(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】車両動力学の適応制御のためのシステム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/13 20120101AFI20241220BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20241220BHJP
【FI】
B60W40/13
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2023564274
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021035220
(87)【国際公開番号】W WO2022163013
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-04
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーントープ,カール
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティ,アンクシュ
(72)【発明者】
【氏名】ディ・カイラノ,ステファノ
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-50973(JP,A)
【文献】特開2016-127638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0278040(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両動力学制御システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、命令が格納されたメモリとを備え、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記車両動力学制御システムに、
車両コントローラによって制御される車両の運動の状態の測定値を示すフィードバック状態信号を受信させ、前記状態は、前記車両におけるロールレートおよびロール角の値を含み、前記命令はさらに、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記車両動力学制御システムに、
受信された前記ロールレートおよび前記ロール角の値を前記車両のロール動力
学モデルに組み込むことによって、前記ロール動力学モデルの1つまたは複数のパラメータを更新させ、前記ロール動力学モデルは、前記パラメータに基づいて前記ロールレートおよび前記ロール角の進展を説明するばね-ダンパモデルであり、前記パラメータは、前記車両の重心(CoG:Center of Gravity)の位置をモデル化するCoGパラメータと、
ばね定数と、前記車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数とを含み
、更新された
前記パラメータは、前記CoGパラメータを含み、前記命令はさらに、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記車両動力学制御システムに、
前記車両の前記状態に基づいて
、更新された
前記CoGパラメータを含む運動モデルを使用して前記車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御するための制御コマンドを決定させ、
前記制御コマンドを前記車両コントローラに送信して、前記制御コマンドに基づいて前記車両の前記運動を制御させる、車両動力学制御システム。
【請求項2】
前
記ロール動力学モデル
の更新された
前記パラメータは、前記ばね定数と、前記減衰係数とを含む、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【請求項3】
前記運動モデルは、前記ロール動力学モデルの前記ばね定数および前記減衰係数を含まない、請求項2に記載の車両動力学制御システム。
【請求項4】
前記運動モデルは、前記車両の平面動力学を含む、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【請求項5】
前記運動モデルは、前記車両
のロール動力学を含む、請求項4に記載の車両動力学制御システム。
【請求項6】
前記CoGパラメータは、ベイズフィルタを使用して確率分布として確率論的に推定され、前記運動モデルは、前記CoGパラメータの推定の不確実性に基づいて前記制御コマンドが決定されるように、前記
車両のCoG
の推定の前記不確実性を取り込んだ前記CoGパラメータの前記確率分布の第1
のモーメントおよび第2のモーメントを含む、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【請求項7】
前記ベイズフィルタは、前記CoGパラメータの前記確率分布がガウス分布であると仮定するカルマンフィルタである、請求項6に記載の車両動力学制御システム。
【請求項8】
前記ベイズフィルタは、粒子フィルタである、請求項6に記載の車両動力学制御システム。
【請求項9】
前記粒子フィルタは、粒子のセットを維持しており、各粒子は、前記CoGパラメータの前記確率分布の加重推定値を表し、前記粒子のセットは、全体として、前記CoGパラメータ
の推定された
前記確率分布の前記
第1
のモーメントおよび前記
第2
のモーメントを表し、前記粒子を更新するために、前記
少なくとも1つのプロセッサは、
前記CoGパラメータの前記不確実性
と受信された
前記ロール角および前記ロールレートとを有する前記ロール動力学モデルを使用して推定された、前記ロール角と前記ロールレートとの間の関係性を判断し、
前記ロール角と前記ロールレートとの間の前記関係性ならび
に受信された前記ロール角および前記ロールレートの値を小さくするように、前記判断された関係性に基づいて前記CoGパラメータの前記確率分布を更新するように構成されている、請求項8に記載の車両動力学制御システム。
【請求項10】
前記車両動力学制御システムは、前記ロール動力学モデルの前記パラメータの初期値から反復的に前記CoGパラメータを更新し、前記初期値は、前記ロールレートおよび前記ロール角の履歴値のシーケンスと、前記ロールレートおよび前記ロール角の推定値のシーケンスとの間の差のコスト関数を最小化することによって決定され、前記ロールレートおよび前記ロール角の前記推定値
のシーケンスは、前記パラメータの可能な値の範囲から選択された前記ロール動力学モデルの前記パラメータの値に基づいて推定される、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【請求項11】
前記コスト関数は、ベイズ最適化によって最適化されるガウスプロセスリグレッサである、請求項1
0に記載の車両動力学制御システム。
【請求項12】
前記制御コマンドは、前記車両コントローラによって生成された制御信号を無効にするように送信される、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【請求項13】
前記制御コマンドは、前記車両コントローラへのフィードフォワード入力として送信される、請求項
6に記載の車両動力学制御システム。
【請求項14】
前記制御コマンドは、前記車両の横転の可能性を減少させるように決定される、請求項13に記載の車両動力学制御システム。
【請求項15】
前記
車両コントローラは
、更新された
前記CoGパラメータを有する前記運動モデルに従って前記車両の前記状態のための適応リファレンスガバナ(ARG:Adaptive Reference Governor)によって所望の基準信号から調整され
た基準軌道を含む、請求項14に記載の車両動力学制御システム。
【請求項16】
前記
車両コントローラは、確率論的モデル予測コントローラ(SMPC:Stochastic Model-Predictive Controller)であり、前記SMPCは、横転回避制約を含む制約下で最適化を実行し、前記SMPCは、
前記CoGパラメータ
の推定された
前記確率分布の前記第2のモーメントを使用して前記制御コマンドを決定する、請求項14に記載の車両動力学制御システム。
【請求項17】
前記ARGは、前記基準軌道を更新して
、更新された
前記基準軌道およ
びシステム
の状態に基づいて、CoGパラメータロバストな制約許容集合を計算するように構成されており、前記ARGは、前記
CoGパラメータロバストな制約許容集合に基づいて基準軌道を生成して前記システムに送信する、請求項15に記載の車両動力学制御システム。
【請求項18】
前記ARGは、前記CoGパラメータ
の推定された
前記確率分布を使用して制約許容集合を生成するように構成された制約許容不変集合(CAIS:Constraint-Admissible Invariant Set)学習器を含む、請求項17に記載の車両動力学制御システム。
【請求項19】
前記CAIS学習器は、CoGパラメータ推定値および格納された状態特徴および制約許容ラベルを活用して、更新されたCAISを学習させるように構成されている、請求項18に記載の車両動力学制御システム。
