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特許7607779エレクトロクロミック眼科レンズを形成する光学デバイス、それを組み込んだ眼鏡、及びそれを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック眼科レンズを形成する光学デバイス、それを組み込んだ眼鏡、及びそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20241220BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20241220BHJP
   G02F 1/153 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
G02F1/15 503
G02C7/10
G02F1/153
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023538808
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2021084744
(87)【国際公開番号】W WO2022135928
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】20306667.5
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クロディーヌ・ビヴェール
(72)【発明者】
【氏名】シラ・ウァルテ・ノーギュ
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・メイネン
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・メカ
(72)【発明者】
【氏名】マリウス・プルー
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506156(JP,A)
【文献】国際公開第2012/079159(WO,A1)
【文献】特表2018-510371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0081150(US,A1)
【文献】米国特許第03507565(US,A)
【文献】米国特許第04547049(US,A)
【文献】特表2018-523170(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03413121(EP,A1)
【文献】特表2014-531058(JP,A)
【文献】特開2016-45464(JP,A)
【文献】特表2019-514750(JP,A)
【文献】特表2017-504057(JP,A)
【文献】特開2017-111207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装用者の眼科デバイス(1)であって、前記眼科デバイス(1)について、前記装用者の少なくとも片眼に近い裏面及び対向する正面をそれぞれ画定する後部シェル(4)及び前部シェル(5)を備える少なくとも1つのエレクトロクロミックセル(3)を備え、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)には少なくとも一対の透明電極(9及び10)が設けられ、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)は、エレクトロクロミック組成物(7)が充填された封止キャビティ(6)を区切り、
前記前部シェルは、ミネラルガラス基板を備え、前記後部シェルは有機ポリマー基板を備え、
前記エレクトロクロミックセルは、少なくとも1つの屈折力矯正の処方を満たす眼科レンズを形成しており、前記後部シェルの前記裏面は、シリンドリカル、トーリック、及び球面曲率の少なくとも1つを含む眼科デバイス。
【請求項2】
前記眼科デバイス(1)であって、前眼科デバイスは、前記前部シェル又は前記後部シェルに接合された眼科基板を持たない、請求項1に記載の眼科デバイス。
【請求項3】
前記眼科デバイス(1)であって、両方とも湾曲した前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)は、10μm~400μmの距離で互いから離れて、前記封止キャビティ(6)を画定するギャップを形成し、前記封止キャビティ(6)は接着封止(11)によりその周辺部において区切られ、前記正面及び前記裏面はそれぞれ凸及び凹である、請求項1又は2に記載の眼科デバイス。
【請求項4】
前記眼科デバイス(1)であって、前記眼科レンズはまた、乱視の処方を満たし、前記後部シェルの前記裏面は、前記後部シェルが前記有機ポリマー基板を備える場合、累進面である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項5】
前記眼科デバイス(1)であって、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)は、2枚の透過板についてアルバレス設計にしたがって配置され、アルバレス設計では、前記後部シェル又は前記前部シェルは、少なくとも部分的に三次関数に基づいて第1の表面プロファイルから導出され、前記前部シェル又は前記後部シェルはそれぞれ、前記後部シェル及び前記前部シェルが光軸上の各頂点に配置された場合、前記後部シェルの誘導位相変動が前記前部シェルによって相殺され、前記後部シェル又は前記前部シェルが球面を有するように、少なくとも部分的に前記三次関数の逆関数に基づいて第2の表面プロファイルから導出される、
請求項4に記載の眼科デバイス。
【請求項6】
前記眼科デバイス(1)であって、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)はそれぞれ、前記後部シェルの前記裏面及び前記前部シェルの前記正面に対向する湾曲内面(4a及び5a)を有し、前記湾曲内面には、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)上で互いに面するか、又は前記後部シェル(4)又は前記前部シェル(5)上に両方とも配置される少なくとも一対の透明電極(9及び10)が設けられ、
記少なくとも一対の透明電極(9及び10)の各電極は、
TO(AlSnO)、ATZO(AlSnZnO)、AZO(AlZnO)、FTO(FSnO)、GZO(GaZnO)、ITO(InSnO)、ITZO(InSnZnO)、IZO(InZnO)、及びそれらの混合物から選択される、スパッタリングにより堆積する少なくとも1つの透明導電性酸化物(TCO)、
- 金属を含み、ナノメッシュ、ナノワイヤ、及びナノグリッドから選択される変形可能な導電性ナノ構造体、並びに
- Mは銀、金、又は銅であり、IlはI2と等しいか、又は異なる絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の積層
の少なくとも1つを含む導電層で作られ、
前記絶縁層(I2)は、透明導電性酸化物(TCO)を含む前記エレクトロクロミック組成物(7)と接触し、
前記他方の絶縁層(I1)は、透明導電性酸化物(TCO)を含み、又は前記積層の光透過を増大させることが可能であるか、若しくはバリア層を形成することが可能な非導電層である、請求項1~5のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項7】
前記眼科デバイス(1)であって、前記後部シェルは、前記後部シェルに対する前記有機ポリマー基板の重量比によって定義される50%超の重量分率にしたがって単層又は多層である前記有機ポリマー基板を備え、前記有機ポリマー基板は、少なくとも1つの熱可塑性、熱硬化性、又は光硬化性ポリマーに基づく、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項8】
前記眼科デバイス(1)であって、前記有機ポリマー基板は
- (メタ)アクリル(コ)ポリマー、
- セルロースのトリアセテート(TAC)、
- ポリエステル、
- コポリエステル、
- ポリカーボネート(PC)、
- 環状オレフィンコポリマー(COC)、
- 環状オレフィンポリマー(COP)、及び
- これらのポリマーの少なくとも1つ及び/又はエチレン及びビニルアルコール(EVOH)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、及びポリアミド(PA)のコポリマーの少なくとも1つの多層フィルム
から選択される少なくとも1つの透明熱可塑性ポリマーに基づく、請求項7に記載の眼科デバイス。
【請求項9】
前記眼科デバイス(1)であって、前記有機ポリマー基板は、ポリウレタン、ポリウレタン/ポリ尿素、ポリチオウレタン、ポリオール(アリルカーボネート)(コ)ポリマー、ポリエピスルフィド、ポリエポキシドから選択される少なくとも1つの透明熱硬化性又は光硬化性ポリマーに基づく、請求項7に記載の眼科デバイス。
【請求項10】
