(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、および、脊髄損傷修復用シート
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20241223BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241223BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61P43/00 105
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2023219794
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-01-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516357775
【氏名又は名称】株式会社多磨バイオ
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】新妻 邦泰
(72)【発明者】
【氏名】大沢 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】冨永 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中屋敷 諄
(72)【発明者】
【氏名】長尾 哲哉
【審査官】関 景輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093098(JP,A)
【文献】特開2019-025293(JP,A)
【文献】特許第6426812(JP,B2)
【文献】特許第6316496(JP,B2)
【文献】特許第6263305(JP,B2)
【文献】特開2005-034256(JP,A)
【文献】特開2002-315821(JP,A)
【文献】放射線化学,78,2004年,pp.39-45
【文献】Surface & Coatings Technology,2011年,206,pp.905-910
【文献】トライボコーティングの現状と将来シンポジウム予稿集,2009年,11,pp.39-44
【文献】Surface & Coatings Technology,2011年,206,pp.841-844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/04
A61P 43/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面を神経損傷部位に接触させることにより、前記粗面化面を生体内組織の細胞によって貪食させ、前記粗面化面において間葉系幹細胞を発現させ、前記粗面化面に沿って毛細血管を新生させ、且つ、前記粗面化面を足場として前記神経損傷部位における神経細胞を再生させる神経損傷修復用シートであって、
前記神経損傷部位に接触されることとなり、前記生体内組織の細胞によって貪食されることとなる
前記粗面化面を含む第1面と、
前記第1面の反対側に配置された第2面と
を具備し、
前記粗面化面は、
前記ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む
神経損傷修復用シート。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面を脳における神経損傷部位に接触させることにより、前記粗面化面を生体内組織の細胞によって貪食させ、前記粗面化面において間葉系幹細胞を発現させ、前記粗面化面に沿って毛細血管を新生させ、且つ、前記粗面化面を足場として脳における前記神経損傷部位における神経細胞を再生させる脳における神経損傷修復用シートであって、
脳における前記神経損傷部位に接触されることとなり、前記生体内組織の細胞によって貪食されることとなる前記粗面化面を含む第1面と、
前記第1面の反対側に配置された第2面と
を具備し、
前記粗面化面は、前記ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む
神経損傷修復用シート。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面を脊髄における神経損傷部位に接触させることにより、前記粗面化面を生体内組織の細胞によって貪食させ、前記粗面化面において間葉系幹細胞を発現させ、前記粗面化面に沿って毛細血管を新生させ、且つ、前記粗面化面を足場として脊髄における前記神経損傷部位における神経細胞を再生させる脊髄における神経損傷修復用シートであって、
脊髄における前記神経損傷部位に接触されることとなり、前記生体内組織の細胞によって貪食されることとなる前記粗面化面を含む第1面と、
前記第1面の反対側に配置された第2面と
を具備し、
前記粗面化面は、前記ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む
神経損傷修復用シート。
【請求項4】
クモ膜の内側においてポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面を脳損傷部位に接触させることにより、前記粗面化面を生体内組織の細胞によって貪食させ、前記粗面化面において間葉系幹細胞を発現させ、前記粗面化面に沿って毛細血管を新生させ、且つ、前記粗面化面を足場として前記脳損傷部位の組織を修復させる脳損傷修復用シート(脳硬膜に適用されるシート、脳血管をラッピングするシート、および、脳動脈瘤をラッピングするシートを除く。)であって、
前記脳損傷部位に接触されることとなり、前記生体内組織の細胞によって貪食されることとなる前記粗面化面を含む第1面と、
前記第1面の反対側に配置された第2面と
を具備し、
前記粗面化面は、前記ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む
脳損傷修復用シート。
【請求項5】
クモ膜の内側においてポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面を脊髄損傷部位に接触させることにより、前記粗面化面を生体内組織の細胞によって貪食させ、前記粗面化面において間葉系幹細胞を発現させ、前記粗面化面に沿って毛細血管を新生させ、且つ、前記粗面化面を足場として前記脊髄損傷部位の組織を修復させる脊髄損傷修復用シート(脊髄硬膜に適用されるシートを除く。)であって、
前記脊髄損傷部位に接触されることとなり、前記生体内組織の細胞によって貪食されることとなる前記粗面化面を含む第1面と、
前記第1面の反対側に配置された第2面と
を具備し、
前記粗面化面は、前記ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む
脊髄損傷修復用シート。
【請求項6】
前記粗面化面は、イオン注入層の表面によって構成される
請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の
神経損傷修復用シート。
【請求項7】
前記イオン注入層の内部に前記生体内組織の前記細胞が浸潤するように構成される
請求項
6に記載の
神経損傷修復用シート。
【請求項8】
前記粗面化面は、前記粗面化面を貪食する前記細胞のサイズと同程度の大きさの凹みを有する
請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の
神経損傷修復用シート。
【請求項9】
前記生体内組織に前記粗面化面が接触留置される場合、前記粗面化面に沿って前記生体内組織から新生組織が進展し、且つ、前記新生組織が前記粗面化面の凹凸と噛み合うように進展するように構成される
請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の
神経損傷修復用シート。
【請求項10】
前記生体内組織に前記粗面化面が6か月以上接触留置される場合、不透明の前記ポリテトラフルオロエチレンが、透明化または半透明化するように構成される
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の
神経損傷修復用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、血管損傷修復用シート、培養シート、および、再生治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科手術における硬膜再建には種々の素材が使用されている。人工硬膜の素材の一つである延伸ポリテトラフルオロエチレンは安定な材質である一方、生体親和性に乏しい。例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンは、自己硬膜との接着性に乏しい。そこで、特許文献1に記載の生体修復材料では、延伸ポリテトラフルオロエチレンのシートにイオンビーム照射を施すことにより生体親和性の向上が図られている。
【0003】
より具体的には、特許文献1に記載の生体修復材料では、フィブリングルーと、表面の少なくとも一部がイオン注入を行うことによるイオン衝撃により改質されてなる延伸ポリテトラフルオロエチエンとが、組み合わせられている。
