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特許7607689生物学的活性物質の経口送達のための架橋マルトデキストリン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】生物学的活性物質の経口送達のための架橋マルトデキストリン
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20241220BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20241220BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20241220BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20241220BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241220BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241220BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K38/28
A61K8/64
A61K8/73
A61P3/10
A23L33/10
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023038933
(22)【出願日】2023-03-13
(62)【分割の表示】P 2020501315の分割
【原出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2023082010
(43)【公開日】2023-06-13
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】17290094.6
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】トロッタ フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】カヴァッリ ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】カルデーラ ファブリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】アルジェンツィアーノ モニカ
(72)【発明者】
【氏名】タヌース マリア
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/004974(WO,A1)
【文献】特表2015-514747(JP,A)
【文献】特表2007-520202(JP,A)
【文献】特表2004-517103(JP,A)
【文献】特表2017-503836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 38/00-38/58
A61K 8/00- 8/99
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00-33/29
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋マルトデキストリンおよび有効量の生物学的活性物質を含む、生物学的活性物質の経口投与を意図した組成物であって
前記生物学的活性物質がインスリンであり、
前記架橋マルトデキストリンがマルトデキストリンを二官能性架橋化合物と反応させることによって得られ、前記架橋反応のための架橋化合物と前記マルトデキストリンのアンヒドログルコース単位との間のモル比が、0.1~10.0の範囲内で選択され、
前記マルトデキストリンは重量平均分子量が5000~15000Daの範囲であり、かつデンプンの全乾燥重量に対して乾燥重量で表して25~50%の範囲のアミロースを含むデンプンに由来する、組成物。
【請求項2】
マルトデキストリンが、5~20の範囲のデキストロース当量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記二官能性架橋化合物は、二無水物から選択される、請求項1または請求項2の組成物。
【請求項4】
前記二無水物がピロメリット酸二無水物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
薬剤として使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
