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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】経糸送り装置
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/38 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
D04B15/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023569508
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2022047201
(87)【国際公開番号】W WO2023120600
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2021211104
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】芦辺 伸介
(72)【発明者】
【氏名】藤村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】北東 真輝
(72)【発明者】
【氏名】玉置 智史
(72)【発明者】
【氏名】辻 涼介
(72)【発明者】
【氏名】山下 巧真
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルンパー ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】シェリフ チョクリ
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-34737(JP,A)
【文献】実開昭57-37956(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第110331510(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 3/00-19/00
D04B23/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸を上方から横編機へ送り出す経糸送り装置であって、
駆動力を発生させる駆動源と、
前記駆動源よりも下方に回転可能に設けられ、給糸方向を下方へ屈曲させるように糸源から繰り出された前記経糸と周面が接触した駆動ローラと、
前記駆動ローラを一方向へのみ回転するように前記駆動力を伝達し、前記経糸を下方へと送り出す伝達機構と、
を具備する経糸送り装置。
【請求項2】
前記駆動ローラの回転に伴って回転可能な複数の従動ローラと、
前記複数の従動ローラに架けられ、外周面が前記駆動ローラの前記周面と接触する無端状のベルトと、
をさらに具備し、
前記駆動ローラは、
前記周面と前記ベルトの前記外周面とで前記経糸を挟持して下方へ送り出す、
請求項1に記載の経糸送り装置。
【請求項3】
前記伝達機構は、
前記駆動ローラと前記一方向へ一体的に回転可能、かつ、前記駆動ローラに対して他方向へ相対的に回転可能に連結された連結部材を具備し、
前記駆動ローラは、
前記駆動力による前記連結部材の揺動によって前記経糸を下方へと送り出す、
請求項1又は請求項2に記載の経糸送り装置。
【請求項4】
前記伝達機構は、
前記駆動力により往復移動可能なラック部と、
前記ラック部に係合するように設けられ、前記ラック部の往復移動により前記駆動ローラと前記一方向へ一体的に回転可能、かつ、前記駆動ローラに対して他方向へ相対的に回転可能なピニオンギヤと、
を具備し、
前記駆動ローラは、
前記ピニオンギヤを介して伝達された前記駆動力により前記一方向へ回転して前記経糸を下方へと送り出す、
請求項1又は請求項2に記載の経糸送り装置。
【請求項5】
前記駆動源は、回転量を調整可能なモータである、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の経糸送り装置。
【請求項6】
前記駆動源は、前記横編機のキャリッジによる編成に合わせて移動可能であると共に、移動に伴って駆動力を発生可能なカム機構を有する移動体である、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の経糸送り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経糸を横編機へ送り出す経糸送り装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経糸を横編機へ送り出す経糸送り装置の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、横編みした編糸により経糸と緯糸とを挟み込む技術が開示されている。具体的には、特許文献1においては、編幅方向に並列される複数の第一ベース糸(経糸)と、第一ベース糸と交差する縦方向に並列される第二ベース糸(緯糸)とを、編糸を横編みすることで挟み込んでいる。
【0004】
このように編成される編地において、緯糸は、例えばヤーンフィーダにより編幅方向にインレイ等で挿入され、確実に編みこまれる。これに対し、経糸は、例えば編機の上方から給糸され、基本的には緯糸と編糸との摩擦に依存して編地と共に編み下がっていく。すなわち、経糸の編機への送りは受動的に行われる。このような場合、例えば糸源リールから経糸を取り出すときの解除抵抗による張力や、経糸の自重による下方への撓みによる張力が高いと必要量が編み下がらず、縦方向に並列された緯糸の間隔が詰まるという問題が発生する。緯糸の間隔が詰まると、編地をFRPの基材として使用する場合に強度ムラが生じる原因となる。
【0005】
