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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】ベローズ型伸縮管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/12 20060101AFI20241223BHJP
   F16L 11/15 20060101ALI20241223BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241223BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20241223BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20241223BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20241223BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20241223BHJP
【FI】
F16L27/12 A
F16L11/15
C22C38/00 302Z
C22C38/00 302H
C22C38/22
C22C19/05 E
B32B1/08 Z
C22C38/58
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022129953
(22)【出願日】2022-08-17
(65)【公開番号】P2023161543
(43)【公開日】2023-11-07
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2022071266
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(73)【特許権者】
【識別番号】511089583
【氏名又は名称】日本ニューロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
(72)【発明者】
【氏名】岩本 泰一
(72)【発明者】
【氏名】西 勇也
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚志
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-220782(JP,A)
【文献】特開2009-046716(JP,A)
【文献】特開昭63-223145(JP,A)
【文献】特開平05-261531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/12
F16L 11/15
C22C 38/00
C22C 38/22
C22C 19/05
B32B 1/08
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を案内する配管経路に使用され、ベローズ形状を有する伸縮管継手であって、
管内を流れる液体に接触する内層と、
前記内層上に重なり合う外層とを備え、
前記内層を構成する材料は、重量基準で、Crを19~21%、Moを6~7%、Nを0.16~0.25%含有するステンレス鋼であり、
前記外層を構成する材料は、重量基準で、Crを16~20%、Moを3%以下、Nを0.07%以下含有するステンレス鋼である、ベローズ型伸縮管継手。
【請求項2】
液体を案内する配管経路に使用され、ベローズ形状を有する伸縮管継手であって、
管内を流れる液体に接触する内層と、
前記内層上に重なり合う外層とを備え、
前記内層を構成する材料は、重量基準で、Crを24~26%、Moを2.5~3.5%、Nを0.08~0.30%含有する二相ステンレス鋼であり、
前記外層を構成する材料は、重量基準で、Crを16~20%、Moを3%以下、Nを0.07%以下含有するステンレス鋼である、ベローズ型伸縮管継手。
【請求項3】
前記内層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS312Lであり
前記外層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS304,SUS304L,SUS316またはSUS316Lである、請求項1に記載のベローズ型伸縮管継手。
【請求項4】
前記内層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS329J4Lであり、
