(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】グリシン生産能が増加された微生物及びこれを用いた発酵組成物の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20241220BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241220BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20241220BHJP
【FI】
C12P13/04 ZNA
C12N1/21
C12N15/31
C12N15/54
(21)【出願番号】P 2022076489
(22)【出願日】2022-05-06
(62)【分割の表示】P 2020512742の分割
【原出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0035156
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,チ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン チュン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ピョン フン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヨンチョン
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519946(JP,A)
【文献】特表2021-515537(JP,A)
【文献】Georg Schendzielorz et al.,ACS Synth. Biol.,2014年,Vol.3,pp.21-29
【文献】Robert K. Kulis-Horn et al.,Journal of Biotechnology,2015年,Vol.206,pp.26-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-38
C12P
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシンを生産するための微生物を培地中で培養することによって発酵する
工程と、得られた発酵した培地中のグリシンの生成量を測定する工程と、を含む、グリシン
を調製するための方法であって、
グリシンを生産するための前記微生物は、配列番号4のアミノ酸配列の233番目のアミノ酸がヒスチジン(H)に置換されているか、または配列番号4のアミノ酸配列の233番目及び235番目のアミノ酸がそれぞれヒスチジン(H)及びグルタミン(Q)に置換されているATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(HisG)を含み、グリシン生産能が増加したコリネバクテリウム・グルタミカムである、方法。
【請求項2】
ATPホスホリボシルトランスフェラーゼが、配列番号5又は配列番号6のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発酵した組成物が、修飾の無いATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(HisG)を有するコリネバクテリウム・グルタミカムによって調製された発酵した組成物と比較して、増加した量のグリシンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細菌の細胞を除去する工程、濃縮工程、ろ過工程、キャリアーを混合する工程、または乾燥工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵した組成物が、グルタミン酸をさらに含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
グリシンを製造するための組成物であって、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG)の活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカムを含有し、
前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼにおいて、配列番号4のアミノ酸配列の233番目のアミノ酸がヒスチジン(H)に置換されている、組成物。
【請求項7】
グリシンを製造するための組成物であって、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG)の活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカムを含有し、
前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼにおいて、配列番号4のアミノ酸配列の233番目のアミノ酸がヒスチジン(H)に、235番目のアミノ酸がグルタミン(Q)に置換されている、組成物。
【請求項8】
前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼが、配列番号5のアミノ酸配列からなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼが、配列番号6のアミノ酸配列からなる、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、グリシン生産能が増加された微生物及びこれを用いた発酵組成物の生産方法に関するもので、より詳細には、HisGに変異が導入されてグリシン生産能が増加されたコリネバクテリウム属微生物、これを用いたグリシン及びグルタミン酸を含む発酵組成物の製造方法、及び前記発酵組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸はタンパク質の基本構成単位であって、薬品の原料と食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。その中でも、L-グルタミン酸は発酵によって生産される代表的なアミノ酸であって、特有の独特の味(旨味)を有し、食品分野ではもちろん、医薬品分野、その他の動物飼料の分野などに広く利用されている重要なアミノ酸の一つである。また、グリシンは主に甘味を出して、食品工業で調味料として用いられ、天然調味料と一緒に用いて味を高める。さらに、酸化防止の作用、緩衝作用などにも用いられており、医薬の面では輸液、制酸剤、総合アミノ酸製剤、栄養補給剤として用いられている。
【0003】
前記アミノ酸を生産する通常の方法としては、主にブレビバクテリウム(Brevibacterium)やコリネバクテリウム(非特許文献1)、その他にも大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus)、放線菌(Streptomyces)、ペニシリウム(Penicillum)属、クレブシエラ(Klebsiella)、エルウィニア(Erwinia)、パントエア(Pantoea)属などの微生物を用いた発酵の方法があり(特許文献1及び2)、また、モノクロロ酢酸法、ストレッカー(Strecker)法などの合成法を介した工業的な方法によっても生産される。
【0004】
また、アミノ酸を効率的に生産するための多様な研究、例えば、アミノ酸高効率生産の微生物や発酵工程の技術を開発するための努力が成されている。具体的には、コリネバクテリウム属菌株におけるアミノ酸生合性に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、またはアミノ酸生合成に不要な遺伝子を除去することのような目的物質特異的な接近方法が開発され(特許文献3及び4)、このような方法の他に、アミノ酸の生産に関与しない遺伝子を除去する方法、アミノ酸の生産において具体的に機能が知られてない遺伝子を除去する方法も活用されている。しかし、依然として効率的かつ高収率でアミノ酸を生産しうる方法に対する研究の必要性が台頭している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3,220,929号
【文献】米国特許第6,682,912号
【文献】韓国登録特許公報第10-0924065号
【文献】韓国登録特許公報第10-1208480号
【文献】韓国登録特許公報第10-0292299号
【文献】国際公開特許第2008-033001号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Amino Acid Fermentation、Gakkai Shuppan Center :195-215、1986
【文献】Microb Biotechnol. 2013 Mar; 6(2):103-117.