【0004】
延伸ポリテトラフルオロエチエンを硬膜の欠損部位に適用することが行われている。しかし、当該適用は、あくまでも、硬膜の欠損部位の補填(換言すれば、欠損部位を人工物で補うこと)を目的とするものであり、欠損部位の生体組織を再生させることについては想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生体組織を再生する生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、血管損傷修復用シート、培養シート、および、再生治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0008】
いくつかの実施形態における生体組織再生治療用シートは、生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0009】
上記生体組織再生治療用シートにおいて、前記粗面化面(20r)は、イオン注入層(2)の表面によって構成されていてもよい。
【0010】
上記生体組織再生治療用シートは、前記イオン注入層(2)の内部に前記生体内組織の前記細胞が浸潤するように構成されていてもよい。
【0011】
上記生体組織再生治療用シートにおいて、前記粗面化面(20r)は、前記粗面化面(20r)を貪食する前記細胞のサイズと同程度の大きさの凹み(20d)を有していてもよい。
【0012】
上記生体組織再生治療用シートは、前記生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が接触留置される場合、前記粗面化面(20r)に沿って前記生体内組織(4)から新生組織が進展し、且つ、前記新生組織が前記粗面化面(20r)の凹凸と噛み合うように進展するように構成されていてもよい。
【0013】
上記生体組織再生治療用シートは、損傷した前記生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が接触留置される場合、損傷した前記生体内組織(4)に前記第2面(30)が接触留置される場合と比較して、間葉系幹細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、および、オリゴデンドロサイトのうちの少なくとも1つの発現が顕著となるように構成されていてもよい。
【0014】
上記生体組織再生治療用シートは、損傷した前記生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が接触留置される場合、損傷した前記生体内組織(4)に前記第2面(30)が接触留置される場合と比較して、前記間葉系幹細胞の発現が顕著となるように構成されていてもよい。
【0015】
上記生体組織再生治療用シートは、損傷した前記生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が接触留置される場合、前記粗面化面(20r)に沿って毛細血管(B)が新生されるように構成されていてもよい。
【0016】
上記生体組織再生治療用シートは、前記粗面化面(20r)が前記生体内組織(4)の欠損領域(RG)に対向するよう前記粗面化面(20r)が前記生体内組織(4)の縁部(4e)に接触留置される場合、前記欠損領域(RG)において前記粗面化面(20r)に沿うように生体膜(5)および毛細血管(B)が新生されるように構成されていてもよい。
【0017】
上記生体組織再生治療用シートは、前記生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が6か月以上接触留置される場合、不透明の前記ポリテトラフルオロエチレンが、透明化または半透明化するように構成されていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態における神経損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0019】
上記神経損傷修復用シートは、前記粗面化面(20r)が前記生体内組織(4)の神経損傷部位(RG1)に対向留置される場合に、前記粗面化面(20r)を足場として神経細胞が再生されるように構成されていてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態における脳損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0021】
いくつかの実施形態における脊髄損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0022】
いくつかの実施形態における肺損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0023】
いくつかの実施形態における腹膜損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0024】
いくつかの実施形態における血管損傷修復用シートは、生体内組織(4)の細胞によって貪食されることとなる粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0025】
いくつかの実施形態における培養シートは、培養対象の細胞(C)または前記細胞(C)を含む生体組織が配置される粗面化面(20r)を含む第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)と、を具備する。前記粗面化面(20r)は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【0026】
いくつかの実施形態における再生治療方法は、人、あるいは、人以外の動物の再生治療方法である。再生治療方法は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面(20r)によって少なくとも一部が構成される第1面(20)と、前記第1面(20)の反対側に配置された第2面(30)とを有する生体組織再生治療用シート(1A)を準備する工程と、損傷した生体内組織(4)に前記粗面化面(20r)が接するように、前記生体組織再生治療用シート(1A)を前記生体内組織(4)に留置する工程と、前記粗面化面(20r)を足場として、前記生体内組織(4)の損傷部位の組織を再生させる工程と、を具備する。前記生体内組織(4)の損傷部位の組織を再生させる工程は、前記生体内組織(4)の細胞が、前記粗面化面(20r)の少なくとも一部を貪食することを含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、生体組織を再生する生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、血管損傷修復用シート、培養シート、および、再生治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートの一部分を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートを模式的に示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートの一部分を拡大して示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、ラットの頭部が切開された様子を示す図面代用写真である。
【
図5】
図5は、ラットの頭部が開頭された様子を示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、開頭部位を覆うように留置された様子を示す図面代用写真である。
【
図7】
図7は、生体組織再生治療用シートが、自家骨および骨蝋で被覆された様子を示す図面代用写真である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが半透明化され、生体組織再生治療用シートの周囲に淡黄色透明な生体膜が形成された様子を示す図面代用写真である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、腹膜の開口部を塞ぐように留置された様子を示す図面代用写真である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートに沿って半透明な生体膜が形成され、当該生体膜の内部に毛細血管が新生された様子を示す図面代用写真である。
【
図11】
図11は、生体組織再生治療用シートの粗面化面に噛み合うように生体膜が新生された様子を示す図面代用写真である。
【
図12】
図12は、ePTFEの貪食像を示す図面代用写真である。
【
図13】
図13は、生体組織再生治療用シートの粗面化面側の電子顕微鏡写真である。
【
図14】
図14は、生体組織再生治療用シートの第2面と生体膜とが分離している様子を示す図面代用写真である。
【
図16】
図16は、MSC用培地で培養された細胞の0日経過後の様子の顕微鏡写真である。
【
図17】