また、経糸を個別に送るためには送りローラを多数併設する必要があり、またこの場合、多数の経糸がクリールスタンドから編機に渡ることとなる。このため、給糸経路周辺が複雑化し、送りローラを直接駆動することが容易ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-34737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、経糸を編み下がり易くすることができ、かつ、給糸経路周辺の複雑化を抑制することができる経糸送り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、本発明に係る経糸送り装置は、経糸を上方から横編機へ送り出す経糸送り装置であって、駆動力を発生させる駆動源と、前記駆動源よりも下方に回転可能に設けられ、給糸方向を下方へ屈曲させるように糸源から繰り出された前記経糸と周面が接触した駆動ローラと、前記駆動ローラを一方向へのみ回転するように前記駆動力を伝達し、前記経糸を下方へと送り出す伝達機構と、を具備するものである。
このように構成することにより、駆動源からの駆動力を用いて駆動ローラの回転により経糸の横編機への送りを積極的に行うことができるため、経糸を編み下がり易くすることができる。また、駆動源が駆動ローラよりも上方に、すなわち駆動ローラから比較的遠方に配置されることにより、給糸経路周辺の複雑化を抑制することができる。
【0010】
また、前記駆動ローラの回転に伴って回転可能な複数の従動ローラと、前記複数の従動ローラに架けられ、外周面が前記駆動ローラの前記周面と接触する無端状のベルトと、をさらに具備し、前記駆動ローラは、前記周面と前記ベルトの前記外周面とで前記経糸を挟持して下方へ送り出すものである。
このように構成することにより、駆動ローラとベルトにより経糸を挟持して送り出すため、例えば経糸が炭素繊維のように撚られていない糸であってもバラけるのを抑制でき、より好適に経糸を横編機へ送ることができる。
【0011】
また、前記伝達機構は、前記駆動ローラと前記一方向へ一体的に回転可能、かつ、前記駆動ローラに対して他方向へ相対的に回転可能に連結された連結部材を具備し、前記駆動ローラは、前記駆動力による前記連結部材の揺動によって前記経糸を下方へと送り出すものである。
このように構成することにより、比較的簡易な構成により経糸の横編機への送りを継続的に行うことができる。
【0012】
また、前記伝達機構は、前記駆動力により往復移動可能なラック部と、前記ラック部に係合するように設けられ、前記ラック部の往復移動により前記駆動ローラと前記一方向へ一体的に回転可能、かつ、前記駆動ローラに対して他方向へ相対的に回転可能なピニオンギヤと、を具備し、前記駆動ローラは、前記ピニオンギヤを介して伝達された前記駆動力により前記一方向へ回転して前記経糸を下方へと送り出すものである。
このように構成することにより、ラックアンドピニオンを用いて、経糸を横編機へ送ることができる。
【0013】
また、前記駆動源は、回転量を調整可能なモータであるものである。
このように構成することにより、必要に応じて編機を送る経糸の量を調整することができる。具体的には、例えば編地の編幅方向の一部分の経糸の量を他の部分に比べて増減させることができる。
【0014】
また、前記駆動源は、前記横編機のキャリッジによる編成に合わせて移動可能であると共に、移動に伴って駆動力を発生可能なカム機構を有する移動体であるものである。
このように構成することにより、比較的省スペース化、且つ、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、経糸を編み下がり易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態に係る経糸送り装置が適用された給糸機構を示した概略側面図。
図2】経糸送り装置を示した側面図。
図3】経糸送り装置の動作を示した側面図であって、(a)レバーが上方に回動した状態を示した図。(b)レバーが下方に回動した状態を示した図。
図4】第二実施形態に係る経糸送り装置を示した側面図。
図5】第三実施形態に係る経糸送り装置を示した側面図。
図6】第四実施形態に係る経糸送り装置を示した側面図。
図7】第五実施形態に係る経糸送り装置を示した側面図。
図8】第六実施形態に係る経糸送り装置であって、弛み取り機構を備えた経糸送り装置を示した側面図。
図9】弛み取り機構を示した側面図。
図10】弛み取り機構の動作を示した側面図であって、(a)経糸が弛んだ状態を示した図。(b)経糸を巻き取り、糸弛みを解消した状態を示した図。
図11】第七実施形態に係る経糸送り装置であって、別例の弛み取り機構を備えた経糸送り装置を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図中の矢印U、矢印D、矢印F及び矢印Bで示した方向を、それぞれ上方向、下方向、前方向及び後方向と定義して説明を行う。また、図1等の側面図における紙面手前方向及び紙面奥行き方向を、それぞれ右方向及び左方向と定義して説明を行う。なお、左右方向は、横編機2の編幅方向に相当する。また、図中においては、図示の簡略化のため、各構成部分の図示を適宜省略している。
【0018】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る経糸送り装置1は、編地の編成に用いられる経糸3bを横編機2に送り出すものである。横編機2は、編幅方向に並列される複数の経糸3bと、経糸3bと交差する縦方向に並列される緯糸とを、編糸を横編みすることで固定することにより、編地を編成することができる。編地において、緯糸はインレイ糸として挿入される。このように、経糸3bと緯糸とは、編目を構成しておらず、留糸として編糸により挟み込まれることによって、摩擦により互いに固定される。横編機2の後方には、クリールスタンド3が設けられている。クリールスタンド3には、経糸3bが巻かれた複数の糸源リール3aが収納されている。横編機2が編地を編成する際には、糸源リール3aに巻かれた経糸3bが、経糸送り装置1を介して横編機2に供給される。経糸3bとしては、例えば、複数の強化繊維(例えば、炭素繊維)が束ねられたものが用いられる。
【0019】
