(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】燃料電池システムを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20241220BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241220BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20241220BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241220BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20241220BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/04746
H01M8/04 N
F04B49/06 341E
(21)【出願番号】P 2022540814
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2020084833
(87)【国際公開番号】W WO2021139935
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】102020200251.7
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ヴェスナー,ヨッヘン
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145357(JP,A)
【文献】特開2012-107589(JP,A)
【文献】特開2018-098874(JP,A)
【文献】特開2017-143020(JP,A)
【文献】特開2019-145338(JP,A)
【文献】特表2000-503799(JP,A)
【文献】特開平10-321249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0006049(US,A1)
【文献】特開2019-145433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)により圧縮された空気(4)が供給される燃料電池(2)を備える燃料電池システム(1)を動作させる方法であって、前記空気圧縮機の作動範囲を特性マップ(20)に表示可能であり、前記特性マップがサージ限界(26)およびチョーク限界(28)を有し、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の制御器(7)に格納されている、方法において、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の作動中に少なくとも1つの電流信号(33、34)が検出され、かつ前記特性マップ(20)に格納されたプレサージ限界値(29)と比較され、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の作動中、同様に前記特性マップ(20)に格納されたサージ限界値(30)に到達されないように、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)が的確に制御され、
前記格納された特性マップ(20)において、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の動作点(23、24、25)とともに、前記空気圧縮機(3)を駆動する電気モータ駆動装置(6)の電流比上に圧力比がプロットされ
、
前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)が、前記空気圧縮機(3)を駆動する前記電気モータ駆動装置(6)の電流比上に圧力比がプロットされた前記特性マップ(20)における動作点(24)の位置に依存して異なった周波数(33、34)で制御される永久励磁同期機(8)を備えていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
プレサージ限界曲線(27)は、安全距離範囲の分だけ前記サージ限界(26)から離間させてあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特性マップ(20)は、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の前記サージ限界(26)に相対する前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の動作点(24)の位置を決定するために使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記サージ限界(26)に相対する前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の前記動作点(24)を適合させるために、前記電流信号(33、34)を変化させることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)により圧縮された空気(4)が供給される燃料電池(2)を備える燃料電池システム(1)であって、前記空気圧縮機の作動範囲を特性マップ(20)に表示可能であり、前記特性マップがサージ限界(26)およびチョーク限界(28)を有し、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の制御器に格納されている、燃料電池システムにおいて、前記特性マップ(20)が、前記空気圧縮機(3)の電気モータ駆動装置(6)の電流比および圧力比に依存するプレサージ限界曲線(27)を含み、
前記格納された特性マップ(20)において、前記電気モータによって駆動される空気圧縮機(3)の動作点(23、24、25)とともに、前記空気圧縮機(3)を駆動する電気モータ駆動装置(6)の電流比上に圧力比がプロットされてい
て、
