(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】絞り成形用金型
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20241220BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20241220BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20241220BHJP
B21D 53/00 20060101ALI20241220BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20241220BHJP
【FI】
B21D24/00 H
B21D22/20 G
B21D37/20 Z
B21D53/00 D
H01M50/105
(21)【出願番号】P 2021087394
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】南堀 勇二
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-044223(JP,A)
【文献】特開2003-126919(JP,A)
【文献】特開2002-178046(JP,A)
【文献】特開2017-047432(JP,A)
【文献】特開平08-090092(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0069221(KR,A)
【文献】特開平10-137861(JP,A)
【文献】特開2004-315876(JP,A)
【文献】日本弗素樹脂工業会・環境委員会,ふっ素樹脂製品取扱マニュアル,日本,日本弗素樹脂工業会,2021年12月31日
【文献】セルテスDLCコーティング,日本,ナノコート・ティーエス株式会社,2013年04月30日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/00
B21D 22/20
B21D 37/20
B21D 53/00
H01M 50/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面側に開口する成形孔が設けられたダイスと、前記ダイスの一面側に対応して設けられたパンチとを備え、金属箔層の少なくとも片面側に樹脂層が設けられたラミネート材を前記ダイスの一面に配置した状態で、前記成形孔に圧入した前記パンチによってラミネート材を凹状に絞り加工して絞り成形品を成形するための絞り成形用金型であって、
ラミネート材と接触する前記パンチの先端側表面に易滑面が形成され、
前記易滑面におけるラミネート材に対する動摩擦係数が0.3以下に設定されるとともに、前記易滑面のビッカース硬さが200HV以上に設定されていることを特徴とする絞り成形用金型。
【請求項2】
前記パンチの先端側表面の少なくとも外周縁部が、前記易滑面に形成されている請求項1に記載の絞り成形用金型。
【請求項3】
前記パンチは、パンチ本体と、そのパンチ本体の先端側表面を覆うように設けられた易滑被膜とを備え、前記易滑被膜の表面によって前記易滑面が形成されている請求項1または2に記載の絞り成形用金型。
【請求項4】
前記易滑被膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜によって構成されている請求項3に記載の絞り成形用金型。
【請求項5】
前記易滑被膜の厚さが0.1μm~3μmに設定されている請求項3または4に記載の絞り成形用金型。
【請求項6】
前記ダイスの成形孔内周面におけるビッカース硬さが200HV以上に設定され、
前記ダイスの成形孔内周面におけるラミネート材に対する動摩擦係数が、前記易滑面の動摩擦係数よりも大きく設定されている請求項1~5のいずれか1項に記載の絞り成形用金型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の絞り成形用金型を用いて、ラミネート材を凹状に絞り加工することよって、凹部が形成された絞り成形品を製造するようにしたことを特徴とする絞り成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の絞り成形用金型を用いて、ラミネート材を凹状に絞り加工することよって、凹部が形成された蓄電モジュール用包材を製造するようにしたことを特徴とする蓄電モジュール用包材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属箔層および樹脂層を含むラミネート材を成形素材として得られる深絞り成形品、例えば蓄電モジュール用の包材、食品用の容器、ブリスターパック等の薬品用の包材等を製造する際に用いられる絞り成形用金型、絞り成形品の製造方法および蓄電モジュール用包材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の蓄電モジュール(バッテリー装置)用のケーシングとしての包材(筐体)には、内部に電池等の蓄電デバイスを収納するための空間部(電池収納凹部)が設けられている。このような蓄電モジュール用の包材を製作するに際して、ラミネートシート(ラミネート材)を成形素材とする凹部付きの絞り成形品を利用する技術が提案されている。この包材は、冷間成形等によって凹部(電池収納部)を成形するものであるが、電池収納凹部の空間容量を大きくして、高容量タイプやハイパワーに対応する蓄電デバイスを収納することが望まれている。包材の電池収納凹部の空間容量を大きくするには、包材の成形性を向上させる方法が挙げられる。特に1枚のラミネート材に対し、2つの電池収納凹部を同時に成形するようなダブルカップ形状の成形品を作製する際には、2つの絞り加工部間にシワ等の成形不良が生じ易く、成形性をさらに向上させる必要がある。