【請求項20】
前記CoGパラメータは、粒子フィルタを使用して数値的に推定され、前記車両の前記ロールレートおよび
前記ロール角は、前記CoGパラメータの前記数値的
な推定に基づいて分析的に推定される、請求項1に記載の車両動力学制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に車両制御に関し、より特定的には車両の横転制御などの車両動力学の適応制御のためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
差動制動システムまたはアクティブ・フロント・ステアリング(AFS:Active Front Steering)に基づく横転回避システムなどのロール動力学制御方法を設計するためには、少なくとも、質量および慣性などの慣性パラメータ、ならびに質量の位置、すなわち重心(CoG:Center of Gravity)について基本的な知識を持っていることが必須である。自動車製造業者が慣性パラメータおよびCoGの値を提供することができる。しかし、それらは、一般にいくつかの名目上の(通常、空の)積載条件での値であり、それに対して現実は、積載条件、したがってCoGは、運転によって大きく異なるであろう。
【0003】
横転事故は、比較的稀であるが、重大事故および死亡事故の大部分を占めている。したがって、このような事故を回避するための改良された制御原理の開発が重要である。自動車製造業者は、通常、最悪のシナリオを想定して設計することによって、未知であって変化していくCoGを考慮に入れて、ロバストなアクティブロードハンドリング制御戦略を利用する。スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV:Sport Utility Vehicle)の場合の別の一般的なアプローチは、車台にバラストを追加することによっていつもよりも重い車両を意図的に設計するというものであり、これは、荷重変動のパーセントマージンを減少させることによってCoG位置の変動を抑制しつつ、CoG位置を下げることを目指している。このようなアプローチは、ある程度までは成功するが、通常の運転条件下でのパフォーマンス低下および重量の付加による効率の低下などの欠点もある。
【0004】
最悪のシナリオを想定して保守的な制御方法を設計するのを避けるために、および、CoG位置が内因性の横転の発生における最も顕著な要因であるので、制御パフォーマンスは、リアルタイムCoG位置推定機能の恩恵を受ける。このような推定器は、運転者に対する警告システムとして使用することができ、または、アクティブロードハンドリングもしくは横転防止コントローラにうまい具合に統合することができるため、車両および乗員の全体的な安全性を向上させる。
【0005】
CoG推定問題は、その重要性のために、横転回避制御問題と並行して研究されてきており、方法は、再帰的線形最小二乗(RLS:Recursive Linear Least-Squares)タイプの方法から多重モデル推定および拡張カルマンフィルタ(EKF:Extended Kalman Filter)に及ぶ。しかし、RLSおよびEKF方法は、パラメータについて線形またはほぼ線形であるモデルを使用する必要があり、CoG推定問題には当てはまらない。したがって、このようなパラメータについて線形であるという仮定は、推定器のパフォーマンス低下につながる可能性があり、最終的に車両横転防止システムにおける安全性を妨げる。
【0006】
逆に、いくつかの車両横転防止システムは、横転を回避することを担当するコントローラを設計する際にCoG高さが分かっていると仮定するが、これは非現実的である。なぜなら、CoG位置は、積載条件および行われている操縦のタイプによって変化するからである。極力安全であるようにするために必ず最悪のシナリオ、すなわち考えられる最悪のCoG位置を想定して制御システムを設計する必要があるので、このような仮定は、制御システムを最適下限にする。
【0007】
したがって、CoG位置のリアルタイム推定に基づく横転防止に適したロール動力学制御などの車両動力学制御システムが依然として必要である。
【発明の概要】
【0008】
いくつかの実施形態の目的は、車両横転の防止に適した車両動力学制御システムのためのシステムおよび方法を提供することである。いくつかの実施形態の別の目的は、リアルタイムで重心(CoG)位置に適合することにより、CoG位置に応じてその制御駆動を適合させるシステムおよび方法を提供することである。追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態の別の目的は、コントローラと同時にリアルタイムでCoG推定を適合させることである。追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態の別の目的は、測定がCoG位置を明確に測定しないときに車両の状態と同時にCoG推定を適合させることである。
【0009】
追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態の別の目的は、CoG位置を用いてシステムのサスペンションパラメータを推定することである。追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態の別の目的は、ベイズフィルタの形式のこのような推定器を提供することである。追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態の別の目的は、CoG推定を正確に表現しつつ計算複雑性を減少させる車両のモデルを使用してこのような推定器を設計することである。本明細書におけるCoGは、CoG位置から地面までの距離を定義するCoGの高さを含む。本明細書における車両の状態は、車両のロール角および車両のロールレートを含む。
【0010】
いくつかの実施形態は、車両ロール動力学のモデルのみに基づいてCoG位置を推定することができ、これは車両平面動力学のモデルも有するものよりも単純である、という認識に基づく。この認識は、平面車両動力学モデルを含みつつも精度はわずかに向上するが、このようなモデルを含むのに必要とされるアルゴリズムの複雑性が指数関数的に増大する、という事実に基づく。したがって、車両ロール動力学のみを含むことにより、計算複雑性およびアルゴリズム複雑性を大幅に減少させつつも精度の低下はわずかになる。
【0011】
しかし、このような車両ロール動力学のモデルのみに基づくCoG推定の計算複雑性の減少は、CoGの推定と推定されたCoGに基づく動力学制御とを分離することを必要とする。これは、車両ロール動力学のモデルが単純であることにより実際の制御が不正確になる可能性があるからである。その目的のために、いくつかの実施形態は、CoGの推定と車両動力学の制御とを、異なるモデルを使用してこれらのタスクを実行することによって、分離する。具体的には、CoGは、車両ロール動力学モデルに基づいて推定されるのに対して、制御は、車両ロール動力学モデルを含む場合もあれば含まない場合もある運動モデルに基づいて実行される。たとえば、運動モデルは、車両の動力学の平面モデルを含み得る。
【0012】
一実施形態は、車両ロール動力学を3つの未知のパラメータ、すなわちCoG位置およびばね係数および減衰係数を有するねじりばね-ダンパモデルとして表すことができる、という認識に基づく。別の実施形態は、CoG位置が横転防止システムにとって興味深い主要なパラメータであるが、車両のサスペンション動力学がCoG位置の動きに大いに影響する、という理解に基づく。その結果、正確なCoG推定のためには、サスペンション動力学のパラメータも推定することが不可欠である。
【0013】
いくつかの実施形態は、ロール動力学の出力が、運動モデルに線形に入力されるロールレートおよびロール角であるのに対して、未知のCoG位置およびばね係数および減衰係数が運動モデルに非線形に入力される、という理解に基づく。一実施形態において、この認識は、ロール動力学において線形サブ構造を活用するために使用され、これは、ロールレートおよびロール角を分析的に推定しつつ、ロールレートおよびロール角の分析的推定に基づいてCoG位置およびばね係数および減衰係数を数値的に推定する効率的な実現例を可能にする。
【0014】
一実施形態において、CoG位置およびばね係数および減衰係数の推定は、ベイズフィルタを使用してなされる。ベイズフィルタは、対象のパラメータの推定値だけでなく、上記パラメータの不確実性の確率分布も生成する。一実施形態において、この確率分布は、横転を回避するように車両を制御するために使用される。
【0015】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタを使用したベイズフィルタを実現し、粒子は、CoG位置およびばね係数および減衰係数のサンプルと、サンプルに基づく車両状態の推定値と、サンプルの確率の重みとを含む。粒子フィルタを使用することにより、動力学の線形またはほぼ線形の仮定が不要になる。
【0016】
