(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 27/04 20060101AFI20241220BHJP
F16K 11/065 20060101ALI20241220BHJP
F16K 31/04 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
F16K27/04
F16K11/065 Z
F16K31/04 Z
(21)【出願番号】P 2022124058
(22)【出願日】2022-08-03
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213757
【氏名又は名称】竹内 詩人
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕正
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢仁
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003107(JP,A)
【文献】特開2006-194338(JP,A)
【文献】実開平05-006264(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 27/00-27/12
F16K 11/00-11/24
F16K 31/00-31/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室を形成する弁本体と、複数の弁ポートが形成された弁座面を有するとともに前記弁室内に設けられる弁座部材と、前記弁ポートを弁室に対して開閉する弁体と、を備えたスライド式切換弁であって、
前記弁本体は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、前記複数の弁ポートのそれぞれに連通する配管の端部、又は、該配管を接続するためのコネクタを収容する収容凹部と、前記配管又は前記コネクタを固定するための被固定部と、を外面側に有し、
前記弁座部材は、前記弁本体よりも熱伝導率が低い材料によって構成され、前記弁本体の内面のうち前記収容凹部が形成された領域に重なるように配置され、
前記弁本体と前記弁座部材との間に、前記弁本体及び前記弁座部材よりも熱伝導率が低い伝熱抑制部が設けられていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記弁座部材がステンレスにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記伝熱抑制部が接着材により構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記弁座部材と、前記弁本体の内面のうち前記収容凹部が形成された領域と、の境界部において、前記弁本体に形成された開口の内径が前記弁ポートの内径よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記弁座部材は、前記弁座面に沿ったスライド方向における両端面が、前記弁本体の内面に対して隙間を開けて対向していることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記弁本体は、前記弁座部材の一方の端面と対向する位置に、他の弁ポートを有することを特徴とする請求項5に記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
前記弁座部材がステンレスにより構成され、
前記伝熱抑制部が、熱溶着可能な材料により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項8】
前記弁本体は、前記配管又は前記コネクタの端面に重なる重なり部を有し、
前記弁座面との直交方向における前記弁座部材の寸法が、前記重なり部の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1,2,5~7のいずれか1項に記載のスライド式切換弁。
【請求項9】
前記弁体を前記弁座面に沿ったスライド方向に移動させる駆動部をさらに備え、