前記眼科デバイス(1)であって、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)はそれぞれ、前記後部シェルの前記裏面及び前記前部シェルの前記正面に対向する湾曲内面(4a及び5a)を有し、
前記後部シェルは、その湾曲内面及び/又は前記裏面上に変形可能なバリアコーティングを更に備え、前記変形可能なバリアコーティングは、酸素、水蒸気、及び溶媒の少なくとも1つへのバリアを形成し、
- アルコール単位から導出される少なくとも1つのポリマー基づき、又は
- アルコール単位から導出されない少なくとも1つのポリマーに基づく接着層、又は
及びyは0よりも大きく、4以下である、
Al、Si、SN、TiN、SiO、SiO、インジウム錫酸化物(ITO)、SiO、ZnO、及びTiOから選択される無機若しくはハイブリッド有機/無機ガスバリアコーティング
である、請求項1~9のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項11】
眼科デバイス(1)であって、前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)はそれぞれ、前記後部シェルの前記裏面及び前記前部シェルの前記正面に対向する湾曲内面(4a及び5a)を有し、
前記前部シェル及び/又は前記後部シェルは各々、前記正面及び/又は前記裏面上に偏光フィルム、フォトクロミック層、フォトクロミック偏光層、ハードコート、反射防止コーティング、防汚コーティング、曇り止めコーティング、ブルーライトカットコーティング、及び帯電防止コーティングの少なくとも1つを更に備え、
任意選択的に、前記ハードコート及び前記反射防止コーティングの少なくとも一方は、前記前部シェル及び/又は前記後部シェルの前記湾曲内面にそれぞれ配置される、請求項1~10のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項12】
前記眼科デバイス(1)であって、前記エレクトロクロミック組成物(7)は、
ノビオロゲン又はビスビオロゲン、アントラキノン、ベンザゾール、イミダゾ[1,2-α]ピリジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、イミダゾール、ベンゾセレナジアゾール、ベンゾセレナゾール、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1つのエレクトロクロミック酸化剤、
ェロセン、フェノキサジン、フェナジン、フェノチアジン、チオアントレン、テトラチアフルバレンの誘導体、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのエレクトロクロミック還元性化合物、
- 溶媒、
- 濃厚剤、及
- 任意選択的に電解質、
を含む液体溶液又はゲルであり、
前記封止キャビティ(6)は、アクリレート、メタクリル酸、シアノアクリル酸、エポキシド、ポリウレタン、ポリイソブチレン、シリコーン、及び感圧性接着剤から選択される可撓性グルーである接着封止(11)によりその周辺で区切られる、請求項1~11のいずれか1項に記載の眼科デバイス。
【請求項13】
フレームに嵌め込まれた2枚の眼科レンズを備えた眼鏡であって、前記眼科レンズは請求項1~12のいずれか1項に記載の眼科デバイス(1)を備え、前記2枚の眼科レンズの各々は、両方とも湾曲し、前記2枚の眼科レンズの各々について、前記裏面及び前記対向する正面を画定する前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)を備える前記エレクトロクロミックセル(3)を形成している、眼鏡。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の眼科デバイス(1)を製造する方法であって、
- 前記有機ポリマー基板を含む前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)の前記一方を計算、設計することと、
- 前記封止キャビティ(6)の周辺を接着封止(11)により封止し、前記エレクトロクロミック組成物(7)で前記封止キャビティ(6)を充填することにより、前記有機ポリマー基板を含む前記後部シェル及び前記前部シェルの前記一方を前記前部シェル又は前記後部シェルの他方に組み付けることであって、それにより、前記エレクトロクロミックセルを形成する、組み付けることと、
- 前記有機ポリマー基板を含む少なくとも前記後部シェルをサーフェシング及び/又はエッジングすることと、
を含む方法。
【請求項15】
- 2つの透過板についてアルバレス設計にしたがって前記後部シェル(4)及び前記前部シェル(5)の初期アルバレス組立体を組み立てることであって、前記後部シェル又は前記前部シェルは、少なくとも部分的に三次関数に基づいて第1の表面プロファイルから導出され、前記前部シェル又は前記後部シェルはそれぞれ、各頂点が光軸上にあるように前記後部シェル及び前記前部シェルが配置された場合、前記後部シェルの誘導位相変動が前記前部シェルにより相殺され、前記後部シェル及び前記前部シェルが球面を有するように、少なくとも部分的に前記三次関数の逆関数に基づいて第2の表面プロファイルから導出される、組み立てることと、
- 前記初期アルバレス組立体の両シェルをエッジング、カットすることであって、それにより、前記初期アルバレス組立体から開始して様々な異なる処方の前記眼科レンズを得る、エッジング、カットすることと、
を含む請求項14に記載の製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック眼科レンズを形成することを意図した装用者用の光学デバイス、フレームに嵌め込まれたそのような2枚のエレクトロクロミック眼科レンズを含む眼鏡、及びそのような光学デバイスを製造する方法に関する。本発明は特に、有利なことに、処方眼科レンズを形成し得る、眼鏡等のスマートアイウェアのエレクトロクロミックセルに該当するが、本発明は、平面型又は更にはエレクトロクロミック半完成レンズのエレクトロクロミックレンズにも関する。
【背景技術】
【0002】
既知のように、エレクトロクロミック(EC)セルは典型的には、両方とも無機材料又は両方とも有機材料で作られる2つの透明外部シェルを備えた構造を有し、シェル上で、透明導電性コーティングがその内面上に配置されて、電極を形成する。EC液又はゲル組成物は通常、面する導電性コーティング間に形成されるキャビティを充填し、EC組成物は、セルの電極間に電場が印加される場合、それぞれ還元及び酸化される少なくとも1つの酸化性化合物及び少なくとも1つの還元性化合物を含む。代替的には、1つのみの導電性コーティングが同じシェル内面上に設けられてもよく、その場合、この導電性コーティングは、例えば櫛様構造又は互いに噛み合う構造を有する、この同じシェル上の構造体により2つの電極に分けられる。これらの酸化性化合物及び還元性化合物の少なくとも一方は、EC化合物である。したがって、この電場を印加することにより、セルの光透過値を変化させることができる。2つの透明シェルの支持及びキャビティの封止は通常、周辺封止によって達成される。
【0003】
EC化合物は、エレクトロクロミック性を有する物質、即ち、還元状態と酸化状態との間で色を変える物質である。異なるEC化合物の混合物であってもよい。EC化合物が還元又は酸化する場合、EC化合物がそれぞれ許容又は与える電子を与えるか、又は許容することができる別のレドックス活性化合物が必要とされる。この他のレドックス化合物はそれ自体がEC化合物であってよい。
【0004】
そのようなECセルを用いると、電場を電極間に印加することにより、セルにおけるレドックス状態、ひいてはEC化合物の色を制御することが可能である。ECセルにおいて幾つかのEC化合物を組み合わせることは、電場が電極間に印加されていない場合(受動状態)及びそのような電場が印加される場合(能動状態)、セルの色を調整するのに有用であることができる。
【0005】
米国特許出願公開第2013/293825A1号明細書は、光学基板と、光学基板上に配置されるガラス基板を形成するEC積層とを備えたエレクトロクロミック光学システムに関し、EC積層は、互いに連続して配置された少なくとも5つのセラミック層を含む。本文書の図7に見られるように、ECガラス基板は、光学基板、例えば光学ガラス又はプラスチックで作られたレンズ又はレンズブランクに、接着層を間に使用することによって接着される。
【0006】
同様に、EC処方レンズが既知であり、EC処方レンズでは、処方プラスチックウェーハ(例えばポリカーボネートで作られる)が、グルーステップにおいて、透明導電性コーティング(例えばITOの)を用いて内面にコーティングされる2つのミネラルガラスシェル(即ち両方ともミネラルガラス基板を有する)を含む平面ECセルの裏面に接着される。
【0007】
米国特許出公開願第2013/293825A1号明細書に開示されるEC光学システムの主な欠点は、先に説明したように、大半の通常のECセルとは対照的に、いかなる液体又はゲル組成物も含まない非常に特殊なEC積層にあるとともに、更に、EC光学システム全体の総厚及び総重量を大幅に上げる、必要とされる光学基板の存在にある。
