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▶ 旭化成株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】組成物、複合膜、膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20241220BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20241220BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241220BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241220BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241220BHJP
   D04H 1/4334 20120101ALI20241220BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20241220BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20241220BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20241220BHJP
   H01M 8/106 20160101ALI20241220BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20241220BHJP
【FI】
C08L79/08 A
B32B27/12
B32B27/30 D
B32B27/34
C08G73/10
D04H1/4334
D04H1/4382
H01M8/10 101
H01M8/1039
H01M8/106
H01M8/1062
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020093875
(22)【出願日】2020-05-29
(62)【分割の表示】P 2019501816の分割
【原出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2020169323
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-02-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2017032159
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017033885
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017094841
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017134028
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017153592
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017153437
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 由香
(72)【発明者】
【氏名】加持 寛子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】宮本 佳季
(72)【発明者】
【氏名】田中 軌人
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】松本 直子
【審判官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-117663(JP,A)
【文献】特開2010-006940(JP,A)
【文献】特開2010-009758(JP,A)
【文献】特開2010-044971(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0112170(US,A1)
【文献】特開2013-017988(JP,A)
【文献】特開2013-176755(JP,A)
【文献】米国特許第05716567(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101200822(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101984157(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102191581(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0137846(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102586930(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102817096(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103147253(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103710779(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104109242(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104328667(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104928790(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105019047(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105220262(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105648567(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106149087(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00- 79/08
C08G 73/00- 73/26
H01M 8/00- 8/2495
B32B 1/00- 43/00
D04H 1/00- 18/04
CA,REGISTRY/STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造を有するポリイミド(P1)を含む組成物を含み、かつ、平均繊維径が、100nm以上1000nm以下である、ファイバーシートであって、
前記ポリイミド(P1)が、
(i)式(7)で表されるポリイミド(P2)又は
(ii)式(8)で表されるポリイミド(P3)を含む、ファイバーシート。
【化1】
(式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。)
【化2】
(式(7)中、Aは、式(A-1)、(A-2)、(A-3)又は(A-4)で表される2価の有機基;
【化3】
(上記式(A-1)、(A-3)及び(A-4)中、X1は、下記式(X1-1)又は(X1-2)で表される2価の有機基;
【化4】
を表し、式(A-2)及び(A-3)中、Lは、メチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(A-4)中、Rは水酸基を表す。)
を表し、Yは4価の有機基を表し、m及びnは繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
【化5】
(式(8)中、Dは、式(D1)で表される4価の有機基を表し、Yは、Dと異なる4価の有機基を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
【化6】
(式(D1)中、X1は、式(X-1)又は(X-2)で表される2価の有機基;
【化7】
を表す。)
【請求項2】
前記ポリイミド(P2)が、式(5)で表される構造を有するポリイミド(P2’)を含む、請求項1に記載のファイバーシート。
【化8】
(式(5)中、Yは4価の有機基を表し、m及びnは、繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
【請求項3】
前記ポリイミド(P3)が、式(6)で表される構造を有するポリイミド(P3’)を含む、請求項1又は2に記載のファイバーシート。
【化9】
(式(6)中、Yは下記式(Y1)で表される4価基と異なる4価の有機基を表し、k及びlは、繰り返し単位の数を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
【化10】
【請求項4】
前記Yが、脂環式構造を有する4価の有機基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のファイバーシート。
【請求項5】
前記組成物のMw/Mnで算出される分子量分布が、2.60以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のファイバーシート。
【請求項6】
前記ファイバーシートの、窒素雰囲気中、30℃から350℃における重量減少が、10質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のファイバーシート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のファイバーシートと、
プロトン伝導性を有する電解質と、
を備え、
前記ファイバーシート内にプロトン伝導性を有する電解質が存在する、複合膜。
【請求項8】
前記プロトン伝導性を有する電解質が、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体である、請求項7に記載の複合膜。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の複合膜を備える、膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池セル。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池セルを備える、燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、複合膜、膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及びメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す発電装置であり、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。特に、固体高分子電解質型燃料電池は、他の型の燃料電池と比較して低温で作動することから、自動車代替動力源、家庭用コージェネレーションシステム、携帯用発電機等の電力源に使用されている。
固体高分子電解質型燃料電池の電池反応で使用される燃料と触媒の共存下において、過酸化物が生成し、拡散の過程でラジカルとなって電解質膜を劣化させることが知られている。そのため、燃料電池を長期に使用するためには、電解質膜に高い化学耐久性を付与することが必要とされている。
【0003】
一般的にフッ素系樹脂は、炭化水素系樹脂よりもラジカル耐性が高いことが知られており、固体高分子電解質膜にも、主鎖がパーフルオロカーボンで、側鎖にスルホン酸基を有するフッ素系高分子電解質が広く用いられているが、燃料電池の実用化が進むにつれて、さらなる高い耐久性が要求されている。
化学耐久性を向上させる方法としては、塩基性重合体を電解質膜に添加する方法が検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリアゾール化合物を非プロトン性溶媒に溶解させて、フッ素系高分子電解質に添加する技術が開示されている。
特許文献2には、ポリアゾール化合物をアルカリ金属水酸化物に溶解させて、フッ素系高分子電解質に添加する技術が開示されている。
特許文献3には、ポリアゾール化合物を粒子として、炭化水素系高分子電解質に添加する技術が開示されている。
特許文献4には、ポリアゾール化合物を非プロトン性溶媒に溶解させた溶液と、ポリイミド前駆体を非プロトン性溶媒に溶解させた溶液を、フッ素系高分子電解質に添加する技術が開示されている。
【0004】
また、固体高分子電解質型燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
【0005】
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば、水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば、酸素や空気)がそれぞれ供給され、両電極間が外部回路で接続されることにより、燃料電池の作動が実現される。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上で水素が酸化されてプロトンが生じる。このプロトンは、アノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。
一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達する。カソード触媒上では、上記プロトンと酸化剤中の酸素とが反応して水が生成される。そして、このとき電気エネルギーが取り出される。
この際、プロトン交換膜は、ガスバリア隔壁としての役割も果たす必要がある。プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリーク及びカソード側酸素のアノード側へのリーク、すなわち、クロスリークが発生して、いわゆるケミカルショートの状態となって良好な電圧が取り出せなくなる。
【0006】
このような固体高分子電解質型燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転されるのが通常である。特に、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下でも燃料電池の運転が可能であることが望まれている。このような観点から、特許文献5では、高分子電解質とチオエーテル基を有する化合物とアゾール環を有する化合物とを含有する高分子電解質組成物が提案されており、当該組成物を用いることで高い化学的安定性を発現するとされている。特許文献6では、ナノファイバーマットを芯材として使用したプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜が提案されており、当該電解質膜によれば高温での過酷な環境における燃料電池の動作中に熱的及び化学的に堅固でありかつ優れた寸法安定性を呈するとされている。また、特許文献7では、架橋させた多孔膜を用いたプロトン交換膜の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開第2012-084278号公報
【文献】特開第2015-219941号公報
【文献】特開第2013-080701号公報
【文献】特開第2005-336475号広報
【文献】特許第5548445号明細書
【文献】特許第5798186号明細書
【文献】中国特許第104629081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
<本発明の第一の課題>
電解質膜の製造においては、塩基性重合体を溶媒に溶解させた溶液を用いて製造する方法が汎用されている。
しかしながら、塩基性重合体を用いて安定な溶液を調製することは難しく、可溶な非プロトン性溶媒を使用しても、高い濃度で溶解することができないという課題がある。
特許文献1に開示されているポリアゾール化合物を添加した組成物は固形分濃度が低く、当該組成物を用いて所望の厚みの膜を得るためには、複数回塗布、乾燥を繰り返す必要があり、生産性に劣るという課題がある。さらに、塩基性重合体を溶解させることのできる非プロトン性溶媒は、沸点が高く、粘度を高くするために溶媒を除去しようとすると、高温を必要とし、電解質が有する強酸との共存による塩基性重合体の分解、並びに、電解質自体の分解及び変性を生じるという課題がある。
特許文献2には、アルカリ金属水酸化物を用いた塩基性重合体の溶解方法が開示されているが、アルカリ金属水酸化物由来のイオンを取り除く工程が必須となるため、生産性に劣るという課題がある。
特許文献3には、炭化水素系電解質に、ポリアゾール化合物粒子を添加する方法が開示されているが、フッ素系高分子電解質に塩基性重合体粒子を添加すると、粒子が凝集し、安定的に均質な膜を製造することが困難であるという課題がある。
特許文献4においても、上記の課題認識はなく、特許文献1と同様の課題を有する。
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、電解質膜を製造する際の生産性に優れ、かつ、得られる電解質膜に優れた化学耐久性を付与することができる組成物、並びにこれを含む電解質膜及び膜電極接合体を提供することを第一の課題とする。
【0010】
<本発明の第二の課題>
特許文献5に記載の高分子電解質組成物は、運転温度100℃付近及び湿度12RH%程度の高温低加湿条件下で十分な耐久性を発揮するとされているが、より過酷な条件下(例えば、運転温度120℃程度)での耐久性の観点から、電解質には未だ改善の余地がある。
特許文献6に記載の電解質膜についても、上述したような過酷な条件下での使用を想定したときに未だ改善の余地があり、特に膜抵抗(イオン伝導性)及び芯材の電解質への埋め込み性の観点から改善の余地がある。
また、特許文献7には、多孔膜を架橋することにより引張強度が高いプロトン交換膜が得られると記載されているが、耐久性の観点から改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、電解質と芯材との親和性が良好であることに起因する優れた埋め込み性を発現でき、かつ、高温低加湿条件下においても優れた耐久性及びイオン伝導性を発現する組成物、並びにこれを用いた複合膜、膜電極接合体、燃料電池セル及び燃料電池システムを提供することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
<第一の課題を解決するための手段>
本発明者らは、上記第一の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構成を有する組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
<第二の課題を解決するための手段>
本発明者らは、上記第二の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するポリイミドを含む組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。なお、以下の第一群の発明により、上述した第一の課題を解決することができ、以下の第二群の発明により、上述した第二の課題を解決することができる。
【0015】
<第一群の発明>
[1]
(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部と、
(B)塩基性重合体0.1~200.0質量部と、を含み、
前記(B)塩基性重合体が、微粒子である、組成物。
[2]
(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部と、
(B)塩基性重合体0.1~200.0質量部と、を含み、
前記(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が、5.0mmol以下である、組成物。
[3]
前記(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が、3.0mmol以下である、[2]に記載の組成物。
[4]
前記(B)塩基性重合体が、微粒子であり、
前記(B)塩基性重合体の微粒子のうち、粒径が5.0μmを超過する微粒子の割合が10%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]
前記(B)塩基性重合体が、微粒子であり、
前記(B)塩基性重合体の微粒子の平均径が、0.10μm以上5.00μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]
前記(B)塩基性重合体が、イミド及び/又はアミド構造を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
前記(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部に対し、前記(B)塩基性重合体を、0.1質量部以上20.0質量部以下含む、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
前記(B)塩基性重合体が、アゾール環を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
前記(B)塩基性重合体が2以上のアゾール環、及び、前記2以上のアゾール環の間に位置するイミド及び/又はアミド構造を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]
前記(B)塩基性重合体の重量平均分子量(Mw)が、300以上500000以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]
前記(B)塩基性重合体の重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で算出される分子量分布が、2.60以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]
前記(B)塩基性重合体が、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環からなる群から選択される1種以上の構造を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]
前記(B)塩基性重合体が、式(1)で表される構造を有する、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
【化1】
(式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。)
[14]
前記(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体のイオン交換容量が、0.5~3.0ミリ当量/gである、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]
前記(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が、式(2)で表される構造を有するパーフルオロカーボン重合体である、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
-[CF2CX12a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF23))b-Oc-(CFR1d-(CFR2e-(CF2f-X4)]g- (2)
(式(2)中、X1、X2及びX3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、及び炭素数1~3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される。
4は、COOZ、SO3Z、PO32、又はPO3HZを表す。
Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又は、NH4、NH3x1、NH2x1x2、NHRx1x2x3、NRx1x2x3x4からなる群より選択されるアミン類を表す。Rx1、Rx2、Rx3、及びRx4は、それぞれ独立して、アルキル基、又はアレーン基を表す。
ここで、X4がPO32である場合、Zは同一であっても異なっていてもよい。
1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、又はフルオロクロロアルキル基を表す。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数である。
bは、0~8の整数である。
cは、0又は1である。
d、e及びfは、それぞれ独立して、0~6の整数である(ただし、d、e及びfは、同時に0ではない。)。)
[16]
前記(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が、式(4)で表される構造を有する、[1]~[15]のいずれかに記載の組成物。
-[CF2CF2a-[CF2-CF((-O-(CF2m-X4)]g- (4)
(式(4)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、mは1~6の整数であり、X4はSO3Hを表す。)
[17]
[1]~[16]のいずれかに記載の組成物を含む、電解質膜。
[18]
[17]に記載の電解質膜であって、
前記電解質膜に含まれる(B)塩基性重合体は、微粒子であり、
前記電解質膜の膜断面のSEM画像のうち62.8μm×26.0μmの領域内に含まれる前記(B)塩基性重合体の粒子径の変動係数が、0.10以上2.00以下である、電解質膜。
[19]
前記(B)塩基性重合体の粒子径の変動係数が、0.20以上1.50以下である、[18]に記載の電解質膜。
[20]
[17]~[19]のいずれかに記載の電解質膜を含む、膜電極接合体。
[21]
[17]~[19]のいずれかに記載の電解質膜と、
ポリイミドを含む膜と、を備える複合膜であって、
前記ポリイミドが、式(1)で表される構造を有するポリイミドである、複合膜。
【化2】
(式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。)
[22]
前記ポリイミドを含む膜が、ファイバーシート形状である、[21]に記載の複合膜。
【0016】
<第二群の発明>
[23]
式(1)で表される構造を有するポリイミドを含む、組成物。
【化3】
(式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。)
[24]
式(5)で表される構造を有するポリイミドを含む、[23]に記載の組成物。
【化4】
(式(5)中、Yは4価の有機基を表し、m及びnは、繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
[25]
式(6)で表される構造を有するポリイミドを含む、[23]に記載の組成物。
【化5】
(式(6)中、Yは4価の有機基を表し、k及びlは、繰り返し単位の数を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
[26]
前記Yが、式(Y1)で表される、[23]又は[24]に記載の組成物。
【化6】
[27]
前記Yが、脂環式構造を有する4価の有機基である、[23]~[25]のいずれかに記載の組成物。
[28]
Mw/Mnで算出される分子量分布が、2.60以下である、[23]~[27]のいずれかに記載の組成物。
[29]
多孔体又はファイバーシートとしたとき、当該多孔体又はファイバーシートの、窒素雰囲気中、30℃から350℃における重量減少が、10質量%以下である、[23]~[28]のいずれかに記載の組成物。