前記駆動部は、ステッピングモータと、前記ステッピングモータの回転を前記スライド方向に沿った直進運動に変換する変換機構と、を有することを特徴とする請求項8に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライド式切換弁として、冷凍サイクルにおいて冷媒の流れの方向を切り換える四方弁が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された四方弁では、ブロック本体内のピストン弁室にピストン弁が配置され、ピストン弁が移動することにより、主弁室に配置された流路切換主弁が移動して流路が切り換えられるようになっている。このとき、ピストン弁室の内壁に低熱伝導性または耐摩耗性の金属材を設けることにより、冷媒の高温又は高圧化への対応が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように流路を切り換える弁装置では、複数のポートが形成され、温度が異なる流体が各ポートを通過することがある。このとき、ポートの間を構成する部材における熱伝導により、流体同士が熱交換されてしまい、冷凍サイクルの熱効率が低下してしまう可能性がある。特許文献1に記載されたように弁室の内壁に低熱伝導性の金属材を設ける場合、高温に対応することはできても、上記のような熱交換を抑制することは困難であった。
【0005】
また、流路を切り換えるための弁装置は、軽量化の要請により、アルミニウムやアルミニウム合金によって弁本体(ブロック本体)が構成されることがあった。このようなアルミニウム製の弁本体は、熱伝導性が高く、上記のような熱交換が生じやすい。一方、弁本体を低熱伝導性の金属によって構成すると軽量化が困難となる。このように、軽量化と、熱効率の向上と、を両立させることは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、全体を軽量化しつつ熱効率を向上させることができるスライド式切換弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスライド式切換弁は、弁室を形成する弁本体と、複数の弁ポートが形成された弁座面を有するとともに前記弁室内に設けられる弁座部材と、前記弁ポートを弁室に対して開閉する弁体と、を備えたスライド式切換弁であって、前記弁本体は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、前記複数の弁ポートのそれぞれに連通する配管の端部、又は、該配管を接続するためのコネクタを収容する収容凹部と、前記配管又は前記コネクタを固定するための被固定部と、を外面側に有し、前記弁座部材は、前記弁本体よりも熱伝導率が低い材料によって構成され、前記弁本体の内面のうち前記収容凹部が形成された領域に重なるように配置され、前記弁本体と前記弁座部材との間に、前記弁本体及び前記弁座部材よりも熱伝導率が低い伝熱抑制部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
以上のような本発明によれば、複数の弁ポートが形成された弁座部材の熱伝導率が弁本体よりも低いことで、各々の弁ポートを通過する流体同士の熱交換を抑制することができる。さらに、弁本体と弁座部材との間に伝熱抑制部が設けられていることで、弁座部材から弁本体への熱伝達を抑制することができ、各々の弁ポートを通過する流体同士が、熱伝導率が比較的高い弁本体を介して熱交換することが抑制される。これにより、熱効率を向上させることができる。また、弁本体がアルミニウム又はアルミニウム合金により構成されていることで、スライド式切換弁の全体を軽量化することができる。
【0009】
この際、本発明のスライド式切換弁では、前記弁座部材がステンレスにより構成されていることが好ましい。このような構成によれば、弁座面がアルミニウム又はアルミニウム合金により構成される場合と比較して、弁体との摺動に対する耐久性を向上させることができる。
【0010】
さらに、本発明のスライド式切換弁では、前記伝熱抑制部が接着材により構成されていることが好ましい。このような構成によれば、樹脂を主原料とする接着材によって伝熱抑制部が構成されることにより、弁本体に対して伝熱抑制部の熱伝導率をさらに低くしやすく、熱効率をより一層向上させることができる。
【0011】
また、本発明のスライド式切換弁では、前記弁座部材と、前記弁本体の内面のうち前記収容凹部が形成された領域と、の境界部において、前記弁本体に形成された開口の内径が前記弁ポートの内径よりも小さいことが好ましい。このような構成によれば、弁本体の開口の内径が比較的小さいことで、弁座部材を弁本体に接着して伝熱抑制部を形成する際に、接着材を収容凹部内に流入しにくくすることができる。これにより、収容凹部の内面にシール部材が接触する場合に、接着材によってシール性が低下することを抑制することができる。