前記外層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS304,SUS304L,SUS316またはSUS316Lである、請求項2に記載のベローズ型伸縮管継手。
【請求項5】
当該伸縮管継手の口径は、50~3600mmであり、
前記内層の板厚(T1)は0.3~3.0mmであり、
前記内層の板厚(T1)に対する前記外層の板厚(T2)の比率(T2/T1)は、1~5である、請求項1~4のいずれかに記載のベローズ型伸縮管継手。
【請求項6】
前記外層上に重なり合う第2外層を備え、
前記第2外層を構成する材料は、JIS規格のSUS312LまたはSUS329J4Lである、請求項3または4に記載のベローズ型伸縮管継手。
【請求項7】
液体を案内する配管経路に使用され、ベローズ形状を有する伸縮管継手であって、
管内を流れる液体に接触する内層と、
前記内層上に重なり合う外層とを備え、
前記内層を構成する材料は、重量基準で、Crを14~17%、Moを14.5~17.5%、Nを0.07%以下含有するニッケル合金であり、
前記外層を構成する材料は、重量基準で、Crを16~20%、Moを3%以下、Nを0.07%以下含有するステンレス鋼である、ベローズ型伸縮管継手。
【請求項8】
前記ニッケル合金は、JIS規格のNW0276である、請求項7に記載のベローズ型伸縮管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や気体などの流体を案内する配管経路に使用される伸縮管継手に関し、特にベローズ形状を有するベローズ型伸縮管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
身近なライフラインから最先端エネルギー分野や、宇宙開発に至るまで、さまざまな生産設備には無数のパイプラインが張り巡らされている。このようなパイプラインの中で、ベローズ形状を有する伸縮管継手は、配管に作用する繰り返し変位や曲げ変形をベローズ部分で吸収し、荷重を軽減して配管の損傷を防ぐ役割を果たす。
【0003】
ベローズ形状を有する伸縮管継手は、例えば特開平2-195096号公報(特許文献1)や実公平2-39103号公報(特許文献2)等に開示されている。
【0004】
オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304,SUS316L)は一般的に耐食性および加工性が良好であり、コスト的にもリーズナブルであるため、経済性の観点及び加工性の観点からベローズ型の伸縮管継手の材料として使用されている。ステンレス製のベローズ型管継手を使用すれば、地震、地盤沈下等の場合にも柔軟に変形し、通水性等を確保できる。
【0005】
特許文献1に開示された伸縮管継手は単一層からなるものであるが、特許文献2に開示された伸縮管継手は、複数層からなるものである。
【0006】
特許文献2は、配管内に流体を存在させる配管系に設置される伸縮管継手において、高延性金属からなる境界維持層を内層とし、高強度金属からなる形状維持層を外層とするように構成したことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-195096号公報
【文献】実公平2-39103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
管継手内を流れる流体は、さまざまであり、中には、腐食性の高い液体や気体や粉体がある。微生物を含む液体が流れるような用途に伸縮管継手が使用されることもある。
【0009】
オーステナイト系ステンレス鋼は、良好な耐食性を発揮する材料として知られているので、腐食性の高い流体を案内する管にも有効に利用されている。
【0010】
本願発明者らは、凹凸の無い直管であれば、その材質をSUS304やSUS316L等の汎用のオーステナイト系ステンレス鋼とすれば腐食性の高い液体に対して良好な耐食性を発揮するものの、ベローズ形状を有するベローズ型伸縮管継手の場合には、ベローズ形状部分の内面に腐食が発生しやすいことを見出した。すなわち、ベローズ形状を有する伸縮管継手では、腐食性の高い液体が流れていない状態でもベローズ部分に液体が残留し、その部分で乾燥及び湿潤を繰り返すために、従来から使用されていた汎用のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304,SUS316L等)では耐食性が十分ではないという課題を認識した。
【0011】
このようなベローズ型伸縮管継手特有の課題、すなわちベローズ部分に残留する腐食性の高い液体によって腐食が進行するという課題の認識が、本発明の第1歩である。
