(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】帯域パラメトリック増幅器、増幅回路
(51)【国際特許分類】
H03F 7/00 20060101AFI20241220BHJP
H10N 60/10 20230101ALI20241220BHJP
H03F 19/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H03F7/00
H10N60/10 K
H03F19/00
(21)【出願番号】P 2022538295
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2021050762
(87)【国際公開番号】W WO2021148311
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-06-22
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】アブド、バレーフ
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0074801(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0232653(US,A1)
【文献】特表2014-523705(JP,A)
【文献】特開平06-037519(JP,A)
【文献】Hamid Reza Mohebbi 他,Superconducting Coplanar Interdigital Filter With Robust Packaging,IEEE Transaction on Applied Superconductivity,Vol.25, No.3,2014年12月04日,pp.1-4
【文献】O.Naaman 他,High Saturation Power Josephson Parametric Amplifier with GHz Bandwidth,2019 IEEE MTT-S International Microwave Symposium,2019年07月25日,pp.259-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 7/00
H10N 60/10
H03F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯域パラメトリック増幅器回路であって、
複数のユニット・セルであって、前記ユニット・セルのうちの少なくとも1つが、
中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のインダクタと、
前記中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のコンデンサと、
前記中心導体に結合された第1のノードを有する第2のインダクタと、
前記第2のインダクタの第2のノードに結合された第1のノードを有する第2のコンデンサであって、前記第2のコンデンサおよび前記第2のインダクタが前記中心導体と直列である、前記第2のコンデンサと、
前記中心導体に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサと、
前記第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第3のインダクタと、
前記第3のコンデンサの前記第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサと、
を備え、
前記複数のユニット・セルが、前記帯域パラメトリック増幅器回路を生み出すラダー回路構造の部分であり、複数の数の前記ユニット・セルごとに共振構造を含み、前記複数の数のユニット・セルのそれぞれの中の前記共振構造が、ポンプ駆動と、前記帯域パラメトリック増幅器
回路によって増幅された伝播する帯域内マイクロ波信号との間の位相整合を実現する、前記複数のユニット・セルと
を備える帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項2】
前記第1および第2のインダクタが非線形である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項3】
前記ラダー回路構造内のユニット・セル数が奇数である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項4】
前記複数の数が3から9である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項5】
前記複数の数のユニット・セルのそれぞれの中の前記共振構造が、前記帯域パラメトリック増幅器
回路の利得曲線内の阻止帯域を定義する、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項6】
