(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】マイクロホン投影を使用する音相殺
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241220BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
G10K11/178 120
B60R11/02 M
(21)【出願番号】P 2021568359
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 US2020032778
(87)【国際公開番号】W WO2020232187
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-14
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤシャール・アヴァル
(72)【発明者】
【氏名】タイラー・ホワイト
(72)【発明者】
【氏名】ベン・ジェイ・フェン
(72)【発明者】
【氏名】アンキタ・ディー・ジャイン
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-338224(JP,A)
【文献】特開平06-250674(JP,A)
【文献】特開平08-190388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0051283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 9/00-11/06
G10K 11/00-13/00
H03H 15/00-15/02
H03H 17/00-17/08
H03H 19/00-21/00
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音相殺システムであって、
相殺信号を受信し、車両内で相殺オーディオ信号を生成するように構成されたトランスデューサと、
前記車両内の第1の場所における音響エネルギーを表す誤差信号を提供するように構成されたマイクロホンと、
前記誤差信号をフィルタリングして、前記マイクロホンが前記車両内の第2の場所に配置された場合に提供されたであろう前記誤差信号の推定である推定誤差信号を提供するように構成された投影フィルタであって、前記投影フィルタが、前記車両の状態に基づいて選択される、投影フィルタと、
前記推定誤差信号に基づいて、前記相殺信号を調整する適応モジュールと、を備え、
前記車両の前記状態が、パワートレイン動作状態又は車室音響状態のうちの1つであり、
前記パワートレイン動作状態は、マニホールド真空、リアサスペンションへの負荷の伝達、フロントサスペンションへの負荷の伝達、旋回/コーナリング加速及びダンパ剛性のうちの1つ以上であり、
前記車室音響状態は、エアバッグセンサまたは顔認識によって推定される占有率のうちの1つ以上である、
音相殺システム。
【請求項2】
前記車両の前記状態が、回転速度、及びトルクのうちの1つ以上
をさらに含む、請求項1に記載の音相殺システム。
【請求項3】
前記相殺信号をフィルタリングして、前記推定誤差信号と組み合わされる補正信号を提供し、補正された推定誤差信号を提供するように構成された補正フィルタを更に備え、前記音相殺システムが、前記補正された推定誤差信号に基づいて前記相殺信号を調整するように構成されている、請求項1に記載の音相殺システム。
【請求項4】
前記補正フィルタが、前記車両の前記状態に基づいて選択される、請求項3に記載の音相殺システム。
【請求項5】
高調波信号を受信し、前記相殺信号を提供する相殺フィルタを更に備え、前記音相殺システムが、前記相殺フィルタを調整することによって前記相殺信号を調整するように構成されている、請求項1に記載の音相殺システム。
【請求項6】
音相殺システムであって、
回転装置に関連する高調波信号を受信し、相殺信号を提供する相殺フィルタと、
前記相殺信号を受信し、環境内で相殺オーディオ信号を生成する、前記相殺フィルタに結合されたトランスデューサと、
前記環境内の第1の場所における音響エネルギーを表す誤差信号を提供するように構成されたマイクロホンと、
前記誤差信号をフィルタリングして、前記マイクロホンが前記環境内の第2の場所に配置された場合に提供されたであろう前記誤差信号の推定である推定誤差信号を提供するように構成された投影フィルタと、
前記推定誤差信号に基づいて、前記相殺信号を調整する適応モジュールと、を備え、
前記投影フィルタが、前記回転装置の動作状態又は前記環境の音響状態に基づいて選択され、
前記回転装置の動作状態は、マニホールド真空、リアサスペンションへの負荷の伝達、フロントサスペンションへの負荷の伝達、旋回/コーナリング加速及びダンパ剛性のうちの1つ以上であり、
前記環境の前記音響状態は、エアバッグセンサまたは顔認識によって推定される占有率のうちの1つ以上である、
音相殺システム。
【請求項7】
音を相殺する方法であって、
相殺信号を車両の車室内の相殺オーディオ信号に変換することと、
フィードバックセンサによって前記車室内の第1の場所で誤差信号を検出することであって、前記誤差信号が前記第1の場所おける音響エネルギーを表す、検出することと、
前記車両の状態に基づいて選択された投影フィルタを介して、前記誤差信号をフィルタリングして、前記フィードバックセンサが前記車室内の第2の場所に配置された場合に提供されたであろう前記誤差信号の推定である推定誤差信号を提供することと、
前記推定誤差信号に基づいて、前記相殺信号を調整することと、を含み、
前記車両の前記状態が、パワートレイン動作状態または前記車室の音響状態のうちの1つであり、
前記パワートレイン動作状態は、マニホールド真空、リアサスペンションへの負荷の伝達、フロントサスペンションへの負荷の伝達、旋回/コーナリング加速及びダンパ剛性のうちの1つ以上であり、
前記車室の前記音響状態は、エアバッグセンサまたは顔認識によって推定される占有率のうちの1つ以上である、
方法。
【請求項8】
前記車両の前記状態が、回転速度及びトルクのうちの1つ以上
をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
