(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】ウィンドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20241220BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241220BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20241220BHJP
G03B 21/62 20140101ALI20241220BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20241220BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B5/30
G02B5/02 D
G03B21/62
B60J1/00 J
B60J1/02 M
(21)【出願番号】P 2020205934
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 丈也
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/184714(WO,A1)
【文献】特開平06-040271(JP,A)
【文献】特開平04-050032(JP,A)
【文献】特開昭64-090827(JP,A)
【文献】米国特許第09946064(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02-1/06
B60K 35/23
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドアップディスプレイの表示領域を有するウィンドシールドガラスであって、
室内側の第1のガラス板と、室外側の第2のガラス板とからなる二枚のガラス板と、前記二枚のガラス板の間に配置された中間部材とを備え、
前記中間部材は、中間膜と、前記表示領域に設けられた位相差膜とを含み、該位相差膜は
一方向に配向した光配向性の液晶性材料からなる、ウィンドシールドガラス。
【請求項2】
請求項1に記載のウィンドシールドガラスであって、前記位相差膜を構成する前記光配向性の液晶性材料は、前記第1のガラス板の表面に対し、傾斜配向していることを特徴とする、ウィンドシールドガラス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウィンドシールドガラスであって、
前記位相差膜が、その外周領域において、外縁部にむけて徐々に薄くなることを特徴とする、ウィンドシールドガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のウィンドシールドガラスであって、
前記位相差膜は、前記中間膜と、前記第1のガラス板の間に塗膜として設けられていることを特徴とする、ウィンドシールドガラス。
【請求項5】
室内側の第1のガラス板と、室外側の第2のガラス板とからなる二枚のガラス板と、前記二枚のガラス板の間に配置された中間部材とを備えるウィンドシールドガラスと、
前記ウィンドシールドガラスに光を投射する投射装置と、を備えるヘッドアップディスプレイシステムであって、
前記中間部材は、中間膜と
、表示領域に設けられた位相差膜とを含み、該位相差膜は
一方向に配向した光配向性の液晶性材料からなることを特徴とする、ヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のヘッドアップディスプレイシステムであって、
前記中間部材の厚みが一定であり、
前記位相差膜を構成する前記光配向性の液晶性材料は、前記第1のガラス板の表面に対し、傾斜配向しており、
前記投射装置は、前記ウィンドシールドガラスに投射する光をP波として、前記ウィンドシールドガラスに対する入射角がブリュースター角となるように、ウィンドシールドガラスに光を投射する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイの表示領域を有するウィンドシールドガラス、およびヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
