(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法、及び、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/06 20060101AFI20241220BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20241220BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241220BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/86 301E
H01L29/78 652P
H01L29/78 652T
(21)【出願番号】P 2024521869
(86)(22)【出願日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2023040073
【審査請求日】2024-04-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】海老原 洪平
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-524217(JP,A)
【文献】特開2019-102747(JP,A)
【文献】特開2015-115373(JP,A)
【文献】特開2018-006631(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207449(WO,A1)
【文献】特開2022-047410(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170813(WO,A1)
【文献】特開2021-68833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L29/00-29/38
H01L29/72
H01L29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性領域と、平面視で前記活性領域を取り囲む終端領域とが定義された半導体装置であって、
炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板と、
前記終端領域の前記半導体基板の上部に選択的に設けられ、平面視で前記活性領域を取り囲む第2導電型の終端ウェル領域と、
前記終端領域の前記半導体基板の上部に選択的に設けられ、平面視で前記終端ウェル領域を取り囲むFLR領域と、
前記半導体基板上に設けられ、前記終端ウェル領域の一部及び前記FLR領域を覆うフィールド絶縁膜と、
前記フィールド絶縁膜よりも前記活性領域側の前記半導体基板上に設けられた表面電極と、
前記フィールド絶縁膜上に設けられ、前記表面電極の前記終端領域側の端部を覆う上面膜と、
前記半導体基板の裏面に設けられた裏面電極と
を備え、
前記FLR領域は、平面視で、前記終端ウェル領域を取り囲み、かつ互いに離間して入れ子状に設けられた、フローティング電位を有する複数の第2導電型のフローティングウェルを含み、
前記FLR領域は、前記FLR領域の外周側に向かうにつれて、となり合う前記フローティングウェル同士の間隔が大きくなる領域を含み、
前記表面電極を基準にして前記裏面電極に前記半導体装置の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、前記終端ウェル領域の外周端よりも前記半導体装置の外側の前記半導体基板の上面における電界強度が1MV/cm以下である、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記半導体装置の定格電圧VR[V]に対して、前記複数のフローティングウェルの数が、VR/100以上である、半導体装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の半導体装置であって、
前記終端ウェル領域の前記外周端から、前記FLR領域の外周端までの距離が、VR×0.08μm以上である、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置であって、
前記表面電極を基準にして前記裏面電極に前記半導体装置の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、前記終端ウェル領域の前記外周端よりも前記半導体装置の外側の前記上面膜の上面における電界強度が0.1MV/cm以下である、半導体装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記表面電極の外周端は、前記フィールド絶縁膜上に設けられ、平面視において前記終端ウェル領域の前記外周端よりも前記半導体装置の内側に位置する、半導体装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記フィールド絶縁膜よりも前記活性領域側の前記半導体基板上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜と
をさらに備え、
前記表面電極は、
前記層間絶縁膜を介して前記半導体基板上に設けられ、前記層間絶縁膜上で分割されたソース電極及びゲート配線電極を含み、
前記ソース電極、前記ゲート配線電極、及び、前記ゲート電極の外周端は、平面視において前記終端ウェル領域の前記外周端よりも前記半導体装置の内側に位置する、半導体装置。
【請求項7】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数のフローティングウェルの単位面積当たりの第2導電型の不純物濃度が、1.5×10
13cm
-2以上である、半導体装置。
【請求項8】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数のフローティングウェルの上面における第2導電型の不純物濃度が、1.0×10
17cm
-3以下である、半導体装置。
【請求項9】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記半導体装置のアバランシェ電圧が1.7kV以上である、半導体装置。
【請求項10】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記上面膜を覆うゲル状の封止樹脂をさらに備える、半導体装置。
【請求項11】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記上面膜を覆う熱硬化性の封止樹脂をさらに備える、半導体装置。
【請求項12】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記FLR領域を覆う前記フィールド絶縁膜の材料が酸化シリコンである、半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置であって、
前記フィールド絶縁膜は前記上面膜と接する、半導体装置。
【請求項14】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記FLR領域が、300keV以上のイオン注入エネルギーで形成される、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置を有し、入力される電力を変換して出力する変換回路と、
前記半導体装置を駆動する駆動信号を前記半導体装置に出力する駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御信号を前記駆動回路に出力する制御回路と
を備える、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、半導体装置の製造方法、及び、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイス等に用いられるショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode:SBD)などの縦型の半導体装置において、耐圧性能を確保するための様々な技術が提案されている。例えば特許文献1では、n型の半導体層の外周部である終端領域に、複数のp型半導体層からなるガードリング領域(終端ウェル領域ともいう)を設ける技術が提案されている。この構成によれば、半導体装置の主電極に逆電圧が印加されたときに半導体層の内部に生じる電界が、n型の半導体層とp型のガードリング領域との間のpn接合が形成する空乏層によって緩和される。
【0003】
一方、ガードリング領域において、半導体層の内部に生じる電界が効果的に緩和されても、半導体層の外部において高電界となることがある。そこで例えば特許文献2では、ガードリング領域をポリイミドなどの表面保護膜で覆ったり、ゲルなどの封止材で封止されたりする。このような表面保護膜及び封止材は、SBDに限らず、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)など他の半導体装置にも適用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-94433号公報
【文献】特開2013-211503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリイミドなどの表面保護膜及びゲルなどの封止材は、高湿度下において、半導体装置へ悪影響を及ぼす可能性がある水分を含みやすい。具体的には、高電界となった半導体層やその周辺の材料が水分と反応すると、酸化物などの絶縁物が生成されて表面保護膜の剥離が生じたり、表面保護膜と封止材との間の界面に水分が滞留したりする。この結果、半導体装置に通常と異なるリーク経路が形成されてしまい、半導体装置の絶縁信頼性が損なわれる可能性があるという問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、半導体装置の絶縁信頼を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体装置は、活性領域と、平面視で前記活性領域を取り囲む終端領域とが定義された半導体装置であって、炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板と、前記終端領域の前記半導体基板の上部に選択的に設けられ、平面視で前記活性領域を取り囲む第2導電型の終端ウェル領域と、前記終端領域の前記半導体基板の上部に選択的に設けられ、平面視で前記終端ウェル領域を取り囲むFLR領域と、前記半導体基板上に設けられ、前記終端ウェル領域の一部及び前記FLR領域を覆うフィールド絶縁膜と、前記フィールド絶縁膜よりも前記活性領域側の前記半導体基板上に設けられた表面電極と、前記フィールド絶縁膜上に設けられ、前記表面電極の前記終端領域側の端部を覆う上面膜と、前記半導体基板の裏面に設けられた裏面電極とを備え、前記FLR領域は、平面視で、前記終端ウェル領域を取り囲み、かつ互いに離間して入れ子状に設けられた、フローティング電位を有する複数の第2導電型のフローティングウェルを含み、前記FLR領域は、前記FLR領域の外周側に向かうにつれて、となり合う前記フローティングウェル同士の間隔が大きくなる領域を含み、前記表面電極を基準にして前記裏面電極に前記半導体装置の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、前記終端ウェル領域の外周端よりも前記半導体装置の外側の前記半導体基板の上面における電界強度が1MV/cm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、半導体装置の定格電圧VR[V]に対して、複数のフローティングウェルの数が、VR/100以上である。このような構成によれば、半導体装置の絶縁信頼を高めることができる。