糖尿病の治療または予防に使用するための、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記糖尿病が1型糖尿病および/または妊娠糖尿病である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記架橋マルトデキストリンに有効量の前記生物学的活性物質を積載する工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物または請求項のいずれか1項に記載の使用のための組成物の調製方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物および適切な賦形剤を含む長期持続放出経口製剤。
【請求項10】
製剤が薬剤または獣医学的製品として使用するためのものである、請求項に記載の持続放出経口製剤。
【請求項11】
前記製剤が、化粧品、食品および栄養補助食品からなる群から選択される製品である、請求項に記載の持続放出経口製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的活性物質、特にインスリンの経口投与に関し、送達システムとして架橋デンプン材料の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
胃腸管は、分極した上皮細胞の単一層から構成される、外界から内部構造を分離する粘膜表面を提示する。それらの繊細な性質にもかかわらず、これらの上皮シートは、身体が摂取を通して曝露されるほとんどの物質の偶然の、そして調節されていない取り込みに対して、強力な障壁を提供する。
【0003】
身体が毎日曝露される多くの毒素および病原体から身体を保護する一方で、この障壁はまた、ペプチド、タンパク質、ならびにDNAおよびRNAベースの薬物を含むバイオ医薬の効率的な取り込みを妨げる。
【0004】
これは、経口経路に関してはさらに困難である。全身循環に到達する前に、バイオ医薬品は、胃および腸を通して、それらの無傷の構造、完全性、およびコンホメーションを保持しなければならない。しかしながら、バイオ医薬品は、主に高い胃酸性度および加水分解酵素の存在に起因して、胃腸管環境に特に敏感である。
【0005】
さらに、タンパク質のような生物医薬品の大きな分子サイズおよび/または親水性の性質は、それらがムチン障壁、胃腸上皮をコーティングする粘液の厚い層を横切って拡散することを妨げる。
【0006】
この結果、非経口経路は、生物学的活性物質の投与のために一般に使用される。
【0007】
しかしながら、このような投与経路は、それらの侵襲性に固有の欠点を有する。それらは、局所的な疼痛、不快感、刺激、針刺し損傷、および感染の危険性を引き起こす。
【0008】
現在非経口的に投与されている周知の生物学的活性物質の中で、皮下注射を必要とするインスリンを挙げることができる
【0009】
このインスリンの全身投与経路はさらに、少量のインスリンのみが、それ自体の生理学的作用のために肝臓に首尾よく到達することができるという欠点を有する。末梢循環におけるインスリンの保持は、末梢インスリン抵抗性および免疫原性をもたらし得る。高インスリン血症はまた、注射されたインスリンが誤った標的で作用し、高血圧、心血管疾患、体重増加および末梢浮腫を引き起こす場合にも起こり得る。
【0010】
上記から、経口経路を介するインスリン(およびより一般的には生物学的活性物質)の送達は、全身投与経路を超えるいくつかの利点を有することになる。これは、特に、患者の快適さおよび治療へのコンプライアンスを改善するのに役立ち得る。
【0011】
最近、興味深いことに、特許出願ITBO20120710において、インスリンの経口投与のための送達システムとして、ピロメリット酸二無水物によって架橋されたシクロデキストリンを使用することが提案された。このような架橋物質に積載されたインスリンは、胃腸管内に無傷のまま残ることができるだけでなく、その膜を横切って血漿区画に入ることもできることが示された。
【0012】
しかしながら、これらの送達システムは、依然として改善される必要があった。この送達システムによるインスリンの経口摂取は投与後に血中インスリンの高いピークを引き起こし、これは有害な低血糖をもたらし得る。さらに、血液インスリンは摂取後非常に迅速に減少し、これは、血液インスリンを経時的に満足のいくレベルに維持するために反復投与が必要であることを意味する。
【0013】