横編機2は、前針床2a及び後針床2bを、歯口2cを挟んで前後に対向するように備えている。横編機2においては、前針床2a又は後針床2bの先端側から、図示を省略している編針のフックが歯口2cに進退する。歯口2cには、複数のヤーンフィーダ(不図示)から緯糸及び編糸が供給される。
【0020】
また、横編機2は、編地を編成する際に、複数の経糸3bを同時に供給することができる経糸パイプ2dを備えている。経糸パイプ2dは、前後方向に3列、編成される経糸3bの本数分だけ編幅方向に複数列並ぶように設けられる。経糸パイプ2dは、編幅方向に移動するヤーンフィーダと干渉しない位置に配置され、内部に経糸3bが通されることで、上方から歯口2cに各経糸3bを供給する。
【0021】
以下、図1から図3を用いて、経糸送り装置1の構成について説明する。なお以下では、経糸3bの給糸経路の糸源リール3a側を「上流側」、横編機2側を「下流側」と称する場合がある。
【0022】
経糸送り装置1は、編地の編成に用いられる複数の経糸3bを、各経糸3bごとに送り量を制御して横編機2に送り出すものである。経糸送り装置1は、主として駆動装置10、駆動ローラ20、伝達機構30、動作規制部40及び従動機構50を具備する。
【0023】
図1に示す駆動装置10は、後述する伝達機構30を介して後述する駆動ローラ20を駆動させるものである。駆動装置10は、ジャカード開口装置11及びハーネス12を具備する。
【0024】
図1に示すジャカード開口装置11は、各経糸3bを横編機2に送る際の経糸送り装置1の動作の駆動源となるものである。また、ジャカード開口装置11は、各経糸3bの送り量を個別に制御するものである。ジャカード開口装置11としては、例えば一般的なシャトル織機に用いられる既知のジャカード開口装置を採用することができる。ジャカード開口装置11は、予め組み込まれたプログラムに基づいて制御を行う。ジャカード開口装置11は、横編機2とクリールスタンド3との間に配置された台4上に配置される。ジャカード開口装置11は、横編機2よりも上方に配置される。また、ジャカード開口装置11は、後述する駆動ローラ20、伝達機構30、動作規制部40及び従動機構50よりも上方に配置される。ジャカード開口装置11は、モータ11aを具備する。
【0025】
モータ11aは、駆動力を発生させるものである。モータ11aは、回転量を調整可能に設けられ、回転量の調整によって後述するハーネス12の変位量を調整することができる。モータ11aは、複数設けられる。より詳細には、モータ11aは、各経糸3bに対してそれぞれ設けられる。モータ11aは、ジャカード開口装置11に元々備えられているものを用いることができる。モータ11aの動作は、図示せぬ制御部によって制御される。
【0026】
図1から図3に示すハーネス12は、後述するレバー31を上下に回動させるためのものである。ハーネス12は、各モータ11aに対して一つ設けられる。ハーネス12の上端部は、適宜の部材を介してモータ11aと接続される。ハーネス12の下端部は、後述するレバー31に接続される。ハーネス12は、モータ11aから前方に延び、図示せぬ方向転換部材によって下方に屈曲するように設けられる。
【0027】
このように構成された駆動装置10においては、個別に予め設定されたパターンに従って各モータ11aが駆動されることによって、複数のハーネス12を上方又は下方へ個別に変位させることができる。
【0028】
図2及び図3に示す駆動ローラ20は、経糸3bを下流側に送るものである。駆動ローラ20は、経糸3bの給糸経路上に、左右方向に延びる軸線回りに回転可能に設けられる。駆動ローラ20は、各経糸3bに対してそれぞれ設けられる。図1に示すように、編幅方向に隣接する駆動ローラ20は、配置スペースを確保するために、互いに高さをずらして配置される。
【0029】
駆動ローラ20の周面20aの上端部には、当該駆動ローラ20の後方(クリールスタンド3に収納された糸源リール3a)から繰り出された経糸3bが送り込まれる。経糸3bは、周面20aの上端部の接線方向に沿う方向から、当該周面20aに送り込まれる。そして、経糸3bは、周面20aに当接され、当該周面20aによって下方へ屈曲するように案内される。
【0030】
駆動ローラ20の外周面には、歯20bが全周に亘って複数設けられる。複数の歯20bは、周方向において互いに等間隔に設けられる。
【0031】
このように構成された駆動ローラ20は、図2及び図3に示す右側面視において反時計回り方向に回転することにより、経糸3bを下流側へ送り出すことができる。以下では、駆動ローラ20の回転方向について、右側面視反時計回り方向、すなわち経糸3bを下流側へ送り出す方向を「順方向」、順方向と反対の方向である右側面視時計回り方向を「逆転方向」と称する場合がある。
【0032】
図2及び図3に示す伝達機構30は、駆動装置10からの駆動力を駆動ローラ20に伝達するものである。伝達機構30は、レバー31及びラチェット機構32を具備する。
【0033】
レバー31は、駆動ローラ20を回転させるためのものであり、駆動ローラ20と同軸回りに回動可能に(上下に揺動可能に)設けられる。レバー31は、長手方向を回動中心から略後方に向けて延びるように設けられる。レバー31は、第一フック部31a及び第二フック部31bを具備する。
【0034】
第一フック部31aは、ハーネス12が引掛けられる部分であり、略逆U字状のフック状に形成される。第一フック部31aは、レバー31の後端部に形成される。
【0035】
第二フック部31bは、後述するスプリング41が引掛けられる部分であり、略U字状のフック状に形成される。第二フック部31bは、レバー31の前後中途部(第一フック部31aよりも前方)に形成される。
【0036】
ラチェット機構32は、駆動ローラ20の回転方向を規制するものであり、レバー31の回動中心部分に組み込まれ、レバー31の回動に伴って回動するように形成される。ラチェット機構32は、レバー31が上方に回動したときには駆動ローラ20と係合するが、レバー31が下方に回動したときには駆動ローラ20と係合しないように形成される。
【0037】
