(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】シンドビスウイルスベクター及び腫瘍関連抗原を用いる抗腫瘍免疫誘導法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20241220BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241220BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20241220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241220BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241220BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20241220BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241220BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76
A61K45/00
A61P15/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 107
A61P43/00 121
C12N7/01
C12N15/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019192694
(22)【出願日】2019-10-23
(62)【分割の表示】P 2016540432の分割
【原出願日】2014-09-05
【審査請求日】2019-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
(32)【優先日】2013-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511060836
【氏名又は名称】ニューヨーク・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・メルエロ
(72)【発明者】
【氏名】トマー・グラノット
(72)【発明者】
【氏名】ヨシヒデ・ヤマナシ
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532832(JP,A)
【文献】J. Immunol.,2004年,Vol.172,pp.1582-1587
【文献】PNAS,1997年,Vol.94,pp.1914-1918
【文献】Cancer Gene Therapy,2010年,Vol.17,pp.244-255
【文献】Journal of Virology,1992年,Vol.66, No.8,pp.4992-5001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/768, 39/00-39/39, 48/00
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMedPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍関連抗原(TAA)であるNY-ESO-1又は前記TAAと免疫学的に交差反応性であるTAAをコードするポリヌクレオチドを有するシンドビスウイルスベクターを含む非経口送達用に製剤化された免疫原性組成物であって、
前記非経口送達が、腹膜内送達又は静脈内送達から選択され、
前記シンドビスウイルスベクターが、対象に投与されたときに、リンパ節において抗腫瘍免疫応答を誘発し、エピトープ拡大を引き起こすために十分な量で存在し、
前記シンドビスウイルスベクターが、対象における腫瘍細胞を直接標的としない、
組成物。
【請求項2】
前記非経口送達が、腹膜内送達である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記非経口送達が、静脈内送達である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
誘発された前記抗腫瘍免疫応答が、前記腫瘍細胞に対するCD8
+T細胞媒介免疫応答である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記シンドビスウイルスベクターがリンパ節に感染し、その後T細胞活性化の誘導が起こる、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記シンドビスウイルスベクターが複製欠損型である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記シンドビスウイルスベクターが複製コンピテント型である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記対象がヒトである、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記腫瘍が固形腫瘍である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記シンドビスウイルスベクターが、NY-ESO-1をコードするポリヌクレオチド及びインターロイキン-12(IL-12)又はCCL17から選択される免疫刺激サイトカインをコードするポリヌクレオチドを有する二重発現シンドビスウイルスベクターである、請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
インターロイキン-1(IL-1)~インターロイキン-36(IL-36)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド1(CCL1)~ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド27(CCL27)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(CXCL1)~ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド13(CXCL13)及びケモカイン(C-X
3-Cモチーフ)(CX
3C)からなる群から選択されるサイトカインをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記固形腫瘍が卵巣腫瘍である、請求項
9に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
医薬として許容可能な賦形剤、ビヒクル又は希釈剤をさらに含む、請求項1
から3のいずれか一項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
対象において、抗腫瘍免疫応答を誘導するための、請求項1
3に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
腫瘍を処置するための、請求項1
4に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
前記腫瘍が卵巣腫瘍である、請求項1
4に記載の免疫原性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府は、国立癌研究所、国立衛生研究所、及び保健福祉省からの米国公衆衛生助成金CA100687から受領した資金により、本発明に対する特定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、腫瘍細胞を特異的に標的とし、且つ腫瘍細胞中で複製するウイルスである[1]。その選択性及び腫瘍溶解特性のために、OVは従来の癌治療の代替物又は付属物としてかなりの関心を集めてきた[2]。しかしながら、OV治療の大きな制約は、腫瘍部位での複製及び増殖が不十分なことである[3、4]。その上、安全性の理由で、健常な組織にまで広がることを防止し、更にその腫瘍溶解能を制限するために、多くのOVは複製不全となるように設計されている[5]。
【0003】
この問題の1つの考えられる解決策として、直接的なウイルス腫瘍溶解をバイスタンダー効果で補うことがあり、OVに直接感染していない腫瘍細胞も破壊されることとなる。これは、例えば、治療遺伝子又は細胞毒性遺伝子を、腫瘍部位への送達用OVゲノム中に挿入することによって達成され得る[6、7]。天然の免疫原性を有するので、一部のOVは免疫系を効果的に刺激することができ、これにより、免疫学的抗癌バイスタンダー効果を誘導するためにOVを用いる可能性が開ける[8]。この着想は、様々な臨床的に関連する、OVによって腫瘍部位に送達され得る腫瘍関連抗原(TAA)(OV/TAA)[12]の同定[9、10]及び最近の優先順位付け[11]により、更に勢いを得た。天然の状態において、TAAは多くの場合、十分に免疫原性でない[13]。しかしながら、抗ウイルス免疫応答をTAAに向け直すことによって、免疫原性OV/TAAが、この免疫寛容を打破する可能性がある。したがって、OV研究の主な目標として、安全且つ効果的なOV/TAA剤の開発があるべきである。プラス鎖の一本鎖RNAゲノムを有するアルファウイルス[14]であるシンドビスウイルス(SV)は、OVとして[15、16]、そしてウイルスワクチンとして[17]特別な潜在的可能性を示した、選ばれたウイルスの1つを代表する。複製不全SVベクターが、マウスにおける異種移植の、同系移植の、及び自然発生的な腫瘍を標的としてその増殖を阻害することが以前に示されている[16、18]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願第13/133,680号
【文献】米国特許第8,282,916号
【文献】米国特許第7,303,898号
【文献】米国特許第7,306,792号
【文献】米国特許第8,093,021号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ramakrishnanら、Journal of Clinical Investigation、120(11): 4141~4154頁、2010年
【文献】Cheeversら(Clin Cancer Res 15: 5323~5337頁、2009年)
【文献】http://www.pnas.org/content/94/5/1914.full、Yao-Tseng Chen*†‡、Matthew J. Scanlan†、Ugur Sahin§、Ozlem Tureci§、Ali O. Gure†、Solam Tsang†、Barbara Williamson†、Elisabeth Stockert†、Michael Pfreundschuh§、及びLloyd J. Old† PNAS 1997年