【0012】
近年、大手鉄鋼メーカーから二相ステンレス鋼(SUS329J4L等)やスーパーステンレス鋼(SUS312L等)などの高耐食鋼が市販されるようになってきたが、その価格が汎用ステンレス鋼(SUS304,SUS316L等)に比べると数倍レベルであるため、耐圧を高めた厚肉タイプのベローズ型伸縮管継手に適用するとコストが嵩む。
【0013】
特許文献2に記載の考案は、配管用ベローズの境界維持性能と形状維持性能を合わせて向上させ、高伸縮量と高繰り返し数(長寿命)を達成するために、高延性金属からなる境界維持層を内層とし、高強度金属からなる形状維持層を外層とした伸縮管継手を提案している。この公報には、ベローズ型伸縮管継手特有の耐食性についての課題が認識されていない。
【0014】
本発明の目的は、コストの過度の増加を防ぎつつ、腐食性の高い流体に対して良好な耐食性を発揮するベローズ型伸縮管継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ベローズ形状を有するベローズ型伸縮管継手であって、管内を流れる流体に接触する内層と、この内層上に重なり合う外層とを備える。特徴とするところは、「Cr+3.3Mo+16N」で表す孔食指数に注目すると、内層を構成する材料が35以上で、外層を構成する材料が26以下である点である。
【0016】
一つの実施形態では、内層を構成する材料は、重量基準で、Crを19~26%、Moを2.50~7%、Nを0.08~0.30%含有するステンレス鋼であり、外層を構成する材料は、重量基準で、Crを16~20%、Moを3%以下、Nを0.07%以下含有するステンレス鋼である。好ましくは、内層を構成するステンレス鋼および外層を構成するステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である。
【0017】
他の実施形態では、内層を構成するステンレス鋼は、フェライト系およびオーステナイト系を有する二相ステンレス鋼であり、外層を構成するステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である。
【0018】
例えば、内層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS312LまたはSUS329J4Lであり、外層を構成するステンレス鋼は、JIS規格のSUS304、SUS304L,SUS316またはSUS316Lである。
【0019】
当該伸縮管継手の口径は、例えば、50~3600mmであり、内層の板厚(T1)は、例えば、0.3~3.0mmである。この場合、好ましくは、内層の板厚(T1)に対する外層の板厚(T2)の比率(T2/T1)は、1~5である。
【0020】
他の実施形態に係るベローズ型伸縮管継手は、上記外層上に重なり合う第2外層を備える。この第2外層を構成する材料の孔食指数が35以上である。
【0021】
さらに他の実施形態に係るベローズ型伸縮管継手では、内層を構成する材料は、Niを主成分として含むニッケル合金である。ニッケル合金は、例えば、重量基準で、Crを14~17%、Moを14.5~17.5%、Nを0.07%以下含有する。そのようなニッケル合金は、例えば、JIS規格のNW0276である。
【0022】
内層を構成する材料が、Niを主成分とするニッケル合金の場合、外層を構成する材料は、例えば、ステンレス鋼である。
【発明の効果】
【0023】
上記構成の本発明に係るベローズ型伸縮管継手によれば、通過する流体に直接接触する内層が、孔食指数35以上の高耐食性材料からなり、この内層上に重なり合う外層が、孔食指数26以下の汎用の材料からなるので、コストの過度の増加を防ぎつつ、腐食性の高い流体に対して良好な耐食性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】直管およびベローズ管の耐食性評価実験の手順を示す写真である。
図2】直管の錆の発生状況を示す写真である。
図3】ベローズ管の錆の発生状況を示す写真である。
図4】SUS304およびSUS312Lのベローズ管の耐食性評価実験の手順を示す写真である。
図5】SUS312Lのベローズ管の錆の発生状況を示す写真である。
図6】SUS304のベローズ管の錆の発生状況を示す写真である。
図7】NW0276のベローズ管のシミの発生状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ベローズ形状を有する従来のベローズ型伸縮管継手は、典型的には、SUS304やSUS316L等の汎用のオーステナイト系ステンレス鋼からなる単層構造である。この汎用のオーステナイト系ステンレス鋼は、良好な耐食性を発揮する材料として知られており、しかも延性が高くて成形性もよいので、腐食性の高い流体を案内する管継手の材料として一般的に利用されている。