二枚の板ガラスと、その間に挟まれた中間膜を基本構造とする合わせガラスは、自動車、電車等の車両や航空機など、乗り物のウィンドシールドガラスとして広く用いられている。ウィンドシールドガラスのうち、操縦者の前方に配置されるガラス(例えば車両のフロントガラス)は、ヘッドアップディスプレイに利用され、表示領域に計器盤等の文字や画像が投射され表示される場合がある。その際、ウィンドシールドガラスの前方視認性を確保しつつ表示領域の視認性を向上するため、各種の研究が行われている。
【0003】
特許文献1(特開2010-79197号公報)は、誘電体マトリックスと、該誘電体マトリックス中で一定方向に配向している金属ナノロッドを有する異方性散乱膜をヘッドアップディスプレイ表示用フィルムとして用い、これを合わせガラス中に配置することにより、視認者側から出射される投影光を異方的に散乱反射して投影光の視認性を確保するとともに、景色等の透過光の視認性とも両立できることを記載している。
【0004】
特許文献2(実用新案登録第3210995号)は、フルタイムヘッドアップディスプレイシステムについて、フロントガラスを構成する二枚のガラスの間に、楔型プレートと、ハーフウェーブプレートを配置することを記載しており、ハーフウェーブプレートにより、S波(S偏振光)とP波が相互に変換されること、楔型プレートにより、二枚のガラスの反射像を重ねて重複画像を防止することを記載している。
【0005】
特許文献3(特開2016-153281号公報)は、投映像表示部を有し、二枚のガラス板と、楔型の断面形状を有する中間層とを含むウィンドシールドガラスを記載しており、このウィンドシールドガラスが、少なくとも投映像表示部において、コレステリック液晶層を含むハーフミラーフィルムを備えることにより、二重像を解消するとともに輝度を向上し得ることを記載しており、さらに1/2λ位相差層を設けてもよいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-79197号公報
【文献】実用新案登録第3210995号
【文献】特開2016-153281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
合わせガラスからなるウィンドシールドガラスに画像を投影した場合、内側ガラスからの反射光と、外側ガラスからの反射光の光路差により、二重像が観察される。そのため、従来では、内側ガラスと外側ガラスの間の中間層を、楔型の断面を有するものとすることにより、二重像の解消が図られている。また、ガラスではS波が主に反射されるため、ウィンドシールドガラスに投影された画像を裸眼で視認する場合、S波の輝度が大きくなるが、操縦者がS波を吸収する偏光サングラスを着用している場合には、画像を視認することが困難となる。
【0008】
特許文献1は、異方性散乱膜により、ヘッドアップディスプレイの表示領域の視認性を向上することを記載しているが、サングラスを着用した場合の視認性については検討していない。また具体例としては、パラジウムナノロッドや金コア銀シェルナノロッドの使用が検討されており、製造コストを抑制することは難しい。
【0009】
特許文献2は、S波(S偏振光)とP波(P偏振光)を含む光を投映し、ハーフウェーブプレートでS波をP波に、P波をS波に変換させている。この場合、投映されたP波は、内側(視認者側)のガラスを透過し、ハーフウェーブプレートを透過する際にS波に変換され、外側のガラスの外表面で反射して、再度ハーフウェーブプレートを透過する際にP波に変換されるので、操縦者がサングラスを着用している場合でも視認することができる。しかし投映されたS波は、依然、サングラスでは視認することができない。また、裸眼で視認する場合、投映されたS波のうち、内側ガラスを透過した部分は、ハーフウェーブプレートでP波に変換され、大部分外側ガラスを透過して外部に出射されるので、内側ガラスで反射されたS波しか視認することができない。また、ハーフウェーブプレートを設置した部分と、他の部分とでは光学特性が異なるため、境界が視認される。
【0010】