いくつかの実施形態は、より多くのデータ(すなわち、測定値)が収集されるにつれて、パラメータの不確実性の確率分布が縮小するという事実を利用する。その理由は、より多くのデータが、推定値を生成するための手近にあるより多くの情報を意味するからである。パラメータの不確実性の信頼区間は、確率分布の推定値から推論可能であり、一実施形態において、不確実性を認識しているコントローラは、CoG位置の推定値およびCoG位置の推定値の信頼度を使用して、横転を回避するための制御コマンドを決定する。いくつかの実施形態において、横転の可能性は、関連付けられたCoG信頼度を使用して判断される。
【0017】
いくつかの実施形態は、横転を回避するために満たされるべき車両状態およびパラメータに対する制約の観点から横転防止を定式化できる、という認識に基づく。このような制約は、CoG位置および車両状態によって決まる。
【0018】
いくつかの実施形態は、車両横転を回避しつつ車両の操縦に対する制約を満たすことができるパラメータ適応コントローラを開示する。一実施形態において、このような制約実施は、いわゆる制約許容集合によってなされ、これらの制約許容集合は、制約が満たされる特定の確率を保証する。
【0019】
いくつかの実施形態は、特徴およびラベルをオフラインで生成し、より多くのデータが利用できるようになってパラメータ推定値の信頼度が向上するにつれてロバストな制約許容集合をオンラインで反復的に更新するためのサンプリングベースのアプローチを提供する。ロバストな制約許容集合を構築するために、いくつかの実施形態は、パラメータの点推定値自体だけでなく、確率によって確かめられる、真のパラメータが高い信頼度で存在しているパラメータ空間における領域も使用する。この目的のために、いくつかの実施形態は、ベイズフィルタを使用して信頼度を判断する。
【0020】
いくつかの車両制御アプリケーションでは、通常、さまざまな目的で交換または再設計が容易ではない既存のコントローラがある。このような場合、リファレンスガバナが有用である。リファレンスガバナは、既にデプロイされたコントローラに対するアドオンスキームとして使用可能な軽量の制約実施コントローラである。一実施形態は、ベイズフィルタからのパラメータ情報を活用することによって制約許容集合をオンラインで学習するパラメータ適応リファレンスガバナを開示する。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態は、リファレンスガバナが閉ループ制御システムにおいて制約実施によって安全性を保証するための効果的な方法を提供する、という認識に基づく。CoG位置の場合のように、基本的なシステムのパラメータが未知である場合、最悪の場合の影響のみを考慮に入れるリファレンスガバナのロバストな定式化は、過度に保守的であって、低いパフォーマンスを示し得る。その目的のために、いくつかの実施形態は、CoG不確実性にもかかわらず、ロバストなリファレンスガバナほどには保守的でない安全な制御コマンドを生成することができるパラメータ適応リファレンスガバナアーキテクチャを開示する。いくつかの実施形態は、ベイズフィルタを使用して、パラメータ推定値の周りに信頼度境界を生成し、これらのパラメータ推定値は、パラメータ適応リファレンスガバナによって活用されるロバストな制約許容集合を近似するための教師あり機械学習器に送られる。最初は、オンラインデータが無いために、パラメータ適応リファレンスガバナはロバストなリファレンスガバナと同程度に保守的であり得るが、より多くのデータが収集されて信頼度境界がよりタイトになるにつれて、保守性は減少する。
【0022】
したがって、一実施形態は、車両動力学制御システムを開示し、上記車両動力学制御システムは、少なくとも1つのプロセッサと、命令が格納されたメモリとを含み、上記命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、上記車両動力学制御システムに、車両コントローラによって制御される車両の運動の状態の測定値を示すフィードバック状態信号を受信させ、上記状態は、上記車両におけるロールレートおよびロール角の値を含み、上記命令はさらに、上記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、上記車両動力学制御システムに、上記受信された上記ロールレートおよび上記ロール角の値を上記車両のロール動力学のモデルに組み込むことによって、上記ロール動力学モデルの1つまたは複数のパラメータを更新させ、上記ロール動力学モデルは、上記パラメータに基づいて上記ロールレートおよび上記ロール角の進展を説明するばね-ダンパモデルであり、上記パラメータは、上記車両の重心(CoG:Center of Gravity)の位置をモデル化するCoGパラメータと、ばね定数と、上記車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数とを含み、上記更新されたパラメータは、上記CoGパラメータを含み、上記命令はさらに、上記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、上記車両動力学制御システムに、上記車両の上記状態に基づいて、上記更新されたCoGパラメータを含む運動モデルを使用して上記車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御するための制御コマンドを決定させ、上記制御コマンドを上記車両コントローラに送信して、上記制御コマンドに基づいて上記車両の上記運動を制御させる。
【0023】
いくつかの他の実施形態は、車両に接続された少なくとも1つのプロセッサによって実行される車両横転防止方法を開示する。この方法は、ベイズフィルタを使用して、車両CoG位置を含む車両ロール動力学モデルの1つまたは複数の内部状態を推定する。推定されたCoG位置を使用して、この方法は、横転の可能性を減少させるための制御コマンドを決定し、この制御コマンドを車両の少なくとも1つのコンポーネントに送信する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1B】4つの車輪がモデル化されるモデル、ならびに、ロールおよびピッチについての動力学を示す図である。
【
図1C】車両ロール動力学のみを含むモデルの代替的な概略図である。
【
図1D】いくつかの実施形態に係る、異なる車両モデルの相互作用の一例を示す図である。
【
図1E】一実施形態に係る、さまざまな車両運動モデルの相互作用を示す図である。
【
図2A】いくつかの実施形態に係る、車両動力学制御システムと車両の他のシステムコンポーネントとの相互作用を示す図である。
【
図2B】本発明の一実施形態に係る、車両動力学制御システムの一般的な構造を示す図である。
【
図3A】いくつかの実施形態に係る、車両のCoGパラメータを含む車両動力学を制御するための方法のブロック図である。
【
図3B】いくつかの実施形態に係る、受信されたロールレートおよびロール角の値をロール動力学モデルに組み込んで、車両のロール動力学のモデルの1つまたは複数のパラメータを更新することの概略図である。
【
図4A】いくつかの実施形態に係る、ベイズフィルタを使用してロールレートおよびロール角のうちの少なくとも1つまたはそれらの組み合わせの測定値を車両ロール動力学に組み込むことによって、車両のCoGパラメータを含む1つまたは複数のパラメータを推定するための方法のフローチャートを示す図である。
【
図4B】いくつかの実施形態に係る、推定器のための初期パラメータを決定するための方法のフローチャートを示す図である。
【
図4C】一実施形態に係る、粒子フィルタを使用してCoGパラメータを推定するための方法の1回の反復のフローチャートを示す図である。
【
図4D】一実施形態に係る、CoGパラメータの確率分布を更新する1つの例示的な実現例のフローチャートを示す図である。
【
図4E】各反復について5つの粒子が生成される場合におけるステップの3回の反復の結果の簡略概略図である。
【
図4F】
図4Eにおける最初の反復における5つの異なるCoGパラメータの可能な割り当てられた確率を示す図である。
【
図5A】いくつかの実施形態に係る、所望の基準をたどることができる予め設計されたレガシーコントローラによって制御される車両の一例を示す図である。
【
図5B】レガシー制御システムによって制御される車両と接続された車両動力学制御システムのコンポーネントの概略図である。
【
図5D】いくつかの実施形態に係る、CAISで使用される特徴およびラベルをオフラインで生成するための方法のフローチャートを示す図である。
【
図6A】適応リファレンスガバナにおける基準生成モジュールの概略図である。
【
図7】点推定値の周りの徐々に縮小していく境界に基づく更新されたCAISの例を示す図である。
【
図8A】いくつかの実施形態に係る、車両動力学制御システムのコンポーネントの概略図の別の例である。
【
図8B】SMPCの各制御ステップにおいて不等式制約付き非線形動的最適化問題を解くための2レベル最適化手順の例示的な実現例のブロック図である。
【
図9A】CoGパラメータを含む運動モデルを含む制御モデルを使用してSMPCを実現するためのブロック図である。
【