補正フィルタを介して、前記相殺信号をフィルタリングして、補正信号を提供することと、前記補正信号を前記推定誤差信号と組み合わせて、補正された推定誤差信号を提供することと、前記補正された推定誤差信号に基づいて前記相殺信号を調整することと、を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記補正フィルタが、前記車両の前記状態に基づいて選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
相殺フィルタを介して、高調波信号をフィルタリングして、前記相殺信号を提供することと、前記相殺フィルタを調整することによって前記相殺信号を調整することと、を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
高調波音を調整する方法であって、
回転装置に関連する高調波信号をフィルタリングして、相殺信号を提供することと、
前記相殺信号を環境内の相殺オーディオ信号に変換することと、
前記環境内の第1の場所における音響エネルギーを表す誤差信号を受信することと、
前記誤差信号をフィルタリングして、前記誤差信号が前記環境内の第2の場所において受信された場合に提供されたであろう前記誤差信号の推定である推定誤差信号を提供することと、
前記推定誤差信号に基づいて、前記相殺信号を調整することと、を含み、
前記誤差信号をフィルタリングして、推定誤差信号を提供することが、前記回転装置の動作状態又は前記環境の音響状態に基づき、
前記回転装置の動作状態は、マニホールド真空、リアサスペンションへの負荷の伝達、フロントサスペンションへの負荷の伝達、旋回/コーナリング加速及びダンパ剛性のうちの1つ以上であり、
前記環境の前記音響状態は、エアバッグセンサまたは顔認識によって推定される占有率のうちの1つ以上である、
方法。
【請求項13】
記録された命令を有する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記1つ以上のプロセッサに、
環境内の音響信号に変換される相殺信号を提供することと、
前記環境内の第1の場所おけるフィードバックセンサから誤差信号を受信することであって、前記誤差信号が、前記第1の場所における音響エネルギーを表す、受信することと、
投影フィルタによって、前記誤差信号をフィルタリングして、前記フィードバックセンサが前記環境内の第2の場所に配置された場合に提供されたであろう前記誤差信号の推定である推定誤差信号を提供することであって、前記投影フィルタの伝達関数が、回転装置の動作状態に基づいて選択される、提供することと、
前記推定誤差信号に基づいて、前記相殺信号を調整することと、を含み、
前記動作状態が、車両パワートレイン動作状態又は車両室音響状態のうちの1つであり、
前記パワートレイン動作状態は、マニホールド真空、リアサスペンションへの負荷の伝達、フロントサスペンションへの負荷の伝達、旋回/コーナリング加速及びダンパ剛性のうちの1つ以上であり、
車室の前記音響状態は、エアバッグセンサまたは顔認識によって推定される占有率のうちの1つ以上である、方法を実行させる、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記動作状態が、回転速度及びトルクのうちの1つ以上
をさらに含む、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
補正フィルタを介して、前記相殺信号をフィルタリングして、補正信号を提供することと、前記補正信号を前記推定誤差信号と組み合わせて、補正された推定誤差信号を提供することと、前記補正された推定誤差信号に基づいて前記相殺信号を調整することと、を更に含む、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記回転装置に関連する高調波信号をフィルタリングして、前記相殺信号を提供することを更に含む、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年5月16日に出願された「SOUND CANCELLATION USING MICROPHONE PROJECTION」と題する米国特許仮出願第62/848,888号の利益を主張し、この仮出願は、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、概して、フィードバックセンサから離れた場所における望ましくない音を表す誤差信号を最小化するシステム及び方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
下記で言及される全ての実施例及び特徴は、任意の技術的に可能な方式で組み合わせることができる。
【0004】
様々な態様は、望ましくない音、特に、エンジン又は他のドライブトレイン高調波などの回転装置の高調波、及び/又は空調装置、ファン、モータドライブなどの他の装置の高調波の相殺又は低減のための、相殺システム、方法、及び/又はプログラムコードを含む。システム、方法、又はプログラムコードは、相殺信号を生成するように構成された相殺フィルタを含む(又は実装する)。相殺信号は、高調波を表す信号を提供する、エンジン又はドライブトレイン回転(例えば、1分当たりの回転数)などの、回転を示すタコメータ又は他のセンサなどのセンサから受信された基準信号に基づき得る。トランスデューサは、車両室などの音響環境内の第1の場所に配設され、相殺信号を受信し、相殺信号を環境内の相殺オーディオ信号に変換するように構成されている。マイクロホンなどのフィードバックセンサは、環境内の第2の場所に配設されて、誤差信号とみなされ得るフィードバック信号を出力することができ、フィードバック信号は、第2の場所における音を表す。1つ以上の投影フィルタが、フィードバック信号及び/又は相殺信号をフィルタリングして、第1の場所及び第2の場所から離れた第3の場所における望ましくない高調波音の推定値を表す推定誤差信号を提供するように構成され得る。調整モジュールは、推定誤差信号に基づいて、相殺オーディオ信号が、第3の場所における望ましくない音と破壊的に干渉するように、相殺フィルタを調整するように構成され得る。
【0005】
様々な実施例によれば、センサは、エンジンの回転速度を示し得、エンジンの高調波情報を提供し得る。いくつかの実施例では、センサは、トランスミッション、トランスアクスル、ホイール、等などのドライブトレインの他の部分に関する回転情報を提供し得る。特定の実施例では、センサは、例えば、窓、ワイパ、等、空調装置、ファン、などを作動させるための駆動モータなどの、他の回転装置に関する回転情報を提供し得る。場合によっては、センサは、回転装置の1つ以上の高調波を示す1つ以上の実質的に正弦波の信号を更に提供し得る。
【0006】
