(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】積層体、リチウムイオン二次電池用の負極集電体、及びリチウムイオン二次電池用の負極
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20241220BHJP
C23C 18/32 20060101ALI20241220BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20241220BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241220BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241220BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C23C18/32
C23C26/00 A
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2022572180
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045877
(87)【国際公開番号】W WO2022138295
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2020217392
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】堀川 雄平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】垣内 拓也
(72)【発明者】
【氏名】柳田 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】内藤 悠基
(72)【発明者】
【氏名】田代 崇宏
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026941(JP,A)
【文献】特開2011-146131(JP,A)
【文献】特開2005-320562(JP,A)
【文献】特開2021-038445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
H01M 4/13-4/1399
H01M 4/66
C23C 18/32-36
C23C 18/50
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体を備えるリチウムイオン二次電池用の負極集電体であって、
前記積層体が、
銅を含む第一金属層と、
ニッケルを含み、前記第一金属層に直接積層された第二金属層と、
を備え、
前記第二金属層中のニッケルを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークのうち強度が最大であるX線回折ピークの半値全幅が、0.3°以上1.2°以下であり、
前記ニッケルを含む前記結晶が、面心立方構造を有し、
前記強度が最大である前記X線回折ピークが、前記面心立方構造の(111)面に由来
し、
前記第二金属層が、炭素、リン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含む、
リチウムイオン二次電池用の負極集電体。
【請求項2】
請求項
1に記載の負極集電体と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
を備え、
前記負極活物質層が前記第二金属層に直接積層されている、
リチウムイオン二次電池用の負極。
【請求項3】
前記負極活物質がケイ素を含む、
請求項
2に記載の負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、リチウムイオン二次電池用の負極集電体、及びリチウムイオン二次電池用の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の負極集電体は、負極集電体に積層された負極活物質層の体積が充放電に伴って変動することに因り、繰り返しの負荷(圧縮応力及び引張応力)を受ける。この負荷に因る負極集電体の変形は、電池本体の変形又は電極間のショートを引き起こす。したがって、負極集電体には負荷(特に引張応力)に対する耐久性(高い引張強度)が求められる。(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集電体等の金属層が引張応力を受ける場合、金属層中の結晶粒界の滑りに因り、亀裂(crack)が金属層中に形成され、亀裂が拡張する。その結果、金属層が破断してしまう。金属層が、結晶性の低い非晶質の鉄系合金からなる場合、金属層は高い引張耐性を有する傾向がある。しかし、発明者らは、金属層が非晶質であっても必ずしも高い引張強度が得られず、金属層がある程度の結晶性を有することに因り、高い引張強度が得られることを見出した。