【0008】
米国特許出願公開第2013/293825A1号明細書のEC光学システムの別の欠点並びにミネラルECセル及び処方プラスチックウェーハを有する上記EC処方レンズの欠点は、EC積層又はミネラルECセルを光学基板又は処方ウェーハに接着させるステップにあり、そのステップは、生産歩留まりを下げ、非品質コストを上げる幾つかの欠陥を導入する可能性があるため、繊細である。
【0009】
米国特許第9766528B2号明細書は、車両ミラー用のECデバイスであって、
- 前面及び後面を含む第1の可撓性又は剛性プラスチック基板であって、後面は第1の導電性材料を含み、前面及び/又は後面はガス拡散バリアを含む、第1の可撓性又は剛性プラスチック基板と、
- 前面及び後面を含む第2の可撓性又は剛性プラスチック基板であって、前面は第2の導電性材料を含む、第2の可撓性又は剛性プラスチック基板と、
を含み、
第1の基板は封止部材により第2の基板に結合され、第1の基板の後面及び第2の基板の前面は、封止部材と共に、間にチャンバを画定する、ECデバイスを開示している。
【0010】
このECデバイスの主な欠点は、平坦なシェルを有する車両ミラー用の開示されたラミネートが、湾曲ECデバイスの取得を目的とせず、更に屈折力矯正用の処方レンズの取得を目的としていないことである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、それぞれ、光学デバイスについて、装用者の少なくとも片眼に近い裏面及び対向する正面を画定する後部シェル及び前部シェルを含む少なくとも1つのエレクトロクロミックセルを含む新しい光学デバイスであって、後部シェル及び前部シェルには少なくとも一対の透明電極が設けられ、後部シェル及び前部シェルは、エレクトロクロミック組成物が充填された封止キャビティを区切り、それにより、特に耐衝撃性、厚さ、重量、透明性、色の均質性、バリア性、及びレンズ構造体の正面の耐摩耗性を含め、レンズ構造体の性質間のトレードオフを改善して、光学デバイスが平面型又は処方型のいずれかのエレクトロクロミックレンズ構造体を形成できるようにする、光学デバイスを装用者に提供することにより、少なくとも上記欠点を解消することである。
【0012】
本発明によれば、この光学デバイスは、前部シェル及び後部シェルの一方がミネラルガラス基板を含み、他方(即ちそれぞれ後部シェル又は前部シェル)は有機ポリマー基板を含み、それにより、エレクトロクロミックセルが平面レンズ及び屈折力矯正の処方を満たす処方レンズから選択されるミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズ構造体を形成するようなものである。
【0013】
なお、本発明の光学デバイスを形成するこのミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズは、好ましくは、前部シェル及び前部シェルが両方とも湾曲し、このミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズが任意選択的に、レンズ構造体全体、特にその前面で取得可能な性質の上記の満足のいくトレードオフに加えて、処方眼科レンズに必要とされる特定のレンズの総屈折力に関連して決定される任意の所望の基本曲線を示し得るようなものである。
【0014】
本発明のこの(ミネラル-有機)ハイブリッドEC眼科レンズが、基本的にミネラルガラスECの前部又は後部シェル(即ちミネラルガラス基板に基づく)と基本的に有機ポリマーECの後部又は前部シェル(即ち、プラスチック基板等の有機ポリマー基板に基づく)との特定の組合せにより、今日利用可能な上記の従来技術による完全ミネラルのEC眼科レンズ(そのような利用可能なミネラルECレンズは、各々がミネラルガラス基板に基づく前部シェル及び後部シェルを含む)と区別されることにも留意されたい。
【0015】
簡潔にするために、本発明の特徴の以下の説明では、ハイブリッド眼科レンズのミネラルシェル及びプラスチックシェルを参照する。
【0016】
上記特徴のいずれかを含む本発明の別の態様によれば、後部シェル又は前部シェルは、50%超、好ましくは70%超であり得る重量分率にしたがって単層又は多層である有機ポリマー基板を備え、有機ポリマー基板は、少なくとも1つの熱可塑性、熱硬化性、又は光硬化性ポリマーに基づき得る。
【0017】
第1の実施形態によれば、有機ポリマー基板は、
- (メタ)アクリル(コ)ポリマー、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)、
- セルロースのトリアセテート(TAC)、
- ポリエステル、例えばポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、又はポリエチレンナフタレート(PEN)、
- コポリエステル、
- ポリカーボネート(PC)、
- 環状オレフィンコポリマー(COC)、
- 環状オレフィンポリマー(COP)、及び
- これらのポリマーの少なくとも1つ及び/又はエチレン及びビニルアルコール(EVOH)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、及びポリアミド(PA)のコポリマーの少なくとも1つの多層フィルム
から選択される少なくとも1つの透明熱可塑性ポリマーに基づき得る。
【0018】
第2の実施形態によれば、有機ポリマー基板は、例えば、ポリウレタン、ポリウレタン/ポリ尿素、ポリチオウレタン、ポリオール(アリルカーボネート)(コ)ポリマー、ポリエピスルフィド、ポリエポキシドから選択される少なくとも1つの透明熱硬化性又は光硬化性ポリマーに基づき得る。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前部シェルは上記ミネラルガラス基板を備え、後部シェルは上記有機ポリマー基板を備える。この好ましい事例では、いわゆるミネラルシェル及びプラスチックシェルはそれぞれ前部シェル及び後部シェルからなる。
【0020】
以下詳述するように、この好ましい実施形態は、いわゆるミネラルシェル及びプラスチックシェルがそれぞれ後部シェル及び前部シェルからなる本発明の他の企図される事例と比較して、追加の特に有利な性質を提供する。
【0021】
有利なことに、本発明の光学デバイスは、EC積層又はECセルをレンズ型の別個の光学基板又はウェーハに接着することに関連する上記の従来技術とは対照的に、前部シェル又は後部シェルに接合された光学基板を持たなくてよく、したがって、有機ポリマー基板を使用して、平坦であり得、決定された処方を既に有し得、又は半完成レンズであり得る後部シェルを作ることにより、この従来技術の上記欠点を解消する。
【0022】
その結果として、光学デバイスに接着される任意の別個のプラスチックレンズ基板又はウェーハがないことにより、光学デバイスの総厚及び総重量を低下させることができるとともに、補足的なグルーステップ及びそれによって生じる美観的欠陥並びに追加の非品質コストをなくすこともできる。
【0023】
本発明の一態様によれば、後部シェル又は前部シェルはそれぞれ、後部シェルの裏面及び前部シェルの正面に対向する湾曲内面を有し得、湾曲内面には、後部シェル及び前部シェル上で互いに面するか、又は後部シェル又は前部シェル上に両方とも配置される上記少なくとも一対の透明電極が設けられる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、ミネラルシェル(好ましくは前部シェル)及びプラスチックシェル(好ましくは前部シェル)の湾曲内面には、それぞれプラスチックシェル及びミネラルシェル上で互いに面する上記一対の透明電極が設けられる。
【0025】
先行する実施形態を包含する本発明の別の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの透明電極は、
- 例えば、ATO(AlSnO)、ATZO(AlSnZnO)、AZO(AlZnO)、FTO(FSnO)、GZO(GaZnO)、ITO(InSnO)、ITZO(InSnZnO)、IZO(InZnO)、及びそれらの混合物から選択される、スパッタリングにより堆積する少なくとも1つの透明導電性酸化物(TCO)、
- 金属を含み、例えばナノメッシュ、ナノワイヤ、及びナノグリッドから選択される変形可能な導電性ナノ構造体、
- Mは例えば銀、金、の銅であり、I1はI2と等しいか、又は異なる絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の積層であって、
絶縁層(I2)は、透明導電性酸化物(TCO)、例えばインジウム錫酸化物(ITO)を含むエレクトロクロミック組成物(7)と接触し、
他方の絶縁層(I1)は、透明導電性酸化物(TCO)、例えばインジウム錫酸化物(ITO)を含み、又は積層の光透過を増大させることが可能であるか、若しくはバリア層を形成することが可能な非導電層である、絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の積層、並びに
- ポリマー導電性コーティング