【0012】
また、本発明のスライド式切換弁では、前記弁座部材は、前記弁座面に沿ったスライド方向における両端面が、前記弁本体の内面に対して隙間を開けて対向していることが好ましい。このような構成によれば、熱伝導率が比較的高い弁本体への熱伝達を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明のスライド式切換弁では、前記弁本体は、前記弁座部材の一方の端面と対向する位置に、他の弁ポートを有することがより好ましい。このような構成によれば、弁座部材を弁本体に接着して伝熱抑制部を形成する際に、接着材が他の弁ポート内に流入しにくくすることができ、この弁ポートに対して他の配管を直接的又は間接的に接続する際に、接着材によってシール性が低下することを抑制することができる。
【0014】
また、本発明のスライド式切換弁では、前記弁座部材がステンレスにより構成され、前記伝熱抑制部が、熱溶着可能な材料により構成されていることが好ましい。このような構成によれば、弁本体の内面と弁座部材との間に、熱溶着可能な樹脂により構成された薄板を配置して熱溶着することにより、弁本体と弁座部材とを固定することができる。これにより、接着材の塗布等と比較して、組立性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明のスライド式切換弁では、前記弁本体は、前記配管又は前記コネクタの端面に重なる重なり部を有し、前記弁座面との直交方向における前記弁座部材の寸法が、前記重なり部の厚さよりも大きいことが好ましい。隣り合う弁ポートにおいて、高温の流体から低温の流体に伝熱される場合、弁ポートの並設方向に沿った経路だけでなく、弁座面との直交方向に沿った経路も存在する。即ち、弁座部材は弁室に面した弁座面を有しており、弁室内の流体から弁座面に熱伝達され、この熱が弁座部材内を直交方向に伝わった後に、低温側の弁ポートに向かって弁座部材内を並設方向に向かって伝わる(あるいは、熱が弁座部材内及び重なり部内を直交方向に伝わった後に、低温側の弁ポートに向かって重なり部内を並設方向に向かって伝わる)という経路が存在し得る。このとき、弁座部材の直交方向寸法が比較的大きい構成によれば、上記経路の熱抵抗を確保することができ、熱交換を抑制することができる。
【0016】
また、本発明のスライド式切換弁では、前記弁体を前記弁座面に沿ったスライド方向に移動させる駆動部をさらに備え、前記駆動部は、ステッピングモータと、前記ステッピングモータの回転を前記スライド方向に沿った直進運動に変換する変換機構と、を有することが好ましい。このような構成によれば、弁体を移動させる駆動部においてシール部材を省略することができ、内部漏洩を抑制して熱交換を抑制し、熱効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスライド式切換弁によれば、全体を軽量化しつつ熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一例である実施形態にかかるスライド式切換弁が設けられた冷凍サイクルの概略構成図である。
【
図3】前記スライド式切換弁に配管が接続された様子を示す断面図である。
【
図5】前記スライド式切換弁の弁座部材を示す断面図である。
【
図6】前記スライド式切換弁の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の四方切換弁(スライド式切換弁)1は、
図1に示すように、例えば冷凍サイクル100に設けられるものである。冷凍サイクル100は、カーエアコン等の空気調和機に利用されるものであって、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機200と、冷却モード時に凝縮器として機能する第一熱交換器としての室外熱交換器300と、冷却モード時に蒸発器として機能する第二熱交換器としての室内熱交換器400と、室外熱交換器300と室内熱交換器400との間にて冷媒を膨張させて減圧する膨張手段としての膨張弁500と、四方切換弁1と、を備え、これらが冷媒配管によって連結されている。なお、膨張手段としては、膨張弁500に限らず、キャピラリでもよい。尚、上記のように循環する冷媒には、圧縮機200の動作を潤滑なものにするための潤滑油(冷凍機油)が含まれている。
【0020】
この冷凍サイクル100は、
