(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】車載ノイズキャンセレーション適応フィルタの発散
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G10K11/178 120
(21)【出願番号】P 2020076532
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-04-10
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512168283
【氏名又は名称】ハーマン インターナショナル インダストリーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ケビン ジェイ. バスター
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド トランピー
(72)【発明者】
【氏名】チェン シユ
【審査官】齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-061481(JP,A)
【文献】特開平07-064573(JP,A)
【文献】国際公開第2007/142111(WO,A1)
【文献】特開平05-303387(JP,A)
【文献】特開平05-303386(JP,A)
【文献】米国特許第05295136(US,A)
【文献】国際公開第2011/125216(WO,A1)
【文献】特開平07-210175(JP,A)
【文献】特開平07-248784(JP,A)
【文献】特開2002-311960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムの安定性を制御する方法であって、
前記方法は、
適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタに対応するフィルタ係数を受け取ることと、
前記フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
前記パラメータの閾値に対する比較に基づいて、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出すること
であって、前記閾値が、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の先行する適応のフィルタ係数から計算される前記パラメータの平均値から計算される動的閾値である、ことと、
発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することと、
を含む
、方法。
【請求項2】
前記制御可能フィルタが複数の係数を含み、前記パラメータが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記係数の少なくとも一部分の絶対値の和である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記制御可能フィルタが複数の係数を含み、前記パラメータが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記係数の少なくとも一部分の最大値である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータの閾値に対する比較に基づいて前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することが、前記パラメータが前記閾値を超えるとき前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記閾値が、利得係数で乗算された前記少なくとも1つの制御可能フィルタの複数の先行する適応から採取された前記パラメータの平均値である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記パラメータの閾値に対する比較に基づいて前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することが、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応からの前記パラメータを、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値に対して比較することと、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記現在の適応からの前記パラメータと、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記1つ以上の以前の適応からの前記平均値との差が閾値を超えると、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、前記ANCシステムと、発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタとのうちの少なくとも1つの動作を停止させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記フィルタ係数をゼロにリセットすることと、前記少なくとも1つの制御可能フィルタが再適応することを可能にすることとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記フィルタ係数を、前記ANCシステムのメモリに記憶されたフィルタ係数値のセットにリセットすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
発散した前記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、前記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記適応フィルタコントローラの前記漏れ値が、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記発散した周波数で増加する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの最高振幅フィルタ係数が所定の閾値を下回ると、前記適応フィルタコントローラの前記漏れ値を減少させることをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムであって、
適応伝達特性と、センサから受信するノイズ信号とに基づいてアンチノイズ信号を生成するように構成される少なくとも1つの制御可能フィルタであって、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記適応伝達特性が、フィルタ係数のセットにより特徴付けられる
、少なくとも1つの制御可能フィルタと、
プロセッサ及びメモリを含み、前記ノイズ信号と、車両の車室内に位置するマイクから受信するエラー信号とに基づいてフィルタ係数の前記セットを適応させるようにプログラムされた適応フィルタコントローラと、
少なくとも前記適応フィルタコントローラと通信する発散コントローラであって、
前記発散コントローラが、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記適応伝達特性の現在の適応に対応するフィルタ係数の前記セットを受け取ることと、
フィルタ係数の前記セットの少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記現在の適応から計算された前記パラメータ
と、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値との差が閾値
を超えると、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
を行うようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを含む
、発散コントローラと、
を備える
、AN
Cシステム。
【請求項14】
前記閾値が、前記ANCシステムのためにプログラムされた所定の静的な閾値である、請求項
13に記載のANCシステム。
【請求項15】
前記発散コントローラが、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、前記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させるようにさらにプログラムされる、請求項
13に記載のANCシステム。
【請求項16】
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)のためにプログラムされる非一過性のコンピュータ可読媒体で具体化され、命令を備えるコンピュータプログラム製品であって、前記命令は、
適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応に対応するフィルタ係数のセットを受け取ることと、
前記フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの前記現在の適応から計算された前記パラメータ
と、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値との差が閾値
を超えると、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、前記現在の適応の間に前記少なくとも1つの制御可能フィルタの適応伝達特性を修正することと、
