(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】推論装置、機械学習装置、および加工システム
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
B23H7/02 R
B23H7/02 Z
(21)【出願番号】P 2024561671
(86)(22)【出願日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2024023377
【審査請求日】2024-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】金井 啓晃
(72)【発明者】
【氏名】本池 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】近久 晃一郎
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-135008(JP,A)
【文献】特開2020-151879(JP,A)
【文献】特開2018-138327(JP,A)
【文献】特開2020-055015(JP,A)
【文献】特開2021-086572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機に適用される加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データと次の加工で用いられる加工条件とを含んだ加工条件時系列データ、および前記加工機が用いる消耗品の劣化度の特定時点までの推移を示す特定時点劣化度データを含む推論用データを取得するデータ取得部と、
前記加工条件時系列データおよび前記特定時点劣化度データから次の加工が完了した時点での前記消耗品の劣化度を示す次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、前記データ取得部から入力された前記推論用データから前記次回劣化度データを推論して出力する推論部と、
を備える、
ことを特徴とする推論装置。
【請求項2】
前記推論用データには、さらに前記加工条件に基づいて算出された前記消耗品の物理量のデータが含まれており、
前記学習モデルが生成される際に用いられる学習用データには、前記加工条件時系列データ、前記特定時点劣化度データ、前記次回劣化度データ、および前記物理量のデータが含まれており、
前記推論部は、
前記加工条件時系列データ、前記特定時点劣化度データ、および前記物理量のデータから前記次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、前記データ取得部から入力された前記推論用データから前記次回劣化度データを推論する、
ことを特徴とする請求項1に記載の推論装置。
【請求項3】
前記物理量のデータは、前記物理量の特定時点までの推移を示す物理量時系列データと、次の加工が完了した時点での前記物理量とを含んでいる、
ことを特徴とする請求項2に記載の推論装置。
【請求項4】
前記加工機は、ワイヤ放電加工機であり、
前記消耗品は、加工液に混入した加工屑を取り除く濾過フィルタであり、
前記物理量のデータは、前記加工液に混入した加工屑の累積加工屑量であり、
前記消耗品の劣化度は、前記濾過フィルタの圧力損失である、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の推論装置。
【請求項5】
加工機に適用される加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データと次の加工で用いられる加工条件とを含んだ加工条件時系列データおよび前記加工機が用いる消耗品の劣化度の特定時点までの推移を示す特定時点劣化度データと、次の加工が完了した時点での前記消耗品の劣化度を示す次回劣化度データとを含む学習用データを取得するデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記加工条件時系列データおよび前記特定時点劣化度データから前記次回劣化度データを推論するための学習モデルを生成するモデル生成部と、
を備える、
ことを特徴とする機械学習装置。
【請求項6】
前記学習用データには、前記加工条件に基づいて算出された前記消耗品の物理量のデータが含まれており、
前記モデル生成部は、前記学習用データを用いて、前記加工条件時系列データ、前記物理量のデータ、および前記特定時点劣化度データから前記次回劣化度データを推論するための前記学習モデルを生成する、
ことを特徴とする請求項5に記載の機械学習装置。
【請求項7】
前記物理量のデータは、前記物理量の特定時点までの推移を示す物理量時系列データと、次の加工が完了した時点での前記物理量とを含んでいる、
ことを特徴とする請求項6に記載の機械学習装置。
【請求項8】
前記次の加工で用いられる加工条件は、計画された加工条件である、
ことを特徴とする請求項5から7の何れか1つに記載の機械学習装置。
【請求項9】
前記加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データは、計画された加工条件または計測された実績の加工条件である、
ことを特徴とする請求項5から
7の何れか1つに記載の機械学習装置。
【請求項10】
前記加工機は、ワイヤ放電加工機であり、
前記消耗品は、加工液に混入した加工屑を取り除く濾過フィルタであり、
前記物理量のデータは、前記加工液に混入した加工屑の累積加工屑量であり、
前記消耗品の劣化度は、前記濾過フィルタの圧力損失である、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の機械学習装置。
【請求項11】
加工機と、
前記加工機が用いる消耗品の劣化度を推論する推論装置と、
を有し、
前記推論装置は、
前記加工機に適用される加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データと次の加工で用いられる加工条件とを含んだ加工条件時系列データ、および前記消耗品の劣化度の特定時点までの推移を示す特定時点劣化度データを含む推論用データを取得する第1のデータ取得部と、
前記加工条件時系列データおよび前記特定時点劣化度データから次の加工が完了した時点での前記消耗品の劣化度を示す次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、前記第1のデータ取得部から入力された前記推論用データから前記次回劣化度データを推論して出力する推論部と、
を備える、
ことを特徴とする加工システム。
【請求項12】
前記学習モデルを生成する学習装置をさらに有し、
前記学習装置は、
前記加工条件時系列データおよび前記特定時点劣化度データと、前記次回劣化度データとを含む学習用データを取得する第2のデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記学習モデルを生成するモデル生成部と、
を備える、
ことを特徴とする請求項11に記載の加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工機が用いる消耗品の劣化度を推論する推論装置、機械学習装置、および加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機といった加工機では、加工液透過フィルタなどの消耗品を用いて被加工物の加工が行われる。この消耗品は、劣化度が予測され、予測された劣化度に基づいて、適切なタイミングで交換されることが望まれる。
【0003】
特許文献1に記載の機械学習装置は、加工機が用いる消耗品の劣化度を機械学習によって学習している。この機械学習装置は、放電加工の加工条件と、この加工条件による放電加工後の消耗品の劣化度とを用いた教師あり学習によって、学習モデルを生成している。そして、予測装置が、生成された学習モデルに、放電加工の加工条件を入力して、この加工条件による放電加工後の消耗品の劣化度を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、消耗品の劣化度に影響を与える加工条件の推移が考慮されておらず、1回の加工で用いられる加工条件に対応する消耗品の劣化度を学習しているに過ぎない。このため、上記特許文献1の技術では、消耗品の劣化度を精度良く推論できないという問題があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、消耗品の劣化度を精度良く推論できる推論装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の推論装置は、加工機に適用される加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データと次の加工で用いられる加工条件とを含んだ加工条件時系列データ、および加工機が用いる消耗品の劣化度の特定時点までの推移を示す特定時点劣化度データを含む推論用データを取得するデータ取得部を備える。また、本開示の推論装置は、加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データから次の加工が完了した時点での消耗品の劣化度を示す次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、データ取得部から入力された推論用データから次回劣化度データを推論して出力する推論部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる推論装置は、消耗品の劣化度を精度良く推論できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態にかかる学習推論システムの構成を示す図
【
図2】実施の形態にかかる機械学習装置が用いるニューラルネットワークを説明するための図
【
図3】実施の形態にかかる機械学習装置が実行する学習処理の処理手順を示すフローチャート
【
図4】実施の形態にかかる推論装置が実行する推論処理の処理手順を示すフローチャート
【
図5】実施の形態にかかる機械学習装置が学習に用いる入力データおよび出力データを説明するための図
【
図6】実施の形態にかかる推論装置が推論する処理と比較例の推論処理とを説明するための図
【
図7】実施の形態にかかる機械学習装置が学習する累積加工屑量と濾過フィルタの圧力損失との関係を説明するための図
【
図8】実施の形態にかかる推論装置が推論する累積加工屑量と濾過フィルタの圧力損失との関係を説明するための図
【
図9】実施の形態にかかる加工システムの構成を示す図
【
図10】実施の形態にかかる推論装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図
【
図11】実施の形態にかかる推論装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態にかかる推論装置、機械学習装置、および加工システムを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態.
