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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20241220BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
E04B1/58 508S
E04B1/24 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020194399
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083127
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】下野 耕一
(72)【発明者】
【氏名】石原 清孝
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 徹
(72)【発明者】
【氏名】小野 喜信
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-001331(JP,A)
【文献】実開昭56-122570(JP,U)
【文献】特開2001-105171(JP,A)
【文献】特開2000-129778(JP,A)
【文献】特開2016-120510(JP,A)
【文献】特開2000-120167(JP,A)
【文献】特開平08-252693(JP,A)
【文献】特開平04-135065(JP,A)
【文献】特開平07-238685(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111021534(CN,A)
【文献】鈴木 励一,外2名,“スカラップ底補強による鉄骨用耐震性向上溶接施工法”,R&D神戸製鋼技報[online],Vol.65,No.1,2015年04月,pp.28-34,[2024年6月21日検索],<https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/65_1/028-034.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上ダイアフラムと下ダイアフラムとを有する鉄骨柱に、当該鉄骨柱との現場溶接を可能にするスカラップがウェブの下端に形成されたH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する柱梁接合構造であって、
前記H形梁の製作工程において、前記梁端部における前記ウェブの上端に形成された切欠溝に差し込まれて、前記梁端部における上フランジの下面側に溶接接合される柱梁溶接用の先付け裏当て金と、
前記鉄骨柱に前記梁端部を溶接接合する建方工程において、前記上フランジの下面側におけるフランジ幅方向の両端側に位置合わせして仮止め溶接される柱梁溶接用の一対の後付け裏当て金とを備え、
前記先付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記切欠溝の形成後に前記ウェブの両側部に残るフィレットの残存部を含む前記ウェブの上端部での厚さよりは長く、かつ、前記上フランジのフランジ幅よりは短い長さに設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記先付け裏当て金の前記フランジ幅方向の端部から前記上フランジの前記フランジ幅方向の端部にわたる長さに設定され
前記先付け裏当て金は、前記上ダイアフラムの厚みと前記上フランジの厚みとの差に応じた段差を有するとともに、前記上フランジからの張り出し長さが、前記上ダイアフラムと前記上フランジとのルートギャップよりも長く設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向視の断面形状が前記段差のない横長の矩形状で、その横方向の長さが、前記ルートギャップよりも長く設定されている柱梁接合構造。
【請求項2】
