(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】自動車用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
B60J 1/00 20060101AFI20241220BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
B60J1/00 H
C03C17/30
(21)【出願番号】P 2021058896
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020064838
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健司
(72)【発明者】
【氏名】寺西 豊幸
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 瑶子
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055828(JP,A)
【文献】特開2019-119625(JP,A)
【文献】特開2016-101826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0157897(US,A1)
【文献】特開2005-145339(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/086438(JP,A1)
【文献】特開2019-064868(JP,A)
【文献】特開2005-114659(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0239017(US,A1)
【文献】国際公開第2008/120505(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
C03C 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用窓ガラスであって、
板状のガラス体と、
前記ガラス体の車内側の面に積層され、少なくとも防汚性を有する第1機能層と、
を備
え、
1滴が10μLのオレイン酸を含有する試験液を3滴、前記第1機能層上に滴下するステップと、
1kg/4cm
2
の荷重で織布によって前記試験液を拭き取るステップと、
を有する拭き取り試験後に測定したヘイズ率が、1.0以下である、自動車用窓ガラス。
【請求項2】
前記ガラス体の車内側の面に、所定の表示が打刻されている、請求項1に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項3】
前記ガラス体の車外側の面に、所定の表示が打刻されている、請求項1に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項4】
前記ガラス体は、車内側が凹となるように湾曲している、請求項1から3のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項5】
前記ガラス体は、平板状に形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項6】
前記ガラス体の車内側の面の一部に積層される遮蔽層をさらに備え、
前記ガラス体の車内側の面において、前記遮蔽層が積層されていない領域の少なくとも一部、及び前記遮蔽層の少なくとも一部に、前記第1機能層が積層されている、請求項1から5のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項7】
前記遮蔽層は、前記第1機能層が積層されていない第1領域を有している、請求項6に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項8】
前記第1領域は、車体との接触部分である、請求項7に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項9】
前記第1領域は、部品を取り付けるための領域である、請求項7に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項10】
前記ガラス体は、ウインドシールドであり、
前記ガラス体の車内側の面において、前記遮蔽層が積層されていない領域には、前記第1機能層が積層されていない第2領域が設けられている、請求項6から9のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項11】
前記ガラス体は、サイドガラスであり、
前記ガラス体の下縁に沿って、前記第1機能層が積層されていない第3領域が設けられ、
前記第3領域に、当該サイドガラスを支持する部品が取り付けられる、請求項1から4のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項12】
前記ガラス体は、サイドガラスであり、
前記ガラス体の車内側の面において、前記第1機能層が積層されていない第4領域が設けられている、請求項1から4のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項13】
前記第1機能層において、前記第3領域との境界は、波状に形成されている、請求項
11に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項14】
前記第1機能層において前記防汚性を奏する組成物の平均分子量が、1,000以上30,000以下である、請求項1から13のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項15】
前記第1機能層は、フッ素系溶媒に可溶な組成物を含有し、
前記第1機能層の厚みが、1μm以下である、請求項1から14のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項16】
前記第1機能層の動摩擦係数が、0.15以下である、請求項1から15のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項17】
前記第1機能層と前記ガラス体の車内側の面との間に積層され、赤外線カット機能、紫外線カット機能、低反射機能、Low-e機能、及び防曇機能の少なくとも一つの機能を有する第2機能層をさらに備えている、請求項1から16のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項18】
前記ガラス体の車外側の面に、前記第1機能層がさらに積層されている、請求項1から17のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項19】
