(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/073 20060101AFI20241220BHJP
B22F 12/44 20210101ALI20241220BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20241220BHJP
B22F 10/362 20210101ALI20241220BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20241220BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241220BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20241220BHJP
H01J 1/34 20060101ALI20241220BHJP
H01J 3/02 20060101ALI20241220BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H01J37/073
B22F12/44
B22F10/28
B22F10/362
B22F3/16
B33Y30/00
B23K15/00 501D
B23K15/00 501B
H01J1/34
H01J3/02
H01J37/305 Z
(21)【出願番号】P 2021095956
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山口 博
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-288099(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064511(WO,A1)
【文献】特開2021-082487(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151025(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221119(WO,A1)
【文献】特開2009-031634(JP,A)
【文献】特開2015-182419(JP,A)
【文献】特表2020-514957(JP,A)
【文献】特表2012-505521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
B22F 3/16
B23K 15/00
H01J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトカソードと、
前記フォトカソードの表面を励起するためのレーザ光を照射するレーザ光学系と、
前記レーザ光学系と前記フォトカソードとの間に位置し、前記フォトカソードの表面に入射するレーザ光の光形状と光量とを調整する調整装置とを
有する電子銃
を備え、
前記フォトカソードから取り出される電子をもとにする電子ビームを金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造し、
前記金属粉末材料を焼結させる予熱ビームを照射してから1秒以下で10ナノ秒以上の期間の後に前記造形物の形状に合わせて前記金属粉末材料に照射される前記電子ビームである造形ビームを照射し、レーザ光源の切替速度に依存して前記造形ビームを照射してから1秒以下で1フェムト秒以上の期間の後に前記予熱ビームを照射するように、前記予熱ビームと前記造形ビームとを交互に前記金属粉末材料に照射する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
フォトカソードと、
前記フォトカソードの表面を励起するための第1のレーザ光を照射する第1のレーザ光学系と、
前記フォトカソードの表面を励起するための第2のレーザ光を照射する第2のレーザ光学系とを備え、
前記第1のレーザ光学系は、前記フォトカソードから照射対象に照射されるデフォーカスされた電子ビームを形成するための前記第1のレーザ光を形成し、
前記第2のレーザ光学系は、前記フォトカソードから照射対象に照射されるフォーカスされた電子ビームを形成するための前記第2のレーザ光を形成し、
前記第2のレーザ光
が、前記フォトカソードの表面において、前記第1のレーザ光よりフォーカスされてい
る電子銃
を備え、
前記フォトカソードから取り出される電子をもとにする電子ビームを金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造し、
前記金属粉末材料を焼結させる予熱ビームを照射してから1秒以下で10ナノ秒以上の期間の後に前記造形物の形状に合わせて前記金属粉末材料に照射される前記電子ビームである造形ビームを照射し、レーザ光源の切替速度に依存して前記造形ビームを照射してから1秒以下で1フェムト秒以上の期間の後に前記予熱ビームを照射するように、前記予熱ビームと前記造形ビームとを交互に前記金属粉末材料に照射する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項3】
フォトカソードと、前記フォトカソードの表面を励起するためのレーザ光を照射するレーザ光学系と、前記レーザ光学系と前記フォトカソードとの間に位置し、前記フォトカソードの表面に入射するレーザ光の光形状と光量とを調整する調整装置とを有する電子銃と、
電子の進行速度を加速させる陽極と、
電子の軌道を曲げるための二つ以上の偏向コイルとを備え、
前記レーザ光学系は、
波長が200nmから1100nmまでのいずれかである前記レーザ光を出力するレーザ発振機と、
前記フォトカソードの表面についての正面に位置するコリメーションレンズ及びフォーカスレンズとを有し、
前記フォトカソードから取り出された電子は、前記陽極で加速された後、前記二つ以上の偏向コイルを通過して造形面に照射され、
前記フォトカソードから取り出される電子をもとにする電子ビームを金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造
し、
前記金属粉末材料を焼結させる予熱ビームを照射してから1秒以下で10ナノ秒以上の期間の後に前記造形物の形状に合わせて前記金属粉末材料に照射される前記電子ビームである造形ビームを照射し、レーザ光源の切替速度に依存して前記造形ビームを照射してから1秒以下で1フェムト秒以上の期間の後に前記予熱ビームを照射するように、前記予熱ビームと前記造形ビームとを交互に前記金属粉末材料に照射する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項4】
フォトカソードと、前記フォトカソードの表面を励起するためのレーザ光を照射するレーザ光学系と、前記レーザ光学系と前記フォトカソードとの間に位置し、前記フォトカソードの表面に入射するレーザ光の光形状と光量とを調整する調整装置とを有する電子銃と、
コリメーションレンズと、
フォーカスレンズと、
前記コリメーションレンズ及び前記フォーカスレンズが格納されている筐体と、
前記フォトカソードが格納されている電子銃室とを備え、