[30]
[23]~[29]のいずれかに記載の組成物から作製された、多孔体。
[31]
[23]~[29]のいずれかに記載の組成物から作製された、ファイバーシート。
[32]
式(7)で表されるポリイミドを含む、ファイバーシート。
【化7】
(式(7)中、Aは、式(A-1)、(A-2)、(A-3)又は(A-4)で表される2価の有機基;
【化8】
(上記式(A-1)、(A-3)及び(A-4)中、X1は、下記式(X1-1)又は(X1-2)で表される2価の有機基;
【化9】
を表し、式(A-2)及び(A-3)中、Lは、メチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(A-4)中、Rは水酸基を表す。)
を表し、Yは4価の有機基を表し、m及びnは繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
[33]
式(8)で表されるポリイミドを含む、ファイバーシート。
【化10】
(式(8)中、D及びYは、4価の有機基を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
[34]
前記Dが、式(D1)で表される4価の有機基である、[33]に記載のファイバーシート。
【化11】
(式(D1)中、X1は、式(X1-1)又は(X1-2)で表される2価の有機基;
【化12】
を表す。)
[35]
平均繊維径が、100nm以上1000nm以下である、[32]~[34]のいずれかに記載のファイバーシート。
[36]
[31]~[35]のいずれかに記載のファイバーシートと、プロトン伝導性を有する電解質と、を備え、前記ファイバーシート内にプロトン伝導性を有する電解質が存在する、複合膜。
[37]
前記プロトン伝導性を有する電解質が、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体である、[36]に記載の複合膜。
[38]
[37]に記載の複合膜を備える、膜電極接合体。
[39]
[38]に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池セル。
[40]
[39]に記載の燃料電池セルを備える、燃料電池システム。
【発明の効果】
【0017】
<第一の実施形態の効果>
本発明の組成物によれば、分散性の良好な高粘度な組成物が得られ、かつ、得られる電解質膜に優れた化学耐久性を付与することができる。
【0018】
<第二の実施形態の効果>
本発明の組成物によれば、電解質と芯材の親和性が良好であることに起因する埋め込み性に優れた複合膜を提供でき、高温低加湿条件下においても優れた耐久性とイオン伝導性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例A1で得た電解質膜の断面のSEM写真を示す。
図2】実施例B1で得た芯材(多孔体)のSEM写真を示す。
図3】実施例B1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図4】比較例B1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図5】実施例C1で得た芯材(ファイバーシート)のSEM写真を示す。
図6】実施例C1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図7】比較例C1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図8】実施例D1で得た芯材(多孔体)のSEM写真を示す。
図9】実施例D1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図10】比較例D1で得た複合膜の断面のSEM写真を示す。
図11】電解質膜の膜厚方向の断面を2000倍のSEM(走査型電子顕微鏡)で撮像し、62.8μm×26.0μmの範囲を抜き出した画像を示す。
図12】画像処理ソフトImageJ 1.50iを用い、Triangle methodで2値化した後の画像を示す。
図13】画像処理ソフトImageJ 1.50iを用い、Triangle methodで2値化した後、Analyze Particlesにて粒子部分を解析、抽出した後の画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、第一群の発明を実施するための形態を、以下、「第一の実施形態」という。また、第二群の発明を実施するための形態を、以下、「第二の実施形態」という。
【0021】
<<第一の実施形態>>
<組成物>
本実施形態の組成物は、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体(以下、単に「A成分」ともいう。)100.0質量部に対し、(B)塩基性重合体(以下、単に「B成分」ともいう。)を0.1質量部以上含み、好ましくは1.0質量部以上含み、より好ましくは1.5質量部以上含む。(B)塩基性重合体を0.1質量部以上含むことにより、組成物から得られる電解質膜は化学耐久性に優れる。また、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部に対し、塩基性重合体(B)は、200.0質量部以下含み、好ましくは30.0質量部以下含み、より好ましくは20.0質量部以下含み、よりさらに好ましくは15.0質量部以下含む。(B)塩基性重合体を200.0質量部以下含むことにより、組成物から得られる電解質膜は伝導性に優れる。
すなわち、本実施形態の組成物は、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部と、(B)塩基性重合体0.1~200.0質量部と、を含む。また、本実施形態の組成物に含まれる(B)塩基性重合体は、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部に対し、0.1~20.0質量部含むことが好ましい。
【0022】
また、本実施形態における(B)塩基性重合体は、当該(B)塩基性重合体が微粒子であること、及び/又は、当該(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が5.0mmol以下であること、を満たす。
すなわち、本実施形態の一つは、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部と、(B)塩基性重合体0.1~200.0質量部と、を含み、前記(B)塩基性重合体が、微粒子である、組成物である。
また、本実施形態の一つは、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体100.0質量部と、(B)塩基性重合体0.1~200.0質量部と、を含み、前記(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が、5.0mmol以下である、組成物である。
本実施形態の組成物は、電解質膜を製造する際に有利な分散性の良好な高粘度な組成物であり、かつ、当該組成物から得られる電解質膜に優れた化学耐久性を付与することができる。本実施形態の組成物から得られる電解質膜は、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子電解質型燃料電池に好適に用いることができる。
【0023】
(A成分:イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体)
本実施形態における(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体としては、特に限定されないが、例えば、Nafion(登録商標:米国デュポン社製)、Aciplex(登録商標:日本国旭化成(株)社製)、Flemion(登録商標:日本国旭硝子(株)社製)等に代表される、式(2)で表されるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が代表例として挙げられる。
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体とは、少なくとも1つの繰り返し単位内にフッ素原子を有する高分子電解質であり、具体例としては、以下に限定されないが、式(2)で表される構造単位を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が挙げられる。
【0024】
-[CF2CX12a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF23))b-Oc-(CFR1d-(CFR2e-(CF)f-X4)]g- (2)
【0025】
式(2)中、X1、X2及びX3はそれぞれ独立してハロゲン原子、及び炭素数1~3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される。
ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
4は、COOZ、SO3Z、PO32、又はPO3HZを表す。
Zは、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子もしくはカリウム原子等のアルカリ金属原子;カルシウム原子もしくはマグネシウム原子等のアルカリ土類金属原子;又は、NH4、NH3x1、NH2x1x2、NHRx1x2x3、NRx1x2x3x4からなる群より選択されるアミン類;である。Rx1、Rx2、Rx3、及びRx4は、それぞれ独立して、アルキル基、又はアレーン基を表す。
また、上記アレーン基とは、特に限定されるものではないが、芳香族炭化水素(炭素数6~16の単環又は縮合環)の核から水素1原子を除いた残基が挙げられ、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基は及びアレーン基は置換されていてもよい。
4がPO32である場合、Zは同一であっても異なっていてもよい。
x1、Rx2、Rx3、及びRx4におけるアルキル基とは、特に限定されるものではなく、一般式Cn2n+1で表される1価の基(nは、1以上の整数を表し、1~20の整数であることが好ましく、1~10の整数であることがより好ましい。)が挙げられる。Rx1、Rx2、Rx3、及びRx4におけるアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、又はフルオロクロロアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数である。
bは、0~8の整数である。
cは、0又は1である。
d、e及びfは、それぞれ独立して、0~6の整数である(ただし、d、e及びfは、同時に0ではない。)
【0026】
式(2)におけるZがアルカリ土類金属である場合には、例えば、(COO)2Z又は(SO32Zのように、2つのX4がアルカリ土類金属と塩を形成していてもよい。
【0027】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の中でも、式(3)又は(4)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー又はその金属塩がより好ましい。
-[CF2CF2a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF3))b-O-(CF2h-SO3X)]g- (3)
【0028】
式(3)中、a及びgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、bは1~3の整数であり、hは1~8の整数であり、Xは水素原子又はアルカリ金属原子である。
【0029】
-[CF2CF2a-[CF2-CF((-O-(CF2m-X4)]g- (4)
【0030】
式(4)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、mは1~6の整数であり、X4はSO3Hを表す。
【0031】
本実施形態において用いることのできるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体は、例えば、式(I)で表される前駆体ポリマーを重合した後、アルカリ加水分解、酸処理等を行って製造することができる。
-[CF2CX12a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF23))b-Oc-(CFR1d-(CFR2e-(CF2f-X5)]g- (I)
【0032】
式(I)中、X1、X2及びX3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1~3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
5はCOOR3、COR4又はSO24である。R3は炭素数1~3の炭化水素系アルキル基である。R4はハロゲン原子である。
1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択され、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数である。
bは、0~8の整数である。
cは、0又は1である。
d、e及びfは、それぞれ独立して、0~6の整数である。ただし、d、e及びfは同時に0ではない。
【0033】
式(I)で表される前駆体ポリマーは、例えば、フッ化オレフィン化合物とフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造することができる。
【0034】
ここで、フッ化オレフィン化合物としては、特に限定されないが、例えば、式(1a)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
CF2=CX12 (1a)
式(1a)中、X1及びX2は、式(I)におけるX1及びX2と同義である。
【0036】
式(1a)で表される化合物としては、具体的には、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CCl2等が挙げられる。
【0037】
また、フッ化ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、式(1b)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
CF2=CF((-O-CF2-CF(CF23))b-Oc-(CFR1d-(CFR2e-(CF2f-X5) (1b)
式(1b)中、X3、X5、R1、R2、b、c、d、e及びfは、式(I)におけるX3、X5、R1、R2、b、c、d、e及びfと同義である。
【0039】
式(1b)で表される化合物としては、具体的には、CF2=CF(-O-(CF2j-SO2F)、CF2=CF(-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2j-SO2F)、CF2=CF((-O-CF2CF(CF3))j-(CF2j-1-SO2F)、CF2=CF(-O-(CF2j-CO2R)、CF2=CF(-O-CF2CF(CF3)-O-(CF2j-CO2R)、CF2=CF(-(CF2j-CO2R)、CF2=CF((-OCF2CF(CF3))j-(CF22-CO2R)(ここで、jは1~8の整数、Rは炭素数1~3の炭化水素系アルキル基を表す。)等が挙げられる。
【0040】
上記のような前駆体ポリマーは公知の方法により合成することができる。合成方法は、特に限定されないが、例えば、以下のような方法を挙げることができる。
(i)溶液重合;含フッ素炭化水素等の重合溶媒を使用し、この重合溶媒に充填溶解した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法。
ここで、上記含フッ素炭化水素としては、特に限定されないが、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフロロペンタン等、「フロン」と総称される化合物群を好適に使用することができる。
(ii)塊状重合;含フッ素炭化水素等の溶媒を使用せず、フッ化ビニル化合物そのものを重合溶媒として用いてフッ化ビニル化合物の重合が行われる方法。
(iii)乳化重合;界面活性剤の水溶液を重合溶媒として用い、この重合溶媒に充填溶解した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンガスとを反応させて重合が行われる方法。
(iv)ミニエマルジョン重合及びマイクロエマルジョン重合;界面重合剤及びアルコール等の助乳化剤の水溶液を用い、この水溶液に充填乳化した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法。
(v)懸濁重合;懸濁安定剤の水溶液を用い、この水溶液に充填懸濁した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法。
【0041】
本実施形態においては、前駆体ポリマーの重合度の指標としてメルトマスフローレート(以下「MFR」と略称することがある。)を使用することができる。
本実施形態において、成形加工をしやすくする観点から、前駆体ポリマーのMFRは、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。MFRの上限は特に限定されないが、成形加工をしやすくする観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0042】
以上のようにして作製された前駆体ポリマーは、塩基性反応液体中で加水分解処理され、温水等で十分に水洗され、酸処理される。この加水分解処理及び酸処理によって、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体はプロトン化され、SO3H体であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂となる。
【0043】
本実施形態における(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体は、そのイオン交換容量が好ましくは0.5~3.0ミリ当量/gであり、この条件を満足するようにイオン交換基を有することが好ましい。イオン交換容量を3.0ミリ当量/g以下とすることにより、この高分子電解質を含む高分子電解質膜の、燃料電池運転中の高温高加湿下での膨潤が低減される傾向にある。高分子電解質膜の膨潤が低減されることは、高分子電解質膜の強度が低下したり、しわが発生して電極から剥離したりする等の問題、さらには、ガス遮断性が低下する問題を改善し得る。一方、イオン交換容量を0.5ミリ当量/g以上とすることにより、そのような条件を満足する高分子電解質膜を備えた燃料電池は、その発電能力を良好に維持し得る。これらの観点から、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体(A成分)のイオン交換容量は、より好ましくは0.6~2.8ミリ当量/g、さらに好ましくは1.3~2.5ミリ当量/gである。
【0044】
なお、本実施形態におけるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体のイオン交換容量は、以下のようにして測定される。
まず、イオン交換基の対イオンがプロトンの状態となっている高分子電解質からなる膜を、25℃の飽和NaCl水溶液に浸漬し、その水溶液を十分な時間攪拌する。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定する。中和後にろ過して得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている高分子電解質からなる膜を、純水ですすぎ、更に真空乾燥した後、秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンである高分子電解質からなる膜の質量をW(mg)とし、下記式により当量質量EW(g/当量)を求める。
EW=(W/M)-22
【0045】
(B成分:塩基性重合体)
本実施形態における(B)塩基性重合体は、塩基性基を含む重合体である。また、本実施形態における(B)塩基性重合体は、微粒子であること、及び/又は、当該(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が5.0mmol以下であること、を満たす。
本実施形態における(B)塩基性重合体は、塩基性を与える構造として、窒素含有脂肪族化合物及び/又は窒素含有芳香族化合物に由来する構造を、少なくとも1種類以上含む重合体であることが好ましい。本実施形態における(B)塩基性重合体は、イミド及び/又はアミド構造を含む重合体であることがより好ましい。
本実施形態における(B)塩基性重合体は、電解質膜とした際の耐熱性及び化学耐久性の観点から、芳香族イミドに由来する構造を含む重合体であることが好ましい。
【0046】
塩基性を与える構造は、重合体の主鎖及び/又は側鎖に含まれていることが好ましい。塩基性を与える構造としては、耐熱性の観点から、窒素含有芳香族化合物に由来する構造が好ましく、そのような窒素含有芳香族化合物としては、以下に限定されないが、例えば、アニリン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、イソインドール、インドール、ベンズイミダゾール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン、ピラゾロピリミジン、トリアゾロピリミジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール等に由来する構造が挙げられる。
(B)塩基性重合体は、好ましくはアゾール環構造を含む。また、(B)塩基性重合体は、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環からなる群から選択される1種以上の構造を含むことが好ましく、イミダゾール構造を含むことがより好ましく、ベンゾイミダゾール構造を含むことがさらに好ましい。
【0047】
本実施形態の組成物に含まれる(B)塩基性重合体は、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体との組成物を形成した際の分散性の観点から、(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度が、好ましくは5.0mmol以下であり、より好ましくは3.0mmol以下であり、さらに好ましくは2.5mmol以下である。
また、当該組成物から得られる電解質膜の化学耐久性の観点から、上記塩基性基の濃度は、好ましくは0.01mmol以上であり、より好ましくは0.03mmol以上であり、さらに好ましくは0.05mmol以上である。
塩基性基の濃度が高いと、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体と組成物を形成した際に、粒子同士の相互作用による凝集が起こりやすくなる。そのため、塩基性重合体粒子の表面積が低下することにより、周囲で発生したラジカルを捕捉しづらくなる。ラジカルを捕捉しづらくなると、ラジカルにより電解質膜が劣化する恐れがあるため、塩基性基の濃度は5.0mmol以下にすることが好ましい。
また、(B)塩基性重合体は必要に応じて微粒子化されることがあり、当該微粒子化のための粉砕をしやすくする観点から、(B)塩基性重合体のいずれかの箇所に、イミド及び/又はアミド構造が含まれていることが好ましい。イミド及び/又はアミド構造が(B)塩基性重合体の主鎖構造に含まれ、塩基性を与える構造同士の間にイミド及び/又はアミド構造が含まれていることが、塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度を低く抑えられる傾向にある。
(B)塩基性重合体1gあたりの塩基性基の濃度は、NMR等公知の測定方法により測定することができる。電解質膜に含まれる塩基性重合体を測定する場合、電解質膜中の(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を熱水又はフッ素系溶媒を用いて溶解させ、遠心分離、加圧濾過といった公知の方法で(B)塩基性重合体を分離した後に、NMRで測定することができる。
【0048】
(B)塩基性重合体は、公知の合成方法を、単独、又は組み合わせることによって合成することができ、(B)塩基性重合体の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(a)アゾール環構造を有するジアミンと、テトラカルボン酸二無水物を反応させる方法。
(b)アゾール環構造を有するジアミンと、ジカルボン酸クロライドを反応させる方法。
(c)アゾール環構造を有するジアミンと、ジカルボン酸を脱水縮合反応させる方法。
(d)アゾール環構造を有するジカルボン酸と、ジアミンを脱水縮合反応させる方法。
(e)アゾール環構造を有するジカルボン酸を二酸クロライドにした後、ジアミンと反応させる方法。
(f)アゾール環構造を有し、さらにアミノ基及びヒドロキシ基を有する化合物と、テトラカルボン酸二無水物とを反応させる方法。
(g)テトラアミンとジカルボン酸とを反応させ、アゾール環構造を有するオリゴマーを形成した後、(a)~(f)の反応を用いてさらに反応を行う方法。
(h)単官能のアゾール環を有する化合物を、イミド及び/又はアミド構造を有する重合体の末端に反応させる方法。
(i)単官能のアゾール環を有する化合物を、イミド及び/又はアミド構造を有する重合体と反応させ、側鎖とする方法。
以下、上記(a)~(i)の反応に用いることができる化合物について以下に説明するが、これらは1種単独での使用に限られず、2種以上を併用して反応に供してもよい。
【0049】
2官能のアゾール環構造を有する化合物、すなわち、アゾール環構造を有するジアミン、アゾール環構造を有するジカルボン酸、並びに、アゾール環構造を有し、さらにアミノ基及びヒドロキシ基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、5-アミノ-2-メルカプトベンゾイミダゾール、6-アミノ-2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-アミノ-4-ヒドロキシベンゾイミダゾール、2-(4-カルボキシフェニル)-5-カルボキシベンゾイミダゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5-アミノ-2-メルカプトベンゾチアゾール、6-アミノ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2-アミノ-4-ヒドロキシベンゾチアゾール、2-(4-カルボキシフェニル)-5-カルボキシベンゾチアゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾチアゾール、5-アミノ-2-メルカプトベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-アミノ-4-ヒドロキシベンゾオキサゾール、2-(4-カルボキシフェニル)-5-カルボキシベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール等が挙げられる。
2官能のアゾール環構造を有する化合物は、これらの化合物にさらに置換基を有する構造でもよい。
【0050】