【0009】
本開示の目的、特徴、局面及び利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す平面図である。
【
図3】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図4】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図5】実施の形態1に係る半導体装置のサンプルの寿命を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る半導体装置のサンプルの寿命を示す図である。
【
図7】(a)~(c)は半導体装置のサンプルの上面の外観を示す図である。
【
図8】実施の形態1に係る半導体装置でのシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】実施の形態1に係る半導体装置でのシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図11】実施の形態1に係る半導体装置での電界強度の計算結果を示す図である。
【
図12】実施の形態1に係る半導体装置での電界強度の計算結果を示す図である。
【
図13】実施の形態2に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図14】実施の形態2に係る半導体装置の構成を示す平面図である。
【
図15】実施の形態2に係る半導体装置の構成を示す部分断面図である。
【
図16】実施の形態3に係る電力変換システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。本明細書において、半導体装置の「活性領域」とは、半導体装置がオン状態のときに主電流が流れる領域であり、半導体装置の「終端領域」とは、平面視で活性領域を取り囲む領域であると定義される。また、半導体装置の「外側」とは、平面視で半導体装置の中央部から外周部へ向かう方向を意味し、半導体装置の「内側」は「外側」と逆の方向を意味する。また、不純物の導電型について、「第1導電型」がn型であり、「第2導電型」がp型であると仮定して説明するが、それとは逆に、「第1導電型」がp型であり、「第2導電型」がn型であってもよい。
【0012】
ここで、「MOS」という用語は、古くは金属-酸化物-半導体の積層構造を表すものとして用いられ、Metal-Oxide-Semiconductorの頭文字を採ったものとされている。しかしながら、特にMOS構造を有する電界効果トランジスタ(以下、単に「MOSトランジスタ」と称す)では、近年の集積化や製造プロセスの改善などの観点からゲート電極及びゲート絶縁膜の材料に、金属及び酸化物以外の材料が用いられることもある。例えば、主としてMOSトランジスタのソース及びドレインを自己整合的に形成する観点から、ゲート電極の材料には金属の代わりに多結晶シリコンが採用されることがある。また電気的特性を改善する観点から、ゲート絶縁膜には酸化物以外の高誘電率の材料が用いられることがある。
【0013】
このため、「MOS」という用語は、必ずしも金属-酸化物-半導体の積層構造のみに限定して用いられない。すなわち、技術常識に鑑みると、「MOS」は、Metal-Oxide-Semiconductorの略語が示す積層構造のみならず、広く導電体-絶縁体-半導体の積層構造をも含むものとして定義されることが多く、このことは本明細書でも同様である。
【0014】
また、以下の説明において、「~上」及び「~を覆う」と記載されていても、構成要素間に介在物が存在することは妨げられない。例えば、「A上に設けられたB」または「Aを覆うB」などと記載されていても、AとBとの間に他の構成要素が設けられる場合もあり得る。また、以下の説明では、「上」、「下」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置または方向を意味する用語が用いられることがあるが、これらの用語は、説明の便宜上用いられており、実際の使用時の方向とは関係しない。
【0015】
また、以下の説明で用いられる図面は模式的なものである。そのため、図面に示されている要素のサイズ、位置及びそれらの相互関係は、正確であるとは限らず、適宜変更され得る。また、異なる図面に示されている要素のサイズ及び位置の相互関係も、正確であるとは限らず、適宜変更され得る。
【0016】
各図面においては、他の図面に示した構成要素と同様の名称及び機能を持つ構成要素には、それと同じ参照符号を付している。そのため、先に他の図面を用いて説明した構成要素と同様の構成要素については、冗長な説明を避けるために、説明を省略することもある。
【0017】
<実施の形態1>
<装置構成>
図1は、本実施の形態1に係る半導体装置であるショットキーバリアダイオード(SBD)100の構成を示す部分断面図である。
図2は、SBD100の平面図であり、
図2のA-A線に沿った矢視断面図が
図1に相当する。
図1の左側部分は、SBD100のオン状態において主電流が流れる活性領域であり、
図1の右側部分は、SBD100の活性領域よりもSBD100の外側の領域である終端領域である。以下、活性領域に相当する領域を「内側領域RI」と記すこともあり、終端領域に相当する領域を「外側領域RO」と記すこともある。
【0018】
図1のように、本実施の形態1に係るSBD100は、単結晶基板31とその上に設けられたエピタキシャル層32とを含むエピタキシャル基板30によって構成される。単結晶基板31は、n型(第1導電型)を有する基板であり、例えば炭化珪素(SiC)から成る。エピタキシャル層32は、n型のSiCから成り、単結晶基板31上にエピタキシャル成長させた半導体層を含む。本実施の形態1に係るSBD100は、このように構成されている場合にはSiC-SBDとなる。
【0019】
本実施の形態1に係る半導体基板は、単結晶基板31とエピタキシャル層32とを含むエピタキシャル基板30であるが、これに限ったものではなく、例えば、単結晶基板31及びエピタキシャル層32のいずれか1つであってもよい。また本実施の形態1では、エピタキシャル基板30は、4Hのポリタイプを有する基板である。
図1におけるエピタキシャル基板30の上側及び下側を、それぞれ「表側」及び「裏側」と定義し、以下、エピタキシャル基板30の裏側の主面である下面を「裏面S1」、表側の主面である上面を「表面S2」と記すこともある。
【0020】
終端領域である外側領域ROのエピタキシャル層32の上部には、p型(第2導電型)の終端ウェル領域2が選択的に設けられている。活性領域である内側領域RIのn型のエピタキシャル層32は、ドリフトによって電流が流れるn型のドリフト層1を含む。ドリフト層1の不純物濃度は、単結晶基板31の不純物濃度よりも低い。そのため、単結晶基板31は、ドリフト層1に比べて低い抵抗率を有している。ドリフト層1の不純物濃度は、例えば1×1014/cm3以上1×1017/cm3以下である。
【0021】
終端ウェル領域2は、平面視で活性領域を取り囲み、外周端を有するフレーム状(リング状)の領域であり、いわゆるガードリングとして機能する。
図2では、終端ウェル領域2の外周が点線で示されている。なお、「外周端」は、終端ウェル領域2のようなリング状の構成要素の外周のうち、SBD100の外側に位置する端部である。これとは逆に、「内周端」は、終端ウェル領域2のようなリング状の構成要素の内周のうち、SBD100の内側に位置する端部である。
【0022】
本実施の形態1では
図1に示すように、終端ウェル領域2の内周端を境にして、当該境よりもSBD100の内側の部分が活性領域(つまり内側領域RI)であり、当該境よりもSBD100の外側の部分が終端領域(つまり外側領域RO)である。本実施の形態1では、外側領域ROは、平面視で内側領域RIを取り囲むフレーム状の領域であり、半導体チップの各辺に沿った直線状の領域である直線部と、異なる方向に延びる2つの直線部の間を繋ぐ曲線状の領域であるコーナー部とを有している。
【0023】
図1のように、終端領域である外側領域ROのエピタキシャル層32の上部には、平面視で終端ウェル領域2を取り囲むFLR(Field Limiting Ring)領域3が選択的に設けられている。FLR領域3は、フローティング電位を有する複数のp型のフローティングウェル3aを含む。複数のフローティングウェル3aは、終端ウェル領域2の外周側に離間して設けられており、平面視で終端ウェル領域2を取り囲み、互いに離間して入れ子状に設けられている。
【0024】
FLR領域3では、フローティングウェル3aが設けられた領域と、フローティングウェル3aが設けられていないエピタキシャル層32の領域とが、SBD100の内側から外側に向かって交互に設けられている。なお、FLR領域3の内周は、複数のフローティングウェル3aのうち最も内側のフローティングウェル3aの内周に相当し、FLR領域3の外周は、複数のフローティングウェル3aのうち最も外側のフローティングウェル3aの外周に相当する。
【0025】
FLR領域3において、
図3に示すように、フローティングウェル3a同士の間隔がSBD100の内側から外側に向かうにつれて大きくすることが望ましい。例えば、
図4に示すように、内周側から数えてx番目(x=1,2,…,n)のフローティングウェル3aと、x-1番目のフローティングウェル3aとの間隔をS
xとして、xの値が大きくなるにつれて、S
xの値が大きくなることが望ましい。
図4では、0番目のフローティングウェル3aは終端ウェル領域2に対応する。なお、必ずしも全てのS
xがxに対して単調増加しなくてもよい。
【0026】
また
図3に示すように、SBD100の内側から数えてx番目のフローティングウェル3aの幅をL
xとして、xの値が大きくなるにつれて、L
xの値が小さくなってもよく、部分的に大きくなってもよく、xの値に関わらずに同じ値としてもよい。ただし、低コスト化の観点から、S
x+L
xの値は、必要なアバランシェ電圧が得られる限りにおいて小さい方が好ましく、例えば3μmから10μmまでの値にすることが望ましい。
【0027】
エピタキシャル基板30の表面S2上には、フィールド絶縁膜4、表面電極5及び表面保護膜6が設けられている。なお、
図2の平面図では、フィールド絶縁膜4などの図示は省略されており、表面保護膜6の端部の位置、すなわち表面保護膜6の輪郭線は、実線で示されている。
【0028】
フィールド絶縁膜4は、終端ウェル領域2の一部及びFLR領域3を覆い、FLR領域3の外周端を超えて延在している。フィールド絶縁膜4の材料には、例えばSiO2、SiN等の絶縁材料が用いられ、フィールド絶縁膜4は、例えば10nm以上の厚みを有することが好ましい。例えば、フィールド絶縁膜4として、厚み1μmのSiO2膜が用いられてもよい。
【0029】
表面電極5は、フィールド絶縁膜4よりも活性領域側のエピタキシャル基板30の表面S2上に設けられており、内側領域RIにおけるエピタキシャル基板30の表面S2の少なくとも一部に設けられる。本実施の形態1では、表面電極5は、エピタキシャル基板30の表面S2上に設けられたショットキー電極5aと、ショットキー電極5a上に設けられた電極パッド5bとを含む。そして、ショットキー電極5a及び電極パッド5bの外周端は、フィールド絶縁膜4に乗り上げている。
【0030】