【0005】
本発明の一側面の目的は、高い引張強度を有する積層体、当該積層体を含むリチウムイオン二次電池用の負極集電体及び負極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る積層体は、銅を含む第一金属層と、ニッケルを含み、第一金属層に直接積層された第二金属層と、を含む。第二金属層中のニッケルを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークのうち強度が最大であるX線回折ピークの半値全幅が、0.3°以上1.2°以下である。
【0007】
第二金属層が、炭素、リン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。
【0008】
本発明の一側面に係るリチウムイオン二次電池用の負極集電体は、上記の積層体を含む。
【0009】
本発明の一側面に係るリチウムイオン二次電池用の負極は、上記の負極集電体と、負極活物質を含む負極活物質層と、を含み、負極活物質層が第二金属層に直接積層されている。
【0010】
負極活物質がケイ素を含んでよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、高い引張強度を有する積層体、当該積層体を備えるリチウムイオン二次電池用の負極集電体及び負極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体(負極集電体)、及び当該積層体を含む負極の模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、積層体に備わる第二金属層の表面にX線を入射することによって測定されるX線回折パターンの一例である。
【
図3】
図3は、
図2の拡大図であり、第二金属層中のニッケルを含む結晶に由来するX線回折ピーク(強度が最大であるX線回折ピーク)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る積層体は、リチウムイオン二次電池用の負極集電体である。
図1に示されるように、本実施形態に係る積層体10は、第一金属層1及び第二金属層2を有する。第一金属層1は、銅(Cu)を含む。第二金属層2は、ニッケル(Ni)を含む。
図1に示される積層体10の場合、第二金属層2は、第一金属層1の両方の表面に直接積層されている。ただし、第二金属層2は、第一金属層1の一方の表面のみに直接積層されてもよい。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用の負極20は、積層体10(負極集電体)及び負極活物質層3を有する。負極活物質層3は、負極活物質を含む。負極活物質層3は、各第二金属層2の表面に直接積層されている。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極20、正極、セパレータ及び電解液を含んでよい。セパレータ及び電解液は、負極20及び正極の間に配置される。電解液はセパレータを透過する。正極は、正極集電体と、正極集電体に積層された正極活物質層とを含んでよい。例えば、正極集電体は、アルミニウム箔又はニッケル箔であってよい。正極活物質層は、正極活物質を含む。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn
2O
4)、LiNi
xCo
yMn
zM
aO
2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn及びCrからなる群より選ばれる一種類以上の元素である。)、リチウムバナジウム化合物(LiV
2O
5)、オリビン型LiMPO
4(Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al及びZrより選ばれる一種類以上の元素、又はVOである。)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、LiNi
xCo
yAl
zO
2(0.9<x+y+z<1.1)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセンからなる群より選ばれる一種以上の化合物であってよい。正極活物質層は、炭素又は金属粉等の導電助剤を更に含んでよい。正極活物質層は、バインダー(接着剤又は樹脂)を更に含んでよい。セパレータは、電気的絶縁性を有する多孔質の高分子からなる一つ以上の膜(フィルム又は積層体)であってよい。電解液は、溶媒及び電解質(リチウム塩)を含む。溶媒は、水又は有機溶媒であってよい。例えば、電解質(リチウム塩)は、LiPF
