(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】回転繰り出し機構及び回転繰り出し機構を備えた塗布具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/06 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
B43K24/06
(21)【出願番号】P 2020183645
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 義春
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-016189(JP,U)
【文献】特開2010-046837(JP,A)
【文献】特開2015-100995(JP,A)
【文献】特開平07-237394(JP,A)
【文献】実開平03-036488(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/00-40/30
B43K 21/00-21/26
24/00-24/18
27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に係止部が設けられた軸筒と、前記軸筒に対して中心軸線回りに回転可能に設けられた回転部材と、前記回転部材と協働する摺動部材と、を具備し、
前記回転部材がカム面を有し且つ前記摺動部材がカム受け面を有し、前記回転部材の回転方向に応じて、前記カム面と前記カム受け面とが協働して前記摺動部材を前記軸筒内において前進又は後退させ、
前記回転部材を一方に回転させると、前記回転部材が前記係止部と係止するまで前記摺動部材が前進し、前記回転部材を他方に回転させると、前記回転部材が前記係止部と係止するまで前記摺動部材が後退することを特徴とする回転繰り出し機構。
【請求項2】
前記係止部が、前記回転部材の順方向の回転を係止する第1係止部と、前記回転部材の逆方向の回転を係止する第2係止部とを有している請求項1に記載の回転繰り出し機構。
【請求項3】
前記回転部材が、前記第1係止部と係止する第1被係止部と、前記第2係止部と係止する第2被係止部とを有している請求項2に記載の回転繰り出し機構。
【請求項4】
前記第1被係止部の前端面に前記カム面が形成されている請求項3に記載の回転繰り出し機構。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の回転繰り出し機構と、塗布体と、を具備し、
前記塗布体が前記摺動部材と共に前後に移動することを特徴とする塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転繰り出し機構及び回転繰り出し機構を備えた塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒の一部、すなわち前軸又は後軸を、中心軸線周りに回転させることによってリフィルが出没する回転繰り出し機構を備えた筆記具が公知である(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1に記載の回転繰り出し機構では、前軸又は後軸のいずれか一方に、軸線方向後方の始端部から軸線方向前方の終端部にかけて軸線に対して斜めに延びるカム面である傾斜路が、他方に傾斜路に摺合される突部が設けられている。始端部及び終端部は、軸線回りの周方向に沿って傾斜路の斜めに延びる部分から延在して設けられている。
【0004】
特許文献2に記載の回転繰り出し機構では、傾斜カム面を備えて後軸と共に回転する駆動カムと、リフィルに連結された摺動子との協働により、リフィルの先端を出没させる筆記具において、傾斜カム面の先端部には、摺動子が入り込んで摺動子を係止させる凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平6-57690号公報
【文献】特開2009-196260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転繰り出し機構では、前軸又は後軸を、中心軸線周りに回転させることによって、突部が傾斜路に沿って突部が前進又は後退し、突部の前進又は後退に応じてリフィルが前進又は後退する。筆記状態又は非筆記状態を維持するためには、突部が傾斜路の斜めに延びる部分に沿って移動するように前軸又は後軸を回転させた後さらに回転させ、突部が始端部又は終端部に配置されるようにする必要がある。特に、突部が前方の終端部に配置されていない状態で筆記圧を受けると、非筆記状態に戻ってしまう虞がある。すなわち、特許文献1に記載の回転繰り出し機構は、前軸又は後軸を余計に回転させる必要がある。また、一連の突部の移動において、突部がスムーズに傾斜路を移動できるようにしなければならないため、傾斜路の設計及び製造が困難である。
【0007】
特許文献2に記載の回転繰り出し機構では、駆動カムの回転によって摺動子が傾斜カム面に沿って前進するが、摺動子を凹部に係止させるためには摺動子を凹部の軸線方向の深さの分だけ余分に摺動子を前進させる必要がある。すなわち、特許文献2に記載の回転繰り出し機構は、筆記具において凹部の深さの分だけ余裕を持たせておく必要がある。その結果、筆記具の全長が長くなるか、リフィルの長さを短くする必要がある。
【0008】
要するに、特許文献1及び特許文献2に記載の回転繰り出し機構は、前軸又は後軸の回転運動をリフィルの直進運動へ変換する部分(特許文献1における傾斜路及び特許文献2における傾斜カム面)と、筆記状態を維持する部分(特許文献1における終端部及び特許文献2における凹部)とが、一連のカムの部分に設けられている。
【0009】
本発明は、無駄のない動作及び構造で確実に繰り出しが可能な回転繰り出し機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、内部に係止部が設けられた軸筒と、前記軸筒に対して中心軸線回りに回転可能に設けられた回転部材と、前記回転部材と協働する摺動部材と、を具備し、前記回転部材がカム面を有し且つ前記摺動部材がカム受け面を有し、前記回転部材の回転方向に応じて、前記カム面と前記カム受け面とが協働して前記摺動部材を前記軸筒内において前進又は後退させ、前記回転部材を一方に回転させると、前記回転部材が前記係止部と係止するまで前記摺動部材が前進し、前記回転部材を他方に回転させると、前記回転部材が前記係止部と係止するまで前記摺動部材が後退することを特徴とする回転繰り出し機構が提供される。
【0011】
前記係止部が、前記回転部材の順方向の回転を係止する第1係止部と、前記回転部材の逆方向の回転を係止する第2係止部とを有していてもよい。前記回転部材が、前記第1係止部と係止する第1被係止部と、前記第2係止部と係止する第2被係止部とを有していてもよい。前記第1被係止部の前端面に前記カム面が形成されていてもよい。なお、「順方向」とは、使用者が意図して回転させている方向をいい、「逆方向」とは、使用者が意図して回転させている方向と逆方向をいう。
【0012】
本発明の別態様によれば、上記回転繰り出し機構と、塗布体と、を具備し、前記塗布体が前記摺動部材と共に前後に移動することを特徴とする塗布具が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様によれば、無駄のない動作及び構造で確実に繰り出しが可能な回転繰り出し機構を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1シャープペンシルの正面図である。
【
図2】
図2は、第1シャープペンシルの縦断面図である。
【
図4】
図4は、回転駆動機構の回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、
図4に続く回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、第1シャープペンシルの後軸の縦断面図である。
【
図7】
図7は、切り替えスイッチ及び第1回転部材の分解斜視図である。
【
図8】
図8は、第1回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【
図9】
図9は、第2シャープペンシルの縦断面図である。
【
図10】
図10は、第2回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【
図12】
図12は、第3シャープペンシルの後軸の後端部の縦断面図である。
【
図13】
図13は、第3シャープペンシルのノック部材の斜視図である。
【
図14】
図14は、第3シャープペンシルのノック回転子の斜視図である。
【
図15】
図15は、第3回転ロック機構の動作を説明する模式図である。
【
図16】
図16は、第3回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【
図17】
図17は、第4回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【
図18】
図18は、第1ボールペンの非筆記状態における縦断面図である。
【
図19】
図19は、第1ボールペンの後軸の後端部の縦断面図である。
【
図20】
図20は、第1ボールペンの第3回転部材の斜視図である。
【
図21】
図21は、第1ボールペンの第1摺動部材の斜視図である。
【
図22】
図22は、第1ボールペンの非筆記状態における斜視図である。
【
図23】
図23は、第1ボールペンの筆記状態における斜視図である。
【
図24】
図24は、第1回転繰り出し機構の動作を説明する横断面図である。
【
図26】
図26は、第4シャープペンシルの後軸の後端部の縦断面図である。
【
図27】
図27は、第4シャープペンシルの第4回転部材の斜視図である。
【
図28】
図28は、第4シャープペンシルの第2摺動部材の斜視図である。
【
図29】
図29は、第2回転繰り出し機構の動作を説明する横断面図である。
