(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム、鋼材の腐食量予測プログラム及び鋼材の提案方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2023511051
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013419
(87)【国際公開番号】W WO2022210151
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021059457
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉見 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】平出 信彦
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/006957(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/234921(WO,A1)
【文献】特開2018-025497(JP,A)
【文献】特開2000-131363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0290974(US,A1)
【文献】石川雄一,尾崎敏範,極地統計解析による局部腐食損傷の予測,日本金属学会会報,日本,日本金属学会,1982年03月20日,21(3),133-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻t
Xi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値W
Xから求まる鋼材の腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を用いる、鋼材の腐食量を予測する方法であって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値W
Mに基づいて、過去の観測時刻t
Mi毎に鋼材の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)を求め、観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を推測する極値推測ステップと、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値W
Zに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻t
Zi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(t
Zi,W
Z)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を導入して、前記
評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測ステップと、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量の予測方法。
【請求項2】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3A)により計算する第4ステップと、を備えている、請求項1に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3A)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項3】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3B)により計算する第4ステップと、を備えている、請求項1に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tb・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項4】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3C)により計算する第4ステップと、を備えている、請求項1に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tc・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xiにおける鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0の場合にs(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0超の場合にs(t
Xi)=1とする。前記ws(t
Xi)は、前記観測時刻t
Xiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻t
Xiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、前記ws(t
Xi)が0を超える場合にp(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0以下の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項5】
前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
【請求項6】
鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻t
Xi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値W
Xから求まる鋼材の腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を用いる、電子計算機による鋼材の腐食量予測システムであって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値W
Mに基づいて、過去の観測時刻t
Mi毎に鋼材の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)を求め、観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を推測する極値推測部と、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値W
Zに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻t
Zi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(t
Zi,W
Z)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測部において推測した腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を導入して、前記
評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測部と、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量予測システム。
【請求項7】
前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3A)により計算する第4処理部と、を備えている、請求項6に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3A)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項8】
前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3B)により計算する第4処理部と、を備えている、請求項6に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tb・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項9】
前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3C)により計算する第4処理部と、を備えている、請求項6に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
Xi-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tc・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xiにおける鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0の場合にs(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0超の場合にs(t
Xi)=1とする。前記ws(t
Xi)は、前記観測時刻t
Xiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻t
Xiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、前記ws(t
Xi)が0を超える場合にp(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0以下の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項10】
前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、請求項6乃至請求項9の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
【請求項11】
鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻t
Xi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値W
Xから求まる鋼材の腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を用いる、電子計算機に利用される鋼材の腐食量予測プログラムであって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値W
Mに基づいて、過去の観測時刻t
Mi毎に鋼材の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)を求め、観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を推測する極値推測ステップと、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値W
Zに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻t
Zi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(t
Zi,W
Z)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を導入して、前記
評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測ステップと、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量予測プログラム。
【請求項12】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3A)により計算する第4ステップと、を備えている請求項11に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
