(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】水添共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08F 8/04 20060101AFI20241220BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20241220BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241220BHJP
C08C 19/25 20060101ALI20241220BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241220BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241220BHJP
C08F 236/10 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C08F8/04
C08F8/30
C08L15/00
C08C19/25
C08K3/013
B60C1/00 A
B60C1/00 B
C08F236/10
(21)【出願番号】P 2021509689
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014380
(87)【国際公開番号】W WO2020196899
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019061722
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】足立 拓海
(72)【発明者】
【氏名】千賀 寛文
(72)【発明者】
【氏名】海津 充孝
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利充
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086208(WO,A1)
【文献】特開2017-082235(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034195(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164053(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/128291(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0122480(US,A1)
【文献】国際公開第2017/014283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,C08L,C08C
C08K,B60C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添共役ジエン系重合体であって、
2個以上のアルコキシシリル基及び2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物と、複数の共役ジエン系重合体鎖とが結合して形成された構造を有し、
下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布が1.1以上2.0以下であり、かつ、
平衡貯蔵弾性率E’が2.4MPa以上である、水添共役ジエン系重合体。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) …(i)
【化1】
【請求項2】
前記共役ジエン系重合体鎖は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する、請求項1に記載の水添共役ジエン系重合体。
【請求項3】
前記共役ジエン系重合体鎖は、共役ジエン系化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合鎖である、請求項1又は2に記載の水添共役ジエン系重合体。
【請求項4】
前記窒素含有化合物は、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合体。
【化2】
(式(5)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
3は、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、A
1は、基「*-C(R
5)=N-」又は基「*-N=C(R
5)-」(ただし、R
5は水素原子又はヒドロカルビル基であり、「*」はR
4に結合する結合手であることを示す。)である。R
4は、炭素数1~20のm価の炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも一種の原子を有し、かつ当該原子に活性水素が結合していない炭素数1~20のm価の基である。nは1~3の整数であり、mは2~10の整数である。式中、複数のR
1、R
2、R
3、A
1、nは、互いに同一の基又は異なる基である。)
【化3】
(式(6)中、R
6、R
7、R
10及びR
11は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
8及びR
9は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルカンジイル基であり、A
2は、下記式(7)で表される基、下記式(8)で表される基、下記式(9)で表される基、又は下記式(10)で表される基である。w及びpは、それぞれ独立して1~3の整数である。式中、複数のR
6、R
7、R
10、R
11は、それぞれ同一の基又は異なる基である。)
【化4】
(式(7)中、R
12、R
13及びR
15は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
14及びR
16は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルカンジイル基であり、qは1~3の整数であり、rは0~2の整数である。式中、複数のR
12~R
15、qは、それぞれ同一の基又は異なる基である。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化5】
(式(8)中、R
19は炭素数3~20のアルカンジイル基であり、式中の窒素原子とケイ素原子とで5員環以上の環構造を形成する。R
17及びR
18は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
20は、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、sは1又は2である。式中、複数のR
17、R
18はそれぞれ同一の基又は異なる基である。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化6】
(式(9)中、R
23は炭素数1~20のアルカンジイル基である。R
21は炭素数1~20のヒドロカルビリデン基であり、R
22は炭素数1~20のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、隣接する2つの窒素原子とともに5員環以上の環構造を形成する。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化7】
(式(10)中、R
26は炭素数1~20のヒドロカルビレン基であり、R
24及びR
25は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であるか、R
24及びR
25が互いに合わせられR
24及びR
25が結合する窒素原子と共に構成される炭素数4~20の環構造を表すか、又は、R
24及びR
25が互いに合わせられR
24及びR
25が結合する窒素原子と、R
24及びR
