(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G01S13/34
(21)【出願番号】P 2024552348
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2022044494
(87)【国際公開番号】W WO2024116398
(87)【国際公開日】2024-06-06
【審査請求日】2024-09-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘川 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】福井 範行
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180991(JP,A)
【文献】特開2018-025475(JP,A)
【文献】特開平10-246776(JP,A)
【文献】特表2012-522449(JP,A)
【文献】国際公開第2018/138725(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2010696(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW方式又は高速チャープ方式のレーダ装置であって、
実信号である局部発振信号からI軸局部発振信号及びQ軸局部発振信号を生成し、前記I軸局部発振信号と受信信号とをミキシングしてI軸ビート信号を生成し、前記Q軸局部発振信号と前記受信信号とをミキシングしてQ軸ビート信号を生成するビート信号生成部と、
前記I軸ビート信号及び前記Q軸ビート信号をサンプリングして得られるI軸デジタルデータ及びQ軸デジタルデータに対して信号処理を行う信号処理部と、を備え、
前記信号処理部は、前記I軸デジタルデータ及び前記Q軸デジタルデータから複素デジタルデータを生成し、前記複素デジタルデータに対してFFTを実施し、解析信号が負の周波数成分を持たない性質に基づいて、観測対象のレンジ及びドップラ速度を測定し、
前記I軸デジタルデータと前記Q軸デジタルデータとのそれぞれにレンジFFTを実施する振幅位相算出部と、
前記振幅位相算出部の処理結果に基づいて、レンジビンごとに、電磁ノイズに起因する成分をキャンセルするためのキャンセル定数を算出するキャンセル定数算出部と、をさらに備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記キャンセル定数は、
で与えられるW
kである、
ただし、1からN
_smpl/2までは正の周波数領域に係るレンジビンの番号であり、イプシロンは許容する誤差を決める閾値であ
り、I
k
は実際にサンプリングして測定した前記I軸ビート信号であり、Q
k
は実際にサンプリングして測定した前記Q軸ビート信号である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記キャンセル定数は、
で与えられるW
kである、
ただし、1からN
_smpl/2までは正の周波数領域に係るレンジビンの番号であ
り、I
k
は実際にサンプリングして測定した前記I軸ビート信号であり、Q
k
は実際にサンプリングして測定した前記Q軸ビート信号である、
請求項
1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記キャンセル定数は、
で与えられるW
kである、
ただし、1からN
_smpl/2までは正の周波数領域に係るレンジビンの番号であり、S
kは、前記複素デジタルデータに対してフーリエ変換を実施して得られる周波数スペクトルであ
り、イプシロンは、前記複素デジタルデータに対してフーリエ変換を実施して得られる周波数スペクトルの大きさと比較される閾値である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記キャンセル定数は、
で与えられるCである、
ただし、P
+は正の周波数領域におけるピーク信号であり、P
-は負の周波数領域におけるピーク信号であり、
Aは前記I軸ビート信号と前記Q軸ビート信号との振幅比であり、θ
1
は前記I軸ビート信号の初期位相であり、θ
2
は前記Q軸ビート信号の初期位相であり、
前記キャンセル定数は、P
-の複素共役に乗ずることにより、P
+をキャンセルする、
請求項1に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術はレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載に搭載されるレーダ装置が知られている。また、車載に搭載されるレーダ装置に関し、他車とのレーダ信号の電波干渉の発生を抑制する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レーダ信号を送信する方向を含む領域を撮影するカメラを備え、カメラで撮影された画像に含まれる他の車両のライトの点灯状態に基づいて、自車の送信区間と他の車両の送信区間とが互いに異なるようにする技術が記されている。
また、特許文献1には、高速チャープ方式が複数ターゲットの分離検出に有利であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に例示される従来のレーダ装置において、電波干渉を抑制するために、レーダ信号を送信していない時間を設け、電磁ノイズを観測する必要があった。
【0006】
本開示技術は、レーダ信号の送信を停止して電磁ノイズを観測する、いわゆる「レーダ放射休止期間」を設けずに、電磁ノイズによる干渉を抑制できるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示技術に係るレーダ装置は、FMCW方式又は高速チャープ方式のレーダ装置であって、実信号である局部発振信号からI軸局部発振信号及びQ軸局部発振信号を生成し、I軸局部発振信号と受信信号とをミキシングしてI軸ビート信号を生成し、Q軸局部発振信号と受信信号とをミキシングしてQ軸ビート信号を生成するビート信号生成部と、I軸ビート信号及びQ軸ビート信号をサンプリングして得られるI軸デジタルデータ及びQ軸デジタルデータに対して信号処理を行う信号処理部と、を備え、信号処理部は、I軸デジタルデータ及びQ軸デジタルデータから複素デジタルデータを生成し、複素デジタルデータに対してFFTを実施し、解析信号が負の周波数成分を持たない性質に基づいて、観測対象のレンジ及びドップラ速度を測定し、I軸デジタルデータとQ軸デジタルデータとのそれぞれにレンジFFTを実施する振幅位相算出部と、振幅位相算出部の処理結果に基づいて、レンジビンごとに、電磁ノイズに起因する成分をキャンセルするためのキャンセル定数を算出するキャンセル定数算出部と、をさらに備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示技術に係るレーダ装置は上記構成を備えるため、レーダ放射休止期間を設けずに、電磁ノイズによる干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るレーダ装置の構成要素を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
