7607882 一方向クラッチ

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-12-20

(45)【発行日】2025-01-06

(54)【発明の名称】一方向クラッチ

(51)【国際特許分類】

   F16D 41/067 20060101AFI20241223BHJP

【ＦＩ】

F16D41/067

【請求項の数】 7

(21)【出願番号】P 2023500914

(86)(22)【出願日】2022-02-17

(86)【国際出願番号】 JP2022006312

(87)【国際公開番号】W WO2022176935

(87)【国際公開日】2022-08-25

【審査請求日】2023-06-15

(31)【優先権主張番号】P 2021025661

(32)【優先日】2021-02-19

(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP

(73)【特許権者】

【識別番号】000110206

【氏名又は名称】株式会社ＴＯＫ

(74)【代理人】

【識別番号】240000327

【弁護士】

【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】友森 匡継

【審査官】西藤 直人

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１０－２４２８８９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００２－２９５５２１（ＪＰ，Ａ）

【文献】米国特許第０６３０８８１１（ＵＳ，Ｂ１）

【文献】特開平０５－３１２２２７（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｆ１６Ｄ ４１／０６－４１／１０

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

台座に形成された内径部に挿通される軸を囲む周方向に所定間隔をあけて柱状部が前記台座に複数立設された保持器と、
前記台座に立設された各前記柱状部の側周囲を内周部が囲む中空円筒状のアウタースリーブと、
隣接する前記柱状部間で前記アウタースリーブの内壁面と前記軸の外周とに挟まれて形成されるポケット部に転動自在に保持される円柱状の転動体と、
前記ポケット部において隣接する前記柱状部のうちの一方の前記柱状部側に前記転動体を付勢する弾性部材と、
前記保持器および前記アウタースリーブの外周を覆い、前記ポケット部における前記転動体の転動位置に応じて前記軸の一方向の回転が伝達されるハウジングとを
備えて構成される一方向クラッチにおいて、
前記保持器は、各前記柱状部が立設される側と反対側における前記台座に、被係合部が設けられた結合部が前記軸を囲む円筒状に延出して形成され、前記結合部の外周が前記アウタースリーブの外周に並んで前記アウタースリーブと同軸に前記ハウジング内に配置され、
前記ハウジングは、前記保持器および前記アウタースリーブの並ぶ各外周を覆う内径の収納部を有し、軸心方向において前記被係合部と係合して前記保持器の回転を前記ハウジングに伝達する係合部が内周に形成され、前記保持器および前記アウタースリーブが前記軸心方向における前記収納部の一端側へ移動するのを規制する規制壁が前記収納部の一端側に前記結合部の端面に対向して形成され、前記軸心方向における前記収納部の他端側に開口する、前記保持器および前記アウタースリーブの前記収納部への挿入口に、前記保持器および前記アウタースリーブの前記挿入口からの逸脱を規制するキャップが嵌合する
ことを特徴とする一方向クラッチ。

【請求項7】

前記アウタースリーブは、その外周面が円弧面と平面とが交互に配置された形状をしていることを特徴とする請求項１から請求項６のいずれか１項に記載の一方向クラッチ。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、軸の一方向の回転がハウジングに伝達される一方向クラッチに関するものである。

【背景技術】

【0002】

従来この種の一方向クラッチとしては、例えば、特許文献１に開示されたものがある。この一方向クラッチは、リング状部材と、そのリング内に突設柱が嵌入される保持部材とを備える。突設柱は、保持部材の、回転軸が嵌入される挿通孔を備える本体の端面に、挿通孔を取り囲むように複数立設されている。突設柱間の隙間に形成される保持溝には、ニードルが保持されている。保持部材の挿通孔に嵌入した回転軸が時計方向に回転すると、リング状部材の内面とニードルの外周面との係合による緊締状態が強固でないため、リング状部材と回転軸とは相対的に回転可能となる。また、回転軸が反時計方向に回転すると、その緊締状態が強固になるため、リング状部材に取り付けた作動部品と回転軸とは相対的に回転不能となって、両者の間でトルク伝達が可能となる。