の少なくとも1つを含む導電層で作られる。
【0026】
したがって、導電層は、上記透明導電性酸化物(TCO)及び上記変形可能な導電性ナノ構造体、及び/又は絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の上記積層体の組合せを含み得る。
【0027】
本発明のより好ましい実施形態によれば、ミネラル前部シェル及びプラスチック後部シェルの湾曲内面には、それぞれ後部シェル及び前部シェル上で互いに面し、以下の組合せによって画定される上記一対の透明電極が設けられる:
- ミネラル前部シェルの内面は、前部電極により、スパッタリングにより堆積する上記少なくとも1つのTCO(例えば、ATO、ATZO、AZO、FTO、GZO、ITO、ITZO、及びIZOの少なくとも1つ)を含み、
- プラスチック後部シェルの内面は、面する後部電極により、任意選択的にバリア層に加えて、ナノメッシュ、ナノワイヤ、及びナノグリッド(必要な場合、幾つかの重ねられた導電層及び交互になったパッシベーション層で作られた多層を含め、以下説明されるように少なくとも1つのパッシベーション層として導電性コーティングを用いて扱われて、ECセル内のEC処方の酸化性化合物との金属の望ましくない反応を回避し、なお、パッシベーション層は、不活性金属層、例えば金層等の導電性コーティングであり得る)の1つ又は幾つかの層から選択される1つの上記導電性金属ナノ構造体を含む。
【0028】
これらのナノメッシュ及びナノワイヤは、溶媒中のナノワイヤの懸濁液の層の堆積と、その後の溶媒除去、例えば乾燥による溶媒除去を含む、当該技術分野で公知の方法によって得ることができる。ナノグリッドは、当該技術分野で公知のように、金属層に適用されるフォトリソグラフィ法によって取得し得る。これらの金属ナノメッシュ、ナノワイヤ、又はナノグリッド層はまた、有利なことに、例えばスパッタリングによって従来堆積するITO厚膜コーティングのような既存のTCO脆性材料と比較して、導電性を失わずに高レベルの変形に耐えることが可能である。
【0029】
有利なことに、パッシベーション層は、パッシベーション単層又はパッシベーション多層(交互になった導電性ナノ構造体とパッシベーション層の上記事例では)であり得、
- 変形可能な導電性ナノ構造体上に堆積し得、パッシベーション層は好ましくは導電層、例えばPEDOT、金、ロジウム、白金、若しくはパラジウム系コーティング又は透明導電性酸化物(TCO)コーティングであり得、そうでなければ
- 上記少なくとも1つの導電層に直接含まれ得、好ましくは、変形可能な導電性ナノ構造体と1つ又は幾つかの導電層との混合物(2層又は3層以上の多層を含む)又は変形可能な導電性ナノ構造体と1つ又は幾つかの透明導電性酸化物(TCO)との混合物であり得る。
【0030】
本発明のパッシベーション層に使用することができるTCOは一般に、酸素原子と、ATO(AlSnO)、ATZO(AlSnZnO)、AZO(AlZnO)、FTO(FSnO)、GZO(GaZnO)、ITO(InSnO)、ITZO(InSnZnO)、IZO(InZnO)、又はそれらの混合物等の少なくとも2つの他の元素とを種々の割合で含む処方を有するドープ金属酸化物である。
【0031】
なお、導電層に使用可能なTCO構造化電極は、有利なことに、完全TCO層よりもはるかに脆性が低い。
【0032】
上記態様のいずれかを含み得る本発明の好ましい実施形態によれば、後部シェル及び前部シェルはそれぞれ、後部シェルの裏面及び前部シェルの正面に対向する湾曲内面を有し、プラスチック後部シェルは、湾曲内面及び/又は上記裏面上に単層又は多層の変形可能なバリアコーティングを更に含む。
【0033】
変形可能なバリアコーティングは、酸素、水蒸気、及び溶媒の少なくとも1つに対するバリアを形成し得、好ましくは、
- アルコール単位から導出される少なくとも1つのポリマー、例えばエチレン及びビニルアルコール(EVOH)のコポリマー若しくはポリ(ビニルアルコール)(PVA)に基づき、又は
- アルコール単位から導出されない少なくとも1つのポリマー、例えばポリイソブチレン(PIB)に基づく接着層、又は
- 例えば、x及びyは0よりも大きく、4以下である、
Al、Si、SN、TiN、SiO、SiO、インジウム錫酸化物(ITO)、SiO、ZnO、及びTiOから選択される無機若しくはハイブリッド有機/無機ガスバリアコーティング
である。
【0034】
そのようなバリアは、物理蒸着、例えば、真空蒸着若しくはスパッタリング、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、原子層堆積(ALD)により又は中性ビーム支援スパッタリング(NBAS)により、ミネラルガラス基板(それぞれプラスチック基板)に塗布し得る。
【0035】
変形可能なバリアコーティングは、プラスチック基板上よりもミネラルガラス基板上で必要度が低く、このバリアコーティングは、上記ミネラルガラス基板上では必要なくてもよいことに留意し得る。
【0036】
本発明の別の特徴によれば、好ましくは両方とも湾曲したハイブリッドECレンズの後部シェル及び前部シェルは、10~400μm、好ましくは20~250μmの距離で互いから離れて、上記封止キャビティを画定するギャップを形成し得、封止キャビティは接着封止により周辺部において区切られ、上記正面及び裏面はそれぞれ、例えば凸及び凹である。
【0037】
上記態様のいずれかを含み得る本発明の好ましい一般的な実施形態によれば、上記ミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズは、少なくとも1つの屈折力矯正及び任意選択的には乱視の処方を満たし、後部シェルの上記裏面は、シリンドリカル、トーリック、及び球面曲率の少なくとも1つを含み、好ましくは、後部シェルが上記有機ポリマー基板を備える場合、累進面である。
【0038】
先行する態様に関連し得る(即ちハイブリッドEC処方レンズに関し得る)本発明の特定の一実施形態によれば、後部シェル及び前部シェルは、2つの透過板について既知のアルバレス設計にしたがって配置し得、アルバレス設計では、後部シェル又は前部シェルは少なくとも部分的に三次関数に基づいて第1の表面プロファイルから導出され、前部シェル又は後部シェルはそれぞれ、後部シェル及び前部シェルが光軸上の各頂点に配置された場合、後部シェルの誘導位相変動が前部シェルによって相殺され、後部シェル又は前部シェルが逆の球面を有するように、少なくとも部分的に三次関数の逆関数に基づいて第2の表面プロファイルから導出される。
【0039】
有利なことに、上記後部シェル及び上記前部シェルの1つの初期アルバレス設計は、上記初期設計の両シェルをエッジング及びカットした後、様々な異なる処方の本発明のミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズを得られるようにし得る。
【0040】
上記態様のいずれかを包含し得る本発明の別の特徴によれば、後部シェル及び前部シェルはそれぞれ、後部シェルの裏面及び前部シェルの正面に対向する湾曲内面を有し得、
前部シェル及び/又は後部シェルは各々、例えば上記正面及び/又は裏面上に偏光フィルム、フォトクロミック層、フォトクロミック偏光層、ハードコート、反射防止コーティング、防汚コーティング、曇り止めコーティング、ブルーライトカットコーティング、及び帯電防止コーティングの少なくとも1つを更に備え、
任意選択的に、ハードコート及び反射防止コーティングの少なくとも一方は、前部シェル及び/又は後部シェルの上記湾曲内面にそれぞれ配置される。
【0041】
上記態様のいずれかを包含し得る本発明の別の特徴によれば、ハイブリッドECレンズの上記エレクトロクロミック組成物は、
- 例えば、モノビオロゲン又はビスビオロゲン、アントラキノン、ベンザゾール、イミダゾ[1,2-α]ピリジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、イミダゾール、ベンゾセレナジアゾール、ベンゾセレナゾール、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1つのエレクトロクロミック酸化剤、
- 例えば、フェロセンの誘導体、フェノキサジンの誘導体、フェナジンの誘導体、フェノチアジンの誘導体、チオアントレンの誘導体、テトラチアフルバレンの誘導体、及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1つのエレクトロクロミック還元性化合物、
- 溶媒、例えばプロピレンカーボネート、
- 濃厚剤、例えば、カルボン酸官能性ポリエステル、カルボン酸官能性ポリエーテル、カルボン酸官能性ポリウレタン、カルボン酸官能性ポリアクリレート、カルボン酸官能性ポリメタクリル酸、カルボン酸官能性ポリビニルアセテートコポリマー、それらの組合せ、又は反応産物若しくはそれらのコポリマー(ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、若しくはポリビニルアセテート誘導体が特に使用可能である)から選ばれる少なくとも2つのカルボキシル部分を含む多官能性ポリマー、及び