前記ガラス体の車内側の面において前記第1機能層が積層されている領域と、前記ガラス体の車外側の面において前記第1機能層が積層されている領域と、が相違する、請求項18に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項20】
前記車外側の前記第1機能層と、前記車外側のガラス面との間に積層された下地層をさらに備えている、請求項18または19に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項21】
前記拭き取るステップでの拭き取り回数は200回以下である、請求項
1から20のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項22】
前記拭き取るステップでの拭き取り回数は150回以下である、請求項
21に記載の自動車用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用窓ガラスには、撥水性能、遮光性能等を示す種々の機能膜が積層されている。このような機能膜は、種々の方法で積層される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車用窓ガラスの機能に対する要求は多様化しており、近年は、汚れが付着しにくい防汚性能が要求されている。本発明は、防汚性能を有する自動車用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.自動車用窓ガラスであって、
板状のガラス体と、
前記ガラス体の車内側の面に積層され、少なくとも防汚性を有する第1機能層と、
を備えている、自動車用窓ガラス。
【0006】
項2.前記ガラス体の車内側の面に、所定の表示が打刻されている、項1に記載の自動車用窓ガラス。
【0007】
項3.前記ガラス体の車外側の面に、所定の表示が打刻されている、項1に記載の自動車用窓ガラス。
【0008】
項4.前記ガラス体は、車内側が凹となるように湾曲している、項1から3のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0009】
項5.前記ガラス体は、平板状に形成されている、項1から3のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0010】
項6.前記ガラス体の車内側の面の一部に積層される遮蔽層をさらに備え、
前記ガラス体の車内側の面において、前記遮蔽層が積層されていない領域の少なくとも一部、及び前記遮蔽層の少なくとも一部に、前記第1機能層が積層されている、項1から5のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0011】
項7.前記遮蔽層は、前記第1機能層が積層されていない第1領域を有している、項6に記載の自動車用窓ガラス。
【0012】
項8.前記第1領域は、車体との接触部分である、項7に記載の自動車用窓ガラス。
【0013】
項9.前記第1領域は、部品を取り付けるための領域である、項7に記載の自動車用窓ガラス。
【0014】
項10.前記ガラス体は、ウインドシールドであり、
前記ガラス体の車内側の面において、前記遮蔽層が積層されていない領域には、前記第1機能層が積層されていない第2領域が設けられている、項6から9のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0015】
項11.前記ガラス体は、サイドガラスであり、
前記ガラス体の下縁に沿って、前記第1機能層が積層されていない第3領域が設けられ、
前記第3領域に、当該サイドガラスを支持する部品が取り付けられる、項1から4のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0016】
項12.前記ガラス体は、サイドガラスであり、
前記ガラス体の車内側の面において、前記第1機能層が積層されていない第4領域が設けられている、項1から4のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0017】
項13.前記第1機能層において、前記第3領域との境界は、波状に形成されている、項11または12に記載の自動車用窓ガラス。
【0018】
項14.前記第1機能層において前記防汚性を奏する組成物の平均分子量が、1,000以上30,000以下である、項1から13のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0019】
項15.前記第1機能層は、フッ素系溶媒に可溶な組成物を含有し、
前記第1機能層の厚みが、1μm以下である、項1から14のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0020】
項16.前記第1機能層の動摩擦係数が、0.15以下である、項1から15のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0021】
項17.前記第1機能層と前記ガラス体の車内側の面との間に積層され、赤外線カット機能、紫外線カット機能、低反射機能、Low-e機能、及び防曇機能の少なくとも一つの機能を有する第2機能層をさらに備えている、項1から16のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0022】
項18.前記ガラス体の車外側の面に、前記第1機能層がさらに積層されている、項1から17のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0023】
項19.前記ガラス体の車内側の面において前記第1機能層が積層されている領域と、前記ガラス体の車外側の面において前記第1機能層が積層されている領域と、が相違する、項18に記載の自動車用窓ガラス。
【0024】
項20.前記車外側の前記第1機能層と、前記車外側のガラス面との間に積層された下地層をさらに備えている、項18または19に記載の自動車用窓ガラス。
【0025】
項21.1滴が10μLのオレイン酸を含有する試験液を3滴、前記第1機能層上に滴下するステップと、
1kg/4cm2の荷重で織布によって前記試験液を拭き取るステップと、
を有する試験後に測定したヘイズ率が、1.0以下である、項1から20のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0026】
項22.前記拭き取るステップでの拭き取り回数は200回以下である、項21に記載の自動車用窓ガラス。
【0027】
項23.前記拭き取るステップでの拭き取り回数は150回以下である、項22に記載の自動車用窓ガラス。
【0028】