【文献】http://mcb.asm.org/content/7/9/3221.short Isolation and characterization of full-length functional cDNA clones for human carcinoembryonic antigen. N Beauchemin、S Benchimol、D Coumoyer、A Fuks及びC P Stanners、Molecular and Cellular Biology 1987年
【文献】http://www.jimmunol.org/content/146/9/3074.short Cloning of cDNA for natural killer cell stimulatory factor, a heterodimeric cytokine with multiple biologic effects on T and natural killer cells. S F Wolf、P A Temple、M Kobayashi、D Young、M Dicig、L Lowe、R Dzialo、L Fitz、C Ferenz及びR M Hewick the Journal of Immunology
【文献】http://www.jbc.org/content/271/35/21514.short Molecular Cloning of a Novel T Cell-directed CC Chemokine Expressed in Thymus by Signal Sequence Trap Using Epstein-Barr Virus Vector* Toshio Imai‡、Tetsuya Yoshida、Masataka Baba、Miyuki Nishimura、Mayumi Kakizaki及びOsamu Yoshie. The Journal of biological Chemistry
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、SVが、腫瘍保有マウスにおいてナチュラルキラー(NK)細胞及びマクロファージの活性化を誘導することも見出された[19]。また、インターロイキン12(IL-12)等の免疫調節遺伝子を発現するSVベクターは、増強された抗腫瘍[16]及び免疫賦活[19]効果を有する。それでもやはり、これらのアプローチは大体において、完全な腫瘍寛解に至らなかった[19]。その上、一部の腫瘍細胞は、SVによって効率的に標的とされ得ず[20]、SV抗癌治療を増強する新しい方法を開発する必要性が際立っている。
【0007】
以前に、SVベクターを効果的な腫瘍溶解剤及び遺伝子送達系にするSVベクターの固有の特徴(例えば、血流を介して伝播し[15]、且つ高レベルの異種タンパク質を送達する[21]能力)は、効率的なTAA送達にも有用であり得ると仮定された。その上、ベクターをより安全にする、DNA期の不存在によって特徴付けられるSVライフサイクルもまた、高レベルの二本鎖RNA(dsRNA)の産生、強力な免疫学的「危険シグナル」[22]及び以降のタイプIインターフェロン経路の活性化[23]に関わる。安全性、免疫原性、効率的な伝播、及び高いTAA発現の組合せにより、SV/TAAは魅力的なOV/TAA候補となる。したがって、当該技術において必要なことは、腫瘍を患う哺乳動物をSV/TAAを用いて処置することによって、上記の利益の全ての利点を生かす方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書中に開示されるように、BALB/c CT26大腸癌腫瘍モデルを用いて、OV/TAA剤としてのSVの使用について吟味した。試験された他の腫瘍モデルとは異なり、CT26細胞はSVによってin vivoで標的とされないことが見出された。それでもやはり、βガラクトシダーゼを運ぶSVベクター(SV/LacZ)は、LacZ発現CT26腫瘍を保有するマウスにおいて、注目に値する治療効果を有した。ルシフェラーゼ活性を感度良くin vivo検出するためにin vivoイメージング系(IVIS)[24]を用いることによって、縦隔リンパ節(MLN)が、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(SV/Fluc)を運ぶSVベクターの腹膜内(i.p)注射後の早期の一過性の異種タンパク質発現の部位として同定された。MLN中へのTAA送達が、LacZポジティブ及びネガティブ腫瘍細胞に対してロバストな細胞毒性を示すエフェクタ及びメモリーCD8+T細胞の生成に至る強力な免疫応答の出発点となった。この後者の現象は、エピトープ拡大として知られ、患者において効果的な癌免疫治療の重要な要素であると最近示唆された[25]。
【0009】
一態様において、本発明は、腫瘍を保有する哺乳動物を処置する方法であって、腫瘍によって発現される腫瘍関連抗原(TAA)を同定する工程と、腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに十分な治療有効量の、TAAをコードする遺伝子を哺乳動物に運ぶシンドビスウイルスベクターを哺乳動物に非経口的に投与することによって腫瘍を処置する工程とを含む方法を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、哺乳動物において腫瘍に対するCD8+T細胞媒介免疫応答を誘導する方法であって、腫瘍によって発現される少なくとも1つの腫瘍関連抗原(TAA)を同定する工程と、そのような処置が必要な哺乳動物に、腫瘍に対す
るCD8+T細胞媒介免疫応答を誘発するのに有効な量の、TAAをコードする遺伝子を運ぶシンドビスウイルスベクターを非経口的に投与する工程とを含む方法を提供する。
【0011】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、本明細書、特許請求の範囲、及び図面に照らして、当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】SV/LacZが、LacZ発現CT26.CL25腫瘍の増殖を阻害することを示す図である。0.5×10
6個のLacZ発現CT26.CL25(左のパネル)又はLacZネガティブCT26.WT(右のパネル)細胞を、BALB/cマウスの右側腹部中にs.c.注射した。腫瘍接種後の9日目に、マウスをSV/LacZ、コントロールSV/Flucベクター、又は培地(模擬)でi.p.処置した。腫瘍容積(mm
3)を測定しプロットした(N=3~4)。データは少なくとも2つの独立した実験の代表である。データは、平均±SEMとして表される。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図1b】SV/LacZが、LacZ発現CT26.CL25腫瘍の増殖を阻害することを示す図である。腹膜CT26.CL25腫瘍を保有するマウスのカプラン-マイヤー生存プロット。2.5×10
4個のCT26.CL25細胞をi.p.注射し、4日目に処置を開始した(N=5)。SV/LacZ及び模擬群のデータは、2つの独立した実験の代表である。データは、平均±SEMとして表される。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図1c】SV/LacZが、LacZ発現CT26.CL25腫瘍の増殖を阻害することを示す図である。肺CT26.CL25.Fluc腫瘍を保有するSV/LacZ及びコントロール処置マウスの代表的なIVISイメージを示す(左のパネル)。個々のマウスについて第1のイメージ(2日目)に対して発光を標準化することによって、相対腫瘍増殖(右上のパネル)を決定し、そして生存率をプロットした(右下のパネル)(N=5~8)。データは、2つの独立した実験の代表である。データは、平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図2a】TAA発現及びT細胞活性化が、縦隔リンパ節において起こることを示す図である。s.c.CT26.CL25腫瘍保有マウス(左のパネル)又は腫瘍なしマウス(右のパネル)を、SV/Flucでi.p.処置した。第5の(左のパネル)又は第1の(右のパネル)処置の3時間後に、ベクター由来のFluc発現をモニターするために生物発光イメージを撮影した。上半身シグナルの源を判定するために、MLNを抽出し、別々にイメージングした(右のパネル)。左のパネルにおける赤色の円が、各マウスにおけるs.c.腫瘍の位置を示す。
【
図2b】TAA発現及びT細胞活性化が、縦隔リンパ節において起こることを示す図である。肺CT26.CL25.Fluc腫瘍を保有するマウスを、SV/LacZで処置した。24時間後に、縦隔リンパ節及び鼠径部リンパ節を抽出し、且つ染色し、リンパ節中のT細胞(CD3ポジティブ、MHCクラスIIネガティブ)のパーセンテージを決定した。代表的なプロット(左のパネル)及びそれらの定量化(右のパネル;n=3)を示す。データは、2つの独立した実験(第2の実験は、i.p.腫瘍を保有するマウスにおいてなされた)の代表であり、平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;MLN、縦隔リンパ節;ILN、鼠径部リンパ節;S/L、SV/LacZ(SV、シンドビスウイルスベクター);TAA、腫瘍関連抗原。
【
図2c】TAA発現及びT細胞活性化が、縦隔リンパ節において起こることを示す図である。i.p.SV/LacZ注射の24時間後の肺腫瘍保有マウスの縦隔リンパ節及び鼠径部リンパ節から抽出したCD8
+T細胞上のCD69の発現を分析した。代表的なフローサイトメトリープロット(左のパネル)、及び高CD69細胞のパーセンテージを示す棒グラフ(右のパネル;n=3)を示す。データは、2つの独立した実験(第2の実験は、i.p.腫瘍を保有するマウスにおいてなされた)の代表であり、平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;MLN、縦隔リンパ節;ILN、鼠径部リンパ節;S/L、SV/LacZ(SV、シンドビスウイルスベクター);TAA、腫瘍関連抗原。
【
図3a】SV/LacZが、強力なCD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。肺CT26.CL25.Fluc腫瘍保有マウスを、SV/LacZ又は培地(模擬)で処置した。7日後に、腹膜細胞を分析した。代表的なフローサイトメトリープロット(左のパネル)及びCD8
+T細胞の算出数(右のパネル)を示す(平均±SEM、N=3)。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図3b】SV/LacZが、強力なCD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。腹膜及び肺由来のCD8