特定の実施例では、フィードバックセンサは、車両の車室などの環境内の音響エネルギーを検出するためのマイクロホンであってもよく、マイクロホンの場所は、ルーフ、ピラー、ヘッドライナ、又は他の場所であってもよい。様々な実施例において、第3の場所は、乗員の耳の予想される位置である。したがって、フィードバックセンサ信号は、遠隔マイクロホン信号であり得、推定誤差信号は、乗員の耳における音響エネルギーの推定を表し得る。したがって、推定誤差信号は、第3の場所に位置する仮想マイクロホンを表し得、例えば、ルーフマイクロホンは、乗員の耳の場所に「投影」される。
【0007】
様々な実施例において、推定誤差信号は、第2の場所(マイクロホン)と第3の場所(乗員の耳)との間の音響関係の推定に基づいている。特定の実施例では、推定誤差信号はまた、第1の場所(トランスデューサ)と第3の場所(乗員の耳)との間の音響関係の推定、及び第1の場所(トランスデューサ)と第2の場所(マイクロホン)との間の音響関係の推定に基づくことができる。
【0008】
特定の実施例では、1つ以上の投影フィルタは、第2の場所と第3の場所との間の関係を推定するように構成された第1のフィルタを備え、第1のフィルタは、フィードバック信号(第2の場所における望ましくない音)を受信及びフィルタリングし、第3の場所における望ましくない音の推定である第1のフィルタリングされた信号を出力するように構成されている。第1のフィルタは、例えば、フィードバックセンサ(マイクロホン)を代替の場所(乗員の耳)に「投影」して、フィードバックセンサが代替の場所に位置している場合にフィードバック信号がどのようになるかの推定をもたらすので、投影フィルタと呼ばれる場合がある。
【0009】
いくつかの実施例では、1つ以上の投影フィルタは、第1の場所(トランスデューサ)と第3の場所(乗員の耳)との間の関係を推定するように構成された第2のフィルタを更に備え、第2のフィルタは、相殺信号を受信及びフィルタリングし、第3の場所における相殺オーディオ信号の推定値である第2のフィルタリングされた信号を出力するように構成されており、第2のフィルタリングされた信号は、第1のフィルタリングされた信号及び第2のフィルタリングされた信号が合計されたときに、フィードバックセンサにおいて受信された相殺オーディオ信号に基づいて、第1のフィルタリングされた信号の一部分を相殺するように構成されている。
【0010】
特定の実施例では、1つ以上の投影フィルタは、第2の場所(例えば、マイクロホン)と第3の場所(例えば、乗員の耳)との間の音響関係及び/又は第1の場所(例えば、トランスデューサ)と第3の場所(例えば、乗員の耳)との間の伝達経路に影響を及ぼし得るような、特定の車両動作状態に基づいて選択されてもよく、二次経路伝達関数としても知られている。したがって、フィルタ選択がベースとなる特定の車両及び/又はパワートレインの動作状態は、以下のうちの1つ以上を含み得る:エンジン回転速度(engine rotational rate、RPM)、トランスミッションRPM、エンジン出力トルク(τ)、トランスミッション出力トルク、スロットル位置、マニホールド真空、エンジンスパークタイミング/レート、エンジン及び/又はトランスミッションRPMの変化率(例えば、デルタ-RPM、ΔRPM)、負荷/加重及び同じ分散、加速(リアサスペンションに負荷を伝達)、制動/減速(フロントサスペンションに負荷を伝達)、旋回/コーナリング加速(左右から負荷を伝達)、及び/又はサスペンション制御及び/若しくはダンパ剛性(例えば、水圧式、空気式、電子的に制御されたサスペンション構成要素)。
【0011】
特定の実施例では、1つ以上の投影フィルタは、第2の場所と第3の場所との間の関係及び/又は第1の場所と第3の場所との間の伝達経路に影響を及ぼし得るような、車室音響に影響を及ぼし得る特定の状態に基づいて選択されてもよい。フィルタ選択がベースとなる状態は、以下のうちの1つ以上を含み得る:窓の位置(開/閉の程度)、サンルーフの位置(開/閉の程度)、ドアの半開き(例えば、ハッチ開/閉)、座席位置(例えば、高さ、傾き、前部/後部)、折り畳まれるか、しまい込まれた後部座席、エアバッグ乗員センサ、カメラ、等によって検出され得る占有率(乗員数、座席数、重量、等)。
【0012】
様々な実施例では、1つ以上の投影フィルタは、第3の場所における望ましくない音の推定が、将来の時点において第3の場所における望ましくない音の推定であるように、少なくとも1つの予測フィルタを備える。
【0013】
これらの例示的態様及び例に関する更なる他の態様、実施例、及び利点を、以下で詳細に考察する。本明細書で開示する例は、本明細書に開示される原理の少なくとも1つと一致する任意の様式で、他の例と組み合わせることができ、更に、「一実施例(an example)」、「いくつかの実施例(some examples)」、「代替例(an alternate example)」、「様々な実施例(various examples)」、「一実施例(one example)」等への言及は、必ずしも互いに独占的ではなく、説明される特定の特徴、構造、又は特性は、少なくとも1つの実施例に含まれ得ることを示すように意図される。本明細書におけるこうした用語の出現は、必ずしも全てが同じ実施例を示すわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】別の例示的な音相殺システムの概略図である。
【
図4】別の例示的な音相殺システムの概略図である。
【
図5】別の例示的な音相殺システムの概略図である。
【
図6】別の例示的な音相殺システムの概略図である。
【
図7】別の例示的な音相殺システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
少なくとも1つの例の様々な態様を、添付図面を参照して、以下で考察するが、これらの図面は、縮尺とおりに描かれることを意図しない。これらの図は、様々な態様と例の図示、及び更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成するが、本発明の制約の定義として意図されない。図において、様々な図で図示される同一の、又は略同一の構成要素は、同様の文字又は数字で表記され得る。明瞭にするために、全ての図において、全ての構成要素が、必ずしもラベル付けされていない場合がある。
【0016】
車両室内の高調波相殺などの、既定の体積内の望ましくない音を相殺又は低減する音相殺システムは、多くの場合、フィードバックセンサ(マイクロホンなど)を用いて、残留する相殺されなかった音を表す誤差信号(又はフィードバック信号)を生成する。この誤差信号は、残留する相殺されなかった音を最小化する試みにおいて相殺信号を調整する適応フィルタにフィードバックされる。