なお、上記項1から項23に係る発明においては、ガラス体の代わりに、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS等の板状の樹脂材料により形成することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る自動車用窓ガラスによれば、防汚性能を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る自動車用窓ガラスをサイドガラスに適用した第2実施形態を示す平面図である。
【
図3】第1機能層とガラス板との結合を説明する模式図である。
【
図4】動摩擦係数を算出する試験を説明する図である。
【
図5】スプレーによる第1機能層用の塗布液の塗布を説明する図である。
【
図7】本発明に係る自動車用窓ガラスをウインドシールドに適用した第2実施形態を示す平面図である。
【
図9】傷に関する試験(評価5)の比較例における結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<A.第1実施形態>
まず、
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係る自動車用窓ガラスをサイドガラスに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係るサイドガラスの平面図、
図2は
図1のA-A線断面図である。
【0032】
<1.サイドガラスの概要>
図1及び
図2に示すように、このサイドガラスは、台形状のガラス板(ガラス体)1と、このガラス板1の車内側の面101に積層される第1機能層2と、を備えている。以下、詳細に説明する。
【0033】
<1-1.ガラス板>
ガラス板1は、上辺11、下辺12、前側辺13、後側辺14を備える矩形状に形成されている。上辺11と下辺12とは平行に形成されており、上辺11が下辺12よりも短くなっている。前側辺13は、下辺12の前端から後方に向かって傾斜するように上方へ延びる第1部位131と、第1部位131の上端からさらに後方に向かって傾斜するように延びる第2部位132とを備えている。また、後側辺14は、前側辺13の第1部位131とほぼ平行に、下辺12の後端から後方に向かってやや湾曲しながら傾斜するように上方へ延びている。したがって、上辺11の後端は、下辺12の後端よりもやや後方に位置している。
【0034】
上記ガラス板1により構成されるサイドガラスは、車両のドアに取り付けられるものであるが、ドアの内部に設けられた図示を省略する昇降モジュール(レギュレータ)によって支持され、昇降するようになっている。そして、サイドガラスが上昇し、窓が閉じた状態となっているときには、サイドガラスの下辺12は、ドアのベルトモールよりも下方に位置するようになっている。したがって、サイドガラスの下辺12は、窓の開閉にかかわらず、車外及び車内から見えないようになっている。このとき、ベルトモールよりも下側に配置される領域には、第1機能層2は積層されていない。この領域を第1非積層領域(第3領域)103と称することとする。すなわち、第1機能層2は、第1非積層領域103よりも上方に積層されており、第1機能層2の下縁104が、第1機能層2と非積層領域103との境界となる。この第1非積層領域103には、昇降モジュールが取り付けられたり、あるいは接着剤などが塗布される。このように、第1機能層2には、第1非積層領域103が設けられているが、これは、第1機能層2にフッ素を含んでいると、接着剤との化学結合ができず接着性能が低下する場合を避けるためである。また、第1非積層領域103とは別に、車内側の面において、盗難防止シールなどのシール等を貼り付ける箇所にも、第1機能層2を積層せず、第2非積層領域(第4領域)とすることができる。
【0035】
また、サイドガラスが上昇する過程では、前側辺13の第1部位131及び後側辺14は、ドアフレームのガイド(例えば、ガラスラン)に支持され、このガイドに沿って上下動する。したがって、前側辺13の第1部位131及び後側辺14は、ガイドに収容されているため、車外及び車内からは見えないようになっている。そして、窓が閉じた状態となったときには、前側辺13の第2部位132及び上辺11も、ドアフレーム内に収容され、車外及び車内からは見えないようになっている。このようなドアフレーム内に収容される領域においても、第1機能層2を積層しないようにすることもできる。しかしながら、第1機能層2は後述のように動摩擦係数が低い。このような場合は、ドアフレーム内に収容される領域であっても、第1機能層2を積層させてもよい。低い動摩擦係数を有することで傷がつきにくいからである。また、第1機能層2の厚みが小さい場合には、ドアフレーム内に収容される領域であっても、第1機能層2を積層させてもよい。これは、仮に傷が生じても目立たないからである。なお、傷に関する試験は、後述する。
【0036】
また、ガラス板1としては、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの組成の一例を示す。
【0037】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0038】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0039】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0040】
このガラス板1の厚みは特には限定されないが、例えば、2.4~5.2mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。
【0041】
また、このガラス板1は、
図2に示すように、車外側に凸となるように湾曲しており、凹面である車内側の面101に、第1機能層2が積層されている。凹面101の曲率半径は、例えば、15,000~50,000mmとすることができ、30,000~50,000mmとすることが好ましい。
【0042】
<1-2.第1機能層>
次に、第1機能層2について説明する。本実施形態に係る第1機能層2は、防汚性を有する組成物が含有されている。
【0043】
この第1機能層2は、実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物のみを含有することを特徴としている。そのような組成物は、特には限定されないが、例えば、以下の式(X)で表される化合物を含むことができる。なお、「実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物のみ」とは、例えば、製造過程で混入した他の組成物を排除することを意味せず、1%重量以下の他の組成物の混入を許容する意味である。
【0044】
[Rf1-Z1]a-Q1-[Z2-SiRcM3-c]b (X)
