(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20241220BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20241220BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C29/00 S
F04C29/00 T
F04C29/04 J
(21)【出願番号】P 2020174866
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】左海 将之
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】玉置 斉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】平田 弘文
(72)【発明者】
【氏名】竹内 真実
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓真
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0072323(KR,A)
【文献】特許第3976512(JP,B2)
【文献】特開平11-317482(JP,A)
【文献】特開2006-009776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
F04C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトを回転駆動するモータと、
前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、
前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、
前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、
前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された放熱フィンと、
を備え、
前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、
前記放熱フィンは、前記吸入ポートの端部から前記軸線を中心として前記冷媒の流れ方向に180°程度の領域にわたって延びているスクロール圧縮機。
【請求項2】
軸線回りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトを回転駆動するモータと、
前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、
前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、
前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、
前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された放熱フィンと、
を備え、
前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、
前記放熱フィンは、前記軸線を中心とする円弧状に延びるとともに、径方向に間隔をあけて複数設けられ、径方向外側に位置する前記分割された放熱フィンになるほど前記流れ方向における寸法が大きく、かつ、径方向内側に位置する前記放熱フィンになるほど前記分割数が増加しているスクロール圧縮機。
【請求項3】
軸線回りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトを回転駆動するモータと、
前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、
前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、
前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、
前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割され
た複数のフィン片を有する放熱フィンと、
を備え、
前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、
前記放熱フィンは、前記軸線を中心として前記周方向の一方側から他方側に向かうに従って径方向内側に向かって前記軸線に近づくように延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられ、
各前記放熱フィンにおける複数のフィン片は、前記流れ方向の下流側の前記フィン片になるほど、前記流れ方向の寸法が小さいスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記冷媒の流速が高い領域に位置する前記分割された放熱フィンになるほど前記流れ方向における寸法が大きい請求項