【0017】
しかしながら、状況によっては、フィードバックセンサは最適な場所に位置付けされていない場合がある。例えば、車両の状況では、フィードバックセンサは、ルーフ、ピラー、又はヘッドレスト内に配置されてもよいが、望ましくない音は、乗員の耳において相殺されるべきである。結果として、誤差信号は、フィードバックセンサにおける誤差を示すが、乗員の耳におけるものではない。相殺システムの目的は、乗員の耳において望ましくない音を相殺することであるため、これは望ましくない。しかしながら、乗員の耳にマイクロホンを配置することは、非実用的であり、乗員には受け入れられない可能性がある。しかしながら、いくつかの実施例では、耳の場所に配置されたマイクロホンによる事前測定は、耳の場所とフィードバックセンサの場所との間の音響関係を決定し得る。したがって、フィードバックセンサ信号(例えば、ルーフマイク)は、同等の耳部マイク信号に「投影」され得る。別の言い方をすれば、ルーフマイク信号はフィルタリングされて(2つの場所間の音響関係に基づいて)、仮想耳部マイク信号を提供し得る。様々な実施例において、フィードバックセンサの場所と乗員の耳の場所との間の音響関係は、本明細書に記載されるような車両及び車室状態に応じて変化してもよく、そのため、フィルタは、かかる車両及び/又は車室状態に基づいて選択され得る。
【0018】
加えて、車両及び他の状況において、音相殺オーディオ信号は、オーディオ信号が車両室の周辺部に沿って配設されたスピーカから乗員の耳に伝わらなければならないので、典型的には約5ミリ秒遅延する(例えば、相殺オーディオ信号は、乗員の耳から約5フィート離れたところから伝わらなければならず、音速は約1フット/ミリ秒である)。乗員によって知覚される相殺オーディオ信号は、既に発生した音に向けられたものであるため、この遅延は最適な相殺を妨げる。したがって、いくつかの実施例は、乗員の耳にマイクロホンを配置することなく、乗員の耳おける残留音の将来の値を予測する特徴を含み得る。音又は残留音を予測する更なる詳細は、2020年4月21日に発行された、SYSTEMS AND METHODS FOR NOISE-CANCELLATION USING MICROPHONE PROJECTIONと題する、米国特許第10,629,183号に見出すことができ、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる。
【0019】
本明細書に開示される様々な実施例は、フィードバックセンサから離れた場所にある残留する相殺されていない音を表す誤差信号を推定する相殺システムを対象とする。推定は、一実施例では、即ち、遠隔基準マイクロホンからの入手可能な情報、並びにそれらの遠隔マイクロホンと乗員の耳における音場との間の関係の、及び音相殺システム自体の出力の知識からの入手可能な情報に基づいている。
【0020】
推定誤差信号に基づいて、適応フィルタに対する結果として生じる調整は、推定誤差信号を最小化し、したがって、フィードバックセンサではなく遠隔場所において望ましくない音を相殺し、例えば、遠隔場所にフィードバックセンサを効果的に投影する。これは、代替的に、相殺ゾーンを、フィードバックセンサからフィードバックセンサから離れた場所にシフトすることとして理解され得る。
【0021】
図1は、信号源110、相殺フィルタ120、トランスデューサ130(例えば、ラウドスピーカ又はドライバ)、マイクロホン140(フィードバックセンサ)、及び適応モジュール150を含む、例示的な音相殺システム100の概略図及び/又は信号フロー図である。様々な実施例において、信号源110は、環境と関連付けられた回転装置の高調波を表す構成要素を含み得る基準信号112を提供する信号発生器であり得る。例えば、車両では、例えば、エンジン、トランスミッション、トランスアクスル、ホイール等のドライブトレインは、車両内で可聴音を生成する様々な高調波を生成し得る。ノイズ相殺システム100は、可聴高調波を低減するように構成され得る。したがって、信号源110は、回転装置の高調波を表す基準信号112を生成し得る。したがって、いくつかの実施例では、信号源110は、1分当たりの回転数(rotations per minute、RPM)であり得る、回転速度などの回転情報をセンサ114から受信し得る。いくつかの実施例では、基準信号112は、回転装置の1つ以上の高調波を表す様々な周波数での多数の正弦波信号を含み得る。
【0022】
相殺フィルタ120は、基準信号112を受信し、基準信号112をフィルタ処理して、相殺信号122を生成する。相殺信号122は、トランスデューサ130を駆動して、環境、例えば、いくつかの実施例では車両の車室内で相殺オーディオ信号132を生成するドライバ信号である。マイクロホン140は、環境内の音を検出し、誤差信号142を提供するフィードバックセンサである。適応モジュール150は、基準信号112及び誤差信号142を受信し、誤差信号142を最小化するために相殺フィルタ120を更新する。したがって、適応モジュール150は、マイクロホン140における高調波音が低減されるように、相殺フィルタ120を調整する。
【0023】
図1の例示的な音相殺システム100では、マイクロホン140が理想的に乗員の耳に位置する場合、システムは、乗員の耳における高調波の音を効果的に低減又は除去する。相殺オーディオ信号132は、ドライバ(トランスデューサ130の場所)から耳(マイクロホン140の場所)への伝達関数である伝達関数160、T
DE、を介してマイクロホン140に到達する。様々な実施例において、適応モジュール150は、伝達関数160の推定値でプログラムされ得、誤差信号142を最小化するために、相殺フィルタ120の伝達関数、W、を調整するように、様々な最小平均二乗(least mean squares、LMS)又は代替アルゴリズムのいずれかなどの適応アルゴリズムを実装し得る。
【0024】
図1の例示的な音相殺システム100は、乗員の耳に、又はすぐ近くに位置するマイクロホン140を企図しているが、乗員の耳の近くにマイクロホンを配置することは、一般に、受け入れられないか、又は非実用的であり得る。様々な実施例では、そのようなフィードバックマイクロホンは、代わりに、ルーフ、ヘッドライナ、ヘッドレスト、ピラー、又は他の場所など、乗員の耳の近くに位置するが、それから離れて位置し得る。
【0025】