【0003】
従来、ラミネート材を成形素材として成形品を成形する場合、成形性を向上させるには、下記特許文献1に示すようにラミネート材の保護層(樹脂層)にフィラーを添加したり、下記特許文献2に示すように熱融着層(樹脂層)に滑材を添加して、ラミネート材自体の表面改質を行うことにより、ラミネート材表面の滑り性をコントールして成形性を向上させるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6828777号
【文献】特許第6808916号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2に示す従来の成形方法においては、ラミネート材によって、あるいはラミネート材の部位(場所)によって、表面改質状態にバラツキがあり、安定した成形性を得ることが困難であるという課題があった。
【0006】
また成形素材としてのラミネート材は多種多様であるため、全てが同じ処理条件で製造されるものではなく例えば、エージング等の処理条件によっては良好な成形性を得ることができないという課題もあった。
【0007】
その一方、ラミネート材を絞り加工するには、絞り成形用金型を用いているが、当然のことながら、金型の繰り返し使用による短期間での劣化を防止して耐久性の向上を図ることも切望されている。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、十分な耐久性を確保しつつ、良好な成形性を安定して得ることができる絞り成形用金型、絞り成形品の製造方法および蓄電モジュール用包材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0010】
[1]一面側に開口する成形孔が設けられたダイスと、前記ダイスの一面側に対応して設けられたパンチとを備え、金属箔層の少なくとも片面側に樹脂層が設けられたラミネート材を前記ダイスの一面に配置した状態で、前記成形孔に圧入した前記パンチによってラミネート材を凹状に絞り加工して絞り成形品を成形するための絞り成形用金型であって、
ラミネート材と接触する前記パンチの先端側表面に易滑面が形成され、
前記易滑面におけるラミネート材に対する動摩擦係数が0.3以下に設定されるとともに、前記易滑面のビッカース硬さが200HV以上に設定されていることを特徴とする絞り成形用金型。
【0011】
[2]前記パンチの先端側表面の少なくとも外周縁部が、前記易滑面に形成されている前項1に記載の絞り成形用金型。
【0012】
[3]前記パンチは、パンチ本体と、そのパンチ本体の先端側表面を覆うように設けられた易滑被膜とを備え、前記易滑被膜の表面によって前記易滑面が形成されている前項1または2に記載の絞り成形用金型。
【0013】
[4]前記易滑被膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜によって構成されている前項3に記載の絞り成形用金型。
【0014】
[5]前記易滑被膜の厚さが0.1μm~3μmに設定されている前項3または4に記載の絞り成形用金型。
【0015】
[6]前記ダイスの成形孔内周面におけるビッカース硬さが200HV以上に設定され、
前記ダイスの成形孔内周面におけるラミネート材に対する動摩擦係数が、前記易滑面の動摩擦係数よりも大きく設定されている前項1~5のいずれか1項に記載の絞り成形用金型。
【0016】
[7]前項1~6のいずれか1項に記載の絞り成形用金型を用いて、ラミネート材を凹状に絞り加工することよって、凹部が形成された絞り成形品を製造するようにしたことを特徴とする絞り成形品の製造方法。
【0017】
[8]前項1~6のいずれか1項に記載の絞り成形用金型を用いて、ラミネート材を凹状に絞り加工することよって、凹部が形成された蓄電モジュール用包材を製造するようにしたことを特徴とする蓄電モジュール用包材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
発明[1]の絞り成形用金型によれば、パンチ先端側表面に易滑面を形成してその表面の動摩擦係数を低下させているため、成形時にラミネート材がパンチ先端側表面に沿って無理なく回り込むように変形し、引張応力等が局部的に集中して作用するような不具合がなく、ラミネート材を所望の形状に精度良く適確に加工でき、良好な成形性を安定して得ることができる。またパンチ先端側表面に十分な強度を確保しているため、耐久性の向上を図ることができる。
【0019】
