けられる、
熱音響の自励振動を用いた熱輸送用の気液熱交換器用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の気液熱交換器用部材と、
前記気液熱交換器用部材を収容する中空のシェルと、
を備える、
熱音響の自励振動を用いた熱輸送用の気液熱交換器。
【請求項3】
互いに略平行な一の底面及び他の底面を有する略柱体の形状である本体部用材料に、前記一の底面から前記他の底面までを直線的に連通する複数の孔と、前記孔と交わらないスリットとを開ける開口工程と、
前記孔の内面を滑らかにする平滑化工程と、
を含み、
前記開口工程において、
前記複数の孔は、前記本体部の高さ方向に略平行に開けられ、かつ、前記高さ方向と略直交する所定の向きに沿った複数の列をなすよう開けられ、
前記スリットは、前記本体部における前記列の一端の側から、前記本体部における前記列の他端の側に向けて、前記孔と交わらないよう、前記複数の列の間に直線的に開けられる、
熱音響の自励振動を用いた熱輸送用の気液熱交換器用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液熱交換器用部材、気液熱交換器、及び気液熱交換器用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の工業炉からの熱輸送における安全性、費用対効果等を改善すべく、管路内に配された蓄熱器を高温側熱交換器(第1熱交換器)及び低温側熱交換器(第2熱交換器)で挟み込む熱音響デバイスにおいて、高温側熱交換器を、土台部と一体に構成された棒状の受熱部を有するピン式熱交換器として構成する技術(特許文献1)が提案されている。特許文献1に記載の技術は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許7270144号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1は、高温側熱交換器を、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適したピン式熱交換器とすることを開示するものの、低温側熱交換器については、「シェルアンドチューブ式気液熱交換器であることが好ましい」と従来技術の利用を示すにとどまる。よって、特許文献1は、熱音響デバイスの低温側熱交換器を、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した構成とする点においてさらなる向上の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、気液熱交換器の本体部を柱状とし、本体部を高さ方向に連通して複数の列をなす孔と、これらの列の間において孔と交わらないように本体部を連通するスリットとをこの本体部に設けて孔内部に導入される気体とスリット内部に導入される液体との間で熱交換が行われるようにし、これらの孔の内面を滑らかにすること等によって、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
本発明の第1の特徴に係る発明は、内部に導入された気体と内部に導入された液体との間で熱交換が行われる本体部を有し、前記本体部の形状は、互いに略平行な一の底面及び他の底面を有する略柱体の形状であり、かつ、前記一の底面から前記他の底面までを直線的に連通する複数の孔が設けられた形状であり、前記複数の孔は、前記気体が導入され、前記本体部の高さ方向に略平行に設けられ、かつ、前記高さ方向と略直交する所定の向きに沿った複数の列をなすよう設けられ、前記孔の内面の形状は、前記孔内部に気体が導入された場合に、当該気体の振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状であり、前記本体部は、前記液体が導入される複数のスリットが設けられた形状であり、前記スリットは、前記本体部における前記列の一端の側から、前記本体部における前記列の他端の側に向けて、前記孔と交わらないよう、前記複数の列の間に直線的に設けられる、気液熱交換器用部材を提供する。
【0008】