図2は、フィードバックセンサ、マイクロホン240が乗員の耳244から離れて位置することを除いて、音相殺システム100と同様の別の例示的な音相殺システム200を図示する。したがって、マイクロホン240からの誤差信号242は、乗員の耳244の場所における望ましくない音を表さない場合がある。
図2の音相殺システム200は、
図1の音相殺システム100と同じ又は同様の様式で動作し、それにより、マイクロホン240の場所における高調波の音を低減し得るが、必ずしも乗員の耳244ではない。したがって、音相殺システム200は、乗員の耳244における高調波音を低減するように最適化されない。
【0026】
しかしながら、マイクロホン240の場所における音は、乗員の耳244の場所における音に対して関係246を有する。関係246は、音源及び可聴振動が音源から環境の音響効果を通じて伝達される様式に依存する。例えば、特定の高調波は、特定の周波数で動作するとき、例えば、振幅及び位相に関して、乗員の耳244おける高調波の音とマイクロホン240おける高調波の音との間の音の特定の関係246を生成することができる。様々な実施例において、同じ周波数で動作している場合であっても、異なる高調波が異なる関係246を生成する場合がある(例えば、第1の高調波は、第2の高調波がより低いRPMで行うように、所与のRPMで特定の周波数を生成する場合がある)(例えば、100Hzの音響信号は、1つのRPMにおける第1の高調波であり得、別のRPMにおける第2の高調波であり得る)。更に、様々な実施例では、関係246は、トルク、加速度、車両負荷、等などの様々な動作条件のいずれかで、並びに座席位置、窓の状態、車両占有率、負荷、経時変化、等などの環境の音響特性で変化し得る。
【0027】
様々な実施例において、関係246は、関心のある任意の数の高調波について(異なるシステム目標に対応するために)、及び様々な条件下で事前に測定され、並びに、投影フィルタは、フィルタリングされた信号が乗員の耳244における誤差信号の推定値を表すように、誤差信号242をフィルタリングして、関係246の影響を効果的に説明又は逆転させるように生成される。様々な実施例によれば、関係246は、回転速度の範囲にわたって、したがって、対応する周波数の範囲にわたって各高調波について測定される。次いで、関係246は、周波数の関数、例えば、所与の高調波の周波数の範囲にわたる位相及び振幅の関係のセットとしての伝達関数として同等にモデル化され得る。したがって、様々な実施例では、投影フィルタ伝達関数は、マイクロホン240を乗員の耳244の場所に効果的に投影し、遠隔場所(例えば、いくつかの実施例では、ルーフの場所)を耳の場所に関連付けるので、本明細書ではWREと呼ばれることがある。
【0028】
図3は、様々な状態下で、耳の場所及び遠隔場所おける音の間の1つ以上の関係246を測定するために、いくつかの実施例において使用され得る例示的な同調システム300を図示する。マイクロホン140は、耳の場所に位置付けされ、マイクロホン240は、遠隔場所、例えば、ルーフ、ヘッドライナ、ピラー、等などのマイクロホンが動作中に位置する場所に位置付けされる。正弦波源310は、(1)の表現に従うなど、音を変更/相殺することが望ましい機器の回転速度(例えば、RPM)に基づいて、選択された高調波320、k、(例えば、k=1、2、3、...、n)を提供する。
【数1】
式中、kは高調波次数であり、回転速度(RPM)は毎分の回転数で表される。ミキサ330は、正弦波信号をマイクロホン140、240からのそれぞれの信号と混合して、耳フェーザ、E
k、及び遠隔フェーザ、R
k、をそれぞれ提供する。
【0029】
明確にするために、各フェーザは、振幅及び位相情報を含む。オーディオ源(回転装置)の位相は曖昧であってもよいが、フェーザEk及びRkは、実質的に一定の相対位相を有すると期待され、例えば、他方に対する一方の位相は固定されており、それらの相対振幅も同様であり、所与のRPMでの所与の高調波、k、についての関係246を特徴付ける。複数のこのような測定が、多数の回転速度の各々で行われる。高調波、k、の周波数は、回転速度で変化し、したがって、関係246は、所与の高調波、k、について、周波数の範囲にわたって振幅及び位相関係のセットとして特徴付けられ得る。
【0030】
したがって、関係246は、2つの位置、例えば、耳の場所(例えば、マイクロホン140)と遠隔場所(例えば、マイクロホン240)との間の伝達関数と同等にみなすことができ、伝達関数は、「入力」から「出力」へなどの周波数の範囲にわたる位相及び大きさの関係である。したがって、関連する伝達関数を有するフィルタは、例えば、フィルタがマイクロホンの信号を耳の場所に「投影する」ように、例えば、マイクロホン240が耳に位置しているかのように、マイクロホン240の遠隔場所を説明し得る。
【0031】
いくつかの実施例では、そのような伝達関数は、第1の場所に到着し、第2の場所に進むときの、音響エネルギーの実際の伝達関数として考えられ得る。そのようなことは、所与のソースから、特定の動作状態下で来るオーディオに当てはまり得る。例えば、エンジンから来る100Hzの第1高調波(k=1)は、特定の関係246を作成し得るが、100Hzの第2高調波(k=2)は、異なる関係を作成し得る。同様に、車両内のラウドスピーカから来る100Hzのトーンは、トーンのソース場所及びその2つの場所への伝達が、100Hzの第1エンジン高調波とは大きく異なるので、かなり異なる関係を作成する可能性がある。
【0032】
様々な実施例において、各高調波、k、について及び各回転速度で複数の測定を行うことができ、所与の高調波及び回転速度に対して平均位相及び振幅の関係を使用し得る。加えて、以下により詳細に示されるように、所与の高調波及び回転速度に対する関係246は、トルク、負荷、窓の位置、等などの更なるパラメータに依存し得る。様々な実施例では、様々なトルク(又は動作パラメータの他の変動)において複数の測定が行われてもよく、「平均」トルク動作条件下で、所与の高調波及び回転速度に対して平均位相及び振幅関係が使用され得る。
【0033】
例えば、いくつかの実施例では、多数の測定が、正トルク状態の範囲にわたって行われてもよく、これらの平均は、車両が正トルクで動作されるときに使用される。同様に、いくつかの実施例では、多数の測定が、負トルク状態の範囲にわたって行われてもよく、これらの平均は、車両が負のトルクで動作されるときに使用される。加えて、いくつかの実施例は、多数の実質的に中立トルク状態にわたって行われる多数の測定を含んでもよく、これらの平均は、車両が実質的に中立トルクで動作されるときに使用される。
【0034】
上述のように、