上ダイアフラムと下ダイアフラムとを有する鉄骨柱に、当該鉄骨柱との現場溶接を可能にするスカラップがウェブの下端に形成されたH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する柱梁接合構造であって、
前記H形梁の製作工程において、前記梁端部における前記ウェブの上端に形成された切欠溝に差し込まれて、前記梁端部における上フランジの下面側に溶接接合される柱梁溶接用の先付け裏当て金と、
前記鉄骨柱に前記梁端部を溶接接合する建方工程において、前記上フランジの下面側におけるフランジ幅方向の両端側に位置合わせして仮止め溶接される柱梁溶接用の一対の後付け裏当て金とを備え、
前記先付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記切欠溝の形成後に前記ウェブの両側部に残るフィレットの残存部を含む前記ウェブの上端部での厚さよりは長く、かつ、前記上フランジのフランジ幅よりは短い長さに設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記先付け裏当て金の前記フランジ幅方向の端部から前記上フランジの前記フランジ幅方向の端部にわたる長さに設定され、
前記先付け裏当て金は、前記切欠溝における前記上フランジの下面と前記ウェブの上端との間隔に対応する厚板部分と、建方工程における前記上ダイアフラムの下面と前記ウェブの上端との間隔に対応する薄板部分とに分割されている柱梁接合構造。
【請求項3】
前記鉄骨柱には、前記建方工程において、前記上ダイアフラムの下面に対する前記先付け裏当て金の上面の高さ位置を調整可能にする高さ調整機構が備えられている請求項1又は2に記載の柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下のダイアフラムを有する鉄骨柱に、当該鉄骨柱との現場溶接を可能にするスカラップが形成されたH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する柱梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨柱にH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する場合には、工場などで行われるH形梁の製作工程において、その建方現場での溶接接合を可能にするためのスカラップを、H形梁におけるウェブの上下両端部に形成することが一般的に行われている。このようにスカラップが形成されていると、大地震の発生時などにおいて、H形梁における各スカラップの形成箇所が損傷の起点となる可能性があり、この可能性を無くすためには、鉄骨柱にH形梁の梁端部を現場溶接した後に、上下のスカラップを閉塞する充填溶接を行うことが有効である。
【0003】
しかしながら、このような充填溶接を行う場合、上側のスカラップに対しては、難易度が高くて資格保有者の確保が極めて難しい上向き溶接を行う必要がある。又仮に、資格保有者を確保することができたとしても、最重要部位である充填溶接部位において溶接の欠陥が生じる可能性が高く、しかも、溶接の欠陥が生じた場合にはその補修も困難であるため改善の余地がある。
つまり、難易度の高い上向き溶接を必要とする上側のスカラップに対する充填溶接を不要にすることが望まれている。
【0004】
そこで、上記のような充填溶接を不要にする柱梁接合部における溶接方法として、例えば、H形梁(H形鋼)における上下のフランジ及びウェブを角コラムなどの柱材に接合して柱梁接合部を構成する場合に、H形梁におけるウェブの上下両端部に、裏当て金の断面寸法に相当する切欠溝を削成し、これらの切欠溝内にして各フランジの内側にフランジ幅に対応する一連の裏当て金を取りつけ、これらの裏当て金とウェブとを全周溶接して各切欠溝を閉塞する工程を含むようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-001331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の溶接方法では、鉄骨柱にH形梁を現場溶接する前に、H形梁のフランジ幅に対応する一連の裏当て金とH形梁のウェブとを全周溶接することから、建方工程において、先に建て込まれた鉄骨柱の傾きの施工誤差やダイアフラムの傘折れなどに起因して、鉄骨柱のダイアフラムとH形梁側の裏当て金との隙間が、H形梁のウェブから離れるほど大きくなって許容範囲を超えることがあり、許容範囲を超えた場合の補修にかなりの手間を要することになる。