従来技術の気液熱交換器では、気体側流路内に乱流が形成されるようにして、気体の熱交換を促進する。一方、自励振動等によってもたらされた作動流体中の振動流がもたらす熱音響現象を利用するデバイスである熱音響デバイス用の熱交換器では、熱音響デバイスにおける振動流の生成・利用の効率向上のため、作動流体中の振動流が阻害されないことが重視される。そのため、熱音響デバイス用の熱交換器では、作動流体である気体中に乱流が形成されない構成が望まれる。
【0009】
当該発明は、略柱体の形状である本体部の一の底面から他の底面までを直線的に連通するよう、気体が導入される複数の孔が設けられている。これにより、当該発明の気液熱交換器用部材は、熱音響デバイスの軸方向と本体部の底面それぞれとが略垂直になるよう、熱音響デバイスの管内に配することができる。これにより、当該発明は、軸方向に沿った振動流の底面それぞれにおける位相が不均一となり、乱流を形成して振動流を阻害することを防ぐ。また、当該発明は、複数の孔の内面が内部に導入される気体の振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状であることによっても、気体側流路である孔内における乱流の形成を防ぐ。
【0010】
当該発明は、気体側流路である孔内に乱流が形成されないことによる熱交換効率の低下を、振動流に係るドリームパイプ効果によって補う。ドリームパイプ効果は、流路に沿った方向の振動によって、流路内部の作動流体の実効熱伝導率が作動流体本来の熱伝導率より高くなる効果である。これにより、当該発明は、熱音響デバイスでの利用のために従来技術の熱交換器と全く逆の乱流形成を避ける構成であるにもかかわらず、効果的な熱交換を実現する。
【0011】
ところで、ドリームパイプ効果を効果的に発揮させるためには、流路が自励振動の周波数に応じた細さであることが求められる。当該発明は、複数の孔がなす列の間にスリットを設けて液体が導入される流路とする特有の構成により、気体が導入される孔が細い場合であっても、液体側流路を設けることを容易としている。
【0012】
以上より、当該発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【0013】
本発明の第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記複数の孔は、ワイヤ放電加工により滑らかにされた内面を有する、気液熱交換器用部材を提供する。
【0014】
効果的にドリームパイプ効果による熱交換が行われるべく、気体が導入される孔を細くした場合、孔の内面を滑らかな柱状に加工することは、難しい。当該発明は、ワイヤ放電加工により、気体が導入される孔が細い場合であっても、孔の内面を滑らかな柱状に加工することを可能とする。これにより、当該発明は、ドリームパイプ効果を効果的に発揮させる細い孔の内面を滑らかな柱状とし、気体の振動を実質的に阻害しないことと、効果的にドリームパイプ効果による熱交換が行われることとの両立を実現する。
【0015】
以上より、当該発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【0016】
本発明の第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記複数のスリットは、ワイヤ放電加工により滑らかにされた内面を有する、気液熱交換器用部材を提供する。
【0017】
熱音響デバイス用の低温側熱交換器では、振動流を阻害しないよう、作動流体側流路の開口率が高いことが求められる。加えて、熱音響デバイス用の低温側熱交換器の作動流体側流路では、ドリームパイプ効果を効果的に発揮させるために、細い孔が求められる。これらの条件を満たすように孔の列を構成すると、スリットの幅が小さくなる。一方、熱音響デバイス用の低温側熱交換器では、蓄熱器両側の温度比を安定させるために、液体側流路の圧損を抑えて、冷却用の液体の温度を安定させることが求められる。
【0018】
当該発明は、ワイヤ放電加工により、液体が導入されるスリットの内面を滑らかにする。これにより、当該発明は、両底面の開口率及びドリームパイプ効果を鑑みた構成によってスリットが細い場合であっても、液体側流路の圧損を抑えて、冷却用の液体の温度を安定させることができる。