を行わせる
、コンピュータプログラム製品。
【請求項17】
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出する前記命令が、時間領域で、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含み、
前記適応伝達特性を修正する前記命令が、前記時間領域で
、前記発散した周波数
に対応する制御可能フィルタのフィルタ係数をゼロにリセットすること、前記発散した周波数で前記フィルタ係数を減衰させること、または前記発散した周波数で前記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含む、
請求項
16に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項18】
前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出する前記命令が、周波数領域で、前記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含み、
前記適応伝達特性を修正する前記命令が、前記周波数領域で、マイクから受信されるエラー信号、及びメモリに記憶される前記少なくとも1つの制御可能フィルタの以前の適応からのフィルタ係数を使用し、前記発散した周波数
に対応する入力信号をノッチアウトすることを含む、
請求項
16に記載のコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はアクティブノイズキャンセレーションに関し、より詳細には、エンジン運転指令解除システム及び/またはロードノイズキャンセレーションシステムにおける適応フィルタの発散の影響を軽減することに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズコントロール(ANC)システムは、車室の中で等、聴取環境の中で所望されないノイズを適応除去するためにフィードフォワード構造及びフィードバック構造を使用し、所望されないノイズを減衰させる。ANCシステムは、概して、不要な可聴ノイズと破壊的に干渉するためにキャンセレーション音波を生成することによって不要なノイズを打ち消すまたは減少させる。ノイズ、及び振幅はほぼ同一であるが、ノイズに対する位相が反対である「アンチノイズ(anti-noise)」が、ある場所で音圧レベル(SPL)を減少させるときに破壊的干渉が生じる。車室聴取環境では、所望されないノイズの潜在的な発生源は、エンジン、車両のタイヤと車両がその上を移動している道路の表面との間の相互作用、及び/または車両の他の部分の振動により放射される音である。したがって、不要なノイズは、速度、道路状況、及び車両の動作状態に応じて変わる。
【0003】
ロードノイズキャンセレーション(RNC)システムは、車室の内部で望ましくない交通雑音を最小限に抑えるために車両に実装される特殊なANCシステムである。RNCシステムは、不要な可聴交通雑音につながるタイヤと道路の接触面から生じる道路誘発振動を検知するために振動センサを使用する。車室の内部のこの不要な交通雑音は、次いで、理想的には、1人以上の聴取者の耳で削減されるノイズに対して位相では反対であり、振幅では同一である音波を生成するためにスピーカを使用することによって消されるまたはレベルが削減される。係る道路雑音を消すことは、車両乗客にとってより快い乗車につながり、それは、車両製造業者が軽量の材料を使用し、それによってエネルギー消費を減少させ、排気量を減少させることを可能にする。
【0004】
エンジン運転指令解除(EOC)システムは、車両エンジン及び排気システムからの狭帯域音響放出及び振動放出から発する望ましくない車両内部ノイズを最小限に抑えるために、車両に実装される特殊なANCシステムである。EOCシステムは、基準としてエンジン速度を表す基準信号を生成する毎分回転数(RPM)センサ等の非音響信号を使用する。この基準信号は、車両内部で聞こえるエンジンノイズと位相が反対である音波を生成するために使用される。EOCシステムはRPMセンサからのデータを使用するため、EOCシステムは振動センサを必要としない。
【0005】
RNCシステムは、通常、広帯域の信号を打ち消すように設計される。一方、EOCシステムは、個々のエンジン運転指令等の狭帯域の信号を打ち消すように設計され、最適化される。車両の中のANCシステムは、RNCとEOCの両方の技術を提供し得る。係る車両ベースのANCシステムは、通常、ノイズ入力(例えば、RNCシステム内の振動センサからの加速度入力)及び車両の車室内部の様々な位置に位置するエラーマイクの信号に基づいてWフィルタを連続的に適応させる最小平均二乗(LMS)適応フィードフォワードシステムである。ANCシステムは、適応Wフィルタの不安定性または発散の影響を受けやすい。WフィルタがLMSシステムに適応されると、Wフィルタの1つ以上は、エラーマイクの場所での圧力を最小限に抑えるために収束するよりむしろ、発散する場合がある。概して、時間領域で表される適応Wフィルタの第1のタップは高い振幅を有し、振幅は後のタップでゼロまで減少する。しかしながら、適応Wフィルタが発散する場合、適応Wフィルタはこの性質を有さない場合がある。適応フィルタの発散は、広帯域または狭帯域のノイズブーストまたはANCシステムの他の望ましくない挙動につながる場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つ以上の例示的な実施形態では、アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムにおける安定性を制御するための方法が提供される。方法は、適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタに対応するフィルタ係数を受け取ることを含んでよい。方法は、フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算すること、パラメータの閾値に対する比較に基づいて少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出すること、及び発散した少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することをさらに含んでよい。
【0007】
実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含んでよい。制御可能フィルタは複数の係数を含む場合がある。パラメータは、少なくとも1つの制御可能フィルタの係数の少なくとも一部分の絶対値の和であってよい。パラメータは、少なくとも1つの制御可能フィルタの係数の少なくとも一部分の最大値であってよい。
【0008】
さらに、パラメータの閾値に対する比較に基づいて少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することは、パラメータが閾値を超えるとき少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することを含んでよい。閾値は、少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の先行する適応のフィルタ係数から計算されたパラメータの統計分析から計算された動的閾値であってよい。閾値は、利得係数で乗算した少なくとも1つの制御可能フィルタの複数の先行する適応から採取したパラメータの平均値であってよい。
【0009】
さらに、パラメータの閾値に対する比較に基づいて少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することは、少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応からのパラメータを、少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値に対して比較すること、及び少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応からのパラメータと、少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの平均値との差が閾値を超えるとき、1つ以上の制御可能フィルタの発散を検出することを含んでよい。
【0010】
発散した少なくとも一つの制御可能フィルタの特性を修正することは、ANCシステムと、発散した少なくとも1つの制御可能フィルタとのうちの少なくとも1つの動作を停止することを含んでよい。代わりに、発散した少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することは、少なくとも1つの制御可能フィルタのフィルタ係数をゼロにリセットすることと、少なくとも1つの制御可能フィルタが再適応できるようにすることとを含む場合もあれば、発散した少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することは、少なくとも1つの制御可能フィルタのフィルタ係数を、ANCシステムのメモリに記憶されたフィルタ係数値のセットにリセットすることを含む場合もある。
【0011】
さらに、発散した少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することは、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含んでよい。適応フィルタコントローラの漏れ値は、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数で増加してもよい。さらに、方法は、少なくとも1つの制御可能フィルタの最高振幅フィルタ係数が所定の閾値を下回ると、適応フィルタコントローラの漏れ値を減少させることをさらに含んでよい。
