(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】新規コロナウイルス組換えスパイクタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含むベクター、およびベクターを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/165 20060101AFI20241220BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/866 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20241220BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C07K14/165
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
C12N15/866 Z
C12N15/863 Z
C12N15/50
(21)【出願番号】P 2023513777
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 KR2021011512
(87)【国際公開番号】W WO2022045827
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0108276
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0152184
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523066543
【氏名又は名称】株式会社 セリッド
【氏名又は名称原語表記】CELLID CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】#142-504, 1, Gwanak-ro, Gwanak-gu Seoul 08826, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン,チャン-ユル
(72)【発明者】
【氏名】シン,スン-ピル
(72)【発明者】
【氏名】シン,グァン-ス
(72)【発明者】
【氏名】オ,テ-クォン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-505512(JP,A)
【文献】特表2018-512863(JP,A)
【文献】特表平11-513249(JP,A)
【文献】特表2020-503891(JP,A)
【文献】BOS, R., et al.,"Ad26-vector based COVID-19 vaccine encoding a prefusion stabilized SARS-CoV-2 spike immunogen induces potent humoral and cellular responses.",BIORXIV,2020年07月30日,227470 (31 pages),DOI: 10.1101/2020.07.30.227470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス由来の組換えスパイクタンパク質を発現するベクターであって、前記ベクターは、スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位のアミノ酸配列TNSPRRARが、アミノ酸配列TGGGGSRを有するリンカー配列により置き換えられている組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、
前記ベクターは、配列番号21に記載の配列を含むアデノウイルスベクターに由来し、 前記アデノウイルスベクターのE1及びE3領域は欠失されており、かつ、
前記組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、欠失したE1領域に挿入される、前記ベクター。
【請求項2】
コロナウイルスがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号12に記載のポリヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
組換えスパイクタンパク質を発現するベクターが、配列番号27に記載のポリヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
請求項1に記載のベクターを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチン。
【請求項7】
コロナウイルス感染がSARS、MERSまたはCOVID-19である、請求項
6に記載のコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、新規コロナウイルス組換えスパイクタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記ベクターを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記載
重症呼吸器疾患を引き起こし、死亡を引き起こすコロナウイルスは、コロナウイルス科に属するRNAウイルスとして分類されており、コロナウイルス感染は、コロナウイルスの感染によって引き起こされる呼吸器症候群と定義される。コロナウイルス科に属するウイルスの中には、風邪を引き起こす4つの型(229E、OC43、NL63およびHKU1)、重症肺炎を引き起こす2つの型(SARS-CovおよびMERS-CoV)、および今回のパンデミックの原因となっているウイルスであるSARS-CoV-2を含む、ヒトに感染することが知られる合計7つの型のウイルスが存在する。重症肺炎を引き起こす3つの型のウイルス(SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2)は、世界中に拡散しており、2002年のSARS-CoVから始まり、次いで、2012年のMERS-CoV、そして現在はSARS-CoVとの高い遺伝子配列相同性を有するSARS-CoV-2がある。
【0003】
コロナウイルス(コロナウイルス科)は、そのゲノムとして不安定なRNAを有し、従って、突然変異が容易に起こり、これらの特徴のため、動物とヒトとの両方において伝染の可能性がある。SARS-CoVがジャコウネコからヒトに伝染し、MERS-CoVがヒトコブラクダからヒトに伝染したことが、今までの研究により示された。これらの事例から判断すると、宿主として動物を使用する他の種のコロナウイルスは、ヒトに感染する突然変異ウイルスに進化する可能性を有する。
【0004】
SARS-CoV-2は、2019年の年末に初めて報告された。2002年に中国で生じたSARS-CoVと比較して、SARS-CoVはより高い重症度を有するが、SARS-CoV-2は、SARS-CoV-2の細胞受容体結合部位であるスパイクタンパク質における突然変異に起因して、より高い伝染性を有する。これは、世界的なパンデミックをもたらした。感染の一般的な兆候としては、呼吸器症状、発熱、咳、息切れ、および呼吸困難が挙げられる。より重症の症例では、感染は、肺炎、重症急性呼吸器症候群、腎不全およびさらには、死亡を引き起こし得る。
【0005】
現在、いくつかの国および機関は、COVID-19パンデミックを根絶するためのワクチンを開発しようと努力している。予防ワクチンの型は、製造方法に応じて、不活化ワクチン、弱毒化ワクチン、タンパク質サブユニットワクチン、ウイルスベクターに基づくワクチン、DNAワクチン、およびmRNAワクチンに分類される。ワクチン製剤として伝統的に広く用いられてきた、不活化ワクチンおよび弱毒化生ワクチンは、単純な製造方法の利点を有するが、不活化ワクチンは、高レベルの免疫応答を誘導せず、弱毒化生ワクチンは、突然変異により病原性を再獲得するリスクを有する。タンパク質サブユニットワクチンは免疫応答をあまり誘導しないため、免疫増強剤を一緒に用いなければならないという問題がある。
【0006】
バイオテクノロジーの発達と共に、新しいプラットフォームに基づくワクチン製剤が開発され始めており、その1つは、ウイルスベクターに基づくワクチンである。ベクターに基づくワクチンは、ワクチン抗原遺伝子を高い効率でヒト細胞に送達して、自分自身の体内で抗原タンパク質を産生することによって、免疫応答を活性化する。ウイルスベクターに基づくワクチンは安全であり、高レベルの免疫応答を誘導するため、反復投与の必要なく、単回の投与のみによって効率的な免疫化が可能である。ウイルスベクターに基づくワクチンはまた、構造的に、ウイルスに基づく抗体産生ならびに細胞傷害性T細胞免疫を効率的に誘導する利点も有する。多くのウイルスが、遺伝子ベクターとして研究されており、それらの中でも、アデノウイルスは、操作が容易であり、多くの研究を通じて安全性が検証されているため、遺伝子療法の分野で広く用いられている。アデノウイルスは、比較的大きい抗原(9~35kb)を送達することができるため、他のウイルスベクターと比較して高い競争力を有する。
【0007】
アデノウイルスは、70~90nmの直径の線状の二本鎖DNAウイルスであり、エンベロープを持たず、240個のヘキソン、12個のペントン、および20面体の各頂点から伸長する線維によって形成される20面体のカプシドを有する。これらのヘキソン、ペントンおよび線維は、主要なアデノウイルス抗原およびその血清型を決定付ける。アデノウイルスゲノムは、約30~45kbのサイズであり、4つの初期領域(E1、E2、E3およびE4)ならびに5つの後期領域(L1~L5)を有する。アデノウイルスは、感染性が高く、その多くが病原性ではないため、ワクチン製造のための組換えベクターとしての良好な候補である。さらに、アデノウイルスベクターは、大きい遺伝子を効率的に翻訳し、動物における免疫応答を延長させることができる。アデノウイルスベクターは、主に自己複製を担うE1遺伝子が除去された形態で用いられ、E1遺伝子が除去されたアデノウイルスベクターは、自己複製がヒト細胞中では不可能であるため、体内で病原性を引き起こさないため、安全である。
【0008】
Ad5/35ベクターは、非複製性アデノウイルス血清型5(Ad5)のノブ遺伝子が、アデノウイルス血清型35(Ad35)のノブ遺伝子で置換された形態である。この改変により、Ad5/35ベクターを、存在するAd5細胞受容体よりもむしろ、ヒト免疫細胞中で高度に発現されるCD46受容体を介して細胞中に導入することができる。すなわち、Ad5/35は、ヒト抗原提示細胞中に効率的に導入され、かくして、抗原の産生を最大化するための効率的なワクチンプラットフォームであり得る。さらに、Ad5/35ベクターは、Ad5ベクターと比較して肝毒性を誘導するリスクが有意に低い。事実、本発明者らは、がん抗原遺伝子がアデノウイルスベクターを用いてがん患者に送達された場合に高レベルの免疫応答が誘導されることを前臨床および臨床試験において確認した。さらに、臨床試験において多数の患者に投与した場合、安定性および毒性に関する問題はないことが確認された。
【0009】