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、建方現場での難易度の高い上向き溶接を不要にしながら、鉄骨柱のダイアフラムとH形梁側の裏当て金との隙間が許容範囲を超える不都合の発生を防止する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、
上ダイアフラムと下ダイアフラムとを有する鉄骨柱に、当該鉄骨柱との現場溶接を可能にするスカラップがウェブの下端に形成されたH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する柱梁接合構造であって、
前記H形梁の製作工程において、前記梁端部における前記ウェブの上端に形成された切欠溝に差し込まれて、前記梁端部における上フランジの下面側に溶接接合される柱梁溶接用の先付け裏当て金と、
前記鉄骨柱に前記梁端部を溶接接合する建方工程において、前記上フランジの下面側におけるフランジ幅方向の両端側に位置合わせして仮止め溶接される柱梁溶接用の一対の後付け裏当て金とを備え、
前記先付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記切欠溝の形成後に前記ウェブの両側部に残るフィレットの残存部を含む前記ウェブの上端部での厚さよりは長く、かつ、前記上フランジのフランジ幅よりは短い長さに設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記先付け裏当て金の前記フランジ幅方向の端部から前記上フランジの前記フランジ幅方向の端部にわたる長さに設定され
前記先付け裏当て金は、前記上ダイアフラムの厚みと前記上フランジの厚みとの差に応じた段差を有するとともに、前記上フランジからの張り出し長さが、前記上ダイアフラムと前記上フランジとのルートギャップよりも長く設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向視の断面形状が前記段差のない横長の矩形状で、その横方向の長さが、前記ルートギャップよりも長く設定されている点にある。
【0009】
本構成によると、先付け裏当て金は、H形梁の製作工程において、梁端部の切欠溝に差し込まれて、梁端部における上フランジの下面側に溶接接合されることから、先付け裏当て金を梁端部に溶接接合する際には、H形梁の上下を反転させておくことができる。これにより、安定した品質が期待できる下向き溶接にて、先付け裏当て金を梁端部における上フランジの下面側に容易に溶接接合することができる。
従って、鉄骨柱にH形梁の梁端部を溶接接合する建方工程において、先付け裏当て金をH形梁の梁端部に溶接接合する場合に必要になっていた、難易度が高くて資格保有者が極めて少ない上向き溶接を不要にすることができる。
しかも、先付け裏当て金及び後付け裏当て金は、それらの裏当て金全体としてのフランジ幅方向の長さは、上フランジのフランジ幅に対応する長さが得られるようにしながらも、先付け裏当て金のフランジ幅方向の長さは上フランジのフランジ幅よりも短いことから、例えば、建方工程で先に建て込まれた鉄骨柱の傾きの施工誤差や上ダイアフラムの傘折れなどが生じていたとしても、鉄骨柱の上ダイアフラムとH形梁側の先付け裏当て金との隙間が許容範囲を超えるのを防止することができる。そして、上ダイアフラムと後付け裏当て金との隙間は、後付け裏当て金を上フランジの下面側に仮止め溶接する際に容易に許容範囲内に調整することができる。
又、先付け裏当て金におけるフランジ幅方向の長さが、フィレットの残存部を含むウェブの上端部での厚さよりは長いことにより、H形梁の上下を反転させた状態での下向き溶接による先付け裏当て金と梁端部のウェブ上端部との溶接接合が行い易くなる。
その結果、難易度の高い上向き溶接を不要にしながら、鉄骨柱の上ダイアフラムとH形梁側の各裏当て金との隙間が許容範囲を超える不都合の発生を防止することができる。
【0011】