前記帯域パラメトリック増幅器回路の共振回路の特性インピーダンスが50オーム超である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項7】
前記帯域パラメトリック増幅器回路がサーキュレータ回路の部分である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項8】
前記第1および第2のインダクタのそれぞれが、ジョセフソン接合のアレイを備える、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項9】
各ジョセフソン接合がアルミニウム(Al)またはニオビウム(Nb)超伝導電極を備える、請求項8に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項10】
前記第1および第2のコンデンサのそれぞれが、低損失誘電体基板上でコプレーナ導波路幾何形状で構築される、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項11】
前記帯域パラメトリック増幅器回路が方向性増幅器である、請求項1に記載の帯域パラメトリック増幅器回路。
【請求項12】
コンピュータによって帯域パラメトリック増幅を行う方法であって、前記方法が、
複数のユニット・セルを設けることと、
前記ユニット・セルのうちの少なくとも1つについて、
中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のインダクタを設けることと、
前記中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のコンデンサを設けることと、
前記中心導体に結合された第1のノードを有する第2のインダクタを設けることと、
前記第2のインダクタの第2のノードに結合された第1のノードを有する第2のコンデンサを設けることであって、
前記第2のコンデンサおよび前記第2のインダクタが前記中心導体と直列である、前記設けることと、
前記中心導体に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサを設けることと、
前記第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第3のインダクタを設けることと、
前記第3のコンデンサの前記第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサを設けることと
を含み、
前記複数のユニット・セルが、さらに帯域パラメトリック増幅器を生み出すラダー回路構造の部分であり、複数の数の前記ユニット・セルごとに共振構造を含み、前記複数の数のユニット・セルのそれぞれの中の前記共振構造が、ポンプ駆動と、前記帯域パラメトリック増幅器によって増幅された伝播する帯域内マイクロ波信号との間の位相整合を実現することと
を含む方法。
【請求項13】
前記第1および第2のインダクタが非線形である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ラダー回路構造内のユニット・セル数が奇数である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の数のユニット・セルで実現される前記共振構造によって利得曲線内の阻止帯域を定義することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に超伝導デバイスに関し、より詳細には、量子ビット読出しのために使用される増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子コンピューティングは、超伝導電子回路での量子コンピュータの実装である。量子計算は、情報処理および通信のための量子現象の応用を研究する。量子計算の様々なモデルが存在し、最も一般的なモデルは、量子ビットおよび量子ゲートの概念を含む。量子ビットは、2つの可能な状態を有するビットの一般化であるが、両方の状態の量子重ね合せ(quantum superposition)の状態であり得る。量子ゲートは、論理ゲートの一般化であるが、量子ゲートは、量子ビットの初期状態を仮定して、ゲートが量子ビットに適用された後に1つまたは複数の量子ビットが受けることになる変換を記述する。
【0003】
