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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20241220BHJP
   G03B 17/08 20210101ALI20241220BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20241220BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 A
G02B7/02 Z
G03B17/08
G03B30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020166967
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059310
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 章
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-140982(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0080516(US,A1)
【文献】特開昭63-175637(JP,A)
【文献】特開昭61-192388(JP,A)
【文献】特開2002-095914(JP,A)
【文献】特開平01-107220(JP,A)
【文献】特開2019-020755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 7/02-7/16
G03B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットにおいて、
前記複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、この第1レンズに像側で隣接する第2レンズおよび/または前記鏡筒とが接着剤によって接着され、
前記接着剤と前記第1レンズの像側の光学面との間に、前記接着剤から発生するアウトガスを吸着するガス吸着剤が設けられ
前記ガス吸着剤は、前記第1レンズの像側の端面と前記第2レンズの物体側の端面との間で、前記接着剤から前記第1レンズの像側の前記光学面と前記第2レンズの物体側の光学面との間のレンズ間空間へと向かうアウトガスを吸着することを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記第2レンズの物体側の端面および/または前記第1レンズの像側の端面に周方向に沿って環状の環状溝が設けられ、当該環状溝に前記ガス吸着剤が収容固定されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記ガス吸着剤が、粉末状活性炭と多数の孔を有する多孔質樹脂とを備え、当該多孔質樹脂の多数の孔に前記粉末状活性炭が保持されていることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記ガス吸着剤が粒状活性炭であり、当該粒状活性炭が前記環状溝に収容固定されていることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記環状溝に接着剤が設けられ、この接着剤に前記粒状活性炭が接着固定されていることを特徴とする請求項4に記載のレンズユニット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカメラ(車載カメラ)が車外の風景等を撮像し、その撮像画像が車内に搭載されたモニタ等に表示される技術が知られている。車載カメラのレンズユニットは、撮像対象に向けられる側(物体側)が車外に露出した状態となるので、強度、防水性、耐薬品性、高温耐久性等が要求される。また、温度変化によるレンズの曇りを防止する必要などがある。
【0003】
特許文献1には、レンズの曇りを防止するために、鏡筒内部の気密状態を確保したレンズユニットが開示されている。このレンズユニットでは、4つのレンズが鏡筒内に光軸方向に沿って並べて配置されている。物体側では、最も物体側の第1レンズと鏡筒の内周面との間に0リング等の弾性シール部材を配置することで、シール性が実現されている。また、像側(撮像素子側)では、接着剤を介して光学フィルタを鏡筒に取り付けることで、シール性が実現されている。このように、物体側のシールと結像側のシールとにより鏡筒内部の気密性が確保され、レンズの曇りが防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-233512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、第1レンズがОリング(弾性シール部材)により防水されていても、第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの間のレンズ間空間に水分が入る可能性はあり、この場合、物体側に位置する第1レンズの裏面が結露により曇り易い。