特許文献3は、二重像が低減された輝度の高い投映像表示が可能であり、偏光サングラスで観察しても鮮明な投映像を観測できるヘッドアップディスプレイシステムを提供し得ることを記載している。そのため、ウィンドシールドガラスでは、特定の波長域において、右円偏光または左円偏光のいずれか一方のセンスの円偏光を選択的に反射させるとともに他方のセンスの円偏光を透過する円偏光選択反射を示すコレステリック液晶層をハーフミラーフィルムに使用し、反射の中心波長の異なるコレステリック液晶層を複数配置し、投映光の入射側に最も近いコレステリック液晶層が最も長い選択反射の中心波長を有するように配置することを記載している。しかし、このような構成では、中間層の構成が複雑となり、ウィンドシールドガラスの製造には煩雑な工程が必要となる。
【0011】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ用の投射光表示領域を備え、簡便な方法で製造され、偏光サングラスにも対応でき、二重像の解消も容易なウィンドシールドガラス、および該ウィンドシールドガラスを備えたヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のウィンドシールドガラスは、
ヘッドアップディスプレイの表示領域を有するウィンドシールドガラスであって、
室内側の第1のガラス板と、室外側の第2のガラス板とからなる二枚のガラス板と、前記二枚のガラス板の間に配置された中間部材とを備え、
前記中間部材は、中間膜と、前記表示領域に設けられた位相差膜とを含み、該位相差膜は光配向性の液晶性材料からなる、ウィンドシールドガラスである。
【0013】
上記構成のウィンドシールドガラスによれば、室外側の第2のガラスで反射する光に位相差を付与することにより、視認者が偏光サングラスを使用している場合にも、表示画像を視認することができる。
【0014】
上記ウィンドシールドガラスにおいて、前記位相差膜を構成する前記光配向性の液晶性材料は、前記第1のガラス板の表面に対し、傾斜配向しているものであってもよい。このようなウィンドシールドガラスでは、光配向性の液晶性材料を傾斜配向させることにより、ウィンドシールドガラスに入射して位相差膜を透過する光と、ウィンドシールドガラスの外表面で反射されて位相差膜を透過する光に異なる位相差を付与し、視認者側へ出射する光の光量を高めたり、色調の変化を抑制したりすることができる。
【0015】
上記ウィンドシールドガラスにおいて、前記位相差膜は、その外周領域において、外縁部にむけて連続的に薄くなるものであってもよい。
【0016】
上記構成のウィンドシールドガラスでは、位相差膜の設けられた表示領域と、他の領域の境界が目立つことを防ぎ、意匠性を向上することができる。
【0017】
上記ウィンドシールドガラスにおいて、前記位相差膜は、前記中間膜と、前記第1のガラス板の間に塗膜として設けられているものであってもよい。位相差膜を光配向性の液晶性材料の塗膜として形成することにより、位相差膜の厚み分布を任意に調整することが可能となる。
【0018】
本発明のヘッドアップディスプレイシステムは、
室内側の第1のガラス板と、室外側の第2のガラス板とからなる二枚のガラス板と、前記二枚のガラス板の間に配置された中間部材とを備えるウィンドシールドガラスと、
前記ウィンドシールドガラスに光を投射する投射装置と、を備えるヘッドアップディスプレイシステムであって、
前記中間部材は、中間膜と、前記表示領域に設けられた位相差膜とを含み、該位相差膜は光配向性の液晶性材料からなることを特徴とする、ヘッドアップディスプレイシステムである。
【0019】
上記のヘッドアップディスプレイシステムでは、ウィンドシールドガラスで反射する光に位相差を付与することにより、視認者が偏光サングラスを使用している場合にも、表示画像を視認することができる。
【0020】
上記ヘッドアップディスプレイシステムにおいて、
少なくとも前記表示領域において、前記二枚のガラス板間の間隙が一定の厚みを有し、
前記位相差膜を構成する前記光配向性の液晶性材料は、前記第1のガラス板の表面に対し、傾斜配向しており、
前記投射装置は、前記ウィンドシールドガラスに投射する光をP波として、前記ウィンドシールドガラスに対する入射角がブリュースター角となるように、ウィンドシールドガラスに光を投射する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイシステムであってもよい。