更に、本構成によると、建方工程においては、鉄骨柱の上ダイアフラムに対して、先付け裏当て金を、上ダイアフラムの厚みと上フランジの厚みとの差を吸収しながら、上ダイアフラムの下面との間で上下に重なり合う重畳部が確保された状態にすることができる。又、各後付け裏当て金を、上フランジの下面との間に上下に重なり合う重畳部を確保しながら、後付け裏当て金の柱側端面を上ダイアフラムの梁側端面に突き当てた状態にすることができる。
これにより、上ダイアフラムと上フランジとのルートギャップが、上ダイアフラム及び上フランジの厚みや開先形状などによって異なるものであるにもかかわらず、先付け裏当て金及び後付け裏当て金として、それぞれのルートギャップ方向の長さが同じに設定された所定のものを使用しながら、ルートギャップのばらつきを容易に吸収することができる。
【0012】
本発明の第2特徴構成は、
上ダイアフラムと下ダイアフラムとを有する鉄骨柱に、当該鉄骨柱との現場溶接を可能にするスカラップがウェブの下端に形成されたH形梁の梁端部を建方現場にて溶接接合する柱梁接合構造であって、
前記H形梁の製作工程において、前記梁端部における前記ウェブの上端に形成された切欠溝に差し込まれて、前記梁端部における上フランジの下面側に溶接接合される柱梁溶接用の先付け裏当て金と、
前記鉄骨柱に前記梁端部を溶接接合する建方工程において、前記上フランジの下面側におけるフランジ幅方向の両端側に位置合わせして仮止め溶接される柱梁溶接用の一対の後付け裏当て金とを備え、
前記先付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記切欠溝の形成後に前記ウェブの両側部に残るフィレットの残存部を含む前記ウェブの上端部での厚さよりは長く、かつ、前記上フランジのフランジ幅よりは短い長さに設定され、
前記後付け裏当て金は、前記フランジ幅方向の長さが、前記先付け裏当て金の前記フランジ幅方向の端部から前記上フランジの前記フランジ幅方向の端部にわたる長さに設定され、
前記先付け裏当て金は、前記切欠溝における前記上フランジの下面と前記ウェブの上端との間隔に対応する厚板部分と、建方工程における前記上ダイアフラムの下面と前記ウェブの上端との間隔に対応する薄板部分とに分割されている点にある。
【0013】
本構成によると、先付け裏当て金は、H形梁の製作工程において、梁端部の切欠溝に差し込まれて、梁端部における上フランジの下面側に溶接接合されることから、先付け裏当て金を梁端部に溶接接合する際には、H形梁の上下を反転させておくことができる。これにより、安定した品質が期待できる下向き溶接にて、先付け裏当て金を梁端部における上フランジの下面側に容易に溶接接合することができる。
従って、鉄骨柱にH形梁の梁端部を溶接接合する建方工程において、先付け裏当て金をH形梁の梁端部に溶接接合する場合に必要になっていた、難易度が高くて資格保有者が極めて少ない上向き溶接を不要にすることができる。
しかも、先付け裏当て金及び後付け裏当て金は、それらの裏当て金全体としてのフランジ幅方向の長さは、上フランジのフランジ幅に対応する長さが得られるようにしながらも、先付け裏当て金のフランジ幅方向の長さは上フランジのフランジ幅よりも短いことから、例えば、建方工程で先に建て込まれた鉄骨柱の傾きの施工誤差や上ダイアフラムの傘折れなどが生じていたとしても、鉄骨柱の上ダイアフラムとH形梁側の先付け裏当て金との隙間が許容範囲を超えるのを防止することができる。そして、上ダイアフラムと後付け裏当て金との隙間は、後付け裏当て金を上フランジの下面側に仮止め溶接する際に容易に許容範囲内に調整することができる。
又、先付け裏当て金におけるフランジ幅方向の長さが、フィレットの残存部を含むウェブの上端部での厚さよりは長いことにより、H形梁の上下を反転させた状態での下向き溶接による先付け裏当て金と梁端部のウェブ上端部との溶接接合が行い易くなる。
その結果、難易度の高い上向き溶接を不要にしながら、鉄骨柱の上ダイアフラムとH形梁側の各裏当て金との隙間が許容範囲を超える不都合の発生を防止することができる。
更に、本構成によると、複数の柱梁接合箇所において上ダイアフラムの厚みと上フランジの厚みとの差が異なるものが含まれている場合には、それらの差に応じて厚板部分と薄板部分との組合せを変更することで容易に対応することができる。