1から3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記底面から突出するとともに、前記軸線を中心とする放射状に延びる複数のリブをさらに備え、前記リブの突出高さは前記放熱フィンの突出高さよりも小さい請求項1から4
のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記放熱フィンは、周方向に隣接する一対の前記リブ同士の間に設けられている請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記放熱フィンは、前記リブと周方向に重複するように設けられている請求項5に記載
のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用空調装置に用いられる圧縮機として、スクロール圧縮機が知られている(下記特許文献1参照)。スクロール圧縮機は、モータと、モータによって駆動される圧縮機本体と、これらモータ、及び圧縮機本体を収容するハウジングと、を備えている。
【0003】
近年では、装置の小型化のために、スクロール圧縮機を駆動するためのインバータ回路としてインテリジェントパワーモジュール(IPM)を用いる例が増えている。この場合、従来のインバータ回路と比較して発熱密度が高まるため、冷却性能の向上が必要となる。特許文献1に記載された装置では、ハウジングにおけるインバータの背面側(裏面側)に、複数の放熱フィンを設けることで、冷却性能の向上が図れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような放熱フィンを設ける場合、その形状と配置によっては、以下のような課題が生じる虞がある。例えば、圧力によってハウジングの底面が変形した場合、放熱フィンに大きな応力が生じ、破損する可能性がある。また、ハウジングを鋳造によって製造する際に、放熱フィンを形成したことによる厚肉化が原因となって、割れや巣が生じるという課題もある。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、冷却性能と強度が向上したスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るスクロール圧縮機は、軸線回りに回転可能なシャフトと、前記シャフトを回転駆動するモータと、前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された放熱フィンと、を備え、前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、前記放熱フィンは、前記吸入ポートの端部から前記軸線を中心として前記冷媒の流れ方向に180°程度の領域にわたって延びている。
本開示に係るスクロール圧縮機は、軸線回りに回転可能なシャフトと、前記シャフトを回転駆動するモータと、前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された放熱フィンと、を備え、前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、前記放熱フィンは、前記軸線を中心とする円弧状に延びるとともに、径方向に間隔をあけて複数設けられ、径方向外側に位置する前記分割された放熱フィンになるほど前記流れ方向における寸法が大きく、かつ、径方向内側に位置する前記放熱フィンになるほど前記分割数が増加している。
本開示に係るスクロール圧縮機は、軸線回りに回転可能なシャフトと、前記シャフトを回転駆動するモータと、前記シャフトの回転によって駆動される圧縮機本体と、前記モータ、及び前記圧縮機本体を覆うとともに、前記軸線方向から前記モータに対向する底面を有するハウジングと、前記ハウジング内に冷媒を導く吸入ポートと、前記底面に形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された複数のフィン片を有する放熱フィンと、を備え、前記吸入ポートが、前記軸線方向から見て、前記軸線を中心とした円形の接線方向成分を含む方向に延びていることにより、前記底面上で前記冷媒は前記軸線を中心とした周方向一方側から他方側に流れ、前記放熱フィンは、前記軸線を中心として前記周方向の一方側から他方側に向かうに従って径方向内側に向かって前記軸線に近づくように延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられ、各前記放熱フィンにおける複数のフィン片は、前記流れ方向の下流側の前記フィン片になるほど、前記流れ方向の寸法が小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、冷却性能と強度が向上したスクロール圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係るハウジングの底面の構成を示す図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係るハウジングの底面の変形例を示す図である。