図1は、実施の形態にかかる学習推論システムの構成を示す図である。学習推論システム1は、機械学習装置2と、推論装置3と、学習モデル記憶部5とを備えている。推論装置3は、消耗品の劣化度(劣化度合い)を推論することによって消耗品の寿命を予測する寿命予測装置である。消耗品の寿命は、消耗品の交換が推奨される時であり、消耗品の劣化度に対応している。
【0012】
推論装置3は、ワイヤ放電加工機、型彫放電加工機、細穴放電加工機、レーザ加工機などの加工機が用いる消耗品の寿命を予測する。ワイヤ放電加工機における消耗品は、ワイヤ電極線、濾過フィルタ、イオン交換樹脂、給電ダイス、電極線ガイドローラなどである。型彫放電加工機における消耗品は、工具電極、濾過フィルタなどである。細穴放電加工機における消耗品は、パイプ電極、濾過フィルタなどである。レーザ加工機における消耗品は、集塵フィルタ、加工レンズ、ベンドミラーなどである。
【0013】
なお、以下では、推論装置3が消耗品の劣化度を予測する加工機がワイヤ放電加工機である場合について説明するが、推論装置3が消耗品の劣化度を予測する加工機は何れの種類の加工機であってもよい。
【0014】
以下では、消耗品の劣化度の例が、ワイヤ放電加工機における加工液の濾過フィルタの圧力損失である場合について説明する。濾過フィルタは、加工液内に混入した加工屑を遮断し、加工液を透過させることで加工液を濾過する加工液透過フィルタである。
【0015】
ワイヤ放電加工機によるワイヤ放電加工では、加工時に発生する加工屑の除去などのために加工液が用いられる。加工液内に混入した加工屑は、濾過フィルタによって取り除かれ、加工液が再利用される。濾過フィルタでは、加工液が通過する際に、濾過フィルタの一次側(上流側)と二次側(下流側)との間に差圧が生じる。この差圧の値が濾過フィルタの圧力損失である。濾過フィルタに対して加工屑が堆積すると、圧力損失が大きくなり、圧力損失が特定値を超えると濾過フィルタが破裂するので、濾過フィルタは、破裂する前に交換される必要がある。濾過フィルタの圧力損失が、消耗品である濾過フィルタの劣化度に対応している。
【0016】
実施の形態では、学習推論システム1が濾過フィルタの圧力損失に基づいて、濾過フィルタの劣化度を学習し、次の加工が完了した際の濾過フィルタの劣化度を推論する。
【0017】
学習推論システム1では、機械学習装置2が、濾過フィルタの劣化度を学習することによって学習モデルを生成し、推論装置3が、学習モデルを用いて濾過フィルタの劣化度を推論する。
【0018】
機械学習装置2が生成する学習モデルは、ワイヤ放電加工機に適用される加工の条件である加工条件の推移を示す時系列データと、消耗品の劣化度に大きな影響を与える消耗品の物理量の一例である累積加工屑量の推移を示す時系列データとから、次の加工が完了した際の濾過フィルタの劣化度を推論するための学習モデルである。
【0019】
機械学習装置2は、ワイヤ放電加工機などの加工機に配置されている。なお、機械学習装置2は、ワイヤ放電加工機の外部に配置されていてもよい。機械学習装置2は、スケジュール作成部21と、演算部22と、計測部23と、劣化度取得部24と、データ取得部20と、モデル生成部27とを備えている。データ取得部20には、入力データ取得部25と、ラベル取得部26とが含まれている。
【0020】
スケジュール作成部21は、加工予定速度および加工予定時間を含む予定の加工条件のデータ(以下、予定加工条件データD1という)を作成することで予定加工条件データD1を取得する。加工予定速度は、ワイヤ放電加工における予定の加工速度である。加工予定時間は、ワイヤ放電加工における予定の加工時間である。
【0021】
スケジュール作成部21は、例えば、ワイヤ放電加工機の制御に用いられる加工プログラムに基づいて予定加工条件データD1を作成してもよいし、ユーザがワイヤ放電加工機に設定した加工条件に基づいて予定加工条件データD1を作成してもよい。
【0022】
なお、スケジュール作成部21は、加工予定速度および加工予定時間を含む予定加工条件データD1の代わりに、加工経路長を含む予定加工条件データD1を作成してもよい。また、スケジュール作成部21は、予定加工条件データD1の代わりに予定の加工条件(予定加工条件)の時系列データを作成してもよい。この場合、予定加工条件データD1は、過去から特定時点までの加工条件のデータと、次回実施予定の加工条件のデータとを含んでいる。
【0023】
スケジュール作成部21は、予定加工条件データD1を、演算部22および入力データ取得部25に送る。なお、スケジュール作成部21が入力データ取得部25に送る予定加工条件データD1には、被加工物の表面仕上げ精度が含まれていてもよい。表面仕上げ精度は、ワイヤ放電加工に対して設定された、被加工物の表面の仕上げ精度である。
【0024】
計測部23は、ワイヤ放電加工時に実際に計測された加工速度および加工時間を含む計測データ(計測結果)の時系列データ(以下、計測結果時系列データD3という)を取得する。計測結果時系列データD3は、過去から特定時点までの各加工時に取得された実測値(計測値)のデータである。特定時点は、例えば、現時点(現在)である。なお、特定時点は、現時点に限らず直近の過去または直近よりも少し前の過去の特定の時点であってもよい。計測部23は、ワイヤ放電加工機から計測結果時系列データD3を取得する。
【0025】
計測結果時系列データD3に含まれる計測データは、加工速度および加工時間といった加工条件の推移を示す時系列データである。計測結果時系列データD3に含まれる加工条件(加工速度および加工時間)は、実績の加工条件であり、予定加工条件データD1に含まれる加工条件(加工速度および加工時間)は、計画された加工条件である。
【0026】
なお、スケジュール作成部21が予定加工条件の時系列データを作成する場合、機械学習装置2は、計測部23を備えていなくてもよい。機械学習装置2は、スケジュール作成部21が作成する予定加工条件の時系列データに含まれている加工予定速度および加工予定時間を用いてもよいし、計測部23で計測された加工速度および加工時間を用いてもよい。すなわち、機械学習装置2は、過去から特定時点までの加工条件としては、予定加工条件を用いてもよいし、計測部23で計測された実際の加工条件を用いてもよい。過去から特定時点までの加工条件の推移を示す時系列データと、次の加工で用いられる加工条件とを含んだデータが、加工条件時系列データである。
【0027】
なお、計測データには、ワイヤ放電加工時の温度のデータ、表面仕上げ精度のデータなどが含まれていてもよい。計測部23は、計測結果時系列データD3を、演算部22および入力データ取得部25に送る。
【0028】
演算部22は、スケジュール作成部21が取得した予定加工条件データD1に含まれる加工条件と、計測部23が取得した計測結果時系列データD3に含まれる加工条件(計測データ)とに基づいて、演算データ(演算結果)の時系列データ(以下、演算結果時系列データD2という)を演算する。演算部22が演算によって取得する演算データは、例えば、累積加工屑量(加工屑の累積量)である。演算結果時系列データD2は、消耗品の物理量の特定時点までの推移を示す物理量時系列データの一例である。
【0029】
累積加工屑量は、濾過フィルタが交換されて新しい濾過フィルタの使用が開始されてから加工液に混入した加工屑の累積量である。加工液に混入した加工屑の累積量は、濾過フィルタによって濾過された加工屑の累積量に対応している。
【0030】
演算結果時系列データD2は、過去から特定時点までの累積加工屑量の演算データと、次回実施予定の加工が完了した後の累積加工屑量の演算データとを含んでいる。過去から特定時点までの累積加工屑量は、特定時点における累積加工屑量だけではなく、過去から特定時点までの累積加工屑量の推移である。
【0031】
演算部22は、例えば、累積加工屑量を、表面仕上げ精度から算出した加工深さと、加工速度と、加工時間との積から演算する。演算部22が表面仕上げ精度を用いる場合、予定加工条件データD1または計測結果時系列データD3には表面仕上げ精度のデータを含めておく。なお、演算部22は、累積加工屑量を、表面仕上げ精度を用いず、加工速度と加工時間との積から演算してもよい。
【0032】
表面仕上げ精度が予定加工条件データD1に含まれる場合、表面仕上げ精度は加工プログラムなどで規定されている予定の表面仕上げ精度である。表面仕上げ精度が計測結果時系列データD3に含まれる場合、表面仕上げ精度は加工後に実際に計測された表面仕上げ精度である。