図3は、様々な回転速度における様々な高調波の関係246を特徴付けるための測定を行うための一時的構成である、例示的な同調システム300である。本明細書に記載されるものと一致する音相殺システムの様々な実施例は、乗員の耳に位置するマイクロホン140を含まない。本明細書の様々な音相殺システムは、1つ以上の投影フィルタを含み、各々は、耳マイクロホン(例えば、マイクロホン140)が存在する場合に生成する信号を推定する目的で、遠隔マイクロホン信号(例えば、マイクロホン240からの)に伝達関数を適用する。
【0035】
いくつかの実施例は、車両内の複数の場所に対してなど、複数の遠隔マイクロホン240を含んでもよい。更に、
図3と同様の同調システムのいくつかの実施例は、複数の遠隔マイクロホン240を含んでもよく、また、乗員の頭部の両側及び/又は複数の乗員に対してなど、複数の耳マイクロホン140を含んでもよい。したがって、R
k及びE
kは各々、要素の数が、それぞれ遠隔マイクロホンの数及び耳マイクロホンの数である列ベクトルであってもよい。このような実施例では、投影フィルタ(遠隔マイクロホン信号を受信し、耳マイクロホン信号を推定するフィルタ)の伝達関数は、行列であり得る。他の実施例では、そのような伝達関数は、複数の投影フィルタであるとみなされてもよく、各々、遠隔マイクロホンの場所を耳マイクロホンの場所に「投影する」。
【0036】
本明細書で考察される量の多くは、回転速度に関連し、各高調波は、所与の回転速度で特定の周波数を有する。したがって、所与の高調波に関して、説明される様々な量は、回転速度、したがって周波数に依存する。簡潔にするために、以下の更なる考察は、周波数及び/又は回転速度、例えば、「x(f)」及び/又は「x(RPM)」の注釈を省略する。更に、高調波下付き文字、k、もまた、様々な場合において除外され得るが、各関係及び/又は投影フィルタ伝達関数は、周波数の範囲にわたり、特定の高調波に対してであることが当業者によって理解されるべきである。
【0037】
様々な回転速度にわたって特定の高調波に対する多数の関係246を測定した場合、本明細書に記載されるような投影フィルタのジョブは、式2の関係のように、投影フィルタ伝達関数、W
REを介して、遠隔マイクロホン信号(R)を推定された耳マイクロホン信号
【数2】
に「投影」又は変換することである。
【数3】
【0038】
投影フィルタ伝達関数、W
REは、
図3のものと同様の同調システムからのE
k及びR
kの測定データが与えられて、様々な方式で考案され得る。少なくとも1つの実施例では、投影フィルタ伝達関数、W
REは、式3に従って決定され得る。
【数4】
式中、「H」は、エルミート演算子であり、量の上のバーは、多数の測定にわたる期待値又は平均値を表す。上記の表現は、推定されたE
kと実際のE
kとの間の誤差を最小化することに基づいて、少なくとも1つの実施例における投影フィルタ伝達関数の少なくとも1つの形態を表す。他の形態の投影フィルタ伝達関数は、様々な実施例において、他の量又はパラメータを最小化することから導出され得る。
【0039】
様々な実施例によれば、投影フィルタ伝達関数、W
REは、
図4に図示されるような例示的な音相殺システム400と調和して適用される。音相殺システム400は、マイクロホン240から誤差信号242を受信し、それをフィルタリングして推定誤差信号442を生成する投影フィルタ440を含む。それにより、推定誤差信号442は、耳マイクロホンによって提供されたであろう誤差信号の推定であり、例えば、それは、
図1を参照して、マイクロホン140が提供したであろう誤差信号142の推定であり、マイクロホン140は、耳マイクロホンである。上述のように、様々な実施例は、複数のマイクロホン240を含んでもよく、複数の耳マイクロホンを推定することができ、したがって、投影フィルタ440は、多入力及び/又は多出力フィルタであってもよく、例えば、W
REはマトリックス又はベクトルであってもよい。
【0040】
引き続き
図4を参照すると、上述したように、ドライバ130は、相殺オーディオ信号132を生成し、それはまたマイクロホン240によっても拾い上げられる。更に上述したように、変換W
REは、特定のノイズ源、例えば、エンジン、及びノイズ源からの特定の高調波に特有である。したがって、投影フィルタ伝達関数、W
REは、相殺オーディオ信号132に対して不正確であり、例えば、乗員の耳の場所おける相殺オーディオ信号132を正確に推定しない。したがって、マイクロホン240おける相殺オーディオ信号132から来た誤差信号242の任意の成分は、本質的に、破損した信号である。したがって、様々な実施例は、そのような成分を補正するための1つ以上の追加のフィルタを含み得る。
【0041】
上述したように、相殺信号122は、トランスデューサ130を駆動して相殺オーディオ信号132を生成するドライバ信号、D、である。したがって、相殺オーディオ信号132の結果である誤差信号242内のコンテンツは、(4)の表現によって説明され得る。
【数5】
式中、Dは、ドライバ信号(例えば、相殺信号122)であり、T
DRは、ドライバ信号から遠隔マイクロホン240の場所への伝達関数である。様々な実施例において、T
DRは、測定された伝達関数及び/又は推定値であり得る。
【0042】
図5は、投影フィルタ440によって処理されている相殺オーディオ信号132によって引き起こされる推定誤差信号442における「破損」を補償するための追加のフィルタを含む、音相殺システム400と同様の別の例示的な音相殺システム500を図示する。簡単に言えば、音相殺システム500は、推定誤差信号442から(4)に上述された「破損」成分を減算して、相殺オーディオ信号132の影響無しに、乗員の耳おける望ましくない信号の推定値を表す信号を生成する。音相殺システム500はまた、乗員の耳における相殺オーディオ信号132の影響に追加して、乗員の耳における残留不要信号の推定値である信号を生成し、これは、適応モジュール150が相殺フィルタ120を更新するために使用することができる推定誤差信号である。
【0043】
図5を具体的に参照すると、音相殺システム500は、ドライバ信号122を受信し、推定誤差信号442の「破損」部分の推定値(例えば、上記(4)参照)を出力する第1補正フィルタ510を含み、出力は、次に、コンバイナ520によって推定誤差信号442から減算される。音相殺システム500はまた、ドライバ信号122を受信し、乗員の耳における相殺オーディオ信号132の実際の寄与の推定値を出力する第2の補正フィルタ530を含み、出力は次にコンバイナ540によって加算されて、補正された推定誤差信号542を生成する。様々な実施例において、第2の補正フィルタ530は、上述のように、ドライバから乗員の耳の場所(又はその推定)への二次経路伝達関数である、伝達関数、T