このように表面電極5は、フィールド絶縁膜4の上部に乗り上げている。表面電極5の外周端は、平面視において終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の内側に位置しており、終端ウェル領域2の外周端を超えてFLR領域3の上方には設けられていない。
【0031】
ショットキー電極5aは、内側領域RIのドリフト層1と、外側領域ROの終端ウェル領域2のうちフィールド絶縁膜4から露出された残部とに接している。これにより、表面電極5は、終端ウェル領域2と電気的に接続される。ショットキー電極5aの材料は、n型のSiC半導体であるドリフト層1とのショットキー接合を形成する金属であればよく、例えば、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Au(金)またはW(タングステン)等が用いられる。ショットキー電極5aの厚みは、例えば30nm以上300nm以下であることが好ましい。例えば、ショットキー電極5aとして、厚み100nmのTi膜が用いられてもよい。
【0032】
電極パッド5bの材料には、例えば、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Mo、Niのいずれか1つまたは複数を含む金属、または、Al-Si(珪素)のようなAl合金等が用いられる。電極パッド5bの厚みは、例えば300nm以上10μm以下であることが好ましい。例えば、電極パッド5bとして、厚み3μmのAl膜が用いられてもよい。
【0033】
表面保護膜6は、フィールド絶縁膜4上に設けられ、表面電極5の外側領域RO側の端部を覆う上面膜である。具体的には、表面保護膜6は、電極パッド5bの上面の端部及び端面(側面)、ならびに、ショットキー電極5aの端面(側面)を覆う。よって、電極パッド5bの上面の外周端は表面保護膜6に覆われている。
【0034】
ただし、電極パッド5bの中央部は、外部接続端子として機能できるように、表面保護膜6から露出されている。すなわち、表面保護膜6は、
図1のように、内側領域RIに、電極パッド5bの上面を露出する開口部を有している。また
図1の表面保護膜6は、フィールド絶縁膜4の外周端を完全に覆い、かつ、外側領域ROのエピタキシャル基板30の表面S2の少なくとも一部を覆っている。ただし、表面保護膜6は、FLR領域3の上側においてフィールド絶縁膜4と接するのであれば、フィールド絶縁膜4の外周端を露出してエピタキシャル基板30の表面S2と接しなくてもよい。
【0035】
表面保護膜6の材料は、例えば、外部からの応力を緩和する樹脂製の絶縁物であるポリイミド、または、封止樹脂41のゲル中に生じる外部電荷等を電極によってゲルの外部へ排出可能な高抵抗の窒化珪素(SiN)でもよい。または、表面保護膜6は、ポリイミド膜及びSiN膜を積層した多層膜でもよい。
【0036】
エピタキシャル基板30の裏面S1上には、裏面電極8が設けられている。裏面電極8の材料には、例えば、Ti、Ni、Al、Cu、Auのいずれか1つまたは複数を含む金属等が用いられる。封止樹脂41は、表面保護膜6などを覆う。封止樹脂41は、ゲル状の封止樹脂であってもよいし、熱硬化性の封止樹脂であってもよい。
【0037】
以上の構成において、FLR領域3の全体の長さ、及び、複数のフローティングウェル3aの数は、SBD100に必要な耐圧により変更される。通常、SBD100の耐圧は適用製品や適用条件により異なり、例えば1.2kVクラス、1.7kVクラス、3.3kVクラス、6.5kVクラスなどの定格電圧が定められている。SBD100の定格電圧、つまり耐圧を高くする観点からは、FLR領域3の全体の長さを長くしたり、複数のフローティングウェル3aの数を多くしたりすることが好ましい。一方、低コスト化の観点からは、可能な限りFLR領域3の全体の長さを短くしたり、複数のフローティングウェル3aの数を少なくしたりすることが好ましい。
【0038】
さて、高温高湿状態においてSBD100が使用される場合、SBD100が多少の水分を含んだ状態で高電圧が印加されることがある。発明者の調査により、このような状態で絶縁信頼性を高めるためには、通常の使用状況で取られるSBD100の構成と比べ、FLR領域3の全体の長さを長くしたり、複数のフローティングウェル3aの数を多くしたりする必要があることが分かった。
【0039】
調査結果を反映して、本実施の形態1に係るSBD100では、SBD100の定格電圧VR[V]に対して、複数のフローティングウェル3aの数がVR÷100以上、好ましくはVR÷85以上、さらに好ましくはVR÷65以上となっている。このような構成によれば、絶縁信頼性の高いSBD100が得られる。また本実施の形態1では、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さがVR×0.08μm以上、好ましくはVR×0.09μm以上、さらに好ましくはVR×0.1μm以上となっている。このような構成によれば、さらに絶縁信頼性の高いSBD100が得られる。なお、複数のフローティングウェル3aの数と、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さとの組合せを適宜変更することによって、耐圧及びコストの観点から所望のSBD100を得ることができる。
【0040】
また本実施の形態1では、表面電極5の外周端は、フィールド絶縁膜4上に設けられ、平面視において終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の内側に位置する。このような構成によれば、エピタキシャル層32の上面及び表面保護膜6の上面で高電界になることを抑制することができる。
【0041】
また本実施の形態1では、エピタキシャル基板30の材料としてSiCが用いられる。SiCは、Siより広いワイドバンドギャップを有し、SiC半導体装置は、Si半導体装置と比較して、耐圧性に優れ、許容電流密度も高く、また耐熱性も高いため高温動作も可能である。ただし、エピタキシャル基板30の材料はSiCに限定されず、特に終端領域で高電界となりやすい場合には、例えば窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)など他のワイドバンドギャップ半導体でもよい。また本実施の形態1に係る半導体装置は、SBD以外のダイオード、例えば、pn接合ダイオード、または、ジャンクションバリアショットキー(Junction Barrier Schottky:JBS)ダイオードであってもよい。
【0042】
<製造方法>
次に、本実施の形態1に係るSBD100の製造方法について説明する。
【0043】
まず、n型不純物を比較的高濃度(つまりn+)で含む低抵抗の単結晶基板31を準備する。本実施の形態1では、単結晶基板31として4Hのポリタイプを有し、4度または8度のオフ角を有するSiC基板を用いる。
【0044】
続いて、単結晶基板31上でSiCのエピタキシャル成長を行うことで、単結晶基板31上にn型のエピタキシャル層32を形成する。エピタキシャル層32のn型の不純物濃度は、単結晶基板31のn型の不純物濃度よりも低く、例えば1×1014/cm3以上1×1017/cm3以下である。これにより、単結晶基板31とエピタキシャル層32とを含むエピタキシャル基板30が形成される。
【0045】
次に、フォトリソグラフィー工程によって、エピタキシャル層32上に、終端ウェル領域2及びFLR領域3の形成領域が開口されたパターンを有するレジストマスクを形成する。そして、当該レジストマスクを注入マスクにして、例えばAlまたはB(ホウ素)などのp型不純物(アクセプタ)をエピタキシャル層32にイオン注入することにより、エピタキシャル層32の上部にp型の終端ウェル領域2を形成する。終端ウェル領域2及びFLR領域3は同時に形成することができ、p型不純物のドーズ量は、1.0×1013/cm2以上3.0×1013/cm2以下であることが好ましく、例えば2.0×1013/cm2であってもよい。または、注入マスクの形成(レジストマスクのパターニング)及びイオン注入を複数回繰り返すことで、終端ウェル領域2とFLR領域3とを別々の工程で形成してもよい。
【0046】
FLR領域3のイオン注入の注入エネルギーは、例えば、p型不純物がAlの場合、100keV以上700keV以下である。この場合、上記ドーズ量[cm-2]から換算されたフローティングウェル3aの不純物濃度のピーク値は、1×1017/cm3以上1×1019/cm3以下となる。また、300keV以上の高エネルギーで注入を行った場合、種々の製造プロセスでエピタキシャル層32の上面がエッチングされても、複数のフローティングウェル3aの上面におけるp型不純物濃度は1.0×1017cm-3以下にすることができる。
【0047】
終端ウェル領域2及びFLR領域3の形成後、熱処理装置を用いて、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガス雰囲気中で、1300℃以上1900℃以下の温度で、30秒以上1時間以下のアニールを行う。このアニールにより、イオン注入によってエピタキシャル層32に添加された不純物が活性化される。
【0048】
次に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、エピタキシャル基板30の表面S2上に、例えば厚み1μmのSiO2膜などを、フィールド絶縁膜4の材料層として形成する。そして、フォトリソグラフィー工程とエッチング工程によりフィールド絶縁膜4の材料層をパターニングすることで、フィールド絶縁膜4を形成する。このとき、フィールド絶縁膜4は、終端ウェル領域2の少なくとも一部及びFLR領域3を覆い、FLR領域3の外周端を超えて延在するようにパターニングされる。
【0049】
その後、エピタキシャル層32及びフィールド絶縁膜4上に、例えばスパッタ法により、ショットキー電極5aの材料層及び電極パッド5bの材料層をこの順に積層する。ショットキー電極5aの材料層としては、例えば、厚み100nmのTi膜が用いられ、電極パッド5bの材料層としては、例えば、厚み3μmのAl膜が用いられる。
【0050】
続いて、フォトリソグラフィー工程によって、電極パッド5bの材料層上に、表面電極5のパターンを有するレジストマスクを形成する。そして、当該レジストマスクをエッチングマスクとして、電極パッド5bの材料層及びショットキー電極5aの材料層をパターニングすることで、ショットキー電極5a及び電極パッド5bを含む表面電極5を形成する。このとき、表面電極5の外周端は、表面電極5と接続する終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の内側に位置するようにパターニングされ、FLR領域3の上方には設けられない。
【0051】
電極パッド5bの材料層及びショットキー電極5aの材料層のエッチングには、ドライエッチングまたはウェットエッチングを用いることができる。ウェットエッチングの場合、エッチング液としては、例えばフッ酸(HF)またはリン酸系のエッチング液を用いることができる。
【0052】
なお、ショットキー電極5aのパターニングと電極パッド5bのパターニングとは、別々に行われてもよい。この場合、
図1の左右方向(平面方向ともいう)における、ショットキー電極5aの端部の位置と、電極パッド5bの端部の位置とを互いにずらしてもよい。例えば、電極パッド5bの端部をショットキー電極5aの端部よりも突出させることで、電極パッド5bがショットキー電極5aを完全に覆ってもよい。または、ショットキー電極5aの端部を電極パッド5bの端部から突出させることで、ショットキー電極5aの端部が電極パッド5bに覆われなくてもよい。
【0053】