(式中、Rf1は独立に炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量400~20,000の1価のパーフルオロポリエーテル基であり、Z1は独立に炭素数1~20の酸素原子、窒素原子及びケイ素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。Z2は独立に炭素数2~8の2価の炭化水素基である。Q1は少なくとも(a+b)個のケイ素原子を含む(a+b)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは1~10の整数であり、bは独立に1~10の整数であり、cはそれぞれ独立に0、1又は2である。式(X)における[ ]で括られたa個のZ1及びb個のZ2はすべてそれぞれQ1又はQ2構造中のケイ素原子と結合している。Rは独立に1~6の1価の炭化水素基である。Mはアルコキシ基又はアルコキシアルキル基であり、-SiRcM3-cがアルコキシシリル基である。)
で表される含フッ素反応性シラン化合物を、実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物として例示することができる。
【0045】
ここで、上記式(X)で表される含フッ素反応性シラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、r1、Rf'は上記と同じである。)
【0046】
パーフルオロアルキレン基にあるフルオロポリエーテル鎖部分の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば1,000~30,000、好ましくは1,500~30,000、より好ましくは2,000~10,000である。上記数平均分子量は、
19F-NMRにより測定される値とする。これは、上記数平均分子量が、1000以上であると、分子の結合が長くなり、例えば、
図3に示すように,第1機能層2上に油が付着しても、分子が倒れるのが抑制され、防汚性能の低下を防止することができる。一方、数平均分子量が大きすぎると、ガラス板1と結合するアルコキシシリル基の数が減るおそれがある。したがって、数平均分子量を30,000以下とすると、ガラス板1のOH基との結合数が減少し、結合強度が低下を防止できる。
【0047】
一方、フルオロポリエーテル鎖の数平均分子量が、1,000未満となると、アルコキシシリル基が含有されていたとしても、ガラス板の表面での反応確率が低下する。その結果、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、分子量が低いと、後述するように、第1機能層用の塗布液が気化しやすくなり、特に、スプレーで塗布する場合には、所定の領域に塗布しにくくなるおそれがある。
【0048】
第1機能層2の防汚機能とは、例えば、後述する拭き取り試験による性能を奏するものである。また、例えば、第1機能層の表面での接触角が60°以上、好ましくは80°以上、さらに好ましくは100°以上であることを意味する。
【0049】
第1機能層2を構成する組成物は、フッ素系溶媒に溶解された後、後述する方法でガラス板1に積層される。フッ素系溶媒としては、例えば、
パーフルオロヘキサン、
パーフルオロオクタン、
パーフルオロメチルシクロヘキサン、
パーフルオロジメチルシクロヘキサン、
パーフルオロデカリン、
パーフルオロアルキルエタノール、
パーフルオロベンゼン、
パーフルオロトルエン、
パーフルオロアルキルアミン(フロリナート(商品名)等)、
パーフルオロアルキルエーテル、
パーフルオロブチルテトラヒドロフラン、
ポリフルオロ脂肪族炭化水素(アサヒクリンAC6000(商品名))、
ハイドロクロロフルオロカーボン(アサヒクリンAK-225(商品名)等)、ハイドロフルオロエーテル(ノベック(商品名)、NOVEC7000(商品名)、NOVEC7100(商品名)、NOVEC7200(商品名)、NOVEC7300(商品名)、HFE-7100(商品名)、HFE-7200(商品名)、HFE-7300(商品名)、HFE-7000(商品名)、アサヒクリンAE-3000(商品名)等)、
1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、
1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、
含フッ素アルコール、
パーフルオロアルキルブロミド、
パーフルオロアルキルヨージド、パーフルオロポリエーテル(クライトックス(商品名)、
デムナム(商品名)、
フォンブリン(商品名)等)、
1,3-ビストリフルオロメチルベンゼン、
メタクリル酸2-(パーフルオロアルキル)エチル、
アクリル酸2-(パーフルオロアルキル)エチル、
パーフルオロアルキルエチレン、フロン134a、
およびヘキサフルオロプロペンオリゴマー、
1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン
などを挙げることができる。
【0050】
第1機能層2を構成する組成物は、フッ素系溶媒と第2の溶媒の混合溶媒に溶解された後、後述する方法でガラス板1に積層されてもよい。第2の溶媒としては、フッ素系溶媒と混和し、蒸発しやすい溶媒が好ましく、例えば低粘度のシリコーン系溶媒がよい。低粘度のシリコーン系溶媒としては、ジメチルシロキサン構造をもつシリコーンオイルで、25℃での動粘度が3mm2/s(3センチストークス)以下のものが挙げられ、市販品では、たとえば信越化学工業株式会社製のシリコーンオイルKF-96L-0.65cs、KF-96L-1cs、KF-96L-1.5cs、KF-96L-2csなどを挙げることができる。
【0051】
<2.第1機能層の物性及び性能>
<2-1.膜厚>
第1機能層2の厚みは、特には限定されないが、1μm以下とすることができる。具体的には、例えば、5~50nmであることが好ましく、10~30nmであることがさらに好ましい。第1機能層2の膜厚が50nmを超えるとコストが高くなるおそれがある。一方、第1機能層2は、単分子膜のような薄い膜厚でも防汚機能を奏するが、例えば、5nmより小さくなると、乾燥前に外力が加わったときに、ガラス板1から剥がれるおそれがある。したがって、第1機能層2の膜厚は5nm以上であることが好ましい。膜厚は、種々の方法で算出することができるが、例えば、膜厚を測定したい箇所でサイドガラスを切断し、断面をSEM等で観察することで測定することができる。
【0052】
SEMでの観察は、例えば、次のように行うことができる。電界放射型走査型電子顕微鏡S-4700(日立ハイテク社製)を用い、加速電圧を5kVとする。そして、0.1%のフッ化水素にて、第1機能層2をエッチングする。そして、導電処理のためにPt-Pdのコーティングを行った後、SEMによる観察を行う。
【0053】
また、膜厚が大きくなると、例えば、上述したアルコキシシリル基が過剰になり、ガラス板1と結合しないものが、第1機能層2の表面に現れ、凹凸を形成する可能性がある。このような凹凸は、水滴がスムーズに流れるのを阻害する可能性があり、その結果、防汚性能が低下するおそれがある。