【0026】
本願発明者らは、凹凸の無い直管であれば、その材質をSUS304やSUS316L等の汎用のオーステナイト系ステンレス鋼とすれば腐食性の高い液体に対して良好な耐食性を発揮するものの、ベローズ形状を有する伸縮管継手の場合には、腐食性の高い液体が流れていない状態でもベローズ部分に液体が残留し、その部分で乾燥及び湿潤を繰り返すために、より高い耐食性が要求されるのではないかとの疑念を抱くようになった。
【0027】
そこで、まず、汎用のオーステナイト系ステンレス鋼からなる直管と、汎用オーステナイト系ステンレス鋼からなり、ベローズ形状を有するベローズ管を用いて、腐食性の高い液体に対する耐食性評価実験を行った。
【0028】
[直管及びベローズ管の耐食性評価実験]
【0029】
1)テストサンプル
直管及びベローズ管の材質は、共に、汎用のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304であった。
【0030】
直管及びベローズ管の寸法は、以下の通りである。
直管:呼び径100A,長さ220mm、板厚0.6mm、層数1
ベローズ管:呼び径100A,長さ220mm、板厚0.6mm、層数1
ベローズ部分:山高20mm、ピッチ30mm、山数5
【0031】
2)使用した設備及び器具
ホットプレート:アズワン(株)製のエコノミーホットプレート、品番1-9385-22
ホーロー容器:野田琺瑯(株)製、品番TK-58
【0032】
3)使用した流体
富田製薬(株)製マリンアートスーパーフォーミュラ(試験研究用人工海水)
【0033】
4)使用した人工海水の成分及び溶解時1Lあたりの量
塩化ナトリウム:22.1g
塩化マグネシウム:9.9g
塩化カルシウム:1.5g
無水硫酸ナトリウム:3.9g
塩化カリウム:0.61g
炭酸水素ナトリウム:0.19g
臭化カリウム:96mg
ホウ砂:78mg
無水塩化ストロンチウム:13mg
フッ化ナトリウム:3mg
塩化リチウム:1mg
ヨウ化カリウム:81μg
塩化マンガン:0.6μg
塩化コバルト:2μg
塩化アルミニウム:8μg
塩化第二鉄:5μg
タングステン酸ナトリウム:2μg
モリブデン酸アンモニウム:18μg
【0034】
5)浸漬条件
室温:20℃
水温:50℃
水量:2000ml
人工海水量:76g
人工海水の濃度:(76/2076)×100=3.66%
浸漬時間:15分
曝露時間:30分
【0035】
6)試験手順
試験手順を示す写真を図1に示した。具体的な手順は、以下の通りである。
【0036】
ア)各ホットプレートの上にホーロー容器を置き、人工海水を溶かした溶液をホーロー容器に注ぐ。
【0037】
イ)水温が50℃になったら、溶液の注がれたホーロー容器にテストサンプルを入れ、そのままで15分間放置する。
【0038】
ウ)テストサンプルを取り出し、30分間放置する。
【0039】
エ)上記のイ)およびウ)を1サイクルとして発錆状況を観察した。なお、次サイクル前に蒸発した水分を継ぎ足し、ホーロー容器内の濃度を初期の状態と同じになるようにしてから次サイクルに移行した。
【0040】
7)試験結果
直管の錆の発生状況を図2に示し、ベローズ管の錆の発生状況を図3に示した。
【0041】
錆の発生状況については、目を30cm離した状態で材料表面を観察し、錆と判断できるものの数で比較した。
【0042】
図2に示すように、直管の場合、1サイクル後には錆が無かったが、2サイクル後に1mm以下程度の目視可能な錆が発生し、10サイクル後には1mm以下程度の錆が数か所発生した。25サイクル後にはシミの発生が見られ、50サイクル後にはシミが濃くなった。75サイクル後では、シミの一部が変色しだした。
【0043】
図3に示すように、ベローズ管の場合、1サイクル後に1mm以下程度の目視可能な錆が数か所発生し、10サイクル後には1mm以上程度の錆が数か所発生した。25サイクル後には、ベローズ形状の部分(境界面)に多量の錆が発生し、50サイクル後に錆の箇所が増加し、75サイクル後に錆の箇所がさらに増加した。
【0044】
8)評価
材質が汎用のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304であれば、直管よりもベローズ管の方がさびの発生が顕著であることがわかった。この結果から、腐食性の高い流体に接触する可能性のあるベローズ管の内面を構成する材料の材質としては、SUS304等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼ではなく、より耐食性の高いものを使用する必要性があることを認識した。