単官能のアゾール環を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-アミノベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-ヒドロキシベンゾイミダゾール、5-アミノベンゾイミダゾール、5-カルボキシベンゾイミダゾール、5-フェニルベンゾイミダゾール-2-チオール、(2-ベンゾイミダゾリルチオ)酢酸、2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾイミダゾール、2-アミノベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-ヒドロキシベンゾチアゾール、5-アミノベンゾチアゾール、5-カルボキシベンゾチアゾール、5-フェニルベンゾチアゾール-2-チオール、(2-ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、2-(4-アミノフェニル)ベンゾチアゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール、2-アミノベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-ヒドロキシベンゾオキサゾール、5-アミノベンゾオキサゾール、5-カルボキシベンゾオキサゾール、5-フェニルベンゾオキサゾール-2-チオール、(2-ベンゾオキサゾリルチオ)酢酸、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール等が挙げられる。
単官能のアゾール環を有する化合物は、これらの化合物にさらに置換基を有する構造でもよい。
【0051】
2官能のアゾール環構造を有する化合物と反応しうる具体的な化合物を以下に例示する。
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0052】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1’-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2’-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2’-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1’,3,3’-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。
【0053】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。
【0054】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1’-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2’-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、rel-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2,1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸二無水物、エチレングリコール-ビス-(3,4-ジカルボン酸二無水物フェニル)エーテル、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)等を挙げることができる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、耐熱性の観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。
【0055】
(B)塩基性重合体の構造としては、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体との組成物を形成した際の、イオン交換基部分とアゾール環の相互作用を抑制する観点から、アゾール環を含むユニットと、アゾール環を含まないユニットとを共重合することが好ましい。また、アゾール環構造を有する塩基と酸無水物とを共重合し、オリゴマー体を形成した後、アゾール環構造を有しない塩基を加えて、さらに重合するといった2段階での重合、すなわちブロック共重合を行うことも好ましい。
【0056】
本実施形態の組成物に含まれる(B)塩基性重合体における、アゾール環を含むユニット及びアゾール環を含まないユニットの合計に対するアゾール環を含むユニットの含有率は、分散性の観点から、70mol%以下が好ましく、より好ましくは55mol%以下であり、さらに好ましくは50mol%以下である。また、上記含有率は、化学耐久性の観点から、10mol%以上が好ましく、より好ましくは15mol%以上であり、さらに好ましくは18mol%以上であり、よりさらに好ましくは20mol%以上である。
【0057】
(B)塩基性重合体の構造は、式(II)で表されるユニットを含むことが好ましい。
【0058】
【化13】
【0059】
式(II)中、X6は、4価の有機基を表し、R5は2価の有機基を表し、R6は2価の有機基又は単結合を表し、kは1~1000の整数である。
式(II)中、X6は、好ましくは4価の脂肪族有機基、又は、炭素数6~50の4価の芳香族有機基である。当該有機基の炭素数は、好ましくは6~36、より好ましくは6~20である。また、耐熱性の観点から、X6は、芳香環を含むことが好ましい。
式(II)中、R5は、好ましくは2価の脂肪族有機基、又は、炭素数6~20の2価の芳香族有機基である。当該有機基の炭素数は、好ましくは6~12、より好ましくは6~10である。また、耐熱性の観点から、R5は、芳香環を含むことが好ましい。
式(II)中、R6は、好ましくは、単結合、又は、炭素数6~20の2価の脂肪族有機基若しくは芳香族有機基である。
【0060】
(B)塩基性重合体の構造は、式(1)で表されるユニットを含むことがより好ましい。
【0061】
【化14】
【0062】
式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。
【0063】
式(1)における、Yに対応する4価の有機基としては、特に限定されないが、式(D1)で表される4価の有機基であることが好ましい。
【0064】
【化15】
【0065】
式(D1)中、X1は、以下の群から選択される。
【0066】
【化16】
【0067】
(B)塩基性重合体の分子量は、重量平均分子量Mwとして、耐熱性の観点から、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは5000以上でありる。重量平均分子量Mwは、製造安定性の観点から、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、さらに好ましくは100000以下である。
ここで、重量平均分子量とは、既知の数平均分子量Mnのポリスチレンを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される分子量をいう。
また、本実施形態における(B)塩基性重合体の分子量分布Mw/Mnは、好ましくは2.60以下、より好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.40以下である。また、分子量分布の下限は、特に制限されず、通常1.20以上である。
【0068】
塩基性重合体の末端構造は特に限定されず、重合に用いられる原料、例えばカルボン酸、アミンをそのまま残してもよく、さらに修飾して用いてもよい。
【0069】
塩基性重合体の合成には溶媒を用いてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、反応を均一に行う観点から、非プロトン性溶媒が好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0070】
本実施形態における(B)塩基性重合体の形状は、特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。塩基性重合体が粒子状であることにより、濾過性が良く、且つ、(A)成分と一緒に含む組成物としたとき、粒子が沈降しにくい高粘度な組成物を形成することができる。また、(B)塩基性重合体の形状は、微粒子状であることがより好ましい。
【0071】
(B)塩基性重合体の微粒子化の方法を以下に説明するが、以下に例示する方法に限定されず、公知の粉砕方法を用いることができる。また、1種類以上の方法を組み合わせて微粒子化することができる。
粉砕方法としては、例えば、凍結粉砕、乾式ジェットミル、湿式ジェットミル、ハンマーミル、振動ミル、ローラーミル、転動ミル、ピンディスクミル、乾式ビーズミル、湿式ビーズミル、衝撃せん断ミル、高圧流体衝突ミル、乾式ボールミル、湿式ボールミル等が挙げられる。また、微粒子の塩基性重合体を得る方法としては、塩基性重合体反応液を、スプレー乾燥により微粒子化する方法や、反応液を貧溶媒に接触させ、微粒子状に析出する方法等も挙げられる。
微粒子化した塩基性重合体は、そのまま使用することもできるし、分級し、粒度分布を調整して用いることもできる。分級の方法としては、例えば、メッシュを通過させる方法、気流を用いて粒子の空気抵抗に応じて分級する方法、遠心分離による方法、電場を利用し、電荷を帯びた粒子の移動速度により分級する方法等が挙げられるが、例示した方法に限定されず公知の分級方法を用いることができる。
粉砕を湿式で行う場合の溶媒としては、塩基性重合体を変性させないものであれば、どのような溶媒でも用いることができる。
また、本実施形態の効果に影響を与えない範囲で、分散剤を添加してもよい。
【0072】
本実施形態における(B)塩基性重合体の粒径は、体積基準で測定され、一次粒径で評価されることが好ましい。そのため、二次凝集した粒子を分散するために、適切な分散媒を用い、超音波等を用いて分散させた粒子径を評価することが好ましい。
(B)塩基性重合体が微粒子であるとき、当該微粒子の粒径が5.0μmを超過する割合は、成膜した際の膜の均一性の観点から、体積基準で測定された存在割合として、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
また、(B)塩基性重合体が微粒子であるとき、当該微粒子の粒径が3.0μmを超過する割合は、組成物の濾過をしやすくする観点から、体積基準で測定された存在割合として、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
【0073】
(B)塩基性重合体が微粒子であるとき、当該微粒子の分布としては、化学耐久性向上の観点から、粒径0.05μm以上1.00μm以下の範囲に含まれる粒子の、体積基準で測定された存在割合が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0074】
(B)塩基性重合体が微粒子であるとき、当該微粒子の体積基準で測定された平均径は、成膜した際の膜の均一性の観点から、好ましくは5.00μm以下、より好ましくは3.00μm以下、さらに好ましくは2.00μm以下である。
また、上記平均値は、微粒子スラリーの粉砕を円滑に行う観点から、好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.12μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上である。
なお、本明細書において、「微粒子」とは、平均径として7.5μm未満のものを指し、平均径7.5μm以上のものは通常の粒子と扱うものとする。
上述した平均径ないし粒度分布は、後述する実施例に記載の方法等により測定することができる。また、平均径ないし粒度分布は、前述した種々公知の方法により上記した好ましい範囲に調整することができる。
【0075】
本実施形態の組成物は成膜することにより、電解質膜とすることができる。すなわち、本実施形態の一つは、本実施形態の組成物を含む電解質膜である。本実施形態の電解質膜における(B)塩基性重合体粒子の平均径は、電解質膜の膜厚方向の断面を2000倍のSEM(走査型電子顕微鏡)で撮像し、62.8μm×26.0μmの範囲を解析することにより測定することができる。
図11は、2000倍のSEM画像で、且つ62.8μm×26.0μmの範囲を抜き出した画像となる。
解析は、画像処理ソフトImageJ 1.50iを用い、median filterを2pixで指定してノイズを除去し、Subtract backgroundを50pixで指定して背景処理をし、Triangle methodで2値化した後、Analyze Particlesにて解析視野内で検出された全ての粒子を解析し各粒子の領域を出力した。図12は、2値化後の画像であり、図13は、Analyze Particlesにて粒子部分を解析、抽出した後の画像である。
続いて、出力した各粒子の領域面積より、各粒子が円と仮定して粒子直径dを算出した。
すなわち、粒子の領域面積をS、粒子が円と仮定したときの粒子直径dとして、S=d/2×d/2×πとなるように、各粒子でdの値を算出した。
さらに、粒子直径dに関して、0nm~10000nmの範囲を100等分し、各100nm区間のサイズの粒子個数を集計した。得られた集計結果から粒子直径dの平均値を算出することにより、塩基性重合体の粒子の平均径を求めることができる。
上述した解析で得られる膜中の(B)塩基性重合体の粒子の平均径としては、成膜した際の膜の化学耐久性を向上させる観点から、好ましくは5.00μm以下、より好ましくは3.00μm以下、さらに好ましくは2.00μm以下である。また、平均径は、微粒子スラリーの粉砕を円滑に行う観点から、好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.12μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上である。
【0076】
膜中の塩基性重合体の粒径としては、上述した解析で得られる粒子のうち、粒子直径dが5.0μmを超過する割合が、成膜した際の膜の均一性の観点から、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは6%以下である。また、塩基性重合体の粒径としては、3.0μmを超過する割合が、膜の均一性の観点から、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは6%以下である。
膜中の塩基性重合体の分布としては、化学耐久性を向上させる観点から、上述した解析で得られる粒子のうち、粒子直径dが0.05μm以上1.00μm以下の範囲に含まれる粒子が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。
【0077】
本実施形態の電解質膜に関する変動係数は、上述した解析で得られる粒子直径の標準偏差と平均値から算出することができる。すなわち、変動係数は、以下の式;変動係数=標準偏差÷平均値から求めることができる。膜中の塩基性重合体の粒径の変動係数は、成膜性の観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上である。また、変動係数は、膜の強度を向上させる観点から、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.50以下、よりさらに好ましくは1.40以下である。
【0078】
本実施形態の組成物に含まれる塩基性重合体は、2種類以上の塩基性重合体を混合して用いることもできる。
本実施形態の組成物の調製方法としては、(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体と、(B)塩基性重合体を均一に混合できる方法であれば特に制限されず、公知の方法により混合することができる。組成物の調製方法としては、以下に限定されないが、例えば、マグネチックスターラーで撹拌する方法、撹拌羽を用いて撹拌する方法、スタティックミキサーを用いて混合する方法、遠心力を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0079】
本実施形態の組成物は、必要に応じて(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を懸濁し得る溶媒を含んでもよい。上記溶媒としては、例えば、水;エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリン等のプロトン性有機溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性有機溶媒;等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
電解質膜の成形方法及び/又は用途に応じて、組成物を濃縮し、粘度を調節することができる。濃縮の方法としては、特に限定されないが、例えば、組成物を加熱して溶媒を蒸発させる方法や、減圧により濃縮する方法等が挙げられる。25℃で測定される粘度としては、成膜の作業をしやすくする観点から、好ましくは100cP以上、より好ましくは300cP以上であり、さらに好ましくは500cP以上である。上記粘度は、膜厚の調整を容易にする観点から、好ましくは5000cP以下、より好ましくは4000cP以下、さらに好ましくは3500cP以下である。
【0081】
なお、本実施形態の組成物には、必要に応じて、第三成分を添加してもよい。
第三成分としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素系高分子電解質、チオエーテル化合物、金属イオン、多孔体等が挙げられる。以下各例について説明する。
【0082】
(炭化水素系高分子電解質)
本実施形態の組成物におけるA成分の含有量は、化学耐久性の観点から、高分子電解質として用いられるポリマー全体に対して100質量%であることが好ましい。
本実施形態の組成物は、A成分に加えて、例えば、炭化水素系高分子電解質等を任意の割合で含んでもよい。炭化水素系高分子電解質としては、イオン交換基を有する炭化水素系高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンザオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。炭化水素系高分子電解質の含有量は、高分子電解質として用いられるポリマー全体に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0083】
(チオエーテル化合物)
本実施形態の組成物は、チオエーテル化合物を含有していてもよい。本実施形態におけるチオエーテル化合物は、-(R-S)r-(Sは硫黄原子、Rは炭化水素基、rは1以上の整数)の化学構造を有する化合物である。
チオエーテル化合物の具体例としては、以下に限定されないが、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジプロピルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、メチルブチルチオエーテルのようなジアルキルチオエーテル;テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロアピランのような環状チオエーテル;メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィドのような芳香族チオエーテル;等が挙げられる。なお、ここで例示したものをチオエーテル化合物としてそのまま用いてもよく、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)のように、例示したものを単量体に用いて得られる重合体をチオエーテル化合物として用いてもよい。
【0084】
チオエーテル化合物は、耐久性の観点からrが10以上の重合体(オリゴマー、ポリマー)であることが好ましく、rが1,000以上の重合体であることがより好ましい。特に好ましいチオエーテル化合物は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)である。本実施形態において好ましく用いることのできるポリフェニレンスルフィドとしては、パラフェニレンスルフィド骨格を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0085】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン置換芳香族化合物(p-ジクロルベンゼン等)を硫黄及び炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化ナトリウム若しくは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法、極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化水素と水酸化ナトリウム若しくはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、または、p-クロルチオフェノールの自己縮合による方法等が挙げられる。これらの中でもN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンとを反応させる方法が好適に用いられる。
【0086】
ポリフェニレンスルフィドは、-SX基を含むことが好ましい。-SX基における、Sは硫黄原子、Xはアルカリ金属原子又は水素原子を表す。
また、ポリフェニレンスルフィドにおける-SX基の含有量は、通常10μmol/g~10,000μmol/gであり、好ましくは15μmol/g~10,000μmol/g、より好ましくは20μmol/g~10,000μmol/gである。
-SX基の含有量が上記範囲にあることは、反応活性点が多いことを意味する。-SX基の含有量濃度が上記範囲を満たすポリフェニレンスルフィドを用いることにより、本実施形態の組成物に含まれるA成分との混和性が向上する。したがって、組成物中のポリフェニレンスルフィドの分散性が向上し、当該組成物から得られる電解質膜は高温低加湿条件下でより高い耐久性が得られると考えられる。
【0087】
また、チオエーテル化合物としては、末端に酸性官能基を導入したものも好適に用いることができる。導入する酸性官能基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、マレイン酸基、無水マレイン酸基、フマル酸基、イタコン酸基、アクリル酸基、メタクリル酸基からなる群より選ばれるものが好ましく、スルホン酸基がより好ましい。
なお、酸性官能基の導入方法は特に限定されず、一般的な方法が用いられる。例えば、スルホン酸基をチオエーテル化合物に導入する場合、無水硫酸、発煙硫酸等のスルホン化剤を用いて公知の条件で導入することができる。より具体的には、例えば、K.Hu, T.Xu, W.Yang, Y.Fu, Journal of Applied Polymer Science, Vol.91,や、 E.Montoneri, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.27, 3043-3051(1989)に記載の条件で導入できる。
また、導入した上記酸性官能基をさらに金属塩又はアミン塩に置換したものもチオエーテル化合物として好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0088】
さらに、チオエーテル化合物を粉末状で用いる場合、チオエーテル化合物の平均粒子径は、組成物中での分散性を向上することにより高寿命化等の効果を良好に実現させるために、0.01μm~10.0μmが好ましく、0.01μm~5.0μmがより好ましく、0.01μm~3.0μmがさらに好ましく、0.01μm~2.0μmがよりさらに好ましい。チオール化合物の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、堀場製作所製、型番:LA-950)によって測定される値である。
【0089】
チオエーテル化合物を組成物中に微分散させる方法としては、例えば、チオエーテル化合物とA成分及びB成分等との溶融混練時に高せん断を与えて粉砕及び微分散させる方法、チオエーテル化合物とA成分及びB成分との混合液を得た後、その溶液をろ過し粗大チオエーテル化合物粒子を除去し、ろ過後の溶液を用いる方法等が挙げられる。溶融混練を行う場合に好適に用いられるポリフェニレンスルフィドの溶融粘度は、成形加工性の観点から、好ましくは1~10,000ポイズであり、より好ましくは100~10,000ポイズである。なお、溶融粘度は、フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D(L:オリフィス長、D:オリフィス内径)=10/1で6分間保持して得られる値である。
【0090】
チオエーテル化合物の質量(Wd)に対するA成分(組成物に含まれるA成分の総量)の質量(Wa)の比(Wa/Wd)は、60/40~99.99/0.01が好ましく、70/30~99.95/0.05がより好ましく、80/20~99.9/0.1がさらに好ましく、90/10~99.5/0.5がよりさらに好ましい。上記質量の比を60以上とすることにより、一層良好なイオン伝導性が実現され得、一層良好な電池特性が実現され得る。一方、チオエーテル化合物の質量の比を40以下とすることにより、高温低加湿条件での電池運転における耐久性が向上し得る。
【0091】
(金属イオン)
本実施形態の組成物には、化学耐久性をさらに向上させる観点から、金属イオンを加えることもできる。金属イオンとしては、遷移金属イオンが好ましい。
遷移金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、スカンジウムイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、イットリウムイオン、ジルコニウムイオン、ニオブイオン、ニオブイオン、モリブデンイオン、テクネチウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、パラジウムイオン、銀イオン、カドミウムイオン、ランタンイオン、セリウムイオン、プラセオジウムイオン、ネオジムイオン、プロメチウム、サマリウムイオン、ユウロピウムイオン、ガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロシウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン、ツリウムイオン、イッテルビウムイオン、ルテチウムイオン、ハフニウムイオン、タンタルイオン、タングステンイオン、レニウムイオン、オスミウムイオン、イリジウムイオン、白金イオン及び金イオン等が挙げられる。過酸化水素の分解機能を効果的に向上させる観点からは、セリウムイオンが好ましい。なお、セリウムイオンは+3価又は+4価の状態を取り得るが、本実施形態においては特に限定されない。
【0092】
(多孔体)
本実施形態の組成物ないし電解質膜は、公知の方法で多孔体を組成物ないし電解質膜に含有させることにより補強されていてもよい。公知の補強方法の例としては、以下に限定されないが、フィブリル状PTFEの添加による補強(特開昭53-149881号と特公昭63-61337号)、延伸処理したPTFE多孔膜による補強(特公平5-75835号と特表平11-501964号参照)、電解紡糸膜による補強(特開2008-243420号)、湿式相分離膜による補強(特開2003-297393)が挙げられる。
【0093】
本実施形態の組成物は、A成分中の異物、B成分中の異物、及びその他の成分の異物の除去等を目的として、組成物を濾過して使用することもできる。濾過の方法としては特に限定されないが、例えば加圧濾過をする方法が挙げられる。
【0094】
本実施形態の組成物における固形分濃度は、特に限定されないが、電解質膜の成膜をしやすくする観点から、好ましくは5%以上であり、より好ましくは8%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。また、上記固形分濃度は、濾過をしやすくする観点から、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは35%以下である。