そこで、最も物体側に位置する第1レンズと、この第1レンズに像側で隣接する第2レンズとを接着剤によって接着防水することが考えられるが、この場合、レンズユニットの製造中において接着剤が完全に硬化する前や、レンズユニットの製造後であっても、接着剤に未硬化な部分があった場合に、当該接着剤からシロキサンガスや有機系ガスなどのアウトガスが発生し、当該アウトガスが第1レンズの像側の光学面に付着して光学性能が悪化する虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、接着剤から発生したアウトガスが第1レンズの像側の光学面に付着するのを抑制できるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットにおいて、
前記複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、この第1レンズに像側で隣接する光学部品および/または前記鏡筒とが接着剤によって接着され、
前記接着剤と前記第1レンズの像側の光学面との間に、前記接着剤から発生するアウトガスを吸着するガス吸着剤が設けられていることを特徴とする。
【0008】
ここで、第1レンズには、像側において第2レンズが隣接する場合や、レンズ間の光軸方向の距離を保持するスペーサ、光学フィルタ等が隣接する場合があるので、前記「光学部品」とは、第2レンズ、スペーサおよび光学フィルタを含むものとする。
【0009】
また、接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、オレフィン系接着等の低透湿性接着剤が挙げられるが、これに限るものではない。
【0010】
本発明においては、接着剤と第1レンズの像側の光学面との間に、接着剤から発生するアウトガスを吸着するガス吸着剤が設けられているので、当該ガス吸着剤によって接着剤から発生するアウトガスの殆どが吸着される。したがって、アウトガスが第1レンズの像側の光学面や当該光学面に対向する第2レンズの物体側の光学面に付着するのを抑制できる。
【0011】
また、本発明の前記構成において、前記光学部品の物体側の端面および/または前記第1レンズの像側の端面に周方向に沿って環状の環状溝が設けられ、当該環状溝に前記ガス吸着剤が収容固定されていてもよい。
【0012】
このような構成によれば、環状溝にガス吸着剤が収容固定されているので、当該ガス吸着剤を接着剤と第1レンズの像側の光学面との間に確実に位置決めして設けることができる。
【0013】
また、本発明の前記構成において、前記ガス吸着剤が、粉末状活性炭と多数の孔を有する多孔質樹脂とを備え、当該多孔質樹脂の多数の孔に前記粉末状活性炭が保持されていてもよい。
【0014】
ここで、多孔質樹脂としては、多孔質のポリウレタン樹脂が好適に使用されるが、これに限るものではない。
【0015】
このような構成によれば、粉末状活性炭を多孔質樹脂の多数の孔に保持されてなるガス吸着剤を環状溝に収容固定することによって、粉末状活性炭が環状溝からはみ出て第1レンズの像側の光学面側に侵入するのを防止できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記ガス吸着剤が粒状活性炭であり、当該粒状活性炭が前記環状溝に収容固定されていてもよい。
【0017】
ここで、粒状活性炭の平均粒径は0.01~0.1mm程度であり、当該粒状活性炭が環状溝に嵌合して当該環状溝から外れないように、最大粒径が溝幅より若干大きくて、最大粒径の部分が環状溝に嵌合するのが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、粒状活性炭が環状溝に収容固定されているので、活性炭が環状溝からはみ出て第1レンズの像側の光学面側に侵入するのを防止できる。
【0019】
また、本発明の前記構成において、前記環状溝に接着剤が設けられ、この接着剤に前記粒状活性炭が接着されていてもよい。
【0020】
ここで、環状溝に設けられる接着剤は、粒状活性炭の全体に接着されるのではなく、下部等の一部に接着されるのが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、環状溝に設けられた接着剤に粒状活性炭が接着されているので、粒状活性炭を環状溝に強固に固定できる。
【0022】
また、本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えることを特徴とする。
このような構成によれば、上述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、接着剤から発生したアウトガスの殆どがガス吸着剤に吸着されるので、第1レンズの像側の光学面にアウトガスが付着するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、レンズユニットの概略断面図である。