図17は、MSC用培地で培養された細胞の2日経過後の様子の顕微鏡写真である。
【
図18】
図18は、MSC用培地で培養された細胞の7日経過後の様子の顕微鏡写真である。
【
図19】
図19は、各マーカーの染色についての顕微鏡写真である。
【
図20】
図20は、scRNA-seq解析の結果を示す図面代用写真である。
【
図21】
図21は、scRNA-seq解析の結果を示す図面代用写真である。
【
図22】
図22は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、生体内組織に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図23】
図23は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートの粗面化面に沿って生体膜が新生された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図24】
図24は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、脳損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図25】
図25は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、脊髄損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図26】
図26は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、肺構造体の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図27】
図27は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、肺構造体の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図28】
図28は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、血管の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図29】
図29は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シートが、血管の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図30】
図30は、培養シートを用いて細胞が培養される様子を模式的に示す概略断面図である。
【
図31】
図31は、第2の実施形態における再生治療方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、実施形態における生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、血管損傷修復用シート、培養シート、および、再生治療方法について説明する。なお、以下の説明において、同じ機能を有する部材、部位については同一の符号が付され、同一の符号が付されている部材、部位について、繰り返しの説明は省略される。
【0030】
(第1の実施形態)
図1乃至
図30を参照して、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aについて説明する。
図1は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの一部分を模式的に示す図である。
図2は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aを模式的に示す概略斜視図である。
図3は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの一部分を拡大して示す概略断面図である。
図4は、ラットの頭部が切開された様子を示す図面代用写真である。
図5は、ラットの頭部が開頭された様子を示す図面代用写真である。
図6は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、開頭部位を覆うように留置された様子を示す図面代用写真である。
図7は、生体組織再生治療用シート1Aが、自家骨および骨蝋で被覆された様子を示す図面代用写真である。
図8は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが半透明化され、生体組織再生治療用シート1Aの周囲に淡黄色透明な生体膜が形成された様子を示す図面代用写真である。
図9は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、腹膜40の開口部40aを塞ぐように留置された様子を示す図面代用写真である。
図10は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aに沿って半透明な生体膜5が形成され、当該生体膜5の内部に毛細血管Bが新生された様子を示す図面代用写真である。
図11は、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20rに噛み合うように生体膜5が新生された様子を示す図面代用写真である。
図12は、ePTFEの貪食像6を示す図面代用写真である。
図13は、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面側の電子顕微鏡写真である。
図14は、生体組織再生治療用シート1Aの第2面30と生体膜5’とが分離している様子を示す図面代用写真である。
図15は、培養対象物を示す図面代用写真である。
図16は、MSC用培地で培養された細胞の0日経過後の様子の顕微鏡写真である。
図17は、MSC用培地で培養された細胞の2日経過後の様子の顕微鏡写真である。
図18は、MSC用培地で培養された細胞の7日経過後の様子の顕微鏡写真である。
図19は、各マーカーの染色についての顕微鏡写真である。
図20および
図21は、scRNA-seq解析の結果を示す図面代用写真である。
図22は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、生体内組織4に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
図23は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20rに沿って生体膜5が新生された様子を模式的に示す概略断面図である。
図24は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、脳損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
図25は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、脊髄損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
図26および
図27は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、肺構造体45の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
図28および
図29は、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aが、血管91の損傷部位に留置された様子を模式的に示す概略断面図である。
図30は、培養シート1Hを用いて細胞Cが培養される様子を模式的に示す概略断面図である。
【0031】
図1に例示されるように、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、第1面20と、第1面20とは反対側に配置される第2面30とを備える。換言すれば、生体組織再生治療用シート1Aは、2つの主面を有し、2つの主面のうちの一方が第1面20であり、2つの主面のうちの他方が第2面30である。
【0032】
図2に例示されるように、第1面20は、粗面化面20rを含む。
図1に記載の例では、第1面20の一部が粗面化面20rであり、第1面20の他の一部が非粗面化面20sである。代替的に、第1面20の全体が粗面化面20rであってもよい。なお、本明細書において、「粗面化面」とは、粗面化処理が施された面を意味する。粗面化面20rの最大高さ粗さRzは、例えば、8μm以上である。なお、「最大高さ粗さRz」は、JIS B 0601:2013(対応国際規格ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に基づき測定される。
【0033】
粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。換言すれば、粗面化面20rを構成する材料全体に占める粗面化面を構成するポリテトラフルオロエチレンの割合が50重量パーセント以上である。粗面化面20rを構成する材料全体に占める粗面化面を構成するポリテトラフルオロエチレンの割合は、70重量パーセント以上、90重量パーセント以上、95重量パーセント以上、あるいは、99重量パーセント以上であってもよい。
【0034】
生体組織再生治療用シート1Aの全体が、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含んでいてもよい。換言すれば、生体組織再生治療用シート1Aを構成する材料全体に占めるポリテトラフルオロエチレンの割合が50重量パーセント以上であってもよい。生体組織再生治療用シート1Aを構成する材料全体に占める生体組織再生治療用シート1Aを構成するポリテトラフルオロエチレンの割合は、70重量パーセント以上、90重量パーセント以上、95重量パーセント以上、あるいは、99重量パーセント以上であってもよい。代替的に、生体組織再生治療用シート1Aは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成される層と、他の材料によって構成される層との積層体であってもよい。この場合、少なくとも粗面化面20rを構成する材料の主成分がポリテトラフルオロエチレンであればよい。
【0035】
第2面30は、粗面化面であってもよいし、平滑面であってもよい。なお、本明細書において、「平滑面」とは、粗面化処理が施されておらず、且つ、粗面化面20rよりも最大高さ粗さRzが小さな面を意味する。
【0036】
第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、粗面化処理が施されたポリテトラフルオロエチレンが生体内組織の細胞によって貪食される特性を有する。ポリテトラフルオロエチレンを生体内組織に接触させても、通常、当該ポリテトラフルオロエチレンが生体内組織の細胞によって貪食されることはない。これに対し、第1の実施形態では、生体内組織の細胞が、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面20rを貪食するように構成される。また、粗面化面20rを足場として、生体組織の再生が進行する。なお、貪食とは、生体内組織の細胞が不必要なものを取り込む作用を意味する。
【0037】
以上のとおり、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、これまでに知られていない新規なメカニズムによって生体組織の再生を実現する。また、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、ポリテトラフルオロエチレンを用いた医療用シートにおいて、生体組織の再生という新たな用途を提供する。
【0038】
(任意付加的な構成)
続いて、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aにおいて、採用可能な任意付加的な構成について説明する。
【0039】
(イオン注入層2)
図3に例示されるように、粗面化面20rは、イオン注入層2の表面によって構成されていてもよい。なお、本明細書において、「イオン注入層2」とは、イオン化された元素が注入されることにより物理的および/または化学的な特性が改変された層を意味する。
図3に記載の例では、イオン注入層2は、イオン注入によって、その表面に微細な複数の凹み20dを有する。また、イオン注入層2は、ポリテトラフルオロエチレンに、イオン注入によって注入された元素が不純物として混在する層である。なお、イオン注入された元素の一部は、イオン注入層2から抜け出してもよい。
【0040】
図3に記載の例において、ポリテトラフルオロエチレンにイオン注入される元素は、例えば、アルゴン、ネオン等である。換言すれば、イオン注入層2は、ポリテトラフルオロエチレンに、アルゴンが不純物として混在する層であってもよいし、ポリテトラフルオロエチレンに、ネオンが不純物として混在する層であってもよい。
【0041】
(粗面化面20r)
粗面化面20rが細胞によって貪食されることを許容する観点から、粗面化面20rは、粗面化面20rを貪食する細胞のサイズと同程度の大きさの凹み20dを有することが好ましい。なお、本明細書において、粗面化面20rを貪食する細胞のサイズと同程度の大きさの凹みとは、粗面化面20rを貪食する細胞の直径の1/2以上2倍以下の深さの凹みを意味する。例えば、人のマクロファージのサイズは、15μm以上20μm以下程度である。よって、粗面化面20rは、深さが7.5μm以上30μm以下の凹み20d(例えば、深さが7.5μm以上15μm以下の凹み20d、および/または、深さが15μm以上30μm以下の凹み20d)、あるいは、深さが10μm以上40μm以下の凹み20d(例えば、深さが10μm以上20μm以下の凹み20d、および/または、深さが20μm以上40μm以下の凹み20d)を有することが好ましい。この場合、粗面化面20rを貪食する細胞(例えば、マクロファージ)は、粗面化面20rの凹みに進入しつつ、粗面化面20rを貪食することができる。
【0042】
(延伸ポリテトラフルオロエチレン)
本明細書において、ポリテトラフルオロエチレンは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(以下、「ePTEF」という。)であってもよい。ePTEFは、延伸処理が施されたポリテトラフルオロエチレン(より具体的には、加熱状態で延伸されたポリテトラフルオロエチレン)である。ePTEFは、例えば、米国特許第3953566号または第4187390号に記載された方法を用いて作られた、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンである。代替的に、本明細書におけるポリテトラフルオロエチレンは、非延伸ポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
【0043】
(粗面化面20rと生体内組織との接着)
粗面化面20r(より具体的には、イオン注入層2)と生体内組織との接着は、フィブリングルー等の接着剤を介して行われてもよいし、接着剤を介することなく行われてもよい。換言すれば、粗面化面20rには、接着剤が適用されてもよいし、接着剤が適用されなくてもよい。なお、粗面化面20rと生体内組織との間の隙間を、新生された細胞で満たす観点からは、粗面化面20rには、接着剤が適用されないことが好ましい。
【0044】
(第2面30)
第2面30は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含んでいてもよい。換言すれば、第2面30を構成する材料全体に占める第2面30を構成するポリテトラフルオロエチレンの割合が50重量パーセント以上であってもよい。第2面30を構成する材料全体に占める第2面30を構成するポリテトラフルオロエチレンの割合は、70重量パーセント以上、90重量パーセント以上、95重量パーセント以上、あるいは、99重量パーセント以上であってもよい。
【0045】
第2面30は、例えば、非粗面化面である。第2面30が、非粗面化面である場合、第2面30と生体内組織との癒着が防止または抑制される。第2面30が非粗面化面である場合、第2面30は、イオン注入層2ではない。
【0046】
(生体組織再生治療用シートの膜厚)
生体組織再生治療用シート1Aの膜厚は、例えば、50μm以上500μm以下、50μm以上300μm以下、50μm以上200μm以下、あるいは、50μm以上150μm以下である。膜厚が十分に薄い場合、生体内組織の外形形状に沿って、生体組織再生治療用シート1Aを留置するのが容易である。
【0047】
(実験1乃至実験3で用いた生体組織再生治療用シート)
アルゴンイオン(Ar+)がイオン注入されることにより形成された粗面化面20rを有する生体組織再生治療用シート1Aを用いて以下の実験1乃至実験3を行った。当該実験1乃至実験3において、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20rを構成する材料全体に占める粗面化面を構成するポリテトラフルオロエチレンの割合は、99重量パーセント以上であり、生体組織再生治療用シート1Aを構成する材料全体に占めるポリテトラフルオロエチレンの割合は、99重量パーセント以上であった。また、生体組織再生治療用シート1Aの膜厚は300μmであった。また、アルゴンイオン(Ar+)の加速電圧は、150keVであり、生体組織再生治療用シート1Aへのアルゴンイオン(Ar+)の注入量は、1×1014イオン/cm2であった。
【0048】
(実験1)
ラット(Wistar、8週、オス)に吸入麻酔をかけたのち、約2cmの正中切開をし(
図4)、切開部分の右側領域において約8mm大の円形開頭を行い(
図5)、トリミングした生体組織再生治療用シート1Aを、開頭部位を覆うように留置した(
図6)。なお、生体組織再生治療用シート1Aは、第2面30(より具体的には、非粗面化面)が頭の内側を向き、粗面化面20rが頭の外側を向くように留置された。その後、自家骨と骨蝋で粗面化面20rを被覆し(
図7)、閉創した。
【0049】