【0021】
上記構成のヘッドアップディスプレイシステムでは、ウィンドシールドガラスの位相差膜を、傾斜配向した光配向性の液晶性材料を含むものとすることにより、二枚のガラス板の間隔を一定、すなわち中間部材の厚みを一定としても二重像の形成を防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のウィンドシールドガラスおよびこれを備えるヘッドアップディスプレイシステムによれば、光配向性の液晶性材料からなる位相差膜をウィンドシールドガラスが備えることにより、外側のガラスからの反射光に位相差を付与し、良好な視認性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウィンドシールドガラスとヘッドアップディスプレイシステムの基本的構成を説明するための、模式的な断面図である。
【
図2A】位相差膜を構成する光配向性の液晶性材料の配向状態を模式的に説明するための斜視図である。
【
図2B】位相差膜を構成する光配向性の液晶性材料の別の配向状態を模式的に説明するための斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるウィンドシールドガラスに投射された光を視認者が視認する状態を説明するための模式的な断面図であり、S波を投射した場合を示している。
【
図4】本発明の一実施形態にかかるウィンドシールドガラスに投射された光を視認者が視認する状態を説明するための模式的な断面図であり、光配向性の液晶性材料が傾斜配向した位相差膜を使用し、S波を投射した場合を示している。
【
図5】本発明の一実施形態にかかるウィンドシールドガラスに投射された光を視認者が視認する状態を説明するための模式的な断面図であり、P波を投射した場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明のウィンドシールドガラス10とヘッドアップディスプレイシステム100の基本的構成を説明するための、模式的な断面図である。なお、以下の図の各部のサイズ比は、実際の比を示すものではない。また、例えば車両のフロントガラスなどに用いる場合は、ウィンドシールドガラス10は、表面が曲面上の表面を持つ場合が多いが、ここでは説明を簡略化するため、表示領域A近傍の一部拡大断面とし、ウィンドシールドガラス10の輪郭は直線状として図示している。
【0025】
本発明のウィンドシールドガラス10は、室内側(視認者VE側)に配置される第1のガラス板1と、室外側に配置される第2のガラス板2と、第1のガラス板1、第2のガラス板2の間に挟まれる中間部材3とを備えている。
【0026】
ヘッドアップディスプレイシステム100の表示する文字や画像は、投映装置20からウィンドシールドガラス10の表示領域Aに投映され、通常、第1のガラス板1の内側面1aからの反射光と、第2のガラス板2の外側面2bからの反射光が形成する虚像が、視認者VEにより観察される。ここで「内側面」とは、視認者VE側表面、「外側面」とは室外側の表面を示すものとする。第1のガラス板1の内側面1aと、第2のガラスの板2外側面2bは、それぞれウィンドシールドガラス10の視認者VE側表面、および室外側表面を示す。
【0027】
本発明では、合わせガラス構造の中間部材3が、中間膜4と、位相差膜5とからなり、位相差膜5は、表示領域Aに設けられている。換言すれば、位相差膜5が設けられた領域Aに、ヘッドアップディスプレイシステム100の画像が表示される。位相差膜5は、光配向性を有する液晶性材料の塗膜として、形成されている。好ましくは、位相差膜5の膜厚tは、外周部において連続的に薄くなっている。
【0028】
位相差膜5は、投射装置20から投射された光により、画像・文字等が表示される表示領域Aに設けられている。位相差膜5は、表示領域Aのみに設けられていてもよい。なお、ここでは、投射装置20から光が投射される第1のガラス1の内側表面1a上の領域から入射光を反射する、第2のガラス2の外側表面2b上の領域まで、ウィンドシールドガラス10の全厚を含む部分を表示領域Aと記述している。
【0029】
ウィンドシールドガラス10は、上記の第1のガラス1、第2のガラスと、中間膜4と位相差膜5からなる中間部材3のみからなるものであってもよい。あるいは、上記の基本構造に備え、他の構成を備えていてもよく、例えば、中間部材3の部分に、ヒータ用の配線(図示せず)が配設されていてもよい。