ワクチン候補物質の調製における考慮は、発現させようとする抗原の安定性である。多量のワクチン抗原が分泌されることが重要であるが、それらが発現される場合であっても、それらが初期段階で急速に分解される場合、それらは免疫細胞を効率的に活性化することができない。したがって、長期間にわたって抗原を安定的に維持することが重要である。
【0010】
したがって、コロナウイルス疾患-19(COVID-19)を予防または処置するためのワクチンを開発するために、本発明者らは、SARS-CoV-2の細胞感染において重要な役割を果たす、スパイクタンパク質をコードするS1遺伝子とS2遺伝子との間に位置する切断部位を、リンカー配列で置換したポリヌクレオチドを、ベクター中に導入することによって、予防または治療ワクチンを調製した。そして、本発明者らは、ワクチンがSARS-CoV-2に対する高い抗体産生およびT細胞反応性を有することを確認することによって、本発明を完成させた。
【発明の概要】
【0011】
本発明のある目的は、新規コロナウイルス組換えスパイクタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記ベクターを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンを提供することである。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質を提供する。
【0013】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質も提供する。
【0014】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0015】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0016】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。
【0017】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。
【0018】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することを特徴とするベクターも提供する。
【0019】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とする含むベクターも提供する。
【0020】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とするベクターも提供する。
【0021】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを含むコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0022】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを含むコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0023】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することを特徴とするコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0024】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とするコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0025】
さらに、本発明は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入されたポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とするベクターを含むコロナウイルス疾患-19(COVID-19)を予防または処置するためのワクチンを提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、新規コロナウイルス組換えスパイクタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記ベクターを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンに関する。本発明のコロナウイルス組換えスパイクタンパク質は安定であり、それにより、細胞中で容易に分解されず、免疫細胞を効率的に活性化することによって、高い抗体産生量およびT細胞反応性をもたらす。本発明のベクターは、高い抗原発現レベルを示し、それにより、高い抗体産生量およびT細胞反応性を有し、長い抗体産生期間および発現期間を有し、肝臓毒性を示さないことが確認された。したがって、本発明のベクターは、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンとして役に立つように用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】受容体結合部位であるE3遺伝子領域が、アデノウイルス血清型5に基づいてアデノウイルス血清型35の線維遺伝子で置き換えられ、SARS-CoV-2の細胞感染において重要な役割を果たすスパイクタンパク質が抗原としてロードされた、本発明によるCOVID-19を予防または処置するためのワクチンを示す模式図である。
【
図2】スパイクタンパク質をコードする遺伝子の切断部位が、抗原としてのリンカー配列で置換された、組換えスパイクタンパク質を含む本発明のCOVID-19を予防または処置するためのワクチンが、構造的安定性および高い抗原発現、および抗体産生B細胞中で中和抗体を産生する優れた能力を有することを示す模式図である。
【
図3】本発明のコロナウイルス疾患-19を予防または処置するためのワクチンの作用機構を示す模式図である。
【
図4】アデノウイルス型5(Ad5)のゲノムを使用して調製された対照発現ベクターを示す模式図である。
【
図5】抗原発現遺伝子である、スパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#4を示す模式図である。
【
図6】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#4を培養細胞系に導入した場合の抗原の発現レベルを示す図である。
【
図7】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#4を培養細胞系に導入した場合の細胞から排出される抗原の発現レベルを示す図である。
【
図8】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#4をマウスに注射した後の抗体産生量を示す図である。
【
図9】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#3をマウスに注射した後の血液中に存在する抗原特異的抗体の量を示す図である。
【
図10】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#3をサルに注射した後の血液中に存在する抗原特異的抗体の量を示す図である。
【
図11】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター~#3をサルに注射した後の中和抗体の濃度を示す図である。
【
図12】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#4をサルに注射した後の血液中での肝臓毒性のレベルを示す図である。
【
図13】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#1~#3をマウスに注射した後の脾臓細胞および末梢血単核細胞(PBMC)中でのT細胞反応性を示す図である。
【
図14】抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質抗原をロードされたアデノウイルスベクター#3を霊長類に注射した後の末梢血単核細胞(PBMC)中でのT細胞反応性を示す図である。
【
図15】実施例3で調製されるスパイク抗原を発現するベクター#3またはベクター#3のアデノウイルス遺伝子のうちのE4遺伝子がウイルスゲノムのE1領域中に再配置されたベクターをマウスに注射した場合に類似するレベルの中和抗体が産生されたことを確認する図である。
【
図16】実施例3で調製されるスパイク抗原を発現するベクター#3またはベクター#3のアデノウイルス遺伝子のうちのE4遺伝子がウイルスゲノムのE1領域中に再配置されたベクターをサルに注射した場合に類似するレベルの中和抗体が産生されたことを確認する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明は、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質を提供する。
【0030】
前記コロナウイルスは、それがベータコロナウイルス(Betacoronavirus)に属するSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2であることを特徴とする。
【0031】
SARS-CoV-2とSARS-CoVとの間のゲノム相同性は、79.6%であり、SARS-CoV-2とMERS-CoVとの間のゲノム相同性は、50%に達する。特に、本発明の標的である、スパイクタンパク質の相同性は、SARS-CoV-2とMERS-CoVとの間では35%で類似するが、SARS-CoV-2とSARS-CoVとの間のスパイクタンパク質相同性は、76%と非常に高い。
【0032】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質も提供する。
【0033】
ワクチンでは、抗原が大量に分泌されることが重要であるが、それらが大量に発現される場合であっても、それらが初期に分解される場合には、それらは免疫細胞を刺激せず、十分な免疫応答を誘導しないため、発現される抗原の安定性が高いことが非常に重要である。リンカー配列がS1とS2との間に連結された、本発明の組換えスパイクタンパク質は、高い抗原発現および改善された安定性を有し、かくして、中和抗体を生成し、T細胞反応性を誘導する優れた能力を有する。
【0034】
用語「免疫応答」は、体液性および細胞性免疫応答、例えば、CD4+またはCD8+細胞活性化を含んでもよいが、常にそれらに限定されるわけではない。
【0035】
リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質抗原は、抗原発現が増加することを特徴とする。
【0036】
スパイクタンパク質(Sタンパク質)は、コロナウイルス粒子の表面を覆っている。それは、ヒト細胞に侵入するためにコロナウイルスによって用いられるスパイク状のタンパク質であり、S1およびS2のサブユニットからなる。コロナウイルスは、スパイクタンパク質がヒト細胞のアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体に結合し、細胞中に浸透し、その遺伝物質(RNA)を細胞中に挿入し、自己複製するような方法で人体に感染する。