【0012】
1つ以上の追加の実施形態は、適応伝達特性及びセンサから受信するノイズ信号に基づいてアンチノイズ信号を生成するように構成された少なくとも1つの制御可能フィルタを含むANCシステムを対象にしてよい。少なくとも1つの制御可能フィルタの適応伝達特性は、フィルタ係数のセットにより特徴付けられてよい。ANCシステムは、適応フィルタコントローラ、及び少なくとも適応フィルタコントローラと通信する発散コントローラをさらに含んでよい。適応フィルタコントローラは、ノイズ信号と、車両の車室に位置するマイクから受信するエラー信号とに基づいてフィルタ係数のセットを適応させるようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを含んでよい。発散コントローラは、少なくとも1つの制御可能フィルタの適応伝達特性の現在の適応に対応するフィルタ係数のセットを受け取り、フィルタ係数のセットの少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算し、パラメータの閾値に対する比較に基づいて少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを含んでよい。
【0013】
実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含んでよい。閾値は、ANCシステムのためにプログラムされた所定の静的な閾値であってよい。発散コントローラは、少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応から計算されたパラメータと、少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値との差が閾値を超えると、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出するようにプログラムされてよい。発散コントローラは、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出したことに応えて、適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させるようにさらにプログラムされてよい。
【0014】
1つの以上の追加の実施形態は、アクティブノイズキャンセレーション(ANC)のためにプログラムされる非一過性のコンピュータ可読媒体で具体化されたコンピュータプログラム製品を対象としてよい。コンピュータプログラム製品は、適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応に対応するフィルタ係数のセットを受け取ること、フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算すること、パラメータの閾値に対する比較に基づいて少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出すること、及び少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、現在の適応の間に少なくとも1つの制御可能フィルタの適応伝達特性を修正することのための命令を含んでよい。
【0015】
実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含んでよい。少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出するための命令が、時間領域で、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含んでよく、適応伝達特性を修正するための命令が、時間領域で、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数をゼロにリセットすること、発散した周波数のフィルタ係数を減衰すること、または発散した周波数で適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含んでよいコンピュータプログラム製品が提供される。さらに、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出するための命令は、周波数領域で、少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含んでよく、適応伝達特性を修正するための命令は、周波数領域で、マイクから受信したエラー信号及びメモリに記憶された少なくとも1つの制御可能フィルタの以前の適応からのフィルタ係数を使用し、発散した周波数をノッチアウトすること(notching out)を含んでよい。
例えば、本願は以下温項目を提供する。
(項目1)
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムの安定性を制御する方法であって、
適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタに対応するフィルタ係数を受け取ることと、
上記フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
上記パラメータの閾値に対する比較に基づいて、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することと、
を含む、上記方法。
(項目2)
上記制御可能フィルタが複数の係数を含み、上記パラメータが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記係数の少なくとも一部分の絶対値の和である、上記項目に記載の方法。
(項目3)
上記制御可能フィルタが複数の係数を含み、上記パラメータが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記係数の少なくとも一部分の最大値である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
上記パラメータの閾値に対する比較に基づいて上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することが、上記パラメータが上記閾値を超えるとき上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
上記閾値が、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の先行する適応のフィルタ係数から計算される上記パラメータの統計分析から計算される動的閾値である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
上記閾値が、利得係数で乗算された上記少なくとも1つの制御可能フィルタの複数の先行する適応から採取された上記パラメータの平均値である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
上記パラメータの閾値に対する比較に基づいて上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することが、
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応からの上記パラメータを、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値に対して比較することと、
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記現在の適応からの上記パラメータと、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記1つ以上の以前の適応からの上記平均値との差が閾値を超えると、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、上記ANCシステムと、発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタとのうちの少なくとも1つの動作を停止させることを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記フィルタ係数をゼロにリセットすることと、上記少なくとも1つの制御可能フィルタが再適応することを可能にすることとを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記フィルタ係数を、上記ANCシステムのメモリに記憶されたフィルタ係数値のセットにリセットすることを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
発散した上記少なくとも1つの制御可能フィルタの特性を修正することが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、上記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