量子ビットに関連する電磁エネルギーが、いわゆるジョセフソン接合内と、量子ビットを形成するために使用される容量性素子および誘導素子内に貯蔵され得る。一例として、量子ビット状態を読み出すために、空洞周波数で量子ビットに結合するマイクロ波読出し空洞(microwave readout cavity)にマイクロ波信号が印加される。送信(または反射)されたマイクロ波信号が、雑音を遮断または低減し、信号対雑音比を改善するために使用される複数の熱分離ステージおよび低雑音増幅器を通る。戻り/出力マイクロ波信号の振幅または位相あるいはその両方が、量子ビットがグランド状態にあるか、それとも励起状態にあるか、それとも2つの状態の重ね合せの状態にあるかなどの、量子ビット状態についての情報を搬送する。量子ビット状態についての量子情報を搬送するマイクロ波信号は通常は弱い(たとえば、数マイクロ波光子程度)。この弱い信号を測定するために、低雑音ジョセフソン増幅器が、量子信号をブーストし、出力チェーンの信号対雑音比を改善するために、量子システムの出力での前置増幅器(すなわち、第1の増幅ステージ)として使用され得る。ジョセフソン増幅器に加えて、ジョセフソン・サーキュレータ、ジョセフソン・アイソレータ、ジョセフソン・ミキサなどの、ジョセフソン増幅器またはジョセフソン・ミキサを使用するいくつかのジョセフソン・マイクロ波構成要素が、スケーラブル量子プロセッサで使用され得る。
【0004】
1つのタイプのジョセフソン増幅器は、分散素子ジョセフソン・ベース・パラメトリック増幅器(distributed-element Josephson-based parametric amplifier)であるジョセフソン進行波パラメトリック増幅器(JTWPA)である。デバイスは非線型伝送線路によって形成され、その中心導体は、集中素子コンデンサで周期的にグランドに分流される(shunt)ジョセフソン接合の大規模アレイを備える。デバイスは共振構造ではないので、JTWPAでの増幅帯は通常は広い(たとえば、3から5GHz)。そのような増幅範囲は、7GHz周辺を中心とし得る量子ビット読出しには広過ぎることがある。既知のJTWPAは、通過する、量子ビット・パルスなどの量子ビット読出し中の無関係の信号を増幅し得、それによって不安定性が生じ得る。さらに、既知のJTWPAは、広帯域にわたって量子雑音を増幅する。さらに、既知のJTWPAの広い増幅帯は、インピーダンス不整合に非常に敏感であり、インピーダンス不整合は、複数の反射を引き起こし、その利得曲線内のリップルを引き起こす。JTWPAの入力および出力ポートでのインピーダンス不整合の影響を最小限に抑えるために、磁気ベースのアイソレータなどの、50オーム整合される広帯域デバイスが、しばしばJTWPAの入力および出力に追加される。JTWPAの入力および出力でのこうした広帯域磁気ベースのデバイスの追加により、JTWPAと量子プロセッサの動作にとって顕著な他のマイクロ波デバイスとの間の積分可能性が限定される。こうした問題およびその他に関連して、本願は書かれた。
【発明の概要】
【0005】
様々な実施形態によれば、帯域パラメトリック増幅器回路および方法が提供される。帯域パラメトリック増幅器回路は複数のユニット・セルを含む。少なくとも1つのユニット・セルは、中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のインダクタを含む。中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のコンデンサがある。中心導体に結合された第1のノードを有する第2のインダクタがある。第2のコンデンサが、第2のインダクタの第2のノードに結合された第1のノードを有する。第2のコンデンサおよび第2のインダクタは中心導体と直列である。
【0006】
一実施形態では、第1および第2のインダクタは非線形である。
【0007】
一実施形態では、複数のユニット・セルは、帯域パラメトリック増幅器回路を生み出すラダー回路構造(ladder circuit structure)の部分である。ラダー回路構造内のユニット・セル数は奇数であり得る。複数の数のユニット・セルごとに、中心導体に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサと、第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第3のインダクタと、第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサとを含む共振構造をさらに含み得る。一実施形態では、複数の数は3から9である。
【0008】
一実施形態では、複数の数のユニット・セルのそれぞれの中の共振構造は、帯域パラメトリック増幅器の利得曲線内の阻止帯域を定義する。
【0009】
一実施形態では、複数の数のユニット・セルのそれぞれの中の共振構造は、ポンプ駆動と、帯域パラメトリック増幅器によって増幅された伝播する帯域内マイクロ波信号(in-band microwave signal)との間の位相整合を実現する。
【0010】
一実施形態では、中心導体に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサがある。第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第3のインダクタがある。第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサがある。