XiS-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3A)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項13】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3B)により計算する第4ステップと、を備えている請求項11に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
XiS-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tb・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(t
Xi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項14】
前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻t
Xi毎の風速u(t
Xi)、風向θw(t
Xi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、一次腐食性指標Q
1(t
Xi,W
X)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、二次腐食性指標Q
2(t
Xi,W
X)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻t
Xi毎に、腐食性指標Q(t
Xi,W
X)を下記式(3C)により計算する第4ステップと、を備えている請求項11に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q
1(t
Xi,W
X)=(d+1)
-0.6{u(t
Xi)・cos|θs-θw(t
Xi)|}
2 …(1)
Q
2(t
Xi,W
X)={Q
2(t
Xi-1,W
X)+Q
1(t
Xi,W
X)・s(t
Xi)・(t
Xi-t
XiS-1)}・c(t
Xi) …(2)
Q(t
Xi,W
X)=10
0.04Tc・Q
2(t
Xi,W
X)・p(t
Xi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(t
Xi)は、観測時刻t
Xiの風速(m/s)であり、θw(t
Xi)は北を0°とした場合の観測時刻t
Xiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(t
Xi)は腐食性消失係数であって、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値超の場合にc(t
Xi)=0、観測時刻t
Xi-1~t
Xi間の降雨量が閾値以下の場合にc(t
Xi)=1とする。
式(2)におけるs(t
Xi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻t
Xiにおける鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0の場合にs(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0超の場合にs(t
Xi)=1とする。前記ws(t
Xi)は、前記観測時刻t
Xiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻t
Xiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(t
Xi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(t
Xi)は腐食性発現係数であって、前記ws(t
Xi)が0を超える場合にp(t
Xi)=0とし、前記ws(t
Xi)が0以下の場合にp(t
Xi)=1、とする。
【請求項15】
前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、請求項11乃至請求項14の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
【請求項16】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を予測する予測工程と、
前記予測工程によって得られた腐食量の予測値または腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法。
【請求項17】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を、複数種類の鋼材についてそれぞれ予測する予測工程と、
前記予測工程によって得られた鋼材毎の腐食量の予測値または腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法。
【請求項18】
前記腐食量の予測値が、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーである、請求項16または請求項
17に記載の鋼材の提案方法。
【請求項19】
前記腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像が、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーに対応する画像である、請求項16または請求項
17に記載の鋼材の提案方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム、鋼材の腐食量予測プログラム及び鋼材の提案方法に関する。
本願は、2021年3月31日に、日本に出願された特願2021-59457号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
建築用鋼材は、建物外壁、柱、梁などの素材として用いられる。建築用鋼材の購入を検討若しくは購入を決めた需要者は、建築用鋼材を長期間に渡り屋外環境下で使用した場合の将来の腐食量を予測したいという要望を持っている。
【0003】
特許文献1には、電子計算機によって、耐候性鋼を使用する予定の使用予定位置における年間ぬれ時間、年平均風速、年平均気温、飛来塩分量及び硫黄酸化物量を含む外因性の腐食情報並びに耐候性鋼の成分に関する内因性の腐食情報を用いて、耐候性鋼の予測腐食量を計算する工程を有する耐候性鋼の腐食予測方法が記載されている。
【0004】
ところで、鋼材の腐食は、突発的な気象変動に大きく影響される場合がある。例えば、海岸に近い地点において、台風接近に伴い風速が通常の気象条件に比べて著しく増大するような事象が発生したり、気圧配置の影響により短時間の間に風速が著しく増大する事象が発生すると、比較的短期間のうちに建物用鋼材に多量の塩分が付着する。これにより、鋼材の腐食量が著しく増大する場合がある。
【0005】
特許文献1では、将来の予測腐食量を求める際に、年平均風速や年平均気温などの年間平均値に基づいた予測を行っている。しかし、年間平均値に基づいた予測では、データの構造上、上述のような鋼材の腐食に大きな影響を与え得る短期間の突発的な気象変動が考慮されない。よって、従来の予測方法よりも腐食量の予測精度を向上させる余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鋼材の腐食量の予測精度を向上させることが可能な、鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムを提供することを課題とする。また、本発明は、鋼材の腐食量の予測方法によって予測された鋼材の腐食量を利用した、鋼材の提案方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻tXi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値WXから求まる鋼材の腐食性指標Q(tXi,WX)を用いる、鋼材の腐食量を予測する方法であって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求め、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する極値推測ステップと、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値WZに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入して、前記評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測ステップと、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量の予測方法。
なお、上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値の対数との関係式としてもよい。
[2] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3A)により計算する第4ステップと、を備えている、[1]に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3A)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[3] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3B)により計算する第4ステップと、を備えている、[1]に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tb・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[4] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3C)により計算する第4ステップと、を備えている、[1]に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tc・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0の場合にs(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0超の場合にs(tXi)=1とする。前記ws(tXi)は、前記観測時刻tXiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、前記ws(tXi)が0を超える場合にp(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0以下の場合にp(tXi)=1、とする。
[5] 前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、[1]乃至[4]の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量の予測方法。
[6] 鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻tXi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値WXから求まる鋼材の腐食性指標Q(tXi,WX)を用いる、電子計算機による鋼材の腐食量予測システムであって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求め、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する極値推測部と、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値WZに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測部において推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入して、前記評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測部と、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量予測システム。
なお、上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値の対数との関係式としてもよい。