+T細胞を、活性化マーカーとしてNKG2D及びL-セレクチンを用いて更に分析し、その活性化状態を判定した。代表的なフローサイトメトリープロット(左のパネル)及び活性化された(高NKG2D、低L-セレクチン)細胞の算出パーセンテージ(右のパネル)を示す(平均±SEM、N=3)。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図4a】SV/LacZが、LacZ特異的CD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。SV/LacZ又は模擬処置の開始から2週間後に、CT26.CL25 s.c.腫瘍保有マウス由来の脾細胞を収集し、分析した。代表的なテトラマープロットを示す(N=5)。
【
図4b】SV/LacZが、LacZ特異的CD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。SV/LacZ又は模擬処置の開始から2週間後に、CT26.CL25 s.c.腫瘍保有マウス由来の脾細胞を収集し、分析した。テトラマーポジティブ細胞のパーセンテージを示す(N=5)。データは、平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図4c】SV/LacZが、LacZ特異的CD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。治療の開始から7日後に、i.p.腹膜腔及び肺腫瘍保有マウス由来の細胞を収集し、染色し、分析した(N=4~5)。データを、平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター
。
【
図5a】リンパ球が、SV/LacZ治療中にLacZ特異的細胞毒性を獲得することを示す図である。模擬(-)、SV/GFP(G)、又はSV/LacZ(L)処置の開始から7日後に、肺リンパ球をCT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウスから抽出した。抽出した肺リンパ球を、材料及び方法において記載されるように、CT26.CL25.Fluc細胞(CT26.CL25)又はCT26.WT.Fluc細胞(CT26.WT)と2日間共培養し、各腫瘍細胞集団との共培養に応じた、各腫瘍細胞集団に対する肺リンパ球の細胞毒性を判定した(データは、平均±SD、N=3として表される)。**p<0.01(模擬と有意に異なる)。N.D、検出されず。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図5b】リンパ球が、SV/LacZ治療中にLacZ特異的細胞毒性を獲得することを示す図である。模擬(-)、SV/GFP(G)、又はSV/LacZ(L)処置の開始から7日後に、肺リンパ球をCT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウスから抽出した。抽出した肺リンパ球を、材料及び方法において記載されるように、CT26.CL25.Fluc細胞(CT26.CL25)又はCT26.WT.Fluc細胞(CT26.WT)と2日間共培養し、各腫瘍細胞集団との共培養に応じた、肺リンパ球由来のIFN-γ分泌物を判定した(データは、平均±SD、N=3として表される)。**p<0.01(模擬と有意に異なる)。N.D、検出されず。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図6a】CD8
+T細胞が、SV/LacZの治療効果の増強に必要とされることを示す図である。SV/LacZの治療効果を、s.c.腫瘍モデルにおいて無傷マウスとCD8
+T細胞欠乏マウス[CD8
+T細胞(-)]との間で比較した。示された時点でのCT26.CL25 s.c.腫瘍のサイズを、各群(N=5)について測定し、且つプロットした。データは、平均±SEMとして表す。*P<0.05、**P<0.01。N.S、有意でない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図6b】CD8
+T細胞が、SV/LacZの治療効果の増強に必要であることを示す図である。SV/LacZの治療効果を、i.p.腫瘍モデルにおいて無傷マウスとCD8
+T細胞欠乏マウス[CD8
+T細胞(-)]との間で比較した。CT26.CL25 i.p.腫瘍保有マウスの生存率をモニターし、カプラン-マイヤー生存プロットとしてプロットした。N=8~9。*P<0.05、**P<0.01。N.S、有意でない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図6c】CD8
+T細胞が、SV/LacZの治療効果の増強に必要であることを示す図である。SV/LacZの治療効果を、肺腫瘍モデルにおいて無傷マウスとCD8
+T細胞欠乏マウス[CD8
+T細胞(-)]との間で比較した。CT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウスにおける腫瘍増殖(左のパネル)及び生存率(右のパネル)を分析した。相対腫瘍増殖を、
図1cのように定量化し、生存率を、カプラン-マイヤー生存プロットとして示す(N=5)。データは、平均±SEMとして表す。*P<0.05、**P<0.01。N.S、有意でない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図7a】内因性CT26 TAAに対する免疫が、SV/LacZ治療中に発現することを示す図である。模擬(-)、SV/GFP(G)、又はSV/LacZ(L)処置の開始から7日後に、脾細胞をCT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウスから抽出した。抽出した脾細胞を、材料及び方法に記載されるように、CT26.CL25.Fluc(CT26.CL25)又はCT26.WT.Fluc(CT26.WT)細胞と2日間共培養し、各腫瘍細胞集団との共培養に応じた、各腫瘍細胞集団に対する脾細胞の細胞毒性が判定された(平均±SD、N=3)。*p<0.05、**p<0.01(模擬又は未感作と有意に異なる)。N.D、検出されない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図7b】内因性CT26 TAAに対する免疫が、SV/LacZ治療中に発現することを示す図である。模擬(-)、SV/GFP(G)、又はSV/LacZ(L)処置の開始から7日後に、脾細胞をCT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウスから抽出した。抽出された脾細胞は、材料及び方法に記載されるように、CT26.CL25.Fluc(CT26.CL25)又はCT26.WT.Fluc(CT26.WT)細胞と2日間共培養し、各腫瘍細胞集団との共培養に応じた、脾細胞由来のIFN-γ分泌物を判定した(平均±SD、N=3)。*p<0.05、**p<0.01(模擬又は未感作と有意に異なる)。N.D、検出されない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図7c】内因性CT26 TAAに対する免疫が、SV/LacZ治療中に発現することを示す図である。最後のSV/LacZ処置から60日超経過後、未感作マウス及びCT26.CL25 SV/LacZ処置腫瘍治癒マウス中にi.v.接種し、肺における腫瘍増殖を、生物発光イメージングによって、示された時点にて分析した。左のパネルは、2つの独立した実験の代表的なIVISイメージを示す。右のパネルは、示された時点での腫瘍生物発光の定量化を示す(平均±SEM、N=8)。*p<0.05、**p<0.01(模擬又は未感作と有意に異なる)。N.D、検出されない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図7d】内因性CT26 TAAに対する免疫が、SV/LacZ治療中に発現することを示す図である。CT26.WT.Fluc腫瘍を、最後のSV/LacZ処置から30日超経過後、未感作マウス(N)及びSV/LacZ処置腫瘍治癒マウス(S)中にi.v.接種した。腫瘍接種の8日後に、各マウスから脾細胞を抽出し、LacZ、gp70、又はコントロールペプチドと3日間インキュベートした。インキュベーション後、材料及び方法に記載されるように、IFN-γ分泌物のLacZ又はgp70特異的誘導を分析した(平均±SEM、N=3)。*p<0.05、**p<0.01(模擬又は未感作と有意に異なる)。N.D、検出されない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図7e】内因性CT26 TAAに対する免疫が、SV/LacZ治療中に発現することを示す図である。
図7dにおいて抽出した脾細胞中のgp70特異的CD8
+T細胞の数を、gp70四量体を用いてフローサイトメトリーによって定量化した(平均±SD、N=3)。*p<0.05、**p<0.01(模擬又は未感作と有意に異なる)。N.D、検出されない;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図8】SV/TAA治療中のCD8
+T細胞の活性化のための4工程モデルの図である。工程1:SV/LacZのi.p.注射により、縦隔リンパ節におけるLacZの一過性の免疫原性発現(濃い青色の矢印)の後に、この部位での、且つ/又は他の部位におけるT細胞活性化の誘導が続く(淡い青色の矢印)。NK細胞もまた、腫瘍細胞に対して活性化される(茶色の矢印)。工程2(赤色の矢印):LacZ特異的CD8
+T細胞細胞毒性により、腫瘍細胞の破壊、続いて腫瘍関連抗原(LacZ及びgp70等)の放出がもたらされる。工程3(緑色の矢印):抗原提示細胞が、腫瘍ドレーンリンパ節(draining lymph node)においてその抗原を捕捉し、且つCD8
+T細胞に提示して、エピトープ拡大をもたらし、LacZ(-)腫瘍細胞エスケープ変異体を潜在的に標的とし得るgp70特異的CD8
+T細胞の誘導を含む。工程4(紫色の矢印):様々な腫瘍関連抗原に対するメモリーCD8
+T細胞が生成する。APC、抗原提示細胞;LN、リンパ節;MLN、縦隔リンパ節;NK、ナチュラルキラー細胞;SV、シンドビスウイルスベクター;TAA、腫瘍関連抗原;Tc、細胞毒性CD8
+T細胞;Tm、メモリーCD8
+T細胞。
【