6、LiClO
4、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiCF
3CF
2SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiN(CF
3CF
2CO)
2及びLiBOBからなる群より選ばれる一種以上のリチウム化合物であってよい。
【0016】
第二金属層2中のNiを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークのうち強度が最大であるX線回折ピークPMAXの半値全幅は、0.3°以上1.2°以下である。X線回折ピークPMAXの半値全幅が0.3°以上1.2°以下であることにより、積層体10は高い引張強度を有することができる。引張強度とは、第二金属層2の表面に平行な方向における引張応力に対する積層体10の耐久性を意味する。X線回折ピークPMAXの半値全幅が0.3°以上1.2°以下であることによって積層体10が高い引張強度を有するメカニズムは、下記の通りである。ただし、下記のメカニズムは仮説であり、本発明の技術的範囲は下記のメカニズムによって限定されるものではない。
【0017】
積層体10は、第一金属層1のみならず第一金属層1に積層された第二金属層2を有するので、積層体10は、Cuを含む一つの金属層のみからなる従来の集電体よりも高い引張強度を有することができる。ただし、積層体10の高い引張強度は積層構造だけではなく第二金属層2の結晶性にも起因する。
第二金属層2は、Niを含む多数の結晶粒を含む。X線回折ピークPMAXの半値全幅の減少に伴って、第二金属層2中の各結晶粒の粒子径は増加し、第二金属層2の結晶性は高まる。X線回折ピークPMAXの半値全幅が小さ過ぎる場合、各結晶粒が大き過ぎて、隣り合う一対の結晶粒間の粒界の面積が広過ぎる。その結果、第二金属層2が受ける引張応力に因り、広い粒界に沿った大きい亀裂が一気に形成され易く、亀裂が第二金属層2内へ伝播(成長)し易く、第二金属層2及び積層体10全体が破断し易い。しかし、X線回折ピークPMAXの半値全幅が0.3°以上である場合、大き過ぎる結晶粒(高い結晶性)に起因する亀裂の伝播(成長)が抑制され、第二金属層2を含む積層体10全体が高い引張強度を有することができる。換言すれば、X線回折ピークPMAXの半値全幅が0.3°以上である場合、結晶粒が適度に微細化されており、粒界の面積も適度に小さいので、粒界に沿った亀裂の進展が抑制される。
X線回折ピークPMAXの半値全幅の増加に伴って、第二金属層2中の各結晶粒の粒子径は減少し、第二金属層2の結晶性は低下する。換言すれば、X線回折ピークPMAXの半値全幅の増加に伴って、第二金属層2は徐々に非晶質に似た状態になる。X線回折ピークPMAXの半値全幅が大き過ぎる場合、各結晶粒が微細過ぎるので、多数の微細な粒界が第二金属層2中に形成される。その結果、第二金属層2が受ける引張応力に因り、多数の微細な粒界から構成される経路に沿って亀裂が第二金属層2内で直線的に伝播(成長)し易く、第二金属層2及び積層体10全体が破断し易い。しかし、X線回折ピークPMAXの半値全幅が1.2°以下である場合、微細な結晶粒(低い結晶性)に起因する亀裂が抑制され、第二金属層2を含む積層体10全体が高い引張強度を有することができる。換言すれば、X線回折ピークPMAXの半値全幅が1.2°以下である場合、粒界に沿った亀裂の進展が、適度に大きい結晶粒によって中断され易く、亀裂が進展する方向が、適度に大きい結晶粒によって変更され易く、直線的な亀裂の進展が抑制される。
積層体10の引張強度は、例えば、800MPa以上1300MPa以下、890MPa以上1200MPa以下、897MPa以上1200MPa以下、1000MPa以上1200MPa以下、又は1006MPa以上1200MPa以下であってよい。
【0018】
積層体10が高い引張強度を有し易いことから、X線回折ピークPMAXの半値全幅は、0.36°以上1.06°以下、0.37°以上1.06°以下、又は0.39°以上1.06°以下であってもよい。
【0019】
第二金属層2中のNiを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークは、第二金属層2の表面にX線を入射することによって測定されるX線回折パターンに含まれる。X線回折パターンの一例は、
図2に示される。
図3は、
図2の拡大図であり、第二金属層2中のNiを含む結晶に由来する最大のX線回折ピークP
MAXを示す。X線回折パターンの横軸は、X線回折の回折角2θ(単位:degrees)であり、X線回折パターンの縦軸は、X線回折の強度(単位:cоunts)である。X線回折パターンは、Niを含む結晶に由来するX線回折ピークに加えて、他の結晶に由来するX線回折ピークを含んでよい。例えば
図2及び