[7] 前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3A)により計算する第4処理部と、を備えている、[6]に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3A)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[8] 前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3B)により計算する第4処理部と、を備えている、[6]に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tb・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[9] 前記極値推測部及び前記腐食量推測部にはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算部が備えられており、
前記計算部は、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3処理部と、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3C)により計算する第4処理部と、を備えている、[6]に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tc・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0の場合にs(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0超の場合にs(tXi)=1とする。前記ws(tXi)は、前記観測時刻tXiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、前記ws(tXi)が0を超える場合にp(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0以下の場合にp(tXi)=1、とする。
[10] 前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、[6]乃至[9]の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量予測システム。
[11] 鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻tXi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値WXから求まる鋼材の腐食性指標Q(tXi,WX)を用いる、電子計算機に利用される鋼材の腐食量予測プログラムであって、
前記観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求め、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する極値推測ステップと、
試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、前記観測地点Xが前記試験地点Zである気象観測値WZに基づいて前記腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式を予め求めておき、この関係式に、前記極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入して、前記評価期間における鋼材の腐食量の推測値を得る腐食量推測ステップと、を備えることを特徴とする、鋼材の腐食量予測プログラム。
なお、上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値の対数との関係式としてもよい。
[12] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3A)により計算する第4ステップと、を備えている[11]に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXiS-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3A)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3A)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[13] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3B)により計算する第4ステップと、を備えている[11]に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXiS-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tb・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3B)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。
式(3B)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。
[14] 前記極値推測ステップ及び前記腐食量推測ステップにはそれぞれ、前記腐食性指標Q(tXi,WX)を求める計算ステップが備えられており、
前記計算ステップは、
前記観測地点Xにおける前記観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する第2ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する第3ステップと、
前記観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3C)により計算する第4ステップと、を備えている[11]に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXiS-1)}・c(tXi) …(2)
Q(tXi,WX)=100.04Tc・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3C)
ただし、式(1)におけるdは、前記観測地点Xに最も近い海岸と前記観測地点Xとの距離(m)であり、u(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は北を0°とした場合の観測時刻tXiでの風向(°)であり、θsは、前記観測地点Xに最も近い海岸からの前記観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0の場合にs(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0超の場合にs(tXi)=1とする。前記ws(tXi)は、前記観測時刻tXiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。
式(3C)におけるTcは、前記観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)である。
式(3C)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、前記ws(tXi)が0を超える場合にp(tXi)=0とし、前記ws(tXi)が0以下の場合にp(tXi)=1、とする。
[15] 前記鋼材が、ステンレス鋼からなる鋼材であることを特徴とする、[11]乃至[14]の何れか一項に記載の、鋼材の腐食量予測プログラム。
[16] [1]乃至[5]の何れか一項に記載の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を予測する予測工程と、
前記予測工程によって得られた腐食量の予測値または腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法。
[17] [1]乃至[5]の何れか一項に記載の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を、複数種類の鋼材についてそれぞれ予測する予測工程と、
前記予測工程によって得られた鋼材毎の腐食量の予測値または腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法。
[18] 前記腐食量の予測値が、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーである、[16]または[17]に記載の鋼材の提案方法。
[19] 前記腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像が、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーに対応する画像である、[16]または[17]に記載の鋼材の提案方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムでは、鋼材の利用予定地点Mにおける過去の観測時刻tMi毎の腐食性指標QM(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことで、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する。次いで、腐食試験の結果から予め求めておいた鋼材の実測腐食量と鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)との関係式に、腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入する。本発明は、このようにして将来の鋼材の腐食量を推測するので、従来の年平均値に基づいて腐食量を予測する方法に比べて、腐食量の予測精度を高めることができる。
また、本発明の鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムは、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験の結果に基づき、利用予定地点Mにおける鋼材の将来の腐食量を推測するものである。本発明では、試験地点Zにおける鋼材の実測腐食量と腐食性指標Q(tZi,WZ)との対応関係と、利用予定地点Mの気象観測値WMから得た腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データとが得られていればよい。よって、本発明は、汎用性に優れる。
【0010】
また、本発明の鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムによれば、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)及び二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を順次求め、更に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)から腐食性指標Q(tXi,WX)を求める。ここで、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)は、鋼材への塩分付着量の指標となるものであり、風速u(tXi)及び風向θs、θw(tXi)に基づいて算出される。また、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)は、観測時刻tXiの直前の観測時刻である観測時刻tXi-1における二次腐食性指標Q2(tXi-1,WX)に、観測時刻tXiにおける一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を加算し、更に腐食の主原因である塩分が降雨により洗い流されることを腐食性消失係数c(tXi)として導入するとともに、鋼材表面に結露水が発生しやすい夜間に塩分の付着が増大することを腐食性蓄積係数s(tXi)として導入することにより算出される。そして、腐食性指標Q(tXi,WX)は、夜間に付着した塩分を含む結露水が昼間の日照により乾燥されることで腐食が進展する事象を腐食性発現係数p(tXi)により数値化し、この腐食性発現係数p(tXi)を二次腐食性指標Q2(tXi,WX)に乗じることで算出される。これにより、鋼材の塩分付着量に影響を与える気象状況が反映された腐食性指標Q(tXi,WX)を得ることができ、これを用いることで、腐食量の予測精度を高めることができる。