図9a】肺腫瘍を保有するマウスにおけるSV/LacZ治療効果の増強が、腫瘍上のLacZ発現に左右されることを示す図である。示された時点にてCT26.CL25.Fluc又はCT26.WT.Fluc肺腫瘍保有マウスにおいて、腫瘍増殖を分析した。左のパネルは、2つの独立した実験の代表的なIVISイメージを示す。右のパネルは、示された時点での相対腫瘍増殖を示す。データは、平均±SEMとして表す。(N=4~7)。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図9b】肺腫瘍を保有するマウスにおけるSV/LacZ治療効果の増強が、腫瘍上のLacZ発現に左右されることを示す図である。CT26.CL25.Fluc又はCT26.WT.Fluc肺腫瘍保有マウスの生存率を、カプラン-マイヤー生存プロットとして示す (N=5~7)。*p<0.05、**p<0.01。SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図10a】SVが、肺においてCT26腫瘍を標的としないことを示す図である。腫瘍なしマウス又はCT26.WT肺腫瘍保有マウスを、SV/Flucで2日おきにi.p.処置した。全身の生物発光イメージを作成して、第1のSV/Fluc処置後、示された時点にて撮影した。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図10b】SVが、肺を撮影してから、示された器官を抽出し、別々にイメージングした。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図11a】SV/Fluc及びSV/GFPが、CD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。腹膜腫瘍保有マウスを、SV/Fluc(左のパネル)、SV/GFP(右のパネル)、又は培地(模擬)で処置した。示された時点にて、フローサイトメトリーを用いて腹膜細胞を分析した。腹膜におけるCD8
+T細胞の算出数を示す(平均±SEM、各時点についてN=2~3)。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;GFP、緑色の蛍光タンパク質;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図11b】SV/Fluc及びSV/GFPが、CD8
+T細胞応答を誘導することを示す図である。代表的なフローサイトメトリープロットが、処置7日後のSV/GFP又は模擬処置マウス由来の腹膜CD8+T細胞上のL-セレクチン発現を示す(N=2)。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;GFP、緑色の蛍光タンパク質;SV、シンドビスウイルスベクター。
【
図12a】SV/TAAが、エフェクタ及びメモリーLacZ特異的CD8
+T細胞の活性化を誘導することを示す図である。左のパネル:LacZ-未感作マウス、腫瘍なしマウスに、SV/LacZ又は培地(模擬)を注射した。4日後、腹膜細胞を抽出し、LacZ特異的CD8
+T細胞の存在について分析した。右のパネル:模擬マウス及びSV/LacZ処置マウス由来の腹膜CD8
+T細胞の活性化レベルを互いに比較し、そして同様にSV/LacZ処置マウス(SV/LacZ tet+)から得られたLacZ特異的CD8
+T細胞と比較した。活性化された細胞は、高NKG2D、低L-セレクチン細胞と定義した。全プロットが、ゲーテッドCD8
+T細胞を示す。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;LacZ、β-ガラクトシダーゼ;SV、シンドビスウイルスベクター;tet、テトラマー。
【
図12b】SV/TAAが、エフェクタ及びメモリーLacZ特異的CD8
+T細胞の活性化を誘導することを示す図である。SV/LacZ、SV/Fluc、又は培地(模擬)で処置した腹膜CT26.CL25腫瘍保有マウス由来のLacZテトラマー分析を示す。全プロットが、ゲーテッドCD8
+T細胞を示す。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;LacZ、β-ガラクトシダーゼ;SV、シンドビスウイルスベクター;tet、四量体。
【
図12c】SV/TAAが、エフェクタ及びメモリーLacZ特異的CD8
+T細胞の活性化を誘導することを示す図である。i.p. CT26.CL25腫瘍を保有する未感作マウス又はSV/LacZ処置長期生存マウス(SV/LacZ生存個体)由来の脾細胞を、抗CD 127(メモリー細胞マーカー)及びLacZ特異的四量体で染色し、長期生存型LacZ特異的メモリー(CD127
+、四量体
+)細胞の存在を判定した。データは、処置を止めた後3カ月超経過後に採られた2つの試料の代表である。全プロットが、ゲーテッドCD8
+T細胞を示す。Fluc、ホタルルシフェラーゼ;LacZ、β-ガラクトシダーゼ;SV、シンドビスウイルスベクター;tet、四量体。
【
図13a】NK細胞が、SV治療の早期のステージにて活性化されることを示す図である。CT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウス由来の総肺免疫細胞(CD45
+)集団内の肺CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、LacZ特異的CD8
+T細胞、及びNK(CD3
-CD122
+)細胞のパーセンテージを、模擬又はSV/LacZの開始後の示された時点にて分析した。データは、平均±SEMとして表す(N=3)。*p<0.05、**p<0.01。LacZ、β-ガラクトシダーゼ;NK、ナチュラルキラー細胞;SV、シンドビスウイルスベクター;tet、四量体。
【
図13b】NK細胞が、SV治療の早期のステージにて活性化されることを示す図である。CT26.CL25.Fluc肺腫瘍保有マウス由来の肺におけるNK細胞上のNKG2Dの発現を、模擬又はSV/LacZ処置の開始後の示された時点にて分析した。データは、平均±SEMとして表す(N=3)。*p<0.05、**p<0.01。LacZ、β-ガラクトシダーゼ;NK、ナチュラルキラー細胞;SV、シンドビスウイルスベクター;tet、四量体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語「約」又は「おおよそ」は通常、測定値及び測定方法のタイプについて許容可能な誤差の範囲内を意味する。例えば、与えられた値又は範囲の20%以内、より好ましくは10%以内、最も好ましくは5%以内を意味し得る。それとは別に、特に生物系において、用語「約」は、与えられた値の約1ログ(即ち、1桁分)以内、好ましくは二倍以内を意味する。
【0014】
本発明は、以下の発見に基づく:(i)SVは、TAAの免疫原性送達(immunogenic delivery)用の潜在的に強力な治療プラットホームとなる、(ii)SV/TAAから得た治療利益は、腫瘍細胞の直接的なターゲティングを必ずしも必要としない、(iii)SV/TAA治療は、注射部位をドレーン(draining)するリンパ節、特に、i.p.SV注射の場合、MLNへのTAAの一過性の早期の送達を含む、(iv)SV/TAA治療は、強力なTAA特異的CD8+T細胞応答を誘導し、これはその後、同種のTAAを発現する腫瘍細胞に向け直される、(v)SV/TAA治療はエピトープ拡大を生じ、TAA損失又は修飾による腫瘍エスケープの問題に対する解決策となり得る、そして(vi)SV/TAA治療は最終的に、腫瘍保有マウスの長期の生存、及び多数のTAAに対する長期生存型CD8+メモリーT細胞の生成に至る。
【0015】
本発明に従えば、腫瘍関連抗原(TAA)をコードする遺伝子を運ぶシンドビスウイルスベクターを用いて、哺乳動物の腫瘍に対する免疫応答が誘発される。腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、癌患者へのTAAの免疫原性送達のための有望な戦略として、最近現れた。しかしながら、本発明よりも前に、安全且つ効果的なOV/TAA治療がまだ確立されていなかった。シンドビスウイルス(SV)に基づくベクターが、腫瘍細胞を標的とし、腫瘍増殖を阻害し、且つマウス固有の免疫系を活性化し得ることが以前に実証された。今回、予想外にも、腫瘍関連抗原(TAA)をコードする遺伝子を運ぶ、非経口投与されたSVベクターは、皮下癌、腹膜内癌、及び肺癌を保有するマウスにおいて治療効果の劇的な増強をもたらすことが発見された。驚くべきことに、SV/TAA有効性は、腫瘍細胞ターゲティングに左右されず、注射部位をドレーンするリンパ節におけるTAAの一過性の発現によって特徴付けられた。この部位の早期のT細胞活性化の後に、抗原特異的細胞毒性CD8+T細胞を発現するNKG2Dの、腫瘍部位中へのロバストな流入が続き、その後、長期生存型メモリーT細胞の生成に至った。そのような細胞は、TAAポジティブ腫瘍細胞及びTAAネガティブ腫瘍細胞による再チャレンジに対する防御となった。本明細書中に記載されるように、in vivoイメージング、フローサイトメトリー、細胞毒性/サイトカインアッセイ、及び四量体分析を組み合わせることによって、これらの事象間の関係を明らかにした。結果として、SV/TAA治療におけるCD8+T細胞活性化のモデルと、腫瘍を患う哺乳動物を、腫瘍に対する免疫応答を誘発することによって処置する方法とを提供する。
【0016】
SV/TAAは化学療法と組み合わされてよい。というのも、SV及び化学療法が相乗効果を引き出し得ることが以前に示されたからである(例えば、米国特許出願第13/133,680号参照)。限定されないがこれには、免疫系を刺激する化学療法、免疫系におけるサプレッサ要素を阻害する化学療法、又は腫瘍細胞に影響を及ぼして、これをT細胞(又は他の免疫細胞)細胞毒性に対してより感受性にする化学療法が含まれる。例えば、免疫抑制細胞を抑制することによってSV/TAA免疫賦活を増強することから、SV/TAA治療を促進し得る特定の化学療法がある。化学療法が、T細胞媒介細胞毒性への腫瘍細胞感受性を増強することを示唆する文献の報告もある。例えば、Ramakrishnanら、Journal of Clinical Investigation、120(11): 4141~4154頁、2010年。
【0017】
本発明の方法において、腫瘍に悩む患者を調べて、腫瘍と関連するTAAを同定する。本発明に従って処置され得る固形腫瘍の例として、限定されないが以下の項目等の肉腫及び癌腫が挙げられる:線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨性肉腫、骨原性肉種、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、類表皮癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、嚢癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、及び網膜芽腫。
【0018】
血液悪性腫瘍もまた、本発明に従って処置され得るが、特異的なTAAが同定され得ることを条件とする。
【0019】
本発明に従えば、腫瘍及びSVは、同じTAA、又はSV/TAAによって発現されるTAAと免疫学的に交差反応する類似するが同一でないTAAのいずれかを発現するに違いない。TAAは当該技術において周知である。例えば、Cheeversら(Clin Cancer Res 15: 5323~5337頁、2009年)は、特定の抗原について、予め定義された基準に基づき情報を集め、予め定義され予め重み付けされた基準に基づいてこれらの抗原を順位付けることによって、比較及び順位付け用の75の代表的なTAAを開示した。腫瘍によって発現されるあらゆるTAAが利用されてよい。しかしながら、強い応答を潜在的に誘導する(免疫優性TAA)のはTAAの一部であり、異なるTAAの有効性のばらつきは大きいと予想される;正確にどれが好ましいかは、当業者に周知である日常的な調査を用いて決定され得る。