DEを適用する。
【0044】
図6は、
図5の音相殺システム500の単純化である、例示的な音相殺システム600を図示する。音相殺システム600は、第1及び第2の補正フィルタ510、530を単一の補正フィルタ610を用いて結合し、補正フィルタ610は、ドライバ信号122を受信し、結合された補正信号612を出力し、コンバイナ620を介してそれを推定誤差信号442に加算して、補正された推定誤差信号542を生成する。
【0045】
様々な実施例において、補正フィルタ610の伝達関数は、上記(4)に記載されている「破損」成分が、乗員の耳における相殺オーディオ信号132の実際の寄与と実質的に同等である場合など、重要ではない場合がある。そのような場合、補正フィルタ610は省略され得、システムは、実質的に
図4に示されたものに簡略化されて戻され得る。
【0046】
上述したように、特定の高調波に対する様々な関係246のいずれかは、エンジン回転速度(RPM)、トランスミッションRPM、エンジン出力トルク(τ)、トランスミッション出力トルク、スロットル位置、マニホールド真空、エンジンスパークタイミング/レート、エンジン及び/又はトランスミッションRPMの変化率(例えば、デルタ-RPM、ΔRPM)、負荷/加重及び同じ分散、加速(リアサスペンションに負荷を伝達)、制動/減速(フロントサスペンションに負荷を伝達)、旋回/コーナリング加速(左右から負荷を伝達)、及び/又はサスペンション制御及び/若しくはダンパ剛性(例えば、水圧式、空気式、電子的に制御されたサスペンション構成要素)、のうちの1つ以上のいずれかに基づいて変化し得る。
【0047】
したがって、様々な実施例では、投影フィルタの異なる伝達関数、WRE、及び/又は補正フィルタの異なる伝達関数、WDEは、車両の上記動作パラメータのいずれかの変動に基づいて選択され得る。簡潔にするために、以下の説明では、実施例は、トルク、τ、に基づいて異なる伝達関数を選択することに関して提示されるが、上記又は他の動作パラメータのいずれかが、投影フィルタ及び/又は補正フィルタのいずれかの伝達関数を選択、変更、検索、又は記憶するための基礎として機能し得ることが理解される。
【0048】
図7は、(補正された)推定誤差信号742を生成するための、例えば、トルクセンサ730からのトルク、τ、の指示に基づいて、投影フィルタ740及び/又は補正フィルタ710のうちの1つ以上の伝達関数を調節する別の例示的な音相殺システム700を図示する。
【0049】
様々な実施例において、特定のトルクに対するフィルタ伝達関数は、その特定トルクで記録された複数の実行にわたって(例えば、同調システム300を介して)測定することによって決定され得、及び/又は特定のトルクに対する投影フィルタ伝達関数、WREは、その特定トルクで行われた記録の期待値を評価することによって推定され得る。様々な実施例において、正のトルク及び負のトルクについて各々1つを測定又は決定することによって、低減された数のフィルタ伝達関数、WRE、WDEが使用され得る(例えば、記憶要件を低減するために)。例えば、車室内への高調波音の伝達のメカニズムは、ドライブトレインが負の出力トルクに対して正の出力トルク下にあるとき、著しく異なり得る。様々な実施例において、複数のレベルの正トルク、負トルク、及び場合によっては中立トルク(例えば、惰行)は各々、決定された投影を有し得る。したがって、様々な実施例は、多数のフィルタ伝達関数WRE、WDEを記憶することができ、これらの各々は、トルクなどの現在の車両動作条件に基づいて選択及び適用されるように利用できるが、様々な実施例において、上記で様々に説明されたように、任意の数の追加の動作条件を含む。いくつかの実施例では、システム又は方法は、記録及びフィルタ伝達関数が決定されたそれらの間の動作条件のために補間することができる。例えば、少なくとも1つの実施例では、システムは、トルク値-50ニュートンメートル(N-m)、0N-m、及び200N-mと関連付けられた、記憶されたフィルタ伝達関数WRE、WDEを有し得、現在のトルクが100N-mであるときに、フィルタ伝達関数は、例えば、0N-m及び200N-mについて記憶された伝達関数の間で補間され得る。
【0050】
上述のような車両パワートレイン動作及び負荷に加えて、トランスデューサ130から乗員の耳244への様々な高調波及び伝達関数160(二次経路)の関係246は、環境(例えば、車室)の音響変化として変化し得る。したがって、本明細書の音相殺システム又はアルゴリズムの様々な実施例は、車室音響の変化に基づいて、投影フィルタ伝達関数及び/又は補正フィルタ伝達関数を動的に変更(調整、選択)し得る。
【0051】
様々な実施例において、車室音響の変化は、デジタル制御信号を介して伝達されてもよく、例えば、窓の開/閉の状態(どの窓及びどれだけ)、サンルーフの開/閉の状態(及びどれだけ)、ハッチドアの開/閉の状態、後部座席の状態(折り畳まれている、しまい込まれている、等)、積荷/積載負荷、及び客室内に何人の乗員がいるか、その中の座席、及びそれらの大きさなどの占有率、並びに他のもの、を含み得る。例えば、占有率は、座席におけるエアバッグ乗員センサからのデータによって推定され得る。いくつかの実施例では、カメラ、ビデオ、及び/又は顔認識システムがまた、車室状態に関する情報を提供し得る。
【0052】
本明細書の実施例は、回転装置の高調波の相殺又は低減に関して説明されてきたが、例示的なシステム、方法、及びプログラムコードは、高調波音響信号の改善又は他の修正に有益に適用され得る。このような実施例では、本明細書に記載される相殺フィルタは、トランスデューサに、乗員の耳における1つ以上の高調波の音を修正するための改善オーディオ信号を提供させる、改善信号を提供するように構成及び適合された改善フィルタであってもよい。フィードバックセンサ(遠隔マイクロホン)は、上述した例示的なシステム及び方法と同様の様式で、乗員の耳の場所に「投影」されてもよい。したがって、このような実施例では、投影フィルタ及び/又は補正フィルタのうちの1つ以上は、本明細書に記載される実施例と同様の様式で適用されて、乗員の耳における音を表す推定信号を提供することができ、1つ以上の高調波の目標音を達成するために、改善フィルタ(さもなければ相殺フィルタ)を適合させてもよい。
【0053】