【0011】
本発明の鋼材の提案方法は、本発明の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を予測し、得られた腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示する。これにより本発明は、鋼材を長期間に渡り屋外環境下で使用した場合の将来の腐食量の予測値を知りたいという顧客の要望に応えることができる。また、本発明は、精度の高い腐食量の予測値を提供できるので、適切な鋼材を顧客に勧めることができる。
【0012】
また、本発明の鋼材の提案方法によれば、本発明の鋼材の腐食量の予測方法により、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を、複数種類の鋼材についてそれぞれ予測し、得られた鋼材毎の腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示する。これにより本発明は、鋼材を長期間に渡り屋外環境下で使用した場合の将来の腐食量の予測値を知りたいという顧客の要望に応えることができる。また、本発明は、精度の高い腐食量の予測値を鋼種毎に提供できるので、適切な鋼材選択して顧客に勧めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態である鋼材の腐食量予測システムを説明する模式図。
【
図2】本発明の実施形態である鋼材の腐食量予測プログラムを説明する模式図。
【
図3】腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の経時変化の一例を示すグラフ。
【
図4A】観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データの一例を示すグラフ。
【
図4B】将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を示すグラフ。
【
図5】SUS304についての最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との関係を示すグラフ。
【
図6】本実施形態の腐食量の推測方法のアウトプットの一例を示すグラフ。
【
図7】SUS304についての最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との関係を示すグラフ。
【
図8】SUS304についての温度補正後の最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
屋外環境下に置かれた鋼材は、風の影響などにより、例えば塩分のような腐食を促進させる物質が鋼材表面に付着することで、徐々に腐食が進行する。ビル等の一般的な建築物や、橋梁、塔などの土木構造物は、屋外環境下において長期間にわたる耐久性が要求される。従って、これら建築物や構造物に使用される鋼材は、将来の腐食量の進行度を予測できることが好ましい。従来技術として、年間ぬれ時間、年平均風速、年平均気温等に基づいて、腐食量を予測する方法が知られていた。
【0015】
しかし、鋼材の腐食は、塩分が付着することで急激に腐食が進展する場合があり、突発的な気象変動に大きく影響される場合がある。そのため、年間平均値に基づいた従来の予測では、データの構造上、鋼材の腐食に大きな影響を与え得る短期間の突発的な気象変動が考慮されない。よって、従来の予測方法よりも腐食量の予測精度を向上させる余地があった。
【0016】
すなわち、屋外環境下に置かれた鋼材の腐食量は、鋼材に付着する塩分量に影響される。塩分は、主に、海岸方向から吹く風に運ばれて鋼材に付着するので、従来は、風速の月間平均値や年平均値並びに風向の推移から、腐食量をある程度予測可能と考えられていた。しかし、実際に屋外環境下に鋼材を放置して腐食試験を行うと、風速の月間平均値、年平均値および風向を考慮するだけでは、腐食量を説明できない場合があった。
【0017】
また、ステンレス鋼からなる鋼材は、普通鋼などに比べて塩分の付着による腐食がより急激に進む場合がある。更に、ステンレス鋼は、意匠性に優れることから、未塗装のままで建物の外壁等に利用されることが多く、普通鋼などに比べて塩分の影響を受けやすい。
【0018】
よって、鋼材の腐食量を精度よく予測できる手法の開発が望まれている。
【0019】
そこで、発明者らが鋭意検討したところ、鋼材を屋外に放置した際の腐食が進展しやすい気象条件として、夜間から昼間に至る間で降雨が起きない気象条件が見出された。即ち、夜間の気温の低下に伴い鋼材表面に結露水が付着すると、そこに海岸方向から吹く海風によって運ばれた塩分が結露水中に溶け込む。そして、この塩分を含む結露水が昼間の日照によって蒸発することで塩分が鋼材表面に濃縮された結果、腐食が発生しやすくなることを見出した。特に、台風、ハリケーン、サイクロンなどの接近や気圧配置の影響によって、最寄りの海岸の方角から強風が吹いた場合は、鋼材表面に多くの塩分が付着しやすいことが判明した。また、降雨がない限り、夜間における鋼材表面への塩分の蓄積が続き、これにより、より腐食が起きやすくなることが判明した。一方で、降雨があった場合は、雨水によって鋼材表面から塩分が洗い流されるため、腐食が進行しにくくなることが判明した。そして、このような気象条件を考慮し、観測時刻tXi毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値WXから求まる腐食性指標Q(tXi,WX)を用いることで、将来における鋼材の腐食量を高精度で推測できる方法を見出した。
【0020】
なお、日照の有無に関しては、本発明では、観測時刻tXiが昼間か夜間かで区別することとする。日照の有無を判定するために日照時間を気象観測値WXに含めてもよい。また、日照の有無を判定するために、観測地点Xの緯度、経度及び標高から日の出時刻及び日の入り時刻を計算で求め、観測時刻tXiが昼間または夜間のいずれに含まれるかを判定してもよい。詳細は後述する。
【0021】
また、鋼材の腐食量を正確に予測するためには、鋼材の腐食試験の結果を参照する必要がある。従来の予測方法では、腐食試験を行った地点での腐食量の予測に限定されていた。本発明の腐食量の予測方法では、腐食試験の試験地点Zと鋼材の利用予定地点Mとが異なる場所であったとしても、本発明者らが見出した腐食性指標Q(tXi,WX)を利用することで、試験地点Zでの腐食試験の結果に基づき、利用予定地点Mでの将来の腐食量を高精度に予測できる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態において腐食量の予測対象となる鋼材は特に制限はなく、普通鋼(炭素鋼)、合金鋼、特殊鋼等よりなる鋼材であってもよい。また、これらの鋼材にめっきを施しためっき鋼材でもよい。めっきの種類に特に制限はなく、一般に鋼に用いられるめっきであればよい。また、鋼材は、ステンレス鋼よりなる鋼材であってもよい。
【0024】
また、本実施形態に係る鋼材は、建材用に限定されるものではなく、屋外において使用される鋼材の腐食量の予測に好適に用いることができる。
【0025】
(鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラム)
まず、本実施形態の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムについて説明する。
【0026】
本実施形態の腐食量予測システムは、
図1に示すように、極値推測部と、腐食量推測部とを備える。これら極値推測部及び腐食量推測部は、例えば、電子計算機の中央演算装置に備えられた機能として実現される。
【0027】
極値推測部は、観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求め、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する機能を備える。
【0028】
また、腐食量推測部は、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、観測地点Xが試験地点Zである気象観測値WZに基づいて腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式に、極値推測部において推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入して、推定期間における鋼材の腐食量の推測値を得る機能を備える。腐食量推測部には、予め求めておいた上記関係式が導入されている。
なお、上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値の対数との関係式としてもよい。
【0029】
また、極値推測部及び腐食量推測部には、それぞれ、腐食性指標Q(tMi,WM)、Q(tZi,WZ)を計算するための計算部が備えられていてもよい。
【0030】
計算部には、観測地点Xにおける観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する第1処理部と、観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を計算する第2処理部と、観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を計算する第3処理部と、観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を計算する第4処理部と、が備えられていてもよい。
【0031】
なお、極値推測部において腐食性指標Q(tMi,WM)を求める場合の計算部では、地点Xを鋼材の利用予定地点Mとし、WXをWMとし、tXiをtMiとし、u(tXi)をu(tMi)とし、θw(tXi)をθw(tMi)とする。また、c(tXi)をc(tMi)とし、s(tXi)をs(tMi)とし、p(tXi)をp(tMi)とする。
【0032】
また、腐食量推測部において腐食性指標Q(tZi,WZ)を求める場合の計算部では、地点Xを鋼材の試験地点Zとし、WXをWZとし、tXiをtZiとし、u(tXi)をu(tZi)とし、θw(tXi)をθw(tZi)とする。また、c(tXi)をc(tZi)とし、s(tXi)をs(tZi)とし、p(tXi)をp(tZi)とする。
【0033】
本実施形態の腐食量予測システムは、極値推測部及び腐食量推測部により、鋼材の腐食量の推測値を生成し、これを出力する。
【0034】
次に、本実施形態の腐食量予測プログラムは、
図2に示すように、極値推測ステップと、腐食量推測ステップとを備える。本実施形態の腐食量予測プログラムは、電子計算機において実行される。腐食量予測プログラムを備えた電子計算機は、極値推測ステップ及び腐食量推測ステップを順次実行することで、鋼材の腐食量の推測値を出力する。また、腐食量予測プログラムは、上記の腐食量予測システムのプログラムとして利用することもできる。
【0035】
腐食量予測プログラムの極値推測ステップは、観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値W
Mに基づいて、過去の観測時刻t
Mi毎に鋼材の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)を求める。次いで、観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を推測する。極値推測ステップは、
図1に示す極値推測部において行ってもよい。
【0036】
また、腐食量予測プログラムの腐食量推測ステップは、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、観測地点Xが試験地点Zである気象観測値W
Zに基づいて腐食試験の試験期間中の観測時刻t
Zi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(t
Zi,W
Z)の最大値との関係式に、極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を導入して、推定期間における鋼材の腐食量の推測値を得る。上記関係式は、予め求めておいたものを用いる。上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(t