図2】同、カメラモジュールの概略断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態を示すもので、要部の概略断面図である。
図4】同、要部の概略半平断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態を示すもので、要部の概略断面図である。
図6】同、要部の概略半平断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態を示すもので、要部の概略断面図である。
図8】本発明の第4の実施形態を示すもので、レンズユニットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。
なお、以下で説明される本実施形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、全ての図においてレンズについてはハッチングを省略している。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側(図1において上側)から、第1レンズ13、第2レンズ14、第3レンズ15、第4レンズ16および第5レンズ17から成る5つのレンズと、2つの絞り部材22a,22bとを備えている。
【0027】
2つの絞り部材22a,22bのうちの物体側から1番目の絞り部材22aは、第2レンズ14と第3レンズ15との間に配置されている。物体側から2番目の絞り部材22bは、第3レンズ15と第4レンズ16との間に配置されている。絞り部材22a,22bは透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0028】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置する第1レンズ13は、物体側に凸面を有するとともに像側に凹面(光学面)13cを有する球面ガラスレンズであり、第1レンズ13に像側で隣接する第2レンズ14は、物体側に凹面(光学面)14cを有する樹脂レンズである。第2レンズ14を含めその他のレンズ15,16,17は樹脂レンズであるが、これに限定されない(例えば、第1レンズ13が樹脂レンズであっても構わない;第1および第2レンズ13,14が樹脂製の場合、第1レンズ13および第2レンズ14は、例えば、互いの線膨張係数の差が40×10-6/K(m)以上であってもよい)。
【0029】
本実施形態において、レンズの数、レンズおよび鏡筒の素材等については用途等に応じて任意に設定できる。
また、本実施形態において、像側に位置する2つの第4および第5レンズ16,17は貼り合わせレンズであるが、そうである必要はない。なお、これらのレンズ13,14,15,16,17の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
また、本実施形態では、従来と異なり、鏡筒内にОリング等の弾性シール部材は設けられていない。
【0030】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(図1において上端部)のカシメ部23が径方向内側に熱的にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置する第1レンズ13をこのカシメ部23により鏡筒12の物体側端部に光軸方向で固定している。この場合、安定したカシメを行なえるように、カシメ部23が圧接されるガラスレンズ13の部位は平面状に斜めにカットされた平坦部13bとして形成される。
【0031】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第5レンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17と絞り部材22a,22bとが光軸方向で保持固定されている。
【0032】
鏡筒12は、その内径が物体側から像面側に向かって段階的に小さくなっている。これに対応して、レンズ13,14,15,16,17は、物体側から像面側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。基本的に、レンズ13,14,15,16,17それぞれの外径と、鏡筒12の各レンズ13,14,15,16,17が支持される部分それぞれの内径とは略等しくなっている。
なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0033】
図2は、図1に示すレンズユニット11を有する本実施形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、フィルタ105が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