留置後4.5カ月でsacrificeしたラットにおいて、生体組織再生治療用シート1Aは半透明化しており、生体組織再生治療用シート1Aの周囲には淡黄色透明な生体膜が形成されていた(
図8)。
【0050】
頭の外側を向く粗面化面20rに沿って淡黄色透明な生体膜が形成されることは意外性のある結果であった。また、生体組織再生治療用シート1Aの半透明化も意外な結果であった(すなわち、不透明材料であるePTFEが、体内留置により半透明化することは想定外であった。)。
【0051】
(実験2)
マウス(C57BL、8週、オス)に吸入麻酔をかけたのち、腹膜40に開口部40aを形成し、当該開口部40aを塞ぐように約1cm四方の生体組織再生治療用シート1Aを留置した(
図9)。なお、生体組織再生治療用シート1Aは、粗面化面20rが腹膜40の裏面に接触し、第2面30(より具体的には、非粗面化面)が腹腔の中央を向くように留置された。生体組織再生治療用シート1Aと腹膜40とは2カ所で縫合固定し、その後、閉創した。留置後6週でマウスをsacrificeし、組織学的検討を行った。生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20r側の表面には半透明の生体膜5が形成され、当該生体膜5の内部に明らかな毛細血管Bの新生が認められた(
図10)。ヘマトキシリン・エオジン染色および免疫組織化学染色により(
図11)、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20r側(換言すれば、イオン注入層2側)において新生された生体膜5内に多数の多核巨細胞を認め、一部でePTFEの貪食像6も認められた(
図12)。なお、
図11から把握されるように、生体組織再生治療用シート1Aには、粗面化面20rに沿って新生組織(より具体的には、新生された生体膜5)が進展し、且つ、当該新生組織(より具体的には、新生された生体膜5)が粗面化面20rの凹凸と噛み合うように形成されていた。また、粗面化面20rから生体組織再生治療用シート1Aの内部に至る連続した細胞の浸潤7(より具体的には、イオン注入層2の内部への細胞の浸潤)が認められた(
図12)。走査型電子顕微鏡を用いて生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面側(換言すれば、イオン注入層側)を観察したところ、生体組織再生治療用シート1Aの表面に線維芽細胞やマクロファージ様の細胞が多数認められた(
図13)。他方、生体組織再生治療用シート1Aの第2面30(より具体的には、非粗面化面)側に形成された生体膜5’に関しては、生体組織再生治療用シート1Aの内部への細胞の浸潤、ePTFEの貪食像6等は、認められなかった(
図14)。
【0052】
(実験3:生体膜の培養)
生体組織再生治療用シート1Aと、生体組織再生治療用シート1Aに結合した状態で生成された生体膜とをラットから取り出し、断片化して生体膜側を6wellプレートに貼り付けた(
図15)。これらのwellに、それぞれ、iPS細胞用の培地(Stemflex medium(Thermo Fisher) + penicillin streptomycin + Zell shield(Funakoshi):
図15の左上)、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell、以下「MSC」という。)用の培地(low glucose DMEM + hyclone FBS +kanamycin:
図15の中央上)、神経膠腫細胞用の培地(high glucose DMEM + Corning FBS +penicillin streptomycin:
図15の右上)、線維芽細胞用の培地(low glucose DMEM + penicillin streptomycin:
図15の左下)を入れ、Primary cultureを行った。なお、線維芽細胞用の培地に関しては、生体組織再生治療用シート1AをTrypsin処理したもの(
図15の中央下)、および、生体膜のみを張り付けたもの(
図15の右下)も培養した。この中でMSC用の培地のみで細胞の増殖を認めた(
図16:0日経過後、
図17:2日経過後、
図18:7日経過後)。増殖した細胞種を推定するために細胞の免疫染色を行った。
【0053】
(細胞の免疫染色)
MSC用の培地で細胞の増殖が認められたため、MSCマーカーを中心に染色を行った(
図19)。MSCマーカーである、CD29、CD105は陽性であったが、MSCマーカーであるCD90は陰性であった。神経幹細胞マーカーのSOX2が陽性である一方で、神経幹細胞マーカーのnestinは陰性であった。また、星状細胞(アストロサイト)マーカーのGFAPや神経細胞(ニューロン)マーカーのMAP2は陰性であった。いずれのマーカーもすべての細胞で染色されてはおらず、複数種の細胞が混在していると考えられた。このため、次に、細胞種の同定を行うべくシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)解析を行った。
【0054】
(scRNA-seq解析)
生体組織再生治療用シート1Aに結合して生成された生体膜から増殖した細胞の種類を特定すべく、scRNA-seq解析が行われた。より具体的には、生体組織再生治療用シート1Aをラットに8カ月留置した後、当該ラットから、生体組織再生治療用シート1Aと、生体組織再生治療用シート1Aに結合して生成された生体膜とを取り出し、MSC用の培地で培養を行い、その細胞混濁液をサンプルとして、scRNA-seqを受託する会社に提出した。各細胞に発現している遺伝子を解析した結果、遺伝子発現量に基づいて12の細胞集団(クラスター)に分けることができた(
図20)。各クラスターにおける特徴的な発現遺伝子から、増殖した細胞種の内訳として、線維芽細胞、MSC、マクロファージ、筋線維芽細胞、オリゴデンドロサイトが存在していることが推定された(
図21)。
【0055】
(実験結果、および、分析結果のまとめ)
実験1および実験2の結果から、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20r側の表面(より具体的には、イオン注入層2側の表面)で、血管新生を伴う生体膜の形成が確認された。また、実験1および実験2の結果から、生体組織再生治療用シート1Aの透明化が確認された。
【0056】
実験2の結果として、マウスの腹膜に生体組織再生治療用シート1Aを長期間留置すると、粗面化面20r側の表面において(より具体的には、イオン注入層2側の表面において)、多核細胞が出現することが認められた。加えて、実験2の結果として、イオン注入層2の内部への細胞の浸潤と、イオン注入層2を構成するポリテトラフルオロエチレンの貪食像が認められた。
【0057】
実験3の結果から、生体組織再生治療用シート1Aと、MSC用の培地とを用いて行われた培養において、細胞増殖が認められた。また、細胞の免疫染色によって、幹細胞マーカーの陽性(換言すれば、幹細胞の発現)が認められた。シングルセルRNAシーケンス解析の結果から、培養された細胞には、線維芽細胞、MSC、マクロファージ、筋線維芽細胞、オリゴデンドロサイトが含まれていることが確認された。
【0058】
これらの結果から、生体組織再生治療用シート1Aは生体親和性を持つことが確認され、生体組織再生治療用シート1Aを足場として組織修復が行われる可能性があること(換言すれば、実験で用いられた生体組織再生治療用シート1Aには、再生医療用の医療器具としてのポテンシャルがあること)が示唆された。
【0059】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性1)
実験3の結果、および、scRNA-seq解析の結果から、生体組織再生治療用シート1Aは、「損傷した生体内組織に粗面化面20rが接触留置される場合、損傷した生体内組織に第2面30が接触留置される場合と比較して、生体組織再生治療用シート表面における間葉系幹細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、および、オリゴデンドロサイトのうちの少なくとも1つの発現が顕著となる」特性(以下、「特性1」という。)を有すると言える。
【0060】
また、実験3の結果、および、scRNA-seq解析の結果から、生体組織再生治療用シート1Aは、「損傷した生体内組織に粗面化面20rが接触留置される場合、損傷した生体内組織に第2面30が接触留置される場合と比較して、生体組織再生治療用シート表面における間葉系幹細胞の発現が顕著となる」特性を有すると言える。
【0061】
生体組織再生治療用シート1Aは特性1を有するため、当該生体組織再生治療用シート1Aは、再生医療用の医療器具として有用であると言える。
【0062】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性2)
実験2の結果(
図10を参照。)から、生体組織再生治療用シート1Aは、「損傷した生体内組織に粗面化面20rが接触留置される場合、粗面化面20rに沿って毛細血管Bが新生される」特性(以下、「特性2」という。)を有すると言える。