【0019】
以上より、当該発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【0020】
本発明の第4の特徴に係る発明は、第1の特徴から第3の特徴までのいずれかに記載の気液熱交換器用部材と、前記気液熱交換器用部材を収容する中空のシェルと、を備え、前記シェルは、前記本体部の前記一の底面及び前記他の底面の両方において前記複数の孔の少なくとも一部を塞がず、かつ、前記本体部の前記一端の側及び前記他端の側の両方において前記スリットの少なくとも一部を塞がないよう、前記気液熱交換器用部材を収容し、前記シェルは、前記所定の向きに沿って前記シェルの内外を連通する複数の開口部を有し、前記複数の開口部の少なくとも一部は、前記気液熱交換器用部材の中心から見て前記一端の側と同じ側に設けられ、前記複数の開口部の少なくとも一部は、前記気液熱交換器用部材の中心から見て前記他端の側と同じ側に設けられる、気液熱交換器を提供する。
【0021】
当該発明は、開口部が設けられる向きの工夫により、冷却用の液体がシェル外部の一端の側からスリットを通過してシェル外部の他端の側まで通過するときの圧損を抑える。これにより、当該発明は、液体側流路の圧損を抑えて、冷却用の液体の温度を安定させることができる。
【0022】
以上より、当該発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【0023】
本発明の第5の特徴に係る発明は、互いに略平行な一の底面及び他の底面を有する略柱体の形状である本体部用材料に、前記一の底面から前記他の底面までを直線的に連通する複数の孔と、前記孔と交わらないスリットとを開ける開口工程と、前記孔の内面を滑らかにする平滑化工程と、を含み、前記開口工程において、前記複数の孔は、前記本体部の高さ方向に略平行に開けられ、かつ、前記高さ方向と略直交する所定の向きに沿った複数の列をなすよう開けられ、前記スリットは、前記本体部における前記列の一端の側から、前記本体部における前記列の他端の側に向けて、前記孔と交わらないよう、前記複数の列の間に直線的に開けられる、気液熱交換器用部材の製造方法。
【0024】
当該発明は、開口工程によって開けられた下孔の内部をワイヤ放電加工等によって滑らかにする手順により、複数の孔がドリームパイプ効果を効果的に発揮させるべく細い孔として構成される場合であっても、第1から第3の特徴に係る気液熱交換器用部材の提供を可能とする。
【0025】
以上より、当該発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
以上より、本発明は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態の気液熱交換器Eの等角投影図である。
図2図2は、図1の気液熱交換器用部材1の等角投影図である。
図3図3は、図2の気液熱交換器用部材1の上面図である。
図4図4は、図2の気液熱交換器用部材1の正面図である。
図5図5は、図2の気液熱交換器用部材1の右側面図である。
図6図6は、図1の気液熱交換器Eの正面図である。
図7図7は、本実施形態に係る気液熱交換器Eの製造方法の好ましい流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、本実施形態の気液熱交換器Eが取り付けられた熱音響デバイスTの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下は、本発明を実施するための好適な形態の一例について、図を参照しながら説明するものである。なお、これはあくまでも一例である。本発明の技術的範囲は、これに限られるものではない。
【0029】
図1は、本実施形態の気液熱交換器Eの等角投影図である。以下は、図1を用いた、本実施形態の気液熱交換器Eの好ましい態様の一例である。
【0030】
〔気液熱交換器E〕