【0034】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0035】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面との間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0036】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
前記フィルタ105は、内側フランジ部24の下面に低透湿性接着剤adによって接着されている。
【0037】
以上のような構成を成すレンズユニット11およびカメラモジュール300において、最も物体側に位置する第1レンズ13と、この第1レンズ13に像側で隣接する第2レンズ14とは、レンズ間空間k内が外部に対して密閉されるように低透湿性接着剤ad(以下、径方向低透湿性接着剤adということもある。)によって接着防水されている。レンズ間空間kは、第1レンズ13の像側の端面に形成された凹面13cと第2レンズ14の物体側の端面に形成された凹面14cとの間に形成された空間である。
図1に示すように、第1レンズ13の像側の端面13aは円環状の平面に形成され、第2レンズ14の物体側の端面14aは円環状の平面に形成されている。そして、端面13aの内周側の面と端面14aの外周面側の面との間に低透湿性接着剤adが介在され、当該低透湿性接着剤adによってレンズ間空間k内が外部に対して密閉されるように、第1レンズ13と第2レンズ14とが接着防水されている。
【0038】
また、第1レンズ13の凹面13cには、親水膜13mが凹面13cの全体を覆うようにして設けられている。親水膜13mを設けることによって、第1レンズ13の裏側の凹面13cの曇りを防止できるが、親水膜13mは、異物が付着すると、UV光が親水膜13mに照射された際に親水膜13mが劣化して、光学性能が悪化するおそれがある。しかし、本実施形態および後述する第2~第4の実施形態では、第1レンズ13と第2レンズ14とが低透湿性接着剤adによってレンズ間空間k内が外部に対して密閉されるように接着防水されており、防塵もされることから、親水膜13mに異物が付着することがないので、親水膜13mの劣化を防止できる。
【0039】
また、第1レンズ13の外周面と、鏡筒12の内周面とが低透湿性接着剤ad(以下、軸方向低透湿性接着剤adということもある。)によって接着防水されている。本実施形態では、鏡筒12の内周面に、低透湿性接着剤adが充填される充填部30が周方向に延在して設けられている。充填部30は、鏡筒12の内周面を断面矩形のリング溝状に切り欠いて形成されたものであり、鏡筒12の軸方向に延在し、像側の端部において底面30aを有している。このような充填部30は、カシメ部23をカシメる前(図1において、二点鎖線で記載している。)に、鏡筒12の内周面に形成される。
そして、カシメ部23をカシメる前に充填部30に低透湿性接着剤adを充填し、充填後にカシメ部23をカシメる。これによって、第1レンズ13の外周面と、鏡筒12の内周面とが軸方向低透湿性接着剤adによって接着防水される。
なお、第1レンズ13と第2レンズ14とを径方向低透湿性接着剤adによって接着防水する場合も、カシメ部23をカシメる前に、第1レンズ13の端面13aと第2レンズ14の端面14aとのうちの少なくともいずれか一方に低透湿性接着剤adを塗布したうえで、第2レンズ14に第1レンズ13を上から(物体側から)重ねるようにして鏡筒12に組み込むことによって行う。
充填部30に低透湿性接着剤adを充填する場合、充填部30の上端開口から低透湿性接着剤adを充填するが、充填部30は、下端に底面30aを有しているので、充填される低透湿性接着剤adは、底面30aで流下が止まる。したがって、低透湿性接着剤adが第1レンズ13の外周面または鏡筒12の内周面を越えて、鏡筒12内に侵入するのを防止できる。
【0040】
また、本実施形態では、充填部30を1つだけ形成しているが、鏡筒12の軸方向に所定間隔で複数形成することで、軸方向低透湿性接着剤adを軸方向に所定間隔で複数設けてもよい。
なお、軸方向低透湿性接着剤adによって第1レンズ13の外周面を鏡筒12の内周面に所定の軸方向接着強度で接着固定できる場合、カシメ部23は無くてもよい。
【0041】
前記低透湿性接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、オレフィン系接着が挙げられ、これら接着剤の粘度としては、10Pa・S以上が好ましい。粘度が10Pa・S未満であると、軸方向低透湿性接着剤adが下側(像側)に向けて垂れ流れ易くなって、第1レンズ13をその外周面と鏡筒12の内周面との間の防水性を確保しながら鏡筒に組み込み難くなる。
【0042】
エポキシ系接着剤は、アクリル系接着剤より接着強度が高いが、耐衝撃性に劣るため、レンズユニット11に熱衝撃試験を施した場合に、エポキシ系接着剤に剥がれが生じるおそれがある。このため、エポキシ系接着剤より耐衝撃性に優れるアクリル系接着剤を使用することが好ましいが、接着強度が不足するおそれがある。