すなわち、ラチェット機構32により、レバー31の上方への回動に伴って駆動ローラ20が順方向へ回転する。一方、ラチェット機構32により、レバー31の下方への回動に伴って駆動ローラ20が逆転方向へ回転することはない。
【0038】
図2及び図3に示す動作規制部40は、レバー31の動作を規制又は制御するものであり、スプリング41及び移動範囲規制部42を具備する。
【0039】
スプリング41は、レバー31を下方に付勢するものであり、引張りコイルばねが用いられる。スプリング41の上端は、レバー31の第二フック部31bに固定される。スプリング41の下端は、経糸送り装置1の任意の部分に固定される。前記任意の部分は、レバー31が回動しても動かない部分とされる。
【0040】
図3に示す移動範囲規制部42は、レバー31の回動範囲を規制するものであり、上側規制部42a及び下側規制部42bを具備する。
【0041】
上側規制部42aは、レバー31の上方への回動範囲を規制するものであり、レバー31の上方に設けられる。より詳細には、上側規制部42aは、レバー31が上方に所定の角度だけ回動したときに、レバー31に当接する位置に形成され、レバー31の上方への回動範囲を規制する。
【0042】
下側規制部42bは、レバー31の下方への回動範囲を規制するものであり、レバー31の下方に設けられる。より詳細には、下側規制部42bは、レバー31が下方に所定の角度だけ回動したときに、レバー31に当接する位置に形成され、レバー31の下方への回動範囲を規制する。
【0043】
ここで、駆動ローラ20を回転させる際には、ハーネス12は直線状に動作するのに対し、レバー31は円弧状に動作する。このため、あまりにハーネス12のストロークが大きくなると、ハーネス12の変位量と経糸3bの送り量とは比例しなくなる。このため、本実施形態に係る経糸送り装置1においては、移動範囲規制部42によってレバー31の回動範囲を規制している。また、レバー31の上方への回動範囲が規制されることにより、スプリング41が塑性変形するのを抑制することができる。
【0044】
図2及び図3に示す従動機構50は、駆動ローラ20の回転に伴って動作するものであり、第一従動ローラ51、第二従動ローラ52及び無端ベルト53を具備する。
【0045】
第一従動ローラ51は、左右方向に延びる軸線回りに回転可能に設けられ、駆動ローラ20の略上方に配置される。
【0046】
第一従動ローラ51の外周面には、歯51aが第一従動ローラ51の外周面に全周に亘って複数設けられる。複数の歯51aは、周方向において互いに等間隔に設けられる。第一従動ローラ51は、歯51aが駆動ローラ20の歯20bと噛み合うように設けられる。これにより、第一従動ローラ51は、駆動ローラ20の回転に伴って回転する。
【0047】
第二従動ローラ52は、左右方向に延びる軸線回りに回転可能に、第一従動ローラ51の前下方、かつ、駆動ローラ20の略前方に設けられる。第二従動ローラ52は、後述する無端ベルト53を介して第一従動ローラ51の回転に伴って回転する。
【0048】
無端ベルト53は、第一従動ローラ51と第二従動ローラ52とに架かるように、かつ、その外周面が駆動ローラ20と当接するように設けられる。より詳細には、無端ベルト53の外周面は、駆動ローラ20の周面20aのうち、経糸3bと接触する部分と当接するように設けられる。
【0049】
以下、図3を用いて、経糸3bを横編機2に送るときの経糸送り装置1の動作について説明する。
【0050】
経糸3bを横編機2に送る際には、まず駆動装置10のモータ11aを駆動させて、ハーネス12を上方に所定量だけ変位させる。そうすると、図3(a)に示すように、ハーネス12と接続されたレバー31は、上方に回動し、駆動ローラ20を順方向に回転させる。これにより、経糸3bが下流側に送られる。経糸3bの送り量を決定するハーネス12の変位量は、編地の編成に必要な量を考慮して設定される。
【0051】
ここで、上述の如く、第一従動ローラ51は、歯51aが駆動ローラ20の歯20bと噛み合うように設けられているため、駆動ローラ20の順方向への回転に伴って、右側面視時計回り方向に回転する。そうすると、無端ベルト53を介して第一従動ローラ51と接続された第二従動ローラ52もまた、右側面視時計回り方向に回転する。
【0052】
これにより、駆動ローラ20は、周面20aと無端ベルト53の外周面とで経糸3bを挟持した状態で、当該経糸3bを下方へ送り出すことができる。そうすることで、経糸3bが駆動ローラ20から外れ難くなり、経糸3bを確実に下流側に送り出すことができる。また、経糸3bを構成する複数の強化繊維のうち周面20aと接する部分だけが下流側に送られてしまうのを抑制することができる。また、経糸3bが炭素繊維を束ねただけで撚っていない糸であってもバラけるのを抑制でき、より好適に経糸3bを横編機2へ送ることができる。
【0053】
一方、ハーネス12の上方への駆動力が解除されると、図3(b)に示すように、ハーネス12と接続されたレバー31は、スプリング41の付勢力により下方に回動する。しかし、ラチェット機構32の働きにより、レバー31が下方に回動しても、駆動ローラ20は逆転方向に回転することはない。このため、経糸3bが上流側に戻されてしまうのを抑制することができる。
【0054】
このようにして、経糸送り装置1においては、駆動装置10からの駆動力を用いて駆動ローラ20を回転させることにより、編地の編成に用いられる各経糸3bを積極的に横編機2へ送ることができる。これにより、経糸3bに加わる張力(糸源リール3aから経糸3bを取り出すときの解除抵抗による張力や、経糸3bの自重による下方への撓みによる張力)に抗して、編地の編成に必要な量だけ経糸3bが編み下がるようにすることができる。よって、縦方向に並列された緯糸の間隔が詰まることを抑制することができる。また、駆動ローラ20や伝達機構30等の比較的簡易な構成により、経糸3bの横編機2への送りを継続的に行うことができる。
【0055】
