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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20241220BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H02P23/14
H02P27/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021046239
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145000
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120567(JP,A)
【文献】特開2005-168241(JP,A)
【文献】特開2020-171082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/14
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルを有するモータの前記複数のコイルに電圧を印加して前記複数のコイルにコイル電流を流す電圧印加手段と、
前記コイル電流の電流値を測定する測定手段と、
前記電圧印加手段を制御して前記複数のコイルに複数のパターンそれぞれのパターンでコイル電流を流し、各パターンのコイル電流の電流値を前記測定手段に測定させることで、複数の測定値を含む測定情報を取得する制御手段と、
複数のモータ種別それぞれに対応する複数の基準情報であって、モータ種別に対応する基準情報は複数の基準値を示す、前記複数の基準情報を保持する保持手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれの測定値について、前記基準情報の前記複数の基準値から対応する基準値を判定し、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記基準情報の対応する基準値との差を求め、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差に基づき、前記測定情報と前記基準情報との誤差を求めることで、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれとの誤差を求め、前記モータのモータ種別を、前記測定情報との誤差が最小の基準情報に対応するモータ種別であると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
複数のコイルを有するモータの前記複数のコイルに電圧を印加して前記複数のコイルにコイル電流を流す電圧印加手段と、
前記コイル電流の電流値を測定する測定手段と、
前記電圧印加手段を制御して前記複数のコイルに複数のパターンそれぞれのパターンでコイル電流を流し、各パターンのコイル電流の電流値を前記測定手段に測定させることで、複数の測定値を含む測定情報を取得する制御手段と、
複数の制御パラメータそれぞれに対応する複数の基準情報であって、制御パラメータに対応する基準情報は、前記複数のパターンのコイル電流の複数の基準値を示す、前記複数の基準情報を保持する保持手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれの測定値について、前記基準情報の前記複数の基準値から対応する基準値を判定し、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記基準情報の対応する基準値との差を求め、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差に基づき、前記測定情報と前記基準情報との誤差を求めることで、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれとの誤差を求め、前記モータを駆動する際に設定する制御パラメータを、前記測定情報との誤差が最小の基準情報に対応する制御パラメータであると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記複数の測定値の中での大きさの順位を判定し、前記基準情報の前記複数の基準値それぞれについて、前記複数の基準値の中での大きさの順位を判定し、測定値の順位と同じ順位の前記基準値を、当該測定値に対応する前記基準値であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差の2乗の積算値を、前記測定情報と前記基準情報との誤差とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差の絶対値の積算値を、前記測定情報と前記基準情報との誤差とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれについて求めた誤差の最小値が閾値より大きいと、前記測定情報を再取得することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記複数のパターンは、前記複数のコイルの内のコイル電流を流す2つのコイルと、当該2つのコイルに流すコイル電流の方向により特定されることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記複数のパターンそれぞれのパターンで前記コイル電流を所定期間だけ流した際の、前記コイル電流の最大値又は積分値を前記複数の測定値とすることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記複数のパターンそれぞれのパターンで前記コイル電流を流した際の、前記コイル電流の変化の速さを前記複数の測定値とすることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記複数の測定値に基づき前記モータのロータの停止位置をさらに判定することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
搬送路に沿ってシートを搬送するための回転部材と、
前記搬送路を搬送される前記シートに画像を形成する画像形成手段と、
前記回転部材又は前記画像形成手段を駆動するモータと、
前記モータを制御するモータ制御手段と、
を備えている画像形成装置であって、
前記モータ制御手段は、
複数のコイルを有する前記モータの前記複数のコイルに電圧を印加して前記複数のコイルにコイル電流を流す電圧印加手段と、
前記コイル電流の電流値を測定する測定手段と、
前記電圧印加手段を制御して前記複数のコイルに複数のパターンそれぞれのパターンでコイル電流を流し、各パターンのコイル電流の電流値を前記測定手段に測定させることで、複数の測定値を含む測定情報を取得する制御手段と、
複数のモータ種別それぞれに対応する複数の基準情報であって、モータ種別に対応する基準情報は複数の基準値を示す、前記複数の基準情報を保持する保持手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれの測定値について、前記基準情報の前記複数の基準値から対応する基準値を判定し、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記基準情報の対応する基準値との差を求め、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差に基づき、前記測定情報と前記基準情報との誤差を求めることで、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれとの誤差を求め、前記モータのモータ種別を、前記測定情報との誤差が最小の基準情報に対応するモータ種別であると判定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
搬送路に沿ってシートを搬送するための回転部材と、
前記搬送路を搬送される前記シートに画像を形成する画像形成手段と、
前記回転部材又は前記画像形成手段を駆動するモータと、
前記モータを制御するモータ制御手段と、
を備えている画像形成装置であって、
前記モータ制御手段は、
複数のコイルを有する前記モータの前記複数のコイルに電圧を印加して前記複数のコイルにコイル電流を流す電圧印加手段と、
前記コイル電流の電流値を測定する測定手段と、
前記電圧印加手段を制御して前記複数のコイルに複数のパターンそれぞれのパターンでコイル電流を流し、各パターンのコイル電流の電流値を前記測定手段に測定させることで、複数の測定値を含む測定情報を取得する制御手段と、
複数の制御パラメータそれぞれに対応する複数の基準情報であって、制御パラメータに対応する基準情報は、前記複数のパターンのコイル電流の複数の基準値を示す、前記複数の基準情報を保持する保持手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれの測定値について、前記基準情報の前記複数の基準値から対応する基準値を判定し、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記基準情報の対応する基準値との差を求め、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差に基づき、前記測定情報と前記基準情報との誤差を求めることで、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれとの誤差を求め、前記モータを駆動する際に設定する制御パラメータを、前記測定情報との誤差が最小の基準情報に対応する制御パラメータであると判定することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の各部材の駆動源としてモータが使用されている。