気液熱交換器Eは、気液熱交換器用部材1及びシェル2を備える。シェル2は、後述する気液熱交換器用部材1の本体部11の両底面において複数の孔113の少なくとも一部を塞がないよう気液熱交換器用部材1を収容する。
【0031】
[気液熱交換器用部材1]
図2は、図1の気液熱交換器用部材1の等角投影図である。図3は、図2の気液熱交換器用部材1の上面図である。図4は、図2の気液熱交換器用部材1の正面図である。図5は、図2の気液熱交換器用部材1の右側面図である。以下は、図2から図5までを用いた、本実施形態の気液熱交換器用部材1の好ましい態様の一例である。
【0032】
(本体部11)
本体部11は、内部に導入された気体Gと内部に導入された液体(図示せず)との間で熱交換が行われる部材である。本体部11の形状は、互いに略平行な一の底面(例えば、第1底面111)及び他の底面(例えば、第2底面112)を有する略柱体の形状であり、かつ、第1底面111から第2底面112までを直線的に連通する複数の孔113が設けられた形状である。
【0033】
複数の孔113は、気体Gが導入され、本体部11の高さ方向(例えば、第1方向D1)に略平行に設けられ、かつ、第1方向D1と略直交する所定の向き(例えば、第2方向D2)に沿った複数の列をなすよう設けられる。孔113の内面の形状は、孔113内部に気体Gが導入された場合に、当該気体Gの振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状である。
【0034】
上述の列の間隔は、特に限定されない。熱音響デバイスに取り付けられた場合に振動流を阻害しない高い開口率を実現すべく、上述の列の間隔d[m]は、r/5以上、2r以下の範囲に含まれることが好ましい。ただし、r[m]は孔113の半径である。高い開口率を実現すべく、列内における孔113の間隔g[m]は、r/10以上、r以下の範囲に含まれることが好ましい。
【0035】
気体Gと本体部11との接触面積を増やし、かつ、ドリームパイプ効果を好適に発揮させるべく、孔113の半径r[m]は、振動流を有する気体G中において、(260k/(ωρc))1/2の近傍である(100k/(ωρc))1/2以上、(720k/(ωρc))1/2以下の範囲に含まれることが好ましい。ただし、ω[s-1]は気体Gの振動における角周波数、k[W/K・m]は気体Gの熱伝導率、ρ[kg/m]は気体Gの密度、c[J/kg・K]は気体Gの比熱容量である。
【0036】
例えば、気体Gが0.7MPaまで加圧された乾燥空気であり、気体Gの振動における角周波数ωが全長1.74[m]の熱音響デバイス内部での自励振動に相当する660[s-1]である場合、半径r[m]は、9.3×10-4[m]以上、2.5×10-3[m]以下の範囲に含まれることが好ましい。すなわち、この条件下における孔113の直径は、概ねφ2からφ5の範囲に含まれることが好ましい。また、このときの最も好適な半径r[m]は、約1.5×10-3[m]であり、約φ3に相当する。このように孔113が細い場合、孔113の内面を滑らかな柱状に加工することは、難しい。
【0037】
そこで、複数の孔113は、ワイヤ放電加工により滑らかにされた内面を有することが好ましい。ワイヤ放電加工は、孔113が細い場合であっても、孔113の内面を滑らかな柱状に加工することを可能とする。これにより、孔113において、ドリームパイプ効果を効果的に発揮させる細い孔であることと、気体Gの振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状の内面を有することとが両立される。
【0038】
孔113における内面の表面粗さは、JIS B 0601:2013に係る算術平均粗さRaにおいて、0.1以上、10以下の範囲に含まれることが好ましい。これにより、孔113は、気体Gの振動を実質的に阻害しない滑らかな柱状の内面となる。
【0039】
本体部11は、上述の液体が導入される複数のスリット118が設けられた形状である。スリット118は、本体部11における上述の列(孔113が成す列)の一端の側(例えば、第1側面114)から、本体部11における上で述べた列の他端の側(例えば、第2側面115)に向けて、孔113と交わらないよう、上で述べた複数の列の間に直線的に設けられる。これにより、スリット118は、本体部11を介して気体Gと熱交換を行う。導入される液体における圧損を抑えるべく、スリット118は、滑らかな内面を有することが好ましい。