【0045】
なお、汎用オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304、SUS304L、SUS316およびSUS316Lの成分を下記の表に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
ステンレス鋼の耐孔食性を示す指標として、下記の式で表す孔食指数がある。
孔食指数=Cr+3.3Mo+16N
【0048】
SUS304およびSUS304Lの場合、Cr量を19%、Mo量を0.2%(不可避不純物として)、N量を0.02%(不可避不純物として)として計算すると、孔食指数は約20となる。
【0049】
SUS316およびSUS316Lの場合、Cr量を17%、Mo量を2.5%、N量を0.02%(不可避不純物として)として計算すると、孔食指数は約25.6となる。
【0050】
今回の結果から考察すると、孔食指数が26以下の汎用オーステナイト系ステンレス鋼は、腐食性の高い流体を通すベローズ管の内面を形成する材料として最良のものではないことが認められる。
【0051】
[SUS304及びSUS312Lのベローズ管の耐食性評価実験]
【0052】
1)テストサンプル
本発明のテストサンプルとして、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS312Lからなるベローズ管を使用した。比較例のテストサンプルとして、汎用オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304からなるベローズ管を使用した。
【0053】
ベローズ管の寸法は、以下の通りである。
ベローズ管:呼び径100A,長さ220mm、板厚0.6mm、層数1
ベローズ部分:山高20mm、ピッチ30mm、山数5
【0054】
2)使用した設備及び器具
ホットプレート:アズワン(株)製のエコノミーホットプレート、品番1-9385-22
ホーロー容器:野田琺瑯(株)製、品番TK-58
【0055】
3)使用した流体
富田製薬(株)製マリンアートスーパーフォーミュラ(試験研究用人工海水)
成分及び量は、既述したものと同じである。
【0056】
4)浸漬条件
室温:20℃
水温:50℃
水量:2000ml
人工海水量:76g
人工海水の濃度:(76/2076)×100=3.66%
浸漬時間:15分
曝露時間:30分
【0057】
5)試験手順
試験手順を示す写真を図4に示した。具体的な手順は、以下の通りである。
【0058】
ア)各ホットプレートの上にホーロー容器を置き、人工海水を溶かした溶液をホーロー容器に注ぐ。
【0059】
イ)水温が50℃になったら、溶液の注がれたホーロー容器にテストサンプルを入れ、そのままで15分間放置する。
【0060】
ウ)テストサンプルを取り出し、30分間放置する。
【0061】
エ)上記のイ)およびウ)を1サイクルとして発錆状況を観察した。なお、次サイクル前に蒸発した水分を継ぎ足し、ホーロー容器内の濃度を初期の状態と同じになるようにしてから次サイクルに移行した。
【0062】
6)試験結果
SUS312Lからなるベローズ管の錆の発生状況を図5に示し、SUS304からなるベローズ管の錆の発生状況を図6に示した。錆の発生状況については、目を30cm離した状態で材料表面を観察し、錆と判断できるものの数で比較した。
【0063】
図5に示すように、SUS312Lからなるベローズ管の場合、1サイクル後には錆が無く、2サイクル後に1mm以下程度の目視可能な錆が発生し、10サイクル後には1mm以下程度の錆が数か所発生した。25サイクル後にも1mm以下程度の錆が数か所発生し、50サイクル後にベローズ形状部分の境界面にシミが出来始めた。そして、75サイクル後にシミの一部が変色(発錆)した。
【0064】
図6に示すように、SUS304からなるベローズ管の場合、1サイクル後に1mm以下程度の目視可能な錆が数か所発生し、10サイクル後には1mm以上程度の錆が数か所発生した。25サイクル後には、ベローズ形状の部分(境界面)に多量の錆が発生し、青錆の発生も見られた。50サイクル後には錆の範囲が増加し、75サイクル後に錆の範囲がさらに増加した。
【0065】
7)評価
