(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】積層造形方法およびサポート部材の設計方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/47 20210101AFI20241220BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20241220BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20241220BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20241220BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241220BHJP
【FI】
B22F10/47
B22F10/28
B29C64/268
B29C64/40
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020165905
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】724014121
【氏名又は名称】桑名金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】足達 俊哉
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0175424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法であって、
前記積層造形方法は、サポート部材および該サポート部材上の前記金属積層造形品を造形する造形工程と、前記サポート部材を機械加工により除去する除去工程とを有し、
前記造形工程は、金属粉末の堆積と、レーザ光照射による該金属粉末の焼結または溶融とを繰り返して、前記サポート部材と前記金属積層造形品を造形する工程であり、
前記サポート部材は、前記金属積層造形品との境界面における前記開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分が造形されず、該部分が前記境界面から凹んだ空隙部とされ
、
前記造形工程において、前記空隙部の積層方向に平行な断面が矩形状に造形されることを特徴とする積層造形方法。
【請求項2】
前記外縁近傍が、前記開口部の外縁から1.0mmまでの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記造形工程において、前記金属積層造形品の前記開口部の外縁に、前記サポート部材との境界面に対して傾斜した面が造形されることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法であって、
前記積層造形方法は、サポート部材および該サポート部材上の前記金属積層造形品を造形する造形工程と、前記サポート部材を機械加工により除去する除去工程とを有し、
前記造形工程は、金属粉末の堆積と、レーザ光照射による該金属粉末の焼結または溶融とを繰り返して、前記サポート部材と前記金属積層造形品を造形する工程であり、
前記サポート部材は、前記金属積層造形品との境界面における前記開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分が造形されず、該部分が前記境界面から凹んだ空隙部とされ、
前記造形工程において、前記金属積層造形品の前記開口部の外縁に、前記サポート部材との境界面に対して傾斜した面が造形されることを特徴とする積層造形方法。
【請求項5】
表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法に使用される、前記金属積層造形品を支持するためのサポート部材の設計方法であって、
前記積層造形方法は、金属粉末の堆積と、レーザ光照射による該金属粉末の焼結または溶融とを繰り返して、前記サポート部材および該サポート部材上に前記金属積層造形品を造形した後に、前記サポート部材を機械加工により除去する方法であり、
前記サポート部材の形状を、前記金属積層造形品との境界面における前記開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分が、前記境界面から凹んだ空隙部となるように設定
し、