【0063】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性3)
図22に例示されるように、生体組織再生治療用シート1Aは、「粗面化面20rが生体内組織4の欠損領域RGに対向するよう当該粗面化面20rが生体内組織4の縁部4eに接触留置される場合、当該欠損領域RGにおいて粗面化面20rに沿うように生体膜5および毛細血管Bが新生される」特性(以下、「特性3」という。)を有する(
図23を参照。)。当該特性3は、実験2によって判明した事象に基づく特性である。
【0064】
生体組織再生治療用シート1Aは特性2または特性3を有するため、当該生体組織再生治療用シート1Aは、再生医療用の医療器具として有用であると言える。生体組織再生治療用シート1Aが特性2を有する場合、毛細血管Bを介して新生された生体膜5に栄養等が供給される。よって、生体膜5が速やかに新生する。また、生体組織再生治療用シート1Aが特性3を有する場合、生体内組織4の欠損領域RGが生体膜5によって速やかに塞がれる。
【0065】
図22および
図23に例示されるように、生体組織再生治療用シート1Aは、「生体内組織4に粗面化面20rが接触留置される場合、粗面化面20rに沿って生体内組織4から新生組織が進展し、且つ、当該新生組織が粗面化面20rの凹凸と噛み合うように進展する」特性を有していてもよい。
【0066】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性4)
図22および
図23に例示されるように、生体組織再生治療用シート1Aは、「生体内組織4に粗面化面20rが接触留置される場合、当該生体内組織4と粗面化面20rとの間の隙間の実質的に全てが新生組織によって満たされる」特性(以下、「特性4」という。)を有していてもよい。生体組織再生治療用シート1Aが特性4を有する場合、生体内組織4と粗面化面20rとが強固に結合する。また、生体内組織4と粗面化面20rとの間の隙間から、体液等が漏れにくい。
【0067】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性5)
実験2の結果(
図12を参照。)から、生体組織再生治療用シート1Aは、「イオン注入層2の内部に生体内組織の細胞が浸潤する」特性(以下、「特性5」という。)を有すると言える。
【0068】
図12に例示されるように、生体組織再生治療用シート1Aは、粗面化面20rの凹みに生体内組織の細胞が浸潤するように構成されていてもよい。また、生体組織再生治療用シート1Aは、ポリテトラフルオロエチレンとイオン注入された元素とによって構成される構造体の内部に細胞が浸潤するように構成されていてもよい。
【0069】
(生体組織再生治療用シート1Aの特性6)
実験2の結果(例えば、
図8を参照。)から、生体組織再生治療用シート1Aは、「生体内組織(例えば、生体内の膜組織等)に粗面化面20rが6か月以上接触留置される場合、生体組織再生治療用シート1Aの粗面化面20rを構成する不透明のポリテトラフルオロエチレンが、透明化または半透明化する」特性(以下、「特性6」という。)を有すると言える。
【0070】
ポリテトラフルオロエチレンの透明化または半透明化のメカニズムは不明である。しかし、ポリテトラフルオロエチレンの透明化または半透明化には、生体内組織4、新生される生体膜5、および、これらを構成する細胞のうちのいずれかが関与していると推察される。
【0071】
ポリテトラフルオロエチレンが透明化または半透明化される場合、生体組織再生治療用シート1Aの裏側の生体組織の状態を把握できる可能性がある。
【0072】
(神経損傷修復用シート1B)
上述の第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aを、神経損傷修復用シート1Bとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの説明において、「生体組織再生治療用シート1A」を、「神経損傷修復用シート1B」に読み替え可能である。
【0073】
図24または
図25に例示されるように、神経損傷修復用シート1Bは、(1)生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面20rを含む第1面20と、(2)第1面20の反対側に配置された第2面30と、を具備する。粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。粗面化面20r、第1面20、および、第2面30については、説明済みであるため、これらの構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0074】
上述の特性1乃至特性6を有する神経損傷修復用シート1Bは、神経損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図24に例示されるように、粗面化面20rが生体内組織4の神経損傷部位RG1に対向留置される場合に、当該神経損傷部位RG1に対向する粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。
【0075】
神経損傷修復用シート1Bは、「粗面化面20rが生体内組織4の神経損傷部位RG1に対向留置される場合に、粗面化面20rを足場として神経細胞が再生される」ように構成されてもよい。
【0076】
(脳損傷修復用シート1C)
上述の第1の実施形態における神経損傷修復用シート1Bを、脳損傷部位に適用することにより脳損傷修復用シート1Cとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1A(あるいは、神経損傷修復用シート1B)の説明において、「生体組織再生治療用シート1A」(あるいは、「神経損傷修復用シート1B」)を、「脳損傷修復用シート1C」に読み替え可能である。
【0077】
上述の特性1乃至特性6を有する脳損傷修復用シート1Cは、脳損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図24に例示されるように、粗面化面20rが生体内組織4の脳損傷部位RG2に対向留置される場合に、当該脳損傷部位RG2に対向する粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。なお、
図24において、脳損傷修復用シート1Cは、頭蓋骨81、硬膜82、および、クモ膜83の全ての内側において、脳損傷部位RG2に接触留置されている。
【0078】
脳損傷修復用シート1Cは、軟膜84の内側に留置されるようにしてもよい。脳損傷修復用シート1Cは、軟膜84によって支持されるよう、軟膜84に取り付けられてもよい。
【0079】
(脊髄損傷修復用シート1D)
上述の第1の実施形態における神経損傷修復用シート1Bを、脊髄損傷部位に適用することにより脊髄損傷修復用シート1Dとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1A(あるいは、神経損傷修復用シート1B)の説明において、「生体組織再生治療用シート1A」(あるいは、「神経損傷修復用シート1B」)を、「脊髄損傷修復用シート1D」に読み替え可能である。
【0080】
上述の特性1乃至特性6を有する脊髄損傷修復用シート1Dは、脊髄損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図25に例示されるように、粗面化面20rが生体内組織4の脊髄損傷部位RG3に対向留置される場合に、当該脊髄損傷部位RG3に対向する粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。なお、
図25において、脊髄損傷修復用シート1Dは、硬膜82、および、クモ膜83の内側において、脊髄損傷部位RG3に接触留置されている。
【0081】
脊髄損傷修復用シート1Dは、軟膜84の内側に留置されるようにしてもよい。脊髄損傷修復用シート1Dは、軟膜84によって支持されるよう、軟膜84に取り付けられてもよい。
【0082】
(肺損傷修復用シート1E)
上述の第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aを、肺損傷修復用シート1Eとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの説明において、「生体組織再生治療用シート1A」を、「肺損傷修復用シート1E」に読み替え可能である。
【0083】
図26または
図27に例示されるように、肺損傷修復用シート1Eは、(1)生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面20rを含む第1面20と、(2)第1面20の反対側に配置された第2面30と、を具備する。粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。粗面化面20r、第1面20、および、第2面30については、説明済みであるため、これらの構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0084】