上記適応フィルタコントローラの上記漏れ値が、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記発散した周波数で増加する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの最高振幅フィルタ係数が所定の閾値を下回ると、上記適応フィルタコントローラの上記漏れ値を減少させることをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムであって、
適応伝達特性と、センサから受信するノイズ信号とに基づいてアンチノイズ信号を生成するように構成される少なくとも1つの制御可能フィルタであって、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記適応伝達特性が、フィルタ係数のセットにより特徴付けられる、上記少なくとも1つの制御可能フィルタと、
プロセッサ及びメモリを含み、上記ノイズ信号と、車両の車室内に位置するマイクから受信するエラー信号とに基づいてフィルタ係数の上記セットを適応させるようにプログラムされた適応フィルタコントローラと、
少なくとも上記適応フィルタコントローラと通信する発散コントローラであって、
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記適応伝達特性の現在の適応に対応するフィルタ係数の上記セットを受け取ることと、
フィルタ係数の上記セットの少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
上記パラメータの閾値に対する比較に基づいて上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
を行うようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを含む、上記発散コントローラと、
を備える、上記アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システム。
(項目15)
上記閾値が、上記ANCシステムのためにプログラムされた所定の静的な閾値である、上記項目に記載のANCシステム。
(項目16)
上記発散コントローラが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記現在の適応から計算された上記パラメータと、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの1つ以上の以前の適応からの同じパラメータの平均値との差が上記閾値を超えると、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出するようにプログラムされる、上記項目のいずれか一項に記載のANCシステム。
(項目17)
上記発散コントローラが、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、上記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させるようにさらにプログラムされる、上記項目のいずれか一項に記載のANCシステム。
(項目18)
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)のためにプログラムされる非一過性のコンピュータ可読媒体で具体化され、命令を備えるコンピュータプログラム製品であって、上記命令は、
適応フィルタコントローラから、少なくとも1つの制御可能フィルタの現在の適応に対応するフィルタ係数のセットを受け取ることと、
上記フィルタ係数の少なくとも一部分の分析に基づいてパラメータを計算することと、
上記パラメータの閾値に対する比較に基づいて上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することと、
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出することに応えて、上記現在の適応の間に上記少なくとも1つの制御可能フィルタの適応伝達特性を修正することと、
を行わせる、上記コンピュータプログラム製品。
(項目19)
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出する上記命令が、時間領域で、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含み、
上記適応伝達特性を修正する上記命令が、上記時間領域で、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの上記発散した周波数をゼロにリセットすること、上記発散した周波数で上記フィルタ係数を減衰させること、または上記発散した周波数で上記適応フィルタコントローラの漏れ値を増加させることを含む、
上記項目に記載のコンピュータプログラム製品。
(項目20)
上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散を検出する上記命令が、周波数領域で、上記少なくとも1つの制御可能フィルタの発散した周波数を検出することを含み、
上記適応伝達特性を修正する上記命令が、上記周波数領域で、マイクから受信されるエラー信号、及びメモリに記憶される上記少なくとも1つの制御可能フィルタの以前の適応からのフィルタ係数を使用し、上記発散した周波数をノッチアウトすることを含む、
上記項目のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム製品。
(摘要)
アクティブノイズキャンセレーション(ANC)システムは、様々な時間領域または周波数領域の振幅特性に基づいて、1つ以上の制御可能フィルタが適応すると、1つ以上の制御可能フィルタの発散を検出するための適応フィルタ発散検出器を含んでよい。制御可能フィルタの発散の検出時、ANCシステムが動作を停止される場合もあれば、特定のスピーカがミュートされる場合もある。代わりに、ANCシステムは、ノイズキャンセルシステムの適切な動作を復元するために発散した制御可能フィルタを修正してよい。これは、適応フィルタコントローラの漏れ値を調整することを含む場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の1つの以上の実施形態に係る、ロードノイズキャンセレーション(RNC)を含むアクティブノイズコントロール(ANC)システムを有する車両の環境ブロック図である。
【
図2】R個の加速度計信号及びL個のスピーカ信号を含むような大きさに作られたRNCシステムの関連部分を示すサンプル概略図である。
【
図3】エンジン運転指令解除(EOC)システム及びとRNCシステムを含むANCシステムのサンプル概略ブロック図である。
【
図4】EOCシステム内の所与のRPMのエンジン運転指令ごとの周波数のサンプルのルックアップテーブルである。
【
図5】本開示の1つ以上の実施形態に係る、発散コントローラを含むANCシステムを表す概略ブロック図である。
【
図6】本開示の1つ以上の実施形態に従って、ANCシステムの適応フィルタの補正発散を検出するための方法を示すフローチャートである。
【
図7】本開示の1つ以上の実施形態に係る、閾値を使用する周波数領域での制御可能フィルタの分析のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
必要に応じて、本発明の詳細な実施形態が本明細書に開示されるが、開示された実施形態は、様々な及び代替的な形態で具体化され得る本発明の単なる例であることを理解されたい。図は必ずしも縮尺通りではなく、一部の特徴は、特定の構成要素の詳細を示すために誇張または最小限に抑えされてよい。したがって、本明細書に開示する特定の構造及び機能の詳細は、限定的ではなく、単に本発明を様々に利用するために当業者を教示するための代表的な基準にすぎないとして解釈されるべきである。
【0018】
本明細書に説明するコントローラまたは装置の任意の1つ以上は、様々なプログラミング言語及び/または技術を使用し、作成されるコンピュータプログラムからコンパイルまたは解釈されてよいコンピュータ実行可能命令を含む。一般的に、(マイクロプロセッサ等の)プロセッサは、例えばメモリ、コンピュータ可読媒体などから命令を受け取り、命令を実行する。処理部は、ソフトウェアプログラムの命令を実行できる非一過性のコンピュータ可読記憶媒体を含む。コンピュータ可読記憶媒体は、電子記憶装置、磁気記憶装置、光学記憶装置、電磁記憶装置、半導体記憶装置、または任意のその適切な組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
図1は、1つ以上の振動センサ108を有する車両102のためのロードノイズキャンセレーション(RNC)システム100を示す。振動センサは、他の車軸及びシャシの構成要素だけではなく、車両のサスペンション、サブホイールの振動挙動を監視するためにも車両102全体に配置される。RNCシステム100は、1つ以上のマイク112を使用し、振動センサ108からの信号の適応フィルタリングによりアンチノイズを生成する広帯域のフィードフォワード及びフィードバックのアクティブノイズコントロール(ANC)フレームワークまたはシステム104と統合されてよい。アンチノイズ信号は、次いで1つ以上のスピーカ124を通して再生されてよい。S(z)は、単一のスピーカ124と単一のマイク112との間の伝達関数を表す。
図1は、簡略にするためだけに単一の振動センサ108、マイク112、及びスピーカ124を示すが、典型的なRNCシステムが、複数の振動センサ108(例えば、10以上)、マイク112(例えば、4~6)、及びスピーカ124(例えば、4~8)を使用することに留意されたい。
【0020】