前記筐体には、前記調整装置も格納されており、
前記レーザ光学系は、波長が200nmから1100nmまでのいずれかである前記レーザ光を出力するレーザ発振機を有し、
前記コリメーションレンズ及び前記フォーカスレンズは、前記調整装置から出た光を集め、
前記筐体は、前記電子銃室から隔絶されており、
前記筐体の内部の気体の圧力は、前記電子銃室の内部の気体の圧力より高く、
前記フォトカソードから取り出される電子をもとにする電子ビームを金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造
し、
前記金属粉末材料を焼結させる予熱ビームを照射してから1秒以下で10ナノ秒以上の期間の後に前記造形物の形状に合わせて前記金属粉末材料に照射される前記電子ビームである造形ビームを照射し、レーザ光源の切替速度に依存して前記造形ビームを照射してから1秒以下で1フェムト秒以上の期間の後に前記予熱ビームを照射するように、前記予熱ビームと前記造形ビームとを交互に前記金属粉末材料に照射する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項5】
前記フォトカソードの基材は、波長が200nmから1100nmまでのレーザ光を透過するフッ化マグネシウム、サファイア、石英ガラス、紫外線透過ガラス又は硼硅酸ガラスが用いられて形成されており、
前記フォトカソードの表面に、金属または金属化合物の薄膜が位置しており、
レーザ光が前記薄膜に照射されることにより、電子が前記薄膜から取り出され、電子ビーム
が形成
される
ことを特徴とする請求項1
から4のいずれか1項に記載の
三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元の造形物を製造するための電子銃及び三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末材料に電子ビームを照射して金属粉末材料を溶融させた後に固化させることにより、金属粉末材料を使用した層を複数重ね合わせて三次元の造形物を製造する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該装置は、三次元の造形物を形成する領域に金属粉末材料を供給し、供給した金属粉末材料に選択的に電子ビームを照射して金属粉末材料を溶融させた後に凝固させる工程を複数回繰り返し行うことができる手段を有する。
【0003】
三次元造形装置が金属粉末材料に電子ビームを照射すると、帯電した金属粉末材料同士のクーロン力による反発によって金属粉末材料が飛散する。そのため、金属粉末材料に電子ビームを照射する場合、金属粉末材料が帯電することを抑制する処置が必要不可欠である。
【0004】
特許文献1が開示している方法は、金属粉末材料を予熱する工程を含む。予熱工程では、デフォーカスした電子ビームを金属粉末材料に照射することによって、局所的な帯電を防ぎながら金属粉末材料をあらかじめ高温にして金属粉末材料の電気抵抗を低下させる。これにより、その後に金属粉末材料を凝固させるための電子ビームを金属粉末材料に照射した際の金属粉末材料が帯電することを抑制する。特許文献2及び特許文献3も、予熱により金属粉末材料が飛散することを抑制する方法を開示している。
【0005】
特許文献4は、フォトカソードを電子源とする電子銃を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5108884号公報
【文献】国際公開第2019/088114号
【文献】国際公開第2019/049832号
【文献】特許第6466020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の三次元造形装置には、造形用のビームを照射する前の金属粉末材料を均一に加熱する予熱工程の前の時点で造形面の温度が低い場合、帯電により金属粉末材料が飛散する課題がある。また、従来の三次元造形装置には、造形品を形成するのに直接的に寄与しない予熱用のビームの照射に時間をかける必要があり、予熱用のビームを照射する工程は造形層の個数だけ繰り返される工程であって造形時間を長くして生産能力を低下させる課題がある。
【0008】
当該課題の本質は、造形用の集束された電子ビームの射出のために電子レンズに印加する電圧および電流と予熱用のデフォーカスされた電子ビームの射出のために電子レンズに印加する電圧および電流とが極端に異なり、電圧および電流の切り替えに伴う時間が長く、電圧および電流の切替回数を最小限に抑えるために、ビーム照射工程を造形用の電子ビームを照射する工程と予熱用の電子ビームを照射する工程とに分割している点にある。造形エリアへの金属粉末材料の供給完了と同時に造形用のビームの照射を行い、造形時間における造形用のビームの照射時間が占める割合を高め、それにより生産能力を向上させることが理想である。上記の造形時間は、真空引きから冷却完了までの造形に必要な全工程に係る時間である。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、金属粉末材料から三次元の造形物を製造する時間を短くする電子銃を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る三次元造形装置は、フォトカソードと、フォトカソードの表面を励起するためのレーザ光を照射するレーザ光学系と、レーザ光学系とフォトカソードとの間に位置し、フォトカソードの表面に入射するレーザ光の光形状と光量とを調整する調整装置とを有する電子銃を有し、フォトカソードから取り出される電子をもとにする電子ビームを金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造する。本開示に係る三次元造形装置は、金属粉末材料を焼結させる予熱ビームを照射してから1秒以下で10ナノ秒以上の期間の後に造形物の形状に合わせて金属粉末材料に照射される電子ビームである造形ビームを照射し、レーザ光源の切替速度に依存して造形ビームを照射してから1秒以下で1フェムト秒以上の期間の後に予熱ビームを照射するように、予熱ビームと造形ビームとを交互に金属粉末材料に照射する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る電子銃は、金属粉末材料から三次元の造形物を製造する時間を短くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る三次元造形装置の構成の概略を示す図
【
図2】電子ビームが照射されているベースプレートを電子銃室の側から見た様子を模式的に示す図
【
図3】従来のビーム照射パターンを説明するための図
【
図4】実施の形態1のビーム照射パターンの時間に対する出力の変化を示す図
【
図5】予熱ビームを発生させるための予熱用のレーザ光がフォトカソードに照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ及びフォトカソードの概略を示す側面図
【
図6】予熱ビームを発生させるための予熱用のレーザ光がフォトカソードに照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ及びフォトカソードの概略を示す正面図