【0020】
患者の腫瘍によって発現されるTAAは、生検から、又は生検が可能でない場合、血液検査から同定され得る。発現cDNAライブラリの血清学的分析(SEREX)が、ヒトTAAを同定するために以前に用いられていた。代替の方法が用いられてもよい。
【0021】
関連するTAAが同定された後、TAAをコードする遺伝子を運ぶシンドビスウイルスベクターが、当該技術において周知である、以下の材料及び方法において記載されるような技術を用いて構築される。TAAをコードするヌクレオチド配列もまた、当該技術において周知であり、文献から容易に得ることができる。例えば、ヒト癌において異常に発現される精巣抗原であるNY-ESO-1の配列は、1997年に公開され(http://www.pnas.org/content/94/5/1914.full、Yao-Tseng Chen*†‡、Matthew J. Scanlan†、Ugur Sahin§、Ozlem Tureci§、Ali O. Gure†、Solam Tsang†、Barbara Williamson†、Elisabeth Stockert†、Michael Pfreundschuh§、及びLloyd J. Old† PNAS 1997年)、癌胚抗原配列は、1987年に公開された(http://mcb.asm.org/content/7/9/3221.short Isolation and characterization of full-length functional cDNA clones for human carcinoembryonic antigen. N Beauchemin、S Benchimol、D Coumoyer、A Fuks及びC P Stanners、Molecular and Cellular Biology 1987年)。
【0022】
あらゆるシンドビスウイルスベクターが本発明において用いられてよく、これには複製コンピテント型(例えば、米国特許第8,282,916号に記載される)及び複製欠損型(例えば、米国特許第7,303,898号、米国特許第7,306,792号及び米国特許第8,093,021号に記載される)が含まれる。健常な組織の感染を防止するために、本発明に用いるには、複製欠損型ベクターが好ましい。
【0023】
本発明に従えば、縦隔リンパ節(MLN)の細胞に感染するのに十分な、治療有効量のSV/TAAの単回i.p.注射が、MLNへの迅速な免疫原性送達をもたらす。そのような治療有効量は、約1000万ベクター粒子から約1000億ベクター粒子まで大きく変動する。マウスにおいて、SV/TAAの単回i.p.注射は、腫瘍に対する検出可能なCD8+媒介免疫応答を誘発するのに十分であるが、他のレジメンが、最大応答を達成するのに必要となるかもしれない。例えば、好ましくは、1週から数週の期間にわたる1回から約8回のi.p.注射が、1年以上後に1回又は複数回のブースター注射液を注射することを見込んで、最大効果のために投与されてよい。
【0024】
MLNは腹膜をドレーンすることが以前に示されており[27、28]、SVベクターよって送達された抗原(例えば、TAA)が、二本鎖(ds)RNA等のSVウイルスの危険シグナルのもとで、抗原提示細胞(APC)によって潜在的にプロセシングされT細胞に提示され得る環境となっている[22]。リンパ節の主要な機能の1つが、適応免疫応答の誘導を促進することである。ウイルスの危険シグナルは、免疫系を刺激するウイルスの(又は感染細胞の)成分である。二本鎖RNAがそのような危険シグナルであるが、これは、細胞において普通は見出されず、ウイルスの感染と関連しているからである。MLNは、TAAに対するCD8+T細胞媒介免疫応答の誘導のための場を提供する。この発見と整合することには、MLN中のT細胞の数は、LacZをモデル抗原として用いるSV/TAA処置の24時間後に有意に増加した。
【0025】
2つ(又はそれ以上)の異なるベクターを用いることも可能であり、これには、TAA(1つ又は複数)に対する免疫応答の増強の誘導及び進行を促進するための、異なるサイトカインを運ぶ異なるベクターの異なる時点での注射が含まれる。
【0026】
CD8+T細胞に加えて、SV/TAA治療はまた、液性免疫応答だけでなく、CD4+T細胞、NK細胞、マクロファージ、単核細胞、樹枝細胞、好中球及び他の細胞を含めた(これらに限定されない)更なる免疫(又は非免疫)細胞を活性化することもできる。エピトープ拡大が、CD8+T細胞だけでなく、CD4+T細胞でも起こり得る。実施例2において分かるように、腫瘍細胞ターゲティングが、効果的なSV/TAA治療に必要とされず、これは、SV/TAA治療中の免疫細胞活性化が、腫瘍部位(この場合、肺)から遠く離れて、例えば、SV注射部位をドレーンするリンパ節において、起こり得ることを示唆する。
【0027】
実施例3に示されるように、フローサイトメトリーを用いて、腹膜中への多数のCD8+T細胞の流入が、最初のSV/TAA注射の7日後に確かめられた。NKG2Dのアップレギュレーション[30]及びリンパ節ホーミング受容体L-セレクチンのダウンレギュレーション[31]から明らかなように、この腹膜CD8+T細胞が、活性化された。腹膜中への活性化CD8+T細胞のロバストな流入に加えて、少数の高NKG2D、低L-セレクチンCD8+T細胞が、SV/TAAで処置された肺CT26.CL25腫瘍を保有するマウスの肺においても見ることができた。SV/LacZ治療中に生じたLacZ特異的CD8+T細胞のサブセットが最終的にメモリーT細胞へと発生することが分かった。i.p.CT26.CL25腫瘍を保有するSV/LacZ処置長期生存マウス由来の脾細胞を分析した。LacZ四量体を記憶マーカーCD127と組み合わせて用いて、このマウスにおいてLacZ特異的CD127+CD8+メモリーT細胞の集団(CD8+T細胞脾細胞集団の凡そ1%)を、最後のSV/LacZ注射から3カ月を超経過後同定した。したがって、本発明に基づく処置が、抗腫瘍活性の長期維持に至った。
【0028】
本発明の方法の使用は、エピトープ拡大を引き起こす。先行技術の癌ワクチン戦略の制約の1つが、腫瘍細胞集団に本来備わっている異質性及びゲノム不安定性であり、これが、処置によって誘導される選択圧と結びついた結果、ワクチンに用いられたTAAを失う又は修飾することによって腫瘍による回避が起きてしまう[38、39]。この関連において、本発明の重要な態様は、エピトープ拡大、即ち、腫瘍に内在するがSV/TAA治療中にベクターによって送達されない新しいTAAを組み込む、抗腫瘍T細胞応答の増幅[32]が、誘導されることである。臨床試験は、次第にエピトープ拡大の分析を含むようになってきており[40]、場合によっては、エピトープ拡大の誘導と治療有効性との正の相関関係が示されている[25]。実施例7に示されるように、CT26.CL25腫瘍に対するSV/TAA治療が、エピトープ拡大を引き起こして、CT26腫瘍上に発現された他の無関係な抗原に対する免疫の発現に至った。
【0029】
本発明の代替の実施形態において、TAAをコードする遺伝子を、T細胞刺激用のリンパ節において最適条件をもたらすのに適した免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子と共に運び、送達する二重発現(dual expression)SVベクターが利用される。そのような免疫刺激サイトカインとして、限定されないが、IL-12 (http://www.jimmunol.org/content/146/9/3074.short Cloning of cDNA for natural killer cell stimulatory factor, a heterodimeric cytokine with multiple biologic effects on T and natural killer cells. S F Wolf、P A Temple、M Kobayashi、D Young、M Dicig、L Lowe、R Dzialo、L Fitz、C Ferenz及びR M Hewick the Journal of Immunologyに開示されている)及びCCL17(http://www.jbc.org/content/271/35/21514.short Molecular Cloning of a Novel T Cell-directed CC Chemokine Expressed in Thymus by Signal Sequence Trap Using Epstein-Barr Virus Vector* Toshio Imai‡、Tetsuya Yoshida、Masataka Baba、Miyuki Nishimura、Mayumi Kakizaki及びOsamu Yoshie. The Journal of biological Chemistry)が挙げられる。
【0030】
更なる免疫刺激サイトカインとして、限定されないが:IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17が挙げられる。更なるサイトカインとして、IL-18~IL-36が挙げられる。CCL17に加えて、他のケモカインが用いられてもよく、限定されないが、CCL1~CCL27及び他のCCケモカイン、CXCL1~CXCL13及び他のCXCケモカイン、Cケモカイン、並びにCX3Cケモカインが挙げられる。サイトカイン又はケモカイン受容体及び可溶性受容体が用いられてもよい。用いられてよい更なる免疫モジュレータとして、TGF-β及びTNFαが挙げられる。また、上記の(又は代替の)サイトカインの異なる組合せが用いられてもよい。
【0031】
その上、MLN TAA発現が一過性であり、且つ再誘導可能である(未発表の結果)ことから、異なるサイトカインが、SV/TAA治療の異なるステージにて送達されて、抗腫瘍免疫応答が更に修正され得る。例えば、SV/IL12が、SV/TAA治療の早期のステージにおいて送達されて、Th1細胞毒性T細胞応答が刺激され得、そしてSV/CCL17が後で送達されて、更なるTAAの交差プライミングが増強されることによって、エピトープ拡大を増大させ得る。
【0032】
IL-12遺伝子を運ぶSVベクターは、腫瘍保有マウスにおいて治療効果を増強し[16]、M1型マクロファージのIFN-γ-依存的活性化を促進する[19]ことが以前に実証された。しかしながら、MLNへのIL-12送達の効果は、本発明よりも以前には特に研究されていない。
【0033】
別の代替の実施形態において、SVベクターを用いて、特定の神経原性腫瘍に由来するような縦隔腫瘤が標的とされ、且つ/又はこれにペイロードが送達される[37]。腫瘍が多くの場合リンパ節(縦隔リンパ節が挙げられる)に転移し、そしてSVが特定のリンパ節(縦隔リンパ節が挙げられる)を自然と標的とし得るので、SVを用いて、抗原、サイトカイン、又は他のペイロードが、腫瘍増殖の部位に直接送達され得る。