【0003】

作動部品は、一方向クラッチを内部に嵌入する外筒体と、これと一体に形成されたトルク伝達部材とからなる。外筒体は、その内周面に設けられた係合突条がリング状部材の外面に設けられた切欠きに係合することで、リング状部材の外周にリング状部材と一体回転可能に取り付けられる。

【0004】

また、従来この種の一方向クラッチとして、例えば、特許文献２に開示されたものもある。この一方向クラッチは、トルク伝達輪、外輪、コロおよび付勢バネを保持する保持器から構成され、保持器は外輪の内周に収納される。使用時には、軸方向に連結されたトルク伝達輪と外輪とに軸が挿通され、その軸の外周における一方向クラッチの両端に、一方向クラッチを抜け止めする止め輪が一対嵌め込まれる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【文献】特開平１１－３３６７９７号公報

【文献】特開２０１０－２４２８８９号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

しかしながら、上記従来の特許文献１に開示された一方向クラッチでは、外筒体の内周に設けられた係合突条が、一方向クラッチの径方向において、リング状部材の外周に設けられた切欠きと係合して、外筒体がリング状部材の外周に取り付けられる構造をしている。このため、リング状部材の径方向の厚みを小さくして、一方向クラッチの径方向の大きさを小型化すると、リング状部材にはニードルから負荷がかかるため、リング状部材が破壊するおそれがあり、一方向クラッチの径方向の大きさを小型化するのに限度があった。

【0007】

また、上記従来の特許文献２に開示された一方向クラッチは、トルク伝達輪と外輪とが軸方向に連結されることで、径方向にコンパクト化することができる。しかしながら、上記従来の特許文献２に開示された一方向クラッチでは、トルク伝達輪と外輪の軸からの抜け止めのため、一方向クラッチの両端で軸に止め輪を一対嵌め込む必要があり、組立作業上、手間がかかった。

【課題を解決するための手段】

【0008】

本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
台座に形成された内径部に挿通される軸を囲む周方向に所定間隔をあけて柱状部が台座に複数立設された保持器と、
台座に立設された各柱状部の側周囲を内周部が囲む中空円筒状のアウタースリーブと、
隣接する柱状部間でアウタースリーブの内壁面と軸の外周とに挟まれて形成されるポケット部に転動自在に保持される円柱状の転動体と、
ポケット部において隣接する柱状部のうちの一方の柱状部側に転動体を付勢する弾性部材と、
保持器およびアウタースリーブの外周を覆い、ポケット部における転動体の転動位置に応じて軸の一方向の回転が伝達されるハウジングとを備えて構成される一方向クラッチにおいて、
保持器は、各柱状部が立設される側と反対側における台座に、被係合部が設けられた結合部が軸を囲む円筒状に延出して形成され、結合部の外周がアウタースリーブの外周に並んでアウタースリーブと同軸にハウジング内に配置され、
ハウジングは、保持器およびアウタースリーブの並ぶ各外周を覆う内径の収納部を有し、軸心方向において被係合部と係合して保持器の回転をハウジングに伝達する係合部が内周に形成され、保持器およびアウタースリーブが軸心方向における収納部の一端側へ移動するのを規制する規制壁が収納部の一端側に結合部の端面に対向して形成され、軸心方向における収納部の他端側に開口する、保持器およびアウタースリーブの収納部への挿入口に、保持器およびアウタースリーブの挿入口からの逸脱を規制するキャップが嵌合することを特徴とする。

【0009】

本構成によれば、保持器およびアウタースリーブは、並んだそれらの各外周を覆う内径をしたハウジングの収納部に収納される。ハウジングと保持器とは、ハウジングの内周に形成された係合部が、ハウジングの軸心方向において、結合部に設けられた被係合部と係合することで、保持器の回転がハウジングに伝達される。このため、特許文献１に開示された、ハウジングの内周とアウタースリーブの外周とが一方向クラッチの径方向において係合し、アウタースリーブの径方向の厚みを小さくするのに限度がある従来の一方向クラッチと異なり、一方向クラッチの径方向に係合部と被係合部との係合スペースを確保する必要がなくなって、一方向クラッチの径方向の大きさを小型化することが可能となる。