図3に示されるように、X線回折パターンは、Niを含む結晶に由来するX線回折ピークに加えて、第一金属層1中のCuを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークを含んでよい。X線回折パターンに含まれる複数のX線回折ピークのうち、Niを含む結晶に由来するX線回折ピークの数は、1つ又は複数であってよい。Niを含む結晶に由来するX線回折ピークは、回折角2θに基づいて、他の結晶に由来するX線回折ピークと識別されてよい。
【0020】
第二金属層2中のNiを含む結晶は、面心立方(fcc)構造を有してよい。第二金属層2中のNiを含む結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークのうち強度が最大であるX線回折ピークPMAXは、面心立方構造の結晶面のうち(111)面、(200)面及び(220)面からなる群より選ばれる一種の結晶面に由来するX線回折ピークであってよい。第二金属層2中のNiを含む結晶は、Niのみからなる結晶であってよい。Niを含む結晶の面心立方構造が維持される限りにおいて、Niを含む結晶はNi以外の元素を更に含んでもよい。X線回折ピークPMAXの回折角2θは、入射X線の波長、結晶の組成及び格子定数に依って変動してよく、特に限定されない。
【0021】
Niは、第二金属層2の主成分であってよい。つまり、第二金属層2が複数種の元素含む場合、Niの含有量(単位:質量%)が最も大きくてよい。第二金属層2中のNiの含有量は、例えば、60質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%未満、又は60質量%以上99.5質量%以下であってよい。第二金属層2が三種以上の元素を含む場合、第二金属層2中のNiの含有量は、50質量%未満であってもよい。第二金属層2の少なくとも一部又は全体は、Ni単体、Niを含む合金、又はNiを含む金属間化合物であってよい。
【0022】
第二金属層2は、炭素(C)、リン(P)及びタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。これらの元素を第二金属層2に含有させることによって、X線回折ピークPMAXの半値全幅を0.3°以上1.2°以下の範囲内に制御することが可能である。例えば、第二金属層2がCを含む場合、Niを含む結晶の粒子径が減少して、X線回折ピークPMAXの半値全幅が増加する傾向がある。第二金属層2中のNiを含む結晶は、C、P及びWからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでもよい。例えば、第二金属層2中のNiを含む結晶は、C、P及びWからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む固溶体であってよい。
【0023】
第二金属層2は、電解めっき法又は無電解めっき法によって形成されてよい。後述される実施例が示すように、電解めっき法又は無電解めっき法によれば、X線回折ピークPMAXの半値全幅を0.3°以上1.2°以下の範囲内に制御することが可能である。例えば、X線回折ピークPMAXの半値全幅の制御因子は、めっき液の組成、めっき液における原料(Niを含む化合物)の濃度、めっき液の温度、めっき液のpH、第一金属層1の電流密度、及びめっきの実施時間等であってよい。電解めっき法又は無電解めっき法によって形成された第二金属層2の熱処理によって、X線回折ピークPMAXの半値全幅が調整されてもよい。
【0024】
Cuは、第一金属層1の主成分であってよい。第一金属層1はCuのみからなっていてよい。第一金属層1はCuを含む合金からなっていてもよい。第一金属層1がCuを含むことにより、積層体10は、リチウムイオン二次電池用の負極集電体に要求される高い導電性を有することができる。
【0025】
負極活物質層3に含まれる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であればよく、特に限定されない。例えば、負極活物質層3に含まれる負極活物質は、ケイ素(Si)を含んでよい。ケイ素を含む負極活物質は、他の負極活物質に比べて、リチウムイオン二次電池の充放電に伴って膨張及び収縮し易い。充放電に伴う負極活物質層3の体積の変動に因り、積層体10(第二金属層2)は繰り返しの引張応力を受ける。しかし、本実施形態に係る積層体10は高い引張強度を有するため、負極活物質層3の体積の変動に因る積層体10の破断が抑制される。
【0026】