【文献】Karlin &Altschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【文献】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【文献】Sambrook et al.,supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Appl. Microbiol. Biothcenol.,1999,52:541-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、複数のアミノ酸を同時に生産しうる方法を開発するために努力した結果、グルタミン酸生産菌株で親菌株と比較してHisG活性を強化する場合、グルタミン酸の生成能は維持しつつ、グリシンの生成能を向上させうることを確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の一つの目的は、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG)の活性が強化された、グリシン生産能が増加されたコリネバ
クテリウム属微生物を提供することにある。
【0009】
本出願のもう一つの目的は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養して発酵する段階を含む、グリシン及びグルタミン酸を含む発酵組成物の製造方法を提供することにある。
【0010】
本出願のもう一つの目的は、前記方法によって製造された発酵組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本出願のHisG変異は微生物に導入して、グルタミン酸とグリシンを同時に生産しうるため、アミノ酸の生産に有用に活用できる。また、発酵物内のグルタミン酸の量とグリシンの量を調節して、発酵物の味と嗜好性を改善させ、発酵液及びこれを用いた調味素材の製品に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されてもよい。すなわち、本出願で開示された様々な要素の任意の組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0013】
前記のような目的を達成するために、本出願の一つの様態は、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG)の活性が強化された、
グリシン生産能が増加されたコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0014】
具体的には、配列番号4で表されるアミノ酸配列の233番目のアミノ酸がヒスチジン(H)に置換されたATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG)を含む、グリシンの生産能が増加されたコリネバクテリウム属微生
物を提供しうる。
【0015】
また、具体的には、前記配列番号4で表されるアミノ酸配列の233番目のアミノ酸がヒスチジン(H)に置換されて、235番目のアミノ酸がグルタミン(Q)に置換されたATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase:HisG
)を含む、グリシンの生産能が増加されたコリネバクテリウム属微生物を提供しうる。
本出願で「ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase
」は、「HisG」とも命名され、ヒスチジン合成経路に関与する酵素を意味する。ヒス
チジン合成経路は、合計9つの酵素からなり(HisG-HisE-HisI-HisA-HisH-HisB-HisC-HisN-HisD)、前記HisGはその中で1段階を構成する。
【0016】
前記HisG はヒスチジン生成に関与することが知られていたが、グリシン生成との
関連性については公知されず、本発明者らによって初めて究明された。より具体的には、HisGの活性強化を介してグリシンの生成量が増加すること、特に、HisGは生産物であるヒスチジンによりフィードバック阻害を受けるが、本出願ではヒスチジンフィードバック阻害を解除した変異を導入して、これに伴うグリシン生成量の増加及びグルタミン酸生成量の維持効果は、本発明者らによって初めて究明された。
【0017】
本出願において、「HisGの活性強化」は、HisG酵素の活性がコリネバクテリア属微生物が天然の状態で有している酵素の活性状態である、内在的活性より増加されたことを意味する。HisGの活性を強化させる方法の例として、i)HisGをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドをさらに染色体に挿入する方法またはHisGをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドをベクターシステムに導入する方法などによって、前記酵素をコードする塩基配列のコピー数を増加させる方法、ii)hisG遺伝子のプロモーターを強化する方法、例えば、強いプロモーターに交替する方法、またはプロモーターに変異を導入する方法が含まれてもよく、iii)遺伝子変異により活性が強い酵素に変異させる方法などがある。
具体的には、本出願では配列番号4で表されるHisGアミノ酸配列の233番目のアミノ酸であるグリシンがヒスチジンに置換されるか、配列番号4で表されるHisGアミノ酸配列の233番目のアミノ酸であるグリシンがヒスチジンに置換されて、235番目のアミノ酸であるトレオニンがグルタミンに置換されてもよい。それに応じて、前記のような変異されたHisGを含むコリネバクテリウム属微生物は、グルタミン酸の生性能にはほとんど影響を与えずに維持しつつ、グリシン生成能を著しく増加させうる。前記グリシン生産能の増加は、本出願の変形、すなわち前記置換を含まないHisGを有する微生物に比べて増加されたものであってもよい。
【0018】