したがって、インスリン、より一般的には生物学的活性物質の経口投与のための改善された安全な送達システムに対する満足のいかない必要性が依然として存在した。より具体的には、これらの生物学的活性物質の薬物動態学的挙動を改善することができる送達システムが依然として必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】ITBO20120710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、生物学的活性物質、特にインスリンの経口送達のための安全かつ効率的なシステムを提供することである。
【0016】
特に、本発明の目的は、経口投与される生物学的活性物質の薬物動態特性およびバイオアベイラビリティを改善することができる送達システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の提示
本発明者らは、先行技術の技術、特に特許出願ITBO20120710の架橋シクロデキストリンの欠点を、生物学的活性物質の大きなバイオアベイラビリティおよび薬物動態プロファイルに関連する、生物学的活性物質の非経口送達のための新規かつ安全なシステムを開発することによって、首尾よく改善した。
【0018】
本発明の送達システムは、架橋マルトデキストリンを使用することを特徴とする。
【0019】
本発明による送達システムは、経口投与後に活性タンパク質の薬物動態プロファイルを著しく増加させることができる。これは、本発明者らが本発明の送達システムによるインスリンの経口投与が特許出願ITBO20120710の架橋シクロデキストリンで得られるものよりも特に長く、長期間持続する影響を提供し得ることを実証した以下の実施例から明らかである。特に、本発明者らは、本発明の送達システムがインスリンのより遅い放出を有利に引き起こすことを示した。このことは、投与される同量のインスリンについて、より長期間にわたるインスリン放出を可能にし、したがって、より長く活性であり得ることであることを意味する。さらに、経口投与後に観察される血中インスリンのピークは、先行技術の送達システムで観察されるものよりも2倍低い。その結果、本発明の送達システムは、投与後の低血糖のリスクが少ないので、より安全である。
【0020】
本発明の送達システムはまた、容易に得られ、そして変形され得、そして十分に許容される生体ベースの材料であるデンプン質材料に基づくという利点を有する。
【0021】
発明の概要
したがって、本発明は最初に、架橋マルトデキストリンおよび有効量の前記生物学的活性物質を含む、生物学的活性物質の経口投与を意図した組成物に関する。
【0022】
本発明はまた、架橋マルトデキストリンに有効量の生物学的活性物質を積載する工程を含む、本発明による組成物の調製方法に関する。
【0023】
本発明はまた、生物学的活性物質の経口送達のための、架橋マルトデキストリンの使用に関する。
【0024】
本発明はまた、本発明による組成物の経口投与を含む、個体を治療するための方法に関する。
【0025】
さらなる局面において、本発明は本発明の組成物および適切な賦形剤を含む、持続放出経口製剤、すなわち、持続放出経口製剤に関する。経口製剤は、医薬品または獣医学的製品、または化粧品、食品および栄養補助食品からなる群から選択される製品であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1:pH1.2で異なる送達システムから放出されたインビトロインスリンの経時的パーセンテージ。
図2図2:pH6.8で異なる送達システムから放出されたインビトロインスリンの経時的パーセンテージ。
図3図3:インスリンを積載された異なる送達システムのマウスへの経口投与後のインビボ血中インスリン。
【発明を実施するための形態】
【0027】
したがって、本発明は、生物学的活性物質、特にインスリンの経口送達のための架橋マルトデキストリンの使用に関する。
【0028】
したがって、第1の態様において、本発明は生物活性物質の経口投与を意図した組成物に関し、前記組成物は、架橋マルトデキストリンおよび有効量の前記生物活性物質を含む。
【0029】
「マルトデキストリン」という表現は、古典的にはデンプンの酸加水分解および/または酵素加水分解によって得られるデンプン質材料を指す。調節状態(regulatory status)を参照すると、マルトデキストリンは、1~20のデキストロース当量(DE)を有する。
【0030】
好ましくは、本発明に有用なマルトデキストリンは、5~20、好ましくは10~20、好ましくは15~20の範囲で選択されるDEを有する。このDEは、例えば17に等しい。
【0031】
好ましくは、本発明に有用なマルトデキストリンは、前記デンプンの全乾燥重量に対する乾燥重量として表される、25~50%のアミロースを含むデンプンに由来する。