【
図7】造形ビームを発生させるための造形用のレーザ光がフォトカソードに照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ及びフォトカソードの概略を示す側面図
【
図8】造形ビームを発生させるための造形用のレーザ光がフォトカソードに照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ及びフォトカソードの概略を示す正面図
【
図9】実施の形態1においてフォトカソードに照射される予熱用のレーザ光及び造形用のレーザ光を説明するための図
【
図10】予熱ビームと造形ビームとが切り替えられて造形エリアに照射される様子を示す図
【
図11】実施の形態2に係る三次元造形装置の構成の概略を示す図
【
図12】実施の形態3に係る三次元造形装置の構成の概略を示す図
【
図13】実施の形態4に係る三次元造形装置の構成の概略を示す図
【
図14】実施の形態5に係る三次元造形装置の構成の概略を示す図
【
図15】実施の形態1に係る三次元造形装置が有する制御装置がプロセッサによって実現される場合のプロセッサを示す図
【
図16】実施の形態1に係る三次元造形装置が有する制御装置が処理回路によって実現される場合の処理回路を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、実施の形態に係る電子銃及び三次元造形装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る三次元造形装置1の構成の概略を示す図である。三次元造形装置1は、電子ビーム10を金属粉末材料に照射して三次元の造形物を製造する装置であって、電子ビーム10を生成するためのレーザ光20を発生させてレーザ光20を出力するレーザ発振機11を有する。
図1には、電子ビーム10及びレーザ光20も示されている。図面では、電子ビーム10は一点鎖線で示されており、レーザ光20は破線で示されている。
【0015】
三次元造形装置1は、レーザ発振機11から出力されたレーザ光20をコリメートするコリメーションレンズ12と、コリメーションレンズ12によってコリメートされたレーザ光20の進行方向を変えるDLP(Digital Light Processing)チップ13とを更に有する。三次元造形装置1は、フォーカスレンズ14と、コレクタ15と、レーザ光20をもとに電子ビーム10を発生させる電子銃室121とを更に有する。電子銃室121は、レーザ光20を二つのレーザ光20に分割するビームスプリッタ16を有する。フォーカスレンズ14は、DLPチップ13によって進行方向が変えられたレーザ光20をビームスプリッタ16に進行させる。
【0016】
電子銃室121は、第1の反射板17Aと、第2の反射板17Bと、レーザ光20をもとに電子ビーム10を発生させるフォトカソード18とを更に有する。フォトカソード18は、電子源である。ビームスプリッタ16は、分割後の二つのレーザ光20の一方を第1の反射板17Aに進行させ、分割後の二つのレーザ光20の他方を第2の反射板17Bに進行させる。第1の反射板17A及び第2の反射板17Bの各々は、進行してきたレーザ光20を反射してフォトカソード18の表面に進行させる。
【0017】
実施の形態1では、レーザ発振機11及びコリメーションレンズ12は、フォトカソード18の表面を励起するためのレーザ光20を照射するレーザ光学系を構成する。DLPチップ13は、レーザ光学系とフォトカソード18との間に位置し、フォトカソード18の表面に入射するレーザ光20の光形状と光量とを調整する機能を有する調整装置である。フォトカソード18、レーザ光学系及びDLPチップ13は、電子銃を構成する。電子ビーム10は、フォトカソード18から取り出されるビームである。更に言うと、電子ビーム10は、フォトカソード18の表面から取り出されるビームである。
【0018】
電子銃室121は、フォトカソード18において発生した電子ビーム10の進行速度を加速させる陽極19を更に有する。つまり、陽極19は、電子の進行速度を加速させる。電子銃室121は、陽極19によって進行速度が加速された電子ビーム10を偏向させる偏向コイル110を更に有する。
【0019】
三次元造形装置1は、内部が大気圧以下の1×10-2Paから1×10-4Paまでのいずれかの圧力に減圧される造形チャンバ119を更に有する。造形物は、造形チャンバ119の内部で製造される。三次元造形装置1は、造形チャンバ119の内部を1×10-2Paから1×10-5Paまでのいずれかの圧力に減圧するための真空ポンプを更に有する。真空ポンプは、図示されていない。
【0020】
造形チャンバ119は、造形物の材料となる金属粉末材料が供給されるベースプレート114と、金属粉末材料をベースプレート114の上で引き均すスキージ112とを有する。ベースプレート114の上に供給された後にスキージ112で引き均された金属粉末材料の上面は、造形面118である。造形面118は、造形物が形成されることになる面、製造中の造形物の表面、又は造形物の表面である。偏向コイル110によって偏向された電子ビーム10は、造形面118に照射される。電子ビーム10は、金属粉末材料を溶融させてその後に固化させるための熱源である。
【0021】
造形チャンバ119は、ベースプレート114に供給される前の金属粉末材料を貯留する粉末タンク111と、粉末タンク111からベースプレート114に供給される金属粉末材料の量を調整する粉末供給装置とを更に有する。造形物は、ベースプレート114の上で製造される。ベースプレート114は、造形物を支える。粉末供給装置は、
図1には示されていない。
【0022】
造形チャンバ119は、造形の進行に合わせてベースプレート114の鉛直方向の位置を調整する昇降装置115と、造形面118からの造形チャンバ119の全体に対する放射熱の伝達を抑制する遮熱板117と、スキージ112の動作で余った金属粉末材料を回収するための粉末回収箱113とを更に有する。
【0023】
電子銃室121は、電子ビーム10を造形面118において走査するための偏向レンズと、電子ビーム10を造形面118に集束させる集束レンズとを更に有してもよい。
【0024】
三次元造形装置1は、フォトカソード18、陽極19、偏向コイル110及び昇降装置115を制御する制御装置116と、電子ビーム10を形成するための高圧電源とを更に有する。
図1には、高圧電源は示されていない。
【0025】
フォトカソード18の表面は、例えばタングステン(W)といった純金属カソード材料、例えば酸化銀セシウム(Ag-O-Cs)、セシウム-ヨウ素(Cs-P)、セシウム-テルル(Cs-Te)、アンチモン-セシウム(Sb-Cs)、ガリウム-砒素(Ga-As)、インジウム-ガリウム-砒素(In-Ga-As)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素-リン<セシウム>(In-P/In-Ga-As-P<Cs>)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素<セシウム>(In-P/In-Ga-As<Cs>)、六ホウ化ランタン(LaB6)若しくは六ホウ化セシウム(CeB6)といった化合物若しくは多層膜カソード材料、例えばアンチモン-ルビジウム-セシウム(Sb-Rb-Cs)、アンチモン-カリウム-セシウム(Sb-K-Cs)若しくはアンチモン-ナトリウム-カリウム(Sb-Na-K)といった2種類のアルカリ金属を含むバイアルカリカソード材料、又は、例えばセシウム-カリウム-アンチモン(Cs-K-Sb)若しくはセシウム-カリウム-ナトリウム-アンチモン(Cs-K-Na-Sb)といった3種類以上のアルカリ金属を含むマルチアルカリカソード材料を材料とした、多層膜又は化合物の材料で構成されている。