上記固形分濃度は、次のようにして測定することができる。まず、秤量瓶の質量W0を精秤する。測定した秤量瓶に測定物を約10g入れ、精秤し、W1とする。上記測定物を110℃、0.10MPa以下で3時間以上乾燥した後、シリカゲル入りのデシケーター中で冷却し、室温になった後に吸水させないようにして精秤し、W2とする。(W2-W0)/(W1-W0)を百分率で表し、上記を計5回測定し、その平均を固形分濃度とする。
【0095】
<電解質膜>
本実施形態の電解質膜は、本実施形態の組成物を含む。また、本実施形態の電解質膜は、本実施形態の組成物を成膜してなる膜である。本実施形態の電解質膜は、優れた化学耐久性を発現する。
【0096】
本実施形態の電解質膜の厚みは、特に限定されないが、ガス透過性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
上記厚みは、導電性を良くする観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0097】
本実施形態の電解質膜は、燃料電池運転時の耐熱性の観点から、ガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、よりさらに好ましくは130℃以上である。
電解質膜のガラス転移温度は、JIS-C-6481に準拠して測定される。具体的には、膜状に成形した電解質を5mm幅に切り出し、動的粘弾性測定装置を用いて試験片を室温から2℃/分の割合で昇温させ、粘弾性測定装置にて試験片の動的粘弾性及び損失正接を測定する。測定した損失正接のピーク温度をガラス転移温度とする。また、このガラス転移温度は、組成物に含まれる(A)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の構造、分子量、イオン交換容量等を制御することによって調整できる。
【0098】
本実施形態の電解質膜は、公知の技術で作られた多孔膜、例えばフィブリル状PTFE、延伸処理したPTFE多孔膜、有機樹脂を電解紡糸したナノファイバーシート、有機樹脂を溶融紡糸した膜、繊維を織り込んだ織布を用いて補強してもよい。
【0099】
(電解質膜の製造方法)
本実施形態の電解質膜は、公知の成膜方法により、本実施形態の組成物を成膜することによって得られる。成膜方法としては、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター、ブレードコーター、ディップコーター、グラビアロールコーター、チャンバードクターコーター、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター等を用いる方法が挙げられる。
本実施形態の電解質膜は、上述のように成膜された後、機械的強度の観点から、さらに熱処理が施されることが好ましい。熱処理の温度は、好ましくは100℃~230℃、より好ましくは110℃~230℃、さらに好ましくは120℃~200℃である。熱処理の時間は、熱処理の温度にもよるが、高耐久性を有する高分子電解質膜を得る観点から、好ましくは5分間~3時間、より好ましくは10分間~2時間である。
【0100】
<膜電極接合体>
本実施形態の膜電極接合体は、本実施形態の電解質膜を含む。そのため、本実施形態の膜電極接合体は、優れた化学耐久性を発現することができる。
上記のとおり、本実施形態の電解質膜を、固体高分子型燃料電池に用いる場合、アノードカソード2種類の電極触媒層が接合した膜電極接合体(以下、「MEA」とよぶ。)として使用することができる。電極触媒層のさらに外側に、一対のガス拡散層を対向するように接合したものもMEAと呼ぶ。
【0101】
本実施形態のMEA又は、電解質膜は、その断面をSEM等で観察することで、粒子の分散を確認することができる。断面の切断は、公知の方法を用いることができ、例えば、凍結切断法(クライオミクロトーム法)を用いることで、内部構造の変形を最小限に抑えた電解質の断面を観察することができる。
また、粒子の分析としては、X線マイクロアナライザーを用いて、電解質断面に観察される粒子部分の元素を分析する方法や、マイクロサンプリング等で粒子をサンプリングしIR分析する方法により、粒子の構成元素と、イミドに特徴的な1780cm-1付近のピーク、アミドに特徴的な1720cm-1付近のピークを確認することができる。
上記のようにして、本実施形態の電解質膜ないしMEAに本実施形態の組成物が含まれていることを確認することができる。
【0102】
<複合膜>
本実施形態の電解質膜は、その他の膜と組み合わせて複合膜とすることができる。その他の膜としては、ポリイミドを含む膜が挙げられる。すなわち、本実施形態の複合膜は、本実施形態の電解質膜と、ポリイミドを含む膜とを備える複合膜である。また、ポリイミドとしては、式(1)で表されるポリイミドが好適である。
また、ポリイミドを含む膜は、ファイバーシート形状であることが好ましい。
【0103】
<<第二の実施形態>>
[組成物]
本実施形態の組成物は、式(1)で表される構造を有するポリイミド(以下、「本実施形態におけるポリイミド」ともいう。)を含む組成物である。本実施形態におけるポリイミドは、式(1)で表される構造以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0104】
【化17】
(式(1)中、Yは、4価の有機基を表す。)
【0105】
本実施形態の組成物は、本実施形態におけるポリイミドと溶媒とを含んでいるワニスの状態でもよく、本実施形態におけるポリイミドと他のポリマーやフィラーとを含んでいる固形物の状態でもよい。本実施形態の組成物は、ワニスの状態の組成物から種々公知の方法で固形物の状態の組成物とすることもできる。
本実施形態の組成物は、高温低加湿条件下においても優れた耐久性を発現する。また、本実施形態の組成物は、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するパーフルオロ系プロトン交換膜との親和性が高い。とりわけ、本実施形態の組成物を電解質膜の芯材に用いて構成される複合膜は、高温低加湿条件下においても優れた耐久性とイオン電導性を発現する。そのため、本実施形態の組成物は、電解質膜の芯材として好適に用いることができる。
【0106】
本実施形態におけるポリイミドは、式(7)又は(8)で表される構造を有するポリイミドであることが好ましい。
【0107】
【化18】
(式(7)中、Aは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、m及びnは繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
【0108】
【化19】
(式(8)中、Y及びDは、4価の有機基を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
【0109】
本実施形態における式(7)のポリイミドは、mの数だけ存在する繰り返し単位1と、nの数だけ存在する繰り返し単位2を含み、繰り返し単位1は芯材とした際の強度及び溶解性に寄与し、繰り返し単位2は芯材とした際の強度及び電解質膜との相溶性に寄与すると考えられる。特に、繰り返し単位2におけるイミダゾール基が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系の電解質膜との相溶性に寄与すると考えられる。このように、溶媒への溶解性及び電解質膜との相溶性を確保する観点から、式(7)におけるm:nの比は、好ましくは20:80~70:30、より好ましくは25:75~65:35、さらに好ましくは30:70~60:40である。
本実施形態における式(8)のポリイミドは、kの数だけ存在する繰り返し単位3と、lの数だけ存在する繰り返し単位4を含み、繰り返し単位3は芯材とした際の強度に寄与し、繰り返し単位4は溶解性に寄与すると考えられる。また、繰り返し単位3、4の両方に存在するイミダゾール基は、式(7)のポリイミドと同様に相溶性に寄与すると考えらえる。このように、溶媒への溶解性、電解質との相溶性、及び強度を確保する観点から、式(8)におけるk:lの比は、好ましくは20:80~70:30、より好ましくは25:75~65:35、さらに好ましくは30:70~60:40である。
ポリイミド中のイミダゾール基の量が多いほど、分子構造の平坦性が向上し、溶解性が低くなる傾向にある。そのため、溶液の保存安定性の観点から、ポリイミド中におけるイミダゾール基の占める割合は、好ましくは50mol%以下である。
【0110】
式(7)におけるAで表される2価の有機基は、特に限定されないが、溶媒への溶解性の観点から、好ましくは式(A-1)、(A-2)、(A-3)又は(A-4)で表される2価の有機基である。
【0111】
【化20】
(式(A-1)、(A-3)及び(A-4)中、X1は下記式(X1-1)~(X1-10)で表される群より選択される2価の有機基を表し、ここで、当該式(X1-10)中のX2は、式(X2-1)~(X2-7)で表される群より選択される2価の有機基を表す。式(A-2)及び式(A-3)中、Lはメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(A-4)中Rは水酸基を表す。)
【0112】
【化21】
(式(X1-2)および(X2-2)中、aは繰り返し単位の数を表し、1~5までの整数である。)
【0113】
上記式(X1-8)~(X1-10)における各ベンゼン環は、メチル基、エチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
ポリイミドは一般には溶媒には難溶であるが、上記式(7)及び(8)で表される構造を有するポリイミドは溶解性に優れるため、本実施形態の組成物は溶媒を含むポリイミド溶液とすることが容易である。ポリイミド溶液は、溶媒除去するだけで容易にポリイミドの多孔体膜、ナノファイバー、フィルム等に加工できる為、溶媒に難溶なポリイミドや、イミド化工程が必要なポリイミド前駆体の溶液に比べ、加工性に優れる。とりわけ、多孔体膜やナノファイバーは、電解質膜の芯材として好適に用いることができる。
【0114】
また、本実施形態において、溶解性の観点から、Aが下記式(A1)で表されることが特に好ましい。
【0115】
【化22】
【0116】
すなわち、本実施形態におけるポリイミドは、好ましくは式(5)で表される構造を有するポリイミドである。
【0117】
【化23】
(式(5)中、Yは4価の有機基を表し、m及びnは、繰り返し単位の数を表し、m:nの比は20:80~70:30である。)
【0118】
上記式(1)、(7)、及び(8)において、Y、Dに対応する4価の有機基としては、特に限定されないが、式(1)、(7)、及び(8)で表される構造を有するポリイミドの溶媒への溶解性と、芯材とした際の強度の観点から、式(D1)で表される4価の有機基であることが好ましい。
【0119】
【化24】
(式(D1)中、X1は上記式(A-1)中のX1と同義である。)
【0120】
D1におけるX1は、好ましくは、式(X1-1)又は(X1-2)で表される2価の有機基;
【化25】
であることが好ましい。
【0121】
一般にポリイミドはジアミンと酸二無水物の縮合反応によって合成することができる。
本実施形態におけるポリイミドのイミダゾール構造は、典型的には、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾールと酸二無水物を反応させることにより、ポリイミド中に導入することができるが、これに限定されず、以下に述べる要領にて合成することができる。
【0122】
本実施形態におけるポリイミド中のAは、例えば、ジアミンから得られる構造ということができ、以下に限定されないが、4,4'-オキシジアニリン(4,4'-oxydianiline:以下、4,4'-ODAともいう。)由来、3,4'-オキシジアニリン(3,4'-oxydianiline:以下、3,4'-ODAともいう。)由来、4,4'-メチレンビスアニリン(4,4'-methylenebisaniline:以下、4,4'-DDMともいう。)由来、3,3'-メチレンビスアニリン(3,3'-methylenebisaniline:以下、3,3'-DDMともいう。)由来、4,4'-ジアミノベンゾフェノン(4,4'-diaminobenzophenone:以下、4,4'-DADPMともいう。)由来、3,3'-ジアミノベンゾフェノン(3,3'-diaminobenzophenone:以下、3,3'-DADPMともいう。)由来、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド(4,4'-diaminodiphenyl sulfide:以下、4,4'-ASDともいう。)由来、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン(3,3'-DiaminoDiphenyl Sulfone:以下、3,3'-DDSともいう。)由来、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン(4,4'-DiaminoDiphenyl Sulfone:以下、4,4'-DDSともいう。)由来、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)dianiline:以下、6FAPともいう。)由来、4,4'-イソプロピリデンビスアニリン(4,4'-isopropylidenedianiline)由来、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4-Bis(4-aminophenoxy)benzene:以下、TFE-Qともいう)由来、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-Bis(4-aminophenoxy)benzene:以下、TFE-Rともいう)由来、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(4,4'-Bis(4-aminophenoxy)biphenyl:以下、BAPBともいう)由来、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン(2,2-Bis{4-(4-aminophenoxy)phenyl}propane:以下、BAPPともいう)由来、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン(2,2-Bis{4-(4-aminophenoxy)phenyl}hexafluoropropane:以下、HFBAPPともいう)由来、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン(Bis{4-(4-aminophenoxy)phenyl}sulfone:以下、BAPSともいう)由来、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン(Bis{4-(3-aminophenoxy)phenyl}sulfone:以下、BAPS-Mともいう)由来、4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(4,4'-diamino-2,2'-bis(trifluoromethyl)biphenyl:以下、TFMBともいう)由来、4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル(4,4'-diamino-2,2'-dimethylbiphenyl:以下、m-TBともいう)由来、4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメトキシビフェニル(4,4'-diamino-2,2'-dimethoxybiphenyl:以下、m-DSともいう)由来、4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル(4,4'-diamino-2,2'-bis(trifluoromethyl)diphenyl ether:以下、BTFDPEともいう)由来、1,4-ビス{4-アミノ-2-(トリフルオロメチル)フェノキシ}ベンゼン(1,4-Bis{4-amino-2-(trifluoromethyl)phenoxy}benzene:以下、FAPQともいう)由来、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン{2,2-bis(3-amino-4-hydoxyphenyl)propane:以下BPA-DAともいう}由来、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン{2,2-bis(3-amino-4-hydroxyphenyl)hexafluoropropane:以下6FHAともいう}由来、2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン{2,2-bis(3-amino-4-metylphenyl)hexafluoropropane}由来、ビス(3-アミノー4-ヒドロキシフェニル)スルホン{Bis(3-amino-4-hydroxyphenyl)slufone}由来:以下BPS-DAともいう}、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジフェニルメタン(4,4'-diamino-3,3'-dimethyldiphenylmethane)由来の2価の有機基等が挙げられ、これらをポリイミド化する際に使用すること等により上記Aに対応する構造を得ることができる。上述した構造は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の順に含んでいてもよい。
【0123】
本実施形態におけるポリイミド中のB及びDは、それぞれ独立に例えば、酸二無水物から得られる構造ということができ、以下に限定されないが、4,4'-オキシジフタル酸二無水物(4,4'-oxydiphthalic Anhydride:以下、ODPAともいう。)由来、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(3,3',4,4'-Benzophenone tetracarboxylic dianhydride:以下、BTDAともいう)由来、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(3,3',4,4'-diphenylsulfone tetracarboxylic dianhydride:以下、DSDAともいう)由来、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride:以下、6FDAともいう。)由来の4価の有機基等が挙げられ、これらをポリイミド化する際に使用すること等により上記Bに対応する構造を得ることができる。上述した構造は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の順に含んでいてもよい。
【0124】
本実施形態におけるDは、例えば、酸二無水物から得られる構造とすることができ、上記Bであげられた構造があげられる。特に好ましくは、溶解性の観点から6FDAがあげられる。
【0125】
また、本実施形態において、溶解性の観点から、前記B又はDが、それぞれ独立に、式(B1)で表されることが好ましく、式(Y1)で表されることがより好ましい。
【0126】
【化26】
【0127】
本実施形態におけるポリイミドは、好ましくは式(6)で表される構造を有するポリイミドである。
【0128】
【化27】
(式(6)中、Yは4価の有機基を表し、k及びlは、繰り返し単位の数を表し、k:lの比は20:80~70:30である。)
【0129】
本実施形態における4価の有機基としては、脂環式構造を有する有機基も好ましい。
脂環式構造としては、例えば、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(1,2,3,4-Cycropentanetetetracarboxylic Dianhydride)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(1,2,4,5-Cyclohexanetetracarboxylic Dianhydride)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(1,2,3,4-Cyclobutanetetracarboxylic Dianhydride)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物(4-(2,5,-Dioxotetrahydrofurane-3-yl)-1,2,3,4-tetrahydronaphthalene-1,2-dicarboxylic Anhydride)等が挙げられる。上述した酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。Aが2種以上の酸二無水物に由来する基を含む場合、これらの基の順は任意である。
【0130】
本実施形態におけるポリイミドの重量平均分子量としては、特に限定されないが、耐熱性の観点から、300以上が好ましく、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは5000以上である。また、製造安定性の観点から、上記重量平均分子量は、500000以下が好ましく、より好ましくは300000以下であり、さらに好ましくは100000以下である。ここで、重量平均分子量とは、既知の数平均分子量のポリスチレンを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される分子量をいう。
本実施形態におけるポリイミドの分子量分布Mw/Mnは、好ましくは2.60以下、より好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.40以下である。また、分子量分布の下限は、特に制限されず、通常1.50以上である。
【0131】
また、本実施形態の組成物を多孔体、ファイバーシート等の加工体を製造したとき、当該加工体における残揮発成分量は、複合膜として用いる際の電気特性の観点から、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
残揮発成分の含有量は、窒素雰囲気中、30℃から350℃における重量減少率として表され、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
ファイバーシートの残揮発成分は、例えば、ファイバーシート等の加工体を作製後に熱処理工程を設けることにより、10質量%以下に調整することができる。
残揮発成分量は、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0132】
本実施形態におけるポリイミドは、特に限定されないが、例えば、次のようにして合成することができる。すなわち、上記に例示したような酸二無水物成分及びジアミン成分を、有機溶媒に溶解し、トルエン等の共沸溶媒を加え、イミド化の際に発生する水を系外に除去することでポリイミド及び溶媒を含有する本実施形態の組成物(ポリイミドワニスともいう。)として製造することができる。ここで、反応時の条件は特に限定されないが、例えば、反応温度は0℃~200℃、反応時間は3~72時間である。スルホン基含有ジアミン類との反応を充分に進めるために、180℃で12時間程度加熱反応させることが好ましい。また、反応は空気中でもよいがアルゴンや窒素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また反応にはピリジン、トリエチルアミン、イミダゾール、無水酢酸等のイミド化触媒を用いてもよい。
【0133】
本実施形態においては、上述したもの以外のジアミン及び酸二無水物も用いることができ、例えば、ジアミンとして、以下に限定されないが、p-フェニレンジアミン(p-Phenylenediamine:以下、p-PDともいう)由来、4,4'-ジアミノベンズアニリド(4,4'-diaminobenzanilide:以下、DABAともいう。)由来、1,4-シクロヘキサンジアミン(1,4-Cyclohexanediamine)由来、1,2-シクロヘキサンジアミン(1,2-Cyclohexanediamine)由来、が挙げられ、酸二無水物として、以下に限定されないが、ピロメリット酸二無水物(Pyromellitic anhydride:以下、PMDAともいう)由来、ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(4,4'-Biphthalic anhydride:以下、BPDAともいう。)由来、9,9-ジフェニルフルオレン酸二無水物(以下、DPFLDAともいう。)由来、ヒドロキシピロメリット酸二無水物(以下、HPMDAともいう。)由来、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(以下、BODAともいう。)由来、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン(以下、TDAともいう。)が挙げられる。
特に、ポリイミドの耐熱性、強度を向上する観点から、p-PD、DABA、PMDA、BPDAを含むことは好ましく、ポリイミドの溶媒への溶解性及び電解質との相溶性を確保する観点から、上記式(1)に対して20mol%以下であることが好ましい。
また、ポリイミドの溶媒への溶解性を高める観点から、嵩高い官能基を持つ芳香族酸二無水物(DPFLDA)、脂環式酸二無水物(HPMDA、BODA、TDA)、脂環式ジアミン(シクロヘキサンジアミン)を含むことは好ましく、ポリイミドの耐熱性、強度を損なわない観点から、上記式(1)に対して20mol%以下であることが好ましい。
【0134】
本実施形態におけるポリイミドは、その性能を損なわない範囲で、上述した繰り返し単位1及び繰り返し単位2以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0135】
溶媒は、本実施形態におけるポリイミドを溶解する溶媒であれば、特に限定されない。公知の反応溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、m-クレゾール等のフェノール系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、エクアミド等のアミド系溶媒、γ-ブチロラクトン(GBL)、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-クロトノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、δ-ヘキサノラクトン等のラクトン系溶媒、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル等のエステル系溶媒等から選ばれる1種以上の極性溶媒を用いることができる。これらの中でも、溶解性の観点から、好ましくはNMP、GBL、DMF、DMAcであり、より好ましくはNMP、DMF、DMAcである。
【0136】
ポリイミドと溶媒とを含む本実施形態の組成物を調製する方法の具体例は、次のとおりである。
まず、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾールと3,3'-ジアミノジフェニルスルホンをモル比50:50で還流管付のセパラブルフラスコに入れ、溶媒としてNMPを添加し溶解する。その後、4,4'-オキシジフタル酸二無水物を上記ジアミンに対して95~105mol%添加し、固形分を30質量%の溶液とする。その後、フラスコ内温を180℃に加熱し、トルエンを溶液に対し15質量%添加し、2時間還流後、還流管内に溜まった水を留去する。その後、フラスコ内温を180℃に5時間加熱し、式(1)で表される構造を有するポリイミドのNMPワニス(組成物)を得ることができる。溶媒にGBL、DMF、DMAcを用いても同様な方法により、式(1)で表される構造を有するポリイミドのワニス(組成物)を得ることができる。
【0137】