【0032】
このアミロース含量は、アミロースによって吸収されて複合体を形成するヨウ素の電位差分析によって、当業者によって古典的に決定され得る。
【0033】
好ましくは本発明に有用なマルトデキストリンは、25~45%、好ましくは30~45%、好ましくは35~40%の範囲内で選択されるアミロース含量を示すデンプンに由来し、これらのパーセンテージはデンプンの全乾燥重量に対するアミロースの乾燥重量で表される。
【0034】
「デンプン」という表現は、当業者に周知の任意の技術によって、任意の適切な植物源から単離されたデンプンを古典的に指すことに留意されたい。単離デンプンは典型的には3%以下の不純物を含有し、前記パーセンテージは、単離デンプンの全乾燥重量に対する不純物の乾燥重量で表される。これらの不純物は、典型的にはタンパク質、コロイド状物質および繊維状残渣を含む。適切な植物源としては、例えば、マメ科植物、穀類、および塊茎が挙げられる。この点に関して、本発明のデンプンは好ましくはマメ科のデンプン、さらに好ましくはえんどう豆デンプンであり、さらに好ましくはスムーズなえんどう豆デンプンである。
【0035】
好ましくは、本発明に有用なマルトデキストリンは、5,000~15,000ダルトン(Da)、好ましくは10,000~15,000Da、好ましくは10,000~14,000の範囲内、例えば12,000Daで選択される重量平均分子量を有する。
【0036】
この重量平均分子は特に、示差屈折計による検出を伴う液体クロマトグラフィーによって、好ましくはプルラン標準を使用することによって、当業者によって決定され得る。
【0037】
本発明に有用なマルトデキストリンはデンプンの加水分解によって得られるが、特に最終架橋マルトデキストリンの安全性および効率の点で、所望の特性を妨害しない限り、他の化学的および/または物理的修飾を受けている可能性がある。しかし、本発明では必要ではないと思われるので、本発明に有用なマルトデキストリンは、好ましくはさらなる修飾はされない。
【0038】
適切なマルトデキストリンは商業的に入手可能であり、例えば、KLEPTOSE(登録商標)Linecaps(ROQUETTE)の名称で市販されているものである。
【0039】
本発明に有用な架橋マルトデキストリンは、マルトデキストリンを架橋化合物と反応させることによって得ることが可能である(または得られる)。架橋化合物は典型的には多官能性であり、すなわち、架橋化合物は、少なくとも2つの反応性官能基を含む。好ましくは、架橋化合物は二官能性である。典型的には本発明において、反応性官能基は求核攻撃を受ける、すなわち部分的に正の電荷を有する炭素を有する。
【0040】
好ましくは、本発明のクロスリンク化合物は、ジアンハイドライドから選択される。本発明の架橋化合物は、さらにより好ましくはピロメリット酸二無水物である。
【0041】
好ましくは、本発明の架橋マルトデキストリンは以下のパターンを含む:
【化1】
【0042】
式中、R1、R2、R3、およびR4は独立して、マルトデキストリンの水素原子または無水グルコース単位から選択され、その数または前記無水グルコース単位は前記パターンにおいて少なくとも2に等しい。好ましくは、前記無水グルコース単位の数は2に等しく、すなわち、基R1~R4の2つは水素であり、基R1~R4の2つは無水グルコース単位である。
【0043】
この架橋マルトデキストリンは特に、マルトデキストリンをピロメリット二無水物と反応させることによって得ることができる。一般に、このような架橋化合物を使用する場合、R1およびR3は両方とも無水グルコース単位ではなく、R2およびR4は両方とも無水グルコース単位ではない。
【0044】
好ましくは架橋反応のために、架橋化合物と前記マルトデキストリンのアンヒドログルコース単位との間のモル比は0.1~10.0、より好ましくは0.1~5.0、さらにより好ましくは0.1~1.0、さらにより好ましくは0.5~0.7の範囲で選択される。例えば、0.6に等しく、すなわち、0.6モルの架橋化合物が、1モルの無水グルコース単位で使用される。
【0045】
より具体的には、本発明の架橋マルトデキストリンは、好ましくは以下の工程を含む方法によって得ることが可能である(またはそれによって得られる):
a)マルトデキストリンの溶液を調製する工程、前記マルトデキストリンは、好ましくは先に記載されたものと同様である;
b)少なくとも1つの架橋化合物を添加する工程、前記架橋化合物は、好ましくは先に記載したものと同様である;
c)架橋マルトデキストリンを得る工程。
【0046】
好ましくは本発明の架橋マルトデキストリン、特に生物学的活性物質が積載された経口投与用の架橋マルトデキストリンは粒子の形態である。