Zi,W
Z)の最大値の対数との関係式としてもよい。腐食量推測ステップは、
図1に示す腐食量推測部において行ってもよい。
【0037】
また、極値推測ステップ及び腐食量推測ステップには、それぞれ、腐食性指標Q(tMi,WM)、Q(tZi,WZ)を計算するための計算ステップが備えられていてもよい。
【0038】
計算ステップには、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップが備えられていてもよい。第1ステップは、観測地点Xにおける観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する。第2ステップは、観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を計算する。第3ステップは、観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を計算する。第4ステップは、観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を計算する。
【0039】
なお、極値推測ステップにおいて腐食性指標Q(tMi,WM)を求める場合の計算ステップでは、地点Xを鋼材の利用予定地点Mとし、WXをWMとし、tXiをtMiとし、u(tXi)をu(tMi)とし、θw(tXi)をθw(tMi)とする。また、c(tXi)をc(tMi)とし、s(tXi)をs(tMi)とし、p(tXi)をp(tMi)とする。
【0040】
また、腐食量推測ステップにおいて腐食性指標Q(tZi,WZ)を求める場合の計算ステップでは、地点Xを鋼材の試験地点Zとし、WXをWZとし、tXiをtZiとし、u(tXi)をu(tZi)とし、θw(tXi)をθw(tZi)とする。また、c(tXi)をc(tZi)とし、s(tXi)をs(tZi)とし、p(tXi)をp(tZi)とする。
【0041】
本実施形態の腐食量予測システムの極値推測部及び腐食量推測部並びに計算部の動作、並びに、腐食量予測プログラムの極値推測ステップ及び腐食量推測ステップ並びに計算ステップの動作についての詳細な説明は、鋼材の腐食量の予測方法の説明において述べる。
【0042】
なお、本実施形態の腐食量予測システム及び腐食量予測プログラムにおける入力値は、少なくとも、腐食試験の試験地点Zの気象観測値WZ、鋼材の利用予定地点Mの気象観測値WM、腐食試験によって得られた実測腐食量を含む。また、出力値は、鋼材の利用予定地点Mにおいて鋼材を屋外に暴露させた際の将来の腐食量の予測値である。腐食量としては、腐食減量、腐食深さ、腐食の外観評点であるRN値(RN:レイティングナンバー)などが利用可能である。RN値の評価方法として、ステンレス鋼ではJIS G 0595:2004(ステンレス鋼の表面さび発生程度評価方法)などがある。
【0043】
(鋼材の腐食量の予測方法)
次に、本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法について説明する。
【0044】
本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法は、鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻tXi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象観測値WXから求まる鋼材の腐食性指標Q(tXi,WX)を用いる。
【0045】
本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法は、腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する極値推測ステップと、利用予定地点Mにおける、推定期間経過後の鋼材の腐食量を推測する腐食量推測ステップと、を備える。
【0046】
上記予測方法の極値推測ステップは、観測地点Xが鋼材の利用予定地点Mである気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求め、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する。
【0047】
上記予測方法の腐食量推測ステップは、鋼材の実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式に、極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入して、推定期間経過後の鋼材の腐食量を推測する。
【0048】
鋼材の実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式は、予め求めておくことが好ましい。この関係式は、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、観測地点Xが試験地点Zである気象観測値WZに基づいて腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式である。上記関係式は、鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値の対数との関係式としてもよい。
【0049】
また、極値推測ステップ及び腐食量推測ステップには、それぞれ、腐食性指標Q(tMi,WM)、Q(tZi,WZ)を計算するための計算ステップが備えられていてもよい。
【0050】
まず、本実施形態の鋼材の腐食量の評価方法を説明するにあたり、腐食性指標Q(tXi,WX)について説明する。
【0051】
本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法では、鋼材を屋外に曝した場合の腐食量を評価する指標として、観測地点Xにおける観測時刻tXi(ただしiは1~nの整数)毎の風速、風向及び降雨量の気象データWXから求まる鋼材の腐食性指標Q(tXi,WX)を用いる。
【0052】
先に述べたように、鋼材の腐食が発生しやすい気象条件として、本発明者らは、夜間から昼間に至る間で、風が観測され、かつ降雨が起きない気象条件を見出した。この気象条件では、日没から日の出までの夜間に、鋼材表面の結露水が生成するとともに風に運ばれた塩分が結露水中に溶け込み、その後の昼間の日照によって結露水が蒸発するとともに塩分が濃縮され、その結果として腐食が進展する。塩分は降雨がないまま日数が重なることで蓄積される。その一方で、降雨があると、鋼材表面から塩分が消失する。本実施形態に係る腐食性指標Q(tXi,WX)は、このような気象変動を考慮した鋼材表面における塩分量の指標となる値である。
【0053】
また、腐食性指標Q(tXi,WX)の算出に用いる腐食性蓄積係数s(ti)及び腐食性発現係数p(tXi)について説明する。s(ti)及びp(tXi)は、鋼材表面の濡れ状態に関する値であり、0または1の値になる。値が0か1になるかは、観測時刻tXiが昼間または夜間のいずれかであるかによって決まる。
【0054】
すなわち、夜間において、結露水が付着することで鋼材表面が濡れた状態になる。一方、昼間において、夜間に付着した結露水が蒸発することで鋼材表面が濡れた状態から脱することになる。よって本実施形態では、昼間か夜間かで、鋼材表面が濡れているか否かを間接的に判別し、その判別結果に基づき、s(ti)及びp(tXi)の値を定めるものとする。
【0055】
なお、本実施形態では、日没時刻から日の出時刻までの期間を夜間とし、日の出時刻から日没時刻までの期間を昼間とする。
【0056】
昼間か夜間かの判別を気象観測値WXから求める場合は、気象観測値WXとして、観測時刻tXi-1~tXiの間の日照時間を取得する。観測時刻tXiが夜間である場合は日照時間の観測値が存在しないため、観測値の有無により、観測時刻tXiが昼間か夜間かを区別することができる。これにより、気象観測値WXから腐食性蓄積係数s(ti)と腐食性発現係数p(tXi)を決定することが出来る。
【0057】
また、日の出時刻と日没時刻は、日付(年、月、日)と地点Xの経度、緯度及び標高から計算できるので、計算により求めた日の出時刻と日没時刻から昼間か夜間かを判定し、これにより、腐食性蓄積係数s(ti)と腐食性発現係数p(tXi)を決定してもよい。
【0058】
以下、腐食性指標Q(tXi,WX)の算出法を説明する。本実施形態では、以下の第1ステップ~第4ステップからなる計算ステップにより、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)及び二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を順次求め、更に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)から本実施形態に係る腐食性指標Q(tXi,WX)を求める。
【0059】
なお、本実施形態の説明において使用する各種のパラメータ記号における添え字Xは、観測地点Xを意味するものであり、利用可能地点であるMまたは試験地点であるZに置換されることが予定されている。また、観測時刻tXiは、観測測時刻tX1、tX2、tX3、…tXnを一般化した表記であり、任意の観測時刻を観測時刻tXiと表記する場合がある。また、観測時刻tXi~tXnを要素とする集合を、観測期間tXi~tXnと表記とする場合がある。
【0060】
まず、第1ステップでは、観測地点Xにおける観測時刻tXi毎の風速u(tXi)、風向θw(tXi)及び降雨量を少なくとも取得する。また、観測時刻tXi毎に日照時間を取得してもよい。観測地点Xにおける風速u(tXi)、風向θw(tXi)、降雨量及び日照時間を総称して、気象観測値WXという場合がある。
【0061】
第1ステップにおける観測地点X及び気象観測値WXは、予測方法の段階に応じて適宜選択すればよい。すなわち、極値推測ステップでは、観測地点Xを鋼材の利用予定地点Mとし、気象観測値WXを利用予定地点Mにおける気象観測値WMとする。また、腐食量推測ステップでは、観測地点Xを試験地点Zとし、気象観測値WXを試験地点Zにおける気象観測値WZとする。
【0062】
気象観測値WXは、例えば、公的な気象観測機関が管理する気象観測所において測定され、公表されているデータを用いればよい。例えば、日本国の場合は、気象庁が管理する気象観測所において測定され、公表されているデータを用いてもよい。すなわち、気象観測値WXは、観測地点Xに近い気象観測所で測定されたデータとすればよい。また、気象観測値WXは、公的な気象観測機関が管理する気象観測所で測定されたものに限らず、鋼材の利用予定地点Mや試験地点Zの近傍に設置された臨時の気象観測施設において測定された測定データを用いてもよい。
【0063】
観測地点Xにおける気象の観測期間tXi~tXnの長さは、特に制限されないが、以下に説明する期間長さであると好ましい。
【0064】
利用予定地点Mにおける過去の観測期間tMi~tMnの長さは、例えば、1年以上、50年以下のうちの何れかの期間とすればよく、好ましくは5年以上、50年以下、より好ましくは10年以上、50年以下とすればよい。観測期間tMi~tMnが長いほど、極値統計解析時に利用される時系列データに多数のデータが含まれることになり、極値統計解析の信頼性が向上する。そのため、観測期間tMi~tMnは、なるべく長期間であるとよい。本実施形態の予測方法では、塩分の飛散状況から将来の腐食量を極値統計解析により予測するが、塩分の飛散量は、年単位で変動し、例えば、海塩が多く飛散する年と少なく飛散する年とがある。そして、観測期間tMi~tMnが短く、かつ、その期間内に海塩が多く飛散する年が含まれると、将来の予測腐食量が高めになる可能性がある。このような予測値の偏りを防止するためには、観測期間tMi~tMnは長いほうがよい。
【0065】
また、利用地点Mにおける将来の評価期間tF1~tFn長さは、例えば、1ヶ月以上、100年以下のうちの何れかの期間とすればよく、好ましくは2年以上、100年以下のうちの何れかの期間とすればよい。
【0066】
更に、腐食量推測ステップでは、試験地点Zにおける観測期間tZi~tZnの長さとして例えば、1日以上、30年以下のうちの何れかの期間とすればよく、好ましくは1ヶ月以上、10年以下のうちの何れかの期間とすればよく、1ヶ月以上5年以下でもよい。