本実施形態におけるポリイミドワニスには適宜添加剤を添加してもよい。添加剤として、例えば、酸化セリウム、炭酸ストロンチウム等の無機粒子やポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルメタクリレート、セルローストリアセテート、フルオレン誘導体等の有機化合物が挙げられる。その他、加工性を改善する為の無機塩、有機塩、レベリング剤、分散剤、界面活性剤、密着助剤、難燃性を付与する為の難燃剤等が挙げられる。さらに、例えば、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、可塑剤、ワックス類、充填剤、顔料、染料、発泡剤、消泡剤、脱水剤、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。ポリイミドワニスに添加された添加剤は、そのまま芯材等の加工体に含有されていてもよい。
【0138】
本実施形態におけるポリイミドワニスは、以下に限定されないが、例えば、種々公知の方法によりフィルム、多孔体、ナノファイバー等の様々な形状に加工することができる。すなわち、本実施形態の加工体は、本実施形態の組成物を含むものであり、このような加工体は、フィルム、多孔体、ナノファイバー等の様々な形状を有するものであってよいが、とりわけ、多孔体やナノファイバーは燃料電池用の電解質膜を補強する芯材として好適に用いることができる。上記の他、本実施形態の加工体は、ファイバーシート、湿式相分離膜、粒子としての添加剤等、様々な用途に用いることができる。
【0139】
本実施形態における多孔体及びファイバーシートは、以下に限定されないが、例えば、種々公知の方法により形成することができる。すなわち、本実施形態の多孔体は、本実施形態のポリイミドを含むものであり、このような多孔体は、多孔質膜、ファイバーシート等の様々な形状を有するものであってよいが、ファイバーシートは燃料電池用の電解質膜を補強する芯材として好適に用いることができる。上記の他、本実施形態の多孔体は、湿式相分離膜、粒子としての添加剤等、様々な用途に用いることができる。
【0140】
多孔体として作製するための方法は、特に限定されず種々公知の方法を採用することができる。多孔体として作製するための方法としては、例えば、相分離を用いて多孔体を作製する熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法等が挙げられる。また、多孔体をファイバーシートとして作製するための方法は、特に限定されず種々公知の方法を採用することができる。多孔体をファイバーシートとして作製するための方法としては、例えば、エレクトロスピニングデポジション法(エレクトロスプレーデポジション法ともいう)、メルトブロー法、スパンボンド法、抄紙法等の不織布を製造する方法が挙げられる。
不織布であるファイバーシートは、熱処理、プレス処理、カレンダー処理、プラズマ処理、赤外線照射、紫外線照射、電子線照射、γ線照射等を施し機械的な強度を上げることもできる。
【0141】
本実施形態の多孔体をファイバーシートとして作製する際の、ファイバーシートの平均繊維径は、プロトン伝導性ポリマーへの埋め込みをしやすくする観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは700nm以下である。また、上記ファイバーシートの平均繊維径は、複合膜としたときの寸法変化に対応するために、好ましくは100nm以上1000nm以下、より好ましくは100nm以上500nm以下、さらに好ましくは200nm以上350nm以下である。
【0142】
本実施形態のファイバーシートの厚みは、強度を保つ観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは8μm以上である。また、上記ファイバーシートの厚みは、複合膜のプロトン伝導性を向上させる観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0143】
本実施形態のファイバーシートの目付は、強度を保つ観点から、好ましくは1.5g/m2以上、より好ましくは1.8g/m2以上、さらに好ましくは2.0g/m2以上である。また、上記ファイバーシートの目付は、複合膜のプロトン伝導性を向上させる観点から、好ましくは10.0g/m2以下、より好ましくは8.0g/m2以下、さらに好ましくは、7.0g/m2である。
また、本実施形態のファイバーシートに含まれる揮発成分は、複合膜として用いる際の電気特性を向上させる観点から、好ましくは10wt%以下、より好ましくは5wt%以下、さらに好ましくは3wt%以下である。
上述したファイバーシートと電解質膜との親和性を高める観点から、多孔体の表面を例えばスルホン化のような化学処理を行ってもよい。このような処理を行うことで多孔体に対するプロトン伝導性ポリマーの付着が促進される場合がある。
【0144】
本実施形態におけるポリイミドを含む多孔体として用いることができるファイバーシートを作製するための方法の具体例は、次のとおりである。
まず、式(1)で表される構造を有するポリイミドのDMAcワニスを、当該ポリイミド25質量%になるよう調製する。調製したワニスを、エレクトロスピニング装置を用いて、ワニスを吐出するニードル型電極のノズル針径0.2~0.5mmとし、長さを20~40mmとし、ニードル型電極とナノファイバーを堆積させるコレクタ電極との距離を10~40cm、電極間に印加する電圧を30kV、ワニスの流量を0.3mL/hとし、カプトンフィルムを支持体としてコレクタ電極上に設置し、エレクトロスピニングデポジションを行うことにより、ファイバーシートを得ることができる。
式(1)で表される構造を有するポリイミドを含むことにより、溶媒への溶解性を高くすることができ、紡糸する際の固形分濃度を高くすることができ、生産性高くファイバーシートを得ることができる。
【0145】
[複合膜]
本実施形態の複合膜は、本実施形態の組成物を含む加工体と、プロトン伝導性を有する電解質膜と、を備える。すなわち、本実施形態の複合膜は、電解質膜が、式(1)で表される構造を有するポリイミドを含む加工体により補強された構成ということができ、高温低加湿条件下においても優れた耐久性とイオン伝導性を発現することができる。
本実施形態の組成物を含む加工体は、式(1)で表される構造を有するポリイミド(以下、「本実施形態におけるポリイミド」ともいう。)を含む。このように構成されているため、本実施形態の組成物は、ポリイミドの持つ高い耐熱性(高いガラス転移点)により高温運転においても熱膨張が抑制できる。またポリイミドの弾性率は、ポリイミドのガラス転移点が高いため、高温領域においても保持できる。そのため、高温運転でも機械的な強度を保持した複合膜とすることができる。
【0146】
本実施形態の複合膜は、本実施形態のファイバーシートと、プロトン伝導性を有する電解質膜と、を備える。すなわち、本実施形態における複合膜は、電解質膜が本実施形態におけるポリイミドを含むファイバーシート多孔体により補強された構成ということができ、高温低加湿条件下においても優れた耐久性とイオン伝導性を発現することができる。ファイバーシートは、2次元的に繊維が堆積しており、3次元方向の束縛が少ない特徴がある。そのため、本実施形態のポリイミドをファイバーシートとして複合膜の芯材に用いると、加湿時の膨潤の際に、繊維長の2次元方向の寸法変化を強く抑制する一方、ファイバーシートの厚み方向へは弱く抑制する。2次元方向の寸法変化を抑えることで、膨潤収縮の繰り返しによる耐久性が向上する一方、厚み方向に膨潤して膜中に水を保持することができ、プロトン伝導性を高く維持することができる。
また、本実施形態の組成物は、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するパーフルオロ系プロトン交換膜との親和性が高い為、加工体がプロトン伝導性の電解質膜中に空隙が少ない状態で存在し、加工体として補強効果を発現する。またプロトン伝導を阻害する空隙が少ないため、プロトン伝導性も良好に発現することができる。
故に、とりわけ本実施形態の組成物を加工体として用いた複合膜は高温低加湿条件下においても優れた耐久性とイオン電導性を発現する。すなわち、本実施形態の組成物は複合膜の加工体として好適に用いることができる。
【0147】
本実施形態の加工体は、式(1)で表される構造を有するポリイミドを含むものであれば特に限定されず、例えば、多孔体、ナノファイバー等の様々な形状の加工体とすることができる。
【0148】
加工体を多孔体として作製するための方法は、特に限定されず種々公知の方法を採用することができる。加工体を多孔体として作製するための方法としては、例えば、相分離を用いて多孔体を作製する熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法等が挙げられる。
また、加工体をナノファイバーとして作製するための方法は、特に限定されず種々公知の方法を採用することができる。加工体をナノファイバーとして作製するための方法としては、例えば、エレクトロスピニングデポジション法(エレクトロスプレーデポジション法ともいう)、メルトブロー法、スパンボンド法、抄紙法等の不織布を製造する方法が挙げられる。不織布は、熱処理、プレス処理、カレンダー処理、プラズマ処理、赤外線照射、紫外線照射、電子線照射、γ線照射等を施し機械的な強度を上げることもできる。
また、本実施形態における加工体の揮発成分量は、電気特性(特に、燃料電池に適用した際の電気特性)の観点から、10wt%以下が好ましく、より好ましくは5wt%以下、さらに好ましくは3wt%以下である。揮発成分量は、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上述した多孔体と電解質膜との親和性を高める観点から、多孔体の表面を例えばスルホン化のような化学処理を行ってもよい。このような処理を行うことで多孔体に対するプロトン伝導性ポリマーの付着が促進される場合がある。
【0149】
本実施形態の加工体の一つであるファイバーシートを作製するための方法の具体例は、次のとおりである。
まず、式(1)で表される構造を有するポリイミドのDMAcワニスを、ポリイミド25質量%になるよう調製する。調製したワニスを、エレクトロスピニング装置を用いて、ワニスを吐出するニードル型電極のノズル針径0.2~0.5mmとし、長さを20~40mmとし、ニードル型電極とナノファイバーを堆積させるコレクタ電極との距離を10~40cm、電極間に印加する電圧を30kV、ワニスの流量を0.3mL/hとし、カプトンフィルムを支持体としてコレクタ電極上に設置し、エレクトロスピニングデポジションを行うことにより、ファイバーシートを得ることができる。
【0150】
また、上記した加工体を用いた複合膜を作製するための方法の具体例は、次のとおりである。
まず、カプトンフィルムを支持体として、例えば10質量%のパーフルオロカーボン高分子化合物(以下、PFSAと記載)の溶液(溶媒はエチレングリコール、エタノール、水、イソプロピルアルコール等の混合物)をwet膜厚が130μm程度となるように塗布する。PFSA塗工部に、ファイバーシートをシワの無いように積層し、充分にPFSA溶液を含浸した後、70℃程度で30分程度乾燥する。乾燥後に再び、PFSAとファイバーシートの積層体上にPFSAの溶液を塗布し、70℃程度で30分程度乾燥し、水洗後、160℃程度で熱処理を行い、支持体であるカプトンフィルムから剥離し、複合膜とすることができる。
このような製造方法において、本実施形態におけるポリイミドは塩基性の骨格を含むため、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有するパーフルオロ系プロトン交換膜との親和性が高く、PFSA溶液の含浸性や塗布性に優れ、膜中のボイドが少ない複合膜が作製可能である。
【0151】
本実施形態における加工体は、加工体の機能を損なわない範囲において、本実施形態におけるポリイミド以外のポリマーを含んでいてもよい。ポリイミド以外のポリマーとして例えば、ポリエーテルスルホン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体ともいう)、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン等が挙げられる。
【0152】
本実施形態における電解質膜は、特に限定されず、例えば、プロトン伝導性を有する電解質膜として下記のA’成分を用いることができる。また、電解質膜は、必要に応じB’成分~C’成分を含むことができる。本実施形態における電解質膜は、A’成分、並びに必要に応じてB’成分及びC’成分を含む高分子電解質組成物から調製される膜とも定義される。以下、高分子電解質組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0153】
(高分子電解質(A’成分))
高分子電解質(A’成分)としては、例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物や、分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物にイオン交換基が導入されたもの等が好ましい。そのイオン交換容量としては、0.5~3.0ミリ当量/gであることが好ましい。
上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0154】
中でも、上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、耐熱性や耐酸化性、耐加水分解性の観点から、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミドが好ましい。上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物の芳香族環に導入するイオン交換基は、例えば、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられ、スルホン酸基であることが好ましい。
【0155】
本実施形態において用いられる高分子電解質(A成分)としては、化学的安定性の観点から、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が好適である。
上記イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂、パーフルオロカーボンスルホンイミド樹脂、パーフルオロカーボンスルホンアミド樹脂、パーフルオロカーボンリン酸樹脂、又はこれら樹脂のアミン塩、金属塩等が挙げられる。
【0156】
本実施形態において用いられる高分子電解質(A成分)としては、具体的には、式(2)で表される構造単位を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が挙げられる。
-[CF2CX12a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF23))b-Oc-(CFR1d-(CFR2e-(CF2f-X4)]g- (2)
【0157】
式中、
1、X2及びX3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1~3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
4はCOOZ、SO3Z、PO32、又はPO3HZを表す。
Zは、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子若しくはカリウム原子等のアルカリ金属原子;カルシウム原子若しくはマグネシウム原子等のアルカリ土類金属原子;又は、NH4、NH3x1、NH2x1x2、NHRx1x2x3、NRx1x2x3x4からなる群より選択されるアミン類である。Rx1、Rx2、Rx3及びRx4は、それぞれ独立して、アルキル基及びアレーン基からなる群から選択される。
4がPO32である場合、Zは同一であっても異なっていてもよい。
x1、Rx2、Rx3及びRx4におけるアルキル基とは、特に限定されるものではないが、一般式Cn2n+1で表される1価の基(nは、1以上の整数を表し、1~20の整数であることが好ましく、1~10の整数であることがより好ましい。)が挙げられる。Rx1、Rx2、Rx3及びRx4におけるアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
また、上記アレーン基とは、特に限定されるものではないが、芳香族炭化水素(炭素数6~16の単環又は縮合環)の核から水素1原子を除いた残基が挙げられ、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基及びアレーン基は置換されていてもよい。
1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択される。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数である。
bは、0~8の整数である。
cは、0又は1である。
d、e及びfは、それぞれ独立して、0~6の整数である(ただし、d、e及びfは、同時に0ではない。)。
【0158】
式(2)におけるZがアルカリ土類金属である場合には、例えば、(COO)2Z又は(SO32Zのように、2つのX4がアルカリ土類金属と塩を形成していてもよい。
【0159】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の中でも、式(3’)又は(4’)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー又はその金属塩がより好ましい。
-[CF2CF2a-[CF2-CF((-O-CF2-CF(CF3))b-O-(CF2h-SO3X)]g- (3’)
【0160】
式(3’)中、a及びgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、bは1~3の整数であり、hは1~8の整数であり、Xは水素原子又はアルカリ金属原子である。
【0161】
-[CF2CF2a-[CF2-CF(-O-(CF2h-SO3X)]g- (4’)
【0162】
式(4’)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、mは1~8の整数であり、Xは水素原子又はアルカリ金属原子である。
【0163】
本実施形態における高分子電解質(A’成分)のイオン交換容量を3.0ミリ当量/g以下とする場合、燃料電池運転中の高温高加湿下で電解質膜の膨潤が低減される傾向にある。膨潤が低減されることにより、電解質膜の強度の低下や、しわが発生して電極から剥離したりする等の問題、さらには、ガス遮断性が低下する問題を低減することもできる。また、イオン交換容量を0.5ミリ当量/g以上とする場合、電解質膜を備えた燃料電池の発電能力を良好に維持できる傾向にある。高分子電解質(A成分)のイオン交換容量は、好ましくは0.5~3.0ミリ当量/gであり、より好ましくは0.65~2.0ミリ当量/gであり、さらに好ましくは0.8~1.5ミリ当量/gである。
【0164】
(チオエーテル基を有する化合物(B’成分))
本実施形態において用いうるチオエーテル基を有する化合物(B成分)としては、-(R-S)n-(Sはイオウ原子、Rは炭化水素基、nは1以上の整数)の化学構造を含む化合物であって、例えば、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジプロピルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、メチルブチルチオエーテルのようなジアルキルチオエーテル、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロアピランのような環状チオエーテル、メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィドのような芳香族チオエーテル等が挙げられる。これらは単量体で用いてもよいし、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)のような重合体で用いてもよい。
チオエーテル基を有する化合物(B成分)は、上記化学構造において、耐久性の観点から、nが10以上の整数である重合体(オリゴマー、ポリマー)であることが好ましく、nが1,000以上の整数である重合体であることがより好ましい。
【0165】
本実施形態において用いられるチオエーテル基を有する化合物(B成分)としては、化学的安定性の観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂が好適である。
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、パラフェニレンスルフィド骨格を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上有するポリフェニレンスルフィド樹脂である。
【0166】
上記B’成分としては、ポリフェニレンスルフィドのベンゼン環に酸性官能基を導入したものも好適に用いることができる。導入する酸性官能基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、マレイン酸基、無水マレイン酸基、フマル酸基、イタコン酸基、アクリル酸基、メタクリル酸基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。
上記酸性官能基の導入方法は特に限定されず、一般的な方法を用いて実施される。例えば、スルホン酸基の導入については、無水硫酸、発煙硫酸等のスルホン化剤を用いて公知の条件で実施することができる。具体的には、K.Hu, T.Xu, W.Yang, Y.Fu, Journal of Applied Polymer Science, Vol.91,や、E.Montoneri, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.27, 3043-3051(1989)に記載の条件で実施することができる。また、導入した酸性官能基を金属塩又はアミン塩に置換したものも好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0167】
(アゾール環を有する化合物(C’成分))
本実施形態において用いられるアゾール環を有する化合物(C’成分)としては、環内に窒素原子を1個以上含む複素五員環構造を含む化合物である。なお、複素五員環には、窒素以外に酸素、イオウ等の原子を含むものであっても構わない。
上記アゾール環としては、例えば、炭素原子以外の異原子が2個のものとしては、イミダゾール(1,3-ジアゾール)、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール(1,2-ジアゾール)、イソオキサゾール、イソチアゾール等が、異原子が3個のものとしては、1H-1,2,3-トリアゾール(1,2,3-トリアゾール)、1,2,3-オキサジアゾール(ジアゾアンヒドリド)、1,2,3-チアジゾール等が、異原子が4個のものとしては、1H-1,2,3,4-テトラゾール(1,2,3,4-テトラゾール)、1,2,3,5-オキサトリアゾール、1,2,3,5-チアトリアゾール等が挙げられる。
上記したようなアゾール環は、ベンゼン環等の芳香族環と縮合したものであってもよい。
上記複素五員環構造を含む化合物としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、ナフタレン基、ジフェニレンエーテル基、ジフェニレンスルホン基、ビフェニレン基、ターフェニル基、2,2-ビス(4-カルボキシフェニレン)ヘキサフルオロプロパン基等の2価の芳香族基が複素五員環と結合した化合物を用いることが耐熱性を得る観点から好ましい。
【0168】
本実施形態において用いられるアゾール環を有する化合物(C’成分)としては、化学的安定性の観点から、ポリアゾール系化合物が好適である。
ポリアゾール系化合物としては、例えば、ポリイミダゾ-ル系化合物、ポリベンズイミダゾ-ル系化合物、ポリベンゾビスイミダゾ-ル系化合物、ポリベンゾオキサゾ-ル系化合物、ポリオキサゾ-ル系化合物、ポリチアゾ-ル系化合物、ポリベンゾチアゾ-ル系化合物等の重合体が挙げられる。具体的には、上記C成分として、ポリベンズイミダゾールが好ましく用いられる。
【0169】
上記C’成分としては、化学的安定性の観点から、ポリアゾール塩が好適である。
ポリアゾール塩としては、ポリアゾール系化合物の少なくとも一部がポリアゾール金属塩である化合物が好ましく、例えば、ポリアゾールアルカリ金属塩又はポリアゾールアルカリ土類金属塩が挙げられる。具体的には、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Fr+等の一価のイオンとのアルカリ金属塩が好ましく、ポリアゾール塩として、ポリアゾールNa塩であることがより好ましい。
金属イオンの量は、ポリアゾール系化合物の複素環中に存在する窒素の全当量数に対して、好ましくは0.01~100倍当量(0.01倍当量以上100倍当量以下)、より好ましくは0.05~50倍当量、さらに好ましくは0.1~10倍当量である。
上記ポリアゾール系化合物(下記変性ポリアゾール系化合物を含む)及び/又はポリアゾール塩は、1種類で用いてもよく、また2種類以上を混合して使用することもできる。
【0170】
上記C’成分の分子量は、GPC測定を行った場合の重量平均分子量として、300~500000(ポリスチレン換算)のものが使用できる。
【0171】
本実施形態において、上記A’成分と上記C’成分とは、例えば、イオン結合して酸塩基のイオンコンプレックスを形成している状態を形成していてもよいし、共有結合している状態であってもよい。即ち、例えば、上記A’成分中のスルホン酸基と、上記C’成分中のイミダゾール基、オキサゾール基、チアゾ-ル基等の各反応基に含まれる窒素原子とは、イオン結合や共有結合を生じていてもよい。
【0172】
本実施形態において、A’成分が高分子電解質組成物中の固形分に占める割合は、50~99.99質量%であることが好ましい。上記割合は、イオン伝導性と耐久性のバランスの観点から、55~95質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることがさらに好ましい。
【0173】
(複合膜の製造方法)
本実施形態における複合膜の製造方法について説明する。本実施形態の複合膜は、例えば、燃料電池の構成部材として用いることができる。製造手段は特に限定されず、加工体とプロトン伝導性を有する電解質膜とをプレス法によって複合化してもよく、また加工体上にプロトン伝導性を有する電解質膜をキャスト法(塗工法)によって複合化してもよい。その際、任意の好適なキャスティング法を使用してよく、以下に限定されないが、例えば、バーコーティング、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティング等が挙げられる。
また、本実施形態の組成物とプロトン伝導性を有する電解質成分とを、混合した状態でキャストし、キャスト後、相分離により、本実施形態の組成物を含む加工体と、プロトン伝導性を有する電解質膜と、を備える、複合膜とすることができる。その他、本実施形態の組成物とプロトン伝導性を有する電解質成分とを、混合した状態で溶融押し出し法によって、相分離により、本実施形態の組成物を含む加工体と、プロトン伝導性を有する電解質膜と、を備える、複合膜とすることもできる。
このようにして得られた複合膜は必要に応じて引き続き熱処理が施される。熱処理によりプロトン伝導性を有する電解質膜中の結晶性が向上し機械的強度が安定化され得る。熱処理温度は、好ましくは120~300℃であり、より好ましくは140~250℃であり、さらに好ましくは160~230℃である。熱処理温度を120℃以上とすることは、結晶性が向上する為、機械的強度向上に寄与し得る。一方、熱処理温度を300℃以下とすることは、複合膜の特性を維持する観点から好適である。熱処理の時間は、熱処理温度にもよるが、好ましくは5分~3時間であり、より好ましくは10分~2時間である。