発明[2]の絞り成形用金型によれば、ラミネート材において成形時に特に応力が集中し易い部分に対応する、パンチ先端側表面の外周縁部に易滑面を形成しているため、成形性をより一層向上させることができる。
【0020】
発明[3]~[5]の絞り成形用金型によれば、パンチ本体に易滑被膜を形成するだけで簡単に易滑面を形成でき、ひいては金型製作を簡単かつ効率良く行うことができる。
【0021】
発明[6]の絞り成形用金型によれば、ダイス内周面におけるラミネート材に対するグリップ力を確保できるため、成形時にラミネート材が位置ずれするのを防止できて、安定した成形性をより確実に得ることができる。
【0022】
発明[7]の絞り成形品の製造方法によれば、上記発明の絞り成形用金型を用いるものであるため、上記と同様の効果を得ることができる。
【0023】
発明[8]の蓄電モジュール用包材の製造方法によれば、上記発明の絞り成形用金型を用いるものであるため、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1はこの発明の第1実施形態である絞り成形用金型を示す正面断面図である。
【
図2】
図2は第1実施形態の絞り成形用金型のダイスを示す下面図(一面図)である。
【
図3】
図3は第1実施形態の絞り成形用金型のパンチを示す平面図である。
【
図4】
図4は第1実施形態の絞りパンチの構成を説明するための正面断面図である。
【
図5A】
図5Aは第1実施形態の絞り成形用金型による成形素材としてのラミネート材を模式化して示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは第1実施形態の絞り成形用金型によって成形された絞り成形品を示す斜視図である。
【
図6】
図6は第1実施形態の絞りパンチの変形例の構成を説明するための正面断面図である。
【
図7】
図7はこの発明の第2実施形態である絞り成形用金型を示す正面断面図である。
【
図8】
図8は第2実施形態の絞り成形用金型のダイスを示す下面図(一面図)である。
【
図9】
図9は第2実施形態の絞り成形用金型のパンチを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態である絞り成形用金型を示す正面断面図である。同図に示すように本第1実施形態の絞り成形用金型は、ダイス1と、パンチ2と、ブランクホルダー3とを備え、
図5Aに示すようにラミネート材(ラミネートシート)Lである成形素材に対し凹状に絞り加工することによって、
図5Bに示すように凹部51が形成された絞り成形品5を成形するものである。
【0026】
図5Aに示すように本実施形態で用いられる成形素材としてのラミネート材Lは、アルミニウム箔等の金属箔層61と、その金属箔の一面(内面)に積層された熱融着性の樹脂層62と、金属箔層の他面(外面)に積層された耐熱性の樹脂層63とを備えている。本実施形態の絞り成形品5においては、ラミネート材Lにおける一面側の熱融着性樹脂層(一面側樹脂層)62が凹部51の内周面側に配置されるように成形されている。
【0027】
なお本実施形態においては、ラミネート材Lとして3層構造のものを採用しているが、それだけに限られず、本発明においては、金属箔層の少なくとも片面に樹脂層が設けられてさえいれば、2層構造のものでも、4層以上の構造のものでも用いることができる。もっとも本発明においては、金属箔層を含み、かつ一面側(内面側)および他面側(外面側)の両側に樹脂層が設けられた3層以上の構造のものを用いるのが好ましい。
【0028】
図1および
図2に示すように絞り成形用金型のダイス1は、軸心方向(
図1の上下方向)に貫通した下面視(平面視)矩形状の成形孔11を有している。
【0029】
ダイス1の一面側(
図1の下面側)には、ブランクホルダー3が設けられている。ブランクホルダー3は、軸心方向に貫通し、かつダイス1の成形孔11に対応する平面視矩形状のパンチ挿通孔31を有している。このブランクホルダー3は、そのパンチ挿通孔31を成形孔11に対し軸心を一致させた状態でダイス1の一面に対し接離可能に構成されている。これにより成形素材としてのラミネート材Lの中間部をダイス1の成形孔11に対応させて配置した状態で、ラミネート材Lの外周縁部をダイス1およびブランクホルダー3によって挟持することにより、ラミネート材Lを保持できるように構成されている。
【0030】
図1および
図3に示すようにダイス1の一面側(下面側)に対応して配置されるパンチ2は、ダイス1の成形孔11に対応して平面視矩形状に形成されており、成形孔11に対し軸心を一致させた状態で可動軸25によって軸心に沿って移動自在となるように支持されている。そして可動軸25が軸心に沿って移動することにより、パンチ2がブランクホルダー3のパンチ挿通孔31を通じてダイス1の成形孔11にその一面側(下面側)から圧入されるように構成されている。
【0031】
従ってパンチ2およびブランクホルダー3によって
図5Aに示すラミネート材Lを挟持した状態で、パンチ2を成形孔11内に圧入させると、そのパンチ2によって、ラミネート材Lが一面側(下面側)から凹状に絞り加工されて、絞り成形品5が製作される。この絞り成形品5は既述した通り(
