(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置、制御方法、および制御装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20241220BHJP
F25B 41/40 20210101ALN20241220BHJP
【FI】
F25B1/00 361A
F25B1/00 371B
F25B41/40 A
(21)【出願番号】P 2023575011
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002264
(87)【国際公開番号】W WO2023139765
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】成井 貴大
(72)【発明者】
【氏名】酒井 瑞朗
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-257722(JP,A)
【文献】特開2004-187453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機を用いた冷媒回路を備える冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得する温度取得部と、
前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定する下限値決定部と
を備え
、
前記下限値決定部は、前記凝縮温度と前記蒸発温度との差が、温度差閾値よりも大きいときの前記圧縮機の運転周波数の下限値を、前記温度差閾値よりも大きくないときよりも大きくし、
前記温度差閾値は、前記蒸発温度が大きいほど、大きな値である、
冷凍サイクル装置。
【請求項2】
圧縮機を用いた冷媒回路を備える冷凍サイクル装置の制御方法であって、
前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得するステップと、
前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定するステップと
を有
し、
前記決定するステップにおいて、前記凝縮温度と前記蒸発温度との差が、温度差閾値よりも大きいときの前記圧縮機の運転周波数の下限値を、前記温度差閾値よりも大きくないときよりも大きくし、
前記温度差閾値は、前記蒸発温度が大きいほど、大きな値である、
する制御方法。
【請求項3】
冷媒回路の圧縮機を制御する制御装置であって、
前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得する温度取得部と、
前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定する下限値決定部と
を備え
、
前記下限値決定部は、前記凝縮温度と前記蒸発温度との差が、温度差閾値よりも大きいときの前記圧縮機の運転周波数の下限値を、前記温度差閾値よりも大きくないときよりも大きくし、
前記温度差閾値は、前記蒸発温度が大きいほど、大きな値である、
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷凍サイクル装置、制御方法、および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍サイクル装置には、冷凍サイクル運転中に低周波数域での圧縮機の振動を防止するために、圧縮機の吐出圧力があらかじめ設定された値を超えると、圧縮機の目標周波数を高めるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の冷凍サイクル装置においては、蒸発温度が低い運転状態については、冷凍サイクルの系内の圧力が比較的低いため、あらかじめ設定された吐出圧力を超えにくくなる。そのため、凝縮温度と蒸発温度の温度差が大きくなり、圧縮機の振動が大きくなることがあるという問題がある。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたもので、圧縮機の振動を抑制することができる冷凍サイクル装置、制御方法、および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示は上述した課題を解決するためになされたもので、本開示の一態様は、圧縮機を用いた冷媒回路を備える冷凍サイクル装置であって、前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得する温度取得部と、前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定する下限値決定部とを備える。