【0033】
演算部22は、過去から特定時点までの加工速度および加工時間については、計測部23から取得した加工速度および加工時間を用いる。また、演算部22は、次回の加工の加工速度および加工時間については、スケジュール作成部21から取得した加工予定速度および加工予定時間を用いる。
【0034】
演算部22が演算する累積加工屑量は、加工された日が進むにつれて増加していく。演算部22は、累積加工屑量の時系列データを、演算結果時系列データD2として演算する。演算部22は、演算結果時系列データD2を、入力データ取得部25に送る。
【0035】
過去から特定時点までの加工速度および加工時間は、例えば、TおよびN(T>N)を自然数として、(T-N)日目~T日目(特定時点)までの間に適用された加工速度および加工時間である。次回の加工速度および加工時間は、例えば、T日目~(T+1)日目の間に適用された加工予定速度および加工予定時間である。過去から特定時点までの累積加工屑量は、(T-N)日目~T日目までの間に適用された累積加工屑量である。次回の累積加工屑量は、例えば、T日目~(T+1)日目の間に適用された加工が完了した時点の累積加工屑量である。特定時点であるT日目は、T日目の加工が完了した時点であり、(T+1)日目は、(T+1)日目の加工が完了した時点である。したがって、本実施の形態における特定時点(現在)は、T日目が終了した時点である。
【0036】
なお、本実施の形態では、1日単位で濾過フィルタの劣化度を学習および推論する場合について説明するが、濾過フィルタの劣化度は、時間単位、分単位などで学習および推論されてもよい。
【0037】
(T-N)日目~(T+1)日目までの加工は、機械学習装置2が学習モデルを生成するまでに予め実行されているものとする。すなわち、機械学習装置2は、(T-N)日目~(T+1)日目までの加工が実行された後に、学習モデルを生成する。
【0038】
機械学習装置2は、予め(T-N)日目~T日目(特定時点)までの加工速度および加工時間と、(T+1)日目の加工予定速度および加工予定時間とを取得しておく。(T+1)日目の加工速度および加工時間が、加工予定速度および加工予定時間であるのは、濾過フィルタの劣化度が推論される際には、推論する時点では、実際の加工速度および加工時間が計測されていないからである。すなわち、推論時には、加工予定速度および加工予定時間を用いて濾過フィルタの劣化度が推論されるので、機械学習装置2は、学習時にも加工予定速度および加工予定時間を用いて濾過フィルタの劣化度を学習しておく。
【0039】
劣化度取得部24は、過去から特定時点までの各加工後の濾過フィルタの劣化度(特定時点劣化度)の時系列データ(以下、特定時点劣化度データD4という)を取得する。過去から特定時点までの劣化度は、(T-N)日目~T日目までの劣化度である。消耗品の劣化度が濾過フィルタの劣化度である場合、この劣化度は、濾過フィルタの圧力損失である。
【0040】
また、劣化度取得部24は、次の加工が完了した時点での濾過フィルタの劣化度(次回劣化度)の時系列データ(以下、次回劣化度データD5という)を取得する。次回の劣化度は、例えば、(T+1)日目の加工が完了した時点での劣化度である。
【0041】
劣化度取得部24は、特定時点劣化度データD4および次回劣化度データD5をデータ取得部20に送る。すなわち、劣化度取得部24は、特定時点劣化度データD4を入力データ取得部25に送り、次回劣化度データD5をラベル取得部26に送る。
【0042】
入力データ取得部25は、予定加工条件データD1をスケジュール作成部21から取得し、計測結果時系列データD3を計測部23から取得し、演算結果時系列データD2を演算部22から取得し、特定時点劣化度データD4を劣化度取得部24から取得する。
【0043】
このように、入力データ取得部25は、加工条件、計測データ、累積加工屑量、および濾過フィルタの圧力損失を取得する。入力データ取得部25は、(T-N)日目~(T+1)日目までのデータをスケジュール作成部21、演算部22、計測部23、および劣化度取得部24から取得する。具体的には、入力データ取得部25は、スケジュール作成部21からは(T+1)日目の加工条件を取得し、計測部23からは(T-N)日目~T日目までの加工条件を取得する。また、入力データ取得部25は、演算部22からは(T-N)日目~(T+1)日目までの累積加工屑量を取得し、劣化度取得部24からは(T-N)日目~T日目までの劣化度(濾過フィルタの圧力損失)を取得する。
【0044】
入力データ取得部25は、予定加工条件データD1、計測結果時系列データD3、演算結果時系列データD2、および特定時点劣化度データD4を、入力データとしてモデル生成部27に送る。
【0045】
ラベル取得部26は、劣化度取得部24から(T+1)日目の濾過フィルタの圧力損失である次回劣化度データD5を取得し、次回劣化度データD5をラベルデータ(結果データ)としてモデル生成部27に送る。
【0046】
このように、データ取得部20は、予定加工条件データD1、計測結果時系列データD3、演算結果時系列データD2、および特定時点劣化度データD4と、次回劣化度データD5とを含む学習用データを取得する。
【0047】
モデル生成部27は、入力データ取得部25から送られてくる入力データ、およびラベル取得部26から送られてくるラベルデータの組み合わせに基づいて作成される学習用データに基づいて、濾過フィルタの圧力損失を学習する。すなわち、モデル生成部27は、入力データ取得部25から出力された加工条件、計測データ、および演算データ(累積加工屑量)と、劣化度取得部24が取得した劣化度(濾過フィルタの圧力損失)とに基づいて作成される学習用データに基づいて、濾過フィルタの圧力損失を学習する。モデル生成部27は、過去から特定時点までの加工のデータと、次回の加工のデータとの組み合わせに基づいて作成される学習用データに基づいて、濾過フィルタの圧力損失を学習する。ここで、学習用データは、過去から特定時点までの加工のデータと、次回の加工のデータとを互いに関連付けたデータである。
【0048】
モデル生成部27は、入力データ取得部25およびラベル取得部26から受付けた、過去から特定時点までおよび次回の加工条件と、過去から特定時点までおよび次回の加工完了時点での累積加工屑量と、過去から特定時点までおよび次回の加工完了時点での濾過フィルタの圧力損失とに基づいて学習モデルを生成する。
【0049】
このように、モデル生成部27は、ワイヤ放電加工機の加工条件、累積加工屑量、および濾過フィルタの圧力損失から、濾過フィルタの圧力損失を高精度に予測する学習モデルを生成する。
【0050】
モデル生成部27が生成する学習モデルは、過去から特定時点までの加工条件と、過去から特定時点までの演算データと、過去から特定時点までの計測データと、過去から特定時点までの特定時点劣化度と、次回の加工条件と、次回の演算データとから、次回の加工完了時点における次回劣化度を推論するための学習モデルである。このように、モデル生成部27が生成する学習モデルは、次回実施予定の加工条件で加工した後の消耗品の劣化度を予測するための学習モデルである。
【0051】
例えば、Tが100であり、Nが30である場合、学習モデルは、70日目から100日目までのデータと、70日目から100日目までのデータに対応する101日目のデータとの対応関係を学習する。
【0052】
モデル生成部27は、生成した学習モデルを学習モデル記憶部5に記憶させる。学習モデル記憶部5は、機械学習装置2の内部に配置されてもよいし、機械学習装置2の外部に配置されてもよい。また、学習モデル記憶部5は、推論装置3の内部に配置されてもよい。また、学習モデル記憶部5は、機械学習装置2の内部および推論装置3の内部の両方に配置されてもよい。
【0053】
なお、モデル生成部27が用いる学習用データには、必ずしも演算データ(累積加工屑量)が含まれていなくてもよい。この場合、入力データ取得部25は、累積加工屑量を取得しなくてもよい。また、機械学習装置2は、演算部22を備えていなくてもよい。
【0054】
推論装置3は、ワイヤ放電加工機などの加工機に配置されている。なお、推論装置3は、ワイヤ放電加工機の外部に配置されていてもよい。推論装置3は、スケジュール作成部31と、演算部32と、計測部33と、劣化度取得部34と、データ取得部35と、推論部36とを備えている。