【
図30】
図30は、第5回転ロック機構及び第2回転繰り出し機構の動作を説明する縦断面図である。
【
図31】
図31は、第6回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0016】
図1は、第1シャープペンシル1の正面図であり、
図2は、第1シャープペンシル1の縦断面図である。
【0017】
第1シャープペンシル1は、筒状に形成された軸筒11を有している。軸筒11は、前軸12と、前軸12の後端部に嵌合又は螺合する後軸40と、前軸12の前端部に嵌合又は螺合する口先部材14とを有している。第1シャープペンシル1は、口先部材14の先端に設けられた先端パイプ16から筆記芯が突出するように構成されている。本明細書では、第1シャープペンシル1の軸線方向において、筆記芯側を「前」側と規定し、筆記芯側とは反対側を「後」側と規定する。
【0018】
後軸40の前側の側面には、周方向に沿って延びる矩形の貫通孔43が設けられている。貫通孔43からは、切り替えスイッチ50のスイッチ部52が突出している。後軸40の後端部には、ノックカバー15が取り付けられ、消去部材としての消しゴム17を覆っている。軸筒11の前端部の内部には、スライダ18が、軸線方向にスライド可能、且つ、中心軸線回りに回転可能に配置されている。先端パイプ16は、スライダ18に取り付けられている。先端パイプ16の後方のスライダ18の内部には、中央に通孔が形成された保持チャック19が配置されている。保持チャック19の通孔は、筆記芯の外周面に摺接し、筆記芯を一時的に保持するように作用する。
【0019】
スライダ18の後端部には、筆記芯を把持するチャックユニット20及び円筒状に形成された中継部材21が接続されている。チャックユニット20によれば、筆記芯に筆記圧が加わった場合には、筆記芯を把持して筆記芯の後退は阻止され、筆記芯を前方に引き出す力が働いた場合には、筆記芯を抵抗なく前方に引き出すことができる。
【0020】
チャックユニット20及び中継部材21は、スライダ18と共に軸線方向に一体的に移動可能である。中継部材21の後端部は、回転駆動機構22に連結されている。チャックユニット20の後端部の外周面には、芯ケース23の前端部が嵌合している。芯ケース23は、円筒状に形成され、内部には筆記芯が収容される。
【0021】
軸筒11の後端部、具体的には後軸40の後端部の内部には、ノック部材24が軸筒11に対して前後動可能に設けられている。ノック部材24は、コイルスプリング25によって後方に付勢されている。ノック部材24の後端部の内部には、消しゴム17が着脱可能に装着されている。ノック部材24の後端部の外周面には、上述したノックカバー15が着脱可能に取り付けられ、消しゴム17を汚れ等から保護している。
【0022】
ノック部材24又はノックカバー15を前方へ押圧するノック操作をすることによって、芯ケース23が前進する。これにより、チャックユニット20を介して筆記芯も前進し、筆記芯を先端パイプ16から繰り出させるように作用する。ノック操作による押圧を解除すると、コイルスプリング25の付勢力によって、ノック部材24は、後退して元の位置に復帰する。このとき、筆記芯は、スライダ18内に配置された保持チャック19によって保持されるため、チャックユニット20の作用として、筆記芯はチャックユニット20から抵抗なく引き出される。その結果、筆記芯は、先端パイプ16から繰り出されることから、ノック操作を繰り返すごとに、筆記芯を所定量ずつ繰り出すことができる。
【0023】
図3は、回転駆動機構22の拡大断面図である。回転駆動機構22は、後軸40の内部空間に配置されている。回転駆動機構22は、中継部材21の後端部に接続されている。前軸12の後端面と回転駆動機構22の前端面との間に軸スプリング26が配置され、回転駆動機構22が後方に付勢されている。軸スプリング26の付勢力による回転駆動機構22の後退は、回転駆動機構22の後端面が、後述する後軸40の規制突起部41の前端面42に当接することによって規制される。芯ケース23は、中継部材21及び回転駆動機構22の内部を貫通し、回転駆動機構22とは離間している。
【0024】
回転駆動機構22は、円筒状に形成された回転子30と、円筒状に形成された第1カム形成部材である上カム形成部材31と、円筒状に形成された第2カム形成部材である下カム形成部材32と、円筒状に形成されたシリンダー部材33と、円筒状に形成されたトルクキャンセラー34と、コイル状のクッションスプリング35とを有している。回転駆動機構22は、これら部材が一体となって、ユニット化されている。
【0025】
なお、回転駆動機構22の前方には、後述するように、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54を有する第1回転ロック機構が配置されている。
【0026】
回転子30の前端部の内周面には、中継部材21の後端部の外周面が嵌合している。回転子30の前端部近傍は、僅かばかり径の大きいフランジ状に形成された部分を有し、当該部分の後端面には第1カム面30aが形成され、当該部分の前端面には第2カム面30bが形成されている。
【0027】
上カム形成部材31は、回転子30の第1カム面30aの後方において、回転子30を回動可能に包囲している。下カム形成部材32は、上カム形成部材31の前端部の外周面に嵌合している。回転子30の第1カム面30aに対向する上カム形成部材31の前端面には、第1固定カム面31aが形成されている。回転子30の第2カム面30bに対向する下カム形成部材32の前端部内面には、第2固定カム面32aが形成されている。
【0028】
上カム形成部材31の後端部の外周面には、円筒状に形成されたシリンダー部材33が嵌合している。シリンダー部材33の後端部には、芯ケース23が挿通できる挿通孔33aが形成されている。シリンダー部材33内には、円筒状に形成されて前後に移動可能なトルクキャンセラー34が配置されている。トルクキャンセラー34の前端部内面とシリンダー部材33の後端部内面との間には、クッションスプリング35が配置されている。クッションスプリング35は、トルクキャンセラー34を介して、回転子30を前方に付勢している。
【0029】
ここで、中継部材21は、筆記動作に基づく筆記芯の後退及び前進動作(クッション動作)を回転駆動機構22、すなわち回転子30に伝達すると共に、クッション動作によって生ずる回転駆動機構22における回転子30の回転運動を、筆記芯を把持した状態のチャックユニット20に伝達する。したがって、チャックユニット20に保持された筆記芯も回転する。
【0030】
第1シャープペンシル1で筆記しているとき以外、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっていないとき、回転子30は、トルクキャンセラー34を介したクッションスプリング35の付勢力によって前方に位置している。したがって、回転子30の第2カム面30bは、第2固定カム面32aに当接して噛み合い状態になされる。第1シャープペンシル1で筆記しているとき、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっているとき、チャックユニット20は、クッションスプリング35の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子30も後退する。したがって、回転子30の第1カム面30aは、第1固定カム面31aに当接して噛み合い状態になされる。
【0031】
図4は、回転駆動機構22の回転子30の回転駆動を説明する模式図であり、
図5は、
図4に続く回転子30の回転駆動を説明する模式図である。
図4及び
図5において、回転子30の上側の面である後端面には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1カム面30aが円環状に形成され、回転子30の下側の面である前端面には、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2カム面30bが円環状に形成されている。
【0032】
回転子30の第1カム面30aに対峙する上カム形成部材31の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1固定カム面31aが形成され、回転子30の第2カム面30bに対峙する下カム形成部材32の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2固定カム面32aが形成されている。回転子30に形成された第1カム面30a及び第2カム面30bの各カム面と、上カム形成部材31に形成された第1固定カム面31a及び下カム形成部材32に形成された第2固定カム面32aの各カム面とは、ピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。
【0033】
図4(A)は、筆記芯に筆記圧が加わっていないときの状態における回転子30、上カム形成部材31及び下カム形成部材32の関係を示している。この状態においては、回転子30に形成された第2カム面30bは、クッションスプリング35の付勢力によって、下カム形成部材32の第2固定カム面32aに対して当接している。このとき、回転子30の第1カム面30aと上カム形成部材31の第1固定カム面31aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0034】
図4(B)は、第1シャープペンシル1による筆記のために、筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この状態においては、回転子30は、チャックユニット20の後退に伴ってクッションスプリング35を収縮させて後退する。それによって、回転子30は、上カム形成部材31の第1固定カム面31a側に移動する。
【0035】
次いで、