モータの特性は、その種別に応じて異なり得るため、画像形成装置は、駆動するモータの種別に応じて制御パラメータを変更する必要がある。したがって、画像形成装置は、駆動するモータの種別を判定する必要がある。特許文献1は、モータの加減速に要した時間を測定し、測定した時間からモータ種別を判定する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-44741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、モータ起動前にモータ種別を判定できないため、モータの起動が不安定となり得る。
【0005】
本発明は、起動前にモータ種別を判定して適切な制御パラメータを設定するための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、モータ制御装置は、複数のコイルを有するモータの前記複数のコイルに電圧を印加して前記複数のコイルにコイル電流を流す電圧印加手段と、前記コイル電流の電流値を測定する測定手段と、前記電圧印加手段を制御して前記複数のコイルに複数のパターンそれぞれのパターンでコイル電流を流し、各パターンのコイル電流の電流値を前記測定手段に測定させることで、複数の測定値を含む測定情報を取得する制御手段と、複数のモータ種別それぞれに対応する複数の基準情報であって、モータ種別に対応する基準情報は複数の基準値を示す、前記複数の基準情報を保持する保持手段と、を備え、前記制御手段は、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれの測定値について、前記基準情報の前記複数の基準値から対応する基準値を判定し、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて、前記基準情報の対応する基準値との差を求め、前記測定情報の前記複数の測定値それぞれについて求めた差に基づき、前記測定情報と前記基準情報との誤差を求めることで、前記測定情報と前記複数の基準情報それぞれとの誤差を求め、前記モータのモータ種別を、前記測定情報との誤差が最小の基準情報に対応するモータ種別であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、起動前にモータ種別を判定して適切な制御パラメータを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による画像形成装置の構成図。
図2】一実施形態による画像形成装置の制御構成図。
図3】一実施形態によるモータ制御部の構成図。
図4】一実施形態によるモータの構成図。
図5】一実施形態によるロータ停止位置の検知処理においてコイルに印加する電圧と、コイル電流の時間変化を示す図。
図6】コイル電流の各パターンについて、コイル電流の最大値を、異なるロータ停止位置それぞれについて示す図。
図7】コイル電流の各パターンについて、コイル電流の最大値を、異なるロータ停止位置それぞれについて示す図。
図8】一実施形態によるテンプレートを示す図。
図9】一実施形態による1つのテンプレートに対する誤差の算出方法の説明図。
図10】一実施形態によるコイル種別判定処理のフローチャート。
図11】一実施形態によるコイル種別判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による画像形成装置10の構成図である。画像形成装置10は、例えば、プリンタ、複写機、複合機、ファクシミリ等である。カセット25に格納されたシートは、給送ローラ26によりシートの搬送路に給送される。搬送ローラ27は、給送されたシートを下流側に搬送する。画像形成部1は、画像データに基づき内部の像担持体にトナー像を形成し、形成したトナー像をシートに転写する。トナー像が転写されたシートは、定着部24に搬送される。定着部24は、シートを加熱・加圧してトナー像をシートに定着させる。トナー像の定着後、シートは画像形成装置10の外部に排出される。モータ15Fは、定着部24のローラを駆動する駆動源である。なお、画像形成装置10は、他の部材を駆動する、モータ15Fとは異なるモータも有し得る。
【0011】
図2は、画像形成装置10の制御構成を示している。プリンタ制御部11は、前述した画像形成部1及び定着部24を含む画像形成装置10の全体を制御する。プリンタ制御部11は、図示しないプロセッサと、プログラム及び各種制御用データを格納するメモリと、を有する。プリンタ制御部11のプロセッサは、プリンタ制御部11のメモリに格納されているプログラムを実行することで、画像形成装置10を制御するための各種処理を行う。なお、その際、プリンタ制御部11は、メモリに格納されている制御用データを使用する。通信コントローラ21は、ホストコンピュータ22と通信し、ホストコンピュータ22から画像形成装置10が形成する画像の画像データを受信する。モータ制御部14は、プリンタ制御部11による制御の下、モータ15Fを制御する。