【0026】
造形プロセスが開始されると、造形チャンバ119の内部と電子銃室121の内部とが真空ポンプによって0.1×10-4Paから0.1×10-5Paまでのいずれかの圧力に減圧される。電子銃室121の内部の減圧が完了すると、電子銃室121から電子ビーム10がベースプレート114に照射され、ベースプレート114は昇温用の電子ビーム10のエネルギを受けて昇温される。ベースプレート114があらかじめ決められた温度に加熱された後、造形チャンバ119の内部のベースプレート114以外の構成要素がベースプレート114からの放射熱の伝達によって加熱される。
【0027】
三次元造形装置1は、ベースプレート114が一定の温度になるように電子ビーム10の電流値を維持しながら造形チャンバ119の内部のベースプレート114以外の構成要素への放熱が安定することを待つ。放熱が安定し、電子ビーム10の電流値が安定した後、粉末供給装置が稼働する。粉末供給装置は、ベースプレート114の上に金属粉末材料を供給し、金属粉末材料をベースプレート114の上で均一に堆積させ、ベースプレート114の予熱で第1層目の粉末床が加熱される。
【0028】
電子銃室121では、レーザ光学系及びDLPチップ13を経由してフォトカソード18の表面に照射されるレーザ光20によってフォトカソード18の表面から電子が取り出される。レーザ光20の波長に対応したフォトカソード18の表面は、例えばタングステン(W)といった純金属カソード材料、例えば酸化銀セシウム(Ag-O-Cs)、セシウム―ヨウ素(Cs-P)、セシウム-テルル(Cs-Te)、アンチモン-セシウム(Sb-Cs)、ガリウム-砒素(Ga-As)、インジウム-ガリウム-砒素(In-Ga-As)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素-リン<セシウム>(In-P/In-Ga-As-P<Cs>)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素<セシウム>(In-P/In-Ga-As<Cs>)、六ホウ化ランタン(LaB6)若しくは六ホウ化セシウム(CeB6)といった化合物若しくは多層膜カソード材料、アンチモン-ルビジウム-セシウム(Sb-Rb-Cs)、アンチモン-カリウム-セシウム(Sb-K-Cs)若しくはアンチモン-ナトリウム-カリウム(Sb-Na-K)といった2種類のアルカリ金属を含むバイアルカリカソード材料、又は、セシウム-カリウム-アンチモン(Cs-K-Sb)若しくはセシウム-カリウム-ナトリウム-アンチモン(Cs-K-Na-Sb)といった3種類以上のアルカリ金属を含むマルチアルカリカソード材料によって形成されている。実施の形態1では、金属粉末材料の溶融及び凝固に伴う金属の造形物を造形するために、電子銃室121が比較的高出力の電子ビーム10を出力することが想定されている。比較的低出力の電子ビーム10をもとに造形物を製造することになる場合、フォトカソード18の表面は上述の材料以外の材料によって形成されてもよい。
【0029】
三次元造形装置1は、上述の第1層目の粉末床に対して予熱ビームと造形ビームとを照射する。
図2は、電子ビーム10が照射されているベースプレート114を電子銃室121の側から見た様子を模式的に示す図である。予熱ビーム26は、粉末層を加熱することを目的としてデフォーカスされた電子ビームである。造形ビーム22は、粉末床を溶融させた後に凝固させて造形物27を形成するための集束された電子ビームである。予熱ビーム26は、造形ビーム22が照射される前後に照射される。
図2には、造形エリア24も示されている。
図2における矢印は、予熱ビーム26又は造形ビーム22の進行を示している。
【0030】
図3は、従来のビーム照射パターンを説明するための図である。
図3は、前予熱ビーム21、造形ビーム22及び後予熱ビーム23の各々が造形サイクル中に照射される順序と、各ビームの出力のおおよその大小関係とを示している。前予熱ビーム21、造形ビーム22及び後予熱ビーム23の各々の1回の照射時間は、例えば数十秒である。造形ビーム22の造形面118でのビームスポットの径は、0.1mmから2mmまでのいずれかである。電子銃室121の陽極19は、ビームスポットのフォーカス位置を数十mmの幅で調整することができ、位置によってビームスポットの径が異なる。なお、
図2の予熱ビーム26は、前予熱ビーム21と後予熱ビーム23とがひとつにまとめられて表現されたものである。
【0031】
造形ビーム22は、偏向コイル110によって造形エリア24の任意の位置に、数千m/sの走査速度で照射される。前予熱ビーム21及び後予熱ビーム23は、造形ビーム22に比べてデフォーカスされた広いビーム径を持ち、造形ビーム22に比べて高速に走査される。前予熱ビーム21及び後予熱ビーム23は、造形エリア24に供給された金属粉末材料同士を軽度に焼結するために走査されるため、数秒から数十秒までのいずれかの期間に造形エリア24に繰り返し照射される。
【0032】
図4は、実施の形態1のビーム照射パターンの時間に対する出力の変化を示す図である。従来では、
図3に示されるように、各ビームは比較的長い期間にまとまって照射されるが、実施の形態1では、
図4に示されるように、数十ミリ秒から数百ミリ秒までのいずれかの比較的短い期間に造形ビーム22と予熱ビーム26とが交互に繰り返し照射される。上述の通り、予熱ビーム26は、前予熱ビーム21と後予熱ビーム23とがひとつにまとめられて表現されたものである。
【0033】
三次元造形装置1は、予熱ビーム26を造形エリア24に照射する場合、数百μmから数mmまでのいずれかの径のビームスポットの予熱ビーム26を繰り返し照射し、複数のビームスポットを繋げることで線状の照射パターンを形成する。すなわち、三次元造形装置1は、造形エリア24の全域を塗りつぶすように予熱ビーム26の往復走査を行う。ただしフォトカソード18のレーザビーム照射面を例えば数十cm程度に大きくとり、かつレーザビームの照射径を合わせて数十cmとすれば、造形エリア全面を予熱ビーム径で覆うことが可能な場合もある。
【0034】
三次元造形装置1は、予熱ビーム26で造形エリア24を1回以上塗りつぶした後に、造形エリア24を照射するビームを予熱ビーム26から造形ビーム22に切り替えて、造形ビーム22を造形エリア24に照射する。1回の造形ビーム22によって金属粉末材料を溶融させることができる領域は、造形ビーム22の元のビームスポットの径に当該径の20%から50%までのいずれかを加えた径を有する領域である。金属粉末材料が例えば銅又はアルミニウムといった比較的熱伝導性の高い材料である場合、1回の造形ビーム22によって金属粉末材料を溶融させることができる領域は、造形ビーム22の元のビームスポットの径の2倍程度の径を有する領域である。三次元造形装置1は、造形物27の全面を造形ビーム22で塗りつぶすため、連続する二つのビームスポットを重ね合わせながら、偏向コイル110で造形ビーム22を走査して移動させる。