- 任意選択的に電解質、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩(TBA)
を含む液体溶液又はゲルであり得る。
【0042】
上記少なくとも1つのエレクトロクロミック酸化剤が、電解質の役割を果たし得、したがって、上述した任意選択的な電解質を添加する必要がなくてよいことに留意し得る。
【0043】
好ましくは、上記封止キャビティは、アクリレート、メタクリル酸、シアノアクリル酸、エポキシド、ポリウレタン、ポリイソブチレン、シリコーン、及び感圧性接着剤から選択される可撓性グルーである接着封止によりその周辺で区切られる。
【0044】
EC組成物を含む全てのタイプのECセル、好ましくは、例えば、EC処方が、電場が電極間に印加された場合、それぞれ還元及び酸化する少なくとも1つの酸化性化合物及び少なくとも1つの還元性化合物を含む(これらの酸化性化合物及び還元性化合物の少なくとも一方がEC化合物である)ECセルとしてAlesancoら (Materials 2018,11,414)により定義されているいわゆる「オールインワン型」ECが本発明で使用可能であることに留意されたい。
【0045】
ハイブリッドレンズのEC組成物の例示的な一実施形態によれば、
- 上記少なくとも1つのEC酸化剤は、モノビオロゲン又はビスビオロゲン(即ち4,4’-ビピリジニウム塩又はビス[4,4’-ビピリジニウム]塩)、例えばアルキルビオロゲン、アリールビオロゲン、アリールアルキルビオロゲン、アルキルアリールビオロゲン、アントラキノン、ベンザゾール、イミダゾ[1,2-α]ピリジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、イミダゾール、ベンゾセレナジアゾール、ベンゾセレナゾール、及びそれらの誘導体から選択され、
- 上記少なくとも1つのEC還元性化合物は、フェロセンの誘導体、フェノキサジンの誘導体、フェナジンの誘導体、フェノチアジンの誘導体、チオアントレンの誘導体、テトラチアフルバレンの誘導体、及びそれらの混合物(例えば10-メチルフェノチアジン(MePhtz))から選ばれる。
【0046】
そのようなビオロゲン化合物又はビオロゲン誘導体の非限定的な例、より具体的には、置換ジアルキル、ジアリール4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアルキル、ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]塩、及びそれらの混合物の例は、欧州特許出願公開第2848667A1号明細書、欧州特許出願公開第2848668A1号明細書、欧州特許出願公開第2848669A1号明細書、欧州特許出願公開第2848670A1号明細書、欧州特許出願公開第3115433A1号明細書、及び欧州特許出願公開第3345981A1号明細書に記載されており、これらの教示は本明細書に組み込まれる。好ましい例、例えば、1,1’-ビス(3-(tert-ブチル)フェニル)[4,4’-ビピリジン]-1,1-ジイウムビス(テトラフルオロホウ酸塩)が本明細書に記載される。
【0047】
好ましい一実施形態では、レドックス化学混合物は、少なくとも1種の上記還元性化合物(10-メチルフェノチアジンなど)と、少なくとも1種のEC酸化性化合物、好ましくは少なくとも2種のEC酸化性化合物、例えば2種又は3種のEC酸化性化合物とを含み、好ましくは、各EC酸化性化合物は、置換ジアルキル4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアリール4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアルキルビス[4,4’-ビピリジニウム]塩、又は置換ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]塩から独立して選択され、より好ましくは、少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物は、少なくとも置換ジアリール4,4’-ビピリジニウムと少なくとも置換ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]である。
【0048】
EC組成物として、プロピレンカーボネート等の溶媒と、先に定義した濃厚剤(即ち、少なくとも2つのカルボキシル部分を含む上記多官能性ポリマー等)と、先に定義した少なくとも1つの酸化剤及び還元剤と、テトラ-n-ブチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩(TBA)等の電解質とを含む溶液を記載し得る。
既知のように、ECセル中のEC化合物の少なくとも一部は、EC組成物を形成し、電極間の空間を充填する液体又はゲルに含まれて、電解質を通してそれらの間でのイオン伝導を保証する(その本質は、EC材料自体及び/又は他のレドックス活性種及び/又はEC性及びレドックス活性のない他のイオンを含むことができる荷電種にある)。したがって、EC組成物は、そのEC性の少なくとも一部をECセルに与える。
【0049】
本発明による光学デバイスは、全ての眼科デバイス、例えば、眼鏡、スポーツゴーグル(例えばスキー、サイクリング、モーターサイクル、又はゴーグルを使用する他のスポーツ用)、又は好ましくは眼鏡である拡張現実デバイスを含む。
【0050】
それにも関わらず、添付の特許請求の範囲で定義される本発明による光学デバイスが、例えばフレーム及び/又はレンズを制御するための電子システム、電池、及びセンサがないハイブリッドEC眼科レンズを有する半完成眼科デバイスであってもよいことに留意されたい。
【0051】
本発明の眼鏡は、フレームに嵌め込まれた2枚の眼科レンズを含み、眼科レンズは、本発明について先に定義された光学デバイスを含み、上記2枚の眼科レンズの各々は、
- 好ましくは両方とも湾曲し、上記裏面及び上記対向する正面を画定する後部シェル及び前部シェルを備えるエレクトロクロミックセルを備え、好ましくは、前部シェルは上部ミネラルガラス基板を備え、後部シェルは上記有機ポリマー基板を備え、
- 平面レンズ及び屈折力矯正の処方を満たす処方レンズから選択される上記ミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズを形成する。
【0052】
有利なことに、先に説明したように、上記2枚の眼科レンズの各々は、例えば凸正面及び凹裏面を有する処方レンズであり得る。
【0053】
本発明によるそのような眼鏡は、需要に応じて色及び透過率を変更できるようにする。大半の場合、ECセルが受動状態でより高い透過率を有し、能動状態でより暗くなることが好ましい。したがって、ECセル中のEC化合物は優先的に、受動状態で無色又は着色が弱いように選ばれる。多くの場合、ECセル中のEC化合物の組合せが、特にECセルの能動状態において、グレー又はブラウン等の自然な色をECセルに与えることも好ましい。
【0054】
本発明のEC眼科レンズが嵌め込まれるフレームに関して、これらのレンズを制御するように構成された電子システムを含むことが有利である。
【0055】
眼鏡等の先に定義した光学デバイスを製造する本発明による方法は、
- 上記有機ポリマー基板を含む後部シェル及び前部シェルの上記一方を例えばデジタルサーフェシングにより計算、設計することと、
- 上記封止キャビティの周辺を接着封止により封止し、上記エレクトロクロミック組成物で封止キャビティを充填することにより、上記有機ポリマー基板を含む後部シェル及び前部シェルを上記一方を前部シェル又は後部シェルの他方に組み付けることであって、それにより、上記エレクトロクロミックセルを形成する、組み付けることと、
- 有機ポリマー基板を含む後部シェル及び前部シェルの少なくとも上記一方をサーフェシング及び/又はエッジングすることと、
を含む。
【0056】
本発明の有利な一実施形態によれば、この製造方法は、
- 2間の透過板についてアルバレス設計にしたがって後部シェル及び前部シェルの初期アルバレス組立体を組み立てることであって、後部シェル又は前部シェルのブランクは、少なくとも部分的に三次関数に基づいて第1の表面プロファイルから導出され、前部シェル又は後部シェルのブランクはそれぞれ、各頂点が光軸上にあるように後部シェル及び前部シェルが配置された場合、後部シェルの誘導位相変動が前部シェルにより相殺され、後部シェル及び前部シェルが対向する球面を有するように、少なくとも部分的に三次関数の逆関数に基づいて第2の表面プロファイルから導出される、組み立てることと、
- 上記初期アルバレス組立体の両シェルをエッジング、カットすることであって、それにより、上記初期アルバレス組立体から開始して様々な異なる処方のミネラル-有機ハイブリッド眼科レンズを得る、エッジング、カットすることと、
を含む。
【0057】
まとめると、上記プラスチックシェルを上記ミネラルシェルに組み合わせることにより本発明の光学デバイス(例えば眼鏡)を形成するハイブリッドECレンズの上記有利な性質は、少なくとも以下を含む:
- プラスチックシェル及びミネラルシェルが、各内面上に被覆されたTCO(例えばITO)電極を有した場合、ハイブリッドECレンズは、完全プラスチックEC「参考(witness)」レンズ(即ち両方ともプラスチックの後部シェル及び前部シェルを有する)よりも良好な透過率、ひいては透明度を示し、その理由は、TCOコーティングは、プラスチック変形を避けるために低温で、且つこの低温で良好な導電性を維持するためにかなりの厚さでプラスチックシェル上に塗布されなければならないが、厚いTCOコーティングでは、プラスチックは部分的に吸収的になり、したがって、より高温でミネラルガラス上に堆積する同じTCOよりも透明度が低くなるためであり、
- プラスチックシェル上に低温で堆積するTCO電極コーティングは、ミネラルシェル上に堆積するものよりも高いシート抵抗を有し、その結果、シート抵抗がより高い両TCOコーティングを含む上記完全プラスチックEC「参考」レンズと比較して、両TCOコーティングの高いシート抵抗に起因して生成されるハイブリッドECレンズに望ましくない非均質な色が回避されるか、又は少なくとも低下し、
- ミネラルシェルのおかげで、ハイブリッドECレンズは、ミネラル基板よりもプラスチック基板を用いる場合に満足度がより低い、酸素及び水分に対する良好なバリアを必要とするECレドックス反応に鑑みて、上記完全プラスチックEC「参考」レンズと比較してレンズ全体内部でより低い酸素及び水分の拡散を示し、
- ミネラル前部シェルのおかげで、ハイブリッドECレンズは、上記完全プラスチックのEC「参考」レンズよりも良好な耐摩耗性を示し;
- ハイブリッドECレンズは、上記完全ミネラルEC「参考」レンズよりも軽量であり、美観及び装用者の快適性の両方を改善し(ミネラル基板よりもはるかに低いプラスチック基板の密度により、ハイブリッドECレンズは完全ミネラルECレンズの厚さ以上の厚さを有し得るにもかかわらず);
- 好ましくはプラスチック後部シェルは、両方ともミネラルガラス基板に基づく前部シェル及び後部シェルを有する完全ミネラルEC「参考」レンズの耐衝撃性と比較して、レンズの前面から、ミネラル前部シェルにおいて中断し得る最終的なミネラルガラス個片を保持することにより、ハイブリッドECレンズの耐衝撃性を改善できるようにする。
【0058】
本発明について添付図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】一対のハイブリッドEC眼科レンズを含み、本発明による光学デバイスを形成する眼鏡の斜視図である。
図2A図1の眼鏡の1枚のハイブリッドEC眼科レンズの正面図である。
図2B】このハイブリッドEC眼科レンズを形成するECセルを示す、このレンズの図2Aの平面IIB-IIBにおける概略断面図である。
図3】導電性中間要素により制御回路に接続された、本発明の別の例によるハイブリッドEC眼科レンズの正面図である。
図4】制御回路が2つの接続要素間に直接位置する、図2Bで見えるECセルからなる本発明によるハイブリッドEC眼科レンズの拡大概略断面図である。
図5】本発明によるハイブリッドEC眼科レンズを形成するECセルを示す、このハイブリッドレンズの図2Bと同様の概略断面図である。
図6図5に示されるレンズの特定の一実施形態における、本発明によるハイブリッドEC眼科レンズの概略斜視図である。
図7A】上記ハイブリッドEC眼科レンズを提供するように構成された、本発明の一実施形態による後部シェル及び前部シェルのアルバレス型配置の概略断面図である。
図7B】左半分の図では水平断面(ECセルが含まれる)及び右半分の図では垂直断面で示す、図7Aによるアルバレス型配置の例示的な一実施形態のフルスケール断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
用語「含む(comprise)」(並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有する(having)」などのその文法的変形形態)、「含む(contain)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(containing)」などのその文法的変形形態)、並びに「含む(include)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(including)」などのその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上のその他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。結果として、1つ以上の工程又は要素を「含む(comprises)」、「有する」、「含む(contains)」、又は「含む(includes)」方法又は方法内の工程は、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0061】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。また、別段の指示がない限り、本発明による「XからYまで」又は「XとYとの間」の値の間隔の表示は、X及びYの値を含むことを意味する。
【0062】
本発明による例示的なハイブリッドEC眼科レンズ:
図1図6及びそれらの以下の説明は、ECセル及び関連する眼科デバイスの非限定的な例に関し、本発明により以下詳述される前部シェル及び後部シェルにそれぞれ選択される材料の組合せを除き、国際公開第2017/009563A1号パンフレットに開示されるように関連する。
【0063】
図1に表される実施形態によれば、眼科デバイス1は、2つのECセル3a、3bが取り付けられるフレーム2を備える。
【0064】
図2Bに表されるように、各ECセル3は、有利なことに導電性ではない外層を形成し、それらの間に、エレクトロクロミック組成物7によって充填されることが意図されるキャビティ6を区切る2つの透明シェル4、5を備える。
【0065】
したがって、各透明シェル4、5は内面4a、5a及び外面4b、5bを備える。したがって、「内部」という用語はより具体的に、セル3のキャビティ6を区切る面4a、5aを示し、「外部」という用語はより具体的に、キャビティ6外部の面4b、5bを示す。したがって、キャビティ6は2つの内面4aと5aとの間に厚さeを有する。
【0066】
具体的には、外面4bにより、装用者によって装用されると結果として生成されるハイブリッドEC眼科レンズの装用者の片眼の近くに裏面を形成するように設計される透明シェル4は、本発明の好ましい実施形態により先に定義した本発明のプラスチック後部シェル4を画定し、したがって、重量的に熱可塑性、熱硬化性の光硬化性型の上記有機ポリマー基板を主に含む。
【0067】
逆に、外面5bにより、装用者によって装用されると、結果として生成されるハイブリッドEC眼科レンズの対向する正面を形成するように設計された他方の透明シェル5は、上記好ましい実施形態により先に定義されたミネラル前部シェル5を画定し、したがって、重量的に上記ミネラルガラス基板を主に含む。
【0068】
透明シェル4、5は、紫外線放射線を濾波するように、特に、例えば420nmよりも短い波長を吸収するように選ぶこともできる。一般に、シェル4、5の材料又はその内面4a、5a及び/又は外面4b、5bの処理により、シェル4、5は、限定されずに、有色反射、ミラー効果、ブルーライトに関する保護、又は赤外線放射線に関する保護を可能にする等の有利な特徴を有することが可能になり得る。これらの外面4b、5bは、傷防止コーティング、反射防止(AR)コーティング、防汚コーティング、曇り止めコーティング、プライマーコーティング等でコーティングすることもできる。一実施形態によれば、シェル4、5は有色、フォトクロミック、及び/又は偏光し得る。一実施形態によれば、前部シェル5は強化材料で作られて、その機械的強度を上げることができる。
【0069】
例えば、シェル4、5の各々は、ハードコート、ARコーティング、防汚コーティング、又は帯電防止コーティングをその外面4b、5bに有し得る。幾つかのハードコート又はARコーティングを後述する導電性コーティング9、10の下に使用することもできる。加えて、後部シェル4及び/又は前部シェル5は、偏光フィルム、フォトクロミック層、又はフォトクロミック偏光層さえも含むことができる。
【0070】
好ましくは、シェル4、5は厚さ50μm~2000μm又は300μm~1000μmを有する。シェル4、5は例えば、球面シェルであり得、特に、周辺縁部8により区切られた回転楕円形又は卵形を有し得る。特に、シェル4、5は、好ましくは、キャビティ6のEC組成物7を用いて、眼科デバイス1の装用者の眼科処方(RX)を満たす眼科レンズである。
【0071】
本発明によれば、シェル4、5の少なくとも1つの内面4a、5a、特に両方の内面4a、5aは湾曲し、即ち非ゼロ曲率を有する。例えば、シェル4、5の内面4a、5aは各々、凹又は凸であり得る。更に、シェル4、5の外面4b、5bも湾曲し得、特に凹又は凸であり得る。
【0072】
透明シェル4、5の各々の内面4a、5aは、先に定義した導電性コーティング9、10によって少なくとも部分的に、好ましくは完全に覆われ、即ち、導電性コーティング9、10は各々、例えば、