前記空隙部を、該空隙部の積層方向に平行な断面が矩形状となるように造形することを特徴とするサポート部材の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法および該積層造形方法に使用される金属積層造形品を支持するためのサポート部材の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属部品などを容易に造形できる手段として、金属積層造形が提案されている。金属積層造形によれば、複雑な形状を有する金属部品などを、従来の加工方法に比べて少ない工程で容易に得ることができる。金属積層造形方法としては、大きくは以下の2つの方法が知られている。一つは、所定の場所にのみ金属粉末を堆積し、レーザ光を照射することにより金属粉末の焼結や溶融を行うメタルデポジション方式である。もう一つは、金属積層造形装置のベースプレート上の一面に金属粉末を堆積し、所定の場所にのみレーザ光を照射することにより金属粉末の焼結や溶融を行うパウダーベッド方式である。いずれの方式も金属粉末の堆積と、レーザ光照射による金属粉末の焼結または溶融とを繰り返し、金属の層を重ねることで金属積層造形品を造形する。
【0003】
金属積層造形によりT字、Y字、H字形状などの、いわゆるオーバーハングと呼ばれる庇状の部分を有する金属部品などを造形する場合、部品の造形不良やひずみを抑制するため、金属積層造形品を支持するサポート部材が形成される。また、サポート部材は、オーバーハング形状の有無にかかわらず、金属積層造形品と、積層造形装置のベースプレートとの間に形成される場合もある。
【0004】
金属積層造形品をベースプレート上に直接造形すると、金属積層造形品のベースプレートに接していた面が凹凸になる場合がある。また、造形後にベースプレートから剥離する際に、ベースプレートと金属積層造形品とが接する面できれいに剥離できず、ベースプレートに金属積層造形品の一部が残ることで金属積層造形品の表面に凹凸が発生する場合がある。これらの場合には、金属積層造形品の表面を平滑にする機械加工を行うと目標寸法よりも小さくなってしまう。
【0005】
このような場合には、ベースプレートと金属積層造形品の間に、サポート部材を犠牲部材として設け、その除去を行うことにより、表面が平滑で目標寸法通りの金属積層造形品が得られる。サポート部材は、金属積層造形品とともに造形された後に除去される必要があり、除去には、切削・研磨などの機械加工、化学的処理などの方法が用いられる。これらの除去工程は、製造工程の負担軽減の観点からは、より簡易なまたは少ない工程であることが好ましく、サポート部材除去工程の簡略化や容易化の検討が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1は、金属積層造形品と、積層造形装置のベースプレートとの間に形成されるサポート部材について開示している。この文献では、サポート部材をハニカム構造にして金属積層造形品と部分的に接合する構造としたり、サポート部材を所定の位置に設けたりすることで、サポート部材を金属積層造形品およびベースプレートから容易に除去できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載のハニカム構造のようにサポート部材と金属積層造形品が部分的に接合している場合、サポート部材の切削・研磨などに用いられる工具は、サポート部材への接触部分と、非接触部分とで異なる負荷を断続的に受けるため、同一の負荷を連続的に受ける場合に比べて寿命が短くなりやすい。
【0009】
また、金属積層造形品が、貫通孔や内側に窪んだ凹部を有し、それらの開口部がサポート部材との境界面上に配置される場合、サポート部材を切削・研磨などにより除去した結果、開口部の内側にバリが発生するおそれがある。金属積層造形品にバリが存在すると、この造形品の利用目的によっては悪影響を与えるおそれがある。バリの発生は、これを除去するための作業が追加で必要となるため、サポート部材除去工程の簡略化の観点から好ましくない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、サポート部材除去工程の簡略化を図ることができる金属積層造形品の積層造形方法およびサポート部材の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層造形方法は、表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法であって、積層造形方法は、サポート部材および該サポート部材上の金属積層造形品を造形する造形工程と、サポート部材を機械加工により除去する除去工程とを有し、造形工程は、金属粉末の堆積と、レーザ光照射による該金属粉末の焼結または溶融とを繰り返して、サポート部材と金属積層造形品を造形する工程であり、サポート部材は、金属積層造形品との境界面における開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分が造形されず、該部分が境界面から凹んだ空隙部とされる。