【0035】
図5は、予熱ビーム26を発生させるための予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ13及びフォトカソード18の概略を示す側面図である。
図6は、予熱ビーム26を発生させるための予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ13及びフォトカソード18の概略を示す正面図である。
図5及び
図6は、予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射されてフォトカソード18から取り出される電子eを説明するための図である。
【0036】
図5及び
図6に示されるように、DLPチップ13は表面において複数のミラーアレイ131を有しており、予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18の表面に照射される場合、複数のミラーアレイ131が1つ飛ばしで稼働する。すなわち、予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射される場合、DLPチップ13は、全面積の50%が稼働する状態で、励起用のレーザ光20である予熱用のレーザ光20Aをフォトカソード18の全面に送り込む。これは、単位面積当たりのエネルギがQであるレーザ光20がレーザ発振機11から出射される場合、フォトカソード18の表面に照射される予熱用のレーザ光20Aの単位面積当たりのエネルギがQの1/2となることを意味する。
【0037】
予熱用のレーザ光20Aによってフォトカソード18の表面が励起され、電子eがフォトカソード18の表面から真空中に取り出される。フォトカソード18の表面から取り出される電子eの個数は、励起用のレーザ光20である予熱用のレーザ光20Aのエネルギとフォトカソード18の材料の仕事関数とに依存する。励起用のレーザ光20のエネルギを増減させることによって、フォトカソード18から取り出される電子eの個数を制御することができ、最終的に形成される電子ビーム10の出力を制御することができる。電子ビーム10の出力をレーザ発振機11から出射されるレーザ光20のエネルギの1/3とする場合、DLPチップ13の複数のミラーアレイ131の稼働状態がすべてのミラーアレイ131の面積の1/3となるように制御される。
【0038】
図7は、造形ビーム22を発生させるための造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ13及びフォトカソード18の概略を示す側面図である。
図8は、造形ビーム22を発生させるための造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射される場合の実施の形態1におけるDLPチップ13及びフォトカソード18の概略を示す正面図である。
図7は、造形ビーム22を発生させるための造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射されてフォトカソード18から電子eが取り出される場合の複数のミラーアレイ131の稼働状態と、フォトカソード18から取り出される電子eとを説明するための図である。
図8は、造形ビーム22を発生させるための造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射されてフォトカソード18から電子eが取り出される場合の複数のミラーアレイ131の稼働状態と、フォトカソード18の表面に照射される励起用のレーザ光20の形状とを説明するための図である。
【0039】
造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射される場合、DLPチップ13の表面における複数のミラーアレイ131のうちの中央部が稼働し、複数のミラーアレイ131のうちの外周部は非稼働状態となる。そのため、フォトカソード18の表面の光が照射される領域は当該表面の中央部である。ただし、励起用のレーザ光20である造形用のレーザ光20Bはフォトカソード18の表面の中央部に集中して照射されるので、単位時間当たりにフォトカソード18から取り出される電子eの個数は多く、かつ、予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射される場合に比べて、単位面積当たりに取り出される電子eの個数も多い。すなわち、三次元造形装置1は、エネルギ密度が高くビームスポットの径が小さい電子ビーム10を形成することができる。
【0040】
実施の形態1に係る三次元造形装置1は、予熱用のレーザ光20Aをフォトカソード18に照射する場合、フォトカソード18への入射光のエネルギをDLPチップ13への入射光のエネルギの1/2にしてフォトカソード18の表面から取り出される電子eの個数を絞ることができる。
【0041】
図9は、実施の形態1においてフォトカソード18に照射される予熱用のレーザ光20A及び造形用のレーザ光20Bを説明するための図である。DLPチップ13は、例えば波長が525nmであるレーザ光の光形状と光量とを調整する。DLPチップ13によって光形状と光量とが調整されたレーザ光20が、フォトカソード18に照射される。具体的には、予熱用のレーザ光20A又は造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射される。
【0042】
造形用のレーザ光20Bがフォトカソード18に照射される場合、造形用のレーザ光20Bはフォーカスされてフォトカソード18の表面の中央部に照射される。予熱用のレーザ光20Aがフォトカソード18に照射される場合、予熱用のレーザ光20Aはデフォーカスされてフォトカソード18の表面の全体に照射される。予熱用のレーザ光20Aと造形用のレーザ光20Bとは、1kHzから10kHzまでのいずれかの周波数で切り替えられてフォトカソード18に照射される。
【0043】
図10は、予熱ビーム26と造形ビーム22とが切り替えられて造形エリア24に照射される様子を示す図である。
図10に示されるように、予熱ビーム26と造形ビーム22とが、1kHzから10kHzまでのいずれかの周波数で切り替えられて造形エリア24に照射される。
【0044】
上述の通り、実施の形態1に係る三次元造形装置1は電子銃を有する。電子銃は、フォトカソード18と、レーザ発振機11とコリメーションレンズ12とによって構成されるレーザ光学系と、レーザ光学系とフォトカソード18との間に位置していてフォトカソード18の表面に入射するレーザ光20の光形状と光量とを調整する機能を有するDLPチップ13とを有する。DLPチップ13は、電子ビーム10の径及び出力を比較的高速に変調することができる。実施の形態1に係る電子銃は、DLPチップ13を有するので、金属粉末材料から三次元の造形物を製造する時間を短くすることができる。
【0045】
実施の形態2.