【0037】
組換えタンパク質は、スパイクタンパク質のサブユニットであるS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去されていることを特徴とする。
【0038】
このタンパク質は、S1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去されており、リンカー配列により連結されていることを特徴とする。
【0039】
リンカーは、それが(GGGGS)n(配列番号31)(式中、nは1~5の整数である)からなることを特徴とする。
【0040】
各タンパク質を構成するドメインは、そのユニークな特徴による相互作用のために最適化された距離(リンカー配列の長さ)を有し、タンパク質の構造的安定性は、リンカー配列の長さによって表される。したがって、タンパク質のnは、好ましくは、1~3、最も好ましくは、1であってよい。
【0041】
nが4を超える場合、多数の反復配列が生成され、リンカー配列は意図しない相同組換えによって欠失されることがあり、タンパク質の安定性が低下する。
【0042】
リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質抗原は、安定性が増大することを特徴とする。
リンカー配列は、配列番号19または配列番号20からなることを特徴とする。
【0043】
全てのコロナウイルスは共通してスパイクタンパク質を有し、スパイクタンパク質は、S1およびS2サブユニットから構成されるため、コロナウイルスの全てのスパイクタンパク質を用いることができる。
【0044】
スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカーによって連結された全てのスパイクタンパク質が、本発明に属する。
【0045】
コロナウイルスは、風邪を引き起こす229E、OC43、NL63およびHKU1、ならびに重症肺炎を引き起こすSARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2を含む。これらのコロナウイルスの全てのスパイクタンパク質を使用することができる。
【0046】
好ましくは、それは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質である。
【0047】
組換えスパイクタンパク質はさらに、免疫原性を改善するためのアジュバントを含有してもよい。アジュバントは、GM-CSF、IL-17、IFNNg、IL-15、IL-5、JNK、NFkB、NKKKKLIGAND、PD1/2、NKKKKG2B、NKG2C、NKKKKG2E、NKKKK2F、TAPAPAP2およびその機能的断片、E-セレクチン、IL-α、IL-6、INF-γ、リンホトキシンα、hGH-1、MIPPP1、IL-7、IL-8、APP、IRARAK、IkB、KILILUX、TRAIL-1、IL-1、AIR、およびICAM-1、ICAM-1、TAP2、CD40の機能的断片、TAP1、TRAILrecDRC5、CD34、CD40L、DR3、GlyCAM1、p55、CD2、Ox40、TRAF6、DR4、ICAM3、DR5、MyD88、p65Rel、pl5095、p38、CPGおよびTLRからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0048】
アジュバントを、組換えスパイクタンパク質のC末端に連結することができる。
【0049】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0050】
コロナウイルスは、それがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2であることを特徴とする。
【0051】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0052】
リンカーは、それが9~45個のヌクレオチドからなる、好ましくは、9~21個のヌクレオチドからなる、より好ましくは、15個のヌクレオチドからなることを特徴とする。
【0053】
リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、増大した安定性を特徴とする。
【0054】
リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、増加した抗原発現を特徴とする。
【0055】
リンカー配列は、配列番号11または配列番号15からなることを特徴とする。
【0056】
ポリヌクレオチドは、配列番号12または配列番号16であってもよい。
【0057】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。
【0058】
コロナウイルスは、それがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2であることを特徴とする。
【0059】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。
【0060】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することを特徴とするベクターも提供する。
【0061】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することを特徴とするベクターも提供する。
【0062】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することによって調製されるベクターは、配列番号27または配列番号29であってもよい。
【0063】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とする含むベクターも提供する。
【0064】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とするベクターも提供する。
【0065】
本発明において、用語「ベクター」は、クローニングされた遺伝子(またはクローニングされたDNAの他の断片)を担持し、それを標的細胞に輸送するトランスポーターを意味する。
【0066】
ベクターは、プラスミドおよびウイルスからなる群から選択されるいずれか1つであってもよい。
【0067】
プラスミドDNAの特定例としては、pCMV3、pET28aおよびpETなどの市販のプラスミドが挙げられる。本発明において使用することができるプラスミドの他の例としては、大腸菌(Echerichia coli)由来プラスミド(pCMV3、pET28a、pET、pGEX、pQE、pDESTおよびpCOLD)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来プラスミド(pUB110およびpTP5)および酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24およびYCp50)が挙げられる。これらのプラスミドは宿主細胞に応じて異なる量のタンパク質発現および修飾を示すため、目的にとって最も好適な宿主細胞を選択および使用することができる。
【0068】
ウイルスは、ベクターとして使用することができる任意の公知のウイルスであってよく、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、単純ヘルペスウイルスおよびバキュロウイルスからなる群から選択されるいずれか1つであってよいが、常にこれらに限定されるわけではない。本発明の特定の実施形態によれば、ウイルスはアデノウイルスであることが好ましい。
【0069】
本明細書で使用される用語「アデノウイルスベクター」とは、アデノウイルスゲノムがアデノウイルスゲノムに関して非天然である核酸配列を有するように操作されたアデノウイルスを指す。したがって、本明細書で使用される「組換えアデノウイルスベクター」は、典型的には、アデノウイルスゲノムおよび必要とされるタンパク質(例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1とS2との間の切断部位がリンカー配列で置換された組換えスパイクタンパク質)をコードする少なくとも1つの外来核酸を含有する発現カセットを含む。
【0070】
アデノウイルスベクターは、好ましくは、ウイルスDNAの複製を支援するのに必要とされるそれぞれの末端反復配列の少なくとも一部、好ましくは、完全な逆方向末端反復(ITR)配列の少なくとも約90%、およびゲノムをウイルスカプシド中に封入するのに必要とされるDNAを含有する。種々の起源に由来するアデノウイルスを、アデノウイルスベクターのためのウイルスゲノムの供給源として使用することができる。サブグループA(例えば、血清型12、18および31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14など)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5および6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20など)、サブグループE(例えば、血清型4)、サブグループF(例えば、血清型40および41)その他などのヒトアデノウイルスが好ましい。好ましくは、アデノウイルスベクターは、ヒトサブグループC、特に、血清型2、より好ましくは、血清型5のベクターである。
【0071】
アデノウイルスベクターは、複製可能ベクターであり得る。典型的には、アデノウイルスベクターは、宿主細胞中で複製欠損ベクターである。用語「複製欠損」とは、アデノウイルスベクターが、複製のためのアデノウイルスゲノムの1つ以上の遺伝子機能または領域(例えば、E1、E3もしくはE4領域)に欠損を有し、したがって、正常な宿主細胞、特に、アデノウイルスベクターによって感染されたヒト細胞中で、ベクターがいくらかの低レベルの複製を維持するか、または複製しないことを意味する。複製欠損アデノウイルスベクターは、ワクチンの安全性を確保する。本発明の一実施形態においては、アデノウイルスベクターは、E1またはE3またはその両方が除去されているベクターである。遺伝子の欠損は、遺伝子の機能を完全に除去するか、または損なう突然変異または欠失と定義され、例えば、したがって、遺伝子産物の機能は、天然遺伝子の機能の少なくとも約1/2、1/5、1/10、1/20以下に低下する。得られる複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスカプシド中にパッケージングされる能力を保持しながら、1つ以上の望ましいタンパク質の発現のためにアデノウイルスゲノム内の適切な部位に1つ以上の外因性核酸を収容することができる。ストック溶液のために高力価のウイルスベクターを生成するために、複製欠損アデノウイルスベクターは、典型的には、複製欠損アデノウイルスベクター中には存在しない遺伝子機能を提供する、HEK293またはHEK293R細胞などの補完細胞系中で産生される。
【0072】