次に、フィールド絶縁膜4と、表面電極5の外側領域RO側の端部とを覆うように、エピタキシャル基板30の表面S2上に、例えば樹脂層などの表面保護膜6の材料層を形成する。この樹脂層は、例えば、感光性ポリイミドを塗布することで形成される。続いて、フォトリソグラフィー工程によって、樹脂層をパターニングすることで、表面保護膜6を形成する。このとき、外部接続端子となる表面電極5の中央部上の表面保護膜6が除去される。なお本実施の形態1では、外側領域ROにおいて、表面保護膜6が表面電極5の外側領域RO側の端部を覆い、かつ、外側領域ROのエピタキシャル基板30の少なくとも一部を覆うように、表面保護膜6の樹脂層はパターニングされる。
【0054】
なお、外側領域ROにおいて、フィールド絶縁膜4上で外周端を露出してエピタキシャル基板30の表面S2と接しないように、表面保護膜6の樹脂層がパターニングされてもよい。ただし、FLR領域3の上方において表面保護膜6とフィールド絶縁膜4とが接する構成となるように、表面保護膜6の樹脂層はパターニングされる。
【0055】
最後に、エピタキシャル基板30の裏面S1上に、例えばスパッタ法により、裏面電極8を形成することで、
図1に示したSBD100が形成される。なお、裏面電極8の形成は、ショットキー電極5aの材料層及び電極パッド5bの材料層の形成工程の前または後に行われてもよい。裏面電極8の材料には、例えばTi、Ni、Al、Cu,Auのいずれか1つまたは複数を含む金属等が用いられる。また、裏面電極8の厚みは、例えば50nm以上2μm以下であることが好ましい。例えば、裏面電極8として、厚み1μmのTi/Auの二層膜が用いられてもよい。
【0056】
<動作>
次に、本実施の形態1に係るSBD100の動作について説明する。なお、以下の説明では、終端ウェル領域2とFLR領域3とを合わせたp型領域として機能する領域を、「p型機能領域2,3」と記すこともある。
【0057】
表面電極5の電位を基準にして、裏面電極8に負の電圧が印加されると、SBD100は、表面電極5から裏面電極8に向けて電流が流れる状態、すなわち導通状態(オン状態)となる。反対に、表面電極5の電位を基準として、裏面電極8に正の電圧が印加されると、SBD100は非導通状態(オフ状態)となる。
【0058】
SBD100がオフ状態にある場合、内側領域RI(活性領域)のドリフト層1の上面付近と、ドリフト層1とp型機能領域2,3との間のpn接合の界面付近とに、大きな電界が印加される。この電界が臨界電界に達してアバランシェ降伏が起こるときの裏面電極8に印加される電圧が、SBD100の最大電圧(アバランシェ電圧)と定義される。通常、アバランシェ降伏が起こらない電圧範囲でSBD100が使用されるように、SBD100の定格電圧VR[V]が定められる。
【0059】
SBD100がオフ状態にある場合、活性領域のドリフト層1の上面と、活性領域のドリフト層1とp型機能領域2,3との間のpn接合界面とから、単結晶基板31へ向かう方向(
図1の下方向)と、ドリフト層1から外周へ向かう方向(
図1の右方向)とへ空乏層が広がる。また、ドリフト層1とp型機能領域2,3との間のpn接合界面から、p型機能領域2,3内へも空乏層が広がり、その広がり具合は、終端ウェル領域2及びフローティングウェル3aの不純物濃度に大きく依存する。すなわち、終端ウェル領域2及びフローティングウェル3aの不純物濃度を高くすると、p型機能領域2,3内での空乏層の広がりが抑制され、空乏層の先端位置は終端ウェル領域2とドリフト層1との境界に近い位置となる。
【0060】
例えば、終端ウェル領域2及びフローティングウェル3aのドーズ量を1.0×1013/cm2以上とした場合、p型機能領域2,3内で空乏層は大きく広がらず、主にFLR領域3のそれぞれのフローティングウェル3aの間に電位勾配が生じる。それぞれのフローティングウェル3aの間のエピタキシャル層32の上面においては、当該上面と垂直な方向(平面方向)に電位勾配が生じ、その電位はFLR領域3の内周から外周に向かうにつれて大きくなる。エピタキシャル層32の上面において、それぞれのフローティングウェル3aの間で最も電位勾配が大きくなる部分は、それぞれのフローティングウェル3aの外周側のpn接合の周辺部分であり、この周辺部分において高電界となる。
【0061】
しかしながら、SBD100を作製するプロセスによっては、または高電圧を印加した際に生じる電界によっては、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面付近の部分にトラップされる固定電荷が、当該部分の空乏層の広がり方に影響を与える可能性がある。このことを考慮すると、終端ウェル領域2のドーズ量は1.5×1013/cm2以上であることが望ましい。
【0062】
ここで、高湿度下でSBD100がオフ状態になった場合を考える。表面保護膜6を覆うように設けられる封止樹脂41は、水分を含有することがある。例えば、表面保護膜6がポリイミドなど高い吸湿性を有する樹脂材料からなる場合、高湿度下では表面保護膜6が多くの水分を含有し、その水分がエピタキシャル層32の上面に達するおそれがある。また例えば、表面保護膜6が高抵抗のSiNなどの材料からなる場合、プロセス中に生じる応力などによって表面保護膜6にクラックが入りやすく、クラックを通してエピタキシャル層32の上面が水分に曝されるおそれがある。これらの場合において、オフ状態のSBD100に印加される電圧により、FLR領域3のエピタキシャル層32が陽極として作用すると、特にp型の終端ウェル領域2の周辺において、Si原子と水分とによるSiO2の生成反応が生じる。次式(1)は、SiO2の生成反応を表す化学式である。
【0063】
Si+2H2O+4h+→SiO2+4H+ ・・・(1)
FLR領域3のエピタキシャル層32の上面において、このSiO2の生成反応が発生した場合、SiO2が生成された領域の上部であるフィールド絶縁膜4及び表面保護膜6が押し上げられて剥離する場合がある。この場合、SBD100に通常と異なるリーク経路が形成されてしまい、SBD100の絶縁信頼性が損なわれる可能性がある。
【0064】
発明者は、このSiO2の生成反応が、それぞれのフローティングウェル3aの間の外周側のpn接合周辺の電界に依存することを見出した。例えばECPE(European Center for Power Electronics)が定めるパワー半導体デバイスの信頼性ガイドラインであるAQG324においては、85℃、85%rhで、SBD100の定格電圧の0.8倍の電圧を長時間印加する試験が定められている。このことを考慮して、本実施の形態1では、表面電極5を基準にして裏面電極8にSBD100の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面における電界強度を1MV/cm以下になるように構成した。つまり、終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の外側のエピタキシャル基板30の上面における電界強度を1MV/cm以下になるように構成した。このような構成によれば、上述したような高温高湿環境であっても、SiO2の生成反応を著しく抑制できることを発明者は見出した。
【0065】
また、それぞれのフローティングウェル3aのドーズ量が3.0×1013/cm2よりも大きい場合、フローティングウェル3aの外周側のpn接合の周辺で正孔(h+)の供給量が大きくなり、上式(1)で表されるSiO2の生成反応が加速される場合がある。このため、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を1MV/cm以下に抑えられる場合であっても、それぞれのフローティングウェル3aのドーズ量が3.0×1013/cm2以下であることが望ましい。さらに、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の正孔(h+)の供給量を下げるため、終端ウェル領域2及びFLR領域3を形成する際のイオン注入エネルギーは300keV以上であることが望ましい。
【0066】
特に、エピタキシャル層32の上面のn型濃度が薄くなる高電圧の定格クラス、例えばアバランシェ電圧が1.7kV以上の定格クラスでは、終端ウェル領域2及びFLR領域3を形成する際のイオン注入エネルギーは500keV以上であることが望ましい。終端ウェル領域2及びFLR領域3を高エネルギーで形成することで、複数のフローティングウェル3aの上面のp型不純物濃度を1.0×1017cm-3以下にすることができるので、上式(1)で表されるSiO2の生成反応を抑制することができる。
【0067】
また、SBD100が高湿度環境にさらされる場合、応力等により剥離した半導体チップと封止樹脂41との界面に水分が滞留したり、半導体チップと封止樹脂41との界面に水分が捕獲されて滞留したりする場合がある。例えば、封止樹脂41がエポキシなどの熱硬化性材料からなる場合、封止樹脂41が水分を含むことで膨張し、半導体チップと封止樹脂41との界面で微小な剥離が起こることによって、表面保護膜6と封止樹脂41との界面に水分が滞留しやすい。また例えば、封止樹脂41がシリコーンなどのゲル状の材料からなる場合、封止樹脂41を透過した水分が表面保護膜6と封止樹脂41との界面に滞留しやすい。
【0068】
SBD100がオフ状態である場合、特に高電界となるFLR領域3の上方の表面保護膜6の上面では、滞留した水分の電離が加速され、通常と異なるリーク経路が形成されやすい。電極パッド5bのうち表面保護膜6が開口した中央部が、このリーク経路によって陰極として作用し、表面保護膜6の内周端において電極パッド5bの腐食が進行する。このため、電極パッド5bが膨張する場合に、ショットキー電極5aに割れが生じたり、表面保護膜6が表面電極5から剥離したりして、SBD100の絶縁信頼性が損なわれる可能性がある。
【0069】
発明者は、この電極パッド5bの腐食が、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界に依存することを見出した。そこで本実施の形態1では、表面電極5を基準にして裏面電極8にSBD100の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、FLR領域3上の表面保護膜6、つまり終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の外側の表面保護膜6の上面における電界強度を0.1MV/cm以下になるように構成した。この構成によれば、信頼性ガイドラインに規定された高温高湿環境においても、表面保護膜6と封止樹脂41との界面におけるリーク経路の形成を抑制でき、表面保護膜6から露出された電極パッド5bの腐食を抑制できることを発明者は見出した。つまり、SBD100の絶縁信頼性を高めることができることを発明者は見出した。
【0070】
このようなFLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度、または、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度は、フローティングウェル3aの数、及び、FLR領域3の全体の幅のうち少なくともいずれか一方に依存する。なお本明細書において、例えばA、B、C、…、及び、Zの少なくともいずれか一方とは、A、B、C、…、及び、Zのグループから1種類以上抜き出した全ての組合せのうちのいずれか1つであることを意味する。
【0071】
ここで、終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の外側のエピタキシャル基板30の上面における電界強度が1MV/cm以下であり、終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の外側の表面保護膜6の上面における電界強度が0.1MV/cm以下であることによって、SBD100の絶縁信頼性を高めることができることについて説明する。