図11は、実施の形態2に係る三次元造形装置1Aの構成の概略を示す図である。三次元造形装置1Aは、フォトカソード18と、予熱用のレーザ光20Aを生成して出力する第1のレーザ発振機31と、第1のレーザ発振機31から出力された予熱用のレーザ光20Aをコリメートする第1のコリメーションレンズ32と、第1のフォーカスレンズ33と、第1の反射ミラー34と、第2の反射ミラー35とを有する。予熱用のレーザ光20Aは、フォトカソード18の表面を励起するための第1のレーザ光である。第1のレーザ発振機31、第1のコリメーションレンズ32、第1のフォーカスレンズ33、第1の反射ミラー34及び第2の反射ミラー35は、フォトカソード18の表面を励起するための第1のレーザ光を照射する第1のレーザ光学系を構成する。
【0046】
第1のフォーカスレンズ33は、第1のコリメーションレンズ32によってコリメートされた予熱用のレーザ光20Aを第1の反射ミラー34に集光させる。第1の反射ミラー34は、第1のフォーカスレンズ33からの予熱用のレーザ光20Aを反射して第2の反射ミラー35に進行させる。第2の反射ミラー35は、第1の反射ミラー34からの予熱用のレーザ光20Aを反射してフォトカソード18に進行させる。
【0047】
三次元造形装置1Aは、造形用のレーザ光20Bを生成して出力する第2のレーザ発振機41と、第2のレーザ発振機41から出力された造形用のレーザ光20Bをコリメートする第2のコリメーションレンズ42と、第2のフォーカスレンズ43と、第3の反射ミラー44と、第4の反射ミラー45とを更に有する。造形用のレーザ光20Bは、フォトカソード18の表面を励起するための第2のレーザ光である。第2のレーザ発振機41、第2のコリメーションレンズ42、第2のフォーカスレンズ43、第3の反射ミラー44及び第4の反射ミラー45は、フォトカソード18の表面を励起するための第2のレーザ光を照射する第2のレーザ光学系を構成する。
【0048】
第1のレーザ光学系は、フォトカソード18から金属粉末材料に照射されるデフォーカスされた電子ビームを形成するための第1のレーザ光を形成する。第2のレーザ光学系は、フォトカソード18から金属粉末材料に照射されるフォーカスされた電子ビームを形成するための第2のレーザ光を形成する。第2のレーザ光は、フォトカソード18の表面において、第1のレーザ光よりフォーカスされている。
【0049】
三次元造形装置1Aは、実施の形態1に係る三次元造形装置1が有する陽極19、偏向コイル110及び造形チャンバ119を更に有する。三次元造形装置1Aは、第1のレーザ光学系、第2のレーザ光学系、フォトカソード18、陽極19、偏向コイル110及び造形チャンバ119を制御する制御装置116Aを更に有する。
【0050】
実施の形態1に係る三次元造形装置1は、ひとつのレーザ光学系を有していて、DLPチップ13を用いてフォトカソード18の表面に入射するレーザ光を制御し、それによりフォトカソード18から取り出される電子の個数を制御する。実施の形態2に係る三次元造形装置1Aは、第1のレーザ光学系及び第2のレーザ光学系の二つのレーザ光学系を有していて、DLPチップ13を有していない。三次元造形装置1Aは、第1のレーザ光学系に含まれる第1のレーザ発振機31がレーザ光を出力して第2のレーザ光学系に含まれる第2のレーザ発振機41がレーザ光を出力しない状態と、第2のレーザ発振機41がレーザ光を出力して第1のレーザ発振機31がレーザ光を出力しない状態とを切り替えることにより、フォトカソード18から取り出される電子の個数を制御する。
【0051】
第1のレーザ発振機31から出力されたレーザ光は、第1のコリメーションレンズ32及び第1のフォーカスレンズ33を通り、第1の反射ミラー34及び第2の反射ミラー35を介してフォトカソード18の表面に照射される。第2のレーザ発振機41から出力されたレーザ光は、第2のコリメーションレンズ42及び第2のフォーカスレンズ43を通り、第3の反射ミラー44及び第4の反射ミラー45を介してフォトカソード18の表面に照射される。第2のレーザ発振機41から出力されたレーザ光は、フォトカソード18の表面の中央部のみに照射される。
【0052】
実施の形態2に係る三次元造形装置1Aは、DLPチップ13を有する実施の形態1に係る三次元造形装置1に比べて、各レンズで集光される光形状のみでフォトカソード18から取り出される電子の個数を制御し、金属粉末材料に照射される電子ビームの光形状及び光量を制御する。三次元造形装置1Aは、DLPチップ13を有しない比較的単純な構造で実施の形態1と同様のビーム照射の切替えを行うことができる。また、三次元造形装置1Aは、第1のレーザ光学系から照射されるレーザ光と第2のレーザ光学系から照射されるレーザ光とを合成することができ、三次元造形装置1では実現が難しい形状のレーザ光を照射することができる。
【0053】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係る三次元造形装置1Bの構成の概略を示す図である。三次元造形装置1Bは、実施の形態1に係る三次元造形装置1と同様に、レーザ発振機11、コリメーションレンズ12、DLPチップ13、フォーカスレンズ14、コレクタ15、フォトカソード18、陽極19、偏向コイル110、造形チャンバ119及び制御装置116を有する。実施の形態3では、コリメーションレンズ12は、DLPチップ13とフォーカスレンズ14との間に位置する。実施の形態3では、レーザ発振機11がレーザ光学系を構成する。