【0012】
本発明において、造形工程で空隙部の積層方向に平行な断面が矩形状に造形されることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明において、外縁近傍が開口部の外縁から1.0mmまでの範囲であることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、造形工程で金属積層造形品の開口部の外縁にサポート部材との境界面に対して傾斜した面が造形されていてもよい。
【0015】
本発明のサポート部材の設計方法は、表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法に使用される、金属積層造形品を支持するためのサポート部材の設計方法であって、積層造形方法は、金属粉末の堆積と、レーザ光照射による該金属粉末の焼結または溶融とを繰り返して、サポート部材および該サポート部材上に金属積層造形品を造形した後に、サポート部材を機械加工により除去する方法であり、サポート部材の形状を、金属積層造形品との境界面における開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分が、境界面から凹んだ空隙部となるように設定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の積層造形方法およびサポート部材の設計方法は、このような構成とすることにより、表面に開口部を有する金属積層造形品の造形に際して、開口部におけるバリの発生を抑制でき、サポート部材除去工程の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】サポート部材を除去した金属積層造形品の断面図である。
【
図5】
図3(a)に示した断面図とその拡大図である。
【
図6】パウダーベッド方式での造形工程の一例を示す模式図である。
【
図8】サポート部材除去後の加工面全体の画像である。
【
図9】サポート部材除去後の開口部の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る積層造形方法により造形した金属積層造形品およびサポート部材(以下、「サポート付き造形品」ともいう)の一例を
図1に基づいて説明する。
図1(a)は、サポート付き造形品1の積層方向に平行な断面の斜視断面図である。また、
図1(b)は、
図1(a)の開口部周辺の拡大断面図である。
図1(a)に示すように、サポート付き造形品1は、金属積層造形品2と、サポート部材3から構成されている。金属積層造形品2は、内部に、中空で円筒状の貫通孔21を2つ有している。貫通孔21の一方の端部は開口しており、他方の端部はサポート部材3によって覆われている。この他方の端部は、サポート部材3が除去されることで開口し、開口部22となる。開口部22は、サポート部材3の除去により金属積層造形品の表面となる面(境界面10)に接している。貫通孔21の積層方向に垂直な断面は円形である。また、貫通孔21は境界面10に対して垂直に設けられている。
【0019】
図1(b)に示すように、サポート部材3は、境界面10における開口部22および開口部22の外縁23の近傍に接する部分は造形されていない。この部分は、境界面10よりもサポート部材3の側へ凹んでおり、空隙部31となっている。空隙部31は、中空のドーム状であり、その積層方向に平行な断面は例えば略半円形状である。
【0020】
開口部22の外縁23は、境界面10における開口部22の内周縁である。また、本発明における「開口部の外縁近傍」は、境界面10を平面視した場合における、開口部22の外縁23よりも外側で、外縁23に近接する領域を意味する。この領域の範囲は、少なくとも、その直下にサポート部材3が造形されないオーバーハング形状として造形可能な範囲である。境界面10におけるサポート部材3の空隙部31の外縁32は、この領域の外縁と一致する。この領域の具体的な範囲としては、例えば、外縁23から1.0mmまでの範囲であり、好ましくは外縁23から0.25mm~0.50mmまでの範囲である。なお、開口部22の外縁23の形状が円形の場合、空隙部31の外縁32は、例えば、開口部22の外縁23よりも外側に同心円状になるように配置できる。
【0021】