また、駆動ローラ20は経糸3bを個別に制御するために編幅方向に多数配置する必要があり、またこの場合、多数の経糸がクリールスタンドから編機に渡ることとなる。このため駆動装置10の配置の自由度が比較的低い。そこで本実施形態においては、駆動ローラ20を回転させるための駆動装置10を、横編機2から比較的離れた位置に配置することで、給糸経路周辺を複雑化することなく、多数の経糸3bを個別に積極的に送ることができる。より詳細には、駆動装置10により駆動ローラ20を直接回転させるのではなく、ハーネス12を介して駆動装置10とレバー31とを連結するように構成することで、駆動装置10を給糸経路周辺に配置する必要がなく、駆動装置10を横編機2から比較的離れた位置に配置することが可能となる。したがって、給糸経路周辺が複雑化するのを抑制することができる。
【0056】
また、ジャカード開口装置11の各モータ11aを用いて各経糸3bの送り量を個別に調整することができるため、例えば編地の編幅方向の一部分の経糸3bの量を他の部分に比べて増減させることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内で適宜の変更が可能である。
【0058】
例えば、本実施形態においては、経糸送り装置1が経糸3bを送り込む横編機2は、経糸3bと緯糸とを編糸を用いて固定することで編地を編成するものとしたが、緯糸を用いずに編地を編成するものであってもよい。具体的には、例えば特許第5955197の図1に示すように、横編機2は、経糸に対して手前と奥の位相を移動する2つのキャリアから給糸される編糸と経糸との位置関係により経糸を挟み込むものであってもよい。
【0059】
また、経糸3bは、駆動ローラ20の周面20aの上端部に送り込まれるものとしたが、周面20aの上端部よりも後側の部分に送り込まれ、周面20aの上端部を通った後、周面20aによって下方に屈曲するように案内されるようにしてもよい。これにより、周面20aと接触する経糸3bの長さが増えるため、周面20aに対する経糸3bの滑りを減らし、経糸3bの送り精度を向上させることができる。
【0060】
また、各経糸3bは、編成方向が反転するタイミングで、それぞれ次の1コース分の必要量だけ横編機2へ送り込まれる。このように、各経糸3bは、同じタイミングで横編機2へ送り込まれる。なおこれに限定されず、例えば各編針が歯口2cへ進出するタイミングで、当該編針により留糸で固定される経糸3bが横編機2へ送り込まれてもよい。すなわち、各経糸3bは、互いに異なるタイミングで横編機2へ送り込まれてもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、駆動源としてモータ11aが用いられるものとしたが、ソレノイドが用いられるものであってもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、ラチェット機構32によって駆動ローラ20の回転方向を規制するものとしたが、一方向にだけ力を伝達することができ、他方向には力を伝達しない構成であればよく、例えばワンウェイクラッチであってもよい。
【0063】
次に、図4を用いて、本発明の第二実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0064】
第二実施形態に係る経糸送り装置1が、第一実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、駆動装置10に代えて駆動装置60を具備する点である。以下では、この相違点について説明する。なお、図4、及び後述する図5から図7においては、従動機構50の図示を省略している。
【0065】
駆動装置60は、ハーネス12、移動体61、針状体62、針床63及び方向転換ローラ64を具備する。なお、ハーネス12については、第一実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0066】
移動体61は、横編機2のキャリッジ(不図示)と同期して編幅方向に往復移動可能なものであり、図示せぬモータとタイミングベルトにより駆動される。移動体61の下面には、カム面61aが設けられている。
【0067】
針状体62は、長手方向を前後方向に向けた針状に形成されるものであり、ハーネス12ごとに設けられる。針状体62の前端はフック状に形成され、ハーネス12が係合されている。針状体62は、その前後中途部が上方に突出するように形成されたバット62aを備えている。針状体62は、左右方向に複数並ぶように、針床63上に設けられる。
【0068】
また、駆動装置60は、アクチュエータ(不図示)を備えており、アクチュエータにより、針状体62を選針状態と非選針状態を切り替え可能に構成されている。選針状態と非選針状態との切り替えは、予め組み込まれたプログラムに基づいて決定される。針状体62は、選針状態では、移動体61が編幅方向に移動すると、バット62aがカム面61aにより案内されることにより、前後に進退動作する。一方、針状体62は、非選針状態では、バット62aが針床63内に沈められる。このため、移動体61が編幅方向に移動してもバット62aがカム面61aにより案内されることはない。よって、針状体62は前後に進退動作しない。このように、カム面61aは、移動体61の移動に伴って針状体62を移動させる駆動力を発生させる。
【0069】
方向転換ローラ64は、ハーネス12の方向を転換するものであり、針状体62の前端から前方に延びるハーネス12を下方へと屈曲して延びるように、ハーネス12の延伸方向を転換するように形成される。
【0070】
このように構成された第二実施形態に係る経糸送り装置1においては、移動体61が横編機2のキャリッジと同期して編幅方向に往復移動すると、選針状態の針状体62のみが前後に進退動作する。これにより、ハーネス12が上下に変位し、レバー31を上方に回動させる。これにより、駆動ローラ20を順方向に回転させ、経糸3bを下流側に送り出すことができる。
【0071】
また、上記の如く構成された駆動装置60を用いて駆動ローラ20を駆動させることにより、比較的省スペース化、且つ、低コスト化を図ることができる。
【0072】
次に、図5を用いて、本発明の第三実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0073】