図5B参照)、凹部51の開口縁部に外方に張り出すように形成されたフランジ部52を備え、例えばフランジ部52が適当なサイズに切断されて、蓄電モジュールのケーシングである包材(筐体)として用いられる。
【0032】
本実施形態の絞り成形用金型におけるパンチ2は、ダイス1の成形孔11に対応する側(
図1の上面側)を先端側として、先端側表面(先端面および外周側面)が易滑面22に形成されている。具体的には
図4に示すように、パンチ2は、パンチ本体20と、パンチ本体20の先端面から外周側面にかけての領域全域に連続して設けられ、かつその領域全域を覆う易滑被膜(易滑層)21とによって構成されており、この易滑被膜21の表面によって易滑面22が形成されている。
【0033】
なお
図4においては発明の理解を容易にするため、易滑被膜21の厚さを誇張して示しているが、実質的には易滑被膜21の厚さは無視できる程度の厚さであり、パンチ2のサイズとパンチ本体20のサイズとはほぼ同じと考えて良い(以下の
図6においても同じ)。
【0034】
本実施形態において、易滑面22におけるラミネート材Lの一面側(内面側)の熱融着性樹脂層62に対する動摩擦係数を0.3以下に設定する必要があり、好ましくは0.2以下に設定するのが良い。すなわちパンチ2の易滑面22の動摩擦係数を上記の規定値のように低く設定する場合には、ラミネート材Lの表面状態にかかわらず、成形時にパンチ2の外表面(易滑面22)がラミネート材Lの熱融着性樹脂層62に対し密着固定せず適度に滑り接触するため、成形時に成形素材としてのラミネート材Lがパンチ先端側表面に沿ってスムーズに回り込むように変形し、ラミネート材Lに作用する引張応力が適度に分散されて、多大な変形応力が局部的に集中して作用するのを防止することができる。このためラミネート材Lを所望の形状に無理なく加工でき、良好な成形性を安定して得ることができる。
【0035】
本発明においては、パンチ2のラミネート材Lの接触面である先端側表面のうち少なくとも一部に易滑被膜21を形成するようにすれば良い。
【0036】
もっとも本発明では特に成形時に、ラミネート材Lにおいて、パンチ2の先端側表面における外周縁部(先端面および外周側面とのコーナー部)に対応する位置に応力が集中し易いため、少なくともこのコーナー部を易滑面22に形成するのが好ましい。例えば
図6に示すようにパンチ本体20の先端側表面の外周縁部のみに易滑被膜21を形成したパンチ2を採用することも可能である。このパンチ2を用いた場合においても上記と同様に、絞り成形によってラミネート材Lを無理なく加工できて、良好な成形性を安定して得ることができる。その上さらに、易滑被膜21をパンチ先端側表面の外周縁部のみに部分的に形成する場合には、易膜被膜21の形成領域を少なくでき、その分、コストを削減できるとともに、効率良く簡単に易滑被膜21を形成することができ、ひいてはパンチ2を低コストで効率良く簡単に作製することができる。
【0037】
なお
図6に示すパンチ2においては、パンチ本体20の先端面中央部に、空気抜き等を考慮して凹部26が形成されている。
【0038】
本実施形態において、易滑被膜21の種類(被膜種)としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)被膜、ニッケル-フッ素樹脂共析被膜、フッ素樹脂含浸クロムメッキ被膜等を好適例として挙げることができ、中でも特にDLC被膜を用いるのが好ましい。
【0039】
DLCの成膜方法としては、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタ法、真空アーク蒸着法等を用いることができ、中でもプラズマCVD法、真空アーク蒸着法を用いるが好ましい。
【0040】
また、ニッケル-フッ素樹脂共析被膜、フッ素樹脂含浸クロムメッキ被膜の形成方法としては、メッキ処理を用いることができる。
【0041】
本実施形態において易滑被膜21の厚さは、0.1μm~10μmに調整するのが好ましい。特にDLC被膜の場合には0.1μm~3μmに調整するのが好ましい。この膜厚が薄過ぎる場合には、十分な強度や十分な滑り性を確保することができず、耐久性の低下や成形性の低下を来すおそれがある。また膜厚が厚過ぎる場合には、金型の寸法精度に悪影響を及ぼすことがあり、高精度の成形品を作製するのが困難になるばかりか、被膜材料の使用料が増えるため、コストも増大するおそれがある。
【0042】
また本実施形態においては、パンチ2の易滑面22におけるビッカース硬さ(JIS Z2244:2009の「ビッカース測定法」に準拠)を200HV(kgf/mm2)に設定する必要がる。すなわち易滑面22の強度を上記の規定値のように高く設定する場合には、パンチ2がプレス加工(絞り加工)に対して十分な強度を確保でき、金型の繰り返し使用による短期間での劣化を有効に防止でき、耐久性を向上でき、ひいてはコストを削減することができる。
【0043】
参考までに、従来のパンチ2における先端側表面のビッカース硬さは、300HV(kgf/mm2)~500HV(kgf/mm2)程度に設定されている。
【0044】
一方、本実施形態において、パンチ本体20の材質は、プリハードン鋼または炭素工具鋼等の加工し易い鋼材によって構成されている。このような鋼材によって構成されたパンチ本体20の表面に、上記のように易滑被膜21を形成することによってパンチ2が形成されている。