25が結合する窒素原子とは異なる窒素原子若しくは酸素原子と共に構成される5員環以上の環構造を表す。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【請求項5】
重合体中において分子量が最も小さいピークトップ分子量が1.0×10
5~2.0×10
6の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合体。
【請求項6】
前記αが0.88以上0.97以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合体と、無機フィラーとを含有する、重合体組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の重合体組成物が架橋されてなる架橋体。
【請求項9】
請求項7に記載の重合体組成物を用いて、トレッド及びサイドウォールのうち一方又は両方が形成されたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年3月27日に出願された日本特許出願番号2019-61722号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、水添共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
共役ジエン化合物を用いた重合により得られる共役ジエン系重合体は、耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、成形加工性等の各種特性が良好であることから、空気入りタイヤや防振ゴム、ホースなどの各種工業製品に広く使用されている。
【0004】
空気入りタイヤのトレッド、サイドウォール等に用いられるゴム組成物としては、製品の耐久性や耐摩耗性を向上させるべく、共役ジエン系重合体と共に、カーボンブラックやシリカ等の補強剤をゴム組成物に配合することが知られている。また従来、共役ジエン系重合体と補強剤との親和性を高めるために、共役ジエン系重合体をケイ素や窒素を有する化合物で変性した変性共役ジエン系重合体を用いることが行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
近年では、アミノ基やアルコキシシリル基等の官能基を片末端又は両末端に有する変性共役ジエン系重合体の水添物を用いて、高強度かつ低摩耗なタイヤ部材を得ることが提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/123164号
【文献】特開平11-349632号公報
【文献】国際公開第2017/221943号
【文献】国際公開第2014/133097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今における環境事情や、省資源・省エネルギーに対する意識の向上等により、ゴム製品の寿命を延ばし使用年数を増加させることや、性能を維持しつつ製品の軽量化や小型化を図ることが望まれている。そこで、従来にも増して高強度であり、かつ耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得ることが可能な材料が求められている。
【0008】
本開示は上記課題に鑑みなされたものであり、高強度であり、かつ耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得ることができる水添共役ジエン系重合体を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示により、以下の水添共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤが提供される。
[1] 水添共役ジエン系重合体であって、2個以上のアルコキシシリル基及び2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物と複数の共役ジエン系重合体鎖とが結合して形成された構造を有し、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下であり、かつ、平衡貯蔵弾性率E’が2.4MPa以上である、水添共役ジエン系重合体。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s) …(i)
【化1】
[2] 上記[1]の水添共役ジエン系重合体と、無機フィラーとを含有する、重合体組成物。
[3]上記[2]の重合体組成物が架橋されてなる架橋体。
[4]上記[2]の重合体組成物を用いて、トレッド及びサイドウォールのうち一方又は両方が形成されたタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本開示の水添共役ジエン系重合体によれば、高強度であって、かつ耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施に関連する事項について詳細に説明する。
≪水添共役ジエン系重合体≫
本開示の水添共役ジエン系重合体は、複数個のケイ素原子及び複数個の窒素原子を有する化合物により末端変性された重合体である。具体的には、当該水添共役ジエン系重合体は、下記(a)、(b)及び(c)を満たす重合体である。
(a)2個以上のアルコキシシリル基及び2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物と複数の共役ジエン系重合体鎖とが結合して形成された構造を有する。
(b)水素添加率が80%以上97%以下である。
(c)平衡貯蔵弾性率E’が2.4MPa以上である。
上記(a)~(c)を満たす水添共役ジエン系重合体は、以下の重合工程、変性工程及び水添工程を含む方法により製造される。
【0012】
<重合工程>
本工程は、共役ジエン化合物を含むモノマーを重合して、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る工程である。重合に使用する共役ジエン化合物としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン及び2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンよりなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、1,3-ブタジエン及びイソプレンのうち少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0013】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物の単独重合体であってもよいが、ゴムの強度を高める観点から、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であることが好ましい。重合に使用する芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、t-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレン(例えば、1-(4-N,N-ジメチルアミノフェニル)-1-フェニルエチレンなど)等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0014】
共役ジエン系重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、中でも、1,3-ブタジエンとスチレンとをモノマー組成に含む重合体であることが好ましい。上記共重合体は、フィラーの分散性をより良好にできる点で、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合部分を有することが好ましい。上記共重合体がランダム共重合体である場合、ランダム共重合部分と共に、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物からなるブロック部分を更に有していてもよい。
【0015】