- スパッタリングにより堆積する少なくとも1つのTCO(例えば、ATO、ATZO、AZO、FTO、GZO、ITO、ITZO、及びIZOの少なくとも1つ)の透明導電性コーティング又は
- ナノメッシュ、ナノワイヤ、及びナノグリッドから選択され、必要な場合、少なくとも1つのパッシベーション層で処理されて、ECセルのEC処方との金属の反応を回避する、金属(例えば銀)に基づく導電性ナノ構造体、
- Mは例えば銀、金の銅であり、I1はI2と等しいか、又は異なる絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の積層であって、
絶縁層(I2)は、透明導電性酸化物(TCO)、例えばインジウム錫酸化物(ITO)を含むエレクトロクロミック組成物(7)と接触し、
他方の絶縁層(I1)は、透明導電性酸化物(TCO)、例えばインジウム錫酸化物(ITO)を含み、又は例えば積層を通して透光性を上げることが可能若しくはバリア層を形成することが可能な非導電層である、絶縁層(I1)-金属層(M)-絶縁層(I2)の積層及び/又は
- ポリマー導電性コーティング
を備える。
【0073】
なお、少なくとも1つのパッシベーション層(幾つかの重ねられた導電層及び交互になったパッシベーション層で作られる多層を含む)を用いた導電性ナノ構造体の処理は、使用される導電性ナノ構造体(例えばナノワイヤ)が既に不動態化されている場合、必要ないことがある。
【0074】
プラスチック後部シェル4は、少なくとも1つのバリア層(単層又は多層バリアコーティングであり得る)をその内面4a及び/又は外面4b上に含み得る。後部シェル4のバリア層は例えば、ガス(例えば酸素)及び/又は水蒸気へのバリアであり得、EC眼科デバイス1を更に保護し、その寿命を延ばせるようにする。
【0075】
本発明の特に好ましい実施形態において先に開示したように、後部シェル4及び前部シェル5の両方の導電性コーティング9、10の有利な組合せは、
- プラスチック後部シェル4に、先に開示されたバリア層とパッシベーション層としての導電性ポリマー層と組み合わせられた金属製ナノワイヤ、ナノメッシュ、又はナノグリッドで作られた導電性コーティングとの組合せを提供すること及び
- ミネラル前部シェル5に、満足のいく導電性を示すTCO(例えばITO)コーティングを提供する
ことであり得る。
【0076】
具体的には、ナノワイヤ又はナノメッシュは、例えばスプレーコーティング、バーコーティング、インクジェットコーティング、スピンコーティングにより又は平坦な基板上へのスクリーンプリント若しくは湾曲基板上へのスプレー、スピン、若しくはインクジェットコーティングによっても塗布し得る。金属製ナノグリッドはフォトリソグラフィにより作ることができ、パッシベーション層は、種々の技法により(例えばPEDOT若しくはスピン、スプレー、インクジェット、若しくはバー、若しくはスクリーンプリントコーティングプロセスにより塗布される他の導電性ポリマー層から、又は電気化学若しくは無電解プロセスによる金若しくはロジウムコーティングから、又はPVD、PECVD、若しくはスパッタリングにより堆積するITO等のTCOの薄層から)塗布し得る。銀ナノワイヤ又はナノメッシュは、例えばPEDOTと銀ナノワイヤの市販の混合物(例えばHeraeusからの)でのように、ポリマー導電性コーティングに直接含まれてもよい。
【0077】
シェル4、5の曲率半径は、組み付け後、両シェル4と5との間に一定のギャップを有するように適合される。シェル4及び5を組み付けるために、ミネラルガラスシェルに既知のように使用されるものの1つと同様のプロセスが使用され得、それを提供した、特にプラスチック後部シェル4が薄い場合、このプラスチックシェル4のいかなる変形も回避するためにこのプラスチックシェル4に適用される制約を最小化する。それにも関わらず、他の既知のプロセスを使用してもよい。
【0078】
セル3、特に2つの透明シェル4、5は、周辺封止11により一緒に保持される。したがって、封止11はキャビティ6を完全に囲む。封止11は、セル3の十分な厚さe及びシェル4、5の各々の導電性コーティング9と10とが直接接触しないことを保証できるようにする。
【0079】
封止11は、特にセル3を組み付けた後、数十μm~数百μm、好ましくは20μm~400μm、又はより具体的には80μm~300μm若しくは更に具体的には90~250μmの高さhを有する。例として、封止11の高さhは約200μmに等しい値であり得る。この高さhは、透明シェル4、5の周辺縁部8、特に内面4a、5aの周辺縁部の近傍のキャビティ6の厚さに対応する。
【0080】
より具体的には、図2Bに表される封止11の高さhは、以下説明する接続要素14、15に堆積しない封止11に対応する。しかしながら、封止11が特に接続要素14、15に堆積する一実施形態では、高さhは、封止11の高さと接続要素14、15の高さが一緒になったものに対応する。
【0081】
更に、封止11の幅Lは好ましくは、ゴーグル用途では5000μm未満であり、若しくは眼科レンズ用では1000μm未満であり、又はゴーグル用では3000μm未満であり、眼科レンズ用では800μm未満である。したがって、眼科デバイス1がフレーム2に取り付けられると、封止11は見えず、装用者の視野又は眼科デバイス1の有用エリアを制限しない。
【0082】
「幅」という用語は、透明シェル4、5の内面4a、5aに略平行する平面に延びる要素のサイズを示す。「高さ」又は「厚さ」という用語は、シェル4、5の内面4a、5aを略横断する方向に延びる要素のサイズを示す。
【0083】
封止11は、2つの透明シェル4と5との密着を維持する接着材料20から作られる。接着材料20は、選択された組み付けプロセス中、変形に耐えることが可能な任意の可撓性グルーであり得る。
【0084】
一実施形態によれば、接着材料20は、アクリレート、メタクリル酸、シアノアクリル酸、エポキシド、ポリウレタン、ポリイソブチレン、シリコーングルーから、好ましくはポリイソブチレン、カチオン性エポキシ、エポキシ-アミン、エポキシ-無水物、又はオキシムシリコーングルーから選択される可撓性グルーであり得る。接着材料20は代替的には、溶剤系か又は否かを問わず、ホットメルト接着剤のように塗布することができる感圧性接着剤であり得る。
【0085】
接着材料20は好ましくは、光及び/又は熱重合性樹脂であり、特にポリイソブチレン感圧性接着剤又はカチオン開始エポキシ樹脂であり得る。ポリイソブチレングルーを除き、そのような樹脂(例えばカチオン性エポキシ)は、続けて説明するように、露光及び/又は加熱により架橋し得る。充填されたエポキシ樹脂は、架橋されると、良好な機械的強度を有する封止11を得られるようにする。更に、そうして得られた封止11は水密且つ気密である。
【0086】
一実施形態によれば、接着材料20はEC組成物7に対して適合又は不活性であり、即ち、EC組成物7の化学的相互作用又は劣化を誘導しない。
【0087】
一実施形態によれば、接着材料20は、ガラスビーズ又はポリマービーズ等のスペーシング要素12を含む。スペーシング要素12は絶縁性である。特に、接着材料20のスペーシング要素12は、シェル4、5の内面4a、5aの各々と接触する。したがって、スペーシング要素12は、封止11の高さhを画定し制御し、したがって、キャビティ6の十分な厚さeを得られるようにする。ドロップフィリングプロセスを使用する場合、スペーシング要素12は必要なくてよい(この場合、厚さは、一表面上に分注される液体量及び封止11の高さによって制御される)。
【0088】
一実施形態によれば、接着材料20はチキソトロープ剤も含む。そのようなチキソトロープ剤は、シェル4、5の一方に堆積する接着材料20の量を制御することにより、封止11の形状を最適化できるようにする。
【0089】
チキソトロープ剤は特に、封止11の高さhと幅Lとの間に満足のいく比率を得られるようにする。したがって、封止11の幅Lを最小化しながら、十分な厚さeを有するキャビティ6を得ることが可能である。これにより、エッジ効果、即ち、封止11の幅Lの大きな増大に繋がる、シェル4、5への堆積中の接着材料20の局所拡散を回避することが可能である。例えば図2Bに表されるように、封止は、透明シェル4、5の内面4a、5aに垂直に延びる。
【0090】
更に、チキソトロープ剤は、封止の高さhと幅Lとの比率を制御しながら、封止を椀曲面上に堆積できるようにする。したがって、封止のレオロジーの制御により、封止の拡散又はスランピングが回避され、漏出堅さの欠陥又は審美的欠陥に繋がらないため、封止が曲面上の複雑な線に沿って堆積する場合であっても、封止の断面(高さh及び幅L)は略一定のままである。充填剤、例えば封止を着色することができるカーボンブラック等の他の添加剤を接着材料20に使用してもよい。
【0091】
シェル4、5の各々の導電性コーティング9、10は、互いに直接接触せず、図1に表される電池等の外部電源13に電気的に接続されることが意図される電極を形成する。
【0092】