【0034】
多数のTAAを発現する1つのシンドビスベクターを用いることによって、又は異なるTAAを発現する多数のシンドビスベクターを用いることによって、多数のTAAが用いられ得る。また、投与の経路は、非経口的であり、限定されないがこれには、静脈内、腹膜内、皮下、筋肉内、鼻腔内、眼窩内、結節内、及び腫瘍内の注射が含まれる。
【0035】
本方法のモデルが、以下に示される:
【0036】
工程1:SV/TAAのi.p.注射により、縦隔リンパ節におけるTAAの一過性の免疫原性発現の後に、この部位での、且つ/又は他の部位におけるT細胞活性化の誘導が続く;NK細胞もまた、腫瘍細胞に対して活性化される。工程2:TAA特異的CD8+T細胞細胞毒性により、腫瘍細胞の破壊、続いて腫瘍関連抗原の放出がもたらされる。工程3:抗原提示細胞が、腫瘍ドレーンリンパ節においてその抗原を捕捉し、且つCD8+T細胞に提示して、エピトープ拡大をもたらし、TAA(-)腫瘍細胞エスケープ変異体を潜在的に標的とし得るTAA特異的CD8+T細胞の誘導を含む。工程4:様々な腫瘍関連抗原に対するメモリーCD8+T細胞が生成する。
【0037】
本発明は、その範囲を限定することなく本発明を更に説明することを意図する実用的な実施例において、以下で更に説明される。
【0038】
材料及び方法
細胞系統
仔ハムスター腎臓(BHK)、CT26.WT、及びLacZ発現CT26.CL25細胞を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから得た。CT26.WT及びCT26.CL25細胞中へのホタルルシフェラーゼ(Fluc)発現プラスミドの安定したトランスフェクションによって、非侵襲性の生物発光イメージング用のFluc発現CT26細胞(CT26.WT.Fluc及びCT26.CL25.Fluc)を作出した。pGL4.20ベクター(Promega社、WI)のマルチクローニング部位中にSV40プロモータ配列を導入することによって、Fluc発現プラスミドを構築した。
【0039】
細胞培養
10%胎児ウシ血清(FBS)(Atlanta Biologicals社、Norcross、GA)を含む最小必須a-修飾培地(a-MEM)(Mediatech社、VA)中で、BHK細胞を維持した。10% FBSを補った4.5g/Lグルコース(Mediatech社)を含有するダルベッコ修正必須培地(DMEM)中で、CT26.WT、CT26.CL25、CT26.WT.Fluc、及びCT26.CL25.Fluc細胞を維持した。全ての基本培地に、100mg/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Mediatech社)及び0.5mg/mLのアンホテリシンB(Mediatech社)を補った。CT26.CL25及びCT26.CL25.Fluc細胞を培養するために、0.4mg/mlのG418硫酸塩(Mediatech社)を基本培地に加えた。CT26.WT.Fluc及びCT26.CL25.Fluc細胞を培養するために、5mg/mlのピューロマイシン(Sigma-Aldrich社、MO)を基本培地に加えた。
【0040】
SV/TAA生産
SV/LacZを免疫原性SV/TAA剤として用い、SV/Fluc及びSV/GFPをコントロールベクターとして用いた。SV/Flucは、イメージング実験にも用いた(下記参照)。ベクターを、以前に記載されたようにして生産した[16]。簡潔に述べると、レプリコン(SinRep5-LacZ、SinRep5-GFP又はSinRep5-Fluc)又はDHBBヘルパーRNA(SinRep5-tBB)を運ぶプラスミドを、XhoI(SinRep5-LacZ、SinRep5-GFP及びSinRep5-tBB用)又はPacI(SinRep5-Fluc用)で線状にした。mMessage mMachine RNA転写キット(Ambion社、TX)を用いて、in vitro転写を実行した。続いて、ヘルパー及びレプリコンRNAをBHK細胞中にエレクトロポレーションして、10% FBSを補った-MEM中で37℃にてインキュベートした。12時間後、培地を、CaCl2(100g/mL)を補ったOPTI-MEM I(Invitrogen社、CA)で置換し、細胞を37℃にてインキュベートした。24時間後、上清を収集し、遠心分離して細胞残骸を除去し、-80℃にて凍結させた。ベクターの力価を、以前に記載されたようにして判定した[15]。
【0041】
マウス及び腫瘍接種
4~8週齢の雌BALB/cマウスを、Taconic社(Germantown、NY)から購入した。s.c.腫瘍モデル用に、0.2mL PBS中0.5×106若しくは1×106個のCT26.WT又はCT26.CL25細胞を、各マウスの右側腹部中にs.c.注射した。i.p.腫瘍モデル用に、0.2mL PBS中2.5×104若しくは5×104個のCT26.CL25細胞を、各マウスにi.p.注射した。肺腫瘍モデル用に、0.2ml PBS中0.3×106個のCT26.WT.Fluc又はCT26.CL25.Fluc細胞を、各マウスにi.v.注射した。
【0042】
治療有効性
s.c.腫瘍モデルにおいて、腫瘍容積が40mm3を超えた後、処置を開始した(容積=幅×幅×体長/2)。i.p.腫瘍モデルにおいて、腫瘍細胞接種後の4日目に処置を開始した。肺腫瘍モデルにおいて、腫瘍細胞接種後の3日目に処置を開始した。SV/LacZ、SV/GFP、又はSV/Fluc(0.5mLのOPTI-MEM Iにおいて約107プラークの形成単位)、及び模擬処置(100mg/L CaCl2を補った0.5mLのOPTI-MEM I)を、1週につき4回を2週間、合計8回の処置としてi.p.投与した。治療有効性を、3つの方法でモニターした:腫瘍容積(s.c.腫瘍について、機械キャリパーで測定)、腫瘍発光(肺腫瘍について)、及び生存(i.p.及び肺腫瘍について)。以前に記載されたようにして[16]、IVIS Spectrumイメージング系(Caliper Life Sciences社、MA)を用いて非侵襲性の生物発光イメージングをし、Living Image 3.0ソフトウェア(Caliper Life Sciences社)を用いて腫瘍増殖を定量化した。生存をモニターして、毎日記録した。
【0043】
SV/Flucの生物発光イメージング
腫瘍保有マウス及び腫瘍なしマウスに、SV/Fluc(0.5mLのOPTI-MEM Iにおいて約107プラークの形成単位)を腹膜内注射した。処置後、以前に記載されたようにして[16]、示された時点にてIVISによって生物発光シグナルを検出した。
【0044】
ex vivo細胞毒性アッセイ
SV処置を始めた7日後に、腫瘍保有マウス由来の肺リンパ球又は脾細胞を収集した。10% FBSを補った1ml RPMI 1640中で2日間、24ウェルプレートにおいて、肺リンパ球(1×105/ml)又は脾細胞(2×106/ml)を、CT26.WT.Fluc細胞(2×104/ml)又はCT26.CL25.Fluc細胞(2×104/ml)と共培養した。続いて、インターフェロン(IFN)-γ分泌物アッセイ用に培地を収集し、各ウェル内の残留細胞をPBSで二回洗浄した。続いて、1ウェルあたり100μlのM-PER Mammalian Protein Extraction Reagent(Pierce社、IL)で細胞を溶解した。CT26細胞の生存度に基づいて細胞毒性を評価した。これは、各ウェルにおいてルシフェラーゼ活性を測定することによって判定した。100μlのSteady-Glo試薬(Promega社、WI)を各細胞溶解物に加えて、GLOMAXポータブルルミノメータ(Promega社)を用いて発光を測定することによって、ルシフェラーゼ活性を分析した。
【0045】
IFN-γ分泌物アッセイ。10% FBSを補った1ml RPMI 1640(Mediatech社)中で、24ウェルプレートにおいて、CT26腫瘍細胞(2×104/ml)又は免疫原性ペプチド(5μg/ml)によって、肺リンパ球(1×105/ml)又は脾細胞(2×106/ml)を刺激した。用いたペプチドは、LacZペプチドTPHPARIGL[43]、gp70ペプチドSPSYVYHQF[44]、又はPIAペプチドLPYLGWLVF(ネガティブコントロールとして)[45]であった。刺激の後、マウスIFN-γQuantikine ELISAキット(R&D systems社、Minneapolis、MN)を用いて、培地中のIFN-γレベルを測定した。コントロール(LPYLGWLVF刺激)サンプルにおけるIFN-γレベルを、TPHPARIGL及びSPSYVYHQF刺激サンプルにおけるIFN-γレベルから減算することによって、IFN-γ分泌物におけるTPHPARIGL及びSPSYVYHQF媒介増大を算出した。
【0046】
フローサイトメトリー。抗マウス抗体抗CD8a eFluor(登録商標)450及びeFluor(登録商標)650NC、抗CD4 PE-Cyanine 7、抗CD69 PE、抗CD314(NKG2D)PE-Cyanine7、抗CD62L(L-セレクチン)FITC及びAlexa Fluor(登録商標)700、並びに抗CD45 eFluor(登録商標)450を、eBioscience社(San Diego、CA)から購入した。PE標識LacZ四量体をNYU Vaccine and Cell Therapy Core (New York、NY)から得、APC標識gp70四量体をNIH Tetramer Core Facility (Atlanta、Georgia)から得た。肺リンパ球及び脾細胞のフローサイトメトリー分析のために、マウスを安楽死させて、肺及び脾臓を抽出した。抽出した肺を小さなピースに切って、消化混合物[コラゲナーゼI(50μg/ml)、コラゲナーゼIV(50μg/ml)、ヒアルロニダーゼV(25μg/m1)及びDNAse I(20ユニット/ml)]と37℃にて30分間インキュベートした。続いて、抽出した脾臓及び消化した肺を、70~100μm細胞ストレーナを通してマッシュしてから、1×RBC溶解バッファ(eBioscience社)で処理して、赤血球を除外した。以前に記載されたようにして[19]、腹膜細胞を腹膜滲出液から収集した。続いて、細胞を種々のAbで染色し、HBSS(Mediatech社)で二回洗浄し、LSR IIマシン(BD biosciences社、CA)を用いて分析した。データは、FlowJo (Tree Star社、San Carlos、CA)を用いて分析した。
【0047】
CD8+T細胞欠乏。抗CD8抗体(クローン2.43)(Bio X cell社、Lebanon、NH)を用いて、CD8+T細胞を欠乏させた。0.2mL PBS中0.4mg抗体を各マウスに注射し、最初のSV処置の1日前に開始し、2~3日毎に2週間行った。コントロールマウスは、PBSを注射した。
【0048】
統計