図4(C)は、筆記芯にさらに筆記圧が加わり、回転子30が上カム形成部材31の第1固定カム面31aに当接して後退した状態を示している。この状態においては、回転子30の第1カム面30aは、上カム形成部材31の第1固定カム面31aに噛み合っている。それによって、回転子30は、第1カム面30aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
【0036】
なお、
図4及び
図5における回転子30の中央部に描いた○印は、回転子30の回転移動量を示している。そして
図4(C)に示された状態においては、回転子30の第2カム面30bと下カム形成部材32の第2固定カム面32aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0037】
次いで、
図5(D)は、第1シャープペンシル1による筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解除された初期の状態を示している。この場合においては、回転子30は、クッションスプリング35の付勢力によって前進する。これにより、回転子30は下カム形成部材32側に移動する。
【0038】
次いで、
図5(E)は、回転子30がクッションスプリング35の付勢力によって
下カム形成部材32の第2固定カム面32aに当接して前進した状態を示している。この場合においては、回転子30の第2カム面30bは、下カム形成部材32の第2固定カム面32aに噛み合っている。それによって、回転子30は、第2カム面30bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
【0039】
したがって、回転子30の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子30の軸線方向への往復運動、すなわち前後動に伴って、回転子30は、第1カム面30a及び第2カム面30bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、チャックユニット20を介して、これに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。したがって、筆記による回転子30の軸線方向への1回の前後動によって回転子30はカムの一歯に対応する回転運動を受け、これを繰り返すことによって、筆記芯は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏って摩耗するのを防止することができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。
【0040】
なお、クッションスプリング35の付勢力を受けて回転子30を前方に押し出すトルクキャンセラー34は、その前端面と回転子30の後端面との間で滑りを発生させて、回転子30の回転運動がクッションスプリング35に伝達するのを防止している。すなわち、トルクキャンセラー34によって、回転子30の回転運動がクッションスプリング35に伝達されるのを防止し、それによって、回転子30の回転動作を阻害するクッションスプリング35のねじれ戻り(トルク)が発生することを防止している。
【0041】
以上より、第1シャープペンシル1は、チャックユニット20と回転子30とを有し、チャックユニット20の前後動によって筆記芯の解除及び把持を行うことで、筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、チャックユニット20が、筆記芯を把持した状態で中心軸線回りに回転可能となるように軸筒11内に保持され、筆記芯が受ける筆記圧によるチャックユニット20の後退動作に伴い回転子30が後退して、回転子30を回転運動させる回転駆動機構22を具備し、回転子30の回転運動がチャックユニット20を介して筆記芯に伝達されるように構成されている。
【0042】
ここで、使用者が回転駆動機構のオン(稼働又は有効化)とオフ(停止又は無効化)とを自由に切り替えられるようにする、回転ロック機構の原理について説明する。
【0043】
回転子30は、トルクキャンセラー34を介したクッションスプリング35の付勢力によって前方に付勢されている。したがって、筆記芯に筆記圧が加わっていない状態では、
図4(A)に示されるように、回転子30の第2カム面30bが下カム形成部材32の第2固定カム面32aに噛み合っている。回転ロック機構は、筆記芯に筆記圧が加わっていない状態において、
図4(C)に示されるように、回転子30の第1カム面30aを上カム形成部材31の第1固定カム面31aに噛み合せるように構成されている。その結果、筆記芯に筆記圧が加わったとしても、回転子30が後退し、回転することはない。したがって、回転ロック機構によって、回転子30の回転がロックされる。
【0044】
以下、回転ロック機構の具体的構成について説明する。
【0045】
図6は、第1シャープペンシル1の後軸40の縦断面図である。
図6において、上方が第1シャープペンシル1における後側である。後軸40の前側の側面には、上述した貫通孔43が設けられている。後軸40の内周面には、中心軸線回りの周方向に沿って斜めに延び且つ前方に面した傾斜カム受け面44が設けられている。傾斜カム受け面44の後方には、軸線方向に沿って延びる複数の規制突起部41が、周方向に沿って等間隔に設けられている。規制突起部41の前端面42は、回転駆動機構22の後退を規制している。
【0046】
図7は、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54の分解斜視図である。切り替えスイッチ50は、C字状のスイッチ支持部51と、スイッチ部52とを有している。スイッチ部52は、湾曲したスイッチ支持部51の一端の外面において、外方へ突出するように設けられている。
【0047】
第1回転部材54は、C字形の横断面形状を有する円筒状のカム本体55と、カム本体55の前方の開口56を部分的に閉鎖する支持板57とを有している。カム本体55は、C字形の横断面形状を有しているため、カム本体55の側面には軸線方向に延びる間隙58が画成されている。カム本体55の後端面には、傾斜カム面59が設けられている。傾斜カム面59は、後軸40の傾斜カム受け面44に対応するように形成されている。
【0048】
軸筒11内において、切り替えスイッチ50は、第1回転部材54の前方の開口56内に挿入され、支持板57に当接するように配置される。このとき、切り替えスイッチ50のスイッチ部52は、第1回転部材54の間隙58内に挿入される。スイッチ部52の幅は、間隙58の幅と比べて僅かばかり小さく設けられている。スイッチ部52は、
図1に示されるように、後軸40の貫通孔43を介して外部へ突出している。
図1において、スイッチ部52は貫通孔43内の左に位置しているが、次に説明するように、スイッチ部52を貫通孔43内の右に位置するようにスライドさせることができる。
【0049】
図8は、第1回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
図8(A)に示された状態は、回転駆動機構22がオンの回転ロック解除状態であり、
図8(B)に示された状態は、回転駆動機構22がオフの回転ロック状態である。したがって、
図8(A)に示された回転駆動機構22は、
図4(A)に示された回転子30の状態に相当する。なお、
図8(A)に示された状態は、
図1に示されたスイッチ部52の状態に対応する。他方、
図8(B)に示された回転駆動機構22は、
図4(C)に示された回転子30の状態に相当することから、回転子30の第1カム面30aと上カム形成部材31の第1固定カム面31aとは、噛み合っている。
【0050】
図8(A)の縦断面図では、スイッチ部52は示されていない。
図8(A)の縦断面図において、下方に示された第1回転部材54の傾斜カム面59は後軸40の傾斜カム受け面44に当接しているが、上方に示された第1回転部材54の傾斜カム面59は後軸40の傾斜カム受け面44に当接していない。他方、
図8(B)の縦断面図において、第1回転部材54の傾斜カム面59はすべて、後軸40の傾斜カム受け面44に当接している。すなわち、
図8(A)に示された切り替えスイッチ50及び第1回転部材54は、
図8(B)に示された切り替えスイッチ50及び第1回転部材54よりも軸筒11において後方に配置されている。
【0051】
図8(A)に示された状態から、切り替えスイッチ50を操作することによって、具体的には、
図1においてスイッチ部52を周方向に沿って指でスライドさせて貫通孔43内の左から右に移動させることによって、切り替えスイッチ50と共に第1回転部材54を中心軸線回りに回転させる。ここで、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54は、軸スプリング26によって常に後方に付勢されている。したがって、第1回転部材54の傾斜カム面59が後軸40の傾斜カム受け面44に沿って当接しながらスライドし、スライドに応じて切り替えスイッチ50及び第1回転部材54は、距離Dだけ後退する。その結果、第1回転部材54、具体的には支持板57の後端面が回転子30の前端面を押圧し、回転子30を後退させる。回転子30が後退することによって、
図4(C)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転がロックされる。
【0052】
他方、
図8(B)に示された状態から、切り替えスイッチ50を操作することによって、具体的には、
図1においてスイッチ部52を周方向に沿って指でスライドさせて貫通孔43内の右から左に移動させることによって、切り替えスイッチ50と共に第1回転部材54を中心軸線回りに逆方向に回転させる。それによって、第1回転部材54の傾斜カム面59が後軸40の傾斜カム受け面44に沿って当接しながら逆方向にスライドする。スライドに応じて切り替えスイッチ50及び第1回転部材54は、軸スプリング26の付勢力に抗して距離Dだけ前進し、