図1に示す冷却モード(冷房運転)において、圧縮機200、四方切換弁1、室外熱交換器300、膨張弁500、室内熱交換器400、四方切換弁1及び圧縮機200の順に冷媒が流れる冷房サイクルを構成する。一方、加温モード(暖房運転)において、圧縮機200、四方切換弁1、室内熱交換器400、膨張弁500、室外熱交換器300、四方切換弁1及び圧縮機200の順に冷媒が流れる暖房サイクルを構成する。この暖房サイクルと冷房サイクルとの切換えは、四方切換弁1における駆動部5を作動させることによって行われる。
【0021】
本発明の実施形態に係る四方切換弁1は、
図2~4に示すように、円筒状の弁本体2と、この弁本体2の内部に設けられる弁座部材3と、弁座部材3に対してスライド自在に設けられる弁体4と、弁体4を移動させる駆動部5と、を備えている。以下では、弁体4のスライド方向をX方向とし、X方向に直交するとともに互いに直交する2方向をY方向及びZ方向とし、Z方向における上下は
図2,3を基準とし、
図2における左側をX方向の一方側とするとともに右側を他方側とする。四方切換弁1には、後述するように、圧縮機200の吐出口に連通する高圧側の配管11と、圧縮機200の吸込口に連通する低圧側の配管12と、室内熱交換器400に連通する室内側の配管13と、室外熱交換器300に連通する室外側の配管14と、が接続されるようになっている。
【0022】
円筒状の弁本体2は、X方向に沿って延び、他方側の端部22に後述するガイド部材7が設けられるとともに蓋部20及びケース6によって開口が塞がれることにより、全体に密閉されて弁室R1を形成する。弁本体2には、一方側の端部21に開口した弁ポート(流入ポート)2Aと、側面部23に開口した収容凹部2B~2Dと、が形成されている。即ち、高圧側の配管11が接続されて弁本体2の内部に冷媒を流入させる開口部としての弁ポート2Aと、配管12~14が接続される収容凹部2B~2Dと、が設けられている。収容凹部2Bは、X方向略中央に設けられ、収容凹部2Cは、収容凹部2Bに対してX方向一方側に隣り合って設けられ、収容凹部2Dは、収容凹部2Bに対してX方向他方側に設けられている。即ち、3つの収容凹部2B~2Dは、X方向に沿って直線状に並ぶように設けられている。
【0023】
弁本体2は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている。ここで、アルミニウム合金とは、アルミニウムを主原料とする合金であって、例えばマグネシウムが添加されたものや、シリコン及びマグネシウムが添加されたものが好ましく、必要な強度や耐食性、加工性等に応じて適宜な添加物を有するものであってよい。
【0024】
弁座部材3は、ステンレスによって構成され、
図5にも示すように、全体としてXY平面に沿って延びる長方形板状に形成され、弁室R1内に設けられる。弁座部材3は、弁本体2の内面のうち収容凹部2B~2Dが形成された領域に重ねられる。板状の弁座部材3のうち弁室R1の内側を向いた面が弁座面31となり、即ち弁体4をスライド案内する案内面となる。
【0025】
弁座部材3の弁座面31には、3つの弁ポート3B~3Dが形成されており、弁ポート3B~3Dは弁座部材3を板厚方向(弁座面31との直交方向でありZ方向)に貫通する。3つの弁ポート3B~3Dは、3つの収容凹部2B~2Dのそれぞれと重なるように配置される。即ち、3つの弁ポート3B~3DがX方向に沿って直線状に並ぶように設けられている。
【0026】
弁ポート3Bに連通した収容凹部2Bには、低圧側の配管12が接続され、弁ポート(第一ポート)3Cに連通した収容凹部2Cには、室内側の配管13が接続されることで、弁ポート3Cが室内側ポートを構成し、弁ポート(第二ポート)3Dに連通した収容凹部2Dには、室外側の配管14が接続されることで、弁ポート3Dが室外側ポートを構成する。
【0027】
弁体4は、椀状の弁部材41と、弁部材41を弁座面31に向けて付勢する板ばね42と、駆動部5と連結される連結部43と、を備える。
【0028】
弁部材41は、合成樹脂製の一体成形部材であって、弁座部材3に向かって凹状に開口するとともに、平面視で長円形状を有したドーム状に形成されている。弁部材41の内部には、弁ポート3Bと弁ポート3Cとを連通させて弁ポート3Dを連通させないか、又は、弁ポート3Bと弁ポート3Dとを連通させて弁ポート3Cを連通させないような連通空間R2が形成されている。連結部43は、弁部材41からX方向他方側に突出しており、ピン部材を係止可能なフック状の部分を有する。
【0029】
駆動部5は、弁体4の弁部材41をX方向に移動させるものであって、ステッピングモータ51と、変換機構52と、を有する。
【0030】