【0174】
(洗浄工程)
上記複合膜は、必要に応じて引き続き酸及び/又は水を用いた洗浄処理が施される。
酸による洗浄を行なうことは、電解質膜中のイオン交換基にイオン結合した金属イオン、有機物イオンを除去し、イオン交換能を向上させる観点から好適である。よって、酸で洗浄しなくても充分なイオン交換能が得られる場合には、酸で洗浄する必要はない。
ここで、酸による洗浄に使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素、ホスホン酸、ホスフィン酸等の無機酸等;酒石酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸、アミノエチルホスホン酸、イノシン、グリセリンリン酸、ジアミノ酪酸、ジクロロ酢酸、システイン、ジメチルシステイン、ニトロアニリン、ニトロ酢酸、ピクリン酸、ピコリン酸、ヒスチジン、ビピリジン、ピラジン、プロリン、マレイン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸等の有機酸;等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。さらに、これらの無機酸及び有機酸は、水、メチルエチルケトン、アセトニトリル、炭酸プロピレン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジン、メタノール、エタノール、アセトン等との混合液として使用してもよい。
【0175】
これらの酸は、25℃でのpHとして2以下のものが好ましい。また、洗浄の温度は0~160℃まで使用できるが、低すぎると反応時間が長くなり、高すぎれば、取り扱いが困難となるため好ましくない。また高温での酸洗には耐酸性のあるオートクレーブを使用することが好ましい。
また、水による洗浄もまた必要に応じて行われ、特に酸による洗浄を行った場合には膜中に残留する酸を除去する目的で行われるが、酸による洗浄を行わない場合でも膜中の不純物の除去を目的に実施することができる。
洗浄に使用する溶媒は水のほか、pH1~7の各種の有機溶媒が使用できる。洗浄に水を使用する場合、充分な量の伝導度0.06S/cm以下の純水を用いることが好ましく、水洗水のpHが6~7になるまで充分に行われるのが好ましい。
【0176】
(延伸工程)
本実施形態において、上記記載の製法と併せて、必要に応じ横1軸延伸、同時2軸延伸又は逐次2軸延伸を実施してもよい。このような延伸処理により、本実施形態の複合膜の力学物性を向上させることができる。
上記の延伸処理は、横(TD)方向に1.1~6.0倍、縦(MD)方向に1.0~6.0倍で実施することが好ましく、より好ましくは横方向に1.1~3.0倍、縦方向に1.0~3.0倍、さらに好ましくは横方向に1.1~2.0倍、縦方向に1.0~2.0倍である。面積延伸倍率としては1.1~36倍が好ましい。
【0177】
(補強材料)
本実施形態において、上記記載の製法と併せて、無機材、有機材又は有機無機ハイブリッド材からなる補強材料(ただし、本実施形態の加工体を除く。)を添加することによる補強や、架橋による補強等を施すこともできる。補強材料は繊維状物でもよいし、粒子状物質でもよいし、薄片状物質でもよい。また、多孔膜、メッシュ及び不織布等の連続した支持体でもよい。本実施形態において、補強材料の添加による補強を実施することで、力学強度及び乾湿寸法変化を容易に向上させることができる。特に繊維状物又は上述の連続した支持体を補強材料に用いると補強効果が高い。また、補強しない層と上記補強層した層を任意の方法で多層状に積層したものも好ましい。
補強材料は、溶融混練時に同時に添加、混合してもよいし、溶液又は懸濁液を含浸してもよいし、成膜後の膜と積層してもよい。
【0178】
(膜厚)
本実施形態において、複合膜の厚みには限定はないが、1~500μmであることが好ましく、より好ましくは2~100μm、さらに好ましくは5~50μmである。膜厚を1μm以上とすることは、水素と酸素の直接反応のような不都合を低減し得る点、燃料電池製造時の取り扱い時や燃料電池運転中に差圧・歪み等が生じても、膜の損傷等が発生しにくいという点で好ましい。一方、膜厚を500μm以下とすることは、イオン透過性を維持し、固体電解質膜としての性能を維持する観点から好ましい。
【0179】
(EW)
本実施形態において、電解質膜の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのプロトン交換膜の乾燥質量グラム数)には限定はないが、333~2000であることが好ましく、より好ましくは400~1500であり、さらに好ましくは500~1200である。より低いEW、つまりプロトン交換容量の大きいプロトン伝導性ポリマーを用いることにより、高温低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時に高い出力を得ることができる。
【0180】
[膜電極接合体]
本実施形態の膜電極接合体は、本実施形態の複合膜を備える。すなわち、本実施形態の複合膜は、後述する電極触媒層と共に、膜電極接合体及び燃料電池の構成部材として使用することができる。電解質膜の両面にアノードとカソードの2種類の電極触媒層が接合したユニットは、膜電極接合体(以下「MEA」と略称することがある)と呼ばれる。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。本実施形態における電極触媒層は、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層として使用される。
【0181】
(電極触媒層)
本実施形態における電極触媒層は、導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子と、高分子電解質(A’成分と同じものでもよい)と、必要に応じ、チオエーテル基を有する化合物(B’成分)とアゾール環を有する化合物(C’成分)とを含有する高分子電解質組成物と、含む電極触媒組成物から構成されることを特徴とする。
電極触媒は、アノードでは燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生ぜしめ、カソードではプロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒である。電極触媒の種類には制限がないが、白金が好ましく用いられる。CO等の不純物に対する白金の耐性を強化するために、白金にルテニウム等を添加又は合金化した電極触媒が好ましく用いられる場合もある。
導電性粒子としては、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、各種金属等が用いられる。これら導電性粒子の粒子径としては、好ましくは10オングストローム~10μm、より好ましくは50オングストローム~1μm、さらに好ましくは100~5000オングストロームである。電極触媒粒子の粒子径は限定されないが、10~1000オングストロームが好ましく、より好ましくは10~500オングストローム、さらに好ましくは15~100オングストロームである。
複合粒子としては、導電性粒子に対して電極触媒粒子が、好ましくは1~99質量%、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは30~70質量%に担持されていることが好ましい。具体的には、田中貴金属工業(株)製TEC10E40E等のPt触媒担持カーボンが好適な例として挙げられる。
【0182】
本実施形態において、電極触媒層中に占める複合粒子の含有率は、好ましくは20~95質量%、より好ましくは40~90質量%、さらに好ましくは50~85質量%、よりさらに好ましくは60~80質量%である。
本実施形態において、上記B’成分と上記C’成分との質量比(B’/C’)は、好ましくは(B’/C’)=1/99~99/1である。化学的安定性と耐久性(分散性)のバランスの観点から、(B’/C’)=5/95~95/5であることがより好ましく、(B’/C’)=10/90~90/10であることがさらに好ましく、(B’/C’)=20/80~80/20であることがよりさらに好ましい。
本実施形態において、上記B’成分と上記C’成分との合計質量が高分子電解質組成物中の固形分に占める割合は、好ましくは0.01~50質量%である。上記割合は、イオン伝導性と耐久性(分散性)のバランスの観点から、0.05~45質量%がより好ましく、0.1~40質量%がさらに好ましく、0.2~35質量%がよりさらに好ましく、0.3~30質量%が特に好ましい。
【0183】
電極面積に対する電極触媒の担持量としては、電極触媒層を形成した状態で、好ましくは0.001~10mg/cm2、より好ましくは0.01~5mg/cm2、さらに好ましくは0.1~1mg/cm2である。
【0184】
本実施形態において、電極触媒層の厚みとしては、好ましくは0.01~200μm、より好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは1~50μmである。
本実施形態において、電極触媒層の空隙率は、特に限定されないが、好ましくは10~90体積%であり、より好ましくは20~80体積%であり、さらに好ましくは30~60体積%である。
【0185】
本実施形態における電極触媒層が、撥水性の向上のため、さらにポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と略称することがある。)を含有する場合がある。この場合、PTFEの形状としては特に限定されないが、定形性のものであれば構わず、粒子状、繊維状であることが好ましく、これらが単独で使用されても混合して使用されていても構わない。
本実施形態において、電極触媒層にPTFEを含有する場合の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001~20質量%であり、より好ましくは0.01~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
【0186】
本実施形態における電極触媒層が、親水性向上のため、さらに金属酸化物を含有する場合がある。この場合、金属酸化物としては特に限定はないが、Al23、B23、MgO、SiO2、SnO2、TiO2、V25、WO3、Y23、ZrO2、Zr23及びZrSiO4からなる群から選ばれた少なくとも1つを構成要素とする金属酸化物であることが好ましい。中でもAl23,SiO2,TiO2、ZrO2であることがより好ましく、SiO2がさらに好ましい。
【0187】
本実施形態において、電極触媒層が金属酸化物を含有する場合の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~5質量%である。金属酸化物の形態としては、粒子状や繊維状といったものを用いても構わないが、特に非定形であることが望ましい。ここで言う非定形とは、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察しても、粒子状や繊維状の金属酸化物が観察されないことをいう。
【0188】
(電極触媒層の製造方法)
本実施形態における電極触媒層は、例えば、イオン交換容量が0.5~3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A’成分と同じでよい)と、必要に応じ、チオエーテル基を有する化合物(B’成分)とアゾール環を有する化合物(C’成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は懸濁しており、高分子電解質組成物中に占めるA’成分とB’成分とC’成分の合計質量%が0.5~30質量%であり、かつ高分子電解質組成物中の固形分に占める前記B’成分と前記C’成分の合計質量が0.01~50質量%である溶液又は懸濁液である高分子電解質組成物を準備し、この高分子電解質組成物中に、高分子電解質組成物に対して1~100質量%の上記複合粒子を分散させた電極触媒組成物を調製し、これを電解質膜上又はPTFEシート等の他の基材上に塗布した後、乾燥、固化して製造することができる。
電極触媒組成物の調整において、高分子電解質組成物中に分散させる複合粒子の量としては、高分子電解質組成物に対して、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%である。
【0189】
本実施形態において電極触媒組成物の塗布は、スクリーン印刷法、スプレー法等の一般的に知られている各種方法を用いることが可能である。
上記電極触媒組成物は、必要に応じてさらに溶媒を添加されて使用される。用いることができる溶媒としては水、アルコール類(エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等)、フロン等の単独溶媒又は複合溶媒が挙げられる。このような溶媒の添加量としては、電極触媒組成物の全質量に対し、好ましくは0.1~90質量%、より好ましくは1~50質量%、さらに好ましくは5~20質量%であることが望ましい。
また一方、ガス拡散層と電極触媒層が積層したBASF社製ELAT(登録商標)のようなガス拡散電極に、上記高分子電解質組成物を塗布又は浸漬及び塗布せしめた後に、乾燥、固化することによっても本実施形態における電極触媒層を得ることができる。
またさらに、電極触媒層を作製後に塩酸等の無機酸に浸漬を行う場合がある。酸処理の温度としては、好ましくは5~90℃、より好ましくは10~70℃、さらに好ましくは20~50℃である。
【0190】
[燃料電池セル]
本実施形態の燃料電池セルは、本実施形態の膜電極接合体を備える。通常、上記MEAのアノードとカソードを複合膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合させると、作動可能な固体高分子形燃料電池とすることができる。この際、必要に応じてアノード触媒層とカソード触媒層のそれぞれの外側表面にガス拡散層をセットすることができる。ガス拡散層としては、市販のカーボンクロス又はカーボンペーパーを用いることができる。前者の代表例としては、BASF社製カーボンクロスE-tek,B-1が挙げられ、後者の代表例としては、CARBEL(登録商標、日本国ジャパンゴアテックス(株))、日本国東レ社製TGP-H、米国SPECTRACORP社製カーボンペーパー2050等が挙げられる。このような固体高分子形燃料電池は種々公知の方法により作製することができる。固体高分子形燃料電池の作製方法は、例えば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0-442-31926-6)、化学One Point,燃料電池(第二版),谷口雅夫,妹尾学編,共立出版(1992)等に詳しく記載されている。
電子伝導性材料としては、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイト又は樹脂との複合材料、金属製のプレート等の集電体を用いる。上記MEAがガス拡散層を有さない場合、MEAのアノードとカソードのそれぞれの外側表面にガス拡散層を位置させた状態で単セル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFC単セル)に組み込むことにより固体高分子形燃料電池が得られる。
高電圧を取り出すためには、上記のような単セルを複数積み重ねたスタックセルとして燃料電池を作動させる。このようなスタックセルとしての燃料電池を作製するためには、複数のMEAを作製してスタックセル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製
PEFCスタックセル)に組み込む。このようなスタックセルとしての燃料電池においては、隣り合うセルの燃料と酸化剤を分離する役割と隣り合うセル間の電気的コネクターの役割を果たすバイポーラプレートと呼ばれる集電体が用いられる。
【0191】
[燃料電池システム]
本実施形態の燃料電池システムは、本実施形態の燃料電池セルを備える。燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましい。通常は、水分管理が容易な50~80℃で作動させることが多いが、80℃~150℃で作動させることもできる。すなわち、本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池セルに水素と酸素又は空気とを供給する各供給系や、その圧力、流量、温度等を調整する制御系を含むものとすることができる。
本実施形態の燃料電池システムは、以下に限定されないが、例えば、携帯電話やスマートホン等のモバイル機器、フォークリフト、スクーター、オートバイ、自動車、定置用燃料電池(コージェネレーションシステム)、発電所、ロボット、船舶、航空機、ロケット、ドローン等に用いることができる。
【0192】
<<第一の実施形態及び第二の実施形態の組み合わせ>>
第一の実施形態の組成物からは、電解質膜が好適に得られる。
また、第二の実施形態の組成物からは、電解質膜を支持、補強するための芯材が好適に得られる。
第一の実施形態と、第二の実施形態とを組み合わせることができ、具体的には、本実施形態として、第一の実施形態の組成物から得られる電解質膜と、第二の実施形態の組成物から得られるファイバーシートとを備える複合膜が得られる。
【実施例1】
【0193】
以下、実施例と比較例により本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。後述の「第一の実施形態の実施例」は、上述した第一の実施形態に対応する実施例であり、後述の「第二の実施形態の実施例」は、第二の実施形態に対応する実施例である。
【0194】
<<第一の実施形態の実施例>>
実施例と比較例で用いられる測定方法、評価方法は次のとおりである。
(イオン交換容量測定)
フッ素系高分子電解質のペレット、又は電解質膜約10~50mgを50mLの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬し、攪拌しながら10分間放置した後、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後、得られたNa型フッ素系高分子電解質のペレットを純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型高分子電解質膜の質量をW(mg)とし、下記式よりイオン交換容量(meq/g)を求めた。
イオン交換容量=1000/((W/M)-22)
【0195】
(B成分のエタノール溶液における固形分濃度測定)
秤量瓶の質量を精秤し、これをW0とした。測定した秤量瓶に測定物を約10g入れ、精秤し、W1とした。これを250℃、0.10MPa以下で3hr以上乾燥した後、シリカゲル入りのデシケーター中で冷却し、室温になった後に吸水させないようにして精秤し、W2とした。(W2-W0)/(W1-W0)を百分率で表し、上記を計5回測定し、その平均を固形分濃度とした。
【0196】
(分子量測定)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に24.8mol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたものを使用した。また、重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作製した。
カラム:TSK-GEL SUPER HM-H
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU-2080(JASCO社製)
検出器:RI-2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)
UV-2075Plus(UV-Vis:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0197】
(粉砕性評価)
ナノジェットパル(登録商標)JN100(常光社製)を用いて、粉砕を行い、以下の基準で評価を行った。なお、1Passは、全サンプルが粉砕経路を通過するために必要な吐出回数を意味し、全サンプルを1回の吐出量で割り返した吐出回数を表す。ここで、粉砕性とは、所望の粒径へ粉砕するための容易さを指す。
◎: 圧力180MPa、20Pass以下で、平均径3μm以下に粉砕できた。
○: 圧力180MPa、20Passを超え、200Pass以下で、平均径3μm以下に粉砕できた。
△: 圧力250MPa、100Pass以下で、平均径3μm以下に粉砕できた。
×: 圧力250MPa、100Passを超え、200Pass以下で、平均径3μm以下に粉砕できた。
【0198】
(粒度分布測定)
粒度分布計LA-920(HORIBA社製)を用いて、粒度分布を測定した。分散媒はエタノールを用い、循環速度3の条件で、超音波を3分間かけた後に測定を行った。エタノールの屈折率は、1.36、樹脂の屈折率は1.65とし、存在比率を体積基準により評価した。平均径は、粒子径分布を算術平均した値を示し、モード径は、出現率が最も高い粒子径を示した。存在率は、指定した粒子径の範囲に存在する粒子の体積基準での存在率を示した。
【0199】
(粘度測定)
測定温度25℃でE型回転粘度計(東機産業社製 TV-20・コーンプレートタイプ)を用いて、1rpm時の粘度(cp)を測定した。
【0200】
(分散性評価)
混合した後の組成物について、粒度分布を測定することで、分散性を評価した。評価は、粒度分布計LA-920(HORIBA社製)を用いて、粒度分布を測定した。分散媒はエタノールを用い、循環速度3の条件で測定を行いった。エタノールの屈折率は、1.36、樹脂の屈折率は1.65とし、存在比率を体積基準により評価し、以下の基準で評価を行った。なお、平均径は、粒子径分布を算術平均した値を示している。
◎: 粒子の平均径が5μm以下であった。
○: 粒子の平均径が5μmより大きく10μm以下であった。
△: 粒子の平均径が10μmより大きく30μm以下であった。
×: 粒子の平均径が30μmより大きかった。
【0201】
(化学耐久性評価)
燃料電池での化学耐久性評価を以下のように行った。まず、以下のように電極触媒層を作製した。Pt担持カーボン(田中貴金属社製TEC10E40E、Pt36.4%)1.00gに対し、5質量%パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS-910(旭化成イーマテリアルズ製、当量質量(EW):910、溶媒組成:エタノール/水=50/50(質量比))を11質量%に濃縮したポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加した後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cm2になる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cm2になる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cm2のものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cm2のものをカソード触媒層とした。
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
このMEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B-1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットし、セルを95℃に昇温し、アノード、カソードのガス加湿温度は50℃とした。アノード側に水素を50cc/分で流し、カソード側には空気を50cc/分で流した。この状態で、開回路にして電流値を0にした状態を維持することで化学耐久性を評価した。
耐久性試験において、電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へリークするクロスリークと呼ばれる現象が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(Varian社製、型番:CP4900)にて測定し、この測定値が1,000ppmを超えた時点で試験終了とした。試験開始から試験終了までの時間Hrを耐久性試験の評価に用い、以下のような基準で耐久性を判定した。
◎: 300Hr以上の耐久性を示した。
○: 200Hr以上300Hr未満の耐久性を示した。
△: 100Hr以上200Hr未満の耐久性を示した。
×: 100Hr未満の耐久性を示した。
【0202】
[実施例A1]
(イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体溶液の作製)
高分子電解質の前駆体ポリマーである、テトラフルオロエチレン及びCF2=CFO(CF22-SO2Fから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂の前駆体(加水分解及び酸処理後のイオン交換容量:1.30meq/g)ペレットを準備した。次に、その前駆体ペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)とを溶解した水溶液に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、ペレットを60℃の水中に5時間浸漬した。次いで、水中に浸漬した後のペレットを、60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を新しいものに代えて、5回繰り返した。そして、塩酸水溶液に繰り返し浸漬させた後のペレットを、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、高分子電解質であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(PFSA)を得た。
このペレットを、エタノール水溶液(水:エタノール=50.0/50.0(質量比))と共に5Lオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これを80℃で減圧濃縮した後、水とエタノールを用いて希釈し、固形分15.0質量%のエタノール:水=60:40(質量比)の溶液を調整した(A-1)。
【0203】
(塩基性重合体の合成)
ディーン・スターク管及び還流管を上部に備えた撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコをセットし、容器内を窒素ガスで置換した。N-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)188g、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(東京化成工業社製。以下、「ABI」という。)8.52g(38.00mmol)、4、4’-オキシジフタル酸無水物(東京化成工業社製。以下、「ODPA」という。)12.41g(40.00mmol)、トルエン24gを加え、反応容器に窒素ガスを導入しながら撹拌した。続いて、ディーン・スターク管をトルエンで満たしたのち、オイルバスで内温160℃まで昇温し、160℃で2時間加熱還流を行い、イミド化を行った。ディーン・スターク管に回収された水の重量から、イミド化が90%以上進んだことを確認した。続いて、ディーン・スターク管からトルエンを抜き出し、180℃まで昇温してさらに反応を4時間続けることで、Mw5.0×104の塩基性重合体P-1が得られた。重合物の分子量を以下の表1に示す。
反応液を室温まで冷却し、NMP200gを加えた。反応容器とは別に2Lの容器を用意し、ソルミックスAP-1(日本アルコール社製)600gを加え、上記反応液を撹拌したまま滴下することで、沈殿物を得た。続いて、濾過を行い、沈殿物をエタノールで洗浄した。
続いて、回収物を、減圧下、100℃で4時間乾燥させ、塩基性重合体を得た。
【0204】
(塩基性重合体の微粒子化)
上記で得られた塩基性重合体を、メノウの乳鉢と乳棒を用いてすりつぶし、目開き53μmの篩にかけた粉末に、エタノールを加え、固形分8%になるように調整した。