【
図11】
図11は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「〇〇部」と称される名称は、本開示技術に係るレーダ装置を構成要素に分けたときの各構成要素の単位として表すものである。すなわち、本明細書における「〇〇部」の名称は、官庁又は会社等の業務組織区分を表すものでも、クラブ活動又はサークル活動の同行者の集りについて表すものでもない。本明細書に示される手段及び方法は、機械であるレーダ装置を主体としたものであり、人間が主体となることを意図していない。すなわち、本明細書に示される手段及び方法は、人為的な取決めのみを利用した方法には該当しない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るレーダ装置の構成要素を示すブロック図である。
図1に示されるとおり、実施の形態1に係るレーダ装置は、レーダ信号出力部1と、送受信部4と、ビート信号生成部8と、I軸用ADC14及びQ軸用ADC15と、信号処理部16と、を含む。
レーダ信号出力部1には、制御部2と、信号源3と、が含まれる。
送受信部4には、分配部5と、送信アンテナ6と、受信アンテナ7と、が含まれる。
ビート信号生成部8には、90度移相器9と、I軸用周波数混合部10と、Q軸用周波数混合部11と、I軸用フィルタ部12と、Q軸用フィルタ部13と、が含まれる。
実施の形態1に係るレーダ装置は、
図1に示されるように、各機能ブロックが接続されている。
【0012】
《レーダ信号出力部1》
レーダ信号出力部1は、レーダ信号を出力する構成要素である。レーダ信号出力部1が出力するレーダ信号は、FMCW方式(Frequency Modulated-Continuous Wave)又は高速チャープ方式(FCM方式、Fast Chirp Modulation)の信号である。高速チャープ方式は、FMCW方式の変調周期よりも圧倒的に短い周期で変調し、周波数上昇の変調、又は周波数減少の変調のいずれかしか利用されない。すなわち、高速チャープ方式においては、のこぎり波状に周波数が変化する送信波の1つの波形が、1チャープとなる(例えば、
図4の上段に示されるグラフを参照)。高速チャープ方式においては、変調周期が非常に短いため、ドップラ効果による周波数変化は無視できるほど小さい、とみなせる。さらに高速チャープ方式は、FMCW方式におけるペアリング処理に起因する誤作動を解決できるため、近年大きく注目されている。いずれにしても、本開示技術に係るレーダ装置は、パルスレーダではなくCWレーダ(Continuous Waveレーダ)である。
一般化した表現を用いれば、レーダ信号出力部1が出力するレーダ信号は、時間経過に伴って周波数が変化する周波数変調信号であり、断続的に、繰り返し出力される。
図1に示されるとおり、レーダ信号出力部1から出力されるレーダ信号は、送受信部4の分配部5へと送られる。
【0013】
《レーダ信号出力部1における制御部2》
レーダ信号出力部1における制御部2は、制御信号を生成する構成要素である。制御部2が生成する制御信号は、例えば、レーダ信号の出力タイミングを決定する。
図1に示されるとおり、制御部2から出力される制御信号は、信号源3及び信号処理部16へと送られる。
【0014】
《レーダ信号出力部1における信号源3》
レーダ信号出力部1における信号源3は、レーダ信号の発生源となる構成要素である。前述のとおり、信号源3から発生されるレーダ信号は、送受信部4の分配部5へと送られる。
【0015】
《送受信部4》
送受信部4は、レーダ信号に係る送信系統と、観測対象であるターゲットからの反射信号に係る受信系統と、を備える構成要素である。前述のとおり送受信部4は、分配部5と、送信アンテナ6と、受信アンテナ7と、を備える。
【0016】
《送受信部4における分配部5》
送受信部4における分配部5は、レーダ信号を送信信号用と参照信号用とに分配する構成要素である。本明細書において、送信信号用のレーダ信号も「レーダ信号」と称されるものとする。また本明細書において、参照信号用のレーダ信号は、「局部発振信号」と称されるものとする。
送信信号用のレーダ信号は、送信アンテナ6へと送られる。
参照信号用のレーダ信号、すなわち局部発振信号は、I軸用周波数混合部10へ、及び90度移相器9を経由してQ軸用周波数混合部11へ、それぞれ送られる。
【0017】
《送受信部4における送信アンテナ6》
送受信部4における送信アンテナ6は、レーダ信号を大気等の空間へ放射するアンテナである。
【0018】
《送受信部4における受信アンテナ7》
送受信部4における受信アンテナ7は、観測対象に反射されたレーダ信号反射波を受信するアンテナである。本明細書において、レーダ信号反射波のうち受信アンテナ7で受信したものは、単に「受信信号」と称されるものとする。
図1に示されるとおり、受信アンテナ7で受信された受信信号は、I軸用周波数混合部10及びQ軸用周波数混合部11へと送られる。
【0019】
《ビート信号生成部8》
ビート信号生成部8は、ビート信号を生成する構成要素である。ビート信号は、局部発振信号と受信信号とのミキシングによって生成される信号である。ビート信号の周波数であるビート周波数には、ターゲットまでの距離と、ターゲットの相対速度の情報が含まれている。ターゲットまでの距離は、レーダ照射方向を考慮すると、レーダ装置から見たターゲットの相対位置を与える。
レーダ信号出力部1が出力するレーダ信号が、アップチャープとダウンチャープとの両者を交互に利用するものである場合、増加するFM勾配のアップチャープからのビート周波数(fup)と、減少するFM勾配のダウンチャープからのビート周波数(fdown)と、2つの情報が得られる。レーダ信号出力部1が出力するレーダ信号が高速チャープ方式である場合、得られるビート周波数は1つである。
本開示技術に係るレーダ装置の技術的特徴は、ひとつには、実信号であるビート信号に対していわゆるIQ変換を実施し、I軸ビート信号及びQ軸ビート信号からなる複素信号(Complex Signal)を生成する、というものである。I軸(In-Phase軸)は、いわゆる同相である。Q軸(Quadrature軸)は、直交位相である。複素信号のうち、負の周波数成分を持たないものは、解析信号(Analytic Signal)と称される。
【0020】
レーダの技術分野において、一般に、直交検波又はIQ検波と称される検波方式が知られている。直交検波は、高い周波数安定度を有する局部発振器(LO、Local Oscillator)とコヒーレント発振器(CO、Coherent Oscillator)の2つの発振器が用いられる。受信信号は、まず、局部発振器(本開示技術の信号源3に相当)からの信号とミキサ(本開示技術のI軸用周波数混合部10に相当)によって、その差成分の付近の中間周波数(IF、Intermediate Frequency、以降「IF周波数」と称する)帯にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号は、その後、増幅器を経由し、IF周波数帯付近で設計されるBPF(本開示技術のI軸用フィルタ部12に相当)を通過する。以上の操作は、周波数変換又はヘテロダイン検波と称される。その後、コヒーレント発振器との同相成分と直交成分との混合(ホモダイン検波)によって、受信信号の同相成分と直交成分とが抽出される。