図9B】各制御時間ステップにおいて制御信号を計算するために制約付き最適制御構造非線形プログラミング問題(OCP-NLP)を解くSNMPCのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1Aは、いくつかの実施形態によって使用される車両平面動力学のモデルの概略図である。車両平面動力学モデルは、車両の縦方向の運動、横方向の運動およびヘッディングの時間進展を説明する。すなわち、車両平面動力学モデルは、車両の運動モデルの特定の例である。ヘッディングψは、車両の前方軸xおよび左右軸yに垂直な軸を中心とした車両の回転を表す。
図1Aの場合、車両モデル、すなわち車両平面動力学は、同一の車軸上の2つの車輪を1つに組み合わせて、事実上それを自転車モデルにする。しかし、同じ説明が四輪車両モデルにも適用される。
図1Aにおけるモデルは、車両制御で幅広く使用されているモデルを示している。しかし、それは、車両のロール動力学を取り込んでいないため、車両の無視できないロール運動下で車両を制御する、たとえば積極的なステアリング操縦を有するスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)を制御することを目指した車両動力学制御システムのためのスタンドアロンモデルとしては有用ではない。
【0026】
図1Bは、4つの車輪がモデル化されるより複雑なモデル、ならびに、ロールφおよびピッチθについての動力学を示す図である。
図1Bにおける概略図の根底にある数学方程式は、ロール動力学を含むため、たとえばカルマンフィルタタイプの方法または再帰的最小二乗タイプの方法または特定の推定問題に適用可能なその他の再帰的方法を使用して再帰的な態様でCoG高さを推定するために使用可能である。
【0027】
図1Cは、車両ロール動力学のみを含むモデルの代替的な概略図であり、ロール運動を支配するモデルは、CoG高さhとばね定数Kと減衰係数Dとをモデル化するねじりばね-ダンパシステムである。本明細書で使用されるロール運動は、車両のロールレートおよび車両のロール角を含む車両状態によって説明される。
図1Cにおけるモデルでは、たとえば車両横転を回避するといった車両ロール動力学の制御のための主たる関心事のパラメータは、合計3つ、すなわちCoG高さh、ばね定数Kおよび減衰係数Dである。
【0028】
図1Cにおけるモデルは、
図1Bと比較して実質的に簡略化されている。たとえば、タイヤ力が本質的に平面動力学を支配するものであるので、
図1Bによって示されるモデルは、車両タイヤと道路との相互作用をモデル化することを必要とする。したがって、ピッチ動力学を除外する場合、推定するのに必要なパラメータの数は、
図1Cに示されるモデルでの3つと比較して、少なくとも7つにまで増加する。
【0029】
車両動力学モデルが異なれば、取り込む車両動力学の局面も異なるため、異なる目的に好適である。たとえば、車両のヘッディングレートを制御して、車両が道路と整列されていると仮定する場合、平面動力学モデルは、車両を制御するのに十分である。しかし、車両が道路と整列されているという仮定は、時として、演繹的に検証することが難しい。たとえば、乾いたアスファルト上を運転する場合、タイヤと道路との間の摩擦が大きいので、車両のヘッディングレートを制御することを意図したステアリング操縦は、大きなロール角につながり、その結果、車両を制御する際に車両平面動力学モデルのみを運動モデルとして使用することは不十分である可能性がある。
【0030】
車両のCoG位置が若干よりも大きく変化するほどにロール角が大きい場合、車両の動力学を制御する制御システム、すなわち車両動力学制御システムが車両のCoG位置をモデル化するパラメータも含むことは有益である。
【0031】
その上、車両モデルが異なれば、目的も異なるであろう。
図1Dは、いくつかの実施形態に係る、異なる車両モデルの相互作用、および、それらが異なる目的をどのようにして車両200を制御するための車両動力学制御システムに組み込むことができるかの一例を示す図である。
【0032】
たとえば、いくつかの実施形態は、
図1Bに見られるような複雑な車両モデルが必然的に車両の正確なモデル化につながるが、このようなモデルが必ずしも大幅なモデル化の向上をもたらさずに複雑性を増大させる、ということを認識する。たとえば、コントローラを使用して車両200を制御する(120d)際に、一実施形態は、車両のロール動力学と車両の平面動力学とを含む車両動力学の運動モデルを使用し、ロール動力学モデルは、CoG位置をパラメータとして有するばね-ダンパモデルである。しかし、制御120dのためにCoG位置111dを更新する(110d)際に、一実施形態は、パラメータに基づいてロールレートおよびロール角の進展を説明するロール動力学のモデルのみを使用し、これらのパラメータは、車両のCoGの位置をモデル化するCoGパラメータと、ばね定数と、車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数とを含む。言い換えれば、車両のロール動力学のモデルの1つまたは複数のパラメータの更新は、単純なロール動力学モデルを用いてなされ得るのに対して、更新されたパラメータは、車両コントローラ120dに送信され得て(111d)、車両コントローラ120dは、このようなパラメータを使用して車両への制御コマンド121dを決定することができる。
【0033】
異なるモデルを異なる目的で使用することができ、異なるモデルは、車両動作の局面を測定するセンナからの異なる情報を必要とし得る。たとえば、CoGパラメータを更新するために、いくつかの実施形態は、車両200に搭載されたセンサによって検知される横加速度測定値、ロールレート測定値およびロール角測定値を使用し、これらの測定値201dは、CoGパラメータを更新する際に使用される。しかし、車両を制御する(120d)目的で、いくつかの実施形態は、ヘッディングレート、車両速度、車輪速度および車両位置の測定値などの車両動力学の他の局面を含む測定値202dを使用する。
【0034】
他の実施形態は、CoGパラメータの推定および車両の制御に関連するさまざまなモデル間に相互作用があるだけでなく、推定の異なる局面で異なるモデルが使用される、という認識に基づく。
【0035】
たとえば、車両センサセットアップは、制御に必要な関連する状態を測定することができる。たとえば、慣性測定ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)に含まれるジャイロスコープは、車両のヘッディングレートを測定することができ、グローバルポジショニングシステム(GPS:Global Positioning System)受信機は、車両位置を測定することができる。しかし、GPSは、数メートルの正確さの範囲内でしか車両位置を測定することができず、自動車級のIMUは不正確である。したがって、いくつかの実施形態は、さまざまな推定器を利用して車両動作のさまざまな局面を推定する。
【0036】
図1Eは、一実施形態に係る、さまざまな車両運動モデルの相互作用を示す図である。たとえば、車両コマンド121dを決定するコントローラ120dは、車両の車両平面動力学モデル121eと車両のロール動力学122eのモデルとの組み合わせを含み得る。
図1Eでは2つの異なる車両モデルとして示されているが、CoGパラメータを含む、平面動力学および車両ロール動力学のジョイントモデル化を含む
図1Bに示される車両モデルがコントローラ120dに含まれていてもよい。CoGパラメータの決定(110d)は、車両ロール動力学モデルをばね-ダンパモデルとして含み得て、CoGパラメータは、CoG位置とばね定数と減衰係数とを含む。同時に、車両速度、車両位置、車両ヘッディングおよび車両のヘッディングレートなどの車両状態は、車両動力学の平面モデル121eを使用して推定可能である(130d)。
【0037】
図2Aは、いくつかの実施形態に係る、車両動力学制御システム199と車両200の他のシステムコンポーネントとの相互作用を示す図である。車両は、四輪乗用車または移動ロボットなどの任意のタイプの移動車両であってもよい。車両は、完全に人間が操作するものであってもよく、半自律的なものであってもよく、または完全に自律的なものであってもよい。たとえば、車両は、車両への基準ステアリングコマンドおよび/またはブレーキ/スロットルコマンドを生成する車両の運転者から外部入力210を受信し得る。たとえば、車両は、車両への基準ステアリングコマンドおよび/またはブレーキ/スロットルコマンドを生成する車両の自動運転システムから外部入力210を受信し得る。車両動力学制御システム199は、横加速度、ステアリングコマンド、速度、または車両のサスペンションシステムの検知などのさまざまなセンサ測定値231を出力する検知システム230に接続され得る。検知システム230は、GPSおよび/またはIMUを含み得る。たとえば、IMUは、三軸加速度計、三軸ジャイロスコープおよび/または磁力計を備え得る。IMUは、速度、向きおよび/または他の位置関連情報を車両動力学制御システム199の他のコンポーネントに提供し得る。たとえば、検知システム230は、車両のロール角および車両のロールレートを測定または推定するためのセンサを含み得る。
【0038】