【0072】
図5は、高温高湿下で電界が異なる条件A~Cのそれぞれについて5つのSBD100のサンプルに電圧印加し、それによって得られた測定結果にワイブル分布を用いて故障確率が50%となる時間を求めた結果を示す図である。
図6は、条件A~Cの故障確率が50%となる時間のグラフを示す図である。
【0073】
図5に示すように、SiC表面電界(つまりエピタキシャル基板30の上面における電界強度)の差異と、保護膜表面電界(つまり表面保護膜6の上面における電界強度)の差異とによって、寿命(つまり故障確率が50%となる時間)に差異が見られる。
【0074】
例えば
図5において、SiC表面電界が1MV/cmよりも大きい条件A,Bの寿命と、SiC表面電界が1MV/cmよりも小さい条件Cの寿命との比較から、SiC表面電界が1.0MV/cm以下になると、寿命が延びていることが分かる。また
図6の曲線はデータの目安を示す。
図6で示すように、SiC表面電界を1.0MV/cm以下に抑えると故障50%の時間が顕著に長くなる、つまり寿命が延びると考えられる。このことを拡張すると、SiC表面電界が1MV/cm、0.9MV/cm、0.8MV/cmになるにつれて、寿命が延びると考えられる。
【0075】
また例えば
図5において、保護膜表面電界が0.1MV/cmよりも大きい条件A,Bの寿命と、保護膜表面電界が0.1MV/cmよりも小さい条件Cの寿命との比較から、保護膜表面電界が0.1MV/cm以下になると、寿命が延びていることが分かる。このことを拡張すると、保護膜表面電界が0.1MV/cm、0.09MV/cm、0.08MV/cmになるにつれて、寿命が延びると考えられる。
【0076】
図7(a)は、SiC表面電界が1.1MV/cmである条件Bの電界で、753時間印加されたサンプルの上面の外観を示す図である。
図7(b)は、SiC表面電界が0.9MV/cmである条件Cの電界で、2166時間印加されたサンプルの上面の外観を示す図である。
図7(c)は、SiC表面電界が0.8MV/cmの電界で、939時間印加されたサンプルの上面の外観を示す図である。
図7(a)の外観と、
図7(b)及び(c)の外観との比較から、SiC表面電界が1.0MV/cm以下になると、エピタキシャル層32の上面におけるSiO
2の生成反応によるFLR領域3の劣化が抑制されている。このようなFLR領域3の劣化の抑制によって寿命が延びると考えられる。
【0077】
なお本実施の形態1では、FLR領域3のエピタキシャル層32の表面の電界強度を1MV/cm以下に抑えるために、フローティングウェル3aの数は、定格電圧よりも高いアバランシェ電圧が実現される範囲で多くなるように構成される。この構成では、FLR領域3のエピタキシャル層32の内部における電界強度を低減すること、つまりアバランシェ電圧を高くすることには実質的には寄与しないが、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を低減することができる。なお、低コスト化の観点からは、フローティングウェル3aの数は、SBD100の定格電圧よりも高いアバランシェ電圧が実現される範囲で少なくすることが望ましい。
【0078】
また本実施の形態1では、フローティングウェル3aの数がある程度多く、フローティングウェル3aの単位面積当たりのp型の不純物濃度、つまりドーズ量が1.0×1013cm-2以上、好ましくは1.5×1013cm-2以上となっている。このような構成によれば、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度のピーク値は、それぞれのフローティングウェル3aの間隔Sx及び幅Lxによりほとんど変化せず、電界強度のピーク位置のみ変化する。具体的には、電界強度のピーク位置は、ドーズ量を大きくするとFLR領域3の外周寄りに移動し、ドーズ量を小さくするとFLR領域3の内周寄りに移動する。また、電界強度のピーク位置は、それぞれのフローティングウェル3aの間隔Sxが小さい場合にはFLR領域3の外周寄りに移動し、間隔Sxが大きい場合にはFLR領域3の内周寄りに移動する。
【0079】
図8は、上述した種々の問題が特に発生しやすい高電圧の定格クラス(例えばアバランシェ電圧が1.7kV以上)のSBD100に関して、3.3kVクラスの半導体チップのTCADシミュレーション結果を示す図である。
図8のようにフローティングウェル3aの数が33(=3.3kV(定格電圧VR)÷100)以上であれば、定格電圧VRの0.8倍の電圧印加時のFLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を1MV/cm以下に抑制できる。同様に、フローティングウェルの数が39(=3.3kV(定格電圧VR)÷85)以上であれば、上記電界強度を0.9MV/cm以下に抑制できる。フローティングウェルの数が51(=3.3kV(定格電圧VR)÷65)以上であれば、上記電界強度を0.8MV/cm以下に抑制できる。
【0080】
図9は、6.5kVクラスの半導体チップのTCADシミュレーション結果を示す図である。
図9のようにフローティングウェル3aの数が65(=6.5kV(定格電圧VR)÷100)以上であれば、定格電圧VRの0.8倍の電圧印加時のFLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を1MV/cm以下に抑制できる。図示されていないが、フローティングウェルの数が、77(=6.5kV(定格電圧VR)÷85)以上であれば、上記電界強度を0.9MV/cm以下に抑制でき、100(=6.5kV(定格電圧VR)÷65)以上であれば、上記電界強度を0.8MV/cm以下に抑制できる。
【0081】
以上のことを考慮すると、定格電圧VR[V]に対して、フローティングウェル3aをVR÷100以上とすることで、定格電圧VRの0.8倍の電圧印加時のFLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を1MV/cm以下に抑制できる。この結果、絶縁信頼性の高いSBD100を得ることができる。
【0082】
なお、実使用上では、定格電圧VR[V]×0.8以上の電圧が、表面電極5を基準にして裏面電極8に印加される場合もある。この場合でも、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面におけるSiO2の生成反応を抑制できるように、フローティングウェル3aの数は、VR÷80以上であることが好ましく、VR÷65以上であることがさらに好ましい。
【0083】
一方、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えるためには、FLR領域3の幅が重要になる。表面保護膜6の上面においては、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度分布が均されたような電界強度分布を持つ。特に、表面保護膜6の上面において、
図10に示すような矩形の電界強度分布を持つ場合には、電界強度を最小にすることができる。
【0084】
表面保護膜6の表面における電界強度の理論上の最小値Eは、表面電極5に対して裏面電極8に印加した電界をVとした場合、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さWFLRに対してE=V/WFLRが成り立つ。なお、長さWFLRは、FLR領域3の幅に対応する。
【0085】
図11は、3.3kVクラスのSBD100に定格電圧VR[V]×0.8の電圧(2640V)が印加される場合の電界強度の計算結果を示す図である。
図11に示すように、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えるためには、理論上、長さW
FLRを264μm、つまり定格電圧VR[V]×0.08μm以上とすればよい。
【0086】
図12は、6.5kVクラスのSBD100に定格電圧VR[V]×0.8の電圧(5200V)が印加される場合の電界強度の計算結果を示す図である。
図12に示すように、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えるためには、理論上、長さW
FLRを520μm、つまり定格電圧VR[V]×0.08μm以上とすればよい。
【0087】
以上のことを考慮すると、FLR領域3の上方における表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えるためには、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さW
FLRを、定格電圧VR×0.08μm以上とすればよい。ここで
図11及び
図12のプロット部分から、長さW
FLRが定格電圧VR×0.09μm以上の場合には電界強度を0.09MV/cm以下に低減でき、長さW
FLRが定格電圧VR×0.1μm以上の場合には電界強度を0.08MV/cm以下に低減できることが分かる。
【0088】
FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面において、フローティングウェル3aの数を増やしたり、またフローティングウェル3aの幅Lxの値を大きくしたりすることで、電界強度を小さくすることが可能である。一方、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面では、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度分布が平滑化されたような分布となるため、FLR領域3の上部の表面保護膜6の上面のある位置で電界強度分布にピークを持つことになる。
【0089】
このため、長さWFLRは、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えるための理論上必要な距離よりも長くすればよい。つまり、長さWFLRは、VR[V]×0.08μmとすればよく、好ましくはVR×0.09μm以上、さらに好ましくはVR×0.1μm以上とすればよい。このような構成によれば、高温高湿環境においても電極パッド5bの中央部の表面保護膜6が開口した領域における電極パッド5bの腐食反応を抑制することができる。
【0090】
また、表面電極5が、終端ウェル領域2を超えて外周に突出する構成では、FLR領域3の上方において低電位となる箇所が生じる。このため、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面、及び、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度が上昇してしまうことがある。これに対して本実施の形態1では、表面電極5の外周端は、平面視において終端ウェル領域2の外周端よりもSBD100の内側に位置するので、電界強度の上昇を抑制することができる。
【0091】
<本実施の形態1のまとめ>
以上のように、本実施の形態1に係るSBD100によれば、高温高湿環境で高電圧を印加した際の通常とは異なるリーク経路の形成を抑制することができるので、SBD100の絶縁信頼性を高めることができる。
【0092】
<実施の形態2>
<装置構成>
図13は、本実施の形態2に係る半導体装置であるMOSFET200の構成を示す部分断面図である。
図14は、MOSFET200の平面図であり、
図14のB-B線に沿った矢視断面図が