本開示技術に係るレーダ装置は、局部発振器(LO)とコヒーレント発振器(CO)との2つの発振器を用い、ヘテロダイン検波及びホモダイン検波を実施してもよい。本開示技術は、複素信号化された受信信号から、振幅の情報のみならず、位相の情報を取得する。
【0021】
《ビート信号生成部8における90度移相器9》
ビート信号生成部8における90度移相器9は、局部発振信号に対して90度の位相差(位相進み又は位相遅れ)を付与する構成要素である。局部発振信号に対して90度の位相差を付与する目的は、局部発振信号の解析信号を生成することである。I軸を複素平面における実軸と考え、Q軸複素平面における虚軸と考えれば、Q軸はI軸に対して90度位相が進んでいる。簡単のため、本明細書においては、90度移相器9は90度位相進みを付与するものとする。すなわち90度移相器9は、I軸の局部発振信号(以降、「I軸局部発振信号」と称する)を入力とし、Q軸の局部発振信号(以降、「Q軸局部発振信号」と称する)を出力とする。90度移相器9は、ヒルベルトフィルタ(Hilbert Filter)として実現されてもよい。
チャープ信号は、時間とともに角周波数が変化するため、「90度位相を進める」という操作がイメージしにくい。チャープ信号は、例えば、以下のように複素数表現で示すことができる。
ここで、jは虚数単位を表す。Aはチャープ信号の振幅である。
数式(1)で示されたg
chirp(t)の実部は、実信号であり局部発振信号であると考えることができる。本開示技術が意図する「90度位相進みを付与する」ことは、複素数表現を用いれば、g
chirp(t)の実部からg
chirp(t)の虚部を生成することである。
【0022】
なお、90度移相器9が局部発振信号に対して90度の位相進みを付与するか90度の位相遅れを付与するかは、本質的ではない。
本開示技術に係るレーダ装置は、実信号である局部発振信号をQ軸と考え、90度移相器9を用いてI軸の信号を作成してもよい。90度移相器9が90度の位相遅れを付与する場合、90度移相器9への入力はQ軸局部発振信号であり、90度移相器9の出力はI軸局部発振信号である。
【0023】
《ビート信号生成部8におけるI軸用周波数混合部10》
ビート信号生成部8におけるI軸用周波数混合部10は、局部発振信号と受信信号とをミキシングする構成要素である。I軸用周波数混合部10において、I軸ビート信号が生成される。
I軸用周波数混合部10で生成されたI軸ビート信号は、I軸用フィルタ部12へと送られる。
【0024】
《ビート信号生成部8におけるQ軸用周波数混合部11》
ビート信号生成部8におけるQ軸用周波数混合部11は、90度位相の遅れた局部発振信号と受信信号とをミキシングする構成要素である。Q軸用周波数混合部11において、Q軸ビート信号が生成される。
Q軸用周波数混合部11生成されたI軸ビート信号は、Q軸用フィルタ部13へと送られる。
【0025】
《ビート信号生成部8におけるI軸用フィルタ部12》
ビート信号生成部8におけるI軸用フィルタ部12は、I軸ビート信号用のフィルタである。I軸用フィルタ部12は、具体的には、LPF(Low Pass Filter)又はBPF(Band Pass Filter)である。I軸用フィルタ部12は、I軸用周波数混合部10において生成された直後のI軸ビート信号から、スプリアス等の不要な成分を抑圧するたに使用される。スプリアス(Spurius)は、主として高周波から成り、交流信号に含まれる設計上意図しない周波数成分である。
【0026】
《ビート信号生成部8におけるQ軸用フィルタ部13》
ビート信号生成部8におけるQ軸用フィルタ部13は、Q軸ビート信号用のフィルタである。Q軸用フィルタ部13は、I軸用フィルタ部12と同様、具体的には、LPF(Low Pass Filter)又はBPF(Band Pass Filter)である。Q軸用フィルタ部13は、Q軸用周波数混合部11において生成された直後のQ軸ビート信号から、スプリアス等の不要な成分を抑圧するたに使用される。
【0027】
《I軸用ADC14及びQ軸用ADC15》
I軸用ADC14及びQ軸用ADC15は、具体的には、アナログデジタル変換器である。
I軸用ADC14は、アナログ信号であるI軸ビート信号を、I軸デジタルデータに変換する。I軸デジタルデータは、以下のように表されるものとする。
ここで、数式(2)においてi
kが実数であることが示されているが、厳密には、実数が量子化されたもの、例えばdouble型又はfloat型のものである。数式(2)におけるkは、サンプリング番号であり、1からN
_smplまでの整数をとる。
Q軸用ADC15は、アナログ信号であるQ軸ビート信号を、Q軸デジタルデータに変換する。Q軸デジタルデータは、以下のように表されるものとする。
ここで、数式(3)においてq
kが実数であることが示されているが、厳密には、実数が量子化されたもの、例えばdouble型又はfloat型のものである。数式(3)におけるkも、サンプリング番号である。
I軸デジタルデータ及びQ軸デジタルデータは、まとめてIQデータと称される。IQデータは、信号処理部16へと送られる。
【0028】
《信号処理部16》
信号処理部16は、ターゲットまでの距離と、ターゲットの相対速度と、を算出するための信号処理を実施する構成要素である。
信号処理部16は、制御部2から送られる制御信号を参照することにより、レーダ信号出力部1からレーダ信号が出力されている期間を特定することができる。本明細書において、レーダ信号出力部1によりレーダ信号が出力されていると特定された期間は、「特定期間」と称されるものとする。
【0029】
図2は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
図2に示されるように実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16は、スペクトル算出部1610と、距離速度スペクトル算出部1620と、電磁ノイズスペクトル算出部1625と、距離速度情報算出部1630と、電磁ノイズ情報算出部1635と、検出処理部1650と、を含む。
実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16は、
図2に示されるように、各機能ブロックが接続されている。
【0030】
図3は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
図3に示されるように、信号処理部16が実施する処理ステップは、ST11、ST12、ST13、ST14、ST15、及びST16、を含む。それぞれの処理ステップの詳細は、後述の説明により明らかとなる。
