(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】打ち上げ機からの衛星放出システム
(51)【国際特許分類】
B64G 1/64 20060101AFI20241220BHJP
B64G 1/22 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
B64G1/64 100
B64G1/22 100A
B64G1/22 428
(21)【出願番号】P 2022559696
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 IB2021054601
(87)【国際公開番号】W WO2021240404
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】102020000012415
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517411438
【氏名又は名称】タレス・アレーニア・スペース・イタリア・エッセ・ピ・ア・コン・ウニコ・ソシオ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アニセト・パネッティ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・マルケッティ
(72)【発明者】
【氏名】アルベールト・リトルト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・アドリアーニ
(72)【発明者】
【氏名】ルイージ・シアランガ
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第87/002006(WO,A1)
【文献】特開平08-324500(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01036735(EP,A2)
【文献】米国特許第10538347(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第103010489(CN,A)
【文献】特開昭58-191700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/64
B64G 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)であって、前記放出システム(1)は、
(i)支持手段(4)によって打ち上げ機(3)に固定され、トーションバー(2)の長手方向軸(X)周りの回転がロックされている第1の端部(2a)と、ヒンジ手段(5)によって前記打ち上げ機(3)に接続され、前記長手方向軸(X)周りに自由に回転する第2の端部(2b)とを有するトーションバー(2)、
(ii)前記トーションバー(2)から垂直に延在し、(a)前記トーションバー(2)に一体的に固定された第1の端部(7a)を有するトーションレバー(7)と、(b)前記トーションレバー(7)の第2の端部(7b)に接続された第1の端部(8a)、および第2の自由端部(8b)を有するガイド(8)と、を備える少なくとも1つの発射アーム(6)、
(iii)打ち上げられる人工衛星(18)に一体的に固定され、前記ガイド(8)に摺動可能に係合するよう配置された少なくとも1つのスライダー(10)、および
(iv)前記長手方向軸(X)周りの前記発射アーム(6)の回転を中断するように前記トーションレバー(7)に作用するよう設計された制限停止要素(12)、
を備えることを特徴とする、打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【請求項2】
前記ガイド(8)の前記第1の端部(8a)がロッキングジョイント(9)によって前記トーションレバー(7)の前記第2の端部(7b)に接続され、前記ガイド(8)および前記トーションレバー(7)の間の角度の変更を可能にすることを特徴とする、請求項1に記載の打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【請求項3】
前記ガイド(8)がエネルギー吸収体(11)を備えることを特徴とする、請求項2に記載の打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【請求項4】
前記放出システムが前記トーションバー(2)の前記第1の端部(2a)に作用するねじり予荷重手段(17)を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【請求項5】