【0040】
スリット118の高さは、特に限定されない。両底面周辺の構造的強度とスリット内部に導入される液体に対する圧損の低減とを両立すべく、スリット118の高さは、例えば、本体部11の高さに対して50%以上96%以下の範囲に含まれることが好ましい。スリット118の幅w[m]は、特に限定されない。スリット内部に導入される液体に対する圧損を低減すべく、幅w[m]は、dの50%以上、dの96%以下であることが好ましい。
【0041】
例えば、半径r[m]が上述の4.4×10-4[m]であり、列の間隔d[m]が1×10-3[m]である場合、好適なスリット118の幅w[m]は、5×10-4[m]以上、9.6×10-4[m]以上の範囲となる。このようにスリット118が細い場合、スリット118の内面を滑らかに加工することは、難しい。
【0042】
そこで、スリット118は、ワイヤ放電加工により滑らかにされた内面を有することが好ましい。ワイヤ放電加工は、スリット118が細い場合であっても、スリット118の内面を滑らかな柱状に加工することを可能とする。これにより、スリット118において、高い開口率を達成するために細いことと、圧損が小さい滑らかな内面を有することとが両立される。
【0043】
スリット118における内面の表面粗さは、JIS B 0601:2013に係る算術平均粗さRaにおいて、0.1以上、10以下の範囲に含まれることが好ましい。これにより、スリット118は、圧損が小さい滑らかな内面となる。また、同様の理由により、スリット118における内面の表面粗さは、JIS B 0601:2013に係る最大高さ粗さRyにおいて、0.1以上、20以下の範囲に含まれることが好ましい。
【0044】
[シェル2]
図1は、本実施形態の気液熱交換器Eの等角投影図である。図6は、図1の気液熱交換器Eの正面図である。以下は、図1及び図6を用いた、シェル2の好ましい態様の一例である。
【0045】
シェル2は、気液熱交換器用部材1を収容する中空の部材である。シェル2は、少なくとも、胴部21を有する。シェル2は、熱音響デバイスT等への取付けを容易にすべく、フランジ22をさらに有することが好ましい。シェル2は、気液熱交換器用部材1の本体部11の一の底面(例えば、第1底面111)及び他の底面(例えば、第2底面112)の両方において複数の孔113の少なくとも一部を塞がずに気液熱交換器用部材1を収容するよう構成される。
【0046】
シェル2は、スリット118が設けられた本体部11における上で述べた列の一端の側(例えば、第1側面114の側)及び上で述べた列における他端の側(例えば、第2側面115の側)の両方においてスリット118の少なくとも一部を塞がないよう構成される。
【0047】
図1及び図6に示す例では、第1側面114の側にシェル2の内外を連通する一対の第1開口部211を設け、さらに、第2側面115の側にシェル2の内外を連通する一対の別の開口部(図示せず)を設け、シェル2の中空部分の内面と気液熱交換器用部材1との間に空隙が設けられていることにより、スリット118の少なくとも一部を塞がない構成を実現している。すなわち、シェル2において、複数の開口部の少なくとも一部は、収容される気液熱交換器用部材1の中心から見て上述の列の一端の側(例えば、第1側面114の側)と同じ側に設けられ、複数の開口部の少なくとも一部は、気液熱交換器用部材1の中心から見て上述の列における他端の側(例えば、第2側面115の側)と同じ側に設けられる。
【0048】
液体の流量を確保すべく、シェル2は、第2開口部212、第3開口部213、第4開口部214等によって例示される、別の開口部を有してもよい。開口部の数及び大きさは、特に限定されない。
【0049】