図8(A)に示された状態となる。切り替えスイッチ50及び第1回転部材54の前進に伴い、回転子30は、クッションスプリング35の付勢力によって前進する。回転子30が前進することによって、
図4(A)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転のロックが解除される。なお、後軸40の貫通孔43は、切り替えスイッチ50のスイッチ部52の前進又は後退を阻害しないように、スイッチ部52の形状と比較して僅かばかり大きく形成されている。
【0053】
第1回転ロック機構において、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54は、切り替えスイッチ50の操作に応じて、回転運動を直進運動に変換し、第1回転部材54による回転子30の押圧又は押圧の解除ができる限りにおいて任意に構成し得る。例えば、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54を一体的に構成してもよい。また、後軸40の傾斜カム受け面44及び第1回転部材54の傾斜カム面59の形状も、互いに協働する限りにおいて任意に構成し得る。
【0054】
第1回転ロック機構では、切り替えスイッチ50を、第1回転部材54が回転するように周方向に沿ってスライドさせたが、切り替えスイッチを軸線方向に沿ってスライドさせることによって、より直接的に回転子30を前進又は後退させるようにしてもよい。この場合、切り替えスイッチを、軸筒11内において回転子30を押圧する前進位置と回転子30の押圧を解除する後退位置との間で択一的に切り替えできるようにしてもよい。
【0055】
なお、以下に説明する他の回転ロック機構は、切り替えスイッチ50及び第1回転部材54を有していない。そのため、軸スプリング26は、回転駆動機構22を直接的に後方に付勢している。
【0056】
図9は、第2シャープペンシル2の縦断面図であり、
図10は、第2回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。第2シャープペンシル2は、第1シャープペンシル1と比較して、第1回転ロック機構に代えて、第2回転ロック機構を有している。そのため、後軸13の内面には傾斜カム受け面44等は設けられていない。第2回転ロック機構は、第2回転部材60及び環状弾性部材65を有している。
【0057】
第2回転部材60は、口先部材14の外周面に嵌合している。第2回転部材60の内周面には、螺旋状のカム溝61が設けられている。他方、口先部材14の外周面には、対応する螺旋状のカム突起部14aが設けられている。要するに、第2回転部材60のカム溝61は雌ねじに相当し、口先部材14のカム突起部14aは雄ねじに相当する。したがって、口先部材14に対して第2回転部材60を中心軸線回りに回転させると、第2回転部材60は、回転方向に応じて前進又は後退する。スライダ18の外周面には環状凹部18aが設けられている。環状凹部18aには、環状弾性部材65が嵌合している。環状弾性部材65は、例えばOリングである。
【0058】
図10(A)に示された状態は、回転駆動機構22がオンの回転ロック解除状態であり、
図10(B)に示された状態は、回転駆動機構22がオフの回転ロック状態である。
図10(A)に示された状態では、第2回転部材60は、前方に位置しており、環状弾性部材65と干渉していない。
【0059】
この状態から第2回転部材60を回転させると、カム溝61及びカム突起部14aが協働し、第2回転部材60が後退する。第2回転部材60の後退に伴い、第2回転部材60の内面に形成された斜面62によって環状弾性部材65が押圧されて後退し、
図10(B)に示された状態となる。詳細には、第2回転部材60の後退によって、環状弾性部材65と共に、スライダ18、ひいてはチャックユニット20及び中継部材21が距離Dだけ後退する。中継部材21の後端部には回転子30が嵌合していることから、回転子30が後退することによって、
図4(C)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転がロックされる。
【0060】
他方、第2回転部材60を逆方向に回転させると、カム溝61及びカム突起部14aが協働し、第2回転部材60が前進する。第2回転部材60の前進に伴い、第2回転部材60の斜面62による環状弾性部材65の押圧が解除され、
図10(A)に示された状態となる。その結果、回転子30が前進することによって、
図4(A)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転のロックが解除される。
【0061】
第2回転ロック機構において、第2回転部材60及び環状弾性部材65は、回転運動を直進運動に変換し、中継部材21を介して回転子30の押圧又は押圧の解除ができる限りにおいて任意に構成し得る。例えば、環状弾性部材65及びスライダ18を一体的に構成してもよい。また、第2回転ロック機構では、第2回転部材60を回転させて操作したが、口先部材14に嵌合させた嵌合部材を軸線方向に沿ってスライドさせることによって、より直接的に環状弾性部材65、ひいては回転子30を前進又は後退させるようにしてもよい。この場合、嵌合部材を、口先部材14の外面において回転子30を押圧する前進位置と回転子30の押圧を解除する後退位置との間で択一的に切り替えできるようにしてもよい。
【0062】
図11は、第3シャープペンシル3の縦断面図である。第3シャープペンシル3は、第1シャープペンシル1と比較して、第1回転ロック機構に代えて、第3回転ロック機構を有している。第3回転ロック機構は、ノック部材80、ノック回転子90及び付勢スプリング99を有しており、ノック式の筆記具の出没機構又はノック機構を利用している。したがって、後述する出没機構以外の他の出没機構を適用し、第3回転ロック機構を構成してもよい。
【0063】
図12は、第3シャープペンシル3の後軸70の後端部の縦断面図である。
図12において、上方が第3シャープペンシル3における前側である。後軸70の内周面には、軸線方向に延在し且つ後端部において互いに連結する4つの第1突起部71及び4つの第2突起部72を有する。第1突起部71及び第2突起部72は、周方向に沿って等間隔で且つ交互に配置されている。
【0064】
第1突起部71の各々の上面、すなわち後軸70の中心軸線に対向する面には、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜し且つ前方に面したカム面73が設けられている。したがって、第1突起部71において、カム面73の後方はより肉厚、すなわちより高い突起である。他方、第1突起部71において、カム面73の前方はより肉薄、すなわちより低い突起であり、第2突起部72と同一の高さの突起である。第1突起部71及び第2突起部72の前端面74は、回転駆動機構22の後退を規制している。第1突起部71及び第2突起部72の各々は、前後方向に沿って延びる規制面である縦壁面75を有している。第1突起部71及び第2突起部72の各々を連結する部分の前端面には、当接面76が形成されている。カム面73及び縦壁面75は、外カム77を構成する。
【0065】
図13は、第3シャープペンシル3のノック部材80の斜視図である。
図13において、上方が第3シャープペンシル3における前側である。ノック部材80は、両端が開口した筒状の部材である。ノック部材80の前側の外周面には、2つの突起部81が対称位置に設けられている。また、2つの突起部81間には、ノック部材24の前端面から後方に向かって延びるスリット部82が設けられている。突起部81の各々は、ノック操作によって、第1突起部71間を前後に移動するように構成されている。すなわち、2つの突起部81の外面を含むような外接円の径は、後軸70の第1突起部71の上面に接する内接円の径よりも大きく、後軸70の第2突起部72の上面に接する内接円の径よりも小さく設定されている。ノック部材80の前端面にはカム面83が形成されている。カム面83は、対称的に形成された山部84及び谷部85を有する。8つの山部84及び谷部85は、斜面86によって接続されている。
【0066】
図14は、第3シャープペンシル3のノック回転子90の斜視図である。
図14において、上方が第3シャープペンシル3における前側である。ノック回転子90は、両端が開口した筒状の部材である。ノック回転子90は、大径部90aと、大径部90aの後方に形成され且つノック部材80内に挿入されて芯合わせに使用される小径部90bとを有している。大径部90aは小径部90bよりも大きな径を有する。大径部90aの外周面には、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に沿って延びる4つの縦溝91が形成されている。縦溝91の深さは、大径部90aと小径部90bとの半径の差よりは浅い。大径部90aには、4つの縦溝91によって画成された4つの突起部92aからなる内カム92が形成されている。大径部90aの後端面において、内カム92よりも径方向内側には、全周に亘って、ノック部材80のカム面83と相補的に形成されて協働するカム受け面93が形成されている。すなわち、大径部90aには、内カム92及びカム受け面93が一体的に設けられている。
【0067】
カム受け面93は、鋸刃状に形成されており、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜面94を有する。8つの斜面94において1つおきの斜面94aは、上述した縦溝91によって切り欠かれている。隣接する縦溝91との間の隣接する斜面94は、前後方向に沿って延びる縦壁面95によって接続されている。すなわち、カム受け面93は、4つの縦壁面95を有する。ノック部材80のカム面83とノック回転子90のカム受け面93とは相補的に形成されていることから、縦溝91の部分、及び、斜面94と縦壁面95とによって画成された鋭角の部分には、斜面94とは逆方向に傾斜した斜面94bが設けられている。斜面94bは、ノック部材80のカム面83と協働するのに十分な高さ、すなわち径方向の長さで設けられている。
【0068】