【0010】

また、ハウジングの収納部に収納される保持器およびアウタースリーブは、収納部の一端側に形成される規制壁により、軸心方向における収納部の一端側へ移動するのが規制される。また、軸心方向における収納部の他端側に開口する、保持器およびアウタースリーブの収納部への挿入口にキャップが嵌合することで、その挿入口から保持器およびアウタースリーブが逸脱するのが規制される。このため、軸に挿通された保持器およびアウタースリーブの抜け止めをするため、特許文献２に開示された従来の一方向クラッチのように、軸に止め輪を一対嵌め込む組立作業を行う必要がなくなり、組立作業の手間が軽減される。

【0011】

また、本発明は、保持器において、結合部が複数箇所において軸心方向に結合部の端面から所定長さで欠かれることで被係合部が形成されることを特徴とする。

【0012】

本構成によれば、結合部が複数箇所においてハウジングの軸心方向に結合部の端面から所定長さで欠かれて、被係合部が形成されることで、結合部はその軸心方向に交わる方向に柔軟性を持つようになる。このため、ハウジングに曲げ応力やねじり応力が加わった場合に、結合部がそれらの応力によって弾性変形してそれらの応力を吸収することで、転動体がスキューやスリップすることを防ぎ、一方向クラッチのロック動作時の転動体の噛み込み不良や、空転動作時の転がり不良を防止することができる。

【0013】

また、本発明は、保持器において、柱状部が立設する台座の端面から結合部が延出する長さが、軸心方向に所定長さで欠かれて形成される被係合部の所定長さより長く設定されることを特徴とする。

【0014】

本構成によれば、保持器における結合部部分の部品強度を保つことができ、結合部に形成される被係合部がハウジングの内周に形成された係合部と堅固に係合して、保持器の回転が確実にハウジングに伝達される。また、保持器のハウジングに対する位置決めを確実に行うことができる。

【0015】

また、本発明は、被係合部および係合部が、互いに係合したときに結合部の端面と規制壁との間に隙間が生じる長さに設定されることを特徴とする。

【0016】

本構成によれば、被係合部と係合部が係合したときに結合部の端面と規制壁とが当接しなくなるので、当接することで各部品に損傷が生じるのを防ぐことができる。

【0017】

また、本発明は、保持器が、各柱状部の台座からの立ち上がり部における角柱状をした側周囲にアウタースリーブの矩形状内壁面が当接してアウタースリーブに圧入されることで、アウタースリーブに固定されることを特徴とする。

【0018】

保持器とアウタースリーブとの固定部間に隙間があって、保持器とアウタースリーブとの相互の回転位置にズレが生じ、保持器の柱状部とアウタースリーブの内壁面との位置関係に変化が生じると、ポケット部に収納される転動体が保持器の柱状部に邪魔されて、アウタースリーブの内壁面と軸の外周との間に転動体が噛み込むロック動作が阻害されることがある。しかし、本構成によれば、保持器の各柱状部の角柱状をした立ち上がり部側周囲がアウタースリーブの矩形状内壁面に当接してアウタースリーブに圧入されることで、保持器とアウタースリーブとの固定部間に隙間が生じなくなって、保持器とアウタースリーブとの相互の回転位置にズレが生じなくなる。したがって、保持器の柱状部とアウタースリーブの内壁面との位置関係は当初の設定位置に保たれ、変化しなくなって、アウタースリーブの内壁面と軸の外周との間に転動体が噛み込むロック動作は保持器の柱状部に邪魔されなくなる。このため、軸の一方向の回転は、アウタースリーブの内壁面と軸の外周との間に転動体が噛み込むロック動作により、確実にハウジングに伝達されるようになる。