【0007】
また、本開示の他の一態様は、上述した冷凍サイクル装置であって、前記下限値決定部は、前記凝縮温度と前記蒸発温度との差が、温度差閾値よりも大きいときの前記圧縮機の運転周波数の下限値を、前記温度差閾値よりも小さいときよりも大きくし、前記温度差閾値は一定値である。
【0008】
また、本開示の他の一態様は、上述した冷凍サイクル装置であって、前記下限値決定部は、前記凝縮温度と前記蒸発温度との差が、温度差閾値よりも大きいときの前記圧縮機の運転周波数の下限値を、前記温度差閾値よりも小さいときよりも大きくし、前記温度差閾値は、前記蒸発温度に応じた値である。
【0009】
また、本開示の他の一態様は、上述した冷凍サイクル装置であって、前記温度差閾値は、前記蒸発温度が大きいほど、大きな値である。
【0010】
また、本開示の他の一態様は、圧縮機を用いた冷媒回路を備える冷凍サイクル装置の制御方法であって、前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得するステップと、前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定するステップとを有する。
【0011】
また、本開示の他の一態様は、冷媒回路の圧縮機を制御する制御装置であって、前記冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、前記冷媒の蒸発温度を示す値とを取得する温度取得部と、前記凝縮温度と前記蒸発温度とに基づき、前記圧縮機の運転周波数の下限値を決定する下限値決定部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の冷凍サイクル装置は、圧縮機の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この開示の第1の実施形態による冷凍サイクル装置100を概略的に示す冷媒回路図である。
【
図2】同実施形態における冷凍サイクル装置100の冷房運転時のP-h線図である。
【
図3】同実施形態における圧縮機1の運転周波数と圧縮機1の振動の関係を示すグラフである。
【
図4】同実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
【
図5】同実施形態における制御部15の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】同実施形態における制御部15の動作例を説明するタイムャートである。
【
図7】この開示の第2の実施形態における下限値決定部17の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】同実施形態における制御部15の動作例を説明するタイムャートである。
【
図9】この開示の第3の実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
【
図10】この開示の第4の実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本開示の第1の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態では、冷凍サイクル装置100として、空気調和装置が挙げられているが、冷凍サイクルを用いる装置であれば、ヒートポンプ式の給湯器など、その他の装置であってもよい。
図1は、この開示の第1の実施形態による冷凍サイクル装置100を概略的に示す冷媒回路図である。冷凍サイクル装置100は、圧縮機1と、冷暖の流れ方向を切り替える冷暖切り替え装置2と、熱源側熱交換器3と、膨張弁4と、利用側熱交換器5とを順次、配管11、12、13、14で接続した回路と、制御部15とを有している。
【0015】
冷暖切り替え装置2は、例えば四方弁で構成される。冷暖切り替え装置2は、圧縮機1の熱源側の配管11と利用側の配管14の間に接続され、圧縮機1への冷媒の流れ方向を切り替える。冷房運転では、冷暖切り替え装置2の接続が
図1中の実線の向きに接続される。これにより、圧縮機1は、利用側の配管14内の冷媒を圧縮して、熱源側の配管11に吐出する。逆に、暖房運転では、冷暖切り替え装置2の接続が
図1中の点線の向きに接続される。これにより、圧縮機1は、熱源側の配管11内の冷媒を圧縮して、利用側の配管11に吐出する。
【0016】