他の例として、HisG酵素のプロモーターを変異または置換を介して内在的プロモーターに比べて強いプロモーターに変異させてもよい。前記内在的酵素のプロモーターの代わりに塩基置換変異を有する改良型プロモーターまたは異種プロモーターが連結されてもよく、前記異種プロモーターの例としては、cj7プロモーター、lysCP1プロモーター、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceAプロモーター、aceBプロモーターなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0019】
また、前記hisG遺伝子はhisE遺伝子とオペロンで構成されているため、hisEG遺伝子のプロモーター配列が変異または置換によるhisGの過発現を介してHisG酵素の活性を強化させうる。より具体的には、hisEG遺伝子のプロモーター配列の変異は、配列番号1からポリヌクレオチド配列の53番目及び55番目ヌクレオチドをTに置換、またはポリヌクレオチド配列の53番目及び55番目ヌクレオチドをTに、60番目ヌクレオチドをGに置換して、内在的プロモーターに比べて強いプロモーターでHisG酵素の活性を強化しうる。コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーター配列の研究文献(非特許文献2)を見るとRNAシーケンシング(RNA-seq)を介して多数の転
写開始点(transcriptional start point:TSP)及びプロモーターの位置を把握でき
る。ここで、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC13869菌株のRAN
seq実験を介してhisEG遺伝子のプロモーター配列を確認し、内在的(native)
プロモーター変形を介してhisEG過発現を誘導した。内在的プロモーター変形の方法の1つとして、コリネバクテリウム・グルタミカムのプロモーターの-35及び-10領域配列の変異を介してコンセンサス配列に近づくようにする方法がある。特に、hisE
G遺伝子のプロモーター配列から-10領域(TATAボックス)の配列をコンセンサス配列に近づくように変異した場合、内在的プロモーターに比べて強いプロモーターに変形してもよい。
【0020】
具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物に含まれるATPホスホリボシルトランスフェラーゼは、配列番号5のアミノ酸配列からなるものであってもよく、または、前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼは、配列番号6のアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0021】
また、本出願のアミノ酸配列は、従来知られている突然変異誘発法、例えば、方向性進化法(direct evolution)及び部位特異的突然変異法(site-directed mutagenesis)な
どにより変形されてもよい。
【0022】
したがって、前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼは、前記配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも60%以上、具体的には、70%以上、より具体的には、80%以上、さらに具体的には、83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、または97%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むHisGを含んでもよい。前記配列と相同性を有する配列として、実質的に配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列と同一または相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本出願のカテゴリに含まれるのは自明である。
【0023】
この時、前記用語、「グルタミン酸」(L-glutamic acid、L-glutamate)は、アミノ酸の一種であって、非必須アミノ酸に区分される。中枢神経系で最も一般的な興奮性神経伝達物質として知られていて、また、旨味が出るといわれ、このモノナトリウム塩(monosodium glutamate:MSG)が調味料として開発され、広く用いられている。一般的に、グルタミン酸を生産する微生物の発酵を介して製造される。
【0024】
また、前記用語、「グリシン」(glycine)は、甘味を出す無色結晶のアミノ酸であっ
て、グライシンとも言う。食品の調味料として主に用いられ、医薬の面では輸液、制酸剤、総合アミノ酸製剤、栄養補給剤としても用いられている。一般的に、モノクロロ酢酸法、ストレッカー(Strecker)法などの工業的な合成法によって製造されるが、合成法はD型及びL型のアミノ酸が混合されて製造されるため、光学分割をしなければならないという不便さがあった。したがって、反応条件がおだやかで短時間に大量の生産が可能であり、工程が環境親和的で、生産物質が生分解性であるなどの多様な利点を有する発酵法でグリシンを製造する必要がある。
【0025】
本出願において、用語、「相同性」は、与えられたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と一致する程度を意味し、パーセンテージとして示してもよい。本明細書で、与えられたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と同一または類似の活性を有するその相同性配列が「%相同性」として示される。前記アミノ酸配列またはヌクレオチド配列に対する相同性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST [参照:非特許文献3]やPears
onによるFASTA(参照:非特許文献4)を使用して決定してもよい。これらのアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0026】