【0054】
<2-2.水の接触角>
第1機能層2における水の接触角は、60°以上であることが好ましく、80°以上であることがさらに好ましく、100°以上であることが特に好ましい。この接触角が大きいほど、防汚性能が優れていることを表している。また、一般的な現象として接触角は、120°以下であることが知られている。なお、接触角は、例えば、接触角測定装置(「DMs-401」、協和界面科学社製)を用いて水3μLにて測定する。
【0055】
<2-3.摩擦係数>
第1機能層2の動摩擦係数は、0.1~1.5であることが好ましく、0.1~1.2であることがさらに好ましい。特に、動摩擦係数が1.2以下であると、滑りやすいため、第1機能層2に傷が付きにくくなる。
【0056】
動摩擦係数を算出する試験は、例えば、次のように行うことができる。まず、
図4に示すように、平らな基台80上に第1機能層が積層されたガラス板1を設置した。第1機能層は上向きにした。また、このガラス板1は、100×50mmの大きさに形成されている。そして、第1機能層上に、0.686Nの摩擦子(新東科学社製TYPE-30Sの専用摩擦子)81を配置した。この摩擦子81の下面には、#300のネル布83が設けられ、ネル布83は第1機能層に接している。一方、摩擦子81の上面には9.8Nkの錘82が配置されている。そして、常温(23℃)の環境下で、引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-10kNJ)により、摩擦子81を500mm/minの速度で水平方向に引っ張った。
【0057】
この試験において、摩擦子81が10mmから70mm移動する範囲での荷重をFk(N)とし、これを全荷重(9.8N+0.686N)で除することで、動摩擦係数を算出した。
【0058】
<2-4.拭き取り試験>
摩耗試験は、例えば、次のように行うことができる。まず、1滴が10μLのオレイン酸を含有する試験液を、第1機能層上に3点滴下する。次に、往復摩耗試験機(新東科学社製「HEIDON-18」)に、乾布であるネル布(300番)を取り付け、第1機能層2の表面上を1kg/4cm2の荷重を加えながら、400回往復させる。そして、この試験後において、ヘイズ率を測定した。ヘイズ率は、例えば、積分球式光線透過率測定装置(スガ試験機(株)製、「HGM-2DP」、C光源使用、第1機能層側から光入射)を用いて測定することができる。こうして測定されたヘイズ率は、1.0以下であることが好ましい。なお、200回の往復後のヘイズ率が1.0以下となることがさらに好ましい。このような摩耗試験後において、ヘイズ率が1.0以下になると、試験液、つまり汚れが拭き取られることを意味し、防汚性が高いことの指標となる。
【0059】
<3.サイドガラスの製造方法>
次に、上記サイドガラスの製造方法について説明する。まず、公知のプレス成形などで、湾曲したガラス板1を成形する。そして、このガラス板1を、凹面101を上側に向けた状態で、コンベア等により搬送する。この搬送過程において、ガラス板1の凹面101に対し、第1機能層2を塗布する前の前処理を行う。前処理は、特には限定されないが、例えば、プラズマ処理(コロナ放電等)、イオンビーム処理、アルカリ洗浄、セリコ洗浄などを挙げることができる。このような処理により、ガラス板1の凹面101の表面に水酸基を導入または増加させることができるとともに、異物除去など、凹面101を清浄化することができる。
【0060】
なお、セリコ洗浄をした後は、ガラス板1の表面が親水性になっているので、ガラス板1の表面、つまり第1機能層2を積層する前の表面の接触角は100°以上である。また、セリコ洗浄した後はガラス板1の表面の粗さが小さくなっている。特に、第1機能層2の膜厚は薄いので、第1機能層の表面粗さRaは、ガラス板1の表面の表面粗さに追従する。その結果、第1機能層の表面粗さRaは、上述した範囲、つまり3nm以下にすることができる。
【0061】
続いて、第1機能層2用の塗布液をスプレーにより凹面101に塗布する。スプレー装置による塗布方法は、特には限定されないが、例えば、
図5に示すように、ガラス板1をコンベアによって搬送する。このとき、ガラス板1は、
図5の紙面に垂直な方向に搬送されるものとする。
【0062】
スプレー装置には、ガラス板1の上方に並列に配置された2個のノズル5が設けられている。各ノズルからは、100°以下の塗布角度θで、第1機能層2用の塗布液が下方のガラス板に向けて噴射される。このとき、ノズル5は近接して配置されているため、2個のノズル5から噴射される塗布液が重複するように塗布される。上記のようにノズル5からは所定の塗布角度θで塗布液が噴射されるため、ガラス板1の凹面においては、ノズル5の直下において最も塗布量が多くなり、周縁付近は塗布量が少なくなると考えられる。また、両ノズル5から噴射される塗布液が重複する部分の塗布量も大きくなる。なお、ガラス板1が載置されるコンベアの表面からノズル5までの高さは、例えば、20~80mmとすることができる。また、各ノズル5からの塗布液の吐出量は、例えば、50~200g/分とすることができる。
【0063】
また、この例では、ガラス板1の左側の端部には塗布液が届かないようにしており、この部分が上述した非積層領域103となる。ノズル5からは平面視円形状に塗布液が噴射され、またガラス板1は
図5の紙面方向に移動するため、非積層領域103と第1機能層2との境界104は波形状に形成される。但し、マスキングをすることで、第1機能層2が塗布されないようにすることもできる。
【0064】
例えば、
図6に示すように、境界104が形成されている場合には、波形状の最大幅dは、1~20mmであることが好ましい。
【0065】
なお、本実施形態では、2個のノズル5から塗布液を噴射しているが、1個または3個以上のノズルを用いてもよい。
【0066】
こうして、凹面101に第1機能層用の塗布液が塗布されると、これに続いて、塗布液の表面に水分を供給してもよい。水分を供給することにより、加水分解が期待できる場合がある。
【0067】
次に、ガラス板を、例えば、100~200℃の温度で加熱してもよい。このような雰囲気下では、第1機能層を構成する組成物において、Siに結合した基同士が速やかに脱水縮合し、その結果、上記組成物と凹面101との間で結合の促進が期待できる場合がある。
【0068】
また、塗布液に含有されるフッ素系溶媒は速やかに蒸発するため、塗布液が凹面101に沿って中央側に流れて貯まる前に硬化し、第1機能層2が形成される。
【0069】
なお、第1機能層用の塗布液の塗布方法は、上述したものに限定されず、例えば、フローコート法を採用することができる。また、ガラス板1が斜めになるように支持し、これに対して、スプレーで塗布液を塗布することもできる。このような方法を採用することで、塗布液を塗布する領域を制御することができる。
【0070】
<4.特徴>