要するに、大径部90aの径方向内側には、ノック部材80のカム面83と協働するカム受け面93が設けられ、大径部90aの径方向外側には、後軸70の外カム77と協働する内カム92が設けられている。なお、ノック回転子90には、中心軸線に沿って貫通孔96が設けられており、貫通孔96には、芯ケース23が挿入される。
【0069】
内カム92は、ノック操作によってノック回転子90が中心軸線回りに回転すると、外カム77と係合し又は係合解除する。すなわち、内カム92の突起部92aは、ノック操作によってノック回転子90が中心軸線回りに回転すると、外カム77の第1突起部71と係合し又は外カム77の第1突起部71間に配置される。内カム92の突起部92aが外カム77の第1突起部71間に配置されるとき、外カム77の第1突起部71は内カム92の突起部92a間、すなわち縦溝91内に配置される。
【0070】
ノック部材80のカム面83及びノック回転子90のカム受け面93は、内カム92が外カム77と係合し又は係合解除するとき、ノック部材80のカム面83の山部84が、周方向において、内カム92のカム受け面93の斜面94上に位置するように構成されている。すなわち、カム面83の斜面86とカム受け面93の斜面94とは、位相がずれて配置される。このため、ノック操作によってカム面83の斜面86がカム受け面93の斜面94を押圧すると、この操作荷重及び付勢スプリング99による付勢力に起因し、ノック回転子90は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。一方、ノック部材80は、突起部81が外カム77の縦壁面
75に周方向に当接することによって中心軸線回りの回転が規制されている。こうした動作について、
図15を参照しながら説明する。
【0071】
図15は、第3回転ロック機構の動作、すなわち出没機構の動作を説明する模式図であり、第3シャープペンシル3の各カムの関係を示す模式図である。すなわち、
図15は、後軸70の外カム77とノック部材80とノック回転子90との位置関係を示す模式図である。より詳細には、外カム77を周方向に展開したものに対して、ノック部材80のカム面83及びノック回転子90のカム受け面93の位置を示したものである。図中、上方が第3シャープペンシル3の前側であり、下方が第3シャープペンシル3の後側である。また、
図16は、第3回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。
【0072】
第3回転ロック機構の動作は、ノック式の筆記具の出没機構と同様に、ノック部材80又はノックカバー15を前方へ押圧するノック操作をすることによって行われる。そして、ノック式の筆記具における筆記状態、すなわちノック回転子90が前方に位置する回転ロック状態である、
図16(B)に示された状態で、回転駆動機構がオフにされる。他方、ノック式の筆記具における非筆記状態、すなわちノック回転子90が後方に位置する状態である、
図16(A)に示された回転ロック解除状態で、回転駆動機構がオンにされる。ノック回転子90は、ノック部材80のカム面83とノック回転子90のカム受け面93とのカム機構によって回転力を与えられ、ノック操作毎に図
15において左から右へ移動する。
【0073】
図15(A)に示された状態は、
図16(A)と同一の状態である。
図15(A)に示された状態では、内カム92は外カム77と係合していない。すなわち、内カム92の突起部92aが外カム77の第1突起部71間に配置され、外カム77の第1突起部71は内カム92の突起部92a間、すなわち縦溝91内に配置されている。カム面83及びカム受け面93は、位相がずれて配置されている。
【0074】
この状態から、付勢スプリング99の付勢力に抗してノック部材80を押圧し、ノック部材80及びノック回転子90を前進させると、
図15(B)に示されるように、内カム92のカム受け面93の縦溝91の後端部が、前後方向において外カム77の第1突起部71の前端部を越える。このとき、ノック回転子90のカム受け面93の斜面94と外カム77のカム面73とが一致し、外カム77の第1突起部71の縦壁面
75による、ノック回転子90の中心軸線回りの回転の規制は、解除される。
【0075】
図15(B)に示された状態からノック部材80の押圧を解除すると、ノック部材80及びノック回転子90は、付勢スプリング99の付勢力によって後退する。このとき、ノック回転子90の中心軸線回りの回転は、外カム77の第1突起部71の縦壁面75によって規制されていない。そのため、付勢スプリング99の付勢力によって、ノック回転子90のカム受け面93の斜面94が外カム77のカム面73又はノック部材80のカム面83の斜面86を押圧すると、ノック回転子90は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。
【0076】
ノック回転子90の後退及び回転は、内カム92は外カム77と係合することによって規制される。すなわち、内カム92のカム受け面93の斜面94及び縦壁面95が、外カム77の第1突起部71のカム面73及び縦壁面
75と係合することによって、ノック回転子90の後退及び回転が規制され、
図15(C)に示された状態となる。
【0077】
図15(C)に示された状態は、
図16(B)と同一の状態である。この状態から、付勢スプリング99の付勢力に抗してノック部材80を押圧し、ノック部材80及びノック回転子90を前進させると、
図15(D)に示されるように、内カム92のカム受け面93の縦壁面95の後端部が、前後方向において外カム77の第1突起部71の前端部を越える。このとき、ノック回転子90のカム受け面93の斜面94と外カム77のカム面73とが一致し、外カム77の第1突起部71の縦壁面
75による、ノック回転子90の中心軸線回りの回転の規制は、解除される。
【0078】
図15(D)に示された状態からノック部材80の押圧を解除すると、ノック部材80及びノック回転子90は、付勢スプリング99の付勢力によって後退する。このとき、ノック回転子90の中心軸線回りの回転は、外カム77の第1突起部71の縦壁面
75によって規制されていない。そのため、付勢スプリング99の付勢力によって、ノック回転子90のカム受け面93の斜面94が外カム77のカム面73又はノック部材80のカム面83の斜面86を押圧すると、ノック回転子90は周方向の分力を受けて中心軸線回りに回転する。
【0079】
ノック回転子90は回転しながら後退するため、
図15(E)に示されるように、内カム92の突起部92aが外カム77の第1突起部71間に配置され、外カム77の第1突起部71は内カム92の突起部92a間、すなわち縦溝91内に配置される。その結果、外カム77と内カム92との係合は解除される。突起部81が外カム77の縦壁面
75に周方向に当接することによって、ノック部材80の中心軸線回りの回転は、常に規制されている。
図15(E)に示された状態から、ノック部材80及びノック回転子90はそのまま後退し、再び
図15(A)に示された状態となる。
【0080】
図16(B)に示された回転ロック状態では、ノック回転子90が前進していることによって、付勢スプリング99がより圧縮される。付勢スプリング99の一端はノック回転子90に当接し、付勢スプリング99の他端は回転駆動機構22の後端面に当接している。したがって、回転駆動機構22は、付勢スプリング99の圧縮によって増加した前方に向かう付勢力と、軸スプリング26の後方に向かう付勢力とのバランスによって、
図16(A)に示された状態と比較して距離Dだけ前進している。
【0081】
回転駆動機構22が前進すると、軸筒11内の各部材間に存在していた微小なクリアランス、例えば、口先部材14、チャックユニット20や中継部材21等の間に存在していたクリアランスがなくなる。その結果、回転子30が回転駆動機構22において相対的に後退した状態となり、
図4(C)に示された回転子30の状態となることから、回転子30の回転がロックされる。
【0082】
第3シャープペンシル3では、使用者は、回転駆動機構22をオン又はオフにする回転ロックノック操作と、筆記芯を繰り出す繰り出しノック操作との2つのノック操作を行うことができる。すなわち、回転駆動機構22をオン又はオフにしたい場合には、
図15を参照しながら説明したように、内カム92が、前後方向において外カム77を越えるまでノック部材80、ひいてはノック回転子90を前進させる。他方、筆記芯を繰り出すためのノック操作は、チャックユニット20が作動する程度にノック部材80、ひいてはチャックユニット20を前進させる。すなわち、回転ロックノック操作は、繰り出しノック操作よりも深くノックする必要がある。なお、回転ロックノック操作においても筆記芯の繰り出しは行われる。
【0083】
図17は、第4回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。第4回転ロック機構は、第3回転ロック機構の構成に加え、スペーサ100を有している。スペーサ100は、回転子30の前方に配置されている。具体的には、前軸12の後端部において中継部材21の外周面に嵌合するように配置されている。ノック操作によって、ノック回転子90、ひいては回転駆動機構22が前進するとき、回転子30の前端面がスペーサ100の後端面に当接し、回転子30の前進が規制される。その結果、
図4(C)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転がロックされる。
【0084】
第4回転ロック機構が、第3回転ロック機構に加えてスペーサ100を有していることによって、スペーサ100が直接的に回転子30を押圧することから、より確実に回転子30の回転をロックすることができる。
【0085】
ところで、軸筒の一部、すなわち前軸又は後軸を、中心軸線周りに回転させることによってリフィルが出没する回転繰り出し機構を備えた筆記具が一般に知られている。次に、新規な回転繰り出し機構を利用した回転ロック機構について説明する。その前にまずは、この新規な回転繰り出し機構を備えたボールペンを用いて、その構成を説明する。