【0055】
スケジュール作成部31は、スケジュール作成部21と同様の機能を有し、演算部32は、演算部22と同様の機能を有している。また、計測部33は、計測部23と同様の機能を有し、劣化度取得部34は、劣化度取得部24と同様の機能を有している。
【0056】
スケジュール作成部31は、加工予定速度および加工予定時間を含む予定の加工条件のデータ(以下、予定加工条件データD11という)を作成することで予定加工条件データD11を取得する。予定加工条件データD11は、予定加工条件データD1と同様のデータである。
【0057】
スケジュール作成部31は、例えば、ワイヤ放電加工機の制御に用いられる加工プログラムに基づいて予定加工条件データD11を作成してもよいし、ユーザがワイヤ放電加工機に設定した加工条件に基づいて予定加工条件データD11を作成してもよい。
【0058】
なお、スケジュール作成部31は、加工予定速度および加工予定時間を含む予定加工条件データD11の代わりに、加工経路長を含む予定加工条件データD11を作成してもよい。また、スケジュール作成部31は、予定加工条件データD11の時系列データを作成してもよい。
【0059】
スケジュール作成部31が加工条件時系列データを作成する場合、推論装置3は、計測部33を備えていなくてもよい。推論装置3は、スケジュール作成部31が作成する加工条件時系列データに含まれている加工予定速度および加工予定時間を用いてもよいし、計測部33で計測された加工速度および加工時間を用いてもよい。
【0060】
スケジュール作成部31は、予定加工条件データD11を、演算部32およびデータ取得部35に送る。なお、スケジュール作成部31がデータ取得部35に送る予定加工条件データD11には、被加工物の表面仕上げ精度が含まれていてもよい。
【0061】
計測部33は、ワイヤ放電加工時に実際に計測された過去から特定時点までの加工速度および加工時間を含む計測データ(計測結果)の時系列データ(以下、計測結果時系列データD13という)を取得する。計測結果時系列データD13は、計測結果時系列データD3と同様のデータである。
【0062】
計測結果時系列データD13は、推論時の計測データであり、計測結果時系列データD3は、学習時の計測データである。計測部33は、ワイヤ放電加工機から計測結果時系列データD13を取得する。なお、計測データには、ワイヤ放電加工時の温度のデータ、表面仕上げ精度のデータなどが含まれていてもよい。計測部33は、計測結果時系列データD13を、演算部32およびデータ取得部35に送る。
【0063】
演算部32は、スケジュール作成部31が取得した予定加工条件データD11に含まれる加工条件と、計測部33が取得した計測結果時系列データD13に含まれる加工条件(計測データ)とに基づいて、演算データ(演算結果)の時系列データ(以下、演算結果時系列データD12という)を演算する。演算結果時系列データD12は、演算結果時系列データD2と同様のデータである。
【0064】
演算部32は、演算部22と同様に、例えば、加工屑量を、表面仕上げ精度から算出した加工深さと、加工速度と、加工時間との積から演算する。演算部32が表面仕上げ精度を用いる場合、予定加工条件データD11または計測結果時系列データD13に表面仕上げ精度の時系列データを含めておく。なお、演算部32は、累積加工屑量を、表面仕上げ精度を用いず、加工速度と加工時間との積から演算してもよい。
【0065】
表面仕上げ精度が予定加工条件データD11に含まれる場合、表面仕上げ精度は加工プログラムなどで規定されている予定の表面仕上げ精度である。表面仕上げ精度が計測結果時系列データD13に含まれる場合、表面仕上げ精度は加工後に実際に計測された表面仕上げ精度である。
【0066】
演算部32は、過去から特定時点までの加工速度および加工時間については、計測部33から取得した加工速度および加工時間を用いる。また、演算部32は、次回の加工の加工速度および加工時間については、スケジュール作成部31から取得した加工予定速度および加工予定時間を用いる。
【0067】
演算部32が演算する累積加工屑量は、加工された日が進むにつれて増加していく。演算部32は、累積加工屑量の時系列データを、演算結果時系列データD12として演算する。演算部32は、演算結果時系列データD12を、データ取得部35に送る。
【0068】
過去から特定時点までの加工速度および加工時間は、例えば、tおよびn(t>n)を自然数として、(t-n)日目~t日目(特定時点)までの加工速度および加工時間である。次回の加工速度および加工時間は、例えば、(t+1)日目の加工予定速度および加工予定時間である。過去から特定時点までの累積加工屑量は、(t-n)日目~t日目までの累積加工屑量である。次回の累積加工屑量は、例えば、(t+1)日目の加工が完了した時点の累積加工屑量である。
【0069】
(t-n)日目~t日目までの加工は、推論装置3が、次回の加工後の濾過フィルタの劣化度を推論するまでに予め実行されているものとする。すなわち、推論装置3は、(t-n)日目~t日目までの加工が実行された後に、(t+1)日目の濾過フィルタの劣化度を推論する。t日目は、例えば現在であり、(t+1)日目は明日である。
【0070】
劣化度取得部34は、過去から特定時点までの各加工後の消耗品(濾過フィルタ)の劣化度(特定時点劣化度)の時系列データ(以下、特定時点劣化度データD14という)を取得する。過去から特定時点までの劣化度は、(t-n)日目~t日目までの劣化度である。劣化度取得部34は、特定時点劣化度データD14をデータ取得部35に送る。
【0071】
データ取得部35は、予定加工条件データD11をスケジュール作成部31から取得し、計測結果時系列データD13を計測部33から取得し、演算結果時系列データD12を演算部32から取得し、特定時点劣化度データD14を劣化度取得部34から取得する。このように、データ取得部35は、加工条件、計測データ、累積加工屑量、および過去から特定時点までの濾過フィルタの圧力損失を取得する。
【0072】
データ取得部35は、(t-n)日目~(t+1)日目までのデータをスケジュール作成部31、演算部32、計測部33、および劣化度取得部34から取得する。具体的には、データ取得部35は、スケジュール作成部31からは(t+1)日目の加工条件を取得し、計測部33からは(t-n)日目~t日目までの加工条件を取得する。また、データ取得部35は、演算部32からは(t-n)日目~(t+1)日目までの累積加工屑量を取得し、劣化度取得部34からは(t-n)日目~t日目までの劣化度(濾過フィルタの圧力損失)を取得する。
【0073】
推論装置3が備えるデータ取得部35が第1のデータ取得部であり、機械学習装置2が備えるデータ取得部20が第2のデータ取得部である。データ取得部35は、予定加工条件データD11、計測結果時系列データD13、演算結果時系列データD12、および特定時点劣化度データD14を含んだ推論用データを入力データとして推論部36に送る。
【0074】
推論部36は、学習モデル記憶部5から学習モデルを読み出す。推論部36は、入力データである推論用データを学習モデルに適用することで、入力データに対応する推論結果を算出する。すなわち、推論部36は、(t-n)日目~(t+1)日目までの加工条件および累積加工屑量と、(t-n)日目~t日目までの濾過フィルタの劣化度とに対応する(t+1)日目の濾過フィルタの劣化度を推論する。
【0075】
tはTよりも大きな値である。例えば、tが101であり、nが30である場合、推論部36は、学習モデルを用いて、70日目から101日目までのデータに対応する102日目のデータを推論する。また、tが200であり、nが50である場合、推論部36は、学習モデルを用いて、150日目から200日目までのデータに対応する201日目のデータを推論する。
【0076】
このように、推論部36は、学習モデルを利用して得られる濾過フィルタの圧力損失を予測し、予測結果である推論データを出力する。すなわち、推論部36は、学習モデルに、データ取得部35から取得した加工条件、累積加工屑量、および濾過フィルタの劣化度を入力することで、次の加工が完了した後の濾過フィルタの劣化度(圧力損失)である次回劣化度データD15を推論し、推論データである次回劣化度データD15を出力することができる。
【0077】
なお、推論部36が用いる推論用データには、必ずしも演算データ(累積加工屑量)が含まれていなくてもよい。この場合、データ取得部35は、累積加工屑量を取得しなくてもよい。また、推論装置3は、演算部32を備えていなくてもよい。