【0011】
一実施形態では、帯域フィルタの特性インピーダンスが50オーム超である。
【0012】
一実施形態では、帯域パラメトリック増幅器はサーキュレータ回路の部分である。
【0013】
一実施形態では、第1および第2のインダクタのそれぞれは、ジョセフソン接合のアレイを備える。
【0014】
一実施形態では、各ジョセフソン接合はアルミニウム(Al)またはニオビウム(Nb)超伝導電極を備える。
【0015】
一実施形態では、第1および第2のコンデンサのそれぞれが、低損失誘電体基板上でコプレーナ導波路幾何形状(coplanar waveguide geometry)で構築される。
【0016】
一実施形態では、帯域パラメトリック増幅器内の集中素子コンデンサは、低損失誘電体材料を使用する平板コンデンサである。
【0017】
一実施形態では、帯域パラメトリック増幅器は方向性増幅器(directional amplifier)である。
【0018】
一実施形態によれば、ジョセフソン・ベース方向性パラメトリック増幅器が、伝送線路に沿って配置された複数の非線型分散帯域フィルタと、ポンプ駆動のための周期的共振構造装荷(periodic resonant structure loading)を実装する線形素子とを含む。
【0019】
一実施形態では、各非線型分散帯域フィルタは、中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のインダクタを含む。中心導体に結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第1のコンデンサがある。中心導体に結合された第1のノードを有する第2のコンデンサがある。第2のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードを有する第2のインダクタがある。第2のコンデンサおよび第2のインダクタは中心導体と直列である。
【0020】
一実施形態では、各周期的共振構造は、中心導体に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサと、第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第3のインダクタとを含む。第3のコンデンサの第2のノードに結合された第1のノードと、グランドに結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサがある。
【0021】
一実施形態では、集中素子帯域フィルタの非線型ユニット・セルの3から9個ごとに、周期的共振構造が追加される。
【0022】
これらおよび他の特徴が、添付の図面と共に読まれるべきである、その例示的実施形態の以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0023】
図面は例示的実施形態のものである。図面はすべての実施形態を示すわけではない。追加または代替として、他の実施形態が使用され得る。明らかであり、または不要であり得る詳細は、スペースを節約するために、またはより効果的な図示のために省略され得る。いくつかの実施形態は、追加の構成要素もしくはステップと共に、および/または図示されるすべての構成要素もしくはステップを用いずに実施され得る。同一の番号が異なる図面で現れるとき、同一の番号は、同一または同様の構成要素またはステップを指す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】例示的実施形態に適合する、帯域ジョセフソン進行波パラメトリック増幅器システムのブロック図である。
【
図3】例示的実施形態に適合する、
図2の帯域ジョセフソン・ベース方向性パラメトリック増幅器ブロックを実装するために使用される非線型分散フィルタリング媒体(nonlinear dispersive filtering medium)の例示的回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
概要
以下の詳細な説明では、関連する教示の完全な理解を与えるために、多数の特定の詳細が例として述べられる。しかしながら、本教示がそのような詳細なしに実施されることは明らかなはずである。他の例では、本教示の態様を不必要に曖昧にすることを避けるため、周知の方法、手順、構成要素、または回路、あるいはその組合せが、比較的高いレベルで詳細なしに説明されている。
【0026】