このため、アクリル系接着剤を軸方向低透湿性接着剤adとして使用する場合、鏡筒12の内周面および/または第1レンズ13の外周面をサンドブラスト処理等の荒らし手段によって、荒らすことが好ましい。また、アクリル系接着剤を径方向低透湿性接着剤adとして使用する場合、第1レンズ13の端面13aおよび/または第2レンズ14の端面14aをサンドブラスト処理等の荒らし手段によって、荒らすことが好ましい。このような場合、二乗平均表面粗さRqを0.01μm~200μm程度にするのが好ましい。
また、アクリル系接着剤を低透湿性接着剤adとして使用する場合、接着強度確保のために、接着面積を広くとるのが好ましい。
【0043】
金属製の鏡筒12は、樹脂製の鏡筒12より接着剤の接着性が優れているので、金属製性の鏡筒12の場合は、鏡筒12の内周面や平坦面12cを荒らさなくてもよい場合があるが、荒らした方が低透湿性接着剤adの接着性がよくなるので好ましい。
また、エポキシ系接着剤は、アクリル系接着剤より接着強度が高いので、径方向低透湿性接着剤adとして、エポキシ系接着剤を使用してもよい。このようにすれば、第1レンズ13の光軸のずれを防止できるという利点がある。
さらに、エポキシ系接着剤は、アクリル系接着剤より硬いので、エポキシ系接着剤を軸方向低透湿接着剤adとして使用した場合、第1レンズ13の光軸のずれを生じ易いが、アクリル系接着剤を軸方向低透湿接着剤adとして使用することによって、第1レンズ13の光軸のずれを防止できる。
【0044】
また、本実施形態では、低透湿性接着剤adは、弾性率が1~1000MPa、かつTgが40℃~60℃であるのが好ましい。
弾性率は低透湿性接着剤adの水分の通し易さ(透湿性)の指標を示すもので、弾性率が1MP未満では、低透湿性接着剤adの柔軟性が高くなって水分を通し易くなる一方、1000MPを超えると、低透湿性接着剤adが固くなりすぎて、第1レンズ13が破損し易くなる。このため、低透湿性接着剤adの弾性率を1~1000MPaとするのが好ましい。
Tgは低透湿性接着剤のガラス転移点温度であり、Tgが60℃を超えると、低透湿性接着剤が固くなりすぎて、第1レンズが破損し易くなる一方、40℃未満では、低透湿性接着剤が柔らかくなり過ぎて水分を通し易くなる(防水性が低下する)。このため、Tgを40℃~60℃とするのが好ましい。
【0045】
なお、本実施形態では、第1レンズ13を径方向低透湿性接着剤adによって第2レンズ14に接着固定してするとともに、第1レンズ13を軸方向低透湿性接着剤adによって鏡筒12に接着固定することで防水性を確保したが、径方向低透湿性接着剤adのみで防水性を確保できれば、軸方向低透湿性接着剤adは使用しなくてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、径方向低透湿性接着剤adと第1レンズ13の光学面13cとの間に、径方向低透湿性接着剤adおよび軸方向低透湿性接着剤adから発生するアウトガスを吸着するガス吸着剤41が設けられている。
すなわちまず、図1図4に示すように、第2レンズ14の物体側の端面14aには、周方向に沿って環状の環状溝40が設けられている。この環状溝40は断面矩形状に形成され、前記端面14aに開口している。また、環状溝40は、前記端面14aのうち、第2レンズ14の物体側に設けられた凹面(光学面)14cの外周に隣接して配置されている。
【0047】
環状溝40にはガス吸着剤41が収容固定されている。このガス吸着剤41は、粉末状活性炭42と、多数の孔を有する多孔質樹脂43とを備えており、当該多孔質樹脂43の多数の孔に粉末状活性炭42が保持されている。このような構成のガス吸着剤41は断面矩形状でかつ環状に形成され、当該ガス吸着剤41は環状溝40に収容固定されている。多孔質樹脂43は、本実施形態では、多孔質のポリウレタン樹脂であるが、これに限るものではない。
ガス吸着剤41はその上端部が第1レンズ13の端面13aと第2レンズ14の端面14aとの間に隙間に突出している。また、この隙間にはガス吸着剤41より径方向外側において上述した径方向低透湿性接着剤adが環状溝40から径方向外側に所定間隔離間した位置に充填されている。粉末状活性炭42は多孔質樹脂43の多数の孔に保持されて、外部に開放されているので、径方向低透湿性接着剤adから発生したアウトガスは粉末状活性炭42に吸着されることになる。
【0048】
なお、本実施形態では、第2レンズ14の端面14aに環状溝40を形成したが、これに加えてまたは代えて、第1レンズ13の端面13aに環状溝を形成し、当該環状溝にガス吸着剤41を収容固定してもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、径方向低透湿性接着剤adと第1レンズ13の像側の光学面13cとの間に、アウトガスを吸着するガス吸着剤41が設けられているので、当該ガス吸着剤41によって径方向低透湿性接着剤adおよび軸方向低透湿性接着剤adから発生するアウトガスの殆どが吸着される。したがって、アウトガスが第1レンズ13の像側の光学面13cや当該光学面13cに対向する第2レンズ14の物体側の光学面14cに付着するのを抑制できる。