第三実施形態に係る経糸送り装置1が、第一実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、駆動装置10に代えて駆動装置70を具備する点である。以下では、この相違点について説明する。
【0074】
駆動装置70は、移動体61、針状体72、針床73、作動リンク74及び作動バー75を具備する。なお、移動体61については、第二実施形態と同じであるので説明を省略する。また、針状体72及び針床73は、それぞれ第二実施形態の針状体62及び針床63に相当する。
【0075】
作動リンク74は、リンク機構の一部を構成するものであり、回動部材74a、第一接続部74b及び第二接続部74cを具備する。
【0076】
回動部材74aは、左右方向に延びる軸線回りに回転可能に形成される。回動部材74aは、第一接続部74bによって針状体72の前端部に対して揺動可能に接続され、第二接続部74cによって後述する作動バー75の上端部に対して揺動可能に接続される。
【0077】
作動バー75は、レバー31を動作させるものであり、金属製又は樹脂製等の材料で形成された棒状に形成され、長手方向を上下方向に向けて設けられる。上述したように、作動バー75は、その上端が回動部材74aに接続され、その下端がレバー31の第一フック部31aに接続される。
【0078】
このように構成された第三実施形態に係る経糸送り装置1においては、移動体61の編幅方向への往復移動に伴って選針状態の針状体72が進退動作すると、作動リンク74が回動し、作動バー75を上下に変位させる。より詳細には、針状体72が後方に移動して作動リンク74が右側面視時計回り方向に回動すると、作動バー75が上方に変位し、レバー31を上方に回動させる。これにより、駆動ローラ20を順方向に回転させ、経糸3bを下流側に送り出すことができる。
【0079】
なお、図5に示す例においては、レバー31はスプリング41によって下方に付勢されているが、レバー31は作動リンク74の回動によって下方にも変位可能であるので、スプリング41は必ずしも備えられていなくてもよい。後述する図6に示す例も同様である。
【0080】
また、図5では、第一接続部74bと第二接続部74cとは略同じ長さに示されているが、例えば第二接続部74cの長さを第一接続部74bの長さよりも長くしてもよい。これにより、針状体72の進退移動量に対する作動バー75の変位量を大きくすることができ、ひいてはカム機構の小型化を図ることができる。
【0081】
次に、図6を用いて、本発明の第四実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0082】
第四実施形態に係る経糸送り装置1が、第一実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、駆動装置10に代えて駆動装置80を具備する点である。以下では、この相違点について説明する。
【0083】
駆動装置80は、移動体61、針状体72、針床73、スライド部材84及び作動バー86を具備する。なお、移動体61については、第二実施形態と同じであるので説明を省略する。また、針状体72及び針床73については、第三実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0084】
スライド部材84は、前後にスライド可能に設けられる部材であり、針状体72の前端部に固定される。これにより、スライド部材84は、針状体72の前後の進退動作に伴って、前後に往復移動する。スライド部材84には、長手方向が前後方向に対して斜めとなるように形成された長孔84aが設けられる。より詳細には、長孔84aは、後方に向かうにつれて下方に位置するように傾斜して形成される。
【0085】
作動バー86の構成は、第三実施形態の作動バー75と概ね同じである。作動バー86は、図示せぬガイド部材によって前後方向に移動しないように、すなわち上下方向のみに移動可能に案内される。作動バー86の上端には、ピン86aが設けられる。ピン86aは、作動バー86の上端から左方に延びるように形成され、スライド部材84の長孔84aに挿通される。
【0086】
このように構成された第四実施形態に係る経糸送り装置1においては、移動体61の編幅方向への往復移動に伴って選針状態の針状体72が進退動作すると、スライド部材84が前後に往復移動し、ピン86aが長孔84aに案内される。すると、作動バー86が上方に変位し、レバー31を上方に回動させる。これにより、駆動ローラ20を順方向に回転させ、経糸3bを下流側に送り出すことができる。
【0087】
以上、本発明の第二実施形態から第四実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内で適宜の変更が可能である。
【0088】
例えば、移動体61は、横編機2のキャリッジによる編成に合わせて動作するものであれば、第二実施形態から第四実施形態のように横編機2のキャリッジと同期して動作するものに限らず、キャリッジの動作に先行して動作するものであってもよい。
【0089】
また、長孔84aの傾斜角度は任意とすることができるが、水平方向に対する傾斜角度が比較的大きくなるように、すなわち比較的縦長に形成してもよい。これにより、針状体72の進退移動量に対する作動バー86の変位量を大きくすることができ、ひいてはカム機構の小型化を図ることができる。
【0090】
また、駆動装置として、第一実施形態のジャカード開口装置11と、図5及び6に示す機構とを組み合わせたものを用いてもよい。
【0091】
次に、図7を用いて、本発明の第五実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0092】
第五実施形態に係る経糸送り装置1が、第一実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、伝達機構30に代えて伝達機構90を具備する点である。以下では、この相違点について説明する。
【0093】
