(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】LNGタンク製造で用いられるステンレス鋼溶接ワイヤ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
B23K35/30 320C
B23K35/30 320B
(21)【出願番号】P 2022531529
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2020016751
(87)【国際公開番号】W WO2021107581
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0153514
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0121504
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522208807
【氏名又は名称】エサブ セア コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヘ デ
(72)【発明者】
【氏名】キル、ウン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、チャン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ジェ ヒョン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-013441(JP,A)
【文献】特開平01-215493(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129561(WO,A1)
【文献】特開2018-126789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNGタンクを製造するためのステンレス鋼溶接ワイヤであって、
該溶接ワイヤは、6.0-15.0wt%のNi、13.0-25.0wt%のCr、1.0-10.0wt%のMn、0.05-1.0wt%のSiを含む成分を有し、
Cの含有量は0.5wt%以下(0wt%は除く)で、
PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)に限定され、
Mo、WおよびNb、または、WおよびNb、または、MoおよびNb
からなる要素(Q)が0.1―5.0wt%の量で含まれ、
前記溶接ワイヤは以下の関係式2を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤ。
[関係式2]
{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【請求項2】
LNGタンクを製造するための溶着金属であって、
該溶着金属は、8.0-14.0wt%のNi、15.0-23.0wt%のCr、1.0-8.0wt%のMn、0.05-1.0wt%のSiを含む成分を有する溶接ワイヤから形成され、
CとNの合計含有量は0.01-0.2wt%の範囲で、
PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)の範囲に限定され、
Mo、WおよびNb、または、WおよびNb、または、MoおよびNb
からなる要素(Q)が0.1―4.0wt%の量で、
前記溶接ワイヤが、以下の関係式2を満足する、
溶着金属。
[関係式2]
{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【請求項3】
前記溶接ワイヤは、サブマージアーク溶接(SAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)、イナートガス金属アーク溶接(MIG)およびイナートガスタングステンアーク溶接(TIG)の何れか1つに適用できる、
請求項1に記載のステンレス鋼溶接ワイヤ。
【請求項4】
前記溶着金属を形成する前記溶接ワイヤは、サブマージアーク溶接(SAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)、イナートガス金属アーク溶接(MIG)およびイナートガスタングステンアーク溶接(TIG)の何れか1つに適用できる、
請求項2に記載の溶着金属。
【請求項5】
前記溶接ワイヤは、4.0wt%以下(0wt%は除く)のMo
を含み、前記溶接ワイヤは、以下の関係式1を満足する、
請求項1に記載のステンレス鋼溶接ワイヤ。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【請求項6】
前記溶着金属を形成する前記溶接ワイヤは、4.0wt%以下(0wt%は除く)のMo
を含み、前記溶接ワイヤは、以下の関係式1を満足する、
請求項2に記載の溶着金属。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNGタンク製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤに関し、より詳細には、ワイヤから優れた強度と極低温衝撃靭性を有する溶接金属が得られることが可能なように、Ni、Mn、CrおよびMoの含有量を調整できる、LNGタンク製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
―164℃の沸点を有する液化天然ガス(LNG)、-183℃の沸点を有する液体酸素、-196℃の沸点を有する液体窒素などの液化ガスは、極低温貯蔵が必要である。よって、これらのガスを貯蔵するためには、極低温で十分な靭性と強度を有する材料で製造された圧力容器などの構造が必要である。