共役ジエン系重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、芳香族ビニル化合物の使用割合は、得られる架橋重合体の低ヒステリシスロス特性とウェットスキッド抵抗性とのバランスを良好にする観点、及びより高強度な架橋ゴムを得る観点から、重合に使用する共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量に対して、5~50質量%とすることが好ましく、10~45質量%とすることがより好ましい。なお、重合体中における、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は1H-NMRによって測定した値である。共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
上記重合に際しては、モノマーとして、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外の化合物(以下、「他のモノマー」ともいう。)を使用してもよい。他のモノマーとしては、例えばアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等が挙げられる。他のモノマーの使用割合は、重合に使用するモノマーの全体量に対して、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0017】
使用する重合法としては、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれを用いてもよいが、溶液重合法が特に好ましい。また、重合形式としては、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合法を用いる場合、具体的な重合方法の一例としては、有機溶媒中において、共役ジエン化合物を含む単量体を、重合開始剤、及び必要に応じて用いられるランダマイザーの存在下で重合する方法が挙げられる。
【0018】
重合開始剤としては、アルカリ金属化合物が好ましく用いられる。アルカリ金属化合物の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム;1,4-ジリチオブタン、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ナフチルリチウム、1,3-ビス(1-リチオ-1,3-ジメチルペンチル)ベンゼン、1,3-フェニレンビス(3-メチル-1-フェニルペンチリデン)ジリチウム、ナフチルナトリウム、ナフチルカリウム、エトキシカリウム等が挙げられる。これらのうち、重合開始剤として使用するアルカリ金属化合物はリチウム化合物が好ましい。
【0019】
また、重合反応は、上記のアルカリ金属化合物と、シリカと相互作用する官能基を有する化合物(以下、「開始変性剤」ともいう。)とを混合して得られる化合物(R)の存在下で行ってもよい。化合物(R)の存在下で重合を行うことにより、共役ジエン系重合体の重合開始末端に、シリカと相互作用を有する官能基を導入することができる。なお、本明細書において「相互作用」とは、分子間で共有結合を形成するか、又は共有結合よりも弱い分子間力(例えば、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等といった分子間に働く電磁気学的な力)を形成することを意味する。また、「シリカと相互作用する官能基」は、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子などのシリカと相互作用する原子を少なくとも1つ有する基を示す。
【0020】
上記化合物(R)としては、中でもアルキルリチウム等のリチウム化合物と、窒素原子を有する化合物との反応生成物であることが好ましい。リチウム化合物と反応させる開始変性剤は第2級アミン化合物が好ましく、その具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ドデカメチレンイミン、N,N’-ジメチル-N’-トリメチルシリル-1,6-ジアミノヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、ジアリルアミン、モルホリン、N-(トリメチルシリル)ピペラジン、N-(tert-ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,3-ジトリメチルシリル-1,3,5-トリアジナン等が挙げられる。
【0021】
なお、化合物(R)の存在下で重合を行う場合、アルカリ金属化合物と開始変性剤とを予め混合することにより化合物(R)を調製し、その調製した化合物(R)を重合系中に添加して重合を行ってもよい。あるいは、重合系中に、アルカリ金属化合物と開始変性剤とを添加し、重合系中で両者を混合することにより化合物(R)を調製して重合を行ってもよい。重合開始剤の使用量(2種以上使用する場合にはその合計量)は、重合体の合成に使用するモノマー100gに対して、0.01~20mmolとすることが好ましく、0.05~15mmolとすることがより好ましい。
【0022】
ランダマイザーは、重合体中におけるビニル結合の含有率を表すビニル結合含量の調整等を目的として用いることができる。ランダマイザーの例としては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、2-(2-エトキシエトキシ)-2-メチルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
重合に使用する有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶剤であればよく、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などを用いることができる。これらの中でも、炭素数3~8の炭化水素が好ましく、その具体例としては、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、シクロへキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンチン、2-ペンチン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロヘキセン等が挙げられる。なお、有機溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
溶液重合とする場合、反応溶媒中のモノマー濃度は、生産性と重合コントロールの容易性のバランスを維持する観点から、5~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。重合反応の温度は、-20℃~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましい。また、重合反応は、単量体を実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。このような圧力は、重合反応に対して不活性なガスによって、反応器内を加圧する等の方法によって得ることができる。
【0025】
こうした重合反応により、活性末端を有する共役ジエン系重合体が得られる。得られる共役ジエン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5.0×104~1.0×106である。Mwが5.0×104よりも小さいと、得られる架橋ゴムの引張強度、低発熱性及び耐摩耗性が低下しやすい傾向にあり、1.0×106よりも大きいと、水添共役ジエン系重合体を用いて得られるゴム組成物の加工性が低下しやすい傾向にある。より好ましくは、8.0×104~8.0×105であり、更に好ましくは、1.0×105~5.0×105である。
【0026】