【
図4】本開示の第二実施形態に係るハウジングの底面の構成を示す図である。
【
図5】本開示の第三実施形態に係るハウジングの底面の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(スクロール圧縮機の構成)
以下、本開示の実施形態に係るスクロール圧縮機100について、
図1と
図2を参照して説明する。スクロール圧縮機100は、例えば車両用の空調装置の冷媒を圧縮するために用いられる。
図1に示すように、スクロール圧縮機100は、シャフト1と、モータ2と、圧縮機本体3と、ハウジング4と、カバー5と、上部軸受6と、下部軸受7と、ドライブブッシュ8と、吸入ポート9と、を備えている。
【0011】
(シャフトの構成)
シャフト1は、軸線Oに沿って延びるとともに、当該軸線O回りに回転可能とされている。シャフト1は、シャフト本体10と、小径部11と、大径部12と、偏芯軸部13と、を有している。シャフト本体10は、軸線Oを中心とする円柱状をなしている。シャフト本体10は、軸線O方向の全域にわたって一様な径寸法を有している。シャフト本体10の外周面には、モータ2のロータ21(後述)が取り付けられている。
【0012】
軸線O方向におけるシャフト本体10の一方側(下側)には、小径部11が設けられている。小径部11は、軸線Oを中心とする円柱状をなすとともに、シャフト本体10よりも小さな径寸法を有している。小径部11は、ハウジング4に取り付けられた下部軸受7によって軸線O方向一方側(下側)から支持されている。
【0013】
シャフト本体10の軸線O方向他方側(上側)には、大径部12が設けられている。大径部12は、軸線Oを中心とする円柱状をなすとともに、シャフト本体10よりも大きな径寸法を有している。大径部12は、ハウジング4に固定された上部軸受6によって径方向から支持されている。
【0014】
大径部12のさらに上側(軸線O方向他方側)には、偏芯軸部13が設けられている。偏芯軸部13は、大径部12から軸線O方向他方側に向かって突出している。偏芯軸部13は、軸線Oと平行をなすとともに、当該軸線Oから径方向にずれた位置に延びる偏芯軸Aを中心とする円柱状をなしている。したがって、シャフト1が回転するとき、偏芯軸部13は軸線O回りに公転(旋回)する。
【0015】
(モータの構成)
モータ2は、シャフト1に回転駆動力を与える。モータ2は、ロータ21と、ステータ22と、を有している。ロータ21は、シャフト本体10に固定されている。ロータ21は、軸線Oを中心とする円筒状をなしている。詳しくは図示しないが、ロータ21は、複数の磁石を有している。ステータ22は、このロータ21を外周側から覆っている。ステータ22は、複数の鋼板を軸線O方向に積層して形成され、その周囲に銅線が巻回されることで複数のコイルが形成されている。
【0016】
ステータ22に通電することで、ステータ22とロータ21との間に電磁力が発生し、ロータ21に軸線O回りの回転力が与えられる。これにより、シャフト1が軸線O回りに回転する。
【0017】
(圧縮機本体の構成)
圧縮機本体3は、モータ2によるシャフト1の回転によって駆動する。圧縮機本体3は、固定スクロール31と、可動スクロール32と、を有している。固定スクロール31は、軸線Oを中心とする円盤状の第一端板31Aと、この第一端板31Aの軸線O方向一方側(下側)に設けられた第一渦巻板31Bと、を有している。第一渦巻板31Bは、軸線Oを中心として渦巻状に延びている。固定スクロール31は、ハウジング4に固定されている。
【0018】
可動スクロール32は、円盤状の第二端板32Aと、この第二端板32Aの軸線O方向他方側(上側)に設けられた第二渦巻板32Bと、ボス部32Cと、を有している。第二渦巻板32Bは、軸線Oを中心として渦巻状に延びている。第二渦巻板32Bの軸線O方向の寸法は、上述した第一渦巻板31Bの軸線O方向の寸法と同等である。このように第一渦巻板31Bと第二渦巻板32Bとが軸線O方向から噛み合うことで、両者の間に圧縮室が形成されている。
【0019】
ボス部32Cは、第二端板32Aから軸線O方向一方側(下側)に向かって突出する円筒状の部分である。ボス部32Cは、ドライブブッシュ8を介してシャフト1の偏芯軸部13に取り付けられている。偏芯軸部13が軸線O回りに旋回することで、ドライブブッシュ8を通じて旋回力が可動スクロール32に伝達される。これにより、可動スクロール32は軸線O回りに旋回する。なお、詳しくは図示しないが、可動スクロール32自身の回転(自転)は、オルダムリングによって規制されている。
【0020】
可動スクロール32が旋回することによって、上述の圧縮室の容積が時間変化し、当該圧縮室内を径方向外側から内側に送られる中途で冷媒が圧縮され、その圧力が上がる。高圧状態となった冷媒は、固定スクロール31の第一端板31Aに形成された開口部Hを通じてハウジング4内に導かれる。
【0021】
(ハウジング・カバーの構成)
ハウジング4は、シャフト1、モータ2、及び圧縮機本体3を収容する有底円筒状の容器である。具体的には、ハウジング4は、軸線Oを中心とする円筒状のハウジング本体41と、ハウジング本体41の軸線O方向一方側の開口を塞ぐ底部42と、軸線O方向他方側の開口を塞ぐ蓋部43と、カバー5と、を有している。