ステッピングモータ51は、ケース6の内部に回転可能に配設されたマグネットロータ512と、ケース6の外周においてマグネットロータ512に対して対向配置されたステータコイル513と、その他、図示しないヨークや外装部材等により構成されている。
【0031】
変換機構52は、雄ねじ部材521と、雌ねじ部材522と、軸受部材523と、2本の連結腕部524と、を有する。雄ねじ部材521は、ロータ軸であって、ブッシュを介してマグネットロータ512の中心に取り付けられ、その外周には雄ねじ部521aが形成されている。雌ねじ部材522は、円筒状に形成されるとともに内周面に雌ねじ部522aを有し、雄ねじ部521aと雌ねじ部522aとが螺合される。ガイド部材7は、X方向に沿って筒状に延びる内周面を有するとともにX方向他方側に開口しており、ガイド部材7の内側に雌ねじ部材522が配置され、ガイド部材7の内周面によって雌ねじ部材522がX方向に沿って案内されるようになっている。雄ねじ部材521の雄ねじ部521aと、雌ねじ部材522の雌ねじ部522aと、がねじ送り機構を構成し、ステッピングモータ51によって生じるX方向に沿った中心軸周りの回転が、変換機構52によってX方向に沿った直進運動に変換される。
【0032】
軸受部材523は、ロータ軸である雄ねじ部材521を、X方向他方側の端部において回転可能に支持する部材である。連結腕部524は、雌ねじ部材522と弁体4とを連結するための部材であって、雌ねじ部材522からX方向一方側に向かって延びるとともにガイド部材7の底部72を貫通し、連結ピン525によって弁体4の連結部43に連結される。2本の連結腕部524が底部72を貫通することにより、雌ねじ部材522がX方向に沿った軸を中心として回転することが規制されており、即ち、雌ねじ部材522が雄ねじ部材521に連れ回らず、回転運動が直進運動に変換可能となっている。
【0033】
ガイド部材7は、弁座部材3の弁座面31に対して当接する当接部71を有する。即ち、弁座部材3が、X方向の他方側において、弁本体2(及び後述する接着部9)とガイド部材7とによってZ方向から挟み込まれている。当接部71は、有底筒状のガイド部材7の底部72よりもX方向一方側に突出し、且つ、筒部73よりもZ方向の弁座部材3側に突出している。
【0034】
以上の四方切換弁1では、ステッピングモータ51の駆動によってマグネットロータ512及び雄ねじ部材521が回転すると、ねじ送り機構である変換機構52によって、ロッド43がX方向に沿って移動する。これにより、弁体4がX方向に沿ってスライドし、
図1,3に示す第一位置と
図2に示す第二位置との間で移動する。
【0035】
弁体4が第二位置にある状態において、弁部材41は、その連通空間R2によって弁ポート3Bと弁ポート3Dとを連通させる。また、弁部材41が弁ポート3CよりもX方向他方側に位置することから、この弁ポート3Cは、弁本体2の内部(高圧室である弁室R1)を介して弁ポート2Aと連通する。すなわち、弁体4が第二位置にある状態は、弁ポート2Aと弁ポート3Cとが連通し、弁ポート3Bと弁ポート3Dとが連通した加温モード(暖房運転)となる。
【0036】
この加温モードでは、圧縮機200から吐出された高圧冷媒が高圧側の配管11及び弁ポート2Aを介して高圧室R1に導入され、この高圧室R1を通過した高圧冷媒が弁ポート3C及び室内側の配管13を介して室内熱交換器400に供給される。また、室外熱交換器300から室外側の配管14及び弁ポート3Dを介して低圧冷媒が弁部材41の連通空間R2に導入され、この連通空間R2を通過した低圧冷媒が弁ポート3B及び低圧側の配管12を介して圧縮機200に還流される。
【0037】
一方、弁体4が第一位置にある状態において、弁部材41は、その連通空間R2によって弁ポート3Bと弁ポート3Cとを連通させる。また、弁部材41が弁ポート3DよりもX方向一方側に位置することから、この弁ポート3Dは、弁本体2の内部(高圧室R1)を介して弁ポート2Aと連通する。すなわち、弁体4が第一位置にある状態は、弁ポート2Aと弁ポート3Dとが連通し、弁ポート3Bと弁ポート3Cとが連通した冷却モード(冷房運転)となる。
【0038】
ここで、四方切換弁1に対する配管11~14の接続構造の詳細について説明する。配管11~14は、例えば車載された他の機器から延びるものであり、これらの配管11~14がコネクタ8を介して四方切換弁1に接続されるようになっている。
【0039】
弁本体2には、
図4に示すように、側面部23の外面側において、収容凹部2B~2DのそれぞれにY方向に隣り合う位置に、被固定部としての雌ねじ部24が形成されている。また、弁本体2の端部21にも、弁ポート2AにZ方向に隣り合う位置に、被固定部としての雌ねじ部24が形成されている。