伝達機構90は、ピニオンギヤ91、ラチェット機構92及びラック93を具備する。
【0094】
ピニオンギヤ91は、駆動ローラ20を回転させるためのものであり、駆動ローラ20の右方に、当該駆動ローラ20と同軸回りに回転可能に設けられる。ピニオンギヤ91の外周面には、歯91aが全周に亘って複数設けられる。複数の歯91aは、周方向において互いに等間隔に設けられる。
【0095】
ラチェット機構92は、駆動ローラ20の回転方向を規制するものであり、ピニオンギヤ91の回転中心部分に組み込まれ、ピニオンギヤ91の回転に伴って回動するように形成される。ラチェット機構92は、ピニオンギヤ91が右側面視反時計回り方向に回転したときには駆動ローラ20と係合するが、ピニオンギヤ91が右側面視時計回り方向に回転したときには駆動ローラ20と係合しないように形成される。
【0096】
すなわち、ラチェット機構92により、ピニオンギヤ91の右側面視反時計回り方向への回転に伴って駆動ローラ20が順方向へ回転する。一方、ラチェット機構32により、ピニオンギヤ91の右側面視時計回り方向への回転に伴って駆動ローラ20が逆転方向へ回転することはない。
【0097】
ラック93は、駆動ローラ20を回転させるためのものであり、長手方向を上下方向に向けて、駆動ローラ20の後方に設けられる。ラック93は、図示せぬガイド部材によって前後方向に移動しないように、すなわち上下方向のみに移動可能に案内される。
【0098】
ラック93の前面には、歯93aが上下方向において互いに等間隔に複数設けられる。ラック93は、歯93aがピニオンギヤ91の歯91aと噛み合うように設けられる。
【0099】
ラック93は、その上端にハーネス12の下端が接続される。ラック93は、その下端にスプリング41の上端が係合され、当該スプリング41により下方に付勢されている。
【0100】
このように構成された第五実施形態に係る経糸送り装置1においては、駆動装置10のモータ11aを駆動させてハーネス12を上方に所定量だけ変位させると、ハーネス12と接続されたラック93は上方に移動する。ここで、上述の如く、ラック93は、歯93aがピニオンギヤ91の歯91aと噛み合うように設けられている。このため、ラック93が上方に移動すると、これに伴ってピニオンギヤ91が右側面視反時計回り方向に回転し、駆動ローラ20が順方向に回転する。これにより、経糸3bを下流側に送り出すことができる。
【0101】
また、ギア比を調整することで駆動源によるハーネス12の上下移動量よりも駆動ローラ20の送り量を多くすることができる。これにより、カム機構の小型化を図ることができる。
【0102】
次に、図8及び図9を用いて、本発明の第六実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0103】
第六実施形態に係る経糸送り装置1が、第一実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、さらに弛み取り機構200を具備する点である。以下では、この相違点について説明する。
【0104】
経糸送り装置1では、例えば編地の編成において経糸3bが想定よりも使用されない場合に、送り誤差が生じる場合がある。この送り誤差が蓄積すると、駆動ローラ20よりも下流側において経糸3bの弛みが生じ、経糸3bが他の物に接触する等して、編地の編成に影響を及ぼすおそれがあり好ましくない。弛み取り機構200は、この経糸3bの弛みを解消するために設けられるものであり、第一磁石部210、第二磁石部220及び遮蔽部材230を具備する。
【0105】
第一磁石部210は、第二従動ローラ52に設けられる磁石であり、直方体状に形成される。第一磁石部210は、長手方向を第二従動ローラ52の径方向に向けて、複数設けられる。第一磁石部210は、第二従動ローラ52の周方向において互いに等間隔に設けられる。本実施形態においては、第一磁石部210は、互いに60°の間隔を空けて6つ設けられる。第一磁石部210は、側面視において、その径方向外側の面が第二従動ローラ52の外周面と概ね同じ位置となるように設けられる。第一磁石部210は、S極部211及びN極部212を具備する。
【0106】
S極部211は、第一磁石部210の右側面視反時計回り方向側に配置される。具体的には、S極部211は、第二従動ローラ52が回転して第一磁石部210が最も上方に位置したときに、第一磁石部210の前側部分に位置するように設けられる。
【0107】
N極部212は、第一磁石部210の右側面視時計回り方向側に配置される。具体的には、N極部212は、第二従動ローラ52が回転して第一磁石部210が最も上方に位置したときに、第一磁石部210の後側部分に位置するように設けられる。N極部212は、S極部211に隣接するように設けられる。
【0108】
第二磁石部220は、第二従動ローラ52とは独立して設けられる磁石であり、第二従動ローラ52の下方において横編機2に固定される。より詳細には、第二磁石部220は、その前後中心が第二従動ローラ52の中心よりも若干後方に位置するように設けられる。第二磁石部220は、側面視略矩形状に形成される。第二磁石部220は、S極部221及びN極部222を具備する。
【0109】
S極部221は、第二磁石部220の後側部分を構成するように設けられる。
【0110】
N極部222は、第二磁石部220の前側部分を構成し、S極部221に隣接するように設けられる。N極部222は、S極部221よりも第二従動ローラ52に近い位置に設けられる。
【0111】
遮蔽部材230は、第一磁石部210の磁力を遮蔽又は減磁するものである。より詳細には、遮蔽部材230は、第二磁石部220に対して、第二従動ローラ52を逆方向へ回転させるように作用する磁力を遮るものである。遮蔽部材230は、強磁性体である鉄片により形成され、第一磁石部210のN極部212の磁極面を覆うように設けられる。
【0112】
次に、図9及び図10を用いて、弛み取り機構200の動作について説明する。以下では、第二従動ローラ52の回転方向について、右側面視反時計回り方向、すなわち経糸3bの弛みを巻き取る方向を「巻き取り方向」と称する場合がある。