本開示は一般には超伝導デバイスに関し、より詳細には、効率的な量子ビットの複数の読出しに関する。量子ビットに関連する電磁エネルギーが、いわゆるジョセフソン接合内と、量子ビットを形成するために使用される容量性および誘導性素子内に貯蔵され得る。一例として、量子ビット状態を読み出すために、空洞周波数で量子ビットに結合するマイクロ波読出し空洞にマイクロ波信号が印加される。送信(または反射)されたマイクロ波信号が、雑音を遮断または低減し、信号対雑音比を改善するために使用される複数の熱分離ステージおよび低雑音増幅器を通る。戻り/出力マイクロ波信号の振幅または位相あるいはその両方が、量子ビットがグランド状態にあるか、それとも励起状態にあるか、それとも2つの状態の重ね合せの状態にあるかなどの、量子ビット状態についての情報を搬送する。量子ビット状態についての量子情報を搬送するマイクロ波信号は通常は弱い(たとえば、数マイクロ波光子程度)。
【0027】
量子ビット状態の読出しは通常、分散素子ジョセフソン・ベース・パラメトリック増幅器であるJTWPAによって促進される。デバイスは非線型伝送線路によって形成され、その中心導体は、集中素子コンデンサで周期的にグランドに分流されるジョセフソン接合のアレイを備える。その周波数が所望の増幅帯域の中心近くにあり、その伝播方向が、入力弱マイクロ波信号の伝播方向と一致する、ポンプと呼ばれることがある強いマイクロ波駆動を注入することによって、デバイス内を進む弱マイクロ波信号の方向性増幅が達成される。
【0028】
非線型カー媒体(nonlinear Kerr medium)(すなわち、ジョセフソン接合アレイ)を強いコヒーレント・マイクロ波駆動でポンピングすることによって4波混合プロセスが引き起こされ、その結果、伝播する弱マイクロ波信号のパラメトリック増幅が得られる。言い換えれば、分散非線型媒体は、伝播する強い駆動とのコヒーレント・エネルギー交換を介して弱マイクロ波信号の増幅を可能にする。
【0029】
ポンプ駆動と、分散非線型媒体内を伝播する離調弱マイクロ波信号との位相整合を保証するために、中心導体が、ポンプ周波数付近で共振する共振構造によって数ユニット・セルごとに容量性装荷される。この共振装荷は構造内にバンドギャップを生み出し、それによって位相整合が促進される。
【0030】
図1は既知のJTWPA回路100を示す。JTWPA回路は、入力110と出力112との間に結合された非線型集中素子伝送線路102として実装される。JTWPAのユニット・セル120は、臨界電流I
0および真性キャパシタンスC
Jを含み、グランドCへの容量性分流を有するジョセフソン接合を含む。たとえば、ジョセフソン接合とグランドCへの分路コンデンサとを含む3つごとのユニット・セルは、キャパシタンスC
rおよびインダクタンスL
tで指定され、結合コンデンサC
cによって設定される結合強度を有する集中素子共振器をも含む。
【0031】
図1のJTWPA102は、著しい挿入損を受け得る(たとえば、4dB以上)。この損失は主に、デバイスの部分である平板コンデンサの誘電体損失から生じる。前述のように、進行波増幅器の分散する性質と、弱い信号についての共振構造の欠如のために、JTWPA102の増幅帯域幅は広くなり得る(たとえば、3から5GHz)。したがって、広い増幅帯域幅のために、JTWPA102は、望ましくない帯域内、たとえば量子ビット周波数の量子雑音を増幅する。全体の帯域内の増幅された雑音の一部は、出力線でのインピーダンス不整合のために量子システムに再び伝播し得る。
【0032】
JTWPA102の別の欠点は、JTWPA102内部、または入力ポート110もしくは出力ポート112での小さいインピーダンス不整合が複数の反射を引き起こし得、その結果、JTWPA102の利得曲線内のリップルが生じる。さらに、広い帯域幅のために、増幅器と50オーム入力および出力回路との間のインピーダンス整合により、入力110および出力112での広帯域極低温アイソレータ(たとえば、4から12GHz)を使用することが必要となる。広帯域にわたって明確な50オーム環境を提供すると共に、こうしたアイソレータは、JTWPAまたは高電子移動度トランジスタ(HEMT)から戻る雑音から量子システムを保護することに留意されたい。しかしながら、こうしたアイソレータは通常、かさばり、費用がかかり、損失が多く、強い磁場を使用し、強い磁場はJTWPA動作に悪影響を及ぼし得る。さらに、こうしたアイソレータは、チップ上で一体化することが難しく、それによってスケーラビリティが妨げられる。
【0033】
したがって、一態様では、本明細書での教示は、量子ビット読出し周波数(たとえば、7GHz)に近い周波数周辺を中心とする中範囲帯域幅(medium-range bandwidth)(たとえば、500MHz~2000MHz)を有するジョセフソン・ベース方向性パラメトリック増幅器を提供する。上記で論じた非線型伝送線路の代わりに、非線型分散帯域フィルタ・アーキテクチャが実現される。帯域の中心で共振する線形共振器が、非線型分散帯域フィルタ内に容量性装荷される。こうした共振器が数ユニット・セル(たとえば、3から9)ごとに一体化され、ポンプ駆動と伝播する帯域内弱マイクロ波信号(in-band weak microwave signal)との間の位相整合が保証される。
【0034】