【0040】
コネクタ8は、一端部に配管11~14が挿通されるとともに他端部が弁ポート2A又は収容凹部2B~2Dに挿通される筒状部81と、弁本体2に固定するための固定部分82と、を有する。固定部分82は、固定部材としてのねじ部材が挿通可能な貫通孔を有し、この貫通孔が雌ねじ部24に重なるように配置される。貫通孔を通過したねじ部材が雌ねじ部24に螺合することにより、コネクタ8が弁本体2に固定される。尚、配管11~14はコネクタ8に対して適宜な方法で固定されていればよい。これにより、コネクタ8を介して配管11~14が弁本体2に接続される。
【0041】
コネクタ8の筒状部81は、内径が部分的に小さくなったくびれ部83を有し、このくびれ部83にOリング等のシール部材8Aが配置される。シール部材8Aが弁ポート2A又は収容凹部2B~2Dの内周面に接触することにより、コネクタ8と、弁ポート2A又は収容凹部2B~2Dと、の間が密封される。
【0042】
次に、特に弁座部材3及びその周辺構造について、各部の詳細な形状及び位置関係について説明する。まず、弁座部材3と弁本体2との間には、接着部9が設けられている。接着部9は、例えばエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂等の接着材によって構成されている。即ち、弁本体2と弁座部材3との間に接着材を塗布した後、熱を加えることによってこの接着材を熱硬化させ、弁座部材3を弁本体2に固定する。接着部9を構成する接着材は、硬化後の状態において弁本体2及び弁座部材3よりも熱伝導率が低く、接着部9が伝熱抑制部として機能する。接着部9は、収容凹部2B~2D及び弁ポート3B~3Dに対応する位置には形成されておらず、即ち接着部9はこれらの位置に貫通孔を有する。
【0043】
収容凹部2B~2Dは、それぞれ、コネクタ8が配置される円筒状の主凹部2B1~2D1と、コネクタ8の端面に重なる円環状の重なり部2B2~2D2と、を有する。重なり部2B2~2D2の内径D1は、弁座部材3の弁ポート3B~3Dの内径D2よりも小さく、且つ、これらの開口は同心円状に配置されている。即ち、弁座部材3と、弁本体2の内面のうち収容凹部2B~2Dが形成された領域と、の境界部において、弁本体2に形成された開口である重なり部2B2~2D2の内径D1が、弁ポート3B~3Dの内径D2よりも小さく、弁本体2の外側から見て弁座部材3が重なり部2B2~2D2によって隠される。重なり部2B2~2D2が設けられていることにより、コネクタ8の過挿入が規制され、即ち、コネクタ8及び配管12~14の挿入深さが管理されている。
【0044】
尚、図示の例では、配管11~14の内径とコネクタ8の内径とが略等しく、これらの内径は、弁ポート3B~3Dの内径D2と略等しく、即ち重なり部2B2~2D2の内径D1よりも大きい。
【0045】
また、弁座部材3の板厚T1は、重なり部2B2~2D2の厚さ(Z方向寸法)T2よりも大きい。
【0046】
弁座部材3のX方向寸法は、弁本体2における収容可能寸法(弁本体2の端部21と蓋部20との内面同士の間隔)よりも小さい。これにより、蓋部20のうちX方向一方側を向いた面と弁座部材3との間に隙間が形成されるとともに、
図6にも示すように、弁本体2の一方側の端部21のうち他方側を向いた面211と弁座部材3との間に隙間が形成される。即ち、弁座部材3は、スライド方向であるX方向における両端面が、弁本体2の内面に対して隙間を開けて対向している。また、弁本体2は、弁座部材3の一方の端面と対向する位置に、弁ポート2Aを有する。
【0047】
以下、四方切換弁1における熱移動の詳細について説明する。上記のように弁体4の位置によって流路が切り換えられることで、弁ポート3Bを通過する流体と、弁ポート3C及び弁ポート3Dのいずれか一方を通過する流体と、の間には温度差が生じ得る。即ち、上記の第一位置においては、弁ポート3Bを通過する流体と弁ポート3Dを通過する流体との間に温度差が生じ、上記の第二位置においては、弁ポート3Bを通過する流体と弁ポート3Cを通過する流体との間に温度差が生じる。
【0048】
このように隣り合う弁ポート間で流体に温度差が生じる場合、弁ポート間の部材を介して、高温の流体から低温の流体に熱移動が生じようとする。このとき、弁ポート間の部材とは、弁座部材3と接着部9と弁本体2(特に重なり部2B2~2D2)となる。このとき、弁座部材3が弁本体2よりも熱伝導率が低い材料によって構成され、且つ、接着部9が弁本体及び前記弁座部材よりも熱伝導率が低い材料によって構成されていることで、弁座部材及び弁本体がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている場合と比較して、合計の熱抵抗が大きくなる。