前記制限停止要素(12)が打撃面(13)を備え、それぞれの発射アーム(7)の一部がそのストロークを終了するために前記打撃面(13)に衝突することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【請求項6】
前記発射アームを前記制限停止要素にロックするよう設計された可逆的なロック要素を備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の打ち上げ機から人工衛星を放出するための放出システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2020年5月26日に出願されたイタリア特許出願No.102020000012415号の優先権を主張し、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、打ち上げ機から衛星を放出するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、通常使用されている放出システムには、打ち上げ機と一体的に配置され、人工衛星を排出する推力を生成するように適合された複数のコイルばねが設けられている。このような放出システムは、分離面に垂直な方向に沿って衛星を打ち上げることを含む。
【0004】
当業者には明らかなように、コイルばねは、打ち上げる衛星の質量に応じて選択する必要があり、打ち上げられる衛星の質量が変化するたびにコイルばねを交換しなければならない可能性が必然的に生じる。
【0005】
ただし、一般的に使用されているにもかかわらず、このような解決策には多くの問題が伴う。
【0006】
実際、衛星は、コイルばねの作用によって打ち上げられると、回転運動を受ける。
【0007】
このような回転運動は、主に、ばねが互いに完全に同一になることはあり得ず、同時に互いに対して同時に伸びることも決してないという事実によるものある。
【0008】
後者の側面は、異なる放出要素を正確に同期して作動させることが不可能であることに由来する。当業者には明らかなように、さまざまな放出要素の作動に数マイクロ秒の差があっても、衛星が受ける全体的な推力、ひいてはその回転に重大な不均衡が生じる。放出ステップにおける衛星の不確定性と結果としての回転の他の要素は、質量中心の位置の不完全な知識と打ち上げ機構造の一時的な振動である。
【0009】
放出された後に衛星が受ける回転は、必然的に太陽電池パネルの展開の遅延につながり、したがって、衛星内のバッテリーからのエネルギーの長時間の使用につながる。「緊急」操作を実行するために、衛星バッテリーのエネルギーは、放出直後のソーラーパネルの展開前のステップで常に利用可能でなければならないため、この側面はリスクのかなりの要素である。
【0010】
また、打ち上げ機が複数の人工衛星を並べて搭載している場合、分離面に垂直な方向に人工衛星を放出すると、人工衛星同士が衝突する危険性がある。実際、コイルばねの推力を使用したリリースシステムでは、意図した放出方向に対して約15°の方向の「不確実性の円錐」を考慮することが適切であることはよく知られている。このような条件は、打ち上げ機のノーズコーンで利用可能なスペースの占有率が低く、同じ打ち上げ機に搭載される衛星の数が制限されることを意味する。
【0011】
上記の問題に加えて、推進手段として限られた数のコイルばねを使用する現在のシステムによって生じる放出速度よりも速い速度を保証できるシステムが必要である。実際、放出速度が速いほど、打ち上げ機から離れる衛星の動きが速くなり、したがって、ソーラーパネルをより早く展開できる可能性がある。これにより、結果的にバッテリー電力の使用が減少し、上記の関連する利点が得られる。
【0012】
安全上の理由から、ソーラーパネルの展開は、打ち上げ機から数百メートルの距離で行う必要があり、放出の推力によりこの距離に達しない場合は、バッテリーエネルギーに頼る必要がある。
【0013】
最後に、この分野で認識されている別の必要性は、構成要素の一部を交換する必要なく、異なる質量の衛星に適合できる放出システムの可能性に関するものである。つまり、衛星の質量に関係なく推進手段が有効な放出システムの必要性がある。