上記重合により得られる共役ジエン系重合体につき、ブタジエンに由来する構造単位におけるビニル結合含量は15~70質量%であることが好ましい。ビニル結合含量を25モル%以上とすることで、得られる架橋ゴムにおいて柔軟性が維持され加工性が良好となり、また低スリップ領域での耐摩耗性に優れる傾向がある。ビニル結合含量は、好ましくは18質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。また、共役ジエン系重合体のビニル結合含量は、耐久性の観点から、好ましくは68質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下である。なお、本明細書において「ビニル結合含量」は、水添前の共役ジエン系重合体が有する、ブタジエンに由来する全構造単位に対し、1,2-結合を有する構造単位の含有割合を示す値であり、1H-NMRによって測定した値である。
【0027】
<変性工程>
本工程では、上記重合工程で得られた共役ジエン系重合体が有する活性末端と、2個以上のアルコキシシリル基及び2個以上の窒素原子を有する化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)とを反応させる。特定化合物を末端変性剤として用いることにより、重合体鎖の分岐数が2以上の分岐構造を有し、かつシリカと相互作用する基で変性された変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0028】
特定化合物は、共役ジエン系重合体が有する活性末端と反応可能な反応点を複数個有する。特定化合物が有するアルコキシシリル基の数(すなわち、少なくとも1個のアルコキシ基が結合しているケイ素原子の数)は、得られる加硫ゴムの強度及び耐摩耗性と、ゴム組成物の加工性とを両立させる観点から、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個である。また、特定化合物が有する窒素原子には、活性水素が結合していないことが好ましい。特定化合物が有する窒素原子の数は、好ましくは2~12個である。なお、本明細書において「活性水素」とは、炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいい、好ましくはポリメチレンの炭素-水素結合よりも結合エネルギーが低いものを指す。
【0029】
特定化合物としては、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を好ましく用いることができる。
【化2】
(式(5)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
3は、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、A
1は、基「*-C(R
5)=N-」又は基「*-N=C(R
5)-」(ただし、R
5は水素原子又はヒドロカルビル基であり、「*」はR
4に結合する結合手であることを示す。)である。R
4は、炭素数1~20のm価の炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも一種の原子を有し、かつ当該原子に活性水素が結合していない炭素数1~20のm価の基である。nは1~3の整数であり、mは2~10の整数である。式中、複数のR
1、R
2、R
3、A
1、nは、同一の基又は異なる基である。)
【化3】
(式(6)中、R
6、R
7、R
10及びR
11は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
8及びR
9は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルカンジイル基であり、A
2は、下記式(7)で表される基、下記式(8)で表される基、下記式(9)で表される基、又は下記式(10)で表される基である。w及びpは、それぞれ独立して1~3の整数である。式中、複数のR
6、R
7、R
10、R
11は、それぞれ同一の基又は異なる基である。)
【化4】
(式(7)中、R
12、R
13及びR
15は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
14及びR
16は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルカンジイル基であり、qは1~3の整数であり、rは0~2の整数である。式中、複数のR
12~R
15、qは、それぞれ同一の基又は異なる基である。「*」は、式(2)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化5】
(式(8)中、R
19は炭素数3~20のアルカンジイル基であり、式中の窒素原子とケイ素原子とで5員環以上の環構造を形成する。R
17及びR
18は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R
20は、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、sは1又は2である。式中、複数のR
17、R
18はそれぞれ同一の基又は異なる基である。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化6】
(式(9)中、R
23は炭素数1~20のアルカンジイル基である。R
21は炭素数1~20のヒドロカルビリデン基であり、R
22は炭素数1~20のアルカンジイル基又はアルケンジイル基であり、隣接する2つの窒素原子とともに5員環以上の環構造を形成する。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【化7】
(式(10)中、R
26は炭素数1~20のヒドロカルビレン基であり、R
24及びR
25は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基であるか、R
24及びR
25が互いに合わせられR
24及びR
25が結合する窒素原子と共に構成される炭素数4~20の環構造を表すか、又は、R
24及びR
25が互いに合わせられR
24及びR
25が結合する窒素原子と、R
24及びR
25が結合する窒素原子とは異なる窒素原子若しくは酸素原子と共に構成される5員環以上の環構造を表す。「*」は、式(6)中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【0030】
(上記式(5)で表される化合物)
上記式(5)において、R1、R2のヒドロカルビル基は、例えば炭素数1~20のアルキル基、アリル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。R3のアルカンジイル基は、炭素数1~10が好ましく、炭素数2~10がより好ましい。R3は、好ましくは直鎖状である。
A1が有するR5のヒドロカルビル基については、R1及びR2の説明が適用される。nは、シリカ分散性の改善効果が高い点で、2又は3が好ましく、3がより好ましい。
【0031】
R
4のm価の炭化水素基としては、炭素数1~20の鎖状炭化水素、炭素数3~20の脂環式炭化水素又は炭素数6~20の芳香族炭化水素からm個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。芳香族炭化水素の具体例としては、例えば下記式(11)で表される環構造、当該環構造が2個以上連結してなる多環構造(例えばビフェニル基等)が挙げられる。
【化8】
(式(11)中、r1は0~5の整数である。)
【0032】
R4が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも一種の原子を有し、かつ当該原子に活性水素が結合していない炭素数1~20のm価の基である場合の好ましい具体例としては、m価の複素環基、3級アミン構造を有するm価の基等が挙げられる。複素環基は共役系であることが好ましく、例えばピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、ナフタリジン、フラン、チオフェン等の単環若しくは縮合環、又は当該単環若しくは縮合環が複数個連結してなる構造の環部分からm個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。mは2~10の整数である。mは、ゴム組成物の加工性の観点から、2~6が好ましい。