【0078】
なお、機械学習装置2および推論装置3は、加工機の濾過フィルタの圧力損失を学習するために使用されるが、例えば、ネットワークを介して加工機に接続され、この加工機とは別個の装置であってもよい。また、機械学習装置2および推論装置3は、加工機に内蔵されていてもよい。さらに、機械学習装置2および推論装置3は、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
【0079】
モデル生成部27が用いる学習アルゴリズムは教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、モデル生成部27にニューラルネットワークを適用した場合について説明する。
【0080】
モデル生成部27は、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、濾過フィルタの圧力損失を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果(ラベル)とのデータの組を学習装置に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を予測する手法をいう。
【0081】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層(隠れ層)、および複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、1層、または2層以上でもよい。
【0082】
図2は、実施の形態にかかる機械学習装置が用いるニューラルネットワークを説明するための図である。例えば、
図2に示すような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層(X1~X3)に入力されると、その値に重みW1(
図2では、w11~w16として図示)が掛けられて中間層(Y1~Y2)に入力される。そして、その結果にさらに重みW2(
図2では、w21~w26として図示)が掛けられて出力層(Z1~Z3)から出力される。この出力結果は、重みW1および重みW2の値によって変わる。
【0083】
機械学習装置2が用いるニューラルネットワークは、入力データ取得部25およびラベル取得部26によって取得される入力データとラベルデータとの組み合わせに基づいて生成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、入力データに対応する濾過フィルタの劣化度を学習する。換言すると、機械学習装置2が用いるニューラルネットワークは、入力データ取得部25およびラベル取得部26によって取得される第1の入力と第2の入力(正解)との組み合わせに基づいて生成される入力データおよびラベルデータに従って、いわゆる教師あり学習により、入力データに対応する出力データ(濾過フィルタの劣化度)を学習する。
【0084】
すなわち、ニューラルネットワークは、第1の入力である入力データを入力して出力層から出力された結果が、第2の入力(正解)であるラベルデータに近づくように重みW1および重みW2を調整することで学習する。
【0085】
このように、ニューラルネットワークは、入力層に、入力データを入力して出力層から出力された結果が、ラベルデータに近づくように重みW1,W2を調整することで学習する。ニューラルネットワークは、入力データとラベルデータとの対応関係を学習することで、入力データが入力された場合に、ラベルデータに対応する適切な濾過フィルタの劣化度を出力することができる学習モデルを生成する。このように、機械学習装置2は、累積加工屑量などの入力データを入力とした場合に正解である濾過フィルタの劣化度を出力することができる学習モデルを学習する。
【0086】
モデル生成部27は、以上のような学習を実行することで学習モデルを生成し、学習モデル記憶部5に出力する。学習モデル記憶部5は、モデル生成部27から出力された学習モデルを記憶する。
【0087】
なお、機械学習装置2は、(t-N)日目~(t+1)日目までのデータを複数に分割し、複数回の機械学習を行ってもよい。すなわち、機械学習装置2は、L(Lは自然数)日分のデータを取得している場合、このL日分のデータからM(Mは自然数)回分の学習用データを生成し、M回の機械学習を行ってもよい。
【0088】
例えば、機械学習装置2は、100日分のデータを取得している場合、100日分のデータを第1日目~第50日目までのデータと、第50日目~第100日目までのデータとに分割してもよい。この場合、機械学習装置2は、第1日目~第50日目までのデータを1回目の学習用データとして機械学習を行ない、第51日目~第100日目までのデータを2回目の学習用データとして機械学習を行なう。
【0089】
第1日目~第50日目までのデータが学習用データである場合、第1日目~第49日目までの劣化度が特定時点劣化度であり、50日目のデータが次回劣化度である。同様に、第51日目~第100日目までのデータが学習用データである場合、第51日目~第99日目までの劣化度が特定時点劣化度であり、100日目のデータが次回劣化度である。
【0090】
また、機械学習装置2は、第1日目~第50日目までのデータを1回目の学習用データとして機械学習を行ない、第25日目~第75日目までのデータを2回目の学習用データとして機械学習を行ない、第50日目~第100日目までのデータを3回目の学習用データとして機械学習を行なってもよい。すなわち、機械学習装置2は、取得したデータを複数の機械学習処理に用いてもよい。
【0091】
つぎに、機械学習装置2が学習モデルを学習する処理の処理手順について説明する。
図3は、実施の形態にかかる機械学習装置が実行する学習処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0092】
データ取得部20である入力データ取得部25およびラベル取得部26は、学習に用いる学習用データを取得する(ステップS10)。具体的には、入力データ取得部25は、(T-1)日目~T日目までの加工条件(加工速度および加工時間)を計測結果時系列データD3として取得する。また、入力データ取得部25は、(T+1)日目の予定の加工条件(加工予定速度および加工予定時間)を予定加工条件データD1として取得する。また、入力データ取得部25は、(T-1)日目~(T+1)日目までの累積加工屑量を演算結果時系列データD2として取得する。また、入力データ取得部25は、(T-1)日目~T日目までの消耗品の劣化度を、特定時点劣化度データD4として取得する。また、ラベル取得部26は、(T+1)日目の消耗品の劣化度を次回劣化度データD5として取得する。
【0093】
入力データ取得部25は、予定加工条件データD1、計測結果時系列データD3、演算結果時系列データD2、および特定時点劣化度データD4を、入力データとしてモデル生成部27に送る。また、ラベル取得部26は、次回劣化度データD5をラベルデータとしてモデル生成部27に送る。入力データ取得部25が取得してモデル生成部27に送る入力データと、ラベル取得部26が取得してモデル生成部27に送るラベルデータとの組み合わせが、学習用データである。
【0094】
なお、ここでは、入力データ取得部25およびラベル取得部26が同時にデータを取得するものとしたが、入力データ取得部25およびラベル取得部26は、取得するデータを関連付けて取得できればよい。このため、入力データ取得部25およびラベル取得部26は、それぞれ別のタイミングでデータを取得してもよい。すなわち、データ取得部20(入力データ取得部25およびラベル取得部26)は、予定加工条件データD1、計測結果時系列データD3、演算結果時系列データD2、特定時点劣化度データD4、および次回劣化度データD5を別々のタイミングで取得してもよい。入力データ取得部25およびラベル取得部26は、取得したデータをモデル生成部27に送信する。
【0095】
モデル生成部27は、入力データ取得部25から送られてくる入力データおよびラベル取得部26から送られてくるラベルデータを用いて学習処理を実行する(ステップS20)。具体的には、モデル生成部27は、入力データ取得部25およびラベル取得部26によって取得された、入力データとラベルデータとの組み合わせに基づいて生成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、入力データに対応するラベルデータを学習し、学習モデルを生成する。