【0047】
その場合、本発明に有用な架橋マルトデキストリン粒子の平均直径は、1~1000nmの範囲で選択される。それは、好ましくは少なくとも10nm、より好ましくは少なくとも50nm、さらにより好ましくは少なくとも100nmである。これは、例えば、100~1000nmの範囲内で選択される。
【0048】
この平均直径は流体力学的直径である。これは、レーザ光散乱によって当業者によって決定することができる。これは、例えば、以下の実施例に詳述される手順に従って決定することができる。
【0049】
好ましくは、前記平均直径に対する多分散性指数は1.00未満である。この多分散性指数は、一般に0.05より大きい。
【0050】
好ましくは、本発明の架橋マルトデキストリンは、0mV未満、好ましくは-10mV未満、さらには-20mV未満のゼータ電位を有する。このゼータ電位は、一般に-50mVより大きく、-40mVよりも大きい。
【0051】
このゼータ電位は、架橋マルトデキストリン懸濁液について、25℃の温度で90°の散乱角度で動的光散乱によって電気泳動移動度によって当業者によって決定することができる。これは、例えば、以下の実施例に詳述される手順に従って決定することができる。
【0052】
好ましくは本発明の架橋マルトデキストリンの積載容量は少なくとも1%であり、前記パーセンテージは前記生物学的活性物質が積載された、積載された架橋マルトデキストリンの全乾燥重量に対する生物学的活性物質の乾燥重量を表す。好ましくは、この積載容量は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%である。この積載容量は一般に30%未満であり、20%未満でさえある。
【0053】
この積載容量は、当業者によってHPLCによって決定することができる。これは、例えば、以下の実施例に詳述される手順に従って決定することができる。
【0054】
本発明の架橋マルトデキストリンは特に効率および安全性に関して、前記架橋マルトデキストリンの所望の特性を妨害しない限り、本発明に有用なマルトデキストリンおよび架橋化合物以外の他の化合物をその構造中に含むことができる。「他の化合物」によって、例えば、マルトデキストリンの調製のための原料として使用されるデンプンに由来する不純物のような不純物を含むことを本発明者らが意図しないことが理解される。このような他の化合物は、古典的には本発明に有用なマルトデキストリンおよび/または他の架橋化合物以外の他のポリマーである。それらは、典型的には架橋マルトデキストリンを得るために使用される全化合物の10重量%以下を表す。しかし、より好ましくは、本発明の架橋マルトデキストリンは、その構造中に、マルトデキストリンおよび本発明に有用な架橋化合物以外の他の化合物を含まない。
【0055】
本発明の架橋マルトデキストリンは、生物学的活性物質の経口投与に特に有用である。
【0056】
本発明によれば、「生物学的活性」という定義により、経口経路によって送達される任意の種類の医薬または非医薬生物学的物質が意図される。
【0057】
「生物学的活性」という表現は、古典的にはタンパク質、DNAまたはRNAベースの活性物質のような核酸ベースの活性物質、細胞ベースの活性物質、およびウイルスベースの活性物質のような活性物質を指す。特に、これらの活性成分は例えば、このような投与経路がそれらの分解を引き起こすため、および/またはそれらが生物学的障壁を横切ることができないために、経口投与された場合に生物学的に利用可能でないという事実によって特徴付けられる。換言すれば、これらは、典型的には非経口的に投与された場合にのみ生物学的に利用可能である活性物質である。これらの活性物質は、典型的には全身効果が望まれる活性物質である。そのような活性成分はそれらがそのまま摂取される場合、典型的には、(i)胃腸管(GIT)を通して、例えば、胃の低いpHのために、または酵素分解のために分解され、および/または(ii)例えば、それらのサイズおよび/または極性のために、(GIT)障壁を通過することができない。
【0058】
好ましくは、本発明による生物活性物質はタンパク質である。本発明の文脈において、用語「タンパク質」は当業者によって慣用的に理解されるように、広く定義される。これは、特に、タンパク質が製造される方法にかかわらず、およびサブユニットの数にかかわらず、タンパク質を包含する。これはまた、タンパク質、ペプチドおよびオリゴペプチドのフラグメントを包含する。それらは、天然タンパク質、組換えタンパク質、または融合タンパク質であり得る。本発明のタンパク質は、好ましくは少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも20アミノ酸から構成される。本発明に有用なタンパク質は、例えば植物などの天然産物に由来する場合、通常、単離されたタンパク質であることが理解される。