【0019】

また、本発明は、キャップに軸が挿通される内径部を有し、ハウジングは、収納部のキャップが嵌合する側と反対側に軸が挿通される内径部を有することをことを特徴とする。

【0020】

本構成によれば、軸は、保持器の台座に形成される内径部、収納部のキャップが設けられる側と反対側のハウジングに設けられる内径部、および、キャップに設けられる内径部に挿通されて回転が支持される。このため、軸はぶれることなく安定して回転する。

【0021】

また、本発明は、アウタースリーブの外周面が円弧面と平面とが交互に配置された形状をしていることを特徴とする。

【0022】

本構成によれば、一方向クラッチの自動組立時、アウタースリーブの位置決めを容易に行うことができる。

【発明の効果】

【0023】

本発明によれば、径方向の大きさを小型化することが可能で、組立作業の手間が軽減される一方向クラッチを提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0024】

【図1】（ａ）は、本発明の一実施の形態による一方向クラッチの正面図、（ｂ）は、その一方向クラッチを破断した断面の斜視図である。

【図2】（ａ）は、図１に示す一方向クラッチを構成するハウジングの正面図、（ｂ）は、そのハウジングを破断した断面の斜視図である。

【図3】（ａ）は、図１（ｂ）に示すハウジングから取り出した内部ユニットの斜視図、（ｂ）は、その内部ユニットからアウタースリーブを取り外した状態の斜視図である。

【図4】（ａ）は、図３（ａ）に示す内部ユニットを構成する保持器をその柱状部の側から見た斜視図、（ｂ）は、その保持器を結合部の側から見た斜視図である。

【図5】（ａ）は、図４（ｂ）に示す結合部を別の角度から見た斜視図、（ｂ）は、図４に示す保持器を破断した断面の斜視図である。

【図6】（ａ）は、図３（ａ）に示す内部ユニットを構成するアウタースリーブの斜視図、（ｂ）はその正面図である。

【図7】図３（ａ）に示す内部ユニットの正面図である。

【図8】（ａ）は、図１に示す一方向クラッチを構成するキャップの正面図、（ｂ）は、そのキャップを破断した断面の斜視図である。

【発明を実施するための形態】

【0025】

次に、本発明による一方向クラッチの一実施の形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。

【0026】

図１（ａ）は、本発明の一実施の形態による一方向クラッチ１の正面図、図１（ｂ）は、一方向クラッチ１をＩｂ－Ｉｂ線で破断した断面の斜視図である。一方向クラッチ１は、保持器３とアウタースリーブ４からなる内部ユニット５がハウジング２に収納され、内部ユニット５のハウジング２への挿入口にキャップ６が嵌合して、構成されている。一方向クラッチ１は、内部ユニット５に挿通される後述する軸７（図７参照）の一方向の回転をハウジング２へ伝達する。ハウジング２は、その外周にゴムローラーが巻かれたり、その外周に歯車等が形成され、これらゴムローラーや歯車等には一方向クラッチ１によって軸７の一方向の回転のみが伝達される。

【0027】

ハウジング２は、図２（ａ）に正面図、図２（ｂ）に、IIｂ－IIｂ線で破断した断面の斜視図が示される。ハウジング２は、樹脂や金属等によって中空円筒状に成型され、内部には、内径の異なる空間が軸心方向に並んで形成されている。内部ユニット５が収納される内径の大きな空間は、内部ユニット５の収納部２ａを構成している。収納部２ａは、保持器３およびアウタースリーブ４の並ぶ各外周を覆う内径を有し、保持器３およびアウタースリーブ４の各外周を覆う。ハウジング２の軸心方向における収納部２ａの一端側には、ハウジング２の内径が縮径して規制壁２ｂが形成されている。ハウジング２の軸心方向における収納部２ａの他端側に開口する、内部ユニット５の収納部２ａへの挿入口２ｃには、キャップ６が嵌合する嵌合溝２ｄがその内周に沿って円環状に形成されている。規制壁２ｂは、内部ユニット５が収納部２ａの一端側（スラスト方向）へ移動するのを規制し、挿入口２ｃに嵌合したキャップ６は、内部ユニット５の挿入口２ｃからの逸脱を規制する。