以上説明したサイドガラスによれば、第1機能層が防汚性能を有しているため、汚れが付着するのを防止できたり、あるいは汚れが付着しても簡単に除去することができる。なお、汚れとは、例えば、指紋などの油分による汚れや、車内の加飾部材からの生じる可塑剤の付着により生じるものである。
【0071】
また、サイドガラスは昇降するため、昇降時に静電気が発生する。そのため、例えば、チリや埃だけでなく、昇降モジュールに用いられるグリス片がサイドガラスに付着するおそれがある。これに対して、本実施形態のサイドガラスは、上記のように動摩擦係数が低いので、静電気発生の抑制が可能である。
【0072】
さらに、昇降モジュールの組み立て精度が悪いと、サイドガラスが、昇降時に途中で止まったり反転したりすることがある。また、このような事象は、経時変化によって発生することもある。これに対して、本実施形態に係るサイドガラスは動摩擦係数が低いので、このような事象の発生が抑制される。
【0073】
<B.第2実施形態>
次に、本発明に係る自動車用窓ガラスをウインドシールドに適用した第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。まず、
図7及び
図8を用いて、本実施形態に係るウインドシールドの構成について説明する。
図7は本実施形態に係るウインドシールドの平面図、
図8は
図7のB-B線断面図である。なお、説明の便宜のため、
図7の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、
図1の左右方向を「左右」と称することとする。
【0074】
図7示すように、このウインドシールドは、水平方向に長い台形状の合わせガラス(ガラス体)10と、この合わせガラス10上に積層される遮蔽層4と、を備えている。合わせガラス10は、外側ガラス板11、内側ガラス板12、及びこれらの間に配置される中間膜13を有している。また、
図8に示すように、内側ガラス板12の車内側の面には、第1実施形態と同様に、第1機能層2が積層されている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0075】
<1.ガラス板>
両ガラス板11,12は、第1実施形態で示したものと同じものを使用することができる。但し、厚みについては、以下のように設定することができる。
【0076】
この合わせガラス10の厚みは特には限定されないが、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、例として2.1~6mmとすることができ、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4~3.8mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。
【0077】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、自動車のウインドシールドとしては、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは0.7~5.0mmとすることが好ましく、1.5~3.0mmとすることがさらに好ましく、1.8~2.3mmであることが特に好ましい。
【0078】
内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11と同等にすることができるが、例えば、合わせガラス10の軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを大きくしたり、あるいは小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.3~3.0mmであることが好ましく、0.7~2.3mmであることが好ましく、1.4~2.0mmであることが特に好ましい。
【0079】
また、この合わせガラス10は、車外側に凸となるように湾曲しているが、その場合の厚みの測定位置は、合わせガラス10の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面に合わせガラス10の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージで合わせガラス10の端部を挟持して測定する。
【0080】
<2.中間膜>
中間膜13は、複数の層で形成されており、一例として、
図8に示すように、軟質のコア層131を、これよりも硬質のアウター層132で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、軟質のコア層131を有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層131を含む2層(コア層が1層と、アウター層が1層)、またはコア層131を中心に配置した5層以上の奇数の層(コア層が1層と、アウター層が4層)、あるいはコア層131を内側に含む偶数の層(コア層が1層と、他の層がアウター層)で形成することもできる。あるいは、一層で中間膜13を構成することもできる。
【0081】
コア層131はアウター層132よりも軟質の材料により形成することができるが、これに限定されない。また、各層131,132を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、コア層が軟質となるような材料で形成することができる。例えば、アウター層132は、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層131は、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層132を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層131を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜3と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0082】
また、コア層131としては、用途に応じて、種々の機能を有する機能性フィルムを用いることができる。例えば、公知の遮熱フィルム、発熱フィルム、投影フィルム、発光フィルム、アンテナ用フィルムなどを用いることができる。
【0083】
中間膜13の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。一方、コア層131の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。0.1mmよりも小さくなると、軟質なコア層131の影響が及びにくくなり、また、2.0mmや0.6mmより大きくなると総厚があがりコストアップとなるからである。一方、アウター層132の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜13の総厚を一定とし、この中でコア層131の厚みを調整することもできる。