上述の特性1乃至特性6を有する肺損傷修復用シート1Eは、肺損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図26または
図27に例示されるように、粗面化面20rが肺構造体45の欠損領域RG4(より具体的には、肺構造体45の開口部)に対向するよう当該粗面化面20rが肺構造体45(より具体的には、肺構造体45の欠損領域RG4を規定する縁部45e)に接触留置される場合、当該欠損領域RG4において、粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。
【0085】
なお、本明細書において、肺損傷には、臓側胸膜450の損傷、および、壁側胸膜の損傷が包含される。
図26に記載の例では、臓側胸膜450に欠損領域RG4(より具体的には、開口部)が存在する。また、肺損傷修復用シート1Eは、当該欠損領域RG4を覆うように、臓側胸膜450に取り付けられる。
図26に例示されるように、肺損傷修復用シート1Eは、臓側胸膜450の外側に取り付けられるように構成されてもよいし、
図27に例示されるように、臓側胸膜450の内側に取り付けられるように構成されてもよい。
図26または
図27において、肺損傷修復用シート1Eは、気胸治療用シートとして機能してもよい。
【0086】
肺損傷修復用シート1Eが上述の特性4を有する場合、生体内組織4(例えば、臓側胸膜450)と粗面化面20rとの間の隙間の実質的に全てが新生組織によって満たされる。よって、生体内組織4と粗面化面20rとの間の隙間から空気が漏れることが防止される。また、
図26または
図27に記載の例では、粗面化面20rを足場として、生体膜5および毛細血管Bが、欠損領域RG4に架け渡されるように進展するように構成される。この場合、肺構造体45の欠損領域RG4が、生体膜5によって塞がれる。よって、肺損傷が好適に修復される。
【0087】
(腹膜損傷修復用シート1F)
上述の第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aを、腹膜損傷修復用シート1Fとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの説明において、「生体組織再生治療用シート1A」を、「腹膜損傷修復用シート1F」に読み替え可能である。
【0088】
腹膜損傷修復用シート1Fは、(1)生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面20rを含む第1面20と、(2)第1面20の反対側に配置された第2面30と、を具備する。粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。粗面化面20r、第1面20、および、第2面30については、説明済みであるため、これらの構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0089】
上述の特性1乃至特性6を有する腹膜損傷修復用シート1Fは、腹膜損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図9に例示されるように、粗面化面20rが腹膜40の欠損領域(より具体的には、開口部40a)に対向するよう当該粗面化面20rが腹膜40(より具体的には、腹膜40の開口部40aを規定する縁部)に接触留置される場合、当該欠損領域において、粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。
【0090】
腹膜損傷修復用シート1Fが上述の特性4を有する場合、腹膜40と粗面化面20rとの間の隙間の実質的に全てが新生組織によって満たされる。よって、腹膜40と粗面化面20rとの間の隙間から体液またはガスが漏れることが防止される。また、
図10に記載の例では、粗面化面20rを足場として、生体膜5および毛細血管Bが、欠損領域(
図9における開口部40aを参照。)に架け渡されるように進展するように構成される。この場合、腹膜40の欠損領域(より具体的には、開口部40a)が、生体膜5によって塞がれる。よって、腹膜損傷が好適に修復される。
【0091】
(血管損傷修復用シート1G)
上述の第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aを、血管損傷修復用シート1Gとして用いることが可能である。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの説明において、「生体組織再生治療用シート1A」を、「血管損傷修復用シート1G」に読み替え可能である。
【0092】
図28または
図29に例示されるように、血管損傷修復用シート1Gは、(1)生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面20rを含む第1面20と、(2)第1面20の反対側に配置された第2面30と、を具備する。粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。粗面化面20r、第1面20、および、第2面30については、説明済みであるため、これらの構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0093】
上述の特性1乃至特性6を有する血管損傷修復用シート1Gは、血管損傷部位の組織再生の足場として機能する。例えば、
図28または
図29に例示されるように、粗面化面20rが血管91の損傷領域RG5(より具体的には、血管91の開口部91a)に対向するよう当該粗面化面20rが血管91(より具体的には、血管91の開口部91aを規定する縁部95e)に接触留置される場合、当該損傷領域RG5において(より具体的には、血管91の開口部91aにおいて)、粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bが新生される。
【0094】
図28または
図29に記載の例では、血管損傷修復用シート1Gは、血管91の損傷領域RG5(より具体的には、開口部91a)を覆うように、血管91に取り付けられる。
図28に例示されるように、血管損傷修復用シート1Gは、血管91の外側に取り付けられるように構成されてもよいし、
図29に例示されるように、血管91の内側に取り付けられるように構成されてもよい。
【0095】
血管損傷修復用シート1Gが上述の特性4を有する場合、血管91と粗面化面20rとの間の隙間の実質的に全てが新生組織によって満たされる。よって、血管91と粗面化面20rとの間の隙間から血液が漏れることが防止される。また、
図28または
図29に記載の例では、粗面化面20rを足場として、生体膜5および毛細血管Bが、血管91の損傷領域RG5(より具体的には、開口部91a)に架け渡されるように進展するように構成される。この場合、血管91の損傷領域RG5(より具体的には、開口部91a)が、生体膜5によって塞がれる。よって、血管損傷が好適に修復される。
【0096】
(培養シート1H)
第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、粗面化面20rが、生体組織再生の足場として良好に機能する。そこで、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aは、培養シート1Hとして用いられてもよい。換言すれば、第1の実施形態における生体組織再生治療用シート1Aの説明において、「生体組織再生治療用シート1A」を、「培養シート1H」に読み替え可能である。
【0097】
図30に例示されるように、第1の実施形態における培養シート1Hは、(1)培養対象の細胞Cまたは当該細胞Cを含む生体組織が配置される粗面化面20rを含む第1面20と、(2)第1面20の反対側に配置された第2面30と、を具備する。粗面化面20rは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。粗面化面20rは、上述の細胞Cによって貪食される。粗面化面20r、第1面20、および、第2面30については、説明済みであるため、これらの構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0098】
培養シート1Hは、「培養対象の細胞Cまたは当該細胞Cを含む生体組織が粗面化面20rに接触配置される場合、培養対象の細胞Cまたは当該細胞Cを含む生体組織が第2面30に接触配置される場合と比較して、培養シート1Hの表面における間葉系幹細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、および、オリゴデンドロサイトのうちの少なくとも1つの発現が顕著となる」特性を有していてもよい。なお、発現する細胞等は、培養対象の細胞Cの種類に依存する。
【0099】
培養シート1Hは、イオン注入層2の内部に上述の細胞Cが浸潤する特性を有していてもよい。培養シート1Hは、粗面化面20rの凹みに上述の細胞Cが浸潤するように構成されていてもよい。また、培養シートHは、ポリテトラフルオロエチレンとイオン注入された元素とによって構成される構造体の内部に上述の細胞Cが浸潤するように構成されていてもよい。