アデノウイルスは、アデノウイルス血清型2(Ad2)、アデノウイルス血清型4(Ad4)、アデノウイルス血清型5(Ad5)、アデノウイルス血清型11(Ad11)、アデノウイルス血清型26(Ad26)、アデノウイルス血清型35(Ad35)、チンパンジーアデノウイルス血清型68(ChAd68)、家禽アデノウイルス血清型9(FAd9)またはブタアデノウイルス血清型3(PAd3)であってもよい。
【0073】
アデノウイルスは、Ad5に基づく改変された形態を有してもよい。
【0074】
アデノウイルスは、アデノウイルス血清型5(Ad5)のノブ遺伝子が、アデノウイルス血清型35(Ad35)のノブ遺伝子で置きかえられたアデノウイルス(Ad5/35)であってもよい。
【0075】
アデノウイルスは、E1遺伝子およびE3遺伝子が欠失していることを特徴とする。
【0076】
アデノウイルスは、E4遺伝子の一部または全部が欠失し、E1遺伝子およびE3遺伝子の欠失に加えて、E4遺伝子がE1領域に再配置された形態を有してもよい。
【0077】
アデノウイルスは、それがヒト免疫細胞中で高度に発現されるCD46受容体を介して細胞中に導入されることを特徴とする。
【0078】
アデノウイルスは、肝毒性を誘導する効果が低いことを特徴とする。
【0079】
アデノウイルスは、抗原発現の程度が高いことを特徴とする。
【0080】
本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを含むコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0081】
コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2からなる群から選択されるいずれか1つであってもよい。
【0082】
ベクターは、ベクターとして使用することができる任意の公知のウイルスであってよく、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)および改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)からなる群から選択されるいずれか1つであってよいが、常にこれらに限定されるわけではない。本発明の特定の実施形態によれば、ウイルスはアデノウイルスであることが好ましい。
【0083】
アデノウイルスは、アデノウイルス血清型2(Ad2)、アデノウイルス血清型4(Ad4)、アデノウイルス血清型5(Ad5)、アデノウイルス血清型11(Ad11)、アデノウイルス血清型26(Ad26)、アデノウイルス血清型35(Ad35)、チンパンジーアデノウイルス血清型68(ChAd68)、家禽アデノウイルス血清型9(FAd9)またはブタアデノウイルス血清型3(PAd3)であってもよい。
【0084】
アデノウイルスは、Ad5に基づく改変された形態を有してもよい。
【0085】
アデノウイルスは、アデノウイルス血清型5(Ad5)のノブ遺伝子が、アデノウイルス血清型35(Ad35)のノブ遺伝子で置きかえられたアデノウイルス(Ad5/35)であってもよい。
【0086】
アデノウイルスは、E1遺伝子およびE3遺伝子が欠失していることを特徴とする。
【0087】
アデノウイルスは、E4遺伝子の一部または全部が欠失し、E1遺伝子およびE3遺伝子の欠失に加えて、E4遺伝子がE1領域に再配置された形態を有してもよい。
【0088】
アデノウイルスは、それがヒト免疫細胞中で高度に発現されるCD46受容体を介して細胞中に導入されることを特徴とする。
【0089】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを含むコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0090】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドをアデノウイルス中に導入することを特徴とするコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0091】
本発明はまた、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドをAd5/35ウイルス中に導入することを特徴とするコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンも提供する。
【0092】
さらに、本発明のワクチンを、経口または非経口製剤として調製することができ、皮内、筋肉内または鼻内経路、好ましくは、筋肉内経路によって投与することができる。
【0093】
本発明のワクチンは、S1とS2との間の切断部位が除去されることを特徴とする。
【0094】
ワクチンは、スパイクタンパク質のS1とS2との間の切断部位が除去され、リンカー配列と連結されることを特徴とする。
【0095】
リンカーは、それが9~45個のヌクレオチドからなる、好ましくは、9~21個のヌクレオチドからなる、より好ましくは、15個のヌクレオチドからなることを特徴とする。
【0096】
さらに、本発明は、ワクチンを対象に投与することによる、コロナウイルス疾患-19、重症急性呼吸器症候群(SARS)または中東呼吸器症候群(MERS)を含むコロナウイルス感染を予防または処置するための方法を提供する。
【0097】
本発明においては、用語「対象」は、コロナウイルスに感染し得るヒトを含む全ての動物を意味する。本発明のワクチンを対象に投与することによって、上記疾患を効率的に予防することができる。例えば、本発明のワクチンは、ヒトがコロナウイルスに感染するのを予防することができる。
【0098】
本発明においては、用語「予防(防止)」とは、ワクチンを投与することによってコロナウイルス感染の開始を抑制する、または遅延させる任意の作用を意味する。
【0099】
本発明においては、用語「処置」とは、ワクチンを投与することによって、コロナウイルスを除去するか、またはコロナウイルスにより引き起こされる症状を軽減する任意の作用を意味する。
【0100】
本発明のワクチンは、製薬上有効用量で投与される。用語「製薬上有効用量」とは、医学的処置または改善に適用可能な合理的な利益/危険比で疾患を処置するのに十分な量を意味する。有効用量レベルは、対象の型および重症度、年齢、ジェンダー、感染したウイルスの型、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、排出速度、処置の持続期間、併用薬、および医学界において周知の他の因子を含む因子に依存する。本発明のワクチンを、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することができる。併用投与においては、投与は、逐次的または同時的であってよい。そして、ワクチンを1回または複数回投与してもよい。上記因子の全てを考慮して副作用なしに最小の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、当業者であれば容易にこれを決定することができる。
【0101】
用語「有効量」とは、処置される対象に所望の治療効果をもたらすのに十分な、例えば、その受容体中で病原体または抗原に対する免疫応答を生成する、または誘導するのに十分な用量を指す。有効量は、投与経路、投与頻度、薬物を受容する個体の体重および種、ならびに投与の目的などの種々の理由に応じて変化してもよい。当業者であれば、本明細書の開示、確立された方法および自身の経験に基づいて、その都度、投薬量を決定することができる。例えば、本発明のある特定の実施形態においては、本発明の組換えアデノウイルスベクターを、1x109~1x1012個のウイルス粒子(VP)の用量で投与してもよく、例えば、1x109、1x1010、1x1011、または1x1012個のVPの用量で投与してもよい。
【0102】
本発明の特定の実施形態においては、本発明者らは、コロナウイルスに属するSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドのS1とS2との間の切断部位がリンカー配列で置換されたポリヌクレオチドを、E1およびE3遺伝子が欠失され、アデノウイルス血清型5の細胞受容体結合部位である線維が、血清型35の線維で置き換えられたアデノウイルス(
図4を参照されたい)中に導入することによってベクターを構築し、そのベクターが高い抗原発現、抗体産生およびT細胞反応性、長い抗体産生発現期間を有し、肝毒性を示さないことを確認した(
図6、7、9、12、13および14を参照されたい)。さらに、E4遺伝子の一部または全部が欠失され、E1遺伝子およびE3遺伝子の欠失に加えて、E4遺伝子がE1領域に再配置されたベクター中に抗原をロードすることによって調製されたワクチンを、マウスおよびサルに投与した。結果として、中和抗体の産生量が、Ad5/35ベクター中に抗原をロードすることによって調製されたワクチンのそれと類似していることが確認された(
図15および16を参照されたい)。
【0103】
本発明のコロナウイルス組換えスパイクタンパク質は安定であり、それにより、細胞中で容易に分解されず、免疫細胞を効率的に活性化することによって、高い抗体産生量およびT細胞反応性をもたらす。本発明のベクターは、高い抗原発現レベルを示し、それにより、高い抗体産生量およびT細胞反応性を有し、長い抗体産生期間および発現期間を有し、肝臓毒性を示さないことが確認された。したがって、本発明のベクターは、コロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチンとして役に立つように用いることができる。
【0104】
以後、本発明を、以下の実施例および実験例によって詳細に説明する。
【0105】
しかしながら、以下の実施例および実験例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の内容はそれに限定されない。
【実施例1】
【0106】
対照発現ベクター(プラスミドベクター#1)の構築
スパイクタンパク質抗原を含有しないアデノウイルス配列(配列番号21)を含有するプラスミドを、pAdk35F(配列番号1、34,030bp)と命名し、アデノウイルス5型(Ad5)のゲノムを使用して構築した。pAdk35Fは、E1およびE3遺伝子が欠失され、アデノウイルス血清型5の細胞受容体結合部位である線維が血清型35の線維で置き換えられたアデノウイルスを含む。pAdk35FのE1遺伝子欠失部位に、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、テトラサイクリンオペレーター(TetO)、制限酵素SwaI部位、およびSV40ポリA配列をロードする。
【0107】
図4に示されるように、スパイクタンパク質抗原遺伝子の細胞外ドメインを、鋳型としての抗原発現遺伝子であるスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドをロードしたpCMV3-SARS-CoV-2(スパイクORF)ベクター(SinoBiological、カタログ番号VG40589-UT、配列番号2、9,858bp)を使用して、以下の表1に列挙されるスパイクタンパク質抗原増幅のためのプライマーセットを用いて増幅した後、対照発現ベクターであるプラスミドベクター#1(配列番号22)を、SwaIで消化したpAdk35Fベクターを用いるin-fusionクローニングライゲーション(Clontech、カタログ番号639648)によって構築した。プラスミドベクター#1中のスパイクタンパク質をコードする領域は、配列番号3によって表され、スパイクタンパク質が導入されるアデノウイルスのヌクレオチド配列は、配列番号23によって表される。