【0059】
本発明の活性タンパク質は、好ましくは医薬、獣医学、化粧品、食品または栄養補助食品分野を目的とする活性タンパク質である。それは、好ましくは医薬タンパク質、例えば酵素、サイトカイン、ホルモン、成長因子、血漿因子、ワクチン、抗体から選択される。好ましくは、本発明に有用な医薬タンパク質は、インスリンまたはその薬学的に活性な誘導体、好ましくはインスリンである。
【0060】
したがって、さらなる態様において、本発明は生物学的活性物質の経口投与を意図した組成物に関し、前記組成物は、架橋マルトデキストリンと、薬剤として使用するための有効量の前記生物学的活性物質とを含む。
【0061】
生物学的活性物質が好ましくはインスリンおよび/またはその薬学的活性誘導体である場合、本発明はまた、糖尿病、好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病の予防または治療に使用するための、架橋マルトデキストリンおよび有効量のインスリンおよび/またはその薬学的誘導体を含む、インスリンおよび/またはその薬学的誘導体の経口投与を意図した組成物を指す。
【0062】
本発明による使用は、医薬的または非医薬的使用を包含する。これは、本質的に、関係する生物学的活性、および/または前記生物学的活性によって治療および/または予防される状態に依存する。
【0063】
したがって、本発明は、架橋マルトデキストリンおよび有効量の前記生物学的活性物質を含む、生物学的活性物質の経口投与を意図した組成物に関する。
【0064】
好ましくは、架橋されたマルトデキストリンは、好ましい実施形態において前に記載されたものと同様である。
【0065】
好ましくは、生物学的活性物質は、好ましい実施形態において前に記載されたものと同様である。それは、好ましくはインスリンおよび/またはその薬学的に活性な誘導体である。
【0066】
好ましくは、本発明の組成物は、好ましくは糖尿病、好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病の治療または予防のための薬剤である。さらにより好ましくは、糖尿病、好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病の治療のためである。
【0067】
本発明の組成物において、生物学的活性物質は、架橋マルトデキストリン中に有利に積載される。
【0068】
積載を行うために、本発明の架橋マルトデキストリンは、液体状態、固体状態または半固体状態で使用することができる。例えば、架橋マルトデキストリンを少量の水と混合してゲルを得ることができる。次いで、このゲルは、混練および/または混合によって、積載されるべき生物学的活性物質と、粉末状態で、または適切な溶媒中に溶解された状態で混合される。あるいは、積載された架橋マルトデキストリンが選択された量の架橋マルトデキストリンを、室温で一晩撹拌した後、適切な溶媒に溶解した過剰のゲスト生物活性物質と共に添加することによって容易に得ることができる。積載が生じ、真空下で単に濾過することによって回収される。
【0069】
したがって、本発明はさらに、本発明に有用な架橋マルトデキストリンに有効量の生物学的活性物質を積載する工程を含む、本発明による組成物の調製のための方法に関する。
【0070】
本発明はまた、本発明による組成物の経口投与を含む、個体を治療するための方法に関する。
【0071】
好ましくは、この方法が糖尿病、より好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病の治療または予防のためのものである。さらにより好ましくは、糖尿病、好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病の治療のためである。
【0072】
好ましくは、この方法が糖尿病、好ましくは1型糖尿病および/または妊娠糖尿病に罹患している個体を治療するためのものである。
【実施例
【0073】
本発明は、以下の実施例に鑑みてより良く理解されるのであろう。
【0074】

A.送達システム合成
1.本発明による送達システム(MDX-PYR):0.57のピロメリット酸二無水物(PMDA)/無水グルコース単位のモル比で、PDMAによって架橋されたマルトデキストリン
【0075】