一実施形態では、帯域フィルタの挿入損(これは平板コンデンサの誘電体損失のためである)を低減するために、本明細書での教示は2つの方策を採用する。第1に、帯域フィルタが、50オーム超(たとえば、80オーム)の比較的高い特性インピーダンスを有するように構成される。そのような特性インピーダンスの増加により、一般には、増幅器デバイス内のキャパシタンスが減少する。フィルタの特性インピーダンスと入力および出力50オーム環境との間の適切なインピーダンス整合を保証するために、インピーダンス整合回路網がデバイスの入力および出力に追加される(たとえば、断熱テーパー伝送線路(adiabatically tapered transmission line))。
【0035】
第2に、位相整合のために増幅器デバイスに組み込まれる線形共振回路の部分である集中素子キャパシタンスが、高い、すなわち50オームより大きい特性インピーダンスを有する並列LC回路を実現することによって低減される(たとえば、線形共振回路の同一の共振周波数を維持しながら、大きいインダクタンスおよびより小さい分路キャパシタンスを使用して、50オームより高い特性インピーダンスを生み出す)。一例として、そのような高いインダクタンスは、大きい力学インダクタンスを有する、薄くて狭い超伝導体層を使用して達成され得る。
【0036】
本明細書で論じられる帯域パラメトリック増幅器により、方向性増幅器は、非常に小さい追加の雑音を有する弱マイクロ波信号を増幅し得る(すなわち、量子限界付近で動作する)。さらに、方向性増幅器は、量子ビットの高速で高忠実度の量子非破壊(QND)測定を実施するために使用され得る。中範囲帯域幅を有するそのような準量子限界方向性増幅器(near-quantum limited directional amplifier)は様々な利点をもたらす。たとえば、そのような準量子限界方向性増幅器は、広帯域にわたって整合する入力および出力ポート上の50オーム整合環境を有するという要件を大幅に緩和する。厳しい整合環境からのそのような融通性により、帯域パラメトリック増幅器が、サーキュレータ、アイソレータ、受動フィルタなどの、同様の中範囲帯域幅を有するマイクロ波デバイスと適合することが可能となる。さらに、分散結合量子ビットの読出し信号を増幅するとき、帯域パラメトリック増幅器の中範囲帯域幅により、量子ビット読出し信号のみが増幅され、量子ビット信号は増幅されないことが保証される。そのような焦点式の読出し(focused readout)により、(小さいインピーダンス不整合による)量子ビットに対する望ましくないバックアクションが低減され、帯域外の量子ビット・パルスが拒否されるので、デバイスの安定性が向上する。さらに、帯域パラメトリック増幅器の(従来のJTWPAと比べて)狭い帯域幅により、利得曲線内のリップルが低減され、デバイス動作のために必要とされるポンプ電力が削減され得る。
【0037】
例示的ブロック図
図2は、例示的実施形態に適合する、帯域ジョセフソン進行波パラメトリック増幅器システム200のブロック図である。システム200は、外部伝送線路202と210の間に結合された非線型分散フィルタリング媒体(NDFM)206を含む。たとえば、第1の外部伝送線路202は入力であり得、第2の外部伝送線路210は出力であり得る。外部伝送線路202および210はそれぞれ特性インピーダンスZ
0を有し得、Z
0は50オームであり得る。様々な実施形態では、
図2で中間ステージ204および208によって表される、外部伝送線路202および210の間で少なくとも1つの中間ステージがあり得る。一実施形態では、中間ステージは、Z
1とZ
0の間のインピーダンス変換器である。たとえば、帯域ジョセフソン進行波パラメトリック増幅器の中心にある非線型分散フィルタリング媒体の特性インピーダンスが(外部ポートの)Z
0とは異なるZ
1である場合、こうした中間インピーダンス整合回路網/回路は有用である。
【0038】
NDFMの例示的回路実装
次に
図3を参照すると、
図3は、例示的実施形態に適合する、
図2のNDFM260ブロックを実装するために使用される非線型分散フィルタリング媒体(NDFM)300の一例を示す。NDFM300は、集中素子コンデンサおよびインダクタのラダーを備える分散素子方向性増幅器である。NDFM300は、伝送線路に沿って配置された分散非線型帯域フィルタを含む。ポンプ駆動のための周期的共振構造装荷を実装するいくつかの線形素子がある。周期的共振構造の一例が、コンデンサC
c320、インダクタL
r322、およびコンデンサC
r324を備える線形素子によるユニット・セル302に示されている。一実施形態では、周期的共振構造が、非線型フィルタ素子の3から9個ごとに追加され、増幅器の分散特徴と呼ばれることがある、NDFM300の利得曲線内の狭い阻止帯域を定義する。
【0039】