【0030】
位相差膜5を構成する光配向性の液晶性材料は、ネマチック性の液晶相を構成する材料であってもよい。
図2A,および
図2Bは、位相差膜5における液晶性材料の配向性を説明するための模式的な斜視図である。ここでは、配向性説明のため液晶性材料LCを紡錘形で示しているが、これらは実際の形状や分布密度を示すものではない。例えば、後述の化学式で示す光配向性の液晶性材料の場合、図に示される液晶性材料LCの配向性は、液晶性高分子のメソゲンの配向性を反映するものである。
【0031】
図2Aに示すように、液晶性材料LCは、位相差膜5の底面5a(
図1の構成では、位相差膜5と第1のガラス板1の界面となる)に対し、略平行に配向していてもよい。あるいは、
図2Bに示すように、液晶性材料LCは、位相差膜5の底面5aに対し、傾斜配向するものとしてもよい。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係るウィンドシールドガラスの構成を説明するための模式的な断面図である。本実施形態では、ウィンドシールドガラス100の断面において、第1のガラス板1の外側面1bと、第2のガラス板2の内側面2aとの間隔dは、一方向に向かって連続的に小さくなっており、二枚のガラス板1、2に挟まれた中間部材3は、楔型の断面を有する。位相差膜5は、光配向性を有する液晶性材料の塗膜として、第1のガラス板1の外面1b上に形成されており、外周部において、位相差膜5の膜厚tが連続的に薄くなっている。
【0033】
位相差膜5は、ヘッドアップディスプレイシステム100の画像が表示される領域(
図1の画像表示領域A)に設けられている。
【0034】
一例として、ヘッドアップディスプレイシステム100の投射装置20(
図1)から、投射光LPとしてS波がウィンドシールドガラス10に投射されると、第1のガラス板1の内側面1aで反射された反射光LR1は、S波であるが、ウィンドシールドガラス10に入射した入射光LIは位相差膜5により楕円偏光に変換される。そのP波成分は、第2のガラス板2の外側面2bを透過して出光するので、第2のガラス板2の外側面2bで反射される反射光LR2は主にS波成分となる。この反射光LR2は、位相差膜5で楕円偏光に変換されて視認者VE側に出射する。そのため、視認者VEは、S波を吸収する偏光サングラスを着用している場合でも、サングラスを透過した反射光LR2のP波成分により、投射された画像を視認することができる。なお、
図3及び、以下の
図4、5において、光路を示す線上に黒丸を付したものはS波、矢印を付したものはP波、回転矢印を付したものは楕円偏光を示すものとする。
【0035】
上記の実施形態において、位相差膜5は、膜厚tが外縁部で連続的に薄くなっているので、視認者VEがウィンドシールドガラスを通して外部を見る際に、表示領域と他の部分の境界が明確に見えることはなく、良好な視認性、意匠性を得ることができる。位相差膜を構成する液晶性材料LCは、第1のガラスの内面に対し、
図2Aに示す例のように、ほぼ平行に配向したものであってもよい。あるいは、
図2Bに示す例のように傾斜配向したものであってもよい。例えば、傾斜配向の角度を調整することにより、ウィンドシールドガラスに対する入射光はほとんど変換されず、第2のガラス板2の外側面2bで反射されて室内側へ出射する光のみ、楕円偏光に変換してもよい。
【0036】
例えば、
図4は、
図3に示す実施形態の変形例である。この例では、液晶性材料LCが矢印Dで示す方向に傾斜配向しており、ウィンドシールドガラス10に入射した入射光LIには、ほとんど位相差が付与されず、S波のままで第2のガラス板2の外側面2bで反射される。反射光LR2は、位相差膜5で楕円偏光に変換されて視認者VE側に出射する。そのため、反射光LR2の光量が大きくなり、裸眼および偏光サングラス30を着用している場合の視認性を向上することができる。
【0037】
図5は、本発明にかかるウィンドシールドガラス10および、ヘッドアップディスプレイシステム100の別の実施形態を示す図である。本実施形態では、第1のガラス板1の外側面1bと、第2のガラス板2の内面2aとの間隔dは、一定であり、中間部材3の厚みが一定となっている。ここでは、表示を簡略化するため、ウィンドシールドガラス10の表示領域のみを示しているが、この実施形態でも、外縁部では、位相差膜5の膜厚tが薄くなってもよい。