前記「厳しい条件」は、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、非特許文献5)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士、60%以上、具体的には、90%以上、より具体的には、95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性を有す
る遺伝子同士ハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士ハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1 %SDS、より具体的には、
68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を列挙しうる。混成化は、たとえ混成化の厳格度に応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能としても、2つのヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。前記用語「相補的」は、互いに混成化が可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく、全体の配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片を含んでもよい。
【0027】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて、当業者によって適切に調節してもよい。ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳格度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は該当技術分野でよく知られている(非特許文献5を参照)。
【0028】
本出願において、用語、「微生物」は、野生型微生物や、自然的または人為的に遺伝的変形が起きた微生物をすべて含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化されたり弱化されるなどの原因によって特定機序が弱化されたり増強された微生物をすべて含む概念である。
【0029】
本出願で、前記微生物は前記ATPホスホリボシルトランスフェラーゼを含んでもよい。また、前記 ATPホスホリボシルトランスフェラーゼはベクターを介した形質転換に
よって前記微生物に導入されてもよいが、これに制限されない。また、微生物は前記HisGが発現できれば、前記HisGをコードする遺伝子が、染色体上に位置するか、染色体外に位置するかとは関係がない。
【0030】
本出願において、用語、「ベクター」は、適合した宿主内で目的遺伝子を発現させうるように遺伝物質を保有する人為的DNA分子であって、前記HisGをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含むDNA製造物を意味してもよい。
【0031】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で発現可能なものであれば特に制限されず、当業界に知られている任意のベクターを用いて宿主細胞を形質転換させてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然状態であるか、組換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。
【0032】
例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λLB3、λBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとして、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。
【0033】
また、宿主細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内に本出願のHisGをコードするポリヌクレオチドを導入してもよい。例えば、pECCG117、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BAC、pCES208、pXMJ19ベクターなどを用いてもよいが、これに制限されない。
【0034】
また、前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換えによって行ってもよい。
【0035】
本出願のベクターは、相同組換えによって染色体内に挿入されうるため、前記染色体が挿入されたかどうかを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわちポリヌクレオチドの挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現
する細胞のみ生存するか、または他の表現形質を示すため、形質転換された細胞を選別しうる。
【0036】
本出願において、用語、「形質転換」は、前記ポリヌクレオチドまたはHisGをコードする遺伝子を含むベクターを宿主細胞内に導入し、宿主細胞内で前記遺伝子及びHisGが発現できるようにすることを意味する。さらに、宿主細胞内で目的遺伝子が発現することさえできれば、形質転換された遺伝子は、宿主細胞の染色体上に位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらすべての場合を含んでもよい。
【0037】
前記形質転換する方法は、前記遺伝子を細胞内に導入するすべての方法を含み、宿主細胞に応じて、当分野で公知のように、適合した標準技術を選択して行ってもよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシ
ウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAEデキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウムDMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0038】
本出願で前記微生物は、本出願のHisGが導入されてグリシンの生産能を増加させうる微生物であれば、制限なく含まれてもよい。
【0039】
具体的には、前記微生物はコリネバクテリウム属微生物であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)またはコリネバクテリウム・フラバム(Corynebacterium flavum)であってもよく、最も具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよいが、これに制限されない。
【0040】
本出願のもう一つの様態は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養して発酵する段階を含む、グリシン及びグルタミン酸を含む発酵組成物の製造方法を提供する。
【0041】
本出願のもう一つの様態は、前記方法により製造された発酵組成物を提供する。
【0042】
前記発酵組成物は、グリシンの含量が増加されたものであってもよい。
【0043】
前記微生物は、前述のとおりである。
【0044】
本出願において、用語、「培養」は、微生物を適当に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願で前記微生物を用いて目的物質を生産する方法は、当業界に広く知られている方法を用いて行ってもよい。具体的には、前記培養は、バッチ工程、注入バッチまたは反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で
連続式で培養してもよいが、これに制限されるものではない。培養に用いられる培地は、適切な方法で特定菌株の要件を満たす必要がある。コリネバクテリウム菌株に対する培養培地は公知されている(例えば、Manual of Methods for General Bacteriology by the
American Society for Bacteriology, Washington D.C., USA, 1981)。
【0045】
培地中に用いられる糖源としては、ブドウ糖、サッカロース、乳糖、果糖、マルトース、でん粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイル及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに制限されるものではない。
【0046】
用いられる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆ミール、及び尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別的に、または混合物として用いてもよく、これに制限されるものではない。
【0047】
用いられるリン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウムを含有する塩が含まれてもよい。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有してもよい。最後に、前記物質に加えて、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が用いられてもよい。前記された原料は、培養過程で培養物に適切な方法によって回分式または連続式で添加してもよい。
【0048】
前記微生物の培養中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような基礎化合物またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために培養物の内に酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。
【0049】
培養物(培地)の温度は、通常20℃~45℃、具体的には、25℃~40℃であってもよい。培養時間は、所望の目的物質の生成量が得られるまで続けてもよいが、具体的には、10~160時間であってもよい。
【0050】
培養物(培地)からの目的物質の回収は、当業界に知られている通常の方法によって分離されて回収されてもよい。これらの分離方法には、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー及び結晶化などの方法が用いられる。例えば、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄み液を、イオン交換クロマトグラフィーを介して分離してもよいが、これに制限されるものではない。別の方法として、培養物(培地)から菌体分離及びろ過工程を行い、別の精製工程なしに目的物質を回収してもよい。別の方法として、前記回収段階は、精製工程をさらに含んでもよい。
【0051】
本出願において、用語、「前記発酵組成物」は、本出願の微生物を培養して得られた組成物を意味する。さらに、前記発酵組成物は、前記微生物を培養した後、適切な後処理工程を経た後、得られた液状または粉末形態の組成物を含んでもよい。この時、適切な後処理工程は、例えば、前記微生物の培養工程、菌体除去工程、濃縮工程、ろ過工程、及び担体混合工程を含んでもよく、追加で乾燥工程をさらに含んでもよい。場合に応じて、前記後処理工程は、精製工程を含まなくてもよい。前記発酵組成物は、本出願の微生物を培養することにより、一定水準のグルタミン酸の含量を維持しつつ、グリシンの含量が増加された組成物を含むことにより、最適な味を出せる。
【0052】
また、「前記発酵組成物」は、前記の液状または粉末形態の組成物が含まれた調味素材の製品(例えば、スープ用粉末製品、スナックシーズニング製品など)を排除しない。さ
らに、「前記発酵組成物」は、本出願の微生物を培養して得られた組成物を含みさえすれば、非発酵の工程で得られた物質及び/または非天然の工程で得られた別の物質をさらに混合した場合を排除しない。