【0050】
また、第2レンズ14の物体側の端面14aに、周方向に沿って環状の環状溝40が設けられ、当該環状溝40にガス吸着剤41が収容固定されているので、当該ガス吸着剤41を径方向低透湿性接着剤adと第1レンズ13の像側の光学面13cとの間に確実に位置決めして設けることができる。
さらに、ガス吸着剤41が、粉末状活性炭42と多数の孔を有する多孔質樹脂43とを備え、当該多孔質樹脂43の多数の孔に粉末状活性炭42が保持されているので、ガス吸着剤41を環状溝40に収容固定することによって、粉末状活性炭42が環状溝40からはみ出て第1レンズ13の像側の光学面13c側に侵入するのを防止できる。
【0051】
また、最も物体側に位置する第1レンズ13と、この第1レンズ13に像側で隣接する第2レンズ14とが、レンズ間空間k内が外部に対して密閉されるように低透湿性接着剤adによって接着防水されているので、Оリングを使用しなくても、高湿環境でも、レンズ間空間kに水分が入り難くい。したがって、外気温が低くなっても、第1レンズ13の裏面(凹面13c)が結露することによる曇りを防止できる。
また、Oリングを使用しないので、第1レンズ13がOリングから反力を受けて、光軸方向にずれることに起因する光学性能の悪化を防止できる。
また、Оリングを使用しないので、分部品点数が増加することがなく、Оリングの装着にも手間もかからない。
また、第1レンズ13と鏡筒12とが低透湿性接着剤adによって接着防水されているので、第1レンズ13と鏡筒12との間から水分が鏡筒内に入り難くなるので、第1レンズ13の裏面が結露することによる曇りをより確実に防止できる。
【0052】
また、第1レンズ13の外周面と、鏡筒12の内周面とが軸方向低透湿性接着剤adによって接着防水されているので、第1レンズ13の物体側の表面から外周面に流れてくる水分をより確実に防水できる。
さらに、第1レンズ13の外周面に、低透湿性接着剤adが充填される充填部30が周方向に延在して設けられているので、第1レンズ13の外周面と、鏡筒12の内周面との間を防水する低透湿性接着剤adを確実に充填できる。また、充填部30は、下端に底面30aを有しているので、充填される低透湿性接着剤adは、底面30aで流下が止まる。したがって、低透湿性接着剤adが第1レンズ13の外周面または鏡筒12の内周面を越えて、鏡筒12内に侵入するのを防止できる。
また、第1レンズ13を軸方向低透湿性接着剤adによって鏡筒12に接着固定し、径方向低透湿性接着剤adによって第2レンズ14に固定しているので、レンズユニット11に衝撃が加わった場合に、いずれか一方の低透湿性接着剤adが破損し難くなるので、衝撃に対する対応性がよい。
また、低透湿性接着剤adは、弾性率が1~1000MPa、かつTgが40℃~60℃であるので、最も物体側に位置する第1レンズ13と第2レンズ14、および第1レンズ13と鏡筒12をそれぞれ低透湿性接着剤adによってより確実に防水できるとともに、第1レンズ13の破損を防止できる。
【0053】
(第2の実施形態)
図5および図6は、本発明の第2の実施形態のレンズユニットを示すもので、図5は要部の断面図、図6は要部の概略半平断面図である。
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、環状溝40に収容固定される活性炭が粒状活性炭となっている点であるので、以下でこの点について説明し、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0054】
図5および図6に示すように、第1の実施形態と同様に、第2レンズ14の物体側の端面14aには、周方向に沿って環状の環状溝40が設けられている。この環状溝40には粒状活性炭45が収容固定されている。
粒状活性炭45の平均粒径は0.01~0.1mm程度であり、当該粒状活性炭45が環状溝40に嵌合して当該環状溝40から外れないように、最大粒径が環状溝40の溝幅より若干大きく、最大粒径の部分が環状溝40に嵌合するようになっている。
また、図5に二点鎖線で示すように、第2レンズ14の端面14aに、環状溝40に隣接して環状溝46を端面14aに開口して設けてもよい。この環状溝46は、環状溝40に対して径方向外側に隣接配置されており、この環状溝46の径方向外側において、径方向低透湿性接着剤adが充填されている。このように環状溝46を設けることによって、径方向低透湿性接着剤adが径方向内側に流れても、環状溝46に溜まるので、径方向低透湿性接着剤adが粒状活性炭45に被さって、粒状活性炭45のアウトガスを吸着する吸着力が消失もしくは低減するのを抑制できる。
【0055】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる他、粒状活性炭45が環状溝40に収容固定されているので、粒状活性炭45が環状溝40からはみ出て第1レンズ13の像側の光学面13c側に侵入するのを防止できるという効果を得ることができる。