【0108】
【実施例2】
【0109】
改善されたスパイク抗原発現ベクターの構築
<2-1>改善されたスパイク抗原発現ベクター(プラスミドベクター#2)の構築
実施例1においてポリメラーゼ連鎖反応のための鋳型として使用したpCMV3-SARS-CoV-2(スパイクORF)ベクターのスパイクタンパク質抗原のドメインS1およびS2の切断部位(配列番号6、アミノ酸配列:TNSPRRAR
(配列番号32))を、部位特異的突然変異誘発によって以下の表2に列挙されるプライマーセットを使用して、TILR(Thr-Ile-
Leu-
Arg)配列(
配列番号33)で置換し、
図5に示されるようなpCMV3-SARS-CoV-2(スパイクIL)ベクターを調製した。
【0110】
続いて、TILR配列で置換されたベクターを、プラスミドベクター#1と同じ、表1に列挙されたスパイク抗原増幅のためのプライマーセットを使用して増幅した後、改善されたスパイク抗原発現ベクターであるプラスミドベクター#2(配列番号24)を、SwaIで消化したpAdk35Fベクターを用いるin-fusionクローニングライゲーション(Clontech、カタログ番号639648)によって構築した。プラスミドベクター#2中のスパイクタンパク質をコードする領域は、配列番号8によって表され、スパイクタンパク質が導入されるアデノウイルスのヌクレオチド配列は、配列番号25によって表される。
【0111】
【0112】
<2-2>改善されたスパイク抗原発現ベクター(プラスミドベクター#3;pAdCLD-CoV19ベクター)の構築
実施例1においてポリメラーゼ連鎖反応のための鋳型として使用したpCMV3-SARS-CoV-2(スパイクORF)ベクターのスパイクタンパク質抗原のドメインS1およびS2の切断部位(配列番号6、アミノ酸配列:TNSPRRAR(配列番号32))を、部位特異的突然変異誘発によって以下の表3に列挙されるプライマーセットを使用して、TGGGGSRリンカー配列(配列番号19)で置換し、pCMV3-SARS-CoV-2(スパイクGGGGS)ベクターを調製した。続いて、TGGGGSR配列で置換されたベクターを、プラスミドベクター#1と同じ、表1に列挙されたスパイク抗原増幅のためのプライマーセットを使用して増幅した後、改善されたスパイク抗原発現ベクターであるプラスミドベクター#3(pAdCLD-CoV19ベクター)(配列番号26)を、SwaIで消化したpAdk35Fベクターを用いるin-fusionクローニングライゲーション(Clontech、カタログ番号639648)によって構築した。プラスミドベクター#3中のスパイクタンパク質をコードする領域は、配列番号12によって表され、スパイクタンパク質が導入されるアデノウイルスのヌクレオチド配列は、配列番号27によって表される。
【0113】
【0114】
<2-3>改善されたスパイク抗原発現ベクター(プラスミドベクター#4)の構築
実施例1においてポリメラーゼ連鎖反応のための鋳型として使用したpCMV3-SARS-CoV-2(スパイクORF)ベクターのスパイクタンパク質抗原のドメインS1およびS2の切断部位(アミノ酸配列:TNSPRRAR(配列番号32))を、部位特異的突然変異誘発によって以下の表4に列挙されるプライマーセットを使用して、TGGGGSGGGGSGGGGSR配列(配列番号34)で置換し、pCMV3-SARS-CoV-2(スパイクGGGGSx3)ベクターを調製した。続いて、TGGGGSGGGGSGGGGSR配列で置換されたベクターを、プラスミドベクター#1と同じ、スパイク抗原増幅のためのプライマーセットを使用して増幅した後、改善されたスパイク抗原発現ベクターであるプラスミドベクター#4(配列番号28)を、SwaIで消化したpAdk35Fベクターを用いるin-fusionクローニングライゲーション(Clontech、カタログ番号639648)によって構築した。プラスミドベクター#4中のスパイクタンパク質をコードする領域は、配列番号16によって表され、スパイクタンパク質が導入されるアデノウイルスのヌクレオチド配列は、配列番号29によって表される。
【0115】
【実施例3】
【0116】
スパイク抗原をロードしたアデノウイルスベクター(ベクター#1~#4)の構築
アデノウイルスベクター(ベクター#1~#4)を、HEK293R細胞を使用して、上記の実施例1および2のベクターから調製した。T25プレート中で約80%集密となったHEK293R細胞に、25μlのリポフェクタミン2000(ThermoFisher、カタログ番号11668027)と共に12.5μgの各ベクターをトランスフェクトすることによって、初期のアデノウイルスベクターを生産した。それぞれの初期生産されたアデノウイルスを、4x107個のHEK293R細胞を含有する20個のT175フラスコに感染させることによって増幅した。
【0117】
増幅されたアデノウイルスベクター#1~#4を、1回目(1.2g/mlのCsCl+1.4g/mLのCsCl、32,000RPM、90分)および2回目(1.35g/mlのCsCl、32,000RPM、18時間)の塩化セシウム(CsCl)密度勾配遠心分離によって精製した。第1のアデノウイルスを、透析(20mM Tris-HCl、25mM塩化ナトリウム、2.5%グリセロール)によって生産した。
【実施例4】
【0118】
in vitroでの抗原発現ベクターの抗原発現レベルの比較
<4-1>抗原発現ベクター注射による細胞内抗原発現の比較
実施例3で調製されたベクター#1~#4の細胞内抗原発現レベルを比較するために、単核細胞に由来するTHP-1細胞系における抗原発現レベルを、フローサイトメトリー(FACS)によって測定した。
【0119】
具体的には、フローサイトメトリーのために、THP-1細胞を、ウェルあたり2.5x105個の細胞の密度で96ウェル培養皿に入れ、それぞれのベクターを、10の感染多重度(MOI)で細胞中に接種した後、24時間培養した。次いで、各ウェル中の細胞を、1.5mlのチューブに移し、500μlのFACSバッファーを添加し、遠心分離した(5000rpm、3分、4℃)。上清を除去した後、1:1000に希釈した、50μlの生存性指示色素(eFluor(商標)450、ebioscience、カタログ番号65-0863-14)を各ウェルに添加し、表面染色を、4℃で30分間実施した。
【0120】
細胞内で発現された抗原を検出するために、細胞固定/透過処理濃縮液(ebioscience、カタログ番号00-5123-43)を、細胞固定/透過処理希釈液(ebioscience、カタログ番号00-5223-56)中で1:4に希釈し、100μlの溶液を各ウェルに添加した後、4℃で30分間、細胞固定/透過処理を行った。スパイク抗原染色を、4℃で1時間、透過処理バッファー(ebioscience、カタログ番号00-8333-56)中で1:2500に希釈したSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体(GeneTex、カタログ番号GTX632604)の溶液(抗体濃度: 0.4μg/ml)を用いて実施した後、洗浄し、次いで、1:100に希釈した、二次抗体であるAPCヤギ抗マウスIgG抗体(Biolegend、カタログ番号405308)の溶液(抗体濃度: 2μg/ml)を用いて抗原染色を実施した(4℃、30分間)。染色反応後、試料あたり300μlのバッファーを添加し、抗原発現の程度を、フローサイトメトリー(BD bioscience、LSRFORESSA)によって測定した。
【0121】
結果として、
図6に示されるように、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#3が、タンパク質を産生する能力である、最も高い抗原発現レベルを有することが確認された。
【0122】
<4-2>抗原発現ベクター注射による細胞外抗原発現の比較
実施例3で調製されたベクター#1~#4の細胞外抗原の発現レベルを比較するために、ウェスタンブロッティングによって単核細胞由来THP-1および筋肉細胞由来RD細胞中での抗原発現レベルを測定した。
【0123】
具体的には、細胞から排出されたスパイクタンパク質抗原の発現レベルを測定するためのウェスタンブロッティング法は、以下の通りである。THP-1およびRD細胞を、ウェルあたり5x105個の細胞の密度で6ウェル培養皿に分配し、次いで、各ベクターを50MOIとなるように細胞に接種した後、24時間培養した。その後、培養培地を遠心分離によって収獲した後、Microcon(Millipore、50,000MWCO、カタログ番号UFC805024)を使用して培養培地を濃縮し、RIPAバッファー(ThermoFisher、カタログ番号89901)を使用して培養細胞をタンパク質単位に分解した。濃縮された培養培地中のタンパク質の総量を、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher、カタログ番号23225)を使用して測定した。
【0124】
濃縮された培養培地試料中のスパイクタンパク質(三量体、約250kDa以上)を確認するために、試料(60μg/ウェル)を、Bolt(商標)Bis-Tris 4~12%プラスゲル(ThermoFisher、カタログ番号NW04120BOX)を使用して180Vで電気泳動した。
【0125】
電気泳動されたゲルを、iBlot 2 Dryブロッティングシステム(Invitrogen、カタログ番号IB21001)を使用して20Vで10分間、PVDFメンブレンに転写した。次いで、メンブレンを、それぞれ、ウサギSARS-CoV-2スパイク抗体(GeneTex、カタログ番号GTX135360)およびヤギ抗ウサギIgG H&L(HRP)と反応させ、ECLプライムウェスタンブロッティング検出試薬(Amersham、カタログ番号RPN2232)を用いてSARS-CoV-2の三量体スパイクタンパク質を検出した。
【0126】
結果として、
図7に示されるように、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#3が、タンパク質を生成および排出するための最も高い抗原発現を有することが確認された。
【実施例5】
【0127】
抗原発現ベクター注射によるマウスにおける抗体産生の比較
<5-1>抗原発現ベクター#1~#4の注射によるマウスにおける抗体産生の比較
実施例3で調製されたベクター#1~#4をマウスに注射した後、抗体産生の量を比較した。
【0128】
具体的には、実施例3で調製されたスパイク抗原発現ベクター(ベクター#1~#4)を、1群あたり6匹のマウスで、2x108IFU/マウスの用量で6~7週齢のBALB/cマウスに筋肉内注射した。約300μlの血液試料を、投与の2~3週間後に眼窩血液採取によって収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する中和抗体の量を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定した。
【0129】