【0045】
ところで本実施形態において、ダイス1の成形孔11の内周面においても、ラミネート材Lに対しある程度の滑り性は必要であるが、滑り性よりもグリップ性を優先して、成形時にラミネート材Lに位置ずれが生じないようにするのが好ましい。従ってダイス1の成形孔内周面にけるラミネート材Lに対する動摩擦係数をあえて低下させる必要がなく、さらに成膜によるにコストの増大や、成膜による寸法精度の低下等を考慮すると、ダイス1側には上記のような易滑被膜21等の被膜を形成しない方が良い。
【0046】
具体的にダイス1の成形孔内周面におけるラミネート材Lの耐熱性樹脂層(外面側樹脂層)63に対する動摩擦係数は、0.4以上1.5以下(0.4~1.5)であるのが良く、より好ましくは1以下であるのが良い。
【0047】
特に本実施形態においてはダイス1の成形孔内周面の動摩擦係数を、パンチ2の易滑面22の動摩擦係数よりも大きく設定している。換言すると、ダイス1の成形孔内周面の動摩擦係数を「μd」とし、パンチ2の易滑面22の動摩擦係数を「μp」としたとき、「μd>μp」の関係を成立させるのが好ましい。
【0048】
ここでダイス1の内周面およびパンチ2の易滑面22の動摩擦係数の測定は、JIS K7125に準拠して行うことができる。この際、ダイス1やパンチ2は立体形状であるため、試験片として、縦80mm×横200mm、厚さ2.5mmのダイス鋼における動摩擦係数測定面に、必要に応じて所定の条件で被膜(易滑被膜等)を形成したものを準備する。一方、その試験片の相手材として、必要に応じてラミネート材をその測定対象面が外表面となるように巻き付けた滑り片を準備する。そして上記試験片の測定面に対する滑り片の動摩擦係数を、JIS K7125に準拠して測定するものである。なお、後に説明する実施例および比較例においても同様に動摩擦係数を測定している(ただし、比較例1、3についてはパンチ側の試験片に被膜は形成せず、また実施例1,3~6,比較例1,2についてはダイス側の試験片に被膜は形成していない)。
【0049】
また本実施形態では、ダイス1においてもパンチ2と同様、成形孔内周面におけるビッカース硬さ(JIS Z2244:2009の「ビッカース測定法」に準拠)を200HV(kgf/mm2)以上に設定するのが好ましい。この場合には、プレス加工(絞り加工)に対して十分な強度を確保でき、金型の繰り返し使用による短期間での劣化を有効に防止でき、耐久性を向上でき、ひいてはコストを削減することができる。
【0050】
以上のように本実施形態の絞り成形用金型においては、パンチ先端側表面に易滑面22を形成してパンチ先端側表面の動摩擦係数を低下させているため、成形時にラミネート材Lがパンチ先端側表面に沿って無理なく回り込むように変形し、引張応力等の変形応力が局部的に集中して作用するような不具合がなく、ラミネート材Lを所望の形状に精度良く確実に加工でき、良好な成形性を安定して得ることができる。
【0051】
さらに本実施形態においては、パンチ本体20の表面に易滑被膜21を形成するだけで簡単に易滑面22を形成することができる。
【0052】
また本実施形態においては、ダイス内周面およびパンチ表面に十分な強度を確保しているため、耐久性の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0053】
また本実施形態においては、ダイス内周面の動摩擦係数μdをパンチ表面の動摩擦係数μpよりも大きく設定しているため、成形時においてラミネート材Lの位置ずれを防止しつつラミネート材Lを無理なく絞り加工でき、寸法精度の高い高品質の絞り成形品5を確実に得ることができる。
【0054】
なお上記実施形態においては、ダイス1として、成形孔11が貫通したものを採用しているが、それだけに限られず、本発明においては、ダイスとして、成形孔が底壁(天壁)を有する凹部状に形成されたものを採用するようにしても良い(以下の第2実施形態においても同じ)。
【0055】
<第2実施形態>
上記第1実施形態の絞り成形用金型(
図1~
図3参照)は、1回のプレス加工によって1枚のラミネート材Lから1つの絞り成形品5を成形するようにした、いわゆるシングルカップ成形用金型であるが、
図7~
図9に示すように本第2実施形態の絞り成形用金型は、1回のプレス加工によって1枚のラミネート材Lから2つの絞り成形品5を同時に成形できるようにした、いわゆるダブルカップ成形用金型である。
【0056】
すなわち
図7~
図9に示すように本第2実施形態の絞り成形用金型においては、ダイス1に2つの成形孔11が互いの短辺同士が向かい合うように並列配置に形成されるとともに、ダイス1の一面(下面)に接離可能なブランクホルダー3に、ダイス1の2つの成形孔11に対応して、2つのパンチ挿通孔31が並列配置に形成されている。さらにダイス1の一面側(下面側)における2つの成形孔11に対応して、2つのパンチ2が設けられている。
【0057】
この第2実施形態の絞り成形用金型において他の構成は、上記第1実施形態の絞り成形用金型と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0058】