一実施形態では、NDFM300のユニット・セル302は、中心導体330に結合された第1のノードと、(たとえば、NDFM300の構造の外側部分の)グランド340に結合された第2のノードとを有する第1のインダクタ304を含む。第1のインダクタ304に並列の第1のコンデンサ306がある。言い換えれば、第1のコンデンサ306は、中心導体330に結合された第1のノードと、グランド340に結合された第2のノードとを有する。中心導体330に結合された第1のノードを有する第2のコンデンサ308がある。第2のコンデンサ308の第2のノードに結合された第1のノードを有する第2のインダクタ310があり、第2のコンデンサおよび第2のインダクタは中心導体330と直列である。一連のユニット・セル302によってラダー回路が得られ、NDFM300が生み出される。
【0040】
一実施形態では、NDFM300のユニット・セル302は、中心導体330に結合された第1のノードを有する第3のコンデンサ320を備える周期的共振構造をさらに含む。第3のコンデンサ320の第2のノードに結合された第1のノードと、グランド340に結合された第2のノードとを有する第3のインダクタ322がある。第3のコンデンサ320の第2のノードに結合された第1のノードと、グランド340に結合された第2のノードとを有する第4のコンデンサ324がある。前述のように、一実施形態では、非線型フィルタ素子の3から9個ごとに共振構造が反復される。
【0041】
いくつかの実施形態では、第1のインダクタ304および第2のインダクタ310の少なくとも一方は、インダクタを通る矢印で示されるように非線形である。たとえば、インダクタ304および310はジョセフソン接合のアレイを含み得る。本明細書では帯域フィルタ次数(bandpass filter order)Nと呼ばれることがある、ユニット・セル302の数は奇数である(たとえば、101から1001)。フィルタ次数Nは、その2つの外部ポートに関してデバイスを対称に保つために奇数である。
【0042】
挿入損方法を使用してNDFM300のフィルタリング特性が指定され得る。様々な実施形態では、NDFM300の各ユニット・セル302は、最平坦(たとえば、バターワース応答)または等リップル(チェビシェフ多項式)に従って設計され得る。NDFM300の比帯域幅は、以下の式1によって与えられる。
【0043】
【数1】
上式で
ω
0は帯域フィルタリング媒体の中心角周波数であり、
ω
1は帯域フィルタリング媒体の下側角度遮断周波数であり、
ω
2は帯域フィルタリング媒体の上側角度遮断周波数であり、ω
2>ω
0>ω
1である。
【0044】
一実施形態では、帯域パラメトリック増幅器300の中心周波数(たとえば、遮断角周波数ω2およびω1の相乗平均)が、以下の式2によって与えられる。
【0045】
【0046】
NDFM300の次数および選ばれたリップルの大きさ(すなわち、後者は等リップル・フィルタ構成に関連する)に応じて、正規化ソース・インピーダンスおよび正規化遮断周波数に対応する適切な素子値が、フィルタを設計するための既知の挿入損方法を使用して計算され得る。
【0047】
(文献中の)計算値または表形式の値gi、フィルタリング媒体の特性インピーダンスZ1、中心角周波数ω0、および所望の比帯域幅Δを使用して、以下の式を用いて集中素子インダクタおよびコンデンサの値を計算し得る。
【0048】
直列素子について、
【0049】
【0050】
【0051】
並列素子について、
【0052】
【0053】
【0054】
ジョセフソン接合(JJ)の線形インダクタンスが、以下の式7によって与えられる。
【0055】
【0056】
【数8】
Φ
0=h/(2e) (式9)
上式で
I
0はジョセフソン接合の臨界電流であり、
φ
0は換算磁束量子(reduced flux quantum)であり、
hはプランク定数であり、
eは電子電荷の大きさである。
【0057】
一実施形態では、無損失非線型インダクタンス
【数9】
と
【数10】
(310および304)の両方が、JJのアレイを使用して実装され、それぞれは線形インダクタンスL
J0を有する。容量性素子
【数11】
および
【数12】
(308および306)が、アモルファス・シリコン、結晶シリコン、窒化シリコンなどの低損失誘電体材料を有する超伝導平板コンデンサを使用して実装される。NDFM300は、低損失誘電体基板上でコプレーナ導波路幾何形状で実装され得る。基板は高抵抗率シリコンまたはサファイアであり得る。
【0058】
様々な実施形態では、JJはアルミニウム(Al)またはニオビウム(Nb)を含み得る。線形インダクタLr(たとえば、322)は薄型高力学インダクタであり得る。各ユニット・セル302の第2のコンデンサ320(Cc)または第3のコンデンサ324(Cr)あるいはその両方は、低損失誘電体材料を有する超伝導平板コンデンサであり得る。各ユニット・セル302の線形インダクタ322Lr、第2のコンデンサ320(Cc)、および第3のコンデンサ324(Cr)は、集合的にポンプ駆動のための周期的共振構造装荷を実装する。一実施形態では、こうした素子が、3から9個のフィルタ素子ごとに追加される。こうした素子は、増幅器の分散特徴とも知られる、利得曲線内の阻止帯域を定義する。NDFM300の中心周波数は、以下の式10によって与えられる。