車両動力学制御システム199は、車両の下位アクチュエータおよびコントローラ260への制御コマンド241を決定する。車両動力学制御システムは、車両のさまざまなアクチュエータを駆動することができる。制御コマンド241は、車両の制約に違反しないように運転者の基準入力210を修正する修正済みステアリングコマンドであってもよく、または、個々のタイヤのブレーキコマンドであってもよい。コマンド241は、ステアリング、ブレーキおよびスロットルなどの車両コマンドを計算するための、車両コントローラ260への入力または基準として使用される。それらのコマンドは、車両のアクチュエータに送信されて、コマンド241に従って車両を動かす。
【0039】
車両動力学制御システム199に含まれる車両の運動モデルが実際の車両と同一の制御入力を使用する場合、車両は、計算された入力を使用して直接制御されることができる。たとえば、ステアリングおよびエンジントルクを適用することによって車両200が制御される場合、および、車両動力学制御システム199において使用される制御モデルもステアリングおよびエンジントルクを制御入力として使用する場合、これらは車両に直接適用されることができ、それによって、車両制御システム260を無効にする。しかし、車両動力学制御システム199において使用される車両200の数学的説明、たとえば
図1Bにおけるモデルに対応する数学的説明は、車両の真の運動を単純化したものであることが多いので、制御入力241は、その代わりに、車両制御システム260への入力として、基準とともにフィードフォワードまたは公称制御信号として使用されてもよい。たとえば、加速度は、エンジントルクに比例するようにモデル化され得る。したがって、加速度が車両動力学制御システム199において利用される車両の運動モデルでの入力として使用される場合、これらの加速度は、車両制御システム260へのスケーリングされたフィードフォワード入力として使用可能である。
【0040】
いくつかの実現例において、車両動力学制御システム260は、ステアリングコントローラ、ブレーキコントローラおよびスロットルコントローラを含み得て、ステアリングコントローラはステアリング角を入力とし、ブレーキコントローラは基準減速度または車輪スリップを入力とし、エンジンコントローラは公称速度または加速度を入力とし、全てのコントローラは、トルクを出力し、車両動力学制御システム199は、これらのエンティティを全て含む。そして、車両動力学制御システム199によって計算されたトルクは、車両コントローラ260を迂回してもよく、または、トルク241は、車両コントローラ260のゼロレベル値として使用されてもよく、ステアリング角、基準減速度または車輪スリップ、および公称速度または加速度は、車両コントローラ260への基準241として使用されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態は、車両を制御するために車両の運動モデルを使用し、この運動モデルは、ロール動力学モデルのばね定数および減衰係数を含まない。これは、CoG位置が横転を回避するように車両を制御するための重要なパラメータであり、車両のロールを制御する運動モデルがCoG位置を含んでいなければならないからである。
【0042】
他の実施形態では、車両を制御する際に使用される運動モデルは、車両の平面動力学を含む。たとえば、横転が唯一の制御目的である場合、車両ロール動力学モデルは、制御に十分であるため、いくつかの実施形態は、ロール動力学を運動モデルに含める。しかし、位置、ヘッディングレートまたは速度などの車両の他の状態を制御する場合には、他のモデルが含まれる。たとえば、一実施形態では、車両を制御するために使用される運動モデルは、車両の平面動力学モデルを含む。
【0043】
いくつかの実施形態は、センサ測定値がノイズが混ざっており、このようなノイズが確率論的である、すなわち統計学によって説明できる、という理解に基づく。この目的のために、いくつかの実施形態は、確率論的、すなわちベイズフィルタを使用して、車両のロール動力学のモデルの1つまたは複数のパラメータを更新する。ベイズフィルタの使用は、決定された確率分布のさまざまなモーメント、たとえば第1および第2のモーメントの抽出を可能にし、このようなモーメントは、制御コマンドを決定する際に使用可能である。たとえば、更新されたCoG位置の第2のモーメント、すなわち分散を使用して、可能なCoG位置の変動の範囲内のCoG位置で車両が安全に挙動しているように制御コマンドを決定することができる。
【0044】
図2Bは、一実施形態に係る、車両動力学制御システム199の一般的な構造を示す図である。車両動力学制御システム199は、メモリ280に格納された車両動力学制御システム199の命令を実行するための少なくとも1つのプロセッサ270を含む。プロセッサ270は、検知情報231と車両ロール動力学のモデルとを使用するベイズフィルタ281を格納するためのメモリ280に接続されている(271)。メモリは、たとえば動力学のばね剛性定数と減衰係数と車両のCoG位置とを含む車両ロール動力学の1つまたは複数のパラメータの分布の初期推測値282、および、CoGパラメータを含む運動モデル283も格納している。メモリは、車両の制約284、および、このような制約を満たす制御コマンドを決定するためのコンポーネント285を有するコントローラも格納している。たとえば、メモリは、コントローラで使用されると制約を満たすことを保証することができる制約許容不変集合285を格納し得る。一実施形態において、車両動力学制御システムは、このような集合を、本発明のさまざまな実施形態に係るベイズフィルタからの推定値に基づいて決定する。
【0045】
図3Aは、いくつかの実施形態に係る、車両のCoGパラメータを含む車両動力学を制御するための方法のブロック図であり、この方法は、車両の少なくとも1つのプロセッサ270によって実行される。この方法は、ロールレートおよびロール角のうちの少なくとも1つまたはそれらの組み合わせの測定値を車両ロール動力学モデルに組み込むことによって、車両のCoGの位置をモデル化するCoGパラメータと、ばね定数と、車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数とを含む車両ロール動力学モデル350aの1つまたは複数のパラメータを推定する(310a)。いくつかの実施形態では、この方法は、パラメータの信頼区間も推定するベイズフィルタを使用する。他の実施形態では、ベイズフィルタは、パラメータの不確実性の確率分布も推定する。推定されたパラメータ312aおよび内部状態の推定された不確実性311aを使用して、この方法は、更新されたCoGパラメータを含む運動モデル360aを使用して車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御するための制御コマンド321aを決定し(320a)、制御コマンド321aを制御信号331aによって車両に送信する(330a)。最後に、車両コントローラ260を使用して、この方法は、制御コマンドに従って車両の運動を制御する(340a)。いくつかの実施形態において、制御の目的は、推定されたCoGを有する車両の横転の可能性を減少させることである。
【0046】
他の実施形態では、ベイズフィルタは、CoGパラメータだけでなく、CoGパラメータの不確実性の推定値も推定する。いくつかの実施形態では、CoGパラメータの推定値は一般的な確率分布であり、他の実施形態では、CoGパラメータの推定値は、CoGパラメータ不確実性がガウス分布に従っていると仮定することによってなされる。他の実施形態では、ベイズフィルタは、検知システム230を使用して車両のロールレートおよびロール角の測定値を使用する。
【0047】
いくつかの実施形態は、車両のCoGの位置をモデル化するCoGパラメータと、ばね定数と、車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数とを含むパラメータが、車両ロール動力学のモデルのみに基づいて推定され得て、これは、車両平面動力学のモデルも有するよりも単純である、という認識に基づく。この認識は、平面車両動力学モデルを含みつつも精度がわずかに向上するという理解に基づく。しかし、このようなモデルを含むのに必要とされるアルゴリズムの複雑性は、指数関数的に増大する。したがって、車両ロール動力学のみを含むことにより、計算複雑性およびアルゴリズム複雑性を大幅に減少させつつも精度の低下はわずかになる。
【0048】
一実施形態は、車両ロール動力学を3つの未知のパラメータ、すなわちCoG位置およびばね係数および減衰係数を有するねじりばね-ダンパモデルとして表すことができる、という認識に基づく。別の実施形態は、CoG位置が、横転防止に注目した車両動力学制御システムにとっての関心事の主要なパラメータであるが、車両のサスペンション動力学がCoG位置の動きに大いに影響する、という理解に基づく。その結果、正確なCoG推定のためには、サスペンション動力学のパラメータも推定することが不可欠である。
【0049】