【0031】
《信号処理部16におけるスペクトル算出部1610》
信号処理部16におけるスペクトル算出部1610は、距離方向のフーリエ変換(以降、「レンジフーリエ変換」と称する)を実施し、周波数スペクトルを算出する(
図3に示されるST11)構成要素である。レンジフーリエ変換は、最初に実施されるフーリエ変換であるため、ファーストフーリエ変換と称されることもある。
【0032】
スペクトル算出部1610は、特定期間におけるデジタルデータを用いて、以下に与えられる複素デジタルデータを作成する。
数式(4)におけるkも、サンプリング番号である。
【0033】
スペクトル算出部1610は、より詳細には、数式(4)に示される複素デジタルデータに対して、レンジフーリエ変換を実施する。レンジフーリエ変換によって得られた結果は、周波数スペクトルと称される。
レンジフーリエ変換の結果により得られるデータは、周波数領域における複素数のデータである。ノイズのない理想的な場合、周波数領域においてピークをとる周波数は、ビート周波数である。周波数領域におけるピーク(スペクトルピーク)も複素数であるが、このスペクトルピークの位相情報から、ドップラ周波数を算出することができる。スペクトルピークの位相情報からドップラ周波数の算出するために、後述するドップラフーリエ変換が実施される。
ビート信号は繰り返し生成されるが、スペクトル算出部1610は、その都度、レンジフーリエ変換を実施する。
スペクトル算出部1610により算出される複数の周波数スペクトルは、距離速度スペクトル算出部1620及び電磁ノイズスペクトル算出部1625へと送られる。
【0034】
《信号処理部16における距離速度スペクトル算出部1620》
信号処理部16における距離速度スペクトル算出部1620は、相対速度方向のフーリエ変換(以降、「ドップラフーリエ変換」と称する)を実施し、距離速度スペクトルを算出する(
図3に示されるST12)構成要素である。ドップラフーリエ変換は、2回目のフーリエ変換であることから、セカンドフーリエ変換と称されることもある。
距離速度スペクトル算出部1620は、周波数スペクトルデータのうち、正の周波数領域(以降、「正領域周波数スペクトルデータ」と称する)に対してドップラフーリエ変換を実施する。すなわち、正領域周波数スペクトルデータに対してドップラフーリエ変換を行うことにより得られる結果は、距離速度スペクトルと称される。
ところで高速フーリエ変換は、FFT(Fast Fourier Transform)と称される。本開示技術に係るレーダ装置は、レンジフーリエ変換及びドップラフーリエ変換を、レンジFFT及びドップラFFTの態様で実施してよい。レンジFFTとドップラFFTとを両方行う操作は、得られる情報が2次元であることから(
図4、
図7、及び
図10参照)、2次元FFTとも称される。
図2に示されるとおり、距離速度スペクトルは、距離速度情報算出部1630へと送られる。
【0035】
《信号処理部16における電磁ノイズスペクトル算出部1625》
信号処理部16における電磁ノイズスペクトル算出部1625は、ドップラフーリエ変換を実施し、電磁ノイズスペクトルを算出する(
図3に示されるST13)構成要素である。
電磁ノイズスペクトル算出部1625は、周波数スペクトルデータのうち、負の周波数領域(以降、「負領域周波数スペクトルデータ」と称する)に対してドップラフーリエ変換を実施する。すなわち、負領域周波数スペクトルデータに対してドップラフーリエ変換を行うことにより得られる結果は、電磁ノイズスペクトルと称される。
図2に示されるとおり、電磁ノイズスペクトルは、電磁ノイズ情報算出部1635へと送られる。
【0036】
《信号処理部16における距離速度情報算出部1630》
信号処理部16における距離速度情報算出部1630は、距離速度スペクトルに基づいて、ターゲットまでの距離及びターゲットの相対速度を算出する(
図3に示されるST14)構成要素である。
より具体的に言えば、距離速度情報算出部1630は、距離速度スペクトルのピーク値を検出し、ピーク値に基づいてビート周波数及びドップラ周波数を算出する。ビート周波数はターゲットまでの距離を与え、ドップラ周波数はターゲットのドップラ速度を与える。
距離速度情報算出部1630において算出されるビート周波数及びドップラ周波数の情報、又はターゲットまでの距離及びターゲットのドップラ速度の情報は、検出処理部1650へと送られる。
【0037】
《信号処理部16における電磁ノイズ情報算出部1635》
信号処理部16における電磁ノイズ情報算出部1635は、電磁ノイズスペクトルに基づいて、電磁ノイズに由来する周波数及びドップラ周波数を算出する(
図3に示されるST15)構成要素である。
より具体的に言えば、電磁ノイズ情報算出部1635は、電磁ノイズスペクトルのピーク値を検出し、ピーク値に基づいて電磁ノイズ由来の周波数及びドップラ周波数を算出する。
電磁ノイズ情報算出部1635において算出される電磁ノイズ由来の周波数及びドップラ周波数の情報は、検出処理部1650へと送られる。
【0038】
《信号処理部16における検出処理部1650》
信号処理部16における検出処理部1650は、電磁ノイズによる影響を抑圧して、ターゲットに関するもっともらしい相対位置及び相対速度を検出する(
図3に示されるST16)構成要素である。
図2に示されるとおり検出処理部1650が実施する処理は、距離速度情報算出部1630から送られる情報と、電磁ノイズ情報算出部1635から送られる情報と、に基づいて、実施される。
【0039】
図4は、実施の形態1に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
【0040】
図4上段に示されるグラフにおいて、{L
O(1),L
O(2),…,L
O(K)}は、局部発振信号である。
図4上段に示されるグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は周波数を表す。
図4においては、局部発振信号としてダウンチャープが例示されている。1つのチャープ信号の掃引時間は“T”で表され、μs(マイクロ秒)のオーダである。チャープ信号の周波数帯域は、“BW”で表されている。
図4上段に示されるグラフにおいて、{R
X(1),R
X(2),…,R
X(K)}は、受信信号である。
図4におけるKは、何回目のチャープ信号かを識別するチャープ番号である。
【0041】
図4上段に示されるグラフには、破線により電磁ノイズが示されている。本明細書においては、簡単のため、電磁ノイズが周波数一定の連続波である、とする。また、電磁ノイズは、I軸用ADC14及びQ軸用ADC15に直接入り込む、とする。さらに、I軸用ADC14へ入り込む電磁ノイズとQ軸用ADC15へ入り込む電磁ノイズとは、互いに相関がない、とする。一般に、I軸用ADC14とQ軸用ADC15とは基板上の異なる場所に配置されているため、入り込むノイズに相関がないと仮定することができる。
【0042】