【0084】
なお、中間膜13の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜13の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。
【0085】
中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。
【0086】
<3.遮蔽層>
図7に示すように、合わせガラス10の内側ガラス板には、黒などの濃色のセラミックに遮蔽層4が積層されている。遮蔽層4の構成は特には限定されないが、例えば、
図5に示すように、内側ガラス板12の周縁部に沿って配置される枠形の周縁部41と、周縁部41のうち、内側ガラス板12の上辺に沿う部分の中央付近から下方に延びる矩形状の延在部42と、を備えている。この延在部42には、カメラ用の撮影窓421が形成されており、車内側に設けられた車載カメラ(図示省略)によって車外を撮影することができるようになっている。あるいは、各種のセンサを設けることで、撮影窓421を介して、車外からの光、信号などを受信することができる。また、この延在部42によって、カメラを支持するブラケットが車外から見えるのを隠すこともできる。
【0087】
遮蔽層4は、内側ガラス板12の車内側の面のみに積層するほか、例えば、外側ガラス板11の内面のみ、または外側ガラス板11の内面と内側ガラス板12の内面、など種々の態様が可能である。また、セラミック、種々の材料で形成することができるが、例えば、以下の組成とすることができる。
【0088】
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0089】
セラミックは、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムをガラス板に転写し焼成することにより作製することも可能である。スクリーン印刷を採用する場合、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、セラミックを形成することができる。
【0090】
なお、遮蔽層4は、セラミックを積層するほか、濃色の樹脂製の遮蔽フィルムを貼り付けることで形成することもできる。
【0091】
<4.第1機能層>
第1機能層2は、第1実施形態と同じものを用いることができるので、詳しい説明は省略する。第1機能層2は、内側ガラス板12の車内側の面の全面には積層されていない。すなわち、
図8に示すように、第1機能層2は、遮蔽層4の周縁部41の外縁付近には積層されず、遮蔽層4が露出している。この部分が第1非積層領域(第1領域)40となる。また、内側ガラス板12の車内側の面において、遮蔽層4が積層されていない領域についても、一部の領域には第1機能層2が積層されておらず、第2非積層領域(第2領域、図示省略)を形成している。
【0092】
第1非積層領域40には、接着剤が塗布され、これによってウインドシールドが車体に取り付けられる。そのため、接着剤の塗布を阻害するおそれのある第1機能層2が、遮蔽層4の一部に積層されないようになっている。また、第2非接触領域には、車検のステッカーなど、各種のシートが貼られるため、第1機能層2が積層されていない。なお、車検のステッカーはJIS R3212で定める試験領域Bの範囲外で貼付されることが多く、第2非接触領域は、そのような領域の外に設けられてもよい。
【0093】
第1機能層2の積層方法は、特には限定されないが、例えば、第1実施形態と同じにすることができる。
【0094】
<5.ウインドシールドの製造方法>
次に、上記のように構成されたウインドシールドの製造方法の一例について説明する。まず、合わせガラス10の製造方法について説明する。
【0095】
まず、平板状の外側ガラス板11及び内側ガラス板12の少なくとも一方に、上述した遮蔽層4を積層する。次に、これらのガラス板11,12が湾曲するように成形する。成形の方法は、特には限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、平板状のガラス板が加熱炉を通過した後、上型と下型によってプレスすることで、湾曲した形状に成形することができる(プレス法)。あるいは、平板状のガラス板を枠型の成形型上に配置し、加熱炉を通過させる。これにより、ガラス板が軟化し、自重によって湾曲した形状に成形される(自重法)。
【0096】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が湾曲状に成形されると、これに続いて、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能である。例えば、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、オーブンにより45~65℃で加熱する。続いて、この合わせガラスを0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラスを、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0097】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。最後に、上述したように、内側ガラス板12の車内側の面に第1機能層2を積層する。こうして、本実施形態に係るウインドシールドが製造される。
【0098】
<6.特徴>
以上説明したウインドシールドによれば、第1機能層2が防汚性能を有しているため、第1実施形態と同様に、汚れが付着するのを防止できたり、あるいは汚れが付着しても簡単に除去することができる。
【0099】
<C.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0100】
<1>
上記各実施形態の車両用窓ガラスにおいては、車内側の面にのみ第1機能層を積層しているが、これに限定されず、同一の材料で形成された機能層を車外側の面に積層することもできる。この場合、例えば、第2実施形態のウインドシールドにおいては、車内側においては、上述したとおり、第1機能層2が積層される領域が規定されるが、車外側の面においては、例えば、全面に第1機能層2を積層することできる。したがって、ウインドシールドにおいては、車内側の面と車外側の面とで、第1機能層2が積層される領域が相違することがある。一方、サイドガラスの車外側の面に第1機能層を積層する場合には、車内側の面と車外側の面とで、第1機能層2が積層される領域を同じにすることができる。
【0101】
上述した組成の第1機能膜は、撥水性能も有するため、車外側の面に積層すると、雨等に対する撥水性能を奏する。
【0102】
<2>