各観測時刻tX1、…tXnの間隔は例えば、10分毎、15分毎または30分毎の観測時刻とすればよい。試験地点Zにおける観測期間tZi~tZnは、腐食量推測ステップにおいて腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値と実測腐食量との関係式を求める際に、Q(tZi,WZ)の最大値の範囲が一定の範囲になればよい。Q(tZi,WZ)の最大値は、対数に変換したものでもよい。
【0067】
風速u(tXi)は、観測時刻tXiにおける瞬間風速(m/s)でもよく、観測時刻tXi-1~tXiの間における平均風速(m/s)でもよい。風向θw(tXi)は、北の方角を0°とした場合の観測時刻tXiにおける風向の方位とする。観測時刻tXiにおける降雨量及び日照時間はそれぞれ、観測時刻tXi-1から観測時刻tXiまでの間における降雨量の積算降雨量及び日照時間の積算時間とする。例えば、観測時刻tXiが10分毎である場合は、観測時刻tXi-1~tXiの10分間の積算降雨量及び積算日照時間とする。
【0068】
次に第2ステップでは、観測時刻tXi毎に、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を下記式(1)により計算する。
【0069】
Q1(tXi,WX)=(d+1)-0.6{u(tXi)・cos|θs-θw(tXi)|}2 …(1)
【0070】
式(1)におけるu(tXi)は、観測時刻tXiの風速(m/s)であり、θw(tXi)は観測時刻tXiの北を0°とした場合の風向(°)であり、θsは、観測地点Xに最も近い海岸からの観測地点Xの方位であって北を0°とした場合の方位(°)である。
【0071】
また、式(1)におけるdは、観測地点Xに最も近い海岸と観測地点Xとの距離(m)である。
【0072】
一次腐食性指標Q1(tXi,WX)は、鋼材への塩分付着量の指標となるものであり、風速u(tXi)及びθs、θw(tXi)に基づいて算出される。式(1)における「cos|θs-θw(tXi)|」の項は、観測地点Xにおける風速u(tXi)のうち、海岸方向から吹く風の風速成分を求めるための係数である。また、鋼材への塩分の付着量は、風速u(tXi)の2乗に比例する経験則がある。更に、(d+1)-0.6は、海岸からの距離dによって飛来してくる海塩が減衰することを考慮した減衰係数である。よって、鋼材への塩分付着量の指標である一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を上記式(1)の通りとする。
【0073】
次に第3ステップでは、観測時刻tXi毎に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を下記式(2)により計算する。
【0074】
Q2(tXi,WX)={Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}・c(tXi) …(2)
【0075】
ただし、式(2)におけるc(tXi)は腐食性消失係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合にc(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合にc(tXi)=1とする。閾値は予め試験を行い、鋼材表面に付着させた塩分が消失する降雨量を実験的に定めることができる。閾値は、例えば0~5mm/hourの範囲で決定すればよい。
【0076】
また、式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にs(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にs(tXi)=1とする。
腐食性蓄積係数s(tXi)の決定方法は、先に述べたとおりであり、気象データWXに基づき決定してもよく、地点Xの緯度、経度、標高に基づき計算された日の出時刻及び日の入り時刻に基づき決定してもよい。
【0077】
式(2)では、観測時刻tXiの直前の観測時刻である観測時刻tXi-1における二次腐食性指標Q2(tXi-1,WX)に、観測時刻tiにおける一次腐食性指標Q1(tXi,WX)が加算される。また、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)には、腐食性蓄積係数s(ti)及び(tXi-tXi-1)が乗算される。従って、式(2)の一部をなすQ1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)の多項式は、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合には0となり、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合には0超の値になる。
【0078】
また、式(2)では、{Q2(tXi-1,WX)+Q1(tXi,WX)・s(tXi)・(tXi-tXi-1)}の多項式に、c(tXi)が乗算される。従って、Q2(tXi,WX)は、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値超の場合に0となり、観測時刻tXi-1~tXi間の降雨量が閾値以下の場合には0超の値になる。
【0079】
よって、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)は、日没から日の出までの夜間に、鋼材表面の結露水が生成するとともに、風に運ばれた塩分が結露水中に溶け込むことによって蓄積された塩分量の指標となる。
【0080】
次に第4ステップでは、観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を下記式(3A)により計算する。
【0081】
Q(tXi,WX)=Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3A)
【0082】
式(3A)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合にp(tXi)=0、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合にp(tXi)=1、とする。腐食性発現係数p(tXi)の決定方法は、先に述べたとおりであり、気象データWXに基づき決定してもよく、地点Xの緯度、経度、標高に基づき計算された日の出時刻及び日の入り時刻に基づき決定してもよい。
【0083】
式(3A)では、Q2(tXi,WX)にp(tXi)が乗算される。従って、Q(tXi,WX)は、観測時刻tXi-1~tXi間が夜間(日没~日の出までの期間)の場合0となり、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間(日の出~日没までの期間)の場合に0超の値になる。
【0084】
よって、腐食性指標Q(tXi,WX)は、日没から日の出までの夜間に、鋼材表面の結露水が生成するとともに風に運ばれた塩分が結露水中に溶け込み、その後の昼間の日照によって結露水が蒸発するとともに塩分が濃縮された場合の塩分量の指標となる。
一般に、塩分の付着量が大きいほど、鋼材が腐食しやすくなるので、腐食性指標Q(tXi,WX)が大きいほど、鋼材の腐食量が増大する傾向にあると言える。
【0085】
上記の計算ステップを実行することで、時刻tXi毎に腐食性指標Q(tXi,WX)が得られる。
極値推測ステップの計算ステップでは、地点Xを鋼材の利用予定地点Mとし、WXをWMとし、tXiをtMiとし、u(tXi)をu(tMi)とし、θw(tXi)をθw(tMi)とし、c(tXi)をc(tMi)とし、s(tXi)をs(tMi)とし、p(tXi)をp(tMi)とすることで、腐食性指標Q(tMi,WM)が得られる。
腐食量推測ステップの計算ステップでは、地点Xを鋼材の試験地点Zとし、WXをWZとし、tXiをtZiとし、u(tXi)をu(tZi)とし、θw(tXi)をθw(tZi)とし、c(tXi)をc(tZi)とし、s(tXi)をs(tZi)とし、p(tXi)をp(tZi)とすることで、腐食性指標Q(tZi,WZ)が得られる。
【0086】
なお、上記の計算ステップは、上述の腐食量予測システムの極値推測部または腐食量推測部において実行されてもよい。また、第1ステップ~第4ステップは、それぞれ、極値推測部または腐食量推測部に備えられた第1計算部~第4計算部において実行されてもよい。
【0087】
次に、本実施形態の予測方法の極値推測ステップ及び腐食量推測ステップについて説明する。なお、極値推測ステップ及び腐食量推測ステップは、上述の腐食量予測システムの極値推測部及び腐食量推測部において実行されてもよい。
【0088】
(極値推測ステップ)
極値推測ステップでは、まず、鋼材の利用予定地点Mの気象観測値WMに基づいて、過去の観測時刻tMi毎に鋼材の腐食性指標Q(tMi,WM)を求める。腐食性指標Q(tMi,WM)の算出は、上述した計算ステップによって行う。
【0089】
これにより、鋼材の利用予定地点Mにおける過去の期間tM1~tMnに含まれる観測時刻tM1、tM2、…tMn毎に、腐食性指標Q(tM1,WM)、Q(tM2,WM)、…Q(tMn,WM)が求まる。このようにして、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データが得られる。
【0090】
図3に、観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データをグラフ化した一例を示す。
図3は、観測時刻t
Miを横軸とし、腐食性指標Q(t
Mi,W
M)を縦軸とするグラフである。なお、
図3は、日本の瀬戸内地方の海岸から約700m離れた地点を利用予定地点Mとした場合の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データの一例である。
【0091】
次に、極値推測ステップでは、先に得られた観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことにより、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する。
【0092】
極値統計解析は、与えられた時間的、空間的なデータから、どの様な大きな値がどれくらいの確率で出現するのかを推測するための統計手法である。すなわち、観測時刻tM1~tMn間の腐食性指標Q(tMi,WM)をデータにして極値統計解析を行うことによって、過去の気象観測値から、将来、どのような大きさの腐食性指標Q(tMi,WM)が出現するかを推測できる。具体的には、腐食性指標Q(tMi,WM)を大きい順に並べたデータとし、このデータ分布がGumbel分布に従うとしてGumbel分布確率紙を作成する。そして、Gumbel分布確率紙を利用して、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する。
【0093】
図4A及び
図4Bには、極値統計解析の解析結果の一例を示す。極値統計解析を行うことで、
図4Aに示す観測時刻t
M1~t
Mn間の腐食性指標Q(t
Mi,W
M)の時系列データから、
図4Bに示す将来の評価期間t
F1~t
Fn内における腐食性指標の極大値のグラフが得られる。
図4Bのグラフを参照することで、例えば10年後における利用地点Mにおける腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を知ることができる。なお、
図4A及び
図4Bは、日本の沖縄県の海岸から約75m離れた地点を利用予定地点Mとした場合の解析結果の一例である。
【0094】
(腐食量推測ステップ)
腐食量推測ステップでは、予め求めておいた、腐食試験結果の実測腐食量と腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値との関係式を用いる。以下、この関係式の導出手順について説明する。
【0095】
関係式を求めるためには、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験から得た実測腐食量と、観測地点Xが試験地点Zである気象観測値WZに基づいて腐食試験の試験期間中の観測時刻tZi毎に得た鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)とを求める。
【0096】