【0100】
(第2の実施形態)
図1乃至
図31を参照して、第2の実施形態における再生治療方法について説明する。
図31は、第2の実施形態における再生治療方法の一例を示すフローチャートである。
【0101】
図2に例示されるように、第1ステップST1において、生体組織再生治療用シート1Aが準備される。第1ステップST1は、準備工程である。
【0102】
準備工程(第1ステップST1)において準備される生体組織再生治療用シート1Aは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む粗面化面20rによって少なくとも一部が構成される第1面20と、第1面20の反対側に配置された第2面30とを有する。
【0103】
準備工程(第1ステップST1)は、第1面20にイオン(例えば、アルゴンイオン、ネオンイオン等)を照射することにより、生体組織再生治療用シート1Aにイオン注入層2を形成することを含んでいてもよい。第1面20にイオンが照射されることにより、第1面20のうちのイオンが照射された部分が粗面化面20rとなる。また、粗面化面20rは、イオン注入層2の表面によって構成されることとなる。
【0104】
準備工程(第1ステップST1)は、イオンが注入された生体組織再生治療用シート1Aに加熱処理を適用することを含んでいてもよい。イオン注入および加熱処理によって、ポリテトラフルオロエチレンの重合構造の規則性が緩和される。当該規則性の緩和によって、後述の再生工程において、ポリテトラフルオロエチレンが透明化または半透明化され易くなる可能性がある。当該加熱処理において、生体組織再生治療用シート1Aは、摂氏100度以上の加熱雰囲気中に配置されてもよい。
【0105】
生体組織再生治療用シート1Aについては、第1の実施形態において説明済みであるため、生体組織再生治療用シート1Aについての繰り返しとなる説明は省略する。
【0106】
図6または
図9に例示されるように、第2ステップST2において、生体組織再生治療用シート1Aが生体内組織に留置される。第2ステップST2は、留置工程である。
【0107】
留置工程(第2ステップST2)では、損傷した生体内組織に粗面化面20rが接するように、生体組織再生治療用シート1Aが生体内組織に留置される。生体組織再生治療用シート1Aが留置される生体内組織4は、例えば、脳、脊髄、肺構造体、腹膜、血管である。生体組織再生治療用シート1Aが留置される生体内組織4は、脳を覆う軟膜、脊髄を覆う軟膜、あるいは、臓側胸膜であってもよい。
【0108】
図22に例示されるように、留置工程(第2ステップST2)は、粗面化面20rが生体内組織4の欠損領域RG(例えば、生体内組織4の開口部)に対向するよう、粗面化面20rを生体内組織4(より具体的には、欠損領域RGを規定する縁部4e)に接触留置することを含んでいてもよい。
【0109】
第3ステップST3において、生体内組織の損傷部位の組織が再生される。第3ステップST3は、再生工程である。
【0110】
再生工程(第3ステップST3)では、粗面化面20rを足場として、生体内組織4の損傷部位の組織が再生される。再生工程(第3ステップST3)は、生体内組織4の細胞が、粗面化面20rの少なくとも一部を貪食することを含む。より具体的には、再生工程(第3ステップST3)は、生体内組織4の細胞が、粗面化面20rを構成するポリテトラフルオロエチレンを貪食することを含む。再生工程(第3ステップST3)は、生体内組織4の細胞が、イオン注入層2を構成するポリテトラフルオロエチレンを貪食することを含んでいてもよい。
【0111】
再生工程(第3ステップST3)は、生体組織再生治療用シート1Aに沿って、生体膜5を新生させることを含んでいてもよい。当該生体膜5には、間葉系幹細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、および、オリゴデンドロサイトのうちの少なくとも1つが含まれていてもよい。代替的に、あるいは、付加的に、当該生体膜5には、毛細血管Bが含まれていてもよい。
【0112】
上述の留置工程(第2ステップST2)が、生体内組織4の欠損領域RGに粗面化面20rを対向留置させることを含む場合、再生工程(第3ステップST3)は、欠損領域RGにおいて、粗面化面20rに沿って、生体膜5および毛細血管Bを新生させることを含んでいてもよい。再生工程(第3ステップST3)は、欠損領域RGが生体膜5によって塞がれるよう、生体膜5を新生させることを含んでいてもよい。
【0113】
再生工程(第3ステップST3)は、生体内組織4と粗面化面20rとの間の隙間の実質的に全てを新生組織によって満たすことを含んでいてもよい。また、再生工程(第3ステップST3)は、イオン注入層2の内部に生体内組織の細胞を浸潤させることを含んでいてもよい。再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rの凹みに生体内組織の細胞を浸潤させることを含んでいてもよい。また、再生工程(第3ステップST3)は、ポリテトラフルオロエチレンとイオン注入された元素とによって構成される構造体の内部に細胞を浸潤させることを含んでいてもよい。
【0114】
再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを構成するポリテトラフルオロエチレン(より具体的には、イオン注入層2を構成するポリテトラフルオロエチレン)を、不透明な状態から、透明または半透明な状態に、状態変化させることを含んでいてもよい。
【0115】
再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを足場として生体内組織4の損傷部位の組織を再生させることにより、神経損傷を修復させることを含んでいてもよい。再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを足場として生体内組織の損傷部位の組織を再生させることにより、脳損傷または脊髄損傷を修復させることを含んでいてもよい。再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを足場として、神経細胞を再生させることを含んでいてもよい。
【0116】
再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを足場として生体内組織の損傷部位の組織を再生させることにより、肺損傷、腹膜損傷、または、血管損傷を修復させることを含んでいてもよい。再生工程(第3ステップST3)は、粗面化面20rを足場として生体内組織の損傷部位の組織を再生させることにより、肺構造体の開口部、腹膜の開口部、または、血管の開口部に、生体膜5を新生させることを含んでいてもよい。
【0117】
本発明は上記各実施形態または各変形例に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施形態または各変形例は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施形態または各変形例で用いられる種々の技術は、技術的矛盾が生じない限り、他の実施形態または他の変形例にも適用可能である。さらに、各実施形態または各変形例における任意付加的な構成は、適宜省略可能である。
【0118】
実施形態における生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、あるいは、血管損傷修復用シートは、人の生体内組織に適用されてもよいし、人以外の動物の生体内組織に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1A :生体組織再生治療用シート
1B :神経損傷修復用シート
1C :脳損傷修復用シート
1D :脊髄損傷修復用シート
1E :肺損傷修復用シート
1F :腹膜損傷修復用シート
1G :血管損傷修復用シート
1H :培養シート
2 :イオン注入層
4 :生体内組織
4e :縁部
5 :生体膜
5' :生体膜
6 :貪食像
7 :細胞の浸潤
20 :第1面
20d :凹み
20r :粗面化面
20s :非粗面化面
30 :第2面
40 :腹膜
40a :開口部
45 :肺構造体
45e :縁部
81 :頭蓋骨
82 :硬膜
83 :クモ膜
84 :軟膜
91 :血管
91a :開口部
95e :縁部
450 :臓側胸膜
B :毛細血管
C :細胞
H :培養シート
RG :欠損領域
RG1 :神経損傷部位
RG2 :脳損傷部位
RG3 :脊髄損傷部位
RG4 :欠損領域
RG5 :損傷領域
【要約】
【課題】生体組織を再生する生体組織再生治療用シート、神経損傷修復用シート、脳損傷修復用シート、脊髄損傷修復用シート、肺損傷修復用シート、腹膜損傷修復用シート、血管損傷修復用シート、培養シート、および、再生治療方法を提供する。
【解決手段】生体組織再生治療用シートは、生体内組織の細胞によって貪食されることとなる粗面化面を含む第1面と、第1面の反対側に配置された第2面と、を具備する。粗面化面は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分として含む。
【選択図】
図10