水浴およびマグネチックスターラーにセットした丸底フラスコに、9.78gの脱水KLEPTOSE(登録商標)Linecaps(マルトデキストリン由来の平滑なエンドウマメデンプンであり、アミロース含量が35~45%、DEが17、重量平均分子量が12000Da)を含むDMSO40mLを導入し、無色の均一な溶液が得られるまで撹拌した。10mLのトリエチルアミンを溶液に添加し、次いで7.52gのピロメリット酸二無水物を添加した。暗色の非晶質固体様ゲルが形成され、一晩放置して固化させた。乳鉢および乳棒を使用して、架橋マルトデキストリンを粉砕し、蒸留水、次いでブフナー中のアセトンで数回洗浄し、乾燥し、次いでソックスレー中で60~70℃で48時間アセトンで抽出した。最後に、清浄な粉末を乾燥させ、粉砕し、回収した。
【0076】
こうして得られたMDX-PYR粒子の停止をトップダウン法を用いて調製した。MDX-PYRは、常温で蒸留下で10mg/mlの濃度で、生理食塩水(NaCl 0.9% w/v)で停止した。次いで、高剪断ホモジナイザー(Ultraturrax(登録商標), IKA,Konigswinter, Germany)を用いて懸濁液を10分間分散させた。次いで、懸濁液を、500バールの背圧で90分間、高圧均質化に供した(EmulsiFlex C5, Avastin, USA)。最後に、MDX-PYR懸濁液を透析で浄化し、潜在合成残留物(スペクトラポール、セルロース膜、カットオフ12000Da)を除去し、最後に-4℃で貯留した。
【0077】
2.比較送達システム(BCD-PYR):0.57のピロメリット酸二無水物(PMDA)/無水グルコース単位のモル比で、PDMAによって架橋されたシクロデキストリン
イタリア特許出願ITBO20120710の実施例1に従って、比較架橋β-シクロデキストリンBCD-PYRを調製した。
【0078】
B.送達システムのキャラクタリゼーション
上記セクションA.に従って得られた送達システムを、以下の特徴:平均直径、多分散性指数、ゼータ電位、pH値について特徴付けた。
【0079】
pHは、pHメーター(Orion model 420A)を用いて、10mg/mLの送達システムを含む懸濁液について室温で評価した。
【0080】
平均直径および多分散性指数およびゼータ電位の決定のために、10mg/mLの送達システムを含む懸濁液を、最初に、1/30容量の希釈係数を使用して、濾過した(0.22μm)蒸留水で希釈した。
【0081】
平均直径および多分散性指数は、送達システムの希釈懸濁液について、レーザー光走査(90plus Instrument, Brookhaven, NY, USA)によって決定した。分析は、1.330の屈折率および0.890 cPsの粘度を用い、25℃の温度で90℃の散乱角で行った。
【0082】
ゼータ電位は、同じ装置を用いて電気泳動移動度によって送達システムの希釈懸濁液について測定した。分析は、散乱角90℃、温度25℃で行った。ゼータ電位測定のために、希釈送達システム製剤のサンプルを電気泳動セルに入れ、15V/cmの電場を印加した。
【0083】
結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
C.インスリン積載
1.インスリン積載プロトコール
ウシ膵臓粉末からのインスリンを用いて、リン酸を用いてpH 2.3に調整した蒸留水中の2mg/mL溶液を調製した。インスリン溶液を、1:5の質量比インスリン溶液:ナノ懸濁液で、予め形成された水性ナノ懸濁液に添加した。混合物を室温で30分間撹拌し、組み込み、遠心分離し、次いで沈殿物から分離した上清を回収し、将来使用するために凍結乾燥した
【0086】
2.評価
a.積載容量
積載容量は、凍結乾燥したインスリン積載サンプルから決定した。簡単に述べると、インスリンを積載した2~3mgの凍結乾燥送達システムの重量を5mLの蒸留水中に分散させた。超音波処理(15分、100W)および遠心分離処理を行って、システム送達からのインスリンの放出を可能にした。次に、上清をインスリンの定量測定のために分析した。
【0087】
インスリンの定量は、分光光度計検出器(Flexar UV/Vis LC, Perkin Elmer, Waltham, MA)を備えたHPLCポンプ(Perkin Elmer 250B, Waltham, MA)による高速液体クロマトグラフィー分析によって行った。分析カラムC18(250mm ×4.6mm、ODS超球5μm; Beckman Instruments, USA)を使用した。移動相は蒸留水中の0.1M硫酸ナトリウムおよびアセトニトリル(72:28v/v)の混合物からなり、0.45μmナイロン膜を通して濾過し、使用前に超音波脱気した。紫外線検出は214nmに固定し、流量は1ml/分に設定した。インスリン濃度は、標準検量線から外部標準法を用いて計算した。このために、1mgのインスリンを秤量し、10mLのメスフラスコに入れ、リン酸でpH 2.3に調整した蒸留水に溶解して母液を得た。次いで、この溶液を移動相を用いて希釈し、一連の標準溶液を調製し、その結果、HPLCシステムに注入した。線形検量線は、0.999の回帰係数で直線的にプロットされた0.5-25μg/mLの濃縮領域にわたって得られた。