【0014】
本発明の第3特徴構成は、
前記鉄骨柱には、前記建方工程において、前記上ダイアフラムの下面に対する前記先付け裏当て金の上面の高さ位置を調整可能にする高さ調整機構が備えられている点にある。
【0015】
本構成によると、高さ調整機構により上ダイアフラムに対する上フランジの高さ位置の調整を容易に精度良く行うことができ、これにより、上ダイアフラムと上フランジとの間において規定範囲から外れた目違いが生じる虞を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】柱梁接合構造の構成を示す要部の垂直断面図
図2】柱梁接合構造の構成を示す要部の拡大垂直断面図
図3】柱梁接合構造の構成を示す要部を見上げた水平断面図
図4】H形梁の梁端部での先付け裏当て金と後付け裏当て金との位置関係などを示す梁端部の正面図
図5】別実施形態での柱梁接合構造の構成を示す要部の垂直断面図
図6】別実施形態での柱梁接合構造の構成を示す要部の拡大垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態の一例を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、建方現場に建て込まれた角形鋼管を主材とする鉄骨柱1に、H形鋼を主材とするH形梁2の梁端部2Aを建方現場にて溶接接合した柱梁接合構造が例示されている。
【0019】
図1~2に示すように、鉄骨柱1は、H形梁2の梁端部2Aとの接合箇所に、上下のダイアフラム10,11が裏当て金12を使用して溶接接合されている。鉄骨柱1の外周面における上ダイアフラム10と下ダイアフラム11との間には、梁接合用のガセットプレート13が溶接接合されている。上下のダイアフラム10,11は通しダイアフラムであり、上下のダイアフラム10,11及びガセットプレート13は、工場などでの鉄骨柱1の製作工程において鉄骨柱1に溶接接合されている。
【0020】
図1に示すように、ガセットプレート13には、H形梁2の梁端部2Aとのボルト接合を可能にする複数のルーズ穴13Aが形成されている。各ルーズ穴13Aは、鉄骨柱1に対するH形梁2の高さ調整を可能にする縦長に形成されている。尚、各ルーズ穴13Aとしては、鉄骨柱1に対するH形梁2の高さ調整を可能にするものであれば、大径に形成された拡大孔であってもよい。
【0021】
図1図3に示すように、鉄骨柱1の外周面における下ダイアフラム11の下方の位置には、H形梁2の梁端部2Aを下方から支持する一対の支持プレート14が溶接接合されている。一対の支持プレート14は、工場などでの鉄骨柱1の製作工程において、支持するH形梁2のフランジ幅方向に所定間隔を置いた配置で鉄骨柱1の外周面に溶接接合されている。
【0022】
図1~2に示すように、H形梁2は、上下のフランジ20,21における各ダイアフラム10,11との接合端に、上下のダイアフラム10,11との突き合わせ溶接を可能にする上開きの開先部20A,21Aが形成されている。図1に示すように、ウェブ22の梁端側には、ガセットプレート13とのボルト連結を可能にする複数の丸穴22Aが形成されている。図1~4に示すように、ウェブ22における梁端側の上端には、裏当て金取り付け用の切欠溝22Bが形成されている。図1に示すように、ウェブ22における梁端側の下端には、下ダイアフラム11と下フランジ21との下フランジ21のフランジ幅にわたる一連の突き合わせ溶接を可能にするスカラップ22Cが形成されている。上下の開先部20A,21A、複数の丸穴22A、切欠溝22B、及び、スカラップ22Cは、工場などでのH形梁2の製作工程においてH形梁2に形成されている。
【0023】
図1~4に示すように、H形梁2における梁端部2Aの上部には、H形梁2の製作工程において、前述した切欠溝22Bに差し込まれて、梁端部2Aにおける上フランジ20の下面側に溶接接合される柱梁溶接用の先付け裏当て金23と、鉄骨柱1にH形梁2の梁端部2Aを溶接接合する建方工程において、上フランジ20の下面側におけるフランジ幅方向の両端側に位置合わせして仮止め溶接される柱梁溶接用の一対の後付け裏当て金24とが備えられている。図1に示すように、H形梁2における梁端部2Aの下端部には、建方工程において、下フランジ21の下面側にそのフランジ幅に一連にわたる状態に位置合わせした後に仮止め溶接される柱梁溶接用の裏当て金25が備えられている。