上記のように、実際にコイルばねを使用する解決策は、打ち上げる衛星の質量に応じて選択する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、打ち上げ機から衛星を放出するためのシステムであり、放出システムが(i)支持手段によって打ち上げ機に固定され、トーションバーの長手方向軸の周りの回転がロックされる第1の端部と、ヒンジ手段によって前記打ち上げ機に接続され、前記長手方向軸の周りを自由に回転できる第2の端部とを有するトーションバーと、(ii)前記トーションバーから垂直に延在し、(a)前記トーションバーに一体的に固定された第1の端部を有するトーションレバーと、(b)前記トーションバーの第2の端部に接続された第1の端部および第2の自由端部を有するガイドとを備える少なくとも1つの発射アームと、(iii)打ち上げられる人工衛星に一体的に固定され、前記ガイドと摺動可能に係合するように配置された少なくとも1つのスライダーと、(iv)前記トーションレバーに作用して、長手方向軸の周りの発射アームの回転を中断するように設計された制限停止要素と、を備えることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記ガイドの前記第1の端部は、ロックジョイントによって前記トーションレバーの前記第2の端部に接続される。ロッキングジョイントにより、ガイドとトーションレバーの角度に応じて放出方向を変えることができる。
【0016】
好ましくは、前記ガイドは、エネルギー吸収体を含む。
【0017】
好ましくは、システムは、トーションバーの前記第1の端部に作用するねじり予荷重要素を備える。これらの手段は、打ち上げられる人工衛星に係合する発射アームの回転による負荷ねじりの上流にすでにあるバー開始ねじれを設定する。これにより、打ち上げる衛星の質量に応じて効果的な放出に必要な弾性力を適応させることが可能になる。
【0018】
好ましくは、システムは、発射アームを制限停止要素にロックするように構成された可逆ロック要素を備える。
【0019】
以下、添付の図面を用いて、例示的かつ非限定的な目的で実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態による本発明の放出システムの全体斜視図である。
【
図2】本発明による放出システムの作用を受ける衛星の移動ステップを示す図である。
【
図3】本発明による放出システムがそれぞれに適用される2つの衛星を搭載する打ち上げ機を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、1は、本発明の好ましい実施形態によるシステム全体を示す。
【0022】
システム1は、打ち上げ機3に固定されたトーションバー2を備える。特に、トーションバー2は、支持体4によって打ち上げ機3に固定された第1の端部2aと、ヒンジ5によって打ち上げ機3に固定された第2の端部2bとを有する。第1の端部2aは、回転がロックされている。つまり、以下に説明するように、発射アームの回転によって実行される負荷中に、トーションバーの長手方向軸Xの周りに回転することはできない。逆に、第2の端部2bは、ヒンジ5によりX軸回りに自由に回転できる。以下に示すように、第1の端部2aがロックされ、第2の端部2bが自由に回転するという事実から生じるねじれは、人工衛星を放出するのに必要な弾性荷重を取得する。
【0023】
システム1は、バーのねじれによって生じる推力を打ち上げられる人工衛星に伝達する部材である発射アーム6を備える。発射アーム6は、トーションレバー7と、トーションレバー7にロッキングジョイント9で接続されたガイド8から構成されている。特に、トーションレバー7は、トーションバー2に一体的に接続された第1の端部7aと、ロッキングジョイント9によって係合された第2の端部7bとを有し、ガイド8は、ロッキングジョイント9によって係合された第1の端部8aと、第2の自由端部8bとを有する。
【0024】
システム1は、使用中、打ち上げられる人工衛星に固定され、ガイド8上を滑り、その後、その第2の端部8bから出るように配置されたスライダー10を備える。
【0025】
ロッキングジョイント9の存在は、トーションレバー7とガイド8との間の角度を修正することを可能にし、したがって、衛星に伝達される放出方向を選択することを可能にする。
【0026】
ガイド8は、その第1の端部8aの近くに配置されたエネルギー吸収体11を備える。
【0027】
システム1は、軸Xの周りのトーションレバー7の回転をロックするように配置された制限停止要素12を備える。特に、制限停止要素12は、トーションレバー7の一部が衝突する打撃面13を備える。
【0028】
システム1は、トーションレバー7の一部が打撃面13に当たると、トーションレバー7を制限停止要素12に可逆的にロックすることを保証するロック要素14を備える。好ましい実施形態によれば、ロック要素14は、トーションレバー7の一部に得られるスロット15と、打撃面13から延びるピン16とを備える。これにより可逆的なオス・メスロックが実現される。トーションレバー7は、制限停止要素12の存在によりストロークを終了すると、打撃面13にロックされる。明らかに、開示されたものとは異なり、打撃面13にスロットを作り、トーションレバー7の部分にピンを配置することによってロック要素14を得ることも可能である。
【0029】