図1に示したサポート付き造形品からサポート部材を除去した金属積層造形品について、
図2に基づいて説明する。
図2(a)は、サポート部材除去後の金属積層造形品2の積層方向に平行な断面の斜視図である。また、
図2(b)は、
図2(a)の開口部周辺の拡大断面図である。
サポート部材除去後の金属積層造形品2は、サポート部材が完全に除去され、サポート部材との境界面であった面は、金属積層造形品2の新たな表面11となる。表面11は、機械加工されたことにより平滑な面となる。開口部22の内径や形状は、サポート部材の除去の前後で変わらない。また、貫通孔の内部には、バリなどの突起物はない(図中の角丸長方形領域)。
【0022】
金属積層造形品2における開口部と貫通孔の構造は、
図1および
図2で示す例に限定されない。例えば、開口部と貫通孔は、1個または3個以上有していてもよい。また、開口部の外縁の形状は、円形や楕円形のほか、正方形、長方形、ひし形、台形などの多角形であってもよい。また、開口部は、金属積層造形品を貫通しておらず内側へ凹んだ凹部の開口部でもあってもよい。また、貫通孔や凹部は、境界面に対して斜めに配置されていてもよい。また、貫通孔や凹部の積層方向に垂直な断面は、開口部の外縁と異なる形状であってもよく、貫通孔や凹部の内径は自由に選択できる。その他、貫通孔は、境界面における複数の開口部が金属積層造形品の内部で繋がった孔であってもよい。
【0023】
また、サポート部材3における空隙部の構造も、
図1および
図2で示す例に限定されない。例えば、空隙部の積層方向に平行な断面は、半円形状、矩形状、台形形状などから自由に選択できる。ここで台形形状とする場合、空隙部は、開口部から後述するベースプレートへ向かって拡大する形状、縮小する形状のいずれでもよい。また、空隙部の外縁の形状は、円形や楕円形のほか、正方形、長方形、ひし形、台形などの多角形であってもよい。また、空隙部の外縁は、開口部の外縁から一定距離の位置に設けてもよいし、一定距離でなく設けてもよい。また、開口部および空隙部、それぞれの外縁で形成される2つの形状の中心は、同一であってもよいし、同一でなくてもよい。
【0024】
図3に、本発明に係る積層造形方法により造形したサポート部材の例を示す。
図3において(a)(c)(e)は積層方向に平行な断面であり、(b)は(a)におけるA-A’線断面図であり、(d)は(c)におけるB-B’線断面図であり、(f)は(e)におけるC-C’線断面図である。なお、
図3における金属積層造形品の開口部は、中空で円筒状の貫通孔の端部である。
図3(a)のサポート付き造形品は、金属積層造形品2aと、積層方向に平行な断面が矩形状である空隙部31aを有するサポート部材3aとを備える。
図3(b)に示すように、この形態では、開口部の外縁23aの形状と空隙部31aの外縁32aの形状はともに円形で、同心円状に配置されている。空隙部31aの断面形状を矩形状にすることで、造形が容易となる。同時に、空隙部の高さを最小限とでき、サポート部材除去時の工具に異なる負荷が断続的に加わる領域を少なくできる。
【0025】
図3(c)のサポート付き造形品は、金属積層造形品2bと、積層方向に平行な断面が矩形状で、外縁の形状が楕円形である空隙部31bを有するサポート部材3bとを備える。
図3(d)に示すように、この形態では、開口部の外縁23bの形状が円形であり、空隙部31bの外縁32bの形状は楕円形である。サポート部材の除去時に、機械加工の力を受ける方向(切削刃物の動く方向)と、空隙部の楕円の長軸方向とを一致させることにより、短軸方向にはオーバーハングを減らしつつ、開口部までの長軸方向の距離を確保でき、開口部へのバリの発生を抑制できる。
【0026】
図3(e)のサポート付き造形品は、内面が境界面に対して所定の曲率の曲面で接する開口部を有する金属積層造形品2cと、積層方向に平行な断面が矩形状である空隙部31cを有するサポート部材3cとを備える。
図3(f)に示すように、この形態では、開口部の外縁23cの形状と空隙部31cの外縁32cの形状はともに円形で、同心円状に配置されている。また、この形態では、金属積層造形品2cの開口部の外縁23cに、サポート部材3cとの境界面に対して傾斜した面(所定の曲率の曲面)を有している。これにより、サポート部材の除去を切削刃物で行う場合、開口部近傍への刃物の接触をより少なくでき、バリの発生をより抑制できる。開口部の曲面の曲率半径は、開口部の外縁近傍の領域範囲にもよるが、例えば、0.25mm~0.50mmとできる。
【0027】
次に、本発明の金属積層造形品の積層造形方法の概要について、