【0059】
【0060】
結論
本教示の様々な実施形態の説明が例示のために提示されたが、説明は網羅的なものではなく、開示される実施形態に限定されないものとする。記載の実施形態の範囲および思想から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。本明細書で用いられる用語は、実施形態の原理、実際の応用、または市場で見出される技術に勝る技術的改良を最良に説明するように、または当業者が本明細書で開示される実施形態を理解することを可能にするように選ばれた。
【0061】
最良の状態または他の例あるいはその両方であると考えられるものを上記で説明したが、様々な修正がその中で行われ得ること、本明細書で開示される主題が様々な形態および例で実装され得ること、ならびに教示が多数の応用で適用され、そのうちの一部だけが本明細書で説明されたことを理解されたい。以下の特許請求の範囲により、本教示の真の範囲内に包含される、ありとあらゆる応用、修正、および変形を特許請求することが意図される。
【0062】
本明細書で論じられた構成要素、ステップ、特徴、目的、恩恵、利点は例示的なものに過ぎない。それらのいずれも、それらに関する議論も、保護の範囲を限定しないものとする。本明細書で様々な利点が論じられたが、すべての実施形態が必ずしもすべての利点を含むわけではないことを理解されよう。別段の記載がない限り、以下の特許請求の範囲を含む、本明細書で説明されるすべての測定、値、定格、位置、大きさ、サイズ、および他の仕様はおおよそのものであり、厳密なものではない。それらは、それが関係する機能に適合し、それが関係する当技術分野での慣習であるものに適合する、妥当な範囲を有するものとする。
【0063】
多数の他の実施形態も企図される。これらは、より少ない、追加の、または異なる構成要素、ステップ、特徴、目的、恩恵、および利点、あるいはその組合せを有する実施形態を含む。これらはまた、構成要素またはステップあるいはその両方が別様に配置され、または順序付けされ、あるいはその両方である実施形態をも含む。たとえば、本明細書で論じられる任意の信号が、基礎となる制御方法を著しく変更することなく、スケーリングされ、バッファリングされ、スケーリングおよびバッファリングされ、別の状態(たとえば、電圧、電流、荷電、時間など)に変換され、または別の状態(たとえば、HIGHからLOW、LOWからHIGH)に変換され得る。
【0064】
上記では例示的実施形態と共に説明されたが、「例示的」という用語は、最良または最適としてではなく、一例として意味するに過ぎないことを理解されたい。直前で述べたことを除いて、説明または図示されたものが、特許請求の範囲に記載されるか否かの如何に関わらず、何らかの構成要素、ステップ、特徴、目的、恩恵、利点、または均等物の公衆への公開を引き起こすことは意図されず、そのように解釈されるべきではない。
【0065】
本明細書で使用される用語および表現は、別段に特定の意味が本明細書で説明されている場合を除いて、調査および研究の対応するそれぞれの領域に関してそのような用語および表現に与えられるような通常の意味を有することを理解されよう。第1および第2などの関係を示す用語は、単にある実体または動作を別のものと区別するために使用され、そのような実態または動作の間の何らかの実際のそのような関係または順序を必ずしも必要とし、または示唆するわけではない。「備える」、「含む」("comprises", "comprising")という用語、またはその任意の他の変形は、非排他的包含を含むものとし、したがって、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、または装置が、そうした要素のみを含むのではなく、明白に列挙されていない他の要素、またはそのようなプロセス、方法、物品、装置に固有の他の要素を含み得る。「a」または「an」で始まる要素は、さらなる制約なしに、要素を含むプロセス、方法、物品、または装置内の追加の同一の要素の存在を除外しない。
【0066】
読者が技術的開示の性質を迅速に確認することを可能にするように本開示の要約が与えられる。要約は、特許請求の範囲または意味を解釈または限定するために使用されることはないという理解と共に提出される。さらに、上記の詳細な説明では、本開示を簡素化するために、様々な実施形態で様々な特徴が互いにグループ化されることを理解することができる。この開示の方法は、特許請求される実施形態が各請求項に明白に記載されているものよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映すると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の主題は、単一の開示される実施形態のすべての特徴未満にある。したがって、以下の特許請求の範囲が本明細書によって詳細な説明に組み込まれ、各請求項は、別々に特許請求される主題としてそれ自体で有効である。