【0033】
上記式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(M-1)~式(M-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。下記式(M-1)中のR
25は、水素原子又はアルキル基を表し、n1は1~8の整数を表す。
【化9】
【0034】
(上記式(6)で表される化合物)
上記式(6)~式(10)において、R6、R7、R10、R11、R12、R13、R15、R17、R18、R24及びR25の炭素数1~20のヒドロカルビル基としては、例えば炭素数1~20のアルキル基、アリル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。R8、R9、R14、R16、R20、R21、R22、R23及びR24の炭素数1~20のアルカンジイル基、アルケンジイル基、ヒドロカルビリデン基は、炭素数1~10が好ましく、炭素数2~10がより好ましい。R19は、好ましくは炭素数3~10であり、より好ましくは炭素数3~5である。
上記式(8)において、R19、窒素原子及びケイ素原子により形成される環構造は、好ましくは5~7員環、より好ましくは5又は6員環である。上記式(9)において、R21、R22及び隣接する2つの窒素原子により形成される環構造は、好ましくは5~12員環、より好ましくは5~7員環である。
上記式(10)において、R24及びR25が、R24及びR25が互いに合わせられR24及びR25が結合する窒素原子と共に構成される炭素数4~20の環構造を表す場合、当該環構造は、好ましくは炭素数4~9であり、より好ましくは炭素数4~6である。R24及びR25が、R24及びR25が互いに合わせられR24及びR25が結合する窒素原子と、R24及びR25が結合する窒素原子とは異なる窒素原子若しくは酸素原子と共に構成される5員環以上の環構造を表す場合、当該環構造は、好ましくは5~10員環、より好ましくは5~7員環である。上記5員環以上の環構造の具体例としては、例えばピペラジン環構造、モルホリン環構造等が挙げられる。
w、p、qは、シリカ分散性の改善効果が高い点で、2又は3が好ましく、3がより好ましい。同様の理由から、sは2が好ましい。
【0035】
上記式(6)で表される化合物の具体例としては、上記式(6)中のA2が上記式(7)で表される基である化合物として、例えばN,N,N’,N’-テトラ(3-トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(3-トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-N’-メチル-エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,4-ブタンジアミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン等を;
上記式(6)中のA2が上記式(8)で表される基である化合物として、例えばビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[2-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)エチル]アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[2-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)エチル]アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[2-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロヘキサン)エチル]アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[2-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロオクタン)エチル]アミン等を;
上記式(6)中のA2が上記式(9)で表される基である化合物として、例えばN,N-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-3-イミダゾリルプロピルアミン等を;
上記式(6)中のA2が上記式(10)で表される基である化合物として、例えばビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-(3-ジメチルアミノプロピル)アミン等を、それぞれ挙げることができる。
【0036】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と特定化合物との反応は、溶液反応として行うことが好ましい。特定化合物の使用割合(2種以上使用する場合にはその合計量)は、変性反応を十分に進行させ、高強度であってかつ耐摩耗性及び低燃費性能の改善効果が高い架橋ゴムを得る観点から、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上とすることがより好ましい。また、特定化合物の使用割合は、加工性の低下及び過剰な添加を避けるため、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、2.0モル未満とすることが好ましく、1.5モル未満とすることがより好ましい。なお、特定化合物としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
変性反応の温度は、通常、重合反応と同じであり、-20℃~150℃とすることが好ましく、0~120℃とすることがより好ましい。反応温度が低いと、変性後の重合体の粘度が上昇しやすい傾向があり、反応温度が高いと重合活性末端が失活しやすくなる。反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0038】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と特定化合物との反応に際しては、特定化合物と共に、特定化合物とは異なる化合物(以下、「その他の変性剤又はカップリング剤」という。)を用いてもよい。その他の変性剤又はカップリング剤としては、上記重合により得られる共役ジエン系重合体の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されず、共役ジエン系重合体の変性剤又はカップリング剤として公知の化合物(例えば、特定化合物以外の窒素含有アルコキシシラン化合物、グリシジル基含有ポリシロキサン等)を用いることができる。その他の変性剤又はカップリング剤を使用する場合、その使用割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
【0039】
反応溶液に含まれる変性共役ジエン系重合体を単離するには、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。
【0040】
<水添反応>
本工程では、上記変性工程により得られた変性共役ジエン系重合体を水添する。水添反応の方法及び条件は、所望の水添率の変性共役ジエン系重合体が得られるのであれば、いずれの方法及び条件を用いることも可能である。それらの水添方法の例としては、チタンの有機金属化合物を主成分とする触媒を水添触媒として使用する方法、鉄、ニッケル、コバルトの有機化合物とアルキルアルミニウム等の有機金属化合物からなる触媒を使用する方法、ルテニウム、ロジウム等の有機金属化合物の有機錯体を使用する方法、パラジウム、白金、ルテニウム、コバルト、ニッケル等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ等の担体に担持した触媒を使用する方法などがある。各種の方法の中では、チタンの有機金属化合物単独、又はチタンの有機金属化合物とリチウム、マグネシウム、アルミニウムの有機金属化合物とから成る均一触媒(特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報)を用い、低圧、低温の穏和な条件で水添する方法は工業的に好ましく、またブタジエンの二重結合への水添選択性も高く本開示の目的に適している。