【0012】
図3は、モータ15Fの制御構成の詳細を示している。モータ制御部14は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと表記)51を有する。マイコン51は、通信ポート52を介してプリンタ制御部11と通信を行う。また、マイコン51の基準クロック生成部56は、水晶発振子50に接続され、水晶発振子50の出力に基づき基準クロックを生成する。カウンタ54は、基準クロックに基づきカウント動作を行う。マイコン51は、パルス幅変調信号(PWM信号)をPWMポート58から出力する。本実施形態において、マイコン51は、モータ15Fの3つの相(U、V、W)それぞれについて、ハイ側のPWM信号(U-H、V-H、W-H)と、ロー側のPWM信号(U-L、V-L、W-L)の計6つのPWM信号を出力する。このため、PWMポート58は、6つの端子U-H、V-H、W-H、U-L、V-L、W-Lを有する。
【0013】
PWMポート58の各端子は、ゲートドライバ61に接続され、ゲートドライバ61は、PWM信号に基づき、3相のインバータ60の各スイッチング素子のON/OFF制御を行う。なお、インバータ60は、各相についてハイ側3個、ロー側3個の計6つのスイッチング素子を有し、ゲートドライバ61は、各スイッチング素子を対応するPWM信号に基づき制御する。スイッチング素子としては、例えばトランジスタやFETを使用することができる。本実施形態においては、PWM信号がハイであると、対応するスイッチング素子がONとなり、ローであると、対応するスイッチング装置がOFFになるものとする。インバータ60の出力62は、モータ15Fのコイル73(U相)、74(V相)及び75(W相)に接続される。インバータ60の各スイッチング素子をON/OFF制御することで、各コイル73、74、75のモータ電流(励磁電流)を制御することができる。この様に、ゲートドライバ61及びインバータ60は、複数のコイル73、74及び75にコイル電流を流すために複数のコイル73、74及び75に電圧を印加する電圧印加部として機能する。各コイル73、74、75に流れたモータ電流は、抵抗63によりその電流値に応じた電圧値の電圧に変換される。抵抗63の電圧値は、マイコン51のADコンバータ53に入力される。ADコンバータ53は、抵抗63の電圧値(アナログ値)をデジタル値に変換する。マイコン51は、ADコンバータ53が出力するデジタル値に基づきコイル電流の電流値を検出する。この様に、抵抗63とADコンバータ53はコイル電流の電流値を測定する測定部を構成する。また、マイコン51は、モータ15Fの制御に使用する各種データ等を保持・格納する不揮発性メモリ55及びメモリ57を有する。
【0014】
図4は、モータ15Fの構成図である。モータ15Fは、6スロットのステータ71と、4極のロータ72と、を有する。ステータ71は、各相のコイル73、74、75を有する。ロータ72は、永久磁石により構成され、N極とS極との組を2つ有する。
【0015】
一般的に、コイルは、電磁鋼板を積層したコアに銅線を巻いた構成となっている。電磁鋼板の透磁率は、外部磁界が有ると小さくなる。コイルのインダクタンスは、コアの透磁率に比例するため、コアの透磁率が小さくなると、コイルのインダクタンスも小さくなる。例えば、図4のU相のコイル73には、ロータ72のS極のみが対向しているため、ロータ72のS極とN極の両方が対向しているW相のコイル75よりインダクタンスの低下率が大きくなる。
【0016】
また、インダクタンスの変化量は、コイル電流によって生じる磁界の方向と、ロータ72の磁極による磁界の方向が同じ方向か逆方向かによって異なる。具体的には、図4の状態において、U相のコイル73を、対向するロータ72のS極により生じる磁界と同じ方向、つまり、U相をN極とする様にコイル電流を流すと、U相をS極とする様にコイル電流を流した場合より、インダクタンスの低下量が大きくなる。また、インダクタンスが変化することによって、コイルの鉄損が変化するため、コイルの抵抗成分も変化する。
【0017】
上記の通り、ロータ72の停止位置(停止時の回転位相)と、コイル電流のパターンによって、コイルのインダクタンス及び抵抗、つまり、インピーダンスが変化する。なお、本実施形態において、コイル電流のパターンとは、コイル電流を流して励磁する2つの相(以下、励磁相)と、コイル電流を流す方向によって特定されるパターンを意味する。具体的には、本実施形態において、モータ15Fは3相であるため、"U-V"、"U-W"、"V-W"、"V-U"、"W-U"、"W-V"の6つのパターンが存在する。ここで、"X-Y"とは、X相及びY相を励磁相とし、かつ、X相のコイルからY相のコイルの方向に電流を流すとの意味である。なお、本実施形態では、コイル電流のパターンが"X-Y"の場合、X相がN極となり、Y相がS極となるものとする。