図3Bは、いくつかの実施形態に係る、受信されたロールレートおよびロール角の値をロール動力学モデルに組み込んで、車両のロール動力学のモデルの1つまたは複数のパラメータを更新することの概略図である。ロール動力学モデルは、パラメータ310bと、パラメータ310bをロール動力学の出力と接続する関係320bとを含む。さまざまな実施形態において、パラメータ310bは、車両のCoGの位置をモデル化するCoGパラメータ、ばね定数、および車両のサスペンション動力学をモデル化する減衰係数のうちの1つまたはそれらの組み合わせを含む。ロール動力学モデルにおけるロール動力学の出力は、車両のロールレートおよびロール角を含む。したがって、ロール動力学モデルのパラメータ310bが分かると、関係320bに従ってロールレートおよびロール角の値340bを推定することができる。関係320bの例としては、パラメータをモデルに挿入させたロール動力学モデルが挙げられ、これらの値は、パラメータをモデルに挿入させたロール動力学モデルの出力である。
【0050】
その目的のために、パラメータ310bの更新370bは、推定されたロールレートおよびロール角のさまざまな値340bをもたらし、これらの値は、フィードバック信号の形式で受信されたロールレートおよびロール角の値360bと比較されて、ロールレートおよびロール角の推定値340bと受信値360bとの間の差350bを決定することができる。この差350bが分かると、さまざまな実施形態は、差350bを小さくするようにパラメータ310bのうちの1つまたは複数を更新する(370b)。更新370bの方向および大きさを推定するためにさまざまな技術を使用することができる。たとえば、いくつかの実施形態は、ロールレートおよびロール角のうちの少なくとも1つまたはそれらの組み合わせの測定値を車両ロール動力学に組み込むことによって、ベイズフィルタを使用してパラメータの更新370bを決定する。他の実施形態は、勾配降下法などの最適化ベースの技術を使用して、ロール動力学モデルの出力とロールレートおよびロール角の測定値との間の誤差を最小化する。
【0051】
図4Aは、ベイズフィルタを使用して、ロールレートおよびロール角のうちの少なくとも1つまたはそれらの組み合わせの測定値を車両ロール動力学に組み込むことによって、車両のCoGパラメータを含む1つまたは複数のパラメータを推定する(310a)ための方法のフローチャートを示す図であり、CoGパラメータは、ベイズフィルタを使用して確率分布として確率論的に推定され、運動モデルは、制御コマンドがCoG推定の不確実性に基づいて決定されるように、CoGパラメータの推定の不確実性を取り込んだCoGパラメータの確率分布の1次および2次モーメントを含む。第1の時間ステップにおいて、この方法は、他の実施形態に従って取得された入力データ409aを使用してパラメータの推定値を初期化する(410a)。次いで、検知システム230からの測定値419aを使用して、この方法は、これらの測定値を、測定値とパラメータとを接続する車両ロール動力学モデルに組み込むことによって、1つまたは複数のパラメータの推定値を更新する(420a)。パラメータの更新された推定値421aを使用して、この方法は、次の時間ステップまでこれらのパラメータを予測して(430a)、予測されたパラメータを送信する(432a)。さらに、この方法は、車両を制御するための制御コマンドを決定する際に使用するために、これらのパラメータを出力する(431a)。
【0052】
パラメータの推定値の初期化は、さまざまな方法で行うことができる。たとえば、車両動力学制御システムが特定の車両モデルまたは特定のタイプの車両で使用される場合、パラメータの可能な値の範囲は、事前に決定および境界付けされ得て、これらの範囲から、たとえば演繹的な範囲をモデル化する確率分布からの値をサンプリングすることによって、初期化がなされ得る。しかし、このようなアプローチには2つの問題がある。第一に、計算上の理由から全ての値をテストすることが不可能であるほどに値の範囲が非常に大きい可能性がある、というものである。第二に、値の可能な範囲にわたって確率分布をモデル化することによって有限の値セットをサンプリングすることはできるが、根底にあるパラメータの真の不確実性を取り込んだこのような分布をどのようにモデル化するかは難しい、というものである。
【0053】
一実施形態は、たとえば人間オペレータによって運転される車両を使用して同一タイプの車両について収集された事前測定値が利用可能である場合には、これらの測定値を車両のロール動力学のモデルと組み合わせて使用することができ、内部状態のさまざまな値をテストして測定値とのフィット性を比較することができる、ということを認識する。
【0054】
いくつかの実施形態は、内部状態の仮説を有する車両のロール動力学のモデルを使用して、測定値シーケンスと推定測定値のセットとの間の差を最小化するコスト関数を最適化することによって、初期推測値を決定する。
【0055】
図4Bは、いくつかの実施形態に係る、推定器310aのための初期パラメータを決定するための方法410aのフローチャートを示す図である。測定されたシーケンス409
a(測定値は、車両のロール角と車両のロールレートとを含む)、これらの測定値をモデルの出力として有する車両ロール動力学のモデル408b、可能なパラメータ値の範囲407bを使用して、この方法は、値の範囲407bから決定されたパラメータの値のセットを使用して、予測測定値シーケンスを車両ロール動力学のモデルの出力として決定する(410b)。予測測定値411bを使用して、この方法は、測定値シーケンスと予測測定値シーケンスとの間の差を反映したコスト関数の値を決定する(420b)。次いで、この方法は、パラメータの値とパラメータの値のセットから得られたコスト関数の値との組み合わせの履歴を使用して、パラメータを更新する(430b)。終了閾値440bが満たされる場合、更新されたパラメータのセットを使用して、可能なパラメータのセットの確率分布を決定し(450b)、そこから初期のパラメータのセットが決定される。終了閾値450bが満たされない場合、この方法は、更新されたパラメータを使用して、新たな予測測定値のセットを決定する。
【0056】
【0057】
更新されたCoGパラメータを決定すること(430b)は、サロゲートコスト関数に基づく。一実施形態において、これは、最良のCoGパラメータ(最適解)が位置していそうな可能な値の範囲内のCoGパラメータが得られるように設計された獲得関数を導入することによってなされる。
【0058】
【0059】
いくつかの実施形態において、1つのCoGパラメータだけでなく、CoGパラメータのいくつかの異なる可能な値も、410aによって決定された確率分布をサンプリングすることによって決定される。
【0060】
本発明の他の実施形態は、粒子フィルタを使用してベイズフィルタを実現し、この粒子フィルタは、粒子のセットを維持しており、各粒子は、CoGパラメータの確率分布の加重推定値を表し、粒子のセットは、全体として、CoGパラメータの推定された確率分布の第1および第2のモーメントを表し得る。粒子フィルタ粒子は、上記粒子についてのCoGパラメータに基づく車両状態の推定値、および、CoGパラメータと車両状態との組み合わせの確率の重みも含む。粒子フィルタを使用することにより、車両動力学のモデルの線形またはほぼ線形の仮定および粒子フィルタによって推定された未知のパラメータへの従属が不要になる。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
図4Cは、一実施形態に係る、粒子フィルタを使用してCoGパラメータを推定する(420a)ための方法の1回の反復のフローチャートを示す図であり、この粒子フィルタは、車両のプロセッサによって実行される。粒子フィルタは、重み付けされた粒子のセットによってCoGパラメータの確率分布を推定し、各粒子は、CoGパラメータの確率分布の加重推定値を表し、粒子のセットは、全体として、CoGパラメータの推定された確率分布の1次および2次モーメントを表し、これらの重みは、測定モデルを使用した予測測定値と測定値とのフィット性に従って決定される。したがって、粒子フィルタは、CoGパラメータの不確実性を有するロール動力学モデルを使用して推定されたロール角およびロールレートと受信された(409c)ロール角およびロールレートとの間の関係性を判断する(410c)。判断された関係性411cを使用して、粒子フィルタは、ロール角およびロールレートと受信されたロール角およびロールレートの値409cとの間の差を小さくするように、判断された関係性に基づいてCoGパラメータの確率分布を更新する(420c)。
【0067】
図4Dは、一実施形態に係る、CoGパラメータの確率分布を更新すること(420c)の1つの例示的な実現例のフローチャートを示す図である。判断された関係性411cを使用して、この方法は、粒子についてのCoGパラメータの不確実性を有するロール動力学モデルを使用して推定されたロール角およびロールレートと測定値とのフィット性を判断することによって、重みを決定する(410d)。次いで、これらの重みは、重みの合計が確実に確率分布を反映するように1に正規化される。
【0068】
決定された重みを使用して、可能性が最も高い、すなわち最良の粒子がリサンプリングされて(420d)、可能性がそれほど高くない粒子を除去する。リサンプリングされた粒子421dを使用して、これらの重みに基づいてCoGパラメータの確率分布が決定される(430d)。
【0069】