フローサイトメトリー、IVISイメージング、ELISA、腫瘍増殖、及び生存実験について、ステューデントのt検定(両側)、分散分析(ANOVA)及びそれに続くダネット検定、又はカプラン-マイヤーのログランク検定を、Macintosh用Prism(登録商標)4(GraphPad Software社、La Jolla、CA)を用いて行った。
【実施例1】
【0049】
SV/LacZは、免疫能力のあるマウスにおいてLacZ発現腫瘍の増殖を阻害する。
癌治療用のTAAを運ぶSVベクターの使用を評価するために、LacZ発現マウス大腸癌細胞系統(CT26.CL25)をモデル腫瘍TAA系とした。最初に、皮下(s.c.)腫瘍保有マウスにおけるSV/TAA(SV/LacZ)有効性を試験した。
図1aに見られるように、SV/LacZは、LacZ発現CT26.CL25腫瘍の増殖を有意に阻害したが、コントロールベクターSV/Flucは、治療効果が観察できなかった(
図1a、左のパネル)。他方では、SV/LacZ及びSV/Flucは双方とも、LacZネガティブCT26.WT腫瘍の増殖にあまり効果がなかった(
図1a、右のパネル)。これらの結果は、SV/LacZが、s.c.CT26腫瘍を保有するマウスにおいて強力な抗原依存的治療効果を有することを実証する。
【0050】
生理的に妥当な大腸癌モデルにおいてSV/LacZ有効性を吟味するために、CT26.CL25細胞を腹膜内注射して、腹膜癌腫症を模倣した[26]。このモデルにおける治療有効性は、マウスの生存をモニターすることによって評価した。s.c.モデルと同様に、SV/LacZは、この腫瘍に対する治療効果が強力であることが見出されたが、コントロールベクター(SV/Fluc)には、軽度の治療効果しかなかった(
図1b)。次に、肺において増殖する腫瘍に対するSV/LacZの有効性を吟味した。このモデルにおける生存データを補うために、Fluc発現CT26細胞系統(CT26.CL25.Fluc及びCT26.WT.Fluc)を構築した。これを用いて、IVISイメージング系[16]により腫瘍増殖を非侵襲的にモニターすることができる。Fluc発現CT26.CL25細胞のi.v.注射は、肺腫瘍をもたらし、SV/LacZは、このモデルにおいて完全な腫瘍寛解及び長期生存を誘導したが、コントロールベクターSV/GFPは、腫瘍増殖を遅延させるだけであり、長期生存をもたらさないことが見出された(
図1c)。s.c.腫瘍モデルと同様に、肺腫瘍モデルにおけるSV/LacZから得られる治療効果の増強は、ベクター及び腫瘍細胞からのTAA(LacZ)の発現に左右された。というのも、LacZネガティブCT26.WT腫瘍増殖が、SV/LacZによって僅かに阻害されるだけであったからである(
図9)。合わせて考えると、これらの結果は、TAAを運ぶSVベクターが、腫瘍増殖の部位に関係なく、TAA発現CT26腫瘍を保有するマウスにおいて強い治療効果を誘導することを実証する。
【実施例2】
【0051】
縦隔リンパ節は、SVベクターによって送達される抗原を一過性に発現し、またSV治療中の早期のT細胞活性化の部位である。
SVベクターが腫瘍溶解能を有し、特定の腫瘍をin vivoで標的とし得ることが以前に示されている[16]。CT26腫瘍モデルにおいて観察される治療効果における腫瘍細胞ターゲティングの役割を評価するために、腫瘍保有マウスをSV/Flucベクターで処置した。これを用いて、マウスにおけるベクターの局在化をモニターすることができる[16]。複数回注射の後であっても、SVベクターは、s.c.増殖CT26.CL25腫瘍を標的としないことが見出された(
図2a、左のパネル)。同様に、ベクターは肺腫瘍を標的としなかった;代わりに、SV/Flucが、最初の注射の24時間後に腫瘍保有マウスの腹膜脂肪内に、そして5日後に肝臓内に見られた(
図10)。この一般的なパターンは、腫瘍細胞の存在に左右されず、腫瘍なしマウスにおいても同様に起こった(
図10)。これらの結果は、CT26細胞がSVによってin vitro感染されないことを実証する他の研究と矛盾がなく[20]、SV/LacZから得られた強力な治療効果が、腫瘍細胞ターゲティングに左右されないことを示唆する。
【0052】
興味深いことには、SV/Fluc注射後の非常に早期の時点に焦点を合わせることによって、一過性のFlucシグナルが、i.p.SV/Fluc注射の3時間後という早期に上半身において見られ得ることに気付いた(
図2a及び
図10)。縦隔リンパ節(MLN)を抽出して別々にイメージングすることによって、上半身のシグナルがこのリンパ節に由来すると判定した(
図2a、右のパネル)。特筆すべきことには、MLNにおける一過性のFluc発現が、腫瘍保有マウス及び腫瘍なしマウスの双方で起こった(
図10)。
【0053】
MLNは以前に、腹膜をドレーンすると示されており[27、28]、SVベクター(Fluc、LacZ、又は他のTAA等)によって送達された抗原が、二本鎖(ds)RNA等のSVウイルスの危険シグナルのもとで、抗原提示細胞(APC)によって潜在的にプロセシングされT細胞に提示され得る環境となっている[22]。したがって、MLNは、SV/TAAへの免疫応答の誘導が可能な場を提供する。この仮説と整合することには、MLNにおけるT細胞の数は、SV/LacZ処置の24時間後に有意に増加した(
図2b)。コントロールリンパ節として、発明者らは鼠径部リンパ節(ILN)を用いた。これは、腹膜腔を直接ドレーンせず[29]、SV/Flucのi.p.注射によって標的とされなかった(
図2a及び示されない更なるデータ)。MLNとは異なり、SV/LacZ注射の24時間後にILNにおけるT細胞の増大はなかった(
図2b)。MLN中へのT細胞の明らかな流入に加えて、T細胞の早期の活性化マーカーであるCD69の発現は、SV/LacZ処置の24時間後にMLN中のCD8
+T細胞上に強く誘導された(
図2c)。対照的に、コントロールILN由来のCD8
+T細胞は、CD69発現の僅かな増大がこの細胞において観察されたが(
図2c)、活性化は有意に弱かった。合わせて考えると、
図2は、腫瘍細胞ターゲティングが、効果的なSV/LacZ治療に必要とされないことを実証し、そしてSV/LacZ治療中の免疫細胞活性化が、腫瘍部位から遠く離れて、例えばSV注射部位をドレーンするリンパ節において、起こり得ることを示唆する。
【実施例3】
【0054】
SV/LacZ処置は、CD8
+T細胞のロバストな活性化を誘導する。
SV注射部位をドレーンするリンパ節におけるCD8
+T細胞の活性化が観察されたので、活性化CD8
+T細胞がその後、腹膜において注射部位中に移行し得ると予期された。フローサイトメトリーを用いて、最初のSV/LacZ注射の7日後までの腹膜中への多数のCD8
+T細胞の流入が確かめられた(
図3a)。この腹膜CD8
+T細胞は、NKG2Dのアップレギュレーション[30]及びリンパ節ホーミング受容体L-セレクチンのダウンレギュレーション[31]から明らかなように、活性化された(
図3b)。腹膜中への活性化CD8
+T細胞のロバストな流入に加えて、少数の高NKG2D、低L-セレクチンCD8
+T細胞が、SV/LacZで処置された肺CT26.CL25腫瘍を保有するマウスの肺においても見ることができた(
図3b)。
【実施例4】
【0055】
SV/LacZ処置は、LacZ特異的エフェクタ及びCD8
+メモリーT細胞を誘導する。
SV治療有効性が、ベクター及び腫瘍細胞双方からのLacZの発現によって決まるという事実(
図1及び
図9)は、SV/LacZ治療中に観察されたCD8+T細胞のロバストな活性化(
図2及び
図3)と共に、CD8
+T細胞がこのモデルにおけるSV/LacZの抗癌効果に関わっている可能性があることを示唆する。それにもかかわらず、CD8
+T細胞活性化は、SV/GFP及びSV/Fluc治療中にも起こった(
図11)。但し、これらのベクターの治療有効性は有意に低かった(
図1)。SV/LacZを他のベクターから区別するものは、その後LacZ発現腫瘍を標的とし得るLacZ特異的CD8
+T細胞を直接刺激する能力である、ということが仮定された。この概念を実証するために、SV/LacZをLacZ未感作腫瘍なしマウス中に注射し、腹膜における4日後のロバストなLacZ特異的CD8
+T細胞応答を観察した(
図12a)。LacZ特異的CD8
+T細胞の増大は、SV/LacZで処置した、s.c.腫瘍保有マウスの脾臓においても(
図4a及び
図4b)、i.p.及び肺腫瘍保有マウスの腹膜においても(
図4c)、そして肺腫瘍保有マウスの肺においても(
図4d、左のパネル)観察された。コントロールベクターで処置したマウスにおいて見られたLacZ特異的CD8
+T細胞は、より少なかった(
図12b)。予想されるように、SV/LacZ処置マウス由来のLacZ特異的CD8
+T細胞は、活性化(高NKG2D、低L-セレクチン)表現型によって特徴付けられた(
図4d、右のパネル、及び
図12a、右のパネル)。合わせて考えると、これらの結果は、SV/LacZ処置が、LacZ特異的CD8
+T細胞の強力な活性化に至ることを実証し、これは、
図1に見られるLacZ依存的な有効性の機構となり得る。
【0056】
SV/LacZ治療中に生じたLacZ特異的CD8
+T細胞のサブセットが最終的にメモリーT細胞へと発生するかを判定するために、i.p.CT26.CL25腫瘍を保有するSV/LacZ処置長期生存マウス由来の脾細胞を分析した。LacZ四量体を記憶マーカーCD127と組み合わせて用いて、このマウスにおいてLacZ特異的CD127
+CD8
+メモリーT細胞の集団(CD8
+T細胞脾細胞集団の凡そ1%)を、最後のSV/LacZ注射後3カ月超経過後に同定した。未感作マウス由来のコントロール脾細胞は、この集団をバックグラウンドレベル(0.1%未満)でしか有していなかった(
図12c)。
【実施例5】
【0057】
SV/LacZ処置は、CT26.CL25腫瘍細胞に対するリンパ球細胞毒性を誘導する。
図4dに示すように、SV/LacZで処置した肺腫瘍保有マウスの肺におけるLacZ特異的CD8
+T細胞は、活性化されているように見えた。この細胞の機能を調べるために、SV/LacZ(又はSV/GFP)治療を受けた肺腫瘍(CT26.CL25)保有マウスから得た肺リンパ球を用いて、ex vivo細胞毒性アッセイを実行した。
図5aに示すように、CT26.CL25腫瘍細胞の生存度は、模擬又はSV/GFP処置マウス由来のリンパ球と共培養した場合と比較して、SV/LacZ処置マウス由来の肺リンパ球と共培養した場合に有意に低かった。特筆すべきことには、SV/LacZ-処置マウス由来の肺リンパ球は、LacZネガティブCT26.WT腫瘍細胞の生存度に影響を及ぼさず、肺における免疫応答の抗原特異的性質を実証した。この結果と整合することには、LacZ発現CT26.CL25腫瘍細胞と共培養したSV/LacZ処置マウス由来の肺リンパ球だけが、IFN-γ産生の増大を示した(
図5b)。
【実施例6】
【0058】
CD8
+T細胞は、SV/LacZの抗原特異的治療効果の増強に必要とされる。
細胞毒性及びIFN-γ分泌物アッセイの結果(
図5)は、SV/LacZが、コントロールベクターよりもCT26.CL25腫瘍に対する治療効果が有意に強いというin vivo観察(