【0018】
モータ制御部14は、モータ15Fの起動前、つまり、モータ15Fの回転を開始する際、ロータの停止位置(回転位相)を検知する必要がある。本実施形態において、モータ制御部14は、上記6つのパターンのコイル電流を順に流し、各パターンにおけるコイル電流の最大値をそれぞれ比較することでロータの停止位置を検知する。まず、各パターンのコイル電流を流すためのPWM信号について説明する。
【0019】
図5は、上記6つのパターンの内のパターン"U-V"のコイル電流を流す場合にU-H端子及びV-H端子に印加するPWM信号のデューティ(duty)比の時間変化と、コイル電流の時間変化と、を示している。図5のA区間においては、U-H端子に印加するPWM信号のデューティ比を正弦波状に変化させる。なお、A区間は、正弦波の半波期間に対応し、A区間の開始時と終了時においては、U-H端子に印加するPWM信号のデューティ比を0%にする。また、図示していないが、A区間においては、V-L端子に印加するPWM信号のデューティ比を常に100%、つまり、ハイレベルとする。さらに、A区間において、その他の端子に印加するPWM信号のデューティ比は常に0%、つまり、ローレベルとする。これにより、U相のコイル73からV相のコイル74に向けて電流が流れる。続くB区間においては、V-H端子に印加するPWM信号のデューティ比を、A区間においてU-H端子に印加するPWM信号と同様に正弦波状に変化させる。また、図示していないが、B区間においては、U-L端子に印加するPWM信号のデューティ比を常にハイレベルとする。さらに、B区間において、その他の端子に印加するPWM信号のデューティ比は常にローレベルとする。これにより、U相のコイル73からV相のコイル74への電流をB区間の終了時において0に近づく様に減衰させることができる。図5に示す様にPWM信号を印加することで、コイル電流は正弦波状になる。コイル電流を正弦波状とすることで、コイルの振動により発生する騒音を抑えることができる。その他のパターンのコイル電流を流すために各端子に印加するPWM信号についても同様である。
【0020】
図6及び図7は、上記6つのパターンのコイル電流を流したときの、コイル電流の最大値を示している。なお、図6(A)~図6(C)及び図7(A)~図7(C)において、ロータ72の停止位置はそれぞれ異なる。具体的には、図6(A)のロータ72は、図4に示す様に、そのS極が、U相のコイル73に対向し、そのN極がV相のコイル74に対向して停止している状態である。図6(B)のロータ72は、そのS極が、U相のコイル73に対向し、そのN極がW相のコイル75に対向して停止している状態である。図6(C)のロータ72は、そのS極が、V相のコイル74に対向し、そのN極がW相のコイル75に対向して停止している状態である。図7(A)のロータ72は、そのS極が、V相のコイル74に対向し、そのN極がU相のコイル73に対向して停止している状態である。図7(B)のロータ72は、そのS極が、W相のコイル75に対向し、そのN極がU相のコイル73に対向して停止している状態である。図7(C)のロータ72は、そのS極が、W相のコイル75に対向し、そのN極がV相のコイル74に対向して停止している状態である。
【0021】
例えば、図6(A)において、パターン"U-V"のコイル電流の最大値が、他のパターンのコイル電流の最大値より大きい。これは、図4の状態において、パターン"U-V"のコイル電流を流すと、U相のコイル73及びV相のコイル74の合成インピーダンスが最も小さくなるからである。したがって、図6(A)の結果が得られた場合、モータ制御部14は、ロータ72が、図4の状態、つまり、そのS極が、U相のコイル73に対向し、そのN極がV相のコイル74に対向して停止していると判定することができる。そして、モータ制御部14は、判定したロータ72の停止位置に従い、コイル電流を制御してモータ15Fを起動する。
【0022】
続いて、モータ制御部14がモータ種別を判定する理由について説明する。モータ制御部14は、一般的にPI制御により、モータ15Fの回転速度や、コイル電流を制御する。PI制御の際、モータ制御部14は、モータ15Fの特性、つまり、モータ種別に最適なゲインを制御パラメータとして設定する。設定された制御パラメータが適切ではない場合、モータ15Fの回転速度にムラが生じ得る。モータ15Fの回転速度にムラが生じると、画像形成装置10が形成する画像の画像不良等を生じさせる。このため、モータ制御部14は、モータ種別を判定し、判定したモータ種別に適した制御パラメータを設定する必要がある。
【0023】
