(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20241220BHJP
D04B 7/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B7/00 102
(21)【出願番号】P 2021088191
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清原 千晴
(72)【発明者】
【氏名】山内 賢
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-072746(JP,A)
【文献】国際公開第2007/099709(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/133684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00- 1/28
3/00-19/00
21/00-21/20
23/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前針床と、前記前針床に対向する後針床と、第一編糸を給糸する前側給糸口と、第二編糸を給糸する後側給糸口とを備える横編機を用いて、
前記前側給糸口によって前記後針床に後編地部を編成し、前記後側給糸口によって前記前針床に前編地部を編成することで、前記前編地部と前記後編地部の編幅方向の端部において、前記第一編糸と前記第二編糸とを交差させて前記前編地部と前記後編地部とを接合する編地の編成方法において、
前記第一編糸と前記第二編糸とを交差させる際、前記前編地部の端部編目と前記後編地部の端部編目の一方が裏目、他方が表目となるように編成する編地の編成方法。
【請求項2】
前記横編機は、4つのカムシステムを搭載するキャリッジを備え、
前記キャリッジを一方向に移動させる間に前記前編地部と前記後編地部とを編成する請求項1に記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前側給糸口によって後針床に後編地部を編成し、後側給糸口によって前針床に前編地部を編成し、両編地部を接合する編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、前側給糸口によって後針床に後編地部を編成し、後側給糸口によって前針床に前編地部を編成することで編地を編成する方法が開示されている。前針床と後針床とは互いに対向している。前側給糸口は、後側給糸口よりも前針床側に配置されている。前側給糸口は第一編糸を給糸し、後側給糸口は第二編糸を給糸する。前側給糸口と後側給糸口の位置関係と、両給糸口の進行順とによって、前編地部と後編地部の編幅方向の端部において第一編糸と第二編糸とが交差する。この編糸の交差によって前編地部と後編地部とが接合される。特許文献1ではさらに、前編地部と後編地部との左右の境界にミス柄を形成することで、編糸の交差を目立たなくすると共に、左右の境界の見栄えを同じにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前編地部と後編地部との境界に形成されるミス柄は、両編地部の組織柄によっては目立ってしまう場合がある。その場合、特許文献1の編成方法とは別の編成方法によって、境界における編糸の交差を目立たなくしたいというニーズがある。
【0005】
本発明の目的の一つは、前編地部と後編地部とを接合するための編糸の交差を目立たなくできる編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の編地の編成方法は、
前針床と、前記前針床に対向する後針床と、第一編糸を給糸する前側給糸口と、第二編糸を給糸する後側給糸口とを備える横編機を用いて、
前記前側給糸口によって前記後針床に後編地部を編成し、前記後側給糸口によって前記前針床に前編地部を編成することで、前記前編地部と前記後編地部の編幅方向の端部において、前記第一編糸と前記第二編糸とを交差させて前記前編地部と前記後編地部とを接合する編地の編成方法において、
前記第一編糸と前記第二編糸とを交差させる際、前記前編地部の端部編目と前記後編地部の端部編目の一方が裏目、他方が表目となるように編成する。
【0007】
本発明の編地の編成方法の一形態として、
前記横編機は、4つのカムシステムを搭載するキャリッジを備え、
前記キャリッジを一方向に移動させる間に前記前編地部と前記後編地部とを編成する形態が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の編地の編成方法によれば、第一編糸と第二編糸とを交差させる際、前編地部と後編地部の境界を挟んで表目と裏目とが並ぶ。その結果、両編地部の境界の位置において、表目と裏目との間に段差が形成される。この段差に編糸の交差が隠れ易い。従って、本発明の編地の編成方法によって得られた編地では、前編地部と後編地部とを接合する編糸の交差が目立ち難い。また、表目と裏目とが並ぶことで形成される段差は、特許文献1のミス柄よりも目立ち難い。