【0028】

また、ハウジング２は、収納部２ａのキャップ６が嵌合する側と反対側に、収納部２ａの内径よりも小さな内径の内径部２ｅを有する。内径部２ｅの内径は、その両側に形成される、収納部２ａの内径よりも小さな内径の各空間よりも、一段小さく形成されている。ハウジング２は、軸７が内径部２ｅに同軸に挿通され、内径部２ｅだけにおいて軸７と接する。また、ハウジング２の内周には、保持器３と係合する係合部２ｆがその軸心方向に伸びて、３箇所に形成されている。各係合部２ｆは、本実施形態では収納部２ａにおける内周に、規制壁２ｂから挿入口２ｃへ向かって長さＬ１で延出している。

【0029】

図３（ａ）は、ハウジング２から取り出した内部ユニット５の斜視図、図３（ｂ）は、内部ユニット５からアウタースリーブ４を取り外した状態の斜視図である。また、図４（ａ）は、保持器３をその柱状部３ａの側から見た斜視図、図４（ｂ）は、保持器３をその結合部３ｂの側から見た斜視図である。また、図５（ａ）は、その結合部３ｂを別の角度から見た斜視図、図５（ｂ）は保持器３をその軸方向に破断した断面の斜視図である。

【0030】

保持器３は、樹脂や金属等によって成型され、図５（ｂ）に示す、台座３ｃの中央部に開口して形成された内径部３ｄに、軸７が挿通される。この台座３ｃには、内径部３ｄに挿通される軸７を囲む周方向に、所定間隔をあけて、柱状部３ａが複数立設されている。また、各柱状部３ａが立設される側と反対側における台座３ｃには、被係合部３ｅと３箇所に設けられた結合部３ｂが、挿通される軸７を囲む円筒状に延出して形成されている。本実施形態では、被係合部３ｅは、結合部３ｂが３箇所において、ハウジング２の軸心方向に、結合部３ｂの端面３ｆから所定長さＬ２（図４（ａ）参照）で欠かれることで、形成されている。結合部３ｂは、図５（ａ）に示すように、保持器３を結合部３ｂ側から見た際に略Ｃの字状に形成された各島に、各被係合部３ｅによって周方向に分断されて、結合部３ｂにかかる応力を緩衝する緩衝部を構成している。ハウジング２は、その軸心方向において各係合部２ｆがこれらの被係合部３ｅと係合して、保持器３の回転が伝達される。

【0031】

保持器３は、被係合部３ｅおよび係合部２ｆが互いに係合したときに、結合部３ｂの端面３ｆと規制壁２ｂとの間に隙間ｓ（図１（ｂ）参照）が生じ、結合部３ｂの端面３ｆが規制壁２ｂに対向するように、各係合部２ｆの長さＬ１が被係合部３ｅの長さＬ２以上に設定される（Ｌ１≧Ｌ２）。また、各柱状部３ａが立設する台座３ｃの端面３ｇ（図４（ａ）参照）から結合部３ｂが延出する長さＬ３は、被係合部３ｅの所定長さＬ２より長く設定される（Ｌ３＞Ｌ２）。また、各柱状部３ａが立設する台座３ｃの端面３ｇから結合部３ｂが延出する長さＬ３は、端面３ｇから各柱状部３ａが突出する長さＬ４以上に設定される（Ｌ３≧Ｌ４）。