このために、特に金属製の接続要素14、15(「バス」とも呼ばれる)が、各導電性コーティング9、10と直接接触してシェル4、5の各々の周辺に堆積し得る。接続要素14、15の各々は部分的に、特に完全に、各シェル4、5をその周辺縁部8、特にセル3の端面において囲む。接続要素14、15の各々は特に、シェル4、5の各々の周辺縁部8に位置し、特にシェル4、5の各々の周囲に等電位を形成する。接続要素14、15は例えば、銅、金、銀、又はニッケルで作られる。好ましくは、接続要素14、15は、EC組成物7と相互作用せず、それらの腐食を回避するために不動態化される。
【0093】
接続要素14、15の各々は、セル3により形成されるキャビティ6の外部に位置し、したがって、キャビティ6を充填するEC組成物7と接触しない。一変形として、封止11は接続要素14、15を少なくとも部分的に覆い得る。
【0094】
封止11は、キャビティ6と接続要素14、15の各々との間に位置する。換言すれば、封止11の周辺長は、各接続要素14、15の周辺長よりも小さい。したがって、接続要素14、15の各々は、セル3の任意の局所誤作動を回避するために、EC組成物7から分離され、特に絶縁される。
【0095】
各接続要素14、15は好ましくは、ゴーグル用で500μm~1500μmの幅を有する。各接続要素14、15は更に、好ましくは、0.5μm~50μm、優先的には1~30μm、より優先的には1~25μmの高さを有する。2つの接続要素14、15の総厚は必然的に、セル3の厚さeよりも小さく、したがって、これらの2つの接続要素14及び15は互いに接触しない。
【0096】
セル3の電気動作を保証するために、各接続要素14、15は制御回路16に電気的に接続される。制御回路16は例えば、セル3のオンオフ切り替え及び/又は透過レベルの制御を可能にするマイクロコントローラを備えた小型電子制御基板である。
【0097】
例えば図4に表される一実施形態によれば、制御回路16は直接、2つの接続要素14と15との間に位置する。その場合、封止11はこの制御回路16と接触せず、制御回路16に干渉しない。制御回路16は2つの面16a、16bも含み、面16a、16bの各々は、接続要素14、15と電気的に接続され、特に直接接触し、又は導電性グルー若しくは導電性接着剤を用いて電気的に接続される。この実施形態によれば、その2つの面16aと16bとの間の制御回路16の高さは、セル3のキャビティの厚さeから接続要素14、15の厚さを差し引いたものに等しい。
【0098】
図3に表される別の実施形態によれば、制御回路16は直接、2つの接続要素14と15との間に位置しない。その場合、眼科デバイス1は導電性中間要素17(「可撓線」とも呼ばれる)を備える。導電性中間要素17は好ましくは、図1に表されるように、眼科デバイス1のフレーム2の鼻側又はこめかみ側に位置する。
【0099】
この実施形態によれば、導電性中間要素17は、第1の端部17aにおいて接続要素14、15の各々に独立して電気的に接続される。導電性中間要素17は、接続要素9、10の各々の比較的広い表面と接触し得る。この実施形態によれば、導電性中間要素17は例えば、セル3との組み付けを促進するために、シェル4、5の周辺縁部8の形状を部分的に採用し得る。
【0100】
したがって、導電性中間要素17は、シェル4、5の各々の周辺縁部8を部分的又は完全に囲み得る。導電性中間要素17がシェル4、5の周辺縁部8を完全に囲むこの実施形態によれば、セル3が接続要素14、15を備える必要はなく、導電性中間要素17が接続要素14、15として作用する。
【0101】
したがって、一変形として、セル3は、特に上述したコーティング9、10が十分に導電性の材料から作られる場合、接続要素14、15を備えなくてよい。
【0102】
導電性中間要素17は、第2の端部17bにおいて制御回路16にも電気的に接続されて、セル3の動作を制御できるようにする。
【0103】
先に開示したECセル3等の完全なECポリマーデバイスを準備するために、標準ECセル組立/充填プロセスが、ドロップフィリング(DF)技法又はバックフィリング技法(BF)のいずれかによって実施される。
【0104】
レンズ周囲で一定電位を維持するために、レンズの各面の回りに導電性トラックが必要であり得る。この導電性トラックは、(このインキが適合すべきである)組み付けプロセス前又は後、例えば、銀インキのような金属インキを導電層上に直接堆積させることによって塗布することができる。
【0105】
本発明のハイブリッドEC眼科デバイスの製造方法:
以下の例示的な方法は、より詳細であるが非限定的な様式で本発明を提示するものである。
【0106】
図5に見られるように、後部シェル4及び前部シェル5は一緒に接着封止11を用いて組み付けられて、ECセル3及びセル3がEC液体又はゲル組成物7で充填される、結果としてのEC眼科レンズを生成する。先に説明したように、プラスチック後部シェル4は平坦であり得、決定された処方(RX)を既に有し得、又は半完成レンズであり得る。
【0107】
プラスチック後部シェル4の使用により、特に、デジタルサーフェシング(DS)技術へのアクセスが可能になり、より完全な表面(例えば表面フィッティング)を計算、製造が可能になるとともに、眼科プラントで主に使用される技術へのアクセスが可能なことを意味する。
【0108】
エッジングが実施される場合、標準エッジング機を用いて機械加工されるベベル又はフレームへのウェーハの統合を達成する他の解決策をプラスチック後部シェル4が有し得る。したがって、ECセルはフレームに正しく嵌め込まれ得る。
【0109】
幾つかの導電性コーティングは脆弱であり、サーフェシング及び/又はエッジングプロセス中に与えられる制約に耐えられないため、そのような導電性コーティングは、プラスチック後部シェル4のサーフェシング後又はエッジング後に塗布し得る。
【0110】
本発明の例示的な一実施形態によれば、ミネラル前部シェルが既に組み付けられたプラスチック後部シェルがカットされる。一般に、取り付けについてのデータはエッジングステップに統合されており、したがって、表面の計算に統合されており、したがって、この計算前に装用者データを有する。
【0111】
図6は、ハイブリッドEC眼科レンズの裏面4b及び正面5bをそれぞれ示す、ミネラル前部シェル5及びプラスチック後部シェル4の例示的で非限定的な実施形態を示す。
【0112】
本発明の別の実施形態によれば、線図である図7A及びフルスケール図である図7B図7Bの両半図に見られるECセル3参照)に見られる等のアルバレス設計が、処方の追加及び組立の一動作においてプラスチック後部シェル4及びミネラル前部シェル5の配置を得るために使用される。米国特許第3,305,294A号明細書の文献を発端とする既知の設計である、眼科レンズの例示的なアルバレス設計は、例えば、インターネットウェブサイトhttps://www.laserfocusworld.com/optics/article/16555776/alvarez-lens-enters-the-real-worldに開示されている。
【0113】
特に、この配置を得る方法は、2つの透過板についてアルバレス設計にしたがって後部シェル及び前部シェルのブランクの初期アルバレス組立体を配置するステップを含む。アルバレス組立体の定義により、後部又は前部シェルブランクは、三次関数に基づいて第1の表面プロファイルから導出され(即ち、回折アルバレス板の位相軌跡はz=ax-bx-cy+dyから生じる)、前部又は後部シェルブランクはそれぞれ、図7Aに示される直交座標系(XYZ)にしたがって、上記三次関数の逆関数に基づいて第2の表面プロファイルから導出される。
【0114】
装用者に取得すべき処方RXにしたがって、プラスチック後部シェルブランクのエッジングが採用されて、ハイブリッドレンズに正しい屈折力が得られる。図7Aの例に見られるこの場合、処方RXは、対向する表面上のアルバレス設計を有する球面シェルを用いて得られる。
【0115】
第2のステップにおいて、一方のシェルブランクが、
- 屈折力及び乱視をそれぞれ管理するようなX軸及び直交するY軸による並進及び
- 円柱軸を管理するようなZ軸による回転(シェル4、5の厚さ方向Zは、シェル4、5の両曲率を横断し、シェル4、5の高さ方向Xは、長さ方向Y及び厚さ方向Zの両方を含む図7Aの平面に直交する)
により、他方のシェルブランクに対して位置決めされる。
【0116】
前部シェルブランクは固定され、後部シェルブランクは異なるセンタリング位置を用いてエッジングされて、ついには、厳密に同じ元のブランクから異なる屈折力を得た。
【0117】
代替的には、正しく組み付けられると、両シェルブランクを同時にエッジングすることが可能である。
【0118】
換言すれば、初期アルバレス組立体の両シェルブランクはエッジング、カットされて、上記後部及び前部シェル4及び5を取得し、それにより有利なことに、初期アルバレス組立体による後部及び前部シェルブランクの1つのみの参照から始まり、様々な異なる処方RXを本発明のハイブリッドレンズで管理することができる。
【0119】
このアルバレス実施形態のおかげで、必要とされるRX処方を得るために、正しいジオメトリを有するデジタルサーフェシングにより、ハイブリッドレンズの後部シェル4の裏面4bを需要に応じて有利に製造し得ることに留意されたい。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B