酵素結合免疫吸着アッセイのために、96ウェルプレートを、100ng/ウェルでPBSN(PBS 1L+アジ化ナトリウム0.01g)中に溶解したスパイクタンパク質(Acro Biosystems、カタログ番号SPN-C52H84)でコーティングした後、4℃で16時間、冷反応させた。96ウェルプレートを16時間コーティングした後、コーティングタンパク質を除去し、PBSで3回洗浄し、次いで、150μlのブロッキングバッファー(PBSN+BSA1%)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、90分)させた。反応時間の間に、希釈バッファー(PBSN+0.1%BSA+0.05%Tween-20)中で6400倍に血漿を希釈し、ブロッキング反応後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで、50μlの希釈した血漿試料を各ウェルに添加した後、反応(37℃、3時間)させた。反応の完了時に、プレートをPBSで3回洗浄し、希釈バッファー中で1000倍に希釈した、50μlの二次抗体、GAM-IgG-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1030-05)およびGAM-IgM-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1020-05)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、2時間)させた。次いで、二次抗体を除去し、プレートをPBSで5回洗浄し、50μlの発色試薬(TMBペルオキシダーゼ基質バッファー、ROCKLAND、カタログ番号TMBE-1000)を各ウェルに添加した後、15分間発色させた。各ウェルに50μlの0.25N HClを添加することによって発色を停止させ、マイクロリーダーを用いて450nmの波長で試料を分析した。
【0130】
結果として、
図8に示されるように、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#3の抗体産生量が最も高いことが見出された。
【0131】
<5-2>抗原発現ベクター注射によるマウス抗体産生発現期間の比較
さらに、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター(ベクター#1~#3)を、1群あたり6匹のマウスで、1x109VP/マウスまたは2x108VP/マウスの用量で8週齢のBALB/cマウスに筋肉内注射した。約300μlの血液試料を、投与の2~4週間後に眼窩血液採取によって収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する抗原特異的抗体の量を、実施例5-1に記載の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定した。
【0132】
結果として、
図9に示されるように、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#3を注射されたマウスの血液中に存在する抗原特異的抗体の量は、4週間以上にわたってベクター#2のものよりも高いレベルで維持されることが見出された。
【実施例6】
【0133】
抗原発現ベクター注射によるサルにおける抗体産生および肝毒性の比較
<6-1>抗原発現ベクター注射によるサルにおける抗体産生の比較
実施例3で調製されたアデノウイルスベクター(ベクター#1および#3)の注射後のサルにおける抗体産生の量を比較した。
【0134】
具体的には、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#1および#3を、1群あたり2匹のサルで、1x1011VP/サルの用量で6~7週齢のサル(カニクイザル)に筋肉内注射した。免疫化の2および3週間後、静脈内血液採取によってサルから血液試料を収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する抗体の量を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および疑似ウイルス(シュードウイルス)中和アッセイによって測定した。
【0135】
酵素結合免疫吸着アッセイのために、96ウェルプレートを、100ng/ウェルでPBSN中に溶解したスパイクタンパク質(Acro Biosystems、カタログ番号SPN-C52H84)でコーティングした後、4℃で16時間、冷反応させた。96ウェルプレートを16時間コーティングした後、コーティングタンパク質を除去し、PBSで3回洗浄し、次いで、150μlのブロッキングバッファーを各ウェルに添加した後、反応(37℃、90分)させた。反応時間の間に、希釈バッファー中で1600倍に血漿を希釈し、ブロッキング反応後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで、50μlの希釈した血漿試料を各ウェルに添加した後、反応(37℃、3時間)させた。反応の完了時に、プレートをPBSで3回洗浄し、希釈バッファー中で1000倍に希釈した、50μlの二次抗体、ヒトトータルIg-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1010-05)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、2時間)させた。次いで、二次抗体を除去し、プレートをPBSで5回洗浄し、50μlの発色試薬(TMBペルオキシダーゼ基質バッファー、ROCKLAND、カタログ番号TMBE-1000)を各ウェルに添加した後、15分間発色させた。各ウェルに50μlの0.25N HClを添加することによって発色を停止させ、マイクロリーダーを用いて450nmの波長で試料を分析した。
【0136】
疑似ウイルス中和アッセイのために、HEK293T-hACE2(ヒトアンジオテンシン変換酵素2; hACE2)細胞系を、1x104細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中に入れ、10時間培養した(37℃、5%CO2)。免疫化の2および3週間後に静脈内採取によってサルから収集された血漿を、100倍から6400倍まで4倍希釈し、1時間(37℃)にわたって7x105TU/mlの疑似ウイルス(スパイクタンパク質およびルシフェラーゼを発現するレンチウイルス)と反応させた。2μg/ウェル(200μl)のポリブレン(Merck、カタログ番号TR-1003-G)と共に培養されるHEK293T-hACE2細胞を含有する96ウェルプレート中に血漿を接種し、2日間培養した。次いで、スパイクタンパク質に結合する血漿中の中和抗体の存在を、疑似ウイルスによるHEK293T-hACE2細胞系の感染によって誘導されるルシフェラーゼタンパク質発現の程度を測定することによって確認した。2日間培養した細胞を、DPBSで洗浄した後、25μgの細胞溶解試薬(Promega、カタログ番号E153A)で溶解した。溶解した試料を不透明な96ウェルプレートに移した後、100μgのルシフェラーゼ検出指示剤(Promega、カタログ番号E151A)を各ウェルに添加し、照度計(Luminometer Centro XS3 LB960、Berthold Technologies、カタログ番号LB960、ソフトウェア:Mikro 2000プログラム)を使用して、発光のレベルを測定した(検出指示剤の注射-5秒の混合-2秒の遅延-10秒の測定)。
【0137】
結果として、
図10に示されるように、ベクターを注射した場合、抗体産生の量は優れており、抗体力価はベクター注射の5週間後でも維持されることが確認された。さらに、
図11に示されるように、中和抗体濃度は、ベクター#3が注射された場合に高いことが確認された。これらの結果は、ワクチン投与の2週間後には大量の中和抗体が産生され始め、細胞のウイルス感染を効率的に遮断することを示唆している。
【0138】
<6-2>抗原発現ベクター注射によるサルにおける肝毒性の比較
アデノウイルスの性質に起因して、それらの多くは肝臓に移行し、肝毒性を引き起こすことがある。肝毒性は人体にとって致死的であるため、高用量のウイルス粒子が投与される場合であっても肝毒性を示さないワクチンを調製することが非常に重要である。したがって、実施例3で調製されたアデノウイルスベクター(ベクター#1および#3)の注射によってサルにおいて肝毒性を比較した。
【0139】
実施例3で調製されたアデノウイルスベクター#1および#3を、1群あたり2匹のサルで、1x1011VP/サルの用量で6~7週齢のサル(カニクイザル)に筋肉内注射した。投与前(プレ)ならびに投与の9、22、および36日後に全ての動物から血液を収集した。全ての血液収集を、空腹状態(飲料水の自由摂取)で実施し、使い捨て注射筒(3ml、23G、KOREAVACCINE、KOR)を使用して大腿静脈から約3mlの血液を収集した。
【0140】
血液生化学検査のために収集した約0.6mlの血液を、SSTTMチューブ(Vacutainer(登録商標)、BD、USA)に分注し、13,000rpmで5分間の遠心分離(5424R、Eppendorf、USA)によって血清を分離した。次いで、肝毒性レベル、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を、生化学分析装置(7180、HITACHI、JPN)を使用して測定した。
【0141】
結果として、
図12に示されるように、同じアデノウイルスベクタープラットフォームを使用してベクター#1および#3を注射したサルは、高用量のウイルス粒子を投与したとしても重篤な肝毒性を示さないことが確認された。
【実施例7】
【0142】
抗原発現ベクターをマウスおよびサルに注射した場合のT細胞反応性の測定
<7-1>マウスにおける脾臓細胞および末梢血単核細胞(PBMC)中でのT細胞反応性の測定
以下のように実施例3で調製されたスパイク抗原発現ベクター(ベクター#1および#3)の注射後のマウスにおいてT細胞反応性を測定した。
【0143】
具体的には、実施例5のワクチン(ベクター#1および#3)を投与したマウスを、投与の10週目に犠牲にし、眼窩血液採取によって血液を収集し、脾臓を分離した。70μmの細胞ストレーナー(BD Bioscience、カタログ番号352350)を使用して脾臓細胞を粉砕して単一細胞を形成させた後、ACK溶解バッファー(Gibco、カタログ番号A1049201)を使用して赤血球を除去した。Histopaque(登録商標)-1077(Sigma-Aldrich、カタログ番号10771)を使用する密度勾配遠心分離によって、血液試料から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。分離された脾臓細胞およびPBMCを計数し、2x106細胞/mlの濃度でRF10培養培地(RPMI1640 + 10%FBS + 1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中に懸濁した。
【0144】