最後に、システム1は、概略的に示され、17によって示されるねじり予荷重要素を備える。
【0030】
ねじり予荷重要素17は、トーションバー2の第1の端部2aに作用し、バーのベーストーションレベルを設定する。実際には、ねじり予荷重要素17は、トーションバー2の第1の端部2aを回転させ、続いてその位置でロックする。これにより、打ち上げる人工衛星の質量に応じてトーションバーの弾性力を変えることが可能になる。
【0031】
システムの大部分がアルミニウムで作られているのに対し、トーションバー2は、高い機械的応力を受ける他の構成要素と同様に鋼で作られていることが好ましい。好ましくは、スライダー10は、スライダー10とガイド8との間の低レベルの摩擦を確実にするために、ポリマー材料で作られる。
【0032】
使用中、ロッキングジョイント9が設定された後、発射アーム6が回転され、トーションバー2のねじり(荷重)が、その位置が一時的なロック手段によってロックされるまで行われる。一時的なロック手段は、衛星が打ち上げられる前に取り外され、簡単にするために図示も説明もしていない。これにより、衛星は、それに取り付けられたスライダー10を発射アーム6のガイド8に係合させることによって搭載される。
【0033】
人工衛星を搭載した打ち上げ機が分離条件に達すると、人工衛星のロックシステムを解放するように打ち上げ機に命令することができ(例えば、発火式ベルトテンショナーシステムまたは爆発ボルトを使用して)、その結果として発射アーム6が自由に回転する。
【0034】
図2に示すように、打ち上げ機からの人工衛星のロックが解除されると、トーションバー2は、トーションレバー7が制限停止要素12に衝突するまで、発射アーム6および人工衛星18をX軸の周りに強制的に回転させる。推力ステップでは、目的の円形以外の軌道が衛星に許可されないように、ガイドとスライダーの間の拘束が得られる。人工衛星18の動きは、ガイド8に沿ってスライドし、第2の端部8bから出るスライダー10によって、回転運動から純粋な並進運動に変換される。この目的のために、ガイドとスライダー(プリズム拘束)は、ガイドの出口ですべての可能な回転がキャンセルされ、必要な単なる並進のみが得られるように、3つの座標軸上で衛星にトルクパルスを与えるような方法でサイズ設定される。
【0035】
本発明の放出システムは、人工衛星を分離平面に垂直な方向に放出しないことに留意すべきである。
【0036】
これにより、打ち上げ機に複数の衛星を、互いに非常に接近させて搭載することさえ可能になる。
【0037】
図3からわかるように、打ち上げ機は、2つの衛星を収容し、放出中に衝突するリスクなしにそれらを互いに近づけることができる。
【0038】
実際、本発明の放出システムは、2つの衛星が打ち上げ機の反対側から打上げられるようなものである。
【0039】
前述のことから、プリズムガイドの安定化効果と組み合わされた人工衛星上の単一スラストポイントを含む本発明の放出システムは、既知の技術の放出システムに典型的な回転運動を生成しないことが導き出される。
【0040】
回転運動がなく、トーションバーによって生成される高い放出速度により、3つの人工衛星軸での安定化が得られ、その後の太陽電池パネルの展開を、従来技術のシステムよりも早く行うことが可能となる。この効果は必然的に、衛星バッテリーからのエネルギー消費の低減に関連する重要な利点につながり、その結果、起こり得る初期の緊急事態をサポートするための予備エネルギーが得られる。
【0041】
さらに、ねじり予荷重要素17の存在により、トーションバーから得られるスラスト力を、システムの構成要素を変更することなく、打ち上げられる人工衛星の質量および所望の放出速度に従って変更することが可能になる。
【0042】
上で開示したものとは異なり、本発明の放出システムは、1つではなく2つの発射アームを備えてもよい。この変形は、衛星の質量が非常に大きい場合に必要である。しかし、2本の発射アームは、同じトーションバーに接続されているため、わずかな非同期放出も防止される。この解決策は、端部がトーションバーに接続された第1の発射アームと第2の発射アームとの間の接続要素によって実装することができる。このような接続要素は、トーションバーの外側に配置された接続チューブで構成することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 システム
2 トーションバー
2a 第1の端部
2b 第2の端部
3 打ち上げ機
4 支持体
5 ヒンジ
6 発射アーム
7 トーションレバー
7a 第1の端部
7b 第2の端部
8 ガイド
8a 第1の端部
8b 第2の端部
9 ロッキングジョイント
10 スライダー
11 エネルギー吸収体
12 制限停止要素
13 打撃面
14 ロック要素
15 スロット
16 ピン
17 ねじり予荷重要素
18 人工衛星