【0003】
液化ガス環境での低温度で使用可能な材料として、Cr-Ni基ステンレス合金、9%Ni鋼、5000系アルミニウム合金が一般的に用いられてきた。しかし、アルミニウム合金を用いる場合では、合金コストが高い、低強度のために構造の設計厚が大きくなる、低い溶接性のために仕様が限定されるという問題があった。Cr-Ni基ステンレス鋼および9%Ni鋼は、アルミニウムの低強度の問題を克服するが、過剰なニッケルが含まれなければならないので製造コストの上昇のために適用には問題があった。
【0004】
さらに、液化ガスに用いられるステンレス鋼のもう一つの技術として、ニッケルを全く用いない、いわゆるニッケル無し(Niフリー)高マグネシウム鋼が用いられてきた。しかし、このような技術は、コストが上昇し、熱処理サイクル数の増加のために熱処理設備への負荷が上昇するという問題を有している。したがって、韓国特許第10-135843号で開示されるように、フェライトの代わりに主体組織としてオーステナイトを用いることにより極低温靭性を確保する技術が開発された。
【0005】
そのような構造鋼を溶接するのに用いられる従来のワイヤは、溶接後の構造の強度および衝撃抵抗値を満足するために、構造用鋼の物理的性質に従って、9%Ni鋼またはステンレス合金または高マグネシウム鋼に選択的に適用されるように開発されてきた。しかし、構造用鋼の材質により用途が限定されると、作業プロセスに混乱が生じ、経済的観点で不利益がある。したがって、構造用鋼部材の材質による制限なしに溶接でき、溶接部に優れた極低温靭性も提供する溶接材を開発することにはニーズがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の過大を解決するために、本発明は、LNGタンクに要求される適切な物理的性質を有する、LNGタンク製造で用いられるステンレス鋼溶接ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、6.0-15.0wt%のNi、13.0-25.0wt%のCr、1.0-10.0wt%のMn、5.0wt%以下(0wt%は除く)のMo、0.05-1.0wt%のSiを含み、Cの含有量は0.5wt%以下(0wt%は除く)で、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)で、残部がFeと不可避的不純物を含むステンレス鋼溶接ワイヤであって、LNGタンク製造で用いられるステンレス鋼溶接ワイヤは、以下の関係式1を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤ
を提供する。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0008】
さらに、6.0-15.0wt%のNi、13.0-25.0wt%のCr、1.0-10.0wt%のMnおよび、0.05-1.0wt%のSiを含み、Cの含有量は0.5wt%以下(0wt%は除く)で、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)に限定され、Mo、WおよびNbから成るグループから選択された少なくとも1つの要素(Q)が0.1―5.0wt%の量で含まれ、残部がFeと不可避的不純物を含む成分を有するステンレス鋼溶接ワイヤであって、LNGタンクの製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤは以下の関係式2を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤが提供される。
[関係式2]
{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0009】
さらに、溶着金属が、8.0-14.0wt%のNi、15.0-23.0wt%のCr、1.0-8.0wt%のMn、4.0wt%以下(0wt%は除く)のMo、0.05-1.0wt%のSiを含み、CとNの合計含有量は0.01-0.2wt%に限定され、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)に限定され、残部がFeと不可避的不純物とを含む溶着金属が得られる、ステンレス鋼溶接ワイヤであって、LNGタンクの製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤは以下の関係式1を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤが提供される。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0010】
さらに、溶着金属が、8.0-14.0wt%のNi、15.0-23.0wt%のCr、1.0-8.0wt%のMn、0.05-1.0wt%のSiを含み、CとNの合計含有量は0.01-0.2wt%に限定され、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)に限定され、Mo、WおよびNbから成るグループから選択された少なくとも1つの要素(Q)が0.1―4.0wt%の量で含まれ、残部がFeと不可避的不純物とを含む溶着金属が得られる、ステンレス鋼溶接ワイヤであって、LNGタンクの製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤは以下の関係式2を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤが提供される。
[関係式2]