【0088】
送達システムの積載容量は、以下のように計算した:
[インスリン重量/凍結乾燥送達システム重量]×100。
【0089】
結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
b.In vitro薬物放出動態
in vitro薬物放出実験を、セルロース膜(Spectrapore、カットオフ12000~14000Da)によって他方の側の受容細胞から分離された一方の側のいくつかのドナー細胞から構成される、多区画回転ディスク(ドナー区画から膜によって分離されたドナーチャンバーを含む拡散細胞系)中で行った。インスリン積載送達システムをドナー細胞(1mL)に入れた。受容細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水PBS溶液(pH 1.2およびpH 6.8)によって別々に満たした。インビトロ放出検討を6時間実施し、受容相を規則的な間隔で取り除き、同量の新しいPBS溶液で置き換えた。調査したサンプリング時間は、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、および6時間であった。採取したサンプル中のインスリン濃度を、後にHPLCによって検出した。
【0092】
結果を図1および2に示す。
【0093】
先行技術の送達システムと同様に、発明の送達システムMDX-PYRは、呼吸器pHでのインスリン放出を妨げるのに対し(図1)、腸内pHでのインスリン放出を許容する(図2)。すなわち、本発明の送達システムMDX-PYRは、泌尿器の高い酸性のために吸水するのであろうpHでのインスリンの放出を妨げ、インスリン吸収が望まれる腸内でのインスリンの放出を許容するということである。
【0094】
しかしながら、先行技術の送達システムBCD-PYRとは対照的に、本発明の送達システムMDX-PYRは、有利にはインスリンのより遅い放出を可能にする。すなわち、インスリンは、より長い期間の間、潜在的に生体利用可能である。これはまた、本発明の送達システムが、摂取後の血中インスリンの残酷な増大を引き起こす可能性が少ないことを意味する。すなわち、本発明の送達システムは、血液インスリンの粗暴な増加が有害な低血糖を導き得るので、潜在的により安全である。
【0095】
本発明の送達システムのこの大きな可能性は、以下のin vivo実験において調査され、確認された。
【0096】
c.インスリンを積載した送達システムのインビボ経口投与
送達システム製剤を、胃内での経口胃管栄養法によってマウスに投与した。インスリン濃度は6U/ml(210mg/mlインスリン)であったので、投与量30U/kgおよび採血を0、30、60、120、180および240分で収集した。インスリンは後に、以下のプロトコールを用いて血漿サンプルから抽出した。100μlの血漿、100μlのPBS(pH 7.4)、50μlのアセトニトリル、20μlのエチルパラベン、3mlのジクロロメタン/n-ヘキサン(1:1v/v)をそれぞれ添加した。混合物を2分間ボルテックスし、次いで5000rpmで10分間遠心分離した。上清を試験管に移して蒸発させ、有機相を窒素フラックス下に置いた。その後、300μlのHCl 0,05Nをボルテックス上で2分間添加した。有機相を窒素フラックス下で完全に蒸発させた後、15000rpmで10分間遠心分離した。透明な上清を、適切に希釈した後、HPLCに注入した。
【0097】
結果を図3に示す。
【0098】
本発明のインスリン積載架橋型マルトデキストリンMDX-PYRの経口投与後、血液インスリンは血圧4ppm/50μLまで増加し、その後、時間とともにゆっくりと減少する。反対に、先行技術の架橋β-シクロデキストリンBCD-PYRを使用する場合、血中インスリンは8ppm/50μLまでの血漿の残酷な増加を示し、続いて急速な減少を示す。経口摂取の4時間後、血中インスリンは、本発明の送達システムの使用により2倍高い。
【0099】
したがって、これらの実験は、本発明の送達システムによってもたらされる有利な薬物動態学的挙動を確認した。結果は、(i)より大きな安全性(摂取後のより低い血中インスリンピーク)、および(ii)本発明の送達システムの使用に関連する、より長期間持続する影響(4時間後もなお高い血中インスリン)を確認した。
図1
図2
図3