図13に相当する。また、
図15は、活性領域である内側領域RIに設けられるMOSFET200の最小単位構造であるユニットセルUCの構成を示す断面図である。MOSFET200の内側領域RIには、
図15に示すユニットセルUCが複数配列されており、
図13の左端部分には最外周のユニットセルUCが示されている。なお、
図13~
図15においては、
図1及び
図2に示した実施の形態1に係るSBD100の構成要素と同一の機能を有する要素には、それと同一の符号が付されており、以下では実施の形態1と重複する説明は省略する。
【0093】
図13の本実施の形態2に係るMOSFET200を構成する半導体基板は、実施の形態1と同様に、単結晶基板31とエピタキシャル層32とを含むエピタキシャル基板30である。
【0094】
活性領域である内側領域RIのエピタキシャル層32の上部には、p型(第2導電型)の素子ウェル領域9が選択的に設けられている。素子ウェル領域9の上部には、n型のソース領域11と、素子ウェル領域9よりもp型の不純物濃度が高いp型のコンタクト領域19とが選択的に設けられている。
【0095】
終端領域である外側領域ROのエピタキシャル層32の上部には、平面視で活性領域を取り囲むp型の境界領域20が選択的に設けられている。境界領域20の内周端は、内側領域RIと外側領域ROとの境界に対応している。境界領域20は、p型の不純物濃度が比較的低い低濃度部20aと、低濃度部20aの上部に選択的に設けられ、p型の不純物濃度が比較的高い高濃度部20bとを含む。なお、高濃度部20bの導電型はp型に限らず、n型であってもよい。
【0096】
終端領域である外側領域ROのエピタキシャル層32の上部には、平面視で境界領域20を取り囲むp型(第2導電型)の終端ウェル領域2が選択的に設けられている。なお、終端ウェル領域2のp型の不純物濃度は、境界領域20のp型の不純物濃度よりも低い。
【0097】
活性領域である内側領域RIのn型のエピタキシャル層32のうち、素子ウェル領域9、ソース領域11及びコンタクト領域19を除く部分は、ドリフトによって電流が流れるドリフト層1を含む。このドリフト層1は、実施の形態1で説明したドリフト層1と同様である。
【0098】
終端ウェル領域2は、実施の形態1と同様に、平面視で活性領域を取り囲み、外周端を有するフレーム状(リング状)の領域であり、いわゆるガードリングとして機能する。
図14では、終端ウェル領域2の外周が点線で示されている。
【0099】
図13のように、終端領域である外側領域ROのエピタキシャル層32の上部には、実施の形態1と同様に、平面視で終端ウェル領域2を取り囲むFLR領域3が選択的に設けられている。FLR領域3は、実施の形態1と同様に、フローティング電位を有する複数のp型のフローティングウェル3aを含む。フローティングウェル3aの間隔及び幅は、実施の形態1で説明した間隔S
x及び幅L
xと同様であってもよい。
【0100】
活性領域のエピタキシャル基板30の表面S2上、つまりフィールド絶縁膜4よりも活性領域側のエピタキシャル基板30上には、ソース領域11、素子ウェル領域9及びドリフト層1に跨がるゲート絶縁膜12が設けられている。そして、ゲート絶縁膜12の上には、ゲート電極13が設けられている。ゲート絶縁膜12及びゲート電極13で覆われた素子ウェル領域9の上部のうち、ソース領域11とドリフト層1との間の部分は、MOSFET200がオンしたときに反転チャネルが形成されるチャネル領域である。
【0101】
層間絶縁膜14はゲート電極13を覆い、ソース電極51が層間絶縁膜14の上に設けられている。ソース電極51とゲート電極13との間は、層間絶縁膜14によって電気的に絶縁されている。ソース電極51は、層間絶縁膜14に設けられたコンタクトホールを通してソース領域11及びコンタクト領域19に電気的に接続されている。ソース電極51とコンタクト領域19とはオーミックコンタクトを形成している。エピタキシャル基板30の裏面S1上には、ドレイン電極として機能する裏面電極8が形成されている。
【0102】
図13のように、ゲート絶縁膜12、ゲート電極13、層間絶縁膜14及びソース電極51の一部は、内側領域RIと外側領域ROとの境界を越えて、外側領域ROまで延在しており、内側領域RIと外側領域ROとに跨って設けられている。外側領域ROに設けられたソース電極51は、層間絶縁膜14に設けられたコンタクトホールを通して、境界領域20の高濃度部20bとオーミックコンタクトまたはショットキーコンタクトを形成するように電気的に接続されている。また、外側領域ROに設けられたゲート電極13は、ゲート絶縁膜12を介して境界領域20の高濃度部20b上に配設され、高濃度部20bと同様に平面視でフレーム状に延在する。
【0103】
終端領域のエピタキシャル基板30の表面S2上には、内側領域RIと外側領域ROとに跨って設けられた上記構成要素以外に、フィールド絶縁膜4、ゲート配線電極52及び表面保護膜6が設けられている。なお、
図14の平面図では、フィールド絶縁膜4などの図示は省略されており、表面保護膜6の端部の位置、すなわち表面保護膜6の輪郭線は、実線で示されている。
【0104】
フィールド絶縁膜4は、実施の形態1と同様に、終端ウェル領域2の一部をとFLR領域3を覆い、FLR領域3の外週端を超えて延在している。ゲート配線電極52は、外側領域ROに設けられたゲート電極13を覆う層間絶縁膜14上に設けられている。また、ゲート配線電極52は、層間絶縁膜14に設けられたコンタクトホールを通してゲート電極13に電気的に接続されている。ゲート配線電極52は、ソース電極51と裏面電極8との間の電気的経路を制御するためのゲート信号(制御信号)を受ける電極として機能する。ゲート配線電極52は、ソース電極51とは離間されており、電気的にソース電極51と絶縁されている。
【0105】
ゲート配線電極52は、外側領域ROに設けられたゲート電極13と同様に、平面視でフレーム状に延在している。本実施の形態2では、ゲート配線電極52は、
図14のように、ソース電極51を取り囲むゲート配線52wと、略矩形のソース電極51の一辺である直線部分に設けられた凹部に入り込むように設けられたゲートパッド52pとを含む。ゲート配線52wとゲートパッド52pとは互いに接続されている。
図13に示されているゲート配線電極52は、
図14のゲート配線52wに対応する。ゲートパッド52pは、ゲート信号を入力するための外部接続端子として機能する。なお、
図14においては、ゲートパッド52pは、略矩形のソース電極51の直線部に設けられているが、コーナー部に設けられてもよい。
【0106】
本実施の形態2に係る表面電極5は、ソース電極51及びゲート配線電極52を含む。ソース電極51及びゲート配線電極52は、層間絶縁膜14を介してエピタキシャル基板30上に設けられており、層間絶縁膜14上で分割されている。表面電極5は、フィールド絶縁膜4よりも活性領域側のエピタキシャル基板30の表面S2上に設けられており、内側領域RIにおけるエピタキシャル基板30の表面S2の少なくとも一部に設けられる。表面電極5は、内側領域RIの全体に亘って設けられており、その一部は内側領域RIと外側領域ROとの境界を越えて、外側領域ROまで延在している。また、表面電極5の一部は、層間絶縁膜14に乗り上げるように設けられている。
【0107】
図13の例では、フィールド絶縁膜4の内周端が層間絶縁膜14の外周端に接しており、ゲート電極13及び表面電極5がフィールド絶縁膜4の内周端よりもMOSFET200の内側に設けられている。しかしながら、層間絶縁膜14、ゲート電極13及び表面電極5は、フィールド絶縁膜4に乗り上げるように設けられてもよい。そして、ソース電極51は、層間絶縁膜14及びフィールド絶縁膜4の両方を貫通するコンタクトホールを通して、境界領域20の高濃度部20bと接続されてもよい。ただし、表面電極5及びゲート電極13の外周端は、平面視において終端ウェル領域2の外周端よりもMOSFET200の内側に位置しており終端ウェル領域2の外周端を超えてFLR領域3の上方には設けられない。
【0108】
表面保護膜6は、フィールド絶縁膜4上に設けられ、表面電極5の外側領域RO側の端部を覆う上面膜である。本実施の形態2では、表面保護膜6は、ソース電極51及びゲート配線電極52を覆い、かつ、外側領域ROのエピタキシャル基板30の表面S2の少なくとも一部を覆っている。表面保護膜6は、
図14のように、ソース電極51の中央部上及びゲートパッド52pの中央部上に、それぞれ開口を有している。これにより、ソース電極51及びゲートパッド52pは、それぞれ外部接続端子として機能する。
【0109】
以上の構成において、FLR領域3の全体の長さ、及び、複数のフローティングウェル3aの数は、実施の形態1と同様に半導体装置に必要な耐圧により変更される。つまり本実施の形態2に係るMOSFET200においては、MOSFET200の定格電圧VR[V]に対して、複数のフローティングウェル3aの数がVR÷100以上、好ましくはVR÷85以上、さらに好ましくはVR÷65以上となっている。このような構成によれば、絶縁信頼性の高いMOSFET200が得られる。
【0110】
また本実施の形態2では、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さがVR×0.08μm以上、好ましくはVR×0.09μm以上、さらに好ましくはVR×0.1μm以上となっている。このような構成によれば、さらに絶縁信頼性の高いMOSFET200が得られる。
【0111】
なお本実施の形態2では、実施の形態1と同様にエピタキシャル基板30の材料として例えばSiCが用いられる。また本実施の形態2に係る半導体装置は、MOSFET以外のトランジスタ、例えば、JFET(Junction FET)、または、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。さらに、本実施の形態2に係る半導体装置は、プレーナ型のトランジスタであるが、トレンチ型のトランジスタであってもよい。
【0112】
<製造方法>
次に、本実施の形態2に係るMOSFET200の製造方法について説明する。まず、実施の形態1と同様に、単結晶基板31及びエピタキシャル層32を含むエピタキシャル基板30を形成する。
【0113】
それから、レジストマスクを形成するフォトリソグラフィー工程と、レジストマスクを注入マスクとして用いるイオン注入によってエピタキシャル層32の上部に不純物領域を形成するイオン注入工程とを繰り返す。これによって、エピタキシャル層32に、終端ウェル領域2、FLR領域3、素子ウェル領域9、ソース領域11、コンタクト領域19及び境界領域20を形成する。n型不純物としては例えばN(窒素)等が用いられ、p型不純物としては例えばAlまたはB等が用いられる。終端ウェル領域2と、FLR領域3とは、同一のイオン注入工程で一括して形成されてもよい。素子ウェル領域9と、境界領域20の低濃度部20aとは、同一のイオン注入工程で一括して形成されてもよい。また、コンタクト領域19と、境界領域20の高濃度部20bとは、同一のイオン注入工程で一括して形成されてもよい。
【0114】
素子ウェル領域9と、境界領域20の低濃度部20aとの不純物濃度は、例えば1.0×1018/cm3以上1.0×1020/cm3以下であることが好ましい。ソース領域11と、コンタクト領域19と、境界領域20の高濃度部20bとの不純物濃度は、素子ウェル領域9の不純物濃度よりも高く、例えば1.0×1019/cm3以上1.0×1021/cm3以下であることが好ましい。
【0115】