【0041】
上記変性工程により得られた変性共役ジエン系重合体の水添は、好ましくは、触媒に不活性であって且つ共役ジエン系重合体が可溶な溶剤を用いて実施される。好ましい溶媒は、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタンのような脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類の単独又はそれらを主成分とする混合物である。
【0042】
水添反応は、一般には共役ジエン系重合体を水素又は不活性雰囲気下、所定の温度に保持し、攪拌下又は不攪拌下にて水添触媒を添加し、次いで水素ガスを導入して所定圧に加圧することによって実施される。不活性雰囲気とは、水添反応の関与体と反応しない雰囲気を意味し、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。空気や酸素は、触媒を酸化したりして触媒の失活を招くので好ましくない。また、窒素は、水添反応時に触媒毒として作用し、水添活性を低下させるので好ましくない。特に、水添反応器内は水素ガス単独の雰囲気であることが最も好適である。
【0043】
水添共役ジエン系重合体を得る水添反応プロセスは、バッチプロセス、連続プロセス、それらの組合せのいずれでも用いることができる。また、水添触媒としてチタノセンジアリール系化合物を用いる場合は、単独でそのまま反応溶液に加えてもよいし、不活性有機溶媒の溶液として加えてもよい。触媒を溶液として用いる場合に使用する不活性有機溶媒は、水添反応の関与体と反応しない各種溶媒を用いることができる。好ましくは水添反応に用いる溶媒と同一の溶媒である。また、触媒の好ましい添加量は、水添前の共役ジエン系重合体100g当たり0.02~20ミリモルである。
【0044】
本開示の水添共役ジエン系重合体は、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値αが0.80以上0.97以下である。
α=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)…(i)
【化10】
【0045】
特定化合物を用いて末端変性することにより得られる水添共役ジエン系重合体は、αが0.80以上0.97以下であることにより、高強度であってかつ耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得ることができる。耐摩耗性(特に、低スリップ率での耐摩耗性)により優れた架橋ゴムを得ることができる点で、αは0.84以上であることがより好ましく、0.86以上であることが更に好ましく、0.88以上であることが特に好ましい。なお、上記数式(i)のαは、水添共役ジエン系重合体の水添率に相当する。例えば、αが0.80の場合、その水添共役ジエン系重合体の水添率は80%である。また、αは、低燃費性能がより良好な架橋ゴムを得るために、0.96以下であることがより好ましく、0.95以下であることが更に好ましい。なお、重合体の水添率は、水添反応の時間等により調整することができる。本明細書において水添率は1H-NMRにより測定した値である。
【0046】
特定化合物を用いて変性された水添共役ジエン系重合体を得るための好ましい方法は、ブタジエンを含むモノマーをアルカリ金属化合物の存在下で溶液重合し、得られた重合体溶液をそのまま用いて特定化合物により重合体の変性を行い、次いで水添工程に供することであり、工業的に有用である。この場合、水添共役ジエン系重合体は、上記で得られた溶液から溶媒を除去し、重合体を単離することにより得られる。重合体を単離するには、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。
【0047】
得られた水添共役ジエン系重合体につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、高強度であり、かつ低発熱性及び耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得る観点から、好ましくは1.5×105~2.0×106である。水添共役ジエン系重合体のMwは、より好ましくは1.8×105以上であり、さらに好ましくは2.0×105以上である。また、Mwは、より好ましくは1.6×106以下、さらに好ましくは1.4×106以下である。なお、水添共役ジエン系重合体の重量平均分子量は、活性末端を有する共役ジエン系重合体と特定化合物との反応生成物を水添した後にGPCにより測定されるGPC曲線の最大ピーク分子量から求めた値である。
【0048】
また、上記製造方法により得られた水添共役ジエン系重合体につき、GPCにより測定される重合体の総量(すなわち、異なる分子量の集合体)の分子量分布は、1.1以上2.0以下であることが好ましい。分子量分布が1.1以上であると、加工性に優れる点で好ましく、2.0以下であると、得られる加硫ゴムの低燃費性を十分に高くでき好ましい。上記反応により得られた水添共役ジエン系重合体の分子量分布は、より好ましくは1.20以上、さらに好ましくは1.23以上である。また、当該分子量分布は、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0049】
得られた水添共役ジエン系重合体につき、GPCにより測定される、分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量は、好ましくは1.0×105~2.0×106の範囲である。分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量が1.0×105以上であると、得られる加硫ゴムの強度及び耐摩耗性の改善効果を十分高くでき、かつ、コールドフロー特性をより優れたものとすることができ好ましい。分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量は、より好ましくは1.1×105以上であり、更に好ましくは1.2×105以上である。また、加工性と粘弾性特性をより優れたものにする点で、分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量は、より好ましくは1.8×106以下であり、更に好ましくは1.2×106以下である。
【0050】
上記製造方法によれば、動的粘弾性試験(測定モード:引張、測定温度:-80℃~150℃、昇温速度:5℃/分、引張歪み:0.1%、周波数:1Hz)により測定した貯蔵弾性率(平衡貯蔵弾性率E’)が2.4MPa以上である水添共役ジエン系重合体を得ることができる。特定化合物を用いて変性された水添共役ジエン系重合体の平衡貯蔵弾性率E’が2.4MPa以上であると、高強度であり、かつ耐摩耗性(特に、低スリップ率での耐摩耗性)が大きく改善された加硫ゴムを得ることができる点で好適である。こうした観点から、平衡貯蔵弾性率E’は、好ましくは2.6以上であり、より好ましくは2.8以上である。また、水添共役ジエン系重合体の平衡貯蔵弾性率E’は、得られる重合体組成物の加工性を十分に確保する観点から、5.0以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4.2以下であることが更に好ましい。なお、平衡貯蔵弾性率E’は、例えば重合体の水素添加率等により調整することができる。このとき、水素添加率を高くすると、平衡貯蔵弾性率E’は大きくなる傾向にある。
【0051】
上記製造方法によれば、特定化合物の反応点(アルコキシシリル基等)に対し、共役ジエン系重合体鎖が2個以上結合した分岐構造を有し、かつ水素添加率が80~97%である水添共役ジエン系重合体を得ることができる。また、複数の窒素原子及び複数のアルコキシシリル基を有する変性剤(特定化合物)と、活性末端を有する共役ジエン系重合体とを反応させて高分岐構造とするとともに、80~97%の高水添率とすることで、平衡貯蔵弾性率E’が2.4以上と高い重合体を得ることができる。こうした重合体を用いることにより、コールドフローが十分に抑制されて加硫ゴムの形状安定性(貯蔵安定性)を改善できるとともに、高強度であってかつ耐摩耗性に優れた加硫ゴムを得ることができる。