この第2実施形態の絞り成形用金型においては、ダイス下面側に2つの成形孔11にまたがって1枚のラミネート材Lが配置されるようにして、そのラミネート材Lをダイス1およびブランクホルダー3によって挟持して保持する。その状態で、2つのパンチ2をブランクホルダー3の2つのパンチ挿通孔31を介してダイス1の2つの成形孔11に圧入して、1枚のラミネート材Lの2か所に絞り加工することにより、2つの絞り加工部(2つの絞り成形品5)が連接された絞り素形材を成形する。そしてこの絞り素形材を、絞り加工部間の連接部を切断することによって、互いに独立した2つの絞り成形品5を製作するものである。
【0059】
この第2実施形態の絞り成形用金型においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
その上さらに本実施形態のダブルカップ成形用金型では、成形直後の絞り素形材における2つの絞り加工部間の連接部にシワ等の成形不良が生じ易いが、本第2実施形態の成形用金型においては上記第1実施形態と同様、成形性に優れているため、連接部にシワ等の成形不良が発生するのを有効に防止でき、寸法精度が高い高品質の絞り素形材、ひいては高品質の絞り成形品5を確実に得ることができる。
【0061】
なお言うまでもなく、本発明においては1回の成形によって3つ以上の絞り加工部を成形するようにした絞り成形用金型にも適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下の手順(1)~(4)で成形素材としてのラミネート材(ラミネートシート)Lを準備した。
【0063】
(2)JIS H4160で規定したA8021-Oのアルミニウム合金からなる厚さ40μmの金属箔(金属箔層)61の両面に、リン酸、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、180℃で乾燥を行って、クロム付着量が片面当たり10mg/m2化成被膜を形成した。
【0064】
(2)上記の金属箔層の外面(他面)に、耐熱性樹脂層(他面側樹脂層)63として2軸延伸ナイロンフィルム(25μm)を2液硬化型ウレタン系接着剤(2μm)を介して積層した。
【0065】
(3)上記の金属箔層の内面(一面)に、熱融着性樹脂層(一面側樹脂層)62としてCPPフィルム(40μm)を2液硬化型オレフィン系接着剤(2μm)を介して積層した。
【0066】
(4)こうして得られた積層体(ラミネート素材)に対し、40℃環境下で10日間ヒートエージング処理を行って、成形素材サンプルとしてのラミネート材Lを作製した。
【0067】
<実施例1>
1.シングルカップ成形用金型
図1~
図3に示す上記第1実施形態の絞り成形用金型と同じ構成の絞り成形用金型(シングルカップ用金型)を作製した。
【0068】
すなわちダイス1として、矩形状の成形孔11が1つ設けられ、その成形孔11における短辺Ld1(
図2参照)が40.5mm、長辺Ld2が60.5mm、コーナーの曲率半径Rd2が2.25mm、開口縁部(肩部)の曲率半径Rd1(
図1参照)が1mmのものを準備した。
【0069】
パンチ本体20として、短辺Lp1(
図3参照)が40mm、長辺Lp2が60mm、コーナー部の曲率半径Rp2が2mm、先端面および外周側面間の肩部の曲率半径Rp1(
図1参照)が1mmのものを準備した。
【0070】
ブランクホルダー3として、パンチ挿通孔31がダイス成形孔11よりも少し大きいものを準備した。
【0071】
なおダイス1、パンチ本体20、ブランクホルダー3は、ステンレス鋼の削り出し加工によってそれぞれ作製した。
【0072】
【0073】
【0074】
パンチ本体20の先端面から外周側面にかけての領域(先端側正面)に連続状に易滑被膜21を形成した。表1に示すように、この易滑被膜21は、厚さ1μmのDLC被膜によって構成されており、高周波プラズマCVDによってブタジエンガスをベースとした原料ガスを用いて成膜したものである。
【0075】
こうしてパンチ本体20の表面に易滑被膜21を形成してパンチ2を作製した。表1に示すようにこのパンチ2の表面(易滑被膜21による易滑面22)は、ラミネート材Lの内面側樹脂層(熱融着性樹脂層)に対する動摩擦係数は0.1であり、ビッカース硬さは3000HVである。
【0076】
また表2に示すようにダイス1には、被膜等を形成しておらず、成形孔内周面におけるラミネート材Lの外面側樹脂層(耐熱性樹脂層)に対する動摩擦係数は0.5であり、ビッカース硬さは400HVである。
【0077】
このシングルカップ成形用金型を、25tのプレス機に取り付けた成形装置を用いて、100mm×100mmのサイズのラミネート材(成形素材)Lに対し、成形高さ(絞り深さ)を異ならせるように複数回の深絞り成形を行った。つまり、成形高さを5mmから0.5mm単位で徐々に高くなるようにして複数回の深絞り成形を行った。
【0078】
そして成形高さが8mm以上でも高い寸法精度の凹部(絞り加工部)が安定して得られた場合には「◎」と評価し、8mm未満(6mm以上)であれば高い寸法精度の凹部(絞り加工部)が安定して得られた場合には「〇」と評価し、6mm未満でしか、高い寸法精度の凹部(絞り加工部)が得られなかった場合には「×」と評価した。