振動センサ108は、加速度計、力ゲージ、受振器、線形可変差動変圧器、ひずみゲージ、及びロードセルを含む場合があるが、これに限定されるものではない。加速度計は、例えば、その出力信号振幅が加速度に比例する装置である。様々な加速度計が、RNCシステムでの使用に利用できる。これらは、1つ、2つ、3つの通常は直交する方向での振動に敏感である加速度計を含む。これらの多軸加速度計は、通常、そのX方向、Y方向、及びZ方向で検知された振動のために別々の電気出力(またはチャネル)を有する。したがって、単軸加速度計及び多軸加速度計は、加速度の大きさ及び位相を検出するために振動センサ108として使用されてよく、向き、運動、及び振動を検知するために使用されてもよい。
【0021】
ノイズ、及び路面150上で移動するホイール106から生じる振動は、車両102のサスペンション装置110またはシャシの構成要素に機械的に結合された振動センサ108の1つ以上により検知されてよい。振動センサ108は、検出された道路誘発振動を表す振動信号であるノイズ信号X(n)を出力してよい。複数の振動センサが考えられ、それらの信号が別々に使用される場合もあれば、当業者により知られる様々な方法で結合される場合もあることに留意されたい。特定の実施形態では、ホイール106及び路面150の相互作用から生じるノイズを示すノイズ信号X(n)を出力するために、マイクが振動センサの代わりに使用されてもよい。ノイズ信号X(n)は、二次経路フィルタ122により二次経路(つまり、アンチノイズスピーカ124とエラーマイク112との間の伝達関数)を推定するモデル化された伝達特性S’(z)を用いてフィルタリングされてよい。
【0022】
ホイール106及び路面150の相互作用から生じる交通雑音も、乗客室の中に機械的に及び/または音響的に伝達され、車両102内部の1つ以上のマイク112により受け取られる。1つの以上のマイク112は、
図1に示すように、例えば座席116のヘッドレスト114に位置してよい。代わりに、1つ以上のマイク112は、車両102の内部の乗員が聞く音響雑音場を検知するために、車両102のヘッドライナー、またはなんらかの他の適切な場所に位置してもよい。路面150及びホイール106の相互作用から生じる交通雑音は、一次経路(つまり、実際のノイズ源とエラーマイクの間の伝達関数)を表す伝達特性P(z)に従ってマイク112に伝達される。
【0023】
マイク112は、マイク112によって検出される車両102の車室内に存在するノイズを表すエラー信号e(n)を出力してよい。RNCシステム100では、制御可能フィルタ118の適応伝達特性W(z)は、適応フィルタコントローラ120により制御されてよく、適応フィルタコントローラ120は、フィルタ122によりモデル化された伝達特性S’(z)でフィルタリングされたエラー信号e(n)及びノイズ信号X(n)に基づいて既知の最小二乗平均(LMS)に従って動作してよい。制御可能フィルタ118は、多くの場合Wフィルタと呼ばれる。LMS適応フィルタコントローラ120は、エラー信号e(n)に基づいて伝達特性W(z)フィルタ係数を更新するように構成された積算クロススペクトルを提供してよい。ノイズキャンセレーションの改善につながるW(z)を適応させる、または更新するプロセスは収束と呼ばれる。収束は、所与の入力信号のために適応の速度を管理するステップサイズにより制御されるエラー信号(e)nを最小限に抑えるWフィルタの作成を指す。ステップサイズは、制御可能Wフィルタ118の各更新に基づいてWフィルタ係数の大きさの変化を制限することによってe(n)を最小限に抑えるためにアルゴリズムがどの程度速く収束するのかを決定するスケーリング係数である。
【0024】
アンチノイズ信号Y(n)は、識別された伝達特性W(z)及び振動信号、または振動信号の組み合わせX(n)に基づいて、制御可能フィルタ118及び適応フィルタコントローラ120により形成される適応フィルタにより生成されてよい。アンチノイズ信号Y(n)は、理想的には、スピーカ124を通して再生されるとき、車両の車室の占有者に聞こえる交通雑音に実質的に逆相であり、振幅が同一であるアンチノイズが占有者の耳、及びマイク112の近くで生成されるような波形を有する。スピーカ124からのアンチノイズは、マイク112の近くの車室内の交通雑音と結合し、この場所での交通雑音誘発音圧レベル(SPL)の減少をもたらす。特定の実施形態では、RNCシステム100は、エラー信号e(n)を生成するために、音響エネルギーセンサ、音響強度センサ、または音響粒子速度もしくは加速度センサ等の乗客室内の他の音響センサからのセンサ信号を受信してもよい。
【0025】
車両102が動作している間、プロセッサ128は、振動センサ108及びマイク112からのデータを収集し、任意選択で処理して、車両102が使用するデータ及び/またはパラメータを含むデータベースまたはマップを構築してよい。収集したデータは、車両102が将来使用するために記憶装置130に局所的に、またはクラウドに記憶されてよい。記憶装置130にローカルに記憶するために役立つ場合があるRNCシステム100に関係するデータのタイプの例は、最適Wフィルタ、Wフィルタ閾値、初期Wフィルタ、Wフィルタ利得係数、漏れインクリメント及びデクリメントの量、加速度計もしくはマイクのスペクトルまたは時間に依存する信号、ならびにエンジンSPL対トルク及びRPMを含むが、これに限定されるものではない。1つ以上の実施形態では、プロセッサ128及び記憶装置130は、適応フィルタコントローラ120等の1つ以上のシステムコントローラと統合されてよい。
【0026】
上述したように、典型的なRNCシステムは、車両の固体伝搬振動挙動を検知し、アンチノイズを発生させるためにいくつかの振動センサ、マイク、及びスピーカを使用してよい。振動センサは、複数の出力チャネルを有する多軸加速度計であってよい。例えば、三軸加速度計は、通常、そのX方向、Y方向、及びZ方向で検知された振動に別々の電気出力を有する。RNCシステムの典型的な構成は、例えば、6本のエラーマイク、6つのスピーカ、及び4個の三軸加速度計または6個の二軸加速度計から生じる加速信号の12のチャネルを有してよい。したがって、RNCシステムは、複数のS’(z)フィルタ(つまり、二次経路フィルタ122)、及び複数のW(z)フィルタ(つまり、制御可能フィルタ118)も含む。
【0027】
図1に示す簡略化したRNCシステムの概略図は、各スピーカ124と各マイク112との間にS(z)で表す1つの二次経路を示す。上述したように、RNCシステムは、通常複数のスピーカ、マイク、及び振動センサを有する。したがって、6個のスピーカ、6本マイクのRNCシステムは、合計36の二次経路(つまり6x6)を有する。相応して、6個のスピーカ、6本のマイクのRNCシステムは、同様に、二次経路ごとに伝達関数を推定する36個のS’(z)フィルタ(つまり、格納された二次経路フィルタ122)を有してよい。
図1に示すように、RNCシステムは、振動センサ(つまり、加速度計)108からの各ノイズ信号X(n)と、各スピーカ224との間に1つのW(z)フィルタ(つまり、制御可能フィルタ118)も有する。したがって、12個の加速度計信号、6個のスピーカのRNCシステムは72個のW(z)フィルタを有してよい。加速度計信号の数、スピーカ、及びW(z)フィルタの関係性を
図2に示す。
【0028】
図2は、加速度計208からのR個の加速度計信号[X
1(n)、X
2(n),...X
R(n)]及びスピーカ224からのL個のスピーカ信号[Y
1(n)、Y
2(n),...Y
L(n)]を含むような大きさに作られたRNCシステム200の関連部分を示すサンプル概略図である。したがって、RNCシステム200は、加速度計信号のそれぞれとスピーカのそれぞれとの間にR*L個の制御可能フィルタ(またはWフィルタ)218を含んでよい。一例として、12個の加速度計出力(つまり、R=12)を有するRNCシステムは、6個の二軸加速度計または4個の三軸加速度計を利用してよい。したがって、同じ例では、アンチノイズを再現するための6個のスピーカ(つまり、L=6)を有する車両は、合計で72個のWフィルタを使用してよい。L個のスピーカのそれぞれで、R個のWフィルタ出力がスピーカのアンチノイズ信号Y(n)を生成するために合計される。L個のスピーカのそれぞれは、増幅器(図示せず)を含んでよい。1つ以上の実施態様では、R個のWフィルタによりフィルタリングされたR個の加速度計信号は、スピーカに送信される増幅されたアンチノイズ信号Y(n)を生成するために増幅器に送られる電気アンチノイズ信号y(n)を作り出すために合計される。
【0029】
図1に示すANCシステム104は、エンジン運転指令解除(EOC)システムを含んでもよい。上述したように、EOC技術は、車両内部で聞こえるエンジンノイズに位相が反対である音声を生成するために、エンジン速度を表すRPM信号等の非音響信号を基準として使用する。共通EOCシステムは、RPM信号を使用してアンチノイズを生成して、解除されるエンジン運転指令と周波数で同一のエンジン運転指令信号の生成を誘導し、それを適応フィルタリングしてアンチノイズ信号を作り出すために狭帯域フィードフォワードANCフレームワークを利用する。アンチノイズ源から聴取位置またはエラーマイクに二次経路を介して伝達された後、アンチノイズは、理想的には、エンジン及び排気パイプにより生成され、エンジンから聴取位置に及び排気管出口から聴取位置に伸長する一次経路によりフィルタリングされた結合音と反対の位相であるが同じ振幅を有する。したがって、エラーマイクが車室に(つまり、十中八九聴取位置にまたは聴取位置近くに)常駐する場所で、エンジン運転指令ノイズ及びアンチノイズの重畳は、エラーマイクにより受信される音響エラー信号がエンジン及び排気により生成される(理想的には解除される)1つまたは複数のエンジン運転指令以外の音声だけを記録するように、理想的にはゼロになるであろう。
【0030】