図4を用いて説明する。この積層造形方法は、表面に開口部を有する金属積層造形品を造形するための方法である。本方法は、金属粉末を原料としてサポート部材およびサポート部材上の金属積層造形品を造形する造形工程S1と、サポート部材を機械加工などにより除去する除去工程S2とを有する。
【0028】
[造形工程S1]
造形する金属積層造形品の大きさや形状、用途などに応じて公知の金属粉末を選択できる。材料として使用できる金属粉末について以下に説明する。金属粉末の材質としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅およびコバルトなどを含む合金が挙げられる。また、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、レニウム、およびイリジウムなどの高融点の金属を含む合金を用いてもよい。サポート部材と金属積層造形品の造形には、同一種の金属粉末を用いてもよいし、異種の金属粉末を用いてもよい。金属粉末の平均粒径(メジアン径)としては、例えば、1μm~200μmの範囲のものを用いる。
【0029】
また、造形する金属積層造形品の大きさや形状、用途などに応じて公知の積層造形装置を選択できる。積層造形装置は、サポート部材および金属積層造形品を造形する際に造形品の載台となるベースプレートを備える。ベースプレート上には、まずサポート部材を造形し、続いてサポート部材の上に、目的物である金属積層造形品を造形する。造形工程S1では、金属粉末を堆積する堆積工程S1-1と、所定の場所の金属粉末へのレーザ光照射によって凝固部を形成する凝固部形成工程S1-2とを繰り返す。凝固部形成工程S1-2では、レーザ光照射によって金属粉末を加熱し、焼結または溶融させる。焼結または溶融した金属粉末は冷却することで凝固部となる。凝固部を一層ずつ形成し、それを積層することで、最終的に立体的な造形品が得られる。金属粉末を堆積する際の一層の厚みとしては、例えば、10μm~200μmの範囲とされる。
なお、上述した造形工程S1は、パウダーベッド方式で金属積層造形品を造形する場合の造形工程であるが、本発明の金属積層造形品の積層造形方法は、これに限定されず、メタルデポジション方式などを用いることもできる。メタルデポジション方式の場合、金属粉末をノズルから所定の場所にのみ吐出することにより堆積し、吐出場所へのレーザ光照射によって加熱し、焼結または溶融させる。
【0030】
サポート部材の造形について説明する。サポート部材は、ベースプレート上に一層ずつ金属の凝固部を積層することで形成されていく。金属積層造形品との境界面における開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分にはレーザ光照射を行わないことで、金属の凝固部を形成せず、サポート部材を造形しない。これにより、サポート部材の完成時には、該部分は境界面からサポート部材側へ凹んだ空隙部となる。一方、金属積層造形品とベースプレートの間に位置する空隙部以外の部分にはレーザ光が照射されることでサポート部材が造形され、金属積層造形品を支持する。
【0031】
金属積層造形品の造形について説明する。サポート部材の最上層の造形後、金属積層造形品の造形へ移行する。ここで、ベースプレートにより近い層を下層、ベースプレートからより遠い層を上層と呼ぶ。金属積層造形品の一層目の造形において、サポート部材が造形された部分の直上には金属粉末の堆積とレーザ光照射を行い、凝固部を形成する。一方、金属積層造形品の開口部となる部分には凝固部を形成しない。また、開口部の外縁近傍には凝固部を形成する。堆積した金属粉末にレーザ光照射をしたとき、積層面の1層下層がバルク(凝固済みの金属層)の場合、レーザ光は積層面のみに照射され、所定の場所の金属粉末を凝固できる。また、この場合は、発生した熱が急速に拡散するため、レーザ光照射をした場所以外の金属粉末は凝固しない。一方で、オーバーハング部では、積層面の1層下層が凝固していない金属粉末であるため、レーザ光が積層面よりも下の層にも貫入してしまう。つまり、凝固範囲が広くなってしまい、寸法精度が悪化する。また、下層が粉末状態の場合、金属粉末の熱伝導率は、バルクの熱伝導率に対し、一般的に、1/20から1/100程度の値であるため、熱がこもりやすい。それにより、レーザ光を照射した場所だけでなく、その周囲の金属粉末を焼結させ、寸法精度が悪化する場合がある。オーバーハング部の幅、すなわち、開口部の外縁と該外縁近傍との距離が1.0mm以下である場合、オーバーハング部の積層面のレーザ光照射をされた部分は、積層面よりも下層付近のバルク部に付着しやすいと考えられる。これにより、熱がバルクへ伝達、拡散するため、レーザ光照射をした場所以外の金属粉末は焼結されにくく、より良好な寸法精度を維持できる。