【0032】

アウタースリーブ４は、図６（ａ）に斜視図、図６（ｂ）に正面図が示され、保持器３の台座３ｃに立設された各柱状部３ａの側周囲を内周部が囲む中空円筒状をしている。このアウタースリーブ４は樹脂や金属等によって成型される。アウタースリーブ４の外周面は、同図（ｂ）に示されるように、円弧面４ａと平面４ｂとが交互に配置された形状をしている。また、アウタースリーブ４の内周面には、その径方向の位置が同図で時計回りの方向に小さくなるくさび面４ｃが形成されている。アウタースリーブ４は、保持器３の各柱状部３ａの側周囲を囲んで保持器３に取り付けられ、図３（ａ）に示すように保持器３と共に内部ユニット５を構成する。本実施形態では、保持器３は、各柱状部３ａの台座３ｃからの立ち上がり部３ｈにおける角柱状をした側周囲に、アウタースリーブ４の、保持器３に取り付けられる内周側の矩形状内壁面４ｄが当接して、アウタースリーブ４に圧入されることで、アウタースリーブ４に固定される。

【0033】

アウタースリーブ４が保持器３の各柱状部３ａの側周囲を囲むことで、内部ユニット５には、図３（ａ）および図７に示すようにポケット部５ａが形成される。図７は内部ユニット５の正面図である。ポケット部５ａは、隣接する柱状部３ａ，３ａ間で、アウタースリーブ４の内壁面と、同図で破線で示す軸７の外周とに挟まれて、形成される。このポケット部５ａには、図３（ｂ）に示す、円柱状をした鋼製のニードルローラ８、および、側面視で略Ｓの字状をした鋼製のバネ９が収納される。ニードルローラ８は、ポケット部５ａに転動自在に保持される転動体を構成し、バネ９は、ポケット部５ａにおいて、隣接する柱状部３ａ，３ａのうちの一方の柱状部３ａの側にニードルローラ８を付勢する弾性部材を構成している。なお、この弾性部材は保持器３と別体ではなく、保持器３のポケット部５ａに面する柱状部３ａの側面に、保持器３と一体に形成するようにしてもよい。

【0034】

各柱状部３ａを囲んで保持器３にアウタースリーブ４が取り付けられた内部ユニット５（図３（ａ）参照）は、ハウジング２の挿入口２ｃからハウジング２の内部の収納部２ａに挿入される。この際、保持器３は、図１（ｂ）に示すように、結合部３ｂの外周がアウタースリーブ４の外周に並んで、アウタースリーブ４と同軸にハウジング２内に配置される。その後、ハウジング２は、挿入口２ｃにキャップ６が被せられて、挿入口２ｃが塞がれる。キャップ６は、図８（ａ）に正面図、図８（ｂ）にVIIIｂ－VIIIｂ線で破断した断面の斜視図が示される。キャップ６は、軸７が挿通される内径部６ａを内周に有する中空円筒状に、樹脂や金属等によって成型され、外周には、嵌合突条６ｂが周方向に環状に突出して形成されている。挿入口２ｃにキャップ６が被せられる際、この嵌合突条６ｂがハウジング２の挿入口２ｃに形成された嵌合溝２ｄに嵌合することで、キャップ６は挿入口２ｃに固定される。

【0035】

このような構成をした一方向クラッチ１において、軸７の回転は、ポケット部５ａにおけるニードルローラ８の転動位置に応じて、その一方向の回転がハウジング２に伝達される。すなわち、図７に示すくさび面４ｃの径方向位置が小さくなる時計方向Ａに軸７が回転すると、軸７の外周に接するニードルローラ８も同方向に転動してくさび面４ｃと軸７の外周面との間に噛み込む。このため、ニードルローラ８がロック状態になって軸７からハウジング２にトルクの伝達が行われ、軸７の時計方向Ａの回転がハウジング２に伝わってハウジング２も同方向に回転する。

【0036】

一方、くさび面４ｃの径方向位置が大きくなる反時計方向Ｂに軸７が回転すると、軸７の外周に接するニードルローラ８も同方向に転動して、ニードルローラ８がくさび面４ｃと軸７の外周面から拘束を受けないフリー状態になる。このため、軸７からハウジング２にトルクの伝達が行われず、軸７の反時計方向Ｂの回転はハウジング２に伝わらず、ハウジング２は回転しない。この結果、軸７の回転は、ポケット部５ａにおけるニードルローラ８の転動位置に応じて、時計方向Ａの回転のみがハウジング２に伝達される。