前記空気圧縮機(3)の前記電気モータ駆動装置(6)が、前記空気圧縮機(3)を駆動する電気モータ駆動装置(6)の電流比上に圧力比がプロットされた前記特性マップ(20)における動作点(24)の位置に依存して異なった周波数(33、34)で制御される永久励磁同期機(8)を備えることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項6】
コンピュータプログラムを備えるコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラムがコンピュータで実行される場合に、請求項1から
4までのいずれか1項に記載の方法を実行するためのソフトウェア手段を有する、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータによって駆動される空気圧縮機により圧縮された空気が供給される燃料電池を備える燃料電池システムを動作させる方法に関し、空気圧縮機の作動範囲を特性マップに表示可能であり、特性マップがサージ限界およびチョーク限界を有し、電気モータによって駆動される空気圧縮機の制御器に格納されている。本発明は、さらに、このような燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、給気流を生成するコンプレッサを備える燃料電池システムが知られ、モータの制御器にコンプレッサのコンプレッサ特性マップが記憶され、制御器は、コンプレッサの吐出圧と温度を決定し、コンプレッサがサージ状態に移行することを防ぐために、コンプレッサの回転数と質量流量計からの空気流信号から、システムが作動するコンプレッサ特性マップ上の地点が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、燃料電池システムの動作を簡素化することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、電気モータによって駆動される空気圧縮機により圧縮された空気が供給される燃料電池を備える燃料電池システムを動作させる方法であって、空気圧縮機の作動範囲を特性マップに表示可能であり、特性マップがサージ限界およびチョーク限界を有し、電気モータによって駆動される空気圧縮機の制御器に格納されている、方法では、電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中に少なくとも1つの電流信号が検出され、かつ特性マップに格納されたプレサージ限界値と比較され、電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中、同様に特性マップに格納されたサージ限界値に到達されないように、電気モータによって駆動される空気圧縮機が的確に制御されることによって解決される。空気圧縮機は、コンプレッサとも呼ばれ得る。クレームされる方法では、電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中にサージ限界に達することを回避するために、先見的に処置がとられる。それによって燃料電池システムの寿命を著しく向上させることができる。その場合、空気圧縮機の作動中にサージ限界に到達されないように、電気モータによって駆動される空気圧縮機が制御される電流信号を的確に変化させる。
【0006】
方法の好ましい一実施例は、格納された特性マップにおいて、電気モータによって駆動される空気圧縮機の動作点とともに、電流比上に圧力比がプロットされていることを特徴とする。電気モータによって駆動される空気圧縮機を備える燃料電池システムが直列動作で使用される前に、燃料電池システムの試験において特性マップが作成されることが有利である。特性マップによって、燃料電池システムの作動中の開ループ制御および閉ループ制御の手間を効果的に削減することができる。
【0007】
方法の別の好ましい一実施例は、プレサージ限界曲線が、安全距離範囲の分だけサージ限界から離間させてあることを特徴とする。安全距離範囲の大きさの適当な選択により、電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中にプレサージ限界に決して到達されないか、または決して到達されないに等しいことを比較的少ない手間で達成することができる。
【0008】
方法の別の好ましい一実施例は、特性マップが、電気モータによって駆動される空気圧縮機のサージ限界に相対する電気モータによって駆動される空気圧縮機の動作点の位置を決定するために使用されることを特徴とする。その場合、上記の先見的な処置がとられる必要があるかどうかを簡単な比較によって少ない手間で検知することができる。
【0009】
方法の別の好ましい実施例は、サージ限界に相対する電気モータによって駆動される空気圧縮機の動作点を適合させるために、電流信号を変化させることを特徴とする。効率の比較的大きい損失なしにサージ限界の到達を防ぐために、これを場合によっては繰り返し、もしくは段階的に行うことができる。
【0010】
方法の別の好ましい一実施例は、電気モータによって駆動される空気圧縮機が永久励磁同期機を備えることを特徴とする。電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中、サージ限界の到達を防ぐために、永久励磁同期機が異なった電流、電流信号、もしくは異なった周波数で制御されることが有利である。
【0011】
電気モータによって駆動される空気圧縮機により圧縮された空気が供給される燃料電池を備える燃料電池システムであって、空気圧縮機の作動範囲を特性マップに表示可能であり、特性マップがサージ限界およびチョーク限界を有し、電気モータによって駆動される空気圧縮機の制御器に格納されている、燃料電池システムでは、上記課題は、代替的または追加的に、特性マップが、空気圧縮機の電気モータ駆動装置の電流比および圧力比に依存するプレサージ限界曲線を含むことによって解決される。それにより燃料電池システムの作動中にサージ限界の到達を簡単な方法で確実に防ぐことができる。
【0012】
燃料電池システムの好ましい一実施例は、空気圧縮機の電気モータ駆動装置が、特性マップにおける動作点の位置に依存して異なった周波数で制御される永久励磁同期機を備えていることを特徴とする。それにより多大な開ループ制御技術的もしくは閉ループ制御技術的な手間なしに、電気モータによって駆動される空気圧縮機の作動中にサージ限界の到達を回避することができる。