【0049】
また、上記のような伝熱経路以外にも、弁室R1内の流体から連通空間R2内の流体に熱移動する経路も存在し得る。即ち、弁室R1内の流体から弁座面31に熱伝達され、この熱が弁座部材3内をZ方向に伝わった後に、低温側の弁ポート3Bに向かって弁座部材3内をX方向に向かって伝わる(あるいは、熱が弁座部材3内及び重なり部2B2内をZ方向に伝わった後に、低温側の弁ポート3Bに向かって重なり部2B2内をX方向に向かって伝わる)という経路が考えられる。このとき、弁座部材3の板厚T1が重なり部2B2~2D2の厚さT2よりも大きいことで、この経路の熱抵抗が確保されている。
【0050】
以上の本実施形態によれば、複数の弁ポート3B~3Dが形成された弁座部材3の熱伝導率が弁本体2よりも低いことで、各々の弁ポート3B~3Dを通過する流体同士の熱交換を抑制することができる。さらに、弁本体2と弁座部材3との間に伝熱抑制部としての接着部9が設けられていることで、弁座部材3から弁本体2への熱伝達を抑制することができ、各々の弁ポート3B~3Dを通過する流体同士が、熱伝導率が比較的高い弁本体2を介して熱交換することが抑制される。これにより、熱効率を向上させることができる。また、弁本体2がアルミニウム又はアルミニウム合金により構成されていることで、四方切換弁1の全体を軽量化することができる。
【0051】
また、弁座部材3がステンレスにより構成されていることで、弁座面31がアルミニウム又はアルミニウム合金により構成される場合と比較して、弁体4との摺動に対する耐久性を向上させることができる。
【0052】
また、接着材により構成された接着部9が伝熱抑制部として機能することで、樹脂を主原料とする接着材によって伝熱抑制部が構成され、弁本体2に対して伝熱抑制部の熱伝導率をさらに低くしやすく、熱効率をより一層向上させることができる。
【0053】
また、弁本体2の重なり部2B2~2D2の内径D2が弁ポート3B~3Dの内径D1よりも小さいことで、弁座部材3を弁本体2に接着して接着部9を形成する際に、接着材を収容凹部2B~2D内に流入しにくくすることができる。これにより、収容凹部2B~2Dにおいて、主凹部2B1~2D1の内周面とシール部材8Aとの間に接着材が配置されにくくし、シール性の低下を抑制することができる。
【0054】
また、弁座部材3のX方向の両端面が、弁本体2の内面に対して隙間を開けて対向していることで、熱伝導率が比較的高い弁本体への熱伝達を抑制することができる。
【0055】
このとき、弁本体2が、弁座部材3のX方向一方側の端面と対向する位置に、弁ポート2Aを有しており、弁座部材3を弁本体2に接着して接着部9を形成する際に、接着材が弁ポート2A内に流入しにくくすることができる。従って、弁ポート2Aに対してコネクタ8を介して配管11を接続する際に、接着材によってシール性が低下することを抑制することができる。
【0056】
また、弁座部材3の板厚T1が重なり部2B2~2D2の厚さT2よりも大きいことで、熱が弁座部材3内をZ方向に伝わるような経路の熱抵抗を確保することができ、熱交換を抑制することができる。
【0057】
また、ステッピングモータ51と変換機構52とを有して弁体4を移動させる駆動部5が設けられていることで、駆動部5においてシール部材を省略することができ、内部漏洩を抑制して熱交換を抑制し、熱効率を向上させることができる。即ち、弁体のスライド方向両側に形成した空間の圧力差によって弁体を移動させる構成においては、これらの空間を弁室に対してシールするためにシール部材を設ける必要があり、このシール部材において漏洩が生じると、流体同士が混合されることで熱交換される可能性がある。弁体4が上記のような駆動部5によって移動させられることで、このような熱交換が抑制される。
【0058】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、弁座部材3がステンレスにより構成されるものとしたが、弁座部材は、弁本体よりも熱伝導率が低い他の材料によって構成されていてもよい。
【0059】