気液熱交換器用部材1の収容を容易にすべく、シェル2の胴部21は、分割可能な一対の部材として構成されることが好ましい。このとき、一対の部材は、第1方向D1に略垂直な平面で分割可能に構成されることが好ましい。これにより、第1方向D1に沿った向きの力を加え、分割面からの液体漏出を防ぐことができる。ボルト等によって第1方向D1に沿った向きの力を加えることを容易にすべく、フランジ22は、ボルト孔221を有することが好ましい。液体漏出を防ぐべく、フランジ22は、胴部21と一体に構成されることが好ましい。
【0050】
<気液熱交換器Eの製造方法>
図7は、本実施形態に係る気液熱交換器Eの製造方法の好ましい流れの一例を示すフローチャートである。以下は、図7を用いた、本実施形態に係る気液熱交換器Eの製造方法の好ましい流れの一例の説明である。
【0051】
気液熱交換器Eの製造方法は、シェル準備工程、気液熱交換器用部材製造工程、及び収容工程を含むことが好ましい。収容工程は、シェル準備工程及び気液熱交換器用部材製造工程の後に行われる。
【0052】
〔シェル準備工程〕
シェル準備工程は、シェル2を準備する工程である。シェル準備工程は、特に限定されず、従来技術の中空シェルを準備する各種工程でよい。フランジ22を設ける手順は、特に限定されず、従来技術の手順でよい。第1開口部211その他の開口部を設ける手順は、特に限定されず、従来技術の手順でよい。ボルト孔221を設ける手順は、特に限定されず、従来技術の手順でよい。
【0053】
〔気液熱交換器用部材製造工程〕
気液熱交換器用部材製造工程は、開口工程及び平滑化工程を含むことが好ましい。平滑化工程は、開口工程の後に行われる。
【0054】
[開口工程]
開口工程は、互いに略平行な一の底面(例えば、第1底面111)及び他の底面(例えば、第2底面112)を有する略柱体の形状である本体部用材料に、一の底面から他の底面までを直線的に連通する複数の孔113と、孔113と交わらないスリット118とを開ける工程である。強度及び液体が孔113内部へ漏れることを防ぐ観点から、本体部用材料は、均質な塊から切削加工等によって製造されたものであることが好ましい。
【0055】
本体部用材料の材質は、特に限定されず、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮等によって例示される各種の金属、グラファイトカーボン等で良い。本体部用材料の材質は、アルミニウム、銅、真鍮等によって例示される熱伝導率が比較的高い材質であることが好ましい。当該材質がグラファイトカーボン等の熱伝導異方性材料である場合、熱伝導率が低い向きが一の底面から他の底面まで向かう向きと略一致することが好ましい。
【0056】
開口工程において、複数の孔113は、気体Gが導入され、本体部11の高さ方向(例えば、第1方向D1)に略平行に開けられ、かつ、この高さ方向と略直交する所定の向き(例えば、第2方向D2)に沿った複数の列をなすよう開けられる。ここで言う「高さ方向」は、略柱体の高さ方向、すなわち、一の底面から他の底面まで向かう方向に平行な方向を指す。孔113を開ける手順は、特に限定されず、従来技術の手順でよい。
【0057】
また、開口工程において、スリット118は、本体部11における上で述べた列の一端の側(例えば、第1側面114の側)から、本体部11における上で述べた列の他端の側(例えば、第2側面115の側)に向けて、孔113と交わらないよう、上で述べた複数の列の間に直線的に開けられる。スリット118を開ける手順は、特に限定されず、従来技術の手順でよい。
【0058】
[平滑化工程]
平滑化工程は、孔113の内面を滑らかにする工程である。孔113の内面を滑らかにする手順は、ワイヤ放電加工を用いた手順を含むことが好ましい。当該手順は、例えば、開口工程で開けられた孔113の内部に第1方向D1に沿ったワイヤを通し、放電によって孔113の内面を滑らかにするよう行われる。
【0059】
平滑化工程は、スリット118の内面を滑らかにする手順を含むことが好ましい。スリット118の内面を滑らかにする手順は、ワイヤ放電加工を用いた手順を含むことが好ましい。当該手順は、例えば、開口工程で開けられたスリット118の内部に第2方向D2に沿ったワイヤを通し、放電によってスリット118の内面を滑らかにするよう行われる。
【0060】