【0013】
本発明は、さらに、コンピュータプログラムがコンピュータで実行される場合に上記の方法を実行するためのソフトウェア手段を有する、コンピュータプログラムを備えるコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータは、例えば燃料電池システムにおける空気圧縮機の電気モータ駆動装置のための制御器である。
【0014】
電気モータによって駆動される空気圧縮機により圧縮された空気が供給される燃料電池を備える燃料電池システムのための特性マップであって、空気圧縮機の作動範囲を特性マップに表示可能であり、特性マップがサージ限界およびチョーク限界を有し、電気モータによって駆動される空気圧縮機の制御器に格納されている、特性マップでは、上記課題は、代替的または追加的に、特性マップに、電気モータによって駆動される空気圧縮機の動作点、およびプレサージ限界曲線とともに、電流比上に圧力比がプロットされていることによって解決される。
【0015】
本発明の他の利点、特徴、および詳細は、図面を参照しながらいくつかの実施例について詳しく説明される以下の記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】燃料電池と電気モータによって駆動される空気圧縮機と、圧力センサ装置とを備える燃料電池システムの模式図である。
【
図2】圧力センサ装置はないが、燃料電池に供給される空気質量流を測定するための測定装置を備える
図1のものと類似の燃料電池システムの図である。
【
図3】
図1および
図2による燃料電池システムの制御器に格納されるサージ限界、チョーク限界、およびプレサージ限界を含む特性マップの図である。
【
図4】時間上に電流信号のプロファイルがプロットされたデカルト座標線図である。
【
図5】電流信号が変化した
図4のものと類似の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1および
図2において、燃料電池2と電気モータによって駆動される空気圧縮機3とを備える燃料電池システム1が模式的に示されている。同じまたは類似の部品を示すために同じ参照符号が使用される。燃料電池システム1は、冒頭で評価された特許文献1に開示されている燃料電池システムといくらか類似の構造である。
【0018】
図1および
図2において、エアフィルタ5を介して空気圧縮機3に供給される空気が矢印4によって示唆されている。空気圧縮機5は、電気モータ駆動装置6によって駆動される。電気モータ駆動装置6は、制御器7を有する永久励磁同期機8として形成されている。
【0019】
燃料電池2の空気出口にはバルブ装置9が配置されている。上述の特徴は、
図1および
図2に示される燃料電池システム1で同じに形成されている。次に、
図1および
図2に示される燃料電池システム1の相違に言及される。
【0020】
図1に示される燃料電池システム1は、空気圧縮機3によって燃料電池2に供給される圧縮された空気の圧力が検出される圧力センサ装置10を備える。矢印11によって、電気モータ駆動装置6の制御器7が圧力センサ装置10と制御的に接続されていることが示唆される。矢印12によって、制御器7が、バルブ装置9と制御的に接続されていることが示唆される。
【0021】
図2に示される燃料電池システム1では、圧力センサ装置(
図1の10)の代わりに、エアフィルタ5と空気圧縮機3との間で空気質量流が検出される測定装置14が設けられている。
図2において、電気モータ駆動装置6の制御器7が測定装置14と制御的に接続されていることが矢印15によって示唆される。
【0022】
図3において、電気モータによって駆動される空気圧縮機(
図1および
図2の3)の動作のための特性マップ20がデカルト座標線図で示されている。x軸21上には、電流比I対I
maxがプロットされている。y軸22上には、圧力比p対p
maxがプロットされている。
【0023】
特性マップ20には、空気圧縮機の作動中の3つの動作点23、24、25が例示的に描かれている。特性マップ20は、サージ限界26とチョーク限界28とを含む。さらに、特性マップ20は、プレサージ限界曲線27を含む。プレサージ限界曲線27は、サージ限界26から離間させてある。
【0024】
図4および
図5において、2つの別のデカルト座標線図が示されている。x軸31上には、時間が適当な時間単位でプロットされている。y軸32上には、単位時間当たりの電流信号の周波数がプロットされている。2つの線図において、異なった周波数を有する2つの電流信号33、34のプロファイルが示されている。
【0025】
コンプレッサとも呼ばれる空気圧縮機3のサージ限界26の近くでの動作は、回避されるべきである。空気圧縮機3の電気モータ駆動装置6である永久励磁同期機8の制御は、
図4および
図5に示唆されるように、制御された電流の回転磁界を用いて行われる。その場合、電流と永久励磁同期機8の永久磁石とは、吸い込まれた空気4を圧縮するために機械的モーメントを生じさせる。
【0026】
圧力と温度から、あるいは直接、空気圧縮機3の測定された空気質量流、および電流信号33、34の既知の周波数から空気圧縮機3の動作点23~25が決定される。その場合、それぞれの動作点、例えば24は、制御器7に記憶された特性マップ20と比較される。
【0027】
動作点がプレサージ限界曲線27の近くに位置する場合、サージ限界26に対して適当な安全距離を保つために、回転磁界の周波数を適合させることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 空気圧縮機
4 矢印、空気
5 エアフィルタ
6 電気モータ駆動装置
7 制御器
8 永久励磁同期機
9 バルブ装置
10 圧力センサ装置
11 矢印
12 矢印
14 測定装置
15 矢印
20 特性マップ
21 x軸
22 y軸
23 動作点
24 動作点
25 動作点
26 サージ限界
27 プレサージ限界曲線
28 チョーク限界
29 プレサージ限界値
30 サージ限界値
31 x軸
32 y軸
33 電流信号
34 電流信号