鋼材の実測腐食量は、試験地点Zにおいて実際に鋼材を屋外に配置し、その腐食量を観察することにより行う。腐食量の評価は、例えば、腐食減量や孔食深さでもよく、RNによる評価でもよい。
【0097】
鋼材の腐食量は鋼種によって異なるため、利用予定地点Mにおいて利用予定の鋼材と同じ鋼種について腐食試験を行うとよい。
【0098】
また、試験地点Zは、鋼材の利用予定地点Mと同じ地点であってもよく、異なる地点であってもよい。更に、試験地点Zは1箇所でもよく、複数箇所でもよい。予測精度を高めるために好ましくは、試験地点Zは複数箇所がよい。すなわち、試験地点Zは一つの地点Zαでもよいが、好ましくは複数の異なる地点Zα、Zβ、Zγ…がよい。試験地点Zを複数箇所とする場合は、それら複数の試験地点には、海からの距離が異なる地点が含まれることがより好ましい。また、複数の試験地点には、気象条件の異なる地点が含まれることがより好ましい。複数の試験地点をこのようにすることで、腐食試験で得られる腐食性指標Q(tZi,WZ)の最大値QRmaxの範囲が広くなり、予測の精度を向上できる。また、各試験地点Zα、Zβ、Zγ…における試験期間はそれぞれ、同じ長さの期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。更に、各試験地点Zα、Zβ、Zγ…における試験期間に含まれる観測時刻tZ1、tZ2、…tZn、具体的にはtZα1~tZαn、tZβ1~tZβn、tZγ1~tZγn等はそれぞれ、同じ時刻であってもよく、異なる時刻であってもよい。
【0099】
また、腐食性指標Q(tZi,WZ)については、試験地点Zにおける腐食試験の試験期間tZ1~tZnの気象観測値WZに基づき、観測時刻tZi毎に鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)を求める。腐食性指標Q(tZi,WZ)の算出は、上述した計算ステップによって行う。これにより、試験地点Zにおける試験期間tZ1~tZnに含まれる観測時刻tZ1、tZ2、…tZn毎に、腐食性指標Q(tZ1,WZ)、Q(tZ2,WZ)、…Q(tZn,WZ)が求まる。
試験地点Zが複数の場合は、試験地点毎に腐食性指標Q(tZ1,WZ)を求める。この場合の気象観測値WZは、試験地点Zα、Zβ、Zγ…におけるそれぞれの試験期間に含まれる観測時刻tZ1、tZ2、…tZn毎、具体的にはtZα1~tZαn、tZβ1~tZβn、tZγ1~tZγn等の気象観測値を用いる。
【0100】
次に、腐食試験毎に、得られた腐食性指標Q(t
Z1,W
Z)、Q(t
Z2,W
Z)、…Q(t
Zn,W
Z)の中から最大値Q
Rmaxを抽出し、抽出した最大値Q
Rmaxを各腐食試験毎の試験結果である実測腐食量に紐付ける。そして、紐付けられた最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量との関係式を求める。
図5には、SUS304についての最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)とのプロット及び関係式のグラフの一例を示す。
図5における点線が関係式の線である。
【0101】
関係式は、最大値QRmaxの対数と実測腐食量(RN)とのプロットに対して最小二乗法などによって近似された近似線の関数式とすればよい。例えば、関係式として、最大値QRmaxの対数を独立変数Xとし、実測腐食量(RN)を従属変数YとするY=αX+βの一次関数式としてもよい。α、βはそれぞれ定数である。この関係式は、試験地点Zの地点数を複数にすることで、その精度の向上を図ることができる。なお、最大値QRmaxを対数に変換しない場合は、Y=αX+βの一次関数式ではなく、近似が容易な別の関数式を用いて、回帰計算等により係数を求めてもよい。
【0102】
図5に示すように、SUS304は、最大値Q
Rmaxが増加するに伴いRNが低下し、鋼材の外観が悪化する傾向になる。なお、
図5は、日本の瀬戸内地方および沖縄県の海岸からの距離10~1000m離れた複数の地点を試験地点Zとした場合の、最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量との関係を示すグラフである。
【0103】
そして、腐食量推測ステップでは、予め求めておいた最大値QRmaxの対数と実測腐食量との関係式に、極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入する。これにより、利用予定地点Mでの将来の推定期間における鋼材の腐食量の推定値を得ることができる。
【0104】
図6には、本実施形態の推測方法のアウトプットの一例を示す。例えば、各種の鋼(Steel A~Steel E)について、1年先から数十年先のRN値の推測値を知ることが可能になる。
【0105】
以上説明したように、本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法、腐食量予測システム及び腐食量予測プログラムでは、鋼材の利用予定地点Mにおける過去の観測時刻tMi毎の腐食性指標QM(tMi,WM)の時系列データに対して極値統計解析を行うことで、将来の評価期間tF1~tFn内における腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を推測する。次いで、腐食試験の結果から予め求めておいた鋼材の実測腐食量と鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)との関係式に、腐食性指標の極大値Qmax(tFi)を導入する。本発明は、このようにして、将来の鋼材の腐食量を推測するので、従来の年平均値に基づいて腐食量を予測する方法に比べて、腐食量の予測精度を高めることができる。
また、本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法、腐食量予測システム及び腐食量予測プログラムは、試験地点Zにおける鋼材の腐食試験の結果に基づき、利用予定地点Mにおける鋼材の将来の腐食量を推測するものである。本実施形態では、試験地点Zにおける鋼材の実測腐食量と腐食性指標Q(tZi,WZ)との対応関係と、利用予定地点Mの気象観測値WMから得た腐食性指標Q(tMi,WM)の時系列データとが得られていればよい。よって、本発明は汎用性に優れる。
【0106】
また、本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法、腐食量予測システム及び腐食量予測プログラムによれば、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)及び二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を順次求め、更に、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)から腐食性指標Q(tXi,WX)を求める。ここで、一次腐食性指標Q1(tXi,WX)は、鋼材への塩分付着量の指標となるものであり、風速u(tXi)及び風向θs、θw(tXi)に基づいて算出される。また、二次腐食性指標Q2(tXi,WX)は、観測時刻tXiの直前の観測時刻である観測時刻tXi-1における二次腐食性指標Q2(tXi-1,WX)に、観測時刻tXiにおける一次腐食性指標Q1(tXi,WX)を加算し、更に腐食の主原因である塩分が降雨により洗い流されることを腐食性消失係数c(tXi)として導入するとともに、鋼材表面に結露水が発生しやすい夜間に塩分の付着が増大することを腐食性蓄積係数s(tXi)として導入することにより算出される。そして、腐食性指標Q(tXi,WX)は、夜間に付着した塩分を含む結露水が昼間の日照により乾燥されることで腐食が進展する事象を腐食性発現係数p(tXi)で数値化して、腐食性発現係数p(tXi)を二次腐食性指標Q2(tXi,WX)に乗じることで算出される。これにより、鋼材の塩分付着量に影響を与える気象状況が反映された腐食性指標Q(tXi,WX)を得ることができ、これを用いることで、腐食量の予測精度を高めることができる。
【0107】
次に、本実施形態の鋼材の腐食量の予測方法、腐食量予測システム及び腐食量予測プログラムにおける腐食性指標Q(tXi,WX)の変形例について説明する。第1の変形例は、腐食性指標Q(tXi,WX)の温度補正に関する変形例であり、第2の変形例は、鋼材表面の濡れ状態の判定結果に基づいて腐食性指標Q(tXi,WX)を補正する変形例である。これらの変形例を採用することで、腐食量の予測精度をより一層高めることができるようになる。
【0108】
(第1の変形例)
第1の変形例では、腐食量の予測方法または腐食量予測プログラムの第4ステップにおいて、また、腐食量予測システムの第4処理部において、上記の式(3A)に代えて、下記式(3B)によって、観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を計算する。
【0109】
Q(tXi,WX)=100.04Tb・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3B)
【0110】
ただし、式(3B)におけるTbは、日の出時の気温Temp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度である。好ましくは、Tbは日の出時の気温Temp(℃)としてもよい。
【0111】
鋼材の腐食は、鋼材表面に付着する塩分量のほか、温度の影響も受ける。このため、観測地点Xである鋼材の利用予定地点Mおよび試験地点Zの気温差が大きくなると、腐食量の予測精度が低下する場合がある。そこで、腐食量の予測精度を高めるために、観測地点Xの気温の補正項をQ(tXi,WX)の計算式に加入することが望ましい。
【0112】
本発明者らが検討したところ、補正項を10の累乗の形とし、また、累乗の指数は気温Tb(℃)と係数との積とすることが好ましいことがわかった。そして、鋼材の実測腐食量および鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)から関係式を求める際に、補正項における指数を回帰計算によって求めたところ、0.04の値を得た。よって、温度の補正項における指数の係数は、0.04とする。
【0113】
温度の補正項の指数に含まれる気温Tb(℃)は、日の出時の気温をTempとした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度とする。鋼材は、その表面が濡れた状態にあるときに表面の水分に塩分が溶け込み、その後、水分が蒸発して塩分濃度が高まった際に腐食が発生しやすく、また、水分が蒸発したときの気温が腐食量に影響する。このような水分の蒸発は、日の出前後の気温上昇時に起きる。そこで、補正項に加入する気温Tbを、日の出時の気温をTemp(℃)とした場合にTemp(℃)~(Temp+2)℃の範囲の何れかの温度とする。好ましくは気温Tbは日の出時の気温Temp(℃)とする。気温Tempは、気象観測値WXに含まれる気温データとすればよい。
【0114】
以上のことから、上記式(3B)に組み込むべき温度の補正項を、100.04Tbとする。
【0115】
図7は、SUS304についての最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との関係を示すグラフであって、温度補正前のグラフである。また、
図8は、
図7のグラフに対して、温度補正を行った後のグラフである。
図7および
図8は、
図5と同様に、日本の瀬戸内地方および沖縄県の海岸からの距離10~1000m離れた複数の地点を試験地点Zとした場合の、最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量との関係を示すグラフであるが、
図5に示されたプロットのほかに、新たなプロットを追加している。
図7および
図8における点線はそれぞれ、最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との関係式を示す線である。関係式は、最大値Q
Rmaxの対数を独立変数Xとし、実測腐食量(RN)を従属変数YとするY=αX+βの一次関数式としている。α、βはそれぞれ定数である。なお、
図5についての説明と同様に、最大値Q
Rmaxは必ずしも対数に変換しなくてもよい。
【0116】
図7における最大値Q
Rmaxの対数と実測腐食量(RN)との相関係数の2乗値(R
2値)は約0.81であり、
図8におけるR
2値は約0.86である。
図7におけるR