熱源側熱交換器3は、利用側熱交換器5に供給する熱を生成する熱源機または熱源側ユニットとして機能する。利用側熱交換器5は、熱源側熱交換器3から供給される熱を利用する負荷側ユニットとして機能する。冷房運転時には、熱源側熱交換器3は、凝縮器として機能し、利用側熱交換器5は、蒸発器として機能する。また、暖房運転時には、熱源側熱交換器3は、蒸発器として機能し、利用側熱交換器5は、凝縮器として機能する。
【0017】
熱源側熱交換器3と利用側熱交換器5それぞれの伝熱管および出口管、圧縮機1の下流側吐出配管および圧縮機1の容器表面には、冷媒の温度検知のための温度検知器が設けられている。冷媒の温度検知については、温度センサなどの温度検知器を用いるほか、凝縮器として機能する熱交換器の伝熱管温度(以下、凝縮温度)や蒸発器として機能する熱交換器の伝熱管温度(以下、蒸発温度)については温度検知器の代わりに圧力検知器を用いて、冷媒の圧力を検知し、その飽和温度を使用することで冷媒の温度を間接的に検知してもよい。
【0018】
制御部15は、圧縮機1の運転周波数を制御する。制御部15は、温度取得部16、下限値決定部17を備える。温度取得部16は、冷媒回路における冷媒の凝縮温度を示す値と、冷媒の蒸発温度を示す値とを取得する。下限値決定部17は、凝縮温度と蒸発温度とに基づき、圧縮機1の運転周波数の下限値(下限周波数)を決定する。制御部15は、例えば、設定温度と室温との差に基づき決定した運転周波数が、下限値決定部17が決定した下限値よりも小さいときは、該下限値を運転周波数としてもよい。なお、制御部15は、冷凍サイクル装置100とは独立した装置(制御装置)であってもよい。
【0019】
図2は、本実施形態における冷凍サイクル装置100の冷房運転時のP-h線図である。なお、
図2の点a~点dは、
図1の同じ記号を付した部分での冷媒の状態を示す。
【0020】
圧縮機1が運転を開始すると、低温低圧のガス冷媒が圧縮機1によって圧縮され、高温高圧のガス冷媒となって吐出される。この圧縮機1による冷媒変化では、冷媒は、圧縮機1の断熱効率の分だけ、等エントロピ線で断熱圧縮される場合と比較して加熱されるように圧縮される。このため、この冷媒変化は、
図2の点aから点bまでを結ぶ、垂直より右に傾いた線で表される。
【0021】
圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒は、冷暖切り替え装置2を通過して、熱源側熱交換器3へ流入する。熱源側熱交換器3へ流入したガス冷媒は、室外空気を加熱しながら冷却され、凝縮して中温高圧の液冷媒となる。熱源側熱交換器3内での冷媒変化は、熱源側熱交換器3内の圧力損失を考慮すると、
図2の点bから点cまでを結ぶ、水平から少し左下がりに傾いた線で表される。
【0022】
熱源側熱交換器3から流出した中温高圧の液冷媒は、膨張弁4を通り膨張、減圧され、低温低圧の気液二相流状態になる。この膨張弁通過時の冷媒変化はエンタルピーが一定のもとで行われる。このときの冷媒変化は、
図2の点cから点dまでを結ぶ、垂直線で表される。
【0023】
膨張弁4から流出した低温低圧の気液二相流状態の冷媒は、利用側熱交換器5へ流入する。利用側熱交換器5へ流入した冷媒は、室内空気を冷却しながら加熱され、低温低圧のガス冷媒となる。利用側熱交換器5での冷媒変化は、利用側熱交換器5内の圧力損失を考慮すると、
図2の点dから点aまでを結ぶ、水平から少し右に傾いた線で表される。
【0024】
利用側熱交換器5を流出した低温低圧のガス冷媒は、冷暖切り替え装置2を通って圧縮機1に流入し圧縮される。
暖房運転時においても、冷暖切り替え装置2によって冷媒回路の切替が行われ、蒸発器と凝縮器が逆転するだけで、P-h線図の動きは変わらない。
【0025】
図3は、本実施形態における圧縮機1の運転周波数と圧縮機1の振動の関係を示すグラフである。
図3において、横軸は、圧縮機1の運転周波数[Hz]であり、縦軸は、圧縮機1の振動(加振力)[gf]である。シングルロータリーなどの圧縮機においては、低周波数での運転の際は圧縮機のトルク変動による圧縮機の加振力が大きくなる。このため、
図3に示すグラフのように、圧縮機1が低周波数で運転するにつれて圧縮機1の振動の値が大きくなる傾向がある。本実施形態では、凝縮温度と蒸発温度とに基づき運転周波数の下限値は決定されるが、それらの下限値のうちの一つ(圧縮機1の下限周波数Lc)を
図3の点L1とし、もう一つ(加振力抑制用の下限周波数Lf)を、振動がピークになる前の点である点L2としている。なお、圧縮機1の下限周波数Lcは、圧縮機1保護のために設けられている圧縮機1を運転可能な周波数の下限値である。加振力抑制用の下限周波数Lfは、圧縮機1の下限周波数Lcよりも大きな値であり、圧縮機1の振動抑制を目的に設けられた圧縮機1の運転周波数の下限値である。後述するように、圧縮機1の下限周波数Lcと、加振力抑制用の下限周波数Lfのいずれを用いるかは、凝縮温度と蒸発温度に基づき決定される。