材質がSUS312Lのベローズ管であれば、汎用のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304のベローズ管に比べて、錆の発生が少ないことが明確に観察された。この結果から、腐食性の高い流体に接触する可能性のあるベローズ管の内面を構成する材料の材質としては、SUS304等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも耐食性の高いSUS312Lの方が適切であることを認識した。
【0066】
SUS312Lの成分を下記の表に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
SUS312Lの場合、Cr量を20%、Mo量を6%、N量を0.2%として計算すると、孔食指数は約43となる。
【0069】
なお、SUS304の孔食指数は、約20である。
【0070】
今回の結果から考察すると、孔食指数が26以下の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも、高い孔食指数(例えば35以上)を有する材料が、腐食性の高い流体を通すベローズ管の内面を形成する材料として最適のものであることが認められる。
【0071】
[孔食指数の高い材料]
【0072】
オーステナイト系ステンレス鋼のSUS312Lの孔食指数は約43であり、腐食性の高い液体を通すベローズ管の内面を形成する材料として適切である。
【0073】
フェライト系およびオーステナイト系を有する二相ステンレス鋼であるSUS329J4Lの成分を下記の表に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
SUS329J4Lの場合、Cr量を25%、Mo量を3%、N量を0.19%とすると、孔食指数は約38となる。この孔食指数の値は、汎用オーステナイト系ステンレス鋼の孔食指数26よりも10以上高いので、腐食性の高い液体を通すベローズ管の内面を形成する材料として適切である。
【0076】
ステンレス鋼の場合、孔食指数が汎用オーステナイト系ステンレス鋼の26よりも10程度高い35以上であれば、腐食性の高い液体を通すベローズ管の内面を形成する材料として適切なものと認められる。
【0077】
ステンレス鋼以外の材料でも、高耐食性を示す合金であれば、腐食性の高い液体を通すベローズ管の内面を形成する材料として適切なものと認められる。例えば、ニッケル合金は高い耐食性を示すので、ベローズ管の内面を形成する材料として使用可能である。この点については、後に詳細に説明する。
【0078】
[多層構造のベローズ管]
【0079】
孔食指数が35以上の高耐食性材料、典型的には高耐食性ステンレス鋼は一般的にその市場価格が高いので、この高耐食性材料でベローズ型伸縮管継手を製造すると、コスト的に非常に高価なものになってしまう。そこで、コストの上昇を抑えるために、腐食性の高い流体に直接接触するベローズ型伸縮管継手の内壁面に高耐食性材料からなる皮膜を形成することが考えられる。しかし、ベローズ形状部分にメッキ等で耐食性皮膜を作ると、皮膜の厚みにばらつきが生じ、耐食性に劣る部分が部分的に表れる可能性がある。また、ベローズの変形に伴い耐食性皮膜が剥離する可能性がある。
【0080】
耐食性皮膜ではなく、高耐食性材料からなる一定板厚の内管(内層)と、この内管上に重なり合う一定板厚の外管(外層)とを備える多層構造のベローズ管とすることが考えられる。この場合、コストの上昇を抑えるために、外層を、市場コストの低い材料から構成する。
【0081】
しかしながら、ベローズ管には曲げ応力等の荷重が繰り返し作用するので、単一層のベローズ管に比べて多層構造のベローズ管が強度的に劣ってしまうことを避けなければならない。本願発明者らは、単層構造ベローズ管および多層構造ベローズ管に同じ条件で繰り返し荷重を与えた場合における寿命を検討した。
【0082】
具体的には、JIS B2352に記載のベローズの強度計算式IIを用いた計算寿命回数を算出した。
【0083】
算出のための条件は、以下の通りである。
【0084】
【表4】
【0085】
上記条件を当てはめて算出すると、以下の結果が得られた。
【0086】
多層構造(0.8mm×3層):15968回
単層構造(2.4mm×1層):706回
上記の寿命回数は、以下の式によって計算したものである。
【0087】
まず、強度計算に必要な記号を以下の表に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
[3層構造の場合]
まず、全山変位量eを求める。
【0090】
【数1】
【0091】
次に、応力Spを求める。
【0092】
【数2】
【0093】
次に、応力Sdを求める。
【0094】
【数3】
【0095】
次に、寿命回数Ncを求める。
【0096】