【0113】
図10(a)は、送り誤差などにより、駆動ローラ20よりも下流側において経糸3bの弛みが生じている状態を示している。このように経糸3bの弛みが生じている場合において、第一磁石部210と第二磁石部220とが図9に示す位置関係になると、6つの第一磁石部210のうち前下部に位置する第一磁石部210aのS極部211aに対して、第二磁石部220のN極部222による吸着力が働く。
【0114】
このとき、レバー31が停止している場合、或いは上方へ回動している途中においては、ラチェット機構32の働きにより、S極部211aにN極部222による吸着力が働いたとしても、第二従動ローラ52は巻き取り方向に回転することはない。
【0115】
一方、レバー31が下方へ回動している途中においては、S極部211aがN極部222に吸着されることにより、第二従動ローラ52は、S極部211aとN極部222とが概ね対向する位置まで、巻き取り方向に回転する。
【0116】
このとき、6つの第一磁石部210のうち後下部に位置する第一磁石部210bのN極部212bの磁極面は、遮蔽部材230により覆われている。このため、当該N極部212bのS極部221に対する吸着力は遮蔽又は減磁される。よって、第二従動ローラ52が巻き取り方向と反対方向に回転することが抑制される。
【0117】
このようにして第二従動ローラ52が巻き取り方向に回転すると、駆動ローラ20が逆転方向に回転する。これにより、駆動ローラ20の下流側の経糸3bが巻き取られ、経糸3bの弛みを解消することができる。また、駆動ローラ20の回転に伴って無端ベルト53も経糸3bを巻き取る方向に動作する。よって、駆動ローラ20の周面20aと無端ベルト53の外周面とで経糸3bを挟持した状態で、当該経糸3bを巻き取ることができる。
【0118】
また、上述の如く、弛み取り機構200においては、経糸3bの巻き取りのために磁力を用いる。このため、例えば物理的な接続によるトルク付与等の場合とは異なり部材間の摩耗等の問題が発生せず、メンテナンス性や耐久性の向上を図ることができる。
【0119】
次に、図11を用いて、本発明の第七実施形態に係る経糸送り装置1の構成について説明する。
【0120】
第七実施形態に係る経糸送り装置1が、第六実施形態に係る経糸送り装置1と異なる点は、弛み取り機構200の第一磁石部210の配置が異なる点である。以下では、この相違点について説明する。
【0121】
図11に示すように、第一磁石部210は、その長手方向が第二従動ローラ52の径方向に対して傾斜した状態で設けられる。より詳細には、第一磁石部210は、S極部211がN極部212よりも外径側へ向くように設けられる。
【0122】
経糸3bの弛みが生じている場合において、第一磁石部210と第二磁石部220とが図11に示す位置関係になると、6つの第一磁石部210のうち前下部に位置する第一磁石部210cのS極部211cの磁極面は、第二磁石部220のN極部222に概ね対向する。一方、6つの第一磁石部210のうち後下部に位置する第一磁石部210dのN極部212dの磁極面は、第二磁石部220のS極部221とは対向しない。よって、第二従動ローラ52は、S極部211cとN極部222との吸着力によって、巻き取り方向に回転する。
【0123】
このようにして第二従動ローラ52が巻き取り方向に回転すると、駆動ローラ20が逆転方向に回転する。これにより、駆動ローラ20の下流側の経糸3bが巻き取られ、経糸3bの弛みを解消することができる。
【0124】
なお、第六実施形態及び第七実施形態に係る経糸送り装置1の弛み取り機構200において、回転量の比率は、駆動ローラ20:第一従動ローラ51:第二従動ローラ52=1:2:2とされる。つまり、第一磁石部210及び第二磁石部220による第二従動ローラ52の回転量は、駆動ローラ20ではその半分となる。経糸3bの1コース当りの送り量は3.5mm程度とされ、送り誤差は±0.1~0.2mm程度と見積もられる。ここで、第一磁石部210と第二磁石部220との相対的な位置関係に起因して、経糸3bの巻き取りが行われないこと(「巻き取り無し」)が起こり得る。しかしながら、1回の巻き取り量は2~3mm程度であるので、例えば10回連続で+0.2mmの「巻き取り無し」が生じたとしても、蓄積された送り誤差を1回の巻き取りで解消することができる。
【0125】
以上、本発明の第六実施形態及び第七実施形態に係る経糸送り装置1の弛み取り機構200について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内で適宜の変更が可能である。
【0126】
例えば、第六実施形態及び第七実施形態においては、第二磁石部220は、横編機2に固定されるものとしたが、第一磁石部210と同様に、ローラに磁石が周方向において互いに等間隔に設けられ、常に回転して第二従動ローラ52を巻き取り方向に回転させる力を生じさせるように構成されてもよい。但し、この力は、経糸3bを下流側へ送る際の駆動ローラ20の回転力よりも小さく設定され、経糸3bの送りの妨げにならないように設定される。
【0127】
また、第六実施形態及び第七実施形態においては、第一磁石部210は6個設けられるものとしたが、第一磁石部210の個数は任意の数とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、経糸を横編機へ送り出す経糸送り装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 経糸送り装置
2 横編機
3a 糸源リール
3b 経糸
10、60、70、80、90、100 駆動装置
11 ジャカード開口装置
11a モータ
20 駆動ローラ
30 伝達機構
31 レバー
51 第一従動ローラ
52 第二従動ローラ
53 無端ベルト
61 移動体
61a カム面
103 ラック
104 ピニオンギヤ
200 弛み取り機構
210 第一磁石部
220 第二磁石部
230 遮蔽部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11