【0079】
この実施例1のシングルカップ成形用金型においては表1の成形性(S)の欄に示すように「◎」の評価結果が得られた。
【0080】
またこの実施例1のシングルカップ成形用金型において、1000回プレス(絞り成形)を行った後、パンチ2の表面状態を観察した。そして使用前(プレス前)と比較して変化が認められなかった場合には「〇」と評価し、使用前に比べて、傷や凹み等の劣化が認められた場合には「×」と評価した。
【0081】
表1に示すようにこの実施例1のシングルカップ成形用金型においては「〇」の評価結果が得られた。
【0082】
2.ダブルカップ成形用金型
図7~
図9に示す上記第2実施形態の絞り成形用金型と同じ構成の絞り成形用金型(ダブルカップ成形用金型)を作製した。
【0083】
すなわちダイス1として、成形孔11が互いの短辺同士が向かい合うように2つ並列に設けられ、各成形孔11における短辺Ld1(
図8参照)が40.5mm、長辺Ld2が60.5mm、コーナーの曲率半径Rd2が2.25mm、開口縁部(肩部)の曲率半径Rd1(
図7参照)が1mmのものを準備した。
【0084】
またダイス1の2つの成形孔11に対応して2つのパンチ本体20を準備した。各パンチ本体20における短辺Lp1(
図9参照)は40mm、長辺Lp2は60mm、コーナー部の曲率半径Rp2は2mm、先端面および外周側面間の肩部の曲率半径Rp1(
図7参照)は1mmである。なおダイス1の2つの成形孔11の間隔は、2つのパンチ本体20の間隔L3(
図9参照)が10mmとなるように調整されている。
【0085】
さらにパンチ本体20の先端面から外周側面にかけて上記と同様にDLC被膜(易滑被膜)21を形成してパンチ2を作製した。
【0086】
またブランクホルダー3は、2つのダイス成形孔11に対応して2つのパンチ挿通孔31が形成されている。
【0087】
このダブルカップ成形用金型において、他の構成は上記シングルカップ成形用金型と同様である。
【0088】
このダブルカップ成形用金型を、25tのプレス機に取り付けた成形装置を用いて、100mm×200mmのサイズのラミネート材(成形素材)Lに対し、上記と同様に成形高さを0.5mm単位で徐々に高くなるようにして複数回の深絞り成形を行い、上記と同様の評価を行った。
【0089】
この実施例1のダブルカップ成形用金型においても表1の成形性(W)の欄に示すように「◎」の評価結果が得られた。
【0090】
このダブルカップ成形用金型においても上記シングルカップ成形用金型と同様に1000回のプレス後の耐久性を評価したところ、上記と同様「〇」の評価結果が得られた。
【0091】
<実施例2>
表1および表2に示すように、厚さ3μmのDLC被膜(易滑被膜21)が形成され、その表面の動摩擦係数が0.05のパンチと、成形孔内周面に厚さ0.5μmのDLC被膜が形成され、その内周面におけるラミネート材Lの外面側樹脂層(耐熱性樹脂層)に対する動摩擦係数が0.15のダイス1とを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例2のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0092】
この実施例2のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「◎」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0093】
<実施例3>
表1および表2に示すように、厚さ0.5μmのDLC被膜(易滑被膜21)が形成され、その表面の動摩擦係数が0.15のパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例3のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0094】
この実施例3のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「◎」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0095】
<実施例4>
表1および表2に示すように、易滑被膜21として厚さ10μmのフッ素含有ニッケル(Ni-PTFE)被膜がメッキ処理により形成され、その表面の動摩擦係数が0.2、ビッカース硬さが300HVのパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例4のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0096】
この実施例4のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「○」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0097】
<実施例5>