【数4】
【0097】
[単層構造の場合]
まず、全山変位量eを求める。
【0098】
【数5】
【0099】
次に、応力Spを求める。
【0100】
【数6】
【0101】
次に、応力Sdを求める。
【0102】
【数7】
【0103】
次に、寿命回数Ncを求める。
【0104】
【数8】
【0105】
上記の結果を見ると、層数以外の条件を同一にした場合、3層構造のベローズ管は単層構造のベローズ管に対して22.6倍の寿命を有することが認められる。したがって、繰り返し荷重に対する耐性として、単層構造のベローズ管よりも多層構造のベローズ管の方が優れているものと認められる。
【0106】
[内層および外層の材料]
【0107】
内層および外層を有するベローズ管の材料について、以下に検討する。
【0108】
(1)内層および外層の両者がオーステナイト系ステンレス鋼
オーステナイト系ステンレス鋼は、延性が高く成形性が良い。また、フェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼に比べて、溶接性もよい。このような点を考慮すると、内層および外層をオーステナイト系ステンレス鋼で構成することが望ましい。腐食性の高い流体に直接接触する内層に関しては、孔食指数が35以上の高耐食性ステンレス鋼を使用し、内層上に重なり合う外層に関しては、孔食指数が26以下の汎用ステンレス鋼を使用することが望ましい。
【0109】
例えば、以下の材料の組合せが望ましい。
【0110】
内層:SUS312L
外層:SUS304、SUS304L、SUS316またはSUS316L
【0111】
上記各材料の成分は、表1および表2に示した通りである。孔食指数の値は、次の通りである。
SUS312L:43
SUS304,SUS304L:20
SUS316,SUS316L:25.6
【0112】
耐食性に大きく作用するCr、Mo、Nの量に注目すると、上記の材料であればおおよそ以下の範囲になる。
【0113】
内層(SUS312L)の場合は、以下の通りである。
Cr:19~21質量%
Mo:6~7質量%
N:0.16~0.25質量%
【0114】
外層(SUS304、SUS304L、SUS316またはSUS316L)の場合は、以下の通りである。
Cr:16~20質量%
Mo:3質量%以下
N:0.07質量%以下(不可避不純物の量として)
【0115】
(2)内層が二相ステンレス鋼で外層がオーステナイト系ステンレス鋼
フェライト系およびオーステナイト系を有する二相ステンレス鋼の一つであるSUS329J4Lも良好な耐食性を発揮する。SUS329J4Lの成分は表3に示した通りであり、その孔食指数は38である。
【0116】
SUS329J4Lは、Crを24~26%、Moを2.5~3.5%、Nを0.08~0.30%含有し、孔食指数が35以上であるので、良好な耐食性を発揮する。したがって、ベローズ管の内層を構成する材料として好適である。
【0117】
好ましい材料の組合せは、以下の通りである。
【0118】
内層:SUS329J4L
外層:SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L
【0119】
(3)ステンレス鋼のCr量、Mo量およびN量
上記の(1)および(2)の記載内容を考慮すると、内層を構成する高耐食ステンレス鋼のCr量、Mo量およびN量は以下の通りとなる。
【0120】
Cr:19~26%
Mo:2.5~7.0%
N:0.08~0.3%
【0121】
また、外層を構成する汎用ステンレス鋼のCr量、Mo量およびN量は以下の通りとなる。
【0122】
Cr:16~20%
Mo:3%以下
N:0.07%以下
【0123】
汎用ステンレス鋼のN量は、不可避不純物として含まれる量であるが、高耐食性ステンレス鋼のN量よりも少ないと考えられるから、0.07%以下とした。
【0124】
好ましい材料の組合せは、以下の通りである。
【0125】
[内層および外層の板厚]
【0126】
本願発明者らが使用を意図するベローズ型伸縮管継手の口径は、50~3600mmの範囲である。内層および外層を有する多層構造のベローズ管に設計以上の力が加わって割れが発生する場合、先に割れるのは板厚の大きい方の層と考えられる。腐食性の高い液体に接触するのは内層であるので、外層よりも内層が先に割れるのを避けることが望ましい。
【0127】
上記の観点から、内層の板厚(T1)に対する外層の板厚(T2)の比率(T2/T1)を1~5の範囲にするのが望ましい。コストの観点からしても、高価な内層の板厚を内外層合計板厚の1/2以下にすることが好ましい。
【0128】