一般的には、例えばRPMセンサ等の非音響センサが、基準として使用される。RPMセンサは、例えば、旋回する鋼ディスクに隣接して配置されるホール効果センサであってよい。光学センサまたは誘導センサ等の他の検出原理も使用できる。RPMセンサからの信号は、エンジン運転指令のそれぞれに対応する任意の数の基準エンジン運転指令信号を生成するための誘導信号として使用できる。基準エンジン運転指令は、EOCシステムを形成する1つ以上の狭帯域適応フィードフォワードLMSブロックにより生成されるノイズキャンセル信号の基礎を成す。
【0031】
図3は、RNCシステム300とEOCシステム340の両方を含むANCシステム304の例を示す概略ブロック図である。RNCシステム100と同様に、RNCシステム300は、上述した要素108、112、118、120、122、及び124の動作とそれぞれ一致する要素308、312、318、320、322、及び324を含んでよい。EOCシステム340は、エンジンの回転速度を示す、エンジン駆動軸または他の回転軸の回転を示すRPM信号344(例えば、方形波信号)を提供してよいRPMセンサ342を含んでよい。一部の実施形態では、RPM信号344は、車両ネットワークバス(図示せず)から得られてよい。発せられたエンジン運転指令は駆動軸RPMに正比例するので、RPM信号344は、エンジン及び排気システムにより生成される周波数を表す。このようにして、RPMセンサ342からの信号は、車両のエンジン運転指令のそれぞれに対応する基準エンジン運転指令信号を生成するために使用されてよい。したがって、RPM信号344は、各エンジンRPMで発せられるエンジン運転指令のリストを提供する、RPM対エンジン運転指令周波数のルックアップテーブル346と併せて使用されてよい。
【0032】
図4は、ルックアップテーブル346を生成するために使用されてよい例のEOCキャンセレーション同調テーブル400を示す。例のテーブル400は、所与のRPMのためのエンジン運転指令ごとの周波数を(サイクル/秒で)示す。示されている例では、4つのエンジン運転指令が示される。LMSアルゴリズムは入力としてRPMを採取し、このルックアップテーブル400に基づいて指令ごとに正弦波を生成する。上述したように、テーブル400の関連RPMは、駆動軸RPMであってよい。
【0033】
図3を参照し直すと、ルックアップテーブル346から取り出される、検知されたRPMでの所与のエンジン運転指令の周波数は、周波数発生器348に供給され、それにより所与の周波数で正弦波を生成してよい。この正弦波は、所与のエンジン運転指令のためのエンジン運転指令ノイズを示すノイズ信号X(n)を表す。RNCシステム300と同様に、周波数発生器348からのこのノイズ信号X(n)は、対応するアンチノイズ信号Y(n)をラウドスピーカ324に提供する適応制御可能フィルタ318、つまりWフィルタに送信されてよい。図示されるように、この狭帯域EOCシステム340の様々な構成要素は、エラーマイク312、適応フィルタコントローラ320、及び二次経路フィルタ322を含む、広帯域RNCシステム300と同一であってよい。スピーカ324により放送されるアンチノイズ信号Y(n)は、エラーマイク312に近接している場合がある聴取者の耳の場所での実際のエンジン運転指令ノイズと実質的に位相がずれているが、振幅が同一であるアンチノイズを生成し、それによってエンジン運転指令の音声振幅を削減する。エンジン運転指令ノイズは狭帯域であるため、エラーマイク信号e(n)は、LMSベースの適応フィルタコントローラ320に渡される前にバンドパスフィルタ350、352によりフィルタリングされてよい。一実施形態では、LMS適応フィルタコントローラ320の適切な動作は、周波数発生器348により出力されるノイズ信号X(n)が、同じバンドパスフィルタパラメータを使用し、バンドパスフィルタリングされるときに達成される。
【0034】
複数のエンジン運転指令の振幅を同時に削減させるために、EOCシステム340は、RPM信号344に基づいてエンジン運転指令ごとにノイズ信号X(n)を生成するための複数の周波数発生器348を含んでよい。一例として、
図3は、エンジン速度に基づいてエンジン運転指令ごとに一意のノイズ信号(例えば、X
1(n)、X
2(n)等)を生成するための2つの係る周波数発生器を有する2次数EOCシステムを示す。2つのエンジン運転指令の周波数が異なるため、(それぞれBPF及びBPF2と名前を付けられた)バンドパスフィルタ350、352は、異なる高域フィルタ及び低域フィルタのコーナー周波数を有する。周波数発生器及び対応するノイズキャンセレーション構成要素の数は、最終的には、車両の特定のエンジンのエンジン運転指令の数に基づいて変わる。2次数EOCシステム340がRNCシステム300と結合してANCシステム304を形成すると、3つの制御可能フィルタ318から出力されるアンチノイズ信号Y(n)は、合計され、スピーカ信号S(n)としてスピーカ324に送信される。同様に、エラーマイク312からのエラー信号e(n)は、3つのLMS適応フィルタコントローラ320に送信されてよい。
【0035】
ANCシステムでの不安定性またはノイズキャンセレーション性能の減少につながる場合がある1つの主要な要因は、適応WフィルタがフィードフォワードLMSシステムによる適応中に発散するときに発生する。適応Wフィルタが適切に収束するとき、エラーマイクの場所での音圧レベル(及び関連するエラー信号e(n))は最小限に抑えられる。しかしながら、これらの適応Wフィルタの1つ以上が発散すると、代わりにノイズブーストが発生する場合がある。概して、適応Wフィルタの第1のタップは高い振幅を有し、振幅は後のタップでゼロまで減少する。しかしながらLMS ANCシステムが発散する場合、1つ以上のWフィルタは、この性質を有さない場合がある。したがって、システム及び方法は、ANCシステムの性能及び安定性を維持するために適応フィルタの発散を検出し、制御するために利用されてよい。簡潔には、Wフィルタ値(つまり、適応フィルタ係数)は、時間領域または周波数領域のどちらかで所定の閾値に比較されてよい。Wフィルタの値がこれらの閾値を超える場合、発散軽減がノイズブーストまたは他の望ましくない動作を妨げるために利用されてよい。発散軽減は、例えばANCシステムをミュートすること、発散したWフィルタをゼロ状態または他のなんらかの記憶された状態にリセットすること、発散した周波数を含む周波数で漏れを加えること等を含む場合がある。
【0036】
図5は、適応Wフィルタの発散を検出し、ANCシステム性能を最適化するために使用し得る重要なANCシステムパラメータの多くを示す車両ベースのANCシステム500の概略ブロック図である。説明を簡単にするために、
図5に示すANCシステム500は、RNCシステム100等のRNCシステムの構成要素及び特徴とともに示される。しかしながら、ANCシステム500は、
図3と関連して図示し、説明する等のEOCシステムを含んでよい。したがって、ANCシステム500は、追加のシステム構成要素を特徴とする、
図1~
図3と関連して説明するもの等のRNC及び/またはEOCシステムの概略図である。類似する構成要素には、類似する規則を使用し、番号付けしてよい。例えば、RNCシステム100と同様に、ANCシステム500は、上述の要素108、110、112、118、120、122、及び124の動作とそれぞれ一致する要素508、510、512、518、520、522、及び524を含んでよい。
【0037】
示されるように、ANCシステム500は、制御可能フィルタ518と適応フィルタコントローラ520との間の経路に沿って配置された発散コントローラ562をさらに含んでよい。発散コントローラ562は、制御可能フィルタ518の発散を検出するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリ(図示せず)を含んでよい。これは、時間領域または周波数領域のどちらかまたは両方で適応フィルタ値(例えば、フィルタ係数)からのサンプルを分析することによってパラメータを計算することを含んでよい。この目的のために、
図5は、時間領域と周波数領域との間で信号を変換するための高速フーリエ変換(FFT)ブロック564、566、及び逆高速フーリエ変換(IFFT)ブロック568を明示的に示す。したがって、
図5の変数名は、
図1~
図3に示す変数名からわずかに改変されている。大文字の変数は周波数領域の信号を表す。一方、小文字の変数は時間領域の信号を表す。文字「n」は時間領域のサンプルを示す。一方、文字「k」は周波数領域のビンを示す。
図5の図は複数の信号の存在をさらに示し、R個の基準信号、L個のスピーカ信号、及びM個のエラー信号を示す。以下の表は、
図5の様々な記号及び変数の詳細な説明を提供する。
【表1】
【0038】
図1と同様に、振動センサ508等のノイズ入力からのノイズ信号x
r[n]は、二次経路フィルタ522によって上述した二次時経路の記憶された推定値を使用し、モデル化された伝達特性
【数1】
で変換され、フィルタリングされてよい。さらに、制御可能フィルタ518(例えば、Wフィルタ)の適応伝達特性w
r、l[n]は、適応フィルタを提供するためにLMS適応フィルタコントローラ(または単にLMSコントローラ)520により制御されてよい。二次経路フィルタ522によりフィルタリングされるノイズ信号、及びマイク512からのエラー信号e
m[n]は、LMS適応フィルタコントローラ520に対する入力である。アンチノイズ信号y
l[n]は、LMSコントローラ520及びノイズ信号x
r[n]により適応される制御可能フィルタ518により生成されてよい。
【0039】