【0096】
ここでの入力データには、以下の情報が含まれている。
・過去から特定時点までの加工速度および加工時間
・過去から特定時点までの累積加工屑量(演算値)
・過去から特定時点までの濾過フィルタの圧力損失
・次の加工での加工予定速度および加工予定時間
・次の加工が完了した時点での累積加工屑量(演算値)
【0097】
また、ここでのラベルデータには、以下の情報が含まれている。
・次の加工が完了した時点での濾過フィルタの圧力損失
【0098】
モデル生成部27は、生成した学習モデルを学習モデル記憶部5に送る。学習モデル記憶部5は、モデル生成部27が生成した学習モデルを記憶する(ステップS30)。
【0099】
つぎに、推論装置3が学習モデルを用いて次の加工が完了した時点での濾過フィルタの圧力損失を推論する処理の処理手順について説明する。
図4は、実施の形態にかかる推論装置が実行する推論処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0100】
データ取得部35は、次の加工が完了した時点での濾過フィルタの圧力損失の推論に用いる推論用データを取得する(ステップS110)。具体的には、データ取得部35は、(t-1)日目~t日目までの加工条件を計測結果時系列データD13として取得する。また、データ取得部35は、(t+1)日目の予定の加工条件を予定加工条件データD11として取得する。また、データ取得部35は、(t-1)日目~(t+1)日目までの累積加工屑量を演算結果時系列データD12として取得する。また、データ取得部35は、(t-1)日目~t日目までの消耗品の劣化度(濾過フィルタの圧力損失など)を、特定時点劣化度データD14として取得する。
【0101】
なお、ここでは、データ取得部35が同時にデータを取得するものとしたが、データ取得部35は、取得するデータを関連付けて取得できればよい。このため、データ取得部35は、それぞれ別のタイミングでデータを取得してもよい。すなわち、データ取得部35は、予定加工条件データD11、計測結果時系列データD13、演算結果時系列データD12、および特定時点劣化度データD14を別々のタイミングで取得してもよい。データ取得部35は、取得したデータを推論用データ(入力データ)として推論部36に送る。
【0102】
推論部36は、データ取得部35から推論用データを取得する。また、推論部36は、学習モデル記憶部5から学習モデルを取得する。推論部36は、学習モデルに推論用データを入力し(ステップS120)、推論用データに対応する推論結果(次の加工が完了した時点での濾過フィルタの圧力損失)を取得する。
【0103】
推論部36は、推論結果である次の加工が完了した時点での濾過フィルタの圧力損失を表示装置(図示せず)などに出力する(ステップS130)。これにより、表示装置は、消耗品の寿命として、次の加工での濾過フィルタの圧力損失を表示する(ステップS140)。
【0104】
なお、本実施の形態では、推論装置3が、加工機の機械学習装置2が学習した学習モデルを用いて濾過フィルタの圧力損失を推論する場合について説明したが、推論装置3は、他の加工機等の外部から学習モデルを取得し、この学習モデルに基づいて濾過フィルタの圧力損失を出力するようにしてもよい。
【0105】
ここで、機械学習装置2が学習に用いる入力データおよび出力データについて説明する。
図5は、実施の形態にかかる機械学習装置が学習に用いる入力データおよび出力データを説明するための図である。
図5におけるT日目が終了した時点が、特定時点(現時点)である。
【0106】
機械学習装置2のモデル生成部27に入力される入力データには、(T-N)日目からT日目までの加工条件および演算データ(累積加工屑量)と、T日目が終了してから(T+1)日目までの加工条件および演算データ(累積加工屑量)とが含まれている。(T-N)日目からT日目までは、(T-N)日目が始まってからT日目が終了するまでである。また、T日目が終了してから(T+1)日目までは、T日目が終了してから(T+1)日目が終了するまでである。
【0107】
また、モデル生成部27に入力される入力データには、(T-N)日目からT日目までの消耗品の劣化度(濾過フィルタの圧力損失)が含まれている。なお、モデル生成部27に入力される入力データには、(T-N)日目からT日目までの計測データ(温度など)が含まれていてもよい。
【0108】
また、モデル生成部27は、ラベルデータ(実測値)として、消耗品の劣化度を用いる。モデル生成部27は、推論時に出力する出力データ(予測値)と、ラベルデータ(実測値)とを比較し、推論時に出力する出力データ(予測値)が、ラベルデータ(実測値)に近付くよう、入力データとラベルデータとに基づいて、学習モデルを生成する。
【0109】
これにより、学習モデルは、推論時に設定された、過去から特定時点までの加工条件および演算データと、次の加工が完了した後の加工条件および演算データと、過去から特定時点までの消耗品の劣化度とに基づいて、次の加工が完了した後の消耗品の劣化度を推論することが可能となる。
【0110】
つぎに、本実施の形態の推論装置3が推論する処理と、比較例の推論処理とについて説明する。
図6は、実施の形態にかかる推論装置が推論する処理と比較例の推論処理とを説明するための図である。
【0111】
図6では、上段に推論処理の第1の処理例を示し、下段に推論処理の第2の処理例を示している。第2の処理例は、推論装置3による推論処理の処理例であり、第1の処理例は、推論処理の比較例である。
【0112】
第1の処理例では、推論に用いられる入力データが特定時点のデータであり、第2の処理例では、推論に用いられるデータが過去から特定時点までのデータおよび未来のデータである。
【0113】
第1の処理例では、特定時点における1回分の加工に用いられる1回分の加工条件に基づいて、1回分の加工後の消耗品の劣化度(濾過フィルタの圧力損失)が推論され、推論結果である出力データ(予測値)が出力される。
【0114】
第2の処理例では、推論装置3が、(t-n)日目からt日目までの加工条件および演算データ(累積加工屑量)と、t日目が終了してから(t+1)日目までの加工条件および演算データ(累積加工屑量)と、(t-n)日目からt日目までの消耗品の劣化度(濾過フィルタの圧力損失)とに基づいて、次の加工の加工後(ここでは(t+1)日目の終了後)の消耗品の劣化度を推論し、推論結果である出力データ(予測値)を出力する。
【0115】
なお、推論装置3は、t日目が終了してから(t+1)日目までの加工条件および演算データ(累積加工屑量)の代わりに、t日目が終了してから1回分の次回の加工条件および演算データ(累積加工屑量)を用いて1回分の次回の加工が終了した後の消耗品の劣化度を推論してもよい。
【0116】
このように、第2の処理例では、推論装置3が、過去から特定時点までのデータおよび未来のデータを用いて次の加工の加工後の消耗品の劣化度を推論しているので、正確な推論が可能となる。
【0117】
また、第2の処理例では、推論装置3が、消耗品の劣化度に大きな影響を与える物理量の情報(濾過フィルタの累積加工屑量)に基づいて、次の加工の加工後の消耗品の劣化度を推論しているので、正確な推論が可能となる。
【0118】
図7は、実施の形態にかかる機械学習装置が学習する累積加工屑量と濾過フィルタの圧力損失との関係を説明するための図である。
図7に示すグラフの横軸は累積加工屑量Vであり、縦軸は濾過フィルタの圧力損失Pである。
【0119】
図7では、フィルタFa,Fb,Fcの累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係が単位時間Δt(例えば、1日)毎にプロットされたグラフを示している。濾過フィルタの圧力損失Pは、累積加工屑量Vに対して右肩上がりとなっており、累積加工屑量Vは、濾過フィルタの圧力損失Pと相関の高いパラメータとなっている。このような累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係は、フィルタFa,Fb,Fc毎に異なる。すなわち、フィルタFa,Fb,Fcは、それぞれ、配置される加工機、加工機での加工条件、加工機を使用するユーザ、および加工環境の少なくとも1つが異なっており、これによりそれぞれ異なる変化を示している。