図4において「信号取得タイミング」との説明が付された複数の長方形は、前述の特定期間内の期間であり、ビート周波数を取得可能な期間である。信号処理部16は、この信号取得タイミングに信号を取得する。
【0043】
図4の右列に示された3つある格子状のグラフは、前述の2次元FFTの結果を示すグラフである。本明細書において、2次元FFTの結果を示す格子状のグラフは、「2次元FFT格子図」と称されるものとする。
図4に示される2次元FFT格子図は、縦軸をビート周波数(距離)とし、横軸をドップラ周波数(相対速度)としている。なお、2次元FFTの結果を示すグラフとして、横軸にビート周波数を取り、縦軸にドップラ周波数を取るものも存在する。
説明の簡単化を考慮して、
図4に例示される2次元FFT格子図には、観測対象(ターゲット)に該当する箇所、及び電磁ノイズ(誤検出)に該当する箇所が、それぞれ1か所ずつ塗りつぶされている。
【0044】
図4において「FFT(1)」と示された箇所は、レンジFFTを表している。レンジFFTにより取得できるビート周波数(F
sb_r)は、以下の関係式を満たす。
ここで、Δfは周波数帯域(BW)の上限と下限との周波数差(「最大周波数偏移幅」とも称する)を、Rはレンジを、cは光速を、Tは掃引時間(又はチャープ周期)を、それぞれ表す。また、数式(5)のおいては、変調周期が非常に短いと仮定し、ドップラ周波数に係る項は記載していない。なお、“F
sb_r”における下添え字のsb_rのうち、sbはsignal beatの頭文字であり、rはrangeの頭文字である。
【0045】
図4において「FFT(1)」と示された箇所の下には、それぞれサイズがN
_smpl×1の、縦長の長方形が示されている。それぞれの長方形には、3か所、塗りつぶされた部分がある。塗りつぶれた箇所は、周波数スペクトルのピークの位置を表している。すなわち、
図4の例においては、周波数スペクトルピークが3つある。
それぞれの長方形において、塗りつぶされた箇所のうち上から2番目は、式(5)に示されるビート周波数(F
sb_r)に対応した位置を表している。
【0046】
前述のとおり、解析信号は、負の周波数成分を有しない。そして、ノイズを含まない理想的なビート信号に係る複素信号は、解析信号である。
図4に示される縦長の長方形において、半分より上(番号が1からN
_smpl/2まで)は、正の周波数領域を表すものとする。また、縦長の長方形において、半分より下(番号が(N
_smpl/2)+1からN
_smplまで)は、負の周波数領域を表すものとする。また、破線で示された長方形の真ん中の位置は、ビート周波数が0となる位置である。時間領域においては、時間の経過順にサンプリング番号が1からN
_smplまで付されるが、周波数領域においては、正の周波数の大きい側から負の周波数へ向かう方向で、番号が1からN
_smplまで付されるものとする。
長方形の真ん中から数えて上へ4つ目の位置は、塗りつぶされて表されているが、ターゲットのみに起因した反射波に由来するスペクトルピークを意図している。ターゲットのみに起因した反射波に由来するスペクトルピークは、解析信号の周波数分析結果として現れるため、負の周波数成分を有しない。そのため、
図4において、長方形の真ん中から数えて上へ4つ目の位置は塗りつぶされるが、長方形の真ん中から数えて下へ4つ目の位置は塗りつぶされない。これは、本開示技術に係る手順又は方法によれば、ターゲットに反射した信号は、負の周波数領域にスペクトルピークが生じないことを表している。
【0047】
複素信号ではなく実信号をフーリエ変換した場合、正の周波数領域のみならず、負の周波数領域にも、対称的にスペクトルピークが現れる。したがって、例えばI軸用ADC14又はQ軸用ADC15のいずれか一方に電磁ノイズが入り込んだ場合、この電磁ノイズ信号をフーリエ変換すれば、正の周波数領域と負の周波数領域との両方にスペクトルピークが現れる。
図4に示される縦長の長方形において、対称な位置にある一番上のピークと一番下のピークは、電磁ノイズに起因するスペクトルピークを表している。
【0048】
図4に示される例においては、K個の連なるチャープ信号に対して、K回の信号取得タイミングでビート信号を取得し、K回のレンジFFTが実施されている。
【0049】
図4において「FFT(2)」と示された箇所は、距離速度スペクトル算出部1620が実施するドップラFFTを表している。ドップラFFTにより取得できるドップラ周波数(F
sb_v)は、以下の関係式を満たす。
ここで、fは局部発振信号の中心周波数を、vはレーダ装置からみたターゲットの相対速度を、それぞれ表す。なおvは、厳密に言えば、レーダ装置から見たターゲットの相対速度のうち、レーダ放射方向の速度成分を表している。一般に、或る物体の速度のうち、ドップラ効果を生じさせる速度成分は、ドップラ速度と称される。したがって、式(6)におけるvは、ターゲットのドップラ速度である。なお、“F
sb_v”における下添え字のsb_vのうち、sbはsignal beatの頭文字であり、vはvelocityの頭文字である。
【0050】
図4に例示される2次元FFT格子図のうち1番上のものは、距離速度スペクトル算出部1620が実施するドップラFFTの結果を表している。この2次元FFT格子図においては、観測対象(すなわちターゲット)のドップラ周波数が0として例示されているほか、電磁ノイズ(誤検出)のドップラ周波数が、0から見て右に2マス目に相当する値であることが例示されている。
【0051】
図4において「FFT(3)」と示された箇所は、電磁ノイズスペクトル算出部1625が実施するドップラFFTを表している。
図4に例示されているように電磁ノイズスペクトル算出部1625は、レンジFFTにより得られた負の周波数領域に係るデータに対し、符号を正に反転する処理を実施した後に、ドップラFFTを実施するとよい。
【0052】
図4に例示される2次元FFT格子図のうち上から2番目のものは、電磁ノイズスペクトル算出部1625が実施するドップラFFTの結果を表している。この2次元FFT格子図においても、電磁ノイズ(誤検出)のドップラ周波数が、0から見て右に2マス目に相当する値であることが例示されている。
【0053】
図4に例示される2次元FFT格子図のうち上から3番目のものは、一番上の2次元FFT格子図から上から2番目の2次元FFT格子図を差し引いて得られるものだ、と言える。上から3番目の2次元FFT格子図は、検出処理部1650の処理結果により得られる情報を表している。
【0054】
実施の形態1に係るレーダ装置の技術的特徴は、一つに、局部発振信号に対して90度の位相差(位相進み又は位相遅れ)を付与する90度移相器9を備える、という点にある。この構成により実施の形態1に係るレーダ装置は、I軸ビート信号及びQ軸ビート信号を生成する。
実施の形態1に係るレーダ装置の技術的特徴は、別の面から見れば、「解析信号が負の周波数成分を持たない」という原理を応用して信号処理を行っている、という点にある。
【0055】
以上により実施の形態1に係るレーダ装置は、電磁ノイズのみを観測するためのレーダ放射休止期間が不要である、という効果を奏するものである。
【0056】
実施の形態2.