{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【発明の効果】
【0011】
本開示によるLNGタンク製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤは、MoとCrの含有率を制御することで9%ニッケル鋼部材、高マンガン鋼部材、およびステンレス鋼部材の溶接に用いることが可能である。ステンレス鋼溶接ワイヤは、溶接部に優れた極低温靭性を有する溶接金属を得るという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本明細書では、用語「溶接金属」は、溶接中に溶着金属と母材の溶融混合物の固化の結果として生ずる金属を指す。
【0014】
本明細書では、用語「溶着金属」は、溶接中に溶接金属領域に加えられる金属材料である、溶加材(すなわちワイヤ)から移動した金属を指す。
【0015】
本発明の一態様によれば、LNGタンク製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤが提供され、フラックス入りワイヤはフラックスが埋め込まれたシースを有し、溶接ワイヤは、全重量に関して所定の重量パーセントのMn、Mo、CrおよびNiを含む成分を有する。
【0016】
より詳細には、溶接ワイヤ成分は、6.0-15.0wt%のNi、13.0-25.0wt%のCr、1.0-10.0wt%のMn、5.0wt%以下(0wt%は除く)のMo、0.05-1.0wt%のSiを含み、Cの含有量は0.5wt%以下(0wt%は除く)、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)に限定され、残部がFeと不可避的不純物で、LNGタンク製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤであって、以下の関係式1を満足する、ステンレス鋼溶接ワイヤが提供される。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0017】
Ni:6.0-15.0wt%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト構造を安定化させる化学成分である。ニッケルのの含有量が6.0wt%より少ないと、オーステナイト構造が不安定となるので好ましくない。ニッケルの含有量が15.0wt%より多いと、耐高温割れ性が低下するので好ましくない。したがって、ニッケルの含有量は、6.0-15.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0018】
Cr:13.0-25.0wt%
クロム(Cr)は、溶接金属の強度を向上し、オーステナイト構造を安定化させる化学成分である。クロムの含有量が13.0wt%より少ないと、充分な強度が得られないので好ましくない。クロムの含有量が25.0wt%より多いと、溶接金属の低温衝撃靭性が低下するので好ましくない。したがって、クロムの含有量は、13.0-25.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0019】
Mn:1.0-10.0wt%
マンガン(Mn)は、オーステナイト構造を安定化させ、脱酸作用と溶接性を向上する化学成分である。マンガンの含有量が1.0wt%より少ないと、充分な脱酸効果が得られないので好ましくない。マンガンの含有量が10.0wt%より多いと、最終固化領域で溶接金属の偏析が加速し、よって、溶融金属の融点を低下させ、耐高温割れ性を低下する。したがって、マンガンの含有量は、1.0-10.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0020】
Mo:5.0wt%以下(0wt%は除く)
モリブデン(Mo)は、溶接金属の強度を向上する効果を有する。Mo含有量が少ないと、充分な強度が得られないので、好ましくない。Mo含有量が5.0wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下し、Moの偏析が加速し、結果として耐高温割れ性が低下するので、好ましくない。したがって、Moの含有量は、5.0wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0021】
Si:0.05-1.0wt%
シリコン(Si)は、脱酸作用と溶接性を向上する化学成分である。Siの含有量が0.05wt%より少ないと、脱酸効果が不充分となる。Siの含有量が1.0wt%より多いと、ラーベス相の生成により割れ感受性が増大するので好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.05-1.0wt%に限定されるのが好ましい。
【0022】
C:0.5wt%以下(0wt%は除く)
炭素(C)は、溶接金属の強度を向上する効果を有するが、過度に添加されると、炭化物が形成され、靭性が低下するという問題がある。したがって、Cの含有量は、ワイヤの全重量に基づいて0.5wt%以下に設定される。より詳細には、溶接金属の靭性の低下を防止するためにCの含有量は0.1wt%以下に設定されてもよい。
【0023】
P+S:0.1wt%以下(0wt%は除く)
リン(P)と硫黄(S)は、主に高温割れに影響する要素である。PとSは、低融点の化合物を形成し、それにより高温割れを生じ得る。本発明の場合には、PとSの合計含有量は0.1wt%未満であるのが好ましい。
【0024】