【0120】
このように、フィルタFa,Fb,Fc毎に累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係は異なるものである。このため、累積加工屑量Vが決まっても圧力損失Pが一意に決まるとは限らない。すなわち、ある累積加工屑量(ここでは、累積加工屑量V0)が同じであっても圧力損失PがフィルタFa,Fb,Fc毎に異なる場合がある。
【0121】
また、累積加工屑量V0が同じであっても圧力損失PがフィルタFa,Fb,Fc毎に異なる場合、累積加工屑量Vに対する圧力損失Pの変化率(ΔP/ΔV)もフィルタFa,Fb,Fc毎に異なる。
【0122】
図7では、累積加工屑量V
0が同じであっても圧力損失PがフィルタFa,Fb,Fc毎に異なり、また累積加工屑量Vに対する圧力損失Pの変化率(ΔP/ΔV)もフィルタFa,Fb,Fc毎に異なる場合を示している。
【0123】
機械学習装置2は、
図7に示したような累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係を学習することで学習モデルを生成する。
【0124】
なお、累積加工屑量Vが決まれば、圧力損失Pが一意に決まる場合もある。累積加工屑量V0が同じであれば圧力損失Pも各フィルタで同じである場合、累積加工屑量Vに対する圧力損失Pの変化率(ΔP/ΔV)も各フィルタで同じである。この場合、機械学習装置2は、累積加工屑量Vと圧力損失Pとの対応関係を学習してもよい。すなわち、機械学習装置2は、時系列データを用いることなく、学習モデルを生成してもよい。
【0125】
この場合の機械学習装置2のデータ取得部20は、累積加工屑量Vと、次の加工が完了した時点での圧力損失Pとを含む学習用データを取得する。モデル生成部27は、学習用データを用いて、累積加工屑量Vから圧力損失Pを推論するための学習モデルを生成する。すなわち、モデル生成部27が生成する学習モデルは、累積加工屑量と濾過フィルタの圧力損失との対応関係を学習する。この場合、推論部36は、学習モデルに累積加工屑量を適用することで累積加工屑量から濾過フィルタの圧力損失を推論する。
【0126】
図8は、実施の形態にかかる推論装置が推論する累積加工屑量と濾過フィルタの圧力損失との関係を説明するための図である。
図8に示すグラフの横軸は累積加工屑量Vであり、縦軸は濾過フィルタの圧力損失Pである。
【0127】
図8では、
図7と同様に、フィルタFa,Fb,Fcの累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係が単位時間Δt(例えば、1日)毎にプロットされたグラフを示している。推論装置3は、過去から特定時点までの累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係を学習モデルへの入力データとし、次の加工が完了した際の累積加工屑量Vに対応する濾過フィルタの圧力損失Pを推論する。
【0128】
図8において塗潰マーカで示されている(t-n)日目~t日目までの累積加工屑量Vと濾過フィルタの圧力損失Pとの関係が推論部36への入力データである。本実施の形態では、特定時点であるt日目の累積加工屑量Vの情報だけでなく、特定時点からN単位時間前までの過去の累積加工屑量Vの時系列データも推論部36への入力データとして用いる。
【0129】
例えば、(t-n)日目~(t+1)日目までの累積加工屑量Vの時系列データをVt-n、Vt-n+1、・・・、Vt-1、Vt、Vt+1とする。また、(t-n)日目~(t+1)日目までの圧力損失Pの時系列データをPt-n、Pt-n+1、・・・、Pt-1、Pt、Pt+1とする。また、(t-n)日目~(t+1)日目までの加工条件の時系列データをXt-n、Xt-n+1、・・・、Xt-1、Xt、Xt+1とする。
【0130】
この場合において、推論部36は、(t-n)日目~(t+1)日目までの累積加工屑量Vの時系列データ、(t-n)日目~(t+1)日目までの加工条件の時系列データ、および(t-n)日目~t日目までの圧力損失Pの時系列データを入力データとし、1単位時間後の未来時点である(t+1)日目の圧力損失Pを推論する。すなわち、推論部36は、(t-n)日目~(t+1)日目までのVt-n、Vt-n+1、・・・、Vt-1、Vt、Vt+1と、(t-n)日目~(t+1)日目までのXt-n、Xt-n+1、・・・、Xt-1、Xt、Xt+1と、(t-n)日目~t日目までのPt-n、Pt-n+1、・・・、Pt-1、Ptとから、(t+1)日目のPt+1を推論する。
【0131】
このように、学習モデルは、直近のトレンド情報(上昇、下降、停滞など)に基づいて濾過フィルタの圧力損失Pを学習しているので、推論部36は、直近のトレンド情報に基づいて、濾過フィルタの圧力損失Pを高精度に予測することが可能となる。
【0132】
このように、推論部36が、濾過フィルタの圧力損失Pを高精度に予測することができるので、ユーザは、濾過フィルタが寿命を迎える前に交換用の濾過フィルタを手配することができ、濾過フィルタの納品待ちによる生産ロスを減らすことができる。また、推論部36が、濾過フィルタの圧力損失Pを高精度に予測することができるので、ユーザは、濾過フィルタの残りの寿命に応じた適切な加工の順序付けを設定できる。これにより、ユーザは、加工の途中で濾過フィルタの寿命を迎えないようにすることができ、ワイヤ放電加工の加工工程を適切化できる。
【0133】
なお、本実施の形態では、モデル生成部27が用いる学習アルゴリズムに教師あり学習を適用した場合について説明したが、学習アルゴリズムは教師あり学習に限られるものではない。学習アルゴリズムについては、教師あり学習以外にも、強化学習、教師なし学習、または半教師あり学習等を適用することも可能である。
【0134】
また、モデル生成部27は、複数の加工機に対して作成される学習用データに従って、濾過フィルタの圧力損失を学習するようにしてもよい。また、モデル生成部27は、同一のエリアで使用される複数の加工機から学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の加工機から収集される学習用データを利用して濾過フィルタの圧力損失を学習してもよい。また、学習用データを収集する加工機を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、ある加工機に関して濾過フィルタの圧力損失を学習した機械学習装置を、これとは別の加工機に適用し、当該別の加工機に関して濾過フィルタの圧力損失を再学習して更新するようにしてもよい。
【0135】
また、モデル生成部27に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習が実行されてもよい。
【0136】
ワイヤ放電加工機の濾過フィルタでは、加工屑の付着と剥離とが繰り返されながら加工屑が堆積していく。そして、ワイヤ放電加工機では、加工屑が濾過フィルタに堆積すると、濾過フィルタの圧力損失が上昇する。この場合において、時間的に緩やかに加工液内の加工屑量が増加した場合には、濾過フィルタから剥離する加工屑量が多くなり、濾過フィルタに堆積する加工屑が少なくなる。一方、時間的に急速に加工液内の加工屑量が増加した場合、濾過フィルタから剥離する加工量が少なくなり、多くの加工屑が濾過フィルタに堆積することとなる。
【0137】
実施の形態では、推論装置3が、予定加工条件データD11、計測結果時系列データD13、演算結果時系列データD12、および特定時点劣化度データD14といった時系列データを用いて次回劣化度を推論している。これにより、推論装置3は、消耗品の劣化度に影響を与える状況(加工条件など)の推移に応じた、次回劣化度を推論することが可能となる。推論装置3は、例えば、累積加工屑量および濾過フィルタへの加工屑の堆積の推移に応じた圧力損失を推論できるので、次回劣化度を正確に推論することが可能となる。
【0138】
図9は、実施の形態にかかる加工システムの構成を示す図である。加工システム100は、ワイヤ放電加工機10を有している。ワイヤ放電加工機10の例は、前述したようにワイヤ放電加工機などである。ワイヤ放電加工機10は、推論装置3と、機械学習装置2と、学習モデル記憶部5とを備えている。
【0139】