実施の形態2に係るレーダ装置は、本開示技術に係るレーダ装置の変形例である。実施の形態2において、特に明記する場合を除き、実施の形態1で用いた符号と同じものが使用される。また実施の形態2において、実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0057】
図5は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
図5を
図2(実施の形態1)と比較すると、実施の形態2に係る信号処理部16は、電磁ノイズスペクトル算出部1625に代えて電磁ノイズスペクトル算出部1625Bを構成要素としていることがわかる。電磁ノイズスペクトル算出部1625Bには、距離速度情報算出部1630からの情報が入力される。
【0058】
図6は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
図6を
図3(実施の形態1)と比較すると、実施の形態2に係る信号処理部16は、ST13に代えてST21をST14の後に実施していることがわかる。
【0059】
図7は、実施の形態2に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
図7を
図4(実施の形態1)と比較すると、実施の形態2に係る電磁ノイズスペクトル算出部1625Bは、負の周波数領域のすべてではなく、スペクトルピークが存在する特定のデータに対してのみドップラFFTを実施していることがわかる。スペクトルピークが存在する特定のデータとは、具体的には、正の周波数領域において生じたスペクトルピークのビート周波数に対応した、負のビート周波数に係るデータである。
図7の例示で言えば、正の周波数領域において生じたスペクトルピークのビート周波数は、中心から数えて上へ4つ目のマス、及び中心から数えて上へ11目のマス、である。したがって、電磁ノイズスペクトル算出部1625Bは、レンジFFTにより得られた負の周波数領域に係るデータに対し、符号を正に反転する処理を実施し、原点から数えて上へ4つ目のマス、及び中心から数えて上へ11目のマス、についてのみ、ドップラFFTを実施する。つまり、実施の形態2に係る電磁ノイズスペクトル算出部1625Bは、必要な範囲について限定的にドップラFFTを実施する(
図6に示されるST21)。
【0060】
実施の形態2に係るレーダ装置の技術的特徴は、実施の形態1に係るレーダ装置の技術的特徴に加えて、電磁ノイズスペクトル算出部1625Bが必要な範囲について限定的にドップラFFTを実施する、という点にある。
【0061】
以上により実施の形態2に係るレーダ装置は、実施の形態1に記載した効果に加えて、実施するドップラFFTの回数を最小限に減らすことができる、という効果を奏する。
【0062】
実施の形態3.
実施の形態3に係るレーダ装置は、本開示技術に係るレーダ装置の変形例である。実施の形態3において、特に明記する場合を除き、既出の実施の形態で用いた符号と同じものが使用される。また実施の形態3において、既出の実施の形態と重複する説明は、適宜、省略される。
【0063】
実施の形態3に係るレーダ装置に特有の技術的特徴は、簡単に言えば、実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が、理想的な解析信号の実部及び虚部となっているかを判断する、という点にある。
【0064】
図8は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
図8に示されるように実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16は、スペクトル算出部1610と、距離速度スペクトル算出部1620Bと、距離速度情報算出部1640と、検出処理部1650Bと、振幅位相算出部1660と、キャンセル定数算出部1670と、を含む。
実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16は、
図8に示されるように、各機能ブロックが接続されている。
【0065】
図9は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
図9に示されるように、実施の形態3に係る信号処理部16が実施する処理ステップは、ST11、ST31、ST32、ST33、ST34、及びST35、を含む。それぞれの処理ステップの詳細は、後述の説明により明らかとなる。
【0066】
図10は、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。
図10に示されるとおり、実施の形態3に係るレーダ装置における信号処理部16は、I軸ビート信号のみに対するレンジFFT(
図10において「FFT(I)」と表示)と、Q軸ビート信号のみに対するレンジFFT(
図10において「FFT(Q)」と表示)と、を実施する。
【0067】
《信号処理部16における振幅位相算出部1660》
信号処理部16における振幅位相算出部1660は、I軸ビート信号及びQ軸ビート信号のそれぞれに対しレンジFFTを実施し、レンジビンごとに振幅比及び位相差を算出する構成要素である。
I軸ビート信号に対するレンジFFTの結果は、例えば、以下のように表される。
ここで、スクリプト書体のFは、フーリエ変換の操作を表す。また、前述のとおり、時間領域である式(7)の左辺は、時間の経過順にサンプリング番号が1からN
_smplまで付されている。一方、周波数領域である式(7)の右辺は、周波数の+∞から-∞へ向かう方向で、番号が1からN
_smplまで付されている。周波数領域における番号の1からN
_smplまでは、レンジビンを識別する番号でもある。
同様にして、Q軸ビート信号に対するレンジFFTの結果も、以下のように表される。
【0068】
振幅位相算出部1660が算出するレンジビンごとの振幅比及び位相差は、以下のように表される。
数式(9)は、Q軸ビート信号から見たI軸ビート信号の振幅比及び位相差である。数式(9)に登場する絶対値の記号は、複素数の大きさ(複素平面における原点からの距離)を表す。また、数式(9)に登場する角度を表す記号は、複素数の偏角を表す。なお、