【0038】
このウィンドシールドガラスに投射装置20から、投射される光LPをP波とすると、第1のガラス板1に対する入射角φをブリュースター角とすれば、投射光LPは反射せずにウィンドシールドガラスに入射し、入射光LIは位相差膜5で楕円偏光に変換される。この楕円偏光のS波成分が、反射して位相差膜で楕円偏光に変換され、視認者VEに視認される。
【0039】
上記の例では、第1のガラス板1では、投射光LPが反射されず、第2のガラス板2からの反射光LR2のみが視認されるので、第1のガラス板1と第2のガラス板2が略平行であり、中間部材3の断面が楔型でなくても、二重像は観察されない。そのため、ウィンドシールドガラス10の合わせガラス構造の設計と、製造工程を簡便なものとすることができる。また、視認者VE側に出射する光は、楕円偏光となるため、視認者VEが偏光サングラス30を着用している場合でも、P波成分で表示画像を視認することができる。
【0040】
上記実施形態において、ウィンドシールドガラス10への入射光を位相差膜5でP波から楕円偏光へ変換する際、反射されるS波成分を大きくするため、位相差膜5は、比較的大きな1/2波長に近い位相差を与えるものが有利である。第2のガラス板2の外表面2bで反射したS波は位相差膜5を透過する際、再度楕円偏光に変換されるため、ウィンドシールドガラス10から視認者VE側へ出射した光を偏光サングラス30を通して視認した際に、暗化することがない。
【0041】
図5に示す実施形態の変形例として、位相差膜5を構成する光配向性の液晶性材料を傾斜配向させてもよい。位相差膜5により付与される位相差は、光の波長ごとに異なるので、上記実施形態で、位相差膜5を1/2波長に近い大きな位相差を与えるものとした場合、視認者VEが偏光サングラス30を介して第2のガラス板2からの反射光LR2を観察すると、投射光Pに対し色調の変化(色付き)が認められる可能性がある。光配向性の液晶性材料を傾斜配向させ、入射光LIに対しては、位相差膜5を透過する際に1/2波長に近い位相差を付与し、第2のガラス板から反射する反射光LR2が位相差膜5を透過する際に付与される位相差は抑制することによって、視認者VEに視認される色調の変化を抑制することができる。
【0042】
[ヘッドアップディスプレイシステム]
本発明に係るヘッドアップディスプレイシステム100は、上記本発明に係るウィンドシールドガラス10と、ウィンドシールドガラス10の表示領域Aに光を投射する投射装置20とを少なくとも備えるものである。このヘッドアップディスプレイシステム100は、自動車等の車両用のシステムであってもよく、その場合、ウィンドシールドガラス10は、車両のフロントガラスであってもよい。投射装置は、文字、画像等を光で投射(投映)する装置であり、例えば、ヘッドアップディスプレイ用の車載ディスプレイとして車両に組み込まれたものであってもよく、車両とは独立の装置として、後付けでダッシュボード上などに設置し得るものであってもよい。また、スマートフォン等を接続して、その情報をウィンドシールドガラス10に投射し得る装置であってもよい。
【0043】
[位相差膜]
上記実施形態において、位相差膜5は、光配向性の液晶性材料からなり、その配向性を固定したものである。位相差膜5は
図2Aに示すように液晶性材料が面内配向(膜の底面に平行に配向)したものであってもよく、
図2Bに示すように傾斜配向したものであってもよい。傾斜配向した位相差膜を用いれば、ウィンドシールドガラス10に入射した光に付与する位相差と、外側ガラス2の外側面2bで反射した反射光に、異なる位相差を付与することができる。本発明では、光配向性を示す液晶性材料を含む溶液を、支持体となるガラス板上に塗布し、光照射と加熱を伴うプロセスにより、液晶性材料を所定方向に配向させ、位相差膜5としての特性を発現させることができる。そのため、膜厚分布を任意に制御することが容易であり、また配向方向の制御により、位相差特性の制御も容易である。
【0044】
[光配向性を示す液晶性材料]