【0022】
(リブ・放熱フィンの構成)
底部42の厚さ方向両面のうち、軸線O方向他方側(つまり、モータ2側)を向く面は底面42Aとされている。
図2に示すように、底面42A上には、複数のリブRと、複数の放熱フィンFが形成されている。
【0023】
リブRは、底面42Aから軸線O方向他方側(上側)に向かって突出している。リブRは、軸線Oを中心として放射状に延びている。リブRは、一例として8つ設けられている。リブRは、吸入側の圧力によるハウジング4の変形を抑制するために設けられている。
【0024】
放熱フィンFは、軸線Oを中心とする円弧状をなすとともに、径方向、及び周方向に間隔をあけて配列されている。つまり、放熱フィンFは周方向に複数に分割されている。言い換えると、各放熱フィンFは、周方向に配列された複数のフィン片fを有している。フィン片fはリブRと同様に底面42Aから軸線O方向他方側(上側)に向かって突出している。フィン片fの突出高さ(つまり、軸線O方向における寸法)は、リブRの突出高さよりも大きい。
【0025】
径方向の最も外側に位置する放熱フィンFは、外周放熱フィンF1とされている。径方向の最も内側に位置する放熱フィンFは、内周放熱フィンF3とされている。これら外周放熱フィンF1と内周放熱フィンF3の中間に配置されている放熱フィンFは中間放熱フィンF2とされている。
【0026】
本実施形態では、外周放熱フィンF1から内周放熱フィンF3に向かうに従って、放熱フィンFの分割数(フィン片fの数)が増加している。さらに、内周放熱フィンF3から外周放熱フィンF1に向かうほど、フィン片fの周方向における寸法が大きくなっている。
【0027】
外周放熱フィンF1は、軸線O方向から見て、後述する吸入ポート9の端部から、軸線Oを中心として180°程度の領域にわたって延びている。一方で、中間放熱フィンF2及び内周放熱フィンF3は、外周放熱フィンF1よりも吸入ポート9から離間した周方向位置から、軸線Oを中心として180°程度の領域にわたって延びている。これら放熱フィンFのうちの一部は、リブRと周方向に重複している。つまり、一部のフィン片fはリブRと一体に成形されている。
【0028】
再び
図1に示すように、底部42における底面42Aと反対側の面(つまり、外側を向く面)は裏面42Bとされている。カバー5は裏面42Bに取り付けられている。裏面42Bには、IPM(インテリジェントパワーモジュール)等を含む電装品Eが配置され、カバー5によって外側から覆われている。
【0029】
(吸入ポートの構成)
ハウジング本体41には、外部からハウジング4内に冷媒を導くための吸入ポート9が取り付けられている。吸入ポート9は、ハウジング本体41の内外を連通するとともに、上述した底面42Aに向かって冷媒を導く。さらに、
図2に示すように、吸入ポート9は、軸線O方向から見て、底面42Aが形成する円形の接線方向成分を含む方向に延びている。したがって、底面42A上で冷媒は軸線Oを中心とする周方向に流れる。つまり、上述した放熱フィンFは、この冷媒の流れる方向(
図2中の矢印Df)に配列されている。また、底面42Aの外周側では内周側に比べて冷媒の流速が高い。つまり、上述のように外周放熱フィンF1になるほどフィン片fの流れ方向における寸法が大きいことから、冷媒の流速が高い領域になるほどフィン片fの寸法が大きくなると言える。
【0030】
(作用効果)
【0031】
ここで、上記のような放熱フィンFを設ける場合、その形状と配置によっては、以下のような課題が生じる虞がある。例えば、吸入側の圧力によってハウジング4の底面42Aが変形した場合、放熱フィンFに大きな応力が生じ、破損する可能性がある。また、ハウジング4を鋳造によって製造する際に、放熱フィンFを形成したことによる厚肉化が原因となって、割れや巣を含む不良が生じるという課題もある。
【0032】
一方で、本実施形態では、放熱フィンFは冷媒の流れ方向に複数に分割されている。これにより、放熱フィンFの表面に沿う流れの境界層成分が流れ方向に分断される。その結果、1つの放熱フィンFごとに、複数回の前縁効果を得ることができる。したがって、冷媒による底面42A(ハウジング4)の冷却効果を高めることができる。(なお、ここで言う前縁効果とは、熱媒体が最初に衝突する部位で最も熱効率が高くなるという現象を指す。)
さらに、放熱フィンFが分割されていない場合には、底面42Aの変形に伴って、当該放熱フィンFの中央部で底面42Aとの間に大きな応力が発生し、放熱フィンFが破損する虞がある。しかしながら、上記構成によれば、放熱フィンFが複数に分割されているため、底面42Aに変形が生じた場合であっても、分割された放熱フィンFごとに生じる応力を小さく抑えることができる。これにより、ハウジング4の強度を向上させることができる。
【0033】
さらに、上記構成によれば、流速が高い外周側の領域になるほど、分割された放熱フィンF(フィン片f)の流れ方向における寸法が大きい。これにより、流速分布に合わせて適正な回数の前縁効果を生じさせることができる。その結果、冷媒による底面42A(ハウジング4)の冷却効果をさらに高めることができる。