図10においては、複素数の大きさは「A_」で表され、複素数の偏角は「θ_」で表されている。また、
図10の例において、レンジビンごとの振幅比及び位相差は、最初の信号取得タイミングで計算されているように矢印が示されているが、本開示技術はこれに限定されない。実施の形態3に係る振幅位相算出部1660は、複数のビート信号から得た情報に基づいて、統計的な計算(例えば、平均値、又は中央値を求めること)をし、レンジビンごとの振幅比及び位相差を求めてもよい。
【0069】
もし、実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が理想的な解析信号の実部及び虚部であれば、数式(9)に示されるレンジビンごとの振幅比及び位相差は、すべてのレンジビンにおいて振幅比が1となり、すべてのレンジビンにおいて位相差が-90度となる。
レンジビンごとの振幅比及び位相差は、キャンセル定数算出部1670へと送られる。
【0070】
《信号処理部16におけるキャンセル定数算出部1670》
信号処理部16におけるキャンセル定数算出部1670は、レンジビンごとに、電磁ノイズに起因する成分をキャンセルするためのキャンセル定数(重み)を算出する構成要素である。
実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が、理想的な解析信号の実部及び虚部となっているかの判断は、例えば、以下の数式により確かめることができる。
ここで、数式(10)に登場するε(イプシロン)は、どの程度の誤差を許容するかを決める閾値である。数式(10)で与えられるW
kは、電磁ノイズに起因する成分をキャンセルするためのキャンセル定数(重み)である。簡単のため、本明細書においてN
_smplは、偶数であるとする。実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が理想的な解析信号の実部及び虚部に近いとき、数式(10)の右辺で与えられたノルムの条件式は満たされ、W
kは0となる。反対に、実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が理想的な解析信号の実部及び虚部から遠いとき、数式(10)の右辺で与えられたノルムの条件式は満たされず、W
kは1となる。
数式(10)に示されるノルムの条件式は、簡単に言えば、I
kと、Q
kに-jを乗じたものと、を比較している。Q
kに-jを乗じることは、Q
kの位相を90度遅らせて、元のI
kと比較できる形に変換していることと等価である。
【0071】
数式(10)は、以下に例示する理想的な解析信号をあてはめることにより、その意味が明確となる。
数式(11)に示される理想的な解析信号を、cos(ω
0t)を基本波としてフーリエ変換すると、角周波数がω
0のときに、I軸は1+0jとなり、Q軸は0+jとなる。そうすると、数式(10)においてk番目のレンジがω
0に対応する場合、数式(10)の右辺で与えられたノルムの条件式は、以下のように算出される。
このように、理想的な解析信号の場合、数式(10)の右辺で与えられるノルムの条件式は満たされる。
【0072】
キャンセル定数算出部1670が算出するキャンセル定数(重み、W
k)は、数式(10)に示されるような、「0か1かの二値」である必要はない。キャンセル定数算出部1670が算出するキャンセル定数(重み、W
k)は、例えば、以下の数式に与えられるように、二値以外の値を取り得るものでもよい。
前述のとおり電磁ノイズは、I軸用ADC14又はQ軸用ADC15のいずれか一方に入り込むことがある。あるkにおいて、電磁ノイズが入っていない軸において、フーリエ変換結果が0になることがまったく生じないとも言えない。数式(13)は、数式(10)で与えられる2ノルムを、I
kの2ノルム又はQ
kの2ノルムで割り、いわゆる正規化を行っている。数式(13)では、ゼロ割が生じることを回避するため、I
kの2ノルムで割る場合とQ
kの2ノルムで割る場合との2通りが示されている。
数式(13)は、正規化されたキャンセル定数(重み、W
k)を与えているが、本開示技術はこれに限定されない。本開示技術に係るレーダ装置は、正規化されていないキャンセル定数(重み、W
k)を用いてもよい。
【0073】
本開示技術に係るレーダ装置は、数式(10)で与えられたノルムの条件式を用いて、直接、ターゲットに係るレンジビンを抽出するようにしてもよい。
数式(14)で与えられるT
kが1となるレンジビンは、電磁ノイズによる干渉ではなくターゲットに係るレンジビンである、と言える(
図10の2次元FFT格子図を参照)。
【0074】
《信号処理部16における距離速度スペクトル算出部1620B》
信号処理部16における距離速度スペクトル算出部1620Bは、距離速度スペクトル算出部1620と同様に、ドップラフーリエ変換を実施し、距離速度スペクトルを算出する(
図9に示されるST33)構成要素である。ただし、距離速度スペクトル算出部1620とは異なり、距離速度スペクトル算出部1620Bがドップラフーリエ変換を実施する対象は、数式(14)で与えられるT
kが1となるレンジビンのみでよい。
また、距離速度スペクトル算出部1620Bは、
図10に示されるとおり、キャンセル定数算出部1670が算出するキャンセル定数(重み、W
k)を用いて電磁ノイズによる影響を排除し、その後、ドップラフーリエ変換を実施してもよい。
【0075】
以上のとおり実施の形態3に係るレーダ装置に特有の技術的特徴は、数式(10)の右辺で与えられるノルムの条件式を用いて、実際にサンプリングして測定したI軸ビート信号及びQ軸ビート信号が、解析信号の実部及び虚部となっているか否かを判断する、という点にある。
【0076】
このような技術的特徴を有することにより、実施の形態3に係るレーダ装置は、実施の形態1及び実施の形態2に記載した効果に加え、2次元FFTの結果から電磁ノイズによる干渉の影響を排除できる、という効果を奏する。
【0077】
実施の形態4.