【0009】
キャリッジを一方向に移動させる間に前編地部と後編地部を編成することで、極めて効率的に編地が編成される。例えば、一つの給糸口を用いた周回編成によって前編地部と後編地部とを編成する場合、キャリッジを往復させなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、4つのカムシステムを搭載するキャリッジの模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る編地の編成方法の第一編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る編地の編成方法を図面に基づいて説明する。
【0012】
<実施形態1>
本実施形態では、4枚ベッド横編機を用いた本発明の編地の編成方法の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。
【0013】
4枚ベッド横編機は、下部前針床と下部後針床と上部前針床と上部後針床とを備える。以下、下部前針床、下部後針床、上部前針床、及び上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、及びBUと表記する。FDとBDは互いに対向している。FDの上部に配置されるFUと、BDの上部に配置されるBUとは互いに対向している。4枚ベッド横編機はさらに、複数の給糸口とキャリッジとを備える。
図1の模式図を用いて、針床と給糸口とキャリッジの関係を簡単に説明する。
【0014】
図1は、横編機5の一部をFD側から見た模式図である。
図1では、FUの図示を省略している。横編機5に備わるキャリッジ6は、針床上を往復移動する。本例のキャリッジ6は、針床の長手方向に並ぶ4つのカムシステム6A,6B,6C,6Dを備える。各カムシステムは、FD、BD、FU、及びBUに対応するカムを有する。また、
図1では、複数の給糸口のうち、FD,FU側に配置される前側給糸口8と、前側給糸口8よりもBD,BU側に配置される後側給糸口9とが図示されている。給糸口8,9は、針床の上方に配置されるレール7に走行可能に取り付けられている。
【0015】
次に、
図1に示される横編機5を用いた編地の編成方法の一例を
図2及び
図3に基づいて説明する。
図2及び
図3の左欄の『S+数字』は編成工程の番号を示す。右欄には各編成工程における編目の編成状態が示されている。右欄における黒点は編針を、逆三角マークは前側給糸口8又は後側給糸口9を示している。直線矢印は目移しを示している。各編成工程において新たに編成された編目は太線で示されている。
【0016】
図1のS0には、FDに前編地部2が係止され、BDに後編地部3が係止された状態が示されている。前編地部2は、後側給糸口9から給糸された第二編糸9Yによって編成されている。後編地部3は、前側給糸口8から給糸された第一編糸8Yによって編成されている。本例では、このS0の状態から本発明の編地の編成方法を編地1の左右の端部で実施し、筒状の編地1を編成する。編地1は総針編成によって編成される。総針編成とは、隣接する編目の間に空針が無い状態で編成を行うことを意味する。
【0017】
S1では、後側給糸口9を右方向に移動させ、新たな前編地部2を編成する。新たな前編地部2の編目は全て表目である。表目は、筒状の編地1の内部から外部に向かって旧編目から引き出される編目である。本例とは異なり、後編地部3を最初に編成しても良い。
【0018】
S2では、後編地部3の編幅方向における左側の端部編目3Lと右側の端部編目3Rのうち、右側の端部編目3RをBDからFUに目移しする。後編地部3における端部編目3R以外の編目はBDに係止されたままである。
【0019】
S3では、前側給糸口8を右方向に移動させ、新たな後編地部3を編成する。新たな後編地部3のうち、右側の端部編目3Rは裏目であり、端部編目3R以外の編目は表目である。裏目は、筒状の編地1の外部から内部に向かって旧編目から引き出される編目である。S3の結果、編地1の編幅方向の外側において、第一編糸8Yと第二編糸9Yとが交差する。
【0020】
S4では、S3においてFUに形成された後編地部3の端部編目3RをBDに目移しする。S4によって、前編地部2の全ての編目がFDに係止され、後編地部3の全ての編目がBDに係止される。紙面右側における前編地部2と後編地部3との境界を挟む位置に端部編目2Rと端部編目3Rが配置される。端部編目2Rは表目、端部編目3Rは裏目である。
【0021】
S1からS4に示される編成は、キャリッジ6(