さらに、JN100(常光社製)を用い、圧力180MPaにて、20Pass通過させ、粉砕を行い、塩基性重合体微粒子スラリーB-1を得た。
塩基性重合体微粒子スラリーB-1の粒度分布を測定すると、平均径0.24μm、モード径0.14μmであった。塩基性重合体微粒子スラリーの平均径、モード径、存在率、粉砕性を、以下の表2に併せて示す。
【0205】
(組成物の調製)
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂100質量部に対し、塩基性重合体6質量部となるように、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液(A-1)及び塩基性重合体微粒子スラリー(B-1)を混合し、エバポレーターと50℃の温浴を用いて濃縮した。得られた組成物の粘度、分散性を、以下の表3に併せて示す。
【0206】
(成膜)
上記で調製した組成物を、最終膜厚が30μmとなるようにギャップを調節したアプリケーターを用いて、基材フィルムに塗布した。さらに、120℃にて30分間、続いて170℃20分間加熱処理を行うことで、均質な30μmの電解質膜を得た。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.21(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.9であった。
電解質膜の断面のSEM写真を図1に示した。
【0207】
(化学耐久性評価)
上記で得られた膜について、上述の化学耐久性評価を行った結果を、以下の表3に示す。
【0208】
[実施例A2]
組成物の調製の際、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂100質量部に対し、塩基性重合体B-1が3質量部とした以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A2で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.26(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.8であった。
【0209】
[実施例A3]
塩基性重合体微粒子の調製の際、JN100(常光社製)を用い、圧力180MPaにて、10Pass通過させて、得た塩基性重合体微粒子スラリーB-2を用いた以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A3で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.22(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は1.2μmで、変動係数は0.9であった。
【0210】
[実施例A4]
塩基性重合体微粒子の調製の際、JN100(常光社製)を用い、圧力180MPaにて、5Pass通過させて、得た塩基性重合体微粒子スラリーB-3を用いた。さらに、組成物の調整の際に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂100質量部に対し、塩基性重合体微粒子7質量部として調整した以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A4で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.23(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は1.1μmで、変動係数は0.9であった。
【0211】
[実施例A5]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)、ODPA 12.41g(40.00mmol)をABI 8.97g(40.00mmol)、ODPA 11.17g(36.00mmol)に変え、塩基性重合体P-2を得た。塩基性重合体P-2について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。さらに、実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-4を得た。組成物の調製の際に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂100質量部に対し、塩基性重合体微粒子5質量部として調整した以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施A5で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.23(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.5μmで、変動係数は0.8であった。
【0212】
[実施例A6]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)をABI 8.07g(36.00mmol)に変え、塩基性重合体P-3を得た。塩基性重合体P-3について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-5を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A6で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.21(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.3μmで、変動係数は0.7であった。
【0213】
[実施例A7]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)をABI 8.75g(39.00mmol)に変え、塩基性重合体P-4を得た。塩基性重合体P-4について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-6を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A7で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.20(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.3μmで、変動係数は0.7であった。
【0214】
[実施例A8]
塩基性重合体の合成の際に、ODPA 12.41g(40.00mmol)を、3,3’,4,4’ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業社製)12.89g(40.99mmol)に変え、塩基性重合体P-5を得た。塩基性重合体P-5について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-7を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A8で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.21(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.8であった。
【0215】
[実施例A9]
塩基性重合体の合成の際に、ODPA 12.41g(40.00mmol)を、4,4’-ビフタル酸無水物(東京化成工業社製)11.77g(40.00mmol)に変え、塩基性重合体P-6を得た。塩基性重合体P-6について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-8を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A9で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.21(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.7であった。
【0216】
[実施例A10]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)を、ABI 7.62g(34.00mmol)及び2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(東京化成工業社製)1.03g(4.00mmol)に変え、塩基性重合体P-7を得た。塩基性重合体P-7について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-9を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A10で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.21(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.3μmで、変動係数は0.6であった。
【0217】
[実施例A11]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)を、ABI 7.62g(34.00mmol)及びビス(3-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製)0.99g(4.00mmol)に変え、塩基性重合体P-8を得た。塩基性重合体P-8について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-10を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A11で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.20(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.8であった。
【0218】
[実施例A12]
塩基性重合体の合成の際に、ABI 8.52g(38.00mmol)を、ABI 7.62g(34.00mmol)及び2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(東京化成工業社製)1.34g(4.00mmol)に変え、塩基性重合体P-9を得た。塩基性重合体P-9について、イミド化が90%以上進行していることを確認した。実施例A1と同様に微粒子化をすることで、塩基性重合体微粒子スラリーB-11を得た。それ以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
なお、実施例A12で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.22(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は0.4μmで、変動係数は0.9であった。
【0219】
[実施例A13]
塩基性重合体の微粒子化の際、メノウの乳鉢と乳棒を用いてすりつぶし、目開き53μmの篩にかけた粉末を、エタノールで希釈してスラリーにしたB-12を用いた以外は、実施例A1と同様に評価を行った。
実施例A13で得られた電解質については、表面にざらつきのある膜となった。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.22(meq/g)であった。
膜中の塩基性重合体の平均粒径は7.5μmで、変動係数は0.8であった。
【0220】
[比較例A1]
塩基性重合体を添加しなかった以外は、実施例A1と同様に評価を行った。組成物を目視したところ、均一に溶解しており、透明な溶液であることを確認できた。すなわち、得られた組成物中に粒子は存在しないものと評価した。
なお、比較例A1で得られた電解質についても、均質な膜を得ることができた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.30(meq/g)であった。
【0221】
[比較例A2]
塩基性重合体にポリ[2,2’-(m-フェニレン)-5,5’-ビベンズイミダゾール](シグマアルドリッチジャパン製、重量平均分子量27,000、以下、「PBI」という。)(P-10)を用い、実施例A1と同様に微粒子化を行ったが、180MPaで20Pass通過させた時点では、平均粒径に変化が無かった。さらに、圧力を250MPaにし、20Pass経過させる毎に、スラリーの粒度分布を確認したところ、180Pass経過したところで、平均径が1.77μmとなったため、ここで得られたスラリー(B-13)を回収した。B-13を用いて、実施例A1と同様に組成物を調製し、分散性を評価したところ、平均粒径が38μmとなり、粒子の凝集が見られた。
この組成物についても、実施例A1と同様に評価を行った。
比較例A2で得られた電解質については、目視で確認できる凝集物の凹凸が見られた。
この電解質膜のイオン交換容量を測定すると、1.06(meq/g)であった。
【0222】
【表1】
【0223】
表1に記載した塩基性基濃度は、塩基性重合体を合成した際のモノマー濃度からアゾール環の濃度から算出された値である。
【0224】
【表2】
【0225】
【表3】
【0226】
<<第二の実施形態の実施例>>
実施例と比較例で用いられる測定方法、評価方法は次のとおりである。
【0227】
(分子量測定)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に24.8mol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたものを使用した。また、重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作製した。
カラム:TSK-GEL
SUPER
HM-H
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU-2080(JASCO社製)
検出器:RI-2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)
UV-2075Plus(UV-Vis:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0228】
(溶解性評価)
後述する実施例及び比較例で得られたポリイミド溶液をガラス製の50mLサンプル瓶に回収し、室温で10日間静置し、以下の基準で溶解性を評価した。
○: 析出物を生じず、流動性を維持した。
△: やや濁りが生じたが、流動性を維持した。
×: 析出物を生じた、又は流動性がなくなった。
【0229】
(多孔体の揮発成分量評価)
熱重量減少測定(TGA)にて、下記の条件により測定し、30℃から350℃までの重量減少率を揮発成分量として評価した。
測定装置:SIIEXSTAR6000(セイコーインスツルメンツ社製)
TG/DTA6200
測定雰囲気:窒素
流量:100mL/min
測定温度範囲:30℃~350℃
昇温速度:10℃/min
【0230】
(多孔体の平均繊維径)
多孔体の平均繊維径は以下のように評価した。
後述する実施例及び比較例で得られた多孔体の表面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて二次電子像を観察し、5000倍の電子顕微鏡写真から求めた。ここで、「繊維径」は、繊維を撮影した電子顕微鏡写真をもとに測定した、繊維の長さ方向に対して直交する方向における長さをいう。
【0231】
(電解質含浸性)
多孔体に対する、イオン交換基を有するパーフルオロ高分子化合物(以下、「電解質」ともいう)を含む溶液(パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液)の含浸性を以下のように評価した。
後述する実施例及び比較例に示すとおりに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を多孔体に含浸させ、複合膜を作製した。得られた複合膜から任意に切り出したシートをエポキシ接着剤で包埋し、ウルトラミクロトームを用いてシートの断面を加工した。切り出したシート断面を、10mmにわたって走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、二次電子像を観察した。多孔体と電解質が複合化された領域において、電解質が充填されずに空隙部が存在する領域の割合を、以下の基準により評価した。
○: 空隙が0~3%以下であった。
△: 空隙が3%を超過し10%以下であった。
×: 空隙が10%を超過であった。
【0232】
(寸法変化評価)
120℃100%RH下における電解質膜の寸法変化を以下のように評価した。電解質膜におよそ15mm×20mmの長方形の枠を記入し、各辺の長さを測定顕微鏡(OLYMPUS STM6)で計測した。上記電解質膜を高度加速寿命試験装置(HAST、EHS-211)内に投入し、120℃100%RHの環境に2時間曝したのち、前述の枠の辺の長さを同様に計測した。膨潤前後の寸法の変化率を長方形の短辺、長辺それぞれの方向に関して算出し、その平均値を以下の基準により評価した。
◎: 寸法変化率平均値が15%以下であった。
○: 寸法変化率平均値が15%を超え30%以下であった。
△: 寸法変化率平均値が30%を超え40%以下であった。
×: 寸法変化率平均値が40%超過であった。
【0233】
(MEAの作製)
MEAの作製を以下のように行った。まず、以下のように電極触媒層を作製した。Pt担持カーボン(田中貴金属社製TEC10E40E、Pt36.4%)1.00gに対し、5質量%パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS-910(旭化成イーマテリアルズ製、当量質量(EW):910、溶媒組成:エタノール/水=50/50(質量比))を11質量%に濃縮したポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加した後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cm2になる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cm2になる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cm2のものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cm2のものをカソード触媒層とした。
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に後述する複合膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を複合膜に転写、接合してMEAを作製した。
【0234】
(燃料電池評価)
MEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B-1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットし、セルを80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを300cc/min、カソード側に空気ガスを800cc/minで流し、アノード、カソード共に0.15MPa(絶対圧力)で加圧した。ガスの加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガス共には53℃で加湿してセルを供給した状態にて、電流電圧曲線を測定し、以下の基準にて評価した。
○: 1A/cm2での電圧が0.6V以上であった。
×: 1A/cm2での電圧が0.6V未満であった。
【0235】
(化学耐久性の評価)
MEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B-1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットし、セルを95℃に昇温し、アノード、カソードのガス加湿温度は50℃とした。アノード側に水素を50cc/分で流し、カソード側には空気を50cc/分で流した。この状態で、開回路にして電流値を0にした状態を維持することで化学耐久性を評価した。
耐久性試験において、電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へリークするクロスリークと呼ばれる現象が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(Varian社製、型番:CP4900)にて測定し、この測定値が1,000ppmを超えた時点で試験終了とした。試験開始から試験終了までの時間Hrを耐久性試験の評価に用い、以下のような基準で耐久性を判定した。
◎: 200Hr以上の耐久性を示した。
○: 100Hr以上200Hr未満の耐久性を示した。
×: 50Hr以上100Hr未満の耐久性を示した。
【0236】
[実施例B1]
(イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物溶液の作製)
電解質の前駆体ポリマーである、テトラフルオロエチレン及びCF2=CFO(CF22-SO2Fから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂の前駆体(加水分解及び酸処理後のイオン交換容量:1.30meq/g)ペレットを準備した。次に、その前駆体ペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)とを溶解した水溶液に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、ペレットを60℃の水中に5時間浸漬した。次いで、水中に浸漬した後のペレットを、60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を新しいものに代えて、5回繰り返した。そして、塩酸水溶液に繰り返し浸漬させた後のペレットを、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、電解質であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を得た。
このペレットを、エタノール水溶液(水:エタノール=50.0/50.0(質量比))と共に5Lオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これを80℃で減圧濃縮した後、水とエタノールを用いて希釈し、固形分15.0質量%のエタノール:水=60:40(質量比)の溶液を調製した(A-1)。
【0237】
(ポリイミドの合成)
ディーン・スターク管及び還流管を上部に備えた撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコをセットし、容器内を窒素ガスで置換した。N-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)114g、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(東京化成工業社製。以下、「ABI」という。)7.69g(34.30mmol)、ビス(3-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「33DAS」という。)8.52g(34.30mmol)、4、4’-オキシジフタル酸無水物(東京化成工業社製。以下、「ODPA」という。)21.71g(70.00mmol)、トルエン42gを加え、反応容器に窒素ガスを導入しながら撹拌した。続いて、ディーン・スターク管をトルエンで満たしたのち、オイルバスで内温160℃まで昇温し、160℃で2時間加熱還流を行い、イミド化を行った。ディーン・スターク管に回収された水の重量から、イミド化が90%以上進んだことを確認した。続いて、ディーン・スターク管からトルエンを抜き出し、180℃まで昇温してさらに反応を4時間続けることで、Mw6.7×104のポリイミド溶液P-3が得られた。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液は、濁りのない透明な溶液であった。ポリイミドの分子量と溶解性の評価を以下の表4に示す。
【0238】
(多孔体の作製)
メック社製NANONを用い、紡糸距離200mm、電圧20kV、吐出量1mL/hrの条件にセットし、ポリイミド溶液P-3を適当な粘度まで希釈した溶液を用いて、電解紡糸を行い、3.3g/m2のシートを作製した。
得られたシートを、オーブンを用いて、減圧下、260℃で30分加熱処理を行った。得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
熱処理後のシートを、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、二次電子像を観察したところ、ナノファイバー状の多孔体となっていた。
多孔体のSEM写真を図2に示した。
【0239】
(複合膜の作製)
上記で調製したA-1溶液を、乾燥後の膜厚が8μmとなるようにギャップを調節したアプリケーターを用いて、カプトンフィルムに塗布し、(多孔体の作製)で作製した多孔体を含浸させ、120℃で30分間加熱した。さらに、同じアプリケーターを用いて、2層目を塗布し、120℃で30分間、続いて170℃で20分間加熱することで複合膜を作製した。
得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合膜領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。複合膜の断面のSEM写真を図3に示した。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
【0240】
[実施例B2]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を9.23g(41.16mmol)へ、33DAS 8.52g(34.30mmol)を6.81g(27.44mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-4を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液P-4を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
【0241】
[実施例B3]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を12.43g(55.44mmol)へ、33DAS 8.52g(34.30mmol)を3.44g(13.86mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-5を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液P-5を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
【0242】
[実施例B4]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を13.85g(61.74mmol)へ、33DAS 8.52g(34.30mmol)を1.70g(6.86mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-6を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。得られたポリイミド溶液P-6は、わずかに濁りを生じていたが、流動性は維持していた。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液P-6を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