【0086】
図18は、第1ボールペン5の非筆記状態における縦断面図である。第1ボールペン5は、筒状に形成された軸筒11を有している。軸筒11は、前軸12と、前軸12の後端部に嵌合又は螺合する後軸110と、後軸110の後端部に設けられた筒状に形成された第3回転部材120とを有している。また、第1ボールペン5は、軸筒11内に配置され且つ一端に筆記部6を備えた筆記体であるリフィル7と、コイルスプリング8と、スプリング支持部材9と、第1摺動部材130とを有している。
【0087】
第1ボールペン5の軸線方向において、筆記部6側を「前」側と規定し、筆記部6とは反対側を「後」側と規定する。第1ボールペン5では、第1回転繰り出し機構の操作によって、リフィル7が軸筒11内を前後に移動する。このとき、筆記部6が軸筒11から突出した状態を筆記状態(
図23)と称し、筆記部6が軸筒11内に没入した状態を非筆記状態(
図18及び
図22)と称する。
【0088】
図19は、第1ボールペン5の後軸110の後端部の縦断面図である。
図19において、上方が第1ボールペン5における後側である。後軸110の後部の内周面には、周方向に沿って環状突起部111が設けられている。後述する
図24に示されるように、環状突起部111は、全周に亘って設けられていない。例えば、後軸110の内周面において、周方向に沿った一部分、例えば全周のうちの1/4の部分には、環状突起部111に代えて、凹部112が画成される。凹部112には、環状突起部111の両方の端部から僅かに離間して、2つの小突起部113がそれぞれ設けられている。その結果、環状突起部111と小突起部113との間には、2つの係止凹部114が画成される。周方向における環状突起部111の中央には、キー突起部115が設けられ、対向する周方向における凹部112の中央には、同様のキー突起部115が設けられている。2つのキー突起部115は、軸線方向において、環状突起部111と隣接して設けられている。
【0089】
図20は、第1ボールペン5の第3回転部材120の斜視図である。
図20において、上方が第1ボールペン5における後側である。第3回転部材120は、後軸110に対して中心軸線回りに回転可能に取り付けられる。第3回転部材120は、回転させる際に使用者が把持する筒状の把持部121を有している。把持部121の外周面には、クリップ121aが設けられている。把持部121の前方には、より小径に形成され且つ後軸110内に挿入される挿入部122が設けられている。挿入部122には、前端面から後方に向かって略矩形で且つ対向する2つの切り欠き部123が設けられている。2つの切り欠き部123によって、前方に向かって延びる2つのカムアーム124が画成されている。2つのカムアーム124の前端面には、周方向に沿って同一方向に傾斜したカム面125が設けられている。一方の切り欠き部における挿入部122の前端面の中央部分には、前方に向かって延びる矩形突起部126が画成されている。矩形突起部126の外面には、係止突起部127が設けられている。2つのカムアーム124の各々の外面には、軸線方向において係止突起部127と同じ位置に、周方向に沿って摺動溝128が設けられている。
【0090】
図21は、第1ボールペン5の第1摺動部材130の斜視図である。
図21において、上方が第1ボールペン5における後側である。第1摺動部材130は、摺動本体部131を有している。摺動本体部131は、後端部が閉鎖された筒状の部材である。摺動本体部131の外周面には、2つのカム突起部132が設けられている。2つのカム突起部132は、軸線方向に沿って延びる2つのキー溝133によってそれぞれ離間している。2つのカム突起部132の後端面には、第3回転部材120のカム面125に対応して同様に傾斜したカム受け面134が設けられている。カム受け面134の各々において、最も前方に位置する部分を始端部134aとし、最も後方に位置する部分を終端部134bと定義する。
【0091】
軸筒11内において、第3回転部材120は、後軸110の後方から内部に挿入される。このとき、2つのカムアーム124が径方向内方に撓み、摺動溝128内に後軸110の環状突起部111が配置される。第3回転部材120を後軸110に対して中心軸線回りに回転させるとき、摺動溝128がレールの役割を果たし、摺動溝128内で環状突起部111を相対的に移動させることができる。また、後軸110の環状突起部111が第3回転部材120の摺動溝128内に配置されることによって、第3回転部材120が後軸110から外れ難くなる。第3回転部材120の係止突起部127は、凹部112内に配置される。
【0092】
第1摺動部材130は、後軸110の前方から内部に挿入され、摺動本体部131の後端部が第3回転部材120の前方から内部に挿入される。第1摺動部材130の挿入の際には、後軸110のキー突起部115が第1摺動部材130のキー溝133内に配置されるように、第3回転部材120のカムアーム124が第1摺動部材130のカム受け面134によって案内される。キー突起部115がキー溝133内に配置されることによって、第1摺動部材130は、中心軸線回りに回転することなく、軸筒11内を前後に移動させることができる。第1摺動部材130の摺動本体部131が第3回転部材120の内部に挿入されることによって、2つのカムアーム124は径方向内方に撓むことができなくなる。その結果、第3回転部材120が後軸110から脱落することを防止することができる。
【0093】
第1摺動部材130は、コイルスプリング8によって後方に付勢されている。コイルスプリング8の一端は、第1摺動部材130のカム突起部132の前端面に当接し、コイルスプリング8の他端は、スプリング支持部材9によって支持される。スプリング支持部材9は、前軸12の後端面によって、
前進が規制されている。リフィル7は、コイルスプリング8及びスプリング支持部材9を貫通している。リフィル7の後端部が摺動本体部131の前方の開口から内部に挿入されて嵌合することによって、リフィル7は第1摺動部材130に対して一体的に取り付けられている(
図18)。
【0094】
図22は、第1ボールペン5の非筆記状態における斜視図であり、
図23は、第1ボールペン5の筆記状態における斜視図である。
図22及び
図23において、後軸110は省略されている。
【0095】
図22に示された非筆記状態では、コイルスプリング8による第1摺動部材130の後退は、後述するように、第3回転部材120のカムアーム124が、後軸110のキー突起部115に対して周方向に当接して第3回転部材120の回転が規制された状態で、カムアーム124がカム突起部132と係止することによって規制される。このとき、第3回転部材120のカム面125は、第1摺動部材130のカム受け面134において始端部134aに配置されている。
【0096】
この状態から、把持部121を把持して第3回転部材120を回転させると、第3回転部材120のカム面125及び第1摺動部材130のカム受け面134が協働することによって、第3回転部材120に加わる回転方向の力が、第1摺動部材130を前進させる力に変換される。すなわち、カム面125及びカム受け面134において、互いに同一方向に傾斜した斜面から軸方向の分力を受け、コイルスプリング8の付勢力に抗して第1摺動部材130は前進する。第3回転部材120のカム面125が、第1摺動部材130のカム受け面134において終端部134bまで移動すると、第1摺動部材130の前進は停止し、第1ボールペン5は筆記状態となる(
図23)。
【0097】
他方、
図23に示された筆記状態では、第3回転部材120を逆方向に回転させることによって、コイルスプリング8の付勢力を受けて第1摺動部材130が後退する。第3回転部材120のカム面125が、第1摺動部材130のカム受け面134において始端部134aまで移動すると、第1摺動部材130の後退は停止し、第1ボールペン5は非筆記状態となる(
図22)。
【0098】
図24は、第1回転繰り出し機構の動作を説明する横断面図である。具体的には、
図24は、第1ボールペン5において、第3回転部材120の係止突起部127を含む横断面である。
図24(A)は、第3回転部材120が一方に回転された、
図22に相当する非筆記状態の第1ボールペン5を示している。他方、
図24(B)は、第3回転部材120が他方に回転された、
図23に相当する筆記状態の第1ボールペン5を示している。
【0099】
図24(A)に示されるように、カムアーム124の一方は、キー突起部115の一方に対して周方向において当接している。これに対し、
図24(B)に示されるように、カムアーム124の上記一方は、キー突起部115の他方に対して周方向において当接している。各々の場合、すなわちカムアーム124がキー突起部115に当接している場合、第3回転部材120の係止突起部127が、後軸110の係止凹部114内に嵌合している。要するに、係止突起部127は、第3回転部材120の回転に応じて小突起部113を乗り越え、カムアーム124がキー突起部115に当接すると同時に、係止凹部114内に嵌合する。その結果、第3回転部材120を一時的に固定することができ、意図せず筆記状態又は非筆記状態が解除されることが防止される。
【0100】
係止突起部127が、小突起部113を乗り越えるとき、矩形突起部126が径方向内方に撓むことから、係止突起部127は、係止凹部114内にスナップ式に嵌合する。したがって、使用者は、繰り出しの完了のフィードバックを、クリック音又はクリック感として得られる。小突起部113又は係止突起部127の高さ等を変更することによって、クリック音又はクリック感の程度を自由に設計することができる。
【0101】
要するに、上述した第1回転繰り出し機構は、内部に係止部が設けられた軸筒11と、後軸110に対して中心軸線回りに回転可能に設けられた第3回転部材120と、第3回転部材120と協働する第1摺動部材130と、を具備し、第3回転部材120及び第1摺動部材130の各々に、第3回転部材120及び第1摺動部材130の他方と協働するカム面が形成されており、第3回転部材120の回転方向に応じて、第1摺動部材130が軸筒11内を前後に移動し、第3回転部材120を一方に回転させると、第3回転部材120が係止部と係止するまで第1摺動部材130が前進し、第3回転部材120を他方に回転させると、第3回転部材120が係止部と係止するまで第1摺動部材130が後退する。