光配向性を示す液晶性材料としては、例えば、少なくとも一部の側鎖に感光性基を含み、下記式1から3のいずれか一つの化学式で示される側鎖を有する重合体で少なくとも構成される、液晶性材料を用いることができる。
【化1】
【化2】
【化3】
前記化学式1、2のそれぞれにおいて独立に、nは1~12、mは1~12の整数をそれぞれ示し、X、Yは、none、-COO-、-OCO-、-N=N-、-C=C-または-C
6H
4-をそれぞれ表し、W
1、W
2はシンナモイルオキシ基、カルコン基、シンナミリデンキ基、ビフェニルアクリロイルオキシ基、フリルアクリロイルオキシ基、ナフチルアクリロイルオキシ基もしくはそれらの誘導体を表すか、または、-H、-OH、もしくは-CNを表し、前記化学式3において、sは0または1を表し、tは1~3の整数を表し、RはH、アルキル基,アルキルオキシ基またはハロゲンを表す。
【0045】
上記の液晶性材料を用いれば、偏光の露光、または斜め方向からの擬似平行光の露光により、感光性基を有する側鎖が、特定方向に配向し、液晶性材料が感光性基を持たない側鎖を含んでいても、これらは加熱・冷却の過程で、近傍の配向した側鎖に従って配向し、配向性が固定されて位相差膜5が形成される。具体的な工程は、以下の条件で行うことができる。
【0046】
[塗膜の形成]
上記の化学式1~3で表わされる側鎖を有するモノマー単位から形成される液晶性ポリマー、必要により、上記の液晶性ポリマーに低分子化合物、その他の成分(重合触媒など)を加え、これらを適当な溶剤に溶解して調製される塗布液を基材上に塗布し、溶剤を除去することにより液晶性ポリマー層を基材上に形成することができる。
【0047】
溶剤としては、ジオキサン、ジクロロエタン、ジメチルエーテル、ジグリム、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独または混合して用いられる。
【0048】
本発明では、通常、ウィンドシールドガラスを構成するガラス板が支持体として使用される。ガラス板上に液晶性材料を塗布することにより、任意の膜厚分布を得ることができるので、ガラス基板上の任意の位置に、任意の膜厚分布で位相差膜を形成することができる。そのため、例えば、上術の実施形態のように、位相差膜の厚みを外縁部で連続的に(徐々に)薄く形成することができる。塗布液の塗工方法は特に限定されないが、例えば、スプレーガンなどを使用し、支持体となるガラス板上に塗布してもよい。
【0049】
[露光]
塗布液を支持体上に塗布して溶剤が除去される程度に乾燥した後、塗膜上に偏光(例えば、直線偏光紫外線)または、傾斜方向からの擬似平行光を露光することにより、液晶性材料が面内配向または傾斜配向した配向層を形成することができる。塗膜に直線偏光を照射した場合、液晶性材料が基材(ガラス板)表面に平行に配向した位相差膜とすることができる。
【0050】
露光は、乾燥途中(完全に乾燥する前)に行ってもよい。露光後、試料を80~130℃、好ましくは100~120℃に加熱し、冷却することが好ましい。
【0051】
[ガラス板]
第1のガラス板1および第2のガラス板2を構成するガラス板としては、無機ガラスまたは、ポリカーボネート、アクリル等の有機ガラスを用いることができる。ガラスを位相差膜3b形成の基材として使用する場合、耐熱性を確保するため、無機ガラスを用いることが好ましい。無機ガラスとしては、通常、ウィンドシールドガラスを形成するために使用されるソーダライムガラスや、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機ガラスを用いることができる。
【0052】
[中間膜]
中間膜を構成する樹脂としては、合わせガラスの中間膜として従来から使用されているポリビニルブチラール等の他、市販の光学透明粘着剤を用いることができる。位相差膜の耐候性を確保するため、UV吸収性光学透明粘着剤を用いてもよい。
【実施例】
【0053】
(単量体1)
p-クマル酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)桂皮酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、以下の化学式4に示される単量体1を合成した。
【0054】
【0055】
(単量体2)