【0052】
<重合体組成物>
本開示の重合体組成物は、上記の水添共役ジエン系重合体と無機フィラーとを含有する。重合体組成物中における上記水添共役ジエン系重合体の含有割合は、重合体組成物の全体量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記水添共役ジエン系重合体の含有割合は、重合体組成物の全体量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0053】
無機フィラーとしては、シリカ及びカーボンブラックのうち一方又は両方を好ましく使用できる。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらのうち、破壊特性の改良効果や、ウェットグリップ性と低転がり抵抗性との両立効果の観点から、湿式シリカが特に好ましい。また、高分散型(High Dispersible Type)のシリカを使用することも、重合体組成物中における分散性を良好にできるとともに物性及び加工性を向上できる観点から好ましい。なお、シリカは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
カーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられるが、特に限定されるものではない。無機フィラーとしてカーボンブラックを使用することにより良好な補強効果が得られる。また、重合体組成物には、無機フィラーとしてシリカ、カーボンブラックの他に、クレー、炭酸カルシウムなどの各種の補強性充填剤が配合されていてもよい。好ましくは、シリカ単独、又はカーボンブラックとシリカとの併用である。重合体組成物中におけるシリカ及びカーボンブラックの合計量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の全体量100質量部に対して、好ましくは20~130質量部、より好ましくは25~110質量部である。
【0055】
本開示の重合体組成物には架橋剤が含有されていてもよい。架橋剤としては、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂等が挙げられ、通常、硫黄が使用される。硫黄の配合量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0056】
本開示の重合体組成物には、上記で得られた水添共役ジエン系重合体に加えて、他のゴム成分が配合されていてもよい。かかるゴム成分の種類は特に限定されないが、ブタジエンゴム(BR、例えばシス-1,4結合90%以上のハイシスBR、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)含有BRなど)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、ブタジエンイソプレン共重合体ゴム等が挙げられ、より好ましくはBR、SBRである。重合体組成物中における他のゴム成分の含有割合は、上記水添共役ジエン系重合体と他のゴム成分との合計量に対して、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
重合体組成物には、油展のためのオイルとして、エラストマーを油展するために一般的に用いられるプロセスオイルが配合されていてもよい。プロセスオイルは、例えば、ゴム配合中にオイルを直接添加することによってゴム組成物に配合される。好ましいプロセスオイルとしては、当業界で公知の様々なオイルが挙げられ、例えば、芳香族系オイル、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、植物油、並びに、多環式芳香族化合物の含量の低いオイル(低PCAオイル)、例えば軽度抽出溶媒和物(MES:mild extraction solvate)、留出油からの芳香族系抽出物を処理した油(TDAE:treated distillate aromatic extract)、残油からの芳香族系特殊抽出物(SRAE:special residual aromatic extract)、及び重ナフテン系オイルなどが挙げられる。市販のMES、TDAE及びSRAEの例としては、MESとしてShell製のCatenex SNR(留出油を溶媒で脱ワックスした重質パラフィン)、TDAEとしてH&R Wasag AG製のVivatec 500、及びSRAEとしてJapan Energy Corp.製のNC140などが挙げられる。プロセスオイルの配合量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは10~100質量部である。
【0058】
重合体組成物には、上記した成分の他に、例えば老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、硫黄、加硫促進剤、シランカップリング剤、相溶化剤、加硫助剤、加工助剤、スコーチ防止剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各種成分に応じて適宜選択することができる。
【0059】
本開示の重合体組成物は、重合体成分及び無機フィラーの他、必要に応じて配合される成分を、開放式混練機(例えば、ロール)、密閉式混練機(例えば、バンバリーミキサー)等の混練機を用いて混練し、成形加工後に架橋(加硫)することによって、架橋体として各種ゴム製品に適用可能である。具体的には、上記架橋体は、例えばタイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング等のシール材;自動車、船舶、航空機、鉄道等の各種車両用の内外装表皮材;建築材料;産業機械用や設備用などの防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング;ダストブーツ;医療用機器材料;防舷材;電線用絶縁材料;その他の工業品等の用途に適用できる。
【0060】
本開示の水添共役ジエン系重合体によれば、強度及び耐摩耗性に加え、低燃費性能といった、タイヤ用途で求められる物性が良好な架橋体を得ることができる。したがって、本開示の水添共役ジエン系重合体を含む重合体組成物は、特にタイヤのトレッド、サイドウォール又はその両方の材料として好適に使用できる。
【0061】
タイヤの製造は、常法に従い行うことができる。例えば、重合体組成物を混練機で混合し、シート状にしたものを、常法に従い所定位置(例えば、サイドウォールの場合にはカーカスの外側)に配して加硫成形することにより、トレッドゴム又はサイドウォールゴムとして形成され、空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体の各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0063】
[重合体の特性評価]
・ビニル結合含量(%):水添前の重合体につき、400MHzの1H-NMRによって測定した。
・結合スチレン含量(%):水添前の重合体につき、400MHzの1H-NMRによって測定した。
・1stピーク重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn):水添前の重合体につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の分子量に基づくチャートを得て、そのチャートに基づいて求めた。GPCの具体的な測定条件は以下の通りである。
(GPC測定条件)
測定器:HLC-8020(東ソー社製)
カラム:GMH-HR-H(東ソー社製)2本を直列に連結した。
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/分
サンプル濃度:10mg/20ml
・水素添加率(%)及びα:400MHzの1H-NMRによって求めた。