【0102】
ここで、係止部は、第3回転部材120の順方向の回転を係止する第1係止部と、第3回転部材120の逆方向の回転を係止する第2係止部とを有している。第1係止部は、具体的にはキー突起部115であり、第2係止部は、具体的には係止凹部114である。「順方向」とは、使用者が意図して回転させている方向をいい、「逆方向」とは、使用者が意図して回転させている方向と逆方向をいう。また、第3回転部材120が、第1係止部と係止する第1被係止部と、第2係止部と係止する第2被係止部とを有している。第1被係止部は、具体的にはカムアーム124であり、第2被係止部は、具体的には係止突起部127である。
【0103】
第3回転部材120のカム面125及び第1摺動部材130のカム受け面134は、第3回転部材120の回転運動を第1摺動部材130の直進運動に変換できる限りにおいて任意に構成し得る。したがって、第3回転部材120又は第1摺動部材130の少なくとも一方に、第3回転部材120又は第1摺動部材130の他方と協働するカム面が形成されるようにしてもよい。また、第3回転部材120のカムアーム124及び対応する第1摺動部材130のカム突起部132の各々は、少なくとも1つあればよく、3つ以上であってもよく、互いに異なる数であってもよい。
【0104】
上述した第1回転繰り出し機構によれば、上述したように、第3回転部材120を一方に回転させると、第3回転部材120が係止部と係止するまで第1摺動部材130が前進し、第3回転部材120を他方に回転させると、第3回転部材120が係止部と係止するまで第1摺動部材130が後退する。したがって、無駄のない動作及び構造で確実に繰り出しが可能となる。また、第3回転部材120の順方向の回転を係止する第1係止部と、第3回転部材120の逆方向の回転を係止する第2係止部とを有していることから、意図した回転を停止させると同時に逆回転も防止されることから、より確実な繰り出しが可能となる。
【0105】
また、回転運動を直進運動に変換する機構であるカム面、すなわち、第3回転部材120のカム面125及び第1摺動部材130のカム受け面134と、回転を係止する機構である係止部、すなわち、係止凹部114、キー突起部115、カムアーム124及び係止突起部127とが、離間して、具体的には軸線方向に離間して配置されている。そのため、運動の変換と回転の係止という別々の機構を独立して設計及び配置できることから、上述した第1回転繰り出し機構によれば、より自由な設計が可能となる。例えば、第3回転部材120のカム面125及び第1摺動部材130のカム受け面134の傾斜の角度を変更することによって、回転量に対する直進量を容易に調整することができる。また、上述した第1回転繰り出し機構によれば、従来の回転繰り出し機構よりも少ない部品点数で、回転繰り出し機構を実現することでき、部品の成形又は加工も容易に行うことができる。
【0106】
第3回転部材120の回転は、カムアーム124の側面が後軸110のキー突起部115の側面に当接することによって規制されることから、第3回転部材120を過剰な力で回転させようとしても、確実に回転を規制することができる。また、こうした回転を規制する機構が、回転運動を直進運動に変換する変換機構及び回転を係止する係止機構と離間していることから、過剰な力によって、変換機構及び係止機構を損傷させることがない。
【0107】
上述した第1回転繰り出し機構は、塗布具全般広く適用できる。すなわち、塗布具は、上述した第1回転繰り出し機構と、塗布体とを具備し、塗布体は摺動部材と共に前後に移動する。ここで「塗布具」とは、修正液、接着剤及び薬品等の塗布具、並びに、マスカラ、アイライナー、口紅及びマニキュア等の化粧料の塗布具のみならず、ボールペン、サインペン、マーカーペン、シャープペンシル、万年筆、熱変色性筆記具等の筆記具も広く含むものである。また、「塗布体」は、上述した塗布具に応じて、例えばボールペンのリフィル等の筆記体やアイライナーのインク収容容器等を広く含むものである。
【0108】
熱変色性筆記具における筆記体としてのリフィルは、熱変色性インクを収容してもよい。この場合、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆跡を熱変色可能である。ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた熱変色性筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
【0109】
次に、上述した回転繰り出し機構を利用した回転ロック機構について説明する。
図25は、第4シャープペンシル4の縦断面図である。第4シャープペンシル4は、第1シャープペンシル1と比較して、第1回転ロック機構に代えて、第5回転ロック機構を有しており、第1回転繰り出し機構に代えて、第2回転繰り出し機構を有している。第5回転ロック機構は、第4回転部材150、第2摺動部材160及び付勢スプリング169を有しており、上述した回転繰り出し機構を利用している。その他の回転繰り出し機構を適用し、第5回転ロック機構を構成してもよい。第4シャープペンシル4の第2回転繰り出し機構は、第1ボールペン5の第1回転繰り出し機構と比較して、摺動部材の長さにおいてのみ大きく異なる。
【0110】
図26は、第4シャープペンシル4の後軸140の後端部の縦断面図である。
図26において、上方が第4シャープペンシル4における後側である。後軸140の後部の内周面には、周方向に沿って環状突起部141が設けられている。後述する
図29に示されるように、環状突起部141は、全周に亘って設けられていない。例えば、後軸140の内周面において、周方向に沿った一部分、例えば全周のうちの1/4の部分には、環状突起部141に代えて、凹部142が画成される。凹部142には、環状突起部141の両方の端部から僅かに離間して、2つの小突起部143がそれぞれ設けられている。その結果、環状突起部141と小突起部143との間には、2つの係止凹部144が画成される。周方向における環状突起部141の中央には、キー突起部145が設けられ、対向する周方向における凹部142の中央には、同様のキー突起部145が設けられている。2つのキー突起部145は、軸線方向において、環状突起部141と隣接して設けられている。
【0111】
図27は、第4シャープペンシル4の第4回転部材150の斜視図である。
図27において、上方が第4シャープペンシル4における後側である。第4回転部材150は、後軸140に対して中心軸線回りに回転可能に取り付けられる。第4回転部材150は、回転させる際に使用者が把持する筒状の把持部151を有している。把持部151の外周面には、クリップ151aが設けられている。把持部151の前方には、より小径に形成され且つ後軸140内に挿入される挿入部152が設けられている。挿入部152には、前端面から後方に向かって略矩形で且つ対向する2つの切り欠き部153が設けられている。2つの切り欠き部153によって、前方に向かって延びる2つのカムアーム154が画成されている。2つのカムアーム154の前端面には、周方向に沿って同一方向に傾斜したカム面125が設けられている。一方の切り欠き部における挿入部152の前端面の中央部分には、前方に向かって延びる矩形突起部156が画成されている。矩形突起部156の外面には、係止突起部157が設けられている。2つのカムアーム154の各々の外面には、軸線方向において係止突起部157と同じ位置に、周方向に沿って摺動溝158が設けられている。
【0112】
図28は、第4シャープペンシル4の第2摺動部材160の斜視図である。
図28において、上方が第4シャープペンシル4における後側である。第2摺動部材160は、摺動本体部161を有している。摺動本体部161の外周面には、2つのカム突起部162が設けられている。2つのカム突起部162は、軸線方向に沿って延びる2つのキー溝163によってそれぞれ離間している。2つのカム突起部162の後端面には、第4回転部材150のカム面155に対応して同様に傾斜したカム受け面164が設けられている。カム受け面164の各々において、最も前方に位置する部分を始端部164aとし、最も後方に位置する部分を終端部164bと定義する。第2摺動部材160には、中心軸線に沿って貫通孔165が設けられており、貫通孔165には、芯ケース23が挿入される。
【0113】
軸筒11内において、第4回転部材150は、後軸140の後方から内部に挿入される。このとき、2つのカムアーム154が径方向内方に撓み、摺動溝158内に後軸140の環状突起部141が配置される。第4回転部材150を後軸140に対して中心軸線回りに回転させるとき、摺動溝158がレールの役割を果たし、摺動溝158内で環状突起部141を相対的に移動させることができる。また、後軸140の環状突起部141が第4回転部材150の摺動溝158内に配置されることによって、第4回転部材150が後軸140から外れ難くなる。第4回転部材150の係止突起部157は、凹部142内に配置される。
【0114】
第2摺動部材160は、後軸140の前方から内部に挿入され、摺動本体部161の後端部が第4回転部材150の前方から内部に挿入される。第2摺動部材160の挿入の際には、後軸140のキー突起部145が第2摺動部材160のキー溝163内に配置されるように、第4回転部材150のカムアーム154が第2摺動部材160のカム受け面164によって案内される。キー突起部145がキー溝163内に配置されることによって、第2摺動部材160は、中心軸線回りに回転することなく、軸筒11内を前後に移動させることができる。第2摺動部材160の摺動本体部131が第4回転部材150の内部に挿入されることによって、2つのカムアーム154は径方向内方に撓むことができなくなる。その結果、第4回転部材150が後軸140から脱落することを防止することができる。