実施の形態4に係るレーダ装置は、本開示技術に係るレーダ装置の変形例である。実施の形態4において、特に明記する場合を除き、既出の実施の形態で用いた符号と同じものが使用される。また実施の形態4において、既出の実施の形態と重複する説明は、適宜、省略される。
【0078】
図11は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16の詳細構成を示すブロック図である。
図11を
図8(実施の形態3)と比較すると、実施の形態4に係る信号処理部16は、キャンセル定数算出部1670に代えてキャンセル定数算出部1670Bを構成要素としていることがわかる。キャンセル定数算出部1670Bには、スペクトル算出部1610からの情報が入力される。
【0079】
図12は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理ステップを示すフローチャートである。
図12を
図9(実施の形態3)と比較すると、実施の形態4に係る信号処理部16は、ST32に代えてST41を実施していることがわかる。
【0080】
図13は、実施の形態4に係るレーダ装置における信号処理部16が実施する処理内容を説明する図である。より詳細に言えば、
図13に示されるグラフは、スペクトル算出部1610が算出した周波数スペクトルを表したものである。グラフにおける横軸は、ビート周波数に比例するレンジ(
図13においては“Distance”と表示)であり、単位は[m]である。グラフにおける縦軸は、スペクトルの相対パワー(
図13においては“Relative Power”と表示)である。
図13に例示されるグラフにおいて、破線は正領域周波数スペクトルデータを表し、実線は負領域周波数スペクトルデータを周波数軸の符号を反転して表したものである。
図13の例示において、距離が10[m]近傍に現れているスペクトルピークは、正領域周波数スペクトルデータにしか現れておらず、ターゲットに起因したピークの例である。これと対比して、距離が50[m]近傍に現れているスペクトルピークは、正領域周波数スペクトルデータにも負領域周波数スペクトルデータにも現れており、電磁ノイズに起因したピークの例である。また、
図13の例示において、距離が40[m]近傍には、負領域周波数スペクトルデータのみにスペクトルピークが現れているが、これは副次的なピークの例である。
【0081】
スペクトル算出部1610は、数式(4)に示される複素デジタルデータを、レンジFFTすることにより周波数スペクトルを算出するが、その周波数スペクトルは、例えば、以下のように表現できる。
ここで、数式(15)の左辺は時間領域の複素デジタルデータであるが、時間の経過順に右下添え字の番号が1からN
_smplまで付されている。数式(15)の右辺は周波数領域で示される周波数スペクトル{S
1,…,S
N_sampl}であるが、右下添え字の番号が、正の周波数の大きい側から負の周波数へ向かう方向で、番号が1からN
_smplまで付されるものとする。
【0082】
《信号処理部16におけるキャンセル定数算出部1670B》
信号処理部16におけるキャンセル定数算出部1670Bは、キャンセル定数算出部1670と同様に、レンジビンごとに、電磁ノイズに起因する成分をキャンセルするためのキャンセル定数(重み)を算出する構成要素である。
キャンセル定数算出部1670Bは、数式(10)に示される条件式に代えて、以下の条件式に基づいてキャンセル定数(重み、W
k)を算出してもよい。
数式(16)の条件式に登場するイプシロンは、
図13のグラフにおいて「判定閾値」と示された破線で表現された閾値である。
【0083】
実施の形態4に係るレーダ装置に特有の技術的特徴は、レンジFFTにより取得した周波数スペクトルの大きさを閾値と比較する(数式(16)参照)、という点にある。
【0084】
このような技術的特徴を有することにより、実施の形態4に係るレーダ装置は、既出の実施の形態に記載された効果と同様の効果を奏する。
【0085】
実施の形態5.
実施の形態5に係るレーダ装置は、本開示技術に係るレーダ装置の変形例である。実施の形態5において、特に明記する場合を除き、既出の実施の形態で用いた符号と同じものが使用される。また実施の形態5において、既出の実施の形態と重複する説明は、適宜、省略される。
【0086】
複素デジタルデータに対してレンジフーリエ変換して得られる周波数スペクトルのうち、電磁ノイズ起因のピーク信号は、正の周波数領域と負の周波数領域とに分けて、以下の数式により与えられる。
ただし、数式(17)左辺のP
+は正の周波数領域におけるピーク信号を、AはI信号とQ信号との振幅比を、θ
1はI信号の初期位相を、θ
2はQ信号の初期位相を、それぞれ表す。
ただし、数式(18)左辺のP
-は、負の周波数領域におけるピーク信号である。
【0087】
本開示技術は、数式(18)で与えられるP
-の複素共役にあるキャンセル定数(C)を乗じることにより、正の周波数領域におけるピーク信号(P
+)をキャンセルする処理を実施してもよい。キャンセル定数(C)が満たすべき条件式は、以下のように与えられる。
ここで、数式(19)におけるバーのアクセント記号は、複素共役を表す。
【0088】
実施の形態5に係るレーダ装置に特有の技術的特徴は、負の周波数領域におけるピーク信号(P-)の複素共役に対し、数式(19)により与えられるキャンセル定数(C)を乗算する、という点にある。
【0089】
このような技術的特徴を有することにより、実施の形態5に係るレーダ装置は、既出の実施の形態に記載された効果と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示技術に係るレーダ装置は、例えば、車載用ミリ波レーダに応用でき、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0091】
1 レーダ信号出力部、2 制御部、3 信号源、4 送受信部、5 分配部、6 送信アンテナ、7 受信アンテナ、8 ビート信号生成部、9 90度移相器、10 I軸用周波数混合部、11 Q軸用周波数混合部、12 I軸用フィルタ部、13 Q軸用フィルタ部、14 I軸用ADC、15 Q軸用ADC、16 信号処理部、1610 スペクトル算出部、1620、1620B 距離速度スペクトル算出部、1625、1625B 電磁ノイズスペクトル算出部、1630 距離速度情報算出部、1635 電磁ノイズ情報算出部、1640 距離速度情報算出部、1650、1650B 検出処理部、1660 振幅位相算出部、1670、1670B キャンセル定数算出部。