FLR領域3のp型不純物のドーズ量及び形成条件は、実施の形態1に係るFLR領域3のp型不純物のドーズ量及び形成条件と同様である。n型不純物としてNの不純物を注入する場合、イオン注入の注入エネルギーは、例えば20keV以上300keV以下であることが好ましい。その後、熱処理装置を用い、例えば1500℃以上の温度でアニールが行われる。これにより、イオン注入によってエピタキシャル層32に添加された不純物が活性化される。
【0116】
次に、例えばCVD法により、エピタキシャル基板30の表面S2上に、例えば厚み0.5μm以上2μm以下のSiO2膜などを、フィールド絶縁膜4の材料層として形成し、当該材料層をパターニングすることでフィールド絶縁膜4を形成する。フィールド絶縁膜4は、終端ウェル領域2の少なくとも一部及びFLR領域3を覆い、FLR領域3の外周端を超えて延在するようにパターニングされる。
【0117】
続いて、フィールド絶縁膜4に覆われていないエピタキシャル層32の表面を熱酸化することによって、ゲート絶縁膜12として例えばSiO2膜を形成する。そして、ゲート絶縁膜12上に、例えば導電性を有する多結晶珪素膜を減圧CVD法により形成し、フォトリソグラフィー工程とエッチング工程とによって多結晶珪素膜をパターニングすることでゲート電極13を形成する。このとき、ゲート電極13は、フィールド絶縁膜4上に乗り上げるように形成されてもよい。
【0118】
その後、CVD法により層間絶縁膜14として例えばSiO2膜を形成する。そして、フォトリソグラフィー工程とエッチング工程とによってゲート絶縁膜12及び層間絶縁膜14を貫通し、コンタクト領域19、ソース領域11及び境界領域20の高濃度部20bのそれぞれに達するコンタクトホールを形成する。また、終端領域において、層間絶縁膜14を貫通してゲート電極13に達するコンタクトホールを形成し、フィールド絶縁膜4上の層間絶縁膜14と、フィールド絶縁膜4の外周側の層間絶縁膜14とを除去する。
【0119】
次に、スパッタ法または蒸着法などにより、エピタキシャル基板30の表面S2上に表面電極5の材料層を形成する。また、表面電極5と同様に、エピタキシャル基板30の裏面S1上に裏面電極8の材料層を形成する。表面電極5の材料には、例えば、Ti、Ni、Al、Cu、Auの少なくともいずれか1つを含む金属、または、Al-SiのようなAl合金等が用いられる。裏面電極8の材料には、例えば、Ti、Ni、Al、Cu、Auのいずれか1つまたは複数を含む金属等が用いられる。なお、エピタキシャル基板30のうち、表面電極5または裏面電極8と接する部分に、予め熱処理によってシリサイド膜が形成されてもよい。なお、裏面電極8の形成は、全ての工程の最後に行われてもよい。
【0120】
次に、フォトリソグラフィー工程とエッチング工程とによって、表面電極5の材料層をパターニングして、分離されたソース電極51とゲート配線電極52とを形成する。
【0121】
最後に、フィールド絶縁膜4と、表面電極5の外側領域RO側の端部とを覆う表面保護膜6を形成する。表面保護膜6は、例えば、感光性ポリイミドの塗布及び露光によって、所望の形状で形成される。本実施の形態2では、外側領域ROにおいて、表面保護膜6が表面電極5の外側領域RO側の端部を覆い、かつ、外側領域ROのエピタキシャル基板30の少なくとも一部を覆うように、表面保護膜6を形成する。以上によって、
図13に示したMOSFET200が形成される。
【0122】
<動作>
次に、本実施の形態2に係るMOSFET200の動作を、2つの状態に分けて説明する。なお、以下の説明では、終端ウェル領域2と、FLR領域3とを合わせたp型領域として機能する領域をp型機能領域2,3と記す。
【0123】
第1の状態は、ゲート電極13に閾値電圧以上の正の電圧が印加されている状態であり、以下、この状態を「オン状態」と記す。MOSFET200がオン状態であるときは、チャネル領域に反転チャネルが形成される。反転チャネルは、キャリアである電子がソース領域11とドリフト層1との間を流れるための経路となる。ソース電極51の電位を基準にして裏面電極8に高い電圧が印加されると、オン状態になり、単結晶基板31及びドリフト層1を通る電流が流れる。このときソース電極51と裏面電極8との間の電圧は「オン電圧」と呼ばれ、ソース電極51と裏面電極8との間を流れる電流は「オン電流」と呼ばれる。オン電流は、チャネルが存在する活性領域のみを流れ、終端領域には流れない。
【0124】
第2の状態は、ゲート電極13に閾値電圧未満の電圧が印加されている状態であり、以下、この状態を「オフ状態」と記す。MOSFET200がオフ状態であるときは、チャネル領域に反転チャネルが形成されないため、オン電流は流れない。よって、ソース電極51と裏面電極8との間に高電圧が印加されると、この高電圧は維持される。このとき、ゲート電極13とソース電極51との間の電圧は、ソース電極51と裏面電極8との間の電圧に対して非常に小さいので、ゲート電極13と裏面電極8との間に高電圧が印加されることになる。
【0125】
オフ状態では、終端領域においても、ゲート配線電極52及びゲート電極13と、裏面電極8との間に、高電圧が印加される。ただし、活性領域において素子ウェル領域9とソース電極51との電気的コンタクトが形成されているのと同様に、終端領域においては境界領域20とソース電極51との電気的コンタクトが形成されている。このため、ゲート絶縁膜12及び層間絶縁膜14に高電界が印加されることが抑制される。
【0126】
MOSFET200の終端領域は、実施の形態1で説明したSBD100のオフ状態と同様に機能する。つまり、ドリフト層1とp型機能領域2,3との間のpn接合の界面付近に大きな電界が印加される。この電界が臨界電界に達してアバランシェ降伏が起こるときに裏面電極8に印加される電圧が、MOSFET200の最大電圧(アバランシェ電圧)と定義される。通常、アバランシェ降伏が起こらない電圧範囲でMOSFET200が使用されるように、MOSFET200の定格電圧VR[V]が定められる。
【0127】
MOSFET200がオフ状態にある場合、活性領域のドリフト層1と、素子ウェル領域9、境界領域20、及び、p型機能領域2,3との間のpn接合界面から、単結晶基板31へ向かう方向(
図13の下方向)と、ドリフト層1の外周へ向かう方向(
図13の右方向)とへ空乏層が広がる。このように、MOSFET200がオフ状態では、実施の形態1で説明したSBD100のオフ状態と同様に空乏層が広がり、それぞれのフローティングウェル3aの外周側のpn接合の周辺部分において高電界となる。そして、特にp型の終端ウェル領域2の周辺において、上式(1)の化学式で表されるSi原子と水分とによるSiO
2の生成反応が生じる。
【0128】
そこで本実施の形態2でも実施の形態1と同様に、表面電極5を基準にして裏面電極8にMOSFET200の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面における電界強度を1MV/cm以下になるように構成した。つまり、終端ウェル領域2の外周端よりもMOSFET200の外側のエピタキシャル基板30の上面における電界強度を1MV/cm以下になるように構成した。このような構成によれば、実施の形態1と同様に高温高湿環境であっても、SiO2の生成反応を著しく抑制できることを発明者は見出した。
【0129】
なお、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面の正孔(h+)の供給量を下げるため、終端ウェル領域2及びFLR領域3を形成する際のイオン注入エネルギーは300keV以上であることが望ましい。
【0130】
特に、エピタキシャル層32の上面のn型濃度が薄くなる高電圧の定格クラス、例えばアバランシェ電圧が1.7kV以上の定格クラスでは、終端ウェル領域2及びFLR領域3を形成する際のイオン注入エネルギーは500keV以上であることが望ましい。終端ウェル領域2及びFLR領域3を高エネルギーで形成することで、複数のフローティングウェル3aの上面のp型不純物濃度を1.0×1017cm-3以下にすることができるので、上式(1)で表されるSiO2の生成反応を抑制することができる。
【0131】
また、MOSFET200が高湿度環境にさらされる場合、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面では、滞留した水分の電離が加速され、通常と異なるリーク経路が形成されやすい。このため、表面保護膜6の内周端にて表面電極5の腐食が進行して、MOSFET200の絶縁信頼性が損なわれる可能性がある。
【0132】
そこで本実施の形態2では、表面電極5を基準にして裏面電極8にMOSFET200の定格電圧VR[V]の0.8倍の電圧を印加した際に、FLR領域3上の表面保護膜6、つまり終端ウェル領域2の外周端よりもMOSFET200の外側の表面保護膜6の上面における電界強度を0.1MV/cm以下になるように構成した。この構成によれば、信頼性ガイドラインに規定された高温高湿環境においても、表面保護膜6と封止樹脂41との界面におけるリーク経路の形成、及び、電極パッド5bの腐食を抑制でき、MOSFET200の絶縁信頼性を高めることができることを発明者は見出した。
【0133】
また本実施の形態2では、実施の形態1と同様に、フローティングウェル3aの数がある程度多く、フローティングウェル3aの単位面積当たりのp型の不純物濃度、つまりドーズ量が1.0×1013cm-2以上、好ましくは1.5×1013cm-2以上となっている。
【0134】
また本実施の形態2に係るMOSFET200においても、実施の形態1に係るSBD100と同様に、
図8及び
図9の結果が得られる。このため、フローティングウェル3aの数が定格電圧VR[V]÷100以上であれば、定格電圧VRの0.8倍の電圧印加時のFLR領域3のエピタキシャル層32の上面の電界強度を1MV/cm以下に抑制できる。同様に、フローティングウェルの数が、定格電圧VR[V]÷85以上であれば、上記電界強度を0.9MV/cm以下に抑制でき、定格電圧VR[V]÷65以上であれば、上記電界強度を0.8MV/cm以下に抑制できる。
【0135】
また本実施の形態2に係るMOSFET200においても、実施の形態1に係るSBD100と同様に、
図11及び
図12の結果が得られる。このため、終端ウェル領域2の外周端からFLR領域3の外周端までの長さW
FLRが定格電圧VR[V]×0.08μm以上であれば、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度を0.1MV/cm以下に抑えることができる。同様に、長さW
FLRが、定格電圧VR[V]×0.09μm以上であれば、上記電界強度を0.09MV/cm以下に抑えることができ、定格電圧VR[V]×0.1μm以上であれば、上記電界強度を0.08MV/cm以下に抑えることができる。
【0136】
なお、ゲート電極13は、フィールド絶縁膜4上に乗り上げてもよいが、ゲート電極13が、終端ウェル領域2を超えて外周に突出する構成では、FLR領域3の上方において低電位となる箇所が生じる。このため、FLR領域3のエピタキシャル層32の上面、及び、FLR領域3の上方の表面保護膜6の上面の電界強度が上昇してしまうことがある。これに対して本実施の形態2では、ゲート電極13の外周端は、平面視において終端ウェル領域2の外周端よりもMOSFET200の内側に位置するので、電界強度の上昇を抑制することができる。
【0137】
<本実施の形態2のまとめ>
以上のように、本実施の形態2に係るMOSFET200によれば、高温高湿環境で高電圧を印加した際の通常とは異なるリーク経路の形成を抑制することができるので、MOSFET200の絶縁信頼性を高めることができる。
【0138】
<実施の形態3>