図1参照)の一方向への移動によって実施される。具体的には、S1、S2、S3、及びS4の編成はそれぞれ、キャリッジ6に搭載されるカムシステム6A、カムシステム6B、カムシステム6C、及びカムシステム6Dによって実施される。つまり、キャリッジ6の一方向への移動によって、前編地部2の編成、キャリッジ6の進行方向側の後編地部3の端部編目3Rの目移し、後編地部3の編成、端部編目3Rの元の針床への戻しを、この順で行う。
【0022】
図3のS5では、前編地部2の編幅方向の左側の端部編目2Lと右側の端部編目2Rのうち、左側の端部編目2LをFDからBUに目移しする。前編地部2における端部編目2L以外の編目はFDに係止されたままである。
【0023】
S6では、後側給糸口9を左方向に移動させ、新たな前編地部2を編成する。新たな前編地部2の左側の端部編目2Lは裏目、端部編目2L以外の編目は表目である。S6の結果、編地1の右側の端部において互いに交差する第一編糸8Yと第二編糸9Yとが絡み合い、前編地部2と後編地部3とが接合される。
【0024】
S7では、S6においてBUに形成された端部編目2LをBUからFDに目移しする。
【0025】
S8では、前側給糸口8を左方向に移動させ、新たな後編地部3を編成する。新たな後編地部3の編目は全て表目である。従って、紙面左側における前編地部2と後編地部3との境界を挟む端部編目2Lと端部編目3Lとはそれぞれ、裏目と表目である。本例とは異なり、S6の右側の端部編目とS8の右側の端部編目の一方が表目、他方が裏目であっても良い。
【0026】
S5からS8に示される編成は、キャリッジ6(
図1参照)の一方向への移動によって実施される。具体的には、S5、S6、S7、及びS8の編成はそれぞれ、キャリッジ6に搭載されるカムシステム6D、カムシステム6C、カムシステム6B、及びカムシステム6Aによって実施される。つまり、キャリッジ6の一方向への移動によって、キャリッジ6の進行方向側の前編地部2の端部編目2Lの目移し、前編地部2の編成、端部編目2Lの元の針床への戻し、後編地部3の編成を、この順で行う。
【0027】
S8以降は、S1からS8と同様の編成を繰り返すことで、第一編糸8Yと第二編糸9Yとの交差によって接合された前編地部2と後編地部3とを備える筒状の編地1を編成できる。この編地1では、前編地部2と後編地部3の境界を挟んで表目と裏目とが並ぶ。その結果、境界の位置において表目と裏目との間に段差が形成される。この段差に編糸8Y,9Yの交差が隠れ易い。従って、本発明の編地の編成方法によって得られた編地1では、前編地部2と後編地部3とを接合する編糸8Y,9Yの交差が目立ち難い。上記段差は、特許文献1のミス柄よりも目立ち難い。
【0028】
ここで、前編地部2と後編地部3との境界を挟んで表目と裏目とが並んでいれば、境界における編糸8Y,9Yの交差が目立ち難い。従って、境界における表目と裏目の組み合わせは、
図2,3に例示される端部編目2L,3Rが裏目、端部編目2R,3Lが表目の組み合わせに限定されない。例えば、端部編目2L,3Rが表目、端部編目2R,3Lが裏目でも良い。
【0029】
本例の編地の編成方法によれば、キャリッジ6を一往復させる間に、前編地部2と後編地部3とをそれぞれ2段分編成できる。また、本例では、キャリッジ6の移動のみを行う空コースが存在しない。従って、効率良く編地1を完成させることができる。
【0030】
<その他の実施形態>
実施形態では前編地部2と後編地部3を天竺組織としたが、リブ組織やガーター組織などの組織柄とすることもできる。例えば前編地部2と後編地部3とをリブ組織とすることが挙げられる。その場合、S2において後編地部3の一部の編目をFUに目移しし、S5において前編地部2の一部の編目をBUに目移しすると良い。リブ組織のように、端部編目2L,3Rだけでなく、端部編目2L,3Rに隣接する編目も裏目とすれば、より一層、編糸8Y,9Yの交差が段差に隠れ易くなる。
【0031】
前編地部2と後編地部3とはC字状に編成しても良い。その場合、両編地部2,3の編幅方向の一方の端部において両編地部2,3が接合され、他方の端部において両編地部2,3が接合されない。
【0032】
本発明の編地の編成方法は、2つ又は3つのカムシステムを搭載する横編機によっても実施可能である。また、本発明の編地の編成方法は、2枚ベッド横編機によっても実施可能である。2枚ベッド横編機を使用する場合、前編地部と後編地部とは針抜き編成によって編成される。針抜き編成とは、隣接する編目の間に空針を配置した状態で編成を行うことを意味する。隣接する編目の間に配置される空針は、編目の目移しや編目の形成に利用される。
【符号の説明】
【0033】
1 編地
2 前編地部、2L,2R 端部編目
3 後編地部、3L,3R 端部編目
5 横編機
6 キャリッジ
6A,6B,6C,6D カムシステム
7 レール
8 前側給糸口、8Y 第一編糸
9 後側給糸口、9Y 第二編糸