【0034】
加えて、上記構成によれば、複数のリブRが設けられていることから、底面42A(ハウジング4)に吸入側の圧力による応力が生じた場合であっても、当該応力に十分に抗することができる。さらに、リブRの底面42Aからの突出高さは放熱フィンFの突出高さよりも小さい。これにより、放熱フィンFの先端における冷媒の流れがリブRによって阻害されてしまう可能性を低減することができる。
【0035】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0036】
例えば
図3に示すように、吸入ポート9による冷媒の流れ方向(つまり、放熱フィンF´の延びる方向)を変更することも可能である。具体的には、各放熱フィンF´は、周方向一方側(つまり、冷媒が流れてくる側)から他方側(冷媒が流れ去る側)に向かうに従って径方向内側に向かって延びている。このような放熱フィンF´が周方向に間隔をあけて複数(8つ)配列されている。また、各放熱フィンF´は、冷媒の流れ方向に複数に分割されている。言い換えると、各放熱フィンF´は、流れ方向に配列された複数のフィン片f´を有している。複数のフィン片f´のうち、冷媒の流速が高い外周側のフィン片f´になるほど、流れ方向における寸法が大きい。このような構成によっても、上記第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
<第二実施形態>
続いて、本開示の第二実施形態について、
図4を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0038】
同図に示すように、本実施形態では、放熱フィンFbは、軸線Oを中心とする周方向に延びるとともに、当該周方向に複数に分割されている。つまり、放熱フィンFbは、周方向に配列された複数(8つ)のフィン片fbを有する。このような放熱フィンFbが径方向に間隔をあけて複数列(4列)設けられている。径方向外側に位置する分割された放熱フィンになるほど前記流れ方向における寸法が大きい。さらに、各フィン片fbは、周方向に隣接する一対のリブR同士の間に設けられている。言い換えると、各フィン片fbとリブRとは、周方向に重複していない。さらに詳細には、フィン片fbとリブRとの間には周方向に間隔が形成されている。
【0039】
上記構成によれば、放熱フィンFがリブR同士の間に設けられている。言い換えると放熱フィンFとリブRとが周方向に重複していない。これにより、リブRを通過する際に冷媒の流れに乱れが生じ、かつ加速した状態で放熱フィンFに冷媒が衝突する。その結果、放熱フィンFによる冷却効果をさらに高めることができる。さらに、リブRと放熱フィンFとが独立していることから厚肉部位が生じない。これにより、鋳造によるハウジング4の形成時に不良が発生する可能性を低減することもできる。
【0040】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0041】
<第三実施形態>
次に、本開示の第三実施形態について、
図5を参照して説明する。なお、上述の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0042】
同図に示すように、本実施形態では、第二実施形態と同様の放熱フィンFbに対して、リブR´が異なる周方向位置に形成されている。具体的には、各リブR´は、放熱フィンFbと周方向に重複するように形成されている。つまり、4つのフィン片fbと1つのリブR´とが一体に形成されている。
【0043】
上記構成によれば、放熱フィンFとリブRとが周方向に重複していることから、放熱フィンFとしての見かけの体積が大きくなる。これにより、放熱フィンFによる冷却効果をさらに高めることができる。加えて、底面42Aの変形時に、放熱フィンFに生じる応力をリブRにも分散させることができるため、放熱フィンFが破損する可能性をさらに小さくすることもできる。
【0044】
以上、本開示の第三実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0045】
例えば、上記の第二実施形態と第三実施形態とを、底面42Aにおける領域ごとに組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
<付記>
各実施形態に記載のスクロール圧縮機100は、例えば以下のように把握される。
【0047】
(1)第1の態様に係るスクロール圧縮機100は、軸線O回りに回転可能なシャフト1と、前記シャフト1を回転駆動するモータ2と、前記シャフト1の回転によって駆動される圧縮機本体3と、前記モータ2、及び前記圧縮機本体3を覆うとともに、前記軸線O方向から前記モータ2に対向する底面42Aを有するハウジング4と、前記ハウジング4内に冷媒を導く吸入ポート9と、前記底面42Aに形成され、前記冷媒の流れ方向に延びるとともに、該流れ方向に複数に分割された放熱フィンFと、を備える。
【0048】