p-ヒドロキシ安息香酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、以下の化学式5に示される単量体2を合成した。
【0056】
【0057】
(重合体1)単量体1と単量体2を5:95のモル比でジオキサン中に溶解し、反応開始剤としてAIBNを添加して、70℃で24時間重合することにより感光性の重合体1を得た。この重合体1は液晶性を呈した。
【0058】
[実施例1:合わせガラスの作成]
重合体1をDME/ジグリム=1/2.5の15wt%溶液とした。この溶液をスプレーガンを用いてガラス基板の半分の位置まで塗布、他半分には厚みが徐変して薄くなり端部近傍は、非塗工部となるように塗布した。この基板に高圧水銀灯の擬似平行光を斜め方向から照射した。続いて、130℃まで加熱し、傾斜配向層を形成した。このガラス基板を他のガラス基板と透明粘着剤で貼合わせ合わせガラスとした。このガラス基板を目視したところ、塗工部と非塗工部との境界は認識できなかった。
【0059】
[実施例2:S偏光照射]
実施例1で作製した合わせガラス構造のガラス基板を、ヘッドアップディスプレイシステムにおけるウィンドシールドガラス(車両用のフロントガラス)を模した配置に設置し、投射装置(投光器)から出光する画像(文字表示)を偏光板でS波としてガラス基板に投射した。吸収軸がS波と平行となる偏光板を介して反射光を視認したところ、塗工部に投射された文字は確認できたのに対し、非塗工部は、反射光が偏光板に吸収され、投射された文字を認識できなかった。
【0060】
[実施例3:P偏光照射]
実施例1で作製した合わせガラス構造のガラス基板を、ヘッドアップディスプレイシステムにおけるウィンドシールドガラス(車両用のフロントガラス)を模した配置に設置し、投射装置(投光器)から出光する画像(文字表示)を偏光板でP波としてガラス基板に投射した。その際、P波の入射角がブリュースター角となるよう調整した。これを裸眼で視認したところ、重合体1の未塗工部では、反射光が微弱で画像を認識し難かったが、重合体1の塗工部では、反射光により表示画像を認識でき、また、2重像の発生も抑えられていた。吸収軸がS波と平行となる偏光板を介して反射光を視認したところ、塗工部に投射された画像は暗化することなく視認できた。
【0061】
[実施例4:光配向性液晶性材料が面内配向した合わせガラスの作製]
重合体1を容積比でジメチルエーテル/ジグリム=1/2.5の溶媒に溶解し、15wt%溶液とした。この溶液をスプレーガンを用いてガラス基板の半分の位置まで塗布、他半分には厚みが徐変して薄くなり端部近傍は、非塗工部となるように塗布した。この基板の直上から、高圧水銀灯の光を直線偏光として照射した。続いて、130℃まで加熱し、配向層を形成した。このガラス基板を他のガラス基板と透明粘着剤で貼合わせ合わせガラスとした。このガラス基板を目視したところ、塗工部と非塗工部との境界は認識できなかった。また、実施例3と同様にP波で投射した画像も視認できたが、偏光板を介して観察したところ、画像の色調変化が認められた。
【0062】
[比較例1]
実施例2と同様に、ヘッドアップディスプレイシステムにおけるウィンドシールドガラス(車両用のフロントガラス)を模した配置に一枚のガラス基板(平面板)を設置し、投射装置(投光器)から出光する画像を偏光板でS波としてガラス基板に投射した。裸眼で視認した場合には、画像を視認できたが、2重像の発生が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のウィンドシールドガラスおよびこれを用いたヘッドアップディスプレイシステムは、簡便な構成により、サングラスを着用した場合にも視認可能な表示画像を提供でき、車両のフロントガラスにおけるヘッドアップディスプレイなどで、利用性が高い。
【符号の説明】
【0064】
1 第1のガラス
1a 第1のガラスの内側表面
1b 第1のガラスの外側表面
2 第2のガラス
2a 第2のガラスの内側表面
2b 第2のガラスの外側表面
3 中間部材
4 中間膜
5 位相差膜
10 ウィンドシールドガラス
20 投射装置
30 偏光サングラス
A 表示領域
LC 液晶性材料
LP 投射光
LI 入射光
LR1 第1のガラスからの反射光
LR2 第2のガラスからの反射光
d 第1のガラスと第2のガラスの間隔
t 位相差膜の厚み
VE 視認者