発散コントローラ562は、LMS適応フィルタコントローラ520により生成される制御可能フィルタ518の適応ごとに時間領域フィルタ係数wr、l[n]及び/または周波数領域フィルタ係数wr、l[k]を受け取ってよい。さらに、発散コントローラ562は、フィルタ係数を分析することによって1つ以上のパラメータを計算してよい。1つ以上の制御可能フィルタの発散が検出される場合、発散コントローラ562は、発散した少なくとも1つの制御可能フィルタ518の特性を修正するように適応フィルタコントローラに命令する、調整信号等の信号を適応フィルタコントローラ520に送り返してよい。例えば、RNCシステムまたはEOCシステムのどちらかで、制御可能Wフィルタ518の発散の検出に対する応答は、発散コントローラ562が、例えば以前に記憶されていた調整済みのWフィルタを使用し、発散したWフィルタ値の代わりになることであってよい。発散コントローラ562によるWフィルタ発散の検出に対する他の応答は、制御可能フィルタ518を、実質的には制御可能フィルタをリセットするゼロから成るフィルタで置換することを含んでよい。発散コントローラ562による他の発散軽減処置は、発散した周波数を含む周波数で漏れを追加すること、Wフィルタ係数の一部もしくはすべてを減衰させること、または将来の発散事象のリスクを下げるためにステップサイズを削減することを含んでよい。
【0040】
発散コントローラ562は、発散した制御可能Wフィルタを検出するための専用のコントローラである場合もあれば、LMSコントローラ520等、ANCシステム内の別のコントローラまたはプロセッサと統合される場合もある。代わりに、発散コントローラ562は、ANCシステム500内の他の構成要素とは別個である車両102の中の別のコントローラまたはプロセッサに統合されてもよい。
【0041】
図5は、時間領域と周波数領域との両方での処理によるANCシステムを明確に示すが、時間領域処理だけで実現されるANCシステムもあり得る。この場合、二次経路推定値は時間領域に記憶され、LMS更新は時間領域でも発生する。一実施形態では、発散コントローラ562による発散検出も時間領域で発生する場合がある。別の実施形態では、時間領域WフィルタのFFTは、周波数領域Wフィルタからのパラメータを計算することによって発散検出を可能にできる。
【0042】
図6は、ANCシステム500内の発散したまたは誤って適応した(mis-adapted)制御可能Wフィルタの影響を軽減するための方法600を示すフローチャートである。開示された方法の様々なステップは、単独で、またはANCシステムの他の構成要素と併せてのどちらかで発散コントローラ562によって実施されてよい。
【0043】
ステップ610で、発散コントローラ562は、時間領域(つまり、wr、l[n])及び/または周波数領域(つまり、wr、l[k])の1つ以上の制御可能フィルタ518を示す入力を受け取ってよい。この目的のために、適応フィルタコントローラ520から出力された時間領域または周波数領域のフィルタ係数のサンプルのグループが、発散コントローラ562により受け取られてよい。一実施形態では、制御可能Wフィルタは、時間領域の128のタップから成り立ってよい。代替実施形態では、より多いまたはより少ないフィルタタップもあり得る。フィルタ値またはフィルタ係数は、LMS適応フィルタコントローラ520から受け取られてよく、制御可能フィルタ518の現在の適応を表してよい。上述したように、各制御可能フィルタ518は、適応フィルタコントローラ520により連続的に適応され、その変化の速度はステップサイズにより制限される。制御可能フィルタ518の更新速度は、入信xr[k,n]及びem[k,n]データのサンプルレート及びブロック長により設定されてよい。発散コントローラ562は、制御可能フィルタごとにこれらの更新されたWフィルタ係数を受け取ってよい。
【0044】
ステップ620で、Wフィルタデータの分析が実行されてよく、1つ以上のパラメータは時間領域または周波数領域のどちらかで計算されてよい。フィルタ係数の分析に基づいて、制御可能Wフィルタの時間領域バージョンで発散または誤適応(mis-adaptation)を検出するためのいくつかの方法が存在する。一実施形態では、発散コントローラ562により計算されるパラメータは、制御可能Wフィルタ全体のタップの絶対値の和であってよい。別の実施形態では、発散コントローラ562により計算されるパラメータは、制御可能フィルタの係数の第2の半分または最後の4分の1等の、制御可能Wフィルタの後半部分のタップの絶対値の和であってよい。さらに別の実施形態では、パラメータは、いずれかが所定の振幅を超えるかどうかを判断するために第2の半分(または最後の4分の1)等の、制御可能フィルタの少なくとも一部分の個々のタップ値の最大値であってよい。また、制御可能フィルタ特性パラメータは周波数領域で計算されてもよい。周波数領域で計算されるパラメータは、例えば周波数範囲にわたって位相偏移を含んでよい。別の実施形態では、発散コントローラ562により計算されるパラメータは、Wフィルタ係数のすべてまたは一部分の和であってよい。さらに別の実施形態では、パラメータは、制御可能Wフィルタの周波数範囲の少なくとも一部分でのWフィルタ係数の最大値であってよい。様々な実施形態では、これらの和または最大値は、Wフィルタ係数の実数、虚数、または大きさを使用し、計算されてよい。
【0045】
また、ステップ620は、将来のWフィルタ分析を実行する上で使用するためのパラメータ(複数可)及び/または現在のWフィルタ値を記憶することを含んでもよい。一実施形態では、現在のWフィルタの直前のWフィルタからのパラメータ(複数可)またはWフィルタデータが記憶されてよい。別の実施形態では、統計分析が、(例えば、閾値を決定するために)複数の前のWフィルタから得られたパラメータに対して実行されてよい。例えば、複数の先行するWフィルタから得られるパラメータの短期または長期の平均は、閾値として、または閾値に対する比較のために現在のWフィルタからの差を得るためにのどちらかで、ステップ630で使用するための専用のパラメータとして計算され、記憶されてよい。これらの実施形態のうちの特定の実施形態では、所定の利得余裕が、複数の先行するWフィルタから計算された平均値(または他の統計値)に加算されて、閾値を形成してよい。これは、平均値または他の統計値に20%、50%、または100%の利得余裕を加算することを含んでよい。このようにして、複数の先行するWフィルタからの平均値は、閾値を得るために利得係数(例えば、120%、150%、200%等)で乗算されてよい。他の実施形態では、他の利得係数も考えられる。さらに、1つ以上の制御可能Wフィルタが、Wフィルタ発散を軽減する上で将来使用するために記憶されてよい。
【0046】
ステップ630で、現在の制御可能Wフィルタから計算されたパラメータは、対応する閾値に直接的に比較されてよい。現在のWフィルタからのパラメータが閾値を超える場合、発散コントローラ562は、発散または誤適応が検出されたと結論付けてよい。現在のWフィルタからのパラメータが閾値を超えない場合、発散コントローラ562は、発散または誤適応が検出されなかったと結論付けてよい。例えば、発散コントローラ562は、最高の振幅周波数領域Wフィルタ係数値またはWフィルタの時間領域フィルタタップの最後の10分の1の絶対値の平均を計算し、ピーク振幅または和を対応する閾値に対して比較して、発散事象が発生したのか、それとも誤適応が発生したのかを判断してよい。別の例として、周波数範囲の始まりと終わりの間の位相差が閾値を超える場合、発散が検出される場合がある。
【0047】
代わりに、現在のWフィルタから計算されたパラメータは、上述したように、1つ以上の以前のWフィルタからの同じパラメータの統計値(例えば、平均値)に対して比較されてよい。現在のWフィルタのパラメータと統計値の差は、次いでW閾値と呼ぶ場合がある閾値に対して比較されてよい。差が閾値を超える場合、発散コントローラ562は、発散または誤適応が検出されたと結論付けてよい。差が閾値を超えない場合、発散コントローラ562は、発散が発生していないと結論付けてよい。例えば、一実施形態では、発散コントローラ562は、Wフィルタの時間領域フィルタタップの最後の6分の1の絶対値の平均を計算し、それを、Wフィルタの時間領域フィルタタップの最後の10分の1の絶対値の以前のWフィルタの平均と比較してよく、所定の閾値を超えるいかなる差もWフィルタの発散を示す場合があることに留意する。
【0048】
1つ以上の実施形態では、閾値は所定の静的な閾値セットであってよく、ANCシステム及びその対応するアルゴリズムの同調の間に訓練を受けたエンジニアによってプログラムされてよい。代替実施形態では、閾値は、ステップ620に関して上述した1つ以上の先行するWフィルタで得られたパラメータの統計分析から計算された動的な閾値であってよい。例えば、閾値は、複数の先行するWフィルタから採取されるパラメータの短期のまたは長期の平均値であってよい。さらに、平均値は、動的な閾値を確立するために、上述した利得係数によって拡張されてよい。さらに別の実施形態では、閾値は、単に、利得係数により乗算されてもよい以前のWフィルタからのパラメータの値であってよい。
【0049】
ステップ640を参照すると、閾値を超え、調整可能なフィルタの発散を示すとき、方法はステップ650に進んでよい。ステップ650で、軽減処置は、車室内のノイズブーストまたはWフィルタ発散の影響の削減を最小限に抑えるために、発散した制御可能Wフィルタに適用されてよい。しかしながら、Wフィルタが検出されないとき、方法は、プロセスが次のフィルタ適応に対応する新しいWフィルタ係数で繰り返すことができるように、いかなる軽減も省略し、ステップ610に戻ってよい。
【0050】