【0115】
第2摺動部材160は、付勢スプリング169によって後方に付勢されている。付勢スプリング169の一端は、第2摺動部材160の内部に設けられた段差に当接し、付勢スプリング169の他端は、回転駆動機構22の後端面によって支持される。軸スプリング26の付勢力による回転駆動機構22の後退は、回転駆動機構22の後端面が、後軸140のキー突起部の前端面146に当接することによって規制される。
【0116】
図29は、第2回転繰り出し機構の動作を説明する横断面図であり、
図30は、第5回転ロック機構及び第2回転繰り出し機構の動作を説明する縦断面図である。
図29は、具体的には、第4シャープペンシル4において、第4回転部材150の係止突起部157を含む横断面である。
図29(A)及び
図30(A)に示された状態は、回転駆動機構22がオンの回転ロック解除状態であり、
図29(B)及び
図30(B)に示された状態は、回転駆動機構22がオフの回転ロック状態である。
【0117】
図29(A)及び
図30(A)に示された回転ロック解除状態では、付勢スプリング169による第2摺動部材160の後退は、後述するように、第4回転部材150のカムアーム154が、後軸140のキー突起部145に対して周方向に当接して第4回転部材150の回転が規制された状態で、カムアーム154がカム突起部162と係止することによって規制される。このとき、第4回転部材150のカム面155は、第2摺動部材160のカム受け面164において始端部164aに配置されている。
【0118】
この状態から、把持部151を把持して第4回転部材150を回転させると、第4回転部材150のカム面155及び第2摺動部材160のカム受け面164が協働することによって、第4回転部材150に加わる回転方向の力が、第2摺動部材160を前進させる力に変換される。すなわち、カム面155及びカム受け面164において、互いに同一方向に傾斜した斜面から軸方向の分力を受け、付勢スプリング169の付勢力に抗して第2摺動部材160は前進する。第4回転部材150のカム面155が、第2摺動部材160のカム受け面164において終端部164bまで移動すると、第2摺動部材160の前進は停止し、回転駆動機構22が回転ロック状態となる(
図29(B)及び
図30(B))。
【0119】
回転ロック状態では、第2摺動部材160が前進していることによって、付勢スプリング169がより圧縮される。付勢スプリング169の一端は第2摺動部材160に当接し、付勢スプリング169の他端は回転駆動機構22の後端面に当接している。したがって、回転駆動機構22は、付勢スプリング169の圧縮によって増加した前方に向かう付勢力と、軸スプリング26の後方に向かう付勢力とのバランスによって、
図30(A)に示された状態と比較して距離Dだけ前進している。
【0120】
回転駆動機構22が前進すると、軸筒11内の各部材間に存在していた微小なクリアランス、例えば、口先部材14、チャックユニット20や中継部材21等の間に存在していたクリアランスがなくなる。その結果、回転子30が回転駆動機構22において相対的に後退した状態となり、
図4(C)に示された回転子30の状態となることから、回転子30の回転がロックされる。
【0121】
他方、回転ロック状態では、第4回転部材150を逆方向に回転させることによって、付勢スプリング169の付勢力を受けて第2摺動部材160が後退する。第4回転部材150のカム面155が、第2摺動部材160のカム受け面164において始端部164aまで移動すると、第2摺動部材160の後退は停止し、回転駆動機構22が回転ロック解除状態となる(
図29(A)及び
図30(A))。
【0122】
第4回転部材150の回転は、カムアーム154の側面が後軸140のキー突起部145の側面に当接することによって規制される。すなわち、
図29(A)に示されるように、カムアーム154の一方は、キー突起部145の一方に対して周方向において当接している。これに対し、
図29(B)に示されるように、カムアーム154の上記一方は、キー突起部145の他方に対して周方向において当接している。各々の場合、すなわちカムアーム154がキー突起部145に当接している場合、第4回転部材150の係止突起部157が、後軸140の係止凹部144内に嵌合している。要するに、係止突起部157は、第4回転部材150の回転に応じて小突起部143を乗り越え、カムアーム154がキー突起部145に当接すると同時に、係止凹部144内に嵌合する。その結果、第4回転部材150を一時的に固定することができ、意図せず回転ロック状態又は回転ロック解除状態が解除されることが防止される。
【0123】
係止突起部157が、小突起部143を乗り越えるとき、矩形突起部156が径方向内方に撓むことから、係止突起部157は、係止凹部144内にスナップ式に嵌合する。したがって、使用者は、繰り出しの完了のフィードバックを、クリック音又はクリック感として得られる。小突起部143又は係止突起部157の高さ等を変更することによって、クリック音又はクリック感の程度を自由に設計することができる。
【0124】
なお、第4回転部材150の回転によって第2摺動部材160を前進又は後退させる第2回転繰り出し機構と、ノック部材24又はノックカバー15を前方へ押圧するノック操作によって筆記芯を繰り出す出没機構とは、独立して操作可能である。したがって、第4シャープペンシル4では、第5回転ロック機構によって回転駆動機構がオン又はオフにされてもノック操作を行うことができる。
【0125】
図31は、第6回転ロック機構の動作を説明する縦断面図である。第6回転ロック機構は、第5回転ロック機構の構成に加え、スペーサ100を有している。スペーサ100は、回転子30の前方に配置されている。具体的には、前軸12の後端部において中継部材21の外周面に嵌合するように配置されている。第2回転繰り出し機構の操作によって、第2摺動部材160、ひいては回転駆動機構22が前進するとき、回転子30の前端面がスペーサ100の後端面に当接し、回転子30の前進が規制される。その結果、
図4(C)に示された回転子30の状態となり、回転子30の回転がロックされる。
【0126】
第6回転ロック機構が、第5回転ロック機構に加えてスペーサ100を有していることによって、スペーサ100が直接的に回転子30を押圧することから、より確実に回転子30の回転をロックすることができる。
【0127】
なお、回転子を回転駆動機構において相対的に後退した状態でロックするように構成されている限りにおいて、回転ロック機構を任意に構成し得る。回転ロック機構は、回転子を後方に押圧するか又は回転駆動機構を前方に押圧して回転子を回転駆動機構において相対的に後退させるように構成されていてもよい。回転子又は回転駆動機構が、回転ロック機構によって直接的又は間接的に押圧されていてもよい。回転ロック機構がカムを備えた回転部材を有し、回転部材の回転運動がカムの作用によって直進運動に変換されて、回転子が押圧されるようにしてもよい。
【0128】
当然のことながら、回転ロック機構が回転子をロックした状態であっても、チャックユニット20を前後動させることによって筆記芯を繰り出すことができる。すなわち、回転ロック機構が回転子をロックした状態は、ノック操作によるチャックユニット20の前進又は後退に影響を与えることはない。したがって、回転ロック機構が回転子をロックした状態のシャープペンシルは、通常のシャープペンシルと同様に使用することができる。そのため、例えば速記する場合等において、回転駆動機構による筆記芯の前進及び後退が煩わしく感じる場合は、回転駆動機構をオフにすることができる。他方、筆記芯の偏摩耗による筆跡の太さの不均一を防止した丁寧な筆記を行う場合、回転駆動機構をオンにすることができる。要するに、使用者が回転駆動機構のオン(稼働又は有効化)とオフ(停止又は無効化)とを自由に切り替えることができる。
【0129】
第2回転ロック機構によれば、回転子がチャックユニットを介して後方に押圧されたが、芯ケースを前方から後方に押圧するか、又は、後方から牽引するようにして、芯ケースを後退させてもよい。芯ケースを後退させることによって、中継部材21が後退し、結果として回転子を後退させ、回転駆動機構22を回転ロック状態とすることができる
【0130】
回転ロック機構が、回転駆動機構を前方に押圧する出没機構又は回転繰り出し機構を有していてもよい。出没機構又は回転繰り出し機構が、スプリングと、スプリングを付勢する摺動部材とを有し、摺動部材を前進させて回転駆動機構を前方に押圧するようにしてもよい。出没機構が、軸筒の後端部に配置されたノック部材とノック回転子とをさらに有し、ノック部材のノック操作を行ってノック回転子を所定位置まで前進させると、ノック回転子が中心軸線回りに回転し、ノック回転子の後退が係止されると共に、回転駆動機構を前進させて回転子が回転駆動機構において相対的に後退した状態でロックされるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 第1シャープペンシル
5 第1ボールペン
8 コイルスプリング
11 軸筒
12 前軸
14 口先部材
15 ノックカバー
16 先端パイプ
17 消しゴム
18 スライダ
19 保持チャック
20 チャックユニット
21 中継部材
22 回転駆動機構
23 芯ケース
24 ノック部材
25 コイルスプリング
26 軸スプリング
30 回転子
31 上カム形成部材
32 下カム形成部材
33 シリンダー部材
34 トルクキャンセラー
35 クッションスプリング
40 後軸
41 規制突起部
42 前端面
43 貫通孔
44 傾斜カム受け面
50 切り替えスイッチ
51 スイッチ支持部
52 スイッチ部
54 第1回転部材
55 カム本体
56 開口
57 支持板
58 間隙
59 傾斜カム面
110 後軸
120 第3回転部材
121 把持部
122 挿入部
123 切り欠き部
124 カムアーム
125 カム面
130 第1摺動部材
131 摺動本体部
132 カム突起部
133 キー溝
134 カム受け面