ケイ素を含む負極活物質は、ケイ素の単体、ケイ素を含む合金、又はケイ素を含む化合物(酸化物若しくはケイ酸塩等)であってよい。例えば、ケイ素を含む合金は、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)及びクロム(Cr)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。例えば、ケイ素を含む化合物は、ホウ素(B)、窒素(N)、酸素(O)及び炭素(C)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。例えば、ケイ素を含む負極活物質は、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si2N2、Si2N2O、SiOX(0<X≦2)及びLiSiOからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。負極活物質は、ケイ素を含む繊維(ナノワイヤー等)、又はケイ素を含む粒子(ナノ粒子等)であってよい。負極活物質層3は、バインダーを更に含んでよい。バインダーは、負極活物質を互いに結着し、負極活物質層3を第二金属層2の表面と結着する。
【0027】
第一金属層1の厚みT1は、例えば、1μm以上8μm以下であってよい。一つの第二金属層2の厚みT2は、例えば、0.3μm以上4μm以下、又は1.1μm以上2.0μm以下であってよい。第二金属層2の厚みT2の合計は、T2
TOTALと表されてよく、T2
TOTAL/T1は0.6以上1.0以下であってよい。例えば
図1に示されるように、積層体10が2つの第二金属層2を有する場合、T2
TOTALは、2つの第二金属層2の厚みの和である。T2
TOTAL/T1が0.6以上である場合、積層体10は十分に高い引張強度を有し易い。T2
TOTAL/T1が小さいほど、積層体10(第二金属層2)の原料のコストが抑制される。T2
TOTAL/T1が1.0以下である場合、積層体10を備えるリチウムイオン二次電池が十分に高いエネルギー密度を有し易い。一つの負極活物質層3の厚みT3は、例えば、10μm以上300μm以下であってよい。第一金属層1の厚みT1、第二金属層2の厚みT2及び負極活物質層3の厚みT3其々は、均一であってよい。
【0028】
積層方向に垂直な方向における第一金属層1、第二金属層2及び負極活物質層3其々の寸法は、互いに略同じであってよい。例えば、積層方向に垂直な方向における第一金属層1、第二金属層2及び負極活物質層3其々の幅は、数十mm以上数百mm以下であってよい。積層方向に垂直な方向における第一金属層1、第二金属層2及び負極活物質層3其々の長さは、数十mm以上数千mm以下であってよい。
【0029】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【0030】
例えば、第二金属層は、スパッタリング、有機金属化学蒸着法(MOCVD)又は有機金属物理蒸着法(MOPVD)等の気相成長法によって形成されてよい。
【0031】
本発明に係る積層体は、放熱材又は電磁波シールド材として用いられてよい。放熱材又は電磁波シールド材の加工に伴い、引張応力が放熱材又は電磁波シールド材に作用する。本発明に係る積層体は高い引張強度を有するので、加工に伴う放熱材又は電磁波シールド材の破損を抑制することができる。
【実施例】
【0032】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0033】
[第一金属層の前処理]
第一金属層として、市販の電解銅箔が用いられた。第一金属層の厚みは、4.5μmであった。第一金属層の厚みは均一であった。第一金属層を酸性の脱脂液中に1分間浸漬することにより、第一の金属層の表面に付着した有機物が除去された。脱脂液としては、上村工業株式会社製のスルカップMSC‐3‐Aが用いられた。脱脂後、第一金属層を純水に1分間浸漬することにより、第一金属層が洗浄された。
【0034】
第一金属層の洗浄後、第一金属層を希硫酸中に1分間浸漬することにより、第一の金属層の表面に存在する自然酸化膜が除去された。希硫酸の濃度は、10質量%であった。自然酸化膜の除去後、第一金属層を純水中に1分間浸漬することにより、第一金属層が洗浄された。
【0035】
以上の前処理を経た第一金属層を用いた下記の方法で実施例1~10及び比較例1~4其々の積層体が作製された。
【0036】
(実施例1)
以下の電解めっきにより、第一金属層の両方の表面に第二金属層が形成された。つまり、電解めっきにより、第一金属層と第一金属層の両方の表面に積層された第二金属層から構成される積層体が形成された。
電解めっきでは、電源に接続された第二金属層及び他の電極がめっき液中に浸漬され、第二金属層及び他の電極に電流が印加された。めっき液は、硫酸ニッケル六水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物、及びクエン酸三ナトリウムを含んでいた。めっき液中の硫酸ニッケル六水和物の含有量は、60g/Lであった。めっき液中のタングステン酸ナトリウム二水水和物の含有量は、100g/Lであった。めっき液中のクエン酸三ナトリウムの含有量は、145g/Lであった。めっき液のpHは、5.0に調整された。めっき液の温度は50℃に調整された。電解めっき中の第一金属層の電流密度は、5A/dm2に調整された。電解めっきの継続時間は1分であった。