【0032】
金属積層造形品とサポート部材の造形条件(金属材料選定を含む)は、同様の条件であってもよく、異なる条件であってもよい。レーザ光強度は、例えば、サポート部材に対しては金属積層造形品よりも、低強度、短時間で照射するなどしてもよい。それにより、サポート部材の金属の凝固化の程度が金属積層造形品よりも低くなり、サポート部材除去に要する時間の短縮や工具への負担が軽減し、工具寿命の長期化が期待できる。
【0033】
空隙部を所定の形状に造形する観点から、金属粉末を堆積する際の一層の厚みは、空隙部の積層方向の高さよりも小さくすることが好ましい。これにより、空隙部の形状を自由な形状(例えば、
図1のドーム状)に造形できる。また、金属積層造形品とサポート部材の境界面に複数の開口部が配置され、それらが所定の距離よりも近くに配置されたり、接したりすることで、過度にオーバーハング形状となるときは、空隙部が重なる部分にサポート部材を設けてもよい。
【0034】
[除去工程S2]
サポート部材および金属積層造形品の造形が完了したら、造形工程S1からサポート部材の除去工程S2へと移行する。除去工程S2では、サポート付き造形品はベースプレートから取り外される。取り外されたサポート付き造形品は、金属加工用の工具などを用いて切削・研磨などの機械加工によりサポート部材が除去される。切削・研磨などの機械加工は、例えば、切削刃物によって行うことができる。高い平滑度が必要な場合には、機械加工の後に、仕上げ加工として、電解研磨や化学薬品を用いた表面処理を行ってもよい。
【0035】
サポート部材の除去を切削刃物で行う場合、ベースプレートから取り外したサポート部材の下面を高速回転する切削刃物へ接触させることにより行う。この際、サポート部材の空隙部の外縁と、金属積層造形品の開口部の外縁とが、積層方向から見た場合に同じ位置にあると、開口部の外縁に切削刃物が直接接触するためバリが発生しやすい。これに対して、本発明の積層造形方法では、開口部および該開口部の外縁近傍に接する部分に空隙部が設けられることで、開口部近傍への切削刃物の接触が最小限に抑えられ、切削されたサポート部材が開口部の内部に入りにくくなり、バリの発生が抑制される。
【0036】
本発明のサポート部材の設計方法について以下に説明する。このサポート部材は、表面に開口部を有する金属積層造形品の積層造形方法において使用される。本設計方法は、金属積層造形品の表面の開口部の形状や位置、大きさ、数などに応じて、サポート部材除去工程の簡略化に最適なサポート部材を設計するための方法である。より具体的には、サポート付き造形品からの除去が容易であり、また、除去後に目標寸法通りの金属積層造形品が得られるようなサポート部材を設計するための方法である。また、本設計方法は、サポート部材除去工程で用いる工具の寿命が短くなりにくいサポート部材を設計するための方法でもある。
【0037】
本設計方法では、サポート部材の形状を、金属積層造形品との境界面における開口部および開口部の外縁近傍に接する部分が、境界面から凹んだ空隙部となるように設定することを特徴としている。サポート部材の設計は、最終的な目標物である金属積層造形品の設計に続いて行う。金属積層造形品の全体形状、表面の開口部の形状、位置、大きさ、数などの情報に基づいて、金属積層造形品の表面で、サポート部材を設ける場所を決定する。金属積層造形品が、角度の異なる複数の表面に開口部を有する場合、サポート部材を複数設けてもよい。サポート部材は、例えば、造形工程において金属積層造形品とベースプレートとの間に位置する下面だけでなく、側面などに設けてもよい。
【0038】
本設計方法により設計したサポート付き積層品の一例を、
図5を用いて説明する。
図5は、
図3(a)に示した断面図とその拡大図である。
図5に示すように、サポート部材3aの形状について、空隙部31aの外縁32aが、金属積層造形品2aの開口部22aの外縁23aよりも、一定距離Xだけ外側に配置されるように設定する。これにより、上述のとおり、積層造形方法を実施する際において、開口部におけるバリの発生を抑制でき、サポート部材除去工程の簡略化を図るなどの効果が得られる。
【0039】
サポート部材3aの厚みY1は、サポート部材除去時に安定的に研磨・切削加工が行われ、平滑な表面を有する目標寸法通りの金属積層造形品を得る観点から、一定以上の厚みであることが望ましい。また、サポート部材3aの除去に用いる工具の寿命を長くする観点から、サポート部材3aの厚みY1は所定の厚さよりも薄いことが好ましい。サポート部材3aの厚みY1は、これらのバランスを取って設定される。