【0024】
図3~4に示すように、先付け裏当て金23は、そのフランジ幅方向の長さL1が、前述した切欠溝22Bの形成後にウェブ22の両側部に残るフィレット22Dの残存部22Daを含むウェブ22の上端部での厚さt1(図4参照)よりは長く、かつ、上フランジ20のフランジ幅W(図3参照)よりは短い長さに設定されている。各後付け裏当て金24は、そのフランジ幅方向の長さL2が、先付け裏当て金23のフランジ幅方向の両端部から上フランジ20のフランジ幅方向の端部にわたる長さに設定されている。尚、本実施形態では、各後付け裏当て金24のフランジ幅方向の長さL2である先付け裏当て金23のフランジ幅方向の両端部から上フランジ20のフランジ幅方向の端部にわたる長さとして、図4に示すように、上フランジ20のフランジ幅方向の端部を越える長さを例示したが、これに限らず、上フランジ20のフランジ幅方向の端部を越えない長さであってもよい。
【0025】
図2に示すように、先付け裏当て金23は、上ダイアフラム10の厚みt2と上フランジ20の厚みt3との差に応じた段差d1を有するとともに、前記上フランジからの張り出し長さL3が、上ダイアフラム10と上フランジ20とのルートギャップgよりも長く設定されている。後付け裏当て金24は、フランジ幅方向視の断面形状が段差のない横長の矩形状で、その横方向の長さL4が、前述したルートギャップgよりも長く設定されている。
【0026】
図1~4に示すように、先付け裏当て金23は、切欠溝22Bにおける上フランジ20の下面とウェブ22の上端との間隔d2(図2参照)に対応する厚板部分23Aと、建方工程における上ダイアフラム10の下面とウェブ22の上端との間隔d3(図2参照)に対応する薄板部分23Bとを有している。図1~2に示すように、先付け裏当て金23は、前述した段差d1が上フランジ20の開先部20Aを形成する開先面の延長線上に位置するとともに、段差d1の形成箇所が、上フランジ20の開先部20Aの開先角度と同じ角度で傾斜するように形成されている。
【0027】
図1に示すように、鉄骨柱1には、建方工程において、上ダイアフラム10の下面に対する先付け裏当て金23の上面の高さ位置を調整可能にする高さ調整機構3が備えられている。高さ調整機構3は、鉄骨柱1側の各支持プレート14とH形梁2の下フランジ21との間に打ち込まれる一対の割矢30により構成されている。各支持プレート14の上端には、H形梁2の下フランジ21との間への割矢30の打ち込みを可能にする凹部14Aが形成されている。
【0028】
以上の構成により、本実施形態で例示した柱梁接合構造を利用する施工方法では、先ず、工場などでH形梁2を製作するH形梁2の製作工程において、前述した上下の開先部20A,21A、切欠溝22B、及び、スカラップ22C、などが、H形梁2の梁端部2Aに形成される。又、先付け裏当て金23が、切欠溝22Bに差し込まれて梁端部2Aにおける上フランジ20の下面側に溶接接合される。
そして、建方現場での建方工程においては、建方現場に先に建て込まれた鉄骨柱1に対して、H形梁2がクレーンなどで吊り上げられて、H形梁2の梁端部2Aが、そのウェブ22が鉄骨柱1側のガセットプレート13に面接触されてフランジ幅方向での位置ずれが阻止された状態で、かつ、先付け裏当て金23の薄板部分23Bが上ダイアフラム10の下方に入り込んで、上下のダイアフラム10,11と上下のフランジ20,21との間にルートギャップg(図2参照)が確保された状態で、鉄骨柱1の各支持プレート14の上端に載置される。そして、この載置後に、梁端部2Aのウェブ22と鉄骨柱1側のガセットプレート13とが、建方用ボルトを使用して、鉄骨柱1に対するH形梁2の高さ調整が許容された状態で仮止めされる。
この仮止めが終了すると、上ダイアフラム10に対する上フランジ20の高さ位置が規定の範囲内に収まるように、鉄骨柱1側の各支持プレート14とH形梁2の下フランジ21との間に一対の割矢30を打ち込んで、鉄骨柱1に対するH形梁2の高さ位置を徐々に高くする高さ調整が行われる。