様々な実施例において、高調波の改善、低減、又は相殺は、複数の乗員場所に対して行うことができる。例えば、遠隔マイクロホン240は、1つを超える場所における音響エネルギーを検出するために含まれ得、複数の投影及び補正フィルタが、複数の乗員耳部の場所のために格納され得る。このような実施例では、高調波の改善、低減、又は相殺が、実際の占有及び/又はユーザ選択に応じて、選択された乗員場所に対して行うことができる。例えば、後部座席乗員が検出され得、本明細書の例示的なシステムは、後部乗員の耳における高調波を低減する一方で、操作者の耳(例えば、ドライバの座席の)における高調波を低減するように動作し得る。しかしながら、このシステムは、後部乗員が存在しないことが検出されたとき、及び/又は後部座席場所における高調波低減を無効化するためのユーザ選択に基づいて、後部乗員の耳の場所おける高調波低減を無効化することができる。1つ以上の場所における高調波低減の非活性化は、他の場所における高調波低減のより良好なパフォーマンスを可能にすることができ、そのため、システムは、より少ない場所における音響高調波成分を最小限に抑え得る。
【0054】
本明細書の実施例は、車両環境に関して説明されてきたが、本例示的なシステム、方法、及びプログラムコードは、産業、製造、工場、電気生産、又は望ましくない音響高調波ノイズを生成し得る回転装置を伴い得る他の環境などの、他の環境における高調波音響信号の相殺、改善、又は他の修正に有益に適用され得る。
【0055】
本明細書に記載される機能又はその部分、及びその様々な修正(以下「機能」)は、少なくとも部分的にコンピュータプログラム製品(例えば、1つ以上のデータ処理装置、例えば、プログラム可能プロセッサ、コンピュータ、複数のコンピュータ、及び/若しくはプログラム可能論理構成要素、による実行のための、又はその動作を制御するための、1つ以上の非一時的機械可読媒体又は記憶デバイスなどの情報担体において有形に具現化されたコンピュータプログラム)を介して実装され得る。
【0056】
コンピュータプログラムは、コンパイラ型言語又はインタープリタ型言語を含む任意の形態のプログラム言語で書くことができ、それは、スタンドアローンプログラムとして、又はコンピューティング環境での使用に好適なモジュール、構成要素、サブルーチン、若しくは他のユニットとして含む任意の形態で配備され得る。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、若しくは1つのサイトにおける複数のコンピュータ上で実行されるように配備されるか、又は複数のサイトにわたって配信されて、ネットワークによって相互接続され得る。
【0057】
機能の全部又は一部を実装することと関連した動作は、較正プロセスの機能を実施するために1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラム可能なプロセッサによって実施され得る。機能の全部又は一部は、特殊目的論理回路、例えば、FPGA及び/又はASIC(application-specific integrated circuit、特定用途向け集積回路)として実装され得る。
【0058】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサとしてはまた、例として、一般的及び特殊目的マイクロプロセッサの両方、並びに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般的に、プロセッサは、読み出し専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、又はそれらの両方から命令及びデータを受信することになる。コンピュータの構成要素は、命令を実行するためのプロセッサ、並びに命令及びデータを記憶するための1つ以上のメモリデバイスを含む。
【0059】
本明細書において、いくつかの発明事例について記述し説明してきたが、当業者であれば、様々な他の手段、及び/又は、機能を実行し及び/若しくは結果を得るための構造、及び/又は、本明細書に記載の1つ又はそれ以上の利点を容易に思いつくであろう、並びに、こうした変更形態及び/又は変形形態の各々は、本明細書に記載の発明事例の範囲内であるとみなすことができる。より一般的には、当業者であれば、本明細書に記載のパラメータ、寸法、材料、及び構成の全てが例示的であること、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成は、特定のアプリケーション又は本発明の教示が使用されるアプリケーションに依存するであろうことを容易に理解するであろう。当業者であれば、日常的な実験を通じて、本発明に記載されている特定の発明事例に相当する多くの等価物を認識又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施例は、単なる例として提示されたものであり、添付の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内で、明確に記載され特許請求された以外の別のやり方で発明事例を実施することができるということを理解されたい。本開示の発明事例は、本明細書に記載の各個々の特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法を対象とする。更に、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法のいかなる組む合わせも、こうした特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
100 ノイズ相殺システム
110 信号源
112 基準信号
114 センサ
120 相殺フィルタ
122 相殺信号
130 ドライバ、トランスデューサ
132 相殺オーディオ信号
140 マイクロホン
142 誤差信号
150 適応モジュール
160 伝達関数
200 音相殺システム
240 遠隔マイクロホン
240 マイクロホン
242 誤差信号
244 耳
246 関係
300 同調システム
310 正弦波源
320 高調波
330 ミキサ
400 音相殺システム
440 投影フィルタ
442 推定誤差信号
500 音相殺システム
510 第1補正フィルタ
510 第1の補正フィルタ
520 コンバイナ
530 第2の補正フィルタ
540 コンバイナ
542 推定誤差信号
600 音相殺システム
610 補正フィルタ
612 補正信号
620 コンバイナ
700 音相殺システム
710 補正フィルタ
730 トルクセンサ
740 投影フィルタ
742 (補正された)推定誤差信号