【0026】
図4は、本実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
図4において、横軸は蒸発温度[℃]であり、縦軸は凝縮温度と蒸発温度の温度差[℃]である。グラフTh1を境にして、上側は、温度差が大きいために圧縮機1の負荷が大きく、圧縮機振動が大きい領域A1となっている。また、下側は、温度差が大きくないために圧縮機1の負荷が大きくなく、圧縮機振動が小さい領域B1となっている。
【0027】
そこで、本実施形態における下限値決定部17は、冷媒の状態が領域A1にあるとき、すなわち、凝縮温度と蒸発温度の温度差が、蒸発温度に応じた温度差閾値よりも大きいときは、運転周波数の下限値として、加振力抑制用の下限周波数Lfを設定する。また、下限値決定部17は、冷媒の状態が領域B1にあるとき、すなわち、凝縮温度と蒸発温度の温度差が、蒸発温度に応じた温度差閾値より小さいときは、運転周波数の下限値として、圧縮機の下限周波数Lcを設定する。
図3で説明したように、加振力抑制用の下限周波数Lfは、圧縮機1の下限周波数Lcよりも大きい。そして、加振力抑制用の下限周波数Lfにおける圧縮機1の振動は、圧縮機の下限周波数Lcのときよりも、小さいので、冷媒の状態が領域A1にあっても、圧縮機1の振動が大きくなってしまうことを抑えることができる。
【0028】
なお、下限値決定部17は、グラフTh1に対応する温度差閾値を、蒸発温度と対応付けてテーブルにして記憶していてもよい。あるいは、下限値決定部17は、蒸発温度から温度差閾値を算出する演算式を記憶していてもよい。該演算式は、蒸発温度をいくつかの区間に分けた区間ごとに、設けられていてもよい。
【0029】
図5は、本実施形態における制御部15の動作を説明するフローチャートである。まず、制御部15の下限値決定部17は、温度取得部16が取得した凝縮温度と蒸発温度の温度差を算出する(ステップSa1)。次に、下限値決定部17は、ステップSa1で算出した温度差が、温度差閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップSa2)。下限値決定部17は、ステップSa2において温度差が温度差閾値よりも大きいと判定したときは(ステップSa2-YES)、加振力抑制用の下限周波数Lfを、運転周波数の下限値(下限周波数L)に設定し(ステップSa3)、ステップSa5に進む。また、下限値決定部17は、ステップSa2において温度差が温度差閾値よりも大きくないと判定したときは(ステップSa2-NO)、圧縮機1の下限周波数Lcを、運転周波数の下限値(下限周波数L)に設定し(ステップSa4)、ステップSa5に進む。
【0030】
ステップSa5では、制御部15は、圧縮機1の運転周波数が、ステップSa3またはステップSa4で設定された下限周波数Lよりも小さいか否かを判定する。このときの運転周波数は、例えば、室温と設定温度との差に基づき、制御部15が算出した運転周波数である。制御部15は、運転周波数が下限周波数Lよりも小さいと判定したときは(ステップSa5-YES)、下限周波数Lを運転周波数に設定し(ステップSa6)、ステップSa7に移る。制御部15は、運転周波数が下限周波数Lよりも小さくないと判定したときは(ステップSa5-NO)、運転周波数を変更せずに、そのままステップSa7に移る。
【0031】
ステップSa7では、制御部15は、圧縮機1が停止しているか否かを判定する。制御部15は、停止していると判定したときは(ステップSa7-YES)、処理を終了し、停止していないと判定したときは(ステップSa7-NO)、ステップSa1に戻る。
【0032】
図6は、本実施形態における制御部15の動作例を説明するタイムャートである。
図6の上段および下段において、横軸は時間[s]であり、上段において、縦軸は凝縮温度と蒸発温度の温度差[℃]であり、下段において、縦軸は圧縮機周波数(圧縮機1の運転周波数)である。上段には、温度差閾値Th11と、冷媒の凝縮温度と蒸発温度の温度差S1がプロットされている。また、下段には、運転周波数Fd1と、運転周波数の下限値Fm1とがプロットされている。
【0033】