そして、この高さ調整にて上ダイアフラム10に対する上フランジ20の高さ位置が規定の範囲内に収まると、高力ボルト4(図1参照)を使用して、鉄骨柱1側のガセットプレート13と梁端部2Aのウェブ22とが本締め接合される。又、この本締め接合後に、各後付け裏当て金24が、それらの柱側端面24Bが上ダイアフラム10の梁側端面10Aに突き当てられた状態(図1~2参照)で上フランジ20の下面側に仮止め溶接され、裏当て金25が、その柱側端面25Aが下ダイアフラム11の梁側端面11Aに突き当てられた状態(図1参照)で下フランジ21の下面側に仮止め溶接される。そして、これらの仮止め溶接後に、鉄骨柱1とH形梁2の梁端部2Aとが溶接接合され、前述したスカラップ22Cに対する充填溶接が行われる。
つまり、本実施形態で例示した柱梁接合構造を利用して上記のような施工方法を行うことにより、上ダイアフラム10と上フランジ20との間において規定範囲から外れる目違いを生じさせることなく、鉄骨柱1に対するH形梁2の溶接接合を適正に行うことができる。
【0029】
これに加えて、本実施形態で例示した柱梁接合構造においては、先付け裏当て金23が、H形梁2の製作工程にて、梁端部2Aの切欠溝22Bに差し込まれて、梁端部2Aにおける上フランジ20の下面側に溶接接合されることから、先付け裏当て金23を梁端部2Aに溶接接合する際には、H形梁2の上下を反転させておくことができる。これにより、安定した品質が期待できる下向き溶接にて、先付け裏当て金23を梁端部2Aにおける上フランジ20の下面側に容易に溶接接合することができる。
【0030】
従って、鉄骨柱1にH形梁2の梁端部2Aを溶接接合する建方工程において、裏当て金を梁端部2Aにおける上フランジ20の下面側に溶接接合する場合に必要になっていた、難易度が高くて資格保有者が極めて少ない上向き溶接を不要にすることができる。
【0031】
しかも、先付け裏当て金23及び後付け裏当て金24は、それらの裏当て金全体としてのフランジ幅方向の長さは、上フランジ20のフランジ幅Wに対応する長さが得られるようにしながらも、先付け裏当て金23のフランジ幅方向の長さL1は上フランジ20のフランジ幅Wよりも短いことから、例えば、建方工程で先に建て込まれた鉄骨柱1の傾きの施工誤差や上ダイアフラム10の傘折れなどが生じていたとしても、鉄骨柱1の上ダイアフラム10とH形梁2側の先付け裏当て金23との隙間が許容範囲を超えるのを防止することができる。そして、上ダイアフラム10と後付け裏当て金24との隙間は、後付け裏当て金24を上フランジ20の下面側に仮止め溶接する際に容易に許容範囲内に調整することができる。
【0032】
又、先付け裏当て金23におけるフランジ幅方向の長さL1が、フィレット22Dの残存部22Daを含むウェブ22の上端部での厚さt1よりは長いことにより、H形梁2の上下を反転させた状態での下向き溶接による先付け裏当て金23と梁端部2Aのウェブ22の上端部との溶接接合が行い易くなる。
【0033】
その結果、難易度の高い上向き溶接を不要にしながら、鉄骨柱1の上ダイアフラム10とH形梁2側の各裏当て金23,24との隙間が許容範囲を超える不都合の発生を防止することができる。
【0034】
又、本実施形態で例示した柱梁接合構造によると、建方工程においては、鉄骨柱1の上ダイアフラム10に対して、先付け裏当て金23を、上ダイアフラム10の厚みt2と上フランジ20の厚みt3との差d1を吸収しながら、上ダイアフラム10の下面との間で上下に重なり合う重畳部23C(図1~2参照)が確保された状態にすることができる。又、各後付け裏当て金24を、上フランジ20の下面との間に上下に重なり合う重畳部24A(図1~2参照)を確保しながら、後付け裏当て金24の柱側端面24Bを上ダイアフラム10の梁側端面10Aに突き当てた状態にすることができる。
【0035】
これにより、上ダイアフラム10と上フランジ20とのルートギャップgが、上ダイアフラム10及び上フランジ20の厚みt2,t3や開先形状などによって異なるものであるにもかかわらず、先付け裏当て金23又は後付け裏当て金24として、ルートギャップ方向の長さが同じものを使用しながら、ルートギャップgのばらつきを容易に吸収することができる。
【0036】