【0054】
実施の形態3では、フォトカソード18の基材は、波長が200nmから1100nmまでのレーザ光を透過する材料で形成されている。フォトカソード18の基材は、例えばフッ化マグネシウム(MgF2)、サファイア、石英ガラス、紫外線透過ガラス又は硼硅酸ガラスといった材料で形成されている。フッ化マグネシウム(MgF2)、サファイア、石英ガラス、紫外線透過ガラス及び硼硅酸ガラスの各々は、波長が100nmから1100nmまでのレーザ光を透過する。実施の形態3では、レーザ光20はフォトカソード18の裏面に照射される。
【0055】
フォトカソード18の表面は、例えば酸化銀セシウム(Ag-O-Cs)、セシウム-ヨウ素(Cs-P)、セシウム-テルル(Cs-Te)、アンチモン-セシウム(Sb-Cs)、ガリウム-砒素(Ga-As)、インジウム-ガリウム-砒素(In-Ga-As)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素-リン<セシウム>(In-P/In-Ga-As-P<Cs>)、インジウム-リン/インジウム-ガリウム-砒素<セシウム>(In-P/In-Ga-As<Cs>)、六ホウ化ランタン(LaB6)若しくは六ホウ化セシウム(CeB6)といった化合物若しくは多層膜カソード材料、例えばアンチモン-ルビジウム-セシウム(Sb-Rb-Cs)、アンチモン-カリウム-セシウム(Sb-K-Cs)若しくはアンチモン-ナトリウム-カリウム(Sb-Na-K)といった2種類のアルカリ金属を含むバイアルカリカソード材料、又は、例えばセシウム-カリウム-アンチモン(Cs-K-Sb)若しくはセシウム-カリウム-ナトリウム-アンチモン(Cs-K-Na-Sb)といった3種類以上のアルカリ金属を含むマルチアルカリカソード材料を、単層又は多層膜で数百nm程度蒸着することによって形成されている。すなわち、フォトカソード18の表面に、上記のいずれかの材料で形成されている薄膜が位置している。薄膜の膜厚は、300nmから500nmである。レーザ光が薄膜に照射されることにより、電子が薄膜から取り出され、電子ビームが形成される。
【0056】
実施の形態1及び実施の形態2のフォトカソード18は、実施の形態3のフォトカソード18に置き換えられてもよい。
【0057】
三次元造形装置1Bの構成は、電子の取り出し方向にレーザ光20をフォトカソード18に照射することを可能とする構成である。三次元造形装置1Bの構成では、反射板又は反射ミラーを用いずにフォトカソード18へレーザ光20を入射させることが可能である。三次元造形装置1Bの構成は、フォトカソード18の表面に対してレーザ光20が角度を形成して入射することによって光形状が円から楕円になることを考慮することを不要とし、結果として、レーザ光学系を簡略化することができる。
【0058】
実施の形態4.
図13は、実施の形態4に係る三次元造形装置1Cの構成の概略を示す図である。三次元造形装置1Cは、実施の形態1に係る三次元造形装置1が有するレーザ発振機11、コリメーションレンズ12、DLPチップ13、フォーカスレンズ14、コレクタ15、フォトカソード18、陽極19及び造形チャンバ119を有する。実施の形態4では、コリメーションレンズ12は、DLPチップ13とフォーカスレンズ14との間に位置する。実施の形態4では、レーザ発振機11がレーザ光学系を構成する。実施の形態4では、レーザ発振機11は、波長が200nmから1100nmまでのいずれかであるレーザ光20を出力する。コリメーションレンズ12及びフォーカスレンズ14は、フォトカソード18の表面についての正面に位置している。
【0059】
実施の形態4では、フォーカスレンズ14を通過したレーザ光20は、フォーカスレンズ14を通過した際の進行の向きを変えることなくフォトカソード18の表面に向かって進行する。つまり、実施の形態4では、レーザ光20は、フォトカソード18から電子が取り出される向きと逆の向きにフォトカソード18の表面に照射される。更に言うと、レーザ光20は、フォトカソード18の表面についての正面からフォトカソード18の表面に照射される。
【0060】
三次元造形装置1Cは、陽極19によって加速された電子ビーム10を偏向させる第1偏向コイル51と、第1偏向コイル51によって偏向された電子ビーム10を更に偏向させる最終偏向コイル52とを更に有する。第1偏向コイル51は、電子ビーム10が最終偏向コイル52の内部を通るように、陽極19によって加速された電子ビーム10を傾斜させたり湾曲させたりする。第1偏向コイル51及び最終偏向コイル52は、電子の軌道を曲げるための二つ以上の偏向コイルの例である。実施の形態4では、フォトカソード18から取り出された電子は、陽極19で加速された後、第1偏向コイル51及び最終偏向コイル52を通過して造形面118に照射される。三次元造形装置1Cは、フォトカソード18、陽極19及び最終偏向コイル52を制御する制御装置116Cを更に有する。
【0061】
実施の形態4では、上述の通り、レーザ光20は、フォトカソード18の表面についての正面からフォトカソード18の表面に照射される。これにより、実施の形態4に係る三次元造形装置1Cでは、反射板、反射ミラー、及びフォトカソード18の表面に対して傾斜した方向からレーザ光20が入射することによる光形状の収差を抑制するための光学レンズを削減することが可能である。
【0062】
実施の形態5.