【0053】
以下、本出願の実施例を介してより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのもので、本出願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1.グリシン生産能の増加のためのKFCC11074菌株への変異導入及び変異が導入されたKFCC11074のグルタミン酸及びグリシン生成量の確認
実施例1-1.変異が導入されたベクターの製作
グルタミン酸生産菌株におけるHisG活性強化を介してグリシン生成能の増加効果を確認するために、HisEG遺伝子のプロモーター内に変異を起こした菌株及びヒスチジンフィードバック阻害を解除した変異を導入した菌株を製作し、これのグリシン生産能を確認した。
【0055】
一方、hisEとhisG遺伝子はオペロンで構成されて、これら遺伝子はヒスチジン生合成経路に関与する遺伝子である。特に、前記HisGは、生産物であるヒスチジンによりフィードバック阻害を受けるため、フィードバック阻害が解除された変異を導入してHisG遺伝子の活性を増加させる場合、菌株のグリシン生産能が増加させるかどうかを確認した。ここで、グルタミン酸生産菌株として知られているKFCC11074菌株(特許文献5)にHisEGプロモーター変異及びHisGのヒスチジンフィードバック阻害解除変異をそれぞれ導入した。具体的には、HisEGプロモーターを含む配列番号1からポリヌクレオチド配列の53番目及び55番目ヌクレオチドをTに置換、ポリヌクレオチド配列の53番目及び55番目ヌクレオチドをTに置換、60番目ヌクレオチドをGに置換するために遺伝子置換ベクターを製作した。
【0056】
また、配列番号4で表されるHisGアミノ酸配列の233番目のグリシン(Gly/G)をヒスチジン(His/H)に置換、233番目及び235番目のグリシン(Gly/G)とトレオニン(Thr/T)をヒスチジン(His/H)とグルタミン(Gln/Q)に置換するために遺伝子置換ベクターを製作した。それぞれの置換ベクターを製作するための遺伝子断片は、ATCC13869ゲノミックDNAを鋳型としてPCRを介して獲得した。米国国立衛生研究所ジーンバンク(NIH GenBank)に登録されているコリネ
バクテリウム・グルタミカム(ATCC13869)遺伝子及び周辺の塩基配列に対する情報に基づいて、それぞれのプライマーを製作した。
HisEGプロモーター置換ベクターを製作するためのPCRの条件は、95℃で5分間変性した後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で1分の重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応をで行った。より具体的には、配列番号7及び8のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドと配列番号9及び10のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドを得た。前記得られた2つの遺伝子断片を制限酵素SalIで切断したpDZベクター(特許文献3及び6)にインフュージョン酵素を用いて連結することにより、hisEGプロモーターを含む2つの遺伝子置換ベクターを製作し、これを「pDZ-hisEG-pro-2mt」と命名した。また、配列番号7及び11のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドと配列番号10及び12のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドを得た。前記得られた2つの遺伝子断片を制限酵素SalIで切断したpDZベクター(特許文献3及び6)にインフュージョン酵素を用いて連結することにより、hisEGプロモーターを含む1つの遺伝子置換ベクターを製作し、これを「pDZ-hisEG-pro-3mt」と命名した。前記のベクター製作のために用いられたプライマー配列情報は、下記表1に示した。
【0057】
HisGアミノ酸配列の233番目、233番目及び235番目のアミノ酸をそれぞれH、H及びQに置換するために、遺伝子置換ベクターを製作した。具体的には、PCRの条件は95℃で5分間変性した後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で1分の重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。配列番号13及び14のプライマーを用いて増幅した722bpのポリヌクレオチドと配列番号15及び16のプライマーを用いて増幅した798bpのポリヌクレオチドを得た。前記得られた2つの遺伝子断片を制限酵素SalIで切断したpDZベクター(特許文献3及び6)にインフュージョン酵素を用いて連結することにより、HisG(G233H)変異を含むポリヌクレオチドが含まれた1つの1.5kbp遺伝子置換ベクターを製作し、これを「pDZ-hisG(G233H)」と命名した。また、配列番号13及び17のプライマーを用いて増幅した722bpのポリヌクレオチドと配列番号16及び18のプライマーを用いて増幅した798bpのポリヌクレオチドを得た。前記得られた2つの遺伝子断片を制限酵素SalIで切断したpDZベクター(特許文献3及び6)にインフュージョン酵素を用いて連結することにより、HisG(G233H/T235Q)変異を含むポリヌクレオチドが含まれた1つの1.5kbp遺伝子置換ベクターを製作し、これを「pDZ-hisG(G233H/T235Q)」と命名した。前記のベクター製作のために用いられたプライマー配列情報は、下記表1に示した。
【0058】
【表1】
実施例1-2.変異が導入されたKFCC11074の製作及びグルタミン酸及びグリシン生成量の確認
前記実施例1-1を介して製作したHisEGプロモータ置換ベクターであるpDZ-hisEG-pro-2mt及びpDZ-hisEG-pro-3mtとHisG遺伝子置換ベクターであるpDZ-hisG(G233H)及びpDZ-hisG(G233H/T235Q)をそれぞれKFCC11074菌株に電気穿孔法で導入した。変異がそれぞれ導入されたグルタミン酸及びグリシン生産菌株「KFCC11074_Pro(2m