残部はFeとと不可避的不純物であってよい。さらに、銅(Cu)が0.5wt%以下(0wt%を除く)の量で含まれてもよい。銅(Cu)は、析出硬化要素であり、Cuの含有量は0.5wt%以下に限定されるのが好ましい。Cuの含有量が0.5wt%より大きくなるのは、硬化性が増加し、よって低温衝撃靭性が低下するので、好ましくはない。窒素(N)が0.2wt%以下の量でさらに含まれてもよい。Nは固溶強化要素であり、Nの含有量を0.2wt%以下に限定するのが好ましい。Nの含有量が0.2wt%より大きいと、低温衝撃靭性が低下し、全オーステナイト構造が生じ、それは耐高温割れ性とポロシティ抵抗(porosity resistance)が低下するので好ましくはない。
【0025】
本発明の溶接ワイヤでは、溶接領域に要求される物理的性質を得るためにMn、CrおよびMoの含有量の関係が調整される。調整は、関係式1で定義される値が1を超えるようになされるのが好ましい。その値が1以下であると、強度と極低温靭性(すなわち、衝撃に関連する値)を確保するのが難しく、溶接金属領域の品質の低下という結果になる。
【0026】
さらに、本発明は、LNGタンク製造用のステンレス鋼溶接ワイヤであって、8.0-15.0wt%のNi、13.0-25.0wt%のCr、1.0-10.0wt%のMn、0.05-1.0wt%のSiを含み、Cの含有量は0.5wt%以下(0wt%は除く)、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)の範囲に限定されMo、WおよびNbからなるグループから選択された少なくとも1つの要素(Q)が0.1―5.0wt%の量で含まれ、残部がFeと不可避的不純物で、溶接ワイヤは、関係式2を満足する。
[関係式2]
{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0027】
具体的には、組成の各成分の含有範囲は上に説明した通りである。
【0028】
Mo、WおよびNbは、溶接金属の強度を向上する効果を有し、それらの少なくとも1つが選択的に含まれてもよい。Mo、WおよびNbからなるグループから選択された少なくとも1つの要素の含有量が0.1wt%より少ないと、充分な強度が得られず、好ましくない。Mo、WおよびNbからなるグループから選択された少なくとも1つの要素の含有量が5.0wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下し、耐高温割れ性が低下し、好ましくない。したがって、それらの含有量は0.1―5.0wt%に限定されるのが好ましい。関係式2において、Qは、Mo、[Mo+W]、[Mo+Nb][Mo+W+Nb]、W、Nb、[W+Nb]のいずれかであってよい。より詳細には、関係式2は、1.5>{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1であってもよい。関係式2の値が1.5以上または1以下であると、強度と極低温靭性(すなわち、衝撃に関係した値)を確保するのが難しく、溶接金属領域の品質が低下する。
【0029】
具体的に、本発明のステンレス鋼溶接ワイヤは、2.0wt%以下の量のWを追加で、またはMoの代わりにWを含んでもよい。タングステン(W)はMoと同じ効果を有する。すなわち、WとMoは溶接金属の強度を向上する。Wの含有量が2.0wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下することがある。したがって、Wの含有量は2.0wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0030】
さらに、本発明のステンレス鋼溶接ワイヤは、Moの代わりに、1.5wt%以下の量のNbを追加で、またはMoの代わりにNbを含んでもよい。ニオブ(Nb)はMoと同じ効果を有する。すなわち、NiとMoは溶接金属の強度を向上する。Nbの含有量が1.5wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下することがある。したがって、Nbの含有量は1.5wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0031】
本発明の別の態様によれば、LNGタンクの製造に用いられるステンレス鋼溶接ワイヤが提供され、溶接ワイヤから得られる溶着金属は、8.0-14.0wt%のNi、15.0-23.0wt%のCr、1.0-8.0wt%のMn、4.0wt%以下(0wt%は除く)のMo、0.05-1.0wt%のSiを含み、CとNの合計含有量は0.01-0.2wt%で、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)の範囲に限定され、残部がFeと不可避的不純物で、溶接ワイヤは[関係式1]を満足する。
[関係式1]
{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1
【0032】
溶接ワイヤの合金組成に応じて、得られた溶着金属の性質が変化する。例えば、合金組成に応じて、LNGタンクの製造に要求される性質が得られるかが判断される。本発明による溶接ワイヤを用いることで、優れた強度、靭性および衝撃値を有する溶着金属を得ることが可能になる。
【0033】
ニッケル(Ni)は、オーステナイト構造を安定化させる化学成分である。ニッケルの含有量が8.0wt%より少ないと、オーステナイト構造が不安定となるので好ましくない。ニッケルの含有量が14.0wt%より多いと、耐高温割れ性が低下するので好ましくない。したがって、ニッケルの含有量は、8.0-15.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0034】