第1実施形態のサイドガラスは、車内側が凹となるように湾曲しているが、例えば、バスなどの車両用に、平板状に形成することもできる。平板状の場合、第1機能層2を両面に塗ってもよい。この場合、バスなどの車両への取付時に、逆に取り付けるミスを回避する事ができる。
【0103】
<3>
上記各実施形態の車両用窓ガラスにおいては、所定の表示を打刻することができる。所定の表示とは、例えば、車両・ガラスメーカ名、品番、及びJISマーク等のマーク、文字、図形、記号等であり、サンドブラスト法などでガラス板の表面に打刻される。このような表示は、車内側の面、あるいは車外側の面のいずれに形成してもよく、あるいは両面に形成することもできる。なお、このような表示は、ガラス板を所定の形状に切断する前に打刻することができる。
【0104】
<4>
上記各実施形態の車両用窓ガラスにおいては、第1機能層2とガラス板との間には、他の機能層(第2機能層)を積層することができる。第1機能層2は、単分子膜であるので、水分が進入するおそれがある。そこで、例えば、公知の赤外線カット膜、紫外線カット機能膜、低反射機能膜、Low-e膜、防曇膜などの膜を積層すると、水分の進入を防止することができる。特に、吸水性の防曇膜を設けると、進入した水分を吸収することができる場合がある。このような場合に、例えば、防曇膜を設けても防曇機能を担保することができる。また、これらの膜により第1機能層2に傷が付くのを防止することもできる。さらに、微粒子やLow-eのように表面に凹凸が存在するのであれば、指紋汚れがとれにくいという課題があるが、第1機能層2が設けられることで、指紋汚れが付きにくいとの効果がある。
【0105】
<5>
上記各実施形態の車両用窓ガラスにおいて車外側の面に積層される第1機能層2とガラス板との間には、下地層を積層することができる。これにより、第1機能層2の剥がれを抑制することができる。下地層は、公知のものを用いることができるが、例えば、蒸着したシリカにより形成することができる。
【0106】
<6>
ガラス板の形状は特には限定されず、種々の形状にすることができる。また、上記各実施形態では、本発明に係る自動車用窓ガラスを昇降可能なサイドガラスやウインドシールドに適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、昇降しない固定のサイドガラス、リアガラスにも適用することもできる。また、例えば、デフォッガやアンテナ導線が設けられた自動車用窓ガラスに、第1機能層2を塗布することで、変色対策や断線対策としても好適である。
【0107】
<7>
第1機能層2は、上述した塗布方法に限定されるものではなく、例えば、作業者が手で塗ってもよい。
【実施例】
【0108】
以下、本発明に係る実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0109】
まず、実施例及び比較例に用いるガラス板及び第1機能層を以下通り準備した。
【0110】
(1)ガラス板
大きさが1000×500mm、厚みが3mmの、矩形状のフロートガラス板を準備した。また、このガラス板は湾曲しており、凹面の曲率半径が650mmであった。
【0111】
(2)第1機能層
実施例1にかかるガラス板の凹面に塗布する第1機能層として、信越化学工業株式会社製KY-1901をフッ素系溶媒に溶解した撥水剤を準備し、上記ガラス板に対し、スプレーにより塗布し、その後、上記第1実施形態で示したのと同様に、乾燥した。この撥水剤は、カップリング剤としてのアルコキシシリル基、を含有し、平均分子量が1,000以上である。
【0112】
実施例2にかかるガラス板の凹面に塗布する第1機能層として、ダイキン工業株式会社製オプツールUD120を、混合溶媒としてフッ素系溶媒NOVEC7300とシリコーン系溶媒KF-96L-1csとを質量比で7:3で混合した溶媒に溶解した撥水剤を準備し、上記ガラス板に対し、スプレーにより塗布し、その後、上記第1実施形態で示したのと同様に、乾燥した。この撥水剤は、カップリング剤としてのアルコキシシリル基、を含有し、平均分子量が1,000以上である。
【0113】
実施例3にかかるガラス板の凹面に塗布する第1機能層として、ダイキン工業株式会社製オプツールUD120をフッ素系溶媒AC6000に溶解した撥水剤を準備し、実施例1と同様に塗布乾燥した。
【0114】
実施例4にかかるガラス板の凹面に塗布する第1機能層として、ダイキン工業株式会社製オプツールUD120を、混合溶媒としてフッ素系溶媒AC6000とシリコーン系溶媒KF-96L-1csとを質量比で7:3で混合した溶媒に溶解した撥水剤を準備し、上記ガラス板に対し、スプレーにより塗布し、その後、上記第1実施形態で示したのと同様に、実施例1と同様に塗布乾燥した。
【0115】
一方、比較例にかかるガラス板には、第1機能層を積層していない。
【0116】
(3)評価1
実施例1~4及び比較例に対し、上述した拭き取り試験を行い、ヘイズ率を測定した。結果は、以下の通りである。
【表2】
【表3】
【0117】
(4)評価2
ISO6452に準じて可塑剤(DOP:プラスチゾルの可塑剤)をガラス板に付着させた。その後、上述した拭き取り試験と同様に、拭き取りを行い、ヘイズ率を測定した。結果は以下の通りである。
【表4】
【0118】
(5)評価3
ガラス板上に、注射器からオレイン酸を適量押し出し、ガラス板の表面に付着させる。そして、3個の実施例1~4及び比較例に対し、オレイン酸の接触角を測定した。結果は、以下の通りである。
【表5】
【0119】
(6)評価4
3個の実施例1~4及び比較例に対し、上述した動摩擦係数の算出を行った。結果は、以下通りである。
【表6】
【0120】
(7)評価5
10×10mmのスチールウールを1kgの荷重で実施例1~4及び比較例に押しつけ、50mmの距離を120mm/sの速度で移動させた。そして、3000回の移動後、表面を観察したところ、実施例1~4には目立った傷は生じていなかった。一方、比較例では、
図9の矢印に示す箇所のような傷が生じた。
【0121】
(8)考察
評価1について、実施例1~4は、200回の拭き取りで、ヘイズ率が0.6となっている。したがって、汚れを拭き取りやすいことが分かった。一方、比較例は、400回の拭き取り後でもヘイズ率が11となっており、汚れを拭き取りにくいことが分かった。したがって、第1機能層により防汚性能を奏していることが分かった。また、この点は、評価2でも同様であり、付着した可塑剤の拭き取りについても、本発明が有効であることが分かった。
【0122】
評価3について、オレイン酸がガラス板に付着すると、接触角が低くなるが、実施例1~4のように第1機能層が積層されていると、接触角が低下しないことが分かった。
【0123】
評価4について、第1機能層を設けることで、動摩擦係数が小さくなることが分かった。さらに、評価5で示すように、第1機能層を設けることで、傷が生じにくいことも分かった。
【符号の説明】
【0124】
1 ガラス板
2 第1機能層