Peptivator SARS-CoV-2 Prot_S(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-126-701)を、予め加熱したRF10培養培地に50μg/mlの濃度で添加し、マウスIFN-γ ELISPOTキット(CTL、カタログ番号MIFNgp-2M/10)中の被覆プレートの各ウェルに、100μlの混合物を充填し、37℃のCO2インキュベーター中で20分間保存した(各群のウェルを2回反復で実施した)。その後、再懸濁されたマウス脾臓細胞およびPBMCを含有する100μlの培養培地を各ウェルに添加し、37℃のCO2インキュベーター中で培養した。抗CD3 mAb(1μg/ml、Biolegend、カタログ番号100331)を陽性対照ウェルに添加し、細胞を入れることなくRF10のみを陰性対照ウェルに添加した。24時間培養した後、マウスIFN-γ ELISPOTキットに含まれる製造業者のプロトコールに従ってELISPOT発色を実施した。発色後、光を遮断することによってプレートを室温で24時間乾燥した後、イムノスポットS6マイクロ分析装置(CTL)を使用して分析した。結果を、1x106のPBMCの単位に変換した。
【0145】
結果として、
図13に示されるように、ベクターを注射しなかった群およびベクター#1を注射した群と比較して、ベクター#3を注射したマウスの脾臓細胞および末梢血単核細胞(PBMC)においてT細胞反応性が有意に増大することが確認された。上記の結果は、本発明のワクチン組成物が、SARS-CoV-2に再感染した場合にT細胞による記憶免疫応答ならびに抗体産生を活発に誘導することができることを示唆している。
【0146】
<7-2>サルにおける末梢血単核細胞(PBMC)中でのT細胞反応性の測定
以下のように実施例3で調製されたアデノウイルスベクター(ベクター#1および#3)の注射後のサルにおいてT細胞反応性を測定した。
【0147】
投与の4週目に静脈内血液採取によって実施例6のワクチン(ベクター#3)を投与したサルから血液(5ml)を収集した。Histopaque(登録商標)-1077(Sigma-Aldrich、カタログ番号10771)を使用する密度勾配遠心分離によって、血液試料から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した後、ACK溶解バッファー(Gibco、カタログ番号A1049201)を使用して赤血球を除去した。分離されたPBMCを計数し、2x106細胞/mlの濃度でRF10培養培地(RPMI1640 + 10%FBS + 1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中に懸濁した。
【0148】
Peptivator SARS-CoV-2 Prot_S(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-126-701)を、予め加熱したRF10培養培地に100μg/mlの濃度で添加し、ヒトIFN-γ ELISPOTキット(CTL、カタログ番号HIFNgp-2M/10)中の被覆プレートの各ウェルに、100μlの混合物を充填し、37℃のCO2インキュベーター中で20分間保存した(各群のウェルを2回反復で実施した)。その後、再懸濁されたPBMCを含有する100μlの培養培地を各ウェルに添加し、37℃のCO2インキュベーター中で培養した。PMA(10ng/ml)およびイオノマイシン(1μg/ml)を陽性対照ウェルに添加し、細胞を入れることなく陰性対照ウェルにRF10のみを添加した。24時間培養した後、ヒトIFN-γ ELISPOTキットに含まれる製造業者のプロトコールに従ってELISPOT発色を実施した。発色後、光を遮断することによってプレートを室温で24時間乾燥した後、イムノスポットS6マイクロ分析装置(CTL)を使用して分析した。結果を、1x106のPBMCの単位に変換した。
【0149】
結果として、
図14に示されるように、ベクターを注射しなかった群と比較して、ベクター#3を注射したサルの末梢血単核細胞(PBMC)においてT細胞反応性が有意に増大することが確認された。上記の結果は、本発明のワクチン組成物が、SARS-CoV-2に再感染した場合にT細胞による記憶免疫応答ならびに抗体産生を活発に誘導することができることを示唆している。
【実施例8】
【0150】
抗原発現ベクター#3および抗原ヘテロベクター#3の注射によるマウスおよびサルにおける抗原特異的中和抗体産生等価性の比較
<8-1>抗原発現ベクター#3および抗原ヘテロベクター#3の注射によるマウスにおける抗原特異的中和抗体産生等価性の比較
実施例3で調製されたベクター#3および等価性比較群として調製されたヘテロベクター#3(配列番号30)をマウスに注射した後の抗体産生の量を比較した。ヘテロベクター#3は、実施例3で使用したベクター#3のアデノウイルス遺伝子中のE4遺伝子がウイルスゲノムのE1領域中に再配置された形態である。具体的には、このベクターは、E3ノブ遺伝子が、E1/E3が欠失したAd5中でAd35で置換されたAd5/35ベクターのE4orf6の711bpが欠失され、組換えスパイクタンパク質(SARS-CoV-2のS1ドメインおよびS2ドメインがGGGGSリンカー(配列番号31)によって接続された融合タンパク質)およびE4orf6遺伝子がE1欠失部位に前方挿入された形態である。ベクターを、実施例3と同じ様式で調製した。
【0151】
具体的には、スパイク抗原発現ベクター(ベクター#3およびヘテロベクター#3)を、1群あたり5匹のマウスで、1x109VP/マウスの用量で6~7週齢のBALB/cマウスに筋肉内注射した。投与の9週間後に眼窩血液採取によってマウスから約300μlの血液を収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する中和抗体の量を、疑似ウイルス中和アッセイによって測定した。
【0152】
疑似ウイルス中和アッセイのために、HEK293T-hACE2(ヒトアンジオテンシン変換酵素2; hACE2)細胞系を、1x104細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中に入れ、10時間培養した(37℃、5%CO2)。免疫化の8週後に静脈内採取によってマウスから収集された血漿を、100倍から6400倍まで4倍希釈し、7x105TU/mlの疑似ウイルス(スパイクタンパク質およびルシフェラーゼを発現するレンチウイルス)と1時間反応させ(37℃)、次いで、HEK293T-hACE2細胞を含有する96ウェルプレート中で3日間培養した。次いで、スパイクタンパク質に結合する血漿中の中和抗体の存在を、疑似ウイルスによるHEK293T-hACE2細胞系の感染によって誘導されるルシフェラーゼタンパク質発現の程度を測定することによって確認した。3日間培養した細胞を、DPBSで洗浄した後、25μgの細胞溶解試薬(Promega、カタログ番号E153A)で溶解した。溶解した試料を不透明な96ウェルプレートに移した後、100μgのルシフェラーゼ検出指示剤(Promega、カタログ番号E151A)を各ウェルに添加し、照度計(Luminometer Centro XS3 LB960、Berthold Technologies、カタログ番号LB960、ソフトウェア:Mikro 2000プログラム)を使用して、発光のレベルを測定した(検出指示剤の注射-5秒の混合-2秒の遅延-10秒の測定)。
【0153】
結果として、
図15に示されるように、抗原ベクター#3および抗原ヘテロベクター#3は、優れた抗体産生を示し、2群間に差異はなかった。上記の結果は、抗原#3が異なるプラットフォームベクター上にロードされた場合であっても、同等のレベルの中和抗体活性を有することを示唆している。
【0154】
<8-2>抗原発現ベクター#3および抗原ヘテロベクター#3の注射によるサルにおける抗原特異的中和抗体産生等価性の比較
ベクター#3および実施例8-1の等価性比較群として調製されたヘテロベクター#3をサル(カニクイザル)に注射した後、抗原特異的中和抗体産生の量を比較した。
【0155】
具体的には、スパイク抗原発現ベクター(ベクター#3およびヘテロベクター#3)を、1群あたり2匹のサルで、2x1010VP/サルの用量で6~7週齢のサルに筋肉内注射した。免疫化の9週後に静脈内血液採取によってサルから血液を収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する中和抗体の量を、疑似ウイルス中和アッセイによって測定した。
【0156】
疑似ウイルス中和アッセイのために、HEK293T-hACE2(ヒトアンジオテンシン変換酵素2; hACE2)細胞系を、1x104細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中に入れ、10時間培養した(37℃、5%CO2)。免疫化の9週後に静脈内血液採取によってサルから収集された血漿を、100倍から6400倍まで4倍希釈し、7x105TU/mlの疑似ウイルス(スパイクタンパク質およびルシフェラーゼを発現するレンチウイルス)と1時間反応させ(37℃)、次いで、HEK293T-hACE2細胞を含有する96ウェルプレート中で3日間培養した。次いで、スパイクタンパク質に結合する血漿中の中和抗体の存在を、疑似ウイルスによるHEK293T-hACE2細胞系の感染によって誘導されるルシフェラーゼタンパク質発現の程度を測定することによって確認した。3日間培養した細胞を、DPBSで洗浄した後、25μgの細胞溶解試薬(Promega、カタログ番号E153A)で溶解した。溶解した試料を不透明な96ウェルプレートに移した後、100μgのルシフェラーゼ検出指示剤(Promega、カタログ番号E151A)を各ウェルに添加し、照度計(Luminometer Centro XS3 LB960、Berthold Technologies、カタログ番号LB960、ソフトウェア:Mikro 2000プログラム)を使用して、発光のレベルを測定した(検出指示剤の注射-5秒の混合-2秒の遅延-10秒の測定)。
【0157】
結果として、
図16に示されるように、ベクター#3およびヘテロベクター#3は、優れた抗体産生を示し、発現レベルに差異はなかった。
【実施例9】
【0158】
組換えスパイクタンパク質注射によるマウスにおける抗体産生の比較
<9-1>組換えスパイクタンパク質の注射によるマウス抗体産生の比較
実施例3で調製されたベクター#1~#3に由来する組換えスパイクタンパク質(組換えタンパク質#2および組換えタンパク質#3)をマウスに注射した後、抗体産生の量を比較した。
【0159】
具体的には、ベクター#1~#3に由来する組換えスパイクタンパク質を、1群あたり6匹のマウスで、6~7週齢のBALB/cマウスに筋肉内注射した。10μgのそれぞれの組換えスパイクタンパク質(#1~#3)を、150μlのPBS(pH7.4)中で希釈し、筋肉内注射によって投与した。約300μlの血液試料を、投与の2~4週間後に眼窩血液採取によって収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する中和抗体の量を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および疑似ウイルス中和アッセイによって測定した。
【0160】