【0040】
空隙部31aの高さY2は、開口部22aの内部にバリが発生しない範囲で、自由に選択できる。また、空隙部31aの高さY2は、サポート部材3aの厚みY1よりも小さいことが好ましい。空隙部31aの高さY2は、高さY2≦距離X≦1.0mmの関係であることがより好ましい。これにより、サポート部材の除去工程において、工具に異なる負荷が断続的に加わる領域(空隙部)を少なくでき、工具の寿命を長くできる。
【0041】
その他、上述のサポート部材における空隙部の種々の構造についても、本設計方法において適宜組み込むことができる。
【0042】
本設計方法は、金属積層造形品の設計情報を基に、自動的にサポート部材の形状や設置場所が設計されるシステムとすることもできる。それにより、金属積層造形品を設計しながら、サポート部材の設計情報も得られるため、金属積層造形品の設計段階から製造時の問題点を予測できる。その結果、サポート部材除去工程の簡略化が図れることに加え、造形工程と除去工程を繰り返しトライアンドエラーに費やす時間や労力を節約でき、金属積層造形品の開発を促進できる。
【0043】
本発明の造形工程の一例として、パウダーベッド方式で金属積層造形品を造形する場合の造形工程の概要を説明する。この方式の造形は、再現性、寸法精度に優れる点から広く用いられている。この方式の積層造形装置としては、特に限定はないが、例えば以下の態様のものを使用できる。
【0044】
図6は、パウダーベッド方式での造形工程の一例を示す模式図である。
図6(a)は、金属粉末を堆積する堆積工程であり、
図6(b)は、金属粉末へレーザ光を照射して凝固部を形成する凝固部形成工程である。
積層造形装置4は、上端にベースプレート41を有する昇降可能な昇降手段42を備え、このベースプレート41の周囲には、金属粉末50をベースプレート41上に供給する供給手段43、供給された金属粉末50をベースプレート41上に薄層状に堆積する堆積手段44、金属粉末50を焼結または溶融するために加熱する加熱手段45が備えられている。これらの機器類は、チャンバに収容され、チャンバ内の雰囲気は加熱手段の種類に応じて真空雰囲気またはアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気とされ、内部圧力や温度が管理可能であってもよい。
【0045】
図6(a)に示す堆積工程では、ベースプレート41上に薄層状に金属粉末50を堆積する。
図6(b)に示す凝固部形成工程では、所定の位置の金属粉末50へ、加熱手段45からレーザ光照射をし、焼結または溶融して凝固部を形成する。上記2つの工程を交互に繰り返すことで、凝固部の集合からなる金属積層造形品を造形する。
【0046】
これらの工程の詳細について以下に説明する。
まず初めに、積層造形装置4のベースプレート41の上面と、堆積手段44の最下部との距離を所定の距離だけ離間させる。この際、堆積手段44の高さは一定とし、ベースプレート41の高さを調整することにより、所定の距離だけ離間する。堆積工程において、供給手段から供給された金属粉末50は、堆積手段44によってベースプレート41の上に薄層状に堆積される。金属粉末50は、具体的には、板形状の堆積手段44が、ベースプレート41の上面との距離を一定に保ちながら水平に移動し、金属粉末50をかきならしながら敷き詰めることで堆積される。
【0047】
堆積された金属粉末50の層の厚みは、ベースプレート41の上面と堆積手段44の最下部との距離によって調整できる。なお、金属粉末50の層の厚みは、金属粉末50の粒径よりも大きな値とすることが好ましい。それにより、金属粉末の層の厚みが均一になりやすいため、金属積層造形品の造形精度や凝固組織の均一性を確保し易くなる。
【0048】
凝固部形成工程では、ベースプレート41の上に敷き詰めた金属粉末50の所定の位置に、加熱手段45から発せられるレーザ光を走査しながら照射し、部分的に金属粉末50を焼結または溶融させる。レーザ光の照射が終わった部分の温度は下降し、融点よりも低くなると当該部分は凝固する。
【0049】
上記堆積工程と、それに続く凝固部形成工程を一回ずつ行うことで、一層分の造形を行うことができる。一層分の造形を行ったら、ベースプレート41を、次に造形を行う層の厚み分だけ、昇降手段42によりベースプレート41を下降させる。ベースプレート41の下降に続いて、上述した金属粉末50の堆積および凝固部形成を再度行うことで、先に造形された層の上に次の層が造形される。このように、堆積工程、凝固部形成工程、およびベースプレートの下降を繰り返すことで、金属の凝固部を積み重ね、サポート部材および金属積層造形品を造形する。
【0050】