また、内層が長期にわたって高耐食性を維持するために、内層の板厚を0.3mm以上3mm以下にすることが望まれる。薄板のシーム溶接能力からみても、板厚を0.3mm以上にするのが望ましい。
【0129】
内外層合計板厚の上限値は、成形性の観点から、6.0mmにするのが好ましい。
【0130】
[3層以上のベローズ管]
【0131】
ベローズ型伸縮管継手の外部雰囲気が、例えば塩害を伴う環境であれば、内層を高耐食性材料で構成することに加えて、外層上に第2外層を配置し、この第2外層を高耐食性材料で構成するようにしてもよい。
【0132】
上記実施形態の材料の組合せは、例えば、以下の通りである。
【0133】
内層:SUS312LまたはSUS329J4L
外層:SUS304、SUS304L、SUS316またはSUS316L
第2外層:SUS312LまたはSUS329J4L
【0134】
[ニッケル合金からなる内層]
【0135】
高耐食性を示すニッケル合金を多層構造のベローズ管の内層の材料として使用することが可能である。本願発明者らは、JIS規格のNW0276に該当するニッケル合金製のベローズ管と、ステンレス鋼製(SUS312L、SUS304)のベローズ管の耐食性を対比した。
【0136】
SUS312Lの耐食性評価実験は図5に示した通りであり、SUS304の耐食性評価実験は図6に示した通りである。既述したように、この両者の対比から、耐食性の高い流体に接触する可能性のあるベローズ管の内面を構成する材料の材質としては、SUS304等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも耐食性の高いSUS312Lの方が適切である。
【0137】
ベローズ型伸縮管継手は、温度および腐食環境がより厳しい所に設置される場合がある。例えば、製塩装置に使用されるベローズ型伸縮管継手の場合、SUS312L等の高耐食ステンレス鋼でも厳しい腐食条件に耐えられないこともある。そのような厳しい腐食環境に設置されることを意図するベローズ型伸縮管継手では、ニッケル合金製の内層を採用することが好ましい。
【0138】
本願発明者は、JIS規格のNW0276に該当するニッケル合金製のベローズ管の耐食性評価実験を行った。
【0139】
NW0276の成分は、下記の表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
上記のニッケル合金の孔食指数を算出するにあたり、Cr量を15.5%とし、Mo量を16%として、N量を不可避不純物して含まれる量の0.02%とした。その結果、孔食指数は、Cr+3.3Mo+16N=68.62となる。
【0142】
上記のニッケル合金の耐食性評価実験の条件は、図5および図6のSUS312LおよびSUS304に対する実験と同じであるので、ここでは繰返しの説明を行わない。
【0143】
ニッケル合金(NW0276)からなるベローズ管のシミの発生状況を図7に示した。
【0144】
図7に示すように、NW0276からなるベローズ管の場合、1サイクル後にはシミの発生が無く、2サイクル後に1mm以下程度のシミが数か所発生し、10サイクル後にベローズ形状部分の境界面にシミの発生が見られた。その後、25サイクル後、50サイクル後、75サイクル後にシミの増加は見られず、75サイクル後においてもシミの変色は無かった。
【0145】
図6に示すSUS304製のベローズ管の錆の発生状況や図5に示すSUS312L製のベローズ管の錆の発生状況と比較すると、図7に示すNW0276製のベローズ管は、より高い耐食性を示すことが認められる。
【0146】
今回の実験ではニッケル合金としてJIS規格のNW0276に該当する材料を使用したが、Niを主成分として含み、Crを14~17質量%、Moを14.5~17.5質量%、Nを0.07質量%以下含有するニッケル合金であれば、同様の耐食性を示すと思われる。
【0147】
より厳しい腐食環境で使用される多層構造の伸縮管継手では、内層を上記のニッケル合金製とし、外層を汎用のステンレス鋼製とすることが望ましい。外層を覆う第2外層を設ける場合には、第2外層を上記のニッケル合金製としてもよい。
【0148】
以上の説明では具体的な実施形態を例示的に用いたが、本発明の範囲は実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内、または均等の範囲内において種々の修正または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、腐食性の高い流体を案内するベローズ型伸縮管継手に有利に利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7