表1および表2に示すように、易滑被膜21として厚さ10μmのフッ素含有ニッケル(Ni-PTFE)被膜がメッキ処理により形成され、その表面の動摩擦係数が0.1、ビッカース硬さが800HVのパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例5のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0098】
この実施例5のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「○」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0099】
<実施例6>
表1および表2に示すように、易滑被膜21として厚さ10μmのフッ素含有クロム(Cr-PTFE)被膜がメッキ処理により形成され、その表面の動摩擦係数が0.3、ビッカース硬さが500HVのパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例6のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0100】
この実施例6のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「○」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0101】
<実施例7>
表1および表2に示すように、易滑被膜21として厚さ3μmのDLC被膜が形成され、その表面の動摩擦係数が0.1、ビッカース硬さが3000HVのパンチと、成形孔内周面に厚さ3μmのDLC被膜が形成され、その内周面の動摩擦係数が0.05、ビッカース硬さが3000HVのダイス1とを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、実施例7のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0102】
この実施例7のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性がシングルカップ成形用金型では「◎」、ダブルカップ成形用金型では「○」、耐久性は共に「○」の評価が得られた。
【0103】
<比較例1>
表1および表2に示すように、被膜が形成されず、表面の動摩擦係数が0.5、ビッカース硬さが400HVのパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、比較例1のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0104】
この比較例1のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「×」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0105】
<比較例2>
表1および表2に示すように、厚さ5μmのフッ素樹脂(PTFE)被膜が形成され、その表面の動摩擦係数が0.1、ビッカース硬さが5HVのパンチを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、比較例2のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0106】
この比較例2のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「◎」、耐久性が「×」の評価が得られた。
【0107】
<比較例3>
表1および表2に示すように、被膜が形成されず、表面の動摩擦係数が0.5、ビッカース硬さが400HVのパンチと、成形孔内周面に厚さ0.5μmのDLC被膜が形成され、その内周面の動摩擦係数が0.15のダイス1とを用い、それ以外は上記実施例1と同様にして、比較例3のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型を作製した。
【0108】
この比較例3のシングルカップ成形用金型およびダブルカップ成形用金型において上記実施例1と同様に、成形性および耐久性を評価したところ、表1に示すように成形性が「×」、耐久性が「○」の評価が得られた。
【0109】
<総評>
表1に示すように、本発明に関連した実施例1~7の金型においては、成形性および耐久性として良好な評価が得られた。特に易滑被膜21としてDLC被膜を用いた実施例1~3,7の金型においては、より一層優れた成形性が得られた。
【0110】
これに対し、本発明の要旨を逸脱する比較例1~3の金型においては、成形性および耐久性のいずれかの評価が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明の絞り成形用金型は、金属箔層に樹脂層が積層されたラミネート材を成形素材として得られる絞り成形品、例えば蓄電モジュール用の包材等を製造する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
1:ダイス
11:成形孔
2:パンチ
20:パンチ本体
21:易滑被膜
22:易滑面
5:絞り成形品
51:凹部
61:金属箔層
62,63:樹脂層
L:ラミネート材