クロム(Cr)は、溶接金属の強度を向上し、オーステナイト構造を安定化させる化学成分である。クロムの含有量が15.0wt%より少ないと、充分な強度が得られないので好ましくない。クロムの含有量が23.0wt%より多いと、溶接金属の低温衝撃靭性が低下するので好ましくない。したがって、クロムの含有量は、15.0-23.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0035】
マンガン(Mn)は、オーステナイト構造を安定化させ、脱酸作用と溶接性を向上する化学成分である。マンガンの含有量が1.0wt%より少ないと、充分な脱酸効果が得られないので好ましくない。マンガンの含有量が8.0wt%より多いと、最終固化領域で溶接金属の偏析が加速し、よって、耐高温割れ性を低下する。したがって、マンガンの含有量は、1.0-8.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0036】
モリブデン(Mo)は、溶接金属の強度を向上する効果を有する。Mo含有量が少ないと、充分な強度が得られないので、好ましくない。Mo含有量が4.0wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下し、偏析が加速し、よって、耐高温割れ性を低下する。したがって、Moの含有量は、4.0wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0037】
Siの含有量が0.05wt%より少ないと、脱酸効果が不充分となる。Siの含有量が1.0wt%より多いと、ラーベス相の生成により割れ感受性が増大するので好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.05-1.0wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0038】
炭素(C)は、溶接金属の強度を向上する効果を有するが、過度に添加されると、炭化物が形成され、靭性が低下するという問題がある。Nは、固溶強化要素であり、過度に添加されると、低温衝撃靭性が低下し、完全オーステナイト構造が生じ、それは耐高温割れ性とポロシティ抵抗が低下するので好ましくない。したがって、CとNの合計含有量は、0.01-0.5wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0039】
リン(P)と硫黄(S)は、主に高温割れに影響する要素である。PとSは、低融点の化合物を形成し、それにより高温割れを生じ得る。本発明の場合には、PとSの合計含有量は0.1wt%未満であるのが好ましい。
【0040】
残部は、Feと不可避的不純物であってもよい。さらに0.5wt%以下(0wt%を除く)の量で銅(Cu)が含まれてもよい。銅(Cu)は、析出硬化要素であり、Cuの含有量は0.5wt%以下に限定されるのが好ましい。0.5wt%より多いCuの含有量は、焼入れ性が増大し、よって低温衝撃靭性が減少するので、好ましくない。窒素(N)が、0.2wt%以下の量でさらに含まれてもよい。Nは固溶強化要素であり、Nの含有量を0.2wt%以下に限定するのが好ましい。Nの含有量が0.2wt%より大きいと、低温衝撃靭性が低下し、全オーステナイト構造が生じ、それは耐高温割れ性とポロシティ抵抗(porosity resistance)が低下するので好ましくはない。
【0041】
一方、本発明のステンレス鋼溶接ワイヤと、そのワイヤから得られた溶着金属に関連して、各成分の含有量は、[関係式1]を満足するようにコントロールされることが好ましい。
【0042】
[関係式1]は、{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1である。関係式1で定義される値が1より大きくなるようにコントロールが実行されるのが好ましい。その値が1以下であると、強度と極低温靭性(すなわち、衝撃に関係する値)を確保するのが難しく、溶接金属領域の品質の低下という結果になる。特に、{Cr+Mo}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1が満足されるとき、溶接ワイヤから得られる溶着金属は、400MPa以上の降伏点、640MPa以上の引張強さ、30%以上の伸びを有する。さらにシャルピ衝撃試験は、溶着金属は、―196℃で27J以上の衝撃値を示すことを示す。
【0043】
さら本発明は、LNGタンクの製造で用いられるステンレス鋼溶接ワイヤを提供し、その溶接ワイヤから得られる溶着金属は、8.0-14.0wt%のNi、15.0-23.0wt%のCr、1.0-8.0wt%のMn、0.05-1.0wt%のSiを含む化学成分を有し、CとNの合計含有量は0.01-0.2wt%の範囲で、PとSの合計含有量は0.1wt%以下(0wt%は除く)の範囲に限定され、Mo、WおよびNbから成るグループから選定された少なくとも1要素(Q)が0.1-4.0wt%の量で含まれ、残部がFeと不可避的不純物で、溶着金属の成分は、[関係式2]を満足する。[関係式2]は、{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1である。
【0044】
具体的に組成物の各成分の含有範囲は上記に説明した通りである。
【0045】
組成物がさらにWまたはNbを含む場合、または、MoがWまたはNbに置き換えられる場合には、発明のステンレス鋼溶接ワイヤまたはそのワイヤから得られる溶着金属は、以下に示す関係式2を満足することが好ましい。関係式2では、Qは、Mo、[Mo+W]、[Mo+Nb]、[Mo+W+Nb]、W、Nbおよび[W+Nb]の何れか1つでよい。より厳密には、関係式2は、1.5>{Cr+Q}/{Ni+Mn+30(C+N)}>1であってもよい。関係式2の値が1.5以上であるか1以下であると、強度と極低温靭性(すなわち、衝撃に関係する値)を確保するのが難しく、溶接金属領域の品質の低下という結果になる。