本実施形態の気液熱交換器用部材1の製造方法は、開口工程によって開けられた下孔である孔113の内部をワイヤ放電加工等によって滑らかにする手順により、複数の孔113がドリームパイプ効果を効果的に発揮させるべく細く構成される場合であっても、本実施形態の気液熱交換器用部材1の提供を可能とする。
【0061】
〔収容工程〕
収容工程は、シェル準備工程で準備されたシェル2の内部に開口工程及び平滑化工程を経て準備された気液熱交換器用部材1を収容する工程である。収容工程は、シェル2が本体部11の一の底面(例えば、第1底面111)及び他の底面(例えば、第2底面112)の両方において複数の孔113の少なくとも一部を塞がず、かつ、本体部11における上で述べた列における一端の側(例えば、第1側面114の側)及び上で述べた列における他端の側(例えば、第2側面115の側)の両方においてスリット118の少なくとも一部を塞がないよう行われる。
【0062】
収容工程は、分割可能な一対に構成されたシェル2の内部に気液熱交換器用部材1を収容した後に、当該一対の間で対向するボルト孔221にボルト等を通して締め付ける手順を含むことが好ましい。これにより、ボルトが第1方向D1に沿った向きの力を加え、分割面からの液体漏出を防ぐことができる。
【0063】
[本実施形態の効果についての補足]
一般用途の熱交換器であれば、伝熱面積を増やす等の目的のため、プレートの断面から断面までを連通する細孔が当該断面の長手方向に沿って並べられた複数のプレートを用意し、冷却用媒体を通すプレートと被冷却媒体を通すプレートとにこれらプレートを分け、冷却用媒体を通すプレートと被冷却媒体を通すプレートとを交互に重ねて構成された並行流マイクロチャンネル熱交換器を用いる選択もあり得る。
【0064】
一方、熱音響デバイス等の振動流の生成・利用を目的とするデバイスにおいて当該振動流が生じている作動流体を冷却する場合に、上述のように構成された並行流マイクロチャンネル熱交換器を用いると、作動流体に対する開口率が低くなる。これは、被冷却媒体を通すプレートが断面に占める割合が当該断面の約半分に過ぎず、しかも、このプレートのうち細孔が設けられた一部だけが作動流体を通すためである。そのため、上述のように構成された並行流マイクロチャンネル熱交換器は、その低い開口率により、当該デバイスにおける振動流を妨げてしまう。
【0065】
加えて、並行流マイクロチャンネル熱交換器では、冷却用媒体が細孔を通過するため、冷却用媒体に係る圧損が大きくなることが懸念される。当該デバイスが省エネルギー性向上を目的としている場合、大きな圧損に対応したポンプ等で多くのエネルギーを消費して冷却用媒体を送り出すことは、その目的に反する。さらに、上述のように構成された並行流マイクロチャンネル熱交換器は、振動流がもたらす振動によりプレート間の接合が劣化することが懸念される。
【0066】
本実施形態の製造方法は、上述の通り、略柱体の形状である本体部用材料に下孔及びスリットを開け、この下孔等の内面をワイヤ放電加工により滑らかにする手順により、振動する気体Gが導入される孔113と、冷却用の液体が導入されるスリット118とを、略直交するよう設ける。
【0067】
これにより、本実施形態の気液熱交換器用部材1は、作動流体である振動する気体Gに対する開口率を高くすることを可能とする。また、本実施形態の気液熱交換器用部材1は、冷却用液体が導入される部分がプレート内部に設けられた細孔ではなくスリット118であるため、冷却用液体に係る圧損を低くできる。加えて、本実施形態の気液熱交換器用部材1は、プレートを接合する手順を含まない製造方法で製造されるため、気体中の振動流により、プレート間の接合が劣化することによる破損を免れる。
【0068】
以上より、本実施形態の気液熱交換器用部材1及びその製造方法は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器Eを提供できる。
【0069】
<熱音響デバイスTへの適用>
図8は、本実施形態の気液熱交換器Eが取り付けられた熱音響デバイスTの概略図である。以下は、図8を用いた、本実施形態の気液熱交換器Eの熱音響デバイスTへの適用の説明である。
【0070】