・コールドフロー(C/F):圧力3.5ポンド/平方インチ、温度70℃で重合体を1/4インチオリフィスに通して押し出すことによりコールドフローを測定した。定常状態にするために、10分間放置後、押し出し速度を測定し、値を毎分のグラム数(mg/min)で示した。なお、コールドフローは、その値が小さいほど形状安定性(貯蔵安定性)が良好であることを示す。コールドフロー値が1.0未満であった場合に「良好(A)」、1.0以上2.0未満であった場合に「可(B)」、2.0以上であった場合に「不良(C)」と判断した。
・平衡貯蔵弾性率E’(MPa):動的粘弾性計測装置(TAインスツルメント社製)を用い、引張モードにて、測定温度-80℃~150℃、昇温速度5℃/分、引張歪み0.1%、周波数1Hzの条件にて平衡貯蔵弾性率E’を測定した。
【0064】
<水添共役ジエン系重合体の合成>
[実施例1:水添共役ジエン系重合体Aの合成及びその物性]
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25600g、テトラヒドロフラン66g、スチレン960g及び1,3-ブタジエン2176gを仕込んだ。反応器の内容物の温度を40℃に調整した後、重合開始剤としてn-ブチルリチウム33mmolを添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で(重合開始から20分経過後に)、1,3-ブタジエン64gを2分間かけて追加し、その後、末端反応剤として下記式(N-1)で表される化合物13mmolを加えて15分間反応を行った。
次いで、反応液を80℃以上にして系内に水素を導入した。次いで、水添触媒として[ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウム(フルフリルオキシ)クロライド] 2.2g、ジエチルアルミニウムクロライド3.6g、及びn-ブチルリチウム0.9gを加え、水素圧0.7MPa以上を保つようにして反応させた。所定の水素積算流量に到達後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
次いで、得られた重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール14gを添加し、水の入った脱溶媒槽に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、水200質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で、1時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)により脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことにより水添共役ジエン系重合体Aを得た。水添共役ジエン系重合体Aの重合処方を下記表1に示し、得られた水添共役ジエン系重合体Aの各種物性値等を下記表2に示す。
【化11】
【0065】
[実施例2~6:水添共役ジエン系重合体B~Fの合成及びその物性]
重合処方を下記表1に記載のとおり変更した点、及び水素添加率を下記表2に記載のとおり変更した点以外は実施例1と同様の方法により、水添共役ジエン系重合体B~Fを得た。なお、実施例5では、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン及び1,3-ブタジエンと共にピペリジン26mmolをオートクレーブ反応器に仕込んだ。実施例6では、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン及び1,3-ブタジエンと共に下記式(K-2)で表される化合物33mmolをオートクレーブ反応器に仕込んだ。得られた水添共役ジエン系重合体B~Fの各種物性値等を下記表2に示す。
[比較例1:未水添の共役ジエン系重合体Pの合成及びその物性]
重合処方を下記表1に記載のとおり変更した点、及び水添処理を実施しなかった点以外は実施例1と同様の方法により、未水添の変性共役ジエン系重合体Pを得た。得られた共役ジエン系重合体Pの各種物性値等を下記表2に示す。
[比較例2~6:水添共役ジエン系重合体Q~Uの合成及びその物性]
重合処方を下記表1に記載のとおり変更した点、及び水素添加率を下記表2に記載のとおり変更した点以外は実施例1と同様の方法により、水添共役ジエン系重合体Q~Uを得た。得られた水添共役ジエン系重合体Q~Uの各種物性値等を下記表2に示す。
【0066】
【0067】
表1中、「-」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを意味する。重合開始剤及び末端反応剤の略称は以下の通りである(下記表2についても同じ)。
・K-1:ピペリジン
・K-2:下記式(K-2)で表される化合物
・N-1:上記式(N-1)で表される化合物
・N-2:下記式(N-2)で表される化合物
・N-3:下記式(N-3)で表される化合物
・N-4:下記式(N-4)で表される化合物
・N-5:四塩化ケイ素
【化12】
【0068】
【0069】
<ゴム組成物及び架橋重合体の製造>
上記で製造した(水添)共役ジエン系重合体A~F、P~Uをそれぞれ用いて、下記表3に示す配合処方により各成分を配合し、これを混練りすることによってゴム組成物を製造した。混練りは以下の方法で行った。温度制御装置を付属したプラストミル(内容量:250ml)を使用し、まず一段目の混練りとして、充填率72%、回転数60rpmの条件で、水添又は未水添の変性共役ジエン系重合体(A~F、P~U)、シリカ、シランカップリング剤、伸展油、ステアリン酸、酸化亜鉛及び老化防止剤を配合して混練りした。次いで、二段目の混練りとして、上記で得た配合物を室温まで冷却後、加硫促進剤及び硫黄を配合し、混練りした。得られたゴム組成物を成型し、160℃で所定時間、加硫プレスにて加硫して、架橋ゴム(加硫ゴム)を得た。また、以下のようにして破壊強度、低スリップ率での耐摩耗性、及び転がり抵抗性(低燃費特性)を評価した。結果を下記表4に示す。
(1)破壊強度:架橋重合体を測定用試料とし、JISK6251:2010に従って破断時の引張強さ(TB)を測定した。数値が大きいほど破壊強度が高く、良好であることを示す。
(2)耐摩耗性:架橋重合体を測定用試料とし、ランボーン型摩耗試験機(島田技研社製)を用い、JIS K6264-2:2005に準拠し、温度50℃においてスリップ率15%での摩耗量を測定した。測定結果は比較例1の摩耗量の逆数を100とした指数で示し、数値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
(3)転がり抵抗性(50℃tanδ):架橋ゴムを測定用試料とし、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪0.7%、角速度100ラジアン毎秒、50℃の条件で測定した。測定結果については、比較例1を100とした指数で示し、数値が大きいほどエネルギロスが小さく、転がり抵抗性(低燃費性能)が良好であることを示す。
【0070】
【0071】
【0072】
上記表4の結果から分かるように、実施例1~6のゴム組成物を用いて加硫ゴムを製造することにより、水添率が0%、70%の(水添)共役ジエン系重合体を用いた比較例1及び比較例2のゴム組成物と比べて、破壊強度及び耐摩耗性が大きく改善された。また、実施例1~6のゴム組成物によれば、水添率が98%の水添共役ジエン系重合体を用いた比較例3のゴム組成物と比べて、優れた破壊強度及び耐摩耗性を維持しつつ、低燃費特性が大きく改善された。また、末端反応剤として化合物(N-3)を用いた比較例4、化合物(N-4)を用いた比較例5、四塩化ケイ素を用いた比較例6のゴム組成物と比べると、実施例1~6のゴム組成物を用いることにより、加硫ゴムの破壊強度及び低燃費特性に大きな向上が見られた。これらの結果から、水添共役ジエン系重合体A~Fによれば、高強度であって耐摩耗性に優れた加硫ゴムを得ることができることが確認された。また、水添共役ジエン系重合体A~Fを用いて得られた加硫ゴムは転がり抵抗性(低燃費性能)も優れていた。