【0037】

このような本実施形態の一方向クラッチ１によれば、保持器３およびアウタースリーブ４は、並んだそれらの各外周を覆う内径をしたハウジング２の収納部２ａに上記のように収納される。ハウジング２と保持器３とは、ハウジング２の内周に形成された係合部２ｆが、ハウジング２の軸心方向において、結合部３ｂに設けられた被係合部３ｅと係合することで、保持器３の回転がハウジング２に伝達される。このため、特許文献１に開示された、ハウジングの内周とアウタースリーブの外周とが一方向クラッチの径方向において係合し、アウタースリーブの径方向の厚みを小さくするのに限度がある従来の一方向クラッチと異なり、一方向クラッチ１の径方向に係合部２ｆと被係合部３ｅとの係合スペースを確保する必要がなくなって、一方向クラッチ１の径方向の大きさを小型化することが可能となる。

【0038】

また、ハウジング２の収納部２ａに収納される内部ユニット５は、収納部２ａの一端側に形成される規制壁２ｂにより、収納部２ａの一端側へ移動するのが規制される。また、収納部２ａの他端側に開口する、内部ユニット５の収納部２ａへの挿入口２ｃにキャップ６が嵌合することで、その挿入口２ｃから内部ユニット５が逸脱するのが規制される。このため、軸７に挿通された内部ユニット５の抜け止めをするため、特許文献２に開示された従来の一方向クラッチのように、軸に止め輪を一対嵌め込む組立作業を行う必要がなくなり、組立作業の手間が軽減される。

【0039】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、結合部３ｂが複数箇所においてその軸心方向に結合部３ｂの端面３ｆから所定長さＬ２で欠かれて被係合部３ｅが形成され、前述した緩衝部が構成されることで、結合部３ｂはハウジング２の軸心方向に交わる方向に柔軟性を持つようになる。このため、ハウジング２に曲げ応力やねじり応力が加わった場合に、結合部３ｂがそれらの応力によって弾性変形してそれらの応力を吸収することで、ニードルローラ８がスキューやスリップすることを防ぎ、一方向クラッチ１のロック動作時のニードルローラ８の噛み込み不良や、空転動作時の転がり不良を防止することができる。

【0040】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、結合部３ｂの長さＬ３が被係合部３ｅの長さＬ２よりも長く形成されるので（Ｌ３＞Ｌ２）、保持器３における結合部３ｂの部分の部品強度を保つことができる。したがって、結合部３ｂに形成される被係合部３ｅがハウジング２の内周に形成された係合部２ｆと堅固に係合して、保持器３の回転が確実にハウジング２に伝達される。また、保持器３のハウジング２に対する位置決めを確実に行うことができる。

【0041】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、被係合部３ｅおよび係合部２ｆが互いに係合したときに、結合部３ｂの端面３ｆと規制壁２ｂとの間に隙間ｓが生じるので（Ｌ１≧Ｌ２）、被係合部３ｅと係合部２ｆが係合したときに結合部３ｂの端面３ｆと規制壁２ｂとが当接しなくなる。このため、結合部３ｂの端面３ｆと規制壁２ｂとが当接することで、各部品に損傷が生じるのを防ぐことができる。

【0042】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、端面３ｇから結合部３ｂが延出する長さＬ３が、端面３ｇから各柱状部３ａが突出する長さＬ４以上に設定される（Ｌ３≧Ｌ４）ので、収納部２ａにおける保持器３の回転が安定し、保持器３からハウジング２への回転伝達が滑らかに行われる。

【0043】

また、保持器３とアウタースリーブ４との固定部間に隙間（ガタ）があって、保持器３とアウタースリーブ４との相互の回転位置にガタの分だけズレが生じると、保持器３の柱状部３ａとアウタースリーブ４の内壁面のくさび面４ｃとの位置関係に、変化が生じる。柱状部３ａとくさび面４ｃとの位置関係に変化が生じると、軸７の一方向回転のハウジング２への伝達時、ポケット部５ａに収納されるニードルローラ８がくさび面４ｃに接触する前に、柱状部３ａに衝突して接触することがある。この場合、ニードルローラ８が柱状部３ａに邪魔されて、くさび面４ｃと軸７の外周との間に噛み込むロック動作が阻害され、軸７の一方向回転がハウジング２へ伝達されなくなる。