ワイヤ放電加工機10では、機械学習装置2がワイヤ放電加工機10から取得した情報(学習用データ)を用いて、学習モデルを生成する。この学習モデルは、学習モデル記憶部5で記憶される。推論装置3は、ワイヤ放電加工機10から取得した情報(推論用データ)と、学習モデル記憶部5から読み出した学習モデルとに基づいて、次の加工が完了した際の濾過フィルタの圧力損失を推論する。
【0140】
なお、機械学習装置2は、ワイヤ放電加工機10の外部に配置されてもよい。また、機械学習装置2は、ワイヤ放電加工機10以外の加工機から取得した情報を用いて、学習モデルを生成してもよい。また、推論装置3は、ワイヤ放電加工機10の外部に配置されてもよい。
【0141】
また、学習モデル記憶部5は、ワイヤ放電加工機10の外部に配置されてもよい。学習モデル記憶部5が記憶する学習モデルは、ワイヤ放電加工機10以外の加工機から取得した情報を用いて生成された学習モデルであってもよい。
【0142】
機械学習装置2がワイヤ放電加工機10の外部に配置される場合、機械学習装置2は、ネットワークを介してワイヤ放電加工機10に接続される。また、推論装置3がワイヤ放電加工機10の外部に配置される場合、推論装置3は、ネットワークを介してワイヤ放電加工機10に接続される。また、学習モデル記憶部5がワイヤ放電加工機10の外部に配置される場合、学習モデル記憶部5は、ネットワークを介して機械学習装置2および推論装置3に接続される。なお、機械学習装置2、推論装置3、および学習モデル記憶部5の少なくとも1つは、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
【0143】
つぎに、機械学習装置2および推論装置3のハードウェア構成について説明する。なお、機械学習装置2および推論装置3は、同様のハードウェア構成を有しているので、ここでは推論装置3のハードウェア構成について説明する。
【0144】
推論装置3は、処理回路により実現される。この処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。処理回路は制御回路とも呼ばれる。
【0145】
図10は、実施の形態にかかる推論装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図である。
図10に示す処理回路90は制御回路であり、プロセッサ91およびメモリ92を備える。処理回路90がプロセッサ91およびメモリ92を用いて構成される場合、処理回路90の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、メモリ92に記憶されたプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路90は、推論装置3の処理が結果的に実行されることになる推論プログラムを格納するためのメモリ92を備える。この推論プログラムは、処理回路90により実現される各機能を推論装置3に実行させるためのプログラムであるともいえる。この推論プログラムは、プログラムが記憶された記憶媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。
【0146】
推論装置3は、プロセッサ91がメモリ92に記憶された推論プログラムを実行することにより実現される。すなわち、推論装置3で実行される推論プログラムは、スケジュール作成部31と、演算部32と、計測部33と、劣化度取得部34と、データ取得部35と、推論部36とを含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。スケジュール作成部31、演算部32、計測部33、および劣化度取得部34の少なくとも1つが実行する処理は、推論プログラムとは別のプログラムによって実行されてもよい。
【0147】
なお、機械学習装置2が用いる学習プログラムは、スケジュール作成部21と、演算部22と、計測部23と、劣化度取得部24と、入力データ取得部25と、ラベル取得部26と、モデル生成部27とを含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。スケジュール作成部21、演算部22、計測部23、および劣化度取得部24の少なくとも1つが実行する処理は、学習プログラムとは別のプログラムによって実行されてもよい。
【0148】
ここで、プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。また、メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0149】
図11は、実施の形態にかかる推論装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図である。
図11に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。
【0150】
処理回路90,93については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路90,93は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。なお、推論装置3は、1つの処理回路で実現されてもよいし、複数の処理回路で実現されてもよい。
【0151】
このように実施の形態の推論装置3は、加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データD14から次の加工が完了した時点での次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、データ取得部35から入力された推論用データ(加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データD14)から次回劣化度データを推論している。これにより、推論装置3は、加工条件時系列データに基づいて、消耗品の劣化度を精度良く推論できる。
【0152】
また、実施の形態の機械学習装置2は、加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データD4と、次回劣化度データD5とを含む学習用データを用いて、加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データD4から次回劣化度データD5を推論するための学習モデルを生成している。これにより、機械学習装置2は、加工条件時系列データに基づいて消耗品の劣化度を精度良く推論可能な学習用データを生成することが可能となる。
【0153】
また、機械学習装置2は、消耗品の劣化度に大きな影響を与える物理量(累積加工屑量など)の情報に基づいて学習モデルを生成しているので、機械学習において少ないデータで学習モデルを生成することができる。
【0154】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0155】
1 学習推論システム、2 機械学習装置、3 推論装置、5 学習モデル記憶部、10 ワイヤ放電加工機、20,35 データ取得部、21,31 スケジュール作成部、22,32 演算部、23,33 計測部、24,34 劣化度取得部、25 入力データ取得部、26 ラベル取得部、27 モデル生成部、36 推論部、90,93 処理回路、91 プロセッサ、92 メモリ、100 加工システム、D1,D11 予定加工条件データ、D2,D12 演算結果時系列データ、D3,D13 計測結果時系列データ、D4,D14 特定時点劣化度データ、D5,D15 次回劣化度データ、Fa,Fb,Fc フィルタ、P 圧力損失、V,V0 累積加工屑量、W1,W2 重み、Δt 単位時間。
【要約】
推論装置(3)は、加工機に適用される加工条件の特定時点までの推移を示す時系列データと次の加工で用いられる加工条件とを含んだ加工条件時系列データ、および加工機が用いる消耗品の劣化度の特定時点までの推移を示す特定時点劣化度データ(D14)を含む推論用データを取得するデータ取得部(35)と、加工条件時系列データおよび特定時点劣化度データ(D14)から次の加工が完了した時点での消耗品の劣化度を示す次回劣化度データを推論するための学習モデルを用いて、データ取得部(35)から入力された推論用データから次回劣化度データを推論して出力する推論部(36)と、を備える。