以下では、2つの種別A及び種別Bのモータが画像形成装置10のモータ15Fとして使用される可能性がある場合を例にして、モータ種別の判定方法について説明する。種別A及び種別Bは、インダクタンスや抵抗等のモータ特性値が異なる。なお、本発明は、3つ以上の種別のモータが使用される得る場合にも適用可能である。
【0024】
まず、図6及び図7で示した様に、コイル電流の各パターンの最大値は、ロータ72の停止位置に応じて異なる。しかしながら、あるロータ72の停止位置で得られる6つのパターンのコイル電流の最大値を降順又は昇順に並べ変えた結果は、ロータ72の停止位置に拘わらず略同じとなる。したがって、本実施形態では、画像形成装置10で使用され得る各種別のモータについて、6つのパターンのコイル電流の最大値を降順に並べたものを各種別のテンプレートとする。図8は、種別A及び種別Bのテンプレートの例を示している。種別Aのテンプレートは種別Aのモータであるか否かを判定するための基準情報である。同様に、種別Bのテンプレートは、種別Bのモータであるか否かを判定するための基準情報である。各種別のテンプレートは、降順に並べられた6つの基準値を有する。
【0025】
種別Aのテンプレートは、例えば、以下の様に生成することができる。まず、種別Aのモータのロータ72を上記6つの停止位置のいずれかで停止させ、各パターンのコイル電流を流して最大値を測定する。そして、各パターンの最大値を降順に並べ替える。上記処理を、種別Aの複数のモータに対して、6つの停止位置それぞれで行う。そして、同じ順位の測定値の平均値を求めることで種別Aのテンプレートを生成することができる。また、種別Aのテンプレートは、種別Aのモータの特性に基づき計算により生成することができる。種別Bについても同様である。
【0026】
モータ制御部14は、上述した様に、モータ15Fの起動前に、ロータ72の停止位置を判定するために、6つのパターンのコイル電流を流し、その最大値を測定値とし測定する。つまり、モータ制御部14は、6つの測定値を測定する。モータ制御部14は、6つの測定値を、テンプレートと同じ降順に並べかえて測定情報とする。モータ制御部14は、測定情報とテンプレートとの誤差を求める。本実施形態において、測定情報とテンプレートとの誤差は、テンプレートの基準値と、測定情報の6つの測定値の中の当該基準値と同じ順位の測定値との差の二乗の積算値として定義される。図9は、図8に示す種別Aのテンプレートに対する測定情報の誤差の演算方法の説明図である。
【0027】
図9に示す様に、モータ制御部14は、テンプレートのk番目(kは1から6までの整数)の基準値と、測定情報のk番目の測定値との差をΔEとして求める。そして、モータ制御部14は、種別Aのテンプレートに対する測定情報の誤差ΔEを、ΔE=Σ(E )として求める。なお、Σは、k=1~6までの積算を示す。モータ制御部14は、各テンプレートそれぞれとの誤差ΔEを求め、モータ15Fが、誤差ΔEの最も小さいテンプレートに対応する種別であると判定する。上記の通り、誤差ΔEを2乗誤差とすることで、誤差が大きく演算され、各テンプレートの誤差ΔEの比較が容易になる。しかしながら、測定情報の測定値とテンプレートの対応する順位の基準値との差の絶対値の積算値を誤差ΔEとすることもできる。言い換えると、誤差ΔEをΔE=Σ|E|として定義することもできる。なお、測定情報と基準情報との乖離の程度を評価できる他の値を誤差とすることもできる。
【0028】
図10は、本実施形態によるモータ種別の判定処理のフローチャートである。モータ制御部14は、図10の処理をモータ15Fの起動前に実行する。S10で、モータ制御部14は、ロータ72の停止位置を判定するために、各パターンのコイル電流を流して、その最大値を測定値として測定し、これにより測定情報を取得する。モータ制御部14は、各パターンの測定値に基づきロータ72の停止位置を判定する。S11で、モータ制御部14は、測定情報の複数の測定値を降順に並べ替える。S12で、モータ制御部14は、各種別のテンプレートそれぞれに対する誤差ΔEを上記の通り求める。S13で、モータ制御部14は、各種別のテンプレートそれぞれに対する誤差ΔEを比較することで、モータ15Fの種別を判定する。より詳しくは、モータ制御部14は、モータ15Fの種別が、誤差ΔEの最も小さいテンプレートの種別であると判定する。モータ制御部14は、S14で、判定した種別に適した制御パラメータを設定する。なお、種別と制御パラメータの関係は予め不揮発性メモリ55に格納されている。その後、モータ制御部14は、モータ15Fの回転制御を開始する。
【0029】
以上、本実施形態では、モータ15Fの起動前にモータ種別を判定することができる。また、モータ種別の判定を、モータ制御部14がロータ72の停止位置を判定するために測定した測定値を利用して行う。この様に、モータ種別の判定のための追加の測定を必要としないため、モータの起動までの時間が長くなることはない。また、1つのモータ種別に対して予め不揮発性メモリ55に設定しておく情報は、1つのテンプレートのみであり、モータ種別の判定のために必要なデータ量は小さい。さらに、テンプレートと測定情報との簡易な比較処理のみでモータ種別を判定できるため、マイコン51が実行するプログラムの規模を小さく抑え、実行時間も短い。したがって、モータの起動までの時間が長くなることを抑えることができる。