時間T1より前には、温度差S1は、温度差閾値Th11よりも小さい。このため、運転周波数の下限値Fm1は、圧縮機1の下限周波数Lcとなっており、運転周波数Fd1は、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも小さい値をとることができる。ところが、時間T1から、温度差S1は、温度差閾値Th11を超えてしまうため、運転周波数の下限値Fm1は、加振力抑制用の下限周波数Lfに変更される。これに伴い、運転周波数Fd1も、加振力抑制用の下限周波数Lfに変更される。これにより、温度差S1が温度差閾値を超えており、圧縮機1への負荷が大きい状態であるときに、運転周波数が加振力抑制用の下限周波数Lfより小さくならないようにすることで、振動が大きくなることを抑制することができる。
【0034】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、温度差が温度差閾値を超えたときに、加振力抑制用の下限周波数Lfが運転周波数の下限値として用いられるようにしたが、第2の実施形態では、さらに運転周波数が加振力抑制用の下限周波数Lfより小さいときに、加振力抑制用の下限周波数Lfが運転周波数の下限値として用いる点が異なる。その他は、第1の実施形態と同様である。
【0035】
図7は、第2の実施形態における下限値決定部17の動作を説明するフローチャートである。まず、下限値決定部17は、温度取得部16が取得した凝縮温度と蒸発温度の温度差を算出する(ステップSb1)。次に、下限値決定部17は、ステップSb1で算出した温度差が、温度差閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップSb2)。下限値決定部17は、ステップSb2において温度差が温度差閾値よりも大きいと判定したときは(ステップSb2-YES)、圧縮機1の運転負荷が大きいと判定し(ステップSb3)、ステップSb5に進む。また、下限値決定部17は、ステップSb2において温度差が温度差閾値よりも大きくないと判定したときは(ステップSb2-NO)、圧縮機1の運転負荷が小さいと判定し、圧縮機1の下限周波数Lcを、運転周波数の下限値(下限周波数L)に設定し(ステップSb4)、ステップSb1に戻る。
【0036】
ステップSb5では、下限値決定部17は、圧縮機1の運転周波数が、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも小さいか否かを判定する。下限値決定部17は、ステップSb5において、運転周波数が、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも小さいと判定したときは(ステップSb5-YES)、加振力抑制用の下限周波数Lfを、運転周波数の下限値(下限周波数L)に設定し(ステップSb6)、ステップSb8に進む。また、下限値決定部17は、ステップSb5において、運転周波数が、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも小さくないと判定したときは(ステップSb5-NO)、圧縮機1の下限周波数Lcを、運転周波数の下限値(下限周波数L)に設定し(ステップSb7)、ステップSb8に進む。
【0037】
ステップSb8では、下限値決定部17は、圧縮機1が停止しているか否かを判定する。下限値決定部17は、停止していると判定したときは(ステップSb8-YES)、処理を終了し、停止していないと判定したときは(ステップSb8-NO)、ステップSb1に戻る。
【0038】
本実施形態においても、
図6と同様に、温度差S1が温度差閾値Th11を超えると、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも小さい運転周波数Fd1は、加振力抑制用の下限周波数Lfとなる。しかし、本実施形態では、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも運転周波数の方が大きい場合の動作が、第1の実施形態と異なる。
【0039】
図8は、本実施形態における制御部15の動作例を説明するタイムャートである。
図8の上段および下段において、横軸は時間[s]であり、上段において、縦軸は凝縮温度と蒸発温度の温度差[℃]であり、下段において、縦軸は圧縮機周波数(圧縮機1の運転周波数)である。上段には、温度差閾値Th12と、冷媒の凝縮温度と蒸発温度の温度差S2がプロットされている。また、下段には、運転周波数Fd1と、運転周波数の下限値Fm2とがプロットされている。
【0040】
時間T2より前には、温度差S2は、温度差閾値Th12よりも小さい。このため、運転周波数の下限値Fm2は、圧縮機1の下限周波数Lcとなっている。また、運転周波数Fd2は、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも大きい値をとなっている。そして、時間T2から、温度差S2は、温度差閾値Th12を超えてしまうが、運転周波数Fd2が、加振力抑制用の下限周波数Lfよりも大きい値であるため、運転周波数の下限値Fm2は、圧縮機1の下限周波数Lcのままであり、運転周波数Fd2は、運転周波数の下限値Fm2の影響を受けない。