2値は0.80を超えており、温度補正を行わない場合でも関係式の信頼性は十分に高いが、温度補正を行うことによって関係式の信頼性がより高くなることがわかる。よって、温度補正によって得られる関係式に、極値推測ステップにおいて推測した腐食性指標の極大値Q
max(t
Fi)を導入することで、利用予定地点Mでの将来の推定期間における鋼材の腐食量の推定値を得ることができるとともに、その信頼性を高めることができる。
【0117】
(第2の変形例)
第2の変形例では、上記式(2)におけるs(tXi)および上記式(3A)におけるp(tXi)をそれぞれ以下のように規定した上で、それらを式(2)または式(3C)に導入し、式(2)によって二次腐食性指標Q2(tXi,WX)を求め、更に、式(3C)によって腐食性指標Q(tXi,WX)を求める。
【0118】
式(2)におけるs(tXi)は腐食性蓄積係数であって、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0の場合にs(tXi)=0とし、ws(tXi)が0超の場合にs(tXi)=1とする。
式(3C)におけるp(tXi)は腐食性発現係数であって、ws(tXi)が0を超える場合にp(tXi)=0とし、ws(tXi)が0以下の場合にp(tXi)=1、とする。
【0119】
なお、ws(tXi)は、観測時刻tXiにおける降雨および結露生成による水分付着量から水の蒸発量を差し引いた推測値であって、鋼材の表面温度、気温(℃)、気圧(hPa)、鋼材表面における風速(m/s)および相対湿度(%)から求まる値である。水分付着量ws(tXi)は、後述する計算方法によって得られた値を用いる。鋼材表面における風速(m/s)は、気象観測データから得られる風速値を代用できる。
【0120】
本発明に係る腐食性指標Q(tXi,WX)は、気象変動を考慮した鋼材表面における塩分量の指標である。鋼材においては、夜間において鋼材表面に結露水が生成するとともに、塩分が結露水中に溶け込み、昼間において気温の上昇に伴って塩分を含む結露水が蒸発することで鋼板表面に塩分が濃縮されて腐食が進行する。このように、鋼材の腐食は、鋼材表面の水分の付着量が大きく影響する。よって、上記の実施形態では、鋼材表面の水分量が夜間に結露水が生成することで増加し、昼間に温度が上昇して水分が蒸発することにより減少することを前提として、観測時刻tXi-1~tXi間が昼間か夜間かによって、s(tXi)およびp(tXi)を0または1のいずれかに決定する。
【0121】
一方、本変形例は、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)を推測し、推測したws(tXi)に応じて、s(tXi)およびp(tXi)を0または1のいずれかに決定する。これにより、昼間か夜間かによって鋼材表面の水分の状態を推定する場合に比べて、腐食量の予測をより高い精度で行うことができる。
【0122】
また、第2の変形例では、腐食量の予測方法または腐食量予測プログラムの第4ステップにおいて、また、腐食量予測システムの第4処理部において、上記の式(3A)に代えて、下記式(3C)によって、観測時刻tXi毎に、腐食性指標Q(tXi,WX)を計算する。
【0123】
Q(tXi,WX)=100.04Tc・Q2(tXi,WX)・p(tXi) …(3C)
【0124】
ただし、式(3C)におけるTcは、観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)である。
【0125】
鋼材の腐食は、鋼材表面に付着する塩分量のほか、温度の影響も受ける。このため、観測地点Xである鋼材の利用予定地点Mおよび試験地点Zの気温差が大きくなると、腐食量の予測精度が低下する場合がある。そこで、腐食量の予測精度を高めるために、観測地点Xの気温の補正項をQ(tXi,WX)の計算式に加入することが望ましい。
【0126】
本発明者らが検討したところ、補正項を10の累乗の形とし、また、累乗の指数は気温Tc(℃)と係数との積とすることが好ましいことがわかった。そして、鋼材の実測腐食量および鋼材の腐食性指標Q(tZi,WZ)から関係式を求める際に、補正項における指数を回帰計算によって求めたところ、0.04の値を得た。よって、温度の補正項における指数の係数は、0.04とする。
【0127】
補正項における気温Tc(℃)は、観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)とする。鋼材は、その表面が濡れた状態にあるときに表面の水分に塩分が溶け込み、その後、水分が蒸発して塩分濃度が高まった際に腐食が発生しやすく、また、水分が蒸発したときの気温が腐食量に影響する。そこで、補正項に加入する気温Tcを、観測時刻tXiより前の時点であって鋼材表面の水分付着量ws(tXi)が0になる時点の気温(℃)とする。この気温Tcは、気象観測値WXに含まれる気温データとすればよい。また、鋼材表面の水分付着量ws(tXi)は、後述する計算方法によって得られた値を用いる。
【0128】
本変形例では、観測時刻tXiにおける鋼材表面の水分付着量ws(tXi)を推測し、水分付着量ws(tXi)が0になる気温Tcを求める。そして、Tcを用いてQ(tXi,WX)を温度補正する。これにより、昼間か夜間かによって鋼材表面の水分の状態を推定する場合に比べて、腐食量の予測をより高い精度で行うことができる。
【0129】
(鋼材表面の水分付着量ws(tXi))
次に、上記第1の変形例および第2の変形例において利用する鋼材表面の水分付着量ws(tXi)について説明する。水分付着量ws(tXi)は、下記式(A)によって導かれる。
【0130】
ws(tXi)=(WR+ΔW-Va)・Δt …(A)
【0131】
式(A)において、WRは、降雨により鋼材表面に付着した水分量(kg/m2/s)であり、ΔWは、結露水の生成速度(kg/m2/s)であり、Vaは水の蒸発量(kg/m2/s)であり、ΔtはΔt=tXi-1-tXi(s)である。
【0132】
ΔWは、下記式(B)によって導かれる。
【0133】
ΔW=α’・(VH-VHs) …(B)
【0134】
α’は鋼材を取り巻く空気と鋼材表面との間の湿気伝達率(kg/m2/s)であり、VHは観測時刻tXiにおける空気中の絶対湿度(kg/kg)であり、VHsは鋼材表面の温度で決まる表面飽和絶対湿度(kg/kg)である。
【0135】
Vaは、下記式(C)によって導かれる。
【0136】
Va=Sh・D・(c1-c2)/L …(C)
【0137】
Shはシャーウッド数であってシュミット数Sc及び鋼材表面におけるレイノルズ数Reから下記式(C-1)により導かれる。Dは水蒸気の拡散係数であって、観測時刻tXiにおける気温T(℃)、気圧p(hPa)から下記式(C-2)により導かれる。c1は観測時刻tXiの気温T(℃)での飽和水蒸気量(kg/m3)であり、c2は観測時刻tXiの気温T(℃)における空気中の水蒸気量(kg/m3)であり、Lは代表長さである。レイノルズ数Reは下記式(C-3)より導かれる。ρは空気密度(kg/m3)であり、vは鋼材表面における風速(m/s)であり、Lは特性長さであり、μは空気の粘性係数(Pa/s)である。
【0138】
Sh=0.332・Re1/2・Sc1/3 …(C-1)
D=0.241×10-4・{(T+273.15)/288}1.75・1013.25/(p・t) …(C-2)
Re=ρv2/(μv/L) …(C-3)
【0139】
このようにして求めた水分付着量ws(tXi)を用いて腐食性指標Q(tXi,WX)を求めることで、より高い精度での腐食量の予測を行うことができる。
【0140】
鋼材表面の水分付着量ws(tXi)の上限は、鋼材の表面状態、鋼材が設置された状態における表面の傾斜角度などの影響を受けて変化する場合があるので、上限値を設定する場合は、鋼材に種類、傾斜状態などに応じて適宜設定してもよい。
【0141】
なお、上述の第1の変形例および第2の変形例では、時刻は地点Xの時刻tXiとして、気象観測値は地点Xにおける気象観測値WXとしてそれぞれ説明したが、地点Xを鋼材の利用地点Mとする場合は、時刻tXiを利用地点Mでの観測時刻tMiに置き換えればよく、気象観測値WXを利用地点Mでの気象観測値WMに置き換えればよい。また、地点Xを試験地点Zとする場合は、時刻tXiを試験期間中の時刻tZiに置き換えればよく、気象観測値WXを試験地点Zの気象観測値WZに置き換えればよい。
【0142】
次に、本実施形態の鋼材の提案方法について説明する。
本実施形態の鋼材の提案方法は、先に記載の鋼材の腐食量の予測方法によって利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を予測する予測工程と、予測工程によって得られた腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法である。
また、本実施形態の鋼材の提案方法は、先に記載の鋼材の腐食量の予測方法によって利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を、複数種類の鋼材についてそれぞれ予測する予測工程と、予測工程によって得られた鋼材毎の腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示する工程と、を備えた、鋼材の提案方法である。
腐食量の予測値は、例えば、レイティングナンバーであってもよい。レイティングナンバーは、JIS G 0595:2004(ステンレス鋼の表面さび発生程度評価方法)において規定されるものであってもよい。
【0143】
顧客に提示する工程においては、腐食量の予測値を提示することに代えて、または予測値を提示するとともに、腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を提示してもよい。具体的には、例えば、腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を、鋼材の腐食量予測装置の表示部に表示させてもよく、または、書類の形で顧客に提示してもよい。
【0144】
また、顧客に提示する腐食量の予測値は、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーであってもよい。同様に、腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像は、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバーに対応する画像であってもよい。
【0145】
先に記載の鋼材の腐食量の予測方法によれば、例えば、
図6に示したように、各種の鋼からなる鋼材について、例えば50年先のRN値の推測値を知ることが可能である。従って、本実施形態の鋼材の提案方法によれば、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を予測し、得られた腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示することで、鋼材を長期間に渡り屋外環境下で使用した場合の将来の腐食量の予測値を知りたいという顧客の要望に応えることができる。また、精度の高い腐食量の予測値を提供できるので、適切な鋼材を顧客に勧めることができる。
【0146】
また、先に記載の鋼材の腐食量の予測方法によれば、例えば、
図6に示したように、複数種類の鋼材について、例えば50年先のRN値の推測値を鋼種毎に知ることが可能である。従って、本実施形態の鋼材の提案方法によれば、利用予定地点Mにおける将来にわたる鋼材の腐食量を、複数種類の鋼材についてそれぞれ予測し、得られた鋼材毎の腐食量の予測値を、営業担当者が顧客に提示することで、精度の高い腐食量の予測値を鋼種毎に提供することができ、適切な鋼材を選択することが可能になる。これにより、適切な鋼材を顧客に勧めることができる。
【0147】
また、腐食量の予測値に対応する鋼材表面の画像を提示することで、腐食の程度を直感的に顧客に理解してもらうことができる。また、腐食量の予測値として、少なくとも小数点第一位までのレイティングナンバー、またはそれに対応する鋼材表面の画像を示すことで、高い精度の予測結果を示すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、鋼材の腐食量の予測精度を向上させることが可能な、鋼材の腐食量の予測方法、鋼材の腐食量予測システム及び鋼材の腐食量予測プログラムを提供できる。また、本発明は、鋼材の腐食量の予測方法によって予測された鋼材の腐食量を利用した、鋼材の提案方法を提供できる。これらは、産業上の利用可能性がある。