ステップ650で、発散軽減は、発散または誤って適応した、時間領域または周波数領域のWフィルタのどちらかまたは両方のいずれかに適用されてよい。一般的に、これは、発散が検出された少なくとも1つの制御可能フィルタ518の特性を修正することを伴ってよい。係る特性は、発散コントローラ562から適応フィルタコントローラ520の送信される調整信号に部分的に基づいて、または調整信号に応えて修正されてよい。特定の実施形態では、対策は、Wフィルタ全体にまたは周波数領域のWフィルタの特定の周波数だけに適用されてよい。(時間領域または周波数領域のどちらかで)制御可能Wフィルタ全体に適用できる軽減方法は、1つ以上のWフィルタのフィルタ係数をリセットしてそれを再適応できるようにすること、またはフィルタ係数をANCシステムのメモリに記憶されたフィルタ係数値のセットに設定することを含んでよい。メモリに記憶されたフィルタ係数値のセットは、訓練を受けたエンジニアにより同調された、または発散が検出される前に制御可能フィルタから得られたWフィルタ等の、既知の良好な状態にあるWフィルタからのフィルタ係数値を含んでよい。例えば、制御可能フィルタは、例えば発散前の10秒または1分等のそれが有していたフィルタ係数を使用し、リセットされてよい。代わりに、制御可能Wフィルタは、ANCシステム500が電源投入されたとき等の初期状態にリセットされてもよい。別の軽減技術は、発散が検出されたときに、単にANCシステムの動作を停止させるまたはミュートすることであってよい。一実施形態では、発散したWフィルタだけが動作を停止される、またはゼロにセットされ、発散が検出されたときに適応することを許されない場合がある。一実施形態では、すべてのフィルタステップの振幅、またはすべての周波数領域フィルタ係数の大きさは、発散が検出されると、削減できる。制御可能Wフィルタの特性は、フィルタ係数を特定の値に設定することによって等、直接的に修正される場合がある。代わりに、制御可能Wフィルタ518の特性は、間接的に修正される場合がある。例えば、すべての周波数での漏れの値は、発散が検出されたときに発散コントローラ562からの調整信号に応えて適応フィルタコントローラ520により増加する場合がある。
【0051】
周波数領域の方式でだけに適用する対策は、発散周波数でまたは発散周波数の近くでWフィルタ係数を減衰させること、または発散した周波数でもしくは発散した周波数の近くで漏れの値を追加するまたは増加させることを含んでよい。周波数領域で適用された軽減の一実施形態では、発散コントローラ562は、入力信号xr[n]及びem[n]またはその周波数領域の同等物でノッチフィルタまたはバンド拒否フィルタを追加することによって、ステップ630で識別された不安定な発散した周波数を適応的にノッチアウトすることができる。これにより、適応フィルタコントローラ520がANCシステム500の将来の動作での問題のある周波数範囲内のWフィルタの振幅を増加させることを防ぎ得る。これは、上記に概略したWフィルタのリセット、またはこれらの不安定な発散した周波数もしくはすべての周波数での漏れの使用により任意選択で達成される場合がある。
【0052】
上述したように、1つ以上の追加の実施形態では、漏れの値は、最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値を超えるとき等、発散が検出されたときにLMS適応フィルタコントローラ520で増加する場合がある。適応フィルタコントローラ520の漏れ値を増加させると、制御可能Wフィルタ518の振幅が減少する場合がある。この漏れ値は、最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値をまだ超えている間は、
図6に示すプロセスフローを通して反復のたびに所定量、連続的に増加する場合がある。最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値を超えなくなると、漏れの値は、最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値を超えない限りは、
図6に示すプロセスフローを通して後続の反復の間に所定の量、減少する場合がある。適応フィルタコントローラ520の漏れ値を減少させると、制御可能Wフィルタ518の振幅が拡大する場合がある。このようにして、適応フィルタコントローラの漏れ値は、閾値に関するフィルタ係数の大きさに基づいて連続的に上下に調整されてよい。
【0053】
一実施形態では、漏れは、Wフィルタのいずれかの最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値を超えると、ANCシステム500のすべてのWフィルタに対して増加する。別の実施形態では、漏れは、特定のスピーカについて、そのスピーカと関連するWフィルタのいずれかの最高振幅のWフィルタ係数が所定の閾値を超えると、すべてのWフィルタで増加する。LMSコントローラ520は、発散コントローラ562から調整信号を受信することに応えて漏れ値を増加または減少させるように命令されてよい。上述したように、制御可能フィルタ518の1つ以上のために漏れ値を調整することは、Wフィルタ係数の大きさに間接的に影響を与える場合がある。例えば、漏れを増加させると、概してフィルタ係数の大きさは減少する場合がある。一方、漏れを減少させると、概してフィルタ係数の大きさは拡大する場合がある。
【0054】
上述したように、スピーカ512及びノイズ入力(例えば、各エンジン運転指令または振動センサ)の組み合わせごとに1つの制御可能なWフィルタが存在する。したがって、12個の加速度計、6個のスピーカのRNCシステムは、72個のWフィルタ(つまり12x6=72)を有し、5つのエンジン運転指令、6個のスピーカEOCシステムは30個のWフィルタ(つまり、5x6=30)を有する。
図6に示す方法600は、必要とされる計算力を削減し、それによってCPUサイクルを節約するために、Wフィルタのあらゆる新しいセットが計算された後に、またはあまり頻繁にではなく実行される場合がある。
【0055】
図7は、周波数領域閾値比較の例示的な分析を示す。ANCシステム500は、制御可能フィルタごとの限界値(つまり、W閾値)のセットを記憶してよい。通常の動作条件下では、すべての制御可能なWフィルタ点はW閾値に満たない。発散動作条件または誤適応条件下では、Wフィルタの1つ以上の係数はW閾値を超える。発散コントローラ562は、適応フィルタコントローラ520または発散コントローラ562が対策を適用し得るように、どのWフィルタ及び/またはWフィルタのどのビンがW閾値を超えたのかを検出し、示してよい。
【0056】
図1、
図3、及び
図5は、それぞれLMSベースの適応フィルタコントローラ120、320、及び520を示しているが、最適な制御可能Wフィルタ118、318、及び518を適応させるまたは作成するための他の方法及び装置も可能である。例えば、1つ以上の実施形態では、LMS適応フィルタコントローラの代わりにWフィルタを作成し、最適化するためにニューラルネットワークを利用してよい。他の実施形態では、LMS適応フィルタコントローラの代わりに最適なWフィルタを作成するために機械学習または人工知能を使用してよい。
【0057】
上述の明細書では、発明的主題は、特定の例示的な実施形態を参照して説明してきた。しかしながら、特許請求の範囲に述べる発明的主題の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加え得る。明細書及び図面は、限定的ではなく例示的であり、修正は、発明的主題の範囲内に含まれることが意図される。したがって、発明的主題の範囲は、単に説明される例によりではなく、特許請求の範囲及びその法的均等物によって決定されるべきである。
【0058】
例えば、任意の方法または処理の特許請求の範囲に記載されたステップは、任意の順序で実行されてもよく、特許請求の範囲に示す特定の順序に限定されない。式は、信号ノイズの影響を最小限に抑えるために、フィルタで実装されてよい。さらに、任意の装置の特許請求の範囲に記載される構成要素及び/または要素は、様々な組み合わせでまとめられてよい、またはそれ以外の場合、操作に関して構成されてよく、したがって特許請求の範囲に記載される特定の構成に限定されない。
【0059】
当業者は、機能的に同等な処理ステップを時間領域または周波数領域のどちらかで行うことができることを理解する。したがって、図、特に
図1~
図3の信号処理ブロックごとに特に明示的に記載していないが、信号処理は、時間領域、周波数領域、またはその組み合わせのどれかで起こり得る。さらに、様々な処理ステップは、デジタル信号処理の一般的な用語で説明しているが、本開示の範囲から逸脱することなくアナログ信号処理を使用し、同等なステップを実行してもよい。
【0060】
利点、有利な点、及び課題への解決策が特定の実施形態に関して上記説明されてきた。しかしながら、いずれかの利点、有利な点、課題への解決策、またはいずれかの特定の利点、有利な点、もしくは解決策を行わせることができ、もしくはより顕著にすることができるいずれかの要素は、いずれかまたは全ての請求項の重要な、必要とされる、または必須の特徴もしくは構成要素として解釈されないことになる。
【0061】
用語「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、「含む(includes)」、またはそれらのいずれかの変形は、非排他的な包含を参考にすることを意図しており、その結果、要素のリストを含む処理、方法、品目、構成物、または装置は、記載されたそれらの要素のみでなく、明確にリスト化されておらず、またはそのような処理、方法、品目、構成物、もしくは装置に本来備わった他の要素をも含んでもよい。発明的主題の実践で使用される上述の構造、配置、応用例、割合、要素、材料、または構成要素の他の組み合わせ及び/または修正は、明確に記載されていないものに加えて、同の一般原理から逸脱することなく、変えられてよい、またはそれ以外の場合、特定の環境、製造仕様、設計パラメータ、もしくは他の動作要件に特に適応してよい。