【0243】
[実施例B5]
ポリマー合成の際、NMPをN,N-ジメチルアセトアミドへ変更し、ポリイミド溶液P-7を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液P-7を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
【0244】
[実施例B6]
ポリマー合成の際、NMP 114gを155gへ、ODPA 21.71g(70.00mmol)を3,3’,4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業社製。以下「BTDA」という)22.56g(70.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-8を得た以外は実施例B1と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-8を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0245】
[実施例B7]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を9.23g(41.16mmol)へ、33DAS 8.52g(34.30mmol)を6.81g(27.44mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-9を得た以外は実施例B6と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-9を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0246】
[実施例B8]
ポリマー合成の際、NMP 114gを134gへ、ABI 7.69g(34.30mmol)を15.38g(68.60mmol)へ、ODPA 21.71g(70.00mmol)を4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(東京化成工業社製。以下「6FDA」という)24.88g(56.00mmol)とODPA 4.34g(14.00mmol)へ変更し、33DASを使用せず、ポリイミド溶液PI-10を得た以外は実施例B1と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-10を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0247】
[実施例B9]
ポリイミド溶液PI-10を用いて作製した、ナノファイバー状の多孔体の加熱処理条件を減圧下、260℃、30分から減圧下、240℃、30分に変更した以外は実施例B8と同様に評価を行った。得られた多孔体の揮発成分量は4wt%であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。燃料電池評価において、1A/cm2時の電圧が0.6V以上だが、実施例B8と比較し、0.02V程度低い値であった。
【0248】
[実施例B10]
ポリマー合成の際、NMP 134gを129gへ、6FDA 24.88g(56.00mmol)を18.66g(42.00mmol)へ、ODPA 4.34g(14.00mmol)を8.69g(28.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-11を得た以外は実施例B8と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-11を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0249】
[実施例B11]
ポリマー合成の際、NMP 114gを129gへ、33DAS 8.52g(34.30mmol)を2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(東京化成工業社製。以下、「6FHA」という。)12.56g(34.30mmol)へ、ODPA 21.71g(70.00mmol)をBTDA 22.56g(70.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-12を得た以外は、実施例B1と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-12を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0250】
[実施例B12]
ポリマー合成の際、NMP 129gを126gへ、ABI 7.69g(34.3mmol)を9.23g(41.16mmol)へ、6FHA 12.56g(34.30mmol)を10.05g(27.44mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-13を得た以外は、実施例B10と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-13を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0251】
[実施例B13]
ポリマー合成の際、NMP 126gを123gへ、ABI 9.23g(41.16mmol)を10.77g(48.02mmol)へ、6FHA 10.05g(27.44mmol)を7.54g(20.58mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-14を得た以外は、実施例B11と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-14を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0252】
[実施例B14]
ポリマー合成の際、NMP 129gを118gへ、6FHA 12.56g(34.30mmol)を2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(東京化成工業社製。以下、「BPA-DA」という)8.86g(34.30mmol)へ変更し、ポリイミド溶液PI-15を得た以外は、実施例B1と同様に評価を行った。なお、このポリイミドは上記式(1)で表される構造を有するものであった。
ポリイミド溶液PI-15を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙のないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性の評価を行った結果を表5に示した。
【0253】
[比較例B1]
ポリマー合成の際、ABIを加えず、33DAS 8.52g(34.30mmol)を33DAS 3.41g(13.72mmol)および、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「44DAS」という。)5.11g(20.57mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-1を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-1を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体の揮発成分量は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域の50%以上が空隙となっており、電解質が充填されていないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が30μm、空隙が存在する複合膜領域が18μmであった。複合膜の断面のSEM写真を図4に示した。
成膜時のギャップを調整し、最終膜厚を20μmにした膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表5に示した。
燃料電池評価では、実施例B1~実施例B13と比較し、0.05V以上低い値であった。
【0254】
[比較例B2]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を14.91g(66.50mmol)へ変更し、33DASを加えずにポリイミド溶液P-2を得た以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。得られたポリイミド溶液P-2は、析出が見られ、室温で10日間静置すると流動性がなくなった。このため、電解紡糸での多孔体の作製は困難と判断し、電解質含浸性の評価は実施しなかった。
【0255】
[比較例B3]
多孔体を用いなかった以外は、実施例B1と同様に評価をおこなった。
【0256】
【表4】
【0257】
表4において、各成分の数値は組成物中における該当成分の含有比率を仕込み比で示したものである。
【0258】
【表5】
【0259】
[実施例C1]
(イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物溶液の作製)
電解質の前駆体ポリマーである、テトラフルオロエチレン及びCF2=CFO(CF22-SO2Fから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂の前駆体(加水分解及び酸処理後のイオン交換容量:1.30meq/g)ペレットを準備した。次に、その前駆体ペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)とを溶解した水溶液に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、ペレットを60℃の水中に5時間浸漬した。次いで、水中に浸漬した後のペレットを、60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を新しいものに代えて、5回繰り返した。そして、塩酸水溶液に繰り返し浸漬させた後のペレットを、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、電解質であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を得た。
このペレットを、エタノール水溶液(水:エタノール=50.0/50.0(質量比))と共に5Lオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これを80℃で減圧濃縮した後、水とエタノールを用いて希釈し、固形分15.0質量%のエタノール:水=60:40(質量比)の溶液を調製した(A-1)。
【0260】
(ポリイミドの合成)
ディーン・スターク管及び還流管を上部に備えた撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコをセットし、容器内を窒素ガスで置換した。N-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)140g、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(東京化成工業社製。以下、「ABI」という。)15.38g(68.60mmol)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(東京化成工業社製。以下、「6FDA」という。)31.10g(70.00mmol)、トルエン36gを加え、反応容器に窒素ガスを導入しながら撹拌した。続いて、ディーン・スターク管をトルエンで満たしたのち、オイルバスで内温160℃まで昇温し、160℃で2時間加熱還流を行い、イミド化を行った。ディーン・スターク管に回収された水の重量から、イミド化が90%以上進んだことを確認した。続いて、ディーン・スターク管からトルエンを抜き出し、180℃まで昇温してさらに反応を4時間続けることで、Mw25.3×104のポリイミド溶液P-3が得られた。
ポリイミド溶液は、濁りのない透明な溶液であった。ポリイミドの分子量と溶解性の評
価を以下の表7に示す。
【0261】
(多孔体ファイバーシートの作製)
メック社製NANONを用い、紡糸距離200mm、電圧20kV、吐出量1mL/hrの条件にセットし、ポリイミド溶液P-3を適当な粘度まで希釈した溶液を用いて、電解紡糸を行い、ファイバーの平均繊維径200nm、3.3g/m2のシートを作製した。
得られたシートを、オーブンを用いて、減圧下、260℃で30分加熱処理を行った。得られた多孔体ファイバーシートの残揮発成分は3wt%以下であった。
熱処理後のシートを、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、二次電子像を観察したところ、ナノファイバー状の多孔体となっていた。多孔体のSEM写真を図5に示した。
【0262】
(複合膜の作製)
上記で調製したA-1溶液を、乾燥後の膜厚が8μmとなるようにギャップを調節したアプリケーターを用いて、カプトンフィルムに塗布し、上記(多孔体ファイバーシートの作製)で作製した多孔体を含浸させ、120℃で30分間加熱した。さらに、同じアプリケーターを用いて、2層目を塗布し、120℃で30分間、続いて170℃で20分間加熱することで複合膜を作製した。
得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合膜領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。複合膜の断面のSEM写真を図6に示した。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表7に示した。
【0263】
[実施例C2]
ポリマー合成の際、NMPをN,N-ジメチルアセトアミドへ変更し、ポリイミド溶液P-4を得た以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-4を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、揮発成分は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表7に示した。
【0264】
[実施例C3]
ポリマー合成の際、6FDA31.10g(70.00mmol)を6FDA24.88g(56.00mmol)と4、4’-オキシジフタル酸無水物(東京化成工業社製。以下、「ODPA」という。)4.34g(14.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-5を得た以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-5を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、揮発成分は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表7に示した。
【0265】
[実施例C4]
ポリマー合成の際、6FDA31.10g(70.00mmol)を6FDA18.66g(42.00mmol)とODPA8.69g(28.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-6を得た以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-6を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、揮発成分は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表7に示した。
【0266】
[比較例C1]
ポリマー合成の際、ABIを加えず、ビス(3-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「33DAS」という。)3.41g(13.72mmol)および、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「44DAS」という。)5.11g(20.57mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-1を得た以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-1を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、揮発成分は3wt%以下であった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域の50%以上が空隙となっており、電解質が充填されていないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が30μm、空隙が存在する複合膜領域が18μmであった。複合膜の断面のSEM写真を図7に示した。
成膜時のギャップを調整し、最終膜厚を20μmにした膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表7に示した。
燃料電池評価では、実施例C1~実施例C5と比較し、0.05V以上低い値であった。
【0267】
[比較例C2]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を14.91g(66.50mmol)へ変更し、33DASを加えずにポリイミド溶液P-2を得た以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。得られたポリイミド溶液P-2は、析出が見られ、室温で10日間静置すると流動性がなくなった。このため、電解紡糸での多孔体ファイバーシートの作製は困難と判断し、電解質含浸性の評価は実施しなかった。
[比較例C3]
多孔体ファイバーシートを用いなかった以外は、実施例C1と同様に評価をおこなった。
【0268】
【表6】
【0269】
表6において、各成分の数値は組成物中における該当成分の含有比率を仕込み比で示したものである。
【0270】
【表7】
【0271】
[実施例D1]
(イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物溶液の作製)
電解質の前駆体ポリマーである、テトラフルオロエチレン及びCF2=CFO(CF22-SO2Fから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂の前駆体(加水分解及び酸処理後のイオン交換容量:1.30meq/g)ペレットを準備した。次に、その前駆体ペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)とを溶解した水溶液に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、ペレットを60℃の水中に5時間浸漬した。次いで、水中に浸漬した後のペレットを、60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を新しいものに変えて、5回繰り返した。そして、塩酸水溶液に繰り返し浸漬させた後のペレットを、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、電解質であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を得た。
このペレットを、エタノール水溶液(水:エタノール=50.0/50.0(質量比))と共に5Lオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これを80℃で減圧濃縮した後、水とエタノールを用いて希釈し、固形分15.0質量%のエタノール:水=60:40(質量比)の溶液(A-1溶液)を調製した。
【0272】
(ポリイミドの合成)
ディーン・スターク管及び還流管を上部に備えた撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコをセットし、容器内を窒素ガスで置換した。N-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)94g、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(東京化成工業社製。以下、「ABI」という。)15.38g(68.60mmol)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業社製。以下、「HPMDA」という。)15.69g(70.00mmol)、トルエン30gを加え、反応容器に窒素ガスを導入しながら撹拌した。続いて、ディーン・スターク管をトルエンで満たしたのち、オイルバスで内温160℃まで昇温し、160℃で2時間加熱還流を行い、イミド化を行った。ディーン・スターク管に回収された水の重量から、イミド化が90%以上進んだことを確認した。続いて、ディーン・スターク管からトルエンを抜き出し、180℃まで昇温してさらに反応を4時間続けることで、Mw6.0×104のポリイミド溶液P-3が得られた。
ポリイミド溶液は、濁りのない透明な溶液であった。ポリイミドの分子量と溶解性の評価を以下の表9に示す。
【0273】
(多孔体の作製)
メック社製NANONを用い、紡糸距離200mm、電圧20kV、吐出量1mL/hrの条件にセットし、ポリイミド溶液P-3を適当な粘度まで希釈した溶液を用いて、電解紡糸を行い、ファイバーの平均繊維径200nm、3.3g/m2のシートを作製した。
得られたシートを、オーブンを用いて、減圧下、260℃で30分加熱処理を行うことにより多孔体を得た。得られた多孔体の残揮発成分は、3wt%以下であった。得られたファイバーシートの厚さは、10μmであった。
熱処理後の多孔体を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、二次電子像を観察したところ、ナノファイバー状の多孔体となっていた。多孔体のSEM写真を図8に示した。
【0274】
(複合膜の作製)
上記で調製したA-1溶液を、乾燥後の膜厚が8μmとなるようにギャップを調節したアプリケーターを用いて、カプトンフィルムに塗布し、上記(多孔体の作製)にて得られた多孔体を含浸させ、120℃で30分間加熱した。
さらに、同じアプリケーターを用いて、2層目を塗布し、120℃で30分間、続いて170℃で20分間加熱することで複合膜を作製した。
得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合膜領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表9に示した。複合膜の断面のSEM写真を図9に示した。
【0275】
[実施例D2]
ポリマー合成の際、NMPをN,N-ジメチルアセトアミドへ変更してポリイミド溶液P-4を得て、ポリイミド溶液P-4を用いたこと以外は、実施例D1と同様に多孔体及び複合膜を作製し評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-4を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、残揮発成分は3wt%以下であった。得られたシートの厚さは、10μmであった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表9に示した。
【0276】
[実施例D3]
ポリマー合成の際、HPMDA15.69g(70.00mmol)をHPMDA12.55g(56.00mmol)と4、4’-オキシジフタル酸二無水物(東京化成工業社製。以下、「ODPA」という。)4.34g(14.00mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-5を得て、ポリイミド溶液P-5を用いたこと以外は、実施例D1と同様に多孔体及び複合膜を作製し評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-5を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、残揮発成分は3wt%以下であった。得られたシートの厚さは、9μmであった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域に空隙の無いことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が20μm、複合膜領域が8μmであった。
得られた膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表9に示した。
【0277】
[比較例D1]
ポリマー合成の際、ABIを加えず、ビス(3-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「33DAS」という。)3.41g(13.72mmol)、及び、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(東京化成工業社製。以下、「44DAS」という。)5.11g(20.57mmol)へ変更し、ポリイミド溶液P-1を得て、ポリイミド溶液P-1を用いたこと以外は、実施例D1と同様に多孔体及び複合膜を作製し評価をおこなった。
ポリイミド溶液P-1を用いて作製したシートは、ナノファイバー状の多孔体となっていた。また、得られた多孔体のファイバーの平均繊維径は200nm、残揮発成分は3wt%以下であった。得られたシートの厚さは、11μmであった。
さらに、得られた複合膜の電解質含浸性を評価した結果、複合領域の50%以上が空隙となっており、電解質が充填されていないことが確認された。断面をSEMで観察した結果、全体の膜厚が30μm、空隙が存在する複合膜領域が18μmであった。
成膜時のギャップを調整し、最終膜厚を20μmにした膜を用いて、MEAを作製し、燃料電池評価、化学耐久性評価を行った結果を表9に示した。
燃料電池評価では、実施例D1~実施例D3と比較し、0.05V以上低い値であった。
複合膜の断面のSEM写真を図10に示した。
【0278】
[比較例D2]
ポリマー合成の際、ABI 7.69g(34.30mmol)を14.91g(66.50mmol)へ変更し、33DAS、44DASを加えずにポリイミド溶液P-2を得て、ポリイミド溶液P-2を用いたこと以外は、実施例D1と同様に評価をおこなった。得られたポリイミド溶液P-2は、析出が見られ、室温で10日間静置すると流動性がなくなった。このため、電解紡糸での多孔体の作製は困難と判断し、電解質含浸性の評価は実施しなかった。
【0279】
[比較例D3]
複合体膜の作製に多孔体を用いなかったこと以外は、実施例D1と同様に複合膜を作製し評価をおこなった。
【0280】
【表8】
【0281】
表8において、各成分の括弧内の数値は組成物中における該当成分の含有比率を仕込み比(物質量(mol)から算出)で示したものである。
【0282】
【表9】
【0283】
本出願は、2017年2月23日出願の日本特許出願(特願2017-032159号)、2017年2月24日出願の日本特許出願(特願2017-033885号)、2017年8月8日出願の日本特許出願(特願2017-153592号)、2017年8月8日出願の日本特許出願(特願2017-153437号)、2017年5月17日出願の日本特許出願(特願2017-094841号)、2017年7月7日出願の日本特許出願(特願2017-134028号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
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