t)_hisEG」、「KFCC11074_Pro(3mt)_hisEG」、「KFC
C11074_hisG(G233H)」及び「KFCC11074_hisG(G233H/T235Q)」を製作した。
【0059】
具体的には、形質転換(非特許文献6)を介して製作し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株をカナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した寒天栄養培地から選別した。選別した1次菌株を再び2次交差(cross-over)を経て、ターゲット変異が導入された菌株をそれぞれ選別した。最終的に形質
転換された菌株の変異(置換)有無は、配列番号7及び10のプライマー対と配列番号13及び16のプライマー対を用いてそれぞれPCRを行った後にシーケンシングを介して確認した。
【0060】
その後、選別した菌株、KFCC11074_Pro(2mt)_hisEG、KFCC11074_Pro(3mt)_hisEG、KFCC11074_hisG(G233H
)及びKFCC11074_hisG(G233H/T235Q)を栄養培地に塗抹して
30℃で16時間培養した。その後、121℃で15分間加圧殺菌された発酵培地25mlを250mlの振とう用三角フラスコに分注して栄養培地で培養された菌株を接種して48時間培養した。培養条件は、回転数200rpm、温度37℃、pH8.0で調節した。前記栄養培地と発酵培地の組成は次のとおりである。
【0061】
栄養培地:
グルコース1%、肉汁0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス0.5%、寒天2%、ウレア0.2%、pH7.2
発酵培地:
粗糖6%、炭酸カルシウム5%、硫酸アンモニウム2.25%、1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.04%、硫酸鉄10mg /L、ビオチン0.3mg/L、
チアミン塩酸塩0.2mg/L
培養終了した後、HPLCを用いた方法を介してL-グルタミン酸及びグリシン生産量を測定し、測定結果は、下記表2に示した。
【0062】
【表2】
表2に示すように、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074_Pro(2mt)_hisEG、KFCC11074_Pro(3mt)_hisEG、KFCC11074_hisG(G233H)及びKFCC11074_hisG(G233H/T235Q)菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度は、変異が導入されないコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度と類似していることを確認した。
一方、前記KFCC11074_Pro(2mt)_hisEG及びKFCC11074_
Pro(3mt)_hisEG及びKFCC11074_hisG(G233H)菌株が生産したグリシン濃度は、前記KFCC11074が生産したグリシンの濃度に比べて、それぞれ33mg/L、44mg/L及び45mg/L増加することを確認した。特に、KFCC11074_hisG(G233H/T235Q)菌株の場合、グリシン濃度が2
68mg/Lで、大幅に増加することを確認した。
すなわち、HisEGプロモーター変異とHisGフィードバック阻害の解除を含んでいる前記変異は微生物のL-グルタミン酸の生成能にはほとんど影響を与えずに維持しつつ、グリシン生成能を著しく増加させることを確認した。
実施例2.変異が導入されたATCC13869菌株のグルタミン酸及びグリシン生成量の確認
前記の変異が野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13869菌株においても、グルタミン酸の生産能には影響を与えず、グリシン生成能の増加効果があるかを確認するために、変異が導入されたATCC13869基盤菌株を製作した。
【0063】
前記実施例1-1を介して製作したHisEGプロモーター置換ベクターであるpDZ-hisEG-pro-2mt及びpDZ-hisEG-pro-3mtとHisG遺伝子置換ベクターであるpDZ-hisG(G233H)及びpDZ-hisG(G233H/T235Q)をそれぞれATCC13869菌株に電気穿孔法で導入した。変異がそれぞれ導入されたグルタミン酸及びグリシン生産菌株「ATCC13869_Pro(2
mt)_hisEG」、「ATCC13869_Pro(3mt)_hisEG」、「AT
CC13869_hisG(G233H)」及び「ATCC13869_hisG(G233H/T235Q)」を製作した。
【0064】
具体的には、形質転換(非特許文献6)を介して製作し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株をカナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した寒天栄養培地から選別した。選別した1次菌株を再び2次交差(cross-over)を経て、ターゲット変異が導入された菌株をそれぞれ選別した。最終的に形質転換された菌株の変異(置換)有無は、配列番号7及び10のプライマー対と配列番号13及び16のプライマー対を用いてそれぞれPCRを行った後にシーケンシングを介して確認した。
【0065】
それぞれのコロニーを栄養培地で継代培養した後、発酵培地で5時間培養した。その後、それぞれの培地に25%ツイン40(tween40)を0.4%濃度で追加し、それぞれの
コロニーを再び32時間培養した。
【0066】
栄養培地:
グルコース1%、肉汁0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス0.5%、寒天2%、ウレア0.2%、pH7.2
発酵培地:
粗糖6%、炭酸カルシウム5%、硫酸アンモニウム2.25%、1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.04%、硫酸鉄10mg /L、ビオチン0.3mg/L、