【0041】
本実施形態においても、温度差S1が温度差閾値を超えており、圧縮機1への負荷が大きい状態であるときに、運転周波数が加振力抑制用の下限周波数Lfより小さくならないようにすることで、振動が大きくなることを抑制することができる。
【0042】
<第3の実施形態>
第1および第2の実施形態では、温度差閾値は、蒸発温度に応じた値であったが、第3の実施形態では、温度差閾値を、蒸発温度に依存しない一定値としている点が異なる。その他は、第1の実施形態と同じであってもよいし、第2の実施形態と同じであってもよい。
【0043】
図9は、第3の実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
図9において、横軸は蒸発温度[℃]であり、縦軸は凝縮温度と蒸発温度の温度差[℃]である。本実施形態では、圧縮機振動が大きい領域A2と、圧縮機振動が小さい領域B2との境となるグラフTh2、すなわち温度差閾値が一定値である。言い換えると、本実施形態の下限値決定部17では、運転周波数の下限値を決定する際に用いる温度差閾値が一定値となっている。これにより、蒸発温度と温度差閾値との関係を下限値決定部17は記憶する必要がなく、下限値決定部17における処理を軽減することができる。
【0044】
<第4の実施形態>
第3の実施形態では、温度差閾値は、一定値であったが、第4の実施形態では、温度差閾値を、蒸発温度が大きいほど温度差閾値が大きい点が異なる。その他は、第4の実施形態と同じである。
【0045】
図10は、第4の実施形態における冷媒の状態と圧縮機1の振動との関係を示すグラフである。
図10において、横軸は蒸発温度[℃]であり、縦軸は凝縮温度と蒸発温度の温度差[℃]である。本実施形態では、圧縮機振動が大きい領域A3と、圧縮機振動が小さい領域B3との境となるグラフTh3では、蒸発温度が大きいほど温度差閾値が大きくなっている。すなわち、本実施形態の下限値決定部17では、運転周波数の下限値を決定する際に用いる温度差閾値は、蒸発温度が大きいほど温度差閾値が大きい。
【0046】
圧縮機1の下限周波数Lcを用いるときより、加振力抑制用の下限周波数Lfを用いるときの方が、運転周波数が高くなるため、断続的に運転をすることで、室内温度を設定温度近くに維持するような運転となる可能性が高い。このような運転は、利用者が不快に感じることがある。しかし、本実施形態では、蒸発温度が大きいほど温度差閾値が大きいことにより、蒸発温度が高く、運転負荷の小さい場合において、圧縮機1の下限周波数Lcを用いる領域を広げることができ、上述のような運転になることを抑制することができる。なお、温度差閾値は、蒸発温度を変数とする一次式により算出されてもよい。これにより該一次式を記憶していればよく、下限値決定部17における処理を軽減することができる。
【0047】
なお、
図1の制御部15は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この制御部15はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、制御部15の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0048】
また、上述した
図1における制御部15の各機能ブロックは個別にチップ化してもよいし、一部、または全部を集積してチップ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず、専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。ハイブリッド、モノリシックのいずれでも良い。一部は、ハードウェアにより、一部はソフトウェアにより機能を実現させても良い。
また、半導体技術の進歩により、LSIに代替する集積回路化等の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0049】
以上、この開示の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 圧縮機
2 冷暖切り替え装置
3 熱源側熱交換器
4 膨張弁
5 利用側熱交換器
11、12、13、14 配管
15 制御部
16 温度取得部
17 下限値決定部
100 冷凍サイクル装置