図4Eは、各反復について5つの粒子が生成される場合のステップ420aおよび430aの3回の反復の結果の簡略概略図である。ロール動力学のモデルと5つのサンプリングされたCoGパラメータ(各粒子について1つ)とを使用して、初期状態410eが時間的に順方向に予測されて(411e)、5つの次の状態421e,422e,423e,424eおよび425eを生成する。確率は、CoGパラメータの不確実性を有するロール動力学モデルを使用して推定されたロール角およびロールレートと受信されたロール角およびロールレートとの間の関係性に従って、測定値426eとのフィット性および測定値426eの確率論的測定モデル427eの関数として決定される。各時間ステップにおいて、すなわち各反復において、確率の集合体を使用して、CoGパラメータの第1のモーメントおよび第2のモーメントを生成する(420e)。
【0070】
図4Fは、
図4Eにおける第1の反復における5つの異なるCoGパラメータの可能な割り当てられた確率を示す図である。それらの確率421f,422f,423f,424fおよび425fは、CoGパラメータ421e,422e,423e,424eおよび425eを示すドットのサイズを選択する際に反映される。再び
図4Eを参照して、可能性が最も高い粒子は、次の反復のための初期CoGパラメータになり、この初期CoGパラメータは、5つのサンプリングされたCoGパラメータを再び生成する。
【0071】
【0072】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタが計算的に重いベイズフィルタであり、車両の制御などの時間的制約のあるタスクで実現するためには、効率的な実現が必要である、という理解に基づく。別の実施形態は、ロール角およびロールレートが車両のロール動力学のモデルに線形に入力されるのに対して、CoGパラメータが非線形に入力される、ということを認識する。したがって、ロール角およびロールレートの更新は、各粒子についてカルマンフィルタ更新を使用して効率的かつ分析的になされることができる。このようにすることによって、計算複雑性を減少させることが保証される。
【0073】
いくつかの実施形態において、車両の横転の可能性を減少させるように車両を制御するために、CoGパラメータの推定値およびCoGパラメータの推定値の信頼度が使用される。CoGパラメータの確率論的推定に基づいて車両を制御するための任意の制御方法を車両動力学制御システムで使用して、CoGパラメータを含む運動モデルを使用して車両を制御することができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、横転の可能性を減少させるように決定される制御コマンドは、車両のレガシーコントローラによって決定される制御コマンド、たとえばステアリング角基準またはブレーキ挙動基準の調整である。他の実施形態では、横転の可能性を減少させるように決定される制御コマンドは、車両の運転者のステアリング挙動の調整である。さらに他の実施形態では、横転の可能性を減少させるように決定される制御コマンドは、運転者が車両の名目挙動を操作することなく自律的になされる。
【0075】
図5Aは、いくつかの実施形態に係る、所望の基準509aをたどることができる予め設計されたレガシーコントローラによって制御される車両501aの一例を示す図である。いくつかの実現例において、制約を満たすことを実施するために、適応リファレンスガバナ(ARG:Adaptive Reference Governor)503aは、測定値505aを使用して所望の基準509aを制約許容基準507aに調整する。
【0076】
図5Bは、レガシー制御システム501bによって制御される車両と接続された車両動力学制御システム199のコンポーネントの概略図である。所望の基準信号509bは、車両の人間オペレータによって生成されるステアリングプロファイルであってもよく、またはレガシーコントローラによって生成される自動ステアリングもしくはブレーキプロファイルであってもよい。いくつかの実施形態において、車両動力学制御システム199は、以下のモジュール、すなわちベイズフィルタ531b、制約許容不変集合(CAIS:Constraint-Admissible Invariant Set)学習モジュール521bおよび基準生成モジュール511bを有する。
【0077】
ベイズフィルタ531bは、いくつかの他の実施形態に従って、CoGパラメータと、たとえば第2のモーメントとして表される関連付けられた不確実性とを推定する。車両501bおよび制御システムは、安全上の考慮事項、物理的な制限および/または仕様から生じる制約527bを満たすように設計されており、これらの制約527bは、出力、入力および場合によっては車両の状態も機能することが許可される範囲を制限する。たとえば、制約は、車両の最大ロール角であってもよく、または車両の最大許容荷重伝達であってもよく、値が上記制約を超えると車両が横転するリスクがある。制約528bは、連続空間において定義される。たとえば、状態制約は、車両の連続状態空間において定義され、基準入力制約は、連続基準入力空間において定義される。CAIS学習モジュール521bは、メモリ523bに格納された特徴およびラベルとともに、CoGパラメータの推定値をベイズフィルタ531bから取得して、CPU/GPUを使用して、または基準生成器モジュール511bで使用するために、制約許容集合を生成する。
【0078】
命じられたステアリングプロファイルなどの所望の基準入力509bが車両の運転者から与えられると、基準生成器ユニット511bは、CAIS学習器521bによって生成されたCAISを使用して、この所望の基準入力rを調整済み基準入力vに調整する。この調整済み基準入力は、車両のステアリング角の限度などの許容可能な基準のセット517bに属する。基準生成器は、以前の時刻における調整済み基準を見つけるためにそのメモリ513bにアクセスして、新たな調整済み基準を計算するようにそれを更新する。調整済み基準入力は、インターフェイス507bを介して車両と接続され、レガシー制御システムの挙動もしくは構造、または完全に人間が操作する車両の場合には運転者の挙動を変更することなく制約527bを実施することが保証される。
【0079】
図5Cは、いくつかの実施形態に係る、ベイズフィルタからのCoGパラメータ推定値境界513cと格納された状態特徴と制約許容性ラベル527cとを活用して、制約528cが与えられた状態で更新されたCAIS531bを学習させるCAIS学習器521cのブロック図である。
【0080】
【0081】
【0082】
パラメータロバストな制約許容集合の推定値を生成するために、いくつかの実施形態は、オフラインサンプリング駆動アプローチを利用して、測定値が入手可能になったときにこれらの集合をオンラインで学習するためのデータを収集する。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
一実施形態は、サンプルx
iの対応するラベルを以下のように設定する。
【数14】
【0087】
【0088】
【0089】
図6Aは、適応リファレンスガバナにおける基準生成モジュール630aの概略図である。学習モジュールから取得された更新されたCAIS610aおよび許容可能な基準のセット620aは、出力制約を満たす調整済み基準を計算するために使用される。
【0090】
【0091】
その結果、一実施形態は、以下のように問題(8)をグリッドサーチとして書き直す。
【数18】
【0092】
【0093】
図7は、増えていく時刻740,742,744におけるCoGパラメータのCoGパラメータ推定値723、たとえば第1のモーメントの周りの徐々に縮小していく境界725に基づく更新されたCAISの例を示す図である。時刻740のあたりの不確実性は高い(間隔が大きい)ので、対応する不変集合はタイトである(741)が、境界が740から742,744へと縮小するにつれて、対応するCAISは741から743,745へと拡大する。いくつかの実施形態において、この拡大は、743から745など、CAISの形状を完全に変化させ得る。
【0094】
コントローラがCoGパラメータの確率分布の局面、たとえば第2のモーメントを考慮に入れる限りにおいて、さまざまな異なるコントローラが車両の横転の可能性を減少させるために車両動力学制御システムのさまざまな実施形態によって使用される。
【0095】
図8Aは、いくつかの実施形態に係る、車両動力学制御システム199のコンポーネントの概略図の別の例を示す図である。この例では、車両を制御するために、ロール動力学のモデル850を使用するCoG推定器831を含むベイズフィルタ830が確率論的モデル予測コントローラ(SMPC:Stochastic Model-Predictive Controller)810に接続されている(821)。SMPCは、車両を制御するために、車両の制御モデルの中にCoGパラメータを含む運動モデル860を使用する。SMPCは、車両の物理的および動作的な限度を表す制約842を含み得る。たとえば、横転回避制約が制約842に含まれる。たとえば、ステアリング角に対する最大限度、すなわち道路上での最大許容横方向逸脱が制約842に含まれる。動作中、SMPC810は、システムの所望の挙動を示すコマンド、たとえばステアリングコマンド801を受信する。コマンド801を受信したことに応答して、SMPCは、制御信号811を生成し、この制御信号811は、インターフェイス812を介した車両820への入力の役割を果たす。