気液熱交換器Eは、熱音響デバイスTの低温側熱交換器として利用可能である。熱音響デバイスTは、気体Gが封入された管P内部に蓄熱器Sが配された熱輸送デバイスである。蓄熱器Sは、低温側熱交換器及び高温側熱交換器Hで挟まれている。これにより、蓄熱器Sの両端に温度差が生じ、熱音響現象の自励振動が気体G中に生成される。熱音響デバイスTは、この自励振動により、管Pの高温側端部PE1の側に配された高温側熱交換器Hから管Pの低温側端部PE2の側に配された低温側熱交換器に向けて熱を輸送する。
【0071】
気体Gは、例えば、乾燥空気、湿り空気、窒素ガス、二酸化炭素ガス等である。低温側熱交換器として本実施形態の気液熱交換器Eを取り付けることにより、熱音響デバイスTは、低温側熱交換器における乱流の形成が低減され、自励振動による振動流が好適に生成される。これにより、熱音響デバイスTは、他の低温側熱交換器を取り付けた場合より、熱輸送量が向上する。
【0072】
直管型の熱音響デバイスTに本実施形態の気液熱交換器Eを取り付ける場合、気液熱交換器Eは、蓄熱器Sと隣接していることが好ましい。ここで言う「隣接」は、蓄熱器Sにおける低温側端部PE2の側の端部から、気液熱交換器Eにおける高温側端部PE1の側の端部までの距離sが、r/5以上、4r以下の範囲に含まれることを指す。
【0073】
このとき、気液熱交換器Eにおける高温側端部PE1の側の端部から管P内部に設けられた管路の高温側端部PE1までの距離xの下限は、3/25L以上であることが好ましく、5/25L以上であることがよりいっそう好ましい。また、距離xの上限は、10/25L以下であることが好ましく、9/25L以下であることがよりいっそう好ましい。ただし、Lは、管P内部に設けられた管路の長さである。これにより、蓄熱器Sが自励振動を好適に生成できる位置に配された場合に、気液熱交換器Eは、上述の距離sが上述の範囲に含まれるように配置可能となる。
【0074】
〔気液熱交換器Eの適用対象〕
以上、本実施形態の気液熱交換器Eを熱音響デバイスTに取り付ける場合について述べたが、本実施形態の気液熱交換器Eの適用対象は、熱音響デバイスTに限定されない。本実施形態の気液熱交換器Eは、振動流を有する流体全般との熱交換において上述の好ましい効果を発揮することが期待される。このような条件を満たす適用対象として、例えば、熱音響エンジン、ドリームパイプ、熱音響冷凍機等が挙げられる。
【0075】
なお、本発明の思想のうちにおいて、当業者であれば各種の変更例及び修正例に想到し得るものである。よって、それら変更例及び修正例は、本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
T 熱音響デバイス
S 蓄熱器
P 管
PE1 高温側端部
PE2 低温側端部
H 高温側熱交換器
E 気液熱交換器
1 気液熱交換器用部材
11 本体部
111 第1底面
112 第2底面
113 孔
114 第1側面
115 第2側面
116 第3側面
117 第4側面
118 スリット
2 シェル
21 胴部
211 第1開口部
212 第2開口部
213 第3開口部
214 第4開口部
22 フランジ
221 ボルト孔
D1 第1向き
D2 第2向き
G 気体
【要約】
【課題】熱音響の自励振動を用いた熱輸送に適した気液熱交換器を提供すること。
【解決手段】本発明の気液熱交換器用部材1は、内部に導入された気体と内部に導入された液体との間で熱交換が行われる本体部11を有し、本体部11の形状は、互いに略平行な第1底面111及び第2底面112を有する略柱体の形状であり、両底面を直線的に連通する複数の孔113が設けられた形状であり、複数の孔113は、気体Gが導入され、本体部11の高さ方向(第1方向D1)に略平行に設けられ、かつ、第1方向と略直交する所定の向き(第2方向D2)に沿った複数の列をなすよう設けられ、本体部11は、液体が導入される複数のスリット118が設けられた形状であり、スリット118は、本体部11における上述の列の一端の側から、本体部11における上で述べた列の他端の側に向けて、孔113と交わらないよう、上で述べた複数の列の間に直線的に設けられる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8