そして、鉄骨柱1に前述した高さ調整機構3が備えられていることにより、鉄骨柱1側の各支持プレート14とH形梁2の下フランジ21との間に一対の割矢30を打ち込むことで、上ダイアフラム10に対する上フランジ20の高さ位置の調整を容易に精度良く行うことができ、これにより、上ダイアフラム10と上フランジ20との間において規定範囲から外れた目違いが生じる虞を回避することができる。
【0037】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0038】
(1)上記の実施形態においては、先付け裏当て金23として、厚板部分23Aと薄板部分23Bとが一体形成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、図5~6に示すように、厚板部分23Aと薄板部分23Bとに分割されたものであってもよい。
このように先付け裏当て金23が厚板部分23Aと薄板部分23Bとに分割されていると、複数の柱梁接合箇所において上ダイアフラム10の厚みt2と上フランジ20の厚みt3との差が異なるものが含まれている場合には、それらの差に応じた段差d1が得られるように厚板部分23Aと薄板部分23Bとの組合せを変更することで容易に対応することができる。厚板部分23Aと薄板部分23Bは、H形梁2の製作工程において、それらの組み合わせが決定されて溶接接合される。
尚、図5~6で例示する先付け裏当て金23においては、厚板部分23Aと薄板部分23Bとが上フランジ20の開先部20Aを形成する開先面の延長線上で分割されている。そして、厚板部分23Aは、そのフランジ幅方向視の形状が、その一辺が上フランジ20の開先部20Aの開先角度と同じ角度で傾斜する台形に形成されている。又、薄板部分23Bは、そのフランジ幅方向視の形状が、その一辺が上フランジ20の開先部20Aの開先角度と同じ角度で傾斜する逆台形に形成されている。
【0039】
(2)上記の別実施形態(1)においては、先付け裏当て金23として、フランジ幅方向視の形状が台形の厚板部分23Aと、フランジ幅方向視の形状が逆台形の薄板部分23Bとに分割されたものを例示したが、これに限らず、例えば、フランジ幅方向視の形状が矩形の厚板部分23Aと薄板部分23Bとに分割されたものであってもよい。
【0040】
(3)上記の実施形態においては、高さ調整機構3として、鉄骨柱1側の一対の支持プレート14とH形梁2の下フランジ21との間に打ち込まれる一対の割矢30により構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、図5に示すように、一対の支持プレート14に代えて、L形鋼などからなる一対の支持部材15が、天板部15Aと縦壁部15Bとを有する状態で鉄骨柱1に溶接接合され、これらの支持部材15の天板部15Aに形成されたネジ穴15Cに下方からねじ込み装着された一対のボルト31にて高さ調整機構3が構成されていてもよい。
この構成では、各支持部材15に対する各ボルト31のねじ込み操作を行うことにより、鉄骨柱1に対するH形梁2の高さ位置を更に容易に精度良く調整することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄骨柱
2 H形梁
2A 梁端部
3 高さ調整機構
10 上ダイアフラム
11 下ダイアフラム
20 上フランジ
22 ウェブ
22B 切欠溝
22C スカラップ
22D フィレット
22Da 残存部
23 先付け裏当て金
23A 厚板部分
23B 薄板部分
24 後付け裏当て金
L1 先付け裏当て金のフランジ幅方向の長さ
L2 後付け裏当て金のフランジ幅方向の長さ
L3 先付け裏当て金の上フランジからの張り出し長さ
L4 後付け裏当て金におけるフランジ幅方向視の断面での横方向の長さ
W 上フランジのフランジ幅
d1 段差
d2 切欠溝における上フランジの下面とウェブの上端との間隔
d3 建方工程における上ダイアフラムの下面とウェブの上端との間隔
g ルートギャップ
t1 ウェブの上端部での厚さ
t2 上ダイアフラム10の厚み
t3 上フランジ20の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6