本実施の形態3に係る電力変換装置及び電力変換装置の製造方法について説明する。本実施の形態3は、以上に記載された実施の形態1及び2に係る半導体装置が電力変換装置に適用される。このため、以下の説明においては、実施の形態1及び2で説明された構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付して図示し、その詳細な説明は適宜省略される。
【0139】
<構成>
本実施の形態3に係る電力変換装置は、特定の用途に限定されるものではないが、以下では、三相のインバータに適用される場合について説明する。
【0140】
図16は、本実施の形態3に係る電力変換装置2200を含む電力変換システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0141】
図16に示す電力変換システムは、電源2100、電力変換装置2200及び負荷2300を有している。電源2100は、直流電源であり、電力変換装置2200に直流電力を供給する。電源2100は種々の電源で構成することが可能であり、例えば、直流系統、太陽電池または蓄電池などで構成されてもよい。また、電源2100は、交流系統に接続された整流回路またはAC-DCコンバータで構成されてもよい。また、電源2100を、直流系統から出力される直流電力を予め定められた電力に変換するDC-DCコンバータによって構成されてもよい。
【0142】
電力変換装置2200は、電源2100と負荷2300との間に接続された三相のインバータである。電力変換装置2200は、電源2100から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷2300に当該交流電力を供給する。
【0143】
また、電力変換装置2200は、
図16に示されるように、直流電力を交流電力に変換して出力する変換回路2201と、変換回路2201のそれぞれのスイッチング素子を駆動するための駆動信号を出力する駆動回路2202と、駆動回路2202を制御するための制御信号を駆動回路2202に出力する制御回路2203とを備えている。
【0144】
負荷2300は、電力変換装置2200から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。なお、負荷2300は特定の用途に限られるものではなく、各種電気機器に搭載される電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道車両、エレベーター、または、空調機器向けの電動機として用いられる。
【0145】
以下、電力変換装置2200の詳細を説明する。変換回路2201は、スイッチング素子と還流ダイオードとを備える(図示せず)。そして、スイッチング素子がスイッチング動作をすることによって、変換回路2201は、電源2100から供給される直流電力を交流電力に変換し、負荷2300に当該交流電力を供給する。
【0146】
変換回路2201の具体的な回路構成には種々の構成が想定され、本実施の形態3に係る変換回路2201は、2レベルの三相フルブリッジ回路であり、かつ、6つのスイッチング素子と、それぞれのスイッチング素子に逆並列に接続される6つの還流ダイオードとから構成することができる。
【0147】
変換回路2201におけるそれぞれのスイッチング素子及び還流ダイオードの少なくともいずれか1つとして、上述した実施の形態1及び2のいずれかに係る半導体装置が適用される。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続されて上下アームを構成し、それぞれの上下アームは、フルブリッジ回路の各相(U相、V相及びW相)を構成する。そして、それぞれの上下アームの出力端子、すなわち、変換回路2201の3つの出力端子は、負荷2300に接続される。
【0148】
駆動回路2202は、変換回路2201のスイッチング素子を駆動するための駆動信号を生成し、変換回路2201のスイッチング素子の制御電極に当該駆動信号を供給する。具体的には、駆動回路2202は、後述する制御回路2203から出力される制御信号に基づいて、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とをそれぞれのスイッチング素子の制御電極に出力する。
【0149】
スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧未満の電圧信号(オフ信号)となる。
【0150】
制御回路2203は、負荷2300に所望の電力が供給されるよう変換回路2201のスイッチング素子を制御する。具体的には、制御回路2203は、負荷2300に供給すべき電力に基づいて変換回路2201のそれぞれのスイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御によって、変換回路2201を制御することができる。
【0151】
そして、制御回路2203は、それぞれの時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号が出力され、オフ状態となるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるように、駆動回路2202に制御指令(制御信号)を出力する。駆動回路2202は、当該制御信号に基づいて、それぞれのスイッチング素子の制御電極にオン信号またはオフ信号を駆動信号として出力する。
【0152】
通常では、半導体装置はゲルまたはエポキシ樹脂などに埋め込まれて使用するが、これらの材料も完全には水分を遮断することはできないため、半導体装置の絶縁信頼性が損なわれる。これに対して、本実施の形態3に係る電力変換装置2200では、変換回路2201のスイッチング素子及び還流ダイオードの少なくともいずれか1つとして、絶縁信頼性が高められた実施の形態1及び2のいずれかに係る半導体装置を適用する。このため、電力変換装置2200の信頼性を高めることができる。
【0153】
なお、本実施の形態3では、2レベルの三相インバータに実施の形態1及び2の半導体装置を適用する例を説明したが、種々の電力変換装置に実施の形態1及び2の半導体装置を適用することができる。
【0154】
また、本実施の形態3では、2レベルの電力変換装置について説明したが、3レベルまたはマルチレベルの電力変換装置に実施の形態1及び2の半導体装置を適用することができる。また、単相負荷に電力を供給する場合には、単相のインバータに実施の形態1及び2の半導体装置を適用することができる。また、直流負荷などに電力を供給する場合には、DC-DCコンバータまたはAC-DCコンバータに、実施の形態1及び2の半導体装置を適用することもできる。
【0155】
また、本実施の形態3に係る電力変換装置は、上述された負荷が電動機である場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機、レーザー加工機、誘導加熱調理器または非接触給電システムの電源装置として用いることもできる。また、本実施の形態3に係る電力変換装置は、太陽光発電システムまたは蓄電システム等におけるパワーコンディショナーとして用いることもできる。
【0156】
<製造方法>
次に、本実施の形態3に関する電力変換装置の製造方法を説明する。まず、実施の形態1及び2に記載された製造方法で半導体装置を製造する。そして、当該半導体装置を有する変換回路2201を電力変換装置2200に組み込む。変換回路2201は、入力される電力を変換して出力するための回路である。
【0157】
そして、電力変換装置2200に駆動回路2202を組み込む。駆動回路2202は、半導体装置を駆動するための駆動信号を当該半導体装置に出力するための回路である。そして、電力変換装置2200に制御回路2203を組み込む。制御回路2203は、駆動回路2202を制御するための制御信号を駆動回路2202に出力するための回路である。
【0158】
実施の形態1及び2に記載された半導体装置は、SiC半導体で構成される例を示したが、例えば窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)など他のワイドバンドギャップ半導体で構成されるスイッチング素子とすることができる。ワイドバンドギャップ半導体で構成されるスイッチング素子は、Siのスイッチング素子ではユニポーラ動作が困難な高電圧領域でも使用可能であり、スイッチング動作時に発生するスイッチング損失を大きく低減できる。そのため、電力損失の大きな低減が可能となる。
【0159】
また、ワイドバンドギャップ半導体で構成されるスイッチング素子は、電力損失が小さく、耐熱性も高い。そのため、冷却部を備えるパワーモジュールを構成する場合、ヒートシンクの放熱フィンを小型化することが可能であるため、半導体モジュールの一層の小型化が可能となる。
【0160】
また、ワイドバンドギャップ半導体で構成されるスイッチング素子は、高周波スイッチング動作に適している。そのため、高周波化の要求が大きいコンバータ回路に適用された場合、スイッチング周波数の高周波化によって、コンバータ回路に接続されるリアクトルまたはコンデンサなどを小型化することもできる。
【0161】
上記各実施の形態では、各構成要素の物性、材料、寸法、形状、相対的配置関係または実施の条件などについても記載している場合があるが、これらは全ての局面において例示であって、記載されたものに本開示が限られることはない。よって、例示されていない無数の変形例が、本開示の範囲内において想定される。
【0162】
例えば、任意の構成要素を変形、追加または省略する場合、及び、少なくとも1つの実施の形態における少なくとも1つの構成要素を抽出し、それを他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれる。
【0163】
また、矛盾が生じない限り、上記各実施の形態において「1つ」備えられるものとして記載された構成要素は、「1つ以上」備えられていてもよい。さらに、本開示を構成する構成要素は概念的な単位であって、1つの構成要素が複数の構造物を含んでもよく、また、1つの構成要素が、ある構造物の一部に対応してもよい。また、本開示の各構成要素には、同一の機能を発揮する限り、他の構造または形状を有する構造物が含まれる。
【0164】
なお、各実施の形態及び各変形例を自由に組み合わせたり、各実施の形態及び各変形例を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0165】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、限定的なものではない。例示されていない無数の変形例が、想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0166】
2 終端ウェル領域、3 FLR領域、3a フローティングウェル、4 フィールド絶縁膜、5 表面電極、6 表面保護膜、8 裏面電極、12 ゲート絶縁膜、13 ゲート電極、14 層間絶縁膜、30 エピタキシャル基板、41 封止樹脂、51 ソース電極、52 ゲート配線電極、100 SBD、200 MOSFET、2201 変換回路、2202 駆動回路、2203 制御回路、WFLR 長さ。
【要約】
半導体装置の絶縁信頼を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。半導体装置は、平面視で活性領域を取り囲む終端ウェル領域と、平面視で終端ウェル領域を取り囲むFLR領域とを備える。FLR領域は、平面視で、終端ウェル領域を取り囲み、かつ互いに離間して入れ子状に設けられた、フローティング電位を有する複数のフローティングウェルを含み、半導体装置の定格電圧VR[V]に対して、複数のフローティングウェルの数が、VR/100以上である。