【0046】
具体的には、本発明のステンレス鋼溶接ワイヤから溶接を通じて得られる溶着金属は、Moの代わりに2.0wt%以下の量でWをさらに含んでもよい。タングステン(W)は、Moと同じ効果を有する。すなわち、WとMoは、溶接金属の強度を改善する。Wの含有量が2.0wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下する。よって、Wの含有量は2.0wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0047】
具体的には、本発明のステンレス鋼溶接ワイヤから溶接を通じて得られる溶着金属は、1.5wt%の量でNbをさらに含んでも、Moの代わりにNbを含んでもよい。ニオブ(Nb)は、Moと同じ効果を有する。すなわち、NbとMoは、溶接金属の強度を改善する。Nbの含有量が1.5wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下する。よって、Nbの含有量は1.5wt%以下の範囲に限定されるのが好ましい。
【0048】
本発明によるステンレス鋼溶接ワイヤでは、ステンレス鋼溶接ワイヤは、フラックス入りアーク溶接(FCAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)、イナートガス金属アーク溶接(MIG)およびイナートガスタングステンアーク溶接(TIG)の何れか1つに適用できる。溶接ワイヤの適用は、溶接方法により限定されない。好ましくは、本発明の溶接ワイヤは、サブマージアーク溶接(SAW)に適用される。
【0049】
本発明によるステンレス鋼溶接ワイヤと関連して、Cr、MoおよびMnの含有量間の関係による溶接金属領域の物理的性質を、以下に示す実施例と比較例を参照して詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの例により限定されることはない。
【0050】
表1に示す化学成分を含む、サブマージアーク溶接(SAW)用のステンレス鋼溶接ワイヤが用意された。
【表1】
【0051】
サブマージドアーク溶接(SAW)を各溶接材料で実施した。SAWの場合、溶接は、10.0-18.0kJ/cmの入熱で実施された。直径2.4mmのワイヤがSAWに用いられた。LNGタンクを製造する母材の1つである、板厚20mmの9%Ni鋼板のベベル面に関してベベル角が30°となるようにベベルが形成された。次に、ルート間隔が3mmとなるように母材を並べ、溶接継手を形成するのに溝の狭い部分(ルート部分)でFCAW溶接と同じタイプを用いて、ワンパス溶接で溶接継手が形成された。溶接継手のアーク安定性、スラグの剥離性、溶接継手の亀裂抵抗、および、ビードの外観(孔の存在または不存在)のために目視検査がなされた。検査結果は、次の4段階に分類された。◎:優、O:良、△:可、X:不可。結果を下記表2に示す。
【表2】
【0052】
表2を参照すると、関係式1を満足しない11番の場合には、アーク安定性とビード外観が満足できるものでなかったことが分かった。さらに、関係式2を満足しない12、14および16番の場合には、亀裂の割合が高いことが分かった。番号20と27の場合にMnの含有量に応じて亀裂が生じたことが分かった。次に、溶接継手の降伏点(YS)、引張強さ(TS)、延び(EL)およびシャルピ衝撃エネルギ(―196℃における)が計測された。得られた結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0053】
表3を参照すると、降伏点、引張強さおよび特に衝撃値は、関係式1を満足しない番号12-20の場合に低いことが分かった。反対に、本発明の成分範囲を満足するように準備された番号1―10の場合に、400MPa以上の降伏点、650MPa以上の引張強さ、38%以上の延び、および35J以上の衝撃値を確保できた。
【0054】
さらに、Mo、WまたはNbの含有量について関係式2により、表4に示す化学成分を有するステンレス鋼溶接ワイヤを用意した。溶接をした後の溶接継手の性質の評価結果を以下の表5に示す。
【表4】
【表5】
【0055】
表4および5を参照すると、WまたはNbが追加で添加またはMoの代わりに添加され、MnとWもしくはNbとの間の関係式の値が本発明の成分範囲外の25-28の範囲であると、低温衝撃値が低いことが分かった。さらに、値が29-35の範囲で関係式2を満足しない場合に、衝撃値がやはり低いことも確認された。したがって、WとNbを追加で成分としてまたはMoの代わりに添加するとき、化学成分の含有比率が関係式2に従って調整されることが好ましいことが分かる。
【0056】
本発明によるステンレス鋼溶接ワイヤは、マンガンの含有量を10wt%以下の範囲に限定しながらMoとCrの含有量が適切にコントロールされるので、ステンレス鋼溶接ワイヤから優れた強度と極低温衝撃靭性とを有する溶接金属を得られるという特徴を有する。本発明によるステンレス鋼溶接ワイヤは、9%ニッケル鋼、高マンガン鋼およびステンレス鋼の溶接に適用可能で、溶接領域で優れた極低温靭性を有する溶接金属を得られるという有利な効果を有する。
【0057】
上記では、添付の請求項がより良く理解されるように、本発明の特徴と技術的利点を広く説明した。この技術分野の当業者は、本発明が、技術的思想または例示の実施形態の基本的特徴から逸脱することなく他の異なった形で実施できることを理解されよう。よって、上記に説明した例は説明の目的だけのためであり、全ての点で限定されるものではないことが理解できるであろう。本発明の範囲は、上記の詳細な説明ではなく、以下の特許請求の範囲により画定され、特許請求の範囲の意味と範囲から導かれる全ての変更または修正、および、その均等な概念は本発明の範囲内であると解されるべきである。