【0037】
電解めっき後、積層体を純水に1分間浸漬することにより、積層体が洗浄された。積層体の洗浄後、積層体に付着した水分が除去された。水分の除去後、110℃で6時間、積層体の熱処理が行われた。
【0038】
以上の方法により、実施例1の積層体が作製された。
【0039】
(実施例2)
実施例2の電解めっきの継続時間は1.5分であった。電解めっきの継続時間を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の積層体が作製された。
【0040】
(実施例3)
実施例3の場合、電解めっきではなく以下の無電解めっきにより、第一金属層の両方の表面に第二金属層が形成された。
【0041】
無電解めっき前に第一金属層の触媒処理が実施された。触媒処理では、第一金属層を触媒処理液中に1分間浸漬することにより、第一金属層の表面に触媒(硫酸パラジウム)を付着させた。触媒処理液の温度は40℃に調整された。触媒処理液としては、上村工業株式会社製のアクセマルタMNK‐4‐Mが用いられた。
【0042】
無電解めっきでは、触媒処理を経た第一金属層が無電解ニッケルめっき液中に1分間浸漬された。無電解ニッケルめっき液は、還元剤として、次亜リン酸ナトリウムを含んでいた。無電解ニッケルめっき液の温度は90℃に調整された。無電解めっきの継続時間は7分であった。無電解ニッケルめっき液としては、上村工業株式会社製のニムデンKLPが用いられた。
【0043】
以上の方法により、実施例3の積層体が作製された。
【0044】
(実施例4)
実施例4の無電解めっきの継続時間は10分であった。無電解めっきの継続時間を除いて実施例3と同様の方法で、実施例4の積層体が作製された。
【0045】
(実施例5)
実施例1のめっき液とは組成が異なるめっき液を用いて、実施例5の電解めっきが実施された。実施例5のめっき液は、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、ホウ酸、及びサッカリンナトリウムを含んでいた。実施例5のめっき液中の硫酸ニッケル六水和物の含有量は、240g/Lであった。実施例5のめっき液中の塩化ニッケル六水和物の含有量は、45g/Lであった。実施例5のめっき液中のホウ酸の含有量は、30g/Lであった。実施例5のめっき液中のサッカリンナトリウムの含有量は、2g/Lであった。実施例5のめっき液のpHは、4.2に調整された。実施例5のめっき液の温度は40℃に調整された。実施例5の電解めっきの継続時間は1.5分であった。
【0046】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5の積層体が作製された。
【0047】
(実施例6)
実施例6の電解めっきの継続時間は2分であった。電解めっきの継続時間を除いて実施例5と同様の方法で、実施例6の積層体が作製された。
【0048】
(実施例7)
実施例7のめっき液中のタングステン酸ナトリウム二水和物の含有量は、30g/Lであった。実施例7のめっき液中のクエン酸三ナトリウムの含有量は、80g/Lであった。実施例7のめっき液のpHは、7.0に調整された。実施例7の電解めっきの継続時間は4分であった。
上記事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例7の積層体が作製された。
【0049】
(実施例8)
実施例8のめっき液中の硫酸ニッケル六水和物の含有量は、70g/Lであった。実施例8のめっき液中のタングステン酸ナトリウム二水和物の含有量は、15g/Lであった。実施例8のめっき液中のクエン酸三ナトリウムの含有量は、80g/Lであった。実施例8のめっき液のpHは、7.0に調整された。実施例8の電解めっきの継続時間は3分であった。
上記事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8の積層体が作製された。
【0050】
(実施例9)
実施例9のめっき液中の硫酸ニッケル六水和物の含有量は、75g/Lであった。実施例9のめっき液中のタングステン酸ナトリウム二水和物の含有量は、8g/Lであった。実施例9のめっき液中のクエン酸三ナトリウムの含有量は、80g/Lであった。実施例9のめっき液のpHは、7.0に調整された。実施例9の電解めっきの継続時間は3分であった。
上記事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例9の積層体が作製された。
【0051】
(実施例10)