また、第1の実施形態とは異なり、ガス吸着剤41が粒状活性炭45であり、当該粒状活性炭45を直接環状溝40に収容固定したので、ガス吸着剤41の構成が第1の実施形態におけるガス吸着剤41より簡単となり、その分、コストを抑えることができる。
【0056】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態のレンズユニットの要部の断面図である。
本実施形態が第2の実施形態と異なる点は、環状溝40に接着剤47を設けた点であるので、以下でこの点について説明し、第2の実施形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0057】
図7に示すように、第2の実施形態と同様に、第2レンズ14の物体側の端面14aには、周方向に沿って環状の環状溝40が設けられ、この環状溝40に接着剤47が設けられている。この接着剤47は環状溝40の半分より下側に充填され、環状溝40に嵌合された粒状活性炭45は、その下部(一部)に接着剤47が接着され、接着剤47の上面(表面)より上方側において粒状活性炭45は露出している。また、接着剤47は低透湿性接着剤でも構わないが、通常の接着剤であればよい。
【0058】
本実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる他、環状溝40に設けられた接着剤47に粒状活性炭45が接着されているので、粒状活性炭45を環状溝40に強固に固定できるという効果を得ることができる。
【0059】
(第4の実施形態)
上述した第1~第3の実施形態では、Оリング等のシール部材によって鏡筒12と第1レンズ13の外周面とをシールしない構造のレンズユニットを例にとって説明したが、本発明は、図8の第4の実施形態に示すように、Оリング等のシール部材26によって鏡筒12と第1レンズ13の外周面とをシールする構造のレンズユニットにも適用できる。
なお、図8において、図1に示す第1の実施形態のレンズユニットと同一構成には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
図8に示すレンズユニットでは、最も物体側に位置する第1レンズ13と鏡筒12との間にシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。また、鏡筒12の内側には物体側において円筒状の内壁12bが設けられ、この内壁12bと外壁12cとの間には溝18が形成されており、溝18の中には環状体27が設けられ、この環状体27にOリング26が密接している。
また、第1レンズ13と第2レンズ14とを接着する接着剤は、低透湿性接着剤でも構わないが、通常の接着剤48であればよい。
【0061】
このような第4の実施形態においても、第1~第3の実施形態と同様に、最も物体側に位置する第1レンズ13と、この第1レンズ13に像側で隣接する第2レンズ14とが接着剤48によって接着され、接着剤48と第1レンズ13の像側の光学面13cとの間に、接着剤48から発生するアウトガスを吸着するガス吸着剤41が設けられているので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、図8において、粉末状活性炭と多数の孔を有する多孔質樹脂とを備えたガス吸着剤41に代えて、第2および第3の実施形態と同様に、ガス吸着剤41を粒状活性炭とし、この粒状活性炭を環状溝40に収容固定してもよい。
【0063】
なお、上述した第1~第4の実施形態では、第1レンズ13に像側で隣接する第2レンズ14を備えたレンズユニット11について説明したが、本発明は、これに代えて、第1レンズ13に像側で隣接するスペーサや光学フィルタ等の光学部品がを備えたレンズユニットにも適用できる、
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状等は、上述した実施形態に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上述した実施形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、上述した実施形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0064】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1レンズ
14 第2レンズ(光学部品)
13a 第1レンズの像側の端面
14a 第2レンズの物体側の端面
15,16,17 レンズ
40 環状溝
41 ガス吸着剤
42 粉末状活性炭
43 多孔質樹脂
45 粒状活性炭
47 接着剤
48 接着剤
ad 低透湿性接着剤(接着剤)
300 カメラモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8