【0030】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について、第一実施形態との相違点を中心に説明する。図11は、本実施形態によるモータ種別の判定処理のフローチャートである。なお、図10に示す第一実施形態のフローチャートと同様の処理ステップについては、同じステップ番号を付与してその説明を省略する。
【0031】
本実施形態において、不揮発性メモリ55には、コイル電流異常を判定するための閾値を予め格納しておく。例えば、モータ15Fのコイル等に外来ノイズが重畳することで、想定を超えた電流が流れることが生じ得る。また、回路故障により過大なコイル電流が流れ得る。閾値は、この様なコイル電流の異常を検出する様に決定されている。
【0032】
モータ制御部14は、S12で、各種別のテンプレートそれぞれに対する誤差ΔEを求めると、S20で、誤差ΔEの最小値が閾値より大きいか否かを求める。誤差ΔEの最小値が閾値より大きくない場合、モータ制御部14は、第一実施形態と同様に、S13でモータ種別を判定する。
【0033】
一方、誤差ΔEの最小値が閾値より大きい場合、モータ制御部14は、コイル電流が異常であると判定する。コイル電流が異常であると、モータ制御部14は、正しくコイル種別を判定できないため、S10から処理を繰り返して測定情報を再取得する。なお、所定回数繰り返しても、S20で、誤差ΔEの最小値が閾値より大きくなる場合、過渡的な異常ではなく、定常的な異常が生じていると判定し、モータ制御部14は、図11の処理を終了する。この場合、モータ制御部14は、異常が生じていることを表示する。なお、S20がYesであると、直ちに図11の処理を終了して異常が生じていることを表示する構成であっても良い。
【0034】
本実施形態によると、コイル電流の異常を判定するため、モータ種別判定の信頼性を高めることができる。よって、適切ではない制御パラメータが設定されることを抑えることができる。
【0035】
なお、上記各実施形態において、所定期間において正弦波状に増減するコイル電流を流した際の最大値を測定値とし、これにより、ロータ72の停止位置と、モータ種別を判定していた。これは、コイルのインピーダンスに応じてコイル電流の最大値が異なるからである。しかしながら、本発明は、コイル電流の最大値を測定することに限定されず、モータのインダクタンス又はインピーダンスを判定できる他の任意の物理量を測定する構成とすることができる。例えば、インピーダンスにより、コイル電流の立ち上がりの速度は変化する。したがって、コイル電流を流し始めてから所定期間後のコイル電流の値を測定値とすることができる。また、コイル電流を流した所定期間のコイル電流の積分値を測定値とすることができる。
【0036】
なお、上記各実施形態においてはモータ種別を判定するとしていたが、モータ制御部14が行うのは制御対象のモータに適した制御パラメータを設定することである。つまり、モータ種別をモータ制御部14が認識することなく、誤差の最も少ないテンプレートに対応する制御パラメータを設定する構成であっても良い。この場合、上記各実施形態における"種別のテンプレート"は、"制御パラメータのテンプレート"となる。また、テンプレートの基準値は、降順に並べられ、よって、測定情報の複数の測定値も降順に並べ替えるとしていたが、昇順に並べ替える構成であっても良い。
【0037】
さらに、上記各実施形態では、画像形成装置10の一構成要素であるためモータ制御部14と表記したが、モータ制御部14を1つの装置としてモータ制御装置とすることもできる。また、プリンタ制御部11及びモータ制御部14を含む装置をモータ制御装置とすることもできる。また、上記実施形態において、モータ15Fは、定着部24を駆動するためのモータであった。しかしながら、画像形成装置10の回転部材等を駆動するための任意のモータ、例えば、シートを搬送するローラを駆動するモータや、画像形成部1の部材を駆動するモータに対しても本発明を適用できる。また、モータ15Fの構成は、図4に示す構成に限定されず、他の極数や相数のモータであっても良い。
【0038】
[その他の実施形態]
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0039】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0040】
51:マイコン、61:ゲートドライバ、60:インバータ、63:抵抗、53:ADコンバータ、55:不揮発性メモリ
図1
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図11