図14は、実施の形態5に係る三次元造形装置1Dの構成の概略を示す図である。三次元造形装置1Dは、実施の形態1に係る三次元造形装置1が有するレーザ発振機11、コリメーションレンズ12、DLPチップ13、フォーカスレンズ14、コレクタ15、フォトカソード18、陽極19、偏向コイル110、造形チャンバ119及び制御装置116を有する。実施の形態5では、レーザ発振機11がレーザ光学系を構成する。実施の形態5では、レーザ発振機11は、波長が100nmから1100nmまでのいずれかであるレーザ光20を出力する。実施の形態5では、コリメーションレンズ12は、DLPチップ13とフォーカスレンズ14との間に位置する。コリメーションレンズ12及びフォーカスレンズ14は、DLPチップ13から出た光を集める。
【0063】
三次元造形装置1Dは、フォトカソード18が格納されている電子銃室121Dを更に有する。電子銃室121Dの内部は、実施の形態1の電子銃室121の内部と同様に減圧される。三次元造形装置1Dは、レーザ発振機11の出射口に接している筐体61を更に有する。出射口は、レーザ発振機11からレーザ光20が出射される際のレーザ光20の出口である。コリメーションレンズ12、DLPチップ13、フォーカスレンズ14及びコレクタ15は、筐体61の内部に格納されている。つまり、実施の形態5では、コリメーションレンズ12、DLPチップ13、フォーカスレンズ14及びコレクタ15は、電子銃室121Dには位置していない。筐体61は、電子銃室121Dから隔絶されている。
【0064】
筐体61は、フォーカスレンズ14を通過したレーザ光をフォトカソード18に進行させるための保護ガラス91を有する。保護ガラス91は、励起用のレーザ光20を通過させる必要があるため、波長が200nmから1100nmまでのレーザ光を透過する材料で形成されている。例えば、保護ガラス91は、フッ化マグネシウム(MgF2)、サファイア、石英ガラス、紫外線透過ガラス又は硼硅酸ガラスで形成されている。
【0065】
筐体61の内部には、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)又はヘリウム(He)といった不活性ガスが満たされる。筐体61の内部は大気圧以上の圧力に予圧されている。つまり、筐体61の内部の気体の圧力は、電子銃室121Dの内部の気体の圧力より高い。DLPチップ13は、大気圧以上の圧力に予圧された不活性ガスで覆われている。これにより、励起用のレーザ光20のエネルギを熱としてDLPチップ13の周囲に放散させてDLPチップ13を冷却することができるため、三次元造形装置1Dは、実施の形態1から実施の形態4までのいずれの三次元造形装置1,1A,1B,1Cより高出力の励起用のレーザ光20をフォトカソード18に照射することができる。
【0066】
つまり、実施の形態5のフォトカソード18へ入射する励起用のレーザ光20の出力は、他の実施の形態のフォトカソード18へ入射する励起用のレーザ光20の出力より高い。したがって、実施の形態5に係る三次元造形装置1Dは、フォトカソード18から取り出される電子ビーム10の出力を他の実施の形態のフォトカソード18から取り出される電子ビーム10の出力より大きくすることができる。
【0067】
実施の形態5では、実施の形態1におけるビームスプリッタ16、第1の反射板17A及び第2の反射板17Bは必要とされない。したがって、実施の形態5に係る三次元造形装置1Dは、簡易な構成で実施の形態1に係る三次元造形装置1によって得られる効果と同等の効果を得ることができる。
【0068】
実施の形態1から実施の形態5までの各三次元造形装置1,1A,1B,1C,1Dは、金属粉末材料を焼結させる予熱ビームと、金属粉末材料が焼結した後に造形物の形状に合わせて金属粉末に照射される電子ビームである造形ビームとを、1秒以下の時間で切り替えて交互に金属粉末材料に照射してもよい。これにより、三次元造形装置1,1A,1B,1C,1Dは、造形面118の温度を一定に保ったまま造形ビームを照射することができる。予熱ビームは、金属粉末材料の帯電による反発力を抑制し、造形ビームが金属粉末材料に照射される場合の金属粉末材料が飛散することを抑制するための電子ビームである。
【0069】
実施の形態1から実施の形態5までの各三次元造形装置1,1A,1B,1C,1Dは、金属粉末材料を焼結させる予熱ビームと、金属粉末材料が焼結した後に造形物の形状に合わせて金属粉末材料に照射される電子ビームである造形ビームとを、1秒以下の時間で切り替えて、調整装置の切替速度下限として10ナノ秒、レーザ光源の切替速度に依存して1フェムト秒で交互に金属粉末材料に照射してもよい。
【0070】
図15は、実施の形態1に係る三次元造形装置1が有する制御装置116がプロセッサ81によって実現される場合のプロセッサ81を示す図である。つまり、制御装置116の機能は、メモリ82に格納されるプログラムを実行するプロセッサ81によって実現されてもよい。プロセッサ81は、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)である。
図15には、メモリ82も示されている。
【0071】
制御装置116の機能がプロセッサ81によって実現される場合、当該機能は、プロセッサ81と、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせとによって実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ82に格納される。プロセッサ81は、メモリ82に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置116の機能を実現する。
【0072】
制御装置116の機能がプロセッサ81によって実現される場合、三次元造形装置1は、制御装置116によって実行されるステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ82を有する。メモリ82に格納されるプログラムは、制御装置116をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0073】
メモリ82は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性若しくは揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク又はDVD(Digital Versatile Disk)等である。
【0074】
図16は、実施の形態1に係る三次元造形装置1が有する制御装置116が処理回路83によって実現される場合の処理回路83を示す図である。つまり、制御装置116は、処理回路83によって実現されてもよい。処理回路83は、専用のハードウェアである。処理回路83は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。制御装置116の一部は、残部と別個の専用のハードウェアであってもよい。
【0075】
制御装置116の複数の機能について、当該複数の機能の一部がソフトウェア又はファームウェアで実現され、当該複数の機能の残部が専用のハードウェアで実現されてもよい。このように、制御装置116の複数の機能は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって実現することができる。
【0076】
実施の形態2に係る三次元造形装置1Aが有する制御装置116Aは、プロセッサによって実現されてもよいし、処理回路によって実現されてもよい。実施の形態4に係る三次元造形装置1Cが有する制御装置116Cは、プロセッサによって実現されてもよいし、処理回路によって実現されてもよい。上記のプロセッサは、プロセッサ81と同様のプロセッサである。上記の処理回路は、処理回路83と同様の処理回路である。
【0077】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略又は変更することも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B,1C,1D 三次元造形装置、10 電子ビーム、11 レーザ発振機、12 コリメーションレンズ、13 DLPチップ、14 フォーカスレンズ、15 コレクタ、16 ビームスプリッタ、17A 第1の反射板、17B 第2の反射板、18 フォトカソード、19 陽極、20 レーザ光、20A 予熱用のレーザ光、20B 造形用のレーザ光、21 前予熱ビーム、22 造形ビーム、23 後予熱ビーム、24 造形エリア、26 予熱ビーム、27 造形物、31 第1のレーザ発振機、32 第1のコリメーションレンズ、33 第1のフォーカスレンズ、34 第1の反射ミラー、35 第2の反射ミラー、41 第2のレーザ発振機、42 第2のコリメーションレンズ、43 第2のフォーカスレンズ、44 第3の反射ミラー、45 第4の反射ミラー、51 第1偏向コイル、52 最終偏向コイル、61 筐体、81 プロセッサ、82 メモリ、83 処理回路、91 保護ガラス、110 偏向コイル、111 粉末タンク、112 スキージ、113 粉末回収箱、114 ベースプレート、115 昇降装置、116,116A,116C 制御装置、117 遮熱板、118 造形面、119 造形チャンバ、121,121D 電子銃室、131 ミラーアレイ。