実施例10のめっき液中の硫酸ニッケル六水和物の含有量は、80g/Lであった。実施例10のめっき液中のタングステン酸ナトリウム二水和物の含有量は、4g/Lであった。実施例10のめっき液中のクエン酸三ナトリウムの含有量は、80g/Lであった。実施例10のめっき液のpHは、7.0に調整された。実施例10の電解めっきの継続時間は3分であった。
上記事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例10の積層体が作製された。
【0052】
(比較例1)
比較例1のめっき液は、サッカリンナトリウムを含んでいなかった。めっき液がサッカリンナトリウムを含まないことを除いて実施例5と同様の方法で、比較例1の積層体が作製された。
【0053】
(比較例2)
比較例2の電解めっきの継続時間は2分であった。電解めっきの継続時間を除いて比較例1と同様の方法で、比較例2の積層体が作製された。
【0054】
(比較例3)
実施例3の無電解ニッケルめっき液とは組成が異なる無電解ニッケルめっき液を用いて、比較例3の無電解めっきが実施された。比較例3の無電解ニッケルめっき液中の次亜リン酸ナトリウムの含有量は、実施例3の無電解ニッケルめっき液中の次亜リン酸ナトリウムの含有量よりも大きかった。比較例3の無電解ニッケルめっき液としては、奥野製薬工業株式会社製のICPニコロンSOFが用いられた。比較例3の無電解ニッケルめっき液の温度は85℃に調整された。
【0055】
上記の事項を除いて実施例3と同様の方法で、比較例3の積層体が作製された。
【0056】
(比較例4)
比較例4の無電解めっきの継続時間は10分であった。無電解めっきの継続時間を除いて比較例3と同様の方法で、比較例4の積層体が作製された。
【0057】
[積層体の分析]
以下の方法により、実施例1~10及び比較例1~4其々の積層体が分析された。
【0058】
積層方向(第二金属層の表面に垂直な方向)において、積層体が切断された。積層体の断面が、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察された。
【0059】
積層体の断面に露出する第二金属層の組成が、エネルギー分散型X線分光(EDS)によって分析された。実施例1~10及び比較例1~4其々の第二金属層は、下記表1に示される構成元素を含むことが確認された。実施例1~10及び比較例1~4其々の第二金属層中のNiの含有量は、下記表1に示される。
【0060】
実施例1~10及び比較例1~4のいずれの場合も、第一金属層の両方の表面に積層された第二金属層其々の厚みは、均一であった。第二金属層の厚みが積層体の断面において測定された。第二金属層の厚みT2は、下記表1に示される。2つの第二金属層2の厚みT2の合計T2TOTALも、下記表1に示される。
【0061】
積層体に備わる第二金属層の表面にX線を入射することによって、X線回折パターンが測定された。入射X線としては、CuKα線が用いられた。
【0062】
実施例1~10並びに比較例1及び2のいずれの場合も、第二金属層中のNiの結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークが、X線回折パターンに含まれていた。一方、比較例3及び4の場合、第二金属層中のNiの結晶に由来する明確なX線回折ピークは検出されなかった。したがって、比較例3及び4其々の第二金属層は非晶質であることが推察された。
【0063】
実施例1~10並びに比較例1及び2の場合、第二金属層中のNiの結晶に由来する少なくとも一つのX線回折ピークのうち強度が最大であるX線回折ピークPMAXの半値全幅は、下記表1に示される。実施例1~10並びに比較例1及び2のいずれの場合も、強度が最大であるX線回折ピークPMAXは、Niの結晶(面心立方構造)の(111)面に由来するX線回折ピークであった。
【0064】
実施例4のX線回折パターンは、
図2に示される。実施例4のX線回折ピークP
MAXは、
図3に示される。
【0065】
[引張試験]
荷重試験機に用いた以下の引張試験により、実施例1~10及び比較例1~4其々の積層体の引張強度が測定された。荷重試験機としては、アイコーエンジニアリング株式会社製のFTN1‐13Aが用いられた。
【0066】
積層方向における積層体の打ち抜き加工により、試験片が作製された。試験片の形状は、ダンベル状であった。張力を試験片に与えて、試験片が破断するまで張力を徐々に増加させた。試験片が破断する直前の最大張力(単位:N)を試験片の断面積(単位:m2)で除した値が、引張強度(単位:MPa)である。実施例1~10及び比較例1~4其々の引張強度は、下記表1に示される。
【0067】
【産業上の利用可能性】
【0068】
例えば、本発明の一側面に係る積層体は、リチウムイオン二次電池の負極集電体に用いられてよい。
【符号の説明】
【0069】
1…第一金属層、2…第二金属層、3…負極活物質層、10…積層体(集電体)、20…負極。