また、前記実施形態では、塗布された接着材を熱硬化させることで接着部9を形成するものとしたが、弁座部材3と弁本体2とを接着する際の接着材の硬化方法は特に限定されず、例えば溶媒の揮発による硬化や紫外線照射による硬化等が採用されてもよい。また、熱溶着可能な樹脂により構成された薄板を用いて、伝熱抑制部としての接着部を形成してもよい。即ち、このような薄板を弁本体2と弁座部材3との間に配置し、熱を加えることで溶着させ、接着部を形成してもよい。このような構成によれば、接着材の塗布等により接着部を形成する場合と比較して、組立性を向上させることができる。尚、「伝熱抑制部が、熱溶着可能な材料により構成されている」とは、伝熱抑制部の形成後の状態を特定するものであって、形成前の状態を特定するものではない。即ち、形成された伝熱抑制部が、熱溶着後の状態の樹脂を含んでいればよい。
【0060】
また、前記実施形態では、接着部9が伝熱抑制部として機能するものとしたが、伝熱抑制部が弁座部材3と弁本体2とを固定する機能を有しておらず、固定のために他の構成が設けられていてもよい。例えば、弁座部材3と弁本体2とをねじ止めしたり、溶接やろう付けによって固定したりすることにより、伝熱抑制部が伝熱抑制機能のみを有していてもよい。
【0061】
また、前記実施形態では、弁本体2の重なり部2B2~2D2の内径D2が弁ポート3B~3Dの内径D1よりも小さいものとしたが、例えば接着材の粘度が高く接着材が収容凹部2B~2D内に流入しにくい場合や、そもそも接着材を使用しない場合には、弁本体の方が弁部材よりも開口の内径が大きくてもよいし、これらの開口の内径が等しくてもよい。
【0062】
また、前記実施形態では、弁座部材3のX方向の両端面が、弁本体2の内面に対して隙間を開けて対向しているものとしたが、弁座部材の少なくとも一方の端面を弁本体の内面に当接させてもよい。このような構成によれば、弁本体と弁座部材との相対位置の精度を向上させやすく、弁体をスライド移動させた際に弁ポートを適切に開閉させやすい。
【0063】
また、前記実施形態では、弁本体2が、弁座部材3のX方向一方側の端面と対向する位置に弁ポート2Aを有しているものとしたが、弁体によって開閉されない弁ポート(他の弁ポート)は、他の位置に設けられていてもよく、例えば、弁本体2の径方向(Z方向)において収容凹部2B~2Dと対向する位置に他の弁ポートが形成されていてもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、弁座部材3の板厚T1が重なり部2B2~2D2の厚さT2よりも大きいものとしたが、弁座部材の板厚が充分に確保されていれば、この板厚は重なり部の厚さ以下であってもよい。また、コネクタや配管の挿入深さが他の方法に管理されることにより、重なり部が省略されていてもよい。
【0065】
また、前記実施形態では、弁座部材3が板状であるものとしたが、弁座部材は、平面である弁座面を有していればよく、その反対側の面は平面でなくてもよい。例えば、この反対側の面は、円筒状の弁本体の内周面に沿うように曲面状となっていてもよく、このような構成によれば、弁座部材全体のZ方向寸法を確保しやすく、弁座部材の反りを抑制して弁座面を平面状に維持しやすくすることができる。
【0066】
また、前記実施形態では、ステッピングモータ51と変換機構52とを有して弁体4を移動させる駆動部5が設けられているものとしたが、弁体を移動させるための機構は、弁体のスライド方向両側に形成した空間の圧力差を利用するものであってもよく、スライド式切換弁の用途等に応じた機構が採用されればよい。また、弁体を移動させるための機構は、スライド式切換弁に含まれていなくてもよい。
【0067】
また、前記実施形態では、配管11~14がコネクタ8を介して弁本体2に接続されるものとしたが、各配管は、弁本体に対して直接的に接続されてもよく、この場合、配管が、弁本体の被固定部に固定可能な部分を有していればよい。
【0068】
また、前記実施形態では、冷凍サイクル100において四方切換弁1として用いられるスライド式切換弁を例示したが、本発明のスライド式切換弁の用途はこれに限定されず、隣り合う弁ポートを通過する流体に温度差が生じ得るように使用されるものであればよい。また、弁体によって開閉される対象となる弁ポートの数は3に限定されず、隣り合う2つの弁ポートにおいて温度が異なる流体が通過する構成であればよい。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
100…冷凍サイクル、200…圧縮機、300…室外熱交換器(第一熱交換器)、400…室内熱交換器(第二熱交換器)、500…膨張弁(膨張手段)1…四方切換弁(スライド式切換弁)、2…弁本体、2A…弁ポート、2B~2D…収容凹部、2B2~2D2…重なり部、3…弁座部材、31…弁座面、3B~3D…弁ポート、4…弁体、5…駆動部、51…ステッピングモータ、52…変換機構、8…コネクタ、9…接着部(伝熱抑制部)、11~14…配管、R1…弁室