チアミン塩酸塩0.2mg/L
前記条件でそれぞれのコロニーを培養して、YSIを用いてL-グルタミン酸の濃度を測定し、HPLCを用いてグリシンの濃度を測定した。測定したL-グルタミン酸及びグリシンの濃度は下記表3に示した。
【0067】
【表3】
表3に示すように、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869
)に変異が導入されたATCC13869_Pro(2mt)_hisEG、ATCC13869_Pro(3mt)_hisEG、ATCC13869_hisG(G233H)及
びATCC13869_hisG(G233H/T235Q)菌株が生産したL-グルタ
ミン酸の濃度は、ATCC13869菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度と類似していたが、グリシンの濃度はすべて増加することを確認した。
【0068】
すなわち、HisEGプロモーター変異とHisGフィードバック阻害の解除を含んでいる前記変異は微生物のL-グルタミン酸の生成能にはほとんど影響を与えずに維持しつつ、グリシン生成能を著しく増加させることを再び確認した。
一方、前記ATCC13869_hisG(G233H)及びATCC13869_hisG(G233H/T235Q)菌株は、2019年3月14日付でブダペスト条約下の寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に菌株名 「CA02-9216」及
び「CA02-9217」として国際寄託し、「KCCM12458P」及び「KCCM12459P」の寄託番号を付与された。
【0069】
実施例6.調味素材製品の製造のための発酵組成物の製造
前記のように、HisG活性を強化した菌株がL-グルタミン酸の生成能にほとんど影響を与えずにグリシンの生成能が増加されることを確認した。したがって、本出願のHisG活性強化コリネバクテリウム属微生物を用いた発酵組成物を製造した。
【0070】
例示的に、基本的によく知られている調味料素材であるグルタミン酸を主成分として製造し、豊かな味の構成を高めるために、他の調味料素材の副産物成分を増加させるために、発酵菌株及び発酵過程を調節した。
前記のHisEGプロモーター変異とHisGフィードバック阻害の解除を含んでいる前記変異2つをすべて含む菌株を用いて、5L発酵槽を用いた発酵組成物を製造した。
【0071】
培養培地の製造に用いられた成分はすべて食品等級に該当する成分だけを用いた。
1次種培地:グルコース1%、酵母抽出物1%、ペプトン1%、硫酸アンモニウム0.1%、塩化ナトリウム0.25%、リン酸第1カリウム0.15%、リン酸第2カリウム0.15%を含有して、pHが8.0である1次種培地を製造した。
2次種培地:純度98.5%のオーガニック粗糖4.6%、硫酸マグネシウム0.05%、酵母抽出物0.5%、リン酸第1カリウム0.2%、硫酸鉄0.002%、ビオチン1mg/L、チアミン塩酸塩2mg/L及びわずかの消泡剤を含有し、pHが7.2である
2次種培地を製造した。
【0072】
発酵培地:純度98.5%のオーガニック粗糖4%、硫酸マグネシウム0.03%、酵母抽出物1%、リン酸0.22%、水酸化カリウム0.4%、ビオチン0.2mg/L、チアミン塩酸塩0.6mg/L、硫酸マンガン0.002%、硫酸鉄0.002%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.0006%及びわずかの消泡剤を含有し、pHが7.4である発酵培地を製造した。
【0073】
前記1次種培地50mlを500ml容量の振とう用三角フラスコに分注し、121℃で20分間加圧殺菌して冷却した後、前記菌株をそれぞれ接種し、回転数200回/分、温度30℃で5~7時間振とう培養した。
【0074】
前記2次種培地を1.5L容量の試験発酵槽に0.25L調製して、121℃で 20
分間加圧殺菌して冷却させた後、前記1次種培養液を50 ml接種した後、回転数90
0回/分、31.5℃で15時間培養した。
【0075】
前記発酵培地を5L容量の試験発酵槽に0.25L調製して、121℃で20分間加圧殺菌して冷却させた後、前記2次種培養液0.26Lを接種した後、回転数900回/分、30~34℃で培養した。
【0076】
前記条件で培養しながら前記コリネバクテリウム・グルタミカムの培養中発酵液のpHが7.0~7.4の範囲になるように28%アンモニア水を用い、続けて調節した。培養中の残糖の濃度が0.5~1.5%になると殺菌されたオーガニック粗糖を随時投入して添加された糖の合計が発酵液量に比べて、30~34%になるまで続けて培養した。
【0077】
【表4】
その結果、前記表4に示すように、両菌株間のグルタミン酸の生産量はあまり差がなく、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074_hisG(
G233H/ T235Q)_Pro(3mt)_hisEG菌株が生産した発酵液内のグリシンの含量が著しく増加することを確認した。
【0078】
3kL発酵槽を用いた発酵組成物の場合にも、両菌株間のグルタミン酸の生産量はあまり差がなく、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074_
hisG(G233H/ T235Q)_Pro(3mt)_hisEG 菌株はKFCC1
1074菌株に比べて、グルタミン酸の生産量に大きな差がないのに(64.2g/L
vs 73g/L)グリシンの含量が著しく増加(0.2g/L vs 3.2g/L)した
ことを確認した。
【0079】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者は、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、制限的なものではないものと理解しなければならない。本出願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【配列表】