【0096】
いくつかの実施形態において、SMPC810のための制御モデル840は、1つまたは複数の確率論的機会制約843を含み得る。本明細書で使用される機会制約は、制御モデルのさまざまな局面の不確実性を考慮に入れて車両の物理的または幾何学的な制限を定義する制約である。たとえば、機会制約は、道路上の車両の横変位に対する制約を定義してもよく、または、横転回避制約を含んでいてもよい。さまざまな実施形態は、車両の物理的な制限および仕様制約のいずれかのうちの1つまたは複数を1つまたは複数の確率論的機会制約843として定式化することができ、これは、対応する制約に違反する確率が特定の確率閾値を下回ることを実施することを目指す。
【0097】
さまざまな実施形態において、システムの制御モデル840は、CoGパラメータの推定された確率分布の第1および第2のモーメントを有するCoGパラメータを含む車両の運動モデルを含む。たとえば、CoGパラメータの不確実性の推定された確率分布の第1および第2のモーメントが制御モデルに含まれる。
【0098】
図8Bは、SMPC810の各制御ステップにおいて不等式制約付き非線形動的最適化問題を解くための2レベル最適化手順の例示的な実現例のブロック図であり、この手順は、横転の可能性を減少させる制御コマンドを生成するためにCoGパラメータの不確実性を表す確率論的機会制約を含む。2レベル最適化手順は、状態の固定値の予測範囲内での確率論的機会制約のCoGパラメータの不確実性の確率分布から抽出された第2のモーメント、すなわち共分散行列の伝播850bおよび制御変数865bと、CoGパラメータ共分散行列855bの固定値の予測範囲内での状態および制御変数の最適化860bとを交互にする。2レベル最適化手順の終了条件が満たされると、制御信号811が計算される。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態において、2レベル最適化手順810は、3つの主な計算ステップで構成される。第1のステップは、線形二次目的関数を準備し、ヤコビ行列を計算して線形化等式および不等式制約を準備し、それは、状態、CoGパラメータおよび制御値865bの現在の軌道について非線形共分散伝播方程式を評価することによって、共分散行列の軌道を伝播させ(850b)、この共分散行列は、CoGパラメータの第2のモーメントの影響を受ける制御範囲にわたる予測状態値の不確実性を表す。第2のステップは、結果として得られたブロック構造QP部分問題を1つまたは複数のタイトな不等式制約を用いて解いて、機会制約870bの各々を近似することで構成されている。第3のおよび最後のステップは、最適な状態および制御値の現在の軌道に対するニュートンタイプの更新875bを含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、SMPCにおける正確でないヤコビ情報を訂正するために随伴勾配計算が使用され、結果として得られる2レベル最適化手順は、3つの主な計算ステップで構成される。第1のステップは、線形二次目的関数を準備し、状態および制御変数に関してヤコビ行列を計算して線形化等式および不等式制約を準備し、随伴ベースの勾配評価を計算し、そして、CoGパラメータを含む運動モデルを使用して、予測された状態および制御値865bの現在の軌道について共分散行列、すなわち第2のモーメントの軌道を伝播させる(850b)ことによって、目的関数および制約関数の各々から共分散行列を数値的に排除する。第2のステップは、結果として得られたブロック構造QP部分問題を1つまたは複数のタイトな不等式制約を用いて解いて、機会制約870bの各々を近似することで構成されている。第3のおよび最後のステップは、最適な状態および制御値の軌道に対するニュートンタイプの更新875bと、ラグランジュ乗数の対応する更新の拡張とを含む。
【0101】
図9Aは、CoGパラメータを含む運動モデル860を含む制御モデル840を使用してSMPCを実現するためのブロック図である。具体的には、SMPCは、各制御時間ステップにおいて制約付き最適化問題950aを解くことによって、制御解、たとえば解ベクトル965aを計算し、この制御解は、システム960aの予測時間範囲にわたる将来の最適またはほぼ最適な制御入力のシーケンスを含む。この最適化問題950aにおける目的関数、等式および不等式制約のデータ945aは、システムの現在の状態推定値、推定されたCoGパラメータ、および制御コマンドから決定される制御モデルおよびシステム制約940aによって決まる。
【0102】
本発明の実施形態は、連続時間SMPC問題を不等式制約付き非線形動的最適化問題として定式化するために直接最適制御方法を使用する。本発明のいくつかの実施形態は、ニュートンタイプの方法ならびに最適化問題の実現可能性および最適性条件の連続的線形化に基づく反復手順を使用して不等式制約付き最適化問題950aを正確にまたはおおよそ解くために導関数ベースの最適化アルゴリズムを使用する。このようなニュートンタイプの最適化アルゴリズムの例としては、内点法(IPM:Interior Point Method)および逐次二次計画法(SQP:Sequential Quadratic Programming)が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態は、不等式制約付き最適化問題950aが最適制御構造最適化問題(OCP)の形式を有していることにより、導関数ベースの最適化アルゴリズムの実現例を活用する構造を使用して、各制御時間ステップにおいて解ベクトル965aを計算することができる、という認識に基づく。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態において、不等式制約付き最適化問題を解くこと(950a)は、現在の制御時間ステップにおいて不等式制約付き最適化問題を解くこと(950a)の計算労力を減らすために、メモリから読み取ることができる以前の制御時間ステップからの予測時間範囲にわたる正確なまたはおおよその状態および/または制御値910aを解推測値として使用する。以前の制御時間ステップにおける解情報910aから解推測値を計算するこの概念は、最適化アルゴリズムのウォームスタートまたはホットスタートと呼ばれ、それは、本発明のいくつかの実施形態においてSNMPCの必要な計算労力を減らすことができる。同様に、対応する解ベクトル965aを使用して、次の制御時間ステップ960aの正確なまたはおおよその状態および/または制御値のシーケンスを更新して格納することができる。
【0104】
図9Bは、システムの現在の状態推定値と、挿入された更新されたモデル509aを提供する推定されたCoGパラメータと、コマンド801とが与えられた状態で、各制御時間ステップにおいて制御信号811を計算するために制約付き最適制御構造非線形プログラミング問題(OCP-NLP)950aを解くSNMPCのブロック図である。OCP-NLP950aは、各制御時間ステップにおいて解く必要がある最適化問題における変数として、状態変数x=[x
0,x
1,...,x
N]と、CoGパラメータの第2のモーメントを使用して予測された状態共分散行列変数P=[P
0,P
1,...,P
N]と、予測時間範囲にわたる制御入力変数u=[u
0,u
1,...,u
N-1]とを含む。
【数20】
ここで、予測範囲にわたる状態共分散行列を決定するためにCoGパラメータの確率分布が使用される。
【0105】
【0106】
いくつかの実施形態において、不等式制約955aのうちの1つまたは複数は、確率論的機会制約として定義することができ、これらの確率論的機会制約は、対応する不等式制約に違反する確率が特定の確率閾値を下回る、すなわち確率論的機会制約ではバックオフ係数値αi>0であり、標準的な決定論的不等式制約ではαi=0である、ことを保証することを目指している。なお、決定論的不等式制約は、状態および制御値の軌道の予想値について対応する不等式制約が満たされることを保証することを目指している。
【0107】
各不等式制約に対する個々のタイト化に基づいて確率論的機会制約955aの近似定式化を使用すると、結果として得られる不等式制約付き非線形動的最適化問題は、最適性および実現可能性条件の連続的線形化に基づくニュートンタイプの最適化アルゴリズムを使用して解くことができる。このようなニュートンタイプの最適化アルゴリズムの例としては、内点法(IPM)および逐次二次計画法(SQP)が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態は、目的関数の線形二次近似と、離散化システム動力学および離散時間共分散伝播方程式に対する線形化ベースの近似と、不等式制約の各々およびタイトな確率論的機会制約の各々に対する線形化ベースの近似とに基づいて、SQPアルゴリズムがSQP最適化アルゴリズムの各反復において確率論的非線形OCPに対する二次計画問題(QP:Quadratic Program)近似を解く、という認識に基づく。