上記工程によりサポート付き造形品を造形する場合、レーザ光照射を行わない部分は、サポート付き造形品の造形が完了するまで、金属粉末のまま造形品とともに造形装置内に存在する。そのため、サポート部材の造形時には、空隙部には金属粉末が満たされた状態で造形が進行する。サポート部材の造形完了後、金属積層造形品の一層目の凝固部形成時には、堆積した金属粉末のうち、開口部以外の場所にレーザ光照射をし、凝固部を形成する。この際、金属積層造形品の開口部の外縁近傍にもレーザ照射されるが、レーザ光照射がされた部分の直下には、サポート部材の金属粉末がある。凝固部の形状自体はオーバーハング形状であるものの、オーバーハング部の積層面のレーザ光照射がされた部分は、積層面よりも下層付近のバルク部に付着することで熱がバルクへ伝達、拡散するため、オーバーハング形状を造形できる。
【0051】
造形工程完了後のサポート付き造形品は、積層造形装置から取り出し、未凝固部の金属粉末を高圧のエアで除去する。その後、造形品のサポート部材側を、高速回転する切削刃物に押し当て、サポート部材を除去する。サポート部材の除去工程では、切削刃物の開口部への接触は最小限とする。本発明の積層造形方法を、パウダーベッド方式の積層造形に適用することで、寸法精度に優れるとともに、開口部内部にバリが無い金属積層造形品が得られる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1~実施例5、および比較例1、比較例2
サポート部材の除去工程において、開口部周囲の状態がバリの発生へ与える影響を検討するため、空隙部および開口部の形状が異なる7種類の貫通孔を備えたサポート付き造形品を造形した。サポート付き造形品は平板状で、一つのサポート付き造形品に、各条件につきn=5で貫通孔などを造形した。空隙部および開口部の形状は、
図5に示した開口部の外縁と空隙部の外縁の距離X、空隙部の高さY2、および開口部の曲率半径Rの組み合わせにより規定される。実施例および比較例の条件を表1に示す。表1において、C1~C5は実施例1~実施例5の条件であり、C6、C7は比較例1、比較例2の条件である。
【0054】
【0055】
実施例1~実施例5は、Xが0.25mmまたは0.50mmであり、積層方向から見た場合(貫通孔方向に見た場合)に、空隙部の外縁は開口部の外縁よりも外側に位置する。それに対し、比較例1、比較例2は、Xが0mmであり、積層方向から見た場合に、空隙部の外縁と、開口部の外縁とが同じ位置にある。
【0056】
図7に、本実験で用いたサポート付き造形品の設計図を示す。
図7(a)は、サポート付き造形品の側面図であり、
図7(b)は、サポート部材除去後の金属積層造形品を開口部側から見た場合の平面図である。
図7(a)に示すように、金属積層造形品2の貫通孔貫通方向の厚みは20.0mmであり、サポート部材の貫通孔貫通方向の厚みは5.0mmである。また、
図7(b)に示すように、貫通孔の内径は、全て1.0mmである。
【0057】
図7(a)に示した形状となるようにパウダーベッド法により造形したサポート付き造形品から、以下の方法でサポート部材を除去した。
1.加工面(金属積層造形品とサポート部材の境界)に対して、0.50mmサポート部材を残し、フライス盤で切削加工する。
2.加工面に対して、0.10mmサポート部材を残し、フライス盤で切削加工する。
3.加工面に対して、0.05mmサポート部材を残し、フライス盤で切削加工する。
4.加工面まで加工する。
【0058】
図8に、サポート部材除去後の加工面全体の画像を示す。また、
図9に、サポート部材除去後の開口部の拡大画像を示す。比較例1、比較例2(条件C6、C7)は、開口部全体にバリが発生し、貫通孔が塞がっている。それに対し、実施例1~実施例5(条件C1~C5)は、開口部が貫通しており、バリの発生が大幅に抑制された。なお、
図8において、条件C6の上から2個目と3個目でバリが無いのは、実験時の確認のため除去したことによる。
【0059】
以上のように、本発明の積層造形方法は、表面に開口部を有する金属積層造形品の造形に際して、開口部におけるバリの発生を抑制でき、サポート部材除去工程の簡略化や工具寿命の長期化が図れる。
【符号の説明】
【0060】
1:サポート付き造形品
2、2a、2b、2c:金属積層造形品
21:貫通孔
22、22a:開口部
23、23a、23b、23c:外縁
3、3a、3b、3c:サポート部材
31、31a、31b、31c:空隙部
32、32a、32b、32c:外縁
4:積層造形装置
41:ベースプレート
42:昇降手段
43:供給手段
44:堆積手段
45:加熱手段
50:金属粉末