【0044】

しかし、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、各柱状部３ａの角柱状をした立ち上がり部３ｈの側周囲がアウタースリーブ４の矩形状内壁面４ｄに当接して保持器３がアウタースリーブ４に圧入されることで、保持器３とアウタースリーブ４との固定部間に隙間が生じなくなって、保持器３とアウタースリーブ４との相互の回転位置にズレが生じなくなる。したがって、柱状部３ａとくさび面４ｃとの位置関係は当初の設定位置に保たれ、変化しなくなって、くさび面４ｃと軸７の外周との間にニードルローラ８が噛み込むロック動作は、柱状部３ａに邪魔されなくなる。このため、軸７の一方向の回転は、くさび面４ｃと軸７の外周との間にニードルローラ８が噛み込むロック動作により、確実にハウジング２に伝達されるようになる。

【0045】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、軸７は、保持器３の台座３ｃに形成される内径部３ｄ、収納部２ａのキャップ６が設けられる側と反対側のハウジング２に設けられる内径部２ｅ、および、キャップ６に設けられる内径部６ａに挿通されて、回転が支持される。このため、軸７はぶれることなく安定して回転する。

【0046】

また、本実施形態の一方向クラッチ１によれば、アウタースリーブ４の外周面が円弧面４ａと平面４ｂとが交互に配置された形状をしているので、一方向クラッチ１の自動組立時、アウタースリーブ４の位置決めを容易に行うことができる。

【0047】

なお、上記の実施形態では、係合部２ｆが収納部２ａの内周に軸方向に突出して形成され、被係合部３ｅが結合部３ｂに軸方向に欠かれて形成されて、係合部２ｆと被係合部３ｅとが軸方向に係合する場合について、説明した。しかし、これとは逆に、係合部２ｆが、収納部２ａに並ぶハウジング２の縮径した内周にハウジング２の軸心方向に欠かれて形成され、被係合部３ｅが、結合部３ｂの端面３ｆからハウジング２の軸心方向に延出して形成されて、係合部２ｆと被係合部３ｅとがハウジング２の軸心方向に係合するように構成してもよい。このような構成によっても上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。

【0048】

また、結合部３ｂによって構成される緩衝部は、図５（ａ）に示すように、結合部３ｂがＣの字状の島に分断されて形成される場合について、説明した。しかし、円筒状の結合部３ｂが被結合部３ｅによって単に円周方向に分断されて、円弧状壁が所定間間隔をあけて台座３ｃに立設されるよう構成してもよい。このような構成によっても、ハウジング２に加わる応力が緩衝部によって吸収されて、上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。

【0049】

また、アウタースリーブ４は、その外周面が円弧面４ａと平面４ｂとが交互に配置された形状をしている場合について説明したが、単に円筒形状をしていてもよい。

【符号の説明】

【0050】

１…一方向クラッチ、２…ハウジング、２ａ…収納部、２ｂ…規制壁、２ｃ…挿入口、２ｄ…嵌合溝、２ｅ…ハウジング２の内径部、２ｆ…係合部、３…保持器、３ａ…柱状部、３ｂ…結合部、３ｃ…台座、３ｄ…保持器３の内径部、３ｅ…被係合部、３ｆ…結合部３ｂの端面、３ｇ…台座３ｃの端面、３ｈ…立ち上がり部、４…アウタースリーブ、４ａ…円弧面、４ｂ…平面、４ｃ…くさび面、４ｄ…矩形状内壁面、５…内部ユニット、５ａ…ポケット部、６…キャップ、６ａ…キャップ６の内径部、６ｂ…嵌合突条、７…軸、８…ニードルローラ（転動体）、９…バネ（弾性部材）

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】