図1)と、そしてSV/LacZが、腫瘍保有マウスにおいて強力なLacZ特異的CD8
+T細胞応答を誘導するという観察(
図4)と矛盾がない。合わせて考えると、これらの結果は、SV/TAA治療の抗原特異的利益へのCD8
+T細胞の関与を強く示唆する。観察される治療効果におけるCD8
+T細胞の役割を直接判定するために、s.c.(
図6a)、腹膜(
図6b)及び肺(
図6c)腫瘍を保有するマウスにおけるCD8
+T細胞集団を欠乏させて、CD8
+T細胞がないと、SV/LacZの治療有効性が全3モデルにおいて大きく減少することを確かめた。
【実施例7】
【0059】
SV/LacZ治療は、エピトープ拡大を誘導する。
驚くべきことに、肺リンパ球とは異なって、SV/LacZ処置腫瘍治癒マウス由来の脾細胞は、CT26.CL25細胞だけでなく、LacZネガティブCT26.WT細胞に対しても細胞毒性を獲得することが見出された(
図7a)。一貫して、この脾細胞をCT26.WT細胞と共培養した場合に、IFN-γ産生の増大が観察された。但し、産生の程度は、CT26.CL25細胞と共培養した場合よりも低かった(
図7b)。これらの結果に基づいて、SV/LacZ処置腫瘍治癒マウスが、LacZネガティブCT26.WT腫瘍に対する抵抗性を獲得した可能性があると仮定した。そうであったかを判定するために、CT26.WT細胞をSV/LacZ処置腫瘍治癒マウス中にi.v.注射(
図7c)又はi.p.注射(データ示さず)し、腫瘍が増殖しないことを見出した。対照的に、腫瘍増殖は、コントロール(未感作)マウスにおいて容易に観察された。これらの結果は、内因性CT26腫瘍抗原への免疫応答が、SV/LacZ治療の結果として発現した可能性があり、これは或いは、エピトープ拡大、抗原拡大、決定基拡大、又は抗原カスケードとして知られている概念である[32]。エピトープ拡大がSV/LacZ治療中に起こったことを確認するために、gp70に焦点を合わせた。これは内因性CT26 TAAである。
図7dに示すように、SV/LacZ処置腫瘍治癒マウスから採った脾細胞由来のIFN-γ分泌物の増大が、この細胞をgp70又はLacZペプチドのいずれかと培養した後に観察されたが、いずれのペプチドも未感作脾細胞からはIFN-γ分泌物を誘導しなかった。これらの結果は、SV/LacZ処置腫瘍治癒マウス由来の脾細胞が、LacZに加えてgp70等の内因性CT26 TAAに応答し得たことを示す。この観察と整合することには、gp70四量体を用いたフローサイトメトリー分析は、gp70特異的CD8
+T細胞の数が、未感作マウスと比較して、SV/LacZ処置腫瘍治癒マウスの脾臓で増加することを実証した(
図7e)。合わせて考えると、これらの結果は、CT26.CL25腫瘍に対するSV/LacZ治療がエピトープ拡大を誘導し、これが、CT26腫瘍上に発現された他の抗原に対する免疫の発現に至ったことを示す。
【0060】
本明細書中に開示されるマウス癌TAA系を用いて、癌治療用のTAAを運ぶSVベクターの使用について吟味し、以下の重要な観察がなされた:(i)SVは、TAAの免疫原性送達のための潜在的に強力な治療プラットホームとなる、(ii)SV/TAAから得た治療利益は、腫瘍細胞の直接的なターゲティングを必ずしも必要としない、(iii)SV/TAA治療は、注射部位をドレーンするリンパ節、特に、i.p.SV注射の場合、MLNへのTAAの一過性の早期の送達を含む、(iv)SV/TAA治療は、強力なTAA特異的CD8+T細胞応答を誘導し、これはその後、同種のTAAを発現する腫瘍細胞に向け直される、(v)SV/TAA治療はエピトープ拡大を生じ、TAA損失又は修飾による腫瘍エスケープの問題に対する解決策となり得る、そして(vi)SV/TAA治療は最終的に、腫瘍保有マウスの長期の生存、及び多数のTAAに対する長期生存型CD8+メモリーT細胞の生成に至る。
【0061】
これらの発見に基づいて、SV/TAA治療中のCD8+T細胞媒介抗腫瘍免疫の活性化のための4工程モデル(誘導、細胞毒性、エピトープ拡大、及び記憶)が提供される。
【0062】
ここ数十年の間、TAAの免疫原性送達のための様々な方法が開発されており、こうした方法としては、抗原提示細胞(APC)を標的とする[33]、又はリンパ節中に直接注射される[34]ベクターの使用が挙げられる。本明細書中に開示するように、SV/TAAの単回i.p.注射により、MLNへのTAAの迅速な免疫原性送達がもたらされることが実証された。MLNにおけるTAA発現は一過性であり、おそらく、感度が高いIVISイメージング系を用いなければ気付かないままであったろう。i.p.注射は、動物研究で頻繁に用いられており、診療所で次第に一般的となっている[35]。したがって、この部位での一過性のTAA発現及び以降のT細胞活性化(
図2)が観察されたことは、癌免疫治療の開発に広く影響し得る。この関連において、Hsuらは最近、i.p.注射したサイトメガロウイルスが、MLNにおけるCD169
+マクロファージの増殖感染をもたらすことを実証した[28]。これと整合することには、マクロファージの欠乏が実質的に、MLNにおけるSV由来異種タンパク質の発現を引き下げた(未発表の結果)。しかしながら、特筆すべきことには、抗TAA CD8
+T細胞免疫の誘導は、SV/LacZで処置されたマクロファージ欠乏マウスにおいて有意には阻害されなかった(未発表の結果)。この相違は、マクロファージ及び樹枝細胞(DC)の双方が、ドレーンリンパ節においてウイルス抗原を発現する一方で、DCのみがこの抗原を未感作CD8
+T細胞に効率的に提示するという観察によって解決されるかもしれない[36]。別の考えられる説明は、MLN以外の更なるリンパ節も腹膜腔をドレーンするという事実である。確かに、一過性の異種タンパク質発現が、SV処置マウスの腹腔においても観察された(
図10、上のパネル)。SV/TAA治療中のMLNへのTAA送達の役割を明らかにするために、更なる研究が必要であり、そして進行中である。
【0063】
MLN中のT細胞の活性化に加え、SV/TAA注射後早期にCD8
+T細胞が全身に再分布するように思われる。腹膜(
図11a)及び肺(
図13)を含めた種々の組織が、SV/TAA注射後の最初の1~2日にCD8
+T細胞の減少を示す。これらの組織からのT細胞の明らかな流出は、MLN中へのその流入と同時に起こる(
図2B)。この早期の相の間に、SV/TAA処置マウスにおける肺腫瘍が既に縮んでいるように見えることに注目すると興味深い(
図1c)。その上、この早期の治療効果は、TAAを発現しないコントロールベクターで処置したマウスにおいても(
図1c)、TAAを発現しない腫瘍を保有するSV処置マウスにおいても(
図9)、そしてCD8
+T細胞が枯渇したSV/TAA処置マウスにおいても(
図6c)観察された。これについて考えられる1つの説明は、SVによるナチュラルキラー(NK)細胞の活性化である。SV治療が、腫瘍保有マウスにおいてロバストなNK細胞応答を誘導することが以前に示されている[19]。CT26肺モデルにおいて、肺中へのNKG2D発現NK細胞の迅速な流入が、SV注射2日後という早い時期に、TAA特異的CD8
+T細胞の最大流入の数日前に観察された(
図13)。
【0064】
癌ワクチン戦略の制約の1つは、腫瘍細胞集団に本来備わっている異質性及びゲノム不安定性が、処置によって誘導される選択圧と結びついた結果、ワクチンに用いられたTAAを失う又は修飾することによって腫瘍による回避が起きてしまうおそれがあることである[38、39]。この関連において、興味深く、且つ治療上重要な意義を持つ観察は、エピトープ拡大、即ち、腫瘍に内在するがSV/TAA治療中にベクターによって送達されない[32]新しいTAAを組み込む、抗腫瘍T細胞応答の増幅が、誘導されることである(
図7)。臨床試験は、エピトープ拡大の分析を含むように次第になってきており[40]、場合によっては、エピトープ拡大の誘導と治療有効性との正の相関関係が示されている[25]。これらの成果は、癌ワクチンの設計におけるパラダイムシフトを意味している可能性があり、このパラダイムシフトによって、異なる様々な抗原を発現する腫瘍に対してさえも潜在的に効果的であり得る強い多様化されたT細胞応答の誘導に重点が置かれるであろう。
【0065】
要約すると、本願は、癌治療のためのSV/TAAの使用方法を提供し、そしてSV/TAA有効性の基礎をなす機構についての価値ある洞察を提供する。本発明に従えば、TAAを運ぶSVベクターを用いて、SV有効性を大いに増強させるだけでなく、腫瘍細胞ターゲティング(これまでは、効果的な腫瘍溶解性SV治療の前提条件であった)の必要性を排除することによって、SV抗癌治療をより広範に応用する道を開く。本発見は、SVの腫瘍溶解能についての先行研究[15、16]に加えて、SV核酸[41]及びレプリコン粒子[42]ワクチンの使用に関するこれまでの研究を称賛し、且つ更に詳しく述べ、そしてSV抗癌治療の多用途性を示す。
【0066】
(参考文献)
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2. Liu, TC, Galanis, E, and Kirn, D (2007). Clinical trial results with oncolytic virotherapy: a century of promise, a decade of progress. Nat Clin Pract Oncol 4: 101-117.
3. Wein, LM, Wu, JT, and Kirn, DH (2003). Validation and analysis of a mathematical model of a replication-competent oncolytic virus for cancer treatment: implications for virus design and delivery. Cancer Res 63: 1317-1324.
4. Vaha-Koskela, MJ, et al. Resistance to two heterologous neurotropic oncolytic viruses, Semliki Forest virus and vaccinia virus, in experimental glioma. J Virol 87: 2363-2366.
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【0067】
本発明は、本明細書中に記載される特定の実施形態による範囲に限定されるべきでない。確かに、本発明の種々の修飾は、本明細書中に記載されるものに加えて、前述の記載及び添付の図から、当業者にとって明らかであろう。そのような修飾は、添付の請求項の範囲内に含まれることが意図される。
【0068】
全ての値が近似であり、記載のために提供されていることが更に理解されるべきである。
【0069】
特許、特許出願、刊行物、製品の記載、及びプロトコルは、本願の全体を通して引用され、その開示は、あらゆる目的において、参照によってその全体が本明細書の一部となる。