酵素結合免疫吸着アッセイのために、96ウェルプレートを、100ng/ウェルでPBSN(PBS 1L+アジ化ナトリウム0.01g)中に溶解したスパイクタンパク質(Acro Biosystems、カタログ番号SPN-C52H84)でコーティングした後、4℃で16時間、冷反応させた。96ウェルプレートを16時間コーティングした後、コーティングタンパク質を除去し、PBSで3回洗浄し、次いで、150μlのブロッキングバッファー(PBSN+BSA1%)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、90分)させた。反応時間の間に、希釈バッファー(PBSN+0.1%BSA+0.05%Tween-20)中で6400倍に血漿を希釈し、ブロッキング反応後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで、50μlの希釈した血漿試料を各ウェルに添加した後、反応(37℃、3時間)させた。反応の完了時に、プレートをPBSで3回洗浄し、希釈バッファー中で1000倍に希釈した、50μlの二次抗体、GAM-IgG-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1030-05)およびGAM-IgM-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1020-05)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、2時間)させた。次いで、二次抗体を除去し、プレートをPBSで5回洗浄し、50μlの発色試薬(TMBペルオキシダーゼ基質バッファー、ROCKLAND、カタログ番号TMBE-1000)を各ウェルに添加した後、15分間発色させた。各ウェルに50μlの0.25N HClを添加することによって発色を停止させ、マイクロリーダーを用いて450nmの波長で試料を分析した。
【0161】
疑似ウイルス(シュードウイルス)中和アッセイのために、HEK293T-hACE2(ヒトアンジオテンシン変換酵素2; hACE2)細胞系を、1x104細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中に入れ、10時間培養した(37℃、5%CO2)。免疫化の2~4週後に静脈内採取によってマウスから収集された血漿を、100倍から6400倍まで4倍希釈し、7x105TU/mlの疑似ウイルス(スパイクタンパク質およびルシフェラーゼを発現するレンチウイルス)と1時間反応させ(37℃)、次いで、HEK293T-hACE2細胞を含有する96ウェルプレート中で3日間培養した。次いで、スパイクタンパク質に結合する血漿中の中和抗体の存在を、疑似ウイルスによるHEK293T-hACE2細胞系の感染によって誘導されるルシフェラーゼタンパク質発現の程度を測定することによって確認した。3日間培養した細胞を、DPBSで洗浄した後、25μgの細胞溶解試薬(Promega、カタログ番号E153A)で溶解した。溶解した試料を不透明な96ウェルプレートに移した後、100μgのルシフェラーゼ検出指示剤(Promega、カタログ番号E151A)を各ウェルに添加し、照度計(Luminometer Centro XS3 LB960、Berthold Technologies、カタログ番号LB960、ソフトウェア:Mikro 2000プログラム)を使用して、発光のレベルを測定した(検出指示剤の注射-5秒の混合-2秒の遅延-10秒の測定)。
【実施例10】
【0162】
スパイク抗原プラスミド注射によるマウスにおける抗体産生の比較
<10-1>スパイク抗原プラスミド注射によるマウス抗体産生の比較
プラスミド(プラスミドベクター#1およびプラスミドベクター#3)の形態の実施例1および2で調製されたベクター#1~#3をマウスに注射した後、抗体産生の量を比較した。
【0163】
具体的には、実施例1および2で調製されたプラスミドベクター#2および#3を大腸菌に導入し、200mLのLB培養培地中で1日間培養した。培養されたプラスミドを、QIAGEN Endofree Plasmid Maxiキット(カタログ番号12362)を使用して収獲した後、1群あたり6匹のマウスで6~7週齢のBALB/cマウスに投与した。100μgのそれぞれのベクター(#2および#3)を、50μlのPBS(pH7.4)中で希釈し、筋肉内注射によって投与した。約300μlの血液試料を、投与の2~4週間後に眼窩血液採取によって収集した。次いで、遠心分離(8000rpm、10分、20℃)によって血漿を分離し、血液中に存在する中和抗体の量を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および疑似ウイルス中和アッセイによって測定した。
【0164】
酵素結合免疫吸着アッセイのために、96ウェルプレートを、100ng/ウェルでPBSN(PBS 1L+アジ化ナトリウム0.01g)中に溶解したスパイクタンパク質(Acro Biosystems、カタログ番号SPN-C52H84)でコーティングした後、4℃で16時間、冷反応させた。96ウェルプレートを16時間コーティングした後、コーティングタンパク質を除去し、PBSで3回洗浄し、次いで、150μlのブロッキングバッファー(PBSN+BSA1%)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、90分)させた。反応時間の間に、希釈バッファー(PBSN+0.1%BSA+0.05%Tween-20)中で6400倍に血漿を希釈し、ブロッキング反応後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで、50μlの希釈した血漿試料を各ウェルに添加した後、反応(37℃、3時間)させた。反応の完了時に、プレートをPBSで3回洗浄し、希釈バッファー中で1000倍に希釈した、50μlの二次抗体、GAM-IgG-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1030-05)およびGAM-IgM-HRP(Southernbiotech、カタログ番号1020-05)を各ウェルに添加した後、反応(37℃、2時間)させた。次いで、二次抗体を除去し、プレートをPBSで5回洗浄し、50μlの発色試薬(TMBペルオキシダーゼ基質バッファー、ROCKLAND、カタログ番号TMBE-1000)を各ウェルに添加した後、15分間発色させた。各ウェルに50μlの0.25N HClを添加することによって発色を停止させ、マイクロリーダーを用いて450nmの波長で試料を分析した。
【0165】
疑似ウイルス中和アッセイのために、HEK293T-hACE2(ヒトアンジオテンシン変換酵素2; hACE2)細胞系を、1x104細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート中に入れ、10時間培養した(37℃、5%CO2)。免疫化の2~4週後に静脈内採取によってマウスから収集された血漿を、100倍から6400倍まで4倍希釈し、7x105TU/mlの疑似ウイルス(スパイクタンパク質およびルシフェラーゼを発現するレンチウイルス)と1時間反応させ(37℃)、次いで、HEK293T-hACE2細胞を含有する96ウェルプレート中で3日間培養した。次いで、スパイクタンパク質に結合する血漿中の中和抗体の存在を、疑似ウイルスによるHEK293T-hACE2細胞系の感染によって誘導されるルシフェラーゼタンパク質発現の程度を測定することによって確認した。3日間培養した細胞を、DPBSで洗浄した後、25μgの細胞溶解試薬(Promega、カタログ番号E153A)で溶解した。溶解した試料を不透明な96ウェルプレートに移した後、100μgのルシフェラーゼ検出指示剤(Promega、カタログ番号E151A)を各ウェルに添加し、照度計(Luminometer Centro XS3 LB960、Berthold Technologies、カタログ番号LB960、ソフトウェア:Mikro 2000プログラム)を使用して、発光のレベルを測定した(検出指示剤の注射-5秒の混合-2秒の遅延-10秒の測定)。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質。
[2] コロナウイルスがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2である、実施形態1に記載の組換えスパイクタンパク質。
[3] コロナウイルスがSARS-CoV-2である、実施形態2に記載の組換えスパイクタンパク質。
[4] リンカーが(GGGGS)nから構成される、実施形態1に記載の組換えスパイクタンパク質。
[5] nが1~5の整数である、実施形態4に記載の組換えスパイクタンパク質。
[6] リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質抗原が増大した安定性を有する、実施形態1~5のいずれかに記載の組換えスパイクタンパク質。
[7] リンカー配列によって連結されたスパイクタンパク質抗原が増加した抗原発現レベルを有する、実施形態1~5のいずれかに記載の組換えスパイクタンパク質。
[8] コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[9] コロナウイルスがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2である、実施形態8に記載のポリヌクレオチド。
[10] リンカー配列が(GGGGS)nから構成される、実施形態8に記載のポリヌクレオチド。
[11] コロナウイルススパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、リンカー配列が導入された組換えスパイクタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
[12] コロナウイルスがSARS-CoV、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2である、実施形態11に記載のベクター。
[13] コロナウイルスがSARS-CoV-2である、実施形態12に記載のベクター。
[14] ウイルスまたはプラスミドである、実施形態11に記載のベクター。
[15] ウイルスがアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルスまたはバキュロウイルスである、実施形態14に記載のベクター。
[16] アデノウイルスがAd2、Ad4、Ad5、Ad11、Ad26、Ad35、ChAd68、FAd9またはPAd3である、実施形態15に記載のベクター。
[17] アデノウイルスが高い抗原発現レベルを有する、実施形態15または16に記載のベクター。
[18] コロナウイルススパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを含むコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチン。
[19] コロナウイルス感染がSARS、MERSまたはCOVID-19である、実施形態18に記載のコロナウイルス感染を予防または処置するためのワクチン。
[20] コロナウイルススパイクタンパク質のS1およびS2遺伝子のポリヌクレオチドを含有するベクターを対象に投与するステップを含む、コロナウイルス感染を予防または処置するための方法。
【配列表】