上記構成によれば、底面42A上に放熱フィンFが形成され、当該放熱フィンFは冷媒の流れ方向に複数に分割されている。これにより、放熱フィンFの表面に沿う流れの境界層成分が流れ方向に分断される。その結果、1つの放熱フィンFごとに、複数回の前縁効果を得ることができる。したがって、冷媒による底面42A(ハウジング4)の冷却効果を高めることができる。(なお、ここで言う前縁効果とは、熱媒体が最初に衝突する部位で最も熱効率が高くなるという現象を指す。)
さらに、放熱フィンFが分割されていない場合には、底面42Aの変形に伴って、当該放熱フィンFの中央部で底面42Aとの間に大きな応力が発生し、放熱フィンFが破損する虞がある。しかしながら、上記構成によれば、放熱フィンFが複数に分割されているため、底面42Aに変形が生じた場合であっても、分割された放熱フィンFごとに生じる応力を小さく抑えることができる。これにより、ハウジング4の強度を向上させることができる。
【0049】
(2)第2の態様に係るスクロール圧縮機100では、前記冷媒の流速が高い領域に位置する前記分割された放熱フィンFになるほど前記流れ方向における寸法が大きい。
【0050】
上記構成によれば、流速が高い領域になるほど、分割された放熱フィンF(フィン片f)の流れ方向における寸法が大きい。これにより、流速分布に合わせて適正な回数の前縁効果を生じさせることができる。その結果、冷媒による底面42A(ハウジング4)の冷却効果をさらに高めることができる。
【0051】
(3)第3の態様に係るスクロール圧縮機100では、前記放熱フィンFは、前記軸線Oを中心とする円弧状に延びるとともに、径方向に間隔をあけて複数設けられ、径方向外側に位置する前記分割された放熱フィンFになるほど前記流れ方向における寸法が大きい。
【0052】
上記構成によれば、冷媒の流れ方向が軸線Oに対する周方向である場合に、当該流れ方向に合わせてより効率的に前縁効果を生じさせることができる。
【0053】
(4)第4の態様に係るスクロール圧縮機100では、前記放熱フィンFは、前記軸線Oを中心として周方向の一方側から他方側に向かうに従って径方向内側に延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられ、径方向外側に位置する前記分割された放熱フィンFになるほど前記流れ方向における寸法が大きい。
【0054】
上記構成によれば、冷媒の流れ方向が、周方向一方側から他方側に向かうに従って径方向内側に向かう方向である場合に、当該流れ方向に合わせてより効率的に前縁効果を生じさせることができる。
【0055】
(5)第5の態様に係るスクロール圧縮機100は、前記底面42Aから突出するとともに、前記軸線Oを中心とする放射状に延びる複数のリブRをさらに備え、前記リブRの突出高さは前記放熱フィンFの突出高さよりも小さい。
【0056】
上記構成によれば、複数のリブRが設けられていることから、底面42A(ハウジング4)に吸入側の圧力による応力が生じた場合であっても、当該応力に十分に抗することができる。さらに、リブRの底面42Aからの突出高さは放熱フィンFの突出高さよりも小さい。これにより、放熱フィンFの先端における冷媒の流れがリブRによって阻害されてしまう可能性を低減することができる。
【0057】
(6)第6の態様に係るスクロール圧縮機100では、前記放熱フィンFは、周方向に隣接する一対の前記リブR同士の間に設けられている。
【0058】
上記構成によれば、放熱フィンFがリブR同士の間に設けられている。言い換えると放熱フィンFとリブRとが周方向に重複していない。これにより、リブRを通過する際に冷媒の流れに乱れが生じ、かつ加速した状態で放熱フィンFに冷媒が衝突する。その結果、放熱フィンFによる冷却効果をさらに高めることができる。さらに、リブRと放熱フィンFとが独立していることから厚肉部位が生じない。これにより、鋳造によるハウジング4の形成時に不良が発生する可能性を低減することもできる。
【0059】
(7)第7の態様に係るスクロール圧縮機100では、前記放熱フィンFは、前記リブRと周方向に重複するように設けられている。
【0060】
上記構成によれば、放熱フィンFとリブRとが周方向に重複していることから、放熱フィンFとしての見かけの体積が大きくなる。これにより、放熱フィンFによる冷却効果をさらに高めることができる。加えて、底面42Aの変形時に、放熱フィンFに生じる応力をリブRにも分散させることができるため、放熱フィンFが破損する可能性をさらに小さくすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
100 スクロール圧縮機
1 シャフト
2 モータ
3 圧縮機本体
4 ハウジング
4S 内周面
5 カバー
6 上部軸受
7 下部軸受
8 ドライブブッシュ
9 吸入ポート
10 シャフト本体
11 小径部
12 大径部
13 偏芯軸部
21 ロータ
22 ステータ
31 固定スクロール
31A 第一端板
31B 第一渦巻板
32 可動スクロール
32A 第二端板
32B 第二渦巻板
32C ボス部
41 ハウジング本体
42 底部
42A 底面
42B 裏面
43 蓋部
A 偏芯軸
f,f´,fb フィン片
F,F´,Fb 放熱フィン
F1 外周放熱フィン
F2 中間放熱フィン
F